説明

内燃機関の圧縮比可変機構

【課題】常時回転するピニオンを不要とした圧縮比可変機構において、歯車のフリクションロスを無くし、クランク軸の軸端外方にアクチュエータの配置スペースを確保する。
【解決手段】クランクケース内に回転自在に支持されるクランク軸32のクランクピン35の軸心92と、コンロッド37の大端62の中心93との相対位置を変化させることにより、ピストンのストロークを変化させて圧縮比を変える内燃機関の圧縮比可変機構において、クランクピン35の外周に、クランクピン35の軸心92に対するコンロッド37の大端62の中心93の相対位置を変える偏心カラー36が設けられ、クランク軸32内部を貫通する棒状部材67を介して前記偏心カラー36を回動させるアクチュエータ78が、クランク軸32の軸端部に、クランクケースカバー25に支持されて設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロッドの大端をクランクピンに対して偏心させ、ピストンストロークを変化させて内燃機関の特性を変える圧縮比可変機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の内燃機関(2サイクル)の圧縮比可変機構が開示されている。これは、一定圧縮比運転の場合、クランクケース内に回動可能に支持された内歯歯車内を、ピニオンが常時回転しながらクランクピンに対する偏心カラーの位相を変化させる。内燃機関の圧縮比を変更するときには、内歯歯車を回動させてピストンの上死点の位置を変える構造である。
【0003】
前記従来の圧縮比可変機構においては、一定圧縮比で運転する時でも、ピニオンが、クランクピンに対して常時回転し、かつ常時内歯歯車の内周を転動する構造であるので、クランクピンに対する摩擦や歯車の噛合いに伴うフリクションロスの低減、クランクケース内でのライナーの回動に伴うフリクションロスの低減、及び内歯歯車駆動のための制御モータの配置スペースの確保が課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−72590号公報(第6図〜第9図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常時回転するピニオンを不要とした圧縮比可変機構を提供し、歯車のフリクションロスを無くし、更に、クランク軸の軸端外方にアクチュエータの配置スペースを確保することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決したものであって、請求項1に記載の発明は、
クランクケース(24)内に回転自在に支持されるクランク軸(32)のクランクピン(35)の軸心(92)と、コンロッド(37)の大端(62)の中心(93)との相対位置を変化させることにより、ピストン(39)のストロークを変化させて圧縮比を変える内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)において、
クランクピン(35)の外周に、クランクピン(35)の軸心(92)に対するコンロッド(37)の大端(62)の中心(93)の相対位置を変える偏心カラー(36)が設けられ、クランク軸(32)内部を貫通する棒状部材(67)を介して前記偏心カラー(36)を回動させるアクチュエータ(78)が、クランク軸(32)の一側の軸端部に、クランクケースカバー(25)に支持されて設けられることを特徴とする内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)に関するものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)において、
前記偏心カラー(36)には従動歯車(64)が設けられ、前記棒状部材(67)には前記従動歯車(64)に係合する駆動歯車(68)が設けられ、前記棒状部材(67)の回動によって前記偏心カラー(36)が回動駆動されてクランクピン(35)に対する偏心カラー(36)の位相が変化され、
前記クランク軸(32)と前記棒状部材(67)との間には、前記棒状部材(67)のクランク軸(32)に対する位相を変化させる回動機構(73)が設けられ、前記アクチュエータ(78)により前記回動機構(73)が駆動されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の圧縮比可変機構(22)において、
