免疫応答を抑制するため、または増殖性障害を治療するための方法
被検者の免疫応答を抑制する方法、被検者の新生物を治療する方法、または被検者の線維増殖性血管疾患を治療する方法であって、式(A)(式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される)の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む方法が本明細書において開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
増殖性障害を治療する、および免疫系の応答を抑制する方法および薬学的組成物であって、特定の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を被検者に投与する段階を含む方法および薬学的組成物が本明細書において開示される。
【0002】
優先権
本出願は2004年12月9日提出の米国特許仮出願第60/528,340号の恩典を主張し、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)はホスホイノシチドを3-ヒドロキシルでリン酸化する。これらの酵素は二次メッセンジャー(例えばPIP3)を生成し、チロシンキナーゼ受容体およびGタンパク質結合受容体の下流のトランスデューサーとして作用する。PI3Kはアポトーシス、増殖、細胞運動、および接着を含む多くの基本的プロセスに関与している。(Walker et al., Molec. Cell 6:909-919, 2000参照)。したがって、いくつかのPI3K阻害剤が開発された。
【0004】
哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)(mTOR)はFKBP-12標的-1(RAFT-1)およびFKBP-12ラパマイシン関連タンパク質としても知られている289kDaのセリントレオニンキナーゼである。mTORにはセリン-トレオニンキナーゼドメインを含むいくつかの保存ドメインがある。T細胞モデルにより、IL-2および他の因子はmTORの活性化を促進し、続いて新しいタンパク質合成を誘導することにより細胞増殖を促進することが示唆される。mTORはP70 S6キナーゼの活性化に寄与し、これは次いでタンパク質合成およびmRNA翻訳を駆動するポリソームを活性化するのに必要な40Sリボソームタンパク質、S6のリン酸化を触媒することが知られている。加えて、mTORは真核生物の開始因子4Eを活性化する。したがって、mTORはタンパク質合成および細胞周期の調節において役割を果たしている。mTORは細胞状態を感知し、G1-S期を通しての細胞進行を調節することにより、チェックポイントとして働くと考えられる。mTOR活性を調節するために、mTORの上流および下流の様々な公知のエフェクター経路が用いられる。したがって、mTORに結合することによりmTORを不活化する化合物を用いて、細胞周期機能を調節し、それにより細胞増殖を調節することができる。mTORはリンパ球において特に機能するため、mTORの阻害を用いてTおよびB細胞のシグナリングを変更することもできる(Kirken and Want, Transplantation Proc. 35:227S-230S, 2003参照)。
【0005】
公知のmTOR阻害剤にはLY294002(2-(4-モルホリニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン)およびラパマイシンが含まれる。ラパマイシンは免疫抑制、化学療法プロトコル、および血管形成術後の冠動脈再狭窄の予防において用いられる。LY294002はプロテインキナーゼBのPI3K依存性のリン酸化を阻止する。ラパマイシンは高コレステロール血症、薬物誘導性間質性肺炎、腎毒性、高血圧、および日和見感染症への素因増大を含む重大な有害作用を有する。
【0006】
望ましくない細胞増殖は多くの疾患過程の一成分である。例えば、望ましくない細胞増殖は良性または悪性いずれかの腫瘍形成を引き起こしうる。米国癌協会(American Cancer Society)によれば、癌は異常な細胞の未制御の増殖および拡散によって特徴づけられる疾患群である。拡散が制御されなければ、死に至ることもある。癌は一つの状態として言及されることが多いが、実際には100を越える異なる疾患からなる。これらの疾患は異常な細胞の未制御の増殖および拡散によって特徴づけられる。癌は多くの部位で発生し、その原発巣である臓器によって挙動が異なることもある。異なる型の癌の治療において用いられる薬剤について、研究が続けられている。
【0007】
望ましくない細胞増殖は再狭窄、すなわち矯正手術後の狭窄(stenosis)または動脈狭窄(artery stricture)の再発の一成分でもある。再狭窄は冠動脈バイパス形成術(CAB)、動脈内膜切除術、心臓移植、および特に血管形成術、粥腫切除術、レーザー切除またはステント術後に起こる。再狭窄は管腔開放術中の血管壁損傷の結果である。一部の患者では、損傷が、血管形成術によって外傷を受けた領域で「過形成」と呼ばれる平滑筋細胞増殖によって特徴づけられる修復反応を開始する。この平滑筋細胞の増殖によって、数週間から数ヶ月以内に、血管形成術によって開放された管腔が再び狭くなり、それによって血管形成術の繰り返し、または再狭窄を軽減するための他の方法が必要となる。
【0008】
免疫応答において、TおよびまたはB細胞は免疫系により「外来性」と見なされる刺激に応答して増殖する。一般に免疫応答は有益であるが、免疫応答の低下が望まれる場合もある。例えば、自己免疫障害において、免疫系の細胞は自己の成分を誤って外来性と認識し、自己成分に応答して増殖する。炎症応答は、移植臓器に対する免疫応答が有害であるのと同様に、有害でありうる。
【0009】
望ましくない細胞増殖を低減しうる薬剤の開発が明らかに必要とされている。これらの薬剤には、免疫抑制を誘導する薬剤、化学療法剤、および再狭窄治療用の薬剤が含まれる。
【発明の開示】
【0010】
概要
被検者の免疫応答を抑制する方法、および被検者の増殖性障害を治療する方法が本明細書において開示される。これらの方法は、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【0011】
免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法も、本明細書において開示される。この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化と比べて、カゼインキナーゼ2および/またはP70 S6キナーゼのリン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択する段階を含む。
【0012】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンまたはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物もさらに開示される。
【0013】
いくつかの例の詳細な説明
理解を容易にするために、本明細書において用いられる下記の用語をより詳細に説明する。
【0014】
化学用語
「アルキル」とは、炭素および水素だけを含む環状、分枝、または直鎖アルキル基を意味し、特に記載がない限り、典型的には1から12個の炭素原子を含む。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ピバリル、ヘプチル、アダマンチル、およびシクロペンチルなどの基によってさらに例示される。アルキル基は無置換でもよく、または下記の1つもしくは複数の置換基で置換されていてもよい。
【0015】
「置換アルキル」とは、アルキルの1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、シクロアルキル、置換シクロアルキル、およびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のアルキルを意味する。例示的な置換アルキルには、ベンジル、トリクロロメチルなどが含まれる。
【0016】
「ヘテロアルキル」とは、アルキルの1つまたは複数の水素または炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、前述のアルキルを意味する。ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシまたはアミノで置換されたアルキルは「ヘテロアルキル」に含まれる。例示的なヘテロアルキルには、シアノ、ベンゾイル、2-ピリジル、2-フリルなどが含まれる。
【0017】
「シクロアルキル」とは、単環または複数の縮合環を有する、飽和または不飽和環状非芳香族炭化水素基を意味する。例示的なシクロアルキルには、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロオクチルなどが含まれる。
【0018】
「置換シクロアルキル」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アミノおよびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のシクロアルキルを意味する。
【0019】
「ヘテロシクロアルキル」とは、環状基の1つまたは複数の炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、前述のシクロアルキル基を意味する。例示的なヘテロシクロアルキルには、例えば、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジニル、ピロリンジニル、オキサゾリニルなどが含まれる。
【0020】
「置換ヘテロシクロアルキル」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アミノおよびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のヘテロシクロアルキル基を意味する。
【0021】
「アリール」とは、単一の芳香環でもよく、または一緒に縮合された、共有結合で連結された、またはメチレンもしくはエチレン部分などの共通の基に連結された複数の芳香環でもよい、芳香族置換基を意味する。共通の連結基はベンゾフェノンの場合のカルボニルまたはジフェニルエーテルの場合の酸素またはジフェニルアミンの窒素であってもよい。芳香環には、特に、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミンおよびベンゾフェノンが含まれうる。特定の例において、アリールは1から20個の間の炭素原子を有する。
【0022】
「置換アリール」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ハロゲン、アルキルハロ、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、およびチオなどの1つまたは複数の官能基で置き換わっている、前述のアリール基を意味する。例示的な置換アリールには、クロロフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,6-ジイソプロピルフェニルなどが含まれる。
【0023】
「ヘテロアリール」とは、芳香環の1つまたは複数の炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、芳香環を意味する。ヘテロアリールとは、単環式芳香環、多環式芳香環、または1つもしくは複数の非芳香環に結合された1つもしくは複数の芳香環であってもよい構造を意味する。例示的なヘテロアリールには、例えば、チオフェン、ピリジン、イソキサゾール、フタリドイミド、ピラゾール、インドール、フランなどが含まれる。
【0024】
「置換ヘテロアリール」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ハロゲン、アルキルハロ、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、およびチオなどの1つまたは複数の官能基で置き換わっている、前述のヘテロアリール基を意味する。
【0025】
「アルコキシ」とは、-OZ基を意味し、ここでZはアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、およびその組み合わせから選択される。例示的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ、およびt-ブトキシが含まれる。関連する用語は「アリールオキシ」で、ここでZはアリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、およびその組み合わせから選択される。例示的なアリールオキシ基には、フェノキシ、置換フェノキシ、2-ピリジノキシ、8-キノリノキシなどが含まれる。
【0026】
「アミノ」とは、-NZ1Z2基を意味し、ここでZ1およびZ2はそれぞれ、水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびその組み合わせから独立に選択される。
【0027】
「チオ」とは、-SZ1Z2基を意味し、ここでZ1およびZ2はそれぞれ水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびその組み合わせから独立に選択される。
【0028】
「ハロゲン」とは、フルオロ、ブロモ、クロロおよびヨード置換基を意味する。
【0029】
本発明において開示される化合物の「薬学的に許容される塩」には、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛などのカチオンから、ならびにアンモニア、エチレンジアミン、N-メチル-グルタミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、および水酸化テトラメチルアンモニウムなどの塩基から形成されるものが含まれる。これらの塩は標準的方法、例えば、遊離酸を適当な有機または無機塩基と反応させることにより調製することができる。本明細書に記載のいかなる化合物も、その薬学的に許容される塩として投与することができる。「薬学的に許容される塩」は遊離酸、塩基、および両性イオンの形も含む。適当な薬学的に許容される塩の記載は、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002)に見いだすことができる。
【0030】
「薬剤(pharmaceutical agent)」または「薬物(drug)」とは、被検者に適切に投与すれば、所望の治療または予防効果を誘導することができる化合物または組成物を意味する。
【0031】
その他の用語
「AKT」とは、成長因子、サイトカイン、および発癌性Rasに応答して細胞生存シグナルを調節することが明らかにされている、セリン/トレオニンタンパク質キナーゼを意味する。AKTはホスホイノシチド-3-OHキナーゼ(PI3K)経路を介して、または他の上流キナーゼにより活性化する。AKTは、Bad、プロカスパーゼ9、およびフォークヘッド転写因子ファミリーのメンバーを含む、アポトーシスに関与するタンパク質を直接リン酸化し、不活化することにより、細胞死経路を阻害する。AKTはタンパク質キナーゼB(PKB、GenBankアクセッション番号NP_005154)としても公知である。
【0032】
「動物」とは、生きている多細胞脊椎生物で、例えば、哺乳類および鳥類を含む範疇である。「哺乳動物」は、ヒトおよびヒト以外の哺乳類の両方を含む。「被検者」は、ヒトおよび動物被検者の両方を含む。
【0033】
「抗増殖剤(anti-proliferative agent)」とは、増殖を低減する、または細胞死を引き起こす物質を意味する。抗増殖剤には、化学療法剤が含まれる。
【0034】
「アテローム性動脈硬化症」とは、経時的に進行性の血管の狭窄および硬化を意味する。アテローム性動脈硬化症は、大きいサイズおよび中程度のサイズの動脈の内膜および中膜内に、コレステロール、リポイド材料、および脂肪貪食細胞を含む帯黄色斑(アテローム)の沈着物が形成される、動脈硬化症の一般的な形態である。
【0035】
「自己免疫疾患」とは、免疫系が正常な宿主の一部である抗原(すなわち、自己抗原)に対して免疫応答(例えば、B細胞またはT細胞応答)を生じ、組織に傷害をきたす疾患である。自己抗原は宿主細胞由来でもよく、または通常粘膜表面にコロニー形成する微生物(片利共生生物として知られている)などの片利共生生物由来であってもよい。
【0036】
哺乳類が罹患する例示的な自己免疫疾患には、関節リウマチ、若年性少数関節炎、コラーゲン誘発関節炎、アジュバント誘発関節炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性結腸炎)、自己免疫性胃萎縮症、尋常性天疱瘡、乾癬、白斑、1型糖尿病、非肥満性糖尿病、重症筋無力症、グレーブス病、橋本甲状腺炎、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、アジソン病、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血などが含まれる。
【0037】
「化学療法」とは、急速に増加しつつある細胞を死滅させる、または細胞の複製を遅らせるための、「化学療法剤」と呼ばれる化合物の一つまたは組み合わせの投与を意味する。化学療法剤には、5-フルオロウラシル(5-FU)、アザチオプリン、シクロホスファミド、代謝拮抗物質(フルダラビンなど)、抗腫瘍薬(エトポシド、ドキソルビシン、メトトレキサート、およびビンクリスチンなど)、カルボプラチン、シスプラチン、およびタキソールなどのタキサンを含むが、それらに限定されるわけではない、当業者には公知のものが含まれる。ラパマイシンも化学療法剤として用いられている。
【0038】
「移植片対宿主疾患」とは、供与者の骨髄移植片中のT細胞が攻勢に出て宿主の組織を攻撃する、骨髄移植の合併症を意味する。移植片対宿主疾患(GVHD)は、血液骨髄供与者が患者と血縁関係にない症例、または供与者が患者の血縁者であるが完全にマッチしていない場合に最もよく見られる。GVHDには二つの型がある:白血球が増加傾向にある移植直後に起こる、急性GVHDと呼ばれる早期型、および慢性GVHDと呼ばれる後期型である。
【0039】
急性GVHDは典型的には移植後3ヶ月以内に起こり、皮膚、肝臓、胃、および/または腸に影響をおよぼす。最も早く現れる徴候は通常は手、足および顔の発疹で、これは拡散することもあり、日焼けのように見える。急性GVHDに伴う重度の問題には、皮膚の水疱、痙攣を伴う水様または血性下痢、および肝臓への波及を反映しての黄疸(皮膚および眼の黄変)が含まれる。
【0040】
慢性GVHDは典型的には移植の2〜3ヶ月後に起こり、狼蒼および強皮症などの自己免疫障害と同様の症状を引き起こす。患者は隆起し、ワニの皮膚のような、乾燥してかゆい発疹を生ずる。脱毛、皮膚の発汗減少、および毛髪の早期白髪化が見られることもある。口渇は一般的症状である。そのため食物への過敏性が起こることもあり、香辛料や酸味のきいた食物は刺激を与えることもある。眼も乾燥することがあり、刺激を感じ、赤くなる。いかなる臓器も慢性GVHDの影響を受けうる。
【0041】
「免疫応答」とは、B細胞、T細胞、マクロファージまたは多核白血球などの免疫系の細胞の、刺激に対する応答を意味する。免疫応答には、宿主防御応答に関与する体の任意の細胞、例えば、サイトカインを分泌する上皮細胞が含まれうる。サイトカインには、インターロイキン(IL-12(Quesniaux, Research Immunology 143: 385-400, 1992参照)、腫瘍壊死因子(TNF)-α(Aggarwal and Vilcek (eds) "Tumor necrosis factor: structure, function, and mechanism of action", Marcel Dekker Inc. 1992参照)、インターフェロン(IFN)-γ(Farrar and Schreiber, Ann. Rev. of Immunol. 11: 571-611, 1993参照)、単球走化性タンパク質(MCP)-1(Yoshimura and Leonard Cytokines 4: 131-52, 1992参照)、IL-10(Zlotnik and Moore, Cytokines 3: 366-71, 1991参照)、およびIL-6(Van Snick, Ann. Rev. Immunol. 8: 253-78, 1990参照)が含まれる。それらのタンパク質配列、核酸の配列およびそれらの機能の記載を含むサイトカインの記載は、COPE: Cytokines Online Pathfinder Encyclopaediaウェブサイトなどのインターネット上で見ることができる。免疫応答(例えば、先天性、適応性)には、ウイルスまたは細菌による感染に対する応答、先天性免疫応答、自己抗原に対する応答、または炎症が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0042】
「免疫抑制」とは、細胞および/または液性免疫の非特異的不応答を意味する。免疫抑制とは、免疫応答の防止または減弱を意味し、Tおよび/またはB細胞の数が減少した場合、またはそれらの反応性、増殖もしくは分化が抑制された場合に起こる。免疫抑制は、Treg細胞などの特異的もしくは非特異的T細胞の活性化から、放射線照射に応答してのサイトカインシグナリングから、またはTおよびB細胞に対して一般化免疫抑制効果を有する薬物により生じることがある。
【0043】
「免疫抑制剤」とは、炎症反応などの免疫応答を低下させることができる、化合物、小分子、ステロイド、核酸分子、または他の生物学的物質などの分子を意味する。免疫抑制剤には、関節炎を治療する際に用いる薬剤(抗関節炎薬)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。免疫抑制剤の特定の非限定例は非ステロイド性抗炎症剤、シクロスポリンA、FK506、および抗CD4である。さらなる例において、薬剤は、Kineret(登録商標)(アナキンラ)、Enbrel(登録商標)(エタネルセプト)、またはRemicade(登録商標)(インフリキシマブ)などの生物学的応答修飾剤、Arava(登録商標)(レフルノミド)などの疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、Celebrex(登録商標)(セレコキシブ)およびVioxx(登録商標)(ロフェコキシブ)といった、特にシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、またはHyalgan(登録商標)(ヒアルロナン)およびSynvisc(登録商標)(ヒランG-F20)などの他の製品である。ラパマイシンは免疫抑制剤の追加の例である。
【0044】
「炎症」または「炎症プロセス」とは、浸透性および血流量増大、血漿タンパク質を含む体液の浸出、および白血球の炎症巣への遊走を伴う、細動脈、毛細管および細静脈の拡張を含む、一連の複雑な事象を意味する。炎症は、白血球数、多核好中球(PMN)数、ルミノール高感度化学発光などのPMN活性化の程度の尺度、またはサイトカインの存在量の尺度などの、当技術分野において公知の多くの方法によって評価することができる。
【0045】
疾患を「阻害する」または「治療する」とは、例えば、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、または移植組織もしくは臓器の拒絶などの疾患のリスクが高い被検者において、疾患または状態の完全な発生を阻害することを意味する。「治療」とは、疾患または病的状態が発生し始めた後にその徴候または症状を改善する、治療的介入を意味する。本明細書において用いられる、疾患または病的状態に関して「改善する」という用語は、治療のいかなる観察可能な有益な効果をも意味する。有益な効果は、例えば、感受性の高い被検者における疾患の臨床症状の発現遅延、疾患の臨床症状の一部もしくはすべての重症度の低下、疾患の進行遅延、疾患の再発数の減少、被検者の全般的健康もしくは福祉の改善、または特定の疾患に特異的な当技術分野において周知の他のパラメーターによって証明することができる。
【0046】
「キナーゼ」とは、一つの分子から別の分子へのリン酸基の転移を触媒する酵素を意味する。「セリントレオニンキナーゼ」は、リン酸基をポリペプチド中のセリンおよび/またはトレオニンのヒドロキシル基に転移させる。「P70 S6キナーゼ」は、リボソームの40Sサブユニット(小サブユニット)のS6タンパク質をリン酸化するキナーゼである。GenBankアクセッション番号JE0377は、ヒトP70 S6キナーゼの例示的なアミノ酸配列を示す。「ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ」とは、イノシトール脂質をイノシトール環のD-3位でリン酸化して3-ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール3-リン酸[PtdIns(3)P]、ホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸[PtdIns(3,4)P2]およびホスファチジルイノシトール 3,4,5-三リン酸[Ptdlns(3,4,5)P3]を生じる酵素を意味する。GenBankアクセッション番号AAB53966は、ヒトホスファチジルイノシトール3-キナーゼの触媒サブユニットの例示的なアミノ酸配列を示す。「カゼインキナーゼ2」(GenBankアクセッション番号NP_001887)とは、カゼインなどの酸性タンパク質を優先的にリン酸化する酵素を意味する。GenBankアクセッション番号NP_001887は、カゼインキナーゼ2の例示的なアミノ酸配列を示す。カゼインキナーゼ2の基質の例には、p53(GenBankアクセッション番号CAA25652)、BH3相互作用ドメインデスアゴニスト(death agonist)(Bid;別の転写物のアクセッション番号NP_001187.1、NP_932070.1、NP_932071.1)、DNAトポイソメラーゼII(NP_001058)が含まれる。キナーゼの「優先的」阻害とは、P70 S6キナーゼなどの一つのキナーゼの活性を、PI3Kなどの第二のキナーゼの活性を阻害するよりも大幅に低下させることを意味する。
【0047】
「白血球(leukocyte)」とは、「白血球(white cell)」とも呼ばれ、感染性生物および異物に対する体の防御に関与する血中の細胞を意味する。白血球は骨髄で産生される。白血球には5つの主要な型があり、次の二つの主要な群に分けられる:多核白血球(好中球、好酸球、好塩基球)および単核白血球(単球およびリンパ球)。
【0048】
「マクロファージ」とは、多くの恒常性、免疫、および炎症プロセスを担う広範に分布する単核食細胞群を意味する。これらの細胞は広範な組織に分布することから、白血球遊走前の異物に対する即時防御を提供するのに非常に適している。炎症性マクロファージは様々な浸出液中に存在し、ペルオキシダーゼ活性およびサイトカイン発現などの様々な特異的マーカーによって特徴づけることができ、同様の性質を有する単球由来である。「活性化マクロファージ」とは、特に高い機能的活性を有するマクロファージを意味する。分化の過程はマクロファージの「活性化」によって異なり、この過程を通して分化したマクロファージは特定の機能を行う高い能力を獲得する。一般に、非活性化マクロファージは免疫学的に比較的静止状態で、酸素消費量が低く、主要組織適合複合体(MHC)クラスII遺伝子発現のレベルが低く、サイトカイン分泌がほとんど、またはまったくない。いったん活性化されると、マクロファージは増殖不可能で、酸素消費量が高まる。加えて、活性化マクロファージは寄生生物を死滅させ、かつ/または腫瘍細胞を溶解することができ、TNF-α、IL-1およびIL-6などのサイトカインを分泌する。
【0049】
「哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)(mTOR)」とは、S.セレビジエ(S. cerevisiae)Tor1およびTor2タンパク質と約45%の相同性を有する約289kDaのポリペプチドを意味する。ヒト、ラット、およびマウスmTORタンパク質は、アミノ酸レベルでは約95%の相同性を有する。mTORタンパク質はセリントレオニンタンパク質キナーゼである(Hunter et al., Cell 83:1-4, 1995; Hoekstra, Curr. Opin. Genet. Dev. 7:170-175, 1997参照)。mTOR(GenBankアクセッション番号L30475参照)は、P70 S6キナーゼをトレオニン389位でリン酸化し、真核生物翻訳開始因子の結合タンパク質をリン酸化し、活性化する。
