説明

免震装置

【課題】内部に封入する潤滑剤が外部に漏れ出すことがなく、また、長期保管による潤滑剤の経時劣化を防止できる免震装置を提供する。
【解決手段】建築物の下側構造体2と上側構造体4との間に介在させる免震装置1であって、下側構造体2に設置されるベース部材3と、このベース部材3の上方に位置して上側構造体4に設置される建物取付部材5と、該建物取付部材5の下面およびベース部材3の上面間に介在し、該上・下面から選ばれた少なくとも一つの面に当接する少なくとも1個の転がり自在なボール6とを有し、このボール6をを離間または当接して囲み、上端が建物取付部材5の下面またはベース部材3の上面に対して接触回避用の隙間dが介在する近接位置まで延びた保護環7をベース部材3または建物取付部材5に設け、この保護環7の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤8を封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震の揺れに対して対応することができ、地震の揺れを効果的に逃がし、建築物に伝わらないようにすることができる免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震の揺れを逃がし、建築物に伝わらないようにすることができる免震装置として、転がり支承型の免震装置が多く用いられている。転がり支承型の免震装置の一例として、例えば、大径ボールの頂部と対向するボールシートの支承面に凹部を形成し、当該凹部と大径ボールの頂部との間に小径ボールよりも凹部の深さ寸法の分だけ径の小さいボール体を介装し、このボール体で当該凹部の部分への小径ボールの転動を阻止するようにした免震装置が知られている(特許文献1参照)。
また、建物取付部材と基礎取付部材との間に介在する複数のボールベアリングを介して相対変位する際に、前記複数のボールベアリングの一部が、建物取付部材、基礎取付部材間と、前記ボールベアリングの退避部との間を循環するように構成された免震装置が知られている(特許文献2参照)。
【0003】
また、ボールの上に3個以上の小径ボールを回転可能に保持する構成とし、ボールは、円筒孔に組み込み固定された摩擦ホルダーに転がりを抑制された状態で包持させ、また、小径ボールは、この小径ボールより少し大径で各小径ボール毎に形成された保持孔内に保持させ、この保持孔の内部空間にはグリースを充填した免震装置が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
上記特許文献1および特許文献2は多数のボールを使用したり、大小のボールを組み合わせた構成を採用してボールが循環するようにしており、構造が複雑になる。その分高価で維持管理にマンパワーを要する装置となり、施工経済性が悪いことや装置の保全管理が複雑になることから採用しづらいという問題もある。
また、大小のボール周辺にはグリースを使用しているが、このグリースが経時的に流出するおそれがあり、耐久性に劣るという問題がある。
【0005】
上記特許文献3の場合、ボールは、円筒孔に組み込まれた摩擦ホルダーに落ち止めされた状態で保持されており、その保持構造が二重構造であるため複雑となる。また、ボールは、保持孔にグリースを介して回転可能に保持された小径ボールに接しているが、摩擦ホルダーに転がりを抑制されかつ非潤滑下の状態で包持されているので、横揺れ時のオーバーランの発生は防止されるものの、転がりの円滑性を欠くことが懸念される。さらに、複数の小径ボールを保持する保持孔は小径ボール毎に形成されており、そのため、保持孔の加工および構造が複雑となり、装置が高価なものとなることも予想される。
また、この免震装置は封入されるグリースが経時的に流出するおそれがあり、耐久性に劣るという問題がある。
【特許文献1】特許第3781872号公報
【特許文献2】特開2000−65132号公報
【特許文献3】特開2006−299772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、簡単な構造でありながら、免震機能が効果的に発揮され、かつ潤滑剤を長期に保持できる免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の免震装置は、建築物の下側構造体と上側構造体との間に介在させる免震装置であって、下側構造体に設置されるベース部材と、このベース部材の上方に位置して上側構造体に設置される建物取付部材と、該建物取付部材の下面およびベース部材の上面間に介在し、該上・下面から選ばれた少なくとも一つの面に当接する少なくとも1個の転がり自在なボールとを有し、このボールを離間または当接して囲む保護環を設け、この保護環の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤を封入したことを特徴とする。
【0008】
第1の免震装置は、転がり自在なボールの個数が複数個であり、上端が建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間が介在する近接位置まで延びた保護環をベース部材に設けたことを特徴とする。
第2の免震装置は、上記保護環の外周に該保護環よりも口径の大きい外側保護環を設けたことを特徴とする。
第3の免震装置は、ベース部材の上面を転がり自在な1個のボールと、このボールの上面および建物取付部材に当接する複数の小径ボールとでボールが構成され、上記保護環がベース部材に取付けられ、建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間を有することを特徴とする。
第4の免震装置は、ベース部材の上面を転がり自在な1個のボールと、このボールの上面および建物取付部材に当接する複数の小径ボールとでボールが構成され、上記保護環は建物取付部材に取付けられ、ベース部材の上面に対して接触回避用の隙間を有することを特徴とする。
第5の免震装置は、上記保護環の下端に、ボールの通過が不能な内径に形成されてボールの一部を下方に突出させるボール保持口を有する底板部を設けたことを特徴とする。
また、第3、第4、第5の免震装置において、上記建物取付部材の下面に、複数の小径ボールをそれぞれ回転自在に、かつ円周方向に並べて配置した円周溝を設けたことを特徴とする。
【0009】
保護環内に封入される発泡固形潤滑剤の中で第1の発泡固形潤滑剤は、潤滑成分が炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記樹脂成分は、高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 mg KOH/g〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、上記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記液状ゴムと上記硬化剤との割合は、上記液状ゴムに含まれる水酸基と前記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分が 40 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムが 5 重量%〜45 重量%含むことを特徴とする。
また、上記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする。
また、上記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5 NCO%〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであるか、または芳香族ポリイソシアネートであることを特徴とする。
【0010】
保護環内に封入される発泡固形潤滑剤の中で第2の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分が炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記樹脂成分は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーであり、上記発泡剤が水であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 30 重量%〜70 重量%含み、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする。
