説明

内燃機関の制御装置

【課題】筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが行なわれたときに内燃機関の空燃比が目標空燃比から乖離するのを抑制する。
【解決手段】ポート用燃料噴射バルブから燃料を噴射するモードのときには、エンジンの運転状態に基づくエンジンの空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量Fbに吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*の燃料噴射が行なわれるようエンジンを制御し(S190,S230〜S270)、筒内用燃料噴射バルブのみから燃料を噴射する筒内噴射駆動モードから他のモードへの切り替えが指示されたときには、切り替え前の筒内噴射駆動モードの直噴継続時間Tが短いほど小さくなる傾向に補正量Fwを計算し(S200〜S240)、基本燃料噴射量Fbに補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*の燃料噴射を行なう(S250〜S270)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関への燃料噴射が筒内用燃料噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードと少なくともポート用燃料噴射弁から燃料を噴射するポート噴射モードとを切り替えて行なわれるよう内燃機関を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の制御装置としては、筒内噴射用インジェクタから筒内に燃料を噴射する直噴運転と、吸気ポート噴射用インジェクタから吸気ポートに向けて燃料を噴射するポート噴射運転とを行なう内燃機関において、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射(直噴運転)から吸気ポート噴射用インジェクタからの燃料噴射(ポート噴射運転)へ切り替えられるときには、ポート噴射による吸気ポートの燃料壁面付着量が安定するまで吸気同期噴射を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、これにより、壁面付着燃料の影響を受けることなく安定した混合気を得ることでトルク変動やエミッションの悪化を抑制しているものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の内燃機関の制御装置では、直噴運転からポート噴射運転への切り替えが行なわれたときに内燃機関の空燃比が目標空燃比から乖離する場合がある。ポート噴射運転への切り替え前の直噴運転の継続時間が短いと、その直噴運転前のポート噴射運転により吸気ポートの壁面に付着していた燃料が筒内に吸入されず残っており、こうして吸気ポートの壁面に残った燃料のために、直噴運転からの切り替えによりポート噴射運転を開始したときに内燃機関の空燃比が目標空燃比より濃く(リッチに)なる場合がある。
【0005】
本発明の内燃機関の制御装置は、筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが行なわれたときに内燃機関の空燃比が目標空燃比から乖離するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の内燃機関の制御装置は、
筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関への燃料噴射が前記筒内用燃料噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードと少なくとも前記ポート用燃料噴射弁から燃料を噴射するポート噴射モードとを切り替えて行なわれるよう前記内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記ポート噴射モードのときには、前記内燃機関の運転状態に基づく前記内燃機関の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量に前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量を加えて得られる目標燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう前記内燃機関を制御する燃料噴射制御手段を備え、
前記燃料噴射制御手段は、前記筒内噴射モードから前記ポート噴射モードへの切り替えが指示されたときには、前記切り替え前の前記筒内噴射モードの継続時間が短いほど小さくなる傾向に前記補正量を設定する手段である、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の内燃機関の制御装置では、少なくともポート用燃料噴射弁から燃料を噴射するポート噴射モードのときには、内燃機関の運転状態に基づく内燃機関の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量に吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量を加えて得られる目標燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう内燃機関を制御する。さらに、筒内用燃料噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが指示されたときには、切り替え前の筒内噴射モードの継続時間が短いほど小さくなる傾向に補正量を設定する。筒内噴射モードで燃料噴射を開始したときにはその前のポート噴射モードでの燃料噴射により吸気ポートの壁面に燃料が付着しており、筒内噴射モードの継続時間が長いほど吸気ポートの壁面に付着した燃料は筒内に吸入され減少する。したがって、筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが指示されたときに切り替え前の筒内噴射モードの継続時間が短いほど吸気ポートの壁面にはより多くの燃料が付着していると考えられるため、この切り替え前の筒内噴射モードの継続時間が短いほど小さくなる傾向に補正量を設定することにより、ポート噴射モードで燃料噴射を開始したときに補正量が過大となって内燃機関の空燃比が目標空燃比より濃くなるのを抑制することができる。この結果、筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが行なわれたときに内燃機関の空燃比が目標空燃比から乖離するのを抑制することができる。この場合、前記燃料噴射制御手段は、前記筒内噴射モードのときには、前記基本燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう前記内燃機関を制御する手段である、ものとすることもできる。
