内周凹凸部を有するカップ状部品及びその製造方法及び製造装置
【課題】必要な強度を確保すると共に安価な内周凹凸部を有するカップ状部品を提供すること。
【解決手段】内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、底部11と、底部11の外周から立設した円筒部2と、内周凹凸部210とを有している。内周凹凸部210は、円筒部2の内周面21において円筒部2の軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211と隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212とを有している。円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。円筒部2の外周面22における底部11が配された側と反対の開口端部232側には外周凹部221を形成していない平滑外周部224が形成されている。
【解決手段】内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、底部11と、底部11の外周から立設した円筒部2と、内周凹凸部210とを有している。内周凹凸部210は、円筒部2の内周面21において円筒部2の軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211と隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212とを有している。円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。円筒部2の外周面22における底部11が配された側と反対の開口端部232側には外周凹部221を形成していない平滑外周部224が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周凹凸部を有するカップ状部品とその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の自動変速機におけるクラッチドラムには、円板状の底部と、底部の外周から立設した円筒部とを備え、円筒部の内周面に形成された内周凹凸部を有するカップ状部品が用いられている。この内周凹凸部を有するカップ状部品は、プレス加工やフローフォーミングにより製造することができる。フローフォーミングは、プレス加工に比べ設備の構造が複雑で、かつ成形後に生じる端材の量が多いため、設備費及び部品単価が増大しやすい。また、フローフォーミングは、プレス加工に比べ長い加工時間を要するため、プレス加工に比べ生産効率が低い。
【0003】
これに対し、カップ状部品をプレス加工により成形する場合には、フローフォーミングにより成形する場合よりも、設備費及び部品単価の低減を図りつつ生産効率を向上させることができる。そのため、製造コスト及び生産効率の面から見れば、プレス加工を採用することが好ましい。
一方、従来のプレス加工品においては、内周面の凹凸形状を確保するために、外周面にも凹凸形状を設けたものしかなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、プレス加工を用いて製造された内周凹凸部を有するカップ状部品9が示されている。この従来のプレス加工品であるカップ状部品9は、図16及び図17に示すごとく、底部92と、該底部92から立設した円筒部90とを備えている。カップ状部品9は、円筒部90の内周面にスプライン溝部911及びスプライン突起部912を形成し、円筒部90の外周面には、内周面のスプライン溝部911及びスプライン突起部912とそれぞれ対応する位置に、外側突起部913及び外側溝部914を形成してある。また、外側溝部914の溝底面915は、円筒部90の底部92側の端部と反対側の開口端部93に向かって、円筒部90の軸線から離れるように傾斜した斜面により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−57687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のプレス加工品であるカップ状部品9には以下の問題点がある。
カップ状部品9において円筒部90の外周面には、内周面のスプライン突起部912に対応した位置で、かつ円筒部90の軸線方向全体に外側溝部914を形成してある。そのため、スプライン突起部912における肉厚が外側溝部914の深さ分だけ薄くなる。したがって、スプライン突起部912における肉厚が薄くなると円筒部90の強度が低下しやすい。
【0007】
さらに、円筒部90の開口端部93は、開放して形成されているため、底部92が補強材の役割を果たす底部側端部94に比べ剛性が低い。それゆえ、開口端部93においては、スプライン突起部912の肉厚減少の影響をより受けやすく、変形やたわみによる不具合が発生しやすい。
【0008】
本発明は、上述した背景に鑑みてなされたものであり、必要な強度を確保すると共に安価な内周凹凸部を有するカップ状部品とその製造方法及び製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、プレス加工により成形され、
円板状の底部と、
該底部の外周から立設した円筒部と、
該円筒部の内周面における軸線方向の全長において上記円筒部の軸線方向に沿うと共に上記円筒部の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた内周凹凸部とを有し、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられており、
上記円筒部における上記底部が配された基端部側と反対の開口端部側には、その外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品にある(請求項1)。
【0010】
また、本発明の他の態様は、円板状の素材を底部と該底部から立設した円筒部とを有するカップ状に成形する絞り加工工程と、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた上記内周凹凸部を形成する第1しごき加工工程と、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側の上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する第2しごき加工工程とを有し、
上記円筒部における上記底部が配された側と反対の開口端部側にはその外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部を形成することを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造方法にある(請求項3)。
【0011】
また、本発明のその他の態様は、円板状の底部と該底部から立設する円筒部とを有すると共に該円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されたカップ状部品の製造装置であって、
略円柱状をなし外周側面に上記内周凹凸部と対応したパンチ歯型部を備えたパンチと、
該パンチと共に上記カップ状部品を形成する複数のダイスとを有しており、
該複数のダイスは、少なくとも円板状の素材をカップ状に形成するための円形状の絞り孔を備えた絞りダイスと、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部と隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部とを有する上記内周凹凸部を形成する際に、上記円筒部の外周面をしごくための円形状の第1しごき孔を備えた第1しごきダイスと、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する際に、上記外周凹部を形成するためのダイス凸部を設けた第2しごき孔を備えた第2しごきダイスとを備えており、
上記パンチ歯型部は、上記パンチの軸線方向に沿うと共に上記パンチの径方向外側に向かって突出して形成された複数のパンチ歯部及び隣り合う該パンチ歯部の間に形成されたパンチ底部を備え、
上記ダイス凸部は、上記パンチ歯型部の上記パンチ歯部に対応した位置において上記第2しごきダイスの径方向内側に向かって突出するように形成されており、
上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスは、各ダイスの中心軸線が一直線上に位置するよう順次配されており、
上記パンチを上記絞り孔、上記第1しごき孔及び上記第2しごき孔に順次挿通可能に配されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
上記カップ状部品において、上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられている。また、上記円筒部の上記底部が配された側と反対の開口端部側の外周面には凹凸がなく、外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されている。そのため、上記カップ状部品における強度を向上すると共に上記内周凹凸部を確実に形成することができる。
