説明

全反射分光計測装置

【課題】装置の大型化を回避しつつ計測精度を確保できる全反射分光計測装置を提供する。
【解決手段】全反射分光計測装置1では、テラヘルツ波発生素子32が設けられた内部全反射プリズム31の入射面31aに対し、被測定物34が配置される反射面31cが鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを第1光学面31dに対して垂直に近い状態で入射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第1光学面31dのサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの第1光学面31dで対応できるテラヘルツ波Tの広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波Tの損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた全反射分光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波を用いた全反射分光計測装置として、例えば特許文献1に記載の全反射テラヘルツ波測定装置がある。この従来の全反射テラヘルツ波測定装置は、テラヘルツ波を用いた全反射分光計測法により被測定物の光学定数に関する情報を取得する装置である。この装置には、内部全反射プリズムの入射面にテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生素子を設け、かつ出射面にテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出素子を設けた一体型プリズムが用いられている。一体型プリズム内においてテラヘルツ波が全反射する反射面には被測定物が配置され、当該反射面でテラヘルツ波が全反射する際に生じる当該テラヘルツ波のエバネッセント成分に基づいて、被測定物の光学定数に関する情報が取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−224449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した一体型プリズムには、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を反射面に向けて平行光化する光学面が設けられている。この光学面のサイズは、テラヘルツ波発生素子から出射するテラヘルツ波の広がり角度の大きさに依存する。大きな広がり角を持つテラヘルツ波に対応した光学面を形成しようとすると、光学面のサイズを大きくしなくてはならず、結果として内部全反射プリズムが大型化してしまうという問題がある。一方、光学面のサイズがテラヘルツ波の広がり角度に対して不十分になると、テラヘルツ波の損失が大きくなり、信号強度の低下による全反射分光計測の精度低下が問題となる。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、装置の大型化を回避しつつ計測精度を確保できる全反射分光計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る全反射分光計測装置は、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分岐する分岐部と、分岐部で分岐したポンプ光の入射によってテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生素子と、テラヘルツ波の入射面及び出射面を有し、入射面から入射したテラヘルツ波を内部で伝播させると共に反射面で全反射させて出射面から出射させる内部全反射プリズムと、内部全反射プリズムの出射面から出射したテラヘルツ波と、分岐部で分岐したプローブ光とが入射し、テラヘルツ波とプローブ光との間の相関を検出するテラヘルツ波検出素子と、を備え、内部全反射プリズムの反射面に配置された被測定物の光学定数に関する情報を、テラヘルツ波の全反射の際に生じる当該テラヘルツ波のエバネッセント成分により取得する全反射分光計測装置であって、内部全反射プリズムにおいて、入射面にはテラヘルツ波発生素子が一体に設けられ、出射面には前記テラヘルツ波検出素子が一体に設けられ、入射面と反射面との間には、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を反射面に向けて平行光化又は集光する光学面が設けられ、入射面に対して反射面が鈍角となっていることを特徴としている。
【0007】
この全反射分光計測装置では、テラヘルツ波発生素子が設けられた内部全反射プリズムの入射面に対し、被測定物が配置される反射面が鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を曲率半径の小さい面で入射させることが可能となり、テラヘルツ波の広がり角度に対して光学面のサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの光学面で対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波の損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。
【0008】