前記回動機構(73)は、クランク軸(32)に対して軸方向に移動可能な非円形断面の外周を有し、クランク軸(32)内でクランク軸(32)と共に回転する軸方向可動部材(69)と、該軸方向可動部材(69)の内周に形成された早ネジナット(70)と、該早ネジナット(70)と係合するよう前記棒状部材(67)に形成された早ネジボルト(71)とから構成されることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2乃至請求項3の何れかに記載の内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)において、
前記アクチュエータ(78)は、クランクケースカバー(25)の車両進行方向の前側側面に設けられることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)において、
前記内燃機関(3)はクランクピン(35)部への給油通路(85)が、アクチュエータの反対側のクランク軸(32)内部に設けられ、軸端部に備えられたオイルストレーナ(86)を介して潤滑油を供給する給油構造(87)が設けられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明において、
アクチュエータ(78)をクランク軸(32)側方の軸端部に配置したので、内燃機関(3)中央寄りのクランクケース(24)の構造の複雑化が防止され、アクチュエータ(78)は走行風等により効率的に冷却される。
【0012】
請求項2の発明において、
棒状部材(67)のクランク軸(32)に対する位相を、回動機構(73)によって容易に調節可能とされ、かつ構造の簡素化が図られる。
【0013】
請求項3の発明において、
前記軸方向可動部材(69)の軸方向移動に応じて前記棒状部材(67)が回動し、前記駆動歯車(68)と従動歯車(64)を介して、前記偏心カラー(36)が回動されるので、簡易でありながら小型で信頼性の高い前記回動機構(73)の採用によってクランク軸(32)の大型化が防止される。
【0014】
請求項4の発明において、
走行風によって前記クランクケースカバー(25)の表面が冷却されるので、内部のアクチュエータ(78)の冷却性が向上する。
【0015】
請求項5の発明において、
前記回動機構(73)と前記給油構造(87)がクランク軸(32)の左右に振り分けられるので、オイルストレーナ(86)の容積を確保して寿命をのばしながら給油通路(85)を確保しつつ、内燃機関(3)の特性を変化させる構造とされたので、内燃機関の大型化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーユニットを搭載した自動二輪車の側面図である。
【図2】前記パワーユニットのシリンダの中心線、クランク軸、変速機軸を通る断面の展開図である。
【図3】前記パワーユニットのクランク軸及びその近辺の断面拡大図である。
【図4】前記パワーユニットのクランクケースの左面図である。
【図5】は図4の軸方向可動部材付近の拡大図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】図5のVII−VII断面図である。
【図8】クランク軸の軸心線に直交するクランクピン付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係るパワーユニット1を搭載した自動二輪車2の側面図である。パワーユニット1は内燃機関3と変速機4とから成っている。自動二輪車2の車体フレームはヘッドパイプ5と、同ヘッドパイプ5から斜め後方に延出するメインフレーム6と、メインフレーム6の後端から下方に延出するセンターフレーム7と、ヘッドパイプ5から下方に伸びるダウンフレーム8と、メインフレーム6から後方に延出するシートステー9、センターフレーム7の下端とシートステー9の中央を結ぶミッドフレーム10とを備えている。前輪11を支持するフロントフォーク12がヘッドパイプ5によって操向可能に支持され、フロントフォーク12にはステアリングハンドル13が連結されている。また、後輪14を支持するリアフォーク15がセンターフレーム7の後部に上下揺動可能に支持され、シートステー9とリアフォーク15との間にはクッションユニット16が設けられている。パワーユニット1は、ダウンフレーム8とメインフレーム6とセンターフレーム7に支持され、パワーユニット1の動力は、後輪駆動用チェーン17を介して後輪14に伝達されている。メインフレーム6には、パワーユニット1の上方に位置するようにして燃料タンク18が設けられ、シートステー9上には運転者用と同乗者用のタンデム型シート19が取付けられている。内燃機関3から排気管20が延出し、下方へ曲がり、さらに後方へ伸び、後部のマフラー21に接続されている。前記内燃機関3は後述の圧縮比可変機構22を備えている。
