説明

免震装置用の免震プラグの製造方法及び免震プラグ、並びに、その製造装置

【課題】材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグ、その製造方法、並びにかかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供する。
【解決手段】粉体材料2を一対のスタンパ5で挟み込んで加圧成形する免震プラグ9の製造方法において、少なくとも2回の加圧成形を、スタンパ5の軸線方向Xにて垂直断面視したときに、スタンパの中央部12が加圧方向に突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ6、及び、スタンパの中央部12が加圧方向とは反対の方向に陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパ7を用いて行うにあたり、それらスタンパ6、7により加圧成形した後に、スタンパ6、7を、その軸線中心に回転させてから再度加圧成形を行なう免震プラグの製造方法である。また、かかる製造方法を用いて製造される免震プラグ6である。更に、かかる製造方法を実施し得る金型3及びスタンパ5を具える製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグを製造する方法、その製造方法を用いて製造した免震プラグ、並びにかかる製造方法を実施するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム等の粘弾性的性質を有する軟質板と、鋼板等の硬質板とを交互に積層した免震構造体が、免震装置の支承等として使用されている。このような免震構造体の中には、例えば、軟質板と硬質板とからなる積層体の中心に中空部を形成し、該中空部の内部に免震プラグが圧入されたものがある。
【0003】
上記免震プラグとしては、全体が鉛からなるものが使用されることが多い。そして、地震の発生に伴って積層体が剪断変形する際に、かかる免震プラグが、塑性変形することで振動のエネルギーを吸収する。しかしながら、鉛は、環境負荷が大きく、また、廃却時等に要するコストが大きい。そのため、鉛の代替材料を使用し、且つ、充分な減衰性能、変位追従性等を有する免震プラグの開発が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉛免震プラグに代えて、塑性流動材及び硬質充填材からなり、硬質充填材の隙間を塑性流動材で充填するようにした粉体材料を積層体の中空部に封入した免震装置が提案されている。かかる免震装置の免震プラグは、鉛免震プラグと同様、長期の使用に際しても、その減衰性能及び変位追従性が安定して確保される。なお、塑性流動材としては、天然ゴムやアクリルゴムなどがあり、硬質充填材としては、ステンレス鋼粉、鉄粉などの金属粉体などがある。かかる免震プラグは、金型内に充填された粉体材料を、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより所定の面圧にて加圧成形することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の免震プラグを具える免震装置は、鉛からなる免震プラグを使用することなく、減衰特性及び変位追従性が長期にわたり安定して確保されている。しかし、近年の建設物の大型化、高層化を背景に、免震装置には、更なる性能向上が求められており、そのことから、免震装置の減衰特性及び変位追従性の更なる向上が希求されている。また、特許文献1には、この免震プラグの製造方法についても言及されているが、その製造方法は、一般的な粉体材料の加圧成形法の域を出るものではない。
【0007】
そこで、この発明の目的は、これまで充分に着目、検討されてこなかった免震プラグの製造方法について改良を図ることにより、材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を更に向上させ得る免震プラグを有利に製造する方法を提供することにある。また、この発明の更なる目的は、かかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、第一発明は、金型内に充填された粉体材料を、一対のスタンパを用いて挟み込んで加圧成形する免震プラグの製造方法において、かかる加圧成形を複数回行い、複数回の加圧成形のうち、少なくとも2回の加圧成形を、スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ、及び、スタンパの中央部が加圧方向とは反対の方向に陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパを用いて行うにあたり、該凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて加圧成形した後に、凸状スタンパ及び凹状スタンパを、スタンパの軸線中心に回転させ、回転した凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて再度加圧成形を行なうことを特徴とする免震プラグの製造方法である。なお、ここでいう「V字型の加圧面を有する凸状スタンパ」とは、全体としてみたときの加圧面の形状がスタンパの中央部が加圧方向に突出したV字型である、波状や曲率を有する略V字型の加圧面を有するスタンパを含むものである。また、ここでいう「V字型の加圧面を有する凹状スタンパ」とは、全体としてみたときの加圧面の形状がスタンパの中央部が加圧方向に陥没したV字型である、波状や曲率を有する略V字型の加圧面を有するスタンパを含むものである。
