説明

免疫抑制タンパク質

【課題】 新規な免疫抑制タンパク質の提供。
【解決手段】 マウスアストロ細胞由来の特定のアミノ酸配列からなるタンパク質および該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な免疫抑制タンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、及び該タンパク質の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脱髄疾患の中核をなす疾患であり、病理学的には視神経や脊髄、大脳、小脳、脳幹などの白質に大小の散在性斑状脱髄巣が認められる。急性期には、髄鞘の崩壊と、崩壊産生物を取り込んだマクロファージや反応性のアストログリアの増生、小血管周囲のリンパ球浸潤が見られる。多発性硬化症は、プロテオリピッドタンパク(proteolipid protein:PLP)、ミエリン塩基性タンパク(Myelin basic protein:MBP)などのミエリン構成タンパクを自己抗原として認識する自己免疫疾患であると考えられている。
【0003】
免疫系は、リンパ球の抗原受容体可変領域の遺伝子を再構成することによって、あらゆる抗原に対応できる多様な抗原受容体を形成している。この遺伝子再構成は無作為に起こるので、その過程で自己反応性抗原受容体をもったリンパ球も発生することになる。免疫寛容は、このような発生した自己反応性リンパ球による自己障害を防ぐための機構で、自己反応性リンパ球クローンを除去する、それらを無反応にする、その働きを抑制するように働く。アポトーシスは、免疫系の調節にも深く関与しており、特に胸腺における自己反応性T細胞の除去など免疫寛容の成立には必須である。免疫寛容の破綻により発症すると考えられる自己免疫疾患は、アポトーシスの異常、すなわち、アポトーシスが死ぬべき細胞に起こらないことが原因ともされており、アポトーシスの異常という観点からの病因、病態の解析が進みつつある。
【0004】
多発性硬化症の疾患モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis; EAE)において、脳脱髄巣では、浸潤CD4陽性T細胞の50-60%がアポトーシスを起こしていることが報告されている(非特許文献1)。また、アストロサイトがこのT細胞のアポトーシスに関与しているとの報告もある(非特許文献2)。
【0005】
【非特許文献1】Schmied M., et al., Apoptosis of T lymphocytes in experimental autoimmune encephalomyelitis. Evidence for programmed cell death as a mechanism to control inflammation in the brain, Am. J. Pathol. 143:446-452, 1993
【非特許文献2】Gold R., et al., Antigen presentation by astrocytes primes rat T lymphocytes for apoptotic cell death. A model for T cell apoptosis in vivo, Brain 119: 651-659, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、自己反応性T細胞にアポトーシスを誘導させるアストロサイトにおける未知の因子を同定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、アストロサイトをインターフェロンγで刺激した後、PLP反応性T細胞を加えると、T細胞の増殖が抑制され、アポトーシスが誘導されることを見出すとともに、このアポトーシスを誘導するアストロサイト由来の未知の因子を同定することに成功した。また、この因子のアポトーシス誘導は、自己抗原により刺激したT細胞にのみ起こること、そしてEAE発症マウスに対して治療効果を発揮することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質
【0009】
(2) (1)に記載のタンパク質の部分アミノ酸配列からなるタンパク質。
(3) (1)に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
(4) (1)に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【0010】
(5) 以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c) 配列表の配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(d) 配列表の配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0011】
(6) (4)又は(5)に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
(7) (4)又は(5)に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
(8) (7)に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、(1)〜(3)に記載のタンパク質の製造方法。
(9) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質を特異的に認識する抗体。
【0012】
(10) (9)に記載の抗体を、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパクが含まれると予想される被験試料に反応させ、該抗体と該タンパク質との免疫複合体の生成を検出することを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパクの検出方法。
(11) (9)に記載の抗体を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質の検出用試薬。
(12) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含む免疫抑制剤。
(13)自己免疫疾患の予防および治療のための、(12)に記載の免疫抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な免疫抑制タンパク質が提供される。本発明の免疫抑制タンパク質は、自己抗原反応性T細胞の免疫反応を抑制する活性を有する。従って、免疫寛容機構の不全によりもたらされる多発性硬化症などの自己免疫疾患の治療用医薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.免疫抑制タンパク質、それをコードする遺伝子