【0018】
図2は図1のパワーユニット1の断面の展開図である。図2において、クランクケース24は、左クランクケースカバー25、左クランクケース26、右クランクケース27、右クランクケースカバー28から構成されている。クランクケース24の上方には、シリンダブロック29、シリンダヘッド30、シリンダヘッドカバー31が接続されている。シリンダヘッド30には、点火プラグ46が装着されている。
【0019】
クランク軸32は左側クランク軸60と右側クランク軸61とクランクピン35とからなっている。左側クランク軸60と右側クランク軸61は、左クランクケース26と右クランクケース27とに、それぞれボールベアリング33とローラベアリング34とによって回転可能に支持されている。クランクピン35には、偏心カラー36を介してコンロッド37が連結されている。コンロッド37の他端には、ピストンピン38を介してピストン39が連結されている。ピストン39はシリンダ孔40内で上下運動をする。
【0020】
シリンダヘッド30とシリンダヘッドカバー31との間にカム軸41が設けられている。カム軸41は、その端部に設けられたカム軸従動スプロケット42とクランク軸32に設けられたカム軸駆動スプロケット43とに掛け回されたカム軸駆動チェーン44を介してクランク軸32によって駆動される。クランク軸32の左端部には交流発電機45が設けられている。交流発電機45はロータ45aとステータ45bとからなっている。
【0021】
クランク軸32に隣接して変速機4のメイン軸47とカウンタ軸48が設けられている。これらの軸も、左クランクケース26と右クランクケース27に、それぞれボールベアリングを介して、支持されている。メイン軸47とカウンタ軸48に設けられた複数の歯車によって、常時噛合い式歯車変速機49が構成されている。クランク軸32の右側部分に、変速機駆動歯車50がキーによって固定されている。クランク軸32の動力は、変速機駆動歯車50とメイン軸従動歯車51と多板式クラッチ52とを介して、メイン軸47に伝達される。カウンタ軸48は、この内燃機関の出力軸であり、左クランクケース26から外部へ突出している部分にドライブスプロケット53が設けられ、後輪駆動用チェーン17を介して自動二輪車2の後輪14が駆動される(図1)。
【0022】
カウンタ軸48に隣接してキックスタータ軸54が設けてある。キックスタータ軸54の固定歯車55は、カウンタ軸の空転歯車56、メイン軸の空転歯車57と51、およびクランク軸32に固定されている変速機駆動歯車50を介してクランク軸32を始動回転させることができる。
【0023】
図3は、前記パワーユニット1の要部拡大図であり、クランク軸32及びその近辺の断面が示されている。クランク軸32は左側クランク軸60と右側クランク軸61とクランクピン35とからなっている。クランクピン35には偏心カラー36が相対回動可能に設けられている。偏心カラー36は内周外周共に断面が円形であり、偏心カラー36の外周の中心93はクランクピン35の軸心92に対して偏心している。前記偏心カラー36の外周にコンロッド37の大端62がローラベアリング63を介して接続されている。前記偏心カラー36の一側には、クランクピン35と同軸の従動歯車64が一体的に設けられている。
【0024】
左側クランク軸60に軸方向の小径貫通孔65が設けられ、左端部に非円形断面の穴66が設けられている。非円形断面の穴66と小径貫通孔65とは繋がっている。小径貫通孔65に小径の棒状部材67が貫通装着されている。前記棒状部材67の右端、即ちクランク軸32の中央側に突出する部分に、前記偏心カラー36の従動歯車64に噛合う駆動歯車68が設けられている。
【0025】
図3において、前記非円形断面の穴66に、開放端側から軸方向可動部材69が装着されている。この軸方向可動部材69は非円形断面の外周を備え、前記非円形断面の穴66の中で回転不能であり、軸方向にのみ摺動可能である。この軸方向可動部材69には、内周側に早ネジナット70が形成されている。前記棒状部材67の左端には、前記早ネジナット70に係合する早ネジボルト71が形成され、早ネジナット70内へ延伸している。
【0026】
前記棒状部材67の左方移動は前記駆動歯車68によって規制され、前記棒状部材67の右方移動は棒状部材67に設けられたストッパ72によって規制されている。軸方向可動部材69と、その内部に形成された早ネジナット70と、棒状部材67の端部の早ネジボルト71とによって、棒状部材67を回動させる回動機構73が構成されている。
【0027】
