説明

内燃機関の排ガス再循環装置

【課題】排ガス再循環装置に備えられるEGR制御弁の故障判定の精度を向上する内燃機関の排ガス再循環装置を提供することを目的とする。
【解決手段】内燃機関の運転状態に基づき前記EGR制御弁の開度指令信号を出力する開度指令信号出力手段52と、該開度指令信号出力手段52からの弁開度指令信号を基本成分と該弁基本成分に重畳して生成されている変動成分とに分離する変動成分分離手段54と、該変動成分分離手段54で分離された変動成分の大きさに基づいてEGR制御弁が定常状態にあるか過渡状態にあるかを判定する変動成分判定手段56と、前記変動成分判定手段によって定常状態にあると判定したときに前記EGR制御弁の異常診断を行うEGR制御弁診断装置58とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス再循環装置(以下EGRと略す)に関し、特に、EGR制御弁の故障判定を精度良く行うことに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関からのNOx排出低減として、EGRを設けることが従来から行われている。
そして、従来から排ガス通路と吸気通路とを互いに連結するEGRガス通路内にEGRガス量を制御するEGRガス制御弁を設け、該EGR制御弁に対して、内燃機関の運転状態に応じて定まる目標EGR弁開度になるようにEGR制御弁開度指令信号を出力して開弁量を制御している。
【0003】
しかし、このEGR制御弁が故障してEGR制御弁開度指令信号に対して目標とする正確なEGR弁開度が得られない場合には、内燃機関の排ガス浄化性能、及び内燃機関の出力性能が発揮されない問題がある。そのため、従来からEGR制御弁の故障を正確に精度よく診断する技術に関して、種々の提案がされている。
例えば、特開平10−122058号公報(特許文献1)には、EGR制御弁の目標開度が所定量以上変化するEGR運転条件成立時に、目標開度が変化を開始してから目標開度の変化に追従して変化する実開度を実開度検出手段により検出し、検出した実開度が目標開度に追従して変化していないことを確認したとき、EGR制御弁を含む装置が故障したとものと判定する技術が開示されている。
【0004】
また、特開2007−255251号公報(特許文献2)には、バルブシャフトを備えたEGR制御弁と、前記バルブシャフトの延長上に配置され往復駆動軸を備え該往復駆動軸は軸方向に往復動をなす駆動手段と、制御手段とを有し、前記駆動手段の往復駆動軸は駆動手段作動時にEGR制御弁の中心軸先端を押圧することによってEGR制御弁を解放するように構成され、前記制御手段が駆動手段に対して発信する制御信号のデューティー比が許容範囲内か、或いは範囲を超えているかによって、EGR制御弁に故障が発生しているかを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−122058号公報
【特許文献2】特開2007−255251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、制御弁の故障は、弁駆動部の摺動摩擦抵抗の増大に起因することが多い。弁摺動摩擦の影響を受けると、開度変化の途中でひっかかったり滑ったりを繰り返すステックスリップ現象がおきるなど、特に微小な開度変化に対して偏差が出やすくなる。このため、微小な開度変化に対する追従誤差に着目すると異常現象の早期発見に有利である。
【0007】
しかし、前記特許文献1、2の技術では、実開度との偏差や、駆動制御信号のデューティー比の範囲に基づいて、異常を判定する技術を示しているものであり、微小な開度変化に対する追従誤差に着目しての異常現象の判定技術までは開示されていない。
このように、EGR制御弁の故障判定についは、一層正確な精度での判定技術の改良が必要である。
【0008】
