説明

光電式エンコーダ

【課題】検出器に設けられたレンズアレイの線膨張係数が検出器の受光部とスケールのうちのいずれかと異なっても、動作温度範囲を拡大しつつ、スケールに対する検出器の位置を正確に求めることが可能となる。
【解決手段】第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122がスケール102と受光部124とは異なる線膨張係数αLAを備え、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の特定の一箇所Xstで第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122と受光部124とが一体的に固定され、周期信号Fiから求められる位相信号φiはそれぞれ、異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正され、更に、補正された補正位相信号Cφiを平均して平均位相信号φavが求められ、スケール102に対する検出器110の位置が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測長方向に等間隔に光学格子が形成されたスケールと、該スケールに対して相対変位する検出器と、を備える光電式エンコーダに係り、特に検出器に設けられたレンズアレイの線膨張係数が検出器の受光部とスケールのうちのいずれかと異なり動作温度が大きく変動しても、正確にスケールに対する検出器の位置が求められる光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
測長方向に等間隔に光学格子が形成されたスケールと、該スケールに対して相対変位する検出器と、該検出器の受光部に該スケールの像を結像させるレンズアレイを備える光電式エンコーダが提案されている(たとえば特許文献1、2)。図18、図19(A)それぞれに、特許文献1、2におけるスケール2、52とレンズアレイ14、64と受光部上のスケールの像Imgとの関係が示されている。特許文献1、2では、レンズアレイ14、64を用いることで、検出器の大きさを増大させずに、スケール2、52の検出範囲を広げることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−264295号公報
【特許文献2】特開2005−522682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンコーダの低コスト化のために、例えばレンズアレイをガラスからプラスチックに変更した場合には、従来スケールがガラスであることから少なくともレンズアレイとスケールとの線膨張係数が大きく異なることとなる。このため、たとえ初期状態でスケールと検出器とを精度調整しておいても、光電式エンコーダの動作温度Tpが精度調整時の温度Taから変化すると、レンズアレイのそれぞれのレンズ部で構成される検出器の光学系の光軸中心が動いてしまうこととなる。即ち、検出器による検出位置に誤差が生じてしまうおそれがある。
【0005】
特に、特許文献2のエンコーダについて図19(B)を用いて説明すると、レンズアレイ64のレンズ部64Aの光軸中心O1を基準にした際に、動作温度Tpが精度調整時の温度Taから変化することでレンズ部64Bの光軸中心O2が精度調整時の位置から距離dx外側へ変化することとなる。このため、レンズ部64Aによるスケールの像Img1を基準に考えると、レンズ部64Bによるスケールの像Img2が測長方向(X方向)にずれてしまう。即ち、特許文献2では、レンズアレイ64をスケール52と異なる線膨張係数とすると、動作温度Tpが変動した場合には特にレンズ部64Aによるスケール52の像Img1とレンズ部64Bによるスケール52の像Img2とで連続性が保てず、大きな位置検出誤差を生じさせるおそれが出てきてしまう。
【0006】
本発明は、前記問題点を解消するべくなされたもので、検出器に設けられたレンズアレイの線膨張係数が検出器の受光部とスケールのうちのいずれかと異なっても、動作温度範囲を拡大しつつ、スケールに対する検出器の位置を正確に求めることが可能な光電式エンコーダを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、測長方向に等間隔に光学格子が形成されたスケールと、該スケールに対して相対変位する検出器と、を備え、該検出器に、数n(n≧2)のレンズ部を前記測長方向に備えるとともに前記スケールの像を結像させるレンズアレイと、該レンズ部毎に結像された該スケールの像をそれぞれ受光する数nの受光素子を備えるとともに該受光素子毎に前記光学格子の周期に従う周期信号Fi(i=1、・・・、n)を出力する受光部と、を有する光電式エンコーダにおいて、前記レンズアレイが少なくとも前記スケールと前記受光部のうちのいずれか一方とは異なる線膨張係数αLAを備え、前記測長方向における該レンズアレイの特定の一箇所で該レンズアレイと該受光部とが一体的に固定され、前記受光素子毎の前記周期信号Fiから求められる位相信号φiはそれぞれ、前記スケール及び検出器の動作温度Tpと、前記特定の一箇所から前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心までの距離Liとを用いて、前記異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正され、更に、前記受光素子毎に得られる補正された補正位相信号Cφiを平均して平均位相信号φavが求められ、該平均位相信号φavにより前記スケールに対する前記検出器の位置が求められたことにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
