説明

内燃機関の主軸受

【課題】潤滑油枝管の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができるようにすること。
【解決手段】主軸受キャップ9を板厚方向に貫通する第1の油路15の中心軸線と、台板サドル12を板厚方向に貫通する第2の油路16の中心軸線とが、0度から45度で交差するとともに、第2の油路16の入口部に接続される潤滑油枝管20の一端部における中心軸線と、この一端部を除く潤滑油枝管20の中心軸線とが、0度から45度で交差しており、前記一端部を除く潤滑油枝管20が、台板の幅方向に沿って直線状に延びるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、舶用等の大型ディーゼルエンジンを構成する主軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
舶用等の大型ディーゼルエンジンを構成する主軸受としては、例えば、特許文献1の図1に開示されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2878128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の図1に開示された主軸受3に潤滑油を供給する潤滑油枝管は、主軸受キャップ4の上方で直角に曲げられているとともに、隣接して配置されたクランク軸のクランクアームと干渉しないように、シリンダ間を仕切る中央仕切り板を這うようにして配置する必要がある。そのため、潤滑油枝管の曲がりが多くなり、潤滑油枝管の配管長(管路長)が長くなって、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失が多くなってしまうという問題点があった。また、潤滑油枝管の配管長が長くなることにより、内燃機関の製造コストが高騰してしまうという問題点もあった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、潤滑油枝管の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができる内燃機関の主軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る内燃機関の主軸受は、台板の長手方向と直交して水平方向に延びる台板の幅方向における中央部に、台板の長手方向に肉厚になるようにして設けられた台板サドルと、前記台板サドルの底部内周面に装着されて、クランク軸の軸受面の下半部を軸受け支持する主軸受下メタルと、前記台板サドルの底部上方を覆うようにして配置される主軸受キャップと、前記主軸受キャップの内周面に装着されて、前記軸受面の上半部を軸受け支持する主軸受上メタルとを備えた内燃機関の主軸受であって、前記主軸受キャップを板厚方向に貫通する第1の油路が、前記台板の幅方向に沿って直線状に設けられ、この第1の油路と連通するとともに、前記台板サドルを板厚方向に貫通する第2の油路が、前記台板の幅方向に沿って直線状に設けられており、この第2の油路の入口部に、前記第1の油路および第2の油路を介して、前記主軸受上メタルに設けられた油溝に潤滑油を供給する潤滑油枝管の一端部が接続されていて、前記第1の油路の中心軸線と前記第2の油路の中心軸線とが、0度から45度で交差するとともに、前記潤滑油枝管の一端部における中心軸線と、前記一端部を除く前記潤滑油枝管の中心軸線とが、0度から45度で交差しており、前記一端部を除く前記潤滑油枝管が、前記台板の幅方向に沿って直線状に延びている。
【0007】
本発明に係る内燃機関の主軸受によれば、潤滑油主管から潤滑油枝管に流入した潤滑油は、潤滑油枝管の一端部を通過する際、わずかに(0度〜45度程度)曲げられ、第2の油路から第1の油路に流入する際、わずかに(0度〜45度程度)曲げられるだけで主軸受上メタルの貫通穴に到達し、油溝を介してクランク軸の軸受面と、主軸受上メタルおよび主軸受下メタルとの間に供給されるようになっている。
これにより、潤滑油枝管の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができる。
【0008】
上記内燃機関の主軸受において、前記潤滑油枝管が、隣接して配置された前記クランク軸のクランクアームの側面が描く軌跡によって形成される平面内に入り込まないように配置されているとさらに好適である。
【0009】
このような内燃機関の主軸受によれば、潤滑油枝管が、隣接して配置されたクランク軸のクランクアームと干渉しない場所に設けられることになるので、内燃機関の大型化(ロングストローク化)に伴うクランクアームの大型化にも対応することができる。
【0010】
上記内燃機関の主軸受において、前記主軸受キャップの一側面に、前記第1の油路の入口を取り囲むようにして配置されるシール材(例えば、Oリング)を受け入れる周溝が設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような内燃機関の主軸受によれば、主軸受キャップの一側面と、主軸受キャップの一側面に対向する台板サドルの立設部の内側面との間から流れ出ようとする(漏れ出ようとする)潤滑油が、シール材によって閉じこめられる(封止される)ことになるので、例えば、主軸受キャップの一側面と、台板サドルの立設部の内側面との間に、わずかな(例えば、0.01mm〜0.82mm程度の)隙間がある場合にも対応することができる。
【0012】
本発明に係る内燃機関は、上記いずれかの内燃機関の主軸受を具備している。
【0013】
