説明

免疫グロブリンFc受容体タンパク質

本発明は、新規な免疫グロブリンFc受容体タンパク質を提供することを課題とする。 本発明によれば、以下の(a)又は(b)のタンパク質が提供される。 (a)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質 (b)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な免疫グロブリンFc受容体タンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、及び該タンパク質の製造方法等に関する。
【背景技術】
免疫グロブリン(Ig)と免疫グロブリン受容体(IgR)との結合は、様々な免疫反応を惹起し、生体防御機構において重要な役割を果たしている。FC受容体(FcR)は、免疫グロブリンのFc領域と結合し、アレルギー、自己免疫、炎症など様々な免疫反応に関わる重要な因子である。したがって、免疫応答の分子機構を理解・制御する上でFc受容体は重要な手がかりの一つとなる。免疫グロブリンのFc領域はそれぞれに特異的なFc受容体に結合し、Fc受容体をもつ細胞の活性化や抗体の細胞間トランスポートに働く。これまでIgG、IgEに対するFcRは複数同定されているが(D.H.Conrad,Fc epsilon RII/CD23:the low affinity receptor for IgE,Annu Rev Immunol 8(1990)623−645.;J.P.Kinet,Antibody−cell interactions:Fc receptors,Cell 57(1989)351−354.;J.V.Ravetch,and J.P.Kinet,Fc receptors,Annu Rev Immunol 9(1991)457−492.;J.C.Unkeless,E.Scigliano,and V.H.Freedman,Structure and function of human and murine receptors for IgG,Annu Rev Immunol 6(1988)251−281.)、IgA又はIgMに対するFcRはFcα/μR(A.Shibuya,N.Sakamoto,Y.Shimizu,K.Shibuya,M.Osawa,T.Hiroyama,H.J.Eyre,G.R.Sutherland,Y.Endo,T.Fujita,T.Miyabayashi,S.Sakano,T.Tsuji,E.Nakayama,J.H.Phillips,L.L.Lanier,and H.Nakauchi,Fc alpha/mu receptor mediates endocytosis of IgM−coated microbes,Nat Immunol 1(2000)441−446.)、pIgR(P.Krajci,D.Kvale,K.Tasken,and P.Brandtzaeg,Molecular cloning and exon−intron mapping of the gene encoding human transmembrane secretory component(the poly−Ig receptor),Eur J Immunol 22(1992)2309−2315.;J.F.Piskurich,M.H.Blanchard,K.R.Youngman,J.A.France,and C.S.Kaetzel,Molecular cloning of the mouse polymeric Ig receptor.Functional regions of the molecule are conserved among five mammalian species,J Immunol 154(1995)1735−1747.)、及びヒトでのみ同定されているFcαRI(CD89)(C.R.Maliszewski,C.J.March,M.A.Schoenborn,S.Gimpel,and L.Shen,Expression cloning of a human Fc receptor for IgA,J Exp Med 172(1990)1665−1672.)の3種類しか知られていない。IgA又はIgMと結合した細胞上の受容体は、当該細胞を活性化したり、あるいは結合した抗体を細胞内に取りこみ、細胞の中を運搬して細胞の反対側から放出する(トランスサイトーシス)ことにより、免疫反応を制御する。
IgMは、体内に病原体(抗原)が入ってくると最初にできる抗体であり、病原体を覆うように結合することが知られている。近年、このIgMに対する受容体が、IgMに覆われた病原体のBリンパ球内部への取り込みに関与することが明らかとなっている(A.Shibuya,N.Sakamoto,Y.Shimizu,K.Shibuya,M.Osawa,T.Hiroyama,H.J.Eyre,G.R.Sutherland,Y.Endo,T.Fujita,T.Miyabayashi,S.Sakano,T.Tsuji,E.Nakayama,J.H.Phillips,L.L.Lanier,and H.Nakauchi,Fc alpha/mu receptor mediates endocytosis of IgM−coated microbes,Nat Immunol 1(2000)441−446.)。一方、IgAは腸管粘膜に多く存在している。腸管などの粘膜組織は抗原が最初に生体内に侵入する場であり、末梢リンパ球の60〜70%が存在する最大の免疫組織である。バイエル板に代表されるこれらの免疫組織を覆う粘膜には、特殊に分化した上皮細胞であるM細胞が存在する。M細胞は腸内抗原サンプリングの主要経路として免疫応答に重要であり、その人為的操作は免疫応答そのものの操作につながる。しかしながら、M細胞を含む粘膜上皮細胞の発生・分化、腸管免疫機構の詳細は明らかとはなっていない。
従って、IgM、IgAに対するFcR分子の探索及びその機能研究は、IgM、IgAが関与する上記の免疫応答機構の解明につながる。
従って、本発明の課題は、新規なFc受容体を取得し、該受容体の分子的及び機能的特性を解明することにある。
【発明の開示】
本発明者らは、上記課題を解決するため、既知のIgAに対するFc受容体のIgドメインとホモロジーを有する遺伝子をデータベースで検索した結果、前記受容体とホモロジーを有する機能未知の遺伝子をヒト及びマウスで同定した。さらに、これらの遺伝子がコードするタンパク質は毛細血管内皮細胞に限局して発現すること、IgA及びIgMに結合して細胞内に取り込むことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質
(2) (1)に記載のタンパク質の部分アミノ酸配列からなるタンパク質。
(3) (1)に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
(4) (1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(5) 以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13で表される塩基配列からなるDNA
と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(6) (4)又は(5)に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
(7) (4)又は(5)に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
