説明

全固体電池システム

【課題】本発明は、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制でき、出力特性に優れた全固体電池システムを提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池と、上記全固体電池を40℃以上に加温する加温手段とを有し、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池システムを提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制でき、出力特性に優れた全固体電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として優れた電池(例えばリチウム電池)の開発が重要視されている。また、情報関連機器や通信関連機器以外の分野では、例えば自動車産業界において、電気自動車やハイブリッド自動車に用いられるリチウム電池等の開発が進められている。
【0003】
ここで、従来市販されているリチウム電池には、可燃性の有機溶媒を用いた有機電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対して、液体電解質を固体電解質に変更した全固体電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような全固体電池の分野において、従来から、硫化物固体電解質材料が知られている。特許文献1においては、正極活物質にコバルト酸リチウム、硫化物固体電解質材料にLiS−P結晶化ガラスを用いた全固体電池が開示されている。この全固体電池は、硫化物固体電解質材料が架橋硫黄を有するため、Liイオン伝導性が高く、高出力化を図ることができるという利点を有する。しかしながら、架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料は、高温使用時に、硫化物固体電解質材料の化学劣化が生じやすく、内部抵抗が増大するという問題がある。そのため、高温使用による高出力化を図ることができないという問題がある。また、非特許文献1においても、種々の硫化物固体電解質材料が開示されている。また、非特許文献2においては、Liイオン伝導体であるLi11の結晶構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−109955号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Akitoshi Hayashi et al., “Characterization of Li2S-SiS2-Li3MO3 (M=B, Al, Ga and In) oxysulfide glasses and their application to solid state lithium secondary batteries”, Solid State Ionics, 152-153 (2002) 285-290
【非特許文献2】Hisanori Yamane et al., “Crystal structure of a superionic conductor, Li7P3S11”, Solid State Ionics, 178 (2007) 1163-1167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制でき、出力特性に優れた全固体電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池と、上記全固体電池を40℃以上に加温する加温手段とを有し、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池システムを提供する。
【0009】
本発明によれば、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いることで、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制することができる。これにより、出力特性に優れた全固体電池システムとすることができる。
【0010】
上記発明においては、上記硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料またはLiS−Al材料であることが好ましく、LiS−P材料であることがより好ましい。Liイオン伝導性が優れているからである。
【0011】
上記発明においては、上記硫化物固体電解質材料が、硫化物ガラスまたは結晶化硫化物ガラスであることが好ましい。硫化物ガラスは、結晶化硫化物ガラスに比べて柔らかいため、全固体電池を作製した際に活物質の膨張収縮を吸収でき、サイクル特性が優れるという利点を有する。一方、結晶化硫化物ガラスは、硫化物ガラスに比べて、Liイオン伝導性が高くなる可能性があるという利点を有する。
【0012】
上記発明においては、上記正極活物質が、酸化物正極活物質であることが好ましい。酸化物正極活物質を用いることにより、エネルギー密度の高い全固体電池とすることができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の全固体電池システムにおいては、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の全固体電池システムの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明における発熱体を説明する概略断面図である。
【図3】全固体電池の発電要素を示す概略断面図である。
【図4】充放電サイクル数と内部抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られた全固体リチウム二次電池の作動温度および内部抵抗の関係を示すグラフである。
【図6】実施例1における正極合材等に対するラマン分光測定の結果である。
【図7】比較例1における正極合材等に対するラマン分光測定の結果である。
