説明

内周面測定装置

【課題】エンジンのシリンダブロック等の貫通穴の内周面を簡便に測定する内周面測定装置を提供する。
【解決手段】内周面測定装置1は、測定スピンドル29と第1支持部5と第2支持部17とガイドブロック48とを有する。第1支持部5及び第2支持部17はシリンダブロック2の両端面に着脱自在に取付られ、シリンダブロック2の貫通穴3に挿通された、測定スピンドル29を回転自在に支持する。測定スピンドル29は、円筒形状であり、内面32を切欠いて回転軸30の方向に略平行にのびるスリット33を有する。測定スピンドル29の内側に配置されるガイドブロック48には、貫通穴3の内周面4を計測する変位センサ51が固定される。ガイドブロック48は、スリット33に係合し回転軸30に沿って測定スピンドル29内を手動でスライド移動する。任意の測位位置において測定スピンドル29を手動で回転させて、内周面4の形状測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の内周面測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−037148号公報には、内燃機関のクランクシャフトを軸支する複数の軸受の内周面の真円度等を測定する内周面測定装置が記載されている。この測定装置では、スピンドル内にスピンドルの回転軸方向に延びる雄ネジロッドを儲け、雄ネジロッドに螺合した雌ネジブロックに内周面を測定する変位センサを装着する。内周面の測定に際しては、被測定物であるシリンダブロックを測定装置の所定位置に載置し、スピンドルをシリンダブロックの軸受内に挿通し、雄ネジロッドと連結するサーボモータによって雄ネジロッドを回転駆動して変位センサをシリンダブロックの被測定軸受の位置まで移動し、電磁クラッチを介して上記サーボモータによりスピンドルを回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−037148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の内周面測定装置においては、変位センサをシリンダブロックの被測定軸受の位置まで移動し回転させるための駆動機構をスピンドル内に設けているので、スピンドルの外径が比較的大きくなる。従って、クランクシャフトの軸受が比較的小径の小型エンジン等に対しては、被測定軸受内へのスピンドルの挿通が困難となり、上記の内周面測定装置による内周面測定が適用できない場合が生じる。また、測定対象物を測定装置に載置する必要があるため、製造工程内での測定には対応しにくいおそれがある。また、変位センサを移動及び回転駆動するための構成部品や制御ソフト等が必要となり、内周面測定装置の製作コストの増大を招くおそれがある。
【0005】
そこで、本発明では、小径の内周面を有する被測定軸受の内周面測定が可能であり、製造工程内で簡便に使用が可能となり、また製作コストの低廉な内周面測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明の内周面測定装置は、第1端面と第2端面とを直線状に貫通する円形状断面の貫通穴を有する測定対象物の前記貫通穴の内周面の形状を測定する内周面測定装置であって、第1の支持部材と、第2の支持部材と、測定スピンドルと、ガイド部材と、移動規制手段と、紐状部材と、距離計測手段と、回転角度検出手段とを備える。第1の支持部材は、第1端面に着脱可能に取付けられる。第2の支持部材は、第2端面に着脱可能に取付けられる。測定スピンドルは、貫通穴を挿通する筒状部と、この筒状部の両端に固定的に設けられ、貫通穴と略平行な回転軸を中心として回転自在に第1及び第2の支持部材にそれぞれ支持される第1及び第2の端部とを有し、筒状部は、回転軸に略平行に延びる内面と、この内面の一部を切欠いて回転軸に略平行に延びるスリットとを有し、第1の端部は、外部と筒状部の内部とを連通する連通孔を有し、第1及び第2の端部の少なくとも一方が外部へ露出する。ガイド部材は、測定スピンドルの筒状部の内側に配置され、回転軸に沿ってスライド移動自在にスリットと係合する係合突部を有し、この係合突部とスリットとの係合によって回転軸を中心とした回転が規制される。移動規制手段は、ガイド部材の回転軸に沿ったスライド移動を解除可能に規制する。測定スピンドルのスリット内で露出する一端側の被操作部とガイド部材から突出可能な他端側の作用部とを有した状態でガイド部材を貫通し、作用部がガイド部材から突出して測定スピンドルの筒状部の内面を押圧するロック位置に保持され、被操作部が操作されることによって作用部が筒状部の内面から離間する非ロック位置とロック位置との間を移動し、ロック位置において回転軸に沿ったガイド部材の移動を規制する。紐状部材は、長さ方向に沿って距離目盛が付され、第1の端部の連通孔との対向位置でガイド部材に固定される一端から回転軸と略平行に延びて連通孔を挿通する。距離計測手段は、ガイド部材に固定され、回転軸と略直交し且つ測定スピンドルのスリットを介して貫通穴の内周面へ指向する計測方向を有し、測定スピンドルが回転軸を中心に回転することによって内周面までの距離を内周面の周方向に沿って計測する。回転角度検出手段は、第1又は第2の支持部材の何れか一方に固定され、測定スピンドルの回転角度を検出する。
