説明

免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法

【課題】免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌を界面活性剤及び炭酸塩を含有する培養培地において培養した後、死菌化させることを特徴とする、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法であり、本発明によれば、表面発現されたターゲットタンパク質の機能的な損傷防止効果に加え、増強された免疫増強効果を有する乳酸菌製剤の高濃度の生産が可能になる。本発明の方法に従い製造された死菌化乳酸菌は、生菌に比べて改善された免疫増強効果を示し、しかも量産が可能であることから、飼料添加剤、動物薬品あるいはワクチンなどとしての製品化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法に係り、より詳しくは、乳酸菌を界面活性剤及び炭酸塩を含有する培養培地において培養した後、死菌化させることを特徴とする、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の細胞表面に所望のタンパク質を付着して発現させる技術を細胞表面発現(cell surface display)技術と呼んでいる。この細胞表面発現技術は、バクテリアや酵母などの微生物の表面タンパク質を表面発現母体(surface anchoring motif)としてターゲットタンパク質を表面に発現させる技術であり、組換え生ワクチンの生産、ペプチド/抗体ライブラリの製作及びスクリーニング、全細胞吸着剤(whole cell absorbent)、全細胞生物転換触媒(whole cell biocatalyst)などの広い応用範囲を有している技術である。この技術は、細胞表面に発現させるタンパク質の種類に応じてその応用範囲が極めて広いため、産業的な応用潜在力は極めて高いと言える。
【0003】
成功的な細胞表面の発現技術のためには、表面発現母体が最も重要である。効果的にターゲットタンパク質を細胞表面に発現できる母体を選定して開発することが、この技術の核となる。下記の如き性質を有する表面発現母体が好適に用いられる。先ず第一に、ターゲットタンパク質を細胞表面まで送るために、細胞内膜を通過可能にする分泌信号があること、第二に、細胞外膜の表面に安定的にターゲットタンパク質を付着可能にする標識信号があること、第三に、細胞の表面に多量にて発現するが、細胞の成長にほとんど影響しないこと、第四に、タンパク質の大小によらずに、ターゲットタンパク質の3次元構造の変化を起こすことなく安定的に発現できること、などである。しかしながら、上記の条件をいずれも満足する表面発現母体は、未だ開発されていないのが現状である。
【0004】
これまで知られて用いられている表面発現母体としては、大きく細胞外膜タンパク質、リポタンパク質(lipoprotein)、分泌タンパク質(secretory protein)、鞭毛タンパク質などの表面機関タンパク質などの4種類がある。グラム陰性菌(Gram negative bacteria)に表面発現する場合、LamB、PhoE(Charbit et al.,J.Immunol.,139:1658,1987;Agterberg et al.,Vaccine,8:85,1990)、OmpAなどの細胞外膜に存在するタンパク質が主として用いられ、リポタンパク質となるTraT(Felici et al.,J.Mol.Biol.,222:301,1991),PAL(peptidoglycan associated lipoprotein)(Fuchs et al.,Bio/Technology,9:1369,1991)及びLpp(Francisco et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,489:2713,1992)もまた用いられている。さらに、FimAや1型線毛(fimbriae)のFimH接着因子(adhesin)などの線毛タンパク質(Hedegaard et al.,Gene,85:115,1989)、PapAピル(pilu)サブユニットなどのピリ(pili)タンパク質などが細胞表面発現母体として用いられている。
【0005】
これらの他に、氷核活性タンパク質(ice nucleation protein)(Jung et al.,Nat.Biotechnol.,16:576,1998;Jung et al.,Enzyme Microb.Technol.,22:348,1998;Lee et al.,Nat.Biotechnol.,18:645,2000)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiela oxytoca)のプルラナーゼ(pullulanase)(Kornacker et al.,Mol.Microl.,4:1101,1990)、ナイセリア(Neiseria)のIgAプロテアーゼ(Klauser et al.,EMBO J.,9:1991,1990)、大腸菌の接着因子であるAIDA−1、赤痢菌のVirGタンパク質、LppとOmpAとの融合タンパク質などが表面発現母体として用いられているという報告がある。