【図8】実施例2における正極合材等に対するラマン分光測定の結果である。
【図9】実施例3における正極合材等に対するラマン分光測定の結果である。
【図10】参考例1−1〜1−5で得られた硫化物固体電解質材料のラマン分光測定の結果である。
【図11】参考例1−1、1−3、1−4、1−6で得られた硫化物固体電解質材料のX線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の全固体電池システムについて詳細に説明する。
【0016】
本発明の全固体電池システムは、正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池と、上記全固体電池を40℃以上に加温する加温手段とを有し、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いることで、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制することができる。これにより、出力特性に優れた全固体電池システムとすることができる。一般的に、固体電解質材料のイオン伝導度の温度依存性は、アレニウスプロットに従うため、高温になれば固体電解質材料のLiイオン伝導度は高くなり、電池の内部抵抗は低下する。しかしながら、架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料を用いた電池を、高温で作動させると、熱により架橋硫黄の部位で反応が生じ、硫化物固体電解質材料が化学劣化し、電池の内部抵抗は増大するという問題がある。これに対して、本発明においては、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いることで、熱による硫化物固体電解質材料の化学劣化を抑制することができ、内部抵抗の増大を抑制することができる。その結果、出力特性に優れた全固体電池システムとすることができる。すなわち、本発明においては、硫化物固体電解質材料の架橋硫黄が、熱的に不安定である点に着目し、その架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いることで、高温使用時における内部抵抗の増大を抑制できることを見出したのである。
【0018】
なお、上述した非特許文献1には、架橋硫黄を含む硫化物固体電解質材料を用いた全固体電池を、70℃にて充放電した実験結果が開示されている(非特許文献1のFig.6)。しかしながら、その実験で用いられた95(0.6LiS・0.4SiS)・5LiBOは、その製造方法を考慮すると架橋硫黄を有するものであると考えられ、高温使用時に硫化物固体電解質材料が化学劣化し、内部抵抗は増大していると考えられる。また、本発明における全固体電池は、固体電解質層を用いるものである。仮に、液体電解質(電解液)を用いた場合、40℃以上の高温域では、電解液の分解が顕著になるため、通常このような高温域で使用することは困難である。そのため、40℃以上の加温手段を用いるという特徴は、固体電解質層を有する全固体電池特有の特徴であると考えられる。
【0019】
図1は、本発明の全固体電池システムの一例を示す概略断面図である。図1に示される全固体電池システム20は、全固体電池10と、発熱体11、その発熱体11の温度を検知する温度検知部12、および発熱体11の温度を制御する制御部13からなる加温手段とから構成されるものである。さらに、全固体電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、固体電解質層3と、電池ケース4とを有する。本発明においては、加温手段が全固体電池10を40℃以上に加温し、さらに、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを大きな特徴とする。
【0020】
次に、熱による硫化物固体電解質材料の化学劣化について、硫化物固体電解質材料がLiS−P材料である場合を用いて説明する。硫化物固体電解質材料がLiS−P材料である場合、合成時のLiSおよびPの割合や、熱処理の条件等によって、下記のPSユニットやPユニットが形成される。
【0021】
【化1】

【0022】
PSユニットは架橋硫黄を有しないものであり、Pユニットは架橋硫黄を有するものである。後述する実施例に記載するように、PSユニットは熱的安定性が高く、例えば40℃以上の高い温度で電池を作動させたとしても、その構造を維持することができる。これに対して、Pユニットは熱的安定性が低い(架橋硫黄の反応性が高い)ため、高い温度で電池を作動させると、その構造を維持することができず、下記のようにPユニットに変化してしまう。
【0023】
【化2】

【0024】
このPユニットの結晶であるLiは、Liイオン伝導性が低いことが知られており、その結果、電池の内部抵抗は増大すると考えられる。このように、架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料を用いると、熱により架橋硫黄の部位で反応が生じ、硫化物固体電解質材料が化学劣化し、電池の内部抵抗は増大してしまうという問題がある。これに対して、本発明においては、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いることで、硫化物固体電解質材料の化学劣化を抑制し、高温使用時における電池の内部抵抗の増大を抑制することができるのである。
以下、本発明の全固体電池システムについて、構成ごとに説明する。
【0025】
1.全固体電池
本発明における全固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するものである。
【0026】
(1)固体電解質層