(8) (7)に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、(1)〜(3)に記載のタンパク質の製造方法。
(9) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質を特異的に認識する抗体。
(10) (9)に記載の抗体を、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパクが含まれると予想される被験試料に反応させ、該抗体と該タンパク質との免疫複合体の生成を検出することを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパクの検出方法。
(11) (9)に記載の抗体を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質の検出用試薬。
(12) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含む免疫応答制御用医薬。
(13) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質を発現する細胞を、リガンドが含まれると予想される被験試料に作用させ、該タンパク質に対して結合能を有する物質を選択することを含む、該タンパク質に対するリガンドのスクリーニング方法。
(14) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質をIgM又はIgAに被験試料の存在下で作用させ、該タンパク質とIgM又はIgAとの結合を促進又は阻害する物質を選択することを含む、該タンパク質に対するアンタゴニスト又はアゴニストのスクリーニング方法。
(15) (13)に記載の方法により得られたリガンド、又は(14)に記載の方法により得られたアンタゴニスト若しくはアゴニストを有効成分として含む免疫応答制御用医薬。
【図面の簡単な説明】
図1はヒト及びマウスeIgRのアミノ酸配列を示す(黒の網掛け部分:相同アミノ酸、点線のボックスで囲った領域:膜貫通ドメイン、細線のボックスで囲った領域はオルタナティヴ・スプライシングにより欠落する部分)。
図2は、ヒト及びマウスeIgRの模式図を示す(棒線:オルタナティヴ・スプライシングにより欠落する部分、Δの数字:Lに対する欠落部分のアミノ酸、TM:膜貫通ドメイン)。
図3は、eIgRを発現させたHeLa細胞における各種イムノグロブリンの取り込みの様子を示す[A〜E:マウスeIgR−Sを発現させたHeLa細胞;F〜H、I〜J:ヒトeIgR−L及びヒトeIgR−Mを発現させたHeLa細胞。上段:取り込ませた各種イムノグロブリンの染色像(緑色、A−J)、中段:発現したeIgRの染色像(赤色、A’−J’)、下段:両者を重ね合わせたもの(A″−J″)]。
図4はマウス心筋におけるeIgRの免疫染色像(緑色)を示す(A:200倍、B:400倍、A’及びB’:核の染色像(青色)と重ね合わせたもの、矢印:毛細血管よりも太い血管)。
図5は、eIgR−Fc融合タンパク質発現ベクターpcDNA3−Fcの構造を示す。
図6は、作製したラットモノクローナル抗体およびウサギ抗血清を用いたHeLa細胞の免疫染色像を示す[A:コントロールのHeLa細胞、B−D:マウスeIgR−Sを発現させたHeLa細胞。CとDはウサギ抗血清とラットモノクローナル抗体の二重染色像。共焦点顕微鏡で撮影(A,B;400倍、C,D;630倍)]。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年12月9日に出願された日本国特許出願2003−410136号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
1.Fc受容体タンパク質、それをコードする遺伝子
本発明のFc受容体タンパク質は、IgA及びIgMと特異的に結合する新規なFc受容体タンパク質であって、毛細血管内皮細胞に限局して発現することから、endothelial immunoglobulin receptor(eIgR)と命名した。
本発明において同定したFc受容体タンパク質をコードする遺伝子には、オルタナティヴ・スプライシングにより生成する、ヒト由来の4種類の遺伝子(h−eIgR−L、h−eIgR−M、h−eIgR−Sα、h−eIgR−Sβ)、マウス由来の3種類の遺伝子(m−eIgR−L、m−eIgR−M、m−eIgR−S)が含まれる。h−eIgR−L、h−eIgR−M、h−eIgR−Sα、h−eIgR−SβのcDNA塩基配列をそれぞれ配列番号1,3,5,7に、またこれらのcDNAによりコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2,4,6,8に示す。また、m−eIgR−L、m−eIgR−M、m−eIgR−SのcDNAの塩基配列をそれぞれ配列番号9,11,13に、またこれらのcDNAによりコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号10,12,14に示す。
本発明のFc受容体タンパク質は種々の組織、臓器の毛細血管内皮細胞に発現し、IgM及びIgA抗体の血中から組織への移行に関与する。
従って、本発明のFc受容体タンパク質に結合し、該タンパク質の機能を阻害する物質、例えばアンタゴニスト、Fc受容体タンパク質に結合してその機能を阻害する特異的抗体は、免疫応答を抑制することができる。また、本発明のFc受容体タンパク質に結合し、該タンパク質の機能を促進する物質、例えばリガンド、アゴニスト、Fc受容体タンパク質に結合してその機能を促進する特異的抗体は、薬剤を組織へ効果的に移行させるドラッグデリバリーの担体として機能することができる。
本発明において「リガンド」とは、本発明のFc受容体タンパク質と結合する物質をいう。また、本発明において[アゴニスト」とは、本発明のFc受容体タンパク質に結合し、該タンパク質を活性化することのできる物質をいい、「アンタゴニスト」とは、本発明のFc受容体タンパク質に対するリガンドやアゴニストの作用を阻害する物質をいう。これらリガンド、アゴニスト、アンタゴニストは、天然由来及び非天然由来の物質のいずれをも含む。
本発明のFc受容体タンパク質をコードする遺伝子は、後記実施例に示すように、IgAに対する既知のFc受容体を用いたBLASTによる相同性検索を行い、ホモロジーの高い遺伝子を候補遺伝子としてスクリーニングし、該当するESTクローンの供与を受ける(または購入する)ことにより取得できる。
本発明のFc受容体タンパク質をコードする遺伝子はまた、下記の細胞や組織に由来するcDNAライブラリーを、上記方法で取得した遺伝子断片をもとにして合成したDNAプローブを用いてスクリーニングすることにより単離することができる。cDNAライブラリーを作製するためのmRNA供給源としては、Fc受容体のmRNAが発現している細胞であれば特に限定されず、ヒトやその他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル等)のあらゆる毛細血管内皮細胞、又はそれらの細胞が存在するあらゆる組織(例えば、心臓、腎臓、肝臓等)が挙げられる。
mRNAの調製は、当該技術分野において通常用いられる手法により行うことができる。例えば、上記細胞又は組織を、グアジニン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得、その後、オリゴ(dT)セルロースカラムやセファロース2Bを担体とするポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により、あるいはバッチ法によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A+)RNAをさらに分画してもよい。