図4はクランクケース24の左面図である。図3と図4とにおいて、左クランクケースカバー25の非円形断面の中心貫通孔25aに、非円形断面のラック部材74が回転不能、軸方向のみ摺動可能に支持されている。ラック部材74は円筒部74aと、同円筒部74aに保持されたラック74bとからなっている。左クランクケースカバー25の外側に制御モータ75が保持され、同制御モータ75の回転軸75aには前記ラック74bに噛合うピニオン76が設けられている。前記制御モータ75とモータ回転軸75aと前記ピニオン76とによって制御モータ組立体77が構成されている。制御モータ75の回転によってラック部材74が軸方向に駆動される。制御モータ組立体77と前記ラック部材74とによって、軸方向可動部材69を軸方向に駆動するアクチュエータ78が構成されている。制御モータ75の外方には鉄板製のモータカバー79が設けられ、アクチュエータ78や回動機構73への塵埃の浸入を防いでいる。
【0028】
図3において、ラック部材74の円筒部74aと回動機構73の軸方向可動部材69とはボールベアリング80によって連結されている。回転することなく軸方向にのみ動くラック部材74によって、ボールベアリング80を介して、クランク軸32と共に回転している軸方向可動部材69が軸方向に動かされる。
【0029】
制御指令によって、制御モータ75の回転軸75aが回転すると、ピニオン76に駆動されて、ラック部材74が軸方向へ動く。この動きによって、ボールベアリング80で連結されている回動部材73の軸方向可動部材69が軸方向へ動く。回動機構73の早ネジナット70と早ネジボルト71の作用によって、棒状部材67がクランク軸32に対して回動し、その端部の駆動歯車68も回動する。駆動歯車68の回動によって、これに噛合う従動歯車64が回動し、従動歯車64と一体の偏心カラー36も回動し、クランクピン35に対する偏心カラー36の位相が変えられ、ピストン39のストロークが変えられる。以上が本実施形態の内燃機関3の圧縮比可変機構22の作用である。圧縮比可変機構22は、アクチュエータ78、ボールベアリング80、回動機構73、棒状部材67、駆動歯車68、従動歯車64、及び偏心カラー36から構成されている。
【0030】
図5は図3の軸方向可動部材69付近の拡大図である。図6は図5のVI−VI断面図である。図6において、クランク軸32の外側にナット46がネジ部46aを介して螺合している。このナット46は交流発電機のロータ45aをワッシャ98を介してクランク軸32に固定するためのものである(図1)。クランク軸32に非円形断面の穴66が設けてあり、そこに非円形断面の外周を備えた軸方向可動部材69が挿入されている。軸方向可動部材69は、クランク軸32に対して回転不可能で、軸方向にのみ摺動可能である。非円形断面の穴66の断面形及び軸方向可動部材69の断面形は、図示の形に限定されず、四角形などの角形断面も可能である。軸方向可動部材69の中心のネジ孔69aに棒状部材67が挿通されている。両者は早ネジナット70と早ネジボルト71によって互いに接続されている。
【0031】
図7は図5のVII−VII断面図である。図7において、左クランクケースカバー25の非円形断面の中心孔25aにラック部材74が挿入されている。ラック部材74は円筒部74a(図では端面が示してある。)とラック部74b(円筒部の端面から手前側へ突出している部分の断面が示してある。)とからなっている。左クランクケースカバー25の非円形断面の中心孔25aは、円筒面と平面とからなっている。ラック部材74の断面も非円形断面であり、左クランクケースカバー25内で回転不能である。ラック74bの歯面74bxは上記平面部に当接して、軸方向に摺動可能である。
【0032】
図5と図7において、ラック部材の中心孔74cに、ボールベアリング80を介して軸方向可動部材69の端部が回転可能に支持されている。ボールベアリングの外輪は、ラック部材の円筒部の段差とC形止め輪97a(図5)によって軸方向移動不可能に固定されている。ボールベアリングの内輪は、軸方向可動部材69の端部の段差とC形止め輪97b(図5)によって軸方向移動不可能に固定されている。軸方向可動部材69の中心孔に棒状部材67の端面が見えている。両者は早ネジナット70と早ネジボルト71によって接続されている。
【0033】
図8は、クランク軸軸心線91に直交するクランクピン35付近の断面図である。図8(a)と図8(b)は、偏心カラー36のクランクピン35に対する位相がアクチュエータ78によって変更された2種類の偏心カラー36の位置を示す図である。クランクピン35の外周に偏心カラー36が回動可能に嵌装されている。クランクピン35の軸心92に対して、偏心カラー36の外周の中心93は偏心している。偏心カラー36の外周にローラベアリング63を介してコンロッド37の大端62が装着されている。図8(a)においては、偏心カラーの厚肉側がクランクピン35より外方(クランク軸軸心91から遠い方)に位置している。図8(b)においては、偏心カラー36の厚肉側がクランクピン35より内方(クランク軸軸心91寄り)に位置している。
