説明

共重合体の製造方法、共重合体、および該共重合体を用いた電解質

【課題】陽イオン交換体や電解質膜に使用される新規なポリイミド系共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物(A)と、一般式(2)で表される化合物(B)とを、触媒(C)の存在下で重合させることを特徴とする共重合体の製造方法。


得られた共重合体の35℃における還元粘度(0.5質量%濃度のm-クレゾール溶解溶液)が0.55〜1.5dL/gであり、GPCによる重量平均分子量が30000以上である。nは、3〜50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換体や電解質膜に使用されるポリイミド系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、一般にオキシジアニリンのような芳香族ジアミンとピロメリット酸無水物のようなテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られ、ジアミン残基と酸無水物残基との間の電荷移動相互作用に基づく強い分子間相互作用のため、薄膜形成能に優れ、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性、そして化学的安定性に優れるので、スーパエンジニアリングプラスチックス、層間絶縁材料等の電子材料あるいは中空糸気体分離膜などで利用されている。これらの優れた特性は、イオン交換膜や燃料電池用の電解質膜においても必要なものであり、特にスルホン酸基(スルホ基ともいう)やリン酸基のようなイオン交換基を有するポリイミドは良好な燃料電池用電解質膜などとして期待される。
【0003】
このようなスルホン酸基を有するポリイミドとして、例えば、特許文献1および2には、スルホ基が高分子主鎖に直接結合したものが提案されているが、これらのポリイミドでは、耐水性がかならずしも高くなく、このため、側鎖にスルホ基を導入した側鎖型のスルホン化芳香族炭化水素系高分子膜が、特許文献3〜6に提案されている。
【0004】
しかしながら、これらのスルホン化ポリイミド膜は、長期間使用するとイミド環の加水分解が生じて分子量が低下するため、膜は機械的特性を失うことがあり、また、高温使用中、経時的にスルホ基の脱離を生じてイオン交換容量の低下を来たし、性能が低下するという問題点もあった。この傾向は、特に100℃を超える高温で顕著になる。
【0005】
そこで、本発明者の一部は、100℃以上の温度下で用いても、長期耐久性と機械的強度を有し、幅広い温度領域で使用可能であり、しかも低湿度下でのプロトン伝導性低下の少ない燃料電池用の電解質膜として使用に耐え得る高分子電解質膜として、特許文献7にて、下記式(1)で表される構造単位を有するスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルムを提案している。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Arは少なくとも1つの芳香環を有する4価の基であり、Ar1は下記式(a)で表される2価の基であり、下記式(a)中のXはO、S、C(CH3)2、C(CF3)2、CH2、CO又は直接結合である。)
【0008】
【化2】

【0009】
このような芳香族ポリイミドの製造方法として、特許文献7は、スルホン化芳香族ポリイミドは、特定の芳香族ジアミンを含むジアミンと芳香族テトラカルボン酸類とを反応させることにより合成することを開示し、芳香族ジアミンとして、下記式(7)で示されるス
ルホフェニル基を有する2価の芳香族ジアミンが使用されている。
【0010】
【化3】

【0011】
また、本発明者の一部は、非特許文献1にて、スルホフェニル基を側鎖に有するアリーレン化合物をあらかじめ重合しておいたオリゴマーと、芳香族テトラカルボン酸類と重合させる製造方法を提案している。
【特許文献1】特表2000−510511号公報
【特許文献2】特開2003−64181号公報
【特許文献3】特開2002−110174号公報
【特許文献4】特開2004−155998号公報
【特許文献5】特開2004−35891号公報
【特許文献6】特開2004−107484号公報
【特許文献7】特開2007−302741号公報
【非特許文献1】「新規なスルホン化ポリイミド系ブロック共重合体の合成とキャラクタリゼーション」、畢他、第57回高分子学会年次大会予稿集 p.271、2008年5月8日発行。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献7の製造方法では、特定のジアミン類を使用するため、スルホン酸基を有する親水性部位とスルホン酸基を有しない疎水性部位とが共重合体の構造中にほぼ均一に分布するため固体高分子電解質型燃料電池の電解質膜の耐久性が低くなってしまうという問題点があった。
【0013】
また、非特許文献1の製造方法では、スルホン酸基を有するオリゴマーとポリイミドオリゴマーとの重合反応であるために十分に高分子量の共重合体が得られず、また、共重合体中のスルホン酸基の含有量が上がらず、このため得られた共重合体から調製した電解質膜が脆くなり、またイオン交換容量が低く固体高分子電解質型燃料電池の電解質膜としての実用性が低いという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した結果、従来のスルホン化ポリイミドの製造方法では、スルホン酸基を有する芳香族ジアミン(たとえば前記式(7)のようなジ
アミン)を使用しているので、かかるジアミンからのイミド環の加水分解耐久性に問題があり、高温高加湿下で高分子鎖の切断が生じ、耐水性や強度などの機械的特性が低下してしまうことを見出した。スルホン酸基を含まない疎水性のポリイミドは、高温耐水性に優れ、また、製膜性、化学的耐久性、機械的特性に優れる。一方、スルホン化ポリアリーレンは、高分子鎖の加水分解耐久性に優れるが、製膜性や機械的特性に劣る傾向がある。そこで、スルホン化ポリアリーレンオリゴマーと疎水性ポリイミドオリゴマーからなるブロ
ック共重合体は、両成分の特徴を備えた優れた固体高分子電解質型燃料電池用の電解質膜材料として期待できることを見出した。
【0015】
そして、さらに検討した結果、スルホン酸基を有するポリアリーレンオリゴマーに替えてスルホン酸基を有するアリーレンモノマーを疎水性ポリイミドオリゴマーと反応させることによって、上記問題点をいずれも解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の構成は以下のとおりである。
[1]一般式(1)で表される化合物(A)と、一般式(2)で表される化合物(B)とを
、触媒(C)の存在下で重合させることを特徴とする共重合体の製造方法。
【0017】
【化4】

【0018】
[式(1)中、Ar1は、下記の(a-1)〜(a-4)のいずれかであらわされる基であり、Ar2は下記一般式(b)で表される基であり、Ar4は下記一般式(d)で表される基である。n
は、3〜50の整数を示す。
【0019】
式(1)および(2)中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基のいずれかを示す。式(2)中、式(2)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、Zは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-、のいずれかを示す。
【0020】
また、式(2)中、R21は、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基を示す。x1およびx2は0〜4の整数を示す(ただし、yが0である場合にはx1は1〜4であり、yが1である場合にはx1とx2のいずれか一方は1以上である)。yは0〜1の整数、zは0〜3の整数を示す。]
【0021】
【化5】

【0022】
[上記式(d)中、Y’は、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し
、Z’は、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のい
ずれかを示す。
【0023】
式(b)中、A,Bは、直接結合、−O−、−S−、−C(R’)2−、―C(CF32−、−CO−、−SO2−、−SO−のいずれかを示す。ただしR’は水素原子、フッ素原
子、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基を示す。式(d)中、mは0〜4の整数を示す
。a、bは、0〜4の整数を示す。なお+はXへの結合端、*は窒素原子への結合端を示す。]
[2]得られた共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定したポリスチ
レン換算重量平均分子量が15,000〜1,000,000である[1]の共重合体の製
造方法。
[3]前記式(1)において、繰り返し単位数を示すnが5〜30である、[1]の共重合体の製造方法。
[4]化合物(A)と化合物(B)の混合物と触媒(C)とを混合する工程、およびその後に
再度触媒(C)を添加する工程を有する[1]〜[3]の共重合体の製造方法。
[5]化合物(B)に触媒(C)を添加する工程、およびその後に化合物(A)を添加する工
程を有する[1]〜[3]の共重合体の製造方法。
[6]一般式(1')で表される構造単位(A')と、一般式(2')で表される構造を有する構造単位(B')とを含む共重合体。
【0024】
【化6】

【0025】
[式(1’)中、Ar1は、下記の(a-1)〜(a-4)のいずれかで表される基であり、Ar2は下記一般式(b)で表される基であり、Ar4は下記一般式(d)で表される基である。nは
、3〜50の整数を示す。
【0026】
式(2’)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、
Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-、のいずれかを示す。
【0027】
また、式(2’)中、R21は、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基を示す。
x1およびx2は0〜4の整数を示す(ただし、yが0である場合にはx1は1〜4であり
、yが1である場合にはx1とx2のいずれか一方は1以上である)。yは0〜1の整数、zは0〜3の整数を示す。]
【0028】
【化7】

【0029】
[上記式(d)中、Y’は、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、Z’は、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいず
れかを示す。
【0030】
式(b)中、A,Bは、−O−、−S−、直接結合、−C(R’)2−、―C(CF32−、−CO−、−SO2−、−SO−のいずれかを示す。ただしR’は水素原子、フッ素原
子、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基を示す。式(d)中、mは0〜4の整数を示す
。a、bは、0〜4の整数を示す。なお+は式(1’)の左端又は右端に相当する結合端、*は窒素原子への結合端を示す。]
[7]構造単位(B’)が下記式(3’)で表されることを特徴とする請求項6に記載の共
重合体。
【0031】
【化8】

【0032】
[式(3')中、kは2〜100の整数を示す。Y、Z、R21,x1,x2,yおよびzは、式(2’)と同様である。]
[8]得られた共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定したポリスチ
レン換算重量平均分子量が15,000〜1,000,000である[6]又は[7]の共重合体。
[9]一般式(1)において、繰り返し単位数を示すnが、5〜30である[6]〜[8]の共重
合体。
[10]前記[6]〜8のいずれかに記載の共重合体を含んでなる、固体高分子型燃料電池用の
電解質。
[11]前記[10]の電解質を用いて得られる、固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【発明の効果】
【0033】
本発明によればスルホン酸基を有する高分子量のポリイミド系共重合体が得られ、しかも得られた共重合体を用いて得られる電解質膜は、耐水性が高く、機械的特性、物理的耐久性も高く、かつプロトン伝導性も高いものが得られる。
【0034】
かかる共重合体は、一次電池用電解質、二次電池用電解質、ダイレクトメタノール型燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などの伝導膜として利用可能であり、この工業的意義は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[共重合体の製造方法]
本発明では、下記化合物(A)と(B)とを触媒(C)存在下に反応させることで、共重
合体を製造する。
【0036】
以下、各成分について説明する。
化合物(A)
化合物(A)は一般式(1)で表される。
【0037】
【化9】

【0038】
式(1)中、Ar1は、下記の(a-1)〜(a-4)のいずれかで表される基であり、Ar2は下記一般式(b)で表される基であり、Ar4は下記一般式(d)で表される基である。
nは、3〜50の整数を示し、好ましくは5〜30である。このような繰り返し数であれば、高分子量の共重合体を得ることができる。
【0039】
式(1)中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスル
ホニル基、ベンゼンスルホニル基のいずれかを示す。
【0040】
【化10】

【0041】
上記式(d)中、Y’は、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し
、Z’は、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のい
ずれかを示す。
【0042】
式(b)中、A,Bは、互いに独立に、直接結合、−O−、−S−、−C(R’)2−、―C(CF32−、−CO−、−SO2−、−SO−のいずれかを示す。ただしR’は水素
原子、フッ素原子、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基を示す。a、bは、0〜4の整数を示す。
【0043】
式(d)中、mは0〜4の整数を示す。なお+はXへの結合端、*は窒素原子への結合端を
示す。
このような化合物として、特に本発明では下記式(1A)で表される化合物が好ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
式(1A)中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基のいずれかを示す。
Ar1は下記式(a-2)または(a-5)のいずれかで表される基であり、Ar2-1は下記式(b-1
)または(b-2)で表される基であり、Ar2-2は下記式(c-1)〜(c-3)のいずれかで表され
る基である。なお、式(1A)における、Ar2-1およびAr2-2は、いずれも式(1)のAr2
定義に含まれる。
【0046】
Ar4は下記式(d-1)〜(d-4)のいずれかで表される基である。なお式(d-1)〜(d-4)中のDは、-C(CF3)2-、-CO-または-SO2-を示す。式(d-1)〜(d-4)中の+はXへの結合端、*
は窒素原子への結合端を示す。
【0047】
aは(b-1)または(b-2)で表される構造を含むユニットの分率、bは(c-1)〜(c-3)の構造
を含むユニットの分率を示し、aおよびbは、ポリイミドオリゴマーに重合溶媒に対する溶解性および、オリゴマー鎖の疎水性に応じて、0〜1そして1〜0の範囲で決める。
【0048】
【化12】

【0049】
なお+は他の構造単位への結合端、*は窒素原子への結合端を示す。
上記化合物(A)は、次の2段階の反応で合成できる。まず式(1-a)で表される芳香族テ
トラカルボン酸類(好ましくは、テトラカルボン酸二無水物)と、下記式(1-b)で表され
る芳香族ジアミン化合物とを所定のn数になるように芳香族テトラカルボン酸類を所定量過剰に用いて反応させることにより、酸無水物末端のポリイミドオリゴマーを合成する。必要によりトリアミンや芳香族トリカルボン酸無水物等を併用することもできる。次に、酸無水物末端のポリイミドオリゴマーに、式(1-d)で表される芳香族モノアミン化合物を
反応させる。
【0050】
Ar1(COOH)4 …(1-a)
NH2−Ar2−NH2 …(1-b)
X−Ar4−NH2 …(1-d)
(式中、X、Ar1〜Ar4は前記式(1)と同様である)
式(1-a)で表される芳香族テトラカルボン酸類としては、特に限定されるものではない
が、例えば、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジ
カルボキシフェニル)プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン
酸、4,4'-ビナフチル-1.1',8,8'-テトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、m−(ターフェニル)3,4,3",4"−テトラカルボン酸又はそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる
。このうち、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、4,4'-ビナフチル-1.1',8,8'-テト
ラカルボン酸が好ましい。
【0051】
式(1)におけるAr2は芳香族ジアミン残基であり、式(1-b)で表される芳香族ジアミン
としては、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4−ビス(3−アミノフェノキシ)フェニルスルホン、2,2-[4−ビス(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフロロプロパン、2,2-ジ(4−アミノフェノキシ)ヘキサフロロプロパン、2,2-ジ(3−アミノフェノキシ)ヘキサフロロプロパンなどを挙げることができる。
【0052】
このうち、本発明では、芳香族ジアミンとして、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4−ビス(3−アミノフェノキシ)フェニルスルホン(上記式(1A)で、Ar2-1を誘導するもの)が好ましい。
【0053】
【化13】

【0054】
さらに、本発明では、芳香族ジアミンとして、2,2-[4−ビス(4−アミノフェノキシ)
フェニル]ヘキサフロロプロパン、2,2-ジ(4−アミノフェノキシ)ヘキサフロロプロパン、2,2-ジ(3−アミノフェノキシ)ヘキサフロロプロパン(上記式(1A)で、Ar2-2を誘導す
るもの)を組合わせることも好ましい。
【0055】
【化14】

【0056】
上記芳香族ジアミンの使用割合を変えることによって式(1A)中のa,bを調節することが
できる。
また、本発明では、ジアミンの他に3官能アミン(トリアミン)を使用することもできる。トリアミンを使用することで、分子中に分岐架橋構造を有するスルホン化芳香族ポリイミドとすることができる。トリアミンとしては、化合物としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミンなど脂肪族アミンを使用してもよいが、ポリイミドの耐熱性の観点から、1,3,5‐トリス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TAPB)などの芳香族ア
ミンが好ましい。
【0057】
さらに目的とする特性を阻害しない範囲で、脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸(無
水物も含む)を含んでいてもよい。
化合物(A)は公知のポリイミドの合成方法を適用することによって得ることができる。
例えば、クレゾールなどの極性溶媒中で、芳香族ジアミン(1-b)および(1-c)と芳香族テトラカルボン類(1-a)とを、必要に応じて、共沸溶媒としてトルエン又はキシレンなどを添
加し、50〜220℃に加熱し生成した水を除去しながら0.5〜100時間縮重合反応させる。また必要に応じて、安息香酸、イソキノリンなどを触媒として添加しても良い。
【0058】
ジアミン類のアミノ基に対する芳香族テトラカルボン酸類(酸無水物基換算、すなわち、2個のカルボキシル基)のモル比は、式(1)中のn数を所定数に制御するために1.02〜1.30の範囲が好ましい。
【0059】
触媒の添加量は、式(1-a)および(1-b)で表される化合物の合計量1モルに対し、0.01〜0.30モル、好ましくは0.05〜0.20モルの量でもあることが望ましい。
酸無水物末端のポリイミドオリゴマーに式(1-d)で表される芳香族モノアミン化合物を
添加し反応させる時、この芳香族モノアミンの添加量は酸無水物末端量の10モル%程度過剰が好ましい。
【0060】
式(1-d)で表される芳香族モノアミン化合物として、具体的には、4-クロロ-4'-(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、4-クロロ-4'-[(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベン
ゾフェノン、4-クロロ-4'-[ジトリフルオロメチル-(4-アミノフェニル)]メチルベンゾ
フェノン、4-クロロ-4'-[ジトリフルオロメチル-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メチ
ルベンゾフェノンなどが例示される。
化合物(B)
本発明で使用される化合物(B)は、下記一般式(2)で表される芳香族スルホン酸系化
合物である。
【0061】
【化15】

【0062】
式(2)中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスル
ホニル基、ベンゼンスルホニル基のいずれかを示す。Yは、−CO−、−SO2−、−S
O−、―C(CF32−のいずれかを示す。Zは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示す。
【0063】
また、式(2)中、R21は、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基を示す。ア
ルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが上げられる。また、脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数4〜20のものが例示され、具体的にはtert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基などが挙げられる。これらのうちn−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基が好ましい。
【0064】
x1およびx2は0〜4の整数を示す(ただし、yが0である場合にはx1は1〜4であ
り、yが1である場合にはx1とx2のいずれか一方は1以上である)。
yは0〜1の整数、zは0〜3の整数を示す。
【0065】
上記一般式(2)で表される芳香族スルホン酸化合物としては、特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、特開2004−346163号公報に例示されたエステル誘導体、およびかかるエステル誘導体を脱エステル化してスルホン酸基としたもの、およびかかるスルホン酸をアルカリ金属塩としたものが挙げられる。
【0066】
このような芳香族スルホン酸化合物の製造方法は、前記特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、特開2004−346163号公報に記載の方法を特に制限なく使用できる。
【0067】
たとえば、2,5−ジクロロ安息香酸を塩化チオニル中で反応させて、2,5−ジクロロ安息香酸クロライドを作製し、塩化アルミニウムの存在下に、さらに、ベンゼンと反応させると、2,5−ジクロロベンゾフェノンが得られる。得られた2,5−ジクロロベンゾフェノンを、硫酸と発煙硫酸を用いてスルホン酸化し、必要に応じて、水酸化ナトリウムで中和すると、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸およびそのナトリウム塩が得られる。また、ジフェニルエーテルと、2,5−ジクロロ安息香酸クロライドとを塩化アルミニウム存在下に反応させれば、2,5−ジクロロ−(4‘−フェノキシ)ベンゾフェノンが得られ、かかる2,5−ジクロロ-(4’−フェノキシ)ベンゾフ
ェノンをスルホン酸化すれば、2,5−ジクロロ−(4’−スルホフェノキシ)ベンゾフェノンが得られる。
触媒(C)
本発明で使用される触媒としては、特に限定されないが、遷移金属化合物を含む触媒系が好ましい。この触媒系としては、遷移金属塩および配位子、または配位子が配位された遷移金属若しくはその塩(以下、「遷移金属(塩)」と記す。)、ならびに還元剤を必須成分とする。また、遷移金属塩以外の塩を添加することにより、重合速度を上げることができる。ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナートなどのニッケル化合物、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウム化合物、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄などの鉄化合物、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルト化合物などが挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが好ましい。また、配位子としては、トリフェニルホスフィン、2,2′−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられるが、トリフェニルホスフィン、2,2′−ビピリジンが好ましい。上記配位子は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0068】
さらに、あらかじめ配位子が配位された遷移金属(塩)としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2′ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2′ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2′ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2′ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられるが、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2′ビピリジン)が好ましい。
【0069】
本発明の触媒系において使用することができる上記還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどを挙げることできるが、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。また、本発明の触媒系において使用することのできる遷移金属塩以外の塩としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物などが挙げられるが、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0070】
触媒系における各成分の使用割合は、遷移金属塩または配位子が配位された遷移金属(
塩)が、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。0.0001モル未満では、重合反応が充分に進行せず、一方、10モルを超えると、分子量が低下するという問題がある。触媒系において、遷移金属塩および配位子を用いる場合、この配位子の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不充分となり、一方、100モルを超えると、分子量が低下するという問題がある。また、触媒系における還元剤の使用割合は、モノマーの総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、重合が充分進行せず、一方、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難になるという問題がある。
【0071】
さらに、触媒系に遷移金属塩以外の塩を使用する場合、その使用割合は、モノマーの総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不充分であり、一方、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となるという問題がある。
【0072】
本発明では触媒として、臭化ニッケルと、トリフェニルホスフィンと、亜鉛とを組合わせて使用することが好ましい。
触媒は、複数回に分けて添加してもよく、具体的には、予め調製した触媒に、化合物(A)および(B)を添加して反応させたのち、再度触媒を添加して、さらに重合をすすめてもよい。このように複数段にわけて触媒を添加すれば、重合の制御が容易となり、重合時間を短くできたり、共重合体の分子量を均一にできたり、また高分子量のものを得ることも可能となる。
重合条件
本発明では、前記化合物(A)と(B)とを触媒(C)存在下に反応させる。好ましくは
、化合物(A)及び化合物(B)の混合物と触媒(C)を混合することにより反応させる。また、化合物(A)と化合物(B)の混合物と触媒(C)を混合する工程およびその後に再度触媒(C)を添加する工程を有する重合方法を採用してもよいし、化合物(B)に触媒
(C)を添加する工程およびその後に化合物(A)を添加する工程を有する重合方法を採
用してもよい。
【0073】
化合物(A)と(B)との混合比は、所望のプロトン伝導度を得るため、共重合体のイオン交換容量が0.5〜3.0 meq/g、好ましくは0.8〜2.5 meq/gの範囲にある
ことが望ましいので、通常、化合物(A)/(B)モル比が、1/5〜1/500の範囲であり、好ましくは1/10〜1/200の範囲にあることが望ましい。
【0074】
通常、反応は溶媒の存在下に行われる。
反応濃度としては、各成分(A)および(B)の合計量が、3〜40 g/dlの範囲、好ましくは、15〜35 g/dlの範囲にあることが望ましい。
【0075】
本発明で使用することのできる重合溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタムなどが挙げられ、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの重合溶媒は、充分に乾燥してから用いることが好ましい。重合溶媒中におけるモノマーの総計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。また、本発明の重合体を重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは60〜100 ℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは2〜40時間である。
【0076】
重合後、重合反応溶液に塩酸などを加えて、固体を析出させた後、ろ過し、公知の手段で洗浄してもよい。
重合反応開始時の反応系では、化合物(B)のモル濃度が化合物Aのモル濃度より非常に大きく(10倍以上)、また化合物Bの反応性が高いので、まず化合物B同士が重合してBのオリ
ゴマーが生成し、それが化合物Aと順次反応していく。従って、得られた共重合体は、化
合物(A)および(B)のオリゴマーのブロック共重合体であり、化合物(B)のオリゴマーに由
来する構造単位が親水性ドメインをそしてポリイミドオリゴマーが疎水性ドメインを形成し、ミクロ相分離構造をとりやすいので、耐水性が高く、機械的特性、物理的耐久性も高く、かつプロトン伝導性も高い。
【0077】
このようにして得られる本発明のスルホン酸基含有ポリイミド共重合体の分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で、15,000〜1,000,000、好ましくは20,000〜500,000であり、さらに好ましくは25,000〜200,000であり、特に好ましくは50,000〜100,000である。15,000未満では、成形フィルムにクラックが発生するなど、塗膜性が不充分であり、また強度的性質にも問題がある。一方、1,000,000を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になるなどの問題がある。
【0078】
なお、本発明のスルホン基含有共重合体の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030〜1,045cm-1、1,160〜1,190cm-1のS=O吸収、1,130〜1,250cm-1のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル( 1H-NMR)により、6.8〜8.7 PPM
の芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。
【0079】
得られた共重合体の35℃における還元粘度(0.5質量%濃度のm-クレゾール溶解溶液)は0.55〜1.5dL/gの範囲にある。
[共重合体]
本発明にかかる共重合体は、下記一般式(1')で表される構造単位(A')と、一般式(2')で表される構造を有する構造単位(B')とを含み、下記式(C')で表されることを特徴とする。かかる共重合体は、上記製造方法で調製される。
【0080】
構造単位(A')は前記化合物(A)から誘導されるものであり、構造単位(B')は前記化合
物(B)から誘導される。
【0081】
【化16】

【0082】
式(1')中、Ar1、Ar2、Ar4、nは前記式(1)同様であり、式(2')中、Y、Z、y、z、R21、x1およびx2は前記式(2)と同様である。
さらに、構造単位(B’)は、下記構造を有することが好ましい。
【0083】
【化17】

【0084】
式(3’)中、kは1〜200であり、好ましくは2〜200である。Y、Z、R21
x1,x2,yおよびzは、式(2’)と同様である。
かかる共重合体は下記式(C')で表される。
【0085】
【化18】

【0086】
[上記式(C’)中、Ar1,Ar2,Ar4およびnは、前記式(1’)と同様であり、
k、Y、Z、R21,x1,x2,yおよびzは、式(2’)と同様である。cおよびdは、各構造単位のモル比を表す。]
構造単位(A')と(B')との組成比(すなわち式(C')中、cとdの比率)は、所望のプロトン伝導度やイオン交換容量によるが、通常、化合物(A)/(B)モル比が、1/5〜1/500の範囲であり、好ましくは1/10〜1/200の範囲にあることが望ましい。
【0087】
スルホン酸基含有ポリイミド共重合体の分子量および35℃における還元粘度は前記したとおりである。
なお、本発明では、前記構造単位(A')および(B')のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で少量の他の構造単位を含んでもよい。たとえば、特開2004-346163号公報に示さ
れるようなポリアリーレン構造単位を含んでいてもよい。このようなその他の構造単位は、全構造単位の10モル%以下で含まれていることが望ましい。
【0088】
本発明に係る高分子固体電解質は、上述したようなスルホン酸基を有するポリイミド共重合体からなる。
本発明の高分子固体電解質は、例えば一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用プロトン伝導膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに利用可能である。
[プロトン伝導膜]
本発明のプロトン伝導膜は、上記スルホン酸基を有するポリイミド共重合体からなり、
かかるプロトン伝導膜を調製する際には、上記共重合体以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、およびその塩、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などを併用してもよい。
【0089】
本発明では、前記共重合体を、溶剤に溶解して溶液とした後、キャスティングにより、基体上に流延し、フィルム状に成形するキャスティング法などにより、フィルム状に成形することによりプロトン伝導膜を製造することができる。ここで、上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0090】
前記共重合体を溶解する溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン系極性溶剤が挙げられ、特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう。)が好ましい。非プロトン系極性溶剤は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0091】
なお、溶液粘度は、共重合体の分子量や、ポリマー濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0092】
キャスティング溶剤として高沸点溶剤を使用した場合、上記のようにして製膜したフィルム中には、溶剤が大量に残留する場合があるが、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬することにより、未乾燥フィルム中の溶剤を水と置換することができ、得られるフィルム中の残留溶剤量を低減させることができる。
【0093】
バッチ方式の場合は、処理フィルムを枠にはめるなどの方式が処理されたフィルムの表面の皺形成が抑制されるので好都合である。
このような方法により得られるプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例で得られた共重合体は以下のようにして評価した。
評価方法
[分子量の測定]
共重合体の数平均分子量(Mn),重量平均分子量(Mw)は、溶媒にNMP緩衝溶液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:(東ソー(株)HCL-8220製))によって、ポ
リスチレン換算の分子量を求めた。NMP緩衝溶液は、NMP(3L)/リン酸(3.3mL)/臭化リチウム(7.83g)の比率で調製した。
[還元粘度]
還元粘度ηS P/cは、各実施例で得られた重合体を0.5wt%の濃度になるように1g/dLのLiCl含有NMPに溶解して、オストワルド粘度計を用いて35℃で測定した。
[イオン交換容量]
サンプルシートを15wt%食塩水に30℃で72時間浸漬し、溶出したプロトンをフェノールフ
タレイン指示薬を用いて、0.05MNaOH水溶液で滴定して求めた。
1H-NMR]
溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO‐d6)を用いて、日本電子JEOL EX-270により測定した。
[吸水率]
膜サンプル約100mgを乾燥して乾燥重量Wdを測定した後、25℃で24時間水に浸
漬した。膜サンプルを水から取り出し、手早く表面に付着した水をティシュペーパーでふき取り、膨潤時の膜重量Wsを測定した。吸水率(Water uptake;WU)を次式から求めた。
WU(%)=(Ws‐Wd)/Wd×100
[サイズ変化]
直径2cmの円形サンプルシートを70%RH雰囲気に置き平衡後の厚み tsと直径lsを測る。つぎに、同じサンプルを25℃の水に5時間浸漬し、水中での厚み tと直径lを測る
。膜厚方向と膜面方向のサイズ変化、それぞれΔtc、Δlcを次式から求めた。
( Δtc = (t - ts) / ts
( Δlc = (l - ls) / ls
[耐水性試験]
・機械強度
膜厚30〜40μmの膜サンプルを130℃、飽和水蒸気中に100時間暴露した後、膜形状・強度の観点から、次の5段階で評価した。なおII〜Vで用いたフイルム片は、暴露
処理後、風乾し幅5mm長さ20mmの形状としたものである。
I: 膜形状を保持していない。膜が多くの小片に破れている。
II: フイルム片の両端をつかんで(つかみ代が5mm)、折り曲げると膜が破断。
III: 折り目の角度が0°となるようにフィルム片を、折り目をつけて曲げると破断。
IV: 折り目を付けて曲げても破断しないが、もとに曲げ戻すと破断。
V: 折り目を付けて曲げても、さらに曲げ戻しても破断せず。
・プロトン伝導度
また、飽和水蒸気暴露処理した膜を風乾後、60℃、100〜50%RHでプロトン伝導度を測定し、プロトン伝導度の観点から、次の3段階で評価した。
a:処理によりプロトン伝導度は20%以上低下
b:5〜20%低下
c:実験誤差(±5%)範囲内(変化なし)
[プロトン伝導度]
プロトン伝導度測定セルに膜シート(1.0cm×0.5cm)と4枚の白金黒電極板をとりつけ、温度制御した水中又は温度・湿度制御したチャンバー内にセットし、日置電気(株)製のLCRメーター(HIOKI3552-80)を用いて、100Hzから100kHzの周波数範囲で複素インピーダンス法により電気抵抗Rを測定し、プロトン伝導度σを次式から計算した。なお、表1での温度は60℃とした。
σ=d/(tss R)
ここで、dは2電極間距離(0.5cm)、tsとwsは、室温で70%RHにおける膜シートの厚さと幅である。水中でのプロトン伝導度の計算には、水中でのtsとws値を用いた。
[合成例1]
ポリイミドオリゴマー(A−1)の合成
窒素気流下で、乾燥した三口フラスコ中でビス[4-(3−アミノフェノキシ)]フェニルスルホン(BAPPS)8.650g(20.0mmol)と安息香酸5.13(42.0mmol)をm−クレゾール(125
ml)に溶解させ、次いでナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物(NTDA)8.050g(30.0mmol)を加え、80℃で4時間攪拌する。その後、イソキノリン5.42g(42.0mmol)を加え、さらに180℃で18時間反応し、酸無水物末端のポリイミドオリゴ
マー溶液を得た。この溶液に4−クロロ−4’−(4−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(CAPBP)7.12g(22.0mmol)を加え、80℃で4時間、さらに180℃で18時間反応させ、重合反応液を冷却後、アセトン中に加えた。得られた個体をアセトン洗浄後
、N-メチルピロリドン(NMP)に溶かし、アセトン中に加え、再沈精製することにより、
式(A−1)で表されるポリイミドオリゴマーを得た。nは約3であった。
【0095】
【化19】

【0096】
[合成例2]
ポリイミドオリゴマー(A−2)の合成
NTDA2.145g(8.0mmol)、BAPPS3.027g(7.0mmol)、CAPBP 0.712g(2.2mmol)、安息香酸1.37g(11.2mmol)、イソキノリン1.45g(11.2mmol)とm−クレゾール(33ml)を用いた以外は、合成例1と同様にして、ポリイミドオリゴマー(A−2)を得た。nは約8であった。
【0097】
【化20】

【0098】
[合成例3]
ポリイミドオリゴマー(A−3)の合成
NTDA10.995g(41.0mmol)、BAPPS16.867g(39.0mmol)、CAPBP 1.439g(4.4mmol)、安
息香酸7.01g(57.4mmol)、イソキノリン7.41g(57.4)とm−クレゾール(160ml)を用
いた以外は、合成例1と同様にして、ポリイミドオリゴマー(A−3)を得た。nは約20であった。
【0099】
【化21】

【0100】
合成例1〜3で得られたポリイミドオリゴマーの1H-NMRをあわせて図1に示す。
[合成例4]
スルホン化モノマー(B−1)の合成
2,5−ジクロロ安息香酸10.000g(52.4mmol)を塩化チオニル30 ml中で、80℃、6
時間還流し反応した後、真空蒸留精製により2,5−ジクロロ安息香酸クロライド9.210
g(44.0mmol)を得た。
【0101】
丸底フラスコにベンゼン 30mlと塩化アルミニウム 1.467g(11.0mmol)を加え、氷浴で
冷却し、2,5−ジクロロ安息香酸クロライド 2.090g(10.0mmol)とベンゼン20mlの溶液を滴下し、1.5時間攪拌した。さらに25℃で10h反応した後、反応液を希塩酸水溶液に加え、有機相を分離した。有機相を食塩水溶液で洗浄後、溶媒を留去して得られた固体をエタノールから再結晶して、2,5−ジクロロベンゾフェノン 2.080(8.30mol)g
(収率83%)を得た。
2,5−ジクロロベンゾフェノン10.000g( 40.0mmol)を、濃硫酸(98%)15mlに溶かす。これに発煙硫酸(60%) 15mlをゆっくり加えて0℃で5時間、さらに60℃で12時
間攪拌した。反応液を冷却後、氷水300gに加え、食塩約50gを加え、塩析した。析
出した固体を水300gに溶かし、10%NaOH水溶液で中和後、食塩約50gを加え、塩析した。析出した固体を熱水から2回再結晶することにより3−(2,5−ジクロロベン
ゾイル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム9.420g(26.7mmol)(収率67%)を得た。
【0102】
【化22】

【0103】
[比較合成例1]
スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−2)の合成
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにジメチルアセトアミド(DMAc) 40ml、臭化ニッケル(II) 0.173g(0.8mmol)、トリフェニルホスフィン 1.560g(6.0mmol)、亜鉛 3.111g(47.6mmol)を加え、80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、3−(2,5−ジクロロベンゼゾイル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム 4.000g(11.3mmol)を加え、80℃で6時間攪拌した。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200mlに加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトンで洗浄し、側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−2)を得た。GPC分析の結果、mは62であった。
【0104】
得られた側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−2)のFT−IRスペクトルの結果を図2に示す。
【0105】
【化23】

【0106】
[合成例5]
スルホン化モノマー(B−3)の合成
丸底フラスコにジフェニルエーテル 17.87g(105mmol)と1,2-ジクロロエタン180m
lを加え溶かし、氷浴で冷却する。これに、2,5−ジクロロ安息香酸クロライド 20.90g(100mmol)と塩化アルミニウム 14.67g(110mmol)を1,2-ジクロロエタン210mlに溶
かした溶液を滴下し、0℃で1.5時間攪拌した。さらに25℃で10h反応した後、反応液を希塩酸溶液に加え、有機相を分離した。有機相を食塩水溶液で洗浄後、溶媒を留去して得られた固体をエタノールから再結晶を行うことにより2,5−ジクロロ−(4‘−フェノキシ)ベンゾフェノン 29.77g(87.0mmol)(収率87%)を得た。
【0107】
2,5−ジクロロ-(4’−フェノキシ)ベンゾフェノン 10.000g(29.0mmol)を濃硫酸(98%)10mlに溶かす。これに発煙硫酸(60%) 10mlをゆっくり加えて、0℃で5
時間攪拌した。反応溶液を氷水に加え、水酸化ナトリウムで中和した。析出した固体をろ過し、水から再結晶することにより2,5−ジクロロ−(4’−スルホフェノキシ)ベンゾフェノン(8.07g(18.0mmol)(収率62%)を得た。
【0108】
【化24】

【0109】
[比較合成例2]
スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−4)の合成
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにDMAc20ml、臭化ニッケル(II) 0.069g(0.3mmol)、トリフェニルホスフィン0.618g(2.4mmol)、亜鉛1.232g(18.8mmol)
を加え、80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、2,5−ジクロロ−(4’−
スルホフェノキシ)ベンゾフェノン2.000g(4.5mmol)を加え、80℃で6時間攪拌した。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200mlに加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトンで洗浄し、側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−4)を得た。GPC分析結果からm=約62と見積もった。得られた側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマー(B−4)のFT−IRスペクトルの結果を図3に示す。
【0110】
【化25】

【0111】
表1に得られた、上記合成例および比較合成例で得られたポリイミドオリゴマー、芳香族スルホン酸塩モノマー、同オリゴマーの特性を示す。
【0112】
【表1】

【0113】
[実施例1]
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにNMP5ml、臭化ニッケル(II)0.128g(0.60mmol)、トリフェニルホスフィン1.152g(4.4mmol)、亜鉛2.300g(35mmol)を加え、
80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、スルホン化モノマー(B−1)1.340g(3.80mmol)とポリイミドオリゴマー(A−1)1.000g(0.41mmol)を18mlのNMPに溶かした溶液を加え、80℃で39時間攪拌した。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200ml
に加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトンで洗浄し乾燥させた。これをNMPに再溶解し、アセトンで再沈殿させた後、熱エタノール(78℃)で抽出し
、可溶部分(スルホン化モノマーB-1のオリゴマー)を除去することにより、スルホン化
ポリフェレンオリゴマーとポリイミドオリゴマーとの共重合ポリマー(C−1)を得た。
【0114】
【化26】

【0115】
[実施例2]
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにNMP5ml、臭化ニッケル(II)0.083g(0.38mmol)、トリフェニルホスフィン0.700g(2.7mmol)、亜鉛1.410g(21.5mmol)を加え
、80℃で10分攪拌し、触媒を調製した。これに、スルホン化モノマー(B−1)1.734g(4.91mmol)とポリイミドオリゴマー(A−1)1.275g(0.52mmol)を10mlのNMPに溶かした溶液を加え、80℃で3時間攪拌した。さらに、7mol%の触媒(臭化ニッケル(II)0.083g(0.38mmol)、トリフェニルホスフィン0.700g(2.7mmol)、亜鉛1.410g(21.5mmol)、NMP5ml)を追加添加し、12時間更に重合させた。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200mlに加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトンで洗浄し乾燥
させた。これを熱エタノールで抽出し、可溶部分(スルホン化モノマー(B-1)のオリゴ
マー)を除去することにより、スルホン化ポリフェレンオリゴマーとポリイミドオリゴマーとの共重合ポリマー(C−2)を得た。
[実施例3]
表2に従って反応条件を変更した以外は、実施例1と同様にして共重合体(C−3)を得た。
[実施例4]
表2に従って反応条件を変更した以外は、実施例1と同様にして共重合体(C−4)を得た。得られた共重合体(C−4)の1H-NMRスペクトルを図4に示す。
【0116】
【化27】

【0117】
[実施例5]
表2に従って反応条件を変更した以外は、実施例2と同様にして共重合体(C−5)を得た。
【0118】
【化28】

【0119】
[実施例6〜10]
表2に従って反応条件を変更した以外は、実施例7および10は実施例1と、実施例6および8、9は実施例2と同様にして共重合体(C−6〜C−10)を得た。実施例10で得られた共重合体(C−10)の1H-NMRスペクトルを図5に示す。
[実施例11]
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにNMP2ml、臭化ニッケル(II)0.094g(0.43mmol)、トリフェニルホスフィン0.789g(3.0mmol)、亜鉛1.591g(24.3mmol)を加え
、80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、スルホン化モノマー(B−1)2.150g(6.09mmol)を5mlのNMPに溶かした溶液を加え、80℃で20分攪拌し反応させた後、
ポリイミドオリゴマー(A−3)0.850g(0.060mmol)をNMP3mlに溶かした溶液を加え2時間反応させた。さらに、7mol%の触媒(NMP5ml、臭化ニッケル(II)0.094g(0.43mmol)、トリフェニルホスフィン0.789g(3.0mmol)、亜鉛1.591g(24.3mmol)、NMP 2ml)を追加
添加し、5時間重合させた。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液300mlに加え、一晩
攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトンで洗浄し乾燥させた。これを熱水でソクスレー抽出し、可溶部分(スルホン化モノマーB-1のオリゴマー)を除去すること
により、スルホン化ポリフェレンオリゴマーとポリイミドオリゴマーとの共重合ポリマー(C−11)を得た。得られた共重合体C−11の1HNMRスペクトルを図6に示す。
【0120】
[実施例12および13]
表2に従って反応条件を変更した以外は、実施例11と同様にして共重合体(C−12〜C−13)を得た
[比較例1]
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにNMP5ml、臭化ニッケル(II)0.033g(0.15mmol)、トリフェニルホスフィン0.275g(1.1mmol)、亜鉛0.589g(9.0mmol)を加え、80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、スルホン化ポリフェレンオリゴマー(
B−4)1.800g(0.11mmol)とポリイミドオリゴマー(A−1)1.800g(0.7mmol)をNMP13mlに溶かした溶液を加え、80℃で30時間攪拌し重合させた。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200mlに加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセトン
で洗浄し乾燥させた。熱エタノールで抽出し、可溶部分(スルホン化モノマーB-2および
そのポリマー)を除去することにより、スルホン化ポリフェレンとポリイミドオリゴマーとの共重合ポリマー(C−14)を得た。
[比較例2]
窒素置換したグローブボックス中で反応フラスコにNMP5ml、臭化ニッケル(II)0.030g(0.14mmol)、トリフェニルホスフィン0.280g(1.1mmol)、亜鉛0.550g(8.4mmol)を加え、80℃で10分攪拌し、触媒を調整した。これに、スルホン化ポリフェレンオリゴマー(
B−4)1.360g(0.06mmol)とポリイミドオリゴマー(A−1)1.800g(0.7mmol)をNMP26mlに溶かした溶液を加え、80℃で72時間攪拌し重合させた。重合反応溶液を10wt%塩酸水溶液200mlに加え、一晩攪拌後、ろ過し、固体を得た。得られた固体をアセト
ンで洗浄し乾燥させた。熱エタノールで抽出し、可溶部分(スルホン化モノマーB-4およびそのポリマー)を除去することにより、スルホン化ポリフェレンオリゴマーとポリイミドオリゴマーとの共重合ポリマー(C−15)を得た。実施例をおよび比較例で得られた共重合体のイオン交換容量、還元粘度および分子量を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2中、実施例1から13に示すように、一般式(2)に示されるモノマーと一般式(1)に示されるポリイミドオリゴマーを用いてブロック共重合体を得る製造方法の方が、比較例1、2に示されるように、初めに一般式(2)で示されるモノマーを重合して得られたオリゴマーを更に一般式(1)に示されるポリイミドオリゴマーと共重合して得られる共重合体より、より計算値(設定値)に近いイオン交換容量(IEC)で、且つ、より高
分子量の共重合体を得ることが可能である。すなわち、比較例1、2に示される合成方法では、スルホン化オリゴマー、すなわち、(B−2)あるいは(B−4)が、ポリイミドユニット、すなわち(A−1)と共重合が十分に起こっておらず、(B-2)或いは(B-4
)が単独重合したスルホン化ポリアリーレンが生成しており、それが、ポリマーの精製の過程で溶媒に溶出し設定通りのIECを有するポリマーが得られていない。一方、一般式(2)に示されるモノマーと一般式(1)に示されるポリイミドオリゴマーを用いてブロック共重合体を得る製造方法では、設定したIECと近いポリマーが得られており、これは、共重合が十分に起こっていることを示唆している。そのため、高分子量体が得られ還元粘度が高いポリマーを得ることが出来る。したがって、一般式(2)に示されるモノマーと一般式(1)に示されるポリイミドオリゴマーを用いてブロック共重合体を得る製造方法は、設定通りのイオン交換容量を有し、かつ、より高分子量の共重合体を得る製造方
法として非常に有効な方法である。
[評価試料の調製]
上記各実施例・比較例で得られた共重合体を電解質として、NMPに10wt%で溶解し、
ガラスシャーレ上に塗布し、120℃で16時間乾燥させることにより電解質膜を得た。作成
した電解質膜の水浸漬による吸水率およびサイズ変化プロトン伝導度および130℃飽和水
蒸気に100時間暴露処理による高温耐水性試験結果を表3に示す。
【0123】
また、比較のために、Nafion112(シグマアルドリッチ社製)でも同様の評価を行った

【0124】
【表3】

【0125】
表3より、比較例1、2に示す方法で合成したポリマーは共重合性が悪く十分な共重合体が得られていないため製膜性が不十分であり、各種測定を行うための膜を得ることができなかった。
【0126】
実施例3〜13に示す方法により得られたポリマーは分子量も高く、柔軟で強靱な膜が得られた。
実施例4および実施例13において、イオン交換容量が1.9meq/g程度で、吸水率が70
%で比較的低いサイズ変化を示す膜が得られた。この膜は、60℃で50%RHの低湿度で13 mS/cm程度の高いプロトン伝導性を示し、これは、スルホン化芳香族炭化水素系高分
子電解質膜に比べて非常に高く、ナフィオン膜に匹敵する。また、水中での膜膨潤に伴うサイズ変化は、膜厚方向に比べて、膜面方向に小さい異方性を示し、膜電極接合体の接合安定性の点からも好ましい。
【0127】
上記表とはべつに、膜の高温高湿度での耐水性を、130℃飽和水蒸気の100h暴露前後で
のGPC分析による分子量変化から調べた。実施例1および13において、処理前の表2に
示されているMnとMwの値は、暴露処理後、実施例1では、それぞれ14900、43200に、実施例11では、22000,55000になり、ほとんど低下しなかった。一方、スルホン化ジアミンから合成する通常のスルホン化ポリイミド膜では、イミド環の加水分解のため、高分子鎖の切断が起こり、分子量が大きく低下することが報告されている(例えば、非特許文献:Makuromolecules, 39巻3号1189-1198頁、2006年)。
【0128】
これに対して、本発明で製造される共重合体は、ポリイミドブロック鎖中にスルホン酸基を有さないため、イミド環の加水分解耐水性が著しく向上しており、これにより130℃
飽和水蒸気の100h暴露処理によっても分子量の低下がほとんど生じないものと考えられる。また、表3に示すように、機械的強度およびプロトン伝導性の免からも優れた本発明で
得られる共重合体は、耐水性を有することが確認できた。
【0129】
以上のように、本特許の方法により製造したスルホン酸基を有するポリイミド系共重合体は、燃料電池用電解質および電解質膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】合成例1〜3で得られたポリイミドオリゴマーの1H-NMRを示す。
【図2】比較合成例1で得られた側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマーのFT−IRスペクトルを示す。
【図3】比較合成例2で得られた側鎖型スルホン化ポリフェレンオリゴマーのFT−IRスペクトルを示す。
【図4】実施例4で得られた共重合体の1H-NMRスペクトルを示す。
【図5】実施例10で得られた共重合体の1H-NMRスペクトルを示す。
【図6】実施例11で得られた共重合体の1H-NMRスペクトルを示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物(A)と、一般式(2)で表される化合物(B)とを、触媒(C)の存在下で重合させることを特徴とする共重合体の製造方法。
【化1】

[式(1)中、Ar1は、下記の(a-1)〜(a-4)のいずれかで表される基であり、Ar2は下記一般式(b)で表される基であり、Ar4は下記一般式(d)で表される基である。nは、
3〜50の整数を示す。
式(1)および(2)中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基のいずれかを示す。式(2)中、Yは、−CO
−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、Zは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-、のいずれかを示す。
また、式(2)中、R21は、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基を示す。x1およびx2は0〜4の整数を示す(ただし、yが0である場合にはx1は1〜4であり、yが1である場合にはx1とx2のいずれか一方は1以上である)。yは0〜1の整数、zは0〜3の整数を示す。]
【化2】

[上記式(d)中、Y’は、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し
、Z’は、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のい
ずれかを示す。
式(b)中、A,Bは、直接結合、−O−、−S−、−C(R’)2−、―C(CF32−、−CO−、−SO2−、−SO−のいずれかを示す。ただしR’は水素原子、フッ素原
子、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基を示す。式(d)中、mは0〜4の整数を示す
。a、bは、0〜4の整数を示す。なお+はXへの結合端、*は窒素原子への結合端を示す。]
【請求項2】
得られた共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が15,000〜1,000,000であることを特徴とする請求
項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)において、nが5〜30である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
化合物(A)と化合物(B)の混合物と触媒(C)とを混合する工程、およびその後に再度触媒(C)を添加する工程を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
化合物(B)に触媒(C)を添加する工程、およびその後に化合物(A)を添加する工程を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
一般式(1')で表される構造単位(A')と、一般式(2')で表される構造を有する
構造単位(B')とを含むことを特徴とする共重合体。
【化3】

[式(1’)中、Ar1は、下記の(a-1)〜(a-4)のいずれかで表される基であり、Ar2は下記一般式(b)で表される基であり、Ar4は下記一般式(d)で表される基である。nは
、3〜50の整数を示す。
式(2’)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、
Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-、のいずれかを示す。
また、式(2’)中、R21は、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基を示す。
x1およびx2は0〜4の整数を示す(ただし、yが0である場合にはx1は1〜4であり
、yが1である場合にはx1とx2のいずれか一方は1以上である)。yは0〜1の整数、zは0〜3の整数を示す。]
【化4】

[上記式(d)中、Y’は、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいずれかを示し、Z’は、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、-C(CF3)2-のいず
れかを示す。
式(b)中、A,Bは、−O−、−S−、直接結合、−C(R’)2−、―C(CF32−、−CO−、−SO2−、−SO−のいずれかを示す。ただしR’は水素原子、フッ素原
子、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基を示す。式(d)中、mは0〜4の整数を示す
。a、bは、0〜4の整数を示す。なお+は式(1’)の左端又は右端に相当する結合端、*は窒素原子への結合端を示す。]
【請求項7】
構造単位(B’)が下記式(3’)で表されることを特徴とする請求項6に記載の共重合体。
【化5】

[式(3')中、kは2〜100の整数を示す。Y、Z、R21,x1,x2,yおよびz
は、式(2’)と同様である。]
【請求項8】
得られた共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が15,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項6又は7に記載の共重合体。
【請求項9】
一般式(1)において、繰り返し単位数を示すnが、5〜30である、請求項6〜8のいずれか一に記載の共重合体。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれかに記載の共重合体を含んでなる、固体高分子型燃料電池用の電解質。
【請求項11】
請求項10に記載の電解質を用いて得られる、固体高分子型燃料電池用の電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−65080(P2010−65080A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230138(P2008−230138)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】