説明

免震構造部を有する建築物のエレベータの制御装置

【課題】地震発生時にエレベータの乗りかごを揺れの大きい免震構造部へ停止することを避けることで、乗客の安全確保と、乗りかご等の機器の損傷を防止すること。
【解決手段】エレベータの管制運転を制御する制御手段7は、揺れ検出手段2による揺れ検出時に乗りかごを最寄階に停止させる管制運転の際に、かご位置・速度・方向検出手段5からのかご位置・速度・方向情報と、免震構造部位置記憶手段3からの免震構造部位置情報と、非常停止距離記憶手段6からの非常停止時の乗りかご制動距離情報と、に基づいて、乗りかごが免震構造部に停止することを回避するように、すなわち免震構造部を通過又は手前止まりとなるように運転制御する。これにより、免震構造部への停止を回避でき、乗客の安全確保及び乗りかご等の機器の損傷防止を図ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間免震構造部を有する建築物に設置されるエレベータの制御装置に係わり、特に建築物の揺れを検出したときの運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に記載されたエレベータ運転制御装置では、中間免震構造を有する建造物に設置されるエレベータにおいて、地震発生時に走行中のかごが最寄階へ到着、停止するまでに免震構造部を通るか否かを、走行中であるかごの現在位置及び走行方向と免震構造部の位置とから判断して運転を行うような制御方式が開示されている。
【0003】
また、他の従来技術として、特許文献2に記載されたエレベータ運転装置では、地震感知器が動作したときに地震時不停止階以外の最寄階への運転を行う制御方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−75354号公報
【特許文献2】特開2000−86108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に開示の従来技術では、免震構造を有する建築物に関する地震時管制運転において免震装置位置に対するエレベータ運転制御方法に関して記載されているが、乗りかごが非常停止した位置が免震構造位置を避けることを目的とした運転制御ではない。例えば、免震構造位置に非常停止した場合は、外部にその旨を発報する手段を有しているが、揺れが続いている間、乗りかごは移動することができなく、2次被害が発生しやすい場所に留まることになり、乗客をより危険にする可能性がある。
【0006】
また、上記の特許文献2に開示の従来技術では、地震時管制運転時の不停止階制御に関して記載されているが、免震構造を有する建築物に関する地震管制運転を目的としたものではない。
【0007】
本発明の目的は、免震構造を有する建築物に対して地震等による揺れが発生した場合に、免震構造部へ停止することを避けることにより、乗客の安全確保、乗りかご等の機器の損傷を防止し、より安全を確保した動作が可能な制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
免震構造を有する建築物に設置されるエレベータの制御装置において、建築物の揺れを検出する揺れ検出手段と、前記免震構造部の位置を記憶する免震構造部位置記憶手段と、巻上げ機に連係するエンコーダからの出力信号で乗りかごの現在位置、速度及び方向を検出するかご位置・速度・方向検出手段と、非常停止による乗りかごの制動距離を記憶する非常停止距離記憶手段と、前記エレベータの管制運転を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記揺れ検出手段による揺れ検出時に乗りかごを最寄階に停止させる管制運転の際に、前記かご位置・速度・方向検出手段からのかご位置・速度・方向情報と、前記免震構造部位置記憶手段からの前記免震構造部位置情報と、前記非常停止距離記憶手段からの非常停止時の乗りかご制動距離情報と、に基づいて、前記乗りかごが免震構造部に停止することを回避するように、すなわち免震構造部を通過又は手前止まりとなるように運転制御する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震発生時にエレベータの乗りかごを揺れの大きい免震構造部へ停止することを避けることで、乗客の安全確保を図ることができ、さらに、乗りかご等の機器の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るエレベータの制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に関するエレベータ装置と免震構造部を有する建築物との関係を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係るエレベータの制御装置によるエレベータ動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るエレベータ制御装置について、図1〜図3を参照しながら以下詳細に説明する。図面において、1は揺れ検出装置からの揺れ検出信号、2は揺れ検出手段、3は免震部位置記憶手段、4は巻上げ機エンコーダ検出信号、5は乗りかご位置・速度・方向検出手段、6は非常停止距離記憶手段、7は免震構造部回避運転制御手段、10はエレベータ制御装置、21は巻上げ機、22はエンコーダ、23はエレベータ制御盤、24は乗りかご、25は免震構造部、26はマイクロコンピュータ(CPU)、をそれぞれ表す。