本発明の免疫抑制タンパク質は、自己反応性T細胞のみにアポトーシスを誘導し、実験的アレルギー性脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis; EAE)に対して顕著な治療効果を発揮することが確認された新規な免疫抑制タンパク質であって、アストロサイトを由来とすることから、astrocyte-derived immune suppressor factor(AdIF)と命名した。
【0015】
本発明の免疫抑制タンパク質(以下、「AdIFタンパク質」という)をコードする遺伝子は、後記実施例に示すように、インターフェロンγ処理したアストロサイトと未処理のアストロサイトの各cDNAを用い、双方向で差分を行って2種類の差分化cDNAライブラリー(subtracted cDNA ライブラリー)を構築し、このライブラリーからインターフェロンγ処理したアストロサイトで特異的に発現している遺伝子を選抜し、その選抜した遺伝子の中からPLP反応性T細胞に対するアポトーシス誘導を指標にスクリーニングすることによって同定することができる。
【0016】
本発明のAdIFタンパク質をコードする遺伝子はまた、下記の細胞や組織に由来するcDNAライブラリーを、上記方法で取得した遺伝子断片をもとにして合成したDNAプローブを用いてスクリーニングすることにより単離することができる。cDNAライブラリーを作製するためのmRNA供給源としては、該AdIFタンパク質のmRNAが発現している細胞や組織(例えば、心臓、肝臓等)であれば特に限定されず、ヒト由来のみならず、その他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル等)由来のものであってもよい。
【0017】
mRNAの調製は、当該技術分野において通常用いられる手法により行うことができる。例えば、上記細胞又は組織を、グアジニン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得、その後、オリゴ(dT)セルロースカラムやセファロース2Bを担体とするポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により、あるいはバッチ法によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A+)RNAをさらに分画してもよい。
【0018】
次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRnaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成する。合成した二本鎖cDNAをT4DNA合成酵素によって平滑化後、アダプター(例えば、EcoRIアダプター)の連結、リン酸化等を経て、λgt11等のλファージに組み込んでin vivoパッケージングすることによってcDNAライブラリーを作製する。また、λファージ以外にもプラスミドベクターを用いてcDNAライブラリーを作製することもできる。
【0019】
cDNAライブラリーから目的のDNAを有する株(ポジティブクローン)を選択するスクリーニング方法としては、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列に対応するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方法が挙げられる。
【0020】
PCR反応の鋳型DNAとしては、前記mRNAから逆転写反応により合成されたcDNAを用いればよい。また、プライマーは、増幅したときのDNA断片の予想サイズ、あるいは縮重コドンの組み合わせなどを適宜検討しながら、上記のアミノ酸配列情報に基づいて設計することができる。
【0021】
このようにして得られたDNA増幅断片を、32P、35S又はビオチン等で標識してプローブとし、これを形質転換体のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、ポジティブクローンを検索する。
【0022】
取得したポジティブクローンについて塩基配列の決定を行う。塩基配列の決定はマキサム-ギルバートの化学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定機(例えばPERKIN-ELMER社製373A DNAシークエンサー、TAKARA社製BcaBESTジデオキシシークエンシングキット等)を用いて行う。決定した塩基配列は、DNASIS(日立ソフトウエアエンジニアリング社)等のDNA解析ソフトによって解析し、得られたDNA鎖中にコードされているタンパク質コード部分を見出すことができる。
【0023】
本発明のAdIFタンパク質は、(a) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、(b) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質である。
【0024】
上記の「配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0025】
上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、上記AdIFタンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0026】
上記の「自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性」とは、自己あるいは内因性の抗原に対するT細胞の過剰な免疫反応を抑制する活性(例えば、サイトカイン産生減少、細胞障害活性抑制、抗原提示機能抑制等)をいい、「自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有する」とは、該活性が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が有する活性と実質的に同等であることをいう。
【0027】
より詳細には、当該活性が同等(例えば、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)である限り、分子量等の量的要素は元のタンパク質と異なっていてもよい。
【0028】
本発明のAdIFタンパク質には、上記AdIFタンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列と相同性を有するタンパク質も含まれる。相同性を有するタンパク質とは、配列番号2に記載のアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するタンパク質を意味する。タンパク質の相同性を決定するには、文献(Wilbur, W.J. and Lipman, D.J., Proc.Natl.Acad., Sci. USA(1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムに従えばよい。