また、上記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする。
また、上記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする。
また、上記水の水酸基と、上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする。
上記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の免震装置の構成によれば、建物取付部材とベース部材との間に少なくとも1個の転がり自在なボールと、このボールをを離間または当接して囲む保護環とを設け、この保護環の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤を封入したので、地震等が発生して建築物の下側構造体が揺れると、その揺れに応じてベース部材の上面を転がり自在とされたボールが回転しようとする。
この場合、ボールに当接または、離間して囲むように取付けられた保護環の中に発泡固形潤滑剤が封入されているから、ボールの転がりが円滑になされ、上記上側構造体への振動伝播の抑制が効果的になされる。また、保護環に封入されている発泡固形潤滑剤は、樹脂成分中に潤滑成分が吸蔵されているので、その潤滑成分の長期の保持がなされ、ボールのベース部材上での円滑な転動が持続される。
なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。
また、ベース部材、建物取付部材、ボール、複数の小径ボールおよび保護環を基本構成とするものであるから、構造が簡単であり、安価な免震装置を提供することができる。
【0012】
本発明の免震装置はボールを発泡潤滑剤で包んでいるため防錆効果が長期間発揮される。また、保護環の内部に発泡潤滑剤が封入されているため、免震装置を構成する建物取付部材やベース部材の長期防錆効果が発揮される。
また、発泡潤滑剤は柔軟性を有するので、ボールの動きを阻害しない。
また、発泡潤滑剤はベース部材に設置された保護環の内部に封入されているので、横揺れ等でボールに圧縮されて滲み出る潤滑成分は、ベース部材に摺動するボール表面を介して潤滑成分を必要とする部位に送られるが、余剰の潤滑成分は再び発泡固形潤滑剤に吸蔵されるので、保護環の外部に漏れることがなく、環境を汚染することもない。
【0013】
本発明において、上記ボールの個数を複数個設け、これら複数個のボールを囲み、上端が上記建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間が介在する近接位置まで延びた保護環を上記ベース部材に設けたので、これら複数個のボールは横揺れを受けると回転しようとするが、ボール同士が相互に接する位置では回転が反対方向となりすべって転がるときの摩擦力が働き、免震装置としての減衰作用を発揮することができる。
また、ボールを複数個使用しているので建物取付部材とボールとの接触面圧を低減することができ、ボールを長寿命化することができる。
【0014】
また、上記保護環は上記複数個のボールを囲む保護環と、該保護環よりも口径の大きい外側保護環とで構成されるので、保護環に封入される発泡固形潤滑剤量を増加させることができ、ボールや建物取付部材、ベース部材等の構成部材に対する潤滑性能や防錆性能を強化することができる。
【0015】
本発明において、保護環の下端に、上記ボールの通過が不能な内径に形成されて上記ボールの一部を下方に突出させるボール保持口を有する底板部を設けた場合は、ボールの保護環からの抜け落ちが防止されるとともに、保護環内での発泡固形潤滑剤に吸蔵されている潤滑成分の保持性が向上する。
【0016】
本発明において、ベース部材の上面を転がり自在な1個のボールと、このボールの上面および建物取付部材に当接する複数の小径ボールとでボールが構成され、このボールを囲む保護環が設けられている場合、保護環内に発泡固形潤滑剤が封入されているので、ボールは、保護環から抜け落ちることなく、表面が潤滑された状態でベース部材上を円滑に転動する。転動時に発泡固形潤滑剤から滲み出た潤滑成分は保護環とベース部材との間に隙間がないので、保護環の外部に漏出することがなく、保護環内に留まり、ボールのベース部材上での転動性が一層向上する。また、振動が収まる等により、潤滑に供せられない余剰の潤滑成分は再び発泡固形潤滑剤の樹脂中に吸蔵される。このため免震装置の潤滑性能や防錆性能がさらに長期にわたり維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の発明の免震装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の免震装置の実施形態を示す図である。図1(a)は、図1(b)のA-A’断面図であり、図1(b)は免震装置の立面の切欠き断面図である。
免震装置1は、建築物の下側構造体2と上側構造体4との間に介在させる免震装置1であって、下側構造体2に設置されるベース部材3と、このベース部材3の上方に位置して上側構造体4に設置される建物取付部材5と、該建物取付部材5の下面およびベース部材3の上面間に介在する転がり自在なボール6とを有し、このボール6を離間または当接して囲み、上端が建物取付部材5の下面に対して接触回避用の隙間dが介在する近接位置まで延びた保護環7をベース部材3に設け、この保護環7の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤8が封入されている。
建物取付部材5およびベース部材3はボルト(図示せず)等の止具によって、それぞれ上側構造体4の下面および下側構造体2の上面に取付け固定されている。
なお、ボール6は鋼球からなり、また、ベース部材3、建物取付部材5および保護環7は、鋼材によって作製される。
【0018】
上記のように構成された免震装置1を、建築物の下側構造体2と上側構造体4との間の適所に複数介在させた状態で建築物の構築がなされる。地震が発生した場合、大地の揺れに伴い下側構造体2およびベース部材3も横揺れする。この下側構造体2およびベース部材3の横揺れによって、ボール6がベース部材3の上面を転動する。この転動によって横揺れが吸収され、ボール6の上に建物取付部材5を介して支持された上側構造体4およびその上に構築された建築物には、地震時の震動が伝播されず、免震がなされる。ボール6は、発泡固形潤滑剤8が封入・充填された保護環7内に収納され、転動可能に支持されているから、ベース部材3の上面での転動が円滑になされ、効果的な震動吸収機能が発揮される。
【0019】
特に、図示のように、発泡固形潤滑剤8がボール6と保護環7との間の空間部分から上記建物取付部材5の下面にも及ぶよう封入・充填されるから、ボール6の転動部分が発泡固形潤滑剤8によって常に潤滑され、ベース部材3の上面でのボール6の転動が円滑になされる。
【0020】
発泡固形潤滑剤に吸蔵されている潤滑成分は揺れや温度変化等の外力を受けて発泡固形潤滑剤から免震装置1内の摺動部であるボール6や建物取付部材5、ベース部材3の相互接触部位に徐放され、良好な潤滑状態を長期間持続することができる。また、潤滑成分の徐放による免震装置内部の構成部材の防錆効果を長期間発揮することができる。
【0021】
図2は本発明の免震装置の他の実施形態を示す図である。図2(a)は、図1(b)のB-B’断面図であり、図2(b)は免震装置の立面の切欠き断面図である。
免震装置11は、建築物の下側構造体2と上側構造体4との間に介在させる免震装置11であって、下側構造体2に設置されるベース部材3と、このベース部材3の上方に位置して上側構造体4に設置される建物取付部材5と、該建物取付部材5の下面およびベース部材3の上面間に介在する転がり自在なボール6a、6b、6cとを有し、このボール6a、6b、6cを当接して囲み、上端が建物取付部材5の下面に対して接触回避用の隙間dが介在する近接位置まで延びた保護環7をベース部材3に設け、この保護環7の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤8が封入されている。
【0022】
図2において、ボールの個数を3個設け、これら3個のボールを当接して囲み、上端が建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間が介在する近接位置まで延びた保護環をベース部材に設けたので、これら3個のボールは横揺れを受けると回転しようとするが、ボール同士が相互に接する位置では回転が反対方向となりすべって転がるときの摩擦力が働き、免震装置としての減衰作用を発揮することができる。
