説明

免震構造物のフェイルセーフ装置及びこのフェイルセーフ装置を備えた免震構造物

【課題】対応可能な地震の振幅ストロークの範囲又は限界を越える地震が発生した場合であっても、免震装置の破損を防止する等のフェイルセーフ機能を有するフェイルセーフ装置を提供する。
【解決手段】地盤1側に固定された一方の係止部材22と、構造物2側の横架材3に配置された他方の係止部材31と、一方の係止部材22と他方の係止部材31との双方に係止された線状体55と、他方の係止部材31を横架材3に固定する移動軸と、移動軸の上端に固定され所定の長さ以上移動軸が下方に移動することを規制するストッパ38と、ストッパ38と横架材3との間に挟まれるように配置されてなる緩衝材46、・・・、50と、を備え、地盤1側と構造物2側とが地震動により変位することにより線状体55が徐々に緊張すると、免震装置4,5による地盤1側と構造物2側との限界変位以上の変位を規制するフェイルセーフ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震の振動から構造物を保護するために使用される免震装置と共に使用される免震構造物のフェイルセーフ装置及びこのフェイルセーフ装置を備えた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、これまで地震による振動から構造物を保護するために設けられる免震装置の種類としては、例えば(1)ゴム板を重ね合わせた(又は間に鉄板を介在させた)積層ゴムにより上部構造物を下方から支持するもの(積層ゴム免震)や、(2)地震による震動をダンパー装置により吸収するもの、(3)地盤と上部構造物との間を絶縁するもの等が提案されている。そして、例えば上記(3)の絶縁方法としては、液体や磁力で上部構造物を浮上させるものや、地盤と上部構造物とを滑らせるもの(滑り支承又は滑り免震)、或いはロールベアリング等の球体を転動させるもの(コロ免震)等がそれぞれ提案され、一部では実用化されているものもある。また、従来の免震装置又は免震構造物では、上述した(1)の装置又は構造と(3)の装置又は構造を併用させたもの等も提案されている。したがって、これらの免震装置又は免震構造を採用することにより、地震の震動から構造物を保護することができ、地震による被害を回避することが可能となる。
【0003】
ところで、上述した各免震装置又は免震構造を採用する場合であっても、あらゆる地震の規模又は程度にも対応することができる構造とすることは事実上不可能である。例えば、上述した(1)の所謂積層ゴムを利用した免震装置又は免震構造とする場合では、地震による地盤側と構造物側との相対的変位長さをどの程度まで許容するか否か(最大許容範囲)は、設計上当然に決定されるべき事項である。また、上述した所謂滑り支承又は滑り免震と称される免震装置又は免震構造を採用する場合において決定されるべき滑り面を形成する部材の上面又は下面の径の長さは、振幅ストロークが長い場合でも常に効果的に免震機能を期待する場合には、それに応じた径とすることで理論上足りるが、建物の敷地面積は通常限られているとともに、施工する建物と隣接する家屋や塀その他の構造物との距離を考慮すると、無制限に広い径とすることは事実上不可能である。このことは、上述した所謂コロ免震と称される免震装置又は構造を採用する場合においても同様であり、地盤側に固定された下部支承板や構造物側に固定された上部支承板の面積を無制限に広いものとすることは、コスト面から考慮しても事実上不可能である。したがって、具体的に採用される免震装置又は免震構造は、施工する建物の敷地面積や周辺の構造物等の環境に応じて、免震可能な振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲又は限界以上の振幅ストロークを有する地震(長周期地震動など)が発生した場合には、該免震装置が破壊されたり、又はそれまで支承していた上部構造物が支承できなくなり該上部構造物のみが所定の部材上から脱落してしまう等の事態を回避するための構造又は装置を設けなければならない(所謂フェイルセーフ機能を有する技術が要求される。)。
【0004】