【0007】
上記構成では、測定対象物の貫通穴の内周面の形状を測定する場合には、作業者は、まず、測定スピンドルが測定対象物の貫通穴に挿通され、第1及び第2の支持部材によって回転自在に支持された際に、測定対象物の内周面の所定の測定位置と、測定スピンドル内の距離計測手段の計測位置とが一致するようにあらかじめ調整しておく。すなわち、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴に挿入する前に、移動規制手段によって距離計測手段が固定されているガイド部材の回転軸方向に沿ったスライド移動を解除し、ガイド部材を所定の計測位置まで手動で移動させて、移動規制手段によってガイド部材の移動を規制する。以上で、距離計測手段の計測位置の調整が完了する。次に、測定対象物の第1端面に第1の支持部を取付ける。続いて、測定対象物の第2端面側から、距離計測手段の計測位置を調整した測定スピンドルを測定対象物の貫通穴に挿入し、測定スピンドルの筒状部を測定対象物の貫通穴に挿通するとともに、測定スピンドルの第1の端部を第1の支持部材に支持させる。続いて、第2の支持部材を測定対象物の第2端面に取付け、測定スピンドルの第2の端部を第2の支持部材に支持させる。この支持状態で、測定スピンドルは測定対象物の貫通穴と略平行な回転軸を中心に回転が可能となる。次に、第1の支持部材又は第2の支持部材から突出している測定スピンドルの第1の端部又は第2の端部を操作し、測定スピンドルを回転軸を中心に手動により回転させる。測定スピンドルの回転に伴って距離計測手段が出力する距離計測情報を、回転角度計測手段で検出される測定スピンドルの回転角度に対応付けて内周面測定データとして取得し、真円度などの測定対象物の内周面の形状を求める。
【0008】
また、測定対象物の他の位置の内周面を測定する場合には、測定対象物の第2端面から第2の支持部を取外し、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴から一旦引き抜く。次に、移動規制手段によって、ガイド部材の移動を解除し、距離計測手段の計測位置と、測定対象物の貫通穴の他の測定位置とが一致するように、ガイド部材を手動によりスライド移動させる。距離測定手段の計測位置を、紐状部材の距離目盛によって確認した後、移動規制手段によってガイド部材の移動を規制する。続いて、測定スピンドルを、測定対象物の第2端面側から貫通穴に挿入し、第2の支持部を第2端面に取付けて測定スピンドルの第2の端部を第2の支持部で支持する。続いて、回転軸を中心として測定スピンドルを回転させ、他の位置での内周面の測定を行う。
【0009】
なお、測定スピンドルが測定対象物の貫通穴に挿通され回転自在に支持された状態で、移動規制手段によってガイド部材のスライド移動の解除及び規制が可能な場合は、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴に挿入し回転自在に支持された状態で、測定対象物の内周面の所定の測定位置と測定スピンドル内の距離計測手段の計測位置とが一致するように調整することができる。また、測定対象物の他の位置の内周面を測定する場合にも、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴から一旦引き抜くことなく、測定スピンドルが回転自在に支持された状態で、距離測定手段の計測位置と、測定対象物の貫通穴の他の測定位置とが一致するように調整して、測定を行うことができる。さらに、測定する内周面の周囲に外部と連通する開口部を有する測定対象物の内周面測定の場合には、開口部から移動規制手段を操作することによって、測定スピンドルが回転自在に支持された状態でガイド部材の移動を解除及び規制し、距離測定手段の計測位置と測定対象物の貫通穴の他の測定位置とが一致するように調整して、測定を行うことができる。
【0010】
上記構成によれば、内周面測定装置を測定対象物に装着して、測定対象物の貫通穴の内周面の形状を測定することができるので、測定対象物を製造する製造工程内等において簡便に使用することができ、測定結果を直ちに解析し評価することができる。従って、測定対象物の製造工程における製造効率の向上が期待できる。
【0011】