【0013】
すなわち、上記底部と上記円筒部とをつなぐ繋ぎ部においては、プレス加工時の形状の変化率が大きいため、上記繋ぎ部近傍に形成される上記内周凸部に材料の充填不良が生じる場合がある。そのため、上記基端部側に上記外周凹部を形成することにより、上記内周凸部において、充填不良が生じやすい箇所に十分な量の材料を充填することができ、確実に上記内周凹凸部を形成することができる。
【0014】
また、上記のごとく、上記基端部側のみに上記外周凹部を形成することにより、上記内周凹凸部を軸線方向全長にわたって精度よく形成することができることを利用し、上記外周面の上記開口端部側に上記外周凹部を形成することを行わず、積極的に上記開口端部側に上記平滑外周部を形成する。上記平滑外周部は、その外周面が全周において略同一径をなしており、上記内周凸部が存在する部分における外周からのへこみがなく、肉厚の減少がない。それゆえ、上記円筒部の上記開口端部側における強度を向上することができる。
【0015】
上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品の製造方法は、上記絞り加工工程と上記第1しごき加工工程と上記第2しごき加工工程とを有している。そのため、上述した優れた上記カップ状部品を容易に得ることができる。
【0016】
上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品の製造装置は、上記パンチと、少なくとも上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスの3つのダイスを備えている。そのため、上記カップ状部品の製造装置を用いることにより、上述の優れた製造方法を確実に実現することができ、上記カップ状部品を容易に製造することができる。
【0017】
また、上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスを一直線状に配してある。そのため、上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスによる加工を、上記パンチのワンストロークの動きで行うことができ、上記カップ状部品の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における、内周凹凸部を有するカップ状部品の説明図。
【図2】図1における、A−A線矢視部分断面図。
【図3】図2における、B−B先矢視部分断面図。
【図4】図2における、C−C先矢視部分断面図。
【図5】実施例1における、成形前のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図6】実施例1における、素材を挟持した状態のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図7】実施例1における、絞り工程後のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図8】実施例1における、第1しごき工程後のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図9】実施例1における、第2しごき工程のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図10】実施例1における、パンチ及び下方パンチを示す拡大断面図
【図11】図10における、E矢視線方向におけるパンチの形状を示す説明図。
【図12】図5における、F−F線矢視断面図。
【図13】図12における、G−G線矢視断面図。
【図14】実施例1における、(a)成形前の素材を示す部分断面図、(b)パンチ及び下方パンチに挟持された素材を示す部分断面図、(c)絞り工程後のカップ状部品を示す部分断面図
【図15】実施例1における、(a)第1しごき工程後のカップ状部品を示す説明図、(b)第2しごき工程後のカップ状部品を示す説明図。
【図16】背景技術における、カップ状部品を示す説明図。
【図17】図16におけるH−H先矢視部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記カップ状部品は、上記円筒部の上記内周面における上記開口端部側に形成されたスナップリング溝を有する自動変速機のクラッチドラムであってもよい(請求項2)。クラッチドラムは、カップ状をなし、その円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されており、内周面の開口端部側の位置にはスナップリング溝が形成される。このスナップリング溝を形成した部位においては、他の部位に比べて肉厚が減少するため強度の低下が生じやすい。
【0020】
したがって、スナップリング溝による強度の低下を抑制し、必要な強度を確保するには、スナップリング溝と対応した位置における肉厚を増大させることが有効である。上述した上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品をクラッチドラムとして用いることにより、上記内周凸部における肉厚が減少することなく、スナップリング溝付近の肉厚も確保することができる。さらに、肉厚を確保することにより、クラッチ板等の部品を保持するための強度及び回転による変形量を抑制するための回転剛性についても向上させることができる。それゆえ、要求される性能を満たし、かつ安価なクラッチドラムを得ることができる。
【0021】
また、上記カップ状部品の製造装置は、上記第2しごき孔の内周面に縮径部が形成されると共に、上記第2しごき孔の上記パンチが進入する一方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された導入テーパ部と、上記一方開口端と反対側の他方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された逃げテーパ部とを備えることができる(請求項5)。この場合には、上記カップ状部品の上記外周凹部を形成する際に、上記第2しごき孔の上記ダイス凸部と上記カップ状部品の外周面との接触面積を小さくすることができる。したがって、上記ダイス凸部から上記カップ状部品の外周面へ加わる力を集中させることができる。これにより、上記カップ状部品に上記外周凹部を精度よく形成しつつ、しごき抵抗を低下させることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
内周凹凸部を有するカップ状部品並びに、その製造方法及び製造装置にかかる実施例について、図1〜図15を参照して説明する。
図1に示すごとく、内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、プレス加工により成形され、円板状の底部11と、該底部11の外周から立設した円筒部2とを有している。また、内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、円筒部2の内周面21における軸線方向の全長において円筒部2の軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211及び隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212を備えた内周凹凸部210とを有している。
【0023】
円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。円筒部2における底部11が配された側と反対の開口端部232側には、その外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されている。
【0024】
本例の内周凹凸部210を有するカップ状部品1について、さらに詳細に説明する。
本例において、カップ状部品1の軸線が配された方向を軸線方向と定義し、軸線方向と直交する方向を径方向と定義する。
また、後述する製造装置3における上方パンチ31の先端側を下方と定義し、その反対側を上方と定義する。
【0025】
本例のカップ状部品1は、自動車の自動変速機におけるクラッチドラムである。
図1及び図2に示すごとくカップ状部品1は、円板状の底部11と、底部11の外周側から立設した円筒部2とを備えている。
底部11は、その中央に貫通穴111が貫通形成された円環状をなしている。
円筒部2の直径は、底部11の直径に対して大きく設定してあり、底部11と円筒部2とは、円筒部2の直径から底部11の直径へと縮径するカップテーパ部12により繋がっている。
【0026】
円筒部2の内周面21及び外周面22には、それぞれ内周凹凸部210及び外周凹部221が形成されている。
図1及び図3に示すごとく、内周凹凸部210は、内周面21における軸線方向の全長わたって形成されている。内周凹凸部210は、軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211と、隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212とを備えている。内周凸部211において軸線方向と直交する平面における断面形状は、略台形状をなしている。また、隣り合う内周凸部211は、互いに所定の間隔を介して配されており、凹部底面214を有する内周凹部212が形成されている。
