説明

内燃機関のバルブタイミング制御装置

【課題】相対回転角度を拡大しつつ、ベーンの受圧面積を十分に確保することができる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供する。
【解決手段】ハウジング本体10に設けられた4つのシュー10a〜10dとカムシャフトに固定されたベーンロータ9のロータ15に設けられた4つのベーン16a〜16dとの間に遅角油圧室11及び進角油圧室12が隔成され、前記ロータの隣接する各ベーン間に、小径部15c、15dと大径部15e、15fを設けると共に、小径部の外周面に対向する一方のシューの先端部を、大径部の外周面に対向する他方のシューの先端部よりも内方へ突出形成し、各大径部にロックピン27〜29を設ける一方、スプロケット1の内側面に前記各ロックピンが係脱するロック穴24〜26を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気弁や排気弁のバルブタイミングを運転状態に応じて可変制御する内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関のバルブタイミング制御装置としては、種々提供されており、その一つとして以下の特許文献1に記載されたベーン式のものが知られている。
【0003】
このバルブタイミング制御装置は、ハウジング内に回転自在に収容されたベーンロータの大径なロータの外周に5つのベーンが設けられていると共に、前記ロータとフロントプレートとの間にロック機構が設けられている。このロック機構は、前記ロータに2つのロックピンが摺動自在に保持されている一方、前記フロントプレートに前記ロックピンの先端部が係脱する2つのロック穴が形成されている。
【0004】
このように、前記各ロックピンをベーンではなくロータに設けることによって、前記各ベーンの周方向幅の肉厚を薄く形成してスプロケット(ハウジング)とカムシャフトとの相対回転角度を拡大するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−537120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のバルブタイミング制御装置は、前記2つのロックピンの収容スペースを確保するために、前記ロータの外径の全体を大きく形成している。このため、ハウジングの外径も大きくしなければ前記ベーンの径方向の長さが自ずと制限されて、ベーンの遅角側、進角側の各油圧室内の油圧を受ける受圧面積が小さくなってしまう。この結果、前記相対回転位相の変換応答性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、相対回転角度を拡大しつつ、ベーンの受圧面積を十分に確保することができる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ベーンロータのロータに大径部と小径部を設け、ハウジング本体内周の各シューの先端部を、前記大径部と小径部のそれぞれの外径に対応して突出させると共に、ロック機構のロック部材を、前記ロータの大径部に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、相対回転角度を拡大しつつベーンの受圧面積を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るバルブタイミング制御装置を示す全体構成図である。
【図2】本実施形態のバルブタイミング制御装置の要部の分解斜視図である。
【図3】本実施形態に供されるベーンロータが最遅角位相の位置に回転した状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図4】同ベーンロータが中間位相の回転位置に保持された状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図5】同ベーンロータが最進角位相の位置に回転した状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図6】本実施形態のベーンロータが最遅角寄りに位置する場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図7】同ベーンロータが交番トルクによってやや進角側に回転した場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図8】同ベーンロータがさらに進角側に回転した場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図9】同ベーンロータがさらに進角側に回転した場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図10】同ベーンロータがさらに進角側に回転した場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図11】同ベーンロータがさらに進角側に回転した場合の各ロックピンの作動を示す展開断面図である。
【図12】第2実施形態に供されるベーンロータが中間位相の回転位置に保持された状態を示す断面図である。
【図13】第3実施形態に供されるベーンロータが中間位相の回転位置に保持された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置を、吸気弁側に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
前記バルブタイミング制御装置は、図1〜図3に示すように、機関のクランクシャフトによりタイミングチェーンを介して回転駆動される駆動回転体であるスプロケット1と、機関前後方向に沿って配置されて、前記スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた吸気側のカムシャフト2と、前記スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者の相対回動位相を変換する位相変更機構3と、該位相変更機構3を最進角位相と最遅角位相の間の中間位相位置でロックさせるロック機構4と、前記位相変更機構3とロック機構4にそれぞれ油圧を給排して別個独立に作動させる油圧回路5と、を備えている。
【0013】
前記スプロケット1は、後述するハウジングの後端開口を閉塞するリアカバーとして構成され、ほぼ肉厚円板状に形成されて、外周に前記タイミングチェーンが巻回された歯車部1aを有していると共に、中央には前記カムシャフト2の一端部2aの外周に回転自在に支持される支持孔6が貫通形成されている。また、スプロケット1は、外周側の周方向等間隔位置には、4つの雌ねじ孔1bが形成されている。