【0009】
ここで、前記筒内噴射モードは、前記筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とのうち前記筒内用燃料噴射弁のみから燃料を噴射するモードである、ものとすることができる。また、前記ポート噴射モードは、前記筒内用燃料噴射弁と前記ポート用燃料噴射弁とのうち前記ポート用燃料噴射弁のみから燃料を噴射するモードと、前記筒内用燃料噴射弁と前記ポート用燃料噴射弁との両方から燃料を噴射するモードとを含むモードである、ものとすることができる。さらに、内燃機関の目標空燃比としては、内燃機関の理論空燃比などを用いることができ、基本燃料噴射量としては、内燃機関の回転数と負荷とに基づくものなどとすることができる。
【0010】
こうした本発明の内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、前記切り替えが指示されたときには、前記切り替え前の前記筒内噴射モードで燃料噴射を開始したときに前記吸気ポートの壁面に付着していた燃料量のうち前記継続時間の間に前記筒内に吸入された量を除いた残余の燃料量が反映されるよう前記補正量を設定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、補正量をより適正に設定することができる。
【0011】
この残余の燃料量が反映されるよう補正量を設定する態様の本発明の内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、前記ポート噴射モードのときには、前記内燃機関の定常状態で前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量についての前記内燃機関の運転状態の変化後の量から該変化前の量を減じて得られる壁面付着量差に、前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射量としての前記壁面付着量差のうち前記筒内に吸入される燃料量の比率である第1の比率を乗じた値と、前記吸気ポートの壁面に現在付着していると推定される燃料量である壁面付着推定量に、前記壁面付着推定量のうち前記筒内に今回吸入される比率である第2の比率を乗じた値と、の和を前記補正量として設定する手段であり、更に、前記燃料噴射制御手段は、前記切り替えが指示されたときには、前記内燃機関の運転状態に基づいて該運転状態が定常状態であるとしたときの前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量から前記残余の燃料量を減じた値を、前記壁面付着量差として用いて、前記補正量を設定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、補正量を更に適正に設定することができる。
【0012】
また、本発明の内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記筒内燃料噴射弁からの燃料噴射量と前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射量との割合を示す噴き分け率を設定し、前記ポート噴射モードのときには前記設定した吹き分け率に応じて前記目標燃料噴射量の燃料が前記筒内用燃料噴射弁と前記ポート用燃料噴射弁とから分配されて噴射されるよう前記内燃機関を制御する手段である、ものとすることもできる。この場合、前記燃料噴射制御手段は、前記筒内噴射モードのときには前記基本燃料噴射量の燃料が前記筒内用燃料噴射弁から噴射されるよう前記内燃機関を制御する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】エンジンECU24により実行される燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】吹き分け率設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】壁面付着残余量推定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、内燃機関としてのエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、図示しない複数のスイッチング素子のスイッチングによってモータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42と、インバータ41,42の複数のスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。ここで、実施例の内燃機関の制御装置としては、主にエンジンECU24が該当する。
【0016】
