説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】CAN通信によりクランキング中のみ送信されるイベントフレームの受信状態に基づいたダイアグコード記憶処理の精度(異常診断精度)を高める。
【解決手段】クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したときに、イベントフレームの途絶時間を積算し、その積算値が所定の判定閾値を越えた場合にダイアグコードを記憶する異常診断を行う。これにより、イベントフレームの途絶が頻繁に発生したり、イベントフレームの途絶が長く継続したりして、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合に、異常が発生したと判断して、ダイアグコードを記憶するようにできるため、実際には異常が発生していないにも拘らず、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合に、不必要にダイアグコードが記憶されてしまうことを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御を行うと共に他の制御手段からCAN通信により送信される情報を受信する始動用の制御手段を備えた内燃機関の始動制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関(エンジン)の始動制御システムにおいては、例えば、特許文献1(特開2008−291763号公報)に記載されているように、エンジンを制御するエンジンECUとは別にパワーマネージメントECUを設け、エンジンECUとパワーマネージメントECUとの間でCAN(Controller Area Network) 通信により車両情報を送受信すると共に、パワーマネージメントECUでエンジンの始動制御(クランキング制御)を行うことで、エンジン始動時にバッテリ電圧の低下によってエンジンECUがリセット状態になった場合でも、エンジンを始動できるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−291763号公報(図7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンECUとは別に設けた始動用ECU(例えばパワーマネージメントECU)で始動制御を行うシステムにおいては、エンジンECUからCAN通信によりクランキング中のみ送信されるイベントフレームを始動用ECUで受信する仕様が開発されている。このような通信仕様を採用したシステムにおいて、本出願人は、図7に示すように、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したときに、イベントフレーム受信状態フラグを「ERROR」にリセットすると共にダイアグコード記憶用フラグを「ERROR」にリセットし、クランキング終了時にダイアグコード記憶用フラグが「ERROR」の場合には所定の前提条件が成立した後にダイアグコードを記憶する異常診断を研究しているが、その研究過程で次のような新たな課題が判明した。
【0005】
上述した異常診断では、実際には異常が発生していないにも拘らず、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合でも、ダイアグコードが記憶されてしまう。この場合、ディーラー等で車両点検を行ったときに、実際には異常が発生していないにも拘らず、ダイアグコードが記憶されているため、車両の検査を必要以上に実施することになり、余分な作業をさせてしまう。
【0006】
また、上述した異常診断では、クランキング中に異常が発生してイベントフレームの受信が途絶した後、クランキング終了前にイベントフレームの受信状態が正常に戻ったような場合には、実際に異常が発生したにも拘らず、ダイアグコードが記憶されないという欠点もある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、イベントフレームの受信状態に基づいたダイアグコード記憶処理の精度(異常診断精度)を高めることができる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の始動制御を行うと共に他の制御手段からCAN通信によりクランキング中に送信されるイベントフレームを受信する始動用の制御手段を備えた内燃機関の始動制御装置において、始動用の制御手段は、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したときに該イベントフレームの途絶時間を積算し、その積算値が所定の判定閾値を越えた場合にダイアグコードを記憶する異常診断を行うようにしたものである。
【0009】
このようにすれば、イベントフレームの途絶が頻繁に発生したり、イベントフレームの途絶が長く継続したりして、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合に、異常が発生したと判断して、ダイアグコードを記憶することができ、イベントフレームの受信状態に基づいたダイアグコード記憶処理の精度(異常診断精度)を高めることができる。
【0010】
例えば、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合には、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えないため、異常が発生していないと判断して、ダイアグコードが記憶されない。これにより、実際には異常が発生していないにも拘らず、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合に、不必要にダイアグコードが記憶されてしまうことを防止することができる。
【0011】