本願の請求項2に係る発明は、前記特定の一箇所から前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心までの距離Liと、前記レンズアレイ、スケール、及び受光部の線膨張係数αLA、α、αと、前記動作温度Tpと前記スケールに対する前記検出器の精度調整時の該スケール及び検出器の周囲の温度Taとの温度差δTと、から該各レンズ部における前記検出部上の前記スケールの像の移動量dxiを式(1)で求め、該移動量dxiに対して前記周期信号Fiの周期Pから式(2)で移動位相δφiを求め、更に、前記特定の一箇所に対する前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心の位置に従い、前記位相信号φiに該移動位相δφiを加算もしくは減算することで、前記受光素子毎の前記位相信号φiをそれぞれ、前記異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正したものである。
dxi=(2αLA−α−α)*Li*δT (1)
δφi=2πdxi/P (2)
【0009】
本願の請求項3に係る発明は、前記特定の一箇所を、前記測長方向で、いずれかの前記レンズ部の光軸中心と一致させるようにしたものである。
【0010】
本願の請求項4に係る発明は、前記特定の一箇所を、前記測長方向で、前記レンズアレイの中心位置とするようにしたものである。
【0011】
本願の請求項5に係る発明は、前記レンズアレイを前記レンズ部の数nを3とするようにしたものである。
【0012】
本願の請求項6に係る発明は、前記スケールの素材をガラスとし、前記レンズアレイの素材をプラスチックとし、そして前記受光部の素材をシリコンとしたものである。
【0013】
本願の請求項7に係る発明は、前記検出器に、前記レンズアレイの焦点位置に絞り板の開口を備える片側テレセントリック光学系を設けたものである。
【0014】
本願の請求項8に係る発明は、前記検出器に、前記レンズアレイを2つ前記光軸方向に直列に備えるとともに該レンズアレイの間の焦点位置に絞り板の開口を備える両側テレセントリック光学系を設けたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出器に設けられたレンズアレイの線膨張係数が検出器の受光部とスケールのうちのいずれかと異なっても、動作温度範囲を拡大しつつ、スケールに対する検出器の位置を正確に求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダの一例の概略を示す斜視図
【図2】同じく光電式エンコーダの信号処理部を含む模式図
【図3】同じくスケール部分の模式図
【図4】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図5】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図6】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図7】本発明の第2実施形態に係る光電式エンコーダの各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図8】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図9】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図10】本発明の第3実施形態に係る光電式エンコーダの各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図11】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図12】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図13】本発明の第4実施形態に係る光電式エンコーダの各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図14】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図15】同じく各レンズ部によるスケールの像の位置変化を示す模式図
【図16】本発明の第5実施形態に係る光電式エンコーダの信号処理部を含む模式図
【図17】本発明の第6実施形態に係る光電式エンコーダの概略図
【図18】従来例に係る光電式エンコーダの概略図
【図19】従来例に係る光電式エンコーダの概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0018】