まず、本発明における固体電解質層について説明する。本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。固体電解質層に用いられる固体電解質材料は、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、中でも、硫化物固体電解質材料であることが好ましい。イオン伝導性が高いからである。特に、本発明においては、固体電解質層に用いられている硫化物固体電解質材料が、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料であることが好ましい。高温使用時における内部抵抗が小さい電池を得ることができるからである。
【0027】
なお、本発明における全固体電池は、固体電解質層、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有すれば良い。中でも、本発明においては、少なくとも固体電解質層が、上記硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質層は、電池の内部抵抗に与える影響が大きいからである。さらに、本発明においては、少なくとも固体電解質層および正極活物質層が、上記硫化物固体電解質材料を含有することがより好ましい。正極活物質と上記硫化物固体電解質材料との反応を抑制することで、内部抵抗の増大をさらに抑制することができるからである。特に、本発明においては、固体電解質層、正極活物質層および負極活物質層の全てが、上記硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。
【0028】
(i)実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料
次に、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料について説明する。ここで、「架橋硫黄」とは、硫化物固体電解質材料を合成時に生じる−S−結合の硫黄元素をいう。例えば、上記硫化物固体電解質材料がLiS−P材料の場合、SP−S−PS(上述したPユニット)の硫黄元素等が該当する。このような架橋硫黄は、熱の影響を受けやすく、高温使用時における内部抵抗増加の原因となる。
【0029】
「実質的に架橋硫黄を有しない」ことは、ラマン分光スペクトルの測定により、確認することができる。例えば、上記硫化物固体電解質材料がLiS−P材料である場合、Pユニットのピークは、通常402cm−1に表れる。そのため、本発明においては、このピークが検出されないことが好ましい。また、PSユニットのピークは、通常417cm−1に表れる。本発明においては、402cm−1における強度I402が、417cm−1における強度I417よりも小さいことが好ましい。より具体的には、強度I417に対して、強度I402は、例えば70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。なお、「実質的に架橋硫黄を有しない」ことは、ラマン分光スペクトルの測定結果以外にも、硫化物固体電解質材料を合成する際の原料組成比、NMRの測定結果を用いても確認することができる。
【0030】
実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料としては、具体的には、LiSと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。このような原料組成物を用いて上記硫化物固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、中でもメカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0031】
上記第13族〜第15族の元素としては、例えばAl、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族〜第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al、SiS、GeS、P、P、As、Sb等を挙げることができる。中でも、本発明においては、第14族または第15族の硫化物を用いることが好ましい。特に、本発明においては、LiSと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる上記硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料またはLiS−Al材料であることが好ましく、LiS−P材料であることがより好ましい。Liイオン伝導性が優れているからである。
【0032】
また、上記硫化物固体電解質材料が、LiSを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、上記硫化物固体電解質材料は、実質的にLiSを有しないことが好ましい。「実質的にLiSを有しない」とは、出発原料に由来するLiSを実質的に含有しないことをいう。LiSは、熱の影響を受けやすく、高温使用時における内部抵抗増加の原因となり得る。「実質的にLiSを有しない」ことは、X線回折により、確認することができる。具体的には、LiSのピーク(2θ=27.0°、31.2°、44.8°、53.1°)を有しない場合は、LiSを実質的に含有しないと判断することができる。なお、原料組成物におけるLiSの割合が大きすぎると、上記硫化物固体電解質材料がLiSを含む傾向にあり、逆に、原料組成物におけるLiSの割合が小さすぎると、上記硫化物固体電解質材料が上述した架橋硫黄を含む傾向にある。
【0033】