また、クランキング中にイベントフレームの受信が一時的に途絶した場合、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えれば、異常が発生したと判断して、ダイアグコードが記憶される。これにより、クランキング中に異常が発生してイベントフレームの受信が途絶した後、クランキング終了前にイベントフレームの受信状態が正常に戻ったような場合でも、ダイアグコードを記憶することができる。
【0012】
この場合、請求項2のように、判定閾値は、予め想定した使用環境に応じて設定するようにすると良い。このようにすれば、予め設計段階又は製造段階等で想定した使用環境(例えば外気温や始動制御の頻度等)に応じて判定閾値を変更して、イベントフレームの途絶時間の積算値に対してダイアグコードを記憶する際の感度を敏感側又は鈍感側に変更することができる。
【0013】
また、請求項3のように、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合にはイベントフレーム用のダイアグコードを記憶し、他の制御手段から定期的に送信される定期フレームの受信が途絶した場合には定期フレーム用のダイアグコードを記憶するようにしても良い。このようにすれば、イベントフレーム用のダイアグコードと定期フレーム用のダイアグコードを区別して記憶することができ、ディーラー等で車両の異常を早期に特定することが可能となる。
【0014】
更に、請求項4のように、イベントフレームの途絶時間の積算値を不揮発性メモリ(始動用の制御手段の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の停止中(始動用の制御手段の電源オフ中)もイベントフレームの途絶時間の積算値を保持することができ、次回の始動制御時に、イベントフレームの途絶時間の積算値がリセットされることなく、前回の始動制御時に引き続いてイベントフレームの途絶時間の積算値を更新することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるエンジン始動制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は本実施例の異常診断の実行例を示すタイムチャートである。
【図3】図3は始動制御メインルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4はクランキング制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は受信状態判定ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図6はダイアグコード記憶処理ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は比較例の異常診断の実行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン始動制御システムの概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン(図示せず)を制御するエンジンECU11(他の制御手段)とは別にパワーマネージメントECU12(始動用の制御手段)が設けられている。
【0017】
プッシュスイッチ13の出力信号や、バッテリ14の充電電流を検出する電流センサ15やバッテリ電圧(バッテリ14の電圧)を検出する電圧センサ16等の出力信号は、パワーマネージメントECU12に入力される。このパワーマネージメントECU12は、車両電気システム全体の電源状態を制御する電源切替部17と、エンジンの始動を制御する始動制御部18と、バッテリ14の充電を制御する充電制御部19等を備えている。
【0018】
一方、エンジンの冷却水温を検出する冷却水温センサ20やエンジン回転速度NEを検出する回転速度センサ21等の出力信号は、エンジンECU11に入力される。このエンジンECU11は、始動制御部22と、エンジンの完爆判定を行う完爆判定部23等を備えている。このエンジンECU11の始動制御部22は、完爆判定部23が参照するカウンタとしての役割を担うもので、エンジンの始動を制御する役割は主にパワーマネージメントECU12の始動制御部18が担うようになっている。
【0019】
パワーマネージメントECU12とエンジンECU11は、CAN通信により必要な情報を送受信するようになっている。パワーマネージメントECU12からエンジンECU11へは、プッシュスイッチ13がオンされたことを示すスタータSWフラグ等が送信される。一方、エンジンECU11からパワーマネージメントECU12へは、車両情報(エンジンの状態やトランスミッションの状態等)、エンジン回転速度NE、冷却水温、スタータオフ要求フラグ等が送信される。
【0020】
パワーマネージメントECU12は、プッシュスイッチ13がオンされてスイッチオン信号SSWが電源切替部17に入力されると、電源切替部17からエンジン始動要求信号STSWを始動制御部18へ入力する。始動制御部18は、エンジン始動要求信号STSWに基づいてスタータリレー24に駆動電流を供給してスタータリレー24をON(オン)する。これにより、バッテリ14からスタータ25へ電力が供給されて、エンジンのクランキングが開始される。始動制御部18は、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、エンジンECU11の完爆判定部23からスタータオフ要求フラグが入力されない限り、スタータリレー24に駆動電流を供給してクランキングを継続するが、完爆判定部23からスタータオフ要求フラグが入力されれば、スタータリレー24への駆動電流の供給を停止してスタータリレー24をOFF(オフ)して、エンジンのクランキングを停止する。
【0021】
本実施例では、エンジンECU11は、CAN通信によりクランキング中のみイベントフレームをパワーマネージメントECU12へ送信すると共に電源オン中に定期的に定期フレームをパワーマネージメントECU12へ送信する。
【0022】