次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRnaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成する。合成した二本鎖cDNAをT4DNA合成酵素によって平滑化後、アダプター(例えば、EcoRIアダプター)の連結、リン酸化等を経て、λgt11等のλファージに組み込んでin vivoパッケージングすることによってcDNAライブラリーを作製する。また、λファージ以外にもプラスミドベクターを用いてcDNAライブラリーを作製することもできる。
cDNAライブラリーから目的のDNAを有する株(ポジティブクローン)を選択するスクリーニング方法としては、例えば、配列番号2,4,6,8、10,12,14のいずれかに示すアミノ酸配列に対応するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方法が挙げられる。
PCR反応の鋳型DNAとしては、前記mRNAから逆転写反応により合成されたcDNAを用いればよい。また、プライマーは、増幅したときのDNA断片の予想サイズ、あるいは縮重コドンの組み合わせなどを適宜検討しながら、上記のアミノ酸配列情報に基づいて設計することができる。
このようにして得られたDNA増幅断片を、32P、35S又はビオチン等で標識してプローブとし、これを形質転換体のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、ポジティブクローンを検索する。
取得したポジティブクローンについて塩基配列の決定を行う。塩基配列の決定はマキサム−ギルバートの化学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定機(例えばPERKIN−ELMER社製373A DNAシークエンサー、TAKARA社製BcaBESTジデオキシシークエンシングキット等)を用いて行う。決定した塩基配列は、DNASIS(日立ソフトウエアエンジニアリング社)等のDNA解析ソフトによって解析し、得られたDNA鎖中にコードされているタンパク質コード部分を見出すことができる。
本発明のFc受容体タンパク質は、(a)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、(b)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質である。
上記の「配列番号2、4、6、8、10、12、又は14に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、上記Fc受容体タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant−K(TAKARA社製)やMutant−G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。
上記の「IgA及びIgMのFcに対して結合活性を有する」とは、IgA及びIgMのFcに対する結合活性が、配列番号2、4、6、8、10、12、又は14に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が有する活性と実質的に同等であることをいう。
より詳細には、当該活性が同等(例えば、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)である限り、分子量等の量的要素は元のタンパク質と異なっていてもよい。
本発明のFc受容体タンパク質には、上記Fc受容体タンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列と相同性を有するタンパク質も含まれる。相同性を有するタンパク質とは、配列番号2、4、6、8、10、12、又は14に記載のアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するタンパク質を意味する。タンパク質の相同性を決定するには、文献(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.,Proc.Natl.Acad.,Sci.USA(1983)80,726−730)に記載のアルゴリズムに従えばよい。
本発明のFc受容体タンパク質には、上記Fc受容体タンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列の部分配列を有するタンパク質(部分ペプチド)も含まれる。
本発明のFc受容体タンパク質には、該蛋白質と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合蛋白質も含まれる。融合蛋白質を作製する方法は、Fc受容体タンパク質をコードするDNAと他のペプチド又はタンパク質をコードするDNAをフレー厶が一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、すでに公知の手法を用いることができる。融合に付される他のペプチド又は蛋白質としては、特に限定されない。例えば、ペプチドとしては、FLAG、6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV−GPの断片、T7−tag、HSV−tag、E−tag等、すでに公知であるペプチドが挙げられる。またタンパク質としては、例えばGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)、GFP(緑色蛍光蛋白)等が挙げられる。
本発明のFc受容体タンパク質は、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態としてもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)の塩等が挙げられる。
本発明のFc受容体タンパク質は、該タンパク質を発現しているヒトや哺乳動物の培養細胞又は組織からの抽出・分離よって、あるいは後述のように該タンパク質をコードするDNAを含む形質転換体を培養することによっても製造することができる。ヒトや哺乳動物の組織又は細胞から製造する場合、ヒトや哺乳動物の組織又は細胞をホモジナイズ後、酸等で抽出を行い、得られた抽出液を疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを組み合わせることにより単離精製することができる。
また、前記部分ペプチドは、公知のペプチド合成法又は前記Fc受容体タンパク質を適当なペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ)で切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。
本発明のFc受容体タンパク質をコードする遺伝子は、上記の本発明のタンパク質をコードする遺伝子であればいかなるものでもよく、具体的には、(a)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13に示す塩基配列からなるDNA、(b)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子が挙げられる。