また、反射面と出射面との間には、反射面で全反射したテラヘルツ波をテラヘルツ波検出素子に向けて集光する光学面が更に設けられ、出射面に対して反射面が鈍角となっていることが好ましい。この場合、光学面において、反射面で全反射したテラヘルツ波を曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波の広がり角度に対して光学面のサイズを最小化できる。また、同一のサイズの光学面で対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできるので、テラヘルツ波の損失を抑えることができる。
【0009】
また、テラヘルツ波発生素子に入射するポンプ光の角度を調整する第1の調整ミラーと、テラヘルツ波検出素子に入射するプローブ光の角度を調整する第2の調整ミラーとを更に備えたことが好ましい。これにより、テラヘルツ波発生素子に対するポンプ光の入射角度、及びテラヘルツ波検出素子に対するプローブ光の入射角度を最適化でき、反射分光計測の精度を一層確保できる。
【0010】
また、テラヘルツ波発生素子は、ポンプ光の入射軸に対して非同軸でテラヘルツ波を発生させる素子であることが好ましい。この場合、ポンプ光の一部が戻り光としてレーザ光源に到達することを抑制できるので、レーザ光源の動作の安定化が図られる。
【0011】
また、入射面において、テラヘルツ波発生素子を位置決めする段差部が形成されていることが好ましい。これにより、テラヘルツ波の損失がより効果的に抑えられ、反射分光計測の精度を確保できる。
【0012】
また、出射面において、テラヘルツ波検出素子を位置決めする段差部が形成されていることが好ましい。これにより、テラヘルツ波の損失がより効果的に抑えられ、反射分光計測の精度を確保できる。
【0013】
また、本発明に係る全反射分光計測装置は、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分岐する分岐部と、分岐部で分岐したポンプ光の入射によってテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生素子と、テラヘルツ波の入射面及び出射面を有し、入射面から入射したテラヘルツ波を内部で伝播させると共に第1反射面で全反射させて出射面から出射させる内部全反射プリズムと、内部全反射プリズムの出射面から出射したテラヘルツ波と、分岐部で分岐したプローブ光とが入射し、テラヘルツ波とプローブ光との間の相関を検出するテラヘルツ波検出素子と、を備え、内部全反射プリズムの第1反射面に配置された被測定物の光学定数に関する情報を、テラヘルツ波の全反射の際に生じる当該テラヘルツ波のエバネッセント成分により取得する全反射分光計測装置であって、内部全反射プリズムにおいて、入射面にはテラヘルツ波発生素子が一体に設けられ、出射面にはテラヘルツ波検出素子が一体に設けられ、入射面と第1反射面との間には、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を平行光化又は集光する光学面と、光学面によって平行光化又は集光したテラヘルツ波を第1反射面に向けて反射させる第2反射面とが設けられ、入射面に対して第2反射面が鈍角となっていることを特徴としている。
【0014】
この全反射分光計測装置では、テラヘルツ波発生素子が設けられた内部全反射プリズムの入射面に対し、光学面によって平行光化又は集光したテラヘルツ波を第1反射面に向けて反射させる第2反射面が鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を曲率半径の小さい面で入射させることが可能となり、テラヘルツ波の広がり角度に対して光学面のサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの光学面で対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波の損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。
【0015】
また、第1反射面と出射面との間には、第1反射面で全反射したテラヘルツ波を出射面側に反射させる第3反射面と、第3反射面で反射したテラヘルツ波をテラヘルツ波検出素子に向けて集光する光学面とが更に設けられ、出射面に対して第3反射面が鈍角となっていることが好ましい。これにより、テラヘルツ波発生素子で発生したテラヘルツ波を曲率半径の小さい面で入射させることが可能となり、テラヘルツ波の広がり角度に対して光学面のサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの光学面で対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波の損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る全反射分光計測装置によれば、装置の大型化を回避しつつ計測精度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る全反射分光計測装置を示す図である。
【図2】図1に示した全反射分光計測装置に用いられる一体型プリズムを示す側面図である。
【図3】被測定物の光学定数を導出する手順を示すフローチャートである。
【図4】比較例に係る一体型プリズムの一例を示す側面図である。
【図5】テラヘルツ波の広がり角度と光学面のサイズとの関係を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムの更なる変形例を示す側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムの更なる変形例を示す側面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す斜視図である。
