説明

免疫賦活剤、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗老化剤及び皮膚化粧料

【課題】 安全性の高い天然物の中から、TNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用及び表皮角化細胞増殖促進作用を有するものを見出し、それを有効成分として含有する免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤、抗老化剤及び皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【解決手段】 免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤、抗老化剤及び皮膚化粧料に土貝母(Bolbostemma paniculata (Maxim.)Franq.)からの抽出物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の高い植物抽出物を有効成分として含有する免疫賦活剤、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗老化剤及び皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康に対する意識はますます高まりを見せている。一方で、現代社会には、不規則な生活習慣、食事の偏り、精神的ストレス等、免疫機構にダメージを与える要因が氾濫している。このようにして免疫力が低下することにより、癌、感染症、アレルギー症状等の各種疾患を誘発することが知られており、逆に免疫力が賦活されると、発癌抑制、制癌作用、抗感染症、抗アレルギー作用、さらには体調リズムの回復・恒常性維持などの様々な効果が期待できる。
【0003】
免疫機構には、多くの種類の細胞が関与しているが、特に白血球の役割は大きく、なかでもマクロファージは全動物に普遍的に存在しており、免疫応答の特に初期段階での働きを含め、あらゆる段階に関与している重要な白血球の一種である。近年、白血球の働きが物質レベルで解明されてきており、白血球の機能や細胞間相互作用は、白血球が分泌する微量タンパク質(サイトカイン)によって担われていることがわかってきた。
【0004】
サイトカインには多くの種類があり、なかでも腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン類が注目されている。それらのなかで、TNF-αに代表される炎症性サイトカインは、主にマクロファージから放出され、最終的には抗腫瘍作用等を示すことが報告されている。したがって、TNF−αの産生機能を亢進させることにより、免疫機能を賦活させ、悪性腫瘍の増殖を抑制できるものと考えられる。このような考えに基づき、TNF−α産生促進剤として、ユキノシタ科スグリ属に属する植物からの抽出物(特許文献1参照)等が提案されている。
【0005】
炎症性の疾患、例えば接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れに伴う各種皮膚疾患等の原因や発症機構は多種多様であるが、その原因として、ホスホリパーゼAの活性化、血小板凝集、ヒスタミン遊離によるものが知られている。
【0006】
血小板は、凝集して活性化することにより、生理的には止血、病理的には血栓形成を生じる他、血小板の凝集は、動脈硬化症の進展、ガン転移、炎症等に関与していると考えられている。したがって、血小板の凝集を抑制することにより、上記疾患の予防、治療又は改善をすることができるものと考えられる。このような考えに基づき、血小板凝集抑制剤として、コウサンフウ抽出物(特許文献2参照)等が提案されている。
【0007】
また、ヒスタミンは、マストセル内に存在し、脱顆粒反応により放出されたものが起炎物質として作用する。細胞内のヒスタミンが遊離されると同時にヘキソサミニダーゼも遊離されることから、ヘキソサミニダーゼの遊離を指標にヒスタミン遊離抑制作用を評価することができる。したがって、ヘキソサミニダーゼの遊離を抑制することにより、同時にヒスタミンの遊離も抑制でき、これにより炎症性疾患等の予防、治療又は改善に効果があるものと考えられる。このような考えに基づき、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤として、紅雪茶抽出物(特許文献3参照)等が提案されている。
【0008】
皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、線維芽細胞、及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するコラーゲン等の細胞外マトリックスにより構成されている。若い皮膚においては線維芽細胞の増殖は活発であり、線維芽細胞、コラーゲン等の皮膚組織の相互作用により水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、皮膚は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0009】
ところが、紫外線、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンの産生量が減少すると共に架橋による弾力性低下を引き起こす。また、線維芽細胞の増殖が遅くなり皮膚の保湿機能や弾力性が低下する。その結果、皮膚は保湿機能や弾力性が低下し、角質は異常剥離を始めるため、肌は張りや艶を失い、肌荒れ、シワ等の老化現象を呈するようになる。そのため、真皮層線維芽細胞におけるコラーゲンの産生を促進することにより、また、線維芽細胞の増殖を促進することにより皮膚の老化を防止又は改善することができると考えられる。このような考えに基づき、コラーゲン産生促進剤として、五斂子からの抽出物(特許文献4参照)等が、線維芽細胞増殖促進剤として、クスノハガシワ抽出物(特許文献5参照)等が提案されている。
【0010】
表皮は、最下層である基底層から始まって、有棘層、顆粒層、角質層へと連なる4層構造からなるが、各層に存在する大部分の細胞は、基底層から分化した角化細胞である。通常、角化細胞は基底層で産生され、徐々に上層に分化しながら移動して角質細胞となって角質層を構成し、最終的に垢として角質層から脱落していく。