また、測定スピンドル内の距離計測手段の測定位置への移動及び測定スピンドルの回転は手動で行われ、測定スピンドル内には距離計測手段を外部から駆動するための機構を必要としないので、測定スピンドルの外径を小さくできる。従って、貫通穴の内径の小さい小型エンジンのシリンダブロック等の測定対象物の内周面測定への適用が可能となる。
【0012】
また、距離計測手段の移動及び測定スピンドルの回転が手動で行われるため、それらを外部駆動する場合に比較して、構成部品が少なくなり制御ソフト等も不要となる。従って、内周面測定装置の製作コストの低減を図ることができる。
【0013】
また、上記内周面測定装置の移動規制手段は、測定スピンドルのスリット内で露出する一端側の被操作部とガイド部材から突出可能な他端側の作用部とを有した状態でガイド部材を貫通し、作用部がガイド部材から突出して測定スピンドルの筒状部の内面を押圧するロック位置に保持され、被操作部が操作されることによって作用部が筒状部の内面から離間する非ロック位置とロック位置との間を移動し、ロック位置において回転軸に沿ったガイド部材の移動を規制する移動規制部材を有してもよい。
【0014】
上記構成では、距離計測手段の計測位置を調整する場合には、まず、ガイド部材を貫通してロック位置に保持されている移動規制部材の被操作部を操作し、ガイド部材から突出して測定スピンドルの内面を押圧している作用部を非ロック位置に移動してガイド部材の移動規制を解除する。次に、ガイド部材を測定スピンドルの回転軸に沿って所定の位置まで手動によりスライド移動させる。ガイド部材に固定された距離計測手段の位置は、測定スピンドルの第1の端部の連通孔を挿通している紐状部材に付された距離目盛によって確認する。次に、移動規制部材の被操作部を操作し、移動規制部材の作用部を非ロック位置からロック位置に移動して測定スピンドルの内面を押圧し、ガイド部材の回転軸に沿った方向の移動を規制し、計測位置の調製を完了する。測定対象物が測定対象の内周面の周囲に外部と連通する開口部を有している場合には、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴に挿入し回転自在に支持した後で、内周面の周囲の開口部から移動規制部材の被操作部を操作することによって、ガイド部材の移動を解除及び規制して距離測定手段の計測位置を調整し、内周面の測定を行うことができる。また、他の位置の内周面を測定する場合も、測定スピンドルが回転自在に支持状態されたままの状態で、内周面の周囲の開口部から移動規制部材の被操作部を操作することによって、ガイド部材の移動を解除及び規制して距離測定手段の計測位置を調整し、他の位置の内周面の測定を行うことができる。
【0015】
一方、測定対象物が測定対象の内周面の周囲に開口部を有していない場合には、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴に挿入する前に、移動規制部材の被操作部を操作することによって距離計測手段の計測位置を調整し、また、他の位置の内周面を測定する場合には、測定スピンドルを測定対象物の貫通穴から一旦引き抜き、移動規制部材の被操作部を操作して、距離計測手段の計測位置を他の位置の内周面の測定位置に調整すればよい。
【0016】
上記構成によれば、ガイド部材は、移動規制部材によって測定スピンドルの筒状部の内面に押圧されてロックされる。従って、距離計測手段が固定されたガイド部材と測定スピンドルとの間のガタが取除かれて距離計測手段の計測位置が安定し、距離計測精度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内周面測定装置を、比較的小径の貫通穴を有する測定対象物の内周面測定に適用でき、製造工程内での簡便な使用が可能となり、また内周面測定装置の製作コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係わる内周面測定装置の構成図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】測定スピンドルの要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。本発明の内周面測定装置1は、測定対象物である車両のエンジンのシリンダブロックを貫通する貫通穴等の内周面を測定し、真円度及び同心度を求める装置である。図1に示すように、シリンダブロック(測定対象物)2は、クランクシャフト(図示省略)を軸支する複数の軸受部64が設けられた貫通穴3を有している。軸受部64の周囲にはシリンダブロック2の外部と連通して開口する開口部65が設けられている。貫通穴3は、シリンダブロック2の第1端面2aと第2端面2bとを直線的に貫通する円形状断面を有している。