本発明に係る内燃機関によれば、潤滑油枝管の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができる内燃機関の主軸受を具備しており、これにより、クランク軸を軸受け支持する主軸受に、十分な圧力を持った潤滑油を供給することができ、内燃機関の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る内燃機関の主軸受によれば、潤滑油枝管の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る内燃機関の主軸受を具備した舶用等の大型ディーゼルエンジンの構造例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の主軸受の斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の主軸受を上方から見た図であって、要部を拡大して示した横断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の主軸受を上方から見た図であって、要部を拡大して示した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の主軸受について、図1から図3を参照しながら説明する。図1は本発明に係る内燃機関の主軸受を具備した舶用等の大型ディーゼルエンジンの構造例を示す縦断面図、図2は本発明に係る内燃機関の主軸受の斜視図、図3は本実施形態に係る内燃機関の主軸受を上方から見た図であって、要部を拡大して示した横断面図である。
【0017】
図1に示すように、大型ディーゼルエンジン(クロスヘッド型ディーゼルエンジン:内燃機関)1は、大きく分けて3つの部分からなる。1つ目はシリンダ(図示せず)およびピストン(図示せず)等を収納するシリンダジャケット2、2つ目はピストンの爆発による力をクランク軸(図示せず)に伝導する連接棒(図示せず)等を収納する架構3、3つ目は得られた動力をプロペラ(図示せず)等に伝えるクランク軸4を収納する台板5である。これらの台板5、架構3、およびシリンダジャケット2は、順次積み重ねられ、シリンダジャケット2の上面から台板5の底面までエンジン全体を鉛直方向に貫通するタイボルト(図示せず)により締め付けられて組み立てられる。
【0018】
台板5には、クランク軸4を軸受け支持する主軸受6が、台板5の長手方向(クランク軸4の軸方向)に沿って複数個(例えば、7シリンダ機関の場合、9個)設けられている。主軸受6はそれぞれ、主軸受下メタル7と、主軸受上メタル8と、主軸受キャップ(主軸受押え金物)9と、主軸受キャップボルト(主軸受押え金物取付ボルト)10と、取付ナット11とを備えている。
【0019】
図1または図2に示すように、主軸受下メタル7は、台板5の長手方向と直交して水平方向に延びる台板5の幅方向における中央部に、長手方向に肉厚になるようにして設けられた台板サドル(肉厚部)12の底部内周面に装着されている。一方、主軸受上メタル8は、台板サドル12の底部上方を覆うようにして、台板サドル12に立てられた(立設された)複数本(本実施形態では4本)の主軸受キャップボルト10と、主軸受キャップボルト10に設けられた雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する取付ナット11とにより台板サドル12に固定される主軸受キャップ9の内周面に装着されている。
【0020】
図3に示すように、主軸受上メタル8の内周面8aには、断面視円形状を呈し、主軸受上メタル8の板厚方向に貫通する一つの貫通穴13と連通する一本の油溝14が設けられている。油溝14は、主軸受上メタル8の幅方向(主軸受上メタル8の板厚方向と直交する方向)における中央部に、周方向に沿うようにして設けられている。また、貫通穴13の一端に位置する開口(入口)は、後述する油路15の一端に位置する開口(出口)と合致するようにして形成されている。
【0021】
主軸受キャップ9には、断面視円形状を呈し、主軸受キャップ9の板厚方向に貫通して貫通穴13および油溝14と連通する一本の(第1の)油路15が、台板5の幅方向に沿って設けられている。油路15の一端に位置する開口(出口)は、貫通穴13の一端に位置する開口(入口)と合致するようにして形成されており、油路15の他端に位置する開口(入口)は、後述する油路16の一端に位置する開口(出口)と合致するようにして形成されている。
【0022】
台板サドル12には、断面視円形状を呈し、台板サドル12の板厚方向に貫通して油路15と連通する一本の(第2の)油路16が、台板5の幅方向に沿って設けられている。油路16の一端に位置する開口(出口)は、油路15の他端に位置する開口(入口)と合致するようにして形成されており、油路16の他端部(入口部)には、ニップル(ねじ込み形管継手)17の一端部(出口部)外周面に形成された雄ねじ部18と螺合する雌ねじ部19が形成されている。
【0023】
ニップル17の他端部(入口部)外周面には、潤滑油枝管20の一端部(出口部)に設けられたナット21の雌ねじ部(図示せず)と螺合する雄ねじ部(図示せず)が設けられている。ニップル17の中心部には、油路16と(略)同じ流路断面積を有する(第3の)油路22が、ニップル17の長手方向(軸方向)に沿って設けられている。
【0024】
潤滑油枝管20は、ニップル17の他端部に接続される一端部が、隣接して配置されたクランク軸4のクランクアーム23と干渉しないように、すなわち、ニップル17の側に位置するクランクアーム23の端面(側面)23aが描く軌跡によって形成される平面内に入り込まないように、ニップル17との接続部近傍で曲げられており、この曲げられた部分から潤滑油主管24(図1または図2参照)に接続される他端部(入口部)までの部分が、台板5の幅方向に沿って外方に延びる配管である。
潤滑油主管24は、台板5の一側方を、台板5の長手方向に沿って延びる配管であり、潤滑油主管24には、図示しない潤滑油供給源(例えば、船舶の機関室内に配置された潤滑油タンク)から潤滑油が所定の圧力をもって送られてくる(圧送されてくる)ようになっている。
なお、図3中の符号25は、前述したタイボルトが貫通する穴であり、図3中の符号26は、前述した主軸受キャップボルト10が貫通する穴である。
【0025】
本実施形態に係る内燃機関の主軸受6によれば、潤滑油主管24から潤滑油枝管20に流入した潤滑油は、潤滑油枝管20の一端部を通過する際、わずかに(0度〜45度程度)曲げられ、油路16から油路15に流入する際、わずかに(0度〜45度程度)曲げられるだけで主軸受上メタル8の貫通穴13に到達し、油溝14を介してクランク軸4の軸受面(図示せず)と、主軸受上メタル8および主軸受下メタル7との間に供給されるようになっている。