【図12】本発明の変形例に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る全反射分光計測装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係る全反射分光計測装置を示す図である。同図に示すように、全反射分光計測装置1は、レーザ光を出射するレーザ光源2と、テラヘルツ波発生素子32・内部全反射プリズム31・テラヘルツ波検出素子33が一体となった一体型プリズム3と、テラヘルツ波を検出する検出部4とを備えている。また、全反射分光計測装置1は、上記構成要素の動作を制御する制御部5と、検出部4からの出力に基づいてデータ解析を行うデータ解析部6と、データ解析部6における処理結果を表示する表示部7とを備えている。
【0020】
レーザ光源2は、フェムト秒パルスレーザを発生させる光源である。レーザ光源2からは、例えば平均パワー120mW、繰り返しレート77MHzのフェムト秒パルスレーザが出力される。レーザ光源2から出射したフェムト秒パルスレーザは、ミラー11,12を経て、ビームスプリッター13によってポンプ光48とプローブ光49とに二分される。プローブ光49が伝播するプローブ光用光路C1には、ミラー14,15及びレンズ16が設けられており、プローブ光49は、レンズ16で集光されて後述のテラヘルツ波検出素子33に入射する。
【0021】
一方、ポンプ光48が伝播するポンプ光用光路C2には、遅延部21と、変調器22とが設けられている。遅延部21は、一対のミラー23,24と、可動ステージ26上に設置された反射プリズム25によって構成され、反射プリズム25の位置を一対のミラー23,24に対して前後させることで、ポンプ光48の遅延調節が可能となっている。また、変調器22は、例えば光チョッパによってポンプ光48の透過と遮断を切り替える部分である。変調器22は、制御部5からの信号に基づいて、例えば1kHzでポンプ光48の透過と遮断の変調を行う。
【0022】
ポンプ光用光路C2を伝播したポンプ光48は、ミラー28を経てレンズ27で集光され、一体型プリズム3に入射する。図2に示すように、一体型プリズム3を構成する内部全反射プリズム31は、例えばSiによって形成されており、入射面31a側にはテラヘルツ波発生素子32が一体に固定され、出射面31b側にはテラヘルツ波検出素子33が一体に固定されている。内部全反射プリズム31の上面は平坦な反射面31cとなっており、屈折率、誘電率、吸収係数といった各種の光学定数を測定する対象となる被測定物34が載置される。
【0023】
また、内部全反射プリズム31の底面において、入射面31aと反射面31cとの間には、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを反射面31cに向けて平行光化する第1光学面31dが設けられている。さらに、反射面31cと出射面31bとの間には、反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tを出射面31bに向けて集光する第2光学面31eが設けられている。これらの第1光学面31d及び第2光学面31eは、内部全反射プリズム31の底面を所定の形状に曲面加工することによって形成されている。
【0024】
テラヘルツ波発生素子32としては、例えばZnTeなどの非線形光学結晶、GaAsを用いた光スイッチなどのアンテナ素子、InAsなどの半導体、超伝導体などを用いることができる。これらの素子から発生するテラヘルツ波Tのパルスは、一般的には数ピコ秒程度である。テラヘルツ波発生素子32として非線形光学結晶を用いた場合、テラヘルツ波発生素子32にポンプ光48が入射すると、非線形光学効果によってテラヘルツ波Tに変換される。
【0025】
テラヘルツ波検出素子33としては、例えばZnTeなどの電気光学結晶、GaAsを用いた光スイッチなどのアンテナ素子を用いることができる。テラヘルツ波検出素子33として、電気光学結晶を用いた場合、テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射すると、プローブ光49がポッケルス効果によって複屈折を受ける。プローブ光49の複屈折量は、テラヘルツ波Tの電場強度に比例する。したがって、プローブ光49の複屈折量を検出することで、テラヘルツ波Tを検出することができる。
【0026】
ここで、内部全反射プリズム31は、側面視において台形状をなしており、入射面31aと反射面31cとがなす開放角θ1、及び出射面31bと反射面31cとがなす開放角θ2がいずれも135°程度の鈍角となっている。そして、ポンプ光48は、入射面31aに対して略垂直となるように入射し、テラヘルツ波発生素子32からは、ポンプ光48と同軸にテラヘルツ波Tが発生し、第1光学面31dに対して垂直に近い状態で入射する。第1光学面31dで反射したテラヘルツ波Tは、反射面31cで全反射した後、第2光学面31eにおいて曲率半径の小さい面で反射し、出射面31bに入射する。
【0027】
テラヘルツ波Tを検出する検出部4は、図1に示すように、例えばλ/4波長板41と、偏光素子42と、一対のフォトダイオード43,43と、差動増幅器44と、ロックイン増幅器47とによって構成されている。テラヘルツ波検出素子33で反射したプローブ光49は、ミラー45によって検出部4側に導かれ、レンズ46で集光されてλ/4波長板41を経由した後、ウォラストンプリズムなどの偏光素子42によって垂直直線偏光成分と水平直線偏光成分とに分離される。このプローブ光49の垂直直線偏光成分と水平直線偏光成分とは、一対のフォトダイオード43,43によってそれぞれ電気信号に変換され、差動増幅器44によってその差分が検出される。差動増幅器44からの出力信号は、ロックイン増幅器47によって増幅された後、データ解析部6に入力される。