【0020】
本発明の実施形態に係わる内周面測定装置1は、第1支持部(第1の支持部)5と、第2支持部(第2の支持部)17と、測定スピンドル29と、ガイドブロック(ガイド部材)48と、ロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)61とを備えている。
【0021】
第1支持部5は、第1ベースプレート6と第1ベアリングハウジング9とを有する。第1ベースプレート6は、第1ベアリングハウジング9の外径よりも大きな内径の断面円形状の貫通穴7を有する板形状である。第1ベースプレート6の貫通穴7の周囲には複数のネジ穴8が設けられている。また、第1ベースプレート6には、複数のボルト穴(図示省略)が設けられており、これらのボルト穴と、シリンダブロック2の第1端面2aの既存の固定穴(図示省略)とをボルト締結することによって、第1ベースプレート6がシリンダブロックに着脱可能に取付けられる。
【0022】
第1ベアリングハウジング9は、両端に開口する円筒形状であり、一端部の背面部11は他端部の先端部10よりも小さな内径の開口を有し、先端部10と背面部11との間には円筒の中心軸方向に直交し中心軸から離間する方向に延びるフランジ部12が形成され、フランジ部12には複数のボルト穴15が設けられている。先端部10の外径は、第1ベースプレート6の貫通穴7の内径よりもわずかに小さく設定されている。背面部11には、背面部の外径と略同一の外径を有し、背面部11の開口よりも小さな内径の貫通穴を中央部に有するドーナツ板状のカバー13が、背面部の端面にネジ止めされている。カバー13の内面と背面部11の内周面とによって断面略円形状のベアリング支持部14が区画されている。第1ベアリングハウジング9は、先端部10を第1ベースプレートの貫通穴7に挿入して、先端部10の外周面と第1ベースプレートの貫通穴7の内周面とを嵌合させ、フランジ部12のボルト穴15と第1ベースプレート6のネジ穴8とをボルト16で締結して、第1ベースプレート6に固定される。
【0023】
第2支持部17は、第2ベースプレート18及び第2ベアリングハウジング21を有する。第2ベースプレート18は、第2ベアリングハウジング21の外径よりも大きな内径の断面円形状の貫通穴19を有する板形状である。第2ベースプレート18の貫通穴19の周囲には複数のネジ穴20が設けられている。また、第2ベースプレート18には、複数のボルト穴(図示省略)が設けられており、これらのボルト穴と、シリンダブロック2の第2端面2bの既存の固定穴(図示省略)とをボルト締結することによって、第2ベースプレート18がシリンダブロックに着脱可能に取付けられる。
【0024】
第2ベアリングハウジング21は、両端に開口する円筒形状であり、一端部の背面部23は他端部の先端部22よりも小さな内径の開口を有し、先端部22と背面部23との間には円筒の中心軸方向に直交し中心軸から離間する方向に延びるフランジ部24が形成され、フランジ部24には複数のボルト穴27が設けられている。先端部22の外径は、第2ベースプレート18の貫通穴19の内径よりもわずかに小さく設定されている。背面部23には、背面部23の外径と略同一の外径を有し、背面部23の開口よりも小さな内径の貫通穴を中央部に有するドーナツ板状のカバー25が、背面部23の端面にネジ止めされている。カバー25の内面と背面部23の内周面とによって断面略円形状のベアリング支持部26が区画されている。第2ベアリングハウジング21は、先端部22を第2ベースプレートの貫通穴19に挿入して、先端部22の外周面と第2ベースプレートの貫通穴19の内周面とを嵌合させ、フランジ部24のボルト穴27と第2ベースプレート18のネジ穴20とをボルト28で締結して、第2ベースプレート18に固定される。
【0025】
測定スピンドル29は、スピンドル部(筒状部)31と、スピンドル部31の一端に固定される第1シャフト部(第1の端部)35と、スピンドル部31の他端に固定される第2シャフト部(第2の端部)41とを有する。測定スピンドル29は、スピンドル部31がシリンダブロック2の貫通穴3に挿通され、第1シャフト部35及び第2シャフト部41がそれぞれ第1支持部5及び第2支持部17によって回転自在に支持された支持状態で、シリンダブロック2の貫通穴3に略平行な回転軸30を中心にして回転する。
【0026】
スピンドル部31は、回転軸30の方向に沿って延びる円筒状であり、回転軸30の方向に略平行な内面32を有し、内面32を切欠いたスリット33が回転軸に略平行に両端部の方向に延びている。スピンドル部31には、内面が滑らかに仕上げられたホーニングパイプ等が使用される。スリット33の回転軸30の方向の長さは、ガイドブロック2の貫通穴3の両端面までの内周面測定を可能とするため、後述のガイドブロック48の移動スペースを確保できるように、ガイドブロック2の第1端面2aと第2端面2bとの距離よりも長く設定されている。また、スピンドル部31は、スリット33の両端部よりも外の回転軸30の方向に延び、スピンドル部31の両端部の内面32には雌ネジ部34が形成されている。