エンジン22は、図2に示すように、筒内に直接ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料を噴射する筒内用燃料噴射バルブ125と、吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射バルブ126とを備える内燃機関として構成されている。エンジン22は、こうした二種類の燃料噴射バルブ125,126を備えることにより、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共にポート用燃料噴射バルブ126から燃料を噴射して吸入された空気と燃料とを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換するポート噴射駆動モードと、同様にして空気を燃焼室に吸入し、吸気行程の途中あるいは圧縮行程に至ってから筒内用燃料噴射バルブ125から燃料を噴射し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させてクランクシャフト26の回転運動を得る筒内噴射駆動モードと、空気を燃焼室に吸入する際にポート用燃料噴射バルブ126から燃料噴射すると共に吸気行程や圧縮行程で筒内用燃料噴射バルブ125から燃料噴射してクランクシャフト26の回転運動を得る共用噴射駆動モードと、のいずれかの駆動モードにより運転制御される。これらの駆動モードは、エンジン22の運転状態やエンジン22に要求される運転状態などに基づいて切り替えられる。なお、エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する三元触媒を有する浄化装置134を介して外気へ排出される。
【0017】
エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、時間を計測するタイマ24dと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブを開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカム角,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットル開度TH,吸気管に取り付けられて吸入空気の質量流量を検出するエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Ta,浄化装置134の三元触媒の温度を検出する温度センサ134aからの触媒温度θc,排気系に取り付けられた空燃比センサ135aからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサ135bからの酸素信号O2,吸気管内の圧力を検出する圧力センサ158からの吸気圧Pi,シリンダブロックに取り付けられてノッキングの発生に伴って生じる振動を検出するノックセンサ159からのノック信号Ksなどが入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、筒内用燃料噴射バルブ125への駆動信号やポート用燃料噴射バルブ126への駆動信号、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ140からの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neを演算したり、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいてエンジン22の負荷としての体積効率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算したり、クランクポジションセンサ140からのクランク角θcrに対するカムポジションセンサ144からの吸気バルブ128のインテークカムシャフトのカム角θciの角度(θci−θcr)に基づいて吸気バルブ128の開閉タイミングVTを演算したり、ノックセンサ159からのノック信号Ksの大きさや波形に基づいてノッキングの発生レベルを示すノック強度Krを演算したりしている。
【0018】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0019】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vbやバッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0020】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定すると共に、要求トルクTr*とバッテリ50の充放電要求パワーとに基づいてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*が閾値以上やバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値未満などのエンジン22の運転条件が成立しているときには、エンジン22から要求パワーPe*を効率よく出力する運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントでエンジン22が運転されて要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるようエンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御され、エンジン22の運転条件が成立していないときには、エンジン22の運転を停止した状態でモータMG2から要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するようモータMG2が運転制御される。
【0022】
エンジン22の運転制御では、実施例では、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントでエンジン22を効率よく運転するための目標スロットル開度TH*と吸気バルブ128の目標開閉タイミングVT*とを設定し、エンジン22の回転数Neと体積効率KLとに基づいて理論空燃比などの目標空燃比を得るための目標燃料噴射量F*とエンジン22におけるノックの発生が抑制される範囲内でエンジン22の点火時期を早くするための目標点火時期Tf*とを設定する。そして、スロットルバルブ124のスロットル開度THを目標スロットル開度TH*とするようスロットルモータ136を駆動制御することによって吸入空気量制御が行なわれ、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを目標開閉タイミングVT*とするよう可変バルブタイミング機構150を駆動制御することによって開閉タイミング制御が行なわれ、目標燃料噴射量Qf*による燃料噴射が行なわれるよう筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126を駆動制御することによって燃料噴射制御が行なわれ、目標点火時期Tf*で点火を行なうようイグニッションコイル138を駆動制御することによって点火制御が行なわれる。
