説明

内燃機関の制御装置

【課題】複数のコアを有するマルチコアプロセッサを用いて演算処理を行う内燃機関において、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行う。
【解決手段】吸気バルブおよび排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを可変させる可変動弁機構を備え、内燃機関の運転状態に応じて前記可変動弁機構を作動させる内燃機関の制御装置であって、複数のコアが搭載されたマルチコアプロセッサを有し、内燃機関の動作に関わる種々の演算のタスクを複数のコアに割り当てて並列に演算を行う演算手段と、可変動弁機構の作動が停止される場合に、停止前に比して前記演算手段に用いるコア数を減ずる制御手段と、を備える。好ましくは、可変動弁機構の動作に関連する演算のタスクを複数のコアから指定された1または複数の指定コアに割り当て、可変動弁機構の作動が停止される場合に当該指定コアを休止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、複数のコアを有するマルチコアプロセッサを用いて演算を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2008−269487号公報に開示されるように、マルチコア構成およびキャッシュメモリ搭載構成の少なくとも一方が採用されたマイクロコンピュータを備えたエンジン制御用電子制御装置において、エンジン停止中の消費電力を低減するための技術が開示されている。CPUコアおよびキャッシュメモリは、何れもマイクロコンピュータにおいて消費電力の大きい要素である。そこで、上記従来の技術では、エンジン動作中は、CPUコアおよびキャッシュメモリをフルに使用して最高の処理能力を発揮させるモードが選択されるとともに、エンジンの停止中は、CPUコアの使用数やキャッシュメモリの使用量をエンジン動作時よりも減ずるためのモードが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−269487号公報
【特許文献2】特表2009−541636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の制御モデルを用いた内燃機関のモデルベース制御では、複数のコアを有するマルチコアプロセッサを用いて並列演算処理を行うことにより、演算の高速化を図ることができる。但し、使用コア数が増加すると演算負荷が増加し、これに伴い消費電力も増加する傾向がある。このため、消費電力の低減の観点からは、演算負荷に応じた効率的な演算資源配分を行うことが好ましい。この点、上述した従来の装置では、エンジン動作中の演算資源配分については何ら考慮されておらず、未だ改良の余地を残すものであった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、複数のコアを有するマルチコアプロセッサを用いて演算処理を行う内燃機関において、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、吸気バルブおよび排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを可変させる可変動弁機構を備え、内燃機関の運転状態に応じて前記可変動弁機構を作動させる内燃機関の制御装置であって、
複数のコアが搭載されたマルチコアプロセッサを有し、内燃機関の動作に関わる種々の演算のタスクを前記複数のコアに割り当てて並列に演算を行う演算手段と、
前記可変動弁機構の作動が停止される場合に、停止前に比して前記演算手段に用いるコア数を減ずる制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記制御手段は、前記可変動弁機構が作動される場合に、作動前に比して前記演算手段に用いるコア数を増加させることを特徴としている。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記演算手段は、前記可変動弁機構の動作に関連する演算のタスクを、前記複数のコアから指定された1または複数の指定コアに割り当てる手段を含み、
前記制御手段は、前記可変動弁機構の作動が停止される場合に、前記指定コアを休止させることを特徴としている。
【0009】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記内燃機関の所定時間先の燃料噴射量を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された燃料噴射量に基づいて、所定時間先における前記可変動弁機構の作動状況を予測する予測手段と、を更に備え、
前記制御手段は、前記予測手段によって予測された所定時間先における前記可変動弁機構の作動状況に基づいて、前記演算手段に用いるコア数の増減を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、VVTの作動が停止される場合に、停止前に比して使用コア数が減らされる。VVTの動作が行われていない期間は、VVTの進角量(又は遅角量)の演算を行う必要がないため、解くべきモデル式の次数がVVTの停止前に比して減少する。このため、本発明によれば、演算負荷の減少に応じて使用コア数を減らすことができるので、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことが可能となる。
【0011】
第2の発明によれば、VVTが作動される場合に、作動前に比して使用コア数が増加される。このため、本発明によれば、解くべきモデル次数の増加に応じて使用コア数を増加させることができるので、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことが可能となる。
