説明

内燃機関の制御装置、およびそれを搭載する車両

【課題】低温環境下において、アイドル運転時における振動の増加を抑制する。
【解決手段】車両100に搭載されるエンジン160は、エンジン160に接続される負荷の状態などに応じて、自動的に駆動と停止とを切換えることが可能である。ECU300は、低温環境下におけるエンジン160の放置時間TIMをカウントし、エンジン160の始動直後のアイドル回転速度を、放置時間TIMが予め定められた基準値αを下回る場合は第1のアイドル回転速度NE_idleに設定する一方で、放置時間TIMが基準値αを上回る場合は、第1のアイドル回転速度NE_idleよりも大きい第2のアイドル回転速度NE_idle#に設定する。また、ECU300は、第2のアイドル回転速度が設定されている場合は、エンジン160の自動停止の実行条件が成立しても、エンジン160の自動停止の実行を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置およびそれを搭載する車両に関し、より特定的には、内燃機関のアイドル回転速度の設定についての制御に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの内燃機関において、エンジン始動後に負荷に駆動力を伝達しない状態で自立運転をする、いわゆるアイドル運転におけるエンジンの回転速度(以下、「アイドル回転速度」とも称する。)は、燃料消費量を低減するために、自立運転が可能な範囲で、できるだけ低回転速度とすることが望ましい。
【0003】
一方で、エンジンが運転されている間は、エンジンの動作によって振動が生じるが、アイドル運転時の振動を低減するために、アイドル回転速度は、エンジンを含む駆動力伝達系に共振を生じさせる回転速度(以下、「共振回転速度」とも称する。)よりも高くなるように設定される。
【0004】
特開2006−152877号公報(特許文献1)は、搭載されるエンジンをモータによりクランキングして始動させるハイブリッド車両において、エンジンをクランキングする際に、エンジン回転速度の上昇が抑制されることによって、クランキング時のエンジン回転速度が、駆動力伝達系の共振回転速度と一致する可能性があるときには、エンジンの回転速度が共振回転速度よりも低くなるようにモータを駆動する構成を開示する。
【0005】
特開2006−152877号公報(特許文献1)に開示された構成によれば、エンジン始動の際のクランキング時に、フリクショントルクの増大やバッテリ出力の低下によるモータの出力低下などによって、エンジン回転速度が共振回転速度に一致する可能性がある場合であっても、駆動力伝達系の共振を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−152877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、エンジンのアイドル回転速度は、アイドル運転時の振動を低減するために、エンジンからの振動が伝わる駆動力伝達系の共振周波数に対応する回転速度(共振回転速度)と異なる値に設定される。
【0008】
しかしながら、たとえば、寒冷地などにおいて、低温(たとえば、−15℃以下)の環境下で長期間エンジンが停止されたままの状態で車両が継続されると、駆動力伝達系の共振回転速度が変化する場合がある。そのため、車両が低温環境下でエンジンが停止された状態が継続された場合には、駆動力伝達系の共振回転速度がアイドル回転速度に近づくことにより、アイドル運転時の振動が大きくなるおそれがある。
【0009】
一方で、近年、燃費向上を目的として、信号待ちなどで車両が停止した場合にエンジンを自動的に停止する、アイドルストップ機能やエコノミーランニング機能を有する車両が存在する。また、エンジンおよび電動機を搭載するハイブリッド車両においては、エンジンを停止した状態で電動機からの駆動力のみを用いて走行するEV(Electric Vehicle)走行が可能なものがあり、このようなハイブリッド車両においても、走行行程中にエンジンが自動的に停止される場合がある。
【0010】
このように、走行行程中にエンジンが自動的に停止する機能を有する車両においては、上述のように車両が低温環境下で長期間放置されたような場合に、エンジンが頻繁に停止されると、エンジンからの熱や振動といったエネルギが駆動力伝達系に伝わらず、上記のようなエンジン始動時に生じる振動の発生が長時間継続してしまうおそれがある。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、低温環境下でエンジンが停止された状態が継続された場合に、アイドル運転時における振動の増加を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による内燃機関の制御装置は、自動停止が可能な内燃機関の制御装置であって、内燃機関の短い停止期間後における第1のアイドル回転速度と、内燃機関の長い停止期間後における第2のアイドル回転速度とを異なる値にするとともに、内燃機関のアイドル回転速度が第2のアイドル回転速度である場合は、内燃機関の自動停止の実行を制限する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、アイドル回転速度を、内燃機関の停止期間が予め定められた基準値を下回る場合は第1のアイドル回転速度にする一方で、停止期間が基準値を上回る場合は第1のアイドル回転速度より大きい第2のアイドル回転速度にする。