【0009】
ここで、第一発明において、凸状スタンパが、加圧方向側に位置する頂辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔形スタンパであり、凹状スタンパが、加圧方向最外端よりも内方に位置する底辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔溝形スタンパであることが好ましい。
【0010】
また、第一発明において、凸状スタンパ及び凹状スタンパを該スタンパの軸線中心に回転させ、回転した凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて再度加圧成形を行なう工程において、かかる回転角度を90°とし、かつ、かかる工程を4回行うことが好ましい。
【0011】
更に、第一発明において、凸状スタンパ及び凹状スタンパは、スタンパの加圧面の中央部が90°に屈曲してなることが好ましい。
【0012】
更にまた、第一発明において、凸状スタンパ及び凹状スタンパにより加圧成形した後に、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する一対の平面スタンパにより加圧成形することが好ましい。
【0013】
加えて、粉体材料は、塑性流動材及び硬質充填材からなることが好ましい。
【0014】
第二発明は、上述した第一発明の免震プラグの製造方法を用いて製造される免震プラグである。
【0015】
第三発明は、粉体材料が充填される金型、及び金型内の粉体材料を挟み込んで加圧成形する加圧面を有する対向する一対のスタンパを具える、免震装置用の免震プラグの製造装置において、かかる一対のスタンパは、一対のスタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ、及び、スタンパの中央部が加圧方向とは反対の方向に陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパからなり、凸状スタンパ及び凹状スタンパは、スタンパの軸線を中心に回転可能であることを特徴とする免震プラグの製造装置である。
【0016】
ここで、第三発明において、凸状スタンパが、加圧方向側に位置する頂辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔形スタンパであり、凹状スタンパが、加圧方向最外端よりも内方に位置する底辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔溝形スタンパであることが好ましい。
【0017】
また、第三発明において、凸状スタンパ及び凹状スタンパに加え、スタンパの加圧方向に対して垂直な加圧面を有する対向する一対の平面スタンパを更に具えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、鉛の代替材料である粉体材料を加圧成形する際に、該粉体材料の流動が強制されるために、空気含有率の小さい成形品を得ることができる。従って、免震装置の減衰性能及び変位追従性の向上に大きく寄与する免震プラグを提供することが可能となる。また、空気含有率の小さな免震プラグを製造するために適した製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)〜(i)は、この発明に従う免震プラグの製造工程を示した図である。
【図2】(a)は、この発明に従って製造された免震プラグを圧入した免震装置の上面図であり、(b)は、かかる免震装置の断面図である。
【図3】免震プラグの製造に用いる凸状スタンパの一例(楔形スタンパ)の先端部の形状を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図4】免震プラグの製造に用いる凹状スタンパの一例(楔溝形スタンパ)の先端部の形状を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図5】(a)は、充分に圧縮されていない粉体材料の硬質充填材の相互配置を模式的に示した図であり、(b)は、充分に圧縮された粉体材料の硬質充填材の相互配置を模式的に示した図である。
【図6】(a)及び(b)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程にて使用される一対のスタンパを示した図である。
【図7】(a)及び(b)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程にて使用される一対のスタンパを示した図である。
【図8】(a)〜(h)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照しつつ、この発明の実施形態を説明する。図1(a)〜(i)は、この発明に従う免震プラグの製造工程を示した図である。図2(a)は、この発明に従って製造された免震プラグを圧入した免震装置の上面図であり、図2(b)は、かかる免震装置の断面図である。図3(a)〜(c)は、免震プラグの製造に用いる楔形スタンパの先端部の形状を示す正面図、側面図および平面図であり、図4(a)〜(c)は、免震プラグの製造に用いる楔溝形スタンパの先端部の形状を示す正面図、側面図および平面図である。図5(a)は、充分に圧縮されていない粉体材料の硬質充填材の相互配置を模式的に示した図であり、図5(b)は、充分に圧縮された粉体材料の硬質充填材の相互配置を模式的に示した図である。図6(a)及び(b)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程において使用される一対のスタンパを示した図である。図7(a)及び(b)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程において使用される一対のスタンパを示した図である。図8(a)〜(h)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程を示した図である。