【0034】
図8(a)、図8(b)のそれぞれの図にはクランク軸32の回転に応じて移動するクランクピン35の位置が、それぞれ4箇所示されている。大端62の中心93は偏心カラー36の外周の中心93と同じである。図8(a)、(b)には、クランクピン35の軸心92の軌跡94と、大端62の中心93の軌跡95A、95Bが示されている。図にはコンロッド37の小端81も示されている。
【0035】
図8(a)において、大端62の中心93の軌跡95Aは、クランクピン35の軸心92の軌跡94の外側に位置している。大端62の中心93の軌跡95Aの直径96Aは、クランク軸32を中心とした大端62の中心93の縦方向移動範囲に相当する。これはピストン39のストロークと同じである。図8(b)においては、大端62の中心93の軌跡95Bは、クランクピン35の軸心92の軌跡94の内側に位置している。大端62の中心93の軌跡95Bの直径96Bは、この場合のクランク軸32を中心とした大端62の中心93の縦方向移動範囲に相当する。これはこの場合のピストン39のストロークと同じである。
【0036】
図8(a)の場合は、吸気行程においてピストン39を大きく引き下げて大量の混合気を吸入し、圧縮行程においてピストン39を高く押し上げる。図8(b)の場合は、ピストン39の引き下げ量は少なく、ピストン39の押し上げ高さは低い。したがって、図8(a)は高圧縮比の運転状態、図8(b)は低圧縮比の運転状態を示している。このようにして、アクチュエータ78によって偏心カラー36のクランクピン35に対する位相を調節することによって、圧縮比の変更が可能となっている。
【0037】
図3、図8に示されたように、クランクピン35の外周に、クランクピン35の軸心92に対するコンロッド37の大端の中心93の相対位置を変える偏心カラー36が設けられ、クランク軸32内部を貫通する棒状部材67を介して前記偏心カラー36をクランクピン35に対して回動させるアクチュエータ78が、クランク軸32の一側の軸端部に、左クランクケースカバー25に支持されて設けられている。アクチュエータ78がクランク軸32の側方の軸端部に配置されているので、内燃機関3の中央寄りのクランクケース24の構造の複雑化が防止され、また、左クランクケースカバー25及びモータカバー79が走行風等により冷却されるので、アクチュエータ78は効率的に冷却される。
【0038】
図3に示されるように、前記偏心カラー36には従動歯車64が設けられ、前記棒状部材67には前記従動歯車64に係合する駆動歯車68が設けられ、前記棒状部材67の回動によって前記偏心カラー36が回動駆動されてクランクピン35に対する位相が変化される。前記クランク軸32と前記棒状部材67との間には、前記棒状部材67をクランク軸32に対して回動させる早ネジを備えた回動機構73が設けられ、前記アクチュエータ78により前記回動機構73が駆動される。早ネジを備えた回動機構73によって、棒状部材67をクランク軸32に対して容易に回動させることが可能であり、これによって偏心カラー36の位相の調節も容易となり、かつ構造の簡素化が図られている。
【0039】
前記回動機構73は、図3に示されるように、クランク軸32に対して軸方向に移動可能な非円形断面の外周を有し、内周に早ネジナット70が形成され、クランク軸32内でクランク軸32と共に回転する軸方向可動部材69と、前記早ネジナット70と係合するよう前記棒状部材67に形成された早ネジボルト71とから構成されている。前記軸方向可動部材69の軸方向移動に応じて前記棒状部材67が回動し、前記駆動歯車68と従動歯車64を介して、前記偏心カラー36が回動されるので、簡易でありながら小型で信頼性の高い回動機構73の採用によってクランク軸32の大型化が防止されている。
【0040】
図4に示されるように、アクチュエータ78は、左クランクケースカバー25の車両進行方向の前側側面に設けられている。走行風によって前記左クランクケースカバー25の表面が冷却されるので、内部のアクチュエータ78の冷却性が向上する。
【0041】
また、図4に示されるように、アクチュエータ78は、同アクチュエータ78の後側に位置する運転者の足82の位置や、ギヤチェンジペダル83の操作に影響を及ぼさないよう、左クランクケースカバー25の前部に配置されているので、乗り心地に影響を及ぼさない。ギヤチェンジペダル83の後方にフットレスト84が設けてある。