【0006】
グラム陽性菌(Gram positive bacteria)を用いる場合には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインA及びFnBPBタンパク質、乳酸バクテリアの表面コートタンパク質、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のM6タンパク質(Medaglini, D et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,92:6868,1995)、炭疽菌(Bacillus anthracis)のSレイヤータンパク質EA1、枯草菌(Bacillus subtilis)のCotBなどが表面発現母体として用いられている。
【0007】
本発明者らは、バチルス属菌株由来のポリγ−グルタミン酸の合成複合体遺伝子(pgsBCA)を新たな表面発現母体として用い、ターゲットタンパク質を微生物の表面に効率よく発現する新規なベクターと、前記ベクターに形質転換された微生物の表面にターゲットタンパク質を多量発現する方法を開発している(大韓民国特許登録第0469800号)。前記特許に記載されている表面発現母体を用いて病原体の抗原または抗原決定基を遺伝工学的な方法を用い、量産可能な細菌において安定的に発現しようとする研究が試みられている。特に、非病原性の細菌の表面にターゲット免疫源を発現して経口投与する場合、従来の弱毒化した病原性の細菌やウィルスを用いたワクチンよりも一層持続的でかつ強力な免疫反応を引き起こすことができるということが報告されている。
【0008】
本発明において表面発現の宿主細胞として用いられている乳酸菌は、昔から我々の食生活と深い関連性を有しながら、発酵食品などの製造に重要な役割を果たしている安全な(GRAS:generally recognized as safe)菌であり、農産物から動物の身体に至るまで自然界に広く分布している。この種の乳酸菌は、腸内有害菌の抑制作用及び浄腸作用、血中コレステロールの減少機能、栄養学的な価値の増進、病原体の感染抑制の作用、肝硬変(liver cirrhosis)の改善作用、抗ガン作用、老化抑制作用、免疫増強作用(マクロファージの活性化を通じた免疫増強作用)などの効能を有しており、その活用分野が広くなりつつある。乳酸菌が有する安全性と発酵食品に用いられる点で、ワクチン伝達体(vehicle)としての応用が試みられており、細胞が含有する多量の構成成分である非メチル化CpG DNA、リポタイコ酸、ペプチドグリカンなどが免疫補強剤(adjuvant)としての役割を果たすことから、その有用性が一層高く評価されている。さらに、乳酸菌は胆汁酸及び胃酸に抵抗性を示し、腸までの抗原が伝達可能であることから、腸内の粘膜免疫を誘起できるという点で多くの長所を有している(Trends Biotechnol.,20:508,2002)。
【0009】
上述の如く、特定のターゲットタンパク質が表面発現された乳酸菌の各種の応用分野への用途開発と学問的な研究は盛んに行われているが、産業化に必要な量産のための培養工程及び製剤化工程などに対する技術開発は極めて不足しているのが現状である。特に、タンパク質が表面発現された乳酸菌の場合、細胞膜にターゲットタンパク質が多量発現して挿入されることに起因すると見られる成長率の低下現象が現れており、最大培養時の菌体の収率も一般の乳酸菌に比べて一段と低くなるという短所を有する。さらに、カゼイン(casein)の分解と関連して良く知られている乳酸菌が有するタンパク質分解酵素システム(proteolytic system)により表面発現されたタンパク質が分解されることがある。実際に、培養中期を経てからは、表面発現されたタンパク質の量が持続的に減る傾向にあるため、製品化に向けた量産工程において必ず解決すべき問題として掲げられている(Antonie Van Leeuwenhoek,76:139,1999)。これらの問題の他にも、特定のターゲットタンパク質が表面発現された形質転換乳酸菌の場合、ターゲットタンパク質をコードする組換え遺伝子を有するプラスミドベクターを含有しており、製品化時に発生可能な問題を解決するための工程の導入も望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため、本発明者らは、前記の如き従来の技術の問題点を解決して乳酸菌製剤の免疫機能を強化するために鋭意努力した結果、乳酸菌の基本培地に界面活性剤及び炭酸塩を加え、培養時に培養液のpHを6.0〜7.0に保持しながら培養した後、死菌化させた乳酸菌製剤が生菌に比べて免疫機能が強化するということを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