上記の「配列番号1、3、5、7、9、11、又は13に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA」としては、配列番号1、3、5、7、9、11、又は13に示す塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA等が挙げられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。
一旦本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本遺伝子のcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子を得ることができる。
2.組換えベクター及び形質転換体の作製
(1)組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を連結することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpRSET、pBR322,pBR325,pUC118,pUC119,pUC18,pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YEp24,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
本発明の遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、本発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有するものを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
このようなベクターとしては、宿主細胞が大腸菌である場合は、例えばpETベクター(Novagen社製)、pTrxFUSベクター(Invitrogen社製)、pCYBベクター(NEW ENGLAMD Bio Labs社製)等が、宿主細胞が酵母である場合は、例えばpESP−1発現べクター(STRATAGENE社製)、pAUR123ベクター(宝酒造社製)、pPICベクター(Invitrogen社製)等が、また宿主細胞が動物細胞である場合は、例えばpMAM−neo発現ベクター(CLONTECH社製)、pCDNA3.1ベクター(Invitrogen社製)、pBK−CMVベクター(STRATAGENE社製)等が、宿主細胞が昆虫細胞である場合は、例えばpBacPAKベクター(CLONTECH社製)、pAcUW31ベクター(CLONTECH社製)、pAcP(+)IE1ベクター(Novagen社製)等がそれぞれ挙げられる。
(2)形質転換体の作製
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌;サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母;サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ヒトGH3、ヒトFL細胞等の動物細胞;あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12、DH1などが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどのように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウ厶イオンを用いる方法(Cohen,S.N.et al.(1972)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 69,2110−2114)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法(Becker,D.M.et al.(1990)Methods.Enzymol.,194,182−187)、スフェロプラスト法(Hinnen,A.et al.(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 75,1929−1933)、酢酸リチウム法(Itoh,H.(1983)J.Bacteriol.153,163−168)等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトHeLa、FL細胞などが用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
また、上記の各宿主細胞への遺伝子導入は、組換えベクターによらない方法、例えばパーティクルガン法なども用いることができる。
3.本発明のFc受容体タンパク質の製造
本発明のFc受容体タンパク質は、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは7.0〜7.5に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより該タンパク質を抽出する。また、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
4.本発明のFc受容体タンパク質に対する抗体
本発明の抗体は以下の一般的な抗体調製方法によって取得できる。
(1)抗原の調製
本発明においては、前記の通り単離精製した本発明のFc受容体タンパク質又はその一部の断片を抗原として用いる。
(2)ポリクローナル抗体の作製
前記のようにして調製した抗原を用いて動物を免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、例えばアジュバントを用いて100〜500μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。
免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。投与部位は静脈内、皮下又は腹腔内である。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から6〜60日後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。抗体価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA;enzyme−linked immunosorbent assay)、放射性免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)等により行うことができる。
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
(3)モノクローナル抗体の作製
(3−1)免疫及び抗体産生細胞の採取
上記のようにして調製された抗原タンパク質を用いて動物を免疫する。必要であれば、免疫を効果的に行うため、前記と同様アジュバント(市販のフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント等)を混合してもよい。
免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。抗原の1回の投与量は、マウスの場合1匹当たり50μgである。投与部位は、主として静脈内、皮下、腹腔内である。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、最低2〜3回行う。そして、最終免疫後、抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