最初に、本発明の第1実施形態に係わる光電式エンコーダの構成について図1〜図3を用いて以下に説明する。
【0019】
本実施形態の光電式エンコーダ100は、図1、図2に示す如く、スケール102と、スケール102に対して相対変位する検出器110と、を備えている。なお、検出器110には、信号処理部126が接続されている。
【0020】
前記スケール102は、図3に一部を示す如く、測長方向(X方向)に等間隔(周期Pr)に光学格子106が形成されたインクリメンタルトラックを有する。スケール102は、透過型のスケールであり、ガラスを基材104としている。ここで基材104としてソーダライムガラス(別称青板ガラス)を用いた場合、スケール102の線膨張係数αは、約8*10−6/℃である。スケール102の表面には、遮光用の金属膜が形成されて、光学格子106の部分のみが透明とされている。なお、スケール102には、インクリメンタルトラックの測長範囲外で検出器110により検出可能な図示せぬ原点マークが形成されている。
【0021】
前記検出器110は、図1、図2に示す如く、光源112と第1レンズアレイ114と絞り板116と第2レンズアレイ122と受光部124とを有する。
【0022】
光源112は、図2に示す如く、スケール102の背面に配置され、スケール102の透過光を受光部124に入射させるようにしている。光源112は、例えばLEDであり、前記第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の後述するレンズ部114A〜114C、122A〜122Cの数nと同数(n=3)のLED112A〜112Cで構成されている。このため、検出器110の光源112が収納される部分を薄型にすることができる。
【0023】
第1レンズアレイ114は、図2に示す如く、Y方向で、スケール102から焦点距離f離れて配置されている。第1レンズアレイ114は、等間隔L0で数n(n=3)のレンズ部114A〜114Cを測長方向(X方向)に備えている。
【0024】
絞り板116は、図2に示す如く、Y方向で、第1レンズアレイ114から焦点距離f離れて配置されている。絞り板116は、遮光性の高い材料からできており、第1レンズアレイ114の各レンズ部114A〜114Cの光軸中心O1〜O3に相当する部分に等間隔L0で開口120A〜120Cが設けてある。
【0025】
第2レンズアレイ122は、図2に示す如く、Y方向で、絞り板116から焦点距離f離れて配置されている。第2レンズアレイ122も第1レンズアレイ114と同じく、等間隔L0で数n(n=3)のレンズ部122A〜122Cを測長方向(X方向)に備えている。なお、本実施形態では、レンズ部114A〜114Cとレンズ部122A〜122Cの焦点距離fは同一とされている。なお、第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122とは、ポリカーボネート(プラスチック)が素材となっており、その線膨張係数αLAは約70*10−6/℃である。
【0026】
受光部124は、図2に示す如く、Y方向で、第2レンズアレイ122から焦点距離f離れて配置されている。受光部124には、3つの受光素子アレイ124A〜124C(受光素子)が設けられている。そして、光源112A〜112Cとレンズ部114A〜114Cと開口120A〜120Cとレンズ部122A〜122Cと受光素子アレイ124A〜124Cとはそれぞれ、光軸中心O1〜O3上に配置されている。即ち、3つの受光素子アレイ124A〜124Cは、第1レンズアレイ114のレンズ部114A〜114Cと第2レンズアレイ122のレンズ部122A〜122Cとで結像されたスケール102の像を、それぞれ受光する。そして、受光素子アレイ124A〜124Cはそれぞれ、光学格子106の周期Prに従う周期信号Fi(i=1、2、3)を出力する。具体的には、周期信号Fiはそれぞれ、正弦波及び余弦波の2相アナログ信号とされている。このように、検出器110には、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122を光軸方向O1〜O3に直列に備えるとともに第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122の間の焦点位置fに絞り板116の開口120A〜120Cを備える両側テレセントリック光学系が設けられている。なお、受光部124は、シリコンが素材として用いられており、その線膨張係数αは、約2.6*10−6/℃である。
【0027】