そこで、本発明の目的は、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明は、(a)乳酸菌を培養する段階と、(b)前記乳酸菌培養液を熱処理する段階と、を含む免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤の製造方法を提供する。
【0013】
本発明において、前記培養に用いられる培地は、0.1〜1重量%の界面活性剤と0.01〜0.1重量%の炭酸塩をさらに含有することを特徴とし、前記界面活性剤は、ポリソルベート80であることを特徴とする。また、前記(a)段階は、pHを6.0〜7.0に保持しながら行うことを特徴とし、前記熱処理は、80〜120℃において5〜30分間行うことを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記乳酸菌は、PgsA、PgsB及びPgsCよりなる群から選ばれたいずれか1種以上の遺伝子と、ターゲットタンパク質をコードする遺伝子とを含む微生物表面発現用のベクターで形質転換されたものであることを特徴とし、前記ターゲットタンパク質は、抗原、ペプチドあるいは酵素であることが好ましく、抗原であることが一層好ましい。
【0015】
本発明はまた、前記方法により製造された死菌化乳酸菌製剤を有効成分として含有する免疫製剤を提供する。
【0016】
本発明の他の特徴及び具現例は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明においては、先ず、PCR技術及びクローニング技術を用い、α−アミラーゼ遺伝子及びPEDS(Porcine Epidemic Diarrhea Virus Spike protein)の一部をコードする遺伝子のそれぞれを含有するベクター(pJT1−PGsA−アミラーゼ及びpJT1−PGsA−PEDSs)を製作した。
【0018】
このようにして製作したベクターに乳酸菌であるカセイ菌を形質転換させ、界面活性剤(特に、ポリソルベート80)及び炭酸塩含有培地においてpHを6.0〜7.0に保持しながら培養を行った。
【0019】
乳酸菌の培養後、培養液の生菌数の測定、アミラーゼの活性測定、及びターゲットタンパク質に対するウェスタンブロットを行った結果、界面活性剤及び/または炭酸塩の添加により生菌数及びターゲットタンパク質の表面発現量が増え、pHの補正培養によりターゲットタンパク質の表面発現量及び安定度が増えてきた。
【0020】
一方、本発明に従い培養された乳酸菌の熱処理温度及び経時による生存数及び表面発現乳酸菌内の組換え遺伝子含有プラスミドの存否を調べてみた結果、本発明に従い培養された乳酸菌を100℃で20分間熱処理を行う場合、培養液内に存在する生菌が除去され、形質転換乳酸菌の細胞内に存在する組換え遺伝子含有プラスミドが除去され、しかも、死菌化により免疫機能が強化するということが確認できた。
【0021】
すなわち、本発明においては、界面活性剤(特に、ポリソルベート80)と炭酸塩を加えた培養培地を用いてpHを6.0〜7.0に保持しながら、野生型乳酸菌あるいはターゲットタンパク質が表面発現された形質転換乳酸菌を培養した後、100℃、20分間熱処理を行って死菌化させた結果、生菌あるいは菌の内部の組換え遺伝子含有プラスミドが除去され、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤を製造することができた。さらに、本発明の培養方法は、乳酸菌の量産だけではなく、ターゲットタンパク質の表面発現量及び安定度を増大させることができた。
【0022】
実施例
以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されないということは当業者にとって自明である。
【0023】
実施例1:α−アミラーゼ表面発現ベクター及び乳酸菌形質転換体の製作
カセイ菌由来のLDH(lactate dehydrogenase)遺伝子のプロモータ(promoter)である配列番号1に相当する107 bpのldhプロモータ(Sungmin F.Kim et al.Appl.Environ.Microbiol.,57:2413,1991)により発現が行われるように前記プロモータを大腸菌とカセイ菌の両方において複製可能なRepAを複製原点(replication origin)として有するベクターに挿入した後、前記プロモータの下流にバチルス由来の表面発現母体であるpgsAを導入し、pgsAのC末端にターゲット遺伝子が挿入できるBamHI、XbaI制限酵素サイトを加えてpJT1−PgsAベクターを製造した。前記ベクターを保持するための選別マーカーとしては、エリスロマイシン抵抗性遺伝子を含有している(図1)。