【0028】
テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射した場合、差動増幅器44からはテラヘルツ波Tの電場強度に比例した強度の信号が出力され、テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射しなかった場合、差動増幅器44からは信号が出力されないこととなる。また、テラヘルツ波Tが内部全反射プリズム31の反射面31cで反射するときに放射されるエバネッセント波は、内部全反射プリズム31の反射面31cに載置される被測定物34と相互作用を起こし、被測定物34が載置されていない場合に比べてテラヘルツ波Tの反射率が変化する。したがって、このテラヘルツ波Tの反射率の変化を計測することで、被測定物34の分光特性を評価することができる。
【0029】
データ解析部6は、例えば全反射分光計測装置1の専用の解析プログラムに基づいて全反射分光計測のデータ解析処理を行う部分であり、物理的には、CPU(中央処理装置)、メモリ、入力装置、及び表示部7などを有するコンピュータシステムである。データ解析部6は、ロックイン増幅器47から入力された信号に基づいてデータ解析処理を実行し、解析結果を表示部7に表示させる。
【0030】
図3は、被測定物34の光学定数を導出する手順を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、テラヘルツ波Tが内部全反射プリズム31の反射面31cに対しP偏光で入射した場合を仮定する。
【0031】
図3に示すように、まず、全反射分光計測装置1を用いてリファレンス測定及びサンプル測定を実施する(ステップS01,S02)。リファレンス測定では、光学定数が既知である物質(例えば空気)について測定し、サンプル測定では光学定数を得たい物質について測定する。そして、リファレンス計測結果Trefとサンプル測定結果Tsigとをそれぞれフーリエ変換することによって、リファレンス振幅Rref、リファレンス位相Φref、サンプル振幅Rsig、サンプル位相Φsigをそれぞれ求める(ステップS03)。
【0032】
次に、リファレンス振幅Rrefとサンプル振幅Rsigとの比Pを式(1)によって求め、リファレンス位相Φrefとサンプル位相Φsigとの位相差Δを式(2)によって求める(ステップS04)。
【数1】

【数2】

さらに、上述した比Pと位相差Δとを用いて値qを式(3)のように定める(ステップS05)。
【数3】

【0033】
ここで、内部全反射プリズム31に対するテラヘルツ波Tの入射角をθ(図2参照)とし、リファレンス測定及びサンプル測定においてスネルの法則より求められる屈折角をそれぞれθref,θsigとする。さらに、フレネルの反射式を用いると、式(3)におけるPe−iΔは、以下の式(4)で表すことができる。
【数4】

【0034】
上記式(4)を式(3)に代入し、式の変形を行うと、以下の式(5)が得られる。
【数5】

【0035】
また、内部全反射プリズム31を構成する物質の複素屈折率をnprismとし、被測定物34の複素屈折率をnsampleとした場合、スネルの法則は以下の式(6)のようになり、被測定物34の複素屈折率の2乗は、式(7)で表される。したがって、式(5)を式(7)に代入することで、被測定物34の複素屈折率を求めることができ、これにより、被測定物34の所望の光学定数が導出される(ステップS06)。
【数6】

【数7】

【0036】
以上説明したように、全反射分光計測装置1では、テラヘルツ波発生素子32が設けられた内部全反射プリズム31の入射面31aに対し、被測定物34が配置される反射面31cが鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを第1光学面31dによって曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第1光学面31dのサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの第1光学面31dで対応できるテラヘルツ波Tの広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波Tの損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。
【0037】
また、全反射分光計測装置1では、テラヘルツ波検出素子33が設けられた内部全反射プリズム31の出射面31bに対し、被測定物34が配置される反射面31cが鈍角となっている。これにより、第2光学面31eにおいて、反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tを出射面31bに向けて曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第2光学面31eのサイズを最小化できる。また、同一のサイズの第2光学面31eで対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできるので、テラヘルツ波Tの損失を抑えることができる。
【0038】