(3−2)細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株として、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。例えば、ミエローマ細胞の具体例としてはP3X63−Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1−Ag4−1、Sp2/0−Ag14などのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを15:1〜25:1の割合で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤存在下、あるいは電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
(3−3)ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地を用いて培養し、生育する細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
次に、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(ELISA;enzyme−linked immunosorbent assay)、RIA(radioimmuno assay)等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的に単クローン抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。
(3−4)モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%牛胎児血清含有RPMI−1640培地又はMEM培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で3〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらの方法を組み合わせることにより精製することができる。
5.本発明の抗体によるFc受容体タンパク質の検出方法、検出用試薬
本発明の抗体は、本発明のFc受容体タンパク質又はその部分断片と反応するため、該受容体タンパク質の検出用試薬として使用することができる。Fc受容体タンパク質の検出方法は特に限定されるものではなく、例えばウエスタンブロッティング法などを採用することができる。例えば、被験試料(細胞成分又はその各分画等)を電気泳動等により分画し、次に、予め標識(放射標識、蛍光染色等)された本発明の抗体と反応させてシグナルを検出する。本発明のFc受容体タンパク質の検出に使用する抗体は、該受容体タンパク質の全長アミノ酸配列を有するタンパク質に対する抗体でもよく、該タンパク質の部分アミノ酸配列を有するペプチドに対する抗体でもよい。
本発明の抗体を用いたFc受容体タンパク質の定量は、例えばイ厶ノブロット法、酵素抗体法(EIA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法、免疫細胞染色等より行うことが可能であるが、それらに限定されるものではない。
また、上記抗体は、その断片であってもよく、具体的には、当該抗体の一本鎖抗体断片(scFv)が挙げられる。
具体的には、ELISA法による場合は、以下の通り行う。まず、希釈した血液等の試料を96ウェルマイクロプレートに吸着させた後、一次抗体として本発明の抗体を反応させる。次いで、発色反応に必要なPOD(ペルオキシダーゼ)等の特異的酵素で標識した抗グロブリン抗体を反応させ、洗浄後、発色基質としてABTS2,2’−アジノ−ジ−(3−エチル−ベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)等を添加して発色させ、比色法により測定することによって試料中の本発明のFc受容体タンパク質を検出する。あるいは、サンドイッチELISA法による場合は、以下の通り行う。まず、希釈した血液等の試料を、予め本発明の抗体を吸着させた96ウェルマイクロプレートに添加して一定時間インキュベートする。その後、プレートを洗浄し、ビオチンで標識した精製抗体を各ウェルに添加して一定時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、酵素標識アビジンを添加してさらにインキュベートする。インキュベート後、プレートを洗浄し、発色基質としてオルトフェニレンジアミン等を添加して発色させ、比色法によって測定する。
また、上記のFc受容体タンパク質検出用試薬は、他の試薬と組み合わせ、Fc受容体タンパク質検出用キットに用いることもできる。当該キットは、少なくとも本発明の抗体を含むものであればよく、該抗体を固相に固定させる場合にあっては、該抗体とは抗原認識部位が異なり、二次抗体として用いられる抗体を含んでいてもよい。二次抗体として用いられる抗体は、例えば酵素等で標識されていてもよく、これら2つの抗体の他に、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)を含んでいてもよい。
6.本発明のFc受容体タンパク質に対するリガンドのスクリーニング方法
本発明のFc受容体タンパク質に対するリガンドのスクリーニングは、本発明のFc受容体タンパク質、又は該タンパク質を発現する細胞をリガンドが含まれることが予想される被験試料に作用させ、該タンパク質に対して結合能を有する物質を選択することにより行うことができる。結合能を有する物質を選択する具体的手法としては、本発明のFc受容体タンパク質、又は該受容体タンパク質を発現する細胞に被験試料を作用させ、該受容体タンパク質に対する被験試料の結合量を測定することなどにより行う。測定において結合量が多い物質を本発明の受容体タンパク質に対するリガンドの候補物質として選択することができる。
被験試料としては任意の物質を使用することができ、その種類は特に限定されない。被験試料の具体例としては、例えばペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、天然物抽出物(植物抽出液、動物組織・動物細胞抽出液)、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
かかるスクリーニング法により得られたリガンドは組織で発現しているFc受容体タンパク質に結合することができるので、例えば免疫抑制剤、抗アレルギー薬、抗炎症薬を組織に効率よく到達させるドラッグデリバリー用担体として用いることができる。あるいは、Fc受容体タンパク質に被験試料の存在下に反応させることによって、Fc受容体タンパク質に対するアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニングにも利用できる(次項7.参照)。
7.本発明のFc受容体タンパク質に対するアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニング系
本発明のFc受容体タンパク質は、該受容体タンパク質とリガンドであるIgM又はIgAとの結合を阻害する物質(アンタゴニスト)、該受容体に結合してリガンドと同様な免疫応答を起こす物質(アゴニスト)のスクリーニングするための手段(スクリーニング方法、スクリーニング用キット)として有用である。