また、ボールを3個使用しているので建物取付部材とボールとの接触面圧を低減することができ、ボールを長寿命化することができる。
また、ボールの個数を3個設けたことで、ボール同士が相互に接触する位置が3箇所となり、この接触する3点により接触平面が常に形成されるので、縦揺れを受けてボール同士の相互接触位置がずれても、接触位置におけるすべり摩擦力を安定して発揮することができる。
この実施形態のその他の構成は上記実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
図3は本発明の免震装置の他の実施形態を示す図である。図3(a)は、図3(b)のC-C’断面図であり、図3(b)は免震装置の立面の切欠き断面図である。
免震装置21は、建築物の下側構造体2と上側構造体4との間に介在させる免震装置21であって、下側構造体2に設置されるベース部材3と、このベース部材3の上方に位置して上側構造体4に設置される建物取付部材5と、該建物取付部材5の下面およびベース部材3の上面間に介在する転がり自在なボール6a、6b、6cとを有し、このボール6a、6b、6cを当接して囲み、上端が建物取付部材5の下面に対して接触回避用の隙間dが介在する近接位置まで延びた保護環7をベース部材3に設け、さらに、保護環7よりも口径の大きい外側保護環7aとで構成されるので、外側保護環7aに封入される発泡固形潤滑剤8aの分だけ発泡固形潤滑剤を増加させることができ、ボール6a、6b、6cや建物取付部材5、ベース部材3等の構成部材に対する潤滑性能や防錆性能を強化することができる。なお、外側保護環7aは保護環7と同心であることが発泡固形潤滑剤8aを均等に増加させることができるので好ましい。
この実施形態のその他の構成は上記実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0024】
図4は本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
免震装置31は、ボール6を搭載するベース部材3に保護環7を置き、この保護環7の上端は、建物取付部材5aの下端に対して接触回避用の隙間dが介在する近接位置まで延びており、保護環7の中には発泡固形潤滑剤8が、また建物取付部材5aとボール6とに囲まれた空間には発泡固形潤滑剤8bが、それぞれ封入されている。隙間dは、地震時の保護環7と建物取付部材5aとの相対移動の際も、建物取付部材5aの下端と保護環7の上面とが接触しない程度の大きさに設定されている。保護環7の内径や高さ等の大きさは地震時の横揺れに対応した大きさとする。
なお、小径ボール9廻りに封入する発泡固形潤滑剤8bと、保護環7内の発泡固形潤滑剤8との間に隙間dを設けて図示したが、両者が当接しても発泡固形潤滑剤8、8bから潤滑成分が滲み出し、当接により両者が損傷することはないことから当接する位置まで発泡固形潤滑剤8、8bを封入し、発泡固形潤滑剤8と8bと間の隙間dをなくすこともできる。
この実施形態のその他の構成は上記実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を省略する。また、ボール6とこの円周溝5eに収容される小径ボール9との接触角αについては後述する。
【0025】
なお、この発明の免震装置は建築物の下側構造体と上側構造体との間に介在させるものであるが、その介在個数や介在位置等は、建築物の規模や重量等に応じ設計的事項として適宜定められる。また、この免震装置と組合せてオーバーランを防止するための減衰装置を適宜配置することが可能である。
【0026】
図5は本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
免震装置41は、建築物の下側構造体2に設置されるベース部材3と、このベース部材3の上方に位置して建築物の上側構造体4に設置された建物取付部材5と、ベース部材3の上面を転がり自在な1個のボール6とを有する。建物取付部材5aは、その上端部に形成されたフランジ部5bを介し、このフランジ部5bでボルト5cによって上側構造体4の下面に取付け固定されている。ベース部材3も建物取付部材5aと同様にボルト(図示せず)等の止具によって下側構造体2の上面に取付け固定されている。ボール6は、上記建物取付部材5aにボール6よりも小さい径を有する複数の小径ボール9を介して転動自在に支持されている。
建物取付部材5aには、ボール6の外周を囲む円筒状の保護環7bが嵌装され、溶接その他の固着手段により取付け固定されている。この保護環7bの下端7dは、ベース部材3の上面に対して接触回避用の隙間eが介在する近接位置まで延びており、保護環7bの中には発泡固形潤滑剤8が封入されている。隙間eは、地震時の保護環7bとベース部材3との相対移動の際も、下端7dとベース部材3の上面とが接触しない大きさに設定されている。
【0027】
建物取付部材5aは円柱状であって、その下面部に、上記小径ボール9、ボール6の上側部分および充填・封入された発泡固形潤滑剤9の一部を収容する円柱状の凹空所5dが形成されている。この凹空所5dの上底の内隅部には、上記複数の小径ボール9を、並んだ状態で、かつそれぞれが回転・転走し得るよう収容する断面半円弧状の円周溝5eが形成されている。この円周溝5eの曲率半径は小径ボール9の半径よりやや大とされ、上記発泡固形潤滑剤9から滲み出た潤滑成分が円周溝5eと小径ボール9との間の転接面に滲入し得るようになされている。円周溝5eにその周方向に沿って並列状態で収容される複数の小径ボール9と、上記ベース部材3との間に、ボール6が互いに接触状態で介在されている。このボール6は、その下面部においてベース部材3の上面を転動可能に、また上面部において全ての小径ボール9に転接可能な状態で支持されるよう、その大きさや配置関係の設定がなされている。上記円周溝5eは、ボール6の鉛直中心線と同心的に形成され、ボール6とこの円周溝5eに収容される小径ボール9との接触角(ボール6の鉛直中心線と、ボール6および小径ボール9の中心を結ぶ線とのなす角)αは、地震時のボール6にかかる水平方向の力と建築物の重量とのバランスを勘案すると、45°〜60°が適正とされる。複数の小径ボール9を収容する円周溝5eは、その周方向に一連のものであるから、簡易な溝加工によって形成することができる。
なお、ボール6および小径ボール9は鋼球からなり、また、ベース部材3、建物取付部材5aおよび保護環7bは、鋼材によって作製される。
【0028】
上記のように構成された免震装置41を、建築物の下側構造体2と上側構造体4との間の適所に複数介在させた状態で建築物の構築がなされる。地震が発生した場合、大地の揺れに伴い下側構造体2およびベース部材3も横揺れする。この下側構造体2およびベース部材3の横揺れによって、ボール6がベース部材3の上面を相対的に転動する。この相対転動によって横揺れが吸収され、ボール6の上に建物取付部材5aを介して支持された上側構造体4およびその上に構築された建築物には、地震時の振動が伝播されず、免震がなされる。ボール6は、発泡固形潤滑剤8が封入・充填された保護環7b内に保持され、円周溝5eにその周方向に沿って並列状態で収容された複数の小径ボール9に転動可能に支持されているから、ベース部材3の上面での相対転動が円滑になされ、効果的な振動吸収機能が発揮される。
【0029】
特に、図示のように、発泡固形潤滑剤8がボール6と保護環7bとの間の空間部分から建物取付部材5aの空所5d内にも及ぶよう封入・充填されるから、ボール6と小径ボール9との相対転接部分および小径ボール9の円周溝5e内での転接部分が発泡固形潤滑剤8によって常に潤滑され、ボール6のベース部材3の上面での転動が円滑になされる。
【0030】
発泡固形潤滑剤に吸蔵されている潤滑成分は揺れや温度変化等の外力を受けて発泡固形潤滑剤から免震装置内の摺動部であるボール6や小径ボール9、建物取付部材5a、ベース部材3の相互接触部位に徐放され、良好な潤滑状態を長期間持続することができる。また、潤滑成分の徐放による免震装置内部の構成部材の防錆効果を長期間発揮することができる。
【0031】
図6は本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