従って、本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、排ガス再循環装置に備えられるEGR制御弁の故障判定の精度を向上できる内燃機関の排ガス再循環装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、排気通路と吸気通路とを連結するEGRガス通路に設けられてEGRガス量を制御するEGR制御弁を備えた内燃機関の排ガス再循環制御装置において、内燃機関の運転状態に基づき前記EGR制御弁の開度指令信号を出力する開度指令信号出力手段と、該開度指令信号出力手段からの弁開度指令信号を基本成分と該弁基本成分に重畳して生成されている変動成分とに分離する変動成分分離手段と、該変動成分分離手段で分離された変動成分の大きさに基づいてEGR制御弁が定常状態にあるか過渡状態にあるかを判定する変動成分判定手段と、前記変動成分判定手段によって定常状態にあると判定したときに前記EGR制御弁の異常診断を行うEGR制御弁診断装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、EGR制御弁の異常診断を行うEGR制御弁診断装置を、EGR制御弁が定常状態にあるときにのみ実行されるため、過渡的な状態における信号を基に判定することによる誤判定を防止できる。
すなわち、EGR制御弁の開度指令値が大きく変動するような過渡状態においては、たとえEGR制御弁が健全であったとしても、EGR制御弁の追従遅れにより開度指令信号と実開度信号に偏差が発生することは不可避である。このような不可避な偏差を異常診断の対象から除去して異常診断の精度を高めることができる。
【0011】
また、EGR制御弁の故障は、弁駆動部の摺動摩擦抵抗の増大に起因することが多く、弁摺動摩擦の影響を受けると、開度変化の途中でひっかかったり滑ったりを繰り返すステックスリップ現象がおきるなど、特に微小な開度変化に対して偏差が出やすくなる。このため、微小な開度変化に対する追従誤差に着目すると異常現象の早期発見に有利である。
本発明では、過渡状態ではない定常状態における開度指令信号と実開度信号を用いることで、微小な開度変化に対する追従誤差に着目した精度のよい異常判定が可能になり異常現象の早期発見に有効である。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、前記変動成分分離手段は、弁開度指令信号から弁開度指令信号の基本成分を算出する基本成分算出部と、前記弁開度指令信号から前記基本成分算出部で算出された基本成分を差し引く加減算器とを有し、該加減算器で前記弁開度指令信号から前記基本成分を差し引いて弁開度指令信号変動成分を算出するとよい。
【0013】
このように、変動成分分離手段を、基本成分算出部と、前記弁開度指令信号から前記基本成分算出部で算出された基本成分を差し引く加減算器とを有して、該加減算器で前記弁開度指令信号から前記基本成分を差し引いて弁開度指令信号変動成分を算出して生成する。
【0014】
そして、この前記基本成分算出部は、変動成分除去不感帯器と、該変動成分除去不感帯器の出力信号を補正する補正ゲイン器と、該補正ゲイン器の出力信号を積分する積分器とを備えて構成されるとよい。
このように基本成分算出部では、変動成分除去不感帯器によって変動成分を除去された信号に補正ゲインを乗算することで、単なるフィルター処理によるノイズ成分の除去に比べて信号の立ち上がり時間をはやめ且つ変動成分の除去においてすぐれた特性を有する。
【0015】
また、本発明において好ましくは、前記変動成分判定手段は、前記加減算器で前記弁開度指令信号から前記基本成分を差し引いて生成された前記弁開度指令信号変動成分の信号が閾値内の信号であるかを判定する定常状態判定器と、該閾値内の出力が一定時間継続したときオンにするオンディレイタイマとを備えて構成されるとよい。
このように構成することによって、定常状態を正確に判定でき、異常診断の精度を高めることができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、前記EGR制御弁診断装置は、EGR制御弁に入力される弁開度指令信号とEGR制御弁の実開度信号とに基づいて診断するとともに、前記EGR制御弁に入力される弁開度指令信号が前記開度指令信号出力手段からの弁開度指令信号であるとよい。
このように構成することによって、EGR制御弁へ入力される弁開度指令信号と、EGR制御弁の実開度信号との偏差に基づくEGR制御弁診断装置における異常診断の精度が高められる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、前記EGR制御弁診断装置は、EGR制御弁に入力される弁開度指令信号とEGR制御弁の実開度信号とに基づいて診断するとともに、前記EGR制御弁に入力される弁開度指令信号が前記変動成分分離手段によって分離された基本成分の信号であるとよい。
【0018】
このように、EGR制御弁に入力される弁開度指令信号が前記変動成分分離手段によって分離された弁開度指令信号の基本成分の信号であるので、EGR制御弁は弁開度指令信号に含まれる変動成分の影響を受けないので、EGR制御弁が変動成分によって小刻みに動くことが防止されて、EGR制御弁の不要な動きが防止されることで耐久性および寿命を向上できる。