【0012】
第3の発明によれば、VVTの動作に関連する演算のタスクが1または複数の指定コアに割り当てられる。そして、VVTの動作が停止された場合に、当該指定コアの使用が休止される。このため、本発明によれば、VVTの動作が行われていない期間に不要となる演算を有効に停止して、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことが可能となる。
【0013】
第4の発明によれば、所定時間先の燃料噴射量に基づいて、所定時間先のVVTの作動状況が予測される。このため、本発明によれば、VVTの作動が停止される時期を前もって把握することができるので、内燃機関の将来の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を事前に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態としての内燃機関システムの概略構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1としての内燃機関の制御システムの概要を示す図である。制御システムは、制御対象である内燃機関2と、内燃機関2が備える複数のアクチュエータを操作してその運転を制御する制御装置4を含んでいる。本実施の形態の内燃機関2はディーゼルエンジンであり、アクチュエータはディーゼルスロットル、EGRバルブ、ターボチャージャの可変ノズル、および吸気バルブおよび/または排気バルブの可変動弁機構(VVT)の4種類である。
【0017】
本実施の形態の制御装置4は、4つのコア6A,6B,6C,6Dが搭載されたマルチコアプロセッサとして構成され、エンジンECUの機能の一部として実現される。図示は省略するが、各コア6はキャッシュ付きのCPUとローカルメモリを備え、コア6同士はバスで接続されている。ローカルメモリには、CPUで実行される各種のプログラムとそのプログラムの実行時に使用される各種のデータが記憶されている。また、バスにはコア間で共有される共有メモリも接続されている。尚、本実施の形態の制御装置4では4つのコアが搭載されたマルチコアプロセッサについて説明するが、制御装置4は、更に複数のコアが搭載された所謂メニーコアプロセッサとして構成されていてもよい。
【0018】
[実施の形態1の特徴的動作]
次に、本実施の形態1の特徴的動作について説明する。本実施の形態にかかる制御装置4は、いわゆるモデルベース制御によってディーゼルエンジン2を制御するものであり、モデル予測を多用して、上述した複数のアクチュエータの制御目標値を計算する。具体的には、ディーゼルエンジン2から制御装置4には、EGR率“egr”、過給圧“pim”、エンジン回転数“Ne”燃料噴射量“Q”を含む各種の情報が所定のクランク角期間毎に取り込まれる。制御装置4は、取り込んだ情報に基づき、ディーゼルスロットルの操作量であるスロットル開度“Dth”、EGRバルブの操作量であるEGRバルブ開度“EGRv”及びVVTの操作量(進角量又は遅角量)“vt”、及び可変ノズルの操作量である可変ノズル開度“VN”をそれぞれ計算し、ディーゼルエンジン2に出力する。
【0019】
また、本実施の形態のシステムでは、マルチコアプロセッサを用いた並列演算処理が実行される。具体的には、エンジンモデルは各サブモデル毎にコア分割される。また、演算負荷の大きいサブモデルは、自動コンパイラにより更に細かくコア分割される。尚、自動コンパイラとしては、例えば、OSCAR(Optimally Scheduled Advanced Multiprocessor)等の公知の並列化コンパイラを用いることができる。コア分割により各コアに振り分けられた演算タスクは、それぞれ各コアによって並列に演算される。
【0020】
ここで、上述したモデルベース制御において、VVTの動作に関連する演算は、内燃機関2の動作中に常に必要なわけではない。すなわち、内燃機関2の定常運転時等、VVTの動作を停止している期間は、当該VVTの進角量または遅角量を算出するための演算を休止しても問題がなく、また、演算を休止することで演算負荷を軽減することも可能となる。
【0021】
そこで、本実施の形態のシステムでは、VVTの動作を停止している期間は、演算に使用するコア数を減ずることとする。具体的には、複数のコアの中から指定された1または複数の指定コア(例えばコア6A)に、上述したVVTの進角量(または遅角量)vtを算出するための演算モデルを割り当てておき、VVTの動作を停止している期間は、当該VVTの動作に関連する演算モデルが割り当てられた指定コアを停止することとする。これにより、不要な演算が行われるコアを有効に停止することができるので、残された演算資源を有効に配分することにより、システム全体として演算負荷の軽減を図ることができる。これにより、タスク抜けを回避して内燃機関の制御を高精度に実現することができる。
【0022】
また、本実施の形態のシステムでは、VVTの動作を開始する時点で、上記停止された指定コアでの演算を再度開始することとする。これにより、VVTの動作に関連する演算の開始に伴う演算負荷の増加を、使用コア数を増加させることで有効に補うことができるので、内燃機関2の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことが可能となる。