【0023】
次に、実施例のハイブリッド自動車20におけるエンジン22の動作、特にエンジン22の燃料噴射制御を行なう際の動作について説明する。図3は、エンジンECU24により実行される燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0024】
燃料噴射制御ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、エンジン22の回転数Neや体積効率KL,圧力センサ158からの吸気圧Pi,吸気バルブ128の開閉タイミングVTなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ140からの信号に基づいて演算されたものを入力するものとした。また、エンジン22の体積効率KLは、吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて演算されたものを入力するものとした。吸気バルブ128の開閉タイミングVTは、クランクポジションセンサ140からの信号とカムポジションセンサ144からの信号とに基づいて演算されたものを入力するものとした。
【0025】
こうしてデータを入力すると、入力した回転数Neと体積効率KLとに基づいてエンジン22の空燃比を理論空燃比などの目標空燃比とするための燃料噴射量の基本値である基本燃料噴射量Fbを設定する(ステップS110)。基本燃料噴射量Fbは、実施例では、回転数Neと体積効率KLと基本燃料噴射量Fbとの関係を予め実験や解析により定めて基本燃料噴射量設定用マップとしてROM24bに記憶しておき、回転数Neと体積効率KLとが与えられると記憶したマップから対応する基本燃料噴射量Fbを導出して設定するものとした。
【0026】
続いて、入力した回転数Neと体積効率KLとに基づいて、エンジン22の燃料噴射量のうち筒内用燃料噴射バルブ125からの燃料噴射量とポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射量との分担比率(割合)を示す吹き分け率Rpを設定し(ステップS120)、設定した噴き分け率Rpに基づいてエンジン22の駆動モードを設定する(ステップS130)。ここで、吹き分け率Rpは、実施例では、エンジン22の燃料噴射量を100%としたときのポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射量の割合を表すものとし、エンジン22の回転数Neと体積効率KLとエンジン22を効率よく運転するための吹き分け率Rpとの関係を予め実験や解析により定めて吹き分け率設定用マップとしてROM24bに記憶しておき、回転数Neと体積効率KLとが与えられると記憶したマップから対応する吹き分け率Rpを導出して設定するものとした。図4に吹き分け率設定用マップの一例を示す。なお、吹き分け率Rpに代えて、エンジン22の燃料噴射量を100%としたときの筒内用燃料噴射バルブ125からの燃料噴射量の割合を表す吹き分け率Rdを用いるものしてもよい。
【0027】
図4の吹き分け率Rpは、エンジン22の回転数Neが所定回転数Ne1未満の中低回転数領域では、体積効率KLが大きいほど小さくなる値が設定されており、具体的には、体積効率KLが第1効率KL1未満のときに値1(100%)が設定され、体積効率KLが第1効率KL1以上かつ第2効率KL2未満のときに値Rp1(例えば値0.4や値0.5,値0.6など)が設定され、体積効率KLが第2効率KL2以上かつ第3効率KL3未満のときに値Rp1より小さい値Rp2(例えば、値0.2や値0.3など)が設定され、体積効率KLが第3効率KL3以上のときに値0(0%)が設定されている。さらに、図4の吹き分け率Rpは、エンジン22の回転数Neが所定回転数Ne1以上の高回転数領域では、体積効率KLに拘わらず値0(0%)が設定されている。これは、体積効率KLが大きい領域や回転数Neが高い領域では、混合気が均質化されやすく、吸気ポートに燃料噴射するよりも筒内に燃料噴射した方がエンジン22から効率よく高トルクを出力しやすい、などの理由に基づく。したがって、エンジン22の駆動モードは、図4の例では、噴き分け率Rpが値0のとき(エンジン22の運転領域がいわゆる直噴領域内のとき)には筒内噴射駆動モード(いわゆる直噴モード)が設定され、噴き分け率Rpが値1のときにはポート噴射駆動モードが設定され、噴き分け率Rpが値Rp1または値Rp2のときには共用噴射駆動モードが設定される。なお、噴き分け率設定用マップは、冷却水温Twが比較的低い場合に用いられる低水温時のマップと冷却水温Twが比較的高い場合に用いられる通常水温時のマップとを使い分けるものとしてもよい。
【0028】
こうして噴き分け率Rpと駆動モードとを設定すると、設定した駆動モードを調べ(ステップS140)、設定した駆動モードが筒内用燃料噴射バルブ125のみから燃料噴射を行なう筒内噴射駆動モードのときには、基本燃料噴射量Fbを目標燃料噴射量F*に設定する(ステップS160)。
【0029】
そして、設定した目標燃料噴射量F*に値1から噴き分け率Rpを減じた値(1−Rp)を乗じたものを筒内目標燃料噴射量Fe*として設定すると共に、目標燃料噴射量F*に噴き分け率Rpを乗じたものをポート目標燃料噴射量Fp*として設定し(ステップS260)、設定した筒内目標燃料噴射量Fe*の筒内への燃料噴射が行なわれるよう筒内用燃料噴射バルブ125を駆動すると共に、設定したポート目標燃料噴射量Fp*の吸気ポートへの燃料噴射が行なわれるようポート用燃料噴射バルブ126を駆動して(ステップS270)、燃料噴射制御ルーチンを終了する。したがって、噴き分け率Rpが値0(0%)となる筒内噴射駆動モードでは、ポート目標燃料噴射量Fp*は値0となるから、目標燃料噴射量F*(即ち基本燃料噴射量Fb)の燃料が筒内用燃料噴射バルブ125のみから噴射されることになる。こうした制御により、筒内噴射駆動モードでエンジン22の空燃比が理論空燃比などの目標空燃比となるよう燃料噴射制御を行なうことができる。