また、パワーマネージメントECU12は、後述する図3乃至図6の各ルーチンを実行することで、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したときに、イベントフレームの途絶時間を積算し、その積算値が所定の判定閾値を越えた場合にダイアグコードを記憶する異常診断を行う。
【0023】
以下、図2を用いて本実施例の異常診断の実行例を説明する。
まず、始動制御時のクランキング中にイベントフレームの受信が途絶したか否かを判定し、イベントフレームを正常に受信していると判定した場合には、その時点t1 で、イベントフレーム受信状態フラグを「OK」にセットすると共に、ダイアグコード記憶用フラグを「OK」にセットする。
【0024】
その後、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したと判定した場合には、その時点t2 で、イベントフレーム受信状態フラグを「ERROR」にリセットすると共に、クランキング中にイベントフレームの途絶時間を積算して、イベントフレームの途絶時間の積算値を求め、そのイベントフレームの途絶時間の積算値をバックアップRAM(図示せず)等の書き換え可能な不揮発性メモリ(パワーマネージメントECU12の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶する。このイベントフレームの途絶時間の積算値が所定の判定閾値を越えなければ、ダイアグコード記憶用フラグを「OK」に維持する。
【0025】
イベントフレームの途絶時間の積算値は、バックアップRAM等の不揮発性メモリに記憶されているため、エンジン運転後のエンジン停止中(パワーマネージメントECU12の電源オフ中)もイベントフレームの途絶時間の積算値が保持される。
【0026】
その後、次の始動制御時のクランキング中に再びイベントフレームの受信が途絶したか否かを判定し、イベントフレームを正常に受信していると判定した時点t3 で、イベントフレーム受信状態フラグ及びダイアグコード記憶用フラグを「OK」にセットし、その後、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したと判定した時点t4 で、イベントフレーム受信状態フラグを「ERROR」にリセットすると共に、クランキング中にイベントフレームの途絶時間の積算値を求め、そのイベントフレームの途絶時間の積算値をバックアップRAM等の不揮発性メモリに記憶する。
【0027】
その後、イベントフレームの途絶時間の積算値が所定の判定閾値を越えた場合には、その時点t5 で、ダイアグコード記憶用フラグを「ERROR」にリセットし、その後、所定のダイアグコード記憶処理の前提条件が成立してから所定時間が経過した時点t6 で、ダイアグコードを記憶する。
【0028】
以上説明した本実施例の異常診断は、パワーマネージメントECU12によって図3乃至図6の各ルーチンに従って実行される。以下、これらの各ルーチンの処理内容を説明する。
【0029】
[始動制御メインルーチン]
図3に示す始動制御メインルーチンは、プッシュスイッチ13がオン操作されると(スイッチオン信号SSWが入力されると)、所定周期で繰り返し実行される。この場合、プッシュスイッチ13のオン操作は、例えば、僅かな時間だけプッシュされるいわゆる短押しとする。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、後述する図4のクランキング制御ルーチンを実行し、次のステップ102で、後述する図6のダイアグコード記憶処理ルーチンを実行する。
【0030】
[クランキング制御ルーチン]
図4に示すクランキング制御ルーチンは、前記図3の始動制御メインルーチンのステップ101で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、後述する図5の受信状態判定ルーチンを実行することで、各フラグ(イベントフレーム受信状態フラグ、クランキング制御用フラグ、ダイアグコード記憶用フラグ)をそれぞれ「OK」にセットするか又は「ERROR」にリセットする。
【0031】
この後、ステップ202に進み、クランキング制御用フラグが「OK」であるか否かを判定し、クランキング制御用フラグが「OK」であると判定された場合には、受信状態が正常であると判断して、ステップ203に進み、通常制御に移行する。
【0032】
一方、上記ステップ202で、クランキング制御用フラグが「OK」ではない(つまりクランキング制御用フラグが「ERROR」である)と判定された場合には、受信状態が異常であると判断して、ステップ204に進み、じか線やタイムアウト等によるフェールセーフ制御に移行する。
【0033】
この後、ステップ205に進み、クランキング停止条件が成立しているか否かを、例えば、エンジンECU11から送信される情報(スタータオフ要求フラグ、冷却水温、エンジン回転速度NE)や、パワーマネージメントECU12で計測しているクランキング継続時間等に基づいて判定する。
【0034】
このステップ205で、クランキング停止条件が不成立であると判定された場合には、ステップ206に進み、スタータリレー24に駆動電流を供給してスタータリレー24をON(オン)する。これにより、スタータ25へ電力を供給してエンジンのクランキングを開始する又は継続する。
【0035】
その後、上記ステップ205で、クランキング停止条件が成立していると判定された場合には、ステップ207に進み、スタータリレー24への駆動電流の供給を停止してスタータリレー24をOFF(オフ)する。これにより、スタータ25への電力供給を停止してエンジンのクランキングを停止する。
【0036】
[受信状態判定ルーチン]
図5に示す受信状態判定ルーチンは、前記図4のクランキング制御ルーチンのステップ201で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、クランキング中であるか否かを判定し、クランキング中であると判定された場合には、ステップ302に進み、イベントフレームの受信が途絶したか否かを判定する。