【0023】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図2を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図2は、制御装置4が、演算に使用する使用コア数の増減を行うルーチンのフローチャートである。尚、図2に示すルーチンは、内燃機関10の運転中に繰り返し実行されるものとする。また、図2に示すルーチンを実行する前提として、ここでは、VVTの動作に関連する演算モデルが、1又は複数の指定コアに既に割り当てられているものとする。
【0024】
図2に示すルーチンでは、先ず、VVTの動作中か否かが判定される(ステップ100)。その結果、VVTが動作していないと判定された場合には、VVTの進角量vtを算出するための演算が不要であると判断されて、次のステップに移行し、当該VVTの動作に関連する演算モデルが割り当てられた指定コアが停止される(ステップ102)。ここでは、具体的には、VVTの進角量vtの演算モデルが搭載された1または複数の指定コアが停止される。
【0025】
一方、上記ステップ100において、VVTの動作中であると判定された場合には、当該VVTに関する演算が指定コアによって実行される(ステップ104)。
【0026】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、VVTの動作が行われていない期間は、当該VVTの動作に関連する演算が割り当てられたコアが停止される。これにより、不要な演算が行われるコアを有効に停止することができるので、残された演算資源を有効に配分することにより、システム全体として演算負荷の軽減を図ることができる。
【0027】
ところで、上述した実施の形態1においては、本発明をディーゼル機関(圧縮着火内燃機関)の制御に適用した場合について説明したが、本発明はディーゼル機関に限定されるものではなく、ガソリンやアルコールを燃料とする火花点火内燃機関や、その他の各種の内燃機関の制御に適用することが可能である。
【0028】
また、上述した実施の形態1においては、VVTの動作に関連する演算として、進角量(又は遅角量)vtを算出するための演算を例に説明したが、当該指定コアに割り当てる演算はこれらに限られず、VVTの動作が行われていない時に不要となる演算全般に適用することができる。
【0029】
また、上述した実施の形態1においては、VVTの動作が行われていない期間に当該VVTの動作に関連する演算が割り当てられた指定コアを停止することとしているが、停止可能なコアは当該指定コアに限らない。すなわち、VVTの動作が行われていない期間は、エンジンモデルにおいて解くべきモデル式の次数が減少するため、演算負荷が少なからず減少する。このため、VVTの動作が行われていない期間に何れかのコアを停止するとともに、残りの使用コアに演算タスクを振り分けることで、内燃機関の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を行うことが可能となる。
【0030】
また、上述した実施の形態1においては、現時点におけるVVTの作動状態を判定することとしているが、所定時間先の燃料噴射量に基づいて、将来のVVTの作動状態を判定することとしてもよい。具体的には、例えば、32msの噴射量ディレーを行うことで、32ms先のVVTの作動状況を判定することができる。これにより、VVTの動作が停止される時期を前もって把握することができるので、内燃機関の将来の演算負荷に応じた効率的な使用コア配分を事前に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
2 ディーゼルエンジン
4 制御装置
6A,6B,6C,6D コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブおよび排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを可変させる可変動弁機構を備え、内燃機関の運転状態に応じて前記可変動弁機構を作動させる内燃機関の制御装置であって、
複数のコアが搭載されたマルチコアプロセッサを有し、内燃機関の動作に関わる種々の演算のタスクを前記複数のコアに割り当てて並列に演算を行う演算手段と、
前記可変動弁機構の作動が停止される場合に、停止前に比して前記演算手段に用いるコア数を減ずる制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記可変動弁機構が作動される場合に、作動前に比して前記演算手段に用いるコア数を増加させることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記可変動弁機構の動作に関連する演算のタスクを、前記複数のコアから指定された1または複数の指定コアに割り当てる手段を含み、
前記制御手段は、前記可変動弁機構の作動が停止される場合に、前記指定コアを休止させることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の所定時間先の燃料噴射量を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された燃料噴射量に基づいて、所定時間先における前記可変動弁機構の作動状況を予測する予測手段と、を更に備え、
前記制御手段は、前記予測手段によって予測された所定時間先における前記可変動弁機構の作動状況に基づいて、前記演算手段に用いるコア数の増減を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−92108(P2013−92108A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234696(P2011−234696)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】