検出器110は、図示せぬケーシングで一体化されている。その際に、測長方向(X方向)で光軸中心O2の位置で、第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122と受光部124とが一体的に固定されている(図2)。即ち、第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122の特定の一箇所Xstが、測長方向(X方向)で、レンズ部114B、122Bの光軸中心O2と一致されている。同時に、測長方向(X方向)で、光軸中心O2が第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122の中心位置でもある。即ち、第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122の特定の一箇所Xstが、測長方向(X方向)で、第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122の中心位置とされている。なお、当該一体的に固定する方法としては、ねじ止め、エポキシ系接着剤、若しくは溶着などで実現することができる。一体的に固定された位置以外は、動作温度Tpの変化で第1レンズアレイ114及び第2レンズアレイ122と受光部124とが特定の一箇所Xstを中心に、互いに膨張・収縮可能なように、弾性接着剤等で貼り付けられている。なお、絞り板116の開口120A〜120Cの動作温度Tpの上昇による位置変動は、スケール102の像ImgA〜ImgCの位置に大きな影響を与えないので、特定の一箇所Xstにこだわらずに検出器110に固定される。
【0028】
前記信号処理部126は、図2に示す如く、増幅回路128A〜128Cと、内挿回路130A〜130Cと、温度センサ132と、各種記憶部134〜140と、演算回路142と、位相演算回路144と、位相平均回路146とを有する。
【0029】
増幅回路128A〜128Cは、図2に示す如く、受光素子アレイ124A〜124Cから出力された、光学格子106の周期Prに従う周期信号Fi(2相アナログ信号)のフィルタリングを行い、増幅する。内挿回路130A〜130Cは、増幅された2相アナログ信号から、逆正接演算(arctan演算)を行い、周期信号Fiの周期Pよりも細かい位相信号φ1〜φ3を求める。
【0030】
一方、検出器110には、図2に示す如く、温度センサ132が設けられており、スケール102に対する検出器110の精度調整時のスケール102及び検出器110の周囲の温度Taから、スケール102及び検出器110の動作温度Tpへ変化した際の温度差δTを出力する。各種記憶部134〜140において、α記憶部134はスケール102の線膨張長係数α(8*10−6/℃)を、αLA記憶部136は第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の線膨張長係数αLA(70*10−6/℃)を、α記憶部138は受光部124の線膨張係数α(2.6*10−6/℃)を、Li記憶部140は特定の一箇所Xstから各レンズ部114A〜114C(122A〜122C)のそれぞれの光軸中心O1〜O3までの距離Li(i=1、2、3)を、それぞれ記憶している。なお、特定の一箇所Xstは光軸中心O2と同一とされていることから、特定の一箇所Xstから光軸中心O1までの距離L1と特定の一箇所Xstから光軸中心O3までの距離L3は、共に光軸中心間距離L0で等しくされている。
【0031】
演算回路142は、温度センサ132の出力と各種記憶部134〜140の出力と、から各レンズ部114A〜114C(122A〜122C)における受光部124上のスケール102の像Imgの移動量dxiを式(1)により求める(なお、dx2はゼロとなる)。
dxi=(2αLA−α−α)*Li*δT (1)
【0032】
ここで、スケール102、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、及び受光部124の線膨張係数の違いによるスケール102の像Imgの移動について、図4〜図6を用いて詳細に説明する。なお、図4〜図6では、スケール102及び受光部124とは大きく線膨張係数αLAの異なる第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122による変化のみを表現している。
【0033】
第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、および受光部124は、測長方向(X方向)で、光軸中心O2の一箇所で一体的に固定されている(光軸中心O2と特定の一箇所Xstが一致)。そして、光電式エンコーダ100を構成した際には、前述の如くスケール102に対する検出器110の精度調整が行われる。即ち、このときのスケール102及び検出器110の周囲の温度Taにおける、各レンズ部114A〜114C、122A〜122Cによるスケール102の像ImgA〜ImgCの位置が受光部124上での基準となる。このとき、図4(A)のリサージュ図形LSJに示す如く、スケール102の像ImgA〜ImgCの位相ずれはほとんど生じていない状態となる。
【0034】
第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の線膨張係数αLAは、スケール102の線膨張係数α、受光部124の線膨張係数αと異なり大きい。このため、精度調整後のスケール102及び検出器110の動作温度Tpが温度Taから上昇する。すると、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122が、測長方向(X方向)にスケール102や受光部124に比べて大きく伸びることとなる。ここで、光軸中心O2が固定されているので、光軸中心O1は、レンズ部114A、122Aがスケール102や受光部124の膨張よりも大きく、光軸中心O2から移動する。同様に、光軸中心O3は、レンズ部114C、122Cがスケール102や受光部124の膨張よりも大きく、光軸中心O2から移動する。