また、上記硫化物固体電解質材料が、実質的に架橋硫黄およびLiSを有しない場合、通常、上記硫化物固体電解質材料は、オルト組成またはその近傍の組成を有している。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。例えば、LiS−P系ではLiPSがオルト組成に該当し、LiS−Al系ではLiAlSがオルト組成に該当し、LiS−SiS系ではLiSiSがオルト組成に該当し、LiS−GeS系ではLiGeSがオルト組成に該当する。例えば、LiS−P系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびPの割合は、モル換算で、LiS:P=75:25である。同様に、LiS−Al系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびAlの割合は、モル換算で、LiS:Al=75:25である。一方、LiS−SiS系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびよびSiSの割合は、モル換算で、LiS:SiS=66.7:33.3である。同様に、LiS−GeS系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびGeSの割合は、モル換算で、LiS:GeS=66.7:33.3である。
【0034】
上記原料組成物が、LiSおよびPを含有する場合、上記原料組成物はLiSおよびPのみを含有するものであっても良く、その他の化合物を有するものであっても良い。LiSおよびPの割合は、モル換算で、LiS:P=70〜85:15〜30の範囲内であることが好ましく、LiS:P=70〜80:20〜30の範囲内であることがより好ましく、LiS:P=72〜78:22〜28の範囲内であることがさらに好ましい。両者の割合を、オルト組成を得る割合(LiS:P=75:25)およびその近傍を含む範囲とすることで、高温使用時における内部抵抗の増大をさらに抑制できるからである。なお、上記原料組成物が、LiSおよびAlを含有する場合、LiSおよびAlの割合等は、上述したLiSおよびPの割合等と同様であることが好ましい。
【0035】
一方、上記原料組成物が、LiSおよびSiSを含有する場合、上記原料組成物はLiSおよびSiSのみを含有するものであっても良く、その他の化合物を有するものであっても良い。LiSおよびSiSの割合は、モル換算で、LiS:SiS=50〜80:20〜50の範囲内であることが好ましく、LiS:SiS=55〜75:25〜45の範囲内であることがより好ましく、LiS:SiS=60〜70:30〜40の範囲内であることがさらに好ましい。両者の割合を、オルト組成を得る割合(LiS:SiS=66.7:33.3)およびその近傍を含む範囲とすることで、高温使用時における内部抵抗の増大をさらに抑制できるからである。なお、上記原料組成物が、LiSおよびGeSを含有する場合、LiSおよびGeSの割合等は、上述したLiSおよびSiSの割合等と同様であることが好ましい。
【0036】
また、上記原料組成物に用いられるLiSは、不純物が少ないことが好ましい。副反応を抑制することができるからである。LiSの合成方法としては、例えば特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。また、上記原料組成物は、LiS、および第13族〜第15族の元素の硫化物の他に、LiPO、LiSiO、LiGeO、LiBOおよびLiAlOからなる群から選択される少なくとも一種のオルトオキソ酸リチウムを含有していても良い。このようなオルトオキソ酸リチウムを加えることで、より安定な硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0037】
また、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、結晶化硫化物ガラスであっても良い。硫化物ガラスは、結晶化硫化物ガラスに比べて柔らかいため、全固体電池を作製した際に活物質の膨張収縮を吸収でき、サイクル特性が優れると考えられる。一方、結晶化硫化物ガラスは、硫化物ガラスに比べて、Liイオン伝導性が高くなる可能性がある。また、硫化物ガラスは、例えば、上記原料組成物に対して、上述した非晶質化処理を行うことで得ることができる。一方、結晶化硫化物ガラスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することで得ることができる。すなわち、原料組成物に対して、非晶質化処理および熱処理を順次行うことにより、結晶化硫化物ガラスを得ることができる。なお、熱処理の条件によっては、架橋硫黄およびLiSが生成する可能性や安定相が生成する可能性があるため、本発明においては、これらが生成しないように、熱処理温度および熱処理時間を調整することが好ましい。特に、本発明における結晶化硫化物ガラスは、安定相を有しないことが好ましい。
【0038】
熱処理の温度は、例えば270℃以上が好ましく、280℃以上であることがより好ましく、285℃以上であることがさらに好ましい。一方、熱処理の温度は、例えば310℃以下が好ましく、300℃以下であることがより好ましく、295℃以下であることがさらに好ましい。また、熱処理の時間は、例えば、1分間以上2時間以下の範囲内であり、30分間以上1時間以下の範囲内であることがより好ましい。また、本発明においては、まず、室温から昇温を行い、次に、上述した温度および時間の範囲内で熱処理を行い、最後に、室温まで降温させる。すなわち、本発明における熱処理の時間は、通常、昇温時間および降温時間を含まない保持時間である。熱処理を行う方法としては、例えば、焼成炉を用いる方法、成膜時の乾燥炉を用いる方法、ホットロールプレスを用いる方法等を挙げることができる。
【0039】
また、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導度の値が高いことが好ましい。常温でのLiイオン伝導度は、例えば10−5S/cm以上であることが好ましく、10−4S/cm以上であることがより好ましい。また、上記硫化物固体電解質材料の形状としては、例えば粒子状を挙げることができ、中でも真球状または楕円球状であることが好ましい。また、上記硫化物固体電解質材料が粒子状である場合、その平均粒径は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
(ii)固体電解質層