【0050】
「新形成」とは、異常で未制御の細胞増殖の過程を意味する。新形成の生成物は新生物(腫瘍)で、これは過剰な細胞分裂による組織の異常な増殖である。転移しない腫瘍は「良性」と呼ばれる。周囲の組織に侵襲する、および/または転移することができる腫瘍は「悪性」と呼ばれる。新形成は増殖性障害の一例である。
【0051】
血液腫瘍の例には、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、および赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ性白血病など)、真性多血症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性および高度の型)、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、H鎖病、脊髄形成異常症候群、および脊髄形成異常症を含む白血病が含まれる。
【0052】
肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、膀胱癌、ならびにCNS腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経鞘腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫)が含まれる。
【0053】
「非経口」投与とは、腸の外への投与、例えば、消化管を介さない投与を意味する。一般に、非経口製剤は摂食以外の任意の可能な様式を通して投与されるものである。この用語は特に、静脈内、くも膜下腔内、筋肉内、腹腔内、関節内、または皮下投与のいずれにかかわらず注射、ならびに例えば鼻内、皮内、および局所適当を含む様々な表面への適用を意味する。
【0054】
「リン酸化」とは、有機分子(タンパク質または脂質など)のリン酸誘導体の生成を意味する。細胞内では、これはアデノシン三リン酸(ATP)からリン酸基を転移することにより達成することができる。
【0055】
「増殖性障害」は新生物および再狭窄を含む。
【0056】
「再狭窄」とは、心臓弁の矯正手術後の狭窄または過去の狭窄の除去もしくは減少後の脈管構造(冠動脈など)の狭窄の再発を意味する。いくつかの例において、再狭窄はステント設置後または血管形成術後に起こる。
【0057】
「配列相同性」とは、アミノ酸配列間の類似性を意味し、配列間の類似性で表されるか、または配列相同性と呼ばれる。配列相同性は同一性(または類似性もしくは相同性)のパーセンテージで評価することが多い。パーセンテージが高いほど二つの配列の類似性が高い。ポリペプチドの相同体または変異体は標準法を用いてアラインさせた場合、比較的高度の配列相同性を有することになる。
【0058】
比較のための配列のアラインメント法は当技術分野において公知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが下記に記載されている:Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene 73:237, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS 5:151, 1989; Corpet et al., Nucleic Acids Research 16:10881, 1988;およびPearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988。Altschul et al., Nature Genet., 6:119, 1994は配列アラインメント法および相同性計算の詳細な考察を示している。
【0059】
配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと関連して用いるための、NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403, 1990)は、National Center for Biotechnology Information(NCBI, Bethesda, MD)を含むいくつかの供給元およびインターネットから入手可能である。このプログラムを用いてどのように配列相同性を求めるかの説明は、インターネットのNCBIウェブサイト上で見ることができる。
【0060】
ポリペプチドの「相同体」および[変異体」とは、デフォルトのパラメーターに設定したNCBI Blast 2.0、gapped blastpを用い、ポリペプチドのアミノ酸配列との全長アラインメントを通して計数して、少なくとも75%、例えば少なくとも80%、または少なくとも90%の配列相同性を有することにより特徴づけられるポリペプチドを意味する。約30アミノ酸よりも大きいアミノ酸配列の比較のために、デフォルトのパラメーター(gap existence cost=11、per residue gap cost=1)に設定したデフォルトBLOSUM62マトリックスを用いたBlast 2配列機能を用いる。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアラインする場合、アラインメントはデフォルトののパラメーター(open gap penalty=9、extension gap penalty=1)に設定したPAM30マトリックスを用いたBlast 2配列機能を用いて実施すべきである。基準配列との類似性がさらに大きいタンパク質は、この方法で評価すると、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性などの高いパーセンテージの同一性を示すことになる。全体よりも短い配列の配列相同性を比較する場合、相同体および変異体は典型的には10〜20アミノ酸の短いウィンドウでは少なくとも80%の配列相同性を有することになり、基準配列に対するそれらの類似性に応じて少なくとも85%または少なくとも90%もしくは95%の配列相同性を有することもある。そのような短いウィンドウでの配列相同性を求める方法は、インターネットのNCBIウェブサイトで入手可能である。当業者であれば、これらの配列相同性の範囲は指標のためにのみ提供され、提供された範囲外の非常に重要な相同体を得ることもまったく可能であることを理解すると思われる。
【0061】
「移植」とは、ある被検者から別の被検者に、ある被検者から同じ被検者の別の部分に、またはある被検者から同じ被検者の同じ部分に、組織、細胞、もしくは臓器、またはその一部を移すことを意味する。供与者および受容者は同じ遺伝子型であってもなくてもよい。「同種移植」または「異種移植」とは、個人が二人の配列において同一でない1つまたは複数の遺伝子座に遺伝子を有する、ある個人から別の個人への移植を意味する。同種移植は、遺伝的に異なる同種の二人の個人間で、または二つの異なる種の個人間で行うことができる。「自家移植」とは、同じ個人のある部位から別の部位への、組織、細胞、もしくはその一部の移植、または遺伝的に同一の、ある個人から別の個人への、組織もしくはその一部の移植を意味する。
【0062】
前述の用語の説明は、読者の助けとするために提供されるにすぎず、当業者によって理解されているよりも狭い範囲を有する、または添付の特許請求の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【0063】
単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、複数の指示物を含む。同様に、「または(or)」なる用語は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、「および(and)」を含むと意図される。「含む(comprises)」なる用語は「含む(includes)」を示す。化合物に対して示すすべての分子量または分子質量の値は近似値で、説明のために示していることがさらに理解されるべきである。本明細書に記載のものと類似または等価の方法および材料を、本開示の実施または試験において用いることができるが、適当な方法および材料を以下に記載する。加えて、材料、方法、および例は例示的なものにすぎず、限定的であることを意図するものではない。すべての化合物は、(+)および(-)両方の立体異性体(ならびに(+)または(-)いずれかの立体異性体)、ならびにそのいかなる互変異性体も含む。略語の「mc」は「マイクロ」を示し、したがって「mcM」はマイクロモル濃度を示し、「mcL」はマイクロリットルを示す。
【0064】
使用する化合物
本明細書において開示される方法および組成物において有用な一連の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の例は、下記の代表的構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物である:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、またはチオから独立に選択される。R1および/またはR2が存在する場合、それぞれの環構造上に1つまたは複数のR1および/またはR2置換基があってもよい。
【0065】
本明細書において開示される方法および組成物において有用な一連の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の別の例は、下記の代表的構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物である:
式中、R1、R2およびR3それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される)。R1および/またはR2が存在する場合、それぞれの環構造上に1つまたは複数のR1および/またはR2置換基があってもよい。
【0066】
特定の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の実例は、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンである:
【0067】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンの2塩酸塩はSigma-Aldrich Corporationから「LY303511」の名称で市販されている。本明細書に記載の2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物はVlahos et al., J. Biol. Chem. 269:5241-5248, 1994に記載の方法に基づいて合成してもよい。2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンの他の塩の形は、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002)に記載のものなどの公知の技術に従い容易に合成可能である。
【0068】
本明細書において開示される方法は、本明細書に記載の1つもしくは複数の化合物、または1つもしくは複数の化合物と1つもしくは複数の他の薬剤との組み合わせを薬学的に適合性の担体中で被検者に投与する段階を含む。投与は新生物もしくは再狭窄などの増殖性障害の発生を阻害する、または免疫抑制を提供するのに有効な量で行う。治療はそのような疾患のリスクが高い人口統計群の任意の患者において予防的に用いることができるが、被検者は状態の確定的診断などのより特異的基準を用いて選択することもできる。
【0069】
その中で薬物を送達する媒体は、当業者には周知の方法を用いて、薬学的に許容される薬物の組成物を含むことができる。滅菌食塩水またはグルコース溶液などの一般的ないかなる担体も、本明細書において開示される薬物と共に用いることができる。投与経路には、経口ならびに静脈内(iv)、腹腔内(ip)、直腸、、局所、眼、鼻、および経皮などの非経口経路が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0070】
薬物は任意の好都合な媒質中で、現在公知であるか、後に開発される適当な様式、例えば、経口または静脈内で投与してもよい(下記参照)。例えば、静脈内注射は食塩水媒質により行ってもよい。媒質は、例えば、浸透圧を調節するための薬学的に許容される塩、シクロデキストリンなどの脂質担体、血清アルブミンなどのタンパク質、メチルセルロースなどの親水性物質、洗浄剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビルパルミテート、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)およびトコフェロール)、キレート化剤、粘度調節剤、張性剤(tonicifier)、着香料、着色料、臭気剤などの通常の薬学的補助材料も含んでいてもよい。非経口用の薬学的担体のより完全な説明は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th Edition, 1995) chapter 95に見いだすことができる。
【0071】
他の薬学的組成物の例は、当業者には公知と思われる通常の薬学的に許容される担体、補助剤および対イオンと共に調製することができる。組成物は好ましくは錠剤、丸剤、散剤、液剤または懸濁剤などの、固体、半固体および液体剤形の単位用量剤形である。半固体製剤は、例えば、ゲル、ペースト、クリームおよび軟膏を含むいかなる半固体製剤であってもよい。液体剤形には、有機または無機媒体中の液剤、懸濁剤、リポソーム製剤、または乳剤が含まれうる。
【0072】
免疫応答を抑制する、または増殖性障害を治療する方法
被検者の免疫応答を抑制する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む方法が、本明細書において提供される。一つの特定の非限定例において、免疫応答はインターロイキン(IL)-12、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6などであるが、それらに限定されるわけではない、サイトカインの分泌を含みうる。もう一つの特定の非限定例において、免疫応答はマクロファージ活性化を含む。
【0073】
本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を、追加の免疫抑制剤と共に投与することもできる。この投与は同時でも任意の順の逐次でもよい。免疫抑制剤には、シクロスポリンA、FK506、もしくはその類縁体、またはCD3(OKT3など)、CD4、もしくはCD8に特異的に結合するモノクローナル抗体などの抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0074】
一つの例において、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物および免疫抑制剤は溶液、またはこれらの物質の送達および取り込みを促進するリポソームなどの送達媒体中で同時投与することもできる。
【0075】
一つの態様において、本明細書において開示される方法を、移植片拒絶を治療するために用いることができる。移植は、一つの体または体の一部から別の体または体の一部への、組織もしくは臓器、またはその一部の移動に関与する。「同種移植」または「異種移植」は、供与者および受容者が、二人の配列において同一でない1つまたは複数の遺伝子座における遺伝子を有する、供与者から受容被検者への移植である。受容者は供与者の抗原(供与者MHCを含む)に対して免疫応答を生じることがあり;したがって移植片受容者(心臓、肺または腎臓移植片受容者)を治療するために免疫抑制剤がしばしば用いられる。移植片拒絶を治療する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与する段階を含む方法が本明細書において開示される。一つの態様において、治療は生存を延長させるか、または供与組織の機能を改善する。本明細書において開示される方法を、移植片対宿主疾患を治療するために用いることもできる。
【0076】
増殖性障害を治療する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む方法が本明細書において提供される。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、腫瘍細胞の増殖を阻害するために用いうることが本明細書において示される。したがって、腫瘍を治療するために、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与することができる。腫瘍は良性および悪性両方の腫瘍を含む。腫瘍は血液腫瘍および固形腫瘍をさらに含む。例示的な腫瘍は皮膚、神経系、肺、乳房、生殖器、膵臓、リンパ球(白血病およびリンパ腫を含む)、血管またはリンパ管、および結腸の腫瘍である。腫瘍には特に癌腫、肉腫、乳頭腫、腺腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、および腺癌が含まれる。
【0077】
本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を、追加の化学療法剤と共に投与することもできる。この投与は同時でも任意の順の逐次でもよい。化学療法剤には、化学物質、代謝拮抗物質、および抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。例示的な化学療法剤はドキソルビシン、パクリタキセル、ラパマイシン、およびメトトレキサートである。
【0078】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、平滑筋細胞の増殖を阻害するために用いうることが本明細書においてさらに示される。したがって、血管再狭窄を治療するために、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与することができる。
【0079】
本明細書において開示される治療化合物を患者に、冠動脈もしくは末梢動脈の血管形成術もしくは粥腫切除術、冠動脈バイパス移植もしくはステント手術、または末梢血管手術(例えば、頸動脈もしくは他の末梢血管の動脈内膜切除術、血管バイパス形成術、ステントまたは人工血管法)の前、最中および/または後に投与することにより、この化合物を再狭窄を治療するために用いることができる。本明細書の他所に記載の投与法に加えて、ベンゾピラン-4-オンを血管ステントまたは人工血管などの管腔装置により送達してもよい。例えば、目的の血管部位でのベンゾピラン-4-オン化合物の制御放出のために、ステントまたは人工血管をベンゾピラン-4-オンでコーティングしてもよく、またはこれを取り込んでもよい。そのような制御放出は所望の期間の持続的化合物送達を含みうる。
【0080】
本明細書において開示される任意の治療法において用いるため、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物(および任意に追加された物質)の投与は全身でも、局所でもよい。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の局所投与は当業者には周知の方法により実施する。例として、関節炎の個人などの個人の膝、腰および/または肩への一つの投与法は関節内注射である。例えば膝への投与のために、注射する関節をベタジン溶液または他の消毒剤で洗浄する。約1%の塩酸リドカイン溶液を皮膚および皮下組織に注射する。三方コック/針組み立て品を用いて化合物を18〜30ゲージ針から投与する。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、当業者には周知の標準側方アプローチを用いて関節窩に注射する。針を引き抜きながら1%塩酸リドカインを三方コック組み立て品を通して流すことにより、針および針路を清浄化する。次いで、膝を屈曲伸長弧(flexion-extension arc)を通して動かし、次いで完全に伸ばして固定する。次いで、患者を約24時間ベッドに拘束し、動きを最小限に抑え、関節からの活性物質の漏出を最小限に抑える。
【0081】
他の態様において、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の投与は全身である。経口、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、および直腸投与が企図される。
【0082】
用いるための薬理学的組成物は、賦形剤、ならびに活性化合物の薬学的に用いることができる製剤への加工を容易にする任意の補助剤を含む1つまたは複数の薬理学的(例えば、生理学的または薬学的)に許容される担体を用いて、通常の様式で製剤することができる。適当な製剤は選んだ投与経路に依存する。加えて、当業者であれば、静脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、皮下、経皮、経鼻、吸入、および経口投与を含むが、それらに限定されるわけではない、適当な投与経路を容易に選択することができる。
【0083】
したがって、注射用に、活性成分を水溶液、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液中で製剤することができる。経粘膜投与用には、浸透するバリアに適した浸透剤を製剤中で用いる。そのような浸透剤は当技術分野において一般に公知である。経口投与用には、活性成分を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などに含まれるのに適した担体と組み合わせることができる。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、肺の炎症を有する被検者の治療用などの吸入療法において用いるために製剤することもできる。吸入による投与用には、適当な噴射剤を用いて、活性成分を加圧パックまたはネブライザー(nebuliser)からエアロゾル噴霧の形で都合よく送達する。
【0084】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、注射、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与用に製剤することもできる。同様に、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、気管内または吸入用に製剤することもできる。そのような組成物は、油性または水性媒体中の懸濁剤、液剤または乳剤などの形を取ることができ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤用物質を含むこともできる。他の薬理学的賦形剤は当技術分野において公知である。
【0085】
本明細書に記載の化合物の治療上有効な用量は、所望のレベルの抗再狭窄、抗アテローム性動脈硬化、抗新生物または免疫抑制を達成することをゴールとして、当業者であれば決定することができる。化合物の相対毒性により、様々な用量範囲で投与することが可能となる。一例において、化合物を一回または分割用量で経口投与する。
【0086】
任意の特定の被検者に対する特定の用量レベルおよび投与頻度は変動することがあり、特定の化合物の活性、既存疾患の活性の程度、年齢、体重、全般的健康、性別、食事、投与の様式と回数、排出速度、併用薬物、および治療を受けている宿主の状態の重症度を含む様々な因子に依存することになる。
【0087】
スクリーニング
免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法が本明細書において提供される。この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に比べてP70 S6キナーゼのmTOR依存性リン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択し、それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を特定する段階を含む。一つの態様において、物質は1つまたは複数の追加のキナーゼも阻害する。例えば、物質は細胞増殖の調節物質であるカゼインキナーゼ2を阻害することができる。したがって、この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に比べてP70 S6キナーゼ、カゼインキナーゼ2、または両方のmTOR依存性リン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択し、それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を特定する段階を含む。アッセイは細胞または細胞抽出物中で行うことができる。
【0088】
試験化合物は、化合物、小分子、ポリペプチド、または他の生物学的物質(例えば、抗体またはサイトカイン)を含む、関心対象となるいかなる化合物であってもよい。いくつかの例において、化学療法剤として可能性がある化合物群、または免疫抑制剤として可能性がある化合物群をスクリーニングする。他の態様において、ポリペプチド変異体群をスクリーニングする。
【0089】
細胞を用いるアッセイにおいて、細胞を試験化合物と接触させる。いくつかの態様において、細胞を試験化合物と共に、細胞内のPI3Kによる基質のリン酸化に影響を及ぼし、P70 S6キナーゼのリン酸化を阻害するのに十分な時間インキュベートする。細胞を溶解し、リン酸化P70 S6キナーゼの量、およびPI3Kによりリン酸化された基質の量を測定する。細胞内に存在するリン酸化P70 S6キナーゼの量およびリン酸化基質の量を、試験化合物に曝露されていない同じ細胞と比較する。
【0090】
いくつかの態様において、電気泳動によって分離した細胞タンパク質によるウェスタンブロット技術を用い、P70 S6キナーゼ、リン酸化p70 S6キナーゼに結合する抗体、および/または基質(リン酸化S6など)と特異的に結合する抗体を用いる。または、細胞を、リン酸化または非リン酸化基質(P70 S6キナーゼなど)の検出を可能にする、放射性同位体標識したリンを含むオルトリン酸塩存在下でインキュベートしてもよい。
【0091】
いくつかの態様において、細胞を5%CO2加湿雰囲気中、37℃で、試験化合物によりインビトロで処理する。試験化合物による処理後、細胞をCa2+およびMg2+を含まないPBS中で洗浄し、全タンパク質を記載のとおりに抽出する(Haldar et al., Cell Death Diff. 1:109-115, 1994; Haldar et al., Nature 342:195-198, 1989; Haldar et al., Cancer Res. 54:2095-2097, 1994)。別の態様において、試験化合物の連続希釈を用いる。
【0092】
いくつかの態様において、リン酸化をウェスタンブロット法ならびにAmersham ECL高感度化学発光検出システムおよび周知の方法を用いて行う免疫検出を用いて分析する。一例において、リンパ球のリン酸化をリン酸塩を含まない媒質(GIBCO)中、1mCi/ml[P32]オルトリン酸(NEN)を用い、試験化合物存在下、6時間で行うことができる。P32標識細胞抽出物の免疫沈降を、例えば、Haldar et al., Nature 342:195-198, 1998に記載のとおりに実施することができる。この免疫沈降はP70 S6キナーゼ、カゼインキナーゼ2の基質(p53、Bid、DNAトポイソメラーゼIIなど)、またはPI3Kの基質(ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、ホスファチジルイノシトール4,5-リン酸など)などの、関心対象となる基質を結合する抗体を用いる。免疫複合体を厚さ0.75mmの10%SDS-PAGE上で泳動させる。続いて、ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーに曝露する。
【0093】
リン酸化アミノ酸分析を当技術分野において公知のとおりに行うことができる。例えば、分析を基本的にはHunter薄層電気泳動システム、HTLE700(CBS Scientific Company Inc., USA)のマニュアルに記載のとおりに実施することができる。簡単に言えば、P32標識免疫沈降物を10%SDS-PAGEゲル上で泳動させる。関心対象の免疫反応性バンドをゲルから切り出し、50μM炭酸水素アンモニウムで溶出する。溶出後、タンパク質を15%〜20%TCAプラス担体タンパク質存在下で沈降させ、エタノールで洗浄する。次いで、沈降タンパク質を過ギ酸中で酸化し、凍結乾燥する。乾燥したペレットを110℃で加熱した連続沸騰中のHCl中に再懸濁し、凍結乾燥する。残渣を、リン酸化アミノ酸標品を含むpH1.9緩衝液(50mclギ酸、156mcl酢酸、1794mcl H2O)に再懸濁し、PEIセルロースプレートにスポットする。二次元薄層クロマトグラフィを、一次の方向にはpH1.9緩衝液と、二次の方向にはpH3.5緩衝液(100ml酢酸、10mlピリジン、1890ml H2O)を用いて展開する。プレートを65℃で10分間焼き、非放射性標品をプレートに0.25%ニンヒドリンを噴霧し、65℃のオーブンに戻して15分間置くことにより可視化する。次いで、プレートをKodak X-omat ARフィルムなどのフィルムに2から4週間曝露する。