【0035】
即ち、図4(B)で示す如く、動作温度Tpが温度Taよりも上昇すると、スケール102の像ImgA〜ImgCは互いに離れるように移動することとなる。このため、精度調整時に比べて、像ImgBを基準とするリサージュ図形では、像ImgAと像ImgCとは位相がずれてくる(位相ずれの発生)。第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、スケール102、及び受光部124の膨張は、精度調整時の温度Taと動作温度Tpとの温度差δTが大きくなれば、温度差δTに比例して大きくなる。このため、温度差δTが大きい状態を示す図5(A)、(B)では、リサージュ図形LSJに示す如く、像ImgBと像ImgAおよび像ImgCとの位相が大きくずれていくことなる(位相ずれの拡大)。ここで、スケール102と受光部124の線膨張係数α、αは、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の線膨張係数αLAに比べて小さい。このため、結果的に図6に示す如く、大まかにはスケール102に対して光軸中心O1、O3が移動した分dLの2倍(2dL)で、スケール102の像ImgA、ImgCが移動することとなる。即ち、スケール102の像Imgの移動量dxiは式(1)で正確に求めることができる。
【0036】
そして、移動量dxiに対して周期信号Fiの周期Pから式(2)で移動位相δφiを求める。求められた移動位相δφiは演算回路142から出力される。なお、周期Pは、2相アナログ信号でリサージュ図形を構成する時の周期(リサージュ周期)ともいえる。
δφi=2πdxi/P (2)
【0037】
ここで、図2において、レンズ部114A〜114Cとレンズ部122A〜122Cとが同一とされ、距離関係がすべて焦点距離fとされている。このため、スケール102上の光学格子106の周期Prとスケール102の像の周期、即ち周期信号Fiの周期Pとは同一とされている。
【0038】
演算回路142から出力された移動位相δφ1は、位相演算回路144のうち、位相加算回路144Aで位相信号φ1と加算されることで、位相信号φ1が補正されて、位相ずれが解消される。これは、動作温度Tpの上昇に伴い、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122のレンズ部114A、122Aの膨張が大きくなり、スケール102の像の位置が特定の一箇所Xstから紙面左側に離れていくためである(図6)。逆に演算回路142から出力された移動位相δφ3(=δφ1)は、位相演算回路144のうち、位相減算回路144Bで位相信号φ3から減算されることで、位相信号φ3が補正されて、位相ずれが解消される。これは、動作温度Tpの上昇に伴い、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122のレンズ部114C、122Cの膨張が大きくなり、スケール102の像の位置が特定の一箇所Xstから紙面右側に離れていくためである(図6)。
【0039】
即ち、特定の一箇所Xstに対する各レンズ部114A〜114C(122A〜122C)のそれぞれの光軸中心O1〜O3の位置に従い、位相信号φiに移動位相δφiが加算もしくは減算されることで、受光素子アレイ124A〜124C毎の位相信号φiはそれぞれ、異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正される。言い換えれば、受光素子アレイ124A〜124C毎の周期信号Fiから求められる位相信号φiはそれぞれ、スケール102及び検出器110の動作温度Tpと、特定の一箇所Xstから各レンズ部114A〜114C(122A〜122C)のそれぞれの光軸中心O1〜O3までの距離Liとを用いて、異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正される。なお、特定の一箇所Xstは光軸中心O2と同一とされていることから、位相信号φ2を補正する必要がない。
【0040】
受光素子アレイ124A〜124C毎に得られる補正された補正位相信号Cφiは、図2に示す如く、位相平均回路146に入力される。位相平均回路146は、補正位相信号Cφ1、Cφ3と位相信号φ2とを平均して、平均位相信号φavを求めて出力する。なお、信号処理部126には、図示せぬ2相デジタル信号を2相方形波信号として出力する回路と、該2相方形波信号を計数するカウンタ回路が設けられている。このため、スケール102上の原点マークから方形波信号をカウントし、それに平均位相信号φavの位置情報を加えることで、正確で詳細なスケール102に対する検出器110の位置が求められる。
【0041】
このように、本実施形態では、動作温度Tpが上昇して第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122が膨張しても、得られる位相信号φiを補正することで位相ずれを解消でき、検出精度を維持することができる。
【0042】