本発明のFc受容体タンパク質に対するアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニング方法は、(a)Fc受容体タンパク質をIgM又はIgAに被験試料の非存在下において作用させた場合と、(b)Fc受容体タンパク質をIgM又はIgAに被験試料の存在下において作用させた場合とを比較し、該Fc受容体タンパク質と該IgM又はIgAの結合に対して影響を与える物質を選択することを特徴とする。被験試料を添加した場合にFc受容体タンパク質とIgM又はIgAとの結合量が減少又は増加する被験試料が見つかれば、その被験試料は、本発明のタンパク質とIgM又はIgAとの結合を阻害又は拮抗し、免疫応答を制御するのに役立つアンタゴニスト又はアゴニストの候補物質となる。
また、本発明のFc受容体タンパク質は該タンパク質に対するアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニング用キットに用いることもできる。当該キットは、少なくとも本発明のFc受容体タンパク質を含むものであればよく、標識リガンド、リガンド標準液、各種試薬(例えば、緩衝液、洗浄液、希釈液等)を含んでいてもよい。
被験試料としては任意の物質を使用することができ、その種類は特に限定されず、前項で挙げたものと同様である。
8.本発明の免疫応答制御用医薬
本発明のFc受容体タンパク質eIgRは種々の組織、臓器の毛細血管内皮細胞に発現し、IgM及びIgA抗体の血中から組織への移行に関与する。また、前記方法により取得されるリガンド、アンタゴニスト、アゴニストは本発明のFc受容体タンパク質に結合することができ、該受容体の機能を促進あるいは阻害する機能を有する。従って、本発明のFc受容体タンパク質、遺伝子、リガンド、アンタゴニスト、アゴニストはいずれも免疫応答制御用医薬として用いることができる。
例えば、本発明の医薬を免疫応答制御機構の不全が原因となる疾患に用いると、IgM、IgA抗体の組織への移行を制御することによって該疾患の治療を行うことができる。かかる疾患としては、例えば、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症、全身性エリマトーデス、慢性関節リウマチ、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、ベーチェット病、強直性脊椎炎、インスリン依存性糖尿病、悪性貧血など)、腫瘍(胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌、食道癌、前立腺癌、肝癌、腎臓癌、膀胱癌、皮膚癌、子宮癌、脳腫瘍、骨肉種、骨髄腫瘍など)、免疫不全疾患(原発性免疫不全症候群、続発性免疫不全症候群など)、炎症性疾患[炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節炎、ブドウ膜炎、SIRS(全身性炎症反応症候群など]、アレルギー疾患(気管支喘息発作、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、蕁麻疹など)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の医薬は、各種製剤形態に調製し、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。本発明の医薬を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等に製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬を非経口投与する場合は、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
本発明の医薬の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。例えば、本発明のタンパク質の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組み合わせとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり0.01mg〜1000mgの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて1日以上投与される。
本発明の遺伝子を免疫系疾患に対する遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の遺伝子を注射により直接投与する方法のほか、該遺伝子が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。また、本発明の遺伝子をリポソームなどのリン脂質小胞に導入し、そのリポソームを投与する方法を採用してもよい。
遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、免疫系組織(骨髄、リンパ節など)に局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態を採用することもできる。遺伝子治療剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、通常は、本発明の遺伝子の重量にすると成人1日あたり0.1〜100mg/体重の範囲が適当である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
新規Fc受容体遺伝子の同定
IgA/IgMと結合する新たなFc受容体遺伝子を単離する目的で、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLASTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により、IgAに対する既知のFc受容体である多量体Ig受容体(pIgR)及びFcα/μ受容体(Fcα/μR)の間で相同性の高いイムノグロブリン(Ig)ドメインの配列をもとにヒト及びマウスのcDNAデータベース検索を行った。
その結果、既知のFc受容体遺伝子と約36%のホモロジーを持つ、新たなFc受容体遺伝子の候補となる遺伝子をヒト及びマウスで同定した。
後述する遺伝子発現様態の解析結果から、同定した遺伝子は毛細血管内皮細胞に限局して発現することが判明したので、該遺伝子によりコードされるタンパク質をendothelial immunoglobulin receptor(eIgR)と命名した。
また、EST,cDNA及びゲノムデータベースの解析から、同定した遺伝子には、オルタナティヴ・スプライシングにより生成する長さの異なる遺伝子産物が、ヒトでは4種類、マウスでは3種類存在することが明らかとなった。
図1に、ヒトeIgR(h−eIgR−L)及びマウスeIgR(m−eIgR−L)のアミノ酸配列の比較を示す。ヒトとマウスでのアミノ酸配列の相同性は約51%であった。
図2に、ヒトeIgR(h−eIgR)及びマウスeIgR(m−eIgR)の模式図を示す。オルタナティヴ・スプライシングにより生じる長さが異なる遺伝子産物のうち、Lはロングタイプ、Mはミドルタイプ、Sはショートタイプの遺伝子産物を表し、それぞれのアミノ酸数を表記した。また、ヒトeIgR−SはC末端が多様化して、SαとSβの2種類に細分された(C末端(−296)スプライシング変異体)。
同定したFc受容体遺伝子の由来となるESTクローン(IMAGE Consortium)を下表にまとめる。