【0014】
前記カムシャフト2は、図外のシリンダヘッドにカム軸受を介して回転自在に支持され、外周面には機関弁である吸気弁を開作動させる複数のカムが軸方向の位置に一体に固定されていると共に、一端部の内部軸心方向に雌ねじ孔2bが形成されている。
【0015】
前記位相変更機構3は、図1〜図3に示すように、前記スプロケット1に軸方向から一体的に設けられたハウジング7と、前記カムシャフト2の一端部の雌ねじ孔2bに螺着するカムボルト8を介して固定され、前記ハウジング7内に回転自在に収容された従動回転体であるベーンロータ9と、前記ハウジング7内の作動室に形成されて、該ハウジング7の内周面に内方(中心)に向かって突設された後述する4つのシューと前記ベーンロータ9とによって隔成されたそれぞれ4つの遅角油圧室11及び進角油圧室12と、を備えている。
【0016】
前記ハウジング7は、円筒状のハウジング本体10と、プレス成形によって形成され、前記ハウジング本体10の前端開口を閉塞するフロントプレート13と、後端開口を閉塞するリアカバーとしての前記スプロケット1と、から構成されている。
【0017】
前記ハウジング本体10は、焼結金属によって一体に形成され、内周面の円周方向ほぼ等間隔位置に4つの前記各シュー10a〜10dが一体に突設されていると共に、該各シュー10a〜10dの外周側にはボルト挿通孔10eがそれぞれ軸方向に貫通形成されている。
【0018】
前記フロントプレート13は、金属製の薄板円盤状に形成されて、中央に貫通孔13aが形成されていると共に、外周側の周方向の等間隔位置に4つのボルト挿通孔13bが貫通形成されている。
【0019】
そして、前記スプロケット1とハウジング本体10及びフロントプレート13は、前記各ボルト挿通孔13b、10eを挿通して前記各雌ねじ孔1bに螺着する4本のボルト14によって共締め固定されている。
【0020】
前記ベーンロータ9は、金属材によって一体に形成され、カムシャフト2の一端部に前記カムボルト8によって固定されたロータ15と、該ロータ15の外周面に円周方向のほぼ90°等間隔位置に放射状に突設された4つのベーン16a〜16dとから構成されている。
【0021】
前記ロータ15は、軸方向に比較的肉厚な異形円板状に形成され、ほぼ中央位置にボルト挿通孔15aが貫通形成されていると共に、前端に前記カムボルト8の頭部が着座する円形凹状の着座面15bが形成されている。
【0022】
そして、このロータ15は、前記隣接する第1ベーン16aと第4ベーン16dとの間、並びに第2ベーン16bと第3ベーン16cとの間の各部位が、基準円となる一対の第1、第2小径部15c、15dとして形成されていると共に、前記隣接する第1ベーン16aと第2ベーン16bとの間、並びに第3ベーン16cと第4ベーン16dとの間の部位が、前記小径部15c、15dより大径な一対の第1、第2大径部15e、15fとして形成されている。
【0023】
第1,第2小径部15c、15dは、互いに円周方向で約180°の角度位置、つまり径方向の反対側に位置し、それぞれの外周面が同一曲率半径の円弧状に形成されている。
【0024】
一方、第1,第2大径部15e、15fは、同じく互いに円周方向で約180°の角度位置、つまり径方向の反対側に位置し、外周面が小径部15c、15dの外径よりも一回り大きく形成されて、同一の曲率半径の円弧状に形成されている。
【0025】
したがって、前記第1、第2小径部15c、15dの外周面に対向する前記一対の第1、第2シュー10a、10bは、各先端部が内方(ハウジング中心方向)へ長く突出して側面ほぼ長方形状に形成されている。これに対して、第1、第2大径部15e、15fの外周面に対向する前記一対の第3,第4シュー10c、10dは、各先端部が第1、第1シュー10a、10bよりも短く形成されて、全体が側面ほぼ円弧状に形成されている。
【0026】
また、前記第1〜第4シュー10a〜10dの各先端縁には、前記第1,第2小径部15c、15dと第1、第2大径部15e、15fの各外周面に摺接するほぼシール部材17aがそれぞれ嵌着固定されている。この各シール部材17aは、ほぼコ字形状に形成されて、内側に設けられた図外の板ばねによって前記第1、第2小径部15c、15dと第1、第2大径部15e、15fの各外周面方向へ付勢されている。
【0027】
前記各ベーン16a〜16dは、その全体の突出長さがほぼ同一に設定されてと共に、円周方向の巾がほぼ同一の比較的薄肉なプレート状に形成されて、それぞれが各シュー10a〜10dの間に配置されている。また、前記各ベーン16a〜16dの先端部には、ハウジング本体10の内周面に摺接するほぼコ字形状のシール部材17bがそれぞれ設けられている。
【0028】
前記各シュー10a〜10dと各ベーン16a〜16dの各シール部材17a、17bによって、前記遅角油圧室11と進角油圧室12との間を常時シールするようになっている。
【0029】
また、前記ベーンロータ9は、図3に示すように、遅角側へ相対回転すると第1ベーン16aの一側面が対向する前記第1シュー10aの対向側面に当接して最大遅角側の回転位置が規制され、図5に示すように、進角側へ相対回転すると第1ベーン16aの他側面が対向する他の第3シュー10cの対向側面に当接して最大進角側の回転位置が規制されるようになっている。
【0030】
このとき、他のベーン16b〜16dは、両側面が円周方向から対向する各シュー10の対向面に当接せずに離間状態にある。したがって、ベーンロータ9とシュー10との当接精度が向上すると共に、後述する各油圧室11,12への油圧の供給速度が速くなってベーンロータ9の正逆回転応答性が高くなる。
【0031】
前記各ベーン16a〜16dの正逆回転方向の両側面と各シュー10の両側面との間に、前述した各遅角油圧室11と各進角油圧室12が隔成されている。この各遅角油圧室11と各進角油圧室12は、前記ロータ15の各小径部15c、15dに位置する各油圧室11a,12aの容積が各大径部15e、15fに位置する各油圧室11b,12bの容積よりも大きくなっている。このため、前記小径部15c、15d側に位置する前記ベーン16a〜16dの各一側面16e〜16hの受圧面積が、各大径部15e、15f側に位置する各ベーン10a〜10dの各側面よりも大きくなっている。
【0032】
また、前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12とは、前記ロータ15の内部にそれぞれ形成された第1連通孔11cと第2連通孔12cを介して後述する油圧回路5にそれぞれに連通している。
