説明

免震建物

【課題】地震時の横揺れに対して従前と同様の免震効果を発揮できながら、床部に作用する振動の抑制を図れるようにする。
【解決手段】建物を構成する上部構造部1と下部構造部2との間に、それぞれの柱3位置に合わせて免震装置Mを介在させてある免震建物において、上部構造部1の床部4を、スパンの中間で下部構造部2に支持させる支持装置5が設けてあり、支持装置5には、上部構造部1と下部構造部2との相対的な横移動を許容するスライド機構Sが設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物を構成する上部構造部と下部構造部との間に、それぞれの柱位置に合わせて免震装置を介在させてある免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の免震建物としては、積層ゴム支承による免震装置を、建物の上部構造部と下部構造部の柱位置に合わせて設置してある例が多く、地震等の横揺れに対しては、地盤からの振動を前記免震装置によって長周期化して建物上部構造部に伝達することによって免震効果を発揮できるように構成されている。
この積層ゴム支承の場合、水平剛性が低いほど地震の横揺れ振動の長周期化が図りやすいわけであるが、ゴム層の剛性が低いことによって、平常時に発生する微細な振動に関しては、免震装置によって増幅してしまう危険性がある。
例えば、半導体製造工場等の構造物にあっては、微細な制御や架構を行う生産機器類が設置されている関係上、微細な振動であっても障害の原因になりかねないから振動抑制を図る必要性がある。
このような技術背景から、従来の免震建物としては、免震装置として、鉛直方向・水平方向共に剛性の高い滑り支承を採用するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−2559号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の免震建物によれば、剛性の高い滑り支承を用いることによって、上部構造部の床部で生じる振動を、床部スパンの両端で支持している免震装置そのものが増幅してしまうことは抑制できる。しかしながら、床部スパンの両端を剛性の高い免震装置で支持したとしても、床部そのものが上下に振動することに関する拘束力は発揮できず、依然として床部振動の問題が残る。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、地震時の横揺れに対して従前と同様の免震効果を発揮できながら、床部に作用する振動の抑制を図ることができる免震建物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、建物を構成する上部構造部と下部構造部との間に、それぞれの柱位置に合わせて免震装置を介在させてある免震建物において、前記上部構造部の床部を、スパンの中間で前記下部構造部に支持させる支持装置が設けてあり、前記支持装置には、前記上部構造部と下部構造部との相対的な横移動を許容するスライド機構が設けてあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、前記上部構造部の床部を、スパンの中間で前記下部構造部に支持させる支持装置が設けてあり、前記支持装置には、前記上部構造部と下部構造部との相対的な横移動を許容するスライド機構が設けてあるから、前記支持装置によって床部の支持スパンを、従来に比べて小さくすることができ、床部の断面積を増加させなくても剛性を高くでき、それに伴って床部の振動を抑制することが可能となる。
しかも、支持装置に前記スライド機構を設けてあるから、地震時においては、免震装置による免震効果(横揺れ振動に対する上部構造部の長周期化)を叶える上で、前記スライド機構は、上部構造部と下部構造部との相対的な横移動を許容することができ、上述の免震装置の免震作用に悪影響を与えずに、正常に免震効果が得られるようにサポートすることができる。