【0094】
いくつかの態様において、リン酸化の調節を、細胞抽出材料を出発原料に用いて分析する。試験化合物を細胞抽出材料と混合し、P70 S6キナーゼのリン酸化およびホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に対する化合物の効果を試験する。一例において、細胞抽出材料を試験化合物と接触させて、32P-γ-ATP存在下でのP70 S6キナーゼのリン酸化に対して試験化合物が有する効果、またはbcl-2のリン酸化に対して試験化合物が有する効果を同定する。
【0095】
例示的なプロトコルにおいて、100μgの全細胞抽出物を指定の濃度の試験化合物と共に用い、細胞抽出物を37℃のインビトロで処理する。ホスファターゼ反応のために、50μlの細胞溶解物を試験化合物と接触させ、反応混合物と共に37℃で30〜60分間インキュベートする。
【0096】
細胞抽出材料のリン酸化のために、100μgの細胞抽出物を、各反応に40μci[32P]ATP(3000Ci/mmol)を加える以外は前述のとおりに処理する。チューブを氷につけることにより反応を停止する。[32P]ATP標識した反応混合物を、P70 S6キナーゼまたはPI3K基質に対するモノクローナル抗体から、精製抗体をprotein-A Sepharoseに架橋剤ジメチルピメルイミデート2塩酸塩(50mM)を用いて共有結合させることにより作成した免疫親和性カラムに吸着させる。特異的に結合した[32P]標識タンパク質を0.5%デオキシコール酸Naを含む0.05Mジエチルアミン、pH11.5で溶出する。
【0097】
例示的な方法において、ウェスタンブロット法による免疫検出をAmersham ECL検出システムおよび当業者に公知の方法を用いて実施する。P32標識細胞抽出物の免疫沈降を、例えば、Haldar et al., Nature 342:195-198, 1989に記載のとおりに行うことができる。免疫複合体を厚さ0.75mmの10%SDS-PAGE上で泳動させる。続いて、ゲルを乾燥し、Kodak XARフィルムなどのフィルムを用いてオートラジオグラフィーに曝露する。
【0098】
ホスホアミノ酸分析を基本的にはHunter薄層電気泳動システム、HTLE700(CBS Scientific Company Inc., USA)のマニュアルに記載のとおりに実施することができる。例示的な方法において、P32標識免疫沈降物を10%SDS-PAGEゲル上で泳動させる。P70 S6キナーゼ免疫反応性バンドをゲルから切り出し、50μM炭酸水素アンモニウムで溶出する。溶出後、タンパク質を15%〜20%TCAプラス担体タンパク質存在下で沈降させ、エタノールで洗浄する。次いで、沈降タンパク質を過ギ酸中で酸化し、凍結乾燥する。乾燥したペレットを110℃で加熱した絶えず沸騰中のHCl中に再懸濁し、凍結乾燥する。残渣を、リン酸化アミノ酸標品を含むpH1.9緩衝液(50mclギ酸、156mcl酢酸、1794mcl H2O)に再懸濁し、PEIセルロースプレートにスポットする。二次元薄層クロマトグラフィを、一次の方向にはpH1.9緩衝液と、二次の方向にはpH3.5緩衝液(100ml酢酸、10mlピリジン、1890ml H2O)を用いて展開する。プレートを65℃で10分間焼き、プレートに0.25%ニンヒドリンを噴霧し、65℃のオーブンに戻して15分間置くことにより、非放射性標品を可視化する。次いで、プレートをフィルムに曝露する。
【0099】
カゼインキナーゼ2活性についての一つの特定のアッセイは、Upstate Biotechnology(New York)からキットとして市販されている。アッセイは、30℃で10分間のインキュベーション中のカゼインキナーゼ2による32P-ATPのγ-リン酸の転移を用いた、特定の基質(CK-2基質ペプチド)のリン酸化に基づく。次いで、リン酸化基質を、残留する32P-ATPからP81ホスホセルロース紙を用いて分離し、シンチレーション計数により定量する。
【0100】
実施例
ラパマイシンはP70 S6キナーゼのmTOR依存性調節を阻止することにより癌および平滑筋細胞増殖を阻害する。ラパマイシンはFDAにより、移植片拒絶(免疫抑制作用および抗炎症)、癌、および冠動脈形成術後の血管再狭窄の治療用に認可されている。しかし、ラパマイシンはいくつかの不都合および有害作用を有し、mTOR依存性シグナリングの他の薬理学的阻害剤を同定することが望ましい。
【0101】
LY294002と同様、LY303511はmTORおよびカゼインキナーゼ2を阻害する。LY294002とは異なり、LY303511は細胞死、細胞質分裂、およびグルコース/脂質代謝の制御における重要なシグナリング酵素のPI3Kを有意に阻害することはできない。ウォルトマニンはPI3Kに選択的である。本明細書に開示される実施例は、LY303511を例示的な4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物として用いる。結果は、LY303511を、免疫反応を抑制するため、ならびに平滑筋細胞および腫瘍細胞を含む細胞の増殖を阻害するために用いうることを示している。LY303511はmTORをラパマイシン結合に関与するものとは異なる部位で選択的に阻害し、PI3Kへの影響は少ないと考えられる。LY303511は、細胞増殖および免疫応答を制御するために、単独で、またはラパマイシンもしくは他の物質との組み合わせで用いることができる。
【0102】
実施例1
LY303511は細胞増殖を阻害する
本実施例はLY303511がP70 S6キナーゼのリン酸化およびヒト肺上皮腺癌(A549)細胞における細胞増殖を阻止することを示す。LY303511は、モルホリノ酸素をアミンで置き換える酸素置換によりLY294002と異なる(図1A)。
【0103】
A549細胞を無血清培地のみ、または無血清培地中の100mcM LY303511、200ng/mlラパマイシン、もしくは50nMウォルトマニンで1時間処理した後、大腸菌リポ多糖(LPS)、1000mcg/mlおよびインターフェロン(IFN)-γ、100U/ml(LPS/IFN-γすなわち「L/I」)を加えた。細胞をホモジナイズし、表示のタンパク質(表1参照)をウェスタンブロットにより検出した。ウェスタンブロットは同じ実験からで、3つの実験の代表である。
【0104】
(表1)抗体の説明
【0105】
結果は、LY303511がP70 S6キナーゼのリン酸化を阻止することを示している(図1B)。ウォルトマニンおよびラパマイシンもリン酸化を阻止した。結果は、LY303511およびラパマイシンがAKTのリン酸化を増大させることを示していた(図1B)。ウォルトマニンはPI3Kを阻止し、pAKTのリン酸化を阻害する。したがって、LY303511はmTOR感受性のS6のリン酸化は阻害するが、AKTのリン酸化は阻害しない(図1C)。これらの結果は、LY303511がmTOR阻害剤であることを示している。結果は、LY303511がmTORの自己リン酸化を濃度依存的様式で阻害することも示していた(図1D)。ラパマイシンとは異なり、LY303511はS6KまたはmTORの基礎的リン酸化に対して非常に小さい影響しか持たない(図1B、1D)。したがって、LY303511はLPS/IFN-γ-刺激mTOR活性およびS6KのmTOR依存性リン酸化をPI3Kとは独立な様式で、1pMという低い濃度で阻害した。
【0106】
さらなる実験において、A549細胞を96穴プレート中4,000細胞/ウェルで播種し、ブロモデオキシウリジン単独で、または示した薬理学的阻害剤と共に24時間処理した。DNA合成および細胞増殖の指標であるブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みを、インサイチューELISA(BrdU検出キット、Roche)で測定した
【0107】
加えて、A549細胞(80,000細胞/ウェル)を24時間培養した後、阻害剤を加えた(図2A)。24時間後、トリパンブルー染色した細胞を血球計を用いて計数した。細胞生存度はすべての条件下で>99%であった(データは示していない)。媒体単独に曝露した細胞では、細胞数は24時間で約50%増加した。ラパマイシンは細胞増殖をわずかに減弱したが、LY303511はLY294002とほぼ同等の有意な阻害効果を有していた。LY303511およびLY294002の、PI3Kとは独立な効果と一致して、ウォルトマニンはA549細胞増殖を有意に低減しなかった。LY303511はヨウ化プロピジウム染色した細胞のフローサイトメトリー分析により評価して、アポトーシスまたは壊死を誘導しなかった。
【0108】
ブロモデオキシウリジン(BrDu)取り込みで評価して、LY303511、ならびにLY303511とラパマイシンとの組み合わせはA549細胞の増殖を阻害した(図2B)。ラパマイシンはDNA合成に対し弱いが統計学的に有意な効果を有していたが、LY303511の投与は濃度依存的低下を引き起こした(図2B)。LY303511をラパマイシンと組み合わせた場合には、追加の効果は見られなかった。DMSO単独ではA549細胞増殖にまったく効果はなかった。
【0109】
もう一つの実験において、A549細胞を血清含有培地中でサブコンフルエントになるまで培養し、媒体、100mcM LY303511、またはラパマイシン、200ng/mlと共に0、12、または24時間インキュベートした。細胞を溶解し、タンパク質をSDS-PAGEで分離した後、ニトロセルロース膜に転写した。膜をp27Kip1、p21 Cip1またはリン酸化P70 S6キナーゼT389に対する抗体と共にインキュベートした。
【0110】
処理後12および24時間の時点で、LY303511およびラパマイシンはP70 S6キナーゼのT389でのリン酸化を阻止し、mTORキナーゼ活性の阻害と一致していた(図3A)。LY303511は、細胞周期停止のマーカーであるp27Kip1、およびp21 Cip1の蓄積を引き起こしたが、ラパマイシンは作用しなかった。p27 Kip1(p27)レベルの上昇におけるLY303511依存性は、ラパマイシンと同様のG1/S移行の阻害に対する効果を示している(図3A)。しかし、ラパマイシンとは対照的に、LY303511はS期後期の進行阻害剤であるp21Cip1(p21)の有意な増加を引き起こした(図3A)。LY303511は、SおよびG2/M期進行の調節物質であるサイクリンAおよびBのレベルを低下させたが、ラパマイシンは低下させなかった(図3B)。LY303511はRbのリン酸化も低下させ、これは細胞周期阻害のメカニズムが、部分的には、E2F依存性遺伝子の阻害によることを示唆するものである。これらの結果は、G1/S期移行に加えて、SおよびG2/M期後期進行におけるLY303511感受性キナーゼの役割を裏付けている。
【0111】
LY303511がG1停止を引き起こすことを確認するために、A549細胞を0、10、または100mcM LY303511で24時間処理し、固定し、KI-67に対する抗体と共にインキュベートした。スライドをDAPIを含む溶液中に入れ、核を染色した。等しいレーザー強度およびゲイン(gain)を用いて写真を捕捉した。LY303511による処理は全細胞KI-67レベルの有意な低下を来したが、ラパマイシンではその効果は見られず、これも細胞増殖の阻止と一致している。
【0112】
結果は、LY303511がmTOR依存性P70 S6キナーゼ活性化のマーカーである、P70 S6キナーゼのトレオニン(T)389位(T389)におけるベースの、および刺激されたリン酸化を阻害することを示していた。加えて、LY303511はAKTのセリン(S)473(S473)におけるPI3K依存性リン酸化を阻害しなかった。ラパマイシンと同様、LY303511はAKTのリン酸化を増大させた。加えて、LY303511はmTORキナーゼ活性のマーカーである、mTORのセリン2481位(S2481)におけるベースの、および刺激されたリン酸化を阻害した。LY303511はA549細胞における増殖も阻害した。効果はLY303511の10から100mcMの用量でラパマイシンと相加的であった。したがって、LY303511、またはLY303511とラパマイシンとの組み合わせを、腺癌細胞の増殖を阻害するために用いることができる。結果は、細胞周期停止が誘導されたこともさらに示している。
【0113】
実施例2
LY303511は炎症プロセスの活性化を阻害する
本実施例はLY303511がA549細胞においてLPSおよびIFN-γに応答してのP70 S6キナーゼのリン酸化およびSTAT1の活性化を阻害することを示す。
【0114】
A549細胞に、STAT1により駆動されるホタルルシフェラーゼを発現するレポーターベクター(GAS-luc、Clontech)を一過性に形質移入し、試験化合物なし、または100mcM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは両方と共に1時間インキュベートした後、LPS/IFN-γを加えて6時間置いた。STAT1活性(ルシフェラーゼ活性)を細胞溶解物中で測定した(RLU)。図8に示したデータは三つ組の試料±SEMで、二つの独立した実験の代表である。LY303511は二つの炎症メディエーター、LPS/IFN-γによるSTAT1活性化を阻害した。
【0115】
転写因子STAT1の阻害と一致して、LY303511はLPSで刺激されたマクロファージによるLPS誘導性サイトカイン産生を低下させた(実施例8参照)。
【0116】
実施例3
LY303511は平滑筋細胞においてP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害する
本実施例はLY303511が初代ヒト肺動脈平滑筋(HPASM)細胞においてP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害することを示す。
【0117】
HPASM細胞はCloneticsから購入し、製造業者の使用説明書に従って継代培養した。細胞を100mmプレートに播種し、ほぼコンフルエントになるまで増殖させた後、24時間血清飢餓処理した。培地に阻害剤を加え、1時間後に10%FBSを加えて30分間置いた。細胞をホモジナイズし、表示のタンパク質をウェスタンブロットにより検出した。
【0118】
LY303511は、ヒト肺動脈平滑筋(PASM)細胞におけるP70 S6キナーゼのベースの、および刺激されたリン酸化を阻害した(図4Aおよび4B)。LY303511はAKTのリン酸化も阻害するが、P70 S6キナーゼのリン酸化の場合よりも程度は低い(図4B)。LY303511は、mTORキナーゼ活性のマーカーである、mTORのS2481における血清刺激リン酸化も阻害した。
【0119】
阻害剤添加前に血清と共にインキュベートしたPASM細胞において、ラパマイシンは増殖に対してほとんど効果を示さなかったが、LY303511は濃度依存的様式で阻害した(図4C)。増殖(BrDu取り込み)に対するラパマイシンの効果は、LY303511を加えても、加えなくても、PASM細胞を無血清培地で24時間インキュベートした後にFBSを加えた場合に増強された(図4D)。PASM細胞増殖に対するLY303511の効果は、ラパマイシンと同様、血清非存在下で増強された。10μM LY303511およびラパマイシン、200ng/mlの増殖に対する効果は、10μM LY303511単独の効果に対して相加的であった(p<0.05、図4C、D)。Aktリン酸化はLY303511によって阻害された(図4B)が、ウォルトマニンは細胞増殖を阻害せず、このLY303511の効果はPI3Kとは独立であることを示している。
【0120】
ラパマイシンおよびLY303511の細胞周期に対する効果は、A549細胞よりもPASM細胞では目立たないものであった(図5A)。ラパマイシンまたは無血清培地とのインキュベーションはG1停止を引き起こした。これとは対照的に、LY303511はG1およびG2/M期の画分を増加させることにより、S期の細胞の比率を低下させた。ラパマイシンおよびLY303511のS期細胞減少に対する効果は相加的であった。しかし、LY303511に応答してのG1平滑筋細胞の増加は無視できる程度で、LY303511の効果は初代細胞よりも癌細胞で大きいことを示している。
【0121】
したがって、LY303511、またはLY303511とラパマイシンとの組み合わせを用いて、初代平滑筋細胞の増殖を阻害することができる。結果は、LY303511を用いてこれらの細胞の細胞周期停止を誘導しうることもさらに示している。
【0122】
実施例4
LY303511はG1およびG2期停止の組み合わせを引き起こすことにより細胞周期を阻害する
LY303511の細胞周期に対する効果を調べるために、A549細胞または肺動脈平滑筋細胞を血清含有培地中でサブコンフルエントになるまで培養し、媒体、10、もしくは100mcM LY303511単独、またはラパマイシン(200ng/ml)と共に24時間インキュベートした。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色した後、フローサイトメトリーにより細胞周期分析を行った。各実験条件について、細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞の比率を求めた。細胞をヨウ化プロピジウム染色の強度によってゲートし、細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞の比率を求めた。DNA合成に対する効果と一致して、100μM LY303511はS期の細胞の画分を有意に減少させた(図2C)。G2/M期の細胞の比率は変化しないままであり、細胞がG1およびG2/M期の両方で停止していることを示している。これとは対照的に、ラパマイシンはSおよびG2/M期両方の細胞の比率を低下させることにより、G1期細胞集団を増加させた。10μM LY303511およびラパマイシンのS期細胞減少に対する効果は、10μM LY303511単独の効果に対して相加的であった(P=0.056、図2C)。LY303511をラパマイシンに加えることにより、G2/M期細胞をさらに減少させることなく、S期細胞のより大きい減少が起こり、LY303511はラパマイシンによって用いられるものとは異なる別のメカニズムによって細胞周期を阻止することが示されている。
【0123】
結果は、LY303511が形質転換細胞および肺動脈平滑筋細胞の両方で細胞周期停止を引き起こすことを示している。ラパマイシンとは異なり、LY303511はG2/M期の細胞増加を引き起こすため、結果は、LY303511には別のmTORと独立な細胞標的(例えば、カゼインキナーゼ2)がありうることも示唆している。
【0124】
実施例5
LY303511はカゼインキナーゼ2(CK2)活性を阻害する
A549細胞を試験化合物なし、またはLY294002もしくはウォルトマニンと共に1時間インキュベートした後、L/Iを加えて1時間置き、マイクロアレイ遺伝子発現分析を実施した。細胞フィードバックメカニズムにより、薬理学的物質によって直接阻害されるmRNAコードタンパク質のレベルは、その物質存在下で増加することもある。PI3Kと独立なLY294002の別のキナーゼ標的を同定するために、LY294002によって増加するが、ウォルトマニンでは増加しないmRNAを、データセットからフィルタリングおよび統計学的解析により同定した。予想通り、mTOR mRNAのレベルはLY294002存在下で上昇し(1.7倍)、ウォルトマニンでは上昇しなかった。LY294002により増加する他のキナーゼのmRNAには、CK2α'をコードするものが含まれた(1.8倍;GenBankアクセッション番号M55268)。CK2はG1およびG2/M期両方の細胞周期移行を調節することができるため、LY294002およびLY303511のCK2活性に対する効果を評価した。
【0125】
カゼインキナーゼ2(CK2)活性(カウント/分)を、カゼインキナーゼ2活性キット(Upstate Biotechnologyカタログ番号17-132)を用い、50mclアッセイ緩衝液単独、または表示の濃度のDMSO(1%)、LY294002、LY303511、もしくはラパマイシンを加えたアッセイ緩衝液中、100ng組換えCK2、マグネシウム/ATPカクテル(10mcCi 32P-γ-ATP、0.675マイクロモルMgCl2、4.5nmole ATP)、および10マイクロモルのペプチド基質(アミノ酸配列RRRDDDSDDD(SEQ ID NO:1)を30℃で10分間インキュベートすることにより測定した。アッセイを40%トリクロロ酢酸20mclで停止し、25mclをP81ホスホセルロース紙片にスポットした後、0.75%リン酸で三回と、アセトンで一回洗浄した。基質ペプチドへの32Pの取り込みを、Packard 100 Tri-Carb液体シンチレーション計数器を用い、5mlシンチレーション液中のホスホセルロース紙片を計数することにより検出した。
【0126】
組換えCK2のLY303511またはLY294002とのインキュベーションは、CK2活性の濃度依存的阻害を引き起こした(図5B)。LY294002(10μM)のおよそのIC50はLY303511の10分の1であった。ウォルトマニンまたはラパマイシンのいずれも、CK2活性に影響を及ぼさなかった。CK2は無傷の細胞におけるG1およびG2進行を調節することが知られているため、CK2はLY303511の別のキナーゼ標的である。したがって、LY303511はカゼインキナーゼ2を10〜100mcMの間のIC50で阻害する。LY303511はPI3Kに比べて、P70 S6キナーゼおよびカゼインキナーゼ2を優先的に阻害する。
【0127】
LY303511およびLY294002がインビトロでCK2を阻害する能力は、これらの阻害剤が細胞増殖を阻止する、mTORおよびPI3Kと独立な第二のメカニズムを示唆している。これらの結果は、新生物障害の治療のために有用であると考えられる新規化合物群を確立する。
【0128】
LY303511およびLY294002がCK2活性を阻止するという知見は、この薬物群の新しいもう一つの標的を示唆しており、細胞増殖および細胞周期調節阻害のmTORと独立なメカニズムに一致するものである。CK2は細胞生存に必要とされる、広範に分布する高度に保存されたセリン/トレオニンキナーゼである。一般に、腫瘍細胞は高いレベルのCK2活性を示し、CK2過剰産生はp53欠損マウスにおいて腫瘍形成を誘導することができる。CK2はp53、BH3限定プロアポトーシスタンパク質(BID)、β-カテニン、またはFas関連因子(FAF1)などのタンパク質を直接リン酸化することにより、細胞をアポトーシスから保護する。加えて、CK2はG0/G1、G1/S、およびG2/Mチェックポイントを通じて進行を調節する。サイクリンAおよびBレベルのLY303511誘導性の低下、ならびにp21およびp27レベルの上昇(図3)は、CK2依存性の細胞周期阻害に一致している。増殖および細胞周期に対するLY303511の相加的効果は、S6KのmTORリン酸化を阻害することに加えて、LY303511はCK2などのS6K以外の経路を阻害することにより、ラパマイシンに対する耐性を克服しうることを示している。
【0129】
mTORおよびPI3Kはタンパク質のホスファチジルイノシトール3-および4-キナーゼファミリー(interproファミリーPI3_PI4_キナーゼ、登録番号IPR000403、インターネット上で利用可能なInterProデータベース参照)に含まれる。このファミリーは、PI3Kドメインに特異的なシグネチャー配列(signature sequence)を有する247のタンパク質を含む。LY294002はPI3KおよびmTORを阻害するが、他の類縁体(LY303511など)はファミリーにおけるキナーゼのサブセットを優先的に阻害することができた。mTORおよびPI3KにおけるPI3K触媒ドメイン間の構造的相同性を考慮して、LY303511はPI3K様ドメインを有する他のキナーゼも阻害することができた。これらには下記が含まれる:
【0130】
実施例6
リン酸阻害のIC50の測定
A549細胞において、被刺激細胞におけるS6Kリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、pS6Kホスホブロットの密度測定分析により約10mcMである。LY303511は、A549細胞を薬物に100mcMで接触させた場合でも、Aktのリン酸化を阻害しない。肺動脈平滑筋細胞において、S6Kリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、密度測定分析により約1mcMである。Aktリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、密度測定分析により10〜100mcMの間である(図8A〜D参照)。
【0131】
実施例7
前立腺癌インビトロモデルシステムに対するLY303511単独またはドキソルビシンとの組み合わせの効果
雄成体ヌードマウスに標準の飼料を与え、共通のケージで飼育する。治療群ごとに5匹のマウスで、合計100匹が含まれる。それぞれのマウスに、20%マトリゲルを含むPBS中、1×106細胞のPC-3(前立腺癌)細胞を皮下に接種する。腫瘍が約200mm3のサイズに達した後、媒体(0.2%DMSOまたは食塩水)または薬物を1日1回5日間投与し、腫瘍の体積を死亡または二酸化炭素吸入による安楽死まで2日ごとに33日間測定する。
【0132】
5匹のマウスを下記の各治療群に割り付ける。
【0133】
ドキソルビシンまたは媒体を第1日にのみ投与する。ラパマイシンまたはLY303511を、以前に記載されたとおり、第1〜5日に1日1回腹腔内投与する(Grunwald et al., Cancer Res 62:6141, 2002参照)。プロトコルは薬物治療開始後33日で終了する。安楽死または死亡後、腫瘍を摘出して組織分析、免疫組織化学、およびウェスタンブロッティングを行う。
【0134】
腫瘍増殖に対するLY303511の効果をインビボで評価した。ヒト前立腺腺癌細胞(PC-3細胞、ATCC No. CTL-1435)をインビトロで培養した後、回収し、移植した。それぞれのマウスに、20%Matrigel(登録商標)(マトリックス)中の1×106細胞を側腹部への皮下注射により移植した。マウスを10匹ずつの6群に分けた。腫瘍が約150mm3に達した時点で、治療プロトコルを開始し(第1日)、腫瘍体積(=ノギスによる長さ×幅2/2)を30日間、表示の時点で測定した。データは各治療群および時点について平均腫瘍体積+/-SEMで表した。データは図6Aおよび6Bの両方に示す。(*各時点の群間比較の一元配置分散分析(one way ANOVA)によりp<0.05)。図6Cは、任意の所与の時点における腫瘍体積が300mm3未満である確率を表す、カプラン-マイヤー分析である(群間比較のログランク(log-rank)検定によりp<0.001)。
【0135】
下記の治療を各群に割り付けた。
【0136】
LY303511はヌードマウスの前立腺腺癌細胞(PC-3)細胞の増殖を阻害した。ヌードマウスにおけるPC-3腫瘍増殖を減衰させるために、LY303511、10mg/kgを腹腔内投与した。増殖阻害の程度は治療期間に直接比例した。LY303511(LY3)の20日クールは、腫瘍増殖の阻害において、10日クールと同等に有効であった(図6C参照)。21日後、15%を越えるマウスが過剰な腫瘍増殖のために安楽死を必要とし、平均腫瘍体積測定値は、変動が非常に大きくなった。
【0137】
結果は、LY303511、またはLY303511とドキソルビシンとの組み合わせが腫瘍負荷量を低減することを示している(図6Aおよび6B)。したがって、LY303511、および/または別の化学療法剤と組み合わせたLY303511を用いて、癌などの増殖性障害を治療することができる。LY303511は腫瘍治療のためにラパマイシンと組み合わせることもできる。
【0138】
実施例8
免疫応答を抑制するためのLY303511の使用
多発性硬化症(MS)、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫ブドウ膜炎、移植片拒絶、慢性ベリリウム疾患、および移植片対宿主疾患を含む様々なヒト疾患の病因は、T細胞仲介性免疫応答であると思われる。本明細書において開示される化合物は、これらの障害を治療するために有用である。