【0027】
図1〜図4に示すごとく、円筒部2の外周面22には、外周凹部221と平滑外周部224とが形成されている。
外周凹部221は、外周面22における内周凸部211と対応した位置で、かつ底部11が配された基端部231側の位置に形成されている。外周凹部221は、外周面22の法線と垂直な平面上に形成された平面部222と、平面部222に対して傾斜して形成された斜面部223とを備えている。平面部222は、外周凹部221における基端部231側の位置に形成されている。また、斜面部223は、外周凹部221における開口端部232側の位置でかつ、平面部222から開口端部232側に向かうにつれて円筒部2の中心軸線から離れるように傾斜して形成されている。
【0028】
平滑外周部224は、円筒部2における開口端部232側の外周面22に形成されている。平滑外周部224は、外周面22の全周において略同一径をなしており、軸線方向と直交する平面の断面における外形形状は略真円状をなしている。
【0029】
図1に示すごとく、カップ状部品1ををなすクラッチドラムは、円筒部2の内周面21における開口端部232側の位置で、かつ平滑外周部224と対応した位置にの円周上に形成されたスナップリング溝215を有している。スナップリング溝215は、図2に示すごとく、内周凸部211を切削加工して形成されており、径方向におけるスナップリング溝215の溝底面216の位置と凹部底面214位置とが略同一となるように形成してある。
【0030】
次に、上述したカップ状部品1を製造するためのカップ状部品1の製造装置3について説明する。
図5に示すごとく、カップ状部品1の製造装置3は、略円柱状をなす上方パンチ31と、該上方パンチ31と共にカップ状部品1を成形する絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43の3つのダイスと、上方パンチ31を軸線方向において進退移動させるワンストロークプレス(図示略)とを備えている。
【0031】
図5、図10及び図11に示すごとく上方パンチ31は、軸線方向に沿って配された略円柱状をなしており、パンチ外周面311には、カップ状部品1の内周凹凸部210における内周凹部212に対応した形状を有するパンチ歯部315と、内周凸部211に対応した形状を有するパンチ溝部316とを備えたパンチ歯型部312が形成されている。また、上方パンチ31の下端に配されたパンチ先端部313の外周縁部には、上方パンチ31の先端側に向かって縮径するパンチテーパ部314が形成されている。
上方パンチ31の基端部は、ワンストロークプレス機の上方駆動源(図示略)と連結されており、軸線方向に進退可能に構成されている。
【0032】
図5及び図10に示すごとく、上方パンチ31の下方には、下方パンチ32が配されている。下方パンチ32は、軸線方向に沿って配された略円柱形状をなしており、その上面には、パンチ先端部313と対応した形状の下方パンチ凹部321が形成されている。
また、下方パンチ32の下端部は、ワンストロークプレス機の下方駆動源(図示略)と連結されており、上下方向に進退可能に構成されている。
【0033】
図5に示すごとく、絞りダイス41は、略円環状をなしており、その内周面は、円板状の素材10をカップ形状にするための円形状の絞り孔411をなしている。絞り孔411は、その上端側に配された上端縁部にフィレット412が形成されている。また、フィレット412の下端から下方に向かって拡径するように形成されたテーパ状のパンチ逃げ部413を有している。
【0034】
絞りダイス41の下方には、第1しごきダイス42を配してある。
第1しごきダイス42は、図5に示すごとく、略円環状をなしており、その内周面は、内周凹凸部210を形成する際に、円筒部2の外周面22をしごくための円形状の第1しごき孔420をなしている。第1しごき孔420は、第1導入テーパ部421と第1逃げテーパ部422とを有している。
【0035】
第1導入テーパ部421は、上方に配された開口端から、第1しごきダイス42の軸線方向における略中央の位置に形成された第1縮径部423に向かって縮径するように形成されている。
また、第1逃げテーパ部422は、第1導入テーパ部421の第1縮径部423から、下方に配された開口端に向かって拡径するように形成されている。尚、第1しごき孔420における軸線方向と直交する平面の断面形状は、いずれの位置においても円形状をなしている。
【0036】
また、第1しごきダイス42は、その中心軸線を回転中心として、所定の成形回数ごとに所定角度回転可能に構成されている。これにより、第1しごきダイス42の偏摩耗を抑制し、第1しごきダイス42の寿命を延長することができる。
すなわち、上方パンチ31と第1しごきダイス42とを用いてしごき加工を行う際には、パンチ歯型部312のパンチ歯部315と第1しごき孔420との間において、しごき率が大きい強しごき加工が行われる。強しごき加工においては高い面圧が生じるため、第1しごき孔42のパンチ歯部312と対向した位置において摩耗が進みやすく、第1しごき孔420の内周面に偏摩耗が生じる。
【0037】
これに対して、本例に示す第1しごきダイス42は、上記のごとく所定成形回数ごとに所定角度回転可能に構成されている。そのため、第1しごき孔42におけるパンチ歯部315と対向していた部位を、パンチ溝部316と対向した位置へと移動することができる。これにより、第1しごき孔420の内周面における偏摩耗の発生を抑制し、第1しごきダイス42の寿命を延長することができる。
尚、第1しごきダイス42を回転させるまでの成形回数及び第1しごきダイス42の回転角度は、任意に設定することができる。
【0038】
第1しごきダイス42の下方には、第2しごきダイス43を配してある。
図5、図12及び図13に示すごとく、第2しごきダイス43は、略円環状をなしており、その内周面は、外周凹部221を形成するためのダイス凸部434を設けた第2しごき孔430をなしている。
【0039】
第2しごき孔430は、図11に示すごとく、第2導入テーパ部431と第2逃げテーパ部432とを有している。第2導入テーパ部431は、上方に配された上方開口端から、第2しごきダイス43の軸線方向における略中央の位置に形成された第2縮径部433に向かって縮径するように形成されている。また、第2逃げテーパ部432は、下方に配された下方開口端から第2導入テーパ部431の第2縮径部433に向かって拡径するように形成されている。
また、複数のダイス凸部434は、第2導入テーパ部431及び第2逃げテーパ部432をなす面上でかつ軸線方向に沿って形成されている。
【0040】
図5に示すごとく、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43は、床面上に配されたプレス基部45上に順次積み重ねて配されている。また、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43は、各ダイスの中心線が一直線上に並ぶように配されている。
【0041】
上記のごとく構成されたカップ状部品1の製造装置3を用いてカップ状部品1を製造する。
まず、図14(a)に示すプレス成形により円環状に形成された素材10を、図5に示すごとく、下方パンチ32上に載置する。
次いで、図6に示すごとく上方駆動源により上方パンチ31を下降させる。このとき、素材10は、パンチ先端部313と下方パンチ32上面の下方パンチ凹部321に沿って変形し、図14(b)に示すごとく、底部11と、底部11の上方に向かって傾斜した傾斜部13とが形成される。
【0042】
次いで、絞り工程へと移行する。
図7に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、絞りダイス41の絞り孔411を通過することにより絞り加工が行われる。これにより、図14(c)に示すごとく、素材10の傾斜部13における外周側の部位において上方に向かって立設した円筒部2が形成される。
【0043】
次いで、第1しごき工程へと移行する。
図8に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、第1しごきダイス42の第1しごき孔420に通過させることによってしごき加工がおこなわれる。上方パンチ31と第1しごきダイス42によってしごかれた円筒部2の内周面21においては、図15(a)に示すごとく、上方パンチ31のパンチ歯型部312に沿って材料が移動し、円筒部2の内周面21に内周凹凸部210が形成される。このとき、カップテーパ部12と円筒部2との繋ぎ部に内周凸部211において材料の充填不足部219が生じる場合がある。また、第1しごき工程を終えた時点において、円筒部2の外周面22は平滑な曲面となっている。
【0044】
次いで、第2しごき工程へと移行する。