テラヘルツ波Tの広がり角度と第1光学面31d及び第2光学面31eのサイズとの関係に関し、例えば図4に示すように、入射面31aと反射面31cとがなす開放角θ1、及び出射面31bと反射面31cとがなす開放角θ2がいずれも90°となっている内部全反射プリズム112によって構成された一体型プリズム111を想定する。この比較例では、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tが第1光学面31dに対して鈍角で入射すると共に、第2光学面31eにおいて反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tが出射面31bに向けて鈍角に反射することとなる。
【0039】
このため、図5に示すように、第1光学面31d及び第2光学面31eの大きさを長さ(一体型プリズムの長手方向に対する長さ)L及び高さ(一体型プリズムの高さ方向に対する長さ)Hで表すとすると、上記一体型プリズム111では、テラヘルツ波Tの広がり角θが±6°の場合でL=1.7mm、H=0.7mmの第1光学面31d及び第2光学面31eが必要となる。また、テラヘルツ波Tの広がり角θが±25°の場合でL=27mm、H=15mmの第1光学面31d及び第2光学面31eが必要となる。
【0040】
これに対し、本実施形態では、入射面31aと反射面31cとがなす開放角θ1、及び出射面31bと反射面31cとがなす開放角θ2がいずれも135°と鈍角になっていることで、テラヘルツ波Tの広がり角θが±6°の場合でL=0.29mm、H=0.002mmの第1光学面31d及び第2光学面31eを用いればよく、テラヘルツ波Tの広がり角θが±25°の場合でL=2.5mm、H=0.23mmの第1光学面31d及び第2光学面31eを用いればよい。
【0041】
なお、上述した実施形態では、第1光学面31d及び第2光学面31eを曲面形状としているが、コリメート機能・集光機能を有する面であればよく、球面形状や、楕円面・放物面といった非球面形状であってもよい。図6に示すように、第1光学面31dを楕円面形状とすることにより、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを反射面31cに向けて集光するようにしてもよい。また、第1光学面31d及び第2光学面31eが全反射条件を満たさないような場合には、第1光学面31d及び第2光学面31eに金属コーティング膜を適宜形成してもよい。
[第2実施形態]
【0042】
図7は、本発明の第2実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。同図に示すように、第2実施形態では、テラヘルツ波発生素子32に入射するポンプ光48の角度を調整する第1の調整ミラー51と、テラヘルツ波検出素子33に入射するプローブ光49の角度を調整する第2の調整ミラー52とを更に備えた一体型プリズム53を用いる点で第1実施形態と異なっている。このような構成により、第1実施形態の作用効果に加え、テラヘルツ波発生素子32に対するポンプ光48の入射角度、及びテラヘルツ波検出素子33に対するプローブ光49の入射角度を最適化でき、反射分光計測の精度を一層確保できる。
[第3実施形態]
【0043】
図8は、本発明の第3実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。同図に示すように、第3実施形態では、一体型プリズム63を構成する内部全反射プリズム61の形状が左右対称となっていない点で第1実施形態と異なっている。より具体的には、内部全反射プリズム61において、入射面61aと反射面61cとがなす開放角θ1が135°となっており、及び出射面61bと反射面61cとがなす開放角θ2が90°となっている。また、第1光学面61dが曲面形状であるのに対し、第2光学面61eは平面形状となっている。
【0044】
このような構成においても、第1実施形態と同様に、テラヘルツ波発生素子32が設けられた内部全反射プリズム61の入射面61aに対し、被測定物34が配置される反射面61cが鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを第1光学面61dに対して垂直に近い状態で入射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第1光学面61dのサイズを最小化できる。
【0045】
また、この内部全反射プリズム61では、第2光学面61eが平面形状となっており、第2光学面61eで反射したテラヘルツ波Tは、集光せずに出射面61bに入射するようになっている。このため、第2光学面61eと出射面61bとの間のテラヘルツ波Tの伝播距離が短くて済み、出射面61b側の内部全反射プリズム61の長さを小さくすることができる。したがって、装置の大型化を一層回避できる。
【0046】
なお、図9は、本発明の第3実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムの更なる変形例を示す側面図である。同図に示すように、この変形例では、一体型プリズム73を構成する内部全反射プリズム71の形状が左右対称となっていない点で第3実施形態と共通しているが、テラヘルツ波検出素子33が設けられた出射面71bが内部全反射プリズム71の底面に設定されている点で第3実施形態と異なっている。また、この内部全反射プリズム71では、第2光学面は設けられておらず、反射面71cで全反射したテラヘルツ波Tは、出射面71bに直接入射するようになっている。
【0047】
このような構成においても、第1実施形態と同様に、テラヘルツ波発生素子32が設けられた内部全反射プリズム71の入射面71aに対し、被測定物34が配置される反射面71cが鈍角となっている。これにより、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを第1光学面71dによって曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第1光学面71dのサイズを最小化できる。