【0024】
ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)(ATCC 700410)由来の遺伝子としてゲノムを鋳型として用い、配列番号 2と3のプライマーを用いたPCRを通じてα−アミラーゼ遺伝子含有DNA断片を得た。
配列番号 2: 5’−tct gga tcc gat gaa caa gtg tca atg−3’
配列番号 3: 5’−cag tta tct aga tta ttt tag ccc atc−3’
【0025】
得られたDNA断片は細胞外α−アミラーゼ(extracellular α−amylase)の分泌シグナル(secretion signal)である39個のN−末端アミノ酸部位を除く残りの703個のアミノ酸をコードする配列を含有し、両末端にBamHIとXbaI制限酵素部位をそれぞれ含む2,130bpのPCR産物である。
【0026】
前記BamHIとXbaI制限酵素部位を用いてα−アミラーゼ遺伝子含有DNA断片をpJT1−PgsAベクターのPgsAのC末端に挿入することにより、乳酸菌宿主においてPgsA−α−アミラーゼ融合タンパク質を表面発現できるベクターpJT1−PgsA−アミラーゼを製造した(図1)。
【0027】
乳酸菌としてのカセイ菌(Lactobacillus casei:KCTC 3109)をα−アミラーゼ表面発現用ベクターpJT1−PgsA−アミラーゼに形質転換した後、得られたカセイ菌形質転換体が伝達されたプラスミドを有していることを確認した。表面発現されたα−アミラーゼの量は、活性の測定及びウェスタンブロットの2種類の方法により確認した。
【0028】
実施例2:PEDSc表面発現ベクター及び乳酸菌形質転換体の製作
PEDScは豚流行性の下痢ウィルス(Porcine Epidemic Diarrhea Virus;PEDV)の抗原タンパク質の一つであるスパイクタンパク質(Spike protein;S)の一部である。前記PEDScの遺伝子を合成するために、配列番号4及び配列番号5のプライマーを用いたPCRを行った。前記PCRを通じて、鋳型無しに2プライマーがアニールされた後に増幅され、両末端にBamHI及びXbaI制限酵素部位が挿入されたPEDSc遺伝子含有DNA断片が合成された。
配列番号4: 5’−tct gga tcc tgt ttt tca ggt tgt tgt agg ggt cct aga ctt caa−3’
配列番号5: 5’−tta tct aga tta gac ctt ttc aaa agc ttc gta agg ttg aag tct agg−3’
【0029】
前記BamHIとXbaI制限酵素部位を用いてPEDSc遺伝子含有DNA断片を実施例1に従い製造されたpJT1−PgsAベクターのPgsAのC末端に挿入することにより、乳酸菌宿主においてPgsA−PEDSc融合タンパク質を表面発現できるベクターpJT1−PgsA−PEDScを製造した(図2)。
【0030】
カセイ菌をPEDSc表面発現用ベクターpJT1−PgsA−PEDScに形質転換した後、得られたカセイ菌形質転換体が伝達されたプラスミドを有していることを確認した。表面発現されたPgsA−PEDSc融合タンパク質はウェスタンブロット法により確認した。
【0031】
実施例3:ターゲットタンパク質の発現及び乳酸菌の成長に対する界面活性剤の効果
実施例2の乳酸菌形質転換体(PEDSc表面発現乳酸菌)を界面活性剤ポリソルベート80入り培地において培養した後、生菌数と表面発現タンパク質の発現量の測定実験を行うことにより、界面活性剤が抗原タンパク質表面発現乳酸菌の成長及び最終生菌数と抗原タンパク質の発現量に及ぼす効果を確認した。
【0032】
カセイ菌の培養に用いられる基本培地(1%カゼイン加水分解物、1.5%酵母エキス、2%ブドウ糖(dextrose)、0.2%クエン酸アンモニウム、0.5%酢酸ナトリウム、0.01%硫酸マグネシウム、0.05%硫酸マンガン及び0.2%リン酸2カリウム)に界面活性剤ポリソルベート80を0.1、0.2、0.5、1.0%ずつ加えた後、121℃、10分間滅菌を行った。
【0033】
界面活性剤ポリソルベート80が濃度別に加えられている滅菌済み各培地を3L発酵器に2.0L分入れ、5ml、100ml培地の種培養の2段階を経てPEDSc表面発現乳酸菌を5%(v/v)接種した後、30℃、24時間培養した。
【0034】
24時間の培養時点における生菌数と表面発現タンパク質の発現量を比較した。界面活性剤ポリソルベート80が加えられていない培地において培養したものを対照群として用いた。
【0035】