【0037】
このステップ302で、イベントフレームの受信が途絶していない(イベントフレームを正常に受信している)と判定された場合には、ステップ303に進み、イベントフレーム受信状態フラグを「OK」にセットする。
【0038】
一方、上記ステップ302で、イベントフレームの受信が途絶していると判定された場合には、ステップ304に進み、イベントフレーム受信状態フラグを「ERROR」にリセットした後、ステップ305に進み、イベントフレームの途絶時間を積算して、イベントフレームの途絶時間の積算値を求め、そのイベントフレームの途絶時間の積算値をバックアップRAM等の不揮発性メモリに記憶する。
【0039】
その後、上記ステップ301で、クランキング中ではないと判定された場合には、ステップ306に進み、直前のイベントフレーム受信状態フラグを保持する(つまり直前のクランキング終了時のイベントフレーム受信状態フラグを保持する)。
【0040】
この後、ステップ307に進み、イベントフレーム受信状態フラグが「ERROR」か又は定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」であるか否かを判定する。ここで、定期フレーム受信状態フラグは、定期フレームの受信が途絶していない(定期フレームを正常に受信している)と判定された場合には、定期フレーム受信状態フラグが「OK」にセットされ、一方、定期フレームの受信が途絶していると判定された場合には、定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」にリセットされる。
【0041】
このステップ307で、イベントフレーム受信状態フラグが「ERROR」か又は定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」であると判定された場合には、その状態が所定時間継続した後、ステップ308に進み、クランキング制御用フラグを「ERROR」にリセットする。
【0042】
一方、上記ステップ307で、イベントフレーム受信状態フラグが「OK」であり且つ定期フレーム受信状態フラグが「OK」であると判定された場合には、その状態が所定時間継続した後、ステップ309に進み、クランキング制御用フラグを「OK」にセットする。
【0043】
この後、ステップ310に進み、イベントフレームの途絶時間の積算値が所定の判定閾値を越えたか否かを判定する。ここで、判定閾値は、予め設計段階又は製造段階等で想定した使用環境(例えば外気温や始動制御の頻度等)に応じて設定されている。
【0044】
このステップ310で、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えていると判定された場合には、ステップ312に進み、ダイアグコード記憶用フラグを「ERROR」にリセットする。
【0045】
一方、上記ステップ310で、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値以下であると判定された場合には、ステップ311に進み、定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」であるか否かを判定し、定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」であると判定された場合には、ステップ312に進み、ダイアグコード記憶用フラグを「ERROR」にリセットする。
【0046】
一方、上記ステップ310でイベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値以下であると判定され、且つ、上記ステップ311で定期フレーム受信状態フラグが「OK」であると判定された場合には、ステップ313に進み、ダイアグコード記憶用フラグを「OK」にセットする。
【0047】
[ダイアグコード記憶処理ルーチン]
図6に示すダイアグコード記憶処理ルーチンは、前記図3の始動制御メインルーチンのステップ102で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ401で、所定のダイアグコード記憶処理の前提条件が成立しているか否かを、例えば、次の(1) 〜(3) の条件によって判定する。
【0048】
(1) IGスイッチがON(電源ON)であること
(2) バッテリ電圧が所定値以上であること
(3) スタータ25がOFF(スタータ25が停止中)であること
【0049】
これら(1) 〜(3) の条件を全て満たせば、ダイアグコード記憶処理の前提条件が成立するが、上記(1) 〜(3) の条件のうちのいずれか1つでも満たさない条件があれば、ダイアグコード記憶処理の前提条件が不成立となる。
このステップ401で、ダイアグコード記憶処理の前提条件が不成立と判定された場合には、ステップ402以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0050】
一方、上記ステップ401で、ダイアグコード記憶処理の前提条件が成立していると判定された場合には、ステップ402以降の処理を次のようにして実行する。まず、ステップ402で、ダイアグコード記憶用フラグが「ERROR」であるか否かを判定し、ダイアグコード記憶用フラグが「OK」であると判定された場合には、ダイアグコードを記憶することなく、本ルーチンを終了する。
【0051】
一方、上記ステップ402で、ダイアグコード記憶用フラグが「ERROR」であると判定された場合には、その状態が所定時間継続した後、ステップ403に進み、ダイアグコードをバックアップRAM等の不揮発性メモリに記憶して、本ルーチンを終了する。
【0052】