免震装置51は、上記保護環7cの下端7dに底板部7eを設け、この底板部7eは、その中央に上記ボール6の通過が不能な内径に形成されてボール6の一部を下方に突出させるボール保持口7fを有している。また、保護環7cの上端には外向鍔部7gが形成され、この外向鍔部7gと上記建物取付部材5aのフランジ部5bとが合体された状態で、上記建物取付部材5aが保護環7cとともにボルト5cによって上側構造体4の下面に取付け固定されている。保護環7cの下端7dは、上記の実施形態と同様、ベース部材3の上面に対して接触回避用の隙間eが介在する近接位置まで延びており、底板部7eの下面とベース部材3の上面との間もこの隙間eとなるよう設定されている。また、この保護環7cの中には、上記実施形態と同様に発泡固形潤滑剤8が封入されている。
【0032】
この実施形態の免震装置において、ボール6は、その下方の一部が、ボール保持口7fより突出してベース部材3上を転動する。このボール保持口7fは、ボール6の通過が不能な内径に形成されているから、すなわち、ボール保持口7fの内径がボール6の径より小さいから、ボール6が抜け落ちることなく、また、保護環7c内での発泡固形潤滑剤8の潤滑成分の保持性がより向上する。そして、上記同様地震発生時の下側構造体2およびベース部材3の横揺れによって、ボール6がベース部材3の上面を相対転動し、横揺れが吸収され、ボール6の上に建物取付部材5aを介して支持された上側構造体4およびその上に構築された建築物には、地震時の振動が伝播されず、免震がなされる。ボール6は、発泡固形潤滑剤8が充填された保護環7c内に保持され、円周溝5eにその周方向に沿って並列状態で収容された複数の小径ボール9に転動可能に支持されているから、ベース部材3の上面での相対転動が円滑になされ、同様に効果的な振動吸収機能が発揮される。
この実施形態のその他の構成は上記実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
上記の保護環に封入される発泡固形潤滑剤は、樹脂内に潤滑成分を吸蔵するので、樹脂の柔軟性により、すべり摩擦面に加わる外力、または毛細管現象により潤滑剤を滲み出させて樹脂の分子間から外部に徐放できる。この際、滲み出す潤滑油量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択などによって変えることにより、必要最小限の量で潤滑の用に供することができ、すべり摩擦、ころがり摩擦のいずれに対しても摩耗防止効果に優れる。また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤において樹脂成分は、発泡により表面積が大きくなっており、滲み出した余剰の潤滑油等を再び発泡体の気泡内に一時的に保持することもできて滲み出す潤滑油等の量は安定しており、また樹脂内に潤滑剤を吸蔵させるとともに気泡内に含浸させることによって非発泡の状態より潤滑油等の保持量も多くなる。また、非発泡体と比較して屈曲・変形時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑成分を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。
【0034】
本発明に用いる発泡固形潤滑剤を構成する樹脂成分としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂成分に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0035】
本発明に用いる発泡固形潤滑剤の樹脂成分には耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタン樹脂を用いるのが好ましい。樹脂成分として、以下に説明する分子内に水酸基を有する液状ゴムを用いる第1の発泡固形潤滑剤、所定のNCOを含有するウレタンプレポリマーを用いる第2の発泡固形潤滑剤が好ましい。
また、ポリオールとしてのポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる樹脂成分を用いることができる。
【0036】
本発明に用いることができる第1の発泡固形潤滑剤に用いられる樹脂成分には耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタン樹脂を用いるのが好ましい。ウレタン樹脂を形成する水酸基含有成分としては、分子内に水酸基を有する液状ゴムが好ましく、この液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであることが好ましい。水酸基価が 25 mg KOH/g 未満では、発泡・硬化が十分でなく、水酸基価が 110 mg KOH/g をこえると、発泡固形潤滑剤の弾力性が失われる場合がある。
この液状ゴムは、ブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体を用いることができる。
水酸基末端液状ポリブタジエンとしては、poly-bd R45HT(出光興産社製)、poly-bd R15HT(出光興産社製)、NISSO-PB G-1000、G-2000、G-3000(日本曹達社製)が挙げられ、水酸基末端液状ポリイソプレンとしては、poly-ip(出光興産社製)が挙げられ、水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物としては、エポール(出光興産社製)、NISSO-PB GI-1000、GI-2000、GI-3000(日本曹達社製)等が挙げられる。
【0037】
また、これら水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物の末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで一部変性した水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物も水酸基が末端に含まれれば使用することができる。製造された発泡体の物性を制御するなどの目的でこれら化合物を2種類以上混合して用いてもよい。
【0038】
上記水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体は、後述する炭化水素から構成されるパラフィン系やナフテン系の鉱物油からなる潤滑成分と分子構造が類似するので、潤滑成分を構成する分子との化学的親和性に優れ、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分分子とが比較的弱い相互作用によって絡み合っていると考えられる。そのため多くの潤滑成分をその水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体の分子内に含浸させることが可能であり、高い潤滑成分保持性を発揮することができる。これに熱や遠心力などの強い力を加えることで、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分の相互作用が壊され、潤滑成分を徐放させることができる。
【0039】
液状ゴムを硬化させる硬化剤としての分子内にイソシアネート基を有する有機化合物は、液状ゴム内の水酸基と反応し、分子鎖を延長させ、または架橋させるイソシアネート化合物であれば、特に制限なく使用できる。好ましいイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート類を挙げることができる。ポリイソシアネート類は後述する発泡剤となる水と反応して気体を発生させることができるので特に好ましい。
ポリイソシアネート類としては、ポリイソシアネートおよび/または分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーが挙げられる。
【0040】
ポリイソシアネート類は芳香族、脂肪族、または脂環族ポリイソシアネート類を挙げることができる。
芳香族ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと記す)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)、TDIの多量体、MDIの多量体、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類としては、オクタデカメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネート類としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