図9に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、図15(b)に示すごとく、素材10を第2しごきダイス43に挿入することによりしごき加工が行われる。このとき、第2しごきダイス43の第2縮径部433(図13)が、カップ状部品1の円筒部2における軸線方向の中央位置付近へ到達したところで上方パンチ31及び下方パンチ32の下降を停止させる。これにより、カップテーパ部12と円筒部2との繋ぎ部の内周凸部211に充分な量の材料を充填すると共に、円筒部2の開口端部232側の外周面22には平滑な曲面が残ることとなり、外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されることとなる。これにより、内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造が完了する。
【0045】
次に、本例の作用効果について説明する。
カップ状部品1において、円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。また、円筒部2の底部11が配された側と反対の開口端部232側の外周面22には凹凸がなく、外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されている。そのため、カップ状部品1における強度を向上すると共に内周凹凸部210を確実に形成することができる。
【0046】
すなわち、底部11と円筒部2とをつなぐ繋ぎ部においては、プレス加工時の形状の変化率が大きいため、繋ぎ部近傍に形成される内周凸部211に材料の充填不良が生じる場合がある。そのため、基端部231側に外周凹部221を形成することにより、内周凸部211において、充填不良が生じやすい箇所に十分な量の材料を充填することができ、確実に内周凹凸部210を形成することができる。
【0047】
また、上記のごとく、基端部231側のみに外周凹部221を形成することにより、内周凹凸部210を軸線方向全長にわたって、精度よく形成することができることを利用し、外周面22の開口端部232側に外周凹部221を形成することを行わず、積極的に開口端部232側に平滑外周部224を形成する。平滑外周部224においては、外周面22の全周において略同一径をなしているため、内周凸部211が存在する部分における外周からのへこみがなく、肉厚の減少がない。それゆえ、円筒部2の開口端部232側における強度を向上することができる。
【0048】
また、カップ状部品1は、円筒部2の内周面21における開口端部232側に形成されたスナップリング溝215を有する自動変速機のクラッチドラムである。クラッチドラムは、カップ状をなし、その円筒部2の内周面21に内周凹凸部210が形成されており、内周面21の開口端部232側の位置にはスナップリング溝216が形成される。このスナップリング溝216を形成した部位においては、他の部位に比べて肉厚が減少するため強度の低下が生じやすい。
【0049】
したがって、スナップリング溝216による強度の低下を抑制し、必要な強度を確保するには、スナップリング溝216と対応した位置における肉厚を増大させることが有効である。上述した内周凹凸部210を有するカップ状部品1をクラッチドラムとして用いることにより、内周凸部211における肉厚の減少がなく、スナップリング溝216付近の肉厚も確保することができる。さらに、肉厚を確保することにより、クラッチ板等の部品を保持するための強度及び回転による変形量を抑制するための回転剛性についても向上させることができる。それゆえ、要求される性能を満たし、かつ安価なクラッチドラムを得ることができる。
【0050】
また、上述の内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造方法は、上記絞り加工工程と上記第1しごき加工工程と上記第2しごき加工工程とを有している。そのため、上述した優れたカップ状部品1を容易に得ることができる。
【0051】
また、上述の内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造装置は、上方パンチ31と、少なくとも絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43の3つのダイスを備えている。そのため、カップ状部品1の製造装置を用いることにより、上述の優れた製造方法を確実に実現することができ、カップ状部品1を容易に製造することができる。
【0052】
また、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43を一直線状に配してある。そのため、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43による加工を、上方パンチ31のワンストロークの動きで行うことができ、カップ状部品1の生産性を向上することができる。
【0053】
また、第2しごき孔430の内周面には、第2縮径部433が形成されると共に、第2しごき孔430において上方に配された上方開口端から第2縮径部433に向かって縮径するよう形成された第2導入テーパ部431と、下方に配された下方開口端から第2縮径部433に向かって縮径するよう形成された逃げテーパ部432とを備えている。そのため、カップ状部品1の外周凹部221を形成する際に、第2しごき孔430とカップ状部品1の外周面22との接触面積を小さくすることができる。したがって、ダイス凸部434からカップ状部品1の外周面22へ加わる力を集中させることができる。これにより、カップ状部品1に外周凹部221を精度よく形成しつつ、しごき抵抗を低下させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 カップ状部品
11 底部
2 円筒部
21 内周面
210 内周凹凸部
211 内周凸部
212 内周凹部
22 外周面
221 外周凹部
224 平滑外周部
231 基端部
232 開口端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周凹凸部を有するカップ状部品とその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の自動変速機におけるクラッチドラムには、円板状の底部と、底部の外周から立設した円筒部とを備え、円筒部の内周面に形成された内周凹凸部を有するカップ状部品が用いられている。この内周凹凸部を有するカップ状部品は、プレス加工やフローフォーミングにより製造することができる。フローフォーミングは、プレス加工に比べ設備の構造が複雑で、かつ成形後に生じる端材の量が多いため、設備費及び部品単価が増大しやすい。また、フローフォーミングは、プレス加工に比べ長い加工時間を要するため、プレス加工に比べ生産効率が低い。
【0003】
これに対し、カップ状部品をプレス加工により成形する場合には、フローフォーミングにより成形する場合よりも、設備費及び部品単価の低減を図りつつ生産効率を向上させることができる。そのため、製造コスト及び生産効率の面から見れば、プレス加工を採用することが好ましい。
一方、従来のプレス加工品においては、内周面の凹凸形状を確保するために、外周面にも凹凸形状を設けたものしかなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、プレス加工を用いて製造された内周凹凸部を有するカップ状部品9が示されている。この従来のプレス加工品であるカップ状部品9は、図16及び図17に示すごとく、底部92と、該底部92から立設した円筒部90とを備えている。カップ状部品9は、円筒部90の内周面にスプライン溝部911及びスプライン突起部912を形成し、円筒部90の外周面には、内周面のスプライン溝部911及びスプライン突起部912とそれぞれ対応する位置に、外側突起部913及び外側溝部914を形成してある。また、外側溝部914の溝底面915は、円筒部90の底部92側の端部と反対側の開口端部93に向かって、円筒部90の軸線から離れるように傾斜した斜面により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−57687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のプレス加工品であるカップ状部品9には以下の問題点がある。
カップ状部品9において円筒部90の外周面には、内周面のスプライン突起部912に対応した位置で、かつ円筒部90の軸線方向全体に外側溝部914を形成してある。そのため、スプライン突起部912における肉厚が外側溝部914の深さ分だけ薄くなる。したがって、スプライン突起部912における肉厚が薄くなると円筒部90の強度が低下しやすい。
【0007】
さらに、円筒部90の開口端部93は、開放して形成されているため、底部92が補強材の役割を果たす底部側端部94に比べ剛性が低い。それゆえ、開口端部93においては、スプライン突起部912の肉厚減少の影響をより受けやすく、変形やたわみによる不具合が発生しやすい。
【0008】
本発明は、上述した背景に鑑みてなされたものであり、必要な強度を確保すると共に安価な内周凹凸部を有するカップ状部品とその製造方法及び製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、プレス加工により成形され、
円板状の底部と、
該底部の外周から立設した円筒部と、