【0011】
上記角質層は皮膚の最外殻に存在しており、外界からの刺激に対する物理的なバリアーとしての役割を果たしている。皮膚ではこのバリアー機能を持たせるため、角化細胞が基底層で産生されてから垢となって剥がれ落ちるまでのサイクル(角化)を通常4週間の周期で繰り返し、表皮の新陳代謝を行っている。しかしながら、この角質層も加齢によって新陳代謝機能が衰え、こじわ、くすみ、色素沈着、肌荒れ等の皮膚トラブルを発生することになる。そのため、角化細胞の増殖を促進し、肌の新陳代謝機能を回復させることにより、こじわ、くすみ、色素沈着等の皮膚の老化を改善できるものと考えられる。このような考えに基づき、表皮角化細胞増殖促進剤として、ハス胚芽抽出物(特許文献6参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2004−107660号公報
【特許文献2】特開2002−53477号公報
【特許文献3】特開2003−212789号公報
【特許文献4】特開2002−226323号公報
【特許文献5】特開2003−146837号公報
【特許文献6】特開2002−68993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、安全性の高い天然物の中から、TNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を有するものを見出し、当該天然物からの抽出物を有効成分として含有する免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤及び抗老化剤、並びに当該天然物からの抽出物を配合した皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤は、土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とし、本発明の皮膚化粧料は、土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物又は土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)の鱗片からの抽出物を配合したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の抗炎症剤においては、前記抽出物が、血小板凝集抑制作用及び/又はヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが好ましく、本発明の抗老化剤においては、前記抽出物が、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用及び表皮角化細胞増殖促進作用の群から選ばれた1種又は2種以上の作用を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、土貝母からの抽出物が有するTNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用に基づく免疫賦活効果、抗炎症効果又は抗老化効果に優れ、安全性の高い免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤、抗老化剤及び皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。
〔免疫賦活剤,抗腫瘍剤,TNF−α産生促進剤,抗炎症剤,抗老化剤〕
本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤は、土貝母(学名:Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有する。
【0017】
ここで、本発明において、「土貝母からの抽出物」には、土貝母を抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0018】
本発明において、抽出原料として使用する植物は、土貝母(学名:Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)である。土貝母は、ウリ科の多年生のよじのぼり性草本であり、その鱗茎は数個から十数個の鱗片からなる。土貝母は、中国の遼寧省、河北省、河南省、山東省、山西省等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0019】
抽出原料として使用し得る土貝母の構成部位としては、全草を用いることができ、例えば、葉部、花部、茎部、種子、鱗茎(鱗片)、根部又はこれらの混合物を用いることができる。これらのうち、鱗茎(鱗片)を抽出原料として用いるのが好ましい。
【0020】
TNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を有する土貝母からの抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。例えば、抽出原料を乾燥した後、そのまま、又は粉砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。この際、抽出原料の乾燥は天日で行ってもよいし、通常用いられる乾燥機を使用して行ってもよい。また、土貝母は、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、土貝母の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが特に好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水は、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、滅菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等の炭素数2〜5の多価アルコールが挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール1〜90質量部を混合することが好ましい。
【0025】