【0019】
図9には、EGR制御弁の作動特性を示し、弁開度に対しての弁流量の特性を示している。
弁開度がある開度以上大きくなると弁開度に対して弁流量がほとんど変化しない不感帯領域Rが存在する。この領域においては、小流量変化aに対しても弁開度bを大きく変化させなければならず、微小流量変化に対しも弁開度変化が必要であるためEGR制御弁の開閉作動が頻繁に小刻みに作動する。この小刻みの作動を防止するために開閉作動の開弁度に差を持たせたヒステリシス特性を設けてEGR制御弁が無駄に小刻みに動くことを抑えている。
【0020】
しかし、前記ヒステリシスを設けてのEGR制御弁の開度指令信号では、ヒステリシス特性がONする開度指令信号、OFFする開度指令信号が固定であるため、実際の弁開度指令信号とヒステリシス特性を経た後の弁開度指令信号は、時間平均として見た場合、定常偏差が発生する。定常偏差が発生することにより、弁開度に持続的な振動が発生する恐れがある。
本発明においては、EGR制御弁に入力される開度指令信号が変動成分分離手段によって分離された基本成分の信号であるため、前記のように小刻みの動きや、ヒステリシス特性の作動に基づく振動を抑えることができ、耐久性および寿命を向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内燃機関の運転状態に基づき前記EGR制御弁の開度指令信号を出力する開度指令信号出力手段と、該開度指令信号出力手段からの弁開度指令信号を基本成分と該弁基本成分に重畳して生成されている変動成分とに分離する変動成分分離手段と、該変動成分分離手段で分離された変動成分の大きさに基づいてEGR制御弁が定常状態にあるか過渡状態にあるかを判定する変動成分判定手段と、前記変動成分判定手段によって定常状態にあると判定したときに前記EGR制御弁の異常診断を行うEGR制御弁診断装置と、を備えたので、すなわち、EGR制御弁の開度指令値が大きく変動するような過渡状態においては、たとえEGR制御弁が健全であったとしても、EGR制御弁の追従遅れにより開度指令信号と実開度信号に偏差が発生することは不可避である。このような不可避な偏差を異常診断の対象から除去して異常診断の精度を高めることができる。
【0022】
また、制御弁の故障は、弁駆動部の摺動摩擦抵抗の増大に起因することが多く、弁摺動摩擦の影響を受けると、開度変化の途中でひっかかったり滑ったりを繰り返すステックスリップ現象がおきるなど、特に微小な開度変化に対して偏差が出やすくなる。このため、微小な開度変化に対する追従誤差に着目すると異常現象の早期発見に有利であり、本発明では、過渡状態ではない定常状態における弁開度指令信号と実開度信号を用いることで、微小な開度変化に対する追従誤差に着目した異常判定が可能になり異常現象の早期発見に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の排ガス再循環装置の全体構成図である。
【図2】第1実施形態を示すEGR制御装置の構成ブロック図である。
【図3】第2実施形態を示すEGR制御装置の構成ブロック図である。
【図4】変動成分除去不感帯器の作動を説明する説明図である。
【図5】数値シミュレーション確認試験における基本成分波を示す説明図である。
【図6】数値シミュレーション確認試験結果を示す説明図である。
【図7】図6のE部拡大図である。
【図8】図6のF部拡大図である
【図9】EGR制御弁の弁開度と弁流量の特性を示す説明図である。
【図10】第3実施形態を示す変動成分除去不感帯器の特性図である。
【図11】第4実施形態を示す変動成分除去不感帯器の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0025】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の排ガス再循環装置について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)1は、排気タービン3とこれに同軸駆動されるコンプレッサ5を有する排気ターボ過給機7を備えており、該排気ターボ過給機7のコンプレッサ5から吐出された空気は給気通路9を通って、インタークーラ11に入り給気が冷却された後、吸気スロットルバルブ13で給気流量が制御され、その後、インテークマニホールド15からシリンダ毎に設けられた吸気ポートからエンジン1の吸気弁を介して燃焼室内に流入するようになっている。