【0014】
好ましくは、制御装置は、アイドル回転速度が第2のアイドル回転速度であるときは、内燃機関の自動停止の実行を禁止する。
【0015】
好ましくは、内燃機関の自動停止の実行条件は、内燃機関の冷却水の温度が予め定められたしきい値を上回ることを含む。制御装置は、内燃機関の冷却水の温度がしきい値を上回った場合でも、アイドル回転速度が第2のアイドル回転速度であるときは、内燃機関の自動停止の実行を制限する。
【0016】
好ましくは、制御装置は、内燃機関を始動する際の気温に関連する値がしきい値を下回る場合で、かつ停止期間が基準値を上回る場合に、アイドル回転速度を第2のアイドル回転速度にする。
【0017】
好ましくは、内燃機関は、固定部材を用いて車両に取り付けられる。内燃機関を含む駆動力伝達系の共振周波数は、固定部材の温度が低下すると高くなる特性を有する。
【0018】
好ましくは、内燃機関は、駆動用電動機とともに用いられる。制御装置は、要求される駆動力が内燃機関および駆動用電動機から生じるように内燃機関および駆動用電動機を制御するとともに、アイドル回転速度が第2のアイドル回転速度とされる場合は、内燃機関の出力を、アイドル回転速度が第1のアイドル回転速度とされる場合とは異なる値にする。
【0019】
本発明による車両は、自動停止が可能な内燃機関と、内燃機関を制御するための制御装置とを備える。制御装置は、内燃機関の短い停止期間後における第1のアイドル回転速度と、内燃機関の長い停止期間後における第2のアイドル回転速度とを異なる値にするとともに、内燃機関のアイドル回転速度が第2のアイドル回転速度である場合は、内燃機関の自動停止の実行を制限する。
【0020】
好ましくは、内燃機関は、固定部材を用いて車両に取り付けられる。内燃機関を含む駆動力伝達系の共振周波数は、固定部材の温度が低下すると高くなる特性を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低温環境下でエンジンが停止された状態が継続された場合に、アイドル運転時における振動の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態に従う車両の全体ブロック図である。
【図2】実施の形態1におけるアイドル速度変更制御の概要を説明するための図である。
【図3】実施の形態1において、ECUで実行されるアイドル速度変更制御を説明するための機能ブロック図である。
【図4】実施の形態1において、ECUで実行されるアイドル速度変更制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図5】実施の形態2において、ハイブリッド車両にアイドル速度変更制御を適用した場合の、エンジンの回転速度およびトルクの設定手法の概要を説明するための図である。
【図6】実施の形態2において、ECUで実行されるアイドル速度変更制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
[車両の全体構成の説明]
図1は、本実施の形態に従う車両100の全体ブロック図である。図1を参照して、車両100は、蓄電装置110と、システムメインリレー(System Main Relay:SMR)115と、駆動装置であるPCU(Power Control Unit)120と、モータジェネレータ130,135と、動力伝達ギヤ140と、駆動輪150と、内燃機関であるエンジン160と、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)300とを備える。また、PCU120は、コンバータ121と、インバータ122,123と、コンデンサC1,C2とを含む。
【0025】
蓄電装置110は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素である。蓄電装置110は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池または鉛蓄電池などの二次電池、あるいは電気二重層キャパシタなどの蓄電素子を含んで構成される。
【0026】
蓄電装置110は、電力線PL1および接地線NL1を介してPCU120に接続される。そして、蓄電装置110は、車両100の駆動力を発生させるための電力をPCU120に供給する。また、蓄電装置110は、モータジェネレータ130,135で発電された電力を蓄電する。蓄電装置110の出力はたとえば200V程度である。
【0027】