抽出処理は、土貝母に含有される可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができる。抽出処理の際には、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温又は還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0026】
具体的には、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて時々撹拌しながら、通常30分〜4時間静止して可溶性成分を溶出した後、濾過又は遠心分離により固形物を除去し、抽出液を得る。抽出溶媒量は、通常、抽出原料の5〜15倍量(質量比)である。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には、通常50〜95℃で1〜4時間程度であり、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、通常40〜80℃で30分〜4時間程度である。
【0027】
得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すれば、固形の抽出物が得られる。ただし、土貝母からの抽出物は、固形の抽出物にしたものである必要はなく、上記抽出液又はその濃縮液の状態であっても構わない。これら土貝母からの抽出物は、その生理活性の低下を招かない範囲で、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂、液−液向流分配等の方法により精製してから用いてもよい。
【0028】
土貝母からの抽出物は、好ましくない臭いもなく、抽出物特有の色調も有してないため、そのままでも免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤として利用可能であるが、濃縮・乾燥した剤形にして使用することもできるし、必要ならば活性の向上や脱色・脱臭を目的とする精製を施したり、任意の助剤と混合して製剤化したりして使用することもできる。
【0029】
以上のようにして得られる土貝母からの抽出物は、TNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を有しているため、それらの作用を利用して免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤の有効成分として用いることができるとともにと、血小板凝集抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、コラーゲン産生促進剤、線維芽細胞増殖促進剤又は表皮角化細胞増殖促進剤の有効成分としても用いることができる。
【0030】
本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤は、上記土貝母からの抽出物のみからなるものでもよいし、上記土貝母からの抽出物を製剤化したものでもよい。
【0031】
上記土貝母からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化して提供することができ、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。
【0032】
なお、本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤は、必要に応じて、TNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0033】
本発明の免疫賦活剤は、有効成分である土貝母からの抽出物が有するTNF−α産生促進作用を通じて、免疫機能を賦活させ、免疫機能の低下等に伴う各種疾病を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の免疫賦活剤は、これらの用途以外にも、TNF−α産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0034】
本発明の抗腫瘍剤は、有効成分である土貝母からの抽出物が有するTNF−α産生促進作用を通じて、悪性腫瘍の増殖を抑制することができる。ただし、本発明の抗腫瘍剤は、これらの用途以外にも、TNF−α産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0035】
本発明のTNF−α産生促進剤は、有効成分である土貝母からの抽出物が有するTNF−α産生促進作用を通じて、TNF−αの産生を促進することができる。ただし、本発明のTNF−α産生促進剤は、これらの用途以外にも、TNF−α産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0036】
本発明の抗炎症剤は、有効成分である土貝母からの抽出物が有する血小板凝集抑制作用及び/又はヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を通じて、炎症性疾患等を抑制することができる。ただし、本発明の抗炎症剤は、これらの用途以外にも、血小板凝集抑制作用及び/又はヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
本発明の抗老化剤は、有効成分である土貝母からの抽出物が有するコラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用及び表皮角化細胞増殖促進作用の群から選ばれた1種又は2種以上の作用を通じて、皮膚の老化症状の予防、治療又は改善をすることができる。ただし、本発明の抗老化剤は、これらの用途以外にも、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用及び表皮角化細胞増殖促進作用の群から選ばれた1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0038】
〔皮膚化粧料〕