また、上記ポリイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどのポリオールとの付加物も使用できる。
液状ゴムの末端官能基である水酸基との反応を高温度で行なう場合は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0041】
水酸基末端ポリジエン系重合体と反応させる場合、ポリイソシアネート類の中で芳香族ポリイソシアネート類が好ましく、更には水酸基末端ポリジエン系重合体等との発泡性および反応性に優れるTDIが好ましい。
【0042】
分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーとしては、イソシアネート基の割合が 2.5〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであれば使用できる。なお、NCO%はプレポリマー中におけるNCO基としての重量%である。2.5〜5.0 NCO%のプレポリマーは水酸基末端ポリジエン系重合体等と反応して弾力性に富んだウレタンを得ることができる。
プレポリマー類には重合させるモノマーの種類によりPPG系、PTMG系、エステル系、カプロラクトン系などに分類される。PPG系にはタケネートL-1170(三井化学ポリウレタン社製)、L-1158(三井化学ポリウレタン社製)があり、PTMG系にはコロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7-QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などを挙げることができる。
上記プレポリマーは、目的に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。
【0043】
末端水酸基を有する水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体とイソシアネート基を有するイソシアネート化合物との配合割合は、水酸基(−OH)とイソシアネート基(−NCO)との当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲が好ましく、特に優れた発泡性および弾力性を考慮すると、(OH/NCO)=1/( 1.1〜1.9 )の範囲が好ましい。(OH/NCO)が1/2.0 より小さいときはイソシアネート基が過剰となり、架橋密度が大きく弾性に劣る場合がある。また、(OH/NCO)が1/1.0 より大きいときには架橋するイソシアネート基が不足するため硬化が十分でなくなる。
【0044】
第1の発泡固形潤滑剤に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。
【0045】
上記潤滑成分には、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0046】
第1の発泡固形潤滑剤を発泡させる手段は、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
【0047】
第1の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、40〜80 重量%である。潤滑成分が 40 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しなくなる。
上記液状ゴムの配合割合は、混合物全体に対して、5〜45 重量%、好ましくは 9〜42 重量%である。5 重量%より少ないときは固化しないため発泡固形潤滑剤としての機能を持たず、45 重量%より多いときには潤滑剤の供給が少なく、発泡固形潤滑剤としての機能を持たない。
【0048】
第1の発泡固形潤滑剤において発泡倍率は 1.1〜50 倍であることが好ましく、より好ましくは 1.1〜10 倍である。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、50 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。
【0049】
また、第1の発泡固形潤滑剤の硬化速度を促進させるために、3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。使用する3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0050】
本発明において第2の発泡固形潤滑剤の樹脂成分として使用できるウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得られ、イソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
反応するモノマー(=活性水素基を有する化合物)の種類によって、カプロラクトン系、エステル系、エーテル系などに分類される。エーテル系にはタケネートL-1170(三井化学ポリウレタン社製)、L-1158(三井化学ポリウレタン社製)、コロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7-QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
また、末端基をイソシアネート基に変性したオリゴマーやプレポリマー化合物も使用することができる。このような化合物としては末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールや水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体が挙げられる。末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールにはコロネート1050(日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。また、水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体には poly−bd MC50(出光興産社製)や poly−bd HTP9(出光興産社製)が挙げられる。
これらのウレタンプレポリマーは目的とする機械的性質などに応じて2種類以上を混合して使用することができる。
【0051】
第2の発泡固形潤滑剤は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーを使用できる。イソシアネート基(NCO)の含有量が 2 重量%未満であると発泡性と弾力性の両立が難しくなるし、6 重量%以上であると硬度が大きくなりすぎて反発弾性が大きくなり外力による変形を受けるときに発熱等を起こしやすくなる。
また、イソシアネート基は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0052】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、活性水素を有する化合物が好ましく、官能基がアミノ基であるポリアミノ化合物、官能基が水酸基であるポリオール化合物が挙げられる。
ポリアミノ化合物としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミノ化合物が挙げられる。
【0053】
上記ポリアミノ化合物の中でも芳香族アミノ化合物が低コストであり、物性が優れているため、好ましく、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ジアミノ化合物が好ましい。第2の発泡固形潤滑剤においては、発泡と共に硬化させる工程を経るため、隣接位の置換基によりアミノ基の反応性が抑制されるためと考えられる。
【0054】
ウレタンプレポリマーをポリアミノ化合物で硬化させるとウレタンおよびウレア結合を分子内に有する発泡固形潤滑剤となる。ウレア結合を生成させることによって分子中のウレタン結合密度を下げることになり、伸びや反発弾性が向上する。また、ウレア結合を生成させることによって剛性を与えることができる。
【0055】