該円筒部の内周面における軸線方向の全長において上記円筒部の軸線方向に沿うと共に上記円筒部の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた内周凹凸部とを有し、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられており、
上記円筒部における上記底部が配された基端部側と反対の開口端部側には、その外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品にある(請求項1)。
【0010】
また、本発明の他の態様は、円板状の素材を底部と該底部から立設した円筒部とを有するカップ状に成形する絞り加工工程と、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた上記内周凹凸部を形成する第1しごき加工工程と、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側の上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する第2しごき加工工程とを有し、
上記円筒部における上記底部が配された側と反対の開口端部側にはその外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部を形成することを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造方法にある(請求項3)。
【0011】
また、本発明のその他の態様は、円板状の底部と該底部から立設する円筒部とを有すると共に該円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されたカップ状部品の製造装置であって、
略円柱状をなし外周側面に上記内周凹凸部と対応したパンチ歯型部を備えたパンチと、
該パンチと共に上記カップ状部品を形成する複数のダイスとを有しており、
該複数のダイスは、少なくとも円板状の素材をカップ状に形成するための円形状の絞り孔を備えた絞りダイスと、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部と隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部とを有する上記内周凹凸部を形成する際に、上記円筒部の外周面をしごくための円形状の第1しごき孔を備えた第1しごきダイスと、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する際に、上記外周凹部を形成するためのダイス凸部を設けた第2しごき孔を備えた第2しごきダイスとを備えており、
上記パンチ歯型部は、上記パンチの軸線方向に沿うと共に上記パンチの径方向外側に向かって突出して形成された複数のパンチ歯部及び隣り合う該パンチ歯部の間に形成されたパンチ底部を備え、
上記ダイス凸部は、上記パンチ歯型部の上記パンチ歯部に対応した位置において上記第2しごきダイスの径方向内側に向かって突出するように形成されており、
上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスは、各ダイスの中心軸線が一直線上に位置するよう順次配されており、
上記パンチを上記絞り孔、上記第1しごき孔及び上記第2しごき孔に順次挿通可能に配されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
上記カップ状部品において、上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられている。また、上記円筒部の上記底部が配された側と反対の開口端部側の外周面には凹凸がなく、外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されている。そのため、上記カップ状部品における強度を向上すると共に上記内周凹凸部を確実に形成することができる。
【0013】
すなわち、上記底部と上記円筒部とをつなぐ繋ぎ部においては、プレス加工時の形状の変化率が大きいため、上記繋ぎ部近傍に形成される上記内周凸部に材料の充填不良が生じる場合がある。そのため、上記基端部側に上記外周凹部を形成することにより、上記内周凸部において、充填不良が生じやすい箇所に十分な量の材料を充填することができ、確実に上記内周凹凸部を形成することができる。
【0014】
また、上記のごとく、上記基端部側のみに上記外周凹部を形成することにより、上記内周凹凸部を軸線方向全長にわたって精度よく形成することができることを利用し、上記外周面の上記開口端部側に上記外周凹部を形成することを行わず、積極的に上記開口端部側に上記平滑外周部を形成する。上記平滑外周部は、その外周面が全周において略同一径をなしており、上記内周凸部が存在する部分における外周からのへこみがなく、肉厚の減少がない。それゆえ、上記円筒部の上記開口端部側における強度を向上することができる。
【0015】
上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品の製造方法は、上記絞り加工工程と上記第1しごき加工工程と上記第2しごき加工工程とを有している。そのため、上述した優れた上記カップ状部品を容易に得ることができる。
【0016】
上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品の製造装置は、上記パンチと、少なくとも上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスの3つのダイスを備えている。そのため、上記カップ状部品の製造装置を用いることにより、上述の優れた製造方法を確実に実現することができ、上記カップ状部品を容易に製造することができる。
【0017】
また、上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスを一直線状に配してある。そのため、上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスによる加工を、上記パンチのワンストロークの動きで行うことができ、上記カップ状部品の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における、内周凹凸部を有するカップ状部品の説明図。
【図2】図1における、A−A線矢視部分断面図。
【図3】図2における、B−B先矢視部分断面図。
【図4】図2における、C−C先矢視部分断面図。
【図5】実施例1における、成形前のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図6】実施例1における、素材を挟持した状態のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図7】実施例1における、絞り工程後のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図8】実施例1における、第1しごき工程後のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図9】実施例1における、第2しごき工程のカップ状部品の製造装置を示す説明図。
【図10】実施例1における、パンチ及び下方パンチを示す拡大断面図
【図11】図10における、E矢視線方向におけるパンチの形状を示す説明図。
【図12】図5における、F−F線矢視断面図。
【図13】図12における、G−G線矢視断面図。
【図14】実施例1における、(a)成形前の素材を示す部分断面図、(b)パンチ及び下方パンチに挟持された素材を示す部分断面図、(c)絞り工程後のカップ状部品を示す部分断面図
【図15】実施例1における、(a)第1しごき工程後のカップ状部品を示す説明図、(b)第2しごき工程後のカップ状部品を示す説明図。
【図16】背景技術における、カップ状部品を示す説明図。
【図17】図16におけるH−H先矢視部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記カップ状部品は、上記円筒部の上記内周面における上記開口端部側に形成されたスナップリング溝を有する自動変速機のクラッチドラムであってもよい(請求項2)。クラッチドラムは、カップ状をなし、その円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されており、内周面の開口端部側の位置にはスナップリング溝が形成される。このスナップリング溝を形成した部位においては、他の部位に比べて肉厚が減少するため強度の低下が生じやすい。
【0020】
したがって、スナップリング溝による強度の低下を抑制し、必要な強度を確保するには、スナップリング溝と対応した位置における肉厚を増大させることが有効である。上述した上記内周凹凸部を有する上記カップ状部品をクラッチドラムとして用いることにより、上記内周凸部における肉厚が減少することなく、スナップリング溝付近の肉厚も確保することができる。さらに、肉厚を確保することにより、クラッチ板等の部品を保持するための強度及び回転による変形量を抑制するための回転剛性についても向上させることができる。それゆえ、要求される性能を満たし、かつ安価なクラッチドラムを得ることができる。
【0021】