【0027】
第1シャフト部35は、軸部36と軸部36よりも大きな外径を有する結合部38とが一体的に形成された円筒形状である。軸部36の外周面には略円環状のベアリング37が圧入されている。結合部38の外周面には雄ネジ部39が形成されており、雄ネジ部39をスピンドル部31の一端の雌ネジ部34とを螺合させることによって、第1シャフト部35は、スピンドル部31の一端に固定される。第2シャフト部41は、軸部42と軸部42よりも大きな外径を有する結合部45とが一体的に形成された円筒形状である。軸部42の外周面には略円環状のベアリング43が圧入されている。軸部42の中央部には、外部とスピンドル部31の内部とを連通する連通孔44が設けられている。結合部45の外周面には雄ネジ部46が形成されており、雄ネジ部46をスピンドル部31の他端の雌ネジ部34とを螺合させることによって、第2シャフト部41は、スピンドル部31の他端に固定される。
【0028】
ガイドブロック48は、測定スピンドル29のスピンドル部31の内径よりも僅かに小さい外径を有し、測定スピンドル29の回転軸30の方向に沿って延びる円柱形状である。ガイドブロック48には、回転軸30の方向の長さが、ガイドブロック48の回転軸30の方向の長さよりも短く、回転軸30と直交する幅方向の長さがスリット33の幅よりも僅かに小さい略矩形断面を有する測定ブロック49が、ガイドブロック48の中央部から、回転軸30と直交しスピンドル部31のスリット33の方向に延びて組込まれており、先端部(係合突部)50がスリット33内に進入してスリット33と係合している。測定ブロック49の先端部50がスリット33と係合することによって、回転軸を中心としたガイドブロック48の回転が規制され、ガイドブロック48はスリット33に沿って回転軸30と略平行にスライド移動することができる。
【0029】
測定ブロック49の回転軸30の方向の中央部には、変位センサ(距離計測手段)51が固定されている。変位センサ51の計測方向は、回転軸30と略直交し、スリット33を介して貫通穴3の内周面4へ指向している。測定スピンドル29がシリンダブロック2の貫通穴3に挿通されて前記支持状態にある場合、変位センサ51の接触子52が、シリンダブロック2の貫通穴3の内周面4に接触する。変位センサ51は、測定スピンドル29が回転すると、回転に伴い回転軸に略直交する方向に変化する内周面4までの距離を、内周面4に接触する接触子52の変位として検出して出力する。変位センサ51の信号ケーブル53は、変位センサ51から回転軸30の方向に延びて、第2シャフト部41の連通孔44を挿通している。
【0030】
ガイドブロック48には、回転軸30と略直交し、スピンドル部31のスリット33と対向する内面32の方向にネジ穴57が設けられている。ネジ穴57には、ガイドブロック48の移動を規制するための位置固定ボルト(移動規制部材)54が螺合している。位置固定ボルト54は、測定スピンドル29のスリット33内で露出する一端側の被操作部55と、ガイドブロック48から突出可能な他端側の作用部56とを有している。スリット33の外側から、被操作部55をドライバ(図示省略)等で回転し、作用部56を、ガイドブロック48から突出するロック位置に移動させて、スピンドル部31の内面32を押圧することによって、ガイドブロック48がスピンドル部31の内面に押付けられ、回転軸30方向に沿ったガイドブロック48の移動が規制される。また、被操作部55を反対方向に回転し、作用部56をスピンドル部31の内面32から離間する非ロック位置に移動させることによって、ガイドブロック48の移動規制が解除され、ガイドブロック48を回転軸30の方向に沿ってスライド移動させることができる。位置固定ボルト54は、通常状態では、ロック位置に保持されている。
【0031】
ガイドブロック48の中央部からは、中央部に一端を固定されたスケール(紐状部材)58が回転軸30と略平行に延びて第2シャフト部41の連通孔44を挿通している。スケール58は紐形状であり、可撓性を有し且つ伸縮の少ないガラス繊維等で形成され、長さ方向に距離目盛59が付されている。また、第2ベアリングハウジング21から外部に露出した測定スピンドル29の第2シャフト部41の外周部には、回転軸30の方向と交叉する方向に回転レバー60が取付けられている。また、第1ベアリングハウジング9の背面部11の外面には、ロータリーエンコーダ61が固定されている。ロータリーエンコーダ61は、ロータリーエンコーダ61の回転軸が測定スピンドル29の回転軸30と略同一となるように配置され、ロータリーエンコーダ61の回転軸に結合する回転盤62からロータリーエンコーダ61の回転軸に略平行に位相ピン63が立設されている。ロータリーエンコーダ61が固定された状態で、位相ピン63の先端部は、測定スピンドル29の第1シャフト部35の先端部に設けられたピン穴40に挿入される。ピン穴40の位置は、測定スピンドル29の回転軸30を中心とした回転方向の所定の角度、例えば変位センサ51の接触子52の角度を示す位置に設定されている。