塩基配列は、ABI PRISM3100Avantシーケンサーを用いて決定した。h−eIgR−L、h−eIgR−M、h−eIgR−Sα、h−eIgR−Sβの塩基配列をそれぞれ配列番号1,3,5,7に、また対応するアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2,4,6,8に示す。m−eIgR−L、m−eIgR−M、m−eIgR−Sの塩基配列をそれぞれ配列番号9,11,13に、また対応するアミノ酸配列をそれぞれ配列番号10,12,14に示す。
【実施例2】
新規Fc受容体タンパク質(eIgR)の解析
(1)抗体の作製(ポリクローナル抗体の作製)
ヒトeIgRの細胞質内領域に対するペプチド抗体(抗血清)は、スカシ貝ヘモシアニン(KLH:配列番号15)に結合させたペプチドMPPLHTSEEELGFSKFVSA(配列番号16)をウサギ(家兎、ニュージーランドホワイト、♀)2羽に皮下免疫して得た(抗ヒトeIgR抗体#B3498、#B3499)。
一方、マウスeIgRの細胞質内領域に対するペプチド抗体(抗血清)は、ペプチドPPPLQMSAEELAFSEFISV(配列番号17)を用いる以外は上記と同様にして得た(抗マウスeIgR抗体#B3496、#B3497)。
なお、免疫は約50日間にわたり合計4回行い、免疫アジュバントは初回のみCFA(フロイント完全アジュバント)、2回目以降はIFA(フロイント不完全アジュバント)を用いた。抗体価測定は、抗原と同じペプチドを用いたELISA法によって行った。最初の免疫から約80日後、全採血し、いずれのウサギからも100ml程度の抗血清を得た。
(2)抗体の取り込み
eIgRは既知のIgA/IgMに対するFcRであるpIgR及びFcα/μRと相同性を有することから、eIgRがIgA又はIgMと結合する可能性が示唆される。そこで、遺伝子導入によりヒト及びマウスeIgR(h−eIgR−L、m−eIgR−S)をHeLa細胞に発現させ、種々のIgとの結合及びその細胞内への取り込み活性の有無を検討した。
ヒト及びマウスeIgR(h−eIgR−L、m−eIgR−S)のcDNAに下記のPCRプライマーを用いたPCRにて制限酵素サイトを組み込み、得られた断片を発現ベクターpcDNA3−HAC[挿入される遺伝子のコード領域のC末端側にHAエピトープ配列(YPYDVPDYA:配列番号18)が付加されるようにpcDNA3(Invitrogen)を改変したベクター(M.Hosaka,K.Toda,H.Takatsu,S.Torii,K.Murakami,and K.Nakayama,Structure and intracellular localization of mouse ADP−ribosylation factors type 1 to type 6(ARF1−ARF6),J Biochem(Tokyo)120(1996)813−819)]に挿入することによってヒト及びマウスのeIgR cDNA発現ベクターを構築した。
h−eIgR−L cDNA及びh−elgR−M cDNA用PCRプライマー:

m−eIgR−S cDNA用PCRプライマー:

カバーグラス上に培養したHeLa細胞にFuGENE 6 transfection reagent(Roche Molecular Biochemicals)を用いてヒト及びマウスのeIgR cDNA発現ベクターを導入した。48時間後に各種Ig[ヒトIgA1(λ)及びヒトIgA2(κ)(Athens Research & Technology)、マウスIgA(λ)及びマウスIgM(κ)(ICN Pharmaceuticals,Inc.)、マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)]を含む培地に交換してさらに2時間4℃又は37℃で培養した。
PBSで洗浄後、細胞を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X−100で膜を透過させ、FITC標識した抗イムノグロブリンサブタイプ抗体[抗ヒトIgA抗体,抗マウスIgA抗体,抗マウスIgM抗体(いずれもICN Pharmaceuticals,Inc.),抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)]と反応させた。同時に、ラット抗HA抗体(3F10:Roche Molecular Biochemicals)及びCy3標識抗ラットIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を段階的に反応させることで発現したeIgRを検出した。観察は共焦点顕微鏡(TCS−SP2,Leica)を用いて行った。図3のA〜Eは、マウスeIgR−S(m−eIgR−S)を発現させたHeLa細胞、図3のF〜H及びI〜Jは、それぞれヒトeIgR−L(h−eIgR−L)およびヒトeIgR−M(h−eIgR−M)を発現させたHeLa細胞における各種免疫グロブリンの取りこみの様子を共焦点顕微鏡により撮影した写真(630倍)を示す。各種イムノグロブリンの取込みは37℃、1時間にて行った。図3に示すように、マウスeIgR発現細胞(A〜E)、ヒトeIgR発現細胞(F〜J)とも、ヒトIgA1、ヒトIgA2、マウスIgA、マウスIgMと結合し、細胞内に取り込むが、マウスIgGとは結合が認められなかった。
(3)免疫組織染色(eIgRの発現部位の同定)
マウス組織を10%ホルマリン又は1%硫酸亜鉛/10%ホルマリン溶液にて固定後、パラフィン包埋して病理切片を作成し、(1)で調製した抗マウスeIgR抗血清と反応させた。抗原特異的な結合は、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、ヒドロペルオキジダーゼ標識ストレプトアビジン、及びFITC標識チラミド(いずれもPerkin Elmer)を段階的に反応させることで検出した。
図4に心筋の免疫染色像を示す。毛細血管内皮細胞にのみ特異的に発現が認められ、それより太い細血管以上の血管内皮細胞には発現は認められなかった(図中矢印)。
同様の毛細血管内皮細胞特異的なeIgRの発現が舌及び肝臓の組織切片による免疫染色においても認められた。
以上の実験結果から、新たに同定したeIgRは毛細血管内皮細胞に特異的に発現し、血中のIgMやIgAをトランスサイトーシスによって経毛細血管内皮的に組織に移行させることにより、免疫応答の制御に役割を果たしている可能性が示唆された。
【実施例3】
Fc受容体タンパク質(eIgR)に対するモノクローナル抗体
(1)モノクローナル抗体の作製
ヒト及びマウスeIgR(h−eIgR−L、m−eIgR−S)のcDNAに、下記のPCRプライマーを用いたPCRにて制限酵素サイトを組み込み、得られた断片を発現ベクターpcDNA3−Fc(挿入される遺伝子のコード領域のC末端側にヒトIgG1重鎖Fc領域が融合して発現するようにpcDNA3(Invitrogen)を改変したベクター:図5)に挿入することによって、ヒト及びマウスのeIgR細胞外領域と、ヒト免疫グロブリンIgG1の重鎖のFc領域の融合タンパク質(eIgR−Fc融合タンパク質)を産生する発現ベクターを構築した。
h−eIgR−L cDNA用PCRプライマー:

m−eIgR−S cDNA用PCRプライマー:

構築したeIgR−Fc融合タンパク質発現ベクターを、FuGENE6 transfection reagent(Roche Molecular Biochemicals)を用いて293T細胞に導入した。96時間後に培養上清を回収し、凍結保存した。回収した培養上清が300ml程度に達した後、HiTrap Protein A HP Columns(Amersham Biosciences)を用いて、eIgR−Fc融合タンパク質を精製した。精製操作には、高性能液体クロマトグラフィーAKTA explorer 10S(Amersham Biosciences)を使用した。精製した融合タンパク質は、PD−10 Desalting columns(Amersham Biosciences)で脱塩した後、PBSで24時間透析し、抗原タンパク質として用いた。