従って、当該発明によれば、地震時の横揺れに対して従前と同様の免震効果を発揮できながら、床部に作用する振動の抑制を図ることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記床部は、大梁と小梁と床版とを備えて構成してあり、前記支持装置は、前記大梁、小梁、床版の何れかの中央部を支持する状態に設置されているところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記支持装置は、前記大梁、小梁、床版の何れかの中央部を支持する状態に設置されているから、支持装置で支持される大梁、又は小梁、又は床版の支持スパンが、支持装置の左右側とも同じ値となり、何れのスパンにおいても同様の振動抑制効果を発揮することが可能となる。
その結果、振動抑制効果のバラツキが少なく、効率良く床部の振動抑制を図ることが可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記支持装置には、装置高さを変更して固定できる高さ調整機構が設けられているところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、高さ調整機構を設けてあるから、支持装置の支持状態において高さ調整(支持力調整)を行うことで、その支持装置で支持される前記上部構造部の床部の剛性を変化させることができ、その結果、床部の固有振動数を変動させることが可能となる。従って、床部に加わる振動に対して、床部が共振しにくい固有振動数となるように前記高さ調整機構によって支持装置の支持力を調整し、前記床部の振動抑制を図ることが可能となる。このような作用効果は、例えば、半導体工場等において、製造設備のレイアウト変更で上載荷重が変化して、床部が振動し易い状態になるような場合にも発揮することができ、設置されている嫌振機器に悪影響を及ぼす振動が伝わるのを防止することができる。
また、異なる作用効果としては、免震装置のクリープ変形に合わせて支持装置の支持高さを容易に変更調整することが可能となり、長い期間にわたって安定した支持状態で床部の支持を叶えることができ、良好な振動抑制作用の維持を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
〔第1実施形態〕
図1、図2は、本発明の免震建物の第1番目の実施形態を示すもので、当該免震建物Bは、上部構造部1と下部構造部2との間に、上部構造部1の柱3位置に合わせて免震装置Mを介在させて構成してある。
【0014】
前記上部構造部1は、隣接する柱3にわたる状態に大梁4aが設けられると共に、並設された大梁4aの中央部にわたって小梁4bが設けられ、前記大梁4a及び小梁4bによって床版4cが一体的に支持されている。
ここでは、前記大梁4a、小梁4b、床版4cを床部4という。
【0015】
前記上部構造部1と下部構造部2との間には、前記床部4のスパンの中間を前記下部構造部2に支持させる支持装置5が設けてある。
前記支持装置5の設置平面位置は、具体的には、床部4内の小梁4bの交差部に設定してある。従って、床部4の支持スパンを、通常の柱間の全スパンに対して半分の長さにすることができ、床部4の振動を抑制することが可能となる。
そして、支持装置5は、所謂「滑り支承」として構成してあり、図3に示すように、下部構造部2に固定された金属製滑り受け部5aと、上部構造部1に固定された金属製滑り体5bとで構成してあり、前記滑り受け部5a上に前記滑り体5bが当接する状態に設置してあることで、滑り体5bは、滑り受け部5a上に沿って横移動することができる。両者の摩擦抵抗を小さくするために、滑り受け部5aの上面には樹脂コーティングを施してあり、前記滑り体5bの下面にはフッ素樹脂を設けてある。
即ち、当該支持装置5によって、上部構造部1と下部構造部2との相対的な横移動を許容しており、前記滑り受け部5aと滑り体5bとでスライド機構Sが構成されている。
【0016】
前記免震装置Mは、所謂「免震ゴム支承」として構成してあり、図4に示すように、複数の金属製薄板6aとゴム製薄板6bとを交互に積層させて一体化してある変形部6と、その変形部6の上下端面部にそれぞれ一体的に設けられた金属製固定板7とを備えて構成してある。建物の設置対象部へは、前記固定板7をボルト固定等の手段で取り付けられる。
そして、前記金属製薄板6aやゴム製薄板6b等の夫々の免震用薄板どうしが横方向に層間変位自在に形成してあることによって、地震等の横揺れに対して各薄板同士が横方向に相対移動しながら抵抗し、免震効果を発揮できるように構成してあるものである。
【0017】
本実施形態の免震建物によれば、前記支持装置5によって床部4の支持スパンを、従来に比べて小さくすることができ、床部4の振動を抑制することが可能となる。