[第4実施形態]
【0048】
図10は、本発明の第4実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。同図に示すように、第4実施形態では、ポンプ光と非同軸にテラヘルツ波Tを発生させる素子をテラヘルツ波発生素子32として用いている点で第1実施形態と異なっている。このような素子としては、例えばGaAsを用いた光スイッチなどのアンテナ素子、sLNなどの非線形光学結晶、InAsなどの半導体結晶が挙げられる。このような構成によっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0049】
また、この一体型プリズム83では、テラヘルツ波発生素子32に対して斜めにポンプ光48を入射させることができる。また、テラヘルツ波検出素子33をアンテナ素子で構成することにより、テラヘルツ波検出素子33に対して斜めにプローブ光49を入射させることができる。したがって、ポンプ光48がテラヘルツ波発生素子32で反射した戻り光及びプローブ光49がテラヘルツ波検出素子33で反射した戻り光がレーザ光源2側に到達することを抑制でき、レーザ光源2の動作の安定化が図られる。
[第5実施形態]
【0050】
図11は、本発明の第5実施形態に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す斜視図である。同図に示すように、第5実施形態では、一体型プリズム93を構成する内部全反射プリズム91の入射面91aにテラヘルツ波発生素子32を位置決めする段差部94が設けられている。そして、テラヘルツ波発生素子32を段差部94に突き当てることにより、入射面91aにおけるテラヘルツ波発生素子32の位置決めがなされている。
【0051】
同様に、内部全反射プリズム91の出射面91bには、テラヘルツ波検出素子33を位置決めする段差部95が設けられている。そして、テラヘルツ波検出素子33を段差部95に突き当てることにより、出射面91bにおけるテラヘルツ波検出素子33の位置決めがなされている。段差部94,95によってテラヘルツ波発生素子32及びテラヘルツ波検出素子33を精度良く位置決めすることで、テラヘルツ波Tの損失が効果的に抑えられ、反射分光計測の精度を確保できる。
[他の変形例]
【0052】
図12は、本発明の変形例に係る全反射分光計測装置に用いる一体型プリズムを示す側面図である。同図に示すように、この変形例では、一体型プリズム103を構成する内部全反射プリズム101において、入射面101aと被測定物34が載置される第1反射面101cとの間に、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを平行光化又は集光する第1光学面101dと、光学面101dによって平行光化又は集光したテラヘルツ波Tを第1反射面101cに向けて反射させる第2反射面101fとが設けられ、入射面101aに対する第2反射面101fの開放角θ1が鈍角となっている。
【0053】
また、内部全反射プリズム101では、第1反射面101cと出射面101bとの間には、第1反射面101cで全反射したテラヘルツ波Tを出射面101b側に反射させる第3反射面101gと、第3反射面101gで反射したテラヘルツ波Tをテラヘルツ波検出素子33に向けて集光する第2光学面101eとが更に設けられ、出射面101bに対する第3反射面101gの開放角θ2が鈍角となっている。
【0054】
この構成によれば、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを第1光学面101dによって曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第1光学面101dのサイズを最小化できる。したがって、装置の大型化を回避できる。また、このことは、同一のサイズの第1光学面101dで対応できるテラヘルツ波Tの広がり角度を大きくできることを意味し、テラヘルツ波Tの損失を抑えることで反射分光計測の精度を確保できる。
【0055】
また、第2光学面101eにおいて、反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tを出射面101bに向けて曲率半径の小さい面で反射させることが可能となり、テラヘルツ波Tの広がり角度に対して第2光学面101eのサイズを最小化できる。また、同一のサイズの第2光学面101eで対応できるテラヘルツ波の広がり角度を大きくできるので、テラヘルツ波Tの損失を抑えることができる。このような変形例の構成は、例えばテラヘルツ波発生素子32として光導電アンテナを用いる場合であって、発生するテラヘルツ波Tの放射角度が光軸に対して±30°〜±45°程度の広範囲にわたる場合に特に有効となる。
【符号の説明】
【0056】
1…全反射分光計測装置、2…レーザ光源、3,53,63,73,83,93,103…一体型プリズム、13…ビームスプリッター(分岐部)、31,61,71,91,101…内部全反射プリズム、31a,61a,71a,91a,101a…入射面、31b,61b,71b,91b,101b…出射面、31c,61c,71c,91c,101c,101f,101g…反射面、31d,61d,71d,91d,101d…第1光学面、31e,61e,91e,101e…第2光学面、32…テラヘルツ波発生素子、33…テラヘルツ波検出素子、34…被測定物、48…ポンプ光、49…プローブ光、51…第1の調整ミラー、52…第2の調整ミラー、94,95…段差部、T…テラヘルツ波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射されたレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分岐する分岐部と、