【0033】
前記ロック機構4は、ハウジング7に対してベーンロータ9を最遅角側の回転位置(図3の位置)と最進角側の回転位置(図5の位置)との間の中間回転位相位置(図4の位置)に保持するものである。
【0034】
すなわち、図2、図6〜図11に示すように、前記スプロケット1の内側面1cの所定位置に形成された当接部である第1〜第3ロック穴24、25、26と、前記ロータ15の各大径部15e、15fの内部周方向の3箇所に設けられて、前記各ロック穴24〜26にそれぞれ係脱する3つのロック部材である第1〜3ロックピン27,28、29と、該各ロックピン27〜29の前記各ロック穴24〜26に対する係合を解除させるロック通路20と、から主として構成されている。
【0035】
前記第1ロック穴24は、図2、図6〜図11に示すように、前記一方の大径部15e側に前記スプロケット1の円周方向に延びた円弧長溝状に形成されていると共に、スプロケット1の内側面1cの前記ベーンロータ9の最遅角側の回転位置よりも進角側に寄った中間位置に形成されている。また、この第1ロック穴24は、その底面が遅角側から進角側に亘って低くなる3段の階段状に形成されて、これがロック案内溝として機能するようになっている。
【0036】
つまり、第1ロック穴24は、スプロケット1の内側面1cを最上段として、これより一段ずつ低くなる第1底面24a、第2底面24bと順次低くなる階段状に形成され、遅角側の各内側面は垂直に立ち上がった壁面になっていると共に、第2底面24bの進角側の内側縁24cも垂直に立ち上がった壁面になっている。
【0037】
前記第1ロックピン27は、先端部27aの側縁が前記第2底面24bから立ち上がった前記内側縁24cから僅かに離間した状態で他の第2、第3ロックピン28,29の作用によってそれ以上の進角方向への移動が規制されるようになっている(図11参照)。
【0038】
前記第2ロック穴25は、第1ロック穴24よりも短い円周方向に沿った長溝状に形成され、スプロケット1の内側面1cを最上段として、これより一段ずつ低くなる第1底面25a、第2底面25bと順次低くなる階段状に形成され、遅角側の各内側面は垂直に立ち上がった壁面になっていると共に、第2底面25bの進角側の内側縁25cも垂直に立ち上がった壁面になっている。
【0039】
前記第2底面25bは、円周方向に沿って進角側へ僅かに長く形成されて、ここに係合した状態で前記第2ロックピン28が図10、図11に示すように、進角方向へ僅かに移動可能になっている。
【0040】
前記第3ロック穴26は、第3ロックピン29の小径な先端部29aの外径よりも大径な円形状に形成されて、係入した前記先端部29aが円周方向へ僅かに移動可能になっている。また、第3ロック穴26は、スプロケット1の内側面1cの前記ベーンロータ9の最遅角側の回転位置よりも進角側に寄った中間位置に形成されている。
【0041】
さらに、この第3ロック穴26は、底面26aの深さは第1、第2ロック穴24,25の第2底面24b、25bとほぼ同じ深さに設定されている。したがって、第3ロックピン29は、ベーンロータ15の進角方向の回転に伴って先端部29aが前記第3ロック穴26に係入して底面26aに当接すると、先端部29aの側縁が第3ロック穴26の周方向内側縁26bに当接した時点でベーンロータ9の遅角方向への移動を規制するようになっている。
【0042】
そして、第1〜第3ロック穴24〜26の相対的な形成位置の関係は、第1ロックピン27が第1ロック穴24の第1底面24aに係入している段階(図7)と第2底面24bに係入した初期に段階(図8)では、第2、第3ロックピン28、29は、各先端部28a、29aがスプロケット1の内側面1cに当接している。
【0043】
その後、ベーンロータ9の進角側への僅かな回転に伴い第1ロックピン27が第2ロック穴24の第2底面24b上を摺動してほぼ中央に位置した時点(図9)で、第2ロックピン28の先端部28aが第2ロック穴25の第1底面25aに当接する。
【0044】
さらに、第1ロックピン27の先端部27aが第2底面24bを摺接しながら進角側へ移動すると、図10に示すように、第2ロックピン28の先端部28aが第2ロック穴25の第1底面25aに当接する。このとき、第1ロックピン27は、第2底面24b上を進角側に向かって摺動する。
【0045】
その後、ベーンロータ9の進角側へのさらなる回転に伴い第1、第2ロックピン27,28が進角側へ移動すると、図11に示すように、第3ロックピン29が第3ロック穴26内に係入するように配置形成されている。このとき、第3ロックピン29と第2ロックピン28の対向側縁が、各ロック穴25,26の対向する側端縁25c、26bに当接して、この間を挟持するように形成されている。
【0046】
要するに、ベーンロータ9が所定の遅角側位置から進角側位置まで相対回転するにしたがって前記第1ロックピン27が第1底面24a、第2底面24bに順次段階的に当接係合し、この第2底面24bに係入しながら進角側に移動して、この途中から第2ロックピン28が第2ロック穴25に係入して第1,第2底面に順次段階的に当接係合する。その後、第3ロックピン29が第3ロック穴26に順次係合する。これによって、ベーンロータ9は、全体として4段階のラチェット作用によって遅角方向への回転を規制されながら進角方向へ相対回転して、最終的に最遅角位相と最進角位相との間の中間位相位置に保持されるようになっている。
【0047】
前記第1ロックピン27は、図1〜図6などに示すように、前記ロータ15の第1大径部15eの内部軸方向に貫通形成された第1ピン孔31a内に摺動自在に配置され、外径が段差径状に形成されて、小径の前記先端部27aと、該先端部27aより後部側に位置する中空状の大径部位27bと、先端部27aと大径部位27bとの間の段差受圧面27cと、によって一体に形成されている。前記先端部27aは、先端面が前記第1ロック穴24の各底面24a、24bに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
【0048】
また、この第1ロックピン27は、大径部位27bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝底面とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第1スプリング36のばね力によって第1ロック穴24に係合する方向へ付勢されている。
【0049】
また、この第1ロックピン27は、前記段差受圧面27cに前記ロータ15内に形成された第1解除用受圧室32から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第1ロックピン27が前記第1スプリング36のばね力に抗して後退移動して第1ロック穴24との係合が解除されるようになっている。