【0030】
設定した駆動モードがポート用燃料噴射バルブ126から燃料噴射を行なうモード(即ち、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モード)のときには、エンジン22の運転状態が定常状態であるか過渡状態であるかを判定し(ステップS150)、エンジン22の運転状態が定常状態であると判定されたときには、基本燃料噴射量Fbを補正する必要はないと判断して、駆動モードが筒内噴射駆動モードのときと同様に基本燃料噴射量Fbを目標燃料噴射量F*に設定する(ステップS160)。ここで、エンジン22の運転状態の判定は、例えば、エンジン22の回転数Neや体積効率KL,開閉タイミングVTなどの所定時間あたりの変化量(変動幅)が定常状態と判定可能な許容範囲内にあるときには定常状態と判定し、そうでないときには過渡状態と判定するなどにより行なうことができる。
【0031】
そして、設定した目標燃料噴射量F*に値1から噴き分け率Rpを減じた値(1−Rp)を乗じたものを筒内目標燃料噴射量Fe*として設定すると共に、目標燃料噴射量F*に噴き分け率Rpを乗じたものをポート目標燃料噴射量Fp*として設定し(ステップS260)、設定した筒内目標燃料噴射量Fe*の筒内への燃料噴射が行なわれるよう筒内用燃料噴射バルブ125を駆動すると共に、設定したポート目標燃料噴射量Fp*の吸気ポートへの燃料噴射が行なわれるようポート用燃料噴射バルブ126を駆動して(ステップS270)、燃料噴射制御ルーチンを終了する。したがって、噴き分け率Rpが値1(100%)となるポート噴射駆動モードでは、筒内目標燃料噴射量Fe*は値0となるから、目標燃料噴射量F*の燃料がポート用燃料噴射バルブ126のみから噴射されることになる。また、噴き分け率Rp値Rp1や値Rp2となる共用噴射駆動モードでは、噴き分け率Rpに応じて目標燃料噴射量F*の燃料が筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とから分配されて噴射されることになる。こうした制御により、ポート噴射駆動モードや共用噴射駆動モードでエンジン22の定常状態のときにエンジン22の空燃比が理論空燃比などの目標空燃比となるよう燃料噴射制御を行なうことができる。
【0032】
設定した駆動モードがポート用燃料噴射バルブ126から燃料噴射を行なうモード(即ち、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モード)であり、エンジン22の運転状態が過渡状態のときには、基本燃料噴射量Fbを補正する必要があると判断し、エンジン22の回転数Neと体積効率KLと吸気バルブ128の開閉タイミングVTとに基づいて、エンジン22の現在の運転状態が定常状態であるとして燃料噴射制御を行なったときの吸気ポートの壁面(吸気ポートの内壁面や吸気バルブ128の吸気ポート側の表面を含む)に付着する燃料量である壁面付着量Qwを導出する(ステップS170)。壁面付着量Qwの導出は、実施例では、エンジン22の回転数Neと体積効率KLと吸気バルブ128の開閉タイミングVTと壁面付着量Qwとの関係を予め実験や解析により求めて壁面付着量導出用マップとしてROM24bに記憶しておき、回転数Neと体積効率KLと開閉タイミングVTとが与えられると記憶したマップから対応する壁面付着量Qwを導出するものとした。壁面付着量Qwは、基本的には、回転数Neや体積効率KLが大きいほど大きくなるように設定される。
【0033】
続いて、前回本ルーチンを実行したときに設定された駆動モードが筒内噴射駆動モードであるか否かを判定し(ステップS180)、前回本ルーチンを実行したときに設定された駆動モードが筒内噴射駆動モードではない(即ち、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードである)と判定されたときには、ポート用燃料噴射バルブ126から燃料噴射を行なうモードを継続していると判断し、次式(1)により壁面付着量Qwから前回本ルーチンを実行したときに導出した壁面付着量Qw(前回Qw)を減じることによって壁面付着量差ΔQwを計算する(ステップS190)。したがって、基本的には、回転数Neや体積効率KLが大きくなる方向に変化する場合には、壁面付着量差ΔQwは正の値となり、回転数Neや体積効率KLが小さくなる方向に変化する場合には、負の値となる。
【0034】
ΔQw=Qw-前回Qw (1)
【0035】
次に、エンジン22の吸気圧Piと冷却水温Twとに基づいて、ポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射量のうち吸気ポートの壁面に付着せずに筒内に直接吸入されることになる燃料量の比率である直接吸入率kw1を導出すると共に、同じく吸気圧Piと冷却水温Twとに基づいて、吸気ポートの壁面に付着している燃料量のうち吸気ポートの壁面から離れて筒内に吸入されることになる燃料量の比率である間接吸入率kw2を導出する(ステップS230)。直接吸入率kw1と間接吸入率kw2との導出は、実施例では、エンジン22の吸気圧Piと冷却水温Twと直接吸入率kw1および間接吸入率kw2との関係を予め実験や解析により求めてそれぞれ直接吸入率導出用マップおよび間接吸入率導出用マップとしてROM24bに記憶しておき、吸気圧Piと冷却水温Twとが与えられると記憶したマップから対応する直接吸入率kw1および間接吸入率kw2を導出するものとした。
【0036】