【0029】
本発明のAdIFタンパク質には、上記AdIFタンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列の部分配列を有するタンパク質(部分ペプチド)も含まれる。そのような部分ペプチドとしては、配列番号2で表わされるアミノ酸配列の87位〜188位までのアミノ酸配列を少なくとも含むペプチドが挙げられる。
【0030】
本発明のAdIFタンパク質には、該タンパク質と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、AdIFタンパク質をコードするDNAと他のペプチド又はタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、すでに公知の手法を用いることができる。融合に付される他のペプチド又はタンパク質としては、特に限定されない。例えば、ペプチドとしては、FLAG、6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV-GPの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag等、すでに公知であるペプチドが挙げられる。またタンパク質としては、例えばGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)、GFP(緑色蛍光蛋白)等が挙げられる。
【0031】
本発明のAdIFタンパク質は、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態としてもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)の塩等が挙げられる。
【0032】
本発明のAdIFタンパク質は、該タンパク質を発現しているヒトや哺乳動物の培養細胞又は組織からの抽出・分離よって、あるいは後述のように該タンパク質をコードするDNAを含む形質転換体を培養することによっても製造することができる。ヒトや哺乳動物の組織又は細胞から製造する場合、ヒトや哺乳動物の組織又は細胞をホモジナイズ後、酸等で抽出を行い、得られた抽出液を疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを組み合わせることにより単離精製することができる。
【0033】
また、前記部分ペプチドは、公知のペプチド合成法又は前記AdIFタンパク質を適当なペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ)で切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。
【0034】
本発明の遺伝子は、上記のAdIFタンパク質をコードする遺伝子であればいかなるものでもよく、具体的には、(a) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNA、(b) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子が挙げられる。
【0035】
上記の「配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA」としては、配列番号1に示す塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA等が挙げられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。
【0036】
一旦本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本遺伝子のcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子を得ることができる。
【0037】
2.組換えベクター及び形質転換体の作製
(1) 組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を連結することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpRSET、pBR322, pBR325, pUC118, pUC119, pUC18, pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0038】
ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0039】
本発明の遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、本発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有するものを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0040】
このようなベクターとしては、宿主細胞が大腸菌である場合は、例えばpETベクター(Novagen社製) 、pTrxFUSベクター(Invitrogen社製) 、pCYBベクター(NEW ENGLAMD Bio Labs社製) 等が、宿主細胞が酵母である場合は、例えばpESP-1発現ベクター(STRATAGENE社製) 、pAUR123ベクター(宝酒造社製)、pPICベクター(Invitrogen社製) 等が、また宿主細胞が動物細胞である場合は、例えばpMAM-neo発現ベクター (CLONTECH社製) 、pCDNA3.1ベクター(Invitrogen社製) 、pBK-CMVベクター (STRATAGENE社製) 等が、宿主細胞が昆虫細胞である場合は、例えばpMTベクター(Invitrogen社)、pBacPAKベクター (CLONTECH社製) 、pAcUW31ベクター(CLONTECH社製) 、pAcP(+)IE1ベクター(Novagen社製) 等がそれぞれ挙げられる。
【0041】
(2) 形質転換体の作製
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌;サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母;サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ヒトGH3、ヒトFL細胞等の動物細胞;あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
【0042】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0043】