【0042】
図2、図3において、クランクピン35への給油通路85が、アクチュエータ78の反対側のクランク軸32内部に設けられ、軸端部に備えられたオイルストレーナ86を介して潤滑油を供給する給油構造87が設けられている。回動機構73と給油構造87がクランク軸32の左右に振り分けて設けられているので、オイルストレーナ86の容積を確保して寿命をのばしながら給油通路85を確保しつつ、内燃機関3の圧縮特性を変化させる構造となっているので、内燃機関3の大型化が防止されている。
【符号の説明】
【0043】
3…内燃機関、22…圧縮比可変機構、24…クランクケース、25…左クランクケースカバー、31…シリンダヘッドカバー、32…クランク軸、35…クランクピン、36…偏心カラー、37…コンロッド、39…ピストン、62…大端、64…従動歯車、67…棒状部材、68…駆動歯車、69…軸方向可動部材、70…早ネジナット、71…早ネジボルト、73…回動機構、78…アクチュエータ、85…給油通路、86…オイルストレーナ、87…給油構造、91…クランク軸軸心、92…クランクピンの軸心、93…大端の中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(24)内に回転自在に支持されるクランク軸(32)のクランクピン(35)の軸心(92)と、コンロッド(37)の大端(62)の中心(93)との相対位置を変化させることにより、ピストン(39)のストロークを変化させて圧縮比を変える内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)において、
クランクピン(35)の外周に、クランクピン(35)の軸心(92)に対するコンロッド(37)の大端(62)の中心(93)の相対位置を変える偏心カラー(36)が設けられ、クランク軸(32)の内部を貫通する棒状部材(67)を介して前記偏心カラー(36)を回動させるアクチュエータ(78)が、クランク軸(32)の一側の軸端部に、クランクケースカバー(25)に支持されて設けられることを特徴とする内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)。
【請求項2】
前記偏心カラー(36)には従動歯車(64)が設けられ、前記棒状部材(67)には前記従動歯車(64)に係合する駆動歯車(68)が設けられ、前記棒状部材(67)の回動によって前記偏心カラー(36)が回動駆動されてクランクピン(35)に対する偏心カラー(36)の位相が変化され、
前記クランク軸(32)と前記棒状部材(67)との間には、前記棒状部材(67)のクランク軸(32)に対する位相を変化させる回動機構(73)が設けられ、前記アクチュエータ(78)により前記回動機構(73)が駆動されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の圧縮比可変機構(22)。
【請求項3】
前記回動機構(73)は、クランク軸(32)に対して軸方向に移動可能な非円形断面の外周を有し、クランク軸(32)内でクランク軸(32)と共に回転する軸方向可動部材(69)と、該軸方向可動部材(69)の内周に形成された早ネジナット(70)と、該早ネジナット(70)と係合するよう前記棒状部材(67)に形成された早ネジボルト(71)とから構成されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)。
【請求項4】
前記アクチュエータ(78)は、クランクケースカバー(25)の車両進行方向の前側側面に設けられることを特徴とする請求項2乃至請求項3の何れかに記載の内燃機関(3)の圧縮比可変機構(22)。
【請求項5】
前記内燃機関(3)はクランクピン(35)部への給油通路(85)が、アクチュエータ(78)の反対側のクランク軸(32)内部に設けられ、軸端部に備えられたオイルストレーナ(86)を介して潤滑油を供給する給油構造(87)が設けられたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の内燃機関の圧縮比可変機構(22)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96348(P2013−96348A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241816(P2011−241816)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】