こうして壁面付着量差ΔQwと直接吸入率kw1と間接吸入率kw2とが得られると、本ルーチンを今回実行した結果として吸気ポートの壁面に付着していると推定される燃料量である壁面付着推定量Qtrnの前回値(前回本ルーチンを実行した結果として吸気ポートの壁面に現在付着していると推定される燃料量)である前回Qtrnを用いて、次式(2)により壁面付着量差ΔQwに直接吸入率kw1を乗じた値と前回Qtrnに間接吸入率kw2を乗じた値との和を吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量Fwとして計算し(ステップS240)、基本燃料噴射量Fbに補正量Fwを加えたものを目標燃料噴射量F*に設定する(ステップS250)。ここで、壁面付着推定量Qtrnは、直接吸入率kw1と壁面付着量差ΔQwと間接吸入率kw2とを用いて式(3)により計算することができる。式(3)は、ポート噴射駆動モードや共用噴射駆動モードでのエンジン22の運転状態の変化に基づく吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応するよう基本燃料噴射量Fbを補正量Fwだけ補正する本ルーチンを今回実行した結果として、吸気ポートに付着していると推定される燃料量を計算するためのものであり、右辺第1項は、壁面付着量差ΔQwのうち筒内に吸入されずに新たに吸気ポートの壁面に付着する燃料量を示し、右辺第2項は、前回Qtrnのうち吸気ポートの壁面から離れず(筒内に吸入されず)に吸気ポートの壁面に付着したまま残る燃料量を示す。
【0037】
Fw=kw1・ΔQw+kw2・前回Qtrn (2)
Qtrn=(1-kw1)・ΔQw+(1-kw2)・前回Qtrn (3)
【0038】
そして、設定した目標燃料噴射量F*と噴き分け率Rpとを用いて筒内目標燃料噴射量Fe*とポート目標燃料噴射量Fp*とを設定し(ステップS260)、設定した筒内目標燃料噴射量Fe*とポート目標燃料噴射量Fp*とを用いて筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とを駆動して(ステップS270)、燃料噴射制御ルーチンを終了する。
【0039】
ステップS180で前回本ルーチンを実行したときの駆動モードが筒内噴射駆動モードであると判定されたときには、筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたと判断し、この切り替え前の筒内噴射駆動モードで燃料噴射を開始したときに(即ち、この筒内噴射駆動モードへの切り替え前のポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードで燃料噴射を終了したときに)吸気ポートの壁面に付着していた燃料量である直噴開始時壁面付着量Qwdstと、この切り替え前の筒内噴射駆動モードの継続時間としてタイマ24dを用いて計測された直噴継続時間Tとを入力し(ステップS200)、入力した直噴開始時壁面付着量Qwdstと直噴継続時間Tに基づいて、この直噴継続時間Tの間に筒内に吸入されずに吸気ポートの壁面に付着した状態で残っている燃料量である壁面付着残余量Qwdを推定する(ステップS210)。ここで、壁面付着残余量Qwdは、実施例では、筒内噴射駆動モードへの切り替え前のポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードで燃料噴射を終了したときに、エンジン22の運転状態が定常状態である場合には壁面付着量Qwを直噴開始時壁面付着量QwdstとしてRAM24cに記憶したものを入力し、また、エンジン22の運転状態が過渡状態である場合には壁面付着推定量Qtrnを直噴開始時壁面付着量QwdstとしてRAM24cに記憶したものを入力するものとした。また、壁面付着残余量Qwdは、実施例では、直噴開始時壁面付着量Qwdstと直噴継続時間Tと壁面付着残余量Qwdとの関係を予め実験などにより求めて壁面付着残余量推定用マップとしてROM24bに記憶しておき、直噴開始時壁面付着量Qwdstと直噴継続時間Tとが与えられると記憶したマップから対応する壁面付着残余量Qwdを導出して推定するものとした。図5に壁面付着残余量推定用マップの一例を示す。図示するように、壁面付着残余量Qwdは、直噴開始時壁面付着量Qwdstが大きいほど大きくなると共に、直噴継続時間Tが長いほど小さくなるように定められている。図中、壁面付着残余量Qwdが値0に至る直噴継続時間Tの一例としての時間T1は、例えば数秒や十数秒などとなる。
【0040】
こうして壁面付着残余量Qwdを推定すると、壁面付着量Qwから壁面付着残余量Qwdを減じたものを壁面付着量差ΔQwとして計算し(ステップS220)、エンジン22の吸気圧Piと冷却水温Twとに基づいて直接吸入率kw1と間接吸入率kw2とを導出すると共に直接吸入率kw1や壁面付着量差ΔQw,間接吸入率kw2を用いて補正量Fwを計算し(ステップS230,S240)、基本燃料噴射量Fbに補正量Fwを加えたものを目標燃料噴射量F*として設定する(ステップS250)。いまは、筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードや共用噴射駆動モードに切り替えるときであるため、回転数Neや体積効率KLが小さくなるときではあるが、壁面付着量差ΔQwは、壁面付着量Qwによって基本的に正の値となると共に、直噴継続時間Tが短いほど壁面付着残余量Qwdが大きくなるために直噴継続時間Tが短いほど小さくなる量として計算される。
【0041】
そして、設定した目標燃料噴射量F*と噴き分け率Rpとを用いて筒内目標燃料噴射量Fe*とポート目標燃料噴射量Fp*とを設定し(ステップS260)、設定した筒内目標燃料噴射量Fe*とポート目標燃料噴射量Fp*とを用いて筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とを駆動して(ステップS270)、燃料噴射制御ルーチンを終了する。
【0042】
いま、筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードや共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたときに、ステップS190の処理のように壁面付着量Qwから前回Qwを減じたものを壁面付着量差ΔQwとして計算する場合を比較例として考える。この比較例の場合、筒内噴射駆動モードが設定されているエンジン22の運転状態に基づく壁面付着量Qwとしての前回Qwは値0となるのに対し、直噴継続時間Tが図5の時間T1より十分に短く筒内噴射駆動モードからの切り替えが指示されたときに吸気ポートの壁面に燃料が付着しており、計算された壁面付着量差ΔQwが実際より多くなる場合が生じる。この場合、こうして計算された壁面付着量差ΔQwを用いた補正量Fwによる燃料噴射量の補正を行なうと、エンジン22の燃料噴射量が多くなり空燃比が目標空燃比より濃く(リッチに)なる場合が生じてしまう。これに対し、実施例では、筒内噴射駆動モードからの切り替えが指示されたときには、直噴継続時間Tが短いほど壁面付着残余量Qwdを大きくして壁面付着量差ΔQwを小さくするから、エンジン22の空燃比が目標空燃比よりリッチになるのを抑制することができる。