【0050】
前記第2ロックピン28は、ロータ15の内部軸方向に貫通形成された第2ピン孔31b内に摺動自在に配置され、第1ロックピン27と同じく、外径が段差径状に形成されて、小径の先端部28aと、該先端部28aの後側に位置する中空状の大径部位27bと、先端部28aと大径部位28bとの間に形成された段差受圧面28cとによって一体に形成されている。前記先端部28aは、先端面が前記第2ロック穴25の各底面25a、25bに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
【0051】
また、この第2ロックピン28は、大径部位28bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝底面とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第2スプリング37のばね力によって第2ロック穴25に係合する方向へ付勢されている。
【0052】
また、この第2ロックピン28は、前記段差受圧面28cに前記ロータ15内に形成された第2解除用受圧室33から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第2ロックピン28が前記第2スプリング37のばね力に抗して後退移動して第2ロック穴25との係合が解除されるようになっている。
【0053】
前記第3ロックピン29は、ロータ15の内部軸方向に貫通形成された第3ピン孔31c内に摺動自在に配置され、第1、第2ロックピン27、28と同じく、小径の前記先端部29aと、該先端部29aの後側に位置する中空状の大径部位29bと、先端部29aと大径部位29bとの間に形成された段差受圧面29cと、によって一体に形成されている。前記先端部29aは、先端面が前記第3ロック穴26の底面26aに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
【0054】
また、この第3ロックピン29は、大径部位29bの内部の凹溝底面とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第3スプリング38のばね力によって第3ロック穴26に係合する方向へ付勢されている。
【0055】
また、この第3ロックピン29は、前記段差受圧面29cに前記ロータ15内に形成された第3解除用受圧室34から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第3ロックピン29が前記第3スプリング38のばね力に抗して後退移動して第3ロック穴26との係合が解除されるようになっている。
【0056】
なお、前記第1〜第3ピン孔31a〜31cの後端側には、各ロックピン27、28,29の良好な摺動性を確保するために呼吸孔39を介して大気に連通している。
【0057】
前記油圧回路5は、図1に示すように、前記各遅角油圧室11に対して第1連通路11cを介して油圧を給排する遅角通路18と、各進角油圧室12に対して第2連通路12cを介して油圧を給排する進角通路19と、前記各第1、第2解除用受圧室32〜34に対して通路部20aを介してそれぞれ油圧を供給、排出するロック通路20と、前記各通路18,19に作動油を選択的に供給すると共に、ロック通路20に作動油を供給する流体圧供給源であるオイルポンプ40と、機関運転状態に応じて前記遅角通路18と進角通路19の流路を切り換えると共に、前記ロック通路20に対する作動油の給排を切り換える制御弁である単一の電磁切換弁41と、を備えている。
【0058】
前記遅角通路18と進角通路19とは、それぞれの一端部が前記電磁切換弁41の図外の各ポートに接続されている一方、他端側が前記カムシャフト2の内部に形成された通路部18a、19aと前記第1,第2連通路11c、12cとを介して前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ連通している。
【0059】
前記ロック通路20は、図1、図2に示すように、一端側が電磁切換弁41のロックポートに接続されている一方、他端側の通路部20aが前記カムシャフト2の内部径方向から軸方向に折曲されて、前記ロータ15内に径方向へ分岐形成された分岐通路孔を介して前記第1〜第3解除用受圧室32〜34にそれぞれ連通している。
【0060】
前記オイルポンプ40は、機関のクランクシャフトによって回転駆動するトロコイドポンプなどの一般的なものであって、アウター、インナーロータの回転によってオイルパン42内から吸入通路を介して吸入された作動油が吐出通路40aを介して吐出されて、その一部がメインオイルギャラリーM/Gから内燃機関の各摺動部などに供給されると共に、他が前記電磁切換弁41側に供給されるようになっている。なお、吐出通路40aの下流側には、図外の濾過フィルタが設けられていると共に、該吐出通路40aから吐出された過剰な作動油を、ドレン通路43を介してオイルパン42に戻して適正な流量に制御する図外の流量制御弁が設けられている。
【0061】
前記電磁切換弁41は、図1に示すように、6ポート6位置の比例型弁であって、ほぼ円筒状の軸方向に比較的長いバルブボディと、該バルブボディ内に軸方向へ摺動自在に設けられたスプール弁体と、バルブボディの内部一端側に設けられて、スプール弁体を一方向へ付勢する付勢部材であるバルブスプリングと、バルブボディの一端部に設けられて、前記スプール弁体をバルブスプリングのばね力に抗して他方向へ移動させる電磁ソレノイドと、から主として構成されている。
【0062】
そして、この電磁切換弁41は、電子コントローラ34の制御電流と前記バルブスプリングとの相対的な圧力によって、前記スプール弁体を前後方向の6つのポジジョンに移動させて、オイルポンプ40の吐出通路40aと前記いずれか一方の油通路18,19と連通させると同時に、他方の油通路18,19とドレン通路43とを連通させるようになっている。また、前記ロック通路20と吐出通路40aあるいはドレン通路43とを選択的に連通させるようになっている。
【0063】
このように、前記スプール弁体を、軸方向の6つポジションに移動させることによって、各ポートを選択的に切り換えてタイミングスプロケット1に対するベーンロータ9の相対回転角度を変化させると共に、各ロックピン27〜29の各ロック穴24〜26へのロックとロック解除を選択的に行ってベーンロータ9の自由な回転の許容と自由な回転を規制するようになっている。
【0064】