【0032】
なお、内周面測定装置1の組立て段階において、測定スピンドル29の第2シャフト部41は、第2ベアリングハウジング21のベアリング支持部26に挿入され全体として一構成部品として扱われる。第2ベアリングハウジング21のカバー25の内面と第2シャフト部41のベアリング43との間には、測定スピンドル29の回転精度を確保するためにベアリング37及びベアリング43に与圧を加える略環状の波型ワッシャ47が挿入されている。また、第2ベアリングハウジング21の挿通孔44から外部に露出した第2シャフト部41の外周面に、測定スピンドルを回転させるための回転レバー60が固定されている。
【0033】
次に、内周面測定装置1のシリンダブロック2への取付けと、シリンダブロック2の貫通穴3の内周面4の測定について説明する。作業者は、まず、第1支持部5の第1ベースプレート6の貫通穴7に第1ベアリングハウジング9の先端部10を挿入し、第1ベアリングハウジング9のフランジ部12のボルト穴15と第1ベースプレート6のネジ穴8とをボルト16で締結して、第1ベアリングハウジング9を第1ベースプレート6に固定し、第1ベアリングハウジング9にロータリーエンコーダ61を取付ける。次に、シリンダブロック2の第1端面2aに設けられている既存の固定穴を利用して、第1ベースプレート6をシリンダブロック2の第1端面2aに固定する。続いて、第2ベースプレート18をシリンダブロックの第2端面2bに設けられている既存の固定穴を利用して、シリンダブロック2の第2端面2bに固定する。次に、シリンダブロック2の第2端面2b側から、測定スピンドル29をシリンダブロック2の貫通穴3に挿入し、測定スピンドル29のスピンドル部31をシリンダブロック2の貫通穴3に挿通するとともに、測定スピンドル29の第1シャフト部35の軸部36を第1支持部5の第1ベアリングハウジング9のベアリング支持部14に挿入して支持させる。第1シャフト部35を第1支持部5に挿入する際に、ロータリーエンコーダ61の位相ピン63が第1シャフト部35の先端部のピン穴40に挿入されるように測定スピンドル29又はロータリーエンコーダ61の回転角度を調整する。測定スピンドル29の第1シャフト部35を第1支持部5に支持させた後で、シリンダブロック2の第2端面2bに固定した第2ベースプレート18の貫通穴19に、測定スピンドル29の第2シャフト部41にあらかじめ一体的に組付けられた第2ベアリングハウジング21の先端部22を挿入し、第2ベアリングハウジング21のフランジ部24のボルト穴27と第2ベースプレート18のネジ穴20とをボルト28で締結して、第2ベアリングハウジング21を第2ベースプレート18に固定する。以上で、内周面測定装置1のシリンダブロック2への取付けが完了し、測定スピンドル29は、第1支持部5及び第2支持部17によって回転自在に支持され、シリンダブロック2の貫通穴3と略平行な回転軸を中心に回転が可能となる。
【0034】
次に、貫通穴3の内周面4の測定位置と、測定スピンドル29内の測定ブロック49に固定された変位センサ51の計測位置とが一致するように回転軸30に沿ったガイドブロック48の位置を調整する。すなわち、シリンダブロック2の開口部65からドライバ等の工具を挿入し、通常状態でロック位置に保持されているガイドブロック48の位置固定ボルト54の被操作部55を回転し、位置固定ボルト54の作用部56を非ロック位置に移動させてガイドブロック48の移動規制を解除する。次に、ガイドブロック48を、貫通穴3の内周面4の測定位置に対応する計測位置へ、測定スピンドル29の回転軸30に沿って手動によりスライド移動させる。測定ブロック49に固定された変位センサ51の計測位置は、測定スピンドル29の第2シャフト部41の連通孔44を挿通して外部に露出しているスケール58の距離目盛59によって確認する。次に、位置固定ボルト54の被操作部55を反対方向に回転し、位置固定ボルト54の作用部56を非ロック位置からロック位置に移動して測定スピンドル29の内面32を押圧し、回転軸30に沿った方向のガイドブロック48の移動を規制する。以上で、変位センサ51の位置の調整が完了する。次に、回転レバー60を操作して、測定スピンドル29を、測定スピンドル29の回転軸30を中心に1回転させる。測定スピンドル29の回転に伴って変位センサ51が出力する変位計測データと、ロータリーエンコーダ61が出力する測定スピンドル29の回転角度データとはコンピュータ等(図示省略)に入力されて処理される。