これにより、潤滑油枝管20の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管20の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管20内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができる。
【0026】
また、本実施形態に係る内燃機関の主軸受6によれば、潤滑油枝管20が、隣接して配置されたクランク軸4のクランクアーム23と干渉しない場所に設けられることになるので、内燃機関の大型化(ロングストローク化)に伴うクランクアーム23の大型化にも対応することができる。
【0027】
本発明の第2実施形態に係る内燃機関の主軸受について、図4を参照しながら説明する。図4は本実施形態に係る内燃機関の主軸受を上方から見た図であって、要部を拡大して示した横断面図である。
本実施形態に係る内燃機関の主軸受31は、主軸受キャップ9の代わりに、主軸受キャップ32が設けられているという点で前述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0028】
図4に示すように、主軸受キャップ32の一側面(ニップル17が取り付けられた台板サドル12の立設部12a(図1または図2参照)の内側面12bと対向する面)32aには、油路15の入口を取り囲むようにして配置されるシール材33を受け入れる周溝(凹所)34が設けられている。周溝34は、深さ(台板サドル12の板厚方向の長さ)がシール材33の厚み(高さ)よりも小さく、幅(台板サドル12の幅方向の長さ)がシール材33の厚み(幅)と同じか、あるいはシール材33の厚みよりも若干大きくなるように形成されている。
【0029】
本実施形態に係る内燃機関の主軸受31によれば、台板サドル12の立設部12aの内側面12bと、主軸受キャップ32の一側面32aとの間から流れ出ようとする(漏れ出ようとする)潤滑油が、シール材33によって閉じこめられる(封止される)ことになるので、例えば、台板サドル12の立設部12aの内側面12bと、主軸受キャップ32の一側面32aとの間に、わずかな(例えば、0.01mm〜0.82mm程度の)隙間がある場合にも対応することができる。
その他の作用効果は、前述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0030】
また、本発明に係る大型ディーゼルエンジン1によれば、潤滑油枝管20の曲がりを極力少なくすることができ、潤滑油枝管20の配管長を極力短くすることができて、潤滑油枝管20内を流れる潤滑油の圧力損失を低減させることができる内燃機関の主軸受6,31を具備しているので、クランク軸4を軸受け支持する主軸受6,31に、十分な圧力を持った潤滑油を供給することができ、大型ディーゼルエンジン1の信頼性を向上させることができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更・変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 大型ディーゼルエンジン(内燃機関)
4 クランク軸
5 台板
6 主軸受
7 主軸受下メタル
8 主軸受上メタル
9 主軸受キャップ
12 台板サドル
14 油溝
15 (第1の)油路
16 (第2の)油路
20 潤滑油枝管
23 クランクアーム
23a 側面
31 主軸受
32 主軸受キャップ
32a 一側面
33 シール材
34 周溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台板の長手方向と直交して水平方向に延びる台板の幅方向における中央部に、台板の長手方向に肉厚になるようにして設けられた台板サドルと、
前記台板サドルの底部内周面に装着されて、クランク軸の軸受面の下半部を軸受け支持する主軸受下メタルと、
前記台板サドルの底部上方を覆うようにして配置される主軸受キャップと、
前記主軸受キャップの内周面に装着されて、前記軸受面の上半部を軸受け支持する主軸受上メタルとを備えた内燃機関の主軸受であって、
前記主軸受キャップを板厚方向に貫通する第1の油路が、前記台板の幅方向に沿って直線状に設けられ、この第1の油路と連通するとともに、前記台板サドルを板厚方向に貫通する第2の油路が、前記台板の幅方向に沿って直線状に設けられており、この第2の油路の入口部に、前記第1の油路および第2の油路を介して、前記主軸受上メタルに設けられた油溝に潤滑油を供給する潤滑油枝管の一端部が接続されていて、
前記第1の油路の中心軸線と前記第2の油路の中心軸線とが、0度から45度で交差するとともに、
前記潤滑油枝管の一端部における中心軸線と、前記一端部を除く前記潤滑油枝管の中心軸線とが、0度から45度で交差しており、
前記一端部を除く前記潤滑油枝管が、前記台板の幅方向に沿って直線状に延びていることを特徴とする内燃機関の主軸受。
【請求項2】
前記潤滑油枝管が、隣接して配置された前記クランク軸のクランクアームの側面が描く軌跡によって形成される平面内に入り込まないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の主軸受。
【請求項3】
前記主軸受キャップの一側面に、前記第1の油路の入口を取り囲むようにして配置されるシール材を受け入れる周溝が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の主軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の主軸受を具備してなることを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174456(P2011−174456A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41087(P2010−41087)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】