説明

共役脂肪酸含有モノグリセリドおよびその製造方法

【課題】本発明は、共役脂肪酸含有モノグリセリドおよび、該共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造方法、およびモノグリセリドの精製方法を提供する。
【解決手段】共役脂肪酸を含有するモノグリセリド。
リパーゼを触媒として用い、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸とグリセリンを、エステル化またはエステル化とグリセロリシスの反応に付することを特徴とする、上記の共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造方法。
遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物にアルカリを添加し、それにより該生成物中に存在する遊離脂肪酸を中和してケン化物を生成させ、さらに分子量がモノグリセリドより大きくかつケン化物と相溶性を有する物質を添加してケン化物の濃度を低下させた後、これを分子蒸留に付して該ケン化物を蒸留残渣として除去することを特徴とする、モノグリセリド含有グリセリド生成物の脱酸・精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役脂肪酸含有モノグリセリド、その製造方法およびモノグリセリドの精製方法に関し、更に詳細には、本発明は食品の乳化剤あるいは飲料用添加物等の用途に有用な共役脂肪酸含有モノグリセリド、および、リパーゼの存在下で共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸とグリセリンを基質としてエステル化反応、または同一反応系内でのエステル化反応とグリセロリシスの連続的反応を利用して共役脂肪酸含有モノグリセリドを製造する方法、およびモノグリセリドの精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共役リノール酸は抗ガン作用、体脂肪低減作用、動脈硬化抑制作用、抗アレルギー作用等の多彩な生理活性を有し、遊離脂肪酸の形態で健康食品として利用されているが、モノグリセリドの形態では利用されていない。非共役脂肪酸による通常の脂肪酸グリセリンエステルは、食品、医薬品、化粧品の分野において乳化剤として広く用いられており、中でもモノグリセリドは最もよく用いられている。一般的に、非共役脂肪酸による通常のモノグリセリドは、グリセリンと脂肪酸を高温下でエステル化させるか、脂肪酸メチルと油脂(トリグリセリド)を高温下でエステル交換させることによって製造されている。
【0003】
しかし、不安定な共役リノール酸等を含む共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造に従来の化学的方法を適用することはできず、本発明者らの知る限り共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造法を含めて報告されていない。
【0004】
また、酵素反応を利用した、非共役長鎖脂肪酸のモノグリセリドの合成法については、特開平9−268299号(特許文献1)や特公平4−12112号(特許文献2)などの公報に記載がある。前者の公報は、Pseudomonas属由来リパーゼの存在下、トリグリセリドをグリセロリシス化してモノグリセリドを効率よく合成する方法を提案している。この方法を応用して共役脂肪酸モノグリセリドを製造しようとした場合には、通常共役脂肪酸は遊離脂肪酸として流通しているため、共役脂肪酸をまずトリグリセリドに変換してからでないと、モノグリセリドを製造することはできない。また、後者の公報は、モノおよびジグリセリドリパーゼを用いて遊離脂肪酸とグリセリドをエステル化し、モノグリセリドを製造する方法を提供している。この方法は30℃での反応であり、エステル化率が60%以下のときでは、全グリセリド中のモノグリセリドの含量は90%以上となるが、エステル化率を90%以上に高めると、ジグリセリドの副成が認められ、モノグリセリドとジグリセリドの含量はほぼ等量となってしまう。
【0005】
共役脂肪酸は、前記のように多彩な生理活性を有し、遊離脂肪酸の形態で健康食品として利用されている。この共役脂肪酸を各種の食品、特にドリンク剤への添加物あるいは乳化剤としての利用用途を開くために、モノグリセリドの形態としての供給が期待される。しかし上述のように、共役脂肪酸は熱に対して不安定であるため、共役脂肪酸グリセリドの製造に、従来の化学法による非共役脂肪酸グリセリドに使われている製造方法を応用することはできず、また、非共役脂肪酸グリセリドの製造に関してこれまでに提案されている酵素的方法は、特定の微生物(Pseudomonas属)由来のリパーゼを触媒としたグリセロリシス反応(特開平9−268299号公報、J. Am. Oil Chem. Soc., 68, 6-10, 1991(非特許文献1))、およびエステル化率を低くしたときのエステル化反応(特公平4−12112号公報)にのみ有効な方法である。
【特許文献1】特開平9−268299号公報
【特許文献2】特公平4−12112号公報
【非特許文献1】J. Am. Oil Chem. Soc., 68, 6-10, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、共役脂肪酸を含有するモノグリセリドを製造する技術、具体的には、全てのリパーゼ(モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ、トリグリセリドリパーゼを含む)を触媒として用いることが可能で、かつ高いエステル化率の場合でもモノグリセリド含有率の高い共役脂肪酸グリセリンエステルを製造できる技術、およびモノグリセリドを精製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような技術的背景に鑑み、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、リパーゼを触媒としてエステル化を利用した反応系および同一反応系内でのエステル化反応とグリセロリシスの連続的反応を利用した反応系の構築に成功し、この知見を基に本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は下記のモノグリセリド、その製造方法および精製方法を要旨とするものである。
【0008】
共役脂肪酸を含有するモノグリセリド、好ましくは共役脂肪酸(代表的には共役リノール酸)を全脂肪酸中50%以上含有する上記のモノグリセリド。
リパーゼを触媒として用い、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸とグリセリンを、エステル化またはエステル化とグリセロリシスの反応に付することを特徴とする、上記共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造方法。
エステル化を利用する反応において、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸の1モル量に対してグリセリンを1〜20モル量使用し、温度を0℃〜20℃、あるいは20℃〜70℃に設定して反応を進行させ、温度を0℃〜20℃に設定する場合は反応途中から、また温度を20℃〜70℃に設定する場合は反応開始時から減圧下で脱水し、エステル化率が90%以上に達するまで0℃〜20℃、あるいは20℃〜70℃に維持することを特徴とする、上記モノグリセリドの製造方法(第1の方法)。
エステル化とグリセロリシスを利用する反応において、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸の1モル量に対してグリセリンを1〜20モル量使用し、温度を20℃〜70℃に設定してエステル化反応を行い、反応の途中で減圧下で脱水してエステル化率を90%以上に高めた後に冷却(好ましくは急冷)し、0℃〜20℃で静置してグリセロリシス反応を進行させることを特徴とする、上記モノグリセリドの製造方法(第2の方法)。
遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物にアルカリを添加し、それにより該生成物中に存在する遊離脂肪酸を中和してケン化物を生成させ、さらに分子量がモノグリセリドより大きくかつケン化物と相溶性を有する物質を添加してケン化物の濃度を低下させた後、これを分子蒸留に付して該ケン化物を蒸留残渣として除去することを特徴とする、モノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物の脱酸・精製方法。
【発明の効果】
【0009】
上述してきたように、本発明は、モノグリセリドを高割合で含む共役脂肪酸(代表的には共役リノール酸)含有モノグリセリドを提供することができるものである。
本発明の製造方法によれば、あらゆる種類のリパーゼ(モノグリセリドリパーゼ、ジグリセリドリパーゼ、トリグリセリドリパーゼを含む)を触媒として利用でき、上記のようなモノグリセリドを高割合で含む共役脂肪酸含有モノグリセリドを製造することができる。
また、リパーゼを触媒として、共役脂肪酸とグリセリンを低温で反応させるエステル化反応を利用して、あるいは同一反応系内での高温によるエステル反応と低温によるグリセロリシス反応を組合わせて利用して、90%以上の共役脂肪酸をエステル化させ、グリセリド画分の共役脂肪酸モノグリセリド含量を80%以上に高めることができる。
さらに、本発明は、モノグリセリドを純度よく精製するためのモノグリセリドの精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によるモノグリセリドは、共役脂肪酸を含有するモノグリセリドであることは上記したところであり、好ましくは共役脂肪酸を50%以上(グリセリンに結合した全脂肪酸中)含有するモノグリセリドである。また、本発明のモノグリセリドは、トリグリセリドを実質的に含まず(2%以下)、かつ遊離脂肪酸をほとんど含まず(5%以下)、全グリセリド(モノ、ジ、トリ)中モノグリセリドを通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の高い割合で含有する共役脂肪酸モノグリセリドである。
本発明において、共役脂肪酸としては共役リノール酸、共役トリエン酸(特に共役リノレン酸)、共役EPA、共役DHA等が好ましい例としてあげられるが、共役リノール酸が代表的である。
なお本明細書において、%表示は特に断りのない限り、あるいは%表示のみで明確な場合(エステル化率など)を除き重量%を意味する。
【0011】
このような共役脂肪酸含有モノグリセリドは、前記のように、リパーゼを触媒として用い、共役脂肪酸を含む脂肪酸混合物とグリセリンを、エステル化またはエステル化とグリセロリシスの反応に付することにより製造することができる。このような本発明方法の代表的な態様は、前述のような、エステル化反応を利用した第1の方法およびエステル化反応とグリセロリシス反応を同一反応系内で連続して行なう第2の方法である。
【0012】
本発明方法で用いる共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸とは、上記のような共役脂肪酸を含むものであればいずれの起源のものでも使用できるが、好ましくは共役脂肪酸を50%以上、より好ましくは70%以上含むものである。このような遊離脂肪酸の実用的な好ましい例としては、リノール酸を含む油(サフラワー油、ヒマワリ油等)をプロピレングリコールなどの存在下でアルカリ共役化して製造したc9,t11-およびt10,c12-共役リノール酸異性体をそれぞれ30%以上含む遊離脂肪酸の混合物(例えばCLA-80:リノール油脂社製)等があげられるが、微生物等(例えば乳酸菌)によって生産される共役リノール酸含有油脂から得られた脂肪酸の混合物であってもよい(例えば、乳酸菌を用いた米国特許第6,060,304号公報参照)。また、尿素付加法、低温結晶法、酵素(リパーゼ)を用いた選択的な反応を利用した方法(例えば Lipids,34,979-987(1999)、J.Am.Oil Chem. Soc.,76,1265-1268(1999)、J.Am.Oil Chem.Soc.,79,303-308(2002)参照)等の手段により所望に精製して共役リノール酸含有率の高い(例えば90%以上)遊離脂肪酸を使用すれば、最終的に共役リノール酸含有率の高い目的のモノグリセリドを得ることができる。この共役リノール酸含有率は、上記の方法における精製の程度を適宜調節することにより所望の割合に調整することができ、また非共役脂肪酸での希釈により所望に低減させることができる。