表1に示すように、界面活性剤の添加濃度が高くなるほど、培養液内の生菌数は高く観察され、1.0%の界面活性剤が加えられた場合に最大値として対照群に比べて約1.8倍高い生菌数が確認された。1菌体当たり一定量のPgsA−PEDSc融合タンパク質が表面発現されているため、生菌数の増加は融合タンパク質の増加を意味し、これより、界面活性剤の添加により培養液内に表面発現されたPgsA−PEDSc融合タンパク質の量が増えるということを確認することができた。
【0036】
【表1】

【0037】
生菌数を測定した24時間の培養時点において菌体を回収してウェスタンブロット法を行うことにより、PgsAと融合されて発現されたPEDScの表面発現量を確認した。
【0038】
実験群において回収されたPgsA−PEDSc表面発現カセイ菌の全細胞を同じ細胞濃度に調節し、これらのうち一定量を抽出してタンパク質を変性して試料を用意し、これをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した後、分画されたタンパク質をPVDF(polyvinylidene−difluoride membranes;Bio−Rad)メンブレンに移した。タンパク質が移されたPVDFメンブレンをブロッキング緩衝溶液(50mMトリス塩酸、5%スキムミルク(skim milk)、pH8.0)において1時間振ってブロッキングした後、ブロッキング緩衝溶液にPgsAに対するウサギ由来のポリクローン1次抗体を1000倍希釈して12時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液により洗浄し、ブロッキング緩衝溶液にビオチンが接合されたウサギに対する2次抗体を1000倍希釈して4時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液により洗浄し、アビジン−ビオチン(avidin−biotin)を1時間反応させた後、再び洗浄した。洗浄されたメンブレンに基質(H)と発色試薬(DAB)を加えて発色を行うことにより、PgsAに対する特異抗体と前記融合タンパク質との特異的な結合を確認した(図3)。
【0039】
その結果、図3に示すように、約45.9kDaのPgsA−PEDSc融合タンパク質が検出され、検出される量は培地に加えられた界面活性剤の濃度に応じて比例的に増えていた。
【0040】
前記結果から、培地に一定濃度の界面活性剤を加える場合、ターゲットタンパク質が表面発現された乳酸菌の最大の成長値と菌体当たりタンパク質の表面発現量が両方とも増えるということが確認できた。
【0041】
実施例4:ターゲットタンパク質の発現及び乳酸菌の成長に対する炭酸塩の効果
実施例2の乳酸菌形質転換体(PEDSc表面発現乳酸菌)を炭酸塩入り培地において培養した後、生菌数と表面発現タンパク質の発現量の測定実験を行うことにより、炭酸塩が抗原タンパク質の表面発現乳酸菌の成長及び最終生菌数と抗原タンパク質の発現量に及ぼす効果を確認した。
【0042】
カセイ菌の培養に用いられる前記基本培地に0.5%の界面活性剤を加えた培地を基本とし、ここに炭酸塩を0.01、0.05、0.1%をそれぞれ加えた培地において形質転換体を24時間培養した後、最大の成長時点における生菌数と表面発現タンパク質の発現量を前記の如き方法により比較した。炭酸塩が加えられていない培地において培養したものを対照群として用いた。
【0043】
24時間の培養時点における培養液を回収して培養液内の生菌数を確認した結果、表2に示すように、炭酸塩の添加濃度が高くなるほど、培養液内の生菌数が増え、0.1%の炭酸塩が加えられた場合に最大値として対照群に比べて約8.1倍高い生菌数を得ることができた。さらに、炭酸塩の添加により培養液内に表面発現されたPgsA−PEDSc融合タンパク質の量が増えるということも確認することができた(表2)。
【0044】
【表2】

【0045】
図4に示すように、PgsAに対する抗体により特異的に検出されるPgsA−PEDSc融合タンパク質の量は、培地に加えられた炭酸塩の濃度に応じて比例的に増えるということを確認した。
【0046】
前記の結果より、培地に一定濃度の界面活性剤と炭酸塩を加える場合、ターゲットタンパク質が表面発現された乳酸菌の最大成長値及び1菌体当たりタンパク質の表面発現が両方とも増えるということを確認することができた。
【0047】
実施例5:ターゲットタンパク質の安定的な表面発現に対するpH補正培養の効果
乳酸菌の培養中に培養液のpHを6.0〜7.0に保持しながら培養した場合とそうでない場合、表面発現されたタンパク質の発現量に及ぼす影響を確めるために、実施例1によるα−アミラーゼ表面発現乳酸菌の形質転換体を用いて培養中にアミラーゼ活性の測定とウェスタンブロットを行った。
【0048】