前記電子コントローラ34は、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出すると共に、前述したように、前記電磁切換弁41の電磁コイルに制御パルス電流を出力して前記スプール弁体の移動位置を制御し、前記各ポートを選択的に切換制御するようになっている。
【0065】
なお、図2及び図3中、50はスプロケット1の内側面の外周側に取り付けられた位置決め用ピンであって、この位置決め用ピン50は、前記ハウジング本体10の第1シュー10aの外周面に形成された位置決め用溝51に嵌入して、組付時のスプロケット1に対するハウジング本体10の位置決めを行うようになっている。
〔本実施形態の作動〕
以下、本実施形態のバルブタイミング制御装置の具体的な作動を説明する。
【0066】
まず、車両の通常走行後にイグニッションスイッチをオフ操作して機関を停止した場合には、電磁切換弁41への通電も遮断されることから、スプール弁体は、バルブスプリングのばね力で、一方向の最大位置に移動する(第1ポジション)。これによって、吐出通路40aに対して遅角通路18及び進角通路19の両方を連通させると共に、ロック通路20とドレン通路43を連通させる。
【0067】
また、オイルポンプ40の駆動も停止されることから、いずれかの油圧室11,12や各第1〜第3解除用受圧室32〜34への作動油の供給が停止される。
【0068】
そして、この機関停止前のアイドリング回転時には、各遅角油圧室11に作動油圧が供給されてベーンロータ9が図3示す最遅角側の回転位置になっている。この状態で、イグニッションスイッチがオフ操作されると、機関の停止直前にカムシャフト2に作用する正負の交番トルクが発生する。特に、負のトルクによってベーンロータ9が遅角側から進角側へ回転して中間位相位置になると、第1〜第3ロックピン27〜29が、各スプリング36〜38のばね力で進出移動して各先端部27a〜29aが対応する第1〜第3ロック穴24〜26に係合する。これによって、ベーンロータ9は、図2に示す最進角と最遅角の間の中間位相位置に保持される。
【0069】
すなわち、図6に位置するベーンロータ9が、前記カムシャフト2に作用する負の交番トルクによって僅かに進角側に回転して前記第1ロックピン27の先端部27aが、図7に示すように、第1ロック穴24の第1底面24aに当接係合する。この時点で、ベーンロータ9に正の交番トルクが作用して遅角側へ回転しようとするが、第1ロックピン27の先端部27aの側縁が第1底面24aの立ち上がり段差面に当接して遅角側への回転が規制される。
【0070】
その後、負のトルクにしたがってベーンロータ9が進角側へ回転するに伴い第1ロックピン27が、図8に示すように、順次階段を下りるように移動して第2底面24bに当接係合する共に、第2底面24b上を進角方向へラチェット作用を受けながら中間位置まで移動する。そうすると、第2ロックピン28の先端部28aが、図9に示すように、第2ロック穴25の第1底面25aに当接係合する。
【0071】
その後、ベーンロータ9がさらに進角側へ回転すると、図10に示すように、第1ロックピン27が内側縁24c近傍に移動すると共に、第2ロックピン28が第2ロック穴25の第2底面25bにラチェット作用を受けながら当接係合する。
【0072】
さらに、ベーンロータ9が負のトルクによってさらに進角側へ移動すると、図11に示すように、第1、第2ロックピン27,28の同方向への移動と共に、第3ロックピン29が第3ロック穴26に当接係合すると共に、前述したように、該第3ロックピン29と第2ロックピン28によって各ロック穴25,26の対向内側縁25c、26bの間を挟持するように配置される。これによって、ベーンロータ9は、図4に示しように、最遅角と最進角の中間位置に安定かつ確実に保持される。
【0073】
その後、機関を始動するために、イグニッションスイッチをオン操作すると、その直後の初爆(クランキング開始)によってオイルポンプ40が駆動し、その吐出油圧が、遅角通路18と進角通路19を介して各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ供給される。一方、前記ロック通路20とドレン通路43は連通された状態になっていることから、各ロックピン27〜29は、各スプリング36〜38のばね力によって各ロック穴24〜26に係合した状態を維持している。
【0074】
また、前記電磁切換弁41は、油圧などの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出して電子コントローラ34によって制御されているため、オイルポンプ40の吐出油圧の不安定なアイドリング運転時は各ロックピン27〜29の係合状態を維持する。
【0075】
続いて、例えば機関低回転低負荷域や高回転高負荷域に移行する直前には、電子コントローラ34から電磁切換弁41に制御電流が出力されて、スプール弁体が、バルブスプリングのばね力に抗して僅かに他方向へ移動する(第6ポジション)。これによって、吐出通路40aとロック通路20が連通すると共に、吐出通路40aに対する遅角通路18と進角通路19との連通が維持される。
【0076】
したがって、ロック通路20から通路部20aを介して第1〜第3解除用受圧室32〜34に作動油(油圧)が供給されるので、各ロックピン27〜29は、各スプリング36〜38のばね力に抗して後退移動して先端部27a〜29aが各ロック穴24〜26から抜け出してそれぞれの係合が解除される。したがって、ベーンロータ9の自由な正逆回転が許容されると共に、両油圧室11,12に作動油が供給される。
【0077】
ここで、前記いずれか一方の油圧室11,12のみに油圧を供給した場合は、ベーンロータ9がいずれか一方に回転しようとして、ロータ15内の第1〜第3ピン孔31a〜31cと第1〜第3ロック穴24〜26との間に発生した剪断力を第1〜第3ロックピン27〜29が受けていわゆる食い込み現象が発生して、速やかな係合解除ができないおそれがある。
【0078】
また、両油圧室11,12のいずれにも油圧が供給されない場合は、前記交番トルクによってベーンロータ9がばたついてベーン16aとハウジング本体10のシュー10aとの衝突打音が発生するおそれがある。
【0079】
これに対して本実施形態では、両方の油圧室11,12に油圧を供給していることから、前記各ロックピン27〜29の各ロック穴24〜26への食い込み現象やばたつき等を十分に抑制できる。
【0080】
その後、例えば機関低回転低負荷域に移行した場合は、電磁切換弁41にさらに大きな制御電流が出力されて、スプール弁体が、バルブスプリングのばね力に抗してさらに他方側に移動し(第3ポジション)、吐出通路40aとロック通路20及び遅角通路18の連通状態を維持すると共に、進角通路19とドレン通路43を連通させる。