また、上記カップ状部品の製造装置は、上記第2しごき孔の内周面に縮径部が形成されると共に、上記第2しごき孔の上記パンチが進入する一方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された導入テーパ部と、上記一方開口端と反対側の他方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された逃げテーパ部とを備えることができる(請求項5)。この場合には、上記カップ状部品の上記外周凹部を形成する際に、上記第2しごき孔の上記ダイス凸部と上記カップ状部品の外周面との接触面積を小さくすることができる。したがって、上記ダイス凸部から上記カップ状部品の外周面へ加わる力を集中させることができる。これにより、上記カップ状部品に上記外周凹部を精度よく形成しつつ、しごき抵抗を低下させることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
内周凹凸部を有するカップ状部品並びに、その製造方法及び製造装置にかかる実施例について、図1〜図15を参照して説明する。
図1に示すごとく、内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、プレス加工により成形され、円板状の底部11と、該底部11の外周から立設した円筒部2とを有している。また、内周凹凸部210を有するカップ状部品1は、円筒部2の内周面21における軸線方向の全長において円筒部2の軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211及び隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212を備えた内周凹凸部210とを有している。
【0023】
円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。円筒部2における底部11が配された側と反対の開口端部232側には、その外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されている。
【0024】
本例の内周凹凸部210を有するカップ状部品1について、さらに詳細に説明する。
本例において、カップ状部品1の軸線が配された方向を軸線方向と定義し、軸線方向と直交する方向を径方向と定義する。
また、後述する製造装置3における上方パンチ31の先端側を下方と定義し、その反対側を上方と定義する。
【0025】
本例のカップ状部品1は、自動車の自動変速機におけるクラッチドラムである。
図1及び図2に示すごとくカップ状部品1は、円板状の底部11と、底部11の外周側から立設した円筒部2とを備えている。
底部11は、その中央に貫通穴111が貫通形成された円環状をなしている。
円筒部2の直径は、底部11の直径に対して大きく設定してあり、底部11と円筒部2とは、円筒部2の直径から底部11の直径へと縮径するカップテーパ部12により繋がっている。
【0026】
円筒部2の内周面21及び外周面22には、それぞれ内周凹凸部210及び外周凹部221が形成されている。
図1及び図3に示すごとく、内周凹凸部210は、内周面21における軸線方向の全長わたって形成されている。内周凹凸部210は、軸線方向に沿うと共に円筒部2の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部211と、隣り合う内周凸部211の間に形成された内周凹部212とを備えている。内周凸部211において軸線方向と直交する平面における断面形状は、略台形状をなしている。また、隣り合う内周凸部211は、互いに所定の間隔を介して配されており、凹部底面214を有する内周凹部212が形成されている。
【0027】
図1〜図4に示すごとく、円筒部2の外周面22には、外周凹部221と平滑外周部224とが形成されている。
外周凹部221は、外周面22における内周凸部211と対応した位置で、かつ底部11が配された基端部231側の位置に形成されている。外周凹部221は、外周面22の法線と垂直な平面上に形成された平面部222と、平面部222に対して傾斜して形成された斜面部223とを備えている。平面部222は、外周凹部221における基端部231側の位置に形成されている。また、斜面部223は、外周凹部221における開口端部232側の位置でかつ、平面部222から開口端部232側に向かうにつれて円筒部2の中心軸線から離れるように傾斜して形成されている。
【0028】
平滑外周部224は、円筒部2における開口端部232側の外周面22に形成されている。平滑外周部224は、外周面22の全周において略同一径をなしており、軸線方向と直交する平面の断面における外形形状は略真円状をなしている。
【0029】
図1に示すごとく、カップ状部品1ををなすクラッチドラムは、円筒部2の内周面21における開口端部232側の位置で、かつ平滑外周部224と対応した位置にの円周上に形成されたスナップリング溝215を有している。スナップリング溝215は、図2に示すごとく、内周凸部211を切削加工して形成されており、径方向におけるスナップリング溝215の溝底面216の位置と凹部底面214位置とが略同一となるように形成してある。
【0030】
次に、上述したカップ状部品1を製造するためのカップ状部品1の製造装置3について説明する。
図5に示すごとく、カップ状部品1の製造装置3は、略円柱状をなす上方パンチ31と、該上方パンチ31と共にカップ状部品1を成形する絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43の3つのダイスと、上方パンチ31を軸線方向において進退移動させるワンストロークプレス(図示略)とを備えている。
【0031】
図5、図10及び図11に示すごとく上方パンチ31は、軸線方向に沿って配された略円柱状をなしており、パンチ外周面311には、カップ状部品1の内周凹凸部210における内周凹部212に対応した形状を有するパンチ歯部315と、内周凸部211に対応した形状を有するパンチ溝部316とを備えたパンチ歯型部312が形成されている。また、上方パンチ31の下端に配されたパンチ先端部313の外周縁部には、上方パンチ31の先端側に向かって縮径するパンチテーパ部314が形成されている。
上方パンチ31の基端部は、ワンストロークプレス機の上方駆動源(図示略)と連結されており、軸線方向に進退可能に構成されている。
【0032】
図5及び図10に示すごとく、上方パンチ31の下方には、下方パンチ32が配されている。下方パンチ32は、軸線方向に沿って配された略円柱形状をなしており、その上面には、パンチ先端部313と対応した形状の下方パンチ凹部321が形成されている。
また、下方パンチ32の下端部は、ワンストロークプレス機の下方駆動源(図示略)と連結されており、上下方向に進退可能に構成されている。
【0033】
図5に示すごとく、絞りダイス41は、略円環状をなしており、その内周面は、円板状の素材10をカップ形状にするための円形状の絞り孔411をなしている。絞り孔411は、その上端側に配された上端縁部にフィレット412が形成されている。また、フィレット412の下端から下方に向かって拡径するように形成されたテーパ状のパンチ逃げ部413を有している。
【0034】
絞りダイス41の下方には、第1しごきダイス42を配してある。
第1しごきダイス42は、図5に示すごとく、略円環状をなしており、その内周面は、内周凹凸部210を形成する際に、円筒部2の外周面22をしごくための円形状の第1しごき孔420をなしている。第1しごき孔420は、第1導入テーパ部421と第1逃げテーパ部422とを有している。
【0035】
第1導入テーパ部421は、上方に配された開口端から、第1しごきダイス42の軸線方向における略中央の位置に形成された第1縮径部423に向かって縮径するように形成されている。
また、第1逃げテーパ部422は、第1導入テーパ部421の第1縮径部423から、下方に配された開口端に向かって拡径するように形成されている。尚、第1しごき孔420における軸線方向と直交する平面の断面形状は、いずれの位置においても円形状をなしている。
【0036】
また、第1しごきダイス42は、その中心軸線を回転中心として、所定の成形回数ごとに所定角度回転可能に構成されている。これにより、第1しごきダイス42の偏摩耗を抑制し、第1しごきダイス42の寿命を延長することができる。
すなわち、上方パンチ31と第1しごきダイス42とを用いてしごき加工を行う際には、パンチ歯型部312のパンチ歯部315と第1しごき孔420との間において、しごき率が大きい強しごき加工が行われる。強しごき加工においては高い面圧が生じるため、第1しごき孔42のパンチ歯部312と対向した位置において摩耗が進みやすく、第1しごき孔420の内周面に偏摩耗が生じる。
【0037】
これに対して、本例に示す第1しごきダイス42は、上記のごとく所定成形回数ごとに所定角度回転可能に構成されている。そのため、第1しごき孔42におけるパンチ歯部315と対向していた部位を、パンチ溝部316と対向した位置へと移動することができる。これにより、第1しごき孔420の内周面における偏摩耗の発生を抑制し、第1しごきダイス42の寿命を延長することができる。
尚、第1しごきダイス42を回転させるまでの成形回数及び第1しごきダイス42の回転角度は、任意に設定することができる。
【0038】