そこで、このように免震可能な振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲や限界以上の振幅ストロークを有する地震が発生した場合を考慮して、上記フェイルセーフ機能を有する構造を備えた免震装置や、免震装置とは別体として、こうしたフェイルセーフ機能を備えた装置が提案されている。例えば、特開平6−158912号公報(特許文献1)記載の免震装置は、下部支承板(球体ケース1B)の上面外周縁と上部支承板(球体ケース1A)の下面外周縁とからそれぞれ起立し又は垂下してなるストッパ部(内壁10)が形成され、また、該下部支承板と上部支承板とが相対的に水平移動するのを一定の範囲で規制する多数の引っ張りバネ6が構成要素とされている。この免震装置によれば、地震の振動により、間に備えた球体の転動を介して相対的に下部支承板と上部支承板とが水平移動を開始し、やがて球体がストッパ部まで到ると、該ストッパ部によりそれ以上下部支承板と上部支承板との水平移動が規制される。また、こうした下部支承板と上部支承板との水平移動は、上記多数の引っ張りバネの弾性力によっても規制されるとともに、該引っ張りバネは、この免震装置が地震発生以前の状態に復帰させる復元力としても作用する。また、上述したように、免震可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲又は限界以上の振幅ストロークを有する地震が生じた場合には、免震効果を制限する装置として、免震装置の設置位置とは離れた位置に、ダンパーやストッパ等を設けたものも提案されている。ダンパーに関しては、実公平7−23442号公報(特許文献2)に開示された鋼棒ダンパーのように、地震によるあらゆる方向の揺れに対し、鋼棒5に曲げ、捩じれ等の変形を与えることによって得られる復元力により地震による震動や衝撃を吸収するものがある。また、オイルダンパーに代表される粘性ダンパーは、シリンダとピストンと、を備え、ピストンに設けられたオリフィスをシリンダ内の流体が通過する際の粘性抵抗により地震による震動や衝撃を吸収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−158912号公報
【特許文献2】実公平7−23442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された免震装置では、免震可能な範囲を越える振幅ストロークの地震が発生した場合には、球体がストッパに衝突することとなり、衝撃の度に大きな衝撃力と衝撃音が発生することとなる。また、この免震装置では、多数の引っ張りバネによっても下部支承板と上部支承板との相対的な水平移動を規制する作用を有するが、引っ張りバネの弾性率をどのように設定するかは技術的に困難であり、取替え作業にも手間がかかることとなる。また、特許文献2に開示された鋼棒ダンパーでは、地震が強く、地盤の振幅ストロークが大きい場合には、鋼棒に残留変形が残り、地震の発生の度に交換が必要になりコスト高となる。また、粘性ダンパーを設ける場合には、あらゆる方向の地震動に対応しなければならない。すなわち、こうしたダンパーを用いる場合には、例えば東西南北に一か所ずつ設置したとしても全部で4つのダンパーが必要となる。こうしたことを考慮すると、一つの構造物に対して極めて多く設置する必要があるとともに、施工上も工期が大幅に延長され又コスト高となることから、一般の戸建住宅を対象とした場合には現実的には採用することが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来の免震装置又はダンパー等が有する種々の課題を解決するために提案されたものであって、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止する等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに上部構造物への影響も低減することができる画期的な免震構造物のフェイルセーフ装置及びこの装置が設けられてなる免震構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、免震装置により免震される免震構造物に配置されるものであって、地盤側に固定された一方の係止部材と、構造物側の横架材に配置された他方の係止部材と、これら一方の係止部材と他方の係止部材との双方に係止された線状体と、上記他方の係止部材を上記横架材に固定する移動軸と、この移動軸の上端に固定され所定の長さ以上該移動軸が下方に移動することを規制するストッパと、このストッパと上記横架材との間に挟まれるように配置されてなる緩衝材と、を備え、上記地盤側と構造物側とが地震動により変位することにより上記線状体が徐々に緊張すると、徐々に上記ストッパと横架材とにより挟まれた緩衝材が圧縮され、上記免震装置による地盤側と構造物側との限界変位以上の変位を規制することを特徴とするものである。
【0009】