【0012】
図1において、本発明の実施形態に係るエレベータ制御装置10は、地震の揺れ検出装置からの揺れ検出信号1を検出する揺れ検出手段2と、建築物の免震部位置(図2の免震構造部25を参照)を記憶する免震部位置記憶手段3と、巻上げ機21の回転数、回転方向、位置情報を出力するエンコーダ22からのエンコーダ検出信号4を検出する乗りかご位置・速度・方向検出手段5と、非常停止した際の乗りかご制動距離を記憶する非常停止距離記憶手段6と、揺れ検出時に免震部位置記憶手段3と乗りかご位置・速度・方向検出手段5と非常停止距離記憶手段6の情報に基づき免震部位に乗りかごが停止することを回避する免震構造部回避運転制御手段7と、により構成されている。なお、免震構造部回避運転制御手段7は、免震構造部に乗りかごを停止するのを回避する運転制御を行うが、後述する図3の運転フローからも分かるように、当然のこととしてエレベータの通常の管制運転を制御する機能を備えているものである。
【0013】
揺れ検出装置からの揺れ検出信号1は、一般的に用いられている地震感知器によるものでよいが、例えば緊急地震速報など建屋自身の揺れ検出装置によらない手段で与えられるものでもよい。
【0014】
図2において、巻上げ機21の回転によるエンコーダ22の信号がエレベータ制御盤23に入力され、この制御盤23において乗りかご位置・速度・方向の算出が行わることにより、乗りかご24の走行を制御している。斜線部は、建築物において揺れの大きい免震構造部25を有する例を示している。制御盤23には、中央処理装置として機能するマイクロコンピュータ(CPU)26が内蔵されている。
【0015】
本実施形態に係るエレベータ制御装置における動作の概要を以下述べる。図3に地震発生時の管制運転に関するフローを示す。基本動作はエレベータ協会の地震時管制運転に因ったものである。
【0016】
地震発生時、ステップS301とステップ302においてあらかじめ地震感知器に設定した特低ガル、低ガルの検出動作をしたかどうかを判定する。特低ガル検知が動作していない場合、ステップS4に進み運転を継続する。特低ガル検知が動作していた場合はステップS302に進む。
【0017】
ステップS302にて低ガル検知が動作していた場合はステップS303に進み、エレベータが走行中であるかどうか判定する。走行中でない場合はステップS5に進みエレベータを戸開する。走行中である場合はステップS304に進み安全回路の動作確認を行う。ここで、安全回路とはブレーキ異常動作検出、ドア開閉状態異常検出、かご速度異常動作検出用回路である。安全回路の内でどれか一つでも動作していた場合はステップS6に進みエレベータを非常停止させる(階途中で)。非常停止後ステップS305に進み安全回路が正常動作に復帰したかどうか判定する。復帰しない場合はステップS7に進み運転を休止する。
【0018】
ステップS305で安全回路が正常に復帰した場合、もしくはステップS304で安全回路が動作していない場合はステップS306に進み、最寄階が免震構造位置であるかどうか判定する。
【0019】
最寄階が免震構造部でないと判断した場合はステップS8に進み、エレベータを最寄階へ運転させ停止する(免震構造部である階に比べて、免震構造部でない階は揺れが大きくないから当該階に停止する)。最寄階へ停止後はステップS5でまず戸開動作をし、乗客を非難させる。その後ステップS307へ進み、かご内へ残った乗客が脱出できるようステップS307の判定を繰り返し行われる状態にして運転を休止させる。
【0020】
最寄階が免震構造部であると判断した場合はステップS310に進み、非常停止処理を行った場合に免震構造位置に停止となるかどうかを判定する。この判定は、走行中の現在速度、位置、運転方向と各速度において非常停止した場合の制動距離により判断するものであり、免震位置に至らずに停止しない(免震位置の手前止まり)と判断されれば、ステップS10に進みエレベータを非常停止させる(階途中で)。
【0021】
免震位置に停止すると判断すればステップS311へ進み免震部位を通過するように運転を継続する。ここで、運転継続中は免震構造部通過可能位置となるまでステップS312、S313で安全回路の動作状態の判定を繰り返し行う。免震部位置通過判定後は先のステップS8へ進みエレベータを最寄階へ運転させ停止する。
【0022】
ここで、ステップS301からステップ306、ステップS310〜ステップS313、ステップS10を経てステップS8までの動作を図1に示すエレベータ制御装置との関連で繰り返して説明する。建築物に中間免震構造部25を有していてその構造部25の位置を免震部位置記憶手段3に記憶しておき、非常停止による乗りかごの制動距離を非常停止距離記憶手段6に記憶しておき、図1に示す揺れ検出手段2により特低ガルと低ガルが動作したことを検知したときに、免震構造部回避運転制御手段7は、揺れ検出手段2による揺れ検出時に乗りかごを最寄階に停止させる管制運転の際に、乗りかごの位置・速度・方向検出手段5による乗りかごの走行情報と、免震部位置記憶手段3からの免震構造部25の位置情報と、非常停止距離記憶手段6からの非常停止距離情報と、に基づいて、乗りかご24が免震構造部25に停止することを回避するように運転制御するものである。
【0023】