【0081】
これによって、各ロックピン27〜29は、各ロック穴24〜26から抜け出た状態が維持される一方、進角油圧室12の油圧が排出されて低圧になる一方、遅角油圧室11が高圧になっていることから、ベーンロータ9をハウジング7に対して最遅角側に回転させる。
【0082】
よって、バルブオーバーラップが小さくなって筒内の残留ガスが減少して燃焼効率が向上し、機関回転の安定化と燃費の向上が図れる。
【0083】
その後、例えば機関高回転高負荷域に移行した場合は、電磁切換弁41に小さな制御電流が供給されて、スプール弁体が、一方向へ移動する(第2ポジション)。これによって、遅角通路18とドレン通路43が連通されると共に、吐出通路40aに対してロック通路20が連通状態を維持されていると共に、進角通路19が連通する。
【0084】
したがって、各ロックピン27〜29の係合が解除された状態になっていると共に、遅角油圧室11が低圧になる一方、進角油圧室12が高圧になる。このため、ベーンロータ9は、図5に示すように、ハウジング11に対して最進角側に回転する。これにより、カムシャフト2は、スプロケット1に対して最進角の相対回転位相に変換される。
【0085】
これによって、吸気弁と排気弁のバルブオーバーラップが大きくなって、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
【0086】
また、前記機関低回転低負荷域や高回転高負荷域からアイドリング運転に移行した場合は、電子コントローラ34から電磁切換弁41への制御電流の通電が遮断されて、スプール弁体52が、図12に示すように、バルブスプリングのばね力によって最大一方向に移動して(第1ポジション)、ロック通路20とドレン通路43を連通させると共に、吐出通路40aを遅角通路18と進角通路19の両方に連通させる。これによって、両油圧室11,12には、ほぼ均一圧の油圧が作用する。
【0087】
このため、ベーンロータ9は、たとえ遅角側位置にあった場合でもカムシャフト2に作用する前記交番トルクによって進角側に回転する。これによって、各ロックピン27〜29が、各スプリング36〜38のばね力で進出移動して、前述したラチェット作用を得ながらロック穴24〜26に係合する。このため、ベーンロータ9は、図4に示す最進角と最遅角の間の中間位相位置にロック保持される。
【0088】
また、機関を停止する際も、前述したように、イグニッションスイッチをオフ操作すると、各ロックピン27〜29は各ロック穴24〜26から抜け出すことなく係合状態を維持する。
【0089】
さらに、所定の運転域が継続されている場合は、電磁切換弁41に通電されて、スプール弁体が軸方向のほぼ中央位置に移動する(第4ポジション)と、吐出通路40aやドレン通路43に対する前記遅角通路18と進角通路19の連通が遮断されると共に、吐出通路40aとロック通路20が連通される。
【0090】
これによって、各遅角油圧室11と各進角油圧室12の内部にそれぞれ作動油が保持された状態になると共に、各ロックピン27〜29が、各ロック穴24〜26から抜け出してロック解除状態が維持される。
【0091】
したがって、ベーンロータ9が所望の回転位置に保持されて、カムシャフト2もハウジング7に対して所望の相対回転位置に保持されることから、吸気弁の所定のバルブタイミングに保持される。
【0092】
このように、機関の運転状態に応じて、電子コントローラ34が電磁切換弁41に所定の通電量で通電、あるいは通電を遮断して前記スプール弁体の軸方向の移動を制御して、前記第1ポジション〜第4ポジションの位置に制御する。これによって、前記位相変換機構と3とロック機構4を制御してスプロケット1に対するカムシャフト2の最適相対回転位置に制御することから、バルブタイミングの制御精度の向上が図れる。
【0093】
さらに、機関がエンストなどで異常停止し、あるいは通常の機関停止した後に、再始動した場合において、通電された電磁切換弁41のスプール弁体が、移動中に作動油に混入した金属粉などのコンタミを前記スプール弁体と各ポートの孔縁との間などに噛み込んでロックし、流路に切り換えができなくなった場合には、以下の作動を行う。
【0094】
すなわち、前記スプール弁体の移動不能状態によって、ベーンロータ9の回転位相制御ができなくなることから、この異常状態をカムシャフト2の回転位置から検出した前記電子コントローラ34が、前記電磁切換弁41の電磁ソレノイドに最大の通電量の制御電流が出力される。これによって、スプール弁体は、他方向へ最大かつ強い力で移動して(第5ポジション)、前記コンタミを切断しつつ遅角通路18と進角通路19及びロック通路20の全てをドレン通路43に連通させる。これによって、各油圧室11,12や各受圧室32〜34の作動油がオイルパン42に排出される。
【0095】
以上のように、本実施形態では、ベーンロータ9のロータ15に、第1ピン孔31a〜31cを介して第1〜第3ロックピン27〜29を設けたため、各ベーン16a〜16dの肉厚を十分に薄くすることができる。これによって、ベーンロータ9のハウジング7に対する相対回転角度を十分に拡大することが可能になる。
【0096】
しかも、ベーンロータ9のロータ15を、従来技術のように、ロックピンを保持するためにロータ全体を大径に形成するのではなく、第1大径部15eと第2大径部15fを部分的に形成し、ここにそれぞれ各ロックピン27〜29を設けるようにしたため、各小径部15c、15d領域に位置するそれぞれ2つの遅角油圧室11a、11aと進角油圧室12a、12aの各容積を、各大径部15e、15f領域に位置するそれぞれ2つの遅角油圧室11b、11bと進角油圧室12b、12bの各容積よりも大きく確保できる。
【0097】
したがって、前記各大容積の遅角油圧室11a、11aと進角油圧室12a、12aに臨む各ベーン16a〜16dの各側面16e〜16hの受圧面積が、これと反対側の各側面よりも十分に大きくなる。このため、制御時におけるベーンロータ9の相対回転速度が高くなって、吸気弁のバルブタイミング制御の応答性が十分に向上する。
【0098】
また、前記ロータ15の2つの小径部15c、15dと2つの大径部15e、15fを、それぞれ径方向の反対位置に形成したことから、ベーンロータ9全体の重量バランスを取ることができる。したがって、ベーンロータ9の常時円滑な相対回転作動が得られる。
【0099】
さらに、前記両大径部15e、15fは、円周方向の120°角度より大きな約180°角度位置に形成されていることから、大径部15e、15fが加工機械に固定するためのチャックによって把持することができ、かかる加工作業が容易になる。