上記第1の発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置は、免震装置により免震される免震構造物に配置されるものである。この免震装置は、先に説明した(1)積層ゴム免震、又は(3)滑り支承又は滑り免震若しくはコロ免震等を単体として、又は複合的に使用することができる。そして、この第1の発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置によれば、地震による振動が発生し、上記地盤側と構造物側とが相対的に変位し、これによって上記一方の係合部材と他方の係合部材とが互いに離間すると、それまで弛緩していた線状体は徐々に緊張状態となり、この結果、徐々に上記ストッパと横架材とにより挟まれた緩衝材が圧縮される。そして、免震装置による地盤側と構造物側との限界変位以上に亘って、上記地盤側(一方の係合部材)と構造物側(他方の係合部材)とが変位すると、それ以上の変位が規制される(すなわち、この時点においては免震装置による免震機能が無くなる)。
【0010】
したがって、こうした構成に係る免震構造物のフェイルセーフ装置によれば、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止する等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに上部構造物への影響も低減することができる。
【0011】
なお、この第1の発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置を構成する線状体は、少なくとも、上記一方の係合部材と他方の係合部材にそれぞれ係合していれば、例えば1本又は複数本の紐,ロープ,ワイヤ等の線状体であっても良く、或いは、リング状に成形された線状体であっても良い。また、こうした線状体の素材は鉄等の金属以外にも、アラミド繊維等の樹脂材料からなるものであっても良い。また、上記緩衝材は、少なくとも緩衝作用ないし弾性作用(或いは、低反発作用や減衰作用)を備えたものであれば良く、また、その形状も特に限定されない。また、この緩衝材の数も限定されるものではなく、例えばブロック状に成形された単一の緩衝材を構成要素としても良いことは言うまでもなく、後述する発明のように、複数であっても良い。
【0012】
次に、第2の発明(請求項2記載の発明)は、上記第1の発明において、前記緩衝材は、前記移動軸が挿通される挿通穴が形成されてなるとともに、鉛直方向に積層される複数枚の板材からなるとともに、前記ストッパは移動軸に対して着脱可能とされてなることを特徴とするものである。
【0013】
この第2の発明では、緩衝材は、前記移動軸が挿通される挿通穴が形成されてなるとともに、鉛直方向に積層される複数枚の板材からなるとともに前記ストッパは移動軸に対して着脱可能とされてなることから、緩衝材の厚みを適宜変更することができる。
【0014】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)は、上記第2の発明において、前記複数の緩衝材の内の一部は弾性率が他の緩衝材と異なることを特徴とするものである。
【0015】
この第3の発明では、複数の緩衝材の内の一部は弾性率が他の緩衝材と異なることから、前述したように、緩衝材全体がストッパと横架材とにより挟まれて圧縮されると、最も弾性率が低い緩衝材から圧縮され、徐々に弾性率の高い緩衝材が圧縮されていく。したがって、この第3の発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置によれば、免震装置による免震状態が停止される際に大きな衝撃が構造物に作用してしまう危険性をより防止することができる。
【0016】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)は、前記第1の発明に係るフェイルセーフ装置を備えた免震構造物に係り、免震装置により免震されてなる免震構造物であって、地盤側に一方の係止部材を固定し、構造物側の横架材には他方の係止部材を配置するとともに、これら一方の係止部材と他方の係止部材との双方に線状体を係止し、上記横架材に挿通穴を形成して、この挿通穴に上記他方の係止部材を固定する移動軸を挿通するとともに、この移動軸の上端に所定の長さ以上該移動軸が下方に移動することを規制するストッパを固定し、このストッパと上記横架材との間に挟まれるように緩衝材を配置し、上記地盤側と構造物側とが地震動により変位することにより上記線状体が徐々に緊張すると、徐々に上記ストッパと横架材とにより挟まれた緩衝材が圧縮され、上記免震装置による地盤側と構造物側との限界変位以上の変位を規制することを特徴とするものである。
【0017】
なお、上記緩衝材は、第2の発明のように、移動軸が挿通される挿通穴が形成されてなるとともに、鉛直方向に積層される複数枚の板材からなるとともに前記ストッパは移動軸に対して着脱可能とされてなるものであっても良いし、複数の緩衝材を構成要素とする場合には、前記第3の発明のように、複数の緩衝材の内の一部は弾性率が他の緩衝材と異なるものとしても良い。