また、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の素材として線膨張係数の大きいプラスチック(ポリカーボネート)を用いているので、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122がガラスであるよりも、検出器110のコストを低減することができる。
【0043】
また、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、及び受光部124を特定の一箇所Xstで一体的に固定しているので、温度差δTによる位相補正の計算が容易である。同時に、熱膨張による第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、及び受光部124の膨張を強制的に抑え込むなどしていない。このため、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、及び受光部124に大きなひずみを与えないので、エンコーダの長期的な品質保持が可能である。
【0044】
また、位相信号φiの補正は各受光素子アレイ124A〜124C毎に行うので、その補正は容易に行うことができる。その際に、特定の一箇所Xstは光軸中心O2と一致している。このため、各光軸中心O1、O3までの距離L1、L3は距離L0と同一であり、更に容易に位相信号φiの補正が可能である。
【0045】
また、光軸中心O2は、測長方向(X方向)で第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の中心位置でもあるので、スケール102の像Imgの移動量が左右均等であり、簡単且つ正確に温度による当該移動量を求めることができる。同時に、仮に温度上昇で第1、第2レンズアレイにそりなどが生じても、端部の一箇所で抑えた際に生じるそりよりも小さくすることができるので、そりなどの影響を低減することができる。また、構成上、第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122、及び受光部124の互いの固定とケーシングへの固定とが精度よく、且つ容易に行うことができる。
【0046】
また、本実施形態では、検出器110に両側テレセントリック光学系を構成しているので、スケール102の位置と受光部124の位置の両方が光軸方向(Y方向)で多少ずれても、高い検出精度を保持することが可能である。
【0047】
即ち、本実施形態によれば、検出器110に設けられた第1レンズアレイ114、第2レンズアレイ122の線膨張係数αLAが検出器110の受光部124とスケール102のうちのいずれかと異なっても、動作温度範囲を拡大しつつ、スケール102に対する検出器110の位置を正確に求めることが可能となる。
【0048】
本発明について第1実施形態を上げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことはいうまでもない。
【0049】
第1実施形態においては、絞り板116が第1レンズアレイ114と第2レンズアレイ122との間に配置されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、絞り板のない図7(A)で示される第2実施形態の如くされていてもよい。その場合には、絞り板のない分、部品点数を低減でき、エンコーダを低コストとすることができる。なお、動作温度Tpが温度Taに比べて上昇していく際の、スケール202の像ImgA〜ImgCの移動の様子を図7〜図9に示す。
【0050】
また、上記実施形態では、第1レンズアレイと第2レンズアレイの2つが検出器に設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図10(A)で示される第3実施形態の如く、第1レンズアレイ314のみが用いられていてもよい。その場合には、部品点数を更に低減でき、エンコーダを低コストとすることができる。なお、動作温度Tpが温度Taに比べて上昇していく際の、スケール302の像ImgA〜ImgCの移動の様子を図10〜図12に示す。
【0051】
また、第3実施形態では、第1レンズアレイ314のみで検出器の光学系が構成されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図13(A)で示される第4実施形態の如く、検出器には、第1レンズアレイ414の焦点位置に絞り板416の開口を備える片側テレセントリック光学系が設けられていてもよい。その場合には、第3実施形態よりも光軸方向(Y方向)でスケール402の位置の配置許容度を向上させながら、第1、第2実施形態よりも部品点数を低減でき、エンコーダを低コストとすることができる。なお、動作温度Tpが温度Taに比べて上昇していく際の、スケール402の像ImgA〜ImgCの移動の様子を図13〜図15に示す。
【0052】
また、上記実施形態では、レンズ部と受光素子アレイとが共に3つであったが、本発明はこれに限定されず、2つ以上であればよい。例えば、第1実施形態に比べてレンズ部と受光素子アレイがそれぞれ1つ増えた図16で示される第5実施形態の如くであってもよい。
【0053】