【0021】
この発明に従う免震プラグの製造装置1は、図1に示すように、塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料2が充填される円筒形状の金型3、並びにかかる金型3内の粉体材料2を加圧するための対向する一対のスタンパ5を、合計2対具える。図1(a)〜(f)に示す対向する一対のスタンパ5は、その中心部が加圧方向へ突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ6と、その中心部が加圧方向に対し陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパ7とよりなり、それらスタンパ6、7は、スタンパの軸線Xを中心に回転可能である。
【0022】
より具体的には、凸状スタンパ6は、粉体材料を加圧する側の先端部の正面図を図3(a)に、側面図を図3(b)に、平面図を図3(c)にそれぞれ示すように、加圧方向側(図3(a),(b)では上側)に突出して位置する頂辺61で交差する二つの平面62a,62bを加圧面として有する楔形スタンパである。即ち、凸状スタンパ6の先端部では、頂辺61に直交する断面(スタンパの軸線方向にて垂直断面視した際の断面)が、加圧方向に凸のV字形をしており、頂辺61の延在方向および加圧方向の双方に直交する方向(図3(a)では左右方向)の凸状スタンパ6の幅が、頂辺61に向かって漸減している。
なお、図3に示す凸状スタンパ6では、金型に対して凸状スタンパ6を真っ直ぐに挿入し易くする観点から、頂辺61を平面視で凸状スタンパ6の中央に位置させている。しかし、本発明の免震プラグの製造方法では、平面視における頂辺61の位置が中央からオフセットした凸状スタンパ(楔形スタンパ)を用いても良い。また、図3に示す凸状スタンパ6では、頂辺61が加圧方向に直交しているが、本発明の免震プラグの製造方法では、頂辺が加圧方向に対して傾斜した楔形スタンパを凸状スタンパとして用いても良い。更に、凸状スタンパ6の二つの平面62a,62bが交差する角度は、適宜変更することができる。
【0023】
また、凹状スタンパ7は、粉体材料を加圧する側の先端部の正面図を図4(a)に、側面図を図4(b)に、平面図を図4(c)にそれぞれ示すように、加圧方向側(図4(a),(b)では上側)とは反対側に窪んで位置する底辺71(換言すれば、凹状スタンパ7の加圧方向最外端73a,73bよりも内方に位置する底辺71)で交差する二つの平面72a,72bを加圧面として有する楔溝形スタンパである。即ち、凹状スタンパ7の先端部には、底辺71に直交する断面の形状がV字形の溝が形成されている。そして、凹状スタンパ7の先端部は凸状スタンパ(楔形スタンパ)6の先端部の形状に対応した形状となっており、凹状スタンパ7の断面V字形の溝は、凸状スタンパ6の加圧方向に凸のV字形断面に対応した形状をしている。
なお、図4に示す凹状スタンパ7では、凹状スタンパ7の形状を凸状スタンパ6の形状に対応させる観点から底辺71を平面視で凹状スタンパ7の中央に位置させているが、本発明の免震プラグの製造方法では、平面視における底辺71の位置が中央からオフセットした凹状スタンパ(楔溝形スタンパ)を用いても良い。また、図4に示す凹状スタンパ7では、底辺71が加圧方向に直交しているが、本発明の免震プラグの製造方法では、底辺が加圧方向に対して傾斜した楔溝形スタンパを凹状スタンパとして用いても良い。更に、凹状スタンパ7の二つの平面72a,72bが交差する角度は、適宜変更することができる。
【0024】
また、図1(g)及び(h)に示す、上記凸状スタンパ6および凹状スタンパ7よりなる一対のスタンパとは別の対向する一対のスタンパ5は、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパ8よりなる。
【0025】
かかる製造装置1を用いて、図1(a)〜(i)の製造工程に示すように、金型3内に充填された粉体材料2を、上記した2対のスタンパ5により順次加圧することで免震装置用の免震プラグ9を成形する。以下にその詳細を説明する。
【0026】