また、地震時においては、免震装置Mによる免震効果(横揺れ振動に対する上部構造部の長周期化)を叶える上で、前記スライド機構Sは、上部構造部1と下部構造部2との相対的な横移動を許容することができ、上述の免震装置の免震作用に悪影響を与えずに、正常に免震効果が得られるようにサポートすることができる。
更には、前記支持装置5は、前記小梁4bどうしの交差部、即ち、小梁4bの中央部であり、且つ、床部4の中央部でもある位置を支持する状態に設置されているから、偏りの無い状態での支持を叶えることができ、振動抑制効果のバラツキが少なく、効率良く床部の振動抑制を図ることが可能となる。
【0018】
〔第2実施形態〕
図5は、本発明の免震建物の第2番目の実施形態を示すもので、第1実施形態の免震建物と共通する構成に関してはその説明を割愛し、異なる構成を主に説明する。
【0019】
前記床部4の構成が、先の実施形態と異なっており、矩形平面形状に設置されている四つの大梁4aの内、対向配置の二つの大梁4aにのみ、小梁4bが架設されており、前記大梁4a及び小梁4bによって床版4cが一体的に支持されている。
そして、小梁4bは、二つ設けられており、並設方向に間隔をあけて架設されている。
【0020】
一方、支持装置5は、二つの小梁4bのそれぞれ中央にあたる位置に跨って配置され、前記床部4のスパンの中間を前記下部構造部2に支持させる状態に設置されている。
【0021】
当該実施形態においても、床部4の支持スパンを短スパン化することができ、床部4の振動を抑制することが可能となる。
【0022】
〔第3実施形態〕
図6は、本発明の免震建物の第3番目の実施形態を示すもので、上述の各実施形態の免震建物と共通する構成に関してはその説明を割愛し、異なる構成を主に説明する。
【0023】
前記床部4の構成が、先の実施形態と異なっており、矩形平面形状に設置されている四つの大梁4aの内、対向配置の二つの大梁4aにのみ、小梁4bが架設されており、前記大梁4a及び小梁4bによって床版4cが一体的に支持されている。
そして、小梁4bは、一方の大梁4aの中央から他方の大梁の中央にかけて一つ架設されている。
【0024】
一方、支持装置5は、小梁4bの中央にあたる位置に配置され、前記床部4のスパンの中間を前記下部構造部2に支持させる状態に設置されている。
【0025】
当該実施形態においても、床部4の支持スパンを、通常の柱間の全スパンに対して半分の長さにすることができ、床部4の振動を抑制することが可能となる。
【0026】
〔第4実施形態〕
図7は、本発明の免震建物の第4番目の実施形態を示すもので、上述の各実施形態の免震建物と共通する構成に関してはその説明を割愛し、異なる構成を主に説明する。
【0027】
前記床部4の構成が、先の実施形態と異なっており、矩形平面形状に設置されている四つの大梁4aによって床版4cが一体的に支持されている。即ち、小梁は設けられていない。
【0028】
そして、支持装置5は、床版4cの中央にあたる位置に配置され、前記床部4のスパンの中間を前記下部構造部2に支持させる状態に設置されている。
【0029】
当該実施形態においても、床部4の支持スパンを、通常の柱間の全スパンに対して半分の長さにすることができ、床部4の振動を抑制することが可能となる。
【0030】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0031】
〈1〉 前記免震建物Bは、先の実施形態で説明した構成に限るものではなく、上部構造部1や下部構造部2の構造や形状等は、適宜設定することが可能である。
また、新築として建てられた免震建物に限るものではなく、既存の建物に、後から免震装置を設置して免震化を図った免震建物であってもよい。また、既存の免震建物に、後から、前記支持装置を取り付けて当該発明に係わる免震建物とするものであってもよい。
〈2〉 前記免震装置Mは、先の実施形態で説明した積層ゴム支承で構成したものに限るものではなく、例えば、滑り支承や、ダンパーを組み合わせたもの等、各種免震装置を採用することができる。
〈3〉 前記支持装置5は、先の実施形態で説明した構成のものに限るものではなく、適宜、その構成の変更は可能で、要するに、上部構造部1の床部4を、スパンの中間で下部構造部2に支持させるもので、更に、別体、一体に拘わらず、上部構造部1と下部構造部2との相対的な横移動を許容するスライド機構Sが設けてあるものであればよく、それらを総称して支持装置と言う。