【0018】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)は、上記第4の発明において、前記横架材は、下側平板部と上側平板部と垂直板部とを有するH型鋼であるとともに、下側平板部には垂直板部を間にして左右に前記移動軸が挿通される挿通穴が形成され、前記他方の係止部材は上記H型鋼の幅方向に長さを有してなり、前記緩衝材は、上記垂直板部の左右両側に位置してなることを特徴とするものである。
【0019】
上記第5の発明では、地盤側と構造物側とが地震動により変位し線状体に大きな張力が作用した際、最も安定した状態で所定以上の変位を規制することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)に係る免震構造物のフェイルセーフ装置や第4の発明(請求項4記載の発明)に係る免震構造物によれば、それぞれ免震装置により免震される最大の振幅ストロークを上回る程に長周期の振動が発生した場合であっても、上記免震装置が破壊されたり、又はそれまで支承していた上部構造物が支承できなくなり該上部構造物のみが所定の部材上から脱落してしまったりする事態を有効に回避することができ、しかも上記緩衝材により大きな衝撃を伴うことがない。
【0021】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)に係る免震構造物のフェイルセーフ装置では、緩衝材は、前記移動軸が挿通される挿通穴が形成されてなるとともに、鉛直方向に積層される複数枚の板材からなるとともに、前記ストッパは移動軸に対して着脱可能とされてなることから、緩衝材の厚みを適宜変更することができる。
【0022】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)に係る免震構造物のフェイルセーフ装置では、複数の緩衝材の内の一部は弾性率が他の緩衝材と異なることから、前述したように、緩衝材全体がストッパと横架材とにより挟まれて圧縮されると、最も弾性率が低い緩衝材から圧縮され、徐々に弾性率の低い緩衝材が圧縮されていく。したがって、この第3の発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置によれば、免震装置による免震状態が停止される際に大きな衝撃が構造物に作用してしまう危険性をより防止することができる。
【0023】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)に係るフェイルセーフ装置を備えた免震構造物では、地盤側と構造物側とが地震動により変位し線状体に大きな張力が作用した際、最も安定した状態で所定以上の変位を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】フェイルセーフ装置が免震構造物に配置されている状態を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示すフェイルセーフ装置が免震構造物に配置されている状態を模式的に示す正面図である。
【図3】図1に示すフェイルセーフ装置の分解斜視図である。
【図4】図1に示す状態から地震が発生し地盤側と免震構造物側とが変位した後の状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る免震構造物のフェイルセーフ装置及びこのフェイルセーフ装置を備えた免震構造物に係る実施をするための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、免震構造物の免震構造について簡単に説明し、次いで、この免震構造に用いられるフェイルセーフ装置について詳細に説明する。
【0026】
この免震構造は、図1に示すように、基礎コンクリート(以下、これを地盤という場合がある。)1と免震構造物2を構成する土台3との間に、第1の免震装置4と、第2の免震装置5とが配置されている。上記第1の免震装置4は、上記基礎コンクリート1の上面に水平に設けられた第1の支持プレート7上に固定された下部円盤プレート8と、この下部円盤プレート8と同じ形状からなる上部円盤プレート9と、上記下部円盤プレート8と上部円盤プレート9とにより挟持され図示しない多数の円盤状のゴムが積層された円柱状の積層体10とから構成されている。なお、この例では、上記土台3の下面には、固定部材11が固定され、この固定部材11の下面に固定された固定プレート12に対して上記上部円盤プレート9が符号を省略したボルト・ナットからなる複数の締結具により固定されている。
【0027】