第5実施形態では、第1レンズアレイ514、第2レンズアレイ522の中心位置が特定の一箇所Xstとされている。しかし、レンズ部514A〜514D(522A〜522D)が4つあることから、特定の一箇所Xstは、レンズ部514B、514C(522B、522C)の中間の位置とされている。このため、いずれの光軸中心O1〜O4も、動作温度Tpの変化によりスケール502の像ImgA〜ImgDの移動が生じる。したがって、特定の一箇所Xstからの距離が近い光軸中心O2、O3は、Li記憶部540Bに記憶された距離0.5L0を用いて移動位相δφ2が求められる。また、特定の一箇所Xstからの距離が遠い光軸中心O1、O4は、Li記憶部540Aに記憶された距離1.5L0を用いて移動位相δφ1が求められる。
【0054】
このように、レンズ部の数に限られることなく、本発明では、位相信号φiの補正で位相ずれが解消でき、安定してスケールに対する検出器の位置を正確に求めることができる。
【0055】
また、上記実施形態では、透過型の光電式エンコーダであったが、本発明はこれに限定されない。例えば、図17で示す第6実施形態の如く、反射型の光電式エンコーダ600が構成されてもよい。なお、図17で、紙面奥行き方向が測長方向とされ、その方向に複数のレンズ部が設けられている。また、図17では、検出器に両側テレセントリック光学系が構成されているが、本発明はレンズアレイが用いられていれば特にテレセントリック光学系に限定されない。
【0056】
また、上記実施形態においては、式(1)、式(2)を用いて位相信号φiがそれぞれ補正されて位相ずれが解消されていたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、式(1)、式(2)に限らず、受光素子アレイ毎の周期信号Fiから求められる位相信号φiがそれぞれ、スケール及び検出器の動作温度Tpと、特定の一箇所Xstから各レンズ部のそれぞれの光軸中心までの距離Liとを用いて、異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正されていればよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、特定の一箇所Xstは、測長方向(X方向)で、レンズアレイの中心位置とされて、且つレンズ部とレンズ部の中間位置若しくは光軸中心と一致していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、レンズアレイの端部を特定の一箇所Xstとして、検出器のケーシングにレンズアレイと受光部とを一体的に固定してもよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、スケールの素材はガラスとされ、レンズアレイの素材はプラスチックとされ、そして受光部の素材はシリコンとされ、それぞれの線膨張係数αLA、α、αはそれぞれ異なっていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、レンズアレイが少なくともスケールと受光部のうちのいずれか一方とは異なる線膨張係数αLAを備えていればよい。即ち、レンズアレイを設計上の都合や低コスト化のために線膨張係数の大小にこだわらず、自在にスケール、レンズアレイ、及び受光部の素材を選択することが可能である。
【0059】
また、上記実施形態においては、動作温度Tpが温度Taよりも上昇するとして説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、動作温度Tpが温度Taよりも低下するような場合であってもよい。その際には、レンズアレイは収縮することとなるので、上述の説明において、その温度差の符号を逆にすればよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、検出器に温度センサが設けられていたが本発明はこれに限定されない。例えば、温度をエンコーダ外部で検出して、その温度を用いてもよい。あるいは、たとえば、エンコーダに設けられた高温警報用の温度センサの出力を用いてもよいし、別に温度センサを設けてもよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、受光素子として受光素子アレイを用いたが本発明はこれに限定されない。例えば、インデックススケールとアレイを構成しない受光センサとの組み合わせで受光素子を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光電子式エンコーダは、レンズアレイの線膨張係数を、低コスト化のために受光部若しくはスケールの線膨張係数と異ならせても、位置検出の精度を保ちながらエンコーダの動作温度範囲を拡大できるので、位置検出が必要とされるさまざま分野に適用が可能である。
【符号の説明】
【0063】
100、500、600…光電式エンコーダ
2、52、102、202、302、402、502、602…スケール
14、 64、114、214、314、414、514、614…第1レンズアレイ
16、116、416、516、616…絞り板
24、124、224、324、424、524、624…受光部
104、118、518…基材
106…光学格子
110、510…検出器
112、512…光源
64A、64B、114A〜114C、122A〜122C、514A〜514D、522A〜522D…レンズ部