上述したように、本発明における固体電解質層は、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することが好ましく、その含有量は多いことが好ましい。高温使用時における内部抵抗がさらに小さい電池を得ることができるからである。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%〜100体積%の範囲内、中でも50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質材料のみから構成されていることが好ましい。なお、本発明における固体電解質層は、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料以外の固体電解質材料を含有していても良く、可撓性を付与する結着材を含有していても良い。また、固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
【0041】
(2)正極活物質層
次に、本発明における正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、正極活物質層に含まれる固体電解質材料が、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料であることが好ましい。高温使用時における内部抵抗が小さい電池を得ることができるからである。正極活物質層に含まれる硫化物固体電解質材料の割合は、全固体電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
また、本発明における正極活物質としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化物正極活物質を挙げることができる。酸化物正極活物質を用いることにより、エネルギー密度の高い全固体電池とすることができる。例えば、全固体リチウム電池に用いられる酸化物正極活物質としては、一般式Li(Mは遷移金属元素であり、x=0.02〜2.2、y=1〜2、z=1.4〜4)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。このような酸化物正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O、LiFeSiO、LiMnSiO等を挙げることができる。また、上記一般式Li以外の酸化物正極活物質としては、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型正極活物質を挙げることができる。
【0043】
正極活物質の形状としては、例えば粒子状を挙げることができ、中でも真球状または楕円球状であることが好ましい。また、正極活物質が粒子状である場合、その平均粒径は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば10体積%〜90体積%の範囲内であることが好ましく、30体積%〜70体積%の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
本発明における正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、本発明における正極活物質層は、さらに結着材を含有していても良い。結着材の添加により、正極活物質層に可撓性を付与することができる。結着材としては、例えばフッ素含有樹脂等を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の種類によって異なるものであるが、例えば1μm〜200μmの範囲内である。
【0045】
(3)負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、負極活物質層に含まれる固体電解質材料が、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料であることが好ましい。高温使用時における内部抵抗が小さい電池を得ることができるからである。負極活物質層に含まれる硫化物固体電解質材料の割合は、全固体電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。また、負極活物質の形状は、箔状であっても良く、粒子状であっても良い。負極活物質の形状が粒子状である場合、その平均粒径は、その平均粒径は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、例えば10体積%〜90体積%の範囲内であることが好ましく、30体積%〜70体積%の範囲内であることがより好ましい。なお、負極活物質層に用いられる固体電解質材料、導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の種類によって異なるものであるが、例えば1μm〜200μmの範囲内である。
【0047】
(4)その他の構成
本発明における全固体電池は、上述した正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、全固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な全固体電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。また、本発明の全固体電池は、発電要素を絶縁リングの内部に形成したものであっても良い。
【0048】
(5)全固体電池
本発明における全固体電池の種類としては、全固体リチウム電池、全固体ナトリウム電池、全固体マグネシウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも、全固体リチウム電池および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に、全固体リチウム電池が好ましい。また、本発明における全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明における全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができ、中でも角型およびラミネート型が好ましく、特にラミネート型が好ましい。