大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12、DH1などが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどのように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N. et al. (1972) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 69, 2110-2114)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0044】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. (1990) Methods. Enzymol., 194,182-187)、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. (1978) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 75, 1929-1933)、酢酸リチウム法(Itoh, H. (1983) J. Bacteriol. 153, 163-168)等が挙げられる。
【0045】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトHeLa、FL細胞などが用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0046】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Schneider 2(S2) 細胞、Sf9細胞、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0047】
また、上記の各宿主細胞への遺伝子導入は、組換えベクターによらない方法、例えばパーティクルガン法なども用いることができる。
【0048】
3.本発明のAdIFタンパク質の製造
本発明のAdIFタンパク質は、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0049】
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0050】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0051】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは7.0〜7.5に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0052】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0053】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0054】
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより該タンパク質を抽出する。また、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
【0055】
4.本発明のAdIFタンパク質に対する抗体
本発明の抗体は以下の一般的な抗体調製方法によって取得できる。
(1) 抗原の調製
本発明においては、前記の通り単離精製した本発明のAdIFタンパク質又はその一部の断片ペプチドを抗原として用いる。
【0056】
(2)ポリクローナル抗体の作製
上記のようにして調製された抗原タンパク質を用いて動物を免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、例えばアジュバントを用いて100〜500μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。
【0057】
免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。投与部位は静脈内、皮下又は腹腔内である。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から6〜60日後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。抗体価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA;enzyme-linked immunosorbent assay)、放射性免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)等により行うことができる。
【0058】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0059】
(3) モノクローナル抗体の作製
(3-1) 免疫及び抗体産生細胞の採取
上記のようにして調製された抗原タンパク質を用いて動物を免疫する。必要であれば、免疫を効果的に行うため、前記と同様アジュバント(市販のフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント等)を混合してもよい。
【0060】
免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。抗原の1回の投与量は、マウスの場合1匹当たり50μgである。投与部位は、主として静脈内、皮下、腹腔内である。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、最低2〜3回行う。そして、最終免疫後、抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
【0061】
(3-2) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株として、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地 (ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む) で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。例えば、ミエローマ細胞の具体例としてはP3X63-Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1-Ag4-1、Sp2/0-Ag14などのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0062】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを15:1〜25:1の割合で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤存在下、あるいは電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