【0035】
続いて、シリンダブロック2の貫通穴3の他の測定位置の内周面4を測定する場合には、シリンダブロック2の開口部65からドライバ等の工具を挿入し、ガイドブロック48の位置固定ボルト54を回転させて、位置固定ボルト54の作用部56をロック位置から非ロック位置に移動してガイドブロック48の移動規制を解除する。続いて、変位センサ51の計測位置と、シリンダブロック2の貫通穴3の他の測定位置とが一致するように、ガイドブロック48を手動によりスライド移動させる。移動後の変位センサ51の計測位置は、スケール58の距離目盛59で確認する。次に、位置固定ボルト54をロック位置に移動し、ガイドブロック48の移動を規制する。続いて、測定スピンドル29を回転軸30を中心として回転させ、他の測定位置における内周面4の測定を行う。以上を、シリンダブロックの貫通穴の必要な測定位置において繰り返す。コンピュータ等は、変位計測データと回転角度計測データとを関連付けて記憶し、記憶したデータから貫通穴3の貫通方向の各測定位置における真円度及び、各測定位置間における同心度を求める。
【0036】
本実施形態によれば、変位センサ51が固定されるガイドブロック48は、測定スピンドル29の内面32を手動によりスライド移動するので、測定スピンドル29の内部に変位センサ51を駆動するための特別な機構を内蔵させる必要がなく、測定スピンドル29の外径を比較的小さくすることができる。従って、内周面測定装置1を、貫通穴の内径の小さい小型エンジンのシリンダブロック等の測定対象物の内周面測定へ適用することができる。
【0037】
また、内周面測定装置1は、シリンダブロック等の測定対象物に着脱可能に取付けて、測定対象物の貫通穴の内周面の形状を測定することができるので、測定対象物を製造する製造工程内等において簡便に使用することができ、測定結果を直ちに解析し評価することができる。従って、測定対象物の製造工程における製造効率の向上が期待できる。
【0038】
また、変位センサ51の回転軸30の方向に沿った移動及び測定スピンドル29の回転を手動により行うので、変位センサを外部駆動する場合に比較して複雑な制御機構を必要とせず、構成部品が少なく、制御ソフト等も不要となる。従って、内周面測定装置1の製作コストの低減を図ることができる。
【0039】
また、ガイドブロック48は、位置固定ボルト54の操作によって測定スピンドル29の内面32に押圧されてロックされる。従って、計測ブロック49を介して変位センサ51が固定されたガイドブロック48と測定スピンドル29の内面32との間のガタが取除かれて変位センサ51の計測位置が安定し、変位の計測精度をより向上させることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、測定スピンドル29の回転角度をロータリーエンコーダ61で測定したが、ロータリーエンコーダ61の代りに、所定の測定角度を表示した角度表示盤などを使用して、内周面を測定する測定角度を限定して内周面測定を行ってもよい。
【0041】
また、本実施形態では、変位センサ51として接触型の変位センサを使用したが、非接触型の変位センサを使用してもよい。
【0042】
また、ガイドブロック48の回転軸30に沿った方向の移動規制は位置固定ボルト54の作用部56による内面32の押圧に限定されず、例えば、バネ等の付勢力によって押圧してもよい。
【0043】
また、内周面の周囲に外部と連通する開口部を有しない測定対象物の内周面を測定する場合には、測定スピンドル29を測定対象物の貫通穴に挿入する前に、ガイドブロック48の位置固定ボルト54を操作することによって、変位センサ51の計測位置を内周面の測定位置とが一致するようあらかじめ調整し、また、他の位置の内周面を測定する場合には、測定スピンドル29を測定対象物の貫通穴から一旦引き抜き、ガイドブロック48の位置固定ボルト54を操作して、変位センサ51の計測位置を他の位置の内周面の測定位置に調整すればよい。
【0044】