【0049】
本発明における全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。全固体電池の製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0050】
また、本発明においては、上述した全固体電池の使用方法を提供することができる。具体的には、正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池の使用方法であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有し、40℃以上で作動させることを特徴とする全固体電池の使用方法を提供することができる。
【0051】
2.加温手段
次に、本発明における加温手段について説明する。本発明における加温手段は、上記全固体電池を40℃以上に加温する手段である。本発明においては、全固体電池を60℃以上に加温することが好ましい。温度が低すぎると、充分に内部抵抗を抑制できない可能性があるからである。一方、本発明においては、全固体電池を500℃以下に加温することが好ましく、360℃以下に加温することがより好ましい。温度が高すぎると、Liイオン伝導性の観点からは好ましいものの、固体電解質材料の劣化が顕著になるからである。
【0052】
本発明における加温手段は、上記全固体電池を加温することができる手段であれば特に限定されるものではない。加温手段の一例としては、発熱体を用いる方法を挙げることができる。発熱体の設置位置は、全固体電池の電池ケースの外部であっても良く、内部であっても良い。電池ケースの外部に発熱体を設置する場合、内部に発熱体を設置する場合と比べて、電極反応によって発熱体が劣化することを防止でき、耐久性に優れた全固体電池システムを得ることができるという利点を有する。一方、電池ケースの内部に発熱体を設置する場合、効率良く全固体電池を加温することができるという利点を有する。
【0053】
また、電池ケースの外部に発熱体を設置する場合、図2(a)に示すように、発熱体11は電池ケース4の外表面に接するように配置されていても良く、図2(b)に示すように、発熱体11は電池ケース4の外表面との間に所定の間隔を設けて配置されていても良い。前者は電池ケースを効率良く加温することができるという利点を有し、後者は発熱体を設置する位置の制約が少なくなり設計が容易になるという利点を有する。さらに、発熱体が電池ケースの外表面に接するように配置されている場合、発熱体は電池ケースの全面を覆っていても良く、電池ケースの一部を覆っていても良い。一方、発熱体が電池ケースの外表面との間に所定の間隔を設けて配置されている場合、発熱体は電池ケースの全面を囲むように配置されていても良く、電池ケースの一部を加温できるように配置されていても良い。
【0054】
また、電池ケースの内部に発熱体を設置する場合、発熱体の設置位置は特に限定されるものではないが、例えば図2(c)に示すように、発熱体11が電池ケース4の内表面に形成される場合を挙げることができる。さらに、この場合、発熱体11と、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3とが接する表面に、発熱体11の劣化を防止する保護層(図示せず)が形成されていても良い。
【0055】
本発明における発熱体の一例としては、電気抵抗により発熱するものを挙げることができる。具体的には、鉄−クロム−アルミ発熱体、ニッケル−クロム発熱体等の金属発熱体を挙げることができる。また、本発明における発熱体の他の例としては、筒状部材の内部に加温されたガスまたは液体を流すことにより発熱するものを挙げることができる。特に、本発明の全固体電池システムを車載用に用いる場合は、全固体電池を加温する方法として、内燃機関等の発熱体を用いる方法、筒状部材の内部に排ガスを流す方法等を挙げることができる。
【0056】
一方、本発明における加温手段の他の例としては、マイクロ波を照射する手段等を挙げることができる。
【0057】
また、本発明における加温手段は、必要に応じて、全固体電池の温度を検知する温度検知部や、発熱体の温度を制御する制御部を有していても良い。
【0058】
3.全固体電池システム
本発明の全固体電池システムは、上述した全固体電池および加温手段を有するものであれば特に限定されるものではない。中でも、本発明の全固体電池システムは、高電流密度で作動させるものであることが好ましい。作動時の電流密度は、例えば0.1mA/cm〜1000mA/cmの範囲内、中でも1mA/cm〜100mA/cmの範囲内であることが好ましい。また、上述した全固体電池の使用方法においては、上記範囲の電流密度で作動させることが好ましい。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0061】
[実施例1]
(架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料の合成)
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と五硫化リン(P)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P=75:25(モル比)となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行った。これにより、硫化物固体電解質材料(75LiS・25Pガラス)を得た。
【0062】
得られた硫化物固体電解質材料をラマン分光で測定したところ、架橋硫黄を有しないPSユニットのピーク(417cm−1のピーク)が観察され、架橋硫黄を有するPユニットのピーク(402cm−1のピーク)は確認されなかった。そのため、架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料が得られたことが確認された。
【0063】
(全固体リチウム二次電池の作製)