【0139】
(表2)ヒト自己免疫障害の例
【0140】
本明細書において開示される化合物の自己免疫障害治療のための使用を試験するために用いることができる、いくつかの動物自己免疫モデルがある。表2に、ペプチド/MHC複合体を用いて治療することができるいくつかの例示的な免疫仲介性障害を挙げている。例えば、非肥満性糖尿病(NOD)マウスモデルは、マウスが加齢と共に糖尿病を発症する動物モデル系である。特定の化合物の有効性を試験するために、前糖尿病段階のマウス群(4週またはそれより若い)を、例えば、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせで治療する。次いで、糖尿病を発症したマウスの数、およびその割合を解析する。同様に、橋本マウスモデル系(Hashimoto's mouse model system)では、ワクチンの有効性を試験するために、症状を発症する前のマウス群を、例えば、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせで治療する。次いで、糖尿病を発症したマウスの数、およびその割合を解析する。
【0141】
NODモデルもしくは橋本モデル、または任意の他のモデル系において、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせは、未治療マウスに比べて疾患の進行を遅らせる、または疾患発症からの保護を提供する。
【0142】
免疫応答に対するLY303511の効果を示すために、Jackson(Jac)およびTaconic(Tac)からの野生型マウスを用いた。チオグリコール酸塩注射の3日後に腹腔マクロファージを採取した。細胞を2%FCS RPMI中で3日間インキュベートした。1μg/mlのLPS単独またはLY303511(1〜100μM)もしくはDMSOと共に24時間刺激した後、上清を回収した。細胞上清中のサイトカイン(インターロイキン(IL)-12p70、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6)を測定した。結果は、LY303511が6種のサイトカインすべての用量依存的減少を引き起こすことを示していた(図7A〜F参照)。100μM LY303511を加えることで、バックグラウンドレベルと同様のサイトカイン分泌を引き起こした。したがって、LY303511は明らかにサイトカイン発現を低減することができ、抗炎症効果を有する。
【0143】
実施例9
材料と方法
下記は前述の実施例で用いた材料と方法の概要を示す。この項はこの情報を一つの項に整理統合するためのものである。
【0144】
細胞培養
A549細胞(CCL185、American Type Culture Collection (ATCC); Manassas, VA)、ヒト肺胞II型上皮細胞様肺腺癌細胞株を、すべてBiofluids(Rockville, MD)からの10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、ペニシリン(100単位/ml)、およびストレプトマイシン(100μg/ml)を補足したHam's F-12K培地において、5%CO2、37℃で培養した。ヒト肺動脈平滑筋(PASM)細胞(Cambrex; Rockland, ME)を、5%FBS、インスリン、線維芽細胞成長因子、表皮成長因子、およびゲンタマイシン/アンホテリシンを製造業者の使用説明書に従って補足したSMG2培地において、5%CO2、37℃で培養した。
【0145】
薬理学的阻害剤および抗体
LY303511、ラパマイシン、LY294002、およびウォルトマニンはBiomol(Plymouth, PA)またはCalbiochem(San Diego, CA)から購入し、DMSOに溶解した。リン酸化S6K T389、リン酸化Akt S473、リン酸化mTOR S2481、リン酸化Rb S807/S811、S6K、およびAktに対する抗体はCell Signaling Technologies(Beverly, MA)から購入した。mTOR(RAFT1)、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD、サイクリンE、p27 Kip1、およびp21 Cip1に対するモノクローナル抗体はBD Transduction Laboratories(San Diego, CA)から購入した。
【0146】
タンパク質リン酸化の評価
A549細胞を、無血清培地中、表示の阻害剤を加えず、または加えて1時間インキュベートした後、LPS、100μg/ml(Sigma; St. Louis, MO)およびIFN-γ、100U/ml(Roche; Nutley, NJ)の混合物と共に30分間インキュベートした。PASM細胞を、無血清培地中、表示の阻害剤を加えず、または加えて24時間インキュベートした後、10%FBSと共に30分間インキュベートした。A549またはPASM細胞を冷PBSで1回洗浄し、溶解緩衝液(20mMトリスpH8.0、1%Nonidet P-40、1mM EDTA、5mMベンズアミジン、アプロチニン、10μg/ml、ロイペプチン、10μg/ml、トリプシンダイズ阻害剤、1mM PMSF、50mMフッ化ナトリウム、100μMオルトバナジン酸ナトリウム、ならびにカンタリジン、マイクロシスチンLRおよびブロモテトラミゾールを含む1:100 Sigmaホスファターゼ阻害剤セットI)中、氷上で15分間インキュベートした。凍結および解凍後、溶解物を16,000×gで30分間遠心分離し、次いでタンパク質測定し、-80℃で保存した。等しい量の全タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、表示の一次抗体で免疫ブロットした。膜を西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗ウサギIgGまたは抗マウスIgG抗体(Promega; Madison, WI)で処理し、高感度化学発光検出キット(SuperSignal West Pico, Pierce; Rockford, IL)を用いて展開し、X線フィルムに曝露して、これをEpson Expression 636スキャナーを用いて走査した。積算バンド密度をScion Image beta 3bソフトウェアを用いて定量した。
【0147】
細胞増殖の評価
細胞増殖、またはDNA合成を、インサイチュー5-ブロモ-2-デオキシ-ウリジン(BrDU)検出キットを製造業者の使用説明書通りに用いて推定した(Roche Diagnostics; Nutley, NJ)。簡単に言うと、A549またはPASM細胞(4,000個/ウェル)を96穴プレートに播種し、血清存在下で24時間培養した。10mM BrDUを、表示の阻害剤なし、または阻害剤と共に加えて、24時間置いた。いくつかの実験において、PASM細胞を無血清培地中でさらに24時間インキュベートした後、BrDUおよび阻害剤を加えた。細胞を固定し、BrDUをペルオキシダーゼ結合抗BrDU抗体を用いて検出した。阻害剤で処理した細胞で測定した吸光度データを、DMSO対照で処理したものに対して標準化した(対照に対する%)。
【0148】
細胞周期の評価
A549またはPASM細胞を80%コンフルエントになるまで培養した後、表示の阻害剤を加えて24時間置いた。細胞をゆっくりトリプシン処理することにより回収し、PBSで3回洗浄し、続いて0.5mlのVindalovのヨウ化プロピジウム(10mM Trizma塩基、10mM NaCl、0.05mg/mlヨウ化プロピジウム、0.7U/ml RNアーゼ、0.1%Nonidet P40)を加えて、少なくとも2時間置いた。細胞周期分析をFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences; San Diego, CA)で実施した。ヨウ化プロピジウムの励起のためにアルゴンレーザーからの488nmラインを用い、発光蛍光を585nmバンドパスフィルター(FL2)を用いて収集した。Cell Quest Softwareを用いてListmodeデータを直線スケール上で収集した。ヨウ化プロピジウムで染色された細胞をフローサイトメトリーで計数し、G1、S、またはG2/M期の細胞のパーセンテージを求めた。
【0149】
カゼインキナーゼ2(CK2)活性の評価
CK2活性(カウント/分)を、CK2活性キット(Upstate, Charlottesville, VA)を用い、50μlのアッセイ緩衝液(20mM MOPS、pH7.2、5mM EGTA、25mM β-グリセロールリン酸、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mMジチオスレイトール)単独、または1%DMSO中の表示の濃度のLY294002、LY303511、ウォルトマニンもしくはラパマイシンを加えた中で、100ngの組換えCK2、マグネシウム/ATPカクテル(10μCi 32P-γ-ATP、0.675μmol MgCl2、4.5nmol ATP)、および10μmolペプチド基質(アミノ酸配列RRRDDDSDDD)を30℃で10分間インキュベートすることにより評価した。アッセイを、20μlの40%トリクロロ酢酸で停止し、上清の試料(25μl)をP81ホスホセルロース紙片に吸着させ、これを次いで0.75%リン酸で3回と、アセトンで1回洗浄した。基質ペプチド中の32Pを、Packard 100 Tri-Carb液体シンチレーション計数器を用い、5mlシンチレーション液中のホスホセルロース紙片上で定量した。活性は10分間に取り込まれたリン酸のpmolで表す。阻害剤存在下で測定したCK2活性をDMSO対照の測定値(=対照の100%)で除した。
【0150】
開示された組成物および方法の原理を例示および説明してきたが、これらの組成物および方法は、そのような原理から逸脱することなく、配列および詳細を変更しうることが明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1Aは、LY294002およびLY303511の化学構造を示す図である。LY294002のモルホリノ酸素はLY303511ではアミンで置き換えられている。図1Bは、A549細胞を試験化合物なし、または100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは200nMウォルトマニンと共にインキュベートした結果を示すデジタル図である(または図1Cに示すデジタル図および図1Dに示す棒グラフとデジタル図)。細胞を0〜100μM LY303511と1時間反応させた後、L/Iを加えて30分間置き、細胞溶解物を調製した。タンパク質試料(70μg)をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、ウェスタンブロットによりリン酸化p70 S6キナーゼT389(pS6K)、リン酸化Akt S473(pAkt)、全p70 S6キナーゼ(S6K)、全Akt(Akt)、リン酸化mTOR S2481(pmTOR)、または全mTOR(mTOR)の免疫検出を行った。タンパク質標準の位置(kDa)を右側に示す。図1Dに示す棒グラフおよびデジタル図について、バンド密度の測定値もグラフに示した。pmTORの積算バンド密度を全mTORの値に対して標準化した。阻害剤で処置した細胞の標準化バンド密度をDMSO処置=1に対して表した(pmTOR/DMSO)。データは5つの実験からの値の平均である(±SEM)。*スチューデントt検定によりp<0.05。すべてのパネルは同じ実験からのデータを示し、4つの別々の実験の代表である。
【図2】図2Aは、LY303511がA549細胞において細胞増殖、DNA合成、および細胞周期進行を阻止することを示す棒グラフである。A549細胞(35mmプレートに80,000細胞)を、FBSを含む培地中で1日培養した後、0.1%DMSO、100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、200nMウォルトマニン、または100μM LY294002を加えて24時間培養した。次いで、細胞をトリプシンと共にインキュベートし、回収し、計数した。データは3つの実験を二つ組で行ったアッセイからの細胞/ウェル ×10-4の平均±SEMである。*スチューデントt検定、p<0.05。図2Bは、96穴プレート中のA549細胞(4,000個/ウェル)をFBSを含む培地中で24時間培養した後、10mM BrDUに加えて0〜200μM LY303511のみ、もしくはラパマイシン、200ng/mlと共に、またはラパマイシン単独(0〜200ng/ml)を加えて得た結果からの線グラフである。BrDUの取り込み(490/465での吸光度)をインサイチューELISAで製造業者の使用説明書に従って測定した(BrDU検出キット、Roche)。それぞれの実験について、阻害剤と共にインキュベートした細胞中のBrDUを0.2%DMSO対照で処置した細胞中の値のパーセンテージで表した(対照に対する%)。各実験の、対照=100%に対する平均吸光度測定値は0.9±0.3、0.8±0.3、および0.8±0.3であった。データは3つの実験を三つ組で行ったアッセイからのBrDU含有量の平均±SEMである。*スチューデントt検定によりp<0.05。図2Cは、LY303511がG1およびG2/M停止の組み合わせによって細胞周期を阻害することを示す棒グラフである。A549細胞をFBSを含む培地中で48時間培養した後、0〜100μM LY303511を単独またはラパマイシン、200ng/mlと共に24時間培養した。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムと共に2時間インキュベートした後、Becton-Dickson FACSCaliburを用いて計数した。データは細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞パーセンテージの平均±SEMである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp=0.056。
【図3】図3A〜3Bは、細胞周期阻害剤およびサイクリンのレベルに対するLY303511の効果を示す棒グラフおよびデジタル図である。A549細胞(100mmプレートに約1×106細胞)を48時間培養した後、0.1%DMSO、100μM LY303511、またはラパマイシン、200ng/mlを加えて0、12、または24時間培養した。表示の時間に細胞をホモジナイズし、-80℃で保存した。ウェスタンブロット分析のために、SDS-PAGEで分離した溶解物タンパク質の試料(70μg)をニトロセルロース膜に転写し、下記の抗体と反応させた:A.リン酸化S6K T389(pS6K)、p27 Kip1、p21 Cip1、リン酸化Rb S807/S811、またはB.サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD、およびサイクリンE。すべてのブロットは一つの実験からのものである。下記のデータ(相対密度)は、3つの実験のDMSO対照=1.0に対する、阻害剤で24時間処置した二つ組のプレートからの密度測定値の平均である。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05。
【図4】図4A〜4Dは、LY303511がS6KおよびAktの血清刺激リン酸化(図4Aおよび4B)、ならびにPASM細胞の増殖(図4Cおよび4D)を阻害することを示す棒グラフおよびデジタル図である。無血清培地中で24時間インキュベートした後、PASM細胞を試験物質なし、または100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは200nMウォルトマニンを加えて(図4A)、あるいは0〜100μM LY303511を加えて(図4B)1時間インキュベートし、続いて10%FBSを加えて30分間置き、細胞溶解物を調製した。等しい量のタンパク質(20μg/ゲル)をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、ウェスタンブロットによりリン酸化p70 S6キナーゼT389(pS6K)またはリン酸化Akt S473(pAkt)の免疫検出を行った。データは5つのうちの代表的な1実験からのものである。PASM細胞(4,000個/ウェル)を96穴プレート中で24時間培養した後、10%FBSを含む(図4C)または含まない(図4D)培地中で24時間インキュベートした。次いで、細胞を10%FBS、10μM BrDU、および0〜100μM LY303511のみ、またはラパマイシン、200もしくは400 ng/mlと共に含む新鮮培地中で24時間インキュベートした。BrDUの取り込みをインサイチューELISAで製造業者の使用説明書に従って測定した(BrDU検出キット、Roche)。それぞれの実験について、阻害剤と共にインキュベートした細胞のBrDU含有量を0.1%DMSO対照と共にインキュベートした細胞中の値に対して表した(対照に対する%)。異なる供与者からの細胞を用いた各実験の平均対照(=100%)吸光度は図4Cおよび図4Dでそれぞれ0.22±0.06および0.24±0.06(=100%)であった。データは3つの実験を六つ組で行ったアッセイからのBrDU値の平均±SEMである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp<0.05。
【図5】図5A〜5Bは、LY303511がG1およびG2/M停止の組み合わせによって細胞周期を阻害すること、ならびにLY303511がCK2活性を阻害することを示す棒グラフである。図5Aに示すデータについて、PASM細胞をFBSを含む培地中で48時間培養した後、0〜100μM LY303511を単独で、またはラパマイシン、400ng/mlと共に加えて24時間培養した。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムと共に2時間インキュベートした後、Becton-Dickson FACSCaliburを用いて計数した。データは3つの実験を二つ組で行ったアッセイからの細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞のパーセンテージの平均(±SEM)である。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp<0.05。図5Bは、LY303511またはLY294002がインビトロでCK2を阻害することを示す棒グラフである。製造業者(Upstate Biotechnologies)に従い、0または100ngの組換えCK2をCK2基質ペプチドおよび32P-γ-ATPと共に10分間、1%DMSOまたは表示の阻害剤を加えてインキュベートした。データは阻害剤を加えた試料の対照である(平均±SEM)0.2±0.03pmolリン酸/100ngタンパク質/10分)に対するパーセンテージで表した値の平均である。データは3つの実験を二つ組で行ったものである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05。
【図6】図6A〜6Bは、LY303511がヌードマウスの前立腺癌細胞(PC-3)細胞の増殖を阻害することを示す棒グラフである。ヌードマウスのPC-3腫瘍増殖を減衰させるために、LY303511、lOmg/kg/dを腹腔内投与した。増殖阻害の程度はLY303511による治療期間に比例していた。20日クールのLY303511(LY3)は腫瘍増殖阻害において10日クールと同程度に有効であった。図6Cは、カプラン-マイヤー(Kaplan-Mieir)生存分析のグラフである。この分析は、腫瘍が300mm3に達した時に事象が起こるとの仮定を含む。y軸は腫瘍サイズが300mm3未満である確率を示す。第4群は早期に事象が起こり、これはおそらくアウトライヤーである(例えば、動物に薬物の全用量が投与されていなかった)ことに留意されるべきである。
【図7】図7A〜Fは、LY303511が初代マウス腹腔マクロファージまたはA549細胞においてリポ多糖(LPS)誘導性サイトカイン産生またはSTAT1活性を阻害することを示す棒グラフである。Jackson(Jac)およびTaconic(Tac)由来の野生型マウスを用いた。腹腔マクロファージをチオグリコール酸注入の3日後に回収した。細胞を2%FCS RPMI中で3日間インキュベートした。LPS 1μg/ml単独またはLY303511(1〜100μM)もしくはDMSOと共に24時間刺激した後、上清を回収した。サイトカイン(インターロイキン(IL)-12p70、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、MCP-1、IL-10、IL-6)を細胞上清中で測定した。結果より、LY303511が6つのサイトカインすべての用量依存的減少を引き起こすことが判明した(図7A〜F参照)。100μM LY303511を加えることにより、バックグラウンドレベルと同程度のサイトカイン分泌を引き起こした。したがって、LY303511は明らかにサイトカイン発現を低減することができ、抗炎症作用を有する。
【図8】図8A〜Bは、LY303511によるLPS/IFN-γ誘導性STAT1活性の阻害を示す棒グラフである。A549細胞に、STAT1により駆動されるホタルルシフェラーゼを発現するレポーターベクター(GAS-luc、Clontech)を一過性に形質移入し、100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/mlの存在下または非存在下、もしくは両方の存在下で1時間インキュベートした後、LPS/IFN-γを加えて6時間置いた。STAT1活性(ルシフェラーゼ活性)を細胞溶解物中で測定した(RLU)。示したデータは三つ組の試料±SEMで、二つの独立した実験の代表である。図4Aおよび4Bに示すとおり、LY303511は二つの炎症メディエーター、LPS/IFN-γによるSTAT1活性化を阻害した。
【技術分野】
【0001】
分野
増殖性障害を治療する、および免疫系の応答を抑制する方法および薬学的組成物であって、特定の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を被検者に投与する段階を含む方法および薬学的組成物が本明細書において開示される。
【0002】
優先権
本出願は2004年12月9日提出の米国特許仮出願第60/528,340号の恩典を主張し、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)はホスホイノシチドを3-ヒドロキシルでリン酸化する。これらの酵素は二次メッセンジャー(例えばPIP3)を生成し、チロシンキナーゼ受容体およびGタンパク質結合受容体の下流のトランスデューサーとして作用する。PI3Kはアポトーシス、増殖、細胞運動、および接着を含む多くの基本的プロセスに関与している。(Walker et al., Molec. Cell 6:909-919, 2000参照)。したがって、いくつかのPI3K阻害剤が開発された。
【0004】
哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)(mTOR)はFKBP-12標的-1(RAFT-1)およびFKBP-12ラパマイシン関連タンパク質としても知られている289kDaのセリントレオニンキナーゼである。mTORにはセリン-トレオニンキナーゼドメインを含むいくつかの保存ドメインがある。T細胞モデルにより、IL-2および他の因子はmTORの活性化を促進し、続いて新しいタンパク質合成を誘導することにより細胞増殖を促進することが示唆される。mTORはP70 S6キナーゼの活性化に寄与し、これは次いでタンパク質合成およびmRNA翻訳を駆動するポリソームを活性化するのに必要な40Sリボソームタンパク質、S6のリン酸化を触媒することが知られている。加えて、mTORは真核生物の開始因子4Eを活性化する。したがって、mTORはタンパク質合成および細胞周期の調節において役割を果たしている。mTORは細胞状態を感知し、G1-S期を通しての細胞進行を調節することにより、チェックポイントとして働くと考えられる。mTOR活性を調節するために、mTORの上流および下流の様々な公知のエフェクター経路が用いられる。したがって、mTORに結合することによりmTORを不活化する化合物を用いて、細胞周期機能を調節し、それにより細胞増殖を調節することができる。mTORはリンパ球において特に機能するため、mTORの阻害を用いてTおよびB細胞のシグナリングを変更することもできる(Kirken and Want, Transplantation Proc. 35:227S-230S, 2003参照)。
【0005】
公知のmTOR阻害剤にはLY294002(2-(4-モルホリニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン)およびラパマイシンが含まれる。ラパマイシンは免疫抑制、化学療法プロトコル、および血管形成術後の冠動脈再狭窄の予防において用いられる。LY294002はプロテインキナーゼBのPI3K依存性のリン酸化を阻止する。ラパマイシンは高コレステロール血症、薬物誘導性間質性肺炎、腎毒性、高血圧、および日和見感染症への素因増大を含む重大な有害作用を有する。
【0006】
望ましくない細胞増殖は多くの疾患過程の一成分である。例えば、望ましくない細胞増殖は良性または悪性いずれかの腫瘍形成を引き起こしうる。米国癌協会(American Cancer Society)によれば、癌は異常な細胞の未制御の増殖および拡散によって特徴づけられる疾患群である。拡散が制御されなければ、死に至ることもある。癌は一つの状態として言及されることが多いが、実際には100を越える異なる疾患からなる。これらの疾患は異常な細胞の未制御の増殖および拡散によって特徴づけられる。癌は多くの部位で発生し、その原発巣である臓器によって挙動が異なることもある。異なる型の癌の治療において用いられる薬剤について、研究が続けられている。
【0007】
望ましくない細胞増殖は再狭窄、すなわち矯正手術後の狭窄(stenosis)または動脈狭窄(artery stricture)の再発の一成分でもある。再狭窄は冠動脈バイパス形成術(CAB)、動脈内膜切除術、心臓移植、および特に血管形成術、粥腫切除術、レーザー切除またはステント術後に起こる。再狭窄は管腔開放術中の血管壁損傷の結果である。一部の患者では、損傷が、血管形成術によって外傷を受けた領域で「過形成」と呼ばれる平滑筋細胞増殖によって特徴づけられる修復反応を開始する。この平滑筋細胞の増殖によって、数週間から数ヶ月以内に、血管形成術によって開放された管腔が再び狭くなり、それによって血管形成術の繰り返し、または再狭窄を軽減するための他の方法が必要となる。
【0008】
免疫応答において、TおよびまたはB細胞は免疫系により「外来性」と見なされる刺激に応答して増殖する。一般に免疫応答は有益であるが、免疫応答の低下が望まれる場合もある。例えば、自己免疫障害において、免疫系の細胞は自己の成分を誤って外来性と認識し、自己成分に応答して増殖する。炎症応答は、移植臓器に対する免疫応答が有害であるのと同様に、有害でありうる。
【0009】
望ましくない細胞増殖を低減しうる薬剤の開発が明らかに必要とされている。これらの薬剤には、免疫抑制を誘導する薬剤、化学療法剤、および再狭窄治療用の薬剤が含まれる。
【発明の開示】
【0010】
概要
被検者の免疫応答を抑制する方法、および被検者の増殖性障害を治療する方法が本明細書において開示される。これらの方法は、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【0011】
免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法も、本明細書において開示される。この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化と比べて、カゼインキナーゼ2および/またはP70 S6キナーゼのリン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択する段階を含む。
【0012】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンまたはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物もさらに開示される。
【0013】
いくつかの例の詳細な説明
理解を容易にするために、本明細書において用いられる下記の用語をより詳細に説明する。
【0014】
化学用語
「アルキル」とは、炭素および水素だけを含む環状、分枝、または直鎖アルキル基を意味し、特に記載がない限り、典型的には1から12個の炭素原子を含む。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ピバリル、ヘプチル、アダマンチル、およびシクロペンチルなどの基によってさらに例示される。アルキル基は無置換でもよく、または下記の1つもしくは複数の置換基で置換されていてもよい。