ポリオール化合物としては、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリオール化合物の中では、ポリエーテルポリオール、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0056】
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基(−NCO)と、該イソシアネート基と反応する硬化剤の官能基との割合は、官能基がアミノ基または水酸基である場合、当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲である。
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基と硬化剤のアミノ基(−NH2)または水酸基(−OH)、そして発泡剤である水の水酸基(−OH)との割合で発泡固形潤滑剤の発泡倍率や柔軟性、弾力性等が定まる。硬化剤のアミノ基(−NH2)または水酸基(−OH)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(−NCO)とを当量で反応させると、発泡剤である水と反応するイソシアネート基(−NCO)が消失してしまうため、(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲が好ましい。また、発泡剤である水の水酸基と、硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲である。
上記範囲よりも硬化剤の量が少なくなると発泡固形潤滑剤の強度等の物性が著しく低下するばかりでなく、ウレタンエラストマーとして硬化しない場合もある。
【0057】
第2の発泡固形潤滑剤に使用できる潤滑成分は、第1の発泡固形潤滑剤と同様に、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独でもしくは混合して使用できる。特に好ましいものとして炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、第1の発泡固形潤滑剤と同様のものを使用できる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、フッ素油、シリコーン油等も使用することができる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
グリースとしては第1の発泡固形潤滑剤と同様のグリースの他に、エステル系合成油、エーテル系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等を基油としたグリースも使用できる。
また、第1の発泡固形潤滑剤と同様の炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0058】
第2の発泡固形潤滑剤を発泡させる発泡剤としては、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
また、第2の発泡固形潤滑剤の硬化速度を促進させるために、上述した3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。
【0059】
第2の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、30〜70 重量%、好ましくは 40〜60 重量%である。潤滑成分が 30 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、70 重量%より多いときには固化しない場合がある。
【0060】
第2の発泡固形潤滑剤の発泡後の連続気泡率は 50%以上であり、好ましくは 50%以上 90 %以下である。連続気泡率が 50%未満の場合は、樹脂成分(固形成分)の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。なお、90%をこえると、潤滑剤の保油性の低下および潤滑剤の放出量が多くなることで長期使用に不利となったり、発泡固形潤滑剤自体の強度(耐久性)が低下したりするおそれがある。
【0061】
第2の発泡固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した発泡固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0062】
なお、第1および第2の発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤、補強剤、無機充填剤、老化防止剤、フィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。補強剤としてはカーボンブラック、ホワイトカーボン、コロイダルシリカなどが挙げられ、無機充填剤としては炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレイ、硅石粉などを挙げることができる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
第1および第2の発泡固形潤滑剤は、潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑剤が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されることにより潤滑剤の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法では潤滑剤保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる。
【0064】
潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0065】
本発明の免震装置において発泡固形潤滑剤は、装置内に潤滑成分および樹脂成分を含む混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、装置内に組み込むこともできる。
形状が複雑な装置内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に装置内に流し込み、装置内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
【0066】
発泡・硬化時において発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は気泡が連通している連続気泡であることが好ましく、震動等の外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連続気泡を介して外部に直接供給するためである。気泡間が連通していない独立気泡の場合は固形成分中の潤滑油の全量が一時的に独立気泡中に隔離され気泡間での移動が困難となり、必要なときにボールの周囲等に十分供給されない場合がある。
【実施例】
【0067】
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例4
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例4に用いた潤滑成分、液状ゴム、硬化剤、発泡剤、触媒を以下に示す。なお、( )内は表中での略号を表す。
潤滑成分
潤滑油(潤滑油):タービン100(新日本石油社製)
潤滑グリース(グリース1):NTG2218M(協同油脂社製)
液状ゴム
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH1):Poly-bd R45HT(水酸基価:46.6 mg KOH/g、数平均分子量:2,800、出光興産社製)
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH2):Poly-bd R15HT(水酸基価:102.7 mg KOH/g 、数平均分子量:1,200、出光興産社製)
水酸基末端ポリイソプレン(PipOH):Poly-ip(水酸基価:46.6 mg KOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