SMR115に含まれるリレーは、蓄電装置110とPCU120とを結ぶ電力線PL1および接地線NL1にそれぞれ介挿される。そして、SMR115は、ECU300からの制御信号SE1に基づいて、蓄電装置110とPCU120との間での電力の供給と遮断とを切換える。
【0028】
コンバータ121は、ECU300からの制御信号PWCに基づいて、電力線PL1および接地線NL1と電力線PL2および接地線NL1との間で電圧変換を行なう。
【0029】
インバータ122,123は、電力線PL2および接地線NL1に並列に接続される。インバータ122,123は、ECU300からの制御信号PWI1,PWI2にそれぞれ基づいて、コンバータ121から供給される直流電力を交流電力に変換し、モータジェネレータ130,135をそれぞれ駆動する。
【0030】
コンデンサC1は、電力線PL1および接地線NL1の間に設けられ、電力線PL1および接地線NL1間の電圧変動を減少させる。また、コンデンサC2は、電力線PL2および接地線NL1の間に設けられ、電力線PL2および接地線NL1間の電圧変動を減少させる。
【0031】
モータジェネレータ130,135は交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。
【0032】
モータジェネレータ130,135の出力トルクは、減速機や動力分割機構を含んで構成される動力伝達ギヤ140を介して駆動輪150に伝達されて、車両100を走行させる。モータジェネレータ130,135は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪150の回転力によって発電することができる。そして、その発電電力は、PCU120によって蓄電装置110の充電電力に変換される。
【0033】
また、モータジェネレータ130,135は動力伝達ギヤ140を介してエンジン160とも結合される。そして、ECU300により、モータジェネレータ130,135およびエンジン160が協調的に動作されて必要な車両駆動力が発生される。さらに、モータジェネレータ130,135は、エンジン160の回転により発電が可能であり、この発電電力を用いて蓄電装置110を充電することができる。本実施の形態においては、モータジェネレータ135を専ら駆動輪150を駆動するための電動機として用い、モータジェネレータ130を専らエンジン160により駆動される発電機として用いるものとする。
【0034】
エンジン160は、ECU300からの制御信号DRVにより回転速度、バルブの開閉タイミングおよび燃料流量等が制御され、車両100を走行するための駆動力を発生する。
【0035】
なお、図1においては、エンジン160からの駆動力およびモータジェネレータ130,135からの駆動力の少なくとも一方を用いて走行するハイブリッド車両の構成が例として示されるが、本実施の形態は、少なくともエンジンを備える構成であれば適用可能である。そのため、モータジェネレータを有さず、エンジンのみを備える車両であってもよいし、あるいは、ハイブリッド車両の場合には、モータジェネレータが1つの場合、あるいは2つより多くのモータジェネレータを設ける構成としてもよい。
【0036】
エンジン160には、エンジン160の冷却水の温度を検出するための温度センサ165が設けられる。温度センサ165は、検出した冷却水温度TWに関する信号をECU300に出力する。
【0037】
また、車両100は、外気温を検出するための温度センサ170と、車体の振動を検出するための振動センサ180とをさらに備える。温度センサ170は、検出した外気温に関する信号TAをECU300に出力する。振動センサ180は、たとえば、加速度センサであり、検出した車体の振動加速度ACCに関する信号をECU300へ出力する。
【0038】
ECU300は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含み、各センサ等からの信号の入力や各機器への制御信号の出力を行なうとともに、車両100および各機器の制御を行なう。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0039】
ECU300は、蓄電装置110に備えられる電圧センサ,電流センサ(いずれも図示せず)からの電圧VBおよび電流IBの検出値に基づいて、蓄電装置110の充電状態SOC(State of Charge)を演算する。また、ECU300は、図示しない速度センサから、車速SPDに関する信号を受ける。
【0040】
ECU300は、ユーザの操作によって入力される、車両を始動させるためのイグニッション信号IGを受ける。ECU300は、イグニッション信号IGの受信に応答して、SMR115を閉成して、蓄電装置110からの電力をPCU120へ伝達する。それに代えて、あるいは、それに加えて、ECU300は、制御信号DRVを出力してエンジン160を始動する。
【0041】