【0063】
(3-3) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地を用いて培養し、生育する細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0064】
次に、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法 (ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)、RIA (radioimmuno assay)等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的に単クローン抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0065】
(3-4) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%牛胎児血清含有 RPMI-1640培地又はMEM 培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件 (例えば37℃,5% CO濃度) で3〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0066】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらの方法を組み合わせることにより精製することができる。
【0067】
5.本発明の抗体によるAdIFタンパク質の検出方法、検出用試薬
本発明の抗体は、本発明のAdIFタンパク質又はその部分断片と反応するため、該AdIFタンパク質の検出用試薬として使用することができる。AdIFタンパク質の検出方法は特に限定されるものではなく、例えばウェスタンブロッティング法などを採用することができる。例えば、被験試料(細胞成分又はその各分画等)を電気泳動等により分画し、次に、予め標識(放射標識、蛍光染色等)された本発明の抗体と反応させてシグナルを検出する。本発明のAdIFタンパク質の検出に使用する抗体は、該AdIFタンパク質の全長アミノ酸配列を有するタンパク質に対する抗体でもよく、該タンパク質の部分アミノ酸配列を有するペプチドに対する抗体でもよい。
【0068】
本発明の抗体を用いたAdIFタンパク質の定量は、例えばイムノブロット法、酵素抗体法(EIA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法、免疫細胞染色等より行うことが可能であるが、それらに限定されるものではない。
【0069】
また、上記抗体は、その断片であってもよく、具体的には、当該抗体の一本鎖抗体断片(scFv)が挙げられる。
【0070】
具体的には、ELISA 法による場合は、以下の通り行う。まず、希釈した血液等の試料を96ウェルマイクロプレートに吸着させた後、一次抗体として本発明の抗体を反応させる。次いで、発色反応に必要なPOD(ペルオキシダーゼ) 等の特異的酵素で標識した抗グロブリン抗体を反応させ、洗浄後、発色基質としてABTS2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリン-6-スルホン酸) 等を添加して発色させ、比色法により測定することによって試料中の本発明タンパク質を検出する。あるいは、サンドイッチELISA 法による場合は、以下の通り行う。まず、希釈した血液等の試料を、予め本発明の抗体を吸着させた96ウェルマイクロプレートに添加して一定時間インキュベートする。その後、プレートを洗浄し、ビオチンで標識した精製抗体を各ウェルに添加して一定時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、酵素標識アビジンを添加してさらにインキュベートする。インキュベート後、プレートを洗浄し、発色基質としてオルトフェニレンジアミン等を添加して発色させ、比色法によって測定する。
【0071】
また、上記のAdIFタンパク質検出用試薬は、他の試薬と組み合わせ、AdIFタンパク質質検出用キットに用いることもできる。当該キットは、少なくとも本発明の抗体を含むものであればよく、該抗体を固相に固定させる場合にあっては、該抗体とは抗原認識部位が異なり、二次抗体として用いられる抗体を含んでいてもよい。二次抗体として用いられる抗体は、例えば酵素等で標識されていてもよく、これら2つの抗体の他に、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)を含んでいてもよい。
【0072】
6.本発明の免疫抑制剤
本発明のAdIFタンパク質は自己反応性T細胞に対してのみアポトーシスを誘導し、自己抗原反応性T細胞の免疫応答を抑制させる機能を有する。従って、本発明のAdIFタンパク質、遺伝子はいずれも免疫抑制剤として用いることができる。
【0073】
本発明の免疫抑制剤は、免疫寛容機構の不全が原因となる疾患、例えば、自己免疫疾患に対して用いると、免疫反応を抑制性の方向に制御することによって該疾患の治療を行うことができる。ここでいう自己免疫疾患には、器官特異的自己免疫疾患(免疫応答が例えば内分泌系、消化器系、循環器系、神経筋系、中枢神経系、皮膚などに対して特異的に指定される)、または全身性自己免疫疾患のいずれをも含むものとする。自己免疫疾患としては、例えば、多発性硬化症、全身性エリマトーデス、慢性関節リウマチ、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、ギランバレー(Guillain-Barre)症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、強直性脊椎炎、自己免疫性糖尿病(IDDM)、悪性貧血などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0074】
本発明の医薬は、各種製剤形態に調製し、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。本発明の医薬を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等に製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬を非経口投与する場合は、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0075】