前記分岐部で分岐した前記ポンプ光の入射によってテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生素子と、
前記テラヘルツ波の入射面及び出射面を有し、前記入射面から入射した前記テラヘルツ波を内部で伝播させると共に反射面で全反射させて前記出射面から出射させる内部全反射プリズムと、
前記内部全反射プリズムの前記出射面から出射した前記テラヘルツ波と、前記分岐部で分岐した前記プローブ光とが入射し、前記テラヘルツ波と前記プローブ光との間の相関を検出するテラヘルツ波検出素子と、を備え、
前記内部全反射プリズムの前記反射面に配置された被測定物の光学定数に関する情報を、前記テラヘルツ波の全反射の際に生じる当該テラヘルツ波のエバネッセント成分により取得する全反射分光計測装置であって、
前記内部全反射プリズムにおいて、
前記入射面には前記テラヘルツ波発生素子が一体に設けられ、
前記出射面には前記テラヘルツ波検出素子が一体に設けられ、
前記入射面と前記反射面との間には、前記テラヘルツ波発生素子で発生した前記テラヘルツ波を前記反射面に向けて平行光化又は集光する光学面が設けられ、
前記入射面に対して前記反射面が鈍角となっていることを特徴とする全反射分光計測装置。
【請求項2】
前記反射面と前記出射面との間には、前記反射面で全反射した前記テラヘルツ波を前記テラヘルツ波検出素子に向けて集光する光学面が更に設けられ、
前記出射面に対して前記反射面が鈍角となっていることを特徴とする請求項1記載の全反射分光計測装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ波発生素子に入射する前記ポンプ光の角度を調整する第1の調整ミラーと、
前記テラヘルツ波検出素子に入射する前記プローブ光の角度を調整する第2の調整ミラーとを更に備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の全反射分光計測装置。
【請求項4】
前記テラヘルツ波発生素子は、前記ポンプ光の入射軸に対して非同軸で前記テラヘルツ波を発生させる素子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の全反射分光計測装置。
【請求項5】
前記入射面において、前記テラヘルツ波発生素子を位置決めする段差部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の全反射分光計測装置。
【請求項6】
前記出射面において、前記テラヘルツ波検出素子を位置決めする段差部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の全反射分光計測装置。
【請求項7】
レーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射されたレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分岐する分岐部と、
前記分岐部で分岐した前記ポンプ光の入射によってテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生素子と、
前記テラヘルツ波の入射面及び出射面を有し、前記入射面から入射した前記テラヘルツ波を内部で伝播させると共に第1反射面で全反射させて前記出射面から出射させる内部全反射プリズムと、
前記内部全反射プリズムの前記出射面から出射した前記テラヘルツ波と、前記分岐部で分岐した前記プローブ光とが入射し、前記テラヘルツ波と前記プローブ光との間の相関を検出するテラヘルツ波検出素子と、を備え、
前記内部全反射プリズムの前記第1反射面に配置された被測定物の光学定数に関する情報を、前記テラヘルツ波の全反射の際に生じる当該テラヘルツ波のエバネッセント成分により取得する全反射分光計測装置であって、
前記内部全反射プリズムにおいて、
前記入射面には前記テラヘルツ波発生素子が一体に設けられ、
前記出射面には前記テラヘルツ波検出素子が一体に設けられ、
前記入射面と前記第1反射面との間には、前記テラヘルツ波発生素子で発生した前記テラヘルツ波を平行光化又は集光する光学面と、前記光学面によって平行光化又は集光した前記テラヘルツ波を前記第1反射面に向けて反射させる第2反射面とが設けられ、
前記入射面に対して前記第2反射面が鈍角となっていることを特徴とする全反射分光計測装置。
【請求項8】
前記第1反射面と前記出射面との間には、前記第1反射面で全反射した前記テラヘルツ波を前記出射面側に反射させる第3反射面と、前記第3反射面で反射した前記テラヘルツ波を前記テラヘルツ波検出素子に向けて集光する光学面とが更に設けられ、
前記出射面に対して前記第3反射面が鈍角となっていることを特徴とする請求項7記載の全反射分光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−117837(P2012−117837A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265289(P2010−265289)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】