また、信号待ちなどで車両100が停止した場合や、モータジェネレータからの駆動力のみを用いて走行するいわゆるEV走行を行なう場合には、ECU300は、必要に応じてエンジン160を自動的に停止させる。
【0042】
なお、図1においては、制御装置として1つのECU300を設ける構成としているが、たとえば、PCU120用の制御装置や蓄電装置110用の制御装置などのように、機能ごとまたは制御対象機器ごとに個別の制御装置を設ける構成としてもよい。
【0043】
[実施の形態1]
一般的に、エンジンのアイドル回転速度は、アイドル運転時の振動を低減するために、エンジンからの振動が伝わる駆動力伝達系の共振周波数に対応する回転速度(共振回転速度)と異なる値に設定される。
【0044】
しかしながら、たとえば、寒冷地などにおいて、低温(たとえば、−15℃以下)の環境下で長期間エンジンが停止されたままの状態で車両が継続されると、駆動力伝達系の共振回転速度が変化する場合がある。そのため、車両が低温環境下でエンジンが停止された状態が継続された場合には、駆動力伝達系の共振回転速度がアイドル回転速度に近づくことにより、アイドル運転時の振動が大きくなるおそれがある。
【0045】
たとえば、上述のような車両において、エンジンを車体に取り付ける場合には、エンジンが駆動されることによって生じる振動が直接車体に伝達されないようにするために、たとえば、ゴムのような弾力性を有する固定部材(マウント)を介して取り付けられるのが一般的である。
【0046】
エンジンを含む駆動力伝達系の共振周波数は、取付けに用いられるこのマウントの弾性係数により変化する。そして、寒冷地などにおいて、極低温環境下で長期間エンジンが停止されたままの状態で車両が放置されたような場合、マウントの特性によってはマウントが硬化してしまい、駆動力伝達系の共振回転速度が変化する場合がある。マウントが硬化する、すなわち弾性係数が小さくなると、一般的に共振周波数が高くなることが知られている。そのため、このように車両が低温環境下で長期間放置されたような場合には、駆動力伝達系の共振回転速度がアイドル回転速度に近づいてしまい、アイドル運転時の振動が大きくなるおそれがある。
【0047】
そこで、実施の形態1においては、車両が低温環境下においてエンジンが停止されたままの状態とされた停止期間に応じてアイドル回転速度を変化させることによって、アイドル運転時に駆動力伝達系に共振が生じることを抑制するアイドル速度変更制御を行なう。
【0048】
図2は、実施の形態1におけるアイドル速度変更制御の概要を説明するための図である。図2の横軸には、低温環境下においてエンジンが停止されたままの状態とされた停止期間(以下、「放置時間」とも称する。)TIMが示され、縦軸にはエンジンを含む駆動力伝達系が共振を生じる共振回転速度Frが示される。
【0049】
図1および図2を参照して、極低温環境下においては、上述のように、マウントの硬化によって、駆動力伝達系の共振回転速度Frは、放置時間TIMが長くなるにつれて、図2中の実線の曲線W1に示されるように高くなり、ある特定の共振回転速度付近で飽和する。
【0050】
そして、共振回転速度Frが、常温におけるエンジン160のアイドル回転速度NE_idle(たとえば、1300rpm)(図2中の破線の直線W2)と一致する点P10またはその付近に到達した状態において、エンジン160が始動されてアイドル運転されると、特に始動直後においては、エンジン160により生じる振動により駆動力伝達系が共振してしまう可能性がある。
【0051】
実施の形態1においては、たとえば、図2に示すような特性を有するマウントでは、共振回転速度Frがアイドル回転速度NE_idleに対応する回転速度に近づく、放置時間t3(たとえば、72時間)となったことに応答して、アイドル回転速度の設定値を、図2中の破線における直線W3のように、常温時のアイドル回転速度NE_idleよりも大きいアイドル回転速度NE_idle#(たとえば、1500rpm)に変更する。これにより、アイドル回転速度を駆動力伝達系の共振回転速度から遠ざけることができるので、駆動力伝達系の共振を防止することができる。
【0052】
ところで、車両100のようなハイブリッド車両では、上述のように、信号待ちで車両が停止している場合やEV走行を行なう場合に、エンジン160が自動的に停止されるときがある。エンジン160が停止されている間は、エンジン160のアイドル運転時による駆動力伝達系の共振は生じないが、一方で、エンジン160の運転で生じる熱および振動によるマウントの軟化が少なくなるので、マウントの硬化が緩和されにくくなるというデメリットが生じ得る。そうすると、駆動力伝達系の共振が生じやすい状態が長く継続してしまうおそれがあり、アイドル回転速度が高く設定された状態が長くなって、かえって燃費を悪化させてしまう可能性がある。
【0053】
そこで、本実施の形態1におけるアイドル速度変更制御では、アイドル回転速度の設定値を常温時よりも高く設定している間は、たとえ、エンジン160を自動停止できる条件が成立したとしても、エンジン160の運転をできるだけ優先させるようにして、マウントの硬化を速やかに緩和させる手法を採用する。