ヒト及びマウスのeIgR細胞外領域に対する抗体(抗血清)は、精製したeIgR−Fc融合タンパク質をそれぞれラット(Wister、♀、4週齢)2匹にFoot Puds免疫して得た。免疫は1週間をはさんで2回行い、免疫アジュバントはTiter Max Goldを用いた。1回目の免疫から10日後に採血した。抗体価測定は、抗原と同じeIgR−Fc融合タンパク質を用いて、ヒト免疫グロブリンIgG Fcフラグメント(Jackson ImmunoResearch)をコントロールとしたELISA法によって行った。
採血して得られた抗血清を、マウスMyeloma P3U1細胞と融合させハイブリドーマを作製し、限界希釈法とELISA法の組合せによりポジティブクローンのスクリーニングを行った。単離されたハイブリドーマの培養上清を用いて、ヒト及びマウスのeIgRを強制発現させたHeLa細胞を免疫染色して観察し、ポジティブクローンを確認した。その結果、ヒトeIgRに対するモノクローナル抗体は7クローン(#1F6、#1C12、#1E10、#5C8、#16H3、#ID9、#14C8)、マウスeIgRに対するモノクローナル抗体は2クローン(#B3A1、#B7F11)を得た。
(2)モノクローナル抗体によるeIgRの免疫染色(モノクローナル抗体のeIgRに対する特異性の確認)
カバーグラス上に培養したHeLa細胞にFuGENE 6 transfection reagent(Roche Molecular Biochemicals)を用いてマウスのeIgR(m−eIgR−S)CDNA発現ベクターを一過性に導入した。48時間後にPBSで洗浄後、細胞を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、(1)で調製したモノクローナル抗体と反応させた。PBSで洗浄後、Cy3標識抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)と反応させることにより、細胞に結合したモノクローナル抗体を検出した。一部のサンプルでは、モノクローナル抗体の特異性を確かめるために、さらに、細胞の膜を0.1%Triton X−100で透過させ、実施例2で調製したeIgRの細胞内領域を認識するポリクローナル抗体と反応させ、PBSで洗浄後、さらにAlexa Fluor488標識抗ウサギIgG抗体(Molecular Probes,Inc)と反応させた。観察は共焦点レーザー顕微鏡(TCS−SP2,Leica)を用いて行った。
eIgRを導入していないHeLa細胞を同様に染色した場合(図6のA)に比較して、m−eIgR−Sを導入した細胞ではモノクローナル抗体(#B3A1)による特異的な染色像が見られた(図6のB)。図6のCはAlexa Fluor488(緑色)によるポリクローナル抗体(#B3496)の染色像を、図6のDは、Cと同じ細胞のCy3(赤色)によりモノクローナル抗体の染色像を示す。両者で同一の細胞が染色されていることから、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体はともにeIgR特異的に結合していることがわかる。実施例2および3(1)で調製したしたその他のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体でも同様の結果が得られている。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、IgA及びIgMと特異的に結合する新規なFc受容体タンパク質が提供される。本発明のFc受容体タンパク質は種々の組織、臓器の毛細血管内皮細胞に発現し、IgA及びIgMを血中から組織へ移行させることによって、抗原抗体反応を惹起し、免疫応答の開始を制御する。従って、本発明のFc受容体タンパク質は、免疫監視機構の解明、免疫調節物質の探索、抗自己免疫疾患薬や抗炎症薬などの医薬の開発、ドラッグデリバリーシステムの開発に有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号19〜26:合成DNA
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、又は14で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質の部分アミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項5】
以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、又は13で表される塩基配列からなるDNA
と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIgA及びIgMのFcに対して結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
請求項4又は5に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、請求項1〜3に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質を特異的に認識する抗体。
【請求項10】
請求項9に記載の抗体を、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパクが含まれると予想される被験試料に反応させ、該抗体と該タンパク質との免疫複合体の生成を検出することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパクの検出方法。
【請求項11】
請求項9に記載の抗体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質の検出用試薬。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含む免疫応答制御用医薬。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質を発現する細胞を、リガンドが含まれると予想される被験試料に作用させ、該タンパク質に対して結合能を有する物質を選択することを含む、該タンパク質に対するリガンドのスクリーニング方法。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質をIgM又はIgAに被験試料の存在下で作用させ、該タンパク質とIgM又はIgAとの結合を促進又は阻害する物質を選択することを含む、該タンパク質に対するアンタゴニスト又はアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法により得られたリガンド、又は請求項14に記載の方法により得られたアンタゴニスト若しくはアゴニストを有効成分として含む免疫応答制御用医薬。

【国際公開番号】WO2005/056597
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516072(P2005−516072)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016804
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】