【0043】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20に搭載されたエンジンECU24によれば、少なくともポート用燃料噴射バルブ126から燃料を噴射するポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードのときには、エンジン22の運転状態に基づくエンジン22の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量Fbに吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*の燃料噴射が行なわれるようエンジン22を制御し、さらに、筒内用燃料噴射バルブ125のみから燃料を噴射する筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたときには、切り替え前の筒内噴射駆動モードの直噴継続時間Tが短いほど小さくなる傾向に補正量Fwを計算し、基本燃料噴射量Fbに補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*の燃料噴射が行なわれるようエンジン22を制御するから、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードで燃料噴射を開始したときに補正量Fwが過大となってエンジン22の空燃比が目標空燃比より濃くなるのを抑制することができる。この結果、筒内噴射駆動モードからの切り替えが行なわれたときにエンジン22の空燃比が目標空燃比から乖離するのを抑制することができる。
【0044】
実施例のエンジンECU24では、エンジン22の目標燃料噴射量F*は、基本燃料噴射量Fbや基本燃料噴射量Fbに補正量Fwを加えたものとして設定されるものとしたが、さらに、空燃比センサ135aからの空燃比AFを目標空燃比とするためのフィードバック項(比例項と積分項など)を加えるものとしてもよい。この場合、筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが行なわれたときに直噴継続時間Tに応じた補正量Fwによる補正を行なうことによって、その後にエンジン22の空燃比AFが目標空燃比近傍で変動してしまう(乱れる)のを抑制することができる。
【0045】
実施例のエンジンECU24では、筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたときには、切り替え前の直噴継続時間Tが短いほど大きくなる壁面付着残余量Qwdを壁面付着量Qwから減じて壁面付着量差ΔQwを計算することによって、直噴継続時間Tが短いほど補正量Fwを小さくするものとしたが、切り替え前の直噴継続時間Tが短いほど値1より小さくなる補正係数を壁面付着量Qwに乗じて壁面付着量差ΔQwを計算することによって、直噴継続時間Tが短いほど補正量Fwを小さくするなどとしてもよい。
【0046】
実施例のエンジンECU24では、エンジン22の燃料噴射制御における駆動モードとして筒内噴射駆動モードとポート噴射駆動モードと共用噴射駆動モードとが用意されているものとしたが、共用噴射駆動モードは用意されておらず、筒内噴射駆動モードとポート噴射駆動モードのみが用意されているものとしてもよい。
【0047】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20に搭載された内燃機関の制御装置の形態に適用して説明したが、走行用の動力源としてエンジンのみを備える自動車や、自動車以外の車両や船舶,航空機などの移動体に搭載される内燃機関の制御装置の形態としてもよいし、建設設備などの移動しない設備に組み込まれた内燃機関の制御装置の形態としても構わない。
【0048】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とを有するエンジン22が「内燃機関」に相当し、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードで継続してエンジン22が運転されておりエンジン22の運転状態が過渡状態のときにはエンジン22の運転状態に基づくエンジン22の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量Fbに吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*を設定する一方で筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたときには切り替え前の筒内噴射駆動モードの直噴継続時間Tが短いほど小さくなるように補正量Fwを計算して目標燃料噴射量F*を設定してこの目標燃料噴射量F*でエンジン22を制御する図3の燃料噴射制御ルーチンを実行するエンジンECU24が「燃料噴射制御手段」に相当する。
【0049】