【0026】
また、エンジン1においては、燃料の噴射時期、噴射量、噴射圧力を制御して燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射制御装置19が設けられており、該燃料噴射制御装置19によって、各気筒の燃料噴射弁21に対して所定の燃料噴射時期に、所定の燃料圧力に制御された燃料が供給される。
【0027】
また、排気通路23の途中から、EGR(排ガス再循環)通路25が分岐されて、排ガスの一部がEGRクーラ27によって冷却されて吸気スロットルバルブ13の下流部位にEGR制御弁29を介して投入されるようになっている。吸気スロットルバルブ13にはスロットルバルブ制御装置路31が設けられ開閉が制御され、EGR制御弁29に対してはEGR制御装置(排ガス再循環制御装置)33が設けられて、開閉が制御される。
【0028】
エンジン1の燃焼室で燃焼された燃焼ガス即ち排ガス35は、シリンダ毎に設けられた排気ポートが集合した排気マニホールド39及び排気通路23を通って、前記排気ターボ過給機7の排気タービン3を駆動してコンプレッサ5の動力源となった後、排気通路23を通って排ガス後処理装置(不図示)に流入する。
【0029】
制御装置(ECU)41には、エンジン回転数センサ42からエンジン回転数信号、エンジン負荷センサ44からエンジン負荷信号がそれぞれ入力され、さらに、インテークマニホールド15に設けられたインマニ温度センサ46からの検出信号、インマニ圧力センサ48からの検出信号、エアフローメータ50からの検出信号がそれぞれ入力される。
【0030】
EGR制御装置(排ガス再循環制御装置)33には、前記各センサからの信号を基に運転状態に応じたEGR流量を、予め設定されたEGR量マップ、または算出式を用いて算出し、該算出されたEGR量に基づいて、EGR制御弁29の開度指令信号を出力する開度指令信号出力手段52と、該開度指令信号出力手段52からの弁開度指令信号を基本成分と該弁基本成分に重畳して生成されている変動成分とに分離する変動成分分離手段54と、該変動成分分離手段によって分離された弁開度指令信号変動成分の大きさに基づいてEGR制御弁29が定常状態であるか過渡状態であるかを判定する変動成分判定手段56と、を備えている。
そして、該変動成分判定手段56によって定常状態にあると判定したときにEGR制御弁29の異常診断を行うEGR制御弁診断装置58に対して診断を実行させるための定常状態信号を出力するようになっている。
【0031】
図2を参照して、変動成分分離手段54および変動成分判定手段56について説明する。
変動成分分離手段54は、開度指令信号出力手段52から出力される弁開度指令信号から弁開度指令信号の基本成分を算出する基本成分算出部60と、弁開度指令信号から基本成分算出部60で算出した基本成分を差し引く加減算器62とを有し、該加減算器62で弁開度指令信号から基本成分を差し引いて弁開度指令信号変動成分を算出するようになっている。
【0032】
さらに、基本成分算出部60は、変動成分除去不感帯器64と、該変動成分除去不感帯器64の出力信号を補正する基本成分補正ゲイン器(補正ゲイン器)66と、該補正ゲイン器66の出力信号を積分する積分器68とを備えて構成されている。
また、変動成分判定手段56は、加減算器62で弁開度指令信号から基本成分を差し引いて生成された弁開度指令信号変動成分の信号が閾値内の信号であるかを判定する定常状態判定器70と、閾値内の出力が一定時間継続したことを判定して出力するオンディレイタイマ72とを備えて構成されている。
【0033】
次に、変動成分分離手段54の基本成分算出部60について、さらに詳細に説明する基本成分算出部60の説明のために信号にu、z、yを付ける。
なお、

はyを時間微分した信号である。
【0034】
EGR制御弁開度指令信号uの基本成分は零であり、その周りに不規則に変動しているとする。このとき、変動成分除去不感帯器64の設定閾値dの値を1にしたとき出力信号zは図4に示すようになる。uの大きさが1を超えたときだけzが変化しており、uに含まれる微小な変動成分が除去されることが分かる。このように、変動成分除去不感帯器64は、uに含まれる微小な変動成分を除去する機能がある。なお、このdは、uに含まれる微小な変動成分の大きさに応じて調整する。
【0035】