また、上記第2の免震装置5は、上記基礎コンクリート1上に形成され、上面は平滑な滑り面とされた支承プレート14と、上端は上記土台3の下面に固定され該土台3から垂下してなるスライダー15とから構成されている。上記支承プレート14は、円盤状に成形されてなるものであり、上面には図示しないフッ素樹脂等の滑材が塗布されている。上記円盤状に成形された支承プレート14の直径の長さは、上記第1の免震装置4による免震可能な変位の範囲ないし限界に対応した長さとされている。また、上記スライダー15の下面は上記支承プレート14の上面に載置されてなるものであり、該支承プレートとの間で互いに摺接するように構成されている。これら第1及び第2の免震装置4,5は、それぞれ複数配置されてなるとともに、免震構造物2全体の荷重は、これら第1及び第2の免震装置4,5により支持されている。したがって、地震の発生により地盤側が振動すると、その加速度は大きく減衰されて免震構造物2側に伝達される(すなわち、免震される。)。
【0028】
そして、上記基礎コンクリート1上には、図1、図2又は図3に示すように、固定板21を介して一方の係止部材22が固定されている。上記固定板21は、正方形状に成形された鉄板からなるものであり、上記基礎コンクリート1に下端側が埋設されたアンカーボルト23と、このアンカーボルト23の上端に螺着されたナット24とにより該固定板21の各角部近傍にて固定されている(図3参照)。そして、上記一方の係止部材22は、図3に示すように、上記固定板21の中央に固定されてなるものであり、平面形状が長方形状となされた水平板部22aと、この水平板部22aの一端から垂下してなる一方の脚部22bと、上記水平板部22aの他端から垂下してなる他方の脚部22cとから構成され、上記一方及び他方の脚部22b,22cには、上面から下面にかけて図示しないボルト挿通穴が形成され、このボルト挿通穴には該一方の係止部材22を固定板21の上面に固定するボルト25,26が挿通されている。言うまでもなく、上記固定板21の中央近傍には、上記ボルト25,26が螺着されるネジが内周面に螺刻された図示しない二つのネジ穴が形成されている。したがって、上記一方の脚部22bと他方の脚部22cとの間であって、上記固定板21の上面により閉塞された部位には、一方の空間(符号は省略する。)が形成されている。なお、一方の係止部材22を地盤1側に固定する方法は、上記固定板21を介するのではなく、基礎コンクリート1に直接該一方の係止部材22を固定・施工しても良い。こうした方法による場合には、上記ボルト25,26は下端側を地中に埋設したアンカーボルトとし、これらのボルト25,26にナットを螺着させて固定すれば良い。
【0029】
また、この一方の係止部材22の上方であって、上記土台3には、図1及び図2に示すように、他方の係止部材31が配置されている。なお、この土台3は、H型鋼であり、上記固定板21の上面と下面が面対向してなる下側平板部3aと、この下側平板部3aの上面に下面が面対向してなる上側平板部3bと、これら下側平板部3aと上側平板部3bとをそれぞれ中心で接続してなる垂直板部3cとから構成されており、このH型鋼3の下側平板部3aには、上記垂直板部3cを間に介して、それぞれ一つずつ挿通穴3d,3eが穿設されている。
【0030】
そして、上記他方の係止部材31は、上記一方の係止部材22と同じ部材であり、水平板部31aと、この水平板部31aの一端から起立してなる一方の脚部31bと、上記水平板部31aの他端から起立してなる他方の脚部31cとから構成され、上記一方及び他方の脚部31b,31cには、上面から下面にかけてボルト挿通穴31d,31eが形成され、これらのボルト挿通穴31d,31eには、該他方の係止部材31を上記H型鋼材である土台3を構成する下側固定板21の下面に固定するボルト33,34が挿通されている。なお、これらのボルト33,34は、本発明を構成する移動軸である。
【0031】
また、上記各ボルト33,34は、上記下側平板部3bの下側からボルト挿通穴31d,31eに挿通されてなるとともに、該下側平板部3bに穿設された上記挿通穴3d,3eにも挿通されてなり、上端は該下側平板部3aの上面側に位置している。そして、これらのボルト33,34の軸部の上端側にはネジ(符号は省略する。)が螺刻されてなるとともに各ネジには、ナット37,38が螺着されている。なお、これらのナット37,38は、本発明を構成するストッパである。
【0032】