以上説明した本実施例では、エンジンECU11からCAN通信によりクランキング中のみ送信されるイベントフレームをパワーマネージメントECU12で受信するシステムにおいて、クランキング中にイベントフレームの受信が途絶したときに、イベントフレームの途絶時間を積算し、その積算値が所定の判定閾値を越えた場合にダイアグコードを記憶する異常診断を行うようにしたので、イベントフレームの途絶が頻繁に発生したり、イベントフレームの途絶が長く継続したりして、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合に、異常が発生したと判断して、ダイアグコードを記憶することができ、イベントフレームの受信状態に基づいたダイアグコード記憶処理の精度(異常診断精度)を高めることができる。
【0053】
例えば、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合には、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えないため、異常が発生していないと判断して、ダイアグコードが記憶されない。これにより、実際には異常が発生していないにも拘らず、クランキング終了直前の僅かな時間だけイベントフレームの受信が途絶したと1回だけ判定された場合に、不必要にダイアグコードが記憶されてしまうことを防止することができる。その結果、ディーラー等で車両点検を行ったときに、不必要なダイアグコードの記憶による余分な作業を行わずに済む。
【0054】
また、クランキング中にイベントフレームの受信が一時的に途絶した場合、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えれば、異常が発生したと判断して、ダイアグコードが記憶される。これにより、クランキング中に異常が発生してイベントフレームの受信が途絶した後、クランキング終了前にイベントフレームの受信状態が正常に戻ったような場合でも、ダイアグコードを記憶することができる。
【0055】
また、本実施例では、予め設計段階又は製造段階等で想定した使用環境(例えば外気温や始動制御の頻度等)に応じて判定閾値を設定するようにしたので、予め設計段階又は製造段階等で想定した使用環境に応じて判定閾値を変更して、イベントフレームの途絶時間の積算値に対してダイアグコードを記憶する際の感度を敏感側又は鈍感側に変更することができる。
【0056】
更に、本実施例では、イベントフレームの途絶時間の積算値をバックアップRAM等の不揮発性メモリに記憶するようにしたので、エンジン停止中(パワーマネージメントECU12の電源オフ中)もイベントフレームの途絶時間の積算値を保持することができ、次回の始動制御時に、イベントフレームの途絶時間の積算値がリセットされることなく、前回の始動制御時に引き続いてイベントフレームの途絶時間の積算値を更新することができる。
【0057】
尚、上記実施例では、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合と、定期フレーム受信状態フラグが「ERROR」の場合(定期フレームの受信が途絶した場合)とで区別せずに共通のダイアグコードを記憶するようにしたが、これに限定されず、例えば、イベントフレームの途絶時間の積算値が判定閾値を越えた場合にはイベントフレーム用のダイアグコードを記憶し、定期フレームの受信が途絶した場合には定期フレーム用のダイアグコードを記憶するようにしても良い。このようにすれば、イベントフレーム用のダイアグコードと定期フレーム用のダイアグコードを区別して記憶することができ、ディーラー等で車両の異常を早期に特定することが可能となる。
【0058】
また、上記実施例では、パワーマネージメントECUを始動用の制御手段として用いるシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、パワーマネージメントECU以外の制御回路(例えば統合照合ECU等)を始動用の制御手段として用いるシステムに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0059】
11…エンジンECU(他の制御手段)、12…パワーマネージメントECU(始動用の制御手段)、13…プッシュスイッチ、14…バッテリ、18…始動制御部、24…スタータリレー、25…スタータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動制御を行うと共に他の制御手段からCAN通信によりクランキング中に送信されるイベントフレームを受信する始動用の制御手段を備えた内燃機関の始動制御装置において、
前記始動用の制御手段は、前記クランキング中に前記イベントフレームの受信が途絶したときに該イベントフレームの途絶時間を積算し、その積算値が所定の判定閾値を越えた場合にダイアグコードを記憶する異常診断を行うことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記判定閾値は、予め想定した使用環境に応じて設定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記始動用の制御手段は、前記イベントフレームの途絶時間の積算値が前記判定閾値を越えた場合にはイベントフレーム用のダイアグコードを記憶し、前記他の制御手段から定期的に送信される定期フレームの受信が途絶した場合には定期フレーム用のダイアグコードを記憶することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記始動用の制御手段は、前記イベントフレームの途絶時間の積算値を不揮発性メモリに記憶することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108426(P2013−108426A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253457(P2011−253457)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】