【0100】
また、本実施形態では、各油圧室11,12への油圧制御用とロック解除受圧室32〜34への油圧制御用の2つの機能を単一の電磁切換弁41によって行うようにしたため、機関本体へのレイアウトの自由度が向上すると共に、コストの低減化が図れる。
【0101】
さらに、前記ロック機構4によってベーンロータ9を中間回転位相位置への保持性が向上すると共に、各ロック穴24、25の階段状の各底面24a、24b、25a、25bによって第1ロックピン27と第2ロックピン28は必ず進角側の各底面24b、25b方向のみにラチェット式に案内移動されることから、かかる案内作用の確実性と安定性を担保できる。
【0102】
前記各ロック穴24〜26の階段状の各底面24a、24b、25a、25b、26aによる5段階の長いラチェット作用によって、ベーンロータ9が最遅角側寄りに回転移動していたとしても、中間位置へ安定かつ確実に案内することが可能になる。
【0103】
前記各受圧室32〜34に作用する油圧を、前記各油圧室11,12の油圧を用いるのではないことから、各油圧室11,12の油圧を用いる場合に比較して、前記各受圧室32〜34に対する油圧の供給応答性が良好になり、各ロックピン27〜29の後退移動の応答性が向上する。また、各油圧室11,12から各受圧室32〜34間のシール機構が不要になる。
【0104】
また、本実施形態では、ロック機構4を、第1ロックピン27が係合する第1、第2底面24a、24a、並びに第2ロックピン28が係合する第1、第2底面25a、25b、さらに第3ロックピン29が係合する底面26aとの3つに分けて形成したことによって、各ロック穴24、25、26が形成される前記スプロケット1の肉厚を小さくすることができる。つまり、例えば、ロックピンを単一とし、体一のロック穴の階段状の各底面を連続的に形成する場合は、この階段状の高さを確保するために前記スプロケット1の肉厚を厚くしなければならないが、前述のように、3つに分けることによってスプロケット1の肉厚を小さくできるので、バルブタイミング制御装置の軸方向の長さを短くでき、レイアウトの自由度が向上する。
〔第2実施形態〕
図12は本実施形態の第2実施形態を示し、ロック機構4の構造を変更したもので、前記第1大径部15eと第1ピン孔31a、第1ロックピン27及び第1ロック穴24を廃止して、第2大径部15fのみとし、第2、第3ピン孔31b、31cと第2、第3ロックピン28,29及び第1、第3ロック穴25,26を存置させたものである。そして、前記第1大径部15eに代えて第3小径部15gが形成されている。
【0105】
したがって、第1実施形態のように、イグニッションスイッチをオフした直後において、ベーンロータ9が最遅角側寄りに相対回転した位置からは前述のようなラチェット作用は得られないが、それより僅かながらも進角側の位置では、前記交番トルクの負のトルクによってベーンロータ9が進角側へ僅かに回転すると、図9の第1ロックピン27側を除く作動状態を示すように、前記第2ロックピン28が、第2ロック穴25の第1底面25aに係入する。
【0106】
その後、前記負のトルクによって、図10の第1ロックピン27側を除く作動状態を示すように、第2底面25bに段階的に係入する。
【0107】
続いて、第2ロックピン28が第2底面25b上を進角側に移動すると、図11に示すように、第3ロックピン29が第3ロック穴26内に係入する。これによって、第2ロックピン28と第3ロックピン29によって、第2ロック穴25と第3ロック穴26との間を挟持する状態で保持して、ベーンロータ9を中間位相の回転位置にロック保持する。
【0108】
他の構成は第1実施形態と同様であるから、第1実施形態と同じく各ベーン16a〜16dの肉厚を薄くできるので、ベーンロータ9のハウジング7に対する相対回転角度を十分に拡大することが可能になる。
【0109】
しかも、この第2実施形態では、第1、第2小径部15c、15dの他に第3小径部15gの領域に位置するそれぞれ3つの遅角油圧室11a、11a、11bと進角油圧室12a、12a、12bの各容積を、大径部15e領域に位置するそれぞれ1つの遅角油圧室11bと進角油圧室12bの各容積よりも大きく確保できる。
【0110】
したがって、前記各大容積の遅角油圧室11a、11aと進角油圧室12a、12aに臨む各ベーン16a〜16dの各側面16e〜16hの受圧面積の他に、第3ベーン16dの他側面16iの受圧面積も大きくなる。このため、第1実施形態に比較して、制御時におけるベーンロータ9の相対回転速度をさらに高くすることができることか、吸気弁のバルブタイミング制御の応答性を一層向上させることができる。
〔第3実施形態〕
図13は第3実施形態を示し、この実施形態では、第1実施形態を基本構成として、第1実施形態におけるロータ15の第1小径部15cの部位に、第1、第2大径部15e、15fとほぼ同一曲率半径の第3大径部15hが形成されている一方、スプロケット1の内側面に第4ロック穴23が形成されている。
【0111】
前記第3大径部15hには、内部に第4ロックピン30を摺動自在に保持する第4ピン孔31dが形成されており、前記第4ロックピン30は、第4スプリング35のばね力によって前記第4ロック穴23方向に付勢されている。
【0112】
前記第4ロック穴23は、第1ロック穴24と同じく円周方向へ長溝状に形成されて、階段状の第1底面23aと第2底面23bが形成されている。
【0113】
そして、前記第4ロックピン30の第4ロック穴23に対する作動は、第1実施形態における第1ロックピン27と第1ロック穴24の作動と同じであって、機関停止直後におけるベーンロータ9の交番トルクによる進角側への回転に伴って、第4ロックピン30の先端部が第4ロック穴23の第1底面23aから第2底面23bへの移動に伴うラチェット作用によって安定かつ確実に進角側へ移動させることができる。
【0114】
他の構成は第1実施形態のものと同様な構成になっている。したがって、基本的に第1実施形態と同様な作用効果が得られるが、特に、この実施形態では第4ロックピン30と第4ロック穴23を設けたため、ベーンロータ9を中間回転位置により確実にロックすることが可能になる。
【0115】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、バルブタイミング制御装置を吸気側ばかりか排気側に適用することも可能である。
【0116】
また、前記ベーンロータ9のベーンの数を、4枚以下あるいは4枚以上のものに適用することも可能である。