そして、上記下側平板部3bの上面と上記ナット37との間には、それぞれ上から硬質プレート39と4つの緩衝プレート40・・・43が配置され、上記下側平板部3bの上面と上記ナット38との間には、それぞれ上から硬質プレート45と4つの緩衝プレート46・・・49が配置されている。上記硬質プレート39,45はそれぞれ鉄板等の金属材料を素材としてなるものである。また、上記4つの緩衝プレート40・・・43,46・・・49は、ゴム又は樹脂により一体成形されてなるものであるとともに、この実施の形態においては、上側から下側にかけて又は下側から上側にかけて弾性率(弾性係数)が低い素材により成形されている。すわなち、これら4つの緩衝プレート40・・・43,46・・・49は、全て同じ弾性率とはされていない。また、上記4つの緩衝プレート40・・・43,46・・・49には、それぞれ上記ボルト33又は34が挿通される挿通穴40a,43a,46a,49a(一部、部号は省略する。)が形成されている。なお、上記ナット37,38の下側、上記他方の係止部材31の下側には、それぞれ座金52,53,57,58が介在されている。したがって、上記一方の脚部31bと他方の脚部31cとの間であって、上記H型鋼である土台3の下面(上記下側平板部3bの下面)により閉塞された部位には、他方の空間(符号は省略する。)が形成されている。
【0033】
また、この実施の形態では、上記一方の係止部材22と他方の係止部材31とは同じ部材であるが、これらの固定方向は、図3に示すように、互いに90度ずれた状態とされている。すなわち、この実施の形態では、上記一方の係止部材22は土台3の長さ方向と同じ方向に長さを有するように固定されているのに対し、上記他方の係止部材31は、土台3の長さ方向とは直交する方向に長さが有するように固定・配置されている。
【0034】
そして、上記一方の係止部材22と固定板21の上面との間に形成された一方の空間と、上記他方の係止部材31と上記下側平板部3bの下面との間に形成された他方の空間には、本発明を構成する線状体としてのリング状ワイヤ55が挿通されている。
【0035】
したがって、上述したフェイルセーフ装置が配置された免震構造物によれば、図1及び図2に示す状態において、地震(特に長周期の地震動)が発生することにより、地盤1側と構造物2側とが変位し、上記第1の免震装置4や第2の免震装置5によっては対応できなくなる前時点において、それまで弛緩していた上記リング状ワイヤ55は、図4に示すように緊張状態となり、さらに変位することにより上記緩衝プレート40・・・43,46・・・49が圧縮されるとともに、該緩衝プレート40・・・43,46・・・49が圧縮不能な状態となった場合は、該第1及び第2の免震装置4,5による免震状態が停止される(すなわち、地盤1側と免震構造物2側とが地震動によって動く)。また、上述した動作がされた後に、これまでとは逆方向に変位した場合には、それまで緊張状態にあったリング状ワイヤ55は、再び弛緩した状態とされるとともに、それまで圧縮されていた緩衝プレート40・・・43,46・・・49は元の状態に復帰し、再び上記リング状ワイヤ55は緊張状態となり、上記緩衝プレート40・・・43,46・・・49が圧縮される。特に、この実施の形態に係る一方の係止部材22と他方の係止部材31との方向性は、上述した通り、互いに90度ずれた状態とされていることから、先に説明した(一方の係止部材22により形成された)一方の空間と(他方の係止部材31により形成された)他方の空間とが、それぞれ長さを有するものであっても、上記リング状ワイヤ55が伸長されるタイミングにずれを生ずることを抑制することができ、ストッパ効果の発現を同時に作用させることができる。すなわち、(一方の係止部材22により形成された)一方の空間と(他方の係止部材31により形成された)他方の空間とが、それぞれ長さを有する場合、該それぞれ一方及び他方の係止部材22,31の方向性を同じにすると、例えば、その方向と同じ方向に変位が生じた場合、ストッパ効果の発現に遅れを生じ、90度ずれた方向に変位が生ずるとその遅れが生じないことから、どのような方向に変位が生じても、ストッパ効果の発現を同じようにするために、上述した90度のずれを持って互いに該一方及び他方の係止部材22,31を固定した。
【0036】
したがって、こうしたフェイルセーフ装置が配置された免震構造物によれば、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物2に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、第1及び第2の免震装置4,5が破損されてしまうことを防止する等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、上記緩衝材である緩衝プレート40・・・43,46・・・49により、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに免震構造物2への影響も大幅に低減することができる。
【0037】