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0076】
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0077】
本発明の医薬の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。例えば、本発明のタンパク質の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組み合わせとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり0.01mg〜1000 mgの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて1日以上投与される。
【0078】
本発明の遺伝子を上記疾患に対する遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の遺伝子を注射により直接投与する方法のほか、該遺伝子が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。また、本発明の遺伝子をリポソームなどのリン脂質小胞に導入し、そのリポソームを投与する方法を採用してもよい。
【0079】
遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、免疫系組織(骨髄、リンパ節など)に局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態を採用することもできる。遺伝子治療剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、通常は、本発明の遺伝子の重量にすると成人1日あたり0.1〜100mg/体重の範囲が適当である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1) 新規免疫抑制因子の同定
自己反応性T細胞にアポトーシスを起こすアストロサイト中の未知の因子を同定する目的で、マウス・アストロサイト細胞株G26-24を用いて、インターフェロンγ処理と未処理の各cDNAよりsubtracted cDNA ライブラリーを作成した。subtracted cDNA 100クローンについて全シークエンスを行い、GeneBankでホモロジー解析した。このうち、未知の50クローンの遺伝子をCHO細胞へそれぞれ導入し、タンパク質を発現させた。次に、このCHO細胞上にPLP反応性T細胞株を加えて共培養し、24時間後に細胞を回収し、Annexin-V-FITC, PI, CD4-PEで染色し、アポトーシスが誘導されたT細胞の比率をフローサイトメトリーで計測した。スクリーニングにより2クローン(クローンNo.1、クローンNo.2とする)にアポトーシスの誘導が認められた(下記表1及び図1)。また、AdIFによるアポトーシスを誘導されたT細胞については核の断片化が確認された(図2)。
【0081】
【表1】

【0082】
一方、上記の2クローンは、Con A刺激したT細胞に対しては、コントロールと有意差なくアポトーシスを誘導した(表2及び図3)。
【0083】
【表2】

【0084】
アポトーシス誘導が認められた上記2クローンのうち、クローンNo.1は、未知の遺伝子で、長さは740bpであり、228アミノ酸(26Kda)をコードしていた。このクローンをastrocyte-derived immune suppressor factor(AdIF)と命名した。AdIF の塩基配列を配列番号1に、また対応するアミノ酸配列を配列番号2に示す。AdIFは、構造上、DUF143 (Domain of unknown function)モチーフを持っており、hydrophobicity解析により、分泌タンパクの可能性があった。また、ノーザンブロット解析では、AdIFmRNAは心臓と肝臓に強く発現していた(図4)。
【0085】
一方、クローンNo.2は、細胞外マトリックスに分泌される多機能なcystein rich protein (SPARC/osteonectin)と高いホモロジーを示したので、このクローンをSPARCと命名した。ノーザンブロット解析では、各組織に発現し、特に骨組織で発現が強く、脳ではシナプスの豊富な部位に発現していた。
【0086】
(実施例2) EAE発症の脱髄巣の免疫組織染色試験
SJL/JマウスにPLPペプチドを免疫し、実験的アレルギー性脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis; EAE)を発症させた。抗AdIF抗体は、上記のAdIFタンパク質の部分ペプチド(配列番号2に示すアミノ酸配列の114〜128位のアミノ酸配列を有するペプチド)にて家兎を免疫し、血清を精製することによって得た。
【0087】
症状ピーク時の脳の凍結切片を作成し、脱髄の強い炎症部位と、リンパ球浸潤が殆ど認められない非炎症部位に対し、抗CD4抗体、抗AdIF抗体、抗GFAP抗体(抗アストロサイト抗体)、抗Iba-1抗体(ミクログリアマーカー)、抗Mac-1抗体(抗マクロファージ抗体)をそれぞれ用いて免疫組織染色を行った。
【0088】
脱髄巣(炎症部位)においては、CD4陽性T細胞の浸潤、AdIF陽性細胞の増加、著明なミクログリアの活性化・増殖が認められた。一方、非炎症部位においては、AdIF発現細胞は殆ど認められず、ミクログリアの活性化は起こっていなかった。アストロサイトの増殖とMac-1陽性細胞は、両部位において大きな変化は認められなかった(図5)。
【0089】
また、CD4陽性T細胞膜上には、AdIFタンパク質が結合している像が認められた(図6)。
【0090】
(実施例3) 組換えAdIFタンパク質の発現
組換えAdIFタンパク質の作成を、昆虫細胞を用いたタンパ質発現系であるDESTM(Dorosophila expression system, In vitrogen社:図7(a))を用いて行った。Schneider (S2) cellsにAdIF pMT/V5-His(AdIF cDNAにV5- HisタンパクをC末側にtagタンパクとして発現するプラスミド DNA)をトランスフェクトし、stable cell lineを作成した。その後、細胞ライセートをProbond Hisタンパク精製キットにて精製し、AdIF/His 融合タンパク質を得た。精製した融合タンパク質は、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットにて解析したところ、約30kDaの1本のバンドとして確認された(図7(b))。
【0091】
(実施例4) AdIFの機能解析
(1)細胞増殖抑制活性