【0015】
「置換アルキル」とは、アルキルの1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、シクロアルキル、置換シクロアルキル、およびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のアルキルを意味する。例示的な置換アルキルには、ベンジル、トリクロロメチルなどが含まれる。
【0016】
「ヘテロアルキル」とは、アルキルの1つまたは複数の水素または炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、前述のアルキルを意味する。ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシまたはアミノで置換されたアルキルは「ヘテロアルキル」に含まれる。例示的なヘテロアルキルには、シアノ、ベンゾイル、2-ピリジル、2-フリルなどが含まれる。
【0017】
「シクロアルキル」とは、単環または複数の縮合環を有する、飽和または不飽和環状非芳香族炭化水素基を意味する。例示的なシクロアルキルには、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロオクチルなどが含まれる。
【0018】
「置換シクロアルキル」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アミノおよびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のシクロアルキルを意味する。
【0019】
「ヘテロシクロアルキル」とは、環状基の1つまたは複数の炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、前述のシクロアルキル基を意味する。例示的なヘテロシクロアルキルには、例えば、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジニル、ピロリンジニル、オキサゾリニルなどが含まれる。
【0020】
「置換ヘテロシクロアルキル」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アミノおよびその組み合わせなどの別の基で置き換わっている、前述のヘテロシクロアルキル基を意味する。
【0021】
「アリール」とは、単一の芳香環でもよく、または一緒に縮合された、共有結合で連結された、またはメチレンもしくはエチレン部分などの共通の基に連結された複数の芳香環でもよい、芳香族置換基を意味する。共通の連結基はベンゾフェノンの場合のカルボニルまたはジフェニルエーテルの場合の酸素またはジフェニルアミンの窒素であってもよい。芳香環には、特に、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミンおよびベンゾフェノンが含まれうる。特定の例において、アリールは1から20個の間の炭素原子を有する。
【0022】
「置換アリール」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ハロゲン、アルキルハロ、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、およびチオなどの1つまたは複数の官能基で置き換わっている、前述のアリール基を意味する。例示的な置換アリールには、クロロフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,6-ジイソプロピルフェニルなどが含まれる。
【0023】
「ヘテロアリール」とは、芳香環の1つまたは複数の炭素原子がN、O、P、BまたはSなどのヘテロ原子で置き換わっている、芳香環を意味する。ヘテロアリールとは、単環式芳香環、多環式芳香環、または1つもしくは複数の非芳香環に結合された1つもしくは複数の芳香環であってもよい構造を意味する。例示的なヘテロアリールには、例えば、チオフェン、ピリジン、イソキサゾール、フタリドイミド、ピラゾール、インドール、フランなどが含まれる。
【0024】
「置換ヘテロアリール」とは、1つまたは複数の水素または炭素原子がアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、ハロゲン、アルキルハロ、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、およびチオなどの1つまたは複数の官能基で置き換わっている、前述のヘテロアリール基を意味する。
【0025】
「アルコキシ」とは、-OZ基を意味し、ここでZはアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、およびその組み合わせから選択される。例示的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ、およびt-ブトキシが含まれる。関連する用語は「アリールオキシ」で、ここでZはアリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、およびその組み合わせから選択される。例示的なアリールオキシ基には、フェノキシ、置換フェノキシ、2-ピリジノキシ、8-キノリノキシなどが含まれる。
【0026】
「アミノ」とは、-NZ1Z2基を意味し、ここでZ1およびZ2はそれぞれ、水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびその組み合わせから独立に選択される。
【0027】
「チオ」とは、-SZ1Z2基を意味し、ここでZ1およびZ2はそれぞれ水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびその組み合わせから独立に選択される。
【0028】
「ハロゲン」とは、フルオロ、ブロモ、クロロおよびヨード置換基を意味する。
【0029】
本発明において開示される化合物の「薬学的に許容される塩」には、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛などのカチオンから、ならびにアンモニア、エチレンジアミン、N-メチル-グルタミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、および水酸化テトラメチルアンモニウムなどの塩基から形成されるものが含まれる。これらの塩は標準的方法、例えば、遊離酸を適当な有機または無機塩基と反応させることにより調製することができる。本明細書に記載のいかなる化合物も、その薬学的に許容される塩として投与することができる。「薬学的に許容される塩」は遊離酸、塩基、および両性イオンの形も含む。適当な薬学的に許容される塩の記載は、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002)に見いだすことができる。
【0030】
「薬剤(pharmaceutical agent)」または「薬物(drug)」とは、被検者に適切に投与すれば、所望の治療または予防効果を誘導することができる化合物または組成物を意味する。
【0031】
その他の用語
「AKT」とは、成長因子、サイトカイン、および発癌性Rasに応答して細胞生存シグナルを調節することが明らかにされている、セリン/トレオニンタンパク質キナーゼを意味する。AKTはホスホイノシチド-3-OHキナーゼ(PI3K)経路を介して、または他の上流キナーゼにより活性化する。AKTは、Bad、プロカスパーゼ9、およびフォークヘッド転写因子ファミリーのメンバーを含む、アポトーシスに関与するタンパク質を直接リン酸化し、不活化することにより、細胞死経路を阻害する。AKTはタンパク質キナーゼB(PKB、GenBankアクセッション番号NP_005154)としても公知である。
【0032】
「動物」とは、生きている多細胞脊椎生物で、例えば、哺乳類および鳥類を含む範疇である。「哺乳動物」は、ヒトおよびヒト以外の哺乳類の両方を含む。「被検者」は、ヒトおよび動物被検者の両方を含む。
【0033】
「抗増殖剤(anti-proliferative agent)」とは、増殖を低減する、または細胞死を引き起こす物質を意味する。抗増殖剤には、化学療法剤が含まれる。
【0034】
「アテローム性動脈硬化症」とは、経時的に進行性の血管の狭窄および硬化を意味する。アテローム性動脈硬化症は、大きいサイズおよび中程度のサイズの動脈の内膜および中膜内に、コレステロール、リポイド材料、および脂肪貪食細胞を含む帯黄色斑(アテローム)の沈着物が形成される、動脈硬化症の一般的な形態である。
【0035】
「自己免疫疾患」とは、免疫系が正常な宿主の一部である抗原(すなわち、自己抗原)に対して免疫応答(例えば、B細胞またはT細胞応答)を生じ、組織に傷害をきたす疾患である。自己抗原は宿主細胞由来でもよく、または通常粘膜表面にコロニー形成する微生物(片利共生生物として知られている)などの片利共生生物由来であってもよい。
【0036】
哺乳類が罹患する例示的な自己免疫疾患には、関節リウマチ、若年性少数関節炎、コラーゲン誘発関節炎、アジュバント誘発関節炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性結腸炎)、自己免疫性胃萎縮症、尋常性天疱瘡、乾癬、白斑、1型糖尿病、非肥満性糖尿病、重症筋無力症、グレーブス病、橋本甲状腺炎、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、アジソン病、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血などが含まれる。
【0037】
「化学療法」とは、急速に増加しつつある細胞を死滅させる、または細胞の複製を遅らせるための、「化学療法剤」と呼ばれる化合物の一つまたは組み合わせの投与を意味する。化学療法剤には、5-フルオロウラシル(5-FU)、アザチオプリン、シクロホスファミド、代謝拮抗物質(フルダラビンなど)、抗腫瘍薬(エトポシド、ドキソルビシン、メトトレキサート、およびビンクリスチンなど)、カルボプラチン、シスプラチン、およびタキソールなどのタキサンを含むが、それらに限定されるわけではない、当業者には公知のものが含まれる。ラパマイシンも化学療法剤として用いられている。
【0038】
「移植片対宿主疾患」とは、供与者の骨髄移植片中のT細胞が攻勢に出て宿主の組織を攻撃する、骨髄移植の合併症を意味する。移植片対宿主疾患(GVHD)は、血液骨髄供与者が患者と血縁関係にない症例、または供与者が患者の血縁者であるが完全にマッチしていない場合に最もよく見られる。GVHDには二つの型がある:白血球が増加傾向にある移植直後に起こる、急性GVHDと呼ばれる早期型、および慢性GVHDと呼ばれる後期型である。
【0039】
急性GVHDは典型的には移植後3ヶ月以内に起こり、皮膚、肝臓、胃、および/または腸に影響をおよぼす。最も早く現れる徴候は通常は手、足および顔の発疹で、これは拡散することもあり、日焼けのように見える。急性GVHDに伴う重度の問題には、皮膚の水疱、痙攣を伴う水様または血性下痢、および肝臓への波及を反映しての黄疸(皮膚および眼の黄変)が含まれる。
【0040】
慢性GVHDは典型的には移植の2〜3ヶ月後に起こり、狼蒼および強皮症などの自己免疫障害と同様の症状を引き起こす。患者は隆起し、ワニの皮膚のような、乾燥してかゆい発疹を生ずる。脱毛、皮膚の発汗減少、および毛髪の早期白髪化が見られることもある。口渇は一般的症状である。そのため食物への過敏性が起こることもあり、香辛料や酸味のきいた食物は刺激を与えることもある。眼も乾燥することがあり、刺激を感じ、赤くなる。いかなる臓器も慢性GVHDの影響を受けうる。
【0041】
「免疫応答」とは、B細胞、T細胞、マクロファージまたは多核白血球などの免疫系の細胞の、刺激に対する応答を意味する。免疫応答には、宿主防御応答に関与する体の任意の細胞、例えば、サイトカインを分泌する上皮細胞が含まれうる。サイトカインには、インターロイキン(IL-12(Quesniaux, Research Immunology 143: 385-400, 1992参照)、腫瘍壊死因子(TNF)-α(Aggarwal and Vilcek (eds) "Tumor necrosis factor: structure, function, and mechanism of action", Marcel Dekker Inc. 1992参照)、インターフェロン(IFN)-γ(Farrar and Schreiber, Ann. Rev. of Immunol. 11: 571-611, 1993参照)、単球走化性タンパク質(MCP)-1(Yoshimura and Leonard Cytokines 4: 131-52, 1992参照)、IL-10(Zlotnik and Moore, Cytokines 3: 366-71, 1991参照)、およびIL-6(Van Snick, Ann. Rev. Immunol. 8: 253-78, 1990参照)が含まれる。それらのタンパク質配列、核酸の配列およびそれらの機能の記載を含むサイトカインの記載は、COPE: Cytokines Online Pathfinder Encyclopaediaウェブサイトなどのインターネット上で見ることができる。免疫応答(例えば、先天性、適応性)には、ウイルスまたは細菌による感染に対する応答、先天性免疫応答、自己抗原に対する応答、または炎症が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0042】
「免疫抑制」とは、細胞および/または液性免疫の非特異的不応答を意味する。免疫抑制とは、免疫応答の防止または減弱を意味し、Tおよび/またはB細胞の数が減少した場合、またはそれらの反応性、増殖もしくは分化が抑制された場合に起こる。免疫抑制は、Treg細胞などの特異的もしくは非特異的T細胞の活性化から、放射線照射に応答してのサイトカインシグナリングから、またはTおよびB細胞に対して一般化免疫抑制効果を有する薬物により生じることがある。
【0043】
「免疫抑制剤」とは、炎症反応などの免疫応答を低下させることができる、化合物、小分子、ステロイド、核酸分子、または他の生物学的物質などの分子を意味する。免疫抑制剤には、関節炎を治療する際に用いる薬剤(抗関節炎薬)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。免疫抑制剤の特定の非限定例は非ステロイド性抗炎症剤、シクロスポリンA、FK506、および抗CD4である。さらなる例において、薬剤は、Kineret(登録商標)(アナキンラ)、Enbrel(登録商標)(エタネルセプト)、またはRemicade(登録商標)(インフリキシマブ)などの生物学的応答修飾剤、Arava(登録商標)(レフルノミド)などの疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、Celebrex(登録商標)(セレコキシブ)およびVioxx(登録商標)(ロフェコキシブ)といった、特にシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、またはHyalgan(登録商標)(ヒアルロナン)およびSynvisc(登録商標)(ヒランG-F20)などの他の製品である。ラパマイシンは免疫抑制剤の追加の例である。
【0044】
「炎症」または「炎症プロセス」とは、浸透性および血流量増大、血漿タンパク質を含む体液の浸出、および白血球の炎症巣への遊走を伴う、細動脈、毛細管および細静脈の拡張を含む、一連の複雑な事象を意味する。炎症は、白血球数、多核好中球(PMN)数、ルミノール高感度化学発光などのPMN活性化の程度の尺度、またはサイトカインの存在量の尺度などの、当技術分野において公知の多くの方法によって評価することができる。
【0045】
疾患を「阻害する」または「治療する」とは、例えば、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、または移植組織もしくは臓器の拒絶などの疾患のリスクが高い被検者において、疾患または状態の完全な発生を阻害することを意味する。「治療」とは、疾患または病的状態が発生し始めた後にその徴候または症状を改善する、治療的介入を意味する。本明細書において用いられる、疾患または病的状態に関して「改善する」という用語は、治療のいかなる観察可能な有益な効果をも意味する。有益な効果は、例えば、感受性の高い被検者における疾患の臨床症状の発現遅延、疾患の臨床症状の一部もしくはすべての重症度の低下、疾患の進行遅延、疾患の再発数の減少、被検者の全般的健康もしくは福祉の改善、または特定の疾患に特異的な当技術分野において周知の他のパラメーターによって証明することができる。
【0046】
「キナーゼ」とは、一つの分子から別の分子へのリン酸基の転移を触媒する酵素を意味する。「セリントレオニンキナーゼ」は、リン酸基をポリペプチド中のセリンおよび/またはトレオニンのヒドロキシル基に転移させる。「P70 S6キナーゼ」は、リボソームの40Sサブユニット(小サブユニット)のS6タンパク質をリン酸化するキナーゼである。GenBankアクセッション番号JE0377は、ヒトP70 S6キナーゼの例示的なアミノ酸配列を示す。「ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ」とは、イノシトール脂質をイノシトール環のD-3位でリン酸化して3-ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール3-リン酸[PtdIns(3)P]、ホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸[PtdIns(3,4)P2]およびホスファチジルイノシトール 3,4,5-三リン酸[Ptdlns(3,4,5)P3]を生じる酵素を意味する。GenBankアクセッション番号AAB53966は、ヒトホスファチジルイノシトール3-キナーゼの触媒サブユニットの例示的なアミノ酸配列を示す。「カゼインキナーゼ2」(GenBankアクセッション番号NP_001887)とは、カゼインなどの酸性タンパク質を優先的にリン酸化する酵素を意味する。GenBankアクセッション番号NP_001887は、カゼインキナーゼ2の例示的なアミノ酸配列を示す。カゼインキナーゼ2の基質の例には、p53(GenBankアクセッション番号CAA25652)、BH3相互作用ドメインデスアゴニスト(death agonist)(Bid;別の転写物のアクセッション番号NP_001187.1、NP_932070.1、NP_932071.1)、DNAトポイソメラーゼII(NP_001058)が含まれる。キナーゼの「優先的」阻害とは、P70 S6キナーゼなどの一つのキナーゼの活性を、PI3Kなどの第二のキナーゼの活性を阻害するよりも大幅に低下させることを意味する。
【0047】
「白血球(leukocyte)」とは、「白血球(white cell)」とも呼ばれ、感染性生物および異物に対する体の防御に関与する血中の細胞を意味する。白血球は骨髄で産生される。白血球には5つの主要な型があり、次の二つの主要な群に分けられる:多核白血球(好中球、好酸球、好塩基球)および単核白血球(単球およびリンパ球)。
【0048】
「マクロファージ」とは、多くの恒常性、免疫、および炎症プロセスを担う広範に分布する単核食細胞群を意味する。これらの細胞は広範な組織に分布することから、白血球遊走前の異物に対する即時防御を提供するのに非常に適している。炎症性マクロファージは様々な浸出液中に存在し、ペルオキシダーゼ活性およびサイトカイン発現などの様々な特異的マーカーによって特徴づけることができ、同様の性質を有する単球由来である。「活性化マクロファージ」とは、特に高い機能的活性を有するマクロファージを意味する。分化の過程はマクロファージの「活性化」によって異なり、この過程を通して分化したマクロファージは特定の機能を行う高い能力を獲得する。一般に、非活性化マクロファージは免疫学的に比較的静止状態で、酸素消費量が低く、主要組織適合複合体(MHC)クラスII遺伝子発現のレベルが低く、サイトカイン分泌がほとんど、またはまったくない。いったん活性化されると、マクロファージは増殖不可能で、酸素消費量が高まる。加えて、活性化マクロファージは寄生生物を死滅させ、かつ/または腫瘍細胞を溶解することができ、TNF-α、IL-1およびIL-6などのサイトカインを分泌する。
【0049】
「哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)(mTOR)」とは、S.セレビジエ(S. cerevisiae)Tor1およびTor2タンパク質と約45%の相同性を有する約289kDaのポリペプチドを意味する。ヒト、ラット、およびマウスmTORタンパク質は、アミノ酸レベルでは約95%の相同性を有する。mTORタンパク質はセリントレオニンタンパク質キナーゼである(Hunter et al., Cell 83:1-4, 1995; Hoekstra, Curr. Opin. Genet. Dev. 7:170-175, 1997参照)。mTOR(GenBankアクセッション番号L30475参照)は、P70 S6キナーゼをトレオニン389位でリン酸化し、真核生物翻訳開始因子の結合タンパク質をリン酸化し、活性化する。
【0050】
「新形成」とは、異常で未制御の細胞増殖の過程を意味する。新形成の生成物は新生物(腫瘍)で、これは過剰な細胞分裂による組織の異常な増殖である。転移しない腫瘍は「良性」と呼ばれる。周囲の組織に侵襲する、および/または転移することができる腫瘍は「悪性」と呼ばれる。新形成は増殖性障害の一例である。
【0051】
血液腫瘍の例には、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、および赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ性白血病など)、真性多血症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性および高度の型)、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、H鎖病、脊髄形成異常症候群、および脊髄形成異常症を含む白血病が含まれる。
【0052】
肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、膀胱癌、ならびにCNS腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経鞘腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫)が含まれる。
【0053】
「非経口」投与とは、腸の外への投与、例えば、消化管を介さない投与を意味する。一般に、非経口製剤は摂食以外の任意の可能な様式を通して投与されるものである。この用語は特に、静脈内、くも膜下腔内、筋肉内、腹腔内、関節内、または皮下投与のいずれにかかわらず注射、ならびに例えば鼻内、皮内、および局所適当を含む様々な表面への適用を意味する。
【0054】
「リン酸化」とは、有機分子(タンパク質または脂質など)のリン酸誘導体の生成を意味する。細胞内では、これはアデノシン三リン酸(ATP)からリン酸基を転移することにより達成することができる。
【0055】
「増殖性障害」は新生物および再狭窄を含む。
【0056】
「再狭窄」とは、心臓弁の矯正手術後の狭窄または過去の狭窄の除去もしくは減少後の脈管構造(冠動脈など)の狭窄の再発を意味する。いくつかの例において、再狭窄はステント設置後または血管形成術後に起こる。
【0057】
「配列相同性」とは、アミノ酸配列間の類似性を意味し、配列間の類似性で表されるか、または配列相同性と呼ばれる。配列相同性は同一性(または類似性もしくは相同性)のパーセンテージで評価することが多い。パーセンテージが高いほど二つの配列の類似性が高い。ポリペプチドの相同体または変異体は標準法を用いてアラインさせた場合、比較的高度の配列相同性を有することになる。
【0058】
比較のための配列のアラインメント法は当技術分野において公知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが下記に記載されている:Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene 73:237, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS 5:151, 1989; Corpet et al., Nucleic Acids Research 16:10881, 1988;およびPearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988。Altschul et al., Nature Genet., 6:119, 1994は配列アラインメント法および相同性計算の詳細な考察を示している。
【0059】
配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと関連して用いるための、NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403, 1990)は、National Center for Biotechnology Information(NCBI, Bethesda, MD)を含むいくつかの供給元およびインターネットから入手可能である。このプログラムを用いてどのように配列相同性を求めるかの説明は、インターネットのNCBIウェブサイト上で見ることができる。
【0060】
ポリペプチドの「相同体」および[変異体」とは、デフォルトのパラメーターに設定したNCBI Blast 2.0、gapped blastpを用い、ポリペプチドのアミノ酸配列との全長アラインメントを通して計数して、少なくとも75%、例えば少なくとも80%、または少なくとも90%の配列相同性を有することにより特徴づけられるポリペプチドを意味する。約30アミノ酸よりも大きいアミノ酸配列の比較のために、デフォルトのパラメーター(gap existence cost=11、per residue gap cost=1)に設定したデフォルトBLOSUM62マトリックスを用いたBlast 2配列機能を用いる。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアラインする場合、アラインメントはデフォルトののパラメーター(open gap penalty=9、extension gap penalty=1)に設定したPAM30マトリックスを用いたBlast 2配列機能を用いて実施すべきである。基準配列との類似性がさらに大きいタンパク質は、この方法で評価すると、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性などの高いパーセンテージの同一性を示すことになる。全体よりも短い配列の配列相同性を比較する場合、相同体および変異体は典型的には10〜20アミノ酸の短いウィンドウでは少なくとも80%の配列相同性を有することになり、基準配列に対するそれらの類似性に応じて少なくとも85%または少なくとも90%もしくは95%の配列相同性を有することもある。そのような短いウィンドウでの配列相同性を求める方法は、インターネットのNCBIウェブサイトで入手可能である。当業者であれば、これらの配列相同性の範囲は指標のためにのみ提供され、提供された範囲外の非常に重要な相同体を得ることもまったく可能であることを理解すると思われる。
【0061】
「移植」とは、ある被検者から別の被検者に、ある被検者から同じ被検者の別の部分に、またはある被検者から同じ被検者の同じ部分に、組織、細胞、もしくは臓器、またはその一部を移すことを意味する。供与者および受容者は同じ遺伝子型であってもなくてもよい。「同種移植」または「異種移植」とは、個人が二人の配列において同一でない1つまたは複数の遺伝子座に遺伝子を有する、ある個人から別の個人への移植を意味する。同種移植は、遺伝的に異なる同種の二人の個人間で、または二つの異なる種の個人間で行うことができる。「自家移植」とは、同じ個人のある部位から別の部位への、組織、細胞、もしくはその一部の移植、または遺伝的に同一の、ある個人から別の個人への、組織もしくはその一部の移植を意味する。
【0062】
前述の用語の説明は、読者の助けとするために提供されるにすぎず、当業者によって理解されているよりも狭い範囲を有する、または添付の特許請求の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【0063】