【0117】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ロータに前記ロック部材が設けられ、前記ハウジングにロック穴が設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項b〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記小径部を除く位置に配置された前記ロック部材とロック穴を複数有し、全てのロック部材が前記ロック穴に係入されることによって、前記ハウジングとベーンロータの相対回転が規制されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項c〕請求項bに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記大径部は対向して複数設けられ、複数の前記ロック部材のうち少なくとも1つは、他の前記ロック部材と異なる大径部に配置されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【0118】
この発明によれば、ベーンロータ全体の重量バランスが良好になって、ベーンロータの円滑な回転が得られる。
〔請求項d〕請求項bに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ベーンロータは、最進角位置と最遅角位置の間の位置に規制されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項e〕請求項dに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ロック穴の少なくとも1つは、長溝状に形成されており、底面にはロック位置に向けて段差が形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項f〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ロータの大径部は、120°以上の角度範囲で設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項g〕請求項fに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ロータにおける大径部は、加工機械に固定するためのチャックによって把持されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【符号の説明】
【0119】
1…スプロケット
2…カムシャフト
3…位相変更機構
4…ロック機構
5…油圧回路
7…ハウジング
9…ベーンロータ
10…ハウジング本体
10a〜10d…シュー
11…遅角油圧室
12…進角油圧室
15…ロータ
15c、15d、15g…小径部
15e、15f、15h…大径部
16a〜16c…ベーン
17a…シュー側のシール部材
17b…ベーン側のシール部材
18…遅角通路
19…進角通路
20…ロック通路
20a…通路部
24…第1ロック穴
24a・24b…第1、第2底面
25…第2ロック穴
25a・25b…第1、第2底面
26…第3ロック穴
27…第1ロックピン
28…第2ロックピン
29…第3ロックピン
36・37・38…スプリング(付勢部材)
31a・31b・31c…第1、第2、第3ピン孔
32・33・34…第1、第2、第3解除用受圧室
34…電子コントローラ
40…オイルポンプ
40a…吐出通路
41…電磁切換弁
43…ドレン通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面から内方へ突設された複数のシューを有する筒状のハウジングと、
カムシャフトに固定されるロータと、該ロータの外周部に径方向に沿って延設され、前記各シューの間で進角油圧室と遅角油圧室に隔成する複数のベーンと、を有するベーンロータと、
前記ロータまたはハウジングの一方に軸方向へ摺動自在に設けられたロック部材と、
前記ロータまたはハウジングの他方に設けられ、前記ロック部材が係合して前記ハウジングとベーンロータとの相対回転を規制するロック穴と、を備え、
前記ロータの前記隣接するベーン間に大径部と小径部を設けると共に、前記小径部の外面が対向する前記一方のシューの先端部を、前記大径部の外面が対向する前記他方のシューの先端部よりも内方へ突出形成し、
前記ロータに設けられる前記ロック部材またはロック穴を、前記小径部を除く位置に設けたことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
内周面から内方へ突設された複数のシューを有する筒状のハウジングと、
カムシャフトに固定されるロータと、該ロータの外周部に径方向に沿って延設され、前記各シューの間で進角油圧室と遅角油圧室に隔成する複数のベーンと、を有するベーンロータと、
前記ロータに軸方向へ摺動自在に設けられたロック部材と、
前記ハウジングの前記ロック部材と対向する位置に設けられ、前記ロック部材が係合されることによって前記ハウジングとベーンロータとの相対回転を規制するロック穴と、
前記シューの先端部に設けられて、前記ロータの外周面に摺接するシール部材と、
を備え、
前記ロータに大径部と小径部を設けると共に、
前記各シューの先端部を、前記シール部材が前記大径部と小径部の外周面に摺接できるように前記大径部と小径部のそれぞれの外径に対応して突出させ、
前記ロック部材を、前記ロータの大径部に設けたことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
内周面から内方へ突設された複数のシューを有する筒状のハウジングと、
カムシャフトに固定されるロータと、該ロータの外周部に径方向に沿って延設され、前記各シューの間で進角油圧室と遅角油圧室に隔成する複数のベーンと、を有するベーンロータと、
前記ロータに軸方向へ摺動自在に設けられたロック部材と、
前記ハウジングに設けられ、前記ロック部材が係合して前記ハウジングとベーンロータとの相対回転を規制する当接部と、を備え、
前記各油圧室は、前記ベーンに対する受圧面積が大きな油圧室と、前記ベーンに対する受圧面積が小さな油圧室とが存在し、
前記ロック部材は、前記ロータの前記受圧面積が小さくなる油圧室側の内周側に配置されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−87643(P2013−87643A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226561(P2011−226561)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】