【0054】
図3は、実施の形態1において、ECU300で実行されるアイドル速度変更制御を説明するための機能ブロック図である。図3の機能ブロック図に記載された各機能ブロックは、ECU300において、ハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0055】
図1および図3を参照して、ECU300は、カウント部310と、アイドル速度設定部320と、エンジン制御部330とを含む。
【0056】
カウント部310は、ユーザ操作によるイグニッション信号IGと、温度センサ165,170からの水温TWおよび外気温TAとを受ける。カウント部310は、これらの情報に基づいて、低温環境下においてエンジンが始動されないままの状態とされた放置時間TIMを算出する。カウント部310は、算出した放置時間TIMを、アイドル速度設定部320へ出力する。
【0057】
アイドル速度設定部320は、カウント部310からの放置時間TIMと、温度センサ165,170からの水温TWおよび外気温TAと、振動センサ180からの振動加速度ACCと、図示されない速度センサからの車速SPDを受ける。アイドル速度設定部320は、図2で説明したように、これらの情報に基づいて、アイドル運転時のアイドル回転速度の基準値NR_idleを設定し、設定した基準値NR_idleをエンジン制御部330へ出力する。
【0058】
また、アイドル速度設定部320は、アイドル回転速度を常温時よりも高い回転速度NE_idle#に設定する場合には、アイドル回転速度が変更されていることを示す制御フラグFLGをオンに設定し、エンジン制御部330へ出力する。
【0059】
エンジン制御部330は、アイドル速度設定部320からのアイドル回転速度の基準値NR_idle、および制御フラグFLGを受ける。エンジン制御部330は、アイドル運転時には、エンジン160の回転速度が、基準値NR_idleに従った回転速度になるように制御信号DRVを生成し、エンジン160を制御する。また、エンジン制御部330は、車両走行時には、ユーザによるアクセルペダルの操作等から定まるトルクTRが出力されるように制御信号DRVを生成して、エンジン160を制御する。
【0060】
さらに、エンジン制御部330は、温度センサ165からの水温TWを受ける。エンジン制御部330は、エンジン160が暖機されて水温TWが所定の温度まで上昇すると、SOCやトルクTRなどの、他の特定の条件が成立したことに応答して、エンジン160を自動的に停止する。ただし、アイドル速度設定部320からの制御信号FLGがオンの場合、すなわち、駆動力伝達系の共振回転速度を回避するためにアイドル回転速度を高く設定している場合には、エンジン制御部330は、エンジン自動停止の条件が成立した場合であっても、エンジン160を停止しないようにする。
【0061】
図4は、実施の形態1において、ECU300で実行されるアイドル速度変更制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。図4および後述される図6に示されるフローチャートは、ECU300に予め格納されたプログラムがメインルーチンから呼び出されて、所定周期で実行されることによって処理が実現される。あるいは、一部または全部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)で処理を実現することも可能である。
【0062】
図1および図6を参照して、ECU300は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ユーザ操作によるイグニッション信号IGにより、走行可能状態であるReady−ON状態であるか否かを判定する。
【0063】
Ready−ON状態でない場合(S100にてNO)は、エンジン160は始動されないので、ECU300は処理を終了する。
【0064】
Ready−ON状態である場合(S100にてYES)は、ECU300は、S110にて、次に、低温環境下における放置時間TIMが予め定められた基準値αより大きいか否かを判定する。
【0065】
放置時間TIMが基準値α以下の場合(S110にてNO)は、ECU300は、駆動力伝達系の共振回転速度が、アイドル回転速度付近に到達していないと判断する。そしてECU300は、S190に処理を進め、アイドル回転速度の変更を行なわずに処理を終了する。
【0066】
放置時間TIMが基準値αより大きい場合(S110にてYES)は、処理がS120に進められ、エンジン160が始動されたときの冷却水温度TWが、予め定められたしきい値TWAよりも小さいか否かを判定する。これは、エンジン160を始動する時点で車両が低温環境下であったか否かを判定するものである。なお、S120においては、低温環境下であることの指標として、実際のエンジン160の温度を反映する冷却水温度TWを用いているが、これに代えて、たとえば、温度センサ170からの外気温TAのような他の信号を用いて判定してもよい。