上記土貝母からの抽出物は、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、土貝母からの抽出物又は土貝母の鱗片からの抽出物をそのまま配合してもよいし、土貝母からの抽出物から製剤化した免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤又は抗老化剤を配合してもよい。上記土貝母からの抽出物又は土貝母の鱗片からの抽出物を皮膚化粧料に配合することによって、皮膚化粧料にTNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を付与することができる。
【0039】
上記土貝母からの抽出物又は土貝母の鱗片からの抽出物を配合し得る皮膚化粧料としては、特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、リップ、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディーシャンプー等が挙げられる。
【0040】
上記土貝母からの抽出物又は土貝母の鱗片からの抽出物を皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料の種類等によって適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001〜10質量%である。
【0041】
本発明の皮膚化粧料は、土貝母からの抽出物又は土貝母の鱗片からの抽出物が有するTNF−α産生促進作用、血小板凝集抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用又は表皮角化細胞増殖促進作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することにより、より一般性のある製品となり、また、それにより、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0042】
なお、本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤、TNF−α産生促進剤、抗炎症剤、抗老化剤又は皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0044】
〔製造例1〕土貝母抽出物の製造
細切りにした土貝母の鱗片200gに抽出溶媒2000Lを加え、還流抽出器で80℃の温度条件下にて2時間加熱抽出し、熱時濾過した。残渣についてさらに同様の抽出処理を行った。得られた抽出液を合わせて、減圧下に濃縮し、乾燥して土貝母抽出物を得た。抽出溶媒として、水、50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)、80質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:4)を用いたときの各抽出物の収率を表1に示す。
【0045】
[表1]
試 料 抽出溶媒 抽出物収率(%)
1 水 52.3
2 50%エタノール 49.5
3 80%エタノール 40.1
【0046】
〔試験例1〕TNF−α産生促進作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにしてTNF−α産生促進作用を試験した。
【0047】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有DMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有DMEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0048】
培養終了後、培地を抜き、終濃度1%のDMSOを含む10%FBS含有DMEMで試料を溶解した試料溶液(試料濃度:50μg/mL)を各ウェルに200μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルの培養上清中のTNF−α量をサンドイッチELISA法により測定した。同様に、試料溶液を添加せずに培養した培養上清中のTNF−α量についても測定した。得られた結果から、以下の式により、試料溶液添加時のTNF−α産生促進率を算出した。
【0049】
TNF−α産生促進率(%)=A/B×100
ただし、上記式において、Aは「試料溶液添加時のTNF−α量」を、Bは「試料溶液無添加時のTNF−α量」を示す。
上記試験の結果を、表2に示す。
【0050】
[表2]
試 料 抽出溶媒 TNF−α産生促進率(%)
1 水 142.1±5.5
2 50%エタノール 163.5±8.9
3 80%エタノール 132.2±9.4
【0051】
表2に示すように、土貝母抽出物は、優れたTNF−α産生促進作用を有することが確認された。
【0052】
〔試験例2〕血小板凝集抑制作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにして血小板凝集抑制作用を試験した。
【0053】
(1)血小板浮遊液の調製
採血したウサギの血液に77mmol/LのEDTA(pH7.4)を1/10量加えて、遠心(180×g,10分,室温)して血小板浮遊液を得た。さらに遠心(810×g,10分,4℃)して、上清を除去して血小板を得た。これを血小板洗浄液(0.15mol/Lの塩化ナトリウム,0.15mol/Lのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)及び77mmol/LのEDTA溶液(pH7.4)を90:8:2で混合)に浮遊させ、上記と同様に遠心して、得られた血小板を145mmol/Lの塩化ナトリウム、5mmol/Lの塩化カリウム及び5.5mmol/Lのグルコースを含む10mmol/LのHEPES緩衝液(pH7.4)に浮遊させて血小板数を調整(3.0×10cells/μL)し、洗浄血小板浮遊液とした。
【0054】
(2)血小板凝集抑制作用試験
上記洗浄血小板浮遊液223μLに200mmol/Lの塩化カルシウム溶液1μLを加え、37℃の温度条件下で1分間反応させた。この反応溶液に試料溶液1μLを加え、さらに2分間反応させ、攪拌子を入れて1分間攪拌した後、コラーゲン溶液を25μL添加して、37℃の温度条件下で10分間血小板凝集率を測定した。また、コントロールとして試料溶液を添加しない以外は同様にして血小板凝集率を測定した。得られた結果から、下記の式により血小板凝集抑制率(%)を算出した。