PLP反応性CD4陽性T 細胞株に組換えAdIFタンパク質(rAdIF)を加えて24時間培養し、細胞増殖試験を行った。細胞増殖能力は、代謝活性のある細胞が作り出すホルマザン色素を定量するWST-1 cell proliferation assayを用いて測定した。AdIFによる細胞増殖抑制効果が、用量依存的に認められた(図8)。
【0092】
(2)アポトーシス誘導活性
PLP反応性CD4陽性T細胞株に組換えAdIFタンパク質(rAdIF)を加えて24時間培養し、Annexin-V-FITC染色にてアポトーシスの検出を行ったところ、細胞膜が染色され、アポトーシス誘導がみられた(図9)。
【0093】
(3)EAE発症マウスを用いた検討
(3−1)EAEスコア
組換えAdIFタンパク質のEAE発症マウスに対する治療効果を検討した。C57BL/6JマウスをMOGペプチドで免疫し、7日後に組換えAdIF(rAdIF)を静注及び腹腔内投与した。コントロール群(非治療群)には同量のPBSを投与した。その後、発症数・EAE スコアの変動を観察した。MOGペプチドで免疫した上記C57BL/6Jマウスは、免疫から約15日頃よりEAEを発症し、症状は約2週間持続し緩解した(図10)。下記表3に示すように、rAdIFを静注及び腹腔内投与したマウス(治療群)では、コントロール群(非治療群)と比べEAEスコアおよび積算クリニカルスコア(Cumulative clinical score)の著明な改善(コントロール:24.17 + 13.38, 治療群:4.20 + 5.35)が認められた。
【0094】
【表3】

【0095】
(3−2)リンパ球浸潤抑制
EAE発症マウスにおいて、中枢神経系(脳、脊髄)へのリンパ球浸潤を免疫組織学的に検出した。コントロール群(非治療群)では脊髄にCD86を発現したCD4陽性T 細胞の浸潤が認められ、治療群では、単核球浸潤は激減していた(図11)。
【0096】
(3−3)脾細胞から分泌されるサイトカイン変化
EAE発症マウスの脾細胞をin vitroにおいてMOGペプチドと供に培養し、分泌されるTh1/Th2サイトカインを測定した。コントロール群(非治療群)ではTh1サイトカインであるIL-12とIFN-γが多いのに対し、治療群では、IFN-γの分泌が抑えられ、Th2サイトカインであるIL-4が増加しており、Th2へシフトしていた(図12、図13)。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、発現遺伝子(AdIF, SPARC)のPLP反応性T細胞に対するアポトーシス誘導試験結果を示す。
【図2】図2は、AdIFのPLP反応性T細胞に対するアポトーシス誘導により断片化したDNAの電気泳動写真(エチジウムブロマイド染色)を示す。
【図3】図3は、発現遺伝子(AdIF, SPARC)のConA刺激したT細胞に対するアポトーシス誘導試験結果を示す。
【図4】図4は、AdIF mRNAの各組織(心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、筋肉、腎臓、精巣)における発現、およびインターフェロンγにより誘導したアストロサイトにおけるAdIF mRNAの発現を、ノーザンブロットにより解析した結果を示す。
【図5】図5は、EAE発症マウスの脳脱髄巣(炎症部位、非炎症部位)の免疫染色像を示す。
【図6】図6は、CD4陽性T細胞におけるCD4、AdIFの発現分布を示す。
【図7】図7(a)は、組換えAdIF の発現に用いた昆虫細胞発現系を示す。図7(b)は、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットにより発現タンパクを検出した結果を示す。
【図8】図8は、AdIFによるPLP反応性CD4陽性T細胞増殖の抑制を示す。
【図9】組換えAdIFによりアポトーシスを起こしたPLP反応性CD4陽性T細胞の写真(Annexin-V染色)を示す。
【図10】図10は、AdIF治療群、非治療群のEAE 発症マウスにおけるEAEスコアの変化を示す。
【図11】図11は、EAE 発症マウスの脊髄組織染色像を示す。
【図12】図12は、AdIF治療群、非治療群のEAE 発症マウスの脾細胞(MOG刺激)から分泌されるサイトカイン(IL-12,IFN-γ,IL-2)の変化を示す。
【図13】図13は、AdIF治療群、非治療群のEAE 発症マウスにおける脾細胞(MOG刺激)から分泌されるサイトカイン(IL-10,IL-5,IL-4)の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質の部分アミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項5】
以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c) 配列表の配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(d) 配列表の配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ自己抗原反応性T細胞の免疫反応抑制活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
請求項4又は5に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、請求項1〜3に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質を特異的に認識する抗体。
【請求項10】
請求項9に記載の抗体を、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパクが含まれると予想される被験試料に反応させ、該抗体と該タンパク質との免疫複合体の生成を検出することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパクの検出方法。
【請求項11】
請求項9に記載の抗体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質の検出用試薬。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質、又は該タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含む免疫抑制剤。
【請求項13】
自己免疫疾患の予防および治療のための、請求項12に記載の免疫抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−87354(P2006−87354A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277307(P2004−277307)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】