前記培養方法に従い3L発酵器において本格培養を行った。本格培養の開始後、5時間経過時点から4時間おきに培養液を回収し、生菌数、pHの変化、アミラーゼ活性の測定、ウェスタンブロット法を行い、培養培地は基本培地(1%カゼイン加水分解物、1.5%酵母エキス、2%ブドウ糖、0.2%クエン酸アンモニウム、0.5%酢酸ナトリウム、0.01%硫酸マグネシウム、0.05%硫酸マンガン及び0.2%リン酸2カリウム)に0.5%の界面活性剤と0.1%の炭酸塩を加えて用い、抗生剤のエリスロマイシンを最終濃度が16μg/mlになるようにして培養を行った。pH補正にはアンモニア水、KOHあるいはNaOHを用いた。
【0049】
乳酸菌菌体の表面に発現されたアミラーゼの酵素の活性を測定するために活性測定用キット(Kikkoman Co.,Tokyo,Japan)を用いた。基質はN3−G5−β−CNP(2−クロロ−4−ニトロフェニル−65−アジド−65−デオキシ−β−マルトペンタオシド(maltopentaoside))を用いた。
【0050】
培養液を遠心分離して菌体だけを回収し、PBS緩衝溶液により2回洗浄した後、100μlの同じ緩衝溶液により懸濁して400μlの基質含有溶液と37℃、10分間反応させた。次いで、800μlの反応停止溶液を加えて反応を終え、400nmにおける吸光度を測定した。1ユニットの活性とは、37℃、1分間の条件下で、N3−G5−β−CNPから、400nmにおいて吸光度を示すCNP(2−クロロ−4−ニトロフェノール)が1μmole生成されるのに必要な酵素の量として定義した。
【0051】
図5において、aはpH補正及び非補正培養時のアミラーゼの活性を培養液1ml当たりユニットにて示し、各測定時点における1ml当たり培養液内の全体アミラーゼの活性の変化を比較したものであり、bはアミラーゼの活性を、培養液1ml当たりユニットを測定時点における培養液のOD値で再度割って示すものであり、各測定時点において一定量の菌体が有するアミラーゼの活性の変化を比較したものである。
【0052】
図5に示すように、pH非補正の実験群においては、アミラーゼ活性が培養開始後10〜15時間から次第に減るのに対し、pH補正の実験群の場合、培養液の全体としての活性は培養後20時間まで持続的に増加し、一定量の菌体当たりアミラーゼの活性もまた減少せずに少量増える傾向にあり、安定した発現量を示すということが分かった。培養終了時点である25時間の時点において、pH非補正の培養実験群に比べてpH補正の培養の場合、培養液1ml当たり全体としてのアミラーゼの活性は約19.2倍、一定量の菌体当たりアミラーゼの活性は17.7倍高かった。活性が表面発現アミラーゼの量に比例するため、前記結果から、pH補正培養によりタンパク質の表面発現量が増えるということが分かった。
【0053】
さらに、各時点ごとに回収された培養液サンプルを用い、上記の方法に従いアミラーゼ特異抗体を用いてウェスタンブロット法を行った(図6)。その結果、図6に示すように、アミラーゼ特異抗体により検出される表面発現されたPgsA−アミラーゼ融合タンパク質の量の変化は、図5に示す活性の測定結果と同じ傾向を示した。pH非補正の培養の場合、培養時間が経過するに伴い、発現量は次第に減り、pH補正の培養の場合、培養時間が経過しても持続的に高い発現量を示すことが確認された。
【0054】
前記の結果から、pH補正の培養により菌体表面に発現されたタンパク質の量的な増加だけではなく、安定した保持を成し遂げるということが分かった。
【0055】
実施例6:熱処理を通じた表面発現乳酸菌の死菌化
乳酸菌培養液に対する熱処理温度及び経時による残存生菌数及び表面発現乳酸菌体内の組換え遺伝子含有プラスミドの存否を確認して死菌化条件を確立した。
【0056】
生菌数はMRS個体培地に死菌化培養液を塗抹して2〜3日後に確認し、プラスミドの存否は、死菌化培養液の乳酸菌菌体を回収して水により洗浄した後、これを鋳型としてプラスミドに含まれているエリスロマイシン抵抗性の遺伝子の内部部位をN−末端部位の配列番号6とC−末端部位の配列番号7のプライマーを用いてPCRを行い、1,156bp大きさのPCR産物が検出されるかどうかにより確認した。
配列番号6: 5’−gtg tgt tga tag tgc agt atc−3’
配列番号7: 5’−ccg tag gcg cta ggg acc tct tta gc−3’
【0057】
熱処理により表面発現されたタンパク質及び菌体に変性が起こり、目的とする効能が消滅することを防止できる範囲内における処理温度及び処理時間の検討を通じて、乳酸菌培養液を100℃、20分間熱処理を行った結果、培養液内に存在する生菌が除去されていることを確認することができた。なお、形質転換乳酸菌内に含有されていた組換え遺伝子含有プラスミドが検出されなかった(図7)。
【0058】
実施例7:死菌化乳酸菌の免疫増強効果