【0067】
冷却水温度TWがしきい値TWA以上の場合(S120にてNO)は、ECU300は、たとえば昼間などで外気温が高い状態であり、マウントの硬化状態が緩和されている可能性が高く、駆動力伝達系の共振回転速度がアイドル回転速度付近に到達していないと判断する。そして、ECU300は、処理をS180に進めて、アイドル回転速度の変更を行なわずに処理を終了する。
【0068】
一方、冷却水温度TWがしきい値TWAより小さい場合(S120にてYES)は、ECU300は、低温環境下にあり、駆動力伝達系の共振回転速度がアイドル回転速度付近に到達している可能性が高いと判断する。そして、ECU300は、S130にて、アイドル速度変更制御の制御フラグFLGをオンに設定するとともに、S140にて、アイドル回転速度の基準値NR_idleを常温での回転速度NE_idle(たとえば、1300rpm)よりも大きい回転速度NE_idle#(たとえば、1500rpm)に変更する。なお、変更後の回転速度NE_idle#は、駆動力伝達系の共振回転速度を回避でき、かつエンジン160を安定的に運転することができれば、常温での回転速度NE_idleよりも小さい値に設定するようにしてもよい。
【0069】
次に、ECU300は、S150にて、現在の水温TWに基づいて、エンジン160が自動停止できる温度まで暖機されているか否かを判定する。
【0070】
水温TWがエンジン自動停止可能温度以下の場合(S150にてNO)は、S165に処理が進められて、エンジン160の自動停止が禁止される。その後、処理がS170に進められる。
【0071】
一方、水温TWがエンジン自動停止可能温度より大きい場合(S150にてYES)は、処理がS160に進められて、ECU300は、エンジン160の自動停止を制限する。その後、処理がS170に進められる。
【0072】
ここで、S160における自動停止の制限には、エンジン自動停止を禁止する場合に加えて、エンジン自動停止自体は禁止しないが、通常の場合と比較して、自動停止の頻度を少なくする場合も含まれる。マウントの硬化を緩和する観点からは、エンジンの自動停止を禁止することで、マウントの硬化を緩和する時間を短縮することが好ましい。しかし、たとえば、蓄電装置110のSOCが高く、モータジェネレータ130により発電された電力を十分に蓄えることができないような場合などには、エンジン160を停止せざるを得ない場合もある。そのため、他の条件から、エンジン160の運転継続が好ましくないときには、アイドル回転速度が変更されていても、エンジン160が停止される場合があり得る。
【0073】
そして、ECU300は、S170にて、車両の駆動状態に基づいて、アイドル回転速度の変更制御を行なう期間すなわち制御継続時間が、予め定められたしきい値γより大きいか否かを判定する。
【0074】
制御継続時間がしきい値γ以下の場合(S170にてNO)は、ECU300は、エンジン160のアイドル運転によって生じる振動エネルギおよび熱エネルギによるマウントの軟化がまだ十分でないと判断する。そのため、処理がS180に進められ、ECU300は、アイドル速度変更制御を継続して、常温の場合よりも高いアイドル回転速度NE_idle#を維持する。
【0075】
制御継続時間がしきい値γより大きい場合(S170にてYES)は、ECU300は、エンジン160のアイドル運転によって生じる振動エネルギおよび熱エネルギによって、エンジン160を支えるマウントの硬化が緩和されたと判断する。すなわち、ECU300は、駆動力伝達系の共振回転速度が低減されて、常温におけるアイドル回転速度NE_idleから遠ざかっているものと判断する。そして、処理がS190に進められ、ECU300は、アイドル速度変更制御を停止してアイドル回転速度を常温におけるアイドル回転速度NE_idleに戻すとともに、制御フラグFLGをオフに設定する。
【0076】
なお、図4においては、エンジン始動時の水温TWがしきい値TWAよりも小さいときにアイドル速度変更制御を実施する構成としているが(S120)、このステップS120の処理は任意的であり、エンジン始動時の水温TWにかかわらず、放置時間TIMが基準値αより大きい場合にはアイドル速度変更制御を実施するようにしてもよい。
【0077】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、車両が低温環境下に長時間さらされることに起因してエンジンを支持するマウントが硬化し、それによって駆動力伝達系の共振回転速度が大きくなることで、アイドル運転時に共振が生じてしまうことを抑制することができる。また、振動の発生を予測してアイドル回転速度を変更するので、共振による振動が発生する機会を少なくすることができる。さらに、アイドル回転速度が変更されている間は、エンジン自動停止が制限されるので、マウントの硬化を緩和する時間が短縮されて早期にアイドル回転速度を常温時のアイドル回転速度に復帰させることができる。
【0078】