第1しごきダイス42の下方には、第2しごきダイス43を配してある。
図5、図12及び図13に示すごとく、第2しごきダイス43は、略円環状をなしており、その内周面は、外周凹部221を形成するためのダイス凸部434を設けた第2しごき孔430をなしている。
【0039】
第2しごき孔430は、図11に示すごとく、第2導入テーパ部431と第2逃げテーパ部432とを有している。第2導入テーパ部431は、上方に配された上方開口端から、第2しごきダイス43の軸線方向における略中央の位置に形成された第2縮径部433に向かって縮径するように形成されている。また、第2逃げテーパ部432は、下方に配された下方開口端から第2導入テーパ部431の第2縮径部433に向かって拡径するように形成されている。
また、複数のダイス凸部434は、第2導入テーパ部431及び第2逃げテーパ部432をなす面上でかつ軸線方向に沿って形成されている。
【0040】
図5に示すごとく、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43は、床面上に配されたプレス基部45上に順次積み重ねて配されている。また、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43は、各ダイスの中心線が一直線上に並ぶように配されている。
【0041】
上記のごとく構成されたカップ状部品1の製造装置3を用いてカップ状部品1を製造する。
まず、図14(a)に示すプレス成形により円環状に形成された素材10を、図5に示すごとく、下方パンチ32上に載置する。
次いで、図6に示すごとく上方駆動源により上方パンチ31を下降させる。このとき、素材10は、パンチ先端部313と下方パンチ32上面の下方パンチ凹部321に沿って変形し、図14(b)に示すごとく、底部11と、底部11の上方に向かって傾斜した傾斜部13とが形成される。
【0042】
次いで、絞り工程へと移行する。
図7に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、絞りダイス41の絞り孔411を通過することにより絞り加工が行われる。これにより、図14(c)に示すごとく、素材10の傾斜部13における外周側の部位において上方に向かって立設した円筒部2が形成される。
【0043】
次いで、第1しごき工程へと移行する。
図8に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、第1しごきダイス42の第1しごき孔420に通過させることによってしごき加工がおこなわれる。上方パンチ31と第1しごきダイス42によってしごかれた円筒部2の内周面21においては、図15(a)に示すごとく、上方パンチ31のパンチ歯型部312に沿って材料が移動し、円筒部2の内周面21に内周凹凸部210が形成される。このとき、カップテーパ部12と円筒部2との繋ぎ部に内周凸部211において材料の充填不足部219が生じる場合がある。また、第1しごき工程を終えた時点において、円筒部2の外周面22は平滑な曲面となっている。
【0044】
次いで、第2しごき工程へと移行する。
図9に示すごとく、素材10を上方パンチ31及び下方パンチ32により挟持した状態で下降させて、図15(b)に示すごとく、素材10を第2しごきダイス43に挿入することによりしごき加工が行われる。このとき、第2しごきダイス43の第2縮径部433(図13)が、カップ状部品1の円筒部2における軸線方向の中央位置付近へ到達したところで上方パンチ31及び下方パンチ32の下降を停止させる。これにより、カップテーパ部12と円筒部2との繋ぎ部の内周凸部211に充分な量の材料を充填すると共に、円筒部2の開口端部232側の外周面22には平滑な曲面が残ることとなり、外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されることとなる。これにより、内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造が完了する。
【0045】
次に、本例の作用効果について説明する。
カップ状部品1において、円筒部2の外周面22における底部11が配された基端部231側には、内周凸部211と対応する位置において外周面22を円筒部2の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部221が設けられている。また、円筒部2の底部11が配された側と反対の開口端部232側の外周面22には凹凸がなく、外周面22の全周において略同一径をなす平滑外周部224が形成されている。そのため、カップ状部品1における強度を向上すると共に内周凹凸部210を確実に形成することができる。
【0046】
すなわち、底部11と円筒部2とをつなぐ繋ぎ部においては、プレス加工時の形状の変化率が大きいため、繋ぎ部近傍に形成される内周凸部211に材料の充填不良が生じる場合がある。そのため、基端部231側に外周凹部221を形成することにより、内周凸部211において、充填不良が生じやすい箇所に十分な量の材料を充填することができ、確実に内周凹凸部210を形成することができる。
【0047】
また、上記のごとく、基端部231側のみに外周凹部221を形成することにより、内周凹凸部210を軸線方向全長にわたって、精度よく形成することができることを利用し、外周面22の開口端部232側に外周凹部221を形成することを行わず、積極的に開口端部232側に平滑外周部224を形成する。平滑外周部224においては、外周面22の全周において略同一径をなしているため、内周凸部211が存在する部分における外周からのへこみがなく、肉厚の減少がない。それゆえ、円筒部2の開口端部232側における強度を向上することができる。
【0048】
また、カップ状部品1は、円筒部2の内周面21における開口端部232側に形成されたスナップリング溝215を有する自動変速機のクラッチドラムである。クラッチドラムは、カップ状をなし、その円筒部2の内周面21に内周凹凸部210が形成されており、内周面21の開口端部232側の位置にはスナップリング溝216が形成される。このスナップリング溝216を形成した部位においては、他の部位に比べて肉厚が減少するため強度の低下が生じやすい。
【0049】
したがって、スナップリング溝216による強度の低下を抑制し、必要な強度を確保するには、スナップリング溝216と対応した位置における肉厚を増大させることが有効である。上述した内周凹凸部210を有するカップ状部品1をクラッチドラムとして用いることにより、内周凸部211における肉厚の減少がなく、スナップリング溝216付近の肉厚も確保することができる。さらに、肉厚を確保することにより、クラッチ板等の部品を保持するための強度及び回転による変形量を抑制するための回転剛性についても向上させることができる。それゆえ、要求される性能を満たし、かつ安価なクラッチドラムを得ることができる。
【0050】
また、上述の内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造方法は、上記絞り加工工程と上記第1しごき加工工程と上記第2しごき加工工程とを有している。そのため、上述した優れたカップ状部品1を容易に得ることができる。
【0051】
また、上述の内周凹凸部210を有するカップ状部品1の製造装置は、上方パンチ31と、少なくとも絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43の3つのダイスを備えている。そのため、カップ状部品1の製造装置を用いることにより、上述の優れた製造方法を確実に実現することができ、カップ状部品1を容易に製造することができる。
【0052】
また、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43を一直線状に配してある。そのため、絞りダイス41、第1しごきダイス42及び第2しごきダイス43による加工を、上方パンチ31のワンストロークの動きで行うことができ、カップ状部品1の生産性を向上することができる。
【0053】
また、第2しごき孔430の内周面には、第2縮径部433が形成されると共に、第2しごき孔430において上方に配された上方開口端から第2縮径部433に向かって縮径するよう形成された第2導入テーパ部431と、下方に配された下方開口端から第2縮径部433に向かって縮径するよう形成された逃げテーパ部432とを備えている。そのため、カップ状部品1の外周凹部221を形成する際に、第2しごき孔430とカップ状部品1の外周面22との接触面積を小さくすることができる。したがって、ダイス凸部434からカップ状部品1の外周面22へ加わる力を集中させることができる。これにより、カップ状部品1に外周凹部221を精度よく形成しつつ、しごき抵抗を低下させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 カップ状部品
11 底部
2 円筒部
21 内周面
210 内周凹凸部
211 内周凸部
212 内周凹部
22 外周面
221 外周凹部
224 平滑外周部
231 基端部
232 開口端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工により成形され、
円板状の底部と、