【0055】
血小板凝集抑制率(%)=(A−B)/A×100
ただし、上記式において、Aは「試料無添加時の凝集率」を、Bは「試料添加時の凝集率」を示す。
【0056】
試料溶液の濃度を段階的に減少させて、上記血小板凝集抑制率を算出し、血小板凝集抑制率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL;ppm)の値を内挿法により算出した。
上記試験の結果を表3に示す。
【0057】
[表3]
試 料 抽出溶媒 IC50(μg/mL)
1 水 395
2 50%エタノール 388
3 80%エタノール 400
【0058】
表3に示すように、土貝母抽出物は、優れた血小板凝集抑制作用を有することが確認された。
【0059】
〔試験例3〕ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにしてヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を試験した。
【0060】
ラット好塩基球白血病細胞(RBL−2H3)を15%FBS含有S−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を4.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈し、DNP-specific IgEの終濃度が0.5μg/mLとなるようにDNP-specific IgEを添加した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、培地を抜き、シラガニアン緩衝液500μLにて洗浄を2回行った。
【0061】
次に、シラガニアン緩衝液30μL及び同緩衝液に溶解した試料溶液10μLを加え、37℃の温度条件下にて10分間静置した。その後、100ng/mLのDNP−BSA溶液10μLを加え、37℃の温度条件下にて15分間静置し、ヘキソサミニダーゼを遊離させた。その後、96ウェルプレートを氷上に静置することによりヘキソサミニダーゼの遊離を停止させた。各ウェルの細胞上清10μL及び1mmol/Lのp−ニトロフェニル−N−アセチル−α−D−グルコサミニド(p−NAG)溶液10μLを、新たな96ウェルプレートに添加し、37℃の温度条件下で1時間反応させた。反応終了後、各ウェルに0.1mol/LのNaCO/NaHCO250μLを加え、波長415nmにおける吸光度を測定した。同様にして試料を添加せずに、細胞上清10μLと0.1mol/LのNaCO/NaHCO250μLとの混合液の吸光度を測定した。また、同様にして試料を添加しp−NAGを添加せずに吸光度を測定した。得られた結果から、下記の式によりヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)を算出した。
【0062】
ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)={1−(B−C)/A}×100
ただし、上記式において、Aは「試料無添加時の吸光度」を、Bは「試料添加時の吸光度」を、Cは「試料添加・p−NAG無添加時の吸光度」を示す。
【0063】
試料溶液の濃度を段階的に減少させて、上記ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率を算出し、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL;ppm)の値を内挿法により算出した。
上記試験の結果を表4に示す。
【0064】
[表4]
試 料 抽出溶媒 IC50(μg/mL)
1 水 225
2 50%エタノール 198
3 80%エタノール 210
【0065】
表4に示すように、土貝母抽出物は、優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが確認された。
【0066】
〔試験例4〕コラーゲン産生促進作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにしてコラーゲン産生促進作用を試験した。
【0067】
ヒト正常線維芽細胞(Detroit 551)を10%FBS、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有するMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2×10cells/mLの細胞密度になるように上記MEM培地で希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、培地を抜き、0.5%FBS含有MEM培地に試料を溶解した試料溶液(試料濃度:50μg/mL)を各ウェルに150μLずつ添加し、3日間培養した。培養終了後、各ウェルの培地中のコラーゲン量をELISA法により測定した。同様にして試料溶液を添加せずにコラーゲン量を測定した。得られた結果から、下記の式により、試料溶液添加時のコラーゲン産生促進率を算出した。
【0068】
コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
ただし、上記式において、Aは「試料溶液添加時のコラーゲン量」を、Bは「試料溶液無添加時のコラーゲン量」を示す。
上記試験の結果を表5に示す。
【0069】
[表5]
試 料 抽出溶媒 コラーゲン産生促進率(%)
1 水 122.2±8.2
2 50%エタノール 153.6±10.5
3 80%エタノール 145.9±4.6
【0070】
表5に示すように、土貝母抽出物は、優れたコラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0071】
〔試験例5〕線維芽細胞増殖促進作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにして線維芽細胞増殖促進作用を試験した。