また、ガイドブロック48のスライド移動を解除可能に規制する構造を、測定スピンドル29が測定対象物の貫通穴に挿通され回転自在に支持された状態で外部から操作可能な場所に設けてもよい。例えば、上記位置固定ボルト45に代えて、スケール58のうち連通孔44を挿通して外部に露出した部分の移動を規制する保持状態とその移動を許容する解除状態とに設定可能なスケール保持部を、外部から操作可能な第2シャフト部41の外面に設ける。この場合、スケール保持部を解除状態に設定し、スケール58を上下に移動させることによって、回転軸30に沿ったガイドブロック48の上下位置を変更した後、スケール保持部を保持状態に設定すればよい。このように、スケール58を利用してガイドブロック48の回転軸方向へのスライド移動を規制及び解除することにより、測定対象物が内周面の周囲に外部と連通する開口部を有するか否かにかかわらず、測定スピンドル29が測定対象物の貫通穴に挿通され回転自在に支持された状態で、変位センサ51の計測位置を調整することができる。
【0045】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、貫通穴の内周面測定装置として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 内周面測定装置
2 シリンダブロック(測定対象物)
2a 第1端面
2b 第2端面
3 貫通穴
4 内周面
5 第1支持部(第1の支持部)
6 第1ベースプレート
9 第1ベアリングハウジング
17 第2支持部(第2の支持部)
18 第2ベースプレート
21 第2ベアリングハウジング
29 測定スピンドル
30 回転軸
31 スピンドル部(筒状部)
32 内面
33 スリット
35 第1シャフト部(第1の端部)
41 第2シャフト部(第2の端部)
44 挿通孔
48 ガイドブロック(ガイド部材)
50 先端部(係合突部)
51 変位センサ(距離計測手段)
54 位置固定ボルト(移動規制部材)
55 被操作部
56 作用部
58 スケール(紐状部材)
59 距離目盛
61 ロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面と第2端面とを直線状に貫通する円形状断面の貫通穴を有する測定対象物の前記貫通穴の内周面の形状を測定する内周面測定装置であって、
前記第1端面に着脱可能に取付けられる第1の支持部材と、
前記第2端面に着脱可能に取付けられる第2の支持部材と、
前記貫通穴を挿通する筒状部と、この筒状部の両端に固定的に設けられ、前記貫通穴と略平行な回転軸を中心として回転自在に前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ支持される第1及び第2の端部とを有し、前記筒状部は、前記回転軸に略平行に延びる内面と、この内面の一部を切欠いて前記回転軸に略平行に延びるスリットとを有し、前記第1の端部は、外部と前記筒状部の内部とを連通する連通孔を有し、前記第1及び第2の端部の少なくとも一方が外部へ露出する測定スピンドルと、
前記測定スピンドルの筒状部の内側に配置され、前記回転軸に沿ってスライド移動自在に前記スリットと係合する係合突部を有し、この係合突部と前記スリットとの係合によって前記回転軸を中心とした回転が規制されるガイド部材と、
前記ガイド部材の前記回転軸に沿ったスライド移動を解除可能に規制する移動規制手段と、
長さ方向に沿って距離目盛が付され、前記第1の端部の連通孔との対向位置で前記ガイド部材に固定される一端から前記回転軸と略平行に延びて前記連通孔を挿通する紐状部材と、
前記ガイド部材に固定され、前記回転軸と略直交し且つ前記測定スピンドルのスリットを介して前記貫通穴の内周面へ指向する計測方向を有し、前記測定スピンドルが前記回転軸を中心に回転することによって前記内周面までの距離を該内周面の周方向に沿って計測する距離計測手段と、
前記第1又は第2の支持部材の何れか一方に固定され、前記測定スピンドルの回転角度を検出する回転角度検出手段と、を備える
ことを特徴とする内周面測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内周面測定装置であって、
前記移動規制手段は、前記測定スピンドルのスリット内で露出する一端側の被操作部と前記ガイド部材から突出可能な他端側の作用部とを有した状態で前記ガイド部材を貫通し、前記作用部が前記ガイド部材から突出して前記測定スピンドルの筒状部の内面を押圧するロック位置に保持され、前記被操作部が操作されることによって前記作用部が前記筒状部の内面から離間する非ロック位置と前記ロック位置との間を移動し、前記ロック位置において前記回転軸に沿った前記ガイド部材の移動を規制する移動規制部材を有する
ことを特徴とする内周面測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233857(P2012−233857A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104492(P2011−104492)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】