該底部の外周から立設した円筒部と、
該円筒部の内周面における軸線方向の全長において上記円筒部の軸線方向に沿うと共に上記円筒部の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた内周凹凸部とを有し、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられており、
上記円筒部における上記底部が配された基端部側と反対の開口端部側には、その外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品。
【請求項2】
請求項1に記載のカップ状部品において、該カップ状部品は、上記円筒部の上記内周面における上記開口端部側に形成されたスナップリング溝を有する自動変速機のクラッチドラムであることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品。
【請求項3】
円板状の素材を底部と該底部から立設した円筒部とを有するカップ状に成形する絞り加工工程と、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた上記内周凹凸部を形成する第1しごき加工工程と、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側の上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する第2しごき加工工程とを有し、
上記円筒部における上記底部が配された側と反対の開口端部側にはその外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部を形成することを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造方法。
【請求項4】
円板状の底部と該底部から立設する円筒部とを有すると共に該円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されたカップ状部品の製造装置であって、
略円柱状をなし外周側面に上記内周凹凸部と対応したパンチ歯型部を備えたパンチと、
該パンチと共に上記カップ状部品を形成する複数のダイスとを有しており、
該複数のダイスは、少なくとも円板状の素材をカップ状に形成するための円形状の絞り孔を備えた絞りダイスと、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部と隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部とを有する上記内周凹凸部を形成する際に、上記円筒部の外周面をしごくための円形状の第1しごき孔を備えた第1しごきダイスと、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する際に、上記外周凹部を形成するためのダイス凸部を設けた第2しごき孔を備えた第2しごきダイスとを備えており、
上記パンチ歯型部は、上記パンチの軸線方向に沿うと共に上記パンチの径方向外側に向かって突出して形成された複数のパンチ歯部及び隣り合う該パンチ歯部の間に形成されたパンチ底部を備え、
上記ダイス凸部は、上記パンチ歯型部の上記パンチ歯部に対応した位置において上記第2しごきダイスの径方向内側に向かって突出するように形成されており、
上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスは、各ダイスの中心軸線が一直線上に位置するよう順次配されており、
上記パンチを上記絞り孔、上記第1しごき孔及び上記第2しごき孔に順次挿通可能に配されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のカップ状部品の製造装置において、上記第2しごき孔の内周面には縮径部が形成されると共に、上記第2しごき孔の上記パンチが進入する一方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された導入テーパ部と、上記一方開口端と反対側の他方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された逃げテーパ部とを備えていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置。
【請求項1】
プレス加工により成形され、
円板状の底部と、
該底部の外周から立設した円筒部と、
該円筒部の内周面における軸線方向の全長において上記円筒部の軸線方向に沿うと共に上記円筒部の径方向内側に向かって突出して形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた内周凹凸部とを有し、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部が設けられており、
上記円筒部における上記底部が配された基端部側と反対の開口端部側には、その外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部が形成されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品。
【請求項2】
請求項1に記載のカップ状部品において、該カップ状部品は、上記円筒部の上記内周面における上記開口端部側に形成されたスナップリング溝を有する自動変速機のクラッチドラムであることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品。
【請求項3】
円板状の素材を底部と該底部から立設した円筒部とを有するカップ状に成形する絞り加工工程と、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部及び隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部を備えた上記内周凹凸部を形成する第1しごき加工工程と、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側の上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する第2しごき加工工程とを有し、
上記円筒部における上記底部が配された側と反対の開口端部側にはその外周面の全周において略同一径をなす平滑外周部を形成することを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造方法。
【請求項4】
円板状の底部と該底部から立設する円筒部とを有すると共に該円筒部の内周面に内周凹凸部が形成されたカップ状部品の製造装置であって、
略円柱状をなし外周側面に上記内周凹凸部と対応したパンチ歯型部を備えたパンチと、
該パンチと共に上記カップ状部品を形成する複数のダイスとを有しており、
該複数のダイスは、少なくとも円板状の素材をカップ状に形成するための円形状の絞り孔を備えた絞りダイスと、
上記円筒部の内周面に上記円筒部の径方向内側に向かって突出するよう形成された複数の内周凸部と隣り合う上記内周凸部の間に形成された内周凹部とを有する上記内周凹凸部を形成する際に、上記円筒部の外周面をしごくための円形状の第1しごき孔を備えた第1しごきダイスと、
上記円筒部の外周面における上記底部が配された基端部側には、上記内周凸部と対応する位置において上記外周面を上記円筒部の径方向内側に向かって窪ませた外周凹部を形成する際に、上記外周凹部を形成するためのダイス凸部を設けた第2しごき孔を備えた第2しごきダイスとを備えており、
上記パンチ歯型部は、上記パンチの軸線方向に沿うと共に上記パンチの径方向外側に向かって突出して形成された複数のパンチ歯部及び隣り合う該パンチ歯部の間に形成されたパンチ底部を備え、
上記ダイス凸部は、上記パンチ歯型部の上記パンチ歯部に対応した位置において上記第2しごきダイスの径方向内側に向かって突出するように形成されており、
上記絞りダイス、上記第1しごきダイス及び上記第2しごきダイスは、各ダイスの中心軸線が一直線上に位置するよう順次配されており、
上記パンチを上記絞り孔、上記第1しごき孔及び上記第2しごき孔に順次挿通可能に配されていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のカップ状部品の製造装置において、上記第2しごき孔の内周面には縮径部が形成されると共に、上記第2しごき孔の上記パンチが進入する一方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された導入テーパ部と、上記一方開口端と反対側の他方開口端から上記縮径部に向かって徐々に縮径するよう形成された逃げテーパ部とを備えていることを特徴とする内周凹凸部を有するカップ状部品の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−53643(P2013−53643A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190530(P2011−190530)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]