このように、EGR制御弁開度指令信号uは時間平均値が零であるならば、変動成分除去不感帯器64のみによって、EGR制御弁開度指令信号uの変動成分を除去することができる。しかし現実には、EGR制御弁開度指令信号uの基本波成分が零で一定ではないので、EGR制御弁開度指令信号uの基本波成分のみで不感帯を超えてしまう。
このため、変動成分を除去できないので、変動成分除去不感帯器64を有効に機能させるために、EGR制御弁開度指令信号の基本成分yを推定し、それをEGR制御弁開度指令信号uから差し引くことにより、EGR制御弁開度指令信号uの基本波成分の値によらず、変動成分除去不感帯器64への入力信号が零を中心にして変動するようにしている。
【0036】
基本成分補正ゲイン器66の基本成分補正ゲインkは、基本成分の推定速さの調整係数である。変動成分除去不感帯器64の出力信号zが正の値を出力すれば、それにKを乗じた値だけ基本成分yを増やす。zが負の値を出力すれば、それにkを乗じた値だけ基本成分を減じる。この操作を繰り返すことで、EGR制御弁開度指令信号uの定常値に収束する。収束は補正ゲインkを大きくするほど早く収束する。
【0037】
次に、この基本成分算出部60の効果を数値シミュレーションによって確認した結果を説明する。
シミュレーションには、図5に示すその基本波成分に、変動成分として白色雑音を重畳している。図6の実線Xがシミュレーションに使ったEGR制御弁開度指令信号であり、これに対して、実線YがEGR制御弁開度指令信号の基本成分yである。図6のE部の拡大図である図7によると、変動成分が除去されていることが分かる。
【0038】
一般に、変動成分の除去には一次遅れなどのフィルターが使われる。図6、7、8の実線Zは、一次遅れフィルターによる基本成分の推定値

である。例えば、フィルターは時定数0.2秒の一次遅れとした場合には演算式は、次のようにあらわされる。


【0039】
図8は、図6のF部拡大図であり、立ち上がり部分を示している。一次遅れによる
基本成分の推定値

は本実施形態の方式に比べて立ち上がり速度が明らかに遅い。本シミュレーションと同等の立ち上がり速度を得るには、フィルターの時定数を小さくすることが必須であるが、図8に示す通り、一次遅れによる基本成分の推定値

には、変動成分が残っているので、フィルターの時定数を小さくすると変動成分がさらに強く表れるという不都合が生じる。
このシミュレーション結果から、本実施形態の方式は従来のフィルター方式に比して、信号の立ち上がりの点おいても、また変動成分の除去においても優れた特性を有していることが確認できた。
【0040】
次に、図2の全体構成ブロック図に戻って、変動成分判定手段56について説明する。この変動成分判定手段56は、前述したように、定常状態判定器70と、閾値内の出力が一定時間継続したことを判定して出力するオンディレイタイマ72とを備えて構成されており、定常状態判定器70には、EGR制御弁開度指令信号uからEGR制御弁開度指令信号の基本成分yが除かれたERG制御弁開度指令信号変動成分(変動成分)eが入力されて、その信号が、過渡状態の変動成分か過渡状態とは言えない定常状態の変動成分かを設定閾値d内の信号であるかを基に判定する。
【0041】
また、オンディレイタイマ72は定常状態判定器70の出力が、すなわち、設定閾値d内の出力が一定時間継続したことを判定する。
従って、オンディレイタイマ72からON信号が出力された場合には、定常状態にあると判定された判定結果の信号として出力される。
オンディレイタイマによって一定時間の継続を維持した場合に定常状態と判定するため、定常状態を正確に判定でき、異常診断の精度を高めることができる。
【0042】
そして、図2に示すように、オンディレイタイマ72から出力された定常状態の信号は、EGR制御弁診断装置58に出力される。EGR制御弁診断装置58は、EGR制御弁29が正常に作動しているかを診断するために、EGR制御弁開度指令信号uの信号を取り込み、すなわち、過渡状状態ではない定常状態時の指令値とEGR制御弁29の実測値とを取り込み、弁開度偏差hを算出して、該偏差hの絶対値|h|が許容値より大きいか否かによって診断する。
この許容値は、EGR制御弁29の使用時において、許容される|h|の上限値を意味する。また、この許容値はEGR制御弁29の個々において予め設定されている。
|h|が許容値より大きい場合に、その状態が一定時間継続したときは、EGR制御弁29が異常と判断してその結果を報知する。
【0043】
以上のような、第1実施形態によれば、EGR制御弁29の異常診断を行うEGR制御弁診断装置58を、EGR制御弁が定常状態にあるときにのみ実行されるため、過渡的な状態における信号を基に判定することによる誤判定を防止できる。