また、この支持装置5には、別体、一体に拘わらず、装置高さを変更して固定できる高さ調整機構Jが設けてあってもよい。具体例としては、図8に示すように、高さ調整機構Jは、支持装置5の下方部(又は上方部)に設置したジャッキで構成するものが挙げられる。高さ調整機構Jを設けてあれば、支持装置5の最適な支持力が確保できる状態に高さ調整を行うことができることに加えて、例えば、高さ変更に伴う支持力の調整を行うことができる。上部構造部1への支持力を調整することで、支持装置5の軸剛性を変化させ、その支持装置5で支持される前記上部構造部の床部4の固有振動数を変動させることが可能となる。従って、床部に加わる振動に対して、床部が共振しにくい状態に支持することが可能となる。
因みに、支持装置の高さ調整機構による作用で、変化する床部の固有振動数は、床部の寸法や物性等によって異なるから、一概には値を示すことが出来ないが、支持装置による床部の支持力が大きいほど、床部の固有振動数は、高くなる傾向がある。その一例を示すと、支持装置が接当しているだけの状態で25Hzの固有振動数を示す床部に、前記支持装置によって10tの支持力を作用させたことで、固有振動数が35Hzに変化した事例がある。
また、異なる作用効果としては、免震装置が、例えば、クリープ変形を生じる可能性のある免震ゴム支承等で構成されている場合に、そのクリープ変形に合わせて支持装置5の支持高さを容易に変更調整することが可能となり、長い期間にわたって安定した支持状態で床部4の支持を叶えることができ、良好な振動抑制作用の維持を図ることが可能となる。
〈4〉 前記支持装置5の配置は、先の実施形態で説明した各実施形態のように、小梁4bや床版4cの位置に限るものではなく、例えば、大梁4aの位置に設置するものであってもよい。従って、最小単位の床部4に対して一箇所のみ支持装置5を設置することに限らず、適宜、箇所数の増加は可能である。一例としては、図9に示すように、4つの大梁4aの中間部にそれぞれ設置してもよい。
また、各床部4に対する支持装置5の配置は、大梁4a、小梁4b、床版4cの何れの場合であっても、スパンの中間であればよく、必ずしも、スパンの中央に限定されるものではない。従って、スパンの中間において、間隔をあけた複数箇所に設置するものであってもよい。
【0032】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】免震建物の要部を示す正面視断面図
【図2】免震建物の要部を示す平面図
【図3】支持装置を示す正面視模式図
【図4】免震装置を示す正面視模式図
【図5】別実施形態の免震建物の要部を示す平面図
【図6】別実施形態の免震建物の要部を示す平面図
【図7】別実施形態の免震建物の要部を示す平面図
【図8】別実施形態の免震建物の要部を示す正面視断面図
【図9】別実施形態の免震建物の要部を示す平面図
【符号の説明】
【0034】
1 上部構造部
2 下部構造部
3 柱
4 床部
4a 大梁
4b 小梁
4c 床版
5 支持装置
J 高さ調整機構
M 免震装置
S スライド機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を構成する上部構造部と下部構造部との間に、それぞれの柱位置に合わせて免震装置を介在させてある免震建物であって、
前記上部構造部の床部を、スパンの中間で前記下部構造部に支持させる支持装置が設けてあり、前記支持装置には、前記上部構造部と下部構造部との相対的な横移動を許容するスライド機構が設けてある免震建物。
【請求項2】
前記床部は、大梁と小梁と床版とを備えて構成してあり、前記支持装置は、前記大梁、小梁、床版の何れかの中央部を支持する状態に設置されている請求項1に記載の免震建物。
【請求項3】
前記支持装置には、装置高さを変更して固定できる高さ調整機構が設けられている請求項1又は2に記載の免震建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−121096(P2009−121096A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294547(P2007−294547)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】