【0072】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10%FBS含有α−MEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を7.0×10cells/mLの細胞密度になるように、5%FBS含有α―MEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、5%FBS含有α−MEMで試料を溶解した試料溶液(試料濃度:12.5μg/mL)を各ウェルに100μL添加し、3日間培養した。
【0073】
線維芽細胞増殖作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。培養終了後、各ウェルから100μLずつ培地を抜き、終濃度5mg/mLでPBS(−)に溶解したMTTを各ウェルに20μLずつ添加した。4.5時間培養した後に、10%SDSを溶解した0.01mol/mLの塩酸溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、一晩培養した後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同様にして波長650nmにおける吸光度を測定し、両吸光度の差をもってブルーホルマザン生成量とした。また、同様の方法で空試験を行い補正した。補正後の各吸光度から、下記の式により線維芽細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0074】
線維芽細胞増殖促進率(%)=(St−Sb)/(Ct−Cb)×100
ただし、上記式において、Stは「試料溶液添加・細胞添加時の吸光度」を示し、Sbは「試料溶液添加・細胞無添加時の吸光度」を示し、Ctは「試料溶液無添加・細胞添加時の吸光度」を示し、Cbは「試料溶液無添加・細胞無添加時の吸光度」を示す。
上記試験の結果を表6に示す。
【0075】
[表6]
試 料 抽出溶媒 線維芽細胞増殖促進率(%)
1 水 108.8±6.3
2 50%エタノール 112.5±2.5
3 80%エタノール 102.5±7.2
【0076】
表6に示すように、土貝母抽出物は、優れた線維芽細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【0077】
〔試験例6〕表皮角化細胞増殖促進作用試験
製造例1で得られた土貝母抽出物(試料1〜3)について、以下のようにして表皮角化細胞増殖促進作用を試験した。
【0078】
正常ヒト皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.5×10cells/mLの細胞密度になるようにKGMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、培地を抜き、KGMで試料を溶解した試料溶液(試料濃度:3.125μg/mL)を各ウェルに200μL添加し、3日間培養した。
【0079】
表皮角化細胞増殖作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。培養終了後、培地を抜き、終濃度0.4mg/mLでPBS(−)に溶解したMTTを各ウェルに200μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール200μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。測定された各吸光度から、下記の式により表皮角化細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0080】
表皮角化細胞増殖促進率(%)=St/Ct×100
ただし、上記式において、Stは「試料溶液添加時の吸光度」を、Ctは「試料溶液無添加時の吸光度」を示す。
上記試験の結果を、表7に示す。
【0081】
[表7]
試 料 抽出溶媒 表皮角化細胞増殖促進率(%)
1 水 115.7±3.6
2 50%エタノール 122.2±0.8
3 80%エタノール 111.6±5.1
【0082】
表7に示すように、土貝母からの抽出物は、優れた表皮角化細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の免疫賦活剤、抗腫瘍剤及びTNF−α産生促進剤は、悪性腫瘍細胞の増殖の抑制に、本発明の抗炎症剤は、炎症性疾患等の予防、治療又は改善に、本発明の抗老化剤は、皮膚の老化症状等の予防、治療又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活剤。
【請求項2】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項3】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするTNF−α産生促進剤。
【請求項4】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項5】
前記抽出物が、血小板凝集抑制作用及び/又はヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することを特徴とする請求項4に記載の抗炎症剤。
【請求項6】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項7】
前記抽出物が、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用及び表皮角化細胞増殖促進作用の群から選ばれた1種又は2種以上の作用を有することを特徴とする請求項6に記載の抗老化剤。
【請求項8】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)からの抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項9】
土貝母(Bolbostemma paniculata(Maxim.)Franq.)の鱗片からの抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2006−56854(P2006−56854A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243001(P2004−243001)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】