すなわち、EGR制御弁29の開度指令値が大きく変動するような過渡状態においては、たとえEGR制御弁29が健全であったとしても、EGR制御弁29の追従遅れにより開度指令信号と実開度信号に偏差|h|が発生すると共に、大きい偏差として発生するため、異常と誤判定することは避けられない。このような不可避な偏差を異常診断の対象から除去して異常診断の精度を高めることができる。
【0044】
また、EGR制御弁29の故障は、弁駆動部の摺動摩擦抵抗の増大に起因することが多く、弁摺動摩擦の影響を受けると、開度変化の途中でひっかかったり滑ったりを繰り返すステックスリップ現象がおきるなど、特に微小な開度変化に対して偏差が出やすくなる。このため、微小な開度変化に対する追従誤差に着目すると異常現象の早期発見に有利である。
従って、過渡状態ではない定常状態における開度指令信号と実開度信号を用いることで、微小な開度変化に対する追従誤差に着目した精度良い異常判定が可能になり異常現象の早期発見に有効である。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態を、図3の構成ブロック図を参照して説明する。第2実施形態は、第1実施形態のEGR制御弁29に入力されていたEGR制御弁開度指令信号uに代えて、変動成分分離手段54を通過して分離されたEGR制御弁開度指令信号の基本成分の信号をEGR制御弁29に入力するものである。その他の構成は、第1実施形態と同様であり説明は省略する。
図3に示すように、第2実施形態では、EGR制御弁29に入力される開度指令信号が変動成分分離手段54によって分離された弁開度指令信号の基本成分の信号であるので、EGR制御弁29は弁開度指令信号に含まれる変動成分の影響を受けないため、EGR制御弁29変動成分によって小刻みに動くことが防止されて、EGR制御弁29の不要な動きが防止されることで耐久性を向上でき、EGR制御弁29の寿命を延ばすことができる。
【0046】
図9に示すように、EGR制御弁の特性には不感帯領域Rが存在し、その領域においては無駄な小刻みな動き、さらには、この小刻みな動きを防止するためにヒステリシス機能を付与しても持続的な振動が生じる問題があるが、本第2実施形態によれば、EGR制御弁29に入力される開度指令信号が、変動成分分離手段54によって分離された弁開度指令信号の基本成分による信号で作動するため、このような小刻みの動きや、持続的な振動を回避することができ、EGR制御弁の耐久性を向上し、EGR制御弁29の寿命を延長できる。
【0047】
また、変動成分分離手段54によって分離された弁開度指令信号の基本成分の信号によってEGR制御弁29の作動が制御されるため、EGR制御弁29の弁開度の制御が正確かつ確実に実行される。
さらに、前記第1実施形態で説明したように、変動成分分離手段54によって分離された弁開度指令信号の基本成分の信号は、従来の一次遅れフィルター方式に比して、信号の立ち上がりの点おいても、また変動成分の除去においても優れた特性を有しているため、EGR制御弁29の作動自体の応答性が向上し、エンジンの排ガス性能の向上さらにエンジンの出力性能の向上にも効果的である。
【0048】
すなわち、第2実施形態によれば、第1実施形態によって得られるEGR制御弁29の異常診断を行うEGR制御弁診断装置58の故障判定精度を向上する作用効果に加えて、EGR制御弁の耐久性を向上して寿命を延長でき、さらに、EGR制御弁29自体による排ガス浄化作用の向上をも得ることができる。
【0049】
(第3実施形態)
第3実施形態を、図10を参照して説明する。第1実施形態および第2実施形態では、基本成分算出部60において変動成分除去不感帯器64を用いている。
しかし、本願の作用効果は前記変動成分除去不感帯器64に設定される変動成分除去関数のような設定閾値dを閾値にしてゼロになる特性に限るものではない。第3実施形態は、図10に示す変動成分除去不感帯器74のように、ゼロの不感帯に替えて原点付近の傾きを小さく設定した変動成分除去関数を用いている。
これによって、第1実施形態および第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
(第4実施形態)
第4実施形態を、図11を参照して説明する。第4実施形態は、変動成分除去不感帯器76に設定される変動成分除去関数が、図11のように設定閾値dからステップ状に立ち上がってから傾斜状に上昇する特性のものである。このような変動成分除去関数を用いても、第1実施形態および第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