得られた硫化物固体電解質材料(75LiS・25Pガラス)を用い、不活性雰囲気下で、全固体リチウム二次電池を作製した。まず、プレス機を用いて、図3に示すような発電要素Aを作製した。ここで、正極活物質層1を構成する材料として、LiCoO(8.9mg)および75LiS・25Pガラス(3.8mg)を有する正極合材を用いた。また、負極活物質層2を構成する材料として、グラファイト(4.71mg)および75LiS・25Pガラス(4.71mg)を有する負極合材を用いた。また、固体電解質層3を構成する材料として75LiS・25Pガラス(51mg)を用いた。
【0064】
これらの材料を用いて、まず、1ton/cmの圧力でプレスを行うことで固体電解質層3を形成し、次に、得られた固体電解質層3の一方の表面に正極合材を添加し、1ton/cmの圧力でプレスを行うことで正極活物質層1を形成し、最後に、固体電解質層3の他方の表面に負極合材を添加し、4.3ton/cmの圧力でプレスを行うことで負極活物質層2を形成した。これにより、発電要素Aを得た。その後、この発電要素Aを用いて、全固体リチウム二次電池を得た。
【0065】
[比較例1]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と五硫化リン(P)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P=70:30(モル比)となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行った。その後、アルゴン雰囲気中、290℃で1時間熱処理を行うことにより、硫化物固体電解質材料(70LiS・30P結晶化ガラス(Li11結晶化ガラスとも称する))を得た。
【0066】
得られた硫化物固体電解質材料をラマン分光で測定したところ、架橋硫黄を有するPユニットのピーク(402cm−1のピーク)が確認された。そのため、架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料が得られたことが確認された。また、得られた硫化物固体電解質材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウム二次電池を得た。
【0067】
[評価1]
(充放電評価)
実施例1および比較例1で得られた全固体リチウム二次電池を用いて、充放電評価を行った。充放電評価では、まず、0.1Cで3.96VまでCV充電を行い、その後、5mVの電圧でソーラートロンを用い、インピーダンス測定により電池の内部抵抗(初期内部抵抗)を求めた。その後、4.1V−3Vの間で充放電を0.1Cで繰り返し、10サイクル毎に、3.96Vまで充電しインピーダンス測定により電池の内部抵抗を求める操作を行った。また、充放電時の作動温度は60℃であり、充放電時の拘束圧は1ton/cmであった。その結果を図4に示す。
【0068】
図4は、10サイクル目、20サイクル目、30サイクル目における内部抵抗増加率を示すものである。なお、各サイクルの内部抵抗増加率は、初期内部抵抗を対する増加率である。図4に示されるように、60℃での充放電において、実施例1の全固体リチウム二次電池は、比較例1の全固体リチウム二次電池よりも内部抵抗の増大を抑制できることが確認された。
【0069】
また、図5に、実施例1で得られた全固体リチウム二次電池の作動温度および内部抵抗の関係を示す。なお、この内部抵抗の値は、60℃および25℃における初期内部抵抗を比較したものである。その結果、内部抵抗の値は、作動温度25℃では132Ωとなり、作動温度60℃では30Ωとなった。このように、作動温度を高くすることで、電池の内部抵抗を抑制できることが確認された。
【0070】
(ラマン分光測定)
上記の30サイクルの充放電を行った後、実施例1および比較例1で得られた全固体リチウム二次電池の正極合材を取り出し、顕微ラマン測定を行った。測定にはArレーザー(488nm)を用い、出力を6.0mWとした。なお、参照用として、充放電前の正極合材についても顕微ラマン測定を行った。その結果を図6および図7に示す。図6に示すように、実施例1の充放電前の正極合材は、PSユニットのピーク(417cm−1のピーク)を有し、実施例1の充放電後の正極合材も同様のピークを有していた。このことから、充放電後であっても、硫化物固体電解質材料のPSユニットは変化せず、硫化物固体電解質材料が化学劣化しないことが確認された。
【0071】
一方、図7に示すように、比較例1の充放電前の正極合材は、架橋硫黄を有するPユニットのピーク(402cm−1のピーク)を有していた。これに対して、比較例1の充放電後の正極合材は、Pユニットのピークが消失し、Pユニットのピーク(380cm−1のピーク)が生成していた。このことから、比較例1のように、架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料を用いると、60℃での充放電において、Pユニットが低Liイオン伝導性のPユニットに変化し、その結果、上記図4のように、内部抵抗増加率が増大したと考えられる。これに対して、本発明のように、架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を用いると、Pユニットの分解が生じないため、内部抵抗増加率を低減することができたと考えられる。
【0072】
[実施例2]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と五硫化リン(P)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P=75:25(モル比)となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行った。その後、アルゴン雰囲気中、290℃で1時間熱処理を行うことにより、硫化物固体電解質材料(75LiS・25P結晶化ガラス)を得た。
【0073】
その後、LiCoO(8.9mg)と、75LiS・25P結晶化ガラス(3.8mg)とを混合し、正極合材を得た。この正極合材に対して、60℃で30日間保存する保存試験を行った。なお、保存試験はアルゴン雰囲気下で行った。