ここで、「内燃機関」としては、エンジン22に限定されるものではなく、筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有するものであれば如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「燃料噴射制御手段」としては、ポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードで継続してエンジン22が運転されておりエンジン22の運転状態が過渡状態のときにはエンジン22の運転状態に基づくエンジン22の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量Fbに吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量Fwを加えて得られる目標燃料噴射量F*を設定する一方で筒内噴射駆動モードからポート噴射駆動モードまたは共用噴射駆動モードへの切り替えが指示されたときには切り替え前の筒内噴射駆動モードの直噴継続時間Tが短いほど小さくなるように補正量Fwを計算して目標燃料噴射量F*を設定してこの目標燃料噴射量F*でエンジン22を制御するものに限定されるものではなく、ポート噴射モードのときには、内燃機関の運転状態に基づく内燃機関の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量に吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量を加えて得られる目標燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう内燃機関を制御し、筒内噴射モードからポート噴射モードへの切り替えが指示されたときには、切り替え前の筒内噴射モードの継続時間が短いほど小さくなる傾向に補正量を設定し、基本燃料噴射量に設定した補正量を加えて得られる目標燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう内燃機関を制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0050】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、内燃機関の制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、24d タイマ、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、125 筒内用燃料噴射バルブ、126 ポート用燃料噴射バルブ、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、134a 温度センサ、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136 スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、158 圧力センサ,159 ノックセンサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関への燃料噴射が前記筒内用燃料噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードと少なくとも前記ポート用燃料噴射弁から燃料を噴射するポート噴射モードとを切り替えて行なわれるよう前記内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記ポート噴射モードのときには、前記内燃機関の運転状態に基づく前記内燃機関の空燃比を目標空燃比とするための基本燃料噴射量に前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量の変化に対応する補正量を加えて得られる目標燃料噴射量の燃料噴射が行なわれるよう前記内燃機関を制御する燃料噴射制御手段を備え、
前記燃料噴射制御手段は、前記筒内噴射モードから前記ポート噴射モードへの切り替えが指示されたときには、前記切り替え前の前記筒内噴射モードの継続時間が短いほど小さくなる傾向に前記補正量を設定する手段である、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置であって、
前記燃料噴射制御手段は、前記切り替えが指示されたときには、前記切り替え前の前記筒内噴射モードで燃料噴射を開始したときに前記吸気ポートの壁面に付着していた燃料量のうち前記継続時間の間に前記筒内に吸入された量を除いた残余の燃料量が反映されるよう前記補正量を設定する手段である、
内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の内燃機関の制御装置であって、
前記燃料噴射制御手段は、前記ポート噴射モードのときには、前記内燃機関の定常状態で前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量についての前記内燃機関の運転状態の変化後の量から該変化前の量を減じて得られる壁面付着量差に、前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射量としての前記壁面付着量差のうち前記筒内に吸入される燃料量の比率である第1の比率を乗じた値と、前記吸気ポートの壁面に現在付着していると推定される燃料量である壁面付着推定量に、前記壁面付着推定量のうち前記筒内に今回吸入される比率である第2の比率を乗じた値と、の和を前記補正量として設定する手段であり、
更に、前記燃料噴射制御手段は、前記切り替えが指示されたときには、前記内燃機関の運転状態に基づいて該運転状態が定常状態であるとしたときの前記吸気ポートの壁面に付着する燃料量から前記残余の燃料量を減じた値を、前記壁面付着量差として用いて、前記補正量を設定する手段である、
内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記筒内燃料噴射弁からの燃料噴射量と前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射量との割合を示す噴き分け率を設定し、前記ポート噴射モードのときには前記設定した吹き分け率に応じて前記目標燃料噴射量の燃料が前記筒内用燃料噴射弁と前記ポート用燃料噴射弁とから分配されて噴射されるよう前記内燃機関を制御する手段である、
内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87681(P2013−87681A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228288(P2011−228288)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】