第1実施形態〜第4実施形態のように、原点付近でゼロまたは、勾配を小さくことが本質的であり、そのような特性に設定すれば、本願の効果を得ることは可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、排ガス再循環装置に備えられるEGR制御弁の故障判定の精度を向上できるので、内燃機関の排ガス再循環装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン(内燃機関)
9 吸気通路
13 吸気スロットルバルブ
19 燃料噴射制御手段
23 排気通路
25 EGRガス通路
29 EGR制御弁
33 EGR制御装置
41 制御装置
52 開度指令信号出力手段
54 変動成分分離手段
56 変動成分判定手段
58 EGR制御弁診断装置
60 基本成分算出部
62 加減算器
64、74、76 変動成分除去不感帯器
66 基本成分補正ゲイン器
68 積分器
70 定常状態判定器
72 オンディレイタイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路と吸気通路とを連結するEGRガス通路に設けられてEGRガス量を制御するEGR制御弁を備えた内燃機関の排ガス再循環装置において、
内燃機関の運転状態に基づき前記EGR制御弁の開度指令信号を出力する開度指令信号出力手段と、
該開度指令信号出力手段からの弁開度指令信号を基本成分と該弁基本成分に重畳して生成されている変動成分とに分離する変動成分分離手段と、
該変動成分分離手段で分離された変動成分の大きさに基づいてEGR制御弁が定常状態にあるか過渡状態にあるかを判定する変動成分判定手段と、
前記変動成分判定手段によって定常状態にあると判定したときに前記EGR制御弁の異常診断を行うEGR制御弁診断装置と、を備えたことを特徴とする内燃機関の排ガス再循環装置。
【請求項2】
前記変動成分分離手段は、弁開度指令信号から弁開度指令信号の基本成分を算出する基本成分算出部と、前記弁開度指令信号から前記基本成分算出部で算出された基本成分を差し引く加減算器とを有し、該加減算器で前記弁開度指令信号から前記基本成分を差し引いて弁開度指令信号変動成分を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排ガス再循環装置。
【請求項3】
前記基本成分算出部は、変動成分除去不感帯器と、該変動成分除去不感帯器の出力信号を補正する補正ゲイン器と、該補正ゲイン器の出力信号を積分する積分器とを備えて構成されることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排ガス再循環装置。
【請求項4】
前記変動成分判定手段は、前記加減算器で前記弁開度指令信号から前記基本成分を差し引いて生成された前記弁開度指令信号変動成分の信号が閾値内の信号であるかを判定する定常状態判定器と、該閾値内の出力が一定時間継続したときオンにするオンディレイタイマとを備えて構成されることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排ガス再循環装置。
【請求項5】
前記EGR制御弁診断装置は、EGR制御弁に入力される弁開度指令信号とEGR制御弁の実開度信号とに基づいて診断するとともに、前記EGR制御弁に入力される弁開度指令信号が前記開度指令信号出力手段からの弁開度指令信号であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排ガス再循環装置。
【請求項6】
前記EGR制御弁診断装置は、EGR制御弁に入力される弁開度指令信号とEGR制御弁の実開度信号とに基づいて診断するとともに、前記EGR制御弁に入力される弁開度指令信号が前記変動成分分離手段によって分離された基本成分の信号であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排ガス再循環装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−67637(P2012−67637A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211406(P2010−211406)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】