[実施の形態2]
実施の形態1における制御は、エンジンを搭載したどのような車両においても適用可能である。
【0079】
また、図1に示したようなハイブリッド車両においては、ドライバ要求トルクに基づいてエンジン指令パワーおよびモータジェネレータの目標トルクが決定されるように制御されることが可能である。
【0080】
そこで、実施の形態2においては、上述の実施の形態1で説明したアイドル速度変更制御を、図1に示したハイブリッド車両に適用する場合に、エンジン効率が最適となるように、アイドル回転速度の変化に応じてエンジン指令パワーが変更される構成について説明する。
【0081】
図5は、実施の形態2において、ハイブリッド車両にアイドル速度変更制御を適用した場合の、エンジンの回転速度およびトルクの設定手法の概要を説明するための図である。図5においては、横軸にエンジンの回転速度NEが示され、縦軸にはエンジンへのトルクTRが示される。
【0082】
図1および図5を参照して、図5中の曲線W20は、エンジン160の特性から、効率が最適となる回転速度NEとトルクTRとの関係を示す動作線である。
【0083】
常温におけるアイドル回転速度が、回転速度NE_idleであるとすると、上述の動作線W20から点P1で示される動作ポイントとなるように、トルクTRが設定される。この要求パワーPW1を達成するための、回転速度NEとトルクTRとの関係が、図5中の曲線W10で示される。
【0084】
このとき、実施の形態1のようなアイドル速度変更制御により、単純にエンジン回転速度NEのみを回転速度NE_idle#まで変化させた場合、エンジン160への要求パワーの配分が同じであると、曲線W10に沿ってトルクTRが変化し、点P2で示される動作ポイントでエンジン160が駆動される。
【0085】
この点P2の動作ポイントは、効率が最適となる場合の動作線W20上ではないので、エンジン160としては効率が低下することになる。
【0086】
そのため、実施の形態2におけるアイドル速度変更制御においては、図1のようなハイブリッド車両において、アイドル回転速度を変化させる場合は、変更後の動作ポイントが動作線W20上となるように、エンジン160への要求パワーの配分が変更される。たとえば、図5の例においては、動作線W20上で回転速度がNE_idle#となる点P3でエンジン160が駆動されるように、エンジン160への要求パワーがPW1からPW2へ変更される。
【0087】
また、アイドル速度変更制御を停止し、常温におけるアイドル回転速度に戻す場合、すなわち、図5の点P3から点P1へ戻す場合にも、動作線W20に沿って、エンジンの回転速度NEおよびトルクTRが設定される。
【0088】
図6は、実施の形態2において、ECU300で実行されるアイドル速度変更制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。図6は、実施の形態1の図4で説明したフローチャートにおけるステップS140がS140Aに置き換えられたものとなっている。図6において、図4と重複するステップについての説明は繰り返さない。
【0089】
図6を参照して、ECU300は、放置時間TIMが予め定められた基準値αよりも大きいと判定し(S110にてYES)、かつエンジン始動時の冷却水温度TWがしきい値TWAよりも小さいと判定した場合(S120にてYES)は、処理をS130に進めて、アイドル回転速度変更制御フラグFLGをオンに設定する。
【0090】
そして、S140Aに処理が進められて、ECU300は、図2で示したようなマップを用いてアイドル回転速度を設定する。それに加えて、ECU300は、図5で示したようなマップを用いることによって、設定された変更後のアイドル回転速度において、エンジン160の効率が最適となるような要求パワーを決定し、エンジン160およびモータジェネレータ130,135の駆動力の配分を設定する。
【0091】
その後、ECU300は、S150にて、エンジン自動停止が可能である水温であるか否か判定し、その判定結果に基づいて、エンジン自動停止の禁止(S165)あるいは制限(S160)を行なう。
【0092】
そして、ECU300は、S170において、当該アイドル回転速度変更制御の継続時間が所定のしきい値γに到達するまで、S140Aで設定したアイドル回転速度およびエンジン160への要求パワーを用いてアイドル運転を実行する。
【0093】
なお、上述のように、アイドル速度変更制御を停止する場合(S190)には、アイドル回転速度の変更とともに、エンジンの効率が最適となるような要求パワーが選択される。
【0094】
以上のような処理に従って制御を行ない、ハイブリッド車両において、アイドル回転速度の変更に応じてエンジンが最適な効率で駆動されるように要求パワーを変更することによって、低温環境下での共振を防止しつつ、車両全体での効率の低下を抑制することが可能となる。
【0095】