【0074】
[実施例3]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と五硫化リン(P)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P=80:20(モル比)となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行った。これにより、硫化物固体電解質材料(80LiS・20Pガラス)を得た。
【0075】
その後、LiCoO(8.9mg)と、80LiS・20Pガラス(3.8mg)とを混合し、正極合材を得た。この正極合材に対して、60℃で30日間保存する保存試験を行った。なお、保存試験はアルゴン雰囲気下で行った。
【0076】
[評価2]
(ラマン分光測定)
実施例2で得られた保存試験後の正極合材、実施例2における合材作製前の75LiS・25P結晶化ガラス、実施例3で得られた保存試験後の正極合材、および実施例3における合材作製前の80LiS・20Pガラスに対して、上述した評価1と同様の条件で、ラマン分光スペクトルを測定した。その結果を図8および図9に示す。図8に示すように、実施例2における合材作製前の75LiS・25P結晶化ガラスは、PSユニットのピーク(417cm−1のピーク)を有し、実施例2で得られた保存試験後の正極合材も同様のピークを有していた。このことから、60℃30日間の保存試験を行った場合であっても、硫化物固体電解質材料のPSユニットは変化せず、硫化物固体電解質材料が化学劣化しないことが確認された。また、図9に示すように、実施例2における合材作製前の80LiS・20Pガラスは、PSユニットのピーク(417cm−1のピーク)を有し、実施例3で得られた保存試験後の正極合材も同様のピークを有していた。このことから、60℃30日間の保存試験を行った場合であっても、硫化物固体電解質材料のPSユニットは変化せず、硫化物固体電解質材料が化学劣化しないことが確認された。
【0077】
[参考例1−1〜1−6]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と五硫化リン(P)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、xLiS・(100−x)Pの組成において、x=50のモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行い、硫化物固体電解質材料を得た(参考例1−1)。また、xLiS・(100−x)Pの組成において、xの値を、それぞれx=66.7、70、75、80、100に変化させたこと以外は、参考例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た(参考例1−2〜1−6)。
【0078】
参考例1−1〜1−5で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、ラマン分光測定を行った。その結果を図10に示す。図10に示されるように、参考例1−1(x=50)および参考例1−2(x=66.7)では、Pユニットのピーク(402cm−1付近のピーク)が確認された。これに対して、参考例1−3〜1−5(それぞれx=70、75、80)では、Pユニットのピークは確認されず、PSユニットのピーク(417cm−1付近のピーク)が確認された。これにより、参考例1−3〜1−5で得られた硫化物固体電解質材料は、実質的に架橋硫黄を有していないことが確認された。
【0079】
また、参考例1−1、1−3、1−4、1−6で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折測定を行った。その結果を図11に示す。図11に示されるように、参考例1−6(x=100)では、LiSのピークが確認されたが、参考例1−1、1−3、参考例1−4では、LiSのピークが確認されなかった。これにより、参考例1−1、1−3、比較例1−4で得られた硫化物固体電解質材料は、実質的にLiSを有していないことが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 固体電解質層
10 … 全固体電池
11 … 発熱体
12 … 温度検知部
13 … 制御部
20 … 全固体電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池と、前記全固体電池を40℃以上に加温する加温手段とを有し、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池システム。
【請求項2】
前記硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料またはLiS−Al材料であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池システム。
【請求項3】
前記硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の全固体電池システム。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質材料が、硫化物ガラスまたは結晶化硫化物ガラスであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の全固体電池システム。
【請求項5】
前記正極活物質が、酸化物正極活物質であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の全固体電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−28893(P2011−28893A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171117(P2009−171117)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】