死菌化過程を経た乳酸菌と死菌化過程を経ていない生存乳酸菌の免疫増強効果は、樹状細胞(dendritic cell)の刺激(成熟)を通じて樹状細胞から分泌されるサイトカインIL−10及びIL−12 p70のそれぞれに対するELISAキット(ヒトIL−10 Duoset ELISA Development system,ヒトIL−12 p70 Duoset ELISA Development system,R&D systems)を用いて測定した。
【0059】
実験室的に樹状細胞の刺激実験を行うためにヒトの血液サンプルから樹状細胞を得た。ヒトの血液サンプルから単核球(monocyte)をフィコール−ヒパーク(Ficoll−Hypaque)勾配分離(d=1.077g/ml)により分離を行い、1%w/v組織−培養等級の牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin)が加えられたRPMI 1640培地を加えて37℃のCO培養器において一日中培養し、付着されていた細胞を除去した。前記過程により付着されていない細胞を選別した後、GM−CSF 100ng/ml及びIL−4 10ng/mlが加えられた細胞培養液を入れた後、同様に6日間CO培養器において培養して未成熟の樹状細胞を用意した。
【0060】
このようにして用意された未成熟の樹状細胞を24ウェルプレートに5×10細胞/ウェルずつ入れた後、陰性対照群として樹状細胞だけを培養した群、陽性対照群として既知のリポ多糖体(LPS)を100ng/mlの濃度にて加えた群、1×10のカセイ菌の生菌を加えた群、死菌化工程後の1×10カセイ菌を加えた群、1×10のPEDSc表面発現カセイ菌の生菌を加えた群、死菌化工程後の1×10PEDSc表面発現カセイ菌を加えた群などを3日間同じ条件下で培養させた。培養後、それぞれの試料により処理した培養上澄み液を回収し、培養上澄み液に分泌されて存在するヒトIL−10及びヒトIL−12 p70の分泌誘導能をELISAキットを用いて測定した。
【0061】
(1)ヒトIL−10 ELISA
用意された96ウェル(抗ヒトIL−10モノクローナル抗体により予備コートされている)にIL−10標準溶液50μl(標準溶液)と培養上澄み液50μlを入れ、常温において2時間反応させた。その後、洗浄緩衝液(300μl/ウェル)により5回洗浄した後、第1次抗体であるビオチンが結合された抗ヒトIL−10ポリクローナル抗体100μlを加えて1時間常温において反応させ、洗浄緩衝液(300μl/ウェル)により5回洗浄した。次いで、第2次抗体であるアビジン−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ複合体を100μl入れて常温において30分間反応させ、7回洗浄した後、TMB発色溶液により30分間反応させた。次いで、50μlの反応終結溶液により発色を止めた。そして、450nmにおいてELISA読み取り器により測定してIL−10の分泌量を測定した。
【0062】
(2)ヒトIL−12 p70 ELISA
用意された96ウェル(抗ヒトIL−12 p70モノクローナル抗体により予備コートされている)にIL−10 p70標準溶液50μl(標準溶液)と培養上澄み液50μlを入れ常温において2時間反応させた。その後、洗浄緩衝液(300μl/ウェル)により5回洗浄した後、第1次抗体であるビオチンが結合された抗ヒトIL−12 p70ポリクローナル抗体100μlを加えて1時間常温において反応させ、洗浄緩衝液(300μl/ウェル)により5回洗浄した。次いで、第2次抗体であるアビジン−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ複合体を100μl入れ、常温において30分間反応させた後に7回洗浄し、TMB発色溶液により30分間反応させた。次いで、50μlの反応終結溶液により発色を止めた。そして、450nmにおいてELISA読み取り器により測定してIL−12 p70の分泌量を分析した。
【0063】
その結果、図8に示すように、死菌化させたカセイ菌添加群と死菌化させたPEDSc表面発現カセイ菌添加群は他の群と比較して樹状細胞から高い数値のIL−10及びIL−12 p70分泌を誘導するということを確認することができた。この結果より、死菌化乳酸菌が生存乳酸菌よりも免疫増強、特に樹状細胞の成熟誘導の面において一層優れた効果を有するということが分かった。
【0064】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、これらの具体的な記述は単なる好適な実施の様態に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されるものではないということは自明であろう。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言えるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は乳酸菌培養液を熱処理する段階を含む、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法を提供する効果がある。本発明によれば、表面発現されたターゲットタンパク質の機能的な損傷の防止効果だけではなく、増強された免疫増強効果を有する乳酸菌製剤の製造が可能になる。本発明の方法に従い製造された死菌化乳酸菌は、生菌に比べて改善された免疫増強効果を示し、しかも量産が可能であることから、飼料添加剤、動物薬品あるいはワクチンなどに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、α−アミラーゼタンパク質を表面発現する伝達ベクターであるpJT1−PgsA−アミラーゼの遺伝子マップである。