単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、複数の指示物を含む。同様に、「または(or)」なる用語は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、「および(and)」を含むと意図される。「含む(comprises)」なる用語は「含む(includes)」を示す。化合物に対して示すすべての分子量または分子質量の値は近似値で、説明のために示していることがさらに理解されるべきである。本明細書に記載のものと類似または等価の方法および材料を、本開示の実施または試験において用いることができるが、適当な方法および材料を以下に記載する。加えて、材料、方法、および例は例示的なものにすぎず、限定的であることを意図するものではない。すべての化合物は、(+)および(-)両方の立体異性体(ならびに(+)または(-)いずれかの立体異性体)、ならびにそのいかなる互変異性体も含む。略語の「mc」は「マイクロ」を示し、したがって「mcM」はマイクロモル濃度を示し、「mcL」はマイクロリットルを示す。
【0064】
使用する化合物
本明細書において開示される方法および組成物において有用な一連の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の例は、下記の代表的構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物である:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、またはチオから独立に選択される。R1および/またはR2が存在する場合、それぞれの環構造上に1つまたは複数のR1および/またはR2置換基があってもよい。
【0065】
本明細書において開示される方法および組成物において有用な一連の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の別の例は、下記の代表的構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物である:
式中、R1、R2およびR3それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される)。R1および/またはR2が存在する場合、それぞれの環構造上に1つまたは複数のR1および/またはR2置換基があってもよい。
【0066】
特定の4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の実例は、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンである:
【0067】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンの2塩酸塩はSigma-Aldrich Corporationから「LY303511」の名称で市販されている。本明細書に記載の2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物はVlahos et al., J. Biol. Chem. 269:5241-5248, 1994に記載の方法に基づいて合成してもよい。2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンの他の塩の形は、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002)に記載のものなどの公知の技術に従い容易に合成可能である。
【0068】
本明細書において開示される方法は、本明細書に記載の1つもしくは複数の化合物、または1つもしくは複数の化合物と1つもしくは複数の他の薬剤との組み合わせを薬学的に適合性の担体中で被検者に投与する段階を含む。投与は新生物もしくは再狭窄などの増殖性障害の発生を阻害する、または免疫抑制を提供するのに有効な量で行う。治療はそのような疾患のリスクが高い人口統計群の任意の患者において予防的に用いることができるが、被検者は状態の確定的診断などのより特異的基準を用いて選択することもできる。
【0069】
その中で薬物を送達する媒体は、当業者には周知の方法を用いて、薬学的に許容される薬物の組成物を含むことができる。滅菌食塩水またはグルコース溶液などの一般的ないかなる担体も、本明細書において開示される薬物と共に用いることができる。投与経路には、経口ならびに静脈内(iv)、腹腔内(ip)、直腸、、局所、眼、鼻、および経皮などの非経口経路が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0070】
薬物は任意の好都合な媒質中で、現在公知であるか、後に開発される適当な様式、例えば、経口または静脈内で投与してもよい(下記参照)。例えば、静脈内注射は食塩水媒質により行ってもよい。媒質は、例えば、浸透圧を調節するための薬学的に許容される塩、シクロデキストリンなどの脂質担体、血清アルブミンなどのタンパク質、メチルセルロースなどの親水性物質、洗浄剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビルパルミテート、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)およびトコフェロール)、キレート化剤、粘度調節剤、張性剤(tonicifier)、着香料、着色料、臭気剤などの通常の薬学的補助材料も含んでいてもよい。非経口用の薬学的担体のより完全な説明は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th Edition, 1995) chapter 95に見いだすことができる。
【0071】
他の薬学的組成物の例は、当業者には公知と思われる通常の薬学的に許容される担体、補助剤および対イオンと共に調製することができる。組成物は好ましくは錠剤、丸剤、散剤、液剤または懸濁剤などの、固体、半固体および液体剤形の単位用量剤形である。半固体製剤は、例えば、ゲル、ペースト、クリームおよび軟膏を含むいかなる半固体製剤であってもよい。液体剤形には、有機または無機媒体中の液剤、懸濁剤、リポソーム製剤、または乳剤が含まれうる。
【0072】
免疫応答を抑制する、または増殖性障害を治療する方法
被検者の免疫応答を抑制する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む方法が、本明細書において提供される。一つの特定の非限定例において、免疫応答はインターロイキン(IL)-12、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6などであるが、それらに限定されるわけではない、サイトカインの分泌を含みうる。もう一つの特定の非限定例において、免疫応答はマクロファージ活性化を含む。
【0073】
本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を、追加の免疫抑制剤と共に投与することもできる。この投与は同時でも任意の順の逐次でもよい。免疫抑制剤には、シクロスポリンA、FK506、もしくはその類縁体、またはCD3(OKT3など)、CD4、もしくはCD8に特異的に結合するモノクローナル抗体などの抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0074】
一つの例において、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物および免疫抑制剤は溶液、またはこれらの物質の送達および取り込みを促進するリポソームなどの送達媒体中で同時投与することもできる。
【0075】
一つの態様において、本明細書において開示される方法を、移植片拒絶を治療するために用いることができる。移植は、一つの体または体の一部から別の体または体の一部への、組織もしくは臓器、またはその一部の移動に関与する。「同種移植」または「異種移植」は、供与者および受容者が、二人の配列において同一でない1つまたは複数の遺伝子座における遺伝子を有する、供与者から受容被検者への移植である。受容者は供与者の抗原(供与者MHCを含む)に対して免疫応答を生じることがあり;したがって移植片受容者(心臓、肺または腎臓移植片受容者)を治療するために免疫抑制剤がしばしば用いられる。移植片拒絶を治療する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与する段階を含む方法が本明細書において開示される。一つの態様において、治療は生存を延長させるか、または供与組織の機能を改善する。本明細書において開示される方法を、移植片対宿主疾患を治療するために用いることもできる。
【0076】
増殖性障害を治療する方法であって、本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む方法が本明細書において提供される。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、腫瘍細胞の増殖を阻害するために用いうることが本明細書において示される。したがって、腫瘍を治療するために、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与することができる。腫瘍は良性および悪性両方の腫瘍を含む。腫瘍は血液腫瘍および固形腫瘍をさらに含む。例示的な腫瘍は皮膚、神経系、肺、乳房、生殖器、膵臓、リンパ球(白血病およびリンパ腫を含む)、血管またはリンパ管、および結腸の腫瘍である。腫瘍には特に癌腫、肉腫、乳頭腫、腺腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、および腺癌が含まれる。
【0077】
本明細書において開示される2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を、追加の化学療法剤と共に投与することもできる。この投与は同時でも任意の順の逐次でもよい。化学療法剤には、化学物質、代謝拮抗物質、および抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。例示的な化学療法剤はドキソルビシン、パクリタキセル、ラパマイシン、およびメトトレキサートである。
【0078】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、平滑筋細胞の増殖を阻害するために用いうることが本明細書においてさらに示される。したがって、血管再狭窄を治療するために、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の治療的有効量を被検者に投与することができる。
【0079】
本明細書において開示される治療化合物を患者に、冠動脈もしくは末梢動脈の血管形成術もしくは粥腫切除術、冠動脈バイパス移植もしくはステント手術、または末梢血管手術(例えば、頸動脈もしくは他の末梢血管の動脈内膜切除術、血管バイパス形成術、ステントまたは人工血管法)の前、最中および/または後に投与することにより、この化合物を再狭窄を治療するために用いることができる。本明細書の他所に記載の投与法に加えて、ベンゾピラン-4-オンを血管ステントまたは人工血管などの管腔装置により送達してもよい。例えば、目的の血管部位でのベンゾピラン-4-オン化合物の制御放出のために、ステントまたは人工血管をベンゾピラン-4-オンでコーティングしてもよく、またはこれを取り込んでもよい。そのような制御放出は所望の期間の持続的化合物送達を含みうる。
【0080】
本明細書において開示される任意の治療法において用いるため、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物(および任意に追加された物質)の投与は全身でも、局所でもよい。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の局所投与は当業者には周知の方法により実施する。例として、関節炎の個人などの個人の膝、腰および/または肩への一つの投与法は関節内注射である。例えば膝への投与のために、注射する関節をベタジン溶液または他の消毒剤で洗浄する。約1%の塩酸リドカイン溶液を皮膚および皮下組織に注射する。三方コック/針組み立て品を用いて化合物を18〜30ゲージ針から投与する。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を、当業者には周知の標準側方アプローチを用いて関節窩に注射する。針を引き抜きながら1%塩酸リドカインを三方コック組み立て品を通して流すことにより、針および針路を清浄化する。次いで、膝を屈曲伸長弧(flexion-extension arc)を通して動かし、次いで完全に伸ばして固定する。次いで、患者を約24時間ベッドに拘束し、動きを最小限に抑え、関節からの活性物質の漏出を最小限に抑える。
【0081】
他の態様において、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物の投与は全身である。経口、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、および直腸投与が企図される。
【0082】
用いるための薬理学的組成物は、賦形剤、ならびに活性化合物の薬学的に用いることができる製剤への加工を容易にする任意の補助剤を含む1つまたは複数の薬理学的(例えば、生理学的または薬学的)に許容される担体を用いて、通常の様式で製剤することができる。適当な製剤は選んだ投与経路に依存する。加えて、当業者であれば、静脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、皮下、経皮、経鼻、吸入、および経口投与を含むが、それらに限定されるわけではない、適当な投与経路を容易に選択することができる。
【0083】
したがって、注射用に、活性成分を水溶液、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液中で製剤することができる。経粘膜投与用には、浸透するバリアに適した浸透剤を製剤中で用いる。そのような浸透剤は当技術分野において一般に公知である。経口投与用には、活性成分を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などに含まれるのに適した担体と組み合わせることができる。2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、肺の炎症を有する被検者の治療用などの吸入療法において用いるために製剤することもできる。吸入による投与用には、適当な噴射剤を用いて、活性成分を加圧パックまたはネブライザー(nebuliser)からエアロゾル噴霧の形で都合よく送達する。
【0084】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、注射、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与用に製剤することもできる。同様に、2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物は、気管内または吸入用に製剤することもできる。そのような組成物は、油性または水性媒体中の懸濁剤、液剤または乳剤などの形を取ることができ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤用物質を含むこともできる。他の薬理学的賦形剤は当技術分野において公知である。
【0085】
本明細書に記載の化合物の治療上有効な用量は、所望のレベルの抗再狭窄、抗アテローム性動脈硬化、抗新生物または免疫抑制を達成することをゴールとして、当業者であれば決定することができる。化合物の相対毒性により、様々な用量範囲で投与することが可能となる。一例において、化合物を一回または分割用量で経口投与する。
【0086】
任意の特定の被検者に対する特定の用量レベルおよび投与頻度は変動することがあり、特定の化合物の活性、既存疾患の活性の程度、年齢、体重、全般的健康、性別、食事、投与の様式と回数、排出速度、併用薬物、および治療を受けている宿主の状態の重症度を含む様々な因子に依存することになる。
【0087】
スクリーニング
免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法が本明細書において提供される。この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に比べてP70 S6キナーゼのmTOR依存性リン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択し、それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を特定する段階を含む。一つの態様において、物質は1つまたは複数の追加のキナーゼも阻害する。例えば、物質は細胞増殖の調節物質であるカゼインキナーゼ2を阻害することができる。したがって、この方法は、基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に比べてP70 S6キナーゼ、カゼインキナーゼ2、または両方のmTOR依存性リン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択し、それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を特定する段階を含む。アッセイは細胞または細胞抽出物中で行うことができる。
【0088】
試験化合物は、化合物、小分子、ポリペプチド、または他の生物学的物質(例えば、抗体またはサイトカイン)を含む、関心対象となるいかなる化合物であってもよい。いくつかの例において、化学療法剤として可能性がある化合物群、または免疫抑制剤として可能性がある化合物群をスクリーニングする。他の態様において、ポリペプチド変異体群をスクリーニングする。
【0089】
細胞を用いるアッセイにおいて、細胞を試験化合物と接触させる。いくつかの態様において、細胞を試験化合物と共に、細胞内のPI3Kによる基質のリン酸化に影響を及ぼし、P70 S6キナーゼのリン酸化を阻害するのに十分な時間インキュベートする。細胞を溶解し、リン酸化P70 S6キナーゼの量、およびPI3Kによりリン酸化された基質の量を測定する。細胞内に存在するリン酸化P70 S6キナーゼの量およびリン酸化基質の量を、試験化合物に曝露されていない同じ細胞と比較する。
【0090】
いくつかの態様において、電気泳動によって分離した細胞タンパク質によるウェスタンブロット技術を用い、P70 S6キナーゼ、リン酸化p70 S6キナーゼに結合する抗体、および/または基質(リン酸化S6など)と特異的に結合する抗体を用いる。または、細胞を、リン酸化または非リン酸化基質(P70 S6キナーゼなど)の検出を可能にする、放射性同位体標識したリンを含むオルトリン酸塩存在下でインキュベートしてもよい。
【0091】
いくつかの態様において、細胞を5%CO2加湿雰囲気中、37℃で、試験化合物によりインビトロで処理する。試験化合物による処理後、細胞をCa2+およびMg2+を含まないPBS中で洗浄し、全タンパク質を記載のとおりに抽出する(Haldar et al., Cell Death Diff. 1:109-115, 1994; Haldar et al., Nature 342:195-198, 1989; Haldar et al., Cancer Res. 54:2095-2097, 1994)。別の態様において、試験化合物の連続希釈を用いる。
【0092】
いくつかの態様において、リン酸化をウェスタンブロット法ならびにAmersham ECL高感度化学発光検出システムおよび周知の方法を用いて行う免疫検出を用いて分析する。一例において、リンパ球のリン酸化をリン酸塩を含まない媒質(GIBCO)中、1mCi/ml[P32]オルトリン酸(NEN)を用い、試験化合物存在下、6時間で行うことができる。P32標識細胞抽出物の免疫沈降を、例えば、Haldar et al., Nature 342:195-198, 1998に記載のとおりに実施することができる。この免疫沈降はP70 S6キナーゼ、カゼインキナーゼ2の基質(p53、Bid、DNAトポイソメラーゼIIなど)、またはPI3Kの基質(ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、ホスファチジルイノシトール4,5-リン酸など)などの、関心対象となる基質を結合する抗体を用いる。免疫複合体を厚さ0.75mmの10%SDS-PAGE上で泳動させる。続いて、ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーに曝露する。
【0093】
リン酸化アミノ酸分析を当技術分野において公知のとおりに行うことができる。例えば、分析を基本的にはHunter薄層電気泳動システム、HTLE700(CBS Scientific Company Inc., USA)のマニュアルに記載のとおりに実施することができる。簡単に言えば、P32標識免疫沈降物を10%SDS-PAGEゲル上で泳動させる。関心対象の免疫反応性バンドをゲルから切り出し、50μM炭酸水素アンモニウムで溶出する。溶出後、タンパク質を15%〜20%TCAプラス担体タンパク質存在下で沈降させ、エタノールで洗浄する。次いで、沈降タンパク質を過ギ酸中で酸化し、凍結乾燥する。乾燥したペレットを110℃で加熱した連続沸騰中のHCl中に再懸濁し、凍結乾燥する。残渣を、リン酸化アミノ酸標品を含むpH1.9緩衝液(50mclギ酸、156mcl酢酸、1794mcl H2O)に再懸濁し、PEIセルロースプレートにスポットする。二次元薄層クロマトグラフィを、一次の方向にはpH1.9緩衝液と、二次の方向にはpH3.5緩衝液(100ml酢酸、10mlピリジン、1890ml H2O)を用いて展開する。プレートを65℃で10分間焼き、非放射性標品をプレートに0.25%ニンヒドリンを噴霧し、65℃のオーブンに戻して15分間置くことにより可視化する。次いで、プレートをKodak X-omat ARフィルムなどのフィルムに2から4週間曝露する。
【0094】
いくつかの態様において、リン酸化の調節を、細胞抽出材料を出発原料に用いて分析する。試験化合物を細胞抽出材料と混合し、P70 S6キナーゼのリン酸化およびホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存性のリン酸化に対する化合物の効果を試験する。一例において、細胞抽出材料を試験化合物と接触させて、32P-γ-ATP存在下でのP70 S6キナーゼのリン酸化に対して試験化合物が有する効果、またはbcl-2のリン酸化に対して試験化合物が有する効果を同定する。
【0095】
例示的なプロトコルにおいて、100μgの全細胞抽出物を指定の濃度の試験化合物と共に用い、細胞抽出物を37℃のインビトロで処理する。ホスファターゼ反応のために、50μlの細胞溶解物を試験化合物と接触させ、反応混合物と共に37℃で30〜60分間インキュベートする。
【0096】
細胞抽出材料のリン酸化のために、100μgの細胞抽出物を、各反応に40μci[32P]ATP(3000Ci/mmol)を加える以外は前述のとおりに処理する。チューブを氷につけることにより反応を停止する。[32P]ATP標識した反応混合物を、P70 S6キナーゼまたはPI3K基質に対するモノクローナル抗体から、精製抗体をprotein-A Sepharoseに架橋剤ジメチルピメルイミデート2塩酸塩(50mM)を用いて共有結合させることにより作成した免疫親和性カラムに吸着させる。特異的に結合した[32P]標識タンパク質を0.5%デオキシコール酸Naを含む0.05Mジエチルアミン、pH11.5で溶出する。
【0097】
例示的な方法において、ウェスタンブロット法による免疫検出をAmersham ECL検出システムおよび当業者に公知の方法を用いて実施する。P32標識細胞抽出物の免疫沈降を、例えば、Haldar et al., Nature 342:195-198, 1989に記載のとおりに行うことができる。免疫複合体を厚さ0.75mmの10%SDS-PAGE上で泳動させる。続いて、ゲルを乾燥し、Kodak XARフィルムなどのフィルムを用いてオートラジオグラフィーに曝露する。
【0098】
ホスホアミノ酸分析を基本的にはHunter薄層電気泳動システム、HTLE700(CBS Scientific Company Inc., USA)のマニュアルに記載のとおりに実施することができる。例示的な方法において、P32標識免疫沈降物を10%SDS-PAGEゲル上で泳動させる。P70 S6キナーゼ免疫反応性バンドをゲルから切り出し、50μM炭酸水素アンモニウムで溶出する。溶出後、タンパク質を15%〜20%TCAプラス担体タンパク質存在下で沈降させ、エタノールで洗浄する。次いで、沈降タンパク質を過ギ酸中で酸化し、凍結乾燥する。乾燥したペレットを110℃で加熱した絶えず沸騰中のHCl中に再懸濁し、凍結乾燥する。残渣を、リン酸化アミノ酸標品を含むpH1.9緩衝液(50mclギ酸、156mcl酢酸、1794mcl H2O)に再懸濁し、PEIセルロースプレートにスポットする。二次元薄層クロマトグラフィを、一次の方向にはpH1.9緩衝液と、二次の方向にはpH3.5緩衝液(100ml酢酸、10mlピリジン、1890ml H2O)を用いて展開する。プレートを65℃で10分間焼き、プレートに0.25%ニンヒドリンを噴霧し、65℃のオーブンに戻して15分間置くことにより、非放射性標品を可視化する。次いで、プレートをフィルムに曝露する。
【0099】
カゼインキナーゼ2活性についての一つの特定のアッセイは、Upstate Biotechnology(New York)からキットとして市販されている。アッセイは、30℃で10分間のインキュベーション中のカゼインキナーゼ2による32P-ATPのγ-リン酸の転移を用いた、特定の基質(CK-2基質ペプチド)のリン酸化に基づく。次いで、リン酸化基質を、残留する32P-ATPからP81ホスホセルロース紙を用いて分離し、シンチレーション計数により定量する。
【0100】
実施例
ラパマイシンはP70 S6キナーゼのmTOR依存性調節を阻止することにより癌および平滑筋細胞増殖を阻害する。ラパマイシンはFDAにより、移植片拒絶(免疫抑制作用および抗炎症)、癌、および冠動脈形成術後の血管再狭窄の治療用に認可されている。しかし、ラパマイシンはいくつかの不都合および有害作用を有し、mTOR依存性シグナリングの他の薬理学的阻害剤を同定することが望ましい。
【0101】
LY294002と同様、LY303511はmTORおよびカゼインキナーゼ2を阻害する。LY294002とは異なり、LY303511は細胞死、細胞質分裂、およびグルコース/脂質代謝の制御における重要なシグナリング酵素のPI3Kを有意に阻害することはできない。ウォルトマニンはPI3Kに選択的である。本明細書に開示される実施例は、LY303511を例示的な4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物として用いる。結果は、LY303511を、免疫反応を抑制するため、ならびに平滑筋細胞および腫瘍細胞を含む細胞の増殖を阻害するために用いうることを示している。LY303511はmTORをラパマイシン結合に関与するものとは異なる部位で選択的に阻害し、PI3Kへの影響は少ないと考えられる。LY303511は、細胞増殖および免疫応答を制御するために、単独で、またはラパマイシンもしくは他の物質との組み合わせで用いることができる。
【0102】
実施例1
LY303511は細胞増殖を阻害する
本実施例はLY303511がP70 S6キナーゼのリン酸化およびヒト肺上皮腺癌(A549)細胞における細胞増殖を阻止することを示す。LY303511は、モルホリノ酸素をアミンで置き換える酸素置換によりLY294002と異なる(図1A)。
【0103】
A549細胞を無血清培地のみ、または無血清培地中の100mcM LY303511、200ng/mlラパマイシン、もしくは50nMウォルトマニンで1時間処理した後、大腸菌リポ多糖(LPS)、1000mcg/mlおよびインターフェロン(IFN)-γ、100U/ml(LPS/IFN-γすなわち「L/I」)を加えた。細胞をホモジナイズし、表示のタンパク質(表1参照)をウェスタンブロットにより検出した。ウェスタンブロットは同じ実験からで、3つの実験の代表である。
【0104】
(表1)抗体の説明
【0105】