まず、図1(a)に示すように、金型3内に、免震プラグ9の材料となる、塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料2を充填する。次いで、図1(b)に示すように、凸状スタンパ6を白抜きの矢印の方向に移動させて、楔形の加圧面により粉体材料2を加圧成形し、粉体材料2の一方の受圧面10の形状を、金型側の中央部12にて陥没した形状(楔溝形)に変形させる。このとき、粉体材料2の他方の受圧面の形状は、金型側の中央部12にて突出した形状(楔形)となっており、凹状スタンパ7により下方から粉体材料2が加圧成形されることとなる。そうすることにより、粉体材料2の両受圧面の形状が、中央部12が加圧方向に対し陥没した形状のものと、中央部12が加圧方向に対し突出した形状のものとになる。次いで、図1(c)に示すように、凸状スタンパ6及び凹状スタンパ7を加圧方向とは反対の方向に引き上げてから、図1(d)に示すように、凸状スタンパ6と凹状スタンパ7を、各スタンパ6、7の軸線Xを中心に、例えば、90°回転させることにより、最初の加圧成形にて与えられた受圧面10に対向する加圧面の形状を初回とは異なる形状に変更させる。次いで、図1(e)に示すように、再度、スタンパ6及び7を矢印の方向に移動させて、加圧面により粉体材料2の受圧面10を加圧し、粉体材料2の加圧方向に対して斜めの流動を促しつつ、粉体材料2の受圧面10の形状を新たな加圧面の形状に対応する形状に変形させる。このとき、粉体材料2の両受圧面10、10が異なる形状へと変形することから、粉体材料2の流動が全体に強く促される。そして、図1(f)に示すように、凸状スタンパ6及び凹状スタンパ7を加圧方向とは反対の方向に引き上げてから、図1(g)に示すように、それら凸状スタンパ6及び凹状スタンパ7を、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパ8に置き換える。次いで、図1(h)に示すように、対向する一対の平面スタンパ8を白抜きの矢印の方向に移動させて、それらの加圧面により粉体材料2の受圧面10を加圧成形することにより、粉体材料2の流動を促しつつも、その受圧面10の形状を平面状とし、その形状を整える。この加圧工程では、前記受圧面10における変形量が大きくなることから、粉体材料2の流動が全体に強く促されることとなり、その結果、空気含有率を小さくした免震プラグ9が得られる。そして、このように加圧成形された免震プラグ9は、図1(i)に示すように、金型3から抜き出され、免震装置13への圧入に供される。かかる免震装置13としては、例えば、図2(a)及び図2(b)に示すような、ゴム板14と鋼板15とを交互に積層した積層体を具え、装置中央に免震プラグ9を配置した構造を有する免震装置13がある。
【0027】
一般に、免震プラグの減衰性能及び変位追従性を向上させるには、プラグ内の空気含有率を小さくすることが有効である。しかし、粉体材料が、ゴムなどの粘性を有する塑性流動材を含む場合、粉体材料の流動性が低下し、粉体材料内の空気が抜けにくい。従来の免震プラグの製造方法では、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより粉体材料を所定の面圧にて加圧して免震プラグを成形していたことから、受圧面から離隔するほどに、粉体材料に負荷される圧縮力が小さくなる。そのことに伴い、受圧面から離隔するほどに、粉体材料の空気含有率が大きくなっていた。すなわち、粉体材料の相互配置は、粉体材料が充分に流動しない領域においては、図5(a)に示すように、粉体材料(特に、硬質充填材B)相互間の隙間が大きく、空気の残留し易い配列となっており、その空気含有率が大きい。一方、粉体材料が充分に流動する領域においては、図5(b)に示すように、粉体材料(特に、硬質充填材B)相互間の隙間が小さく、空気が残留し難い配列となっており、その空気含有率が小さい。かかる空気含有率の差により、免震プラグ内における硬度がばらつくこととなり、免震プラグ内における硬度の均一性が低下する。このように、免震プラグ内における硬度の均一性が低下すると、積層ゴム変形時の変形量が領域によって異なってしまい、変位追従性が低下する可能性がある。
このことから、発明者は、粉体材料の流動を全体に強く促し、粉体材料(特に、硬質充填材B)間の隙間を小さくして、粉体材料全体を図5(b)に示すような空気が残留し難い最密配置とすることにより、免震プラグの空気含有率を小さくし、硬度の均一性を向上させ、減衰性能及び変位追従性を向上し得ることを見出した。
【0028】
粉体材料の流動を全体に強く促し、免震プラグの空気含有率を小さくすることを達成する手段として、上述の製造方法を採用した。上述したような工程により粉体材料2を加圧成形すると、粉体材料2が図1(b)、(e)及び(h)の黒い矢印にて示すような方向に積極的に流動することとなり、粉体材料2の流動が全体に強く促され、粉体材料2(特に、硬質充填材B)間の隙間が小さくなるため、粉体材料2全体が図5(b)に示すような配置となる。その結果、免震プラグ9の空気含有率が全体に均一に小さくなり、かかる免震プラグ9を圧入した免震装置13は、減衰性能及び変位追従性がともに向上する。なお、加圧成形の際の粉体材料2の流動を強く促し、粉体材料2の空気含有率を有効に低下させる観点からは、楔形の凸状スタンパ6及び楔溝形の凹状スタンパ7を用いることが好ましく、凸状スタンパ6及び凹状スタンパ7の加圧面の中央部が夫々90°にて屈曲(交差)していることが更に好ましい。凸状スタンパ6と凹状スタンパ7とを組み合わせた対向する一対のスタンパ5の加圧面の形状は、図1に示す形状に限定されるものではなく、例えば、図6(a)及び(b)に示すように、凸状スタンパ6の突出した加圧面を曲率を有する形状とし、凹状スタンパ7の陥没した加圧面を曲率を有する形状としたり、あるいは、図7(a)及び(b)に示すように、凸状スタンパ6の突出した加圧面をその先端に向かって段階的に縮径するような階段形状とし、凹状スタンパ7の陥没した加圧面をその先端に向かって段階的に拡径するような形状としたりすることが可能である。
【0029】
また、粉体材料2の空気含有率を全体に均質に低下させる観点から、図1(c)〜(e)に示す工程αを4回繰り返す、すなわち、凸状スタンパ6及び凹状スタンパ7を、スタンパ6、7の軸線Xを中心に90°回転させてから加圧成形する工程を4回行なうことが好ましい。
【0030】
この発明に従うその他の免震プラグの製造方法としては、図8(a)〜(h)に示すような製造方法が挙げられる。図8(a)〜(f)までの工程は、図1(a)〜(f)までの行程と同一である。図8(f)の行程により得られた免震プラグ9は、免震装置13への圧入にそのまま供することも可能であるが、更に、図8(g)〜(h)に示す工程によって成形することが好ましい。すなわち、図8(g)に示すように、粉体材料2を、金型3から抜き出し、図中の点線に沿って、受圧面10の突出した部分を切断することで、粉体材料2の形状を整え(加圧方向に直交する平面状とし)、図8(h)に示すような免震プラグ9の成形が完了する。
【0031】
上記してきた粉体材料2を構成する塑性流動材に含まれる物質としては、(天然ゴム、ポリブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ポリウレタン、ウレタン系エラストマーなどの)エストラマー成分、(ロジン樹脂、フェノール樹脂などの)樹脂、カーボンブラック、(フタル酸、マレイン酸、クエン酸などの)可塑剤、(ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油などの)軟化剤などが挙げられる。また、硬質充填材に含まれる物質としては、銅粉、ステンレス鋼粉、ジルコニウム粉、タングステン粉、青銅粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、モリブデン粉、チタン粉、鉄粉などの金属粉体や金属化合物が挙げられる。なお、塑性流動材と硬質充填材の夫々について選定される材料の組成、含有率、組み合わせ等は、免震プラグ9に所望される性能に応じて適宜変更することができる。
【0032】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したにすぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、図示例では、粉体材料2の受圧面10を異なる形状に3回圧縮変形させて免震プラグ9を製造しているが、所望の空気含有率に応じて、かかる圧縮工程を更に繰り返し実施することも可能である。また、スタンパの加圧面の形状や、該スタンパを回転させる角度は、特に限定されることなく、粉体材料の受圧面の形状を異なる形状に変形させることができる形状および角度とすることができる。
【実施例】
【0033】
次に、一対の平面スタンパにより加圧成形することにより製造した免震プラグ(従来例免震プラグ)、図1に示したところに従うこの発明の製造方法を用いて製造した免震プラグ(実施例免震プラグ)、を夫々試作し、それらの性能評価を行ったので、以下に説明する。
【0034】
従来例免震プラグは、以下に説明する方法により製造した。はじめに、理論比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.6mmの円筒状の金型内に0.5kg充填する。それから、一対の平面スタンパを金型内に押し込むように水平方向に移動させて、粉体材料の流動を促しつつ、123.5N/mmの面圧にて加圧成形する。かかる加圧成形を3回繰り返すことで免震プラグを製造した。
【0035】
実施例免震プラグは以下に説明する方法により製造した。はじめに、図1(a)に示すように、理論比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.6mmの円筒状の金型内に0.5kg充填する。それから、図1(b)に示すように、凸状スタンパ及び凹状スタンパを矢印の方向に移動させて、スタンパを金型内に押し込むように水平方向に移動させて、粉体材料の流動を促しつつ、123.5N/mmの面圧にて加圧成形する。次いで、図1(c)〜(e)に示すように、凸状スタンパ及び凹状スタンパを軸線中心に90°回転させて、再度スタンパを金型内に押し込むように水平方向に移動させて、粉体材料の流動を促しつつ、123.5N/mmの面圧にて加圧成形する。そして、図1(f)及び(g)に示すように、凸状スタンパ及び凹状スタンパを平面スタンパに置き換えて、平面スタンパを金型内に押し込むように水平方向に移動させて、粉体材料の流動を促しつつ、123.5N/mmの面圧にて加圧成形することで免震プラグ(図1(i))を製造した。
【0036】
【表1】

【0037】
*1 (天然ゴム)
未加硫、RSS#4
*2 (ポリブタジエンゴム(低シス))
未加硫、旭化成製「ジエンNF35R」
*3 (カーボンブラック)
ISAF、東海カーボン製「シースト6P」
*4 (樹脂)
日本ゼオン製「ゼオファイン」、新日本石油化学製「日石ネオポリマー140」、丸善石油化学製「マルカレッツM−890A」、「ゼオファイン」:「日石ネオポリマー140」:「マルカレッツM−890A」=40:40:20(質量比)
*5 (可塑剤)
ジオクチルアジペート(DOA)
*6 (その他の配合剤)
亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤[住友化学製「アンステージ6C」]、ワックス[新日本石油製「プロトワックス1」]、亜鉛華:ステアリン酸:老化防止剤:ワックス=4:5:3:1(質量比)
【0038】
その結果、従来例免震プラグは、高さが65.5mm、実比重が5.11g/cmとなり、その空気含有率が7.8%であった。また、実施例免震プラグは、高さは53.3mm、実比重が5.328g/cmとなり、その空気含有率が3.8%であった。
以上のことから、空気含有率が有利に低下していた(即ち、減衰性能及び変位追従性がともに向上していた)のは、実施例免震プラグであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上の説明から明らかなように、この発明によって、材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグの製造方法、並びにかかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0040】
1 免震プラグの製造装置
2 粉体材料
3 金型
5 スタンパ
6 凸状スタンパ
7 凹状スタンパ
8 平面スタンパ
9 免震プラグ
10 受圧面
12 受圧面の中央部
13 免震装置
14 ゴム板
15 鋼板
61 頂辺
62a,62b 平面
71 底辺
72a,72b 平面
73a,73b 加圧方向最外端
B 硬質充填材
X スタンパの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に充填された粉体材料を、一対のスタンパを用いて挟み込んで加圧成形する免震プラグの製造方法において、
該加圧成形を複数回行い、
前記複数回の加圧成形のうち、少なくとも2回の加圧成形を、該スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ、及び、スタンパの中央部が加圧方向とは反対の方向に陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパを用いて行うにあたり、該凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて加圧成形した後に、該凸状スタンパ及び凹状スタンパを、該スタンパの軸線中心に回転させ、該回転した凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて再度加圧成形を行なうことを特徴とする免震プラグの製造方法。
【請求項2】
前記凸状スタンパが、加圧方向側に位置する頂辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔形スタンパであり、
前記凹状スタンパが、加圧方向最外端よりも内方に位置する底辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔溝形スタンパであることを特徴とする、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項3】
前記凸状スタンパ及び凹状スタンパを該スタンパの軸線中心に回転させ、該回転した凸状スタンパ及び凹状スタンパを用いて再度加圧成形を行なう工程において、該回転角度を90°とし、かつ、該工程を4回行う、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項4】
前記凸状スタンパ及び凹状スタンパは、該スタンパの加圧面の中央部が90°に屈曲してなる、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項5】
前記凸状スタンパ及び凹状スタンパにより加圧成形した後に、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する一対の平面スタンパにより加圧成形する、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項6】
前記粉体材料は、塑性流動材及び硬質充填材からなる、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の免震プラグの製造方法を用いて製造される免震プラグ。
【請求項8】
粉体材料が充填される金型、及び該金型内の粉体材料を挟み込んで加圧成形する加圧面を有する対向する一対のスタンパを具える、免震装置用の免震プラグの製造装置において、
前記一対のスタンパは、該一対のスタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字型の加圧面を有する凸状スタンパ、及び、スタンパの中央部が加圧方向とは反対の方向に陥没したV字型の加圧面を有する凹状スタンパからなり、
該凸状スタンパ及び凹状スタンパは、スタンパの軸線を中心に回転可能であることを特徴とする免震プラグの製造装置。
【請求項9】
前記凸状スタンパが、加圧方向側に位置する頂辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔形スタンパであり、
前記凹状スタンパが、加圧方向最外端よりも内方に位置する底辺で交差する二つの平面を加圧面として有する楔溝形スタンパであることを特徴とする、請求項8に記載の免震プラグの製造装置。
【請求項10】
前記凸状スタンパ及び凹状スタンパに加え、該スタンパの加圧方向に対して垂直な加圧面を有する対向する一対の平面スタンパを更に具える、請求項8に記載の免震プラグの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−193846(P2012−193846A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27655(P2012−27655)
【出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】