水添水酸基末端ポリイソプレン(HPipOH):エポール(水酸基価:50.5 mg KOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
硬化剤
イソシアネート化合物(TDI):コロネートT-80(日本ポリウレタン社製)
エラストマ1(UE1):コロネート4090(4.4 NCO% 日本ポリウレタン社製)
エラストマ2(UE2):プラクセルEP1130(3.3 NCO% ダイセル化学工業社製)
発泡剤(発泡剤) イオン交換水
整泡剤(整泡剤) SRX298(東レダウ社製)
触媒(触媒1) DM70(東ソー社製)
【0068】
硬化剤(イソシアネート)を除く配合材料を表1〜表3に示す配合割合でよく混合し、最後に硬化剤を加えて素早く混合した混合物 40 g を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製容器(直径 70 mm×高さ 150 mm )に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、常温で数時間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を、また、発泡体として硬化しない場合、潤滑油が分離したり放出したりしない場合を「×」印を付して表1〜表3に併記した。
また、「○」印と評価された試験片は試験片の円柱軸方向に 20 %伸張させても油が滲み出すことはなかった。
【0069】
【表1】

【表2】

【表3】

【0070】
表1〜表3に示すように、実施例1〜実施例15の発泡固形潤滑剤では指で押したとき相当する力を加えたときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であり、優れた発泡固形潤滑剤であると認められたが、比較例1〜比較例4では発泡はしたものの一部固化せず、発泡固形潤滑剤としては機能しないことがわかった。
次に、実施例1〜実施例15の発泡固形潤滑剤成分を図1に示す免震装置1の保護環8の中に注入して常温で数時間放置し硬化させ、発泡固形潤滑剤9を封入してなる免震装置を得た。
この免震装置は、発泡固形潤滑剤9を封入したので、ボール6の小径ボール9を介したベース部材3上での円滑な転動により、揺れ吸収が効果的になされ、建築物の免震機能を発揮することが可能となった。また、発泡固形潤滑剤9に吸蔵され、揺れ等の外力により滲み出てボール6を潤滑する潤滑成分の保持性が良く、ボール6の転動性が長期に渡り維持可能となった。
【0071】
実施例16〜実施例35および比較例5〜比較例7に用いた潤滑成分、ウレタンプレポリマー、硬化剤、発泡剤、触媒を以下に示す。なお、( )内は表中での略号を表す。
潤滑成分
潤滑油(潤滑油1):タービン100(パラフィン系鉱油、新日本石油社製)
潤滑油(潤滑油2):クリセフ150(ナフテン系鉱油、新日本石油社製)
潤滑油(潤滑油3):シンフルード801(ポリ-α-オレフィン、新日鐵化学社製)
潤滑グリース(グリース2):パイロニックユニバーサルN6C(新日本石油社製)
ウレタンプレポリマー
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー1(プレポリマー1):プラクセルEP1130(NCO 3.3%、ダイセル化学工業社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー2):コロネート4090(NCO 4.3%、日本ポリウレタン社製)
エステル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー3):コロネート4047(NCO 4.3%、日本ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー4):タケネートL-1350(NCO 2.3%、三井化学ポリウレタン社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー5):タケネートL-1170(NCO 2.4%、三井化学ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー6):タケネートL-1680(NCO 3.2%、三井化学ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー7):サイアナプレン7-QM(NCO 2.3%、三井化学ポリウレタン社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー8):タケネートL-1158(NCO 4.4%、三井化学ポリウレタン社製)
硬化剤
MOCA(MOCA):イハラキュアミンMT(イハラケミカル社製)
トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)(CUA-4):CUA-4(イハラケミカル社製)
ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミンおよびメチルチオトルエンジアミンの混合物(エタキュア300):エタキュア300(アルベマール社製)
トリメチロールプロパン:試薬
発泡剤(発泡剤) イオン交換水
整泡剤(整泡剤) SRX298(東レダウ社製)
触媒(触媒1) DM70(東ソー社製)
【0072】
実施例16〜18、21、22、24、25、27〜32、34〜35、比較例5〜7
80℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4〜表6に示す配合割合でよく混合した。次に、120℃で溶解したMOCAをビーカ内に投入してよく撹拌した。続いてアミン触媒および発泡剤(比較例6のみ発泡剤なし)を投入し撹拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 N の力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を、それ以外のものは「△」印またはコメントを表4〜表6に併記した。
また、連続気泡率を上述の方法で、遠心力油分離評価を以下の方法で測定した。結果を表4〜表6に併記した。
遠心力油分離評価試験
潤滑剤の徐放性を調べるために、遠心力油分離を測定した。遠心力油分離はロータ半径 75 mm、回転速度 1500 rpm の条件で 1 時間回転させた時の油充填量に対する油減少率を示した。
【0073】
実施例19
100℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4に示す配合割合でよく混合した。次に、140℃で溶解したトリメチレン-ビス(4-アミノベンゾアート)をビーカ内に投入し、よく撹拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し撹拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 N の力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表4に併記した。
【0074】
実施例20、26、33
80℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4〜表6に示す配合割合でよく混合した。次に、エタキュア300をビーカ内に投入し、よく撹拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し撹拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 N の力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表4〜表6に併記した。
【0075】
実施例23
100℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表5に示す配合割合でよく混合した。次に、トリメチロールプロパンをビーカ内に投入し、よく撹拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し撹拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 N の力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表5に併記した。
【0076】