【図2】図2は、PEDScタンパク質を表面発現する伝達ベクターであるpJT1−PgsA−PEDScの遺伝子マップである。
【図3】図3は、界面活性剤入り培地において培養されたPEDSc表面発現乳酸菌において発現されたPgsA−PEDSc融合タンパク質の量をPgsAに対する特異抗体を用いたウェスタンブロット(western blot)法により確認した結果を示す図である。
【図4】図4は、炭酸塩入り培地において培養されたPEDSc表面発現乳酸菌において発現されたPgsA−PEDSc融合タンパク質の量をPgsAに対する特異抗体を用いたウェスタンブロット法により確認した結果を示す図である。
【図5】図5は、pH補正及び非補正培養時におけるアミラーゼ表面発現乳酸菌の成長とアミラーゼ酵素活性(ユニット/ml)の変化を比較して示す図である。
【図6】図6は、pH補正及び非補正培養時におけるアミラーゼ表面発現乳酸菌において発現されたPgsA−アミラーゼ融合タンパク質の量をPgsAに対する特異抗体を用いたウェスタンブロット法により確認した結果を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る死菌化処理群と非処理群において表面発現ベクターに形質転換された乳酸菌中における組換え遺伝子含有プラスミドの存否を確認したアガロースゲル写真である。
【図8】図8は、野生型乳酸菌群と表面発現ベクターに形質転換された乳酸菌群において、死菌化処理の有無によるヒト樹状細胞の刺激効果(樹状細胞の成熟)を樹状細胞の刺激により分泌されるサイトカインの量から確認した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)乳酸菌を培養する段階;及び(b)前記乳酸菌培養液を熱処理する段階と、を含む免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤の製造方法。
【請求項2】
前記培養に用いられる培地は、0.1〜1重量%の界面活性剤と0.01〜0.1重量%の炭酸塩をさらに含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリソルベート80である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記(a)段階は、pHを6.0〜7.0に保持しながら行う請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理は、80〜120℃において5〜30分間行う請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記乳酸菌は、PgsA、PgsB及びPgsCからなる群から選ばれたいずれか1種以上の遺伝子と、ターゲットタンパク質をコードする遺伝子とを含む微生物表面発現用のベクターで形質転換されたものである請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ターゲットタンパク質は、抗原、ペプチド及び酵素からなる群から選ばれたいずれか1種である請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲットタンパク質は、抗原である請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の中いずれか一項の方法により製造された死菌化乳酸菌製剤を有効成分として含有する免疫製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−131610(P2007−131610A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12977(P2006−12977)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(506010208)バイオリーダーズ コーポレーション (16)
【氏名又は名称原語表記】BIOLEADERS CORPORATION
【出願人】(505449520)株式会社 ジェノラック BL (5)
【Fターム(参考)】