その運転制御を具体的に説明すると、揺れ検出時に最寄階が免震構造部25であると判定した場合(図3のS306でYES)、免震構造部の位置情報と非常停止距離情報に基づき免震構造部25の手前で非常停止可能位置と判定した場合は、乗りかご24を階途中で非常停止させること(図3のS10)、揺れ検出時に最寄階が免震構造部25であると判定した場合(図3のS310でYES)、免震構造部の位置情報と非常停止距離情報に基づき非常停止不可能位置と判定した場合は、乗りかご24が免震構造部を通過させて、次の最寄階へ停止処理(図3のS8)もしくはその後非常停止させること(図3には不図示であるが免震構造部通過後に非常停止させることは可能である)、である。このように、揺れを検知しエレベータが走行中のときに、最寄階が免震構造部である場合、種々の運転条件や動作態様を加味して免震構造部を通過又は手前止まりとなるように運転を制御するものである。
【0024】
翻って、ステップS302にて低ガル検知が動作をしていない場合、ステップS320に進み、エレベータが走行中であるかどうか判定する。走行中でない場合はステップS13に進みエレベータ乗りかごを戸開する。走行中である場合はステップS321に進み安全回路の動作確認を行う。ここで、安全回路とは上述したものと同一であり、この安全回路の内でどれか一つでも動作していた場合はステップS11に進みエレベータを非常停止させる(階途中で)。非常停止後ステップS322に進み安全回路が正常動作に復帰したかどうか判定する。復帰しない場合はステップS7に進み運転を休止する。
【0025】
ステップS322で安全回路が正常に復帰した場合、もしくはステップS321で安全回路が動作していない場合はステップS12へ進み、最寄階へ運転させ戸開する(ステップS13)。その後ステップS323へ進み、かご内へ残った乗客が脱出できるようにステップS323の判定を繰り返し、ステップS324にて特低ガル検知の動作が手動もしくは自動リセット処理すればステップS9へ進み、エレベータは平常運転となる。
【0026】
以上述べたように、本実施形態において地震感知器が低ガル検知した際において、エレベータが走行中であれば、走行中の現在速度、現在位置、運転方向、当該速度での非常停止制動距離(予め求められている距離であり非常停止距離記憶手段6に格納されている)により免震構造部の部位(箇所)に停止するかどうかを判断し、停止すると判断されれば免震構造部を回避するまで運転を継続させ、その後最寄階運転を行わせる。また、停止しないと判断されれば非常停止させるように運転を制御するようにしているため、免震構造部への停止を回避でき、乗客の安全確保及び乗りかご、塔内機器の損傷を防ぐ効果が得られる。
【符号の説明】
【0027】
1 揺れ検出装置からの揺れ検出信号
2 揺れ検出手段
3 免震部位置記憶手段
4 巻上げ機エンコーダ検出信号
5 乗りかご位置・速度・方向検出手段
6 非常停止距離記憶手段
7 免震構造部回避運転制御手段
10 エレベータ制御装置
21 巻上げ機
22 エンコーダ
23 エレベータ制御盤
24 乗りかご
25 免震構造部
26 マイクロコンピュータ(CPU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震構造を有する建築物に設置されるエレベータの制御装置において、
建築物の揺れを検出する揺れ検出手段と、前記免震構造部の位置を記憶する免震構造部位置記憶手段と、巻上げ機に連係するエンコーダからの出力信号で乗りかごの現在位置、速度及び方向を検出するかご位置・速度・方向検出手段と、非常停止による乗りかごの制動距離を記憶する非常停止距離記憶手段と、前記エレベータの管制運転を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記揺れ検出手段による揺れ検出時に乗りかごを最寄階に停止させる管制運転の際に、前記かご位置・速度・方向検出手段からのかご位置・速度・方向情報と、前記免震構造部位置記憶手段からの前記免震構造部位置情報と、前記非常停止距離記憶手段からの非常停止時の乗りかご制動距離情報と、に基づいて、前記乗りかごが免震構造部に停止することを回避するように運転制御する
ことを特徴とするエレベータ制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、揺れ検出時に最寄階が免震構造部であると判断した際、非常停止の処理を行った場合に前記乗りかごが前記免震構造部に停止するか否かを、前記免震構造部位置情報と前記かご位置・速度・方向情報と前記乗りかご制動距離情報とに基づいて判断し、前記免震構造部に停止しないと判断したときは、前記乗りかごを前記最寄階の手前で非常停止させる
ことを特徴とするエレベータ制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御手段は、揺れ検出時に最寄階が免震構造部であると判断した際、非常停止の処理を行った場合に前記乗りかごが前記免震構造部に停止するか否かを、前記免震構造部位置情報と前記かご位置・速度・方向情報と前記乗りかご制動距離情報とに基づいて判断し、前記免震構造部に停止すると判断したときは、前記乗りかごが前記最寄階を通過するように運転制御し、次の最寄階で前記乗りかごを停止させる
ことを特徴とするエレベータ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate