説明

具材入りあんかけの製造方法

【課題】保存性に優れ、風味の良好な具材入りあんかけの製造方法を提供する。
【解決手段】水と、油脂と、澱粉と、具材とを含有する原料を加熱混合して調理液を得て、該調理液を油層とあん層とに分離し、前記あん層を回収してあんかけを製造する。回収したあん層を所定量ずつ分別して複数の容器に充填し、各容器に充填されたあん層に、調理液から分離した油層を所定量ずつ添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性が高く、風味の良好な具材入りあんかけの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
あんかけは、とろみがあって、口当たりがよく、食材と絡まり易いものであるため、麻婆豆腐、麻婆茄子、中華丼等の中華料理や、焼きそば、スパゲッティなどの料理に幅広く使用されている。
【0003】
家庭や料理店であんかけ料理を作る際には、材料を揚げたり、炒めたものをスープで煮て、仕上げに水溶き片栗粉を添加してとろみをつけている。しかし、このような料理は、手がかかり、手軽に作ることができない。
【0004】
そこで、あんかけを、缶詰やレトルトパウチ食品にして、加熱殺菌したものが販売されている。しかし、缶詰やレトルト食品は、加熱殺菌により缶臭やレトルト臭が付着するので、食品本来の風味が損なわれてしまうという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば、下記特許文献1には、水、香味油、調味料を主成分とする溶液をレトルト殺菌したソースと、澱粉を、それぞれ別の包材に入れ、調理時に両者を混合することで、風味の向上効果がもたらされることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−151484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された方法であっても、レトルト殺菌を行わないで製造したものと比べると、香りや風味が劣るという問題があった。
【0008】
よって、本発明の目的は、保存性に優れ、風味の良好な具材入りあんかけの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の具材入りあんかけの製造方法は、水と、油脂と、澱粉と、具材とを含有する原料を加熱混合して調理液を得て、該調理液を油層とあん層とに分離し、前記あん層を回収することを特徴とする。
【0010】
本発明の具材入りあんかけの製造方法においては、前記回収したあん層を所定量ずつ分別して複数の容器に充填し、各容器に充填されたあん層に、前記調理液から分離した油層を所定量ずつ添加することが好ましい。
【0011】
本発明の具材入りあんかけの製造方法においては、前記容器に充填したあんかけを、レトルト処理することなく、常温又は冷蔵保存することが好ましい。
【0012】
本発明の具材入りあんかけの製造方法においては、前記水100質量部に対し、前記油脂を25〜500質量部、前記具材を25〜400質量部、前記澱粉を3〜15質量部混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水と、油脂と、澱粉と、具材とを含有する原料を加熱混合することにより、具材が、油に接触して加熱されながら、水によって煮られるので、具材を油で炒めたり、揚げたりして下処理した後、水で煮たものと同様な風味を有するあんかけを製造することができる。
また、澱粉は、油脂には溶けず、水にのみ溶けて糊化し、あんが形成される。そして、具材は、粘性が高いあんに絡まって、水相をなすあんと一体になるので、得られた調理液を放置すると、具材とあんが混合した状態で下方に沈殿してあん層となり、上方に油が浮き上がって油層が形成される。
そこで、上記油層を取り出して、下方のあん層を回収することにより、本発明のあんかけを得ることができる。
このあんかけは、具材を油で加熱して下処理した後、水で煮たものと同様な風味を有し、下処理が必要がなくなるので、工業的に生産性よく製造できる。
また、具材が油に接触して加熱処理され、具材表面に油が含浸されており、かつ、あんの表面にも残存する油が付着しているので、油層によって空気との接触が妨げられ、レトルト処理を施さずに冷蔵保存しても日持ちのよい商品となる。
なお、取り出したあん層を所定量ずつ分別して容器に充填し、調理液から分離した油層を所定量ずつ添加することにより、あん層に油層が混合されたあんかけを得ることができる。この場合には、添加した油層が調味液となると共に、油層によってあんが覆われやすくなるので、日持ち向上効果を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の具材入りあんかけの製造方法は、まず、水と、油脂と、澱粉と、具材とを加熱混合して調理液を製造する。
【0015】
調理液の製造に用いる水には、鶏がらスープ、塩、胡椒、胡麻、酒、ワイン、みりん、醤油、酢、唐辛子、唐辛子抽出液、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、酵母エキス、肉エキス、植物性タンパク加水分解物、動物性タンパク加水分解物、ガーリックパウダー、味噌、砂糖、ソース、豆板醤、バジル、酸発酵乳などの調味料、パプリカ色素、クチナシ色素、ベニバナ色素等の色素剤を含有させてもよい。
【0016】
上記酸発酵乳は、乳酸菌で発酵した半ゲル状ないし液状の乳製品である発酵乳のうち、乳酸発酵だけによるものを意味し、例えば、ヨーグルト、酸乳飲料、乳酸菌飲料等が挙げられる。これらのうち乳酸菌飲料には、乳製品乳酸飲料(厚生省令での成分規格により無脂乳固形分3.0〜8.0%)と非乳製品乳酸飲料(厚生省令での成分規格により無脂乳固形分3.0%以下)とがあり、この乳製品乳酸飲料には、更に生菌乳酸菌飲料と殺菌乳酸菌飲料とがある。生菌乳酸菌飲料としては、例えば「ヤクルト」(商品名、株式会社ヤクルト本社製)等が知られており、また、殺菌乳酸菌飲料としては、例えば「カルピス」(商品名、カルピス食品工業株式会社製)等が知られている。本発明では、これらのいずれの酸発酵乳でも用いることができるが、特に殺菌乳酸菌飲料、例えば「カルピス」(商品名、カルピス食品工業株式会社製)が好ましく用いられる。
【0017】
調理液の製造に用いる油脂は、常温で液体であり食用として用いられるものであれば特に制限はない。例えば、胡麻油、サラダ油、オリーブ油、菜種油、コーン油、大豆油、紅花油、向日葵油、綿実油、こめ油、ピーナッツオイル、椰子油、唐辛子油などが挙げられる。
【0018】
油脂は、水(原料全体の水)100質量部に対し、25〜500質量部の割合で混合することが好ましく、100〜300質量部がより好ましい。25質量部未満であると、油脂による加熱調理が不十分な場合があり、500質量部を超えると、コスト高となる。
【0019】
調理液の製造に用いる澱粉は、いずれの種類であってもよいが、好ましく用いることができる。例えば、片栗粉、くず粉、じゃがいも澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉及びこれらの加工澱粉等が挙げられる。澱粉は、少量の水で溶いて、原料に添加することが好ましく、原料をある程度加熱処理した後に、添加することがより好ましい。少量の水で溶く際の澱粉と水との比率は、1:0.5〜2が好ましい。
【0020】
澱粉は、水(原料全体の水)100質量部に対し、3〜15質量部の割合で混合することが好ましい。3質量部未満であると、粘性が十分付与されないことがあり、15質量部を超えると、澱粉が水中に均一分散できないことがあり、ダマが生じたり、食感にざらつきが生じることがある。
【0021】
調理液の製造に用いる具材は、特に限定は無く、目的とするあんかけの種類に応じて適宜選択できる。例えば、野菜類、魚介類、肉類、及び、それらの加工食品が挙げられる。野菜類及びその加工食品としては、白菜、タケノコ、ゴボウ、レンコン、ニンジン、ショウガ、ネギ、ニンニク、茸、コンニャク、豆腐等が挙げられる。魚介類及びその加工食品としては、白身魚、ホタテ、エビ、イカ、タコ、フカヒレ、クラゲ、昆布、ザーサイ、かまぼこ、ツナ等が挙げられる。肉類及びその加工食品としては、豚肉、鶏肉、牛肉、ベーコン、ハム、ソーセージ等が挙げられる。その他、鶏やうずらの茹で卵などを用いてもよい。
【0022】
具材は、水(原料全体の水)100質量部に対し、25〜400質量部の割合で混合することが好ましく、50〜300質量部がより好ましい。400質量部を超えると、具材を均一に加熱調理できないことがある。
【0023】
加熱調理は、具材の種類によって異なるので特に限定はしないが、100〜180℃で30〜120分程度加熱することが好ましい。これにより、具材が十分に加熱調理されると共に、油脂の風味などが、よく混ざり合う。なお、水と油脂と具材とを混合して先に加熱して、具材が十分に加熱調理された後に、水溶きした澱粉を添加して、あんとすることがより好ましい。
【0024】
澱粉は、油脂には溶けず、水にのみ溶けて糊化し、あんが形成されるので、具材は、粘性が高いあんに絡まって、水相をなすあんと一体になる。このため、得られた調理液を放置すると、具材とあんが混合した状態で下方に沈殿してあん層となり、上方に油が浮き上がって油層が形成される。
【0025】
そして、上方の油層を取り出して、下方のあん層を回収する。あん層の回収方法としては、特に限定は無い。例えば、調理液を濾過網に通過させて、濾過網を通過できずに濾過網上に残留したあん層を回収する方法が挙げられる。濾過網の孔径は、1〜5mmが好ましく、2〜4mmがより好ましい。濾過網の孔径が1mm未満であると、濾過網が目詰まり易くなり、5mmを超えると、あん層が濾過網を通過し易くなり、あん層の回収率が低下する。なお、あん層の回収は、調理液をあん層と油層とに分離した後、ただちに行ってもよいが、調理液を1日以上放置したのち、あん層を回収することが好ましい。調理液を1日以上放置することにより、あん層が熟成して、風味がより向上する。
【0026】
本発明では、回収したあん層だけを、あんかけとして製品化することもできるが、更に下記工程を行い、油層を添加して製品化することが好ましい。
【0027】
すなわち、分離したあん層を所定量ずつ容器に充填し、上記で取り出した油層を所定量ずつ、容器に充填したあん層に添加する。油層の添加量は、特に限定されないが、質量比で、あん層1に対して、0.1〜2が好ましい。
【0028】
充填容器としては、特に限定は無いが、例えば、プラスチックトレイ、包装袋等が挙げられる。
【0029】
こうして、あん層に油層を添加すると、あん層の表層が油層で被覆されるので、あん層の空気との接触が遮断され、更に保存性が向上する。
【0030】
そして、あん層及び油層を充填した容器を封止するか、あるいは蓋をし、常温又は冷蔵保存する。冷蔵保存する場合は、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下で保存する。なお、冷凍保存してもよい。
【0031】
更に、容器に充填し、封止した後に、殺菌処理を行ってもよいが、その殺菌条件は、できるだけ風味を損なわない条件とすることが好ましい。ただし、高温高圧条件での殺菌、すなわちレトルト処理は避けることが好ましい。レトルト処理を施すことで、レトルト臭が発生し、風味が損なわれるからである。
【0032】
このようにして得られる具材入りあんかけは、具材本来のうまみが十分に保持されており、極めて風味が良い。また、容器内では、あん層の表層が油脂で被覆されているので、空気との接触が遮断されて、保存性に優れる。
【0033】
この具材入りあんかけを、様々な食材にからめることであんかけ食品を容易に製造できる。例えば、唐辛子入りの具材入りあんかけを豆腐にからめて、電子レンジ等で加熱することで、簡単に麻婆豆腐用の食品が得られる。また、麺類にからめることで、簡単にあんかけそばが得られる。また、おにぎりの具材として用いることもできる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
胡麻油500g、サラダ油50g、水400g、醤油40g、カルピス40g、酢40g、味噌40g、砂糖40g、豆板醤10g、一味唐辛子10g、オイスターソース10g、パプリカ10g、豚挽肉150g、鶏挽肉150g、ネギ150g、筍150gを、調理鍋に入れ、攪拌しながら120℃で20分間加熱した。次いで、加熱を停止し、20gの水に溶いたタピオカ澱粉20gを攪拌しながら添加して調理液を製造した。
この調理液は、タピオカ澱粉が、水に溶けて糊化してあんが形成され、このあんに具材が絡まって一体となっていた。そして、具材とあんが混合した状態で下方に沈殿してあん層となり、上方に油が浮き上がって油層が形成されていた。
あん層と油層とに分離した調理液を、孔径3mmの濾過網を通過させ、油層とあん層とに分離した。
調理液から分離回収したあん層70gをプラスチックトレイに充填し、トレイ内に充填されたあん層に、調理液から分離回収した油層20gを充填した後トレイを封止し、具材入りあんかけを製造した。
この具材入りあんかけを豆腐に絡めて電子レンジで加熱調理して食したところ、一般的な調理方法で製造した麻婆豆腐に劣らず、極めて風味が良いものであった。また、この具材入りあんかけを25℃で保存したところ、14日間、鮮度を良好に維持することができた。
【0035】
(実施例2)
胡麻油500g、サラダ油50g、水500g、醤油50g、カルピス50g、酢50g、味噌500g、砂糖300g、白ゴマ30g、一味唐辛子10g、パプリカ10g、豚挽肉150g、鶏挽肉150g、ネギ150g、筍150gを、調理鍋に入れ、攪拌しながら120℃で20分間加熱した。次いで、加熱を停止し、20gの水に溶いたタピオカ澱粉20gを攪拌しながら添加して調理液を製造した。
この調理液は、タピオカ澱粉が、水に溶けて糊化してあんが形成され、このあんに具材が絡まって一体となっていた。そして、具材とあんが混合した状態で下方に沈殿してあん層となり、上方に油が浮き上がって油層が形成されていた。
あん層と油層とに分離した調理液を、孔径3mmの濾過網を通過させ、油層とあん層とに分離した。
調理液から分離回収したあん層70gをプラスチックトレイに充填し、トレイ内に充填されたあん層に、調理液から分離回収した油層20gを充填した後トレイを封止し、具材入りあんかけを製造した。
この具材入りあんかけを麺に絡めて電子レンジで加熱調理して食したところ、一般的な調理方法で製造したあんかけ麺に劣らず、極めて風味が良いものであった。また、この具材入りあんかけを25℃で保存したところ、14日間、鮮度を良好に維持することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、油脂と、澱粉と、具材とを含有する原料を加熱混合して調理液を得て、該調理液を油層とあん層とに分離し、前記あん層を回収することを特徴とする具材入りあんかけの製造方法。
【請求項2】
前記回収したあん層を所定量ずつ分別して複数の容器に充填し、各容器に充填されたあん層に、前記調理液から分離した油層を所定量ずつ添加する、請求項1記載の具材入りあんかけの製造方法。
【請求項3】
前記容器に充填したあんかけを、レトルト処理することなく、常温又は冷蔵保存する、請求項2に記載の具材入りあんかけの製造方法。
【請求項4】
前記水100質量部に対し、前記油脂を25〜500質量部、前記具材を25〜400質量部、前記澱粉を3〜15質量部混合する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の具材入りあんかけの製造方法。

【公開番号】特開2012−44895(P2012−44895A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188446(P2010−188446)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(500465488)株式会社有明のり (8)
【Fターム(参考)】