【表4】

【表5】

【表6】

【0077】
表4〜表6に示すように、実施例16〜実施例35では指で押したとき相当する力を加えたときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であり、優れた発泡固形潤滑剤であると認められたが、比較例5では発泡はしたものの一部固化せず、また比較例6では樹脂分と潤滑剤が分離してしまい発泡固形潤滑剤としては機能しないことがわかった。比較例7は、弾性に欠けた。また、実施例16〜実施例35は、遠心力下において潤滑剤成分が(即時に発泡体より抜け出てしまわず)徐放されることがわかった。
次に、実施例1〜実施例15の発泡固形潤滑剤成分を成形用金型に充填し、 100℃で 30分間放置し硬化させ、図5に示す免震装置41の保護環7bの中に組み付けて、発泡固形潤滑剤8を封入してなる免震装置を得た。
この免震装置は、発泡固形潤滑剤を封入したので、ボール6の小径ボール9を介したベース部材3上での円滑な転動により、揺れ吸収が効果的になされ、建築物の免震機能を発揮することが可能となった。また、発泡固形潤滑剤8に吸蔵され、揺れ等の外力により滲み出てボール6を潤滑する潤滑成分の保持性が良く、ボール6の転動性が長期に渡り維持可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の免震装置は、内部に封入する発泡固形潤滑剤が地震時の揺れを吸収するとともに、吸蔵する潤滑成分を揺れ等の外力により必要最小限に徐放するので免震装置内の構成材の摩耗を防止でき、潤滑成分を外部に漏出させることがなく、また、長期保管による潤滑剤の経時劣化を防止できる。このため免震装置に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の免震装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の免震装置の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 免震装置
2 下側構造体
3 ベース部材
4 上側構造体
5、5a 建物取付部材
5b フランジ部
5c ボルト
5d 凹空所
5e 円周溝
6 ボール
9 小径ボール
7、7b 保護環
7d 下端
7e 底板部
7f ボール保持口
7g 外向鍔部
8、8b 発泡固形潤滑剤
d、e 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の下側構造体と上側構造体との間に介在させる免震装置であって、
前記下側構造体に設置されるベース部材と、
このベース部材の上方に位置して前記上側構造体に設置される建物取付部材と、
該建物取付部材の下面および前記ベース部材の上面間に介在し、該上・下面から選ばれた少なくとも一つの面に当接する少なくとも1個の転がり自在なボールとを有し、
このボールを離間または当接して囲む保護環を設け、
この保護環の中に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤を封入したことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記ボールの個数は複数個であり、上端が前記建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間が介在する近接位置まで延びた保護環を前記ベース部材に設けたことを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項3】
前記保護環の外周に該保護環よりも口径の大きい外側保護環を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の免震装置。
【請求項4】
前記ボールは前記ベース部材の上面を転がり自在な1個のボールと、
このボールの上面および前記建物取付部材に当接する複数の小径ボールとで構成され、
前記保護環は前記ベース部材に取付けられ、前記建物取付部材の下面に対して接触回避用の隙間を有することを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項5】
前記ボールは前記ベース部材の上面を転がり自在な1個のボールと、
このボールの上面および前記建物取付部材に当接する複数の小径ボールとで構成され、
前記保護環は前記建物取付部材に取付けられ、前記ベース部材の上面に対して接触回避用の隙間を有することを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項6】
前記保護環の下端に、前記ボールの通過が不能な内径に形成されて前記ボールの一部を下方に突出させるボール保持口を有する底板部を設けたことを特徴とする請求項5記載の免震装置。
【請求項7】
前記建物取付部材の下面に、前記複数の小径ボールをそれぞれ回転自在に、かつ円周方向に並べて配置した円周溝を設けたことを特徴とする請求項4、請求項5または請求項6記載の免震装置。
【請求項8】
前記潤滑成分は炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、
前記樹脂成分は、高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、
前記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、
前記発泡剤が水であり、
前記液状ゴムと前記硬化剤との割合は、前記液状ゴムに含まれる水酸基と前記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲であり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 40〜80 重量%、前記液状ゴムを 5〜45 重量%含むことを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項9】
前記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする請求項8記載の免震装置。
【請求項10】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであることを特徴とする請求項8または請求項9記載の免震装置。
【請求項11】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、芳香族ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項8または請求項9記載の免震装置。
【請求項12】
前記潤滑成分は潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、
前記樹脂成分は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーであり、
前記発泡剤が水であり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 30〜70 重量%含み、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項13】
前記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項12記載の免震装置。
【請求項14】
前記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする請求項12または請求項13記載の免震装置。
【請求項15】
前記水の水酸基と、前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか一項記載の免震装置。
【請求項16】
前記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項12ないし請求項15のいずれか一項記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−297731(P2008−297731A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142693(P2007−142693)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】