120A〜120C、520A〜520D…開口
122、222、522、622…第2レンズアレイ
124A〜124C、524A〜524D…受光素子アレイ
126、526…信号処理部
128A〜128C、528A〜528D…増幅回路
130A〜130C、530A〜530D…内挿回路
132、532…温度センサ
134、534…α記憶部
136、536…αLA記憶部
138、538…α記憶部
140、540A、540B…Li記憶部
142、542A、542B…演算回路
144…位相演算回路
144A、544A、544B…位相加算回路
144B、544C、544D…位相減算回路
146、546…位相平均回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測長方向に等間隔に光学格子が形成されたスケールと、該スケールに対して相対変位する検出器と、を備え、
該検出器に、数n(n≧2)のレンズ部を前記測長方向に備えるとともに前記スケールの像を結像させるレンズアレイと、該レンズ部毎に結像された該スケールの像をそれぞれ受光する数nの受光素子を備えるとともに該受光素子毎に前記光学格子の周期に従う周期信号Fi(i=1、・・・、n)を出力する受光部と、を有する光電式エンコーダにおいて、
前記レンズアレイが少なくとも前記スケールと前記受光部のうちのいずれか一方とは異なる線膨張係数αLAを備え、
前記測長方向における該レンズアレイの特定の一箇所で該レンズアレイと該受光部とが一体的に固定され、
前記受光素子毎の前記周期信号Fiから求められる位相信号φiはそれぞれ、前記スケール及び検出器の動作温度Tpと、前記特定の一箇所から前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心までの距離Liとを用いて、前記異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正され、更に、
前記受光素子毎に得られる補正された補正位相信号Cφiを平均して平均位相信号φavが求められ、該平均位相信号φavにより前記スケールに対する前記検出器の位置が求められることを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記特定の一箇所から前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心までの距離Liと、前記レンズアレイ、スケール、及び受光部の線膨張係数αLA、α、αと、前記動作温度Tpと前記スケールに対する前記検出器の精度調整時の該スケール及び検出器の周囲の温度Taとの温度差δTと、から該各レンズ部における前記検出部上の前記スケールの像の移動量dxiが式(1)で求められ、
該移動量dxiに対して前記周期信号Fiの周期Pから式(2)で移動位相δφiが求められ、
更に、前記特定の一箇所に対する前記各レンズ部のそれぞれの光軸中心の位置に従い、前記位相信号φiに該移動位相δφiが加算もしくは減算されることで、前記受光素子毎の前記位相信号φiはそれぞれ、前記異なる線膨張係数αLAに起因する位相ずれが解消されるように補正されることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
dxi=(2αLA−α−α)*Li*δT (1)
δφi=2πdxi/P (2)
【請求項3】
前記特定の一箇所は、前記測長方向で、いずれかの前記レンズ部の光軸中心と一致されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記特定の一箇所は、前記測長方向で、前記レンズアレイの中心位置とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
前記レンズアレイは前記レンズ部の数nが3とされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項6】
前記スケールの素材はガラスとされ、前記レンズアレイの素材はプラスチックとされ、そして前記受光部の素材はシリコンとされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項7】
前記検出器には、前記レンズアレイの焦点位置に絞り板の開口を備える片側テレセントリック光学系が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項8】
前記検出器には、前記レンズアレイを2つ前記光軸方向に直列に備えるとともに該レンズアレイの間の焦点位置に絞り板の開口を備える両側テレセントリック光学系が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光電式エンコーダ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−32295(P2012−32295A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172667(P2010−172667)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】