特に、上記フェイルセーフ装置では、本発明を構成するストッパをナット37,38として構成し、移動軸として上記ナット37,38が螺着されるボルト33,34として構成するとともに、このボルト33,34の軸部33a,34aに上記緩衝プレート40・・・43,46・・・49を挿通したことから、上記ナット37,38の螺進状態を調節することにより線状体であるリング状ワイヤの緊張状態の設定(どれ位の変位により緊張状態とするかの設定)を調節することができるばかりか、該緩衝プレート40・・・43,46・・・49が圧縮された結果、割れやひび割れが生じた場合に交換することも容易であり、されには、複数の緩衝プレート(符号は省略する。)を減少させたり増加させたりすることも可能となる。
【0038】
なお、上記実施の形態に係るフェイルセーフ装置では、本発明を構成する緩衝材に関し、複数の緩衝プレート(符号は省略する。)により構成するばかりか、それらの緩衝プレートの弾性率をそれぞれ変えたが、本発明を構成する緩衝材は単一のものによって構成しても良い。また、上記リング状ワイヤ55は、本発明を構成する線状体の一例であるが、この線状体は、このようにリング状に成形されている必要性はなく、一本又は複数本のワイヤにより構成されていても良く、また、その素材は金属製ではなく樹脂製であっても良い。そして、こうしたワイヤの一端を一方の係止部材22に、他端を他方の係止部材31に固定しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1 (基礎コンクリート)地盤
2 免震構造物
3 土台(H型鋼)
3a 下側平板部
3b 上側平板部
3d,3e 挿通穴
4 第1の免震装置
5 第2の免震装置
22 一方の係止部材
31 他方の係止部材
33,34 ボルト
37,38 ナット
40・・・43,46・・・49 緩衝プレート
55 リング状ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置により免震される免震構造物に配置されるものであって、地盤側に固定された一方の係止部材と、構造物側の横架材に配置された他方の係止部材と、これら一方の係止部材と他方の係止部材との双方に係止された線状体と、
上記他方の係止部材を上記横架材に固定する移動軸と、この移動軸の上端に固定され所定の長さ以上該移動軸が下方に移動することを規制するストッパと、このストッパと上記横架材との間に挟まれるように配置されてなる緩衝材と、を備え、
上記地盤側と構造物側とが地震動により変位することにより上記線状体が徐々に緊張すると、徐々に上記ストッパと横架材とにより挟まれた緩衝材が圧縮され、上記免震装置による地盤側と構造物側との限界変位以上の変位を規制することを特徴とする免震構造物のフェイルセーフ装置。
【請求項2】
前記緩衝材は、前記移動軸が挿通される挿通穴が形成されてなるとともに、鉛直方向に積層される複数枚の板材からなるとともに、前記ストッパは移動軸に対して着脱可能とされてなることを特徴とする請求項1記載の免震構造物のフェイルセーフ装置。
【請求項3】
前記複数の緩衝材の内の一部は弾性率が他の緩衝材と異なることを特徴とする請求項2記載の免震構造物のフェイルセーフ装置。
【請求項4】
免震装置により免震されてなる免震構造物であって、地盤側に一方の係止部材を固定し、構造物側の横架材には他方の係止部材を配置するとともに、これら一方の係止部材と他方の係止部材との双方に線状体を係止し、
上記横架材に挿通穴を形成して、この挿通穴に上記他方の係止部材を固定する移動軸を挿通するとともに、この移動軸の上端に所定の長さ以上該移動軸が下方に移動することを規制するストッパを固定し、このストッパと上記横架材との間に挟まれるように緩衝材を配置し、
上記地盤側と構造物側とが地震動により変位することにより上記線状体が徐々に緊張すると、徐々に上記ストッパと横架材とにより挟まれた緩衝材が圧縮され、上記免震装置による地盤側と構造物側との限界変位以上の変位を規制することを特徴とする請求項1記載のフェイルセーフ装置を備えた免震構造物。
【請求項5】
前記横架材は、下側平板部と上側平板部と垂直板部とを有するH型鋼であるとともに、下側平板部には垂直板部を間にして左右に前記移動軸が挿通される挿通穴が形成され、前記他方の係止部材は上記H型鋼の幅方向に長さを有してなり、前記緩衝材は、上記垂直板部の左右両側に位置してなることを特徴とする請求項4記載のフェイルセーフ装置を備えた免震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−64477(P2013−64477A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204540(P2011−204540)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(394015154)株式会社一条工務店 (5)
【Fターム(参考)】