【0013】
触媒として使用するリパーゼは、グリセリド類を基質として認識する酵素であれば粗製、部分精製、精製のいずれのものでもよく、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ、あるいはトリグリセリドリパーゼも包含する。特に、Pseudomonas属、Burkholderia属、Alcaligenes属、Bacillus属、Candida属、Geotrichum属、 Penicillium属、Rhizopus属、Rhizomucor属、Mucor属、Aspergillus属、Thermomyces属等の微生物が生産する酵素や豚膵臓由来の酵素が好ましい。これらの酵素は一般に市販されており、容易に入手可能である。
【0014】
使用する酵素としてのリパーゼの量は、反応時間や反応温度などの反応条件により決定されるため特に規定されないが、一般的には反応混液1g当たり1単位(U)〜10000U、好ましくは5U〜1000U添加すればよく、適宜設定することができる。ここでリパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)1Uとは、オリーブ油の加水分解反応において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量であり、モノグリセリドリパーゼあるいはモノおよびジグリセリドリパーゼ1Uとは、モノオレインの加水分解反応において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量である。酵素は遊離型のまま、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウム等の担体に固定して使用してもよい。遊離型酵素を使用するときは、一旦酵素を水に溶かし、酵素水溶液を所定の酵素量になるように反応液中に添加するのが好ましく、このとき酵素剤はできるだけ少ない量の水で溶かした方がよい。また、固定化酵素を使用するときには反応系に水を加える必要はない。
【0015】
反応系に加えるグリセリンの量は重要な因子の一つであり、特にエステル化率とグリセリド画分のモノグリセリド含量に影響を与える。グリセリンの量は、通常遊離脂肪酸1モル量に対して1〜20モル量、好ましくは2〜10モル量であるが、反応温度を20℃〜70℃に設定したとき(第2の方法)、反応系中に存在する酵素溶液由来の少量の水とエステル化反応によって生じる水を減圧等の操作により特に除去しなくても、グリセリン量を遊離脂肪酸1モル量に対して7モル量以上とすることによりエステル化率を高めることができる。また、20℃〜70℃の反応におけるモノ、ジ、トリグリセリドの合成はグリセリン量の影響を受け難いが、0℃〜20℃の低温で反応させたとき(第1の方法)、グリセリン量を遊離脂肪酸1モル量に対して7モル量以上とすることによりジおよびトリグリセリドの副成が低温反応による効果に加えて更に抑えられ、グリセリド画分中のモノグリセリドの割合を高めることができる。
【0016】
反応系中に存在する酵素溶液由来の水とエステル化反応によって生成してくる水は、グリセリン量を抑えた(等モルから3モル量もしくは5モル量程度)エステル化反応に大きな影響を及ぼす。この場合の反応(第1の方法、第2の方法を含む)において、反応途中で例えばエステル化率が50〜70%に達した時点で、または、エステル化反応を利用した第1の方法で温度を20℃〜70℃に設定する場合は反応開始時点で、真空ポンプ等を用いて減圧脱水(通常、減圧後の絶対圧力0.5〜5mmHg程度の真空下)を行うことにより90%以上のエステル化率に達するまでの時間を短縮することができると共に、より高いエステル化率を得ることもできる。
なお本明細書においてエステル化率とは、反応系における全遊離脂肪酸に対する、エステル(グリセリド)生成に関与した遊離脂肪酸の割合を意味する。
【0017】
エステル化反応を利用した第1の方法の好ましい態様において、攪拌様作用により基質と酵素の混合物をエマルションにして反応を開始後、一つの好ましい方法は、温度を0℃〜20℃に設定する場合は、反応の進行と共に流動性が低下して固化した時点で攪拌様作用を停止し、そのままエステル化率が90%以上、好ましくは95%以上に達するまで上記の所定温度に維持する方法である。また、別の好ましい方法は、温度を20℃〜70℃に設定する場合、攪拌様作用によりエマルションが持続するようにエステル化反応を行い、攪拌作用を続けたままエステル化率が90%以上、好ましくは95%以上に達するまで上記の所定温度に維持する方法である。
エステル化反応とグリセロリシス反応を利用した第2の方法の好ましい態様は、攪拌様作用により基質と酵素の混合物をエマルションにしてエステル化反応を行い、エステル化率が90%以上、好ましくは95%以上に達した後、反応液が固化するまで強い攪拌様作用を与えながら急冷する方法である。
【0018】
反応混液を固化させるまでのエステル化反応は、グリセリンの液滴サイズをできるだけ小さくし、かつ均一なエマルション状態で行うことが好ましい。グリセリンの液滴サイズを小さくすればするほど反応時間を短縮することができる。エマルションを作る方法は各種の攪拌(例えば各種形態の攪拌翼を用いた方式、スターラー、ホモゲナイザー、ミキサー)、振動(例えば超音波処理)、ピストン方式、ハニーカム方式などの攪拌様作用を与える様々な手段が適用できる。液滴サイズは小さい方がグリセリンと脂肪酸の接触面積が増えるため、エステル化反応の効率化が計れる。このような調整は、上記手段の出力強度等を適宜調節することにより行うことができる。
【0019】
本発明において、反応温度は特に重要である。エステル化反応のみを利用してモノグリセリドを製造するときは(第1の方法)、反応温度を0℃〜20℃、好ましくは0℃〜15℃に設定すると、ジおよびトリグリセリドの副成を抑制することができる。また、反応温度を20℃〜70℃、好ましくは25℃〜50℃に設定する場合は、反応開始時から減圧脱水することにより、ジおよびトリグリセリドの副成を抑制することができる。
同一反応系内でエステル化反応とグリセロリシス反応を連続して進行させモノグリセリドを製造するときは(第2の方法)、まず20℃〜70℃、好ましくは25℃〜50℃でエステル化反応を行なうことによりモノ、ジグリセリドが生成する。グリセロリシス反応は0℃〜20℃、好ましくは0℃〜15℃で効率よく進行してグリセリド画分中のモノグリセリドの割合が増加するが、エステル化反応後、グリセロリシス反応を進行させるためには、上述のように強い攪拌様作用を与えながらグリセロリシス反応の上記の所定温度まで冷却して反応液を固化させることが好ましい。この際、冷却は可能な限り急冷することにより速やかに固化させることが好ましいが、降温速度が相対的に遅くても固化させるまでに要する時間が長くなるだけで反応に大きな影響を与えることはない。これらの温度設定、調節は通常の恒温装置等を用いて行なうことができる。
【0020】
反応に必要な時間は、温度、酵素量、グリセリン量等の反応条件により大きく影響を受けるため特に規定されず、温度が高いほど、酵素量が多いほど、グリセリン量が多いほど反応速度は速くなるが、操作性を考慮すると、エステル化反応のみを利用した方法(第1の方法)では、反応温度が0℃〜20℃の場合は、攪拌作用を止めてからの反応時間も含めると好ましくは10時間〜1週間、より好ましくは20〜96時間程度が望ましく、反応温度が20℃〜70℃で減圧脱水しながら反応を行なう場合は好ましくは1〜96時間、より好ましくは10〜72時間程度が望ましい。また、同一反応系内でエステル化反応とグリセロリシス反応を連続して進行させる方法(第2の方法)では、反応温度が20℃〜70℃でのエステル化反応に要する時間は好ましくは1〜72時間、より好ましくは5〜72時間程度が望ましく、その後の反応温度0℃〜20℃でのジグリセリドをモノグリセリドに変換するグリセロリシス反応は、急冷固化させた反応液を通常5時間〜2ヶ月間、好ましくは1〜30日、より好ましくは1〜10日程度放置しておくことが望ましい。この放置時間は、急冷しながら固化させる上記攪拌様作用手段に大きく依存し、例えば、ホモゲナイザーや食品加工用のハンディーミキサーなどを用いた強い攪拌によりグリセリン液滴サイズの小さいエマルションを作り、固化によりこの状態を維持することができれば反応時間は大幅に短縮できる。
なおエステル化反応において、反応液を泡立てて固化させると共役脂肪酸が酸化あるいは異性化等の反応を受け易くなるので、泡立てないようにあるいは窒素気流下で固化させることが好ましい。
【0021】
以上のように、リパーゼのエステル化反応を利用した第1の方法において、攪拌様作用、グリセリン濃度の調節、前述のように反応途中での減圧脱水を適宜行なうか反応開始時から減圧脱水を行なうことにより、エステル化速度が上昇し短時間で90%以上、好ましくは95%以上のエステル化率が得られ、反応液の固化後の低温放置により、最終的に反応液中のグリセリド画分のモノグリセリド含量は80%以上に達する。また、リパーゼのエステル化反応とグリセロリシス反応を同一反応系内で連続して行う第2の方法において、特に反応途中での減圧脱水を適宜行なうことによりエステル化率が90%以上、好ましくは95%以上に達し、この状態で激しい攪拌様作用を加えながら好ましくは急冷して反応液を完全に固化させ、低温で放置してグリセロリシス反応を継続することにより、反応液中のグリセリド画分のモノグリセリド含量は80%以上に達する。
上述のような方法により、本発明の共役脂肪酸含有モノグリセリドを主成分とする生成物を製造することができる。
【0022】
反応後、所望により反応液(上記共役脂肪酸含有モノグリセリドを主成分とする生成物)からモノグリセリドを精製するには、合目的的な任意の方法を採用することができるが、例えば通常の脱酸、溶媒中での脱酸、膜分離、蒸留、イオン交換クロマトグラフィー等、およびこれらの方法の任意の組み合わせにより、遊離脂肪酸を除去してモノグリセリドを純度よく精製することができる。このような精製には、蒸留法を組合せた方法が特に効果的であり、具体的には、例えば反応液を分子蒸留に負荷し、未反応の遊離脂肪酸を留分として除去した後、モノグリセリドを蒸留・留出させることによって精製したモノグリセリド画分を得ることができる。
【0023】
上記精製法に関連し、本発明は下記のようなグリセリドの脱酸・精製方法にも関する。
遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物にアルカリを添加し、それにより該生成物中に存在する遊離脂肪酸を中和してケン化物を生成させ、さらに分子量がモノグリセリドよりも大きくかつケン化物と相溶性を有する物質を添加してケン化物の濃度を低下させた後、これを分子蒸留に付して該ケン化物を蒸留残渣として除去することを特徴とする、モノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物の脱酸・精製方法。
【0024】
上記の脱酸・精製方法は、上記共役脂肪酸含有モノグリセリド(代表的には共役リノール酸含有モノグリセリド)を主成分とする生成物に含まれている遊離脂肪酸が少ない場合(通常酸価20mgKOH/g以下)に有効に使用することができる。また、上記[0022]に記載された蒸留脱酸において、遊離脂肪酸を留出除去した残渣画分(共役脂肪酸含有モノグリセリドが主成分)に遊離脂肪酸が混在し、残渣画分の蒸留によって留分として得られる共役脂肪酸モノグリセリド画分になお遊離脂肪酸の混在が予想され更なる精製を望む場合にも、残渣画分を「遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを主成分とするグリセリド生成物」としてこの脱酸・精製方法を用いることができる。好ましい例を以下に示す。
【0025】
まず、遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを主成分とするグリセリド生成物中になお混在する遊離脂肪酸に対して等モルのアルカリ(好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど)を加え、酸価を0〜10mgKOH/g、好ましくは0〜5mgKOH/g、さらに好ましくは0〜3mgKOH/gまで低下させ、脂肪酸のケン化物を生成させる。次いで該ケン化物と相溶性(もしくは相互溶解性)を有しかつモノグリセリドより分子量もしくは沸点の高い物質を添加し、180℃〜250℃、0.5〜0.005mmHgの条件での分子蒸留に付する。このような物質としては、例えばジグリセリドやトリグリセリドが好ましいが、その他コレステロールエステル、ワックス類、糖エステル等も使用できる。分子蒸留は通常の分子蒸留装置を用いて行うことができる。分子蒸留の結果、モノグリセリドは留分として回収でき、ケン化物、添加したケン化物と相溶性を有する物質、および反応液(モノグリセリド画分)中に夾雑している高沸点物質(ジグリセリドやトリグリセリドが主成分)は蒸留残渣として除去することができる。なお、ケン化物に相溶性を有する物質の添加量は適宜設定できるが、蒸留残渣の粘性を蒸留操作が妨害されない程度まで低下させることのできる最少量に設定したとき、最も効率よくモノグリセリドを蒸留・精製することができる。
【0026】
精製の対象物、すなわち、遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物としては、上述のように本発明方法で得られた共役脂肪酸含有モノグリセリドを主成分とする生成物およびその部分精製物(反応液から遊離脂肪酸の一部を分子蒸留によって留出除去した部分精製物)の他、通常の化学的あるいは酵素的方法で得られた非共役脂肪酸含有グリセリド生成物(ジ、トリグリセリドを含んでいてもよい)あるいはその部分精製物など、遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有する任意のグリセリド生成物を用いることもできる。
【0027】
本発明において、エステル化率は、反応前の遊離脂肪酸量に対する反応脂肪酸量(反応によって消費された脂肪酸量)で表し、遊離脂肪酸量はアルカリ滴定による酸価から求めた。グリセリド組成はベンゼン/クロロホルム/酢酸(50:20:0.5)で展開した後、TLC/FIDアナライザー(イヤトロスキャン)で定量した。モノグリセリド中の脂肪酸組成は構成脂肪酸をメチルエステル化し、DB−23キャピラリーカラム(0.25mm×30mm)を装着したガスクロマトグラフィーにより分析した。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0029】
[実施例1] グリセリン量の影響:Penicillium camembertii モノおよびジ
グリセリドリパーゼ
共役リノール酸を含む遊離脂肪酸の混合物はリノール油脂(株)の製品 CLA-80 (c9, t11-CLA, 33.1%; t10,c12-CLA, 33.9% c9,c11-CLA, 0.9%, c10,c12-CLA, 1.4%, other CLA,1.8%)を用いた。反応は50ml容バイアルビン中、スターラーで攪拌(500rpm)しながら行った。CLA-80/グリセリン(=1:1〜10,mol/mol)混液5gとPenicillium camembertii モノ及びジグリセリドリパーゼの水溶液(200mg/ml, 10000U/ml; 天野エンザイム; リパーゼG)0.1mlからなる反応液を30℃で24時間攪拌しながらインキュベートした。反応液の組成と反応後のエステル化率を表1に示す。エステル化反応を30℃で行ったとき、遊離脂肪酸1モル量に対して7モル量のグリセリンを使用すると減圧脱水しなくても90%以上のエステル化率が得られた。また、本反応においてトリグリセリドは全く合成されず、グリセリド画分のモノグリセリドとジグリセリドの生成量は、基質として用いたグリセリン量に関係なくほぼ等量合成された。

表1
脂肪酸/グリセリン エステル化率 反応液の組成(%)
(モル/モル) (%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド
1:1 64.0 36.0 30.2 33.8
1:2 78.8 21.2 38.8 40.0
1:5 83.4 16.6 40.7 42.7
1:7 91.1 8.9 43.0 48.1
1:10 91.9 8.1 43.6 48.2
【0030】
[実施例2] 温度の影響:Penicillium camembertii モノ及びジグリセリド
リパーゼ
CLA-80/グリセリン(1:5,mol/mol)5gとPenicillium camembertiiモノ及びジグリセリドリパーゼの水溶液(10000U/ml)0.1mlからなる反応液を5℃から50℃の温度領域で、スターラーで攪拌(500rpm)しながらインキュベートした。反応5時間及び24時間後のエステル化率と反応液の組成を表2に示す。反応温度の上昇と共にエステル化の速度も上昇した。反応温度を30℃以上に設定するとジグリセリドが副成してくるが、15℃以下の反応ではモノグリセリドからジグリセリドへの変換は抑えられた。

表2
反応温度 反応時間 エステル化率 反応液の組成(%)
(℃) (時間) (%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド
5 5 49.5 50.5 49.1 0.4
24 88.6 11.4 83.8 4.8
15 5 66.8 33.1 64.8 2.1
24 87.9 12.1 80.5 7.4
30 5 81.1 18.9 55.4 25.7
24 85.8 14.2 44.7 41.1
40 5 82.6 17.4 58.6 24.0
24 86.1 13.9 46.9 39.2
50 5 82.1 17.9 55.5 26.4
24 86.1 13.9 45.3 40.8
【0031】
[実施例3] Penicillium camembertii モノ及びジグリセリドリパーゼを触
媒としたエステル化反応だけを利用して共役リノール酸含有モ
ノグリセリドを製造する方法
反応は1000ml容量のマル底4つ口フラスコを用い、攪拌はウオールウェッター(関西化学機械製作(株)製)を用いて行った。CLA-80/グリセリン(1:3, mol/mol)300gとPenicillium camembertiiモノ及びジグリセリドリパーゼの水溶液(10000 U/ml)6mlからなる反応液を5℃で攪拌(250rpm)しながら反応を開始した。反応経過に伴い反応液の流動性が低下してきたため、エステル化率が38.7%に達した10時間後に攪拌速度を100rpmまで落とし、エステル化率が48%に達した12時間後に50 rpm まで落とした。反応24時間後にエステル化率は88.2%に達し、反応液は完全に固化して攪拌の効果が全く認められなかったので攪拌を停止した。同時に、エステル化率をさらに高めるために、静置のまま3mmHg の減圧下で脱水しながらさらに48時間(全反応時間は72時間)反応を継続した。反応経過に伴うエステル化率及び反応液の組成を表3に示す。エステル化率が一定値に達した後に、減圧脱水することによりエステル化率を97.1%にまで高めることができた。また、低温で反応させたときジグリセリドの副成はほとんど認められず、反応終了時のグリセリド画分のモノグリセリド含量は97.0%に達した。

表3
反応時間 エステル化率 反応液の組成(%)
(時間) (%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド
0 0 100 0 0
2 2.1 97.9 1.7 0.4
4 6.2 93.8 5.4 0.7
7 15.0 85.0 14.4 0.6
10 38.7 62.3 36.4 1.3
12 48.0 52.0 46.8 1.2
24 88.2 11.8 84.4 3.7
28 92.9 7.1 89.3 3.6
34 94.2 5.8 90.8 3.4
48 96.5 3.5 94.0 2.5
72 97.1 2.9 94.2 2.9
【0032】
[実施例4] Penicillium camembertiiモノ及びジグリセリドリパーゼを触
媒としたエステル化反応だけを利用して共役リノール酸含有モ
ノグリセリドを製造する方法
反応は1000ml容量のマル底4つ口フラスコを用い、攪拌はウオールウェッター(関西化学機械製作(株)製)を用いて行った。CLA-80/グリセリン(1:5, mol/mol)300gとPenicillium camembertiiモノ及びジグリセリドリパーゼの水溶液(10000 U/ml)6mlからなる反応液を30℃で攪拌(280rpm)しながら反応を開始した。反応開始と共に5mmHgの減圧下で脱水を開始し、48時間反応を継続した。反応経過に伴うエステル化率及び反応液の組成を表4に示す。反応開始時から減圧脱水することにより、反応液が均一な液体状態のままでエステル化率を97.0%まで高めることができた。また、ジグリセリドの副成はほとんど認められず、反応終了時のグリセリド画分のモノグリセリド含量は89.3%に達した。

表4
反応時間 エステル化率 反応液の組成(%)
(時間) (%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド
0 0 100 0 0
2 44.2 55.8 42.4 1.8
4 73.5 26.6 71.0 2.4
7 85.1 14.9 81.3 3.8
9 87.5 12.5 81.6 5.9
24 94.8 5.2 89.8 5.0
28 95.6 4.4 89.0 6.6
34 97.2 2.8 90.0 7.2
48 97.0 2.9 89.3 7.8
【0033】
[実施例5] Penicillium camembertiiモノ及びジグリセリドリパーゼを触
媒として用い、エステル化反応とグリセロリシス反応を利用し
て共役リノール酸含有モノグリセリドを製造する方法
反応は実施例3と同じ装置を用いて同じ反応液組成で、30℃、250rpm の攪拌で開始した。エステル化率が84.0%に達した9時間後、3mmHgの減圧下で脱水しながら72時間まで攪拌しながら反応を継続した。この反応液をビーカーに取り出し、氷水につけて料理用ハンドミキサーで攪拌しながら反応液を完全に固化させた後、5℃で1週間放置した。反応経過に伴うエステル化率及び反応液の組成を表5に示す。エステル化率が一定値に達した後に、減圧脱水することによりエステル化率は72時間後に96.5%まで上昇した。この反応液中のグリセリド画分にはモノグリセリドとジグリセリドがほぼ等量存在した。取り出した反応液を固化させてから5℃で放置すると、ジグリセリドはグリセロリシスを受けてモノグリセリドに変換され、1週間後(全反応日数10日)、エステル化率は96.9%でほとんど変化しなかったが、グリセリド画分のモノグリセリド含量は95.0%まで上昇した。

表5
反応時間 エステル化率 反応液の組成(%)
(時間) (%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド
0 0 100 0 0
1 48.3 51.7 46.2 2.1
2 71.4 28.6 66.9 4.5
4 80.8 19.2 64.6 16.2
7 81.9 18.1 56.6 25.3
9 84.0 16.0 59.7 24.3
24 90.6 9.4 48.7 41.9
48 94.6 5.4 46.5 48.1
72 96.5 3.5 47.6 48.9
120 97.3 2.7 69.1 28.2
168 96.5 3.5 84.1 11.4
240 96.9 3.1 92.1 4.8
【0034】
[実施例6] Candida rugosaリパーゼを触媒としたエステル化反応だけを利
用して共役リノール酸モノグリセリドを製造する方法
反応は実施例3と同じ装置を用いて行った。CLA-80/グリセリン(1:5, mol/mol)300g とCandida rugosa リパーゼの水溶液(100mg/ml; 35000U/ml;名糖産業;リパーゼ OF)7.5mlからなる反応液を5℃で攪拌(250rpm)しながら反応を開始した。反応経過に伴い反応液の流動性が低下してきたため、エステル化率が37.7%に達した4時間後に攪拌速度を100 rpmまで落とし、エステル化率が55.8%に達した7時間後に50 rpmまで落とした。反応24時間後にエステル化率は88.1%に達し、反応液は完全に固化して攪拌の効果が全く認められなかったので攪拌を停止した。本反応で、減圧脱水しなくてもエステル化率は95%以上に達したので、反応途中での脱水は行わなかった。反応経過に伴うエステル化率及び反応液の組成を表6に示す。この低温エステル化反応により、ジグリセリド及びトリグリセリドの副成はほとんど認められず、反応終了時のグリセリド画分のモノグリセリド含量は95.4%まで上昇した。

表6
反応時間 エステル 反応液の組成(%)
(時間) 化率(%)脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド トリグリセリド
0 0 100 0 0 0
2 29.3 70.7 26.9 2.4 0
4 37.7 62.3 33.7 4.0 0
7 55.8 44.2 49.7 6.1 0
10 62.9 37.1 51.5 11.4 0
24 88.1 11.9 76.9 9.9 1.3
48 94.4 5.6 86.5 6.9 1.0
72 96.0 4.0 91.6 3.2 1.1
【0035】
[実施例7] Alcaligenes リパーゼを触媒として用い、エステル化反応とグ
リセロリシス反応を利用して共役リノール酸含有モノグリセリ
ドを製造する方法
反応は実施例3と同じ装置を用いて行った。CLA-80/グリセリン(1:3, mol/mol)300gとAlcaligenes sp.リパーゼの水溶液(50mg/ml; 1800U/ml; 名糖産業; リパーゼ OF)33mlからなる反応液を30℃、250 rpmで攪拌しながら反応を開始した。エステル化率が36.4%に達した20時間後、3mmHgの減圧下で脱水しながら30時間まで攪拌しながら反応を継続した。この反応液をビーカーに取り出し、氷水につけて料理用ハンディーミキサーで攪拌したが、反応液は固化しなかったのでそのまま5℃で1日放置した。反応液は固化していたが、加温して流動性を与えた後、氷水につけてミキサーで攪拌しながら反応液を完全に固化させた後、5℃で4日放置した。反応経過に伴うエステル化率及び反応液の組成を表7に示す。エステル化率が一定値に達した後に、減圧脱水することによりエステル化率は30時間後に96.4%まで上昇した。この反応液中のグリセリド画分にはモノ、ジ、トリグリセリドが存在した。取り出した反応液を5℃で放置し、途中で反応液を攪拌固化させることにより、ジおよびトリグリセリドはグリセロリシスを受けてモノグリセリドに変換された。全反応時間、150時間でのグリセリド画分のモノグリセリド含量は90.3%まで上昇し、低温放置によりエステル化率は全く変化しなかった。

表7
反応時間 エステル 反応液の組成(%)
(時間) 化率(%) 脂肪酸 モノグリセリド ジグリセリド トリグリセリド
0 0 100 0 0 0
7 23.4 76.6 7.4 10.1 5.9
20 36.4 63.6 12.2 16.6 7.7
25 85.8 14.2 29.8 41.0 15.0
30 96.4 3.6 14.9 54.3 27.2
54 95.1 4.9 50.9 34.2 10.0
102 96.8 3.2 76.3 19.4 1.1
150 96.2 3.8 86.9 8.4 0.9
【0036】
[実施例8] モノグリセリド中の共役リノール酸含量
実施例3〜7で調整した反応液を加温して溶解した後、7000xgで遠心分離して油層を回収した。Na-methylate を触媒として、常法に従いグリセリド画分の脂肪酸をメチル化し、その組成をガスクロマトグラフィーにより分析・定量した。結果を表8に示す。グリセリド画分の脂肪酸組成は原料として用いたCLA-80の脂肪酸組成と同じであった。これより、Penicillium camembertii のモノ及びジグリセリドリパーゼ、Candida rugosa リパーゼ、および Alcaligenes リパーゼは、CLA-80に含まれている全ての脂肪酸種を同じように認識することが分かった。したがって本明細書で示した方法を採用すると、原料中に含まれている脂肪酸組成と同じ組成のモノグリセリドを製造することができた。

表8
共役リノール酸
試 料 16:0 18:0 18:1 c9,t11 t10,c12 c9,c11 c10,c12 others
原料(CLA-80) 6.7 2.7 17.0 33.1 33.9 0.9 1.4 1.8
実施例3 6.6 2.8 17.3 32.7 34.2 1.0 1.3 2.1
実施例4 7.0 2.5 18.1 32.3 33.5 1.0 1.6 1.9
実施例5 6.5 2.9 16.9 33.0 34.6 0.9 1.5 2.0
実施例6 7.0 2.5 18.1 32.3 33.5 1.0 1.6 1.9
実施例7 6.7 2.6 17.1 33.4 34.2 0.8 1.4 1.6
【0037】
[実施例9] 蒸留法によるモノグリセリドの精製
実施例5で得られた反応液200g(酸価:6.01mgKOH/g)に5N KOHを4.28ml加え、さらにサフラワー油200gを添加した。脱水後、分子蒸留機(神鋼パンテック(株))、Wiprene type 2-03)に負荷し、モノグリセリドの精製を試みた。まず、0.2mmHg、120℃で低沸点物質(7.9g)を除去した後、0.2mmHg、180℃で蒸留し、9.1gの留分を得た。この蒸留条件下で、通常遊離脂肪酸は留出してくる。それにもかかわらずモノグリセリドが留出してこないという結果は、遊離脂肪酸とモノグリセリドは分子蒸留により粗分画できることを示している。次いで、0.005mmHg、200℃で蒸留し、181.3gの留分を得た。留分の酸価は1.8mg KOH/gで、モノグリセリド/ ジグリセリド/遊離脂肪酸の重量比は97.2:1.9:0.9であった。これにより、少量混在している遊離脂肪酸を除去するために、これをケン化してから蒸留分画する方法が効果的であることを認めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離脂肪酸が混在するモノグリセリドを含有するまたは主成分とするグリセリド生成物にアルカリを添加し、それにより該生成物中に存在する遊離脂肪酸を中和してケン化物を生成させ、さらに分子量がモノグリセリドより大きくかつケン化物と相溶性を有する物質を添加してケン化物の濃度を低下させた後、これを分子蒸留に付して該ケン化物を蒸留残渣として除去することを特徴とする、モノグリセリド含有グリセリド生成物の脱酸・精製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の脱酸・精製方法であって、下記の方法で得られたモノグリセリド精製物を原料として使用する方法。
リパーゼを触媒として用い、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸とグリセリンを、エステル化またはエステル化とグリセロリシスの反応に付することを特徴とする共役脂肪酸含有モノグリセリドの製造方法。
【請求項3】
モノグリセリドの製造方法が、エステル化を利用する反応において、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸の1モル量に対してグリセリンを1〜20モル量使用し、温度を0℃〜20℃に設定して反応を進行させ、エステル化率が90%以上に達するまで0℃〜20℃に維持することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
モノグリセリドの製造方法が、攪拌様作用により基質と酵素の混合物をエマルションにして反応を行い、流動性が低下して固化した時点で攪拌様作用を停止し、そのままエステル化率が90%以上に達するまで所定温度に維持することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
モノグリセリドの製造方法が、反応の途中で減圧脱水を行なうことにより、エステル化の速度とエステル化率を高めることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
モノグリセリドの製造方法が、エステル化を利用する反応において、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸の1モル量に対してグリセリンを1〜20モル量使用し、温度を20℃〜70℃に設定して反応を進行させ、エステル化率が90%以上に達するまで20℃〜70℃に維持し、かつ、反応開始時から減圧脱水を行なうことにより、エステル化の速度とエステル化率を高めることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
モノグリセリドの製造方法が、エステル化とグリセロリシスを利用する反応において、共役脂肪酸を含む遊離脂肪酸の1モル量に対してグリセリンを1〜20モル量使用し、温度を20℃〜70℃に設定してエステル化反応を行い、エステル化率を90%以上に高めた後冷却し、0℃〜20℃で静置してグリセロリシス反応を進行させることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
モノグリセリドの製造方法が、攪拌様作用により基質と酵素の混合物をエマルションにしてエステル化反応を行い、エステル化率が90%以上に達した後、反応液が固化するまで強い攪拌様作用を与えながら急冷することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
モノグリセリドの製造方法が、反応の途中で減圧脱水を行なうことにより、エステル化の速度とエステル化率を高めることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
モノグリセリドが共役脂肪酸を全脂肪酸中50重量%以上含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
共役脂肪酸が共役リノール酸である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
全グリセリド中のモノグリセリドの割合が50重量%以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2006−89751(P2006−89751A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308964(P2005−308964)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【分割の表示】特願2002−122639(P2002−122639)の分割
【原出願日】平成14年4月24日(2002.4.24)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【Fターム(参考)】