なお、以上の説明においては、マウントの硬化によって駆動力伝達系の共振回転速度が変化する場合を例として説明したが、マウントによる要因に限らず、車両が低温環境下にさらされた場合おいて、駆動力伝達系の共振回転速度が変化する場合には、本発明を適用することが可能である。
【0096】
また、エンジン自動停止の制限にあたっては、通常時に比べてエンジン自動停止の実行が許可されるパラメータのしきい値が達成されにくいように変更することも含まれる。たとえば、水温について、エンジン自動停止可能温度を通常時よりも高い値にすることなどが含まれる。
【0097】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
100 車両、110 蓄電装置、115 SMR、120 PCU、121 コンバータ、122,123 インバータ、130,135 モータジェネレータ、140 動力伝達ギヤ、150 駆動輪、160 エンジン、165,170 温度センサ、180 振動センサ、300 ECU、310 カウント部、320 アイドル速度設定部、330 エンジン制御部、C1,C2 コンデンサ、NL1 接地線、PL1,PL2 電力線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動停止が可能な内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、前記内燃機関の短い停止期間後における第1のアイドル回転速度と、前記内燃機関の長い停止期間後における第2のアイドル回転速度とを異なる値にするとともに、前記内燃機関のアイドル回転速度が前記第2のアイドル回転速度である場合は、前記内燃機関の自動停止の実行を制限する、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記アイドル回転速度を、前記内燃機関の停止期間が予め定められた基準値を下回る場合は前記第1のアイドル回転速度にする一方で、前記停止期間が前記基準値を上回る場合は前記第1のアイドル回転速度より大きい前記第2のアイドル回転速度にする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記アイドル回転速度が前記第2のアイドル回転速度であるときは、前記内燃機関の自動停止の実行を禁止する、請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の自動停止の実行条件は、前記内燃機関の冷却水の温度が予め定められたしきい値を上回ることを含み、
前記制御装置は、前記内燃機関の冷却水の温度がしきい値を上回った場合でも、前記アイドル回転速度が前記第2のアイドル回転速度であるときは、前記内燃機関の自動停止の実行を制限する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記内燃機関を始動する際の気温に関連する値がしきい値を下回る場合で、かつ前記停止期間が前記基準値を上回る場合に、前記アイドル回転速度を前記第2のアイドル回転速度にする、請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、固定部材を用いて車両に取り付けられ、
前記内燃機関を含む駆動力伝達系の共振周波数は、前記固定部材の温度が低下すると高くなる特性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、駆動用電動機とともに用いられ、
前記制御装置は、要求される駆動力が前記内燃機関および前記駆動用電動機から生じるように前記内燃機関および前記駆動用電動機を制御するとともに、前記アイドル回転速度が前記第2のアイドル回転速度とされる場合は、前記内燃機関の出力を、前記アイドル回転速度が前記第1のアイドル回転速度とされる場合とは異なる値にする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
自動停止が可能な内燃機関と、
前記内燃機関を制御するための制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記内燃機関の短い停止期間後における第1のアイドル回転速度と、前記内燃機関の長い停止期間後における第2のアイドル回転速度とを異なる値にするとともに、前記内燃機関のアイドル回転速度が前記第2のアイドル回転速度である場合は、前記内燃機関の自動停止の実行を制限する、車両。
【請求項9】
前記内燃機関は、固定部材を用いて前記車両に取り付けられ、
前記内燃機関を含む駆動力伝達系の共振周波数は、前記固定部材の温度が低下すると高くなる特性を有する、請求項8に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215076(P2012−215076A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78884(P2011−78884)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】