説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】NOx捕捉触媒で捕捉したNOxを適切なタイミングで放出することにより、NOx捕捉触媒のNOx捕捉性能を高め、高いNOx浄化率が得られる内燃機関の排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】エンジン2の排気管4に設けられて、少なくともAgを担持することで排気中のNOxを捕捉するAg触媒42と、Ag触媒42の下流側の排気管4に設けられて、排気中のNOxを浄化するLNC43と、Ag触媒42の上流側の排気管4において、水素を供給または生成することでAg触媒42に水素を供給する水素供給手段と、Ag触媒42に捕捉されたNOxを放出するか否かを判定する放出判定手段と、放出判定手段によりAg触媒42に捕捉されたNOxを放出すると判定されたときに、水素供給手段によりAg触媒42に水素を供給することにより、Ag触媒42に捕捉されたNOxを還元して放出させる放出実行手段と、を備える排気浄化装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。詳しくは、内燃機関の排気中のNOxを捕捉するNOx捕捉触媒と、NOxを浄化するNOx浄化触媒と、を備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される内燃機関(以下、「エンジン」という)、特にディーゼルエンジン等の希薄燃焼式エンジンでは、排気中に多量のNOxが含まれる。この排気中に含まれるNOxを低減する技術として、排気通路内に配置されたアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び白金等を含有するDeNOx触媒の上流に水素富化手段を設け、この水素富化手段で生成する水素含有気体を、下流に配置されたDeNOx触媒に導入する技術が提案されている(特許文献1参照)。
この技術では、水素富化手段として、炭化水素燃料の改質反応が利用され、具体的には、酸化剤の種類に応じて部分酸化反応や水蒸気改質反応が利用される。この技術によれば、水素富化手段にて、一酸化炭素及び炭化水素から水素を生成させ、生成した水素をNOxの還元剤として利用することにより、NOxを浄化する。
【0003】
ところが、上記特許文献1の技術では、低温領域におけるNOx浄化率が不十分であった。そこで、低温領域において高いNOx浄化率が得られる技術として、Agを含むNOx捕捉触媒の上流に、水素を含む還元性気体を導入する技術が提案されている(特許文献2参照)。
この技術では、水素を含む還元性気体の導入により、低温領域からNOxの捕捉が促進される。捕捉されたNOxは、NOx捕捉触媒を昇温させることにより放出され、放出されたNOxは、下流に配置されたNOx浄化触媒により浄化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3642273号公報
【特許文献2】特開2009−112967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のNOx捕捉触媒は、低温領域から高いNOx捕捉性能を発揮するものの、NOx捕捉量が増大するにつれて、NOx捕捉性能が低下する特性がある。このため、例えば自動車の走行中に大量のNOxを捕捉したままエンジンを停止し、エンジンが冷却された後に再び運転を開始した場合にあっては、十分なNOx捕捉性能を発揮できず、高いNOx浄化率が得られない。従って、次の運転開始時(始動時)に備えて、NOx捕捉触媒で捕捉したNOxを適切なタイミングで放出することが必要である。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、NOx捕捉触媒で捕捉したNOxを適切なタイミングで放出することにより、NOx捕捉触媒のNOx捕捉性能を高め、NOx浄化率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明に係る内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の排気浄化装置(例えば、後述の排気浄化装置1)は、内燃機関の排気通路(例えば、後述の排気管4)に設けられて、少なくともAgを担持することで排気中のNOxを捕捉するNOx捕捉触媒(例えば、後述のAg触媒42)と、当該NOx捕捉触媒の下流側の排気通路に設けられて、排気中のNOxを浄化するNOx浄化触媒(例えば、後述のLNC43)と、前記NOx捕捉触媒の上流側の排気通路において、水素を供給または生成することで前記NOx捕捉触媒に水素を供給する水素供給手段(例えば、後述の燃料改質器8、改質ガス供給バルブ51、改質ガス供給通路52、ECU7)と、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出するか否かを判定する放出判定手段(例えば、後述のECU7)と、前記放出判定手段により前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定されたときに、前記水素供給手段により前記NOx捕捉触媒に水素を供給することにより、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを還元して放出させる放出実行手段(例えば、後述の燃料改質器8、改質ガス供給バルブ51、改質ガス供給通路52、ECU7)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
Agを担持してなるNOx捕捉触媒は、ある一定濃度以上の水素共存下であれば、捕捉したNOxの放出を開始する温度が低温化する特性がある。そこで、本発明では、この特性を利用し、NOx捕捉触媒からNOxを放出させる際に、水素を供給する。これにより、NOx放出開始温度を低温化でき、低温領域においてNOxが還元されて放出される。このとき、NOxはNにまでは還元されず、NOxとして放出されるため、低温領域での放出が可能となっている。放出されたNOxは、下流側に配置されたNOx浄化触媒により捕捉されて還元浄化される。
従って、本発明によれば、NOx捕捉触媒からNOxを効率良く放出して今回運転サイクル内でNOxの放出を完了させることができ、NOx捕捉触媒のNOx捕捉量がほぼゼロの状態にすることができる。このため、次回運転時(始動時)において、NOx捕捉触媒は高いNOx捕捉性能を発揮でき、NOx浄化率、ひいては始動時のエミッションを向上できる。
【0009】
また、本発明では、前記NOx浄化触媒の温度を検出または推定するNOx浄化触媒温度検出手段(例えば、後述の第2排気温度センサ91B、ECU7)と、当該NOx浄化触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx浄化触媒の温度が、前記NOx浄化触媒が活性化する活性温度領域にあるか否かを判定する活性判定手段(例えば、後述のECU7)と、をさらに備え、前記放出判定手段は、前記活性判定手段により前記NOx浄化触媒の温度が前記活性温度領域にあると判定されたときに、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定することが好ましい。
【0010】
この発明では、NOx浄化触媒の温度が、NOx浄化触媒が活性化する活性温度領域にあるときに、NOx捕捉触媒のNOxを放出する。これにより、NOx捕捉触媒から放出されたNOxは、下流側に配置されたNOx浄化触媒により、確実に捕捉されて還元浄化される。
また、NOx浄化触媒が活性化しているときに、NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを随時放出するため、多量のNOxがNOx捕捉触媒に捕捉されたままの状況を回避でき、高いNOx捕捉性能を維持できる。
【0011】
また、本発明では、前記排気通路内を流通する排気の流量を検出または推定する排気流量検出手段(例えば、後述のエアフローセンサ93、ECU7)と、前記排気流量検出手段により検出または推定された排気流量が少ないほど、前記活性温度領域を拡大する補正手段(例えば、後述のECU7)と、をさらに備えることが好ましい。
【0012】
排気通路内を流通する排気の流量が少ないほど、排気の速度が遅いため、NOx浄化反応はより進行する。このため、排気流量が少ないほど、NOx浄化触媒におけるNOx捕捉能が高く、NOx浄化率も高い。そこで、この発明では、排気流量が少ないときほど、NOx浄化触媒の活性温度領域を拡大する補正をする。これにより、排気流量に応じて、NOx浄化触媒が活性温度領域にあるか否かをより正確に判定できるため、NOx捕捉触媒で捕捉したNOxをより適切なタイミングで放出でき、より確実にNOx浄化触媒で浄化できる。
なお、「活性温度領域」とは、