結果は、LY303511がP70 S6キナーゼのリン酸化を阻止することを示している(図1B)。ウォルトマニンおよびラパマイシンもリン酸化を阻止した。結果は、LY303511およびラパマイシンがAKTのリン酸化を増大させることを示していた(図1B)。ウォルトマニンはPI3Kを阻止し、pAKTのリン酸化を阻害する。したがって、LY303511はmTOR感受性のS6のリン酸化は阻害するが、AKTのリン酸化は阻害しない(図1C)。これらの結果は、LY303511がmTOR阻害剤であることを示している。結果は、LY303511がmTORの自己リン酸化を濃度依存的様式で阻害することも示していた(図1D)。ラパマイシンとは異なり、LY303511はS6KまたはmTORの基礎的リン酸化に対して非常に小さい影響しか持たない(図1B、1D)。したがって、LY303511はLPS/IFN-γ-刺激mTOR活性およびS6KのmTOR依存性リン酸化をPI3Kとは独立な様式で、1pMという低い濃度で阻害した。
【0106】
さらなる実験において、A549細胞を96穴プレート中4,000細胞/ウェルで播種し、ブロモデオキシウリジン単独で、または示した薬理学的阻害剤と共に24時間処理した。DNA合成および細胞増殖の指標であるブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みを、インサイチューELISA(BrdU検出キット、Roche)で測定した
【0107】
加えて、A549細胞(80,000細胞/ウェル)を24時間培養した後、阻害剤を加えた(図2A)。24時間後、トリパンブルー染色した細胞を血球計を用いて計数した。細胞生存度はすべての条件下で>99%であった(データは示していない)。媒体単独に曝露した細胞では、細胞数は24時間で約50%増加した。ラパマイシンは細胞増殖をわずかに減弱したが、LY303511はLY294002とほぼ同等の有意な阻害効果を有していた。LY303511およびLY294002の、PI3Kとは独立な効果と一致して、ウォルトマニンはA549細胞増殖を有意に低減しなかった。LY303511はヨウ化プロピジウム染色した細胞のフローサイトメトリー分析により評価して、アポトーシスまたは壊死を誘導しなかった。
【0108】
ブロモデオキシウリジン(BrDu)取り込みで評価して、LY303511、ならびにLY303511とラパマイシンとの組み合わせはA549細胞の増殖を阻害した(図2B)。ラパマイシンはDNA合成に対し弱いが統計学的に有意な効果を有していたが、LY303511の投与は濃度依存的低下を引き起こした(図2B)。LY303511をラパマイシンと組み合わせた場合には、追加の効果は見られなかった。DMSO単独ではA549細胞増殖にまったく効果はなかった。
【0109】
もう一つの実験において、A549細胞を血清含有培地中でサブコンフルエントになるまで培養し、媒体、100mcM LY303511、またはラパマイシン、200ng/mlと共に0、12、または24時間インキュベートした。細胞を溶解し、タンパク質をSDS-PAGEで分離した後、ニトロセルロース膜に転写した。膜をp27Kip1、p21 Cip1またはリン酸化P70 S6キナーゼT389に対する抗体と共にインキュベートした。
【0110】
処理後12および24時間の時点で、LY303511およびラパマイシンはP70 S6キナーゼのT389でのリン酸化を阻止し、mTORキナーゼ活性の阻害と一致していた(図3A)。LY303511は、細胞周期停止のマーカーであるp27Kip1、およびp21 Cip1の蓄積を引き起こしたが、ラパマイシンは作用しなかった。p27 Kip1(p27)レベルの上昇におけるLY303511依存性は、ラパマイシンと同様のG1/S移行の阻害に対する効果を示している(図3A)。しかし、ラパマイシンとは対照的に、LY303511はS期後期の進行阻害剤であるp21Cip1(p21)の有意な増加を引き起こした(図3A)。LY303511は、SおよびG2/M期進行の調節物質であるサイクリンAおよびBのレベルを低下させたが、ラパマイシンは低下させなかった(図3B)。LY303511はRbのリン酸化も低下させ、これは細胞周期阻害のメカニズムが、部分的には、E2F依存性遺伝子の阻害によることを示唆するものである。これらの結果は、G1/S期移行に加えて、SおよびG2/M期後期進行におけるLY303511感受性キナーゼの役割を裏付けている。
【0111】
LY303511がG1停止を引き起こすことを確認するために、A549細胞を0、10、または100mcM LY303511で24時間処理し、固定し、KI-67に対する抗体と共にインキュベートした。スライドをDAPIを含む溶液中に入れ、核を染色した。等しいレーザー強度およびゲイン(gain)を用いて写真を捕捉した。LY303511による処理は全細胞KI-67レベルの有意な低下を来したが、ラパマイシンではその効果は見られず、これも細胞増殖の阻止と一致している。
【0112】
結果は、LY303511がmTOR依存性P70 S6キナーゼ活性化のマーカーである、P70 S6キナーゼのトレオニン(T)389位(T389)におけるベースの、および刺激されたリン酸化を阻害することを示していた。加えて、LY303511はAKTのセリン(S)473(S473)におけるPI3K依存性リン酸化を阻害しなかった。ラパマイシンと同様、LY303511はAKTのリン酸化を増大させた。加えて、LY303511はmTORキナーゼ活性のマーカーである、mTORのセリン2481位(S2481)におけるベースの、および刺激されたリン酸化を阻害した。LY303511はA549細胞における増殖も阻害した。効果はLY303511の10から100mcMの用量でラパマイシンと相加的であった。したがって、LY303511、またはLY303511とラパマイシンとの組み合わせを、腺癌細胞の増殖を阻害するために用いることができる。結果は、細胞周期停止が誘導されたこともさらに示している。
【0113】
実施例2
LY303511は炎症プロセスの活性化を阻害する
本実施例はLY303511がA549細胞においてLPSおよびIFN-γに応答してのP70 S6キナーゼのリン酸化およびSTAT1の活性化を阻害することを示す。
【0114】
A549細胞に、STAT1により駆動されるホタルルシフェラーゼを発現するレポーターベクター(GAS-luc、Clontech)を一過性に形質移入し、試験化合物なし、または100mcM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは両方と共に1時間インキュベートした後、LPS/IFN-γを加えて6時間置いた。STAT1活性(ルシフェラーゼ活性)を細胞溶解物中で測定した(RLU)。図8に示したデータは三つ組の試料±SEMで、二つの独立した実験の代表である。LY303511は二つの炎症メディエーター、LPS/IFN-γによるSTAT1活性化を阻害した。
【0115】
転写因子STAT1の阻害と一致して、LY303511はLPSで刺激されたマクロファージによるLPS誘導性サイトカイン産生を低下させた(実施例8参照)。
【0116】
実施例3
LY303511は平滑筋細胞においてP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害する
本実施例はLY303511が初代ヒト肺動脈平滑筋(HPASM)細胞においてP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害することを示す。
【0117】
HPASM細胞はCloneticsから購入し、製造業者の使用説明書に従って継代培養した。細胞を100mmプレートに播種し、ほぼコンフルエントになるまで増殖させた後、24時間血清飢餓処理した。培地に阻害剤を加え、1時間後に10%FBSを加えて30分間置いた。細胞をホモジナイズし、表示のタンパク質をウェスタンブロットにより検出した。
【0118】
LY303511は、ヒト肺動脈平滑筋(PASM)細胞におけるP70 S6キナーゼのベースの、および刺激されたリン酸化を阻害した(図4Aおよび4B)。LY303511はAKTのリン酸化も阻害するが、P70 S6キナーゼのリン酸化の場合よりも程度は低い(図4B)。LY303511は、mTORキナーゼ活性のマーカーである、mTORのS2481における血清刺激リン酸化も阻害した。
【0119】
阻害剤添加前に血清と共にインキュベートしたPASM細胞において、ラパマイシンは増殖に対してほとんど効果を示さなかったが、LY303511は濃度依存的様式で阻害した(図4C)。増殖(BrDu取り込み)に対するラパマイシンの効果は、LY303511を加えても、加えなくても、PASM細胞を無血清培地で24時間インキュベートした後にFBSを加えた場合に増強された(図4D)。PASM細胞増殖に対するLY303511の効果は、ラパマイシンと同様、血清非存在下で増強された。10μM LY303511およびラパマイシン、200ng/mlの増殖に対する効果は、10μM LY303511単独の効果に対して相加的であった(p<0.05、図4C、D)。Aktリン酸化はLY303511によって阻害された(図4B)が、ウォルトマニンは細胞増殖を阻害せず、このLY303511の効果はPI3Kとは独立であることを示している。
【0120】
ラパマイシンおよびLY303511の細胞周期に対する効果は、A549細胞よりもPASM細胞では目立たないものであった(図5A)。ラパマイシンまたは無血清培地とのインキュベーションはG1停止を引き起こした。これとは対照的に、LY303511はG1およびG2/M期の画分を増加させることにより、S期の細胞の比率を低下させた。ラパマイシンおよびLY303511のS期細胞減少に対する効果は相加的であった。しかし、LY303511に応答してのG1平滑筋細胞の増加は無視できる程度で、LY303511の効果は初代細胞よりも癌細胞で大きいことを示している。
【0121】
したがって、LY303511、またはLY303511とラパマイシンとの組み合わせを用いて、初代平滑筋細胞の増殖を阻害することができる。結果は、LY303511を用いてこれらの細胞の細胞周期停止を誘導しうることもさらに示している。
【0122】
実施例4
LY303511はG1およびG2期停止の組み合わせを引き起こすことにより細胞周期を阻害する
LY303511の細胞周期に対する効果を調べるために、A549細胞または肺動脈平滑筋細胞を血清含有培地中でサブコンフルエントになるまで培養し、媒体、10、もしくは100mcM LY303511単独、またはラパマイシン(200ng/ml)と共に24時間インキュベートした。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色した後、フローサイトメトリーにより細胞周期分析を行った。各実験条件について、細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞の比率を求めた。細胞をヨウ化プロピジウム染色の強度によってゲートし、細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞の比率を求めた。DNA合成に対する効果と一致して、100μM LY303511はS期の細胞の画分を有意に減少させた(図2C)。G2/M期の細胞の比率は変化しないままであり、細胞がG1およびG2/M期の両方で停止していることを示している。これとは対照的に、ラパマイシンはSおよびG2/M期両方の細胞の比率を低下させることにより、G1期細胞集団を増加させた。10μM LY303511およびラパマイシンのS期細胞減少に対する効果は、10μM LY303511単独の効果に対して相加的であった(P=0.056、図2C)。LY303511をラパマイシンに加えることにより、G2/M期細胞をさらに減少させることなく、S期細胞のより大きい減少が起こり、LY303511はラパマイシンによって用いられるものとは異なる別のメカニズムによって細胞周期を阻止することが示されている。
【0123】
結果は、LY303511が形質転換細胞および肺動脈平滑筋細胞の両方で細胞周期停止を引き起こすことを示している。ラパマイシンとは異なり、LY303511はG2/M期の細胞増加を引き起こすため、結果は、LY303511には別のmTORと独立な細胞標的(例えば、カゼインキナーゼ2)がありうることも示唆している。
【0124】
実施例5
LY303511はカゼインキナーゼ2(CK2)活性を阻害する
A549細胞を試験化合物なし、またはLY294002もしくはウォルトマニンと共に1時間インキュベートした後、L/Iを加えて1時間置き、マイクロアレイ遺伝子発現分析を実施した。細胞フィードバックメカニズムにより、薬理学的物質によって直接阻害されるmRNAコードタンパク質のレベルは、その物質存在下で増加することもある。PI3Kと独立なLY294002の別のキナーゼ標的を同定するために、LY294002によって増加するが、ウォルトマニンでは増加しないmRNAを、データセットからフィルタリングおよび統計学的解析により同定した。予想通り、mTOR mRNAのレベルはLY294002存在下で上昇し(1.7倍)、ウォルトマニンでは上昇しなかった。LY294002により増加する他のキナーゼのmRNAには、CK2α'をコードするものが含まれた(1.8倍;GenBankアクセッション番号M55268)。CK2はG1およびG2/M期両方の細胞周期移行を調節することができるため、LY294002およびLY303511のCK2活性に対する効果を評価した。
【0125】
カゼインキナーゼ2(CK2)活性(カウント/分)を、カゼインキナーゼ2活性キット(Upstate Biotechnologyカタログ番号17-132)を用い、50mclアッセイ緩衝液単独、または表示の濃度のDMSO(1%)、LY294002、LY303511、もしくはラパマイシンを加えたアッセイ緩衝液中、100ng組換えCK2、マグネシウム/ATPカクテル(10mcCi 32P-γ-ATP、0.675マイクロモルMgCl2、4.5nmole ATP)、および10マイクロモルのペプチド基質(アミノ酸配列RRRDDDSDDD(SEQ ID NO:1)を30℃で10分間インキュベートすることにより測定した。アッセイを40%トリクロロ酢酸20mclで停止し、25mclをP81ホスホセルロース紙片にスポットした後、0.75%リン酸で三回と、アセトンで一回洗浄した。基質ペプチドへの32Pの取り込みを、Packard 100 Tri-Carb液体シンチレーション計数器を用い、5mlシンチレーション液中のホスホセルロース紙片を計数することにより検出した。
【0126】
組換えCK2のLY303511またはLY294002とのインキュベーションは、CK2活性の濃度依存的阻害を引き起こした(図5B)。LY294002(10μM)のおよそのIC50はLY303511の10分の1であった。ウォルトマニンまたはラパマイシンのいずれも、CK2活性に影響を及ぼさなかった。CK2は無傷の細胞におけるG1およびG2進行を調節することが知られているため、CK2はLY303511の別のキナーゼ標的である。したがって、LY303511はカゼインキナーゼ2を10〜100mcMの間のIC50で阻害する。LY303511はPI3Kに比べて、P70 S6キナーゼおよびカゼインキナーゼ2を優先的に阻害する。
【0127】
LY303511およびLY294002がインビトロでCK2を阻害する能力は、これらの阻害剤が細胞増殖を阻止する、mTORおよびPI3Kと独立な第二のメカニズムを示唆している。これらの結果は、新生物障害の治療のために有用であると考えられる新規化合物群を確立する。
【0128】
LY303511およびLY294002がCK2活性を阻止するという知見は、この薬物群の新しいもう一つの標的を示唆しており、細胞増殖および細胞周期調節阻害のmTORと独立なメカニズムに一致するものである。CK2は細胞生存に必要とされる、広範に分布する高度に保存されたセリン/トレオニンキナーゼである。一般に、腫瘍細胞は高いレベルのCK2活性を示し、CK2過剰産生はp53欠損マウスにおいて腫瘍形成を誘導することができる。CK2はp53、BH3限定プロアポトーシスタンパク質(BID)、β-カテニン、またはFas関連因子(FAF1)などのタンパク質を直接リン酸化することにより、細胞をアポトーシスから保護する。加えて、CK2はG0/G1、G1/S、およびG2/Mチェックポイントを通じて進行を調節する。サイクリンAおよびBレベルのLY303511誘導性の低下、ならびにp21およびp27レベルの上昇(図3)は、CK2依存性の細胞周期阻害に一致している。増殖および細胞周期に対するLY303511の相加的効果は、S6KのmTORリン酸化を阻害することに加えて、LY303511はCK2などのS6K以外の経路を阻害することにより、ラパマイシンに対する耐性を克服しうることを示している。
【0129】
mTORおよびPI3Kはタンパク質のホスファチジルイノシトール3-および4-キナーゼファミリー(interproファミリーPI3_PI4_キナーゼ、登録番号IPR000403、インターネット上で利用可能なInterProデータベース参照)に含まれる。このファミリーは、PI3Kドメインに特異的なシグネチャー配列(signature sequence)を有する247のタンパク質を含む。LY294002はPI3KおよびmTORを阻害するが、他の類縁体(LY303511など)はファミリーにおけるキナーゼのサブセットを優先的に阻害することができた。mTORおよびPI3KにおけるPI3K触媒ドメイン間の構造的相同性を考慮して、LY303511はPI3K様ドメインを有する他のキナーゼも阻害することができた。これらには下記が含まれる:
【0130】
実施例6
リン酸阻害のIC50の測定
A549細胞において、被刺激細胞におけるS6Kリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、pS6Kホスホブロットの密度測定分析により約10mcMである。LY303511は、A549細胞を薬物に100mcMで接触させた場合でも、Aktのリン酸化を阻害しない。肺動脈平滑筋細胞において、S6Kリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、密度測定分析により約1mcMである。Aktリン酸化のLY303511仲介性阻害のIC50は、密度測定分析により10〜100mcMの間である(図8A〜D参照)。
【0131】
実施例7
前立腺癌インビトロモデルシステムに対するLY303511単独またはドキソルビシンとの組み合わせの効果
雄成体ヌードマウスに標準の飼料を与え、共通のケージで飼育する。治療群ごとに5匹のマウスで、合計100匹が含まれる。それぞれのマウスに、20%マトリゲルを含むPBS中、1×106細胞のPC-3(前立腺癌)細胞を皮下に接種する。腫瘍が約200mm3のサイズに達した後、媒体(0.2%DMSOまたは食塩水)または薬物を1日1回5日間投与し、腫瘍の体積を死亡または二酸化炭素吸入による安楽死まで2日ごとに33日間測定する。
【0132】
5匹のマウスを下記の各治療群に割り付ける。
【0133】
ドキソルビシンまたは媒体を第1日にのみ投与する。ラパマイシンまたはLY303511を、以前に記載されたとおり、第1〜5日に1日1回腹腔内投与する(Grunwald et al., Cancer Res 62:6141, 2002参照)。プロトコルは薬物治療開始後33日で終了する。安楽死または死亡後、腫瘍を摘出して組織分析、免疫組織化学、およびウェスタンブロッティングを行う。
【0134】
腫瘍増殖に対するLY303511の効果をインビボで評価した。ヒト前立腺腺癌細胞(PC-3細胞、ATCC No. CTL-1435)をインビトロで培養した後、回収し、移植した。それぞれのマウスに、20%Matrigel(登録商標)(マトリックス)中の1×106細胞を側腹部への皮下注射により移植した。マウスを10匹ずつの6群に分けた。腫瘍が約150mm3に達した時点で、治療プロトコルを開始し(第1日)、腫瘍体積(=ノギスによる長さ×幅2/2)を30日間、表示の時点で測定した。データは各治療群および時点について平均腫瘍体積+/-SEMで表した。データは図6Aおよび6Bの両方に示す。(*各時点の群間比較の一元配置分散分析(one way ANOVA)によりp<0.05)。図6Cは、任意の所与の時点における腫瘍体積が300mm3未満である確率を表す、カプラン-マイヤー分析である(群間比較のログランク(log-rank)検定によりp<0.001)。
【0135】
下記の治療を各群に割り付けた。
【0136】
LY303511はヌードマウスの前立腺腺癌細胞(PC-3)細胞の増殖を阻害した。ヌードマウスにおけるPC-3腫瘍増殖を減衰させるために、LY303511、10mg/kgを腹腔内投与した。増殖阻害の程度は治療期間に直接比例した。LY303511(LY3)の20日クールは、腫瘍増殖の阻害において、10日クールと同等に有効であった(図6C参照)。21日後、15%を越えるマウスが過剰な腫瘍増殖のために安楽死を必要とし、平均腫瘍体積測定値は、変動が非常に大きくなった。
【0137】
結果は、LY303511、またはLY303511とドキソルビシンとの組み合わせが腫瘍負荷量を低減することを示している(図6Aおよび6B)。したがって、LY303511、および/または別の化学療法剤と組み合わせたLY303511を用いて、癌などの増殖性障害を治療することができる。LY303511は腫瘍治療のためにラパマイシンと組み合わせることもできる。
【0138】
実施例8
免疫応答を抑制するためのLY303511の使用
多発性硬化症(MS)、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫ブドウ膜炎、移植片拒絶、慢性ベリリウム疾患、および移植片対宿主疾患を含む様々なヒト疾患の病因は、T細胞仲介性免疫応答であると思われる。本明細書において開示される化合物は、これらの障害を治療するために有用である。
【0139】
(表2)ヒト自己免疫障害の例
【0140】
本明細書において開示される化合物の自己免疫障害治療のための使用を試験するために用いることができる、いくつかの動物自己免疫モデルがある。表2に、ペプチド/MHC複合体を用いて治療することができるいくつかの例示的な免疫仲介性障害を挙げている。例えば、非肥満性糖尿病(NOD)マウスモデルは、マウスが加齢と共に糖尿病を発症する動物モデル系である。特定の化合物の有効性を試験するために、前糖尿病段階のマウス群(4週またはそれより若い)を、例えば、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせで治療する。次いで、糖尿病を発症したマウスの数、およびその割合を解析する。同様に、橋本マウスモデル系(Hashimoto's mouse model system)では、ワクチンの有効性を試験するために、症状を発症する前のマウス群を、例えば、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせで治療する。次いで、糖尿病を発症したマウスの数、およびその割合を解析する。
【0141】
NODモデルもしくは橋本モデル、または任意の他のモデル系において、LY303511、またはLY303511と別の免疫抑制剤との組み合わせは、未治療マウスに比べて疾患の進行を遅らせる、または疾患発症からの保護を提供する。
【0142】
免疫応答に対するLY303511の効果を示すために、Jackson(Jac)およびTaconic(Tac)からの野生型マウスを用いた。チオグリコール酸塩注射の3日後に腹腔マクロファージを採取した。細胞を2%FCS RPMI中で3日間インキュベートした。1μg/mlのLPS単独またはLY303511(1〜100μM)もしくはDMSOと共に24時間刺激した後、上清を回収した。細胞上清中のサイトカイン(インターロイキン(IL)-12p70、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6)を測定した。結果は、LY303511が6種のサイトカインすべての用量依存的減少を引き起こすことを示していた(図7A〜F参照)。100μM LY303511を加えることで、バックグラウンドレベルと同様のサイトカイン分泌を引き起こした。したがって、LY303511は明らかにサイトカイン発現を低減することができ、抗炎症効果を有する。
【0143】
実施例9
材料と方法
下記は前述の実施例で用いた材料と方法の概要を示す。この項はこの情報を一つの項に整理統合するためのものである。
【0144】
細胞培養
A549細胞(CCL185、American Type Culture Collection (ATCC); Manassas, VA)、ヒト肺胞II型上皮細胞様肺腺癌細胞株を、すべてBiofluids(Rockville, MD)からの10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、ペニシリン(100単位/ml)、およびストレプトマイシン(100μg/ml)を補足したHam's F-12K培地において、5%CO2、37℃で培養した。ヒト肺動脈平滑筋(PASM)細胞(Cambrex; Rockland, ME)を、5%FBS、インスリン、線維芽細胞成長因子、表皮成長因子、およびゲンタマイシン/アンホテリシンを製造業者の使用説明書に従って補足したSMG2培地において、5%CO2、37℃で培養した。
【0145】
薬理学的阻害剤および抗体
LY303511、ラパマイシン、LY294002、およびウォルトマニンはBiomol(Plymouth, PA)またはCalbiochem(San Diego, CA)から購入し、DMSOに溶解した。リン酸化S6K T389、リン酸化Akt S473、リン酸化mTOR S2481、リン酸化Rb S807/S811、S6K、およびAktに対する抗体はCell Signaling Technologies(Beverly, MA)から購入した。mTOR(RAFT1)、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD、サイクリンE、p27 Kip1、およびp21 Cip1に対するモノクローナル抗体はBD Transduction Laboratories(San Diego, CA)から購入した。
【0146】
タンパク質リン酸化の評価
A549細胞を、無血清培地中、表示の阻害剤を加えず、または加えて1時間インキュベートした後、LPS、100μg/ml(Sigma; St. Louis, MO)およびIFN-γ、100U/ml(Roche; Nutley, NJ)の混合物と共に30分間インキュベートした。PASM細胞を、無血清培地中、表示の阻害剤を加えず、または加えて24時間インキュベートした後、10%FBSと共に30分間インキュベートした。A549またはPASM細胞を冷PBSで1回洗浄し、溶解緩衝液(20mMトリスpH8.0、1%Nonidet P-40、1mM EDTA、5mMベンズアミジン、アプロチニン、10μg/ml、ロイペプチン、10μg/ml、トリプシンダイズ阻害剤、1mM PMSF、50mMフッ化ナトリウム、100μMオルトバナジン酸ナトリウム、ならびにカンタリジン、マイクロシスチンLRおよびブロモテトラミゾールを含む1:100 Sigmaホスファターゼ阻害剤セットI)中、氷上で15分間インキュベートした。凍結および解凍後、溶解物を16,000×gで30分間遠心分離し、次いでタンパク質測定し、-80℃で保存した。等しい量の全タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、表示の一次抗体で免疫ブロットした。膜を西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗ウサギIgGまたは抗マウスIgG抗体(Promega; Madison, WI)で処理し、高感度化学発光検出キット(SuperSignal West Pico, Pierce; Rockford, IL)を用いて展開し、X線フィルムに曝露して、これをEpson Expression 636スキャナーを用いて走査した。積算バンド密度をScion Image beta 3bソフトウェアを用いて定量した。
【0147】
細胞増殖の評価
細胞増殖、またはDNA合成を、インサイチュー5-ブロモ-2-デオキシ-ウリジン(BrDU)検出キットを製造業者の使用説明書通りに用いて推定した(Roche Diagnostics; Nutley, NJ)。簡単に言うと、A549またはPASM細胞(4,000個/ウェル)を96穴プレートに播種し、血清存在下で24時間培養した。10mM BrDUを、表示の阻害剤なし、または阻害剤と共に加えて、24時間置いた。いくつかの実験において、PASM細胞を無血清培地中でさらに24時間インキュベートした後、BrDUおよび阻害剤を加えた。細胞を固定し、BrDUをペルオキシダーゼ結合抗BrDU抗体を用いて検出した。阻害剤で処理した細胞で測定した吸光度データを、DMSO対照で処理したものに対して標準化した(対照に対する%)。
【0148】
細胞周期の評価
A549またはPASM細胞を80%コンフルエントになるまで培養した後、表示の阻害剤を加えて24時間置いた。細胞をゆっくりトリプシン処理することにより回収し、PBSで3回洗浄し、続いて0.5mlのVindalovのヨウ化プロピジウム(10mM Trizma塩基、10mM NaCl、0.05mg/mlヨウ化プロピジウム、0.7U/ml RNアーゼ、0.1%Nonidet P40)を加えて、少なくとも2時間置いた。細胞周期分析をFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences; San Diego, CA)で実施した。ヨウ化プロピジウムの励起のためにアルゴンレーザーからの488nmラインを用い、発光蛍光を585nmバンドパスフィルター(FL2)を用いて収集した。Cell Quest Softwareを用いてListmodeデータを直線スケール上で収集した。ヨウ化プロピジウムで染色された細胞をフローサイトメトリーで計数し、G1、S、またはG2/M期の細胞のパーセンテージを求めた。
【0149】
カゼインキナーゼ2(CK2)活性の評価
CK2活性(カウント/分)を、CK2活性キット(Upstate, Charlottesville, VA)を用い、50μlのアッセイ緩衝液(20mM MOPS、pH7.2、5mM EGTA、25mM β-グリセロールリン酸、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mMジチオスレイトール)単独、または1%DMSO中の表示の濃度のLY294002、LY303511、ウォルトマニンもしくはラパマイシンを加えた中で、100ngの組換えCK2、マグネシウム/ATPカクテル(10μCi 32P-γ-ATP、0.675μmol MgCl2、4.5nmol ATP)、および10μmolペプチド基質(アミノ酸配列RRRDDDSDDD)を30℃で10分間インキュベートすることにより評価した。アッセイを、20μlの40%トリクロロ酢酸で停止し、上清の試料(25μl)をP81ホスホセルロース紙片に吸着させ、これを次いで0.75%リン酸で3回と、アセトンで1回洗浄した。基質ペプチド中の32Pを、Packard 100 Tri-Carb液体シンチレーション計数器を用い、5mlシンチレーション液中のホスホセルロース紙片上で定量した。活性は10分間に取り込まれたリン酸のpmolで表す。阻害剤存在下で測定したCK2活性をDMSO対照の測定値(=対照の100%)で除した。
【0150】
開示された組成物および方法の原理を例示および説明してきたが、これらの組成物および方法は、そのような原理から逸脱することなく、配列および詳細を変更しうることが明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1Aは、LY294002およびLY303511の化学構造を示す図である。LY294002のモルホリノ酸素はLY303511ではアミンで置き換えられている。図1Bは、A549細胞を試験化合物なし、または100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは200nMウォルトマニンと共にインキュベートした結果を示すデジタル図である(または図1Cに示すデジタル図および図1Dに示す棒グラフとデジタル図)。細胞を0〜100μM LY303511と1時間反応させた後、L/Iを加えて30分間置き、細胞溶解物を調製した。タンパク質試料(70μg)をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、ウェスタンブロットによりリン酸化p70 S6キナーゼT389(pS6K)、リン酸化Akt S473(pAkt)、全p70 S6キナーゼ(S6K)、全Akt(Akt)、リン酸化mTOR S2481(pmTOR)、または全mTOR(mTOR)の免疫検出を行った。タンパク質標準の位置(kDa)を右側に示す。図1Dに示す棒グラフおよびデジタル図について、バンド密度の測定値もグラフに示した。pmTORの積算バンド密度を全mTORの値に対して標準化した。阻害剤で処置した細胞の標準化バンド密度をDMSO処置=1に対して表した(pmTOR/DMSO)。データは5つの実験からの値の平均である(±SEM)。*スチューデントt検定によりp<0.05。すべてのパネルは同じ実験からのデータを示し、4つの別々の実験の代表である。
【図2】図2Aは、LY303511がA549細胞において細胞増殖、DNA合成、および細胞周期進行を阻止することを示す棒グラフである。A549細胞(35mmプレートに80,000細胞)を、FBSを含む培地中で1日培養した後、0.1%DMSO、100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、200nMウォルトマニン、または100μM LY294002を加えて24時間培養した。次いで、細胞をトリプシンと共にインキュベートし、回収し、計数した。データは3つの実験を二つ組で行ったアッセイからの細胞/ウェル ×10-4の平均±SEMである。*スチューデントt検定、p<0.05。図2Bは、96穴プレート中のA549細胞(4,000個/ウェル)をFBSを含む培地中で24時間培養した後、10mM BrDUに加えて0〜200μM LY303511のみ、もしくはラパマイシン、200ng/mlと共に、またはラパマイシン単独(0〜200ng/ml)を加えて得た結果からの線グラフである。BrDUの取り込み(490/465での吸光度)をインサイチューELISAで製造業者の使用説明書に従って測定した(BrDU検出キット、Roche)。それぞれの実験について、阻害剤と共にインキュベートした細胞中のBrDUを0.2%DMSO対照で処置した細胞中の値のパーセンテージで表した(対照に対する%)。各実験の、対照=100%に対する平均吸光度測定値は0.9±0.3、0.8±0.3、および0.8±0.3であった。データは3つの実験を三つ組で行ったアッセイからのBrDU含有量の平均±SEMである。*スチューデントt検定によりp<0.05。図2Cは、LY303511がG1およびG2/M停止の組み合わせによって細胞周期を阻害することを示す棒グラフである。A549細胞をFBSを含む培地中で48時間培養した後、0〜100μM LY303511を単独またはラパマイシン、200ng/mlと共に24時間培養した。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムと共に2時間インキュベートした後、Becton-Dickson FACSCaliburを用いて計数した。データは細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞パーセンテージの平均±SEMである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp=0.056。
【図3】図3A〜3Bは、細胞周期阻害剤およびサイクリンのレベルに対するLY303511の効果を示す棒グラフおよびデジタル図である。A549細胞(100mmプレートに約1×106細胞)を48時間培養した後、0.1%DMSO、100μM LY303511、またはラパマイシン、200ng/mlを加えて0、12、または24時間培養した。表示の時間に細胞をホモジナイズし、-80℃で保存した。ウェスタンブロット分析のために、SDS-PAGEで分離した溶解物タンパク質の試料(70μg)をニトロセルロース膜に転写し、下記の抗体と反応させた:A.リン酸化S6K T389(pS6K)、p27 Kip1、p21 Cip1、リン酸化Rb S807/S811、またはB.サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD、およびサイクリンE。すべてのブロットは一つの実験からのものである。下記のデータ(相対密度)は、3つの実験のDMSO対照=1.0に対する、阻害剤で24時間処置した二つ組のプレートからの密度測定値の平均である。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05。
【図4】図4A〜4Dは、LY303511がS6KおよびAktの血清刺激リン酸化(図4Aおよび4B)、ならびにPASM細胞の増殖(図4Cおよび4D)を阻害することを示す棒グラフおよびデジタル図である。無血清培地中で24時間インキュベートした後、PASM細胞を試験物質なし、または100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/ml、もしくは200nMウォルトマニンを加えて(図4A)、あるいは0〜100μM LY303511を加えて(図4B)1時間インキュベートし、続いて10%FBSを加えて30分間置き、細胞溶解物を調製した。等しい量のタンパク質(20μg/ゲル)をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写した後、ウェスタンブロットによりリン酸化p70 S6キナーゼT389(pS6K)またはリン酸化Akt S473(pAkt)の免疫検出を行った。データは5つのうちの代表的な1実験からのものである。PASM細胞(4,000個/ウェル)を96穴プレート中で24時間培養した後、10%FBSを含む(図4C)または含まない(図4D)培地中で24時間インキュベートした。次いで、細胞を10%FBS、10μM BrDU、および0〜100μM LY303511のみ、またはラパマイシン、200もしくは400 ng/mlと共に含む新鮮培地中で24時間インキュベートした。BrDUの取り込みをインサイチューELISAで製造業者の使用説明書に従って測定した(BrDU検出キット、Roche)。それぞれの実験について、阻害剤と共にインキュベートした細胞のBrDU含有量を0.1%DMSO対照と共にインキュベートした細胞中の値に対して表した(対照に対する%)。異なる供与者からの細胞を用いた各実験の平均対照(=100%)吸光度は図4Cおよび図4Dでそれぞれ0.22±0.06および0.24±0.06(=100%)であった。データは3つの実験を六つ組で行ったアッセイからのBrDU値の平均±SEMである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp<0.05。
【図5】図5A〜5Bは、LY303511がG1およびG2/M停止の組み合わせによって細胞周期を阻害すること、ならびにLY303511がCK2活性を阻害することを示す棒グラフである。図5Aに示すデータについて、PASM細胞をFBSを含む培地中で48時間培養した後、0〜100μM LY303511を単独で、またはラパマイシン、400ng/mlと共に加えて24時間培養した。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムと共に2時間インキュベートした後、Becton-Dickson FACSCaliburを用いて計数した。データは3つの実験を二つ組で行ったアッセイからの細胞周期のG1、S、またはG2/M期の細胞のパーセンテージの平均(±SEM)である。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05、または†10μM LY303511に対してp<0.05。図5Bは、LY303511またはLY294002がインビトロでCK2を阻害することを示す棒グラフである。製造業者(Upstate Biotechnologies)に従い、0または100ngの組換えCK2をCK2基質ペプチドおよび32P-γ-ATPと共に10分間、1%DMSOまたは表示の阻害剤を加えてインキュベートした。データは阻害剤を加えた試料の対照である(平均±SEM)0.2±0.03pmolリン酸/100ngタンパク質/10分)に対するパーセンテージで表した値の平均である。データは3つの実験を二つ組で行ったものである。*スチューデントt検定によりDMSO対照に対してp<0.05。
【図6】図6A〜6Bは、LY303511がヌードマウスの前立腺癌細胞(PC-3)細胞の増殖を阻害することを示す棒グラフである。ヌードマウスのPC-3腫瘍増殖を減衰させるために、LY303511、lOmg/kg/dを腹腔内投与した。増殖阻害の程度はLY303511による治療期間に比例していた。20日クールのLY303511(LY3)は腫瘍増殖阻害において10日クールと同程度に有効であった。図6Cは、カプラン-マイヤー(Kaplan-Mieir)生存分析のグラフである。この分析は、腫瘍が300mm3に達した時に事象が起こるとの仮定を含む。y軸は腫瘍サイズが300mm3未満である確率を示す。第4群は早期に事象が起こり、これはおそらくアウトライヤーである(例えば、動物に薬物の全用量が投与されていなかった)ことに留意されるべきである。
【図7】図7A〜Fは、LY303511が初代マウス腹腔マクロファージまたはA549細胞においてリポ多糖(LPS)誘導性サイトカイン産生またはSTAT1活性を阻害することを示す棒グラフである。Jackson(Jac)およびTaconic(Tac)由来の野生型マウスを用いた。腹腔マクロファージをチオグリコール酸注入の3日後に回収した。細胞を2%FCS RPMI中で3日間インキュベートした。LPS 1μg/ml単独またはLY303511(1〜100μM)もしくはDMSOと共に24時間刺激した後、上清を回収した。サイトカイン(インターロイキン(IL)-12p70、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、MCP-1、IL-10、IL-6)を細胞上清中で測定した。結果より、LY303511が6つのサイトカインすべての用量依存的減少を引き起こすことが判明した(図7A〜F参照)。100μM LY303511を加えることにより、バックグラウンドレベルと同程度のサイトカイン分泌を引き起こした。したがって、LY303511は明らかにサイトカイン発現を低減することができ、抗炎症作用を有する。
【図8】図8A〜Bは、LY303511によるLPS/IFN-γ誘導性STAT1活性の阻害を示す棒グラフである。A549細胞に、STAT1により駆動されるホタルルシフェラーゼを発現するレポーターベクター(GAS-luc、Clontech)を一過性に形質移入し、100μM LY303511、ラパマイシン、200ng/mlの存在下または非存在下、もしくは両方の存在下で1時間インキュベートした後、LPS/IFN-γを加えて6時間置いた。STAT1活性(ルシフェラーゼ活性)を細胞溶解物中で測定した(RLU)。示したデータは三つ組の試料±SEMで、二つの独立した実験の代表である。図4Aおよび4Bに示すとおり、LY303511は二つの炎症メディエーター、LPS/IFN-γによるSTAT1活性化を阻害した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む、被検者の免疫応答を抑制する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項2】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項1記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項3】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)またはカゼインキナーゼ2を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項1記載の方法。
【請求項5】
被検者が自己免疫障害を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被検者が炎症応答を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
被検者が移植片対宿主疾患を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
被検者が移植片受容者であり、免疫応答が移植片の拒絶である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
追加の免疫抑制剤の治療的有効量を被検者に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
細胞を、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させる段階を含む、細胞の増殖を阻害する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項11】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項10記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項12】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)またはカゼインキナーゼ2を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項10記載の方法。
【請求項14】
細胞を化学療法剤の有効量と接触させる段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
細胞がインビボにある、請求項10記載の方法。
【請求項16】
細胞がインビトロにある、請求項10記載の方法。
【請求項17】
下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む、被検者の増殖性障害を治療する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項18】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項17記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項19】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、P70 S6キナーゼのリン酸化を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項17記載の方法。
【請求項21】
増殖性障害が再狭窄を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
増殖性障害が腫瘍である、請求項17記載の方法。
【請求項23】
腫瘍が肺癌または前立腺癌である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
下記の段階を含む、免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法:
基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存的リン酸化の阻害と比べて、カゼインキナーゼ2およびP70 S6キナーゼのリン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択する段階、
それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を同定する段階。
【請求項25】
基質がタンパク質キナーゼB(PKB)である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
試験物質がセリン-389でのP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
免疫抑制剤を選択する、請求項24記載の方法。
【請求項28】
抗増殖剤を選択する、請求項23記載の方法。
【請求項29】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンまたはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項30】
免疫応答がマクロファージ活性化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項31】
免疫応答が1つまたは複数のサイトカインの分泌を含む、請求項1記載の方法。
【請求項32】
サイトカインがインターロイキン(IL)-12、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
追加の化学療法剤を被検者に投与する段階をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項34】
化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)、アザチオプリン、シクロホスファミド、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシン、メトトレキサート、ビンクリスチン、カルボプラチン、シスプラチン、タキソール、ラパマイシン、またはその組み合わせである、請求項33記載の方法。
【請求項1】
下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む、被検者の免疫応答を抑制する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項2】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項1記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項3】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)またはカゼインキナーゼ2を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項1記載の方法。
【請求項5】
被検者が自己免疫障害を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被検者が炎症応答を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
被検者が移植片対宿主疾患を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
被検者が移植片受容者であり、免疫応答が移植片の拒絶である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
追加の免疫抑制剤の治療的有効量を被検者に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
細胞を、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させる段階を含む、細胞の増殖を阻害する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項11】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項10記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項12】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(Mammalian Target of Rapamycin)またはカゼインキナーゼ2を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項10記載の方法。
【請求項14】
細胞を化学療法剤の有効量と接触させる段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
細胞がインビボにある、請求項10記載の方法。
【請求項16】
細胞がインビトロにある、請求項10記載の方法。
【請求項17】
下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を被検者に投与する段階を含む、被検者の増殖性障害を治療する方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノから独立に選択される。
【請求項18】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、下記の構造を有する2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物を含む、請求項17記載の方法:
式中、R1およびR2それぞれの存在は任意であり、R1およびR2はそれぞれ、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシまたはアミノから独立に選択される。
【請求項19】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
2-(4-ピペラジニル)-置換4H-1-ベンゾピラン-4-オン化合物が、P70 S6キナーゼのリン酸化を阻害するが、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼを有意に阻害しない、請求項17記載の方法。
【請求項21】
増殖性障害が再狭窄を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
増殖性障害が腫瘍である、請求項17記載の方法。
【請求項23】
腫瘍が肺癌または前立腺癌である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
下記の段階を含む、免疫抑制剤または抗増殖剤を選択する方法:
基質のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)依存的リン酸化の阻害と比べて、カゼインキナーゼ2およびP70 S6キナーゼのリン酸化を優先的に阻害する試験物質を選択する段階、
それにより薬学的に有用な免疫抑制剤または抗増殖剤を同定する段階。
【請求項25】
基質がタンパク質キナーゼB(PKB)である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
試験物質がセリン-389でのP70 S6キナーゼのリン酸化を阻害する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
免疫抑制剤を選択する、請求項24記載の方法。
【請求項28】
抗増殖剤を選択する、請求項23記載の方法。
【請求項29】
2-(4-ピペラジニル)-8-フェニル-4H-1-ベンゾピラン-4-オンまたはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項30】
免疫応答がマクロファージ活性化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項31】
免疫応答が1つまたは複数のサイトカインの分泌を含む、請求項1記載の方法。
【請求項32】
サイトカインがインターロイキン(IL)-12、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-10、IL-6である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
追加の化学療法剤を被検者に投与する段階をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項34】
化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)、アザチオプリン、シクロホスファミド、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシン、メトトレキサート、ビンクリスチン、カルボプラチン、シスプラチン、タキソール、ラパマイシン、またはその組み合わせである、請求項33記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8】
【公表番号】特表2007−513962(P2007−513962A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543983(P2006−543983)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/041265
【国際公開番号】WO2005/056014
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505004949)アメリカ合衆国 (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/041265
【国際公開番号】WO2005/056014
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505004949)アメリカ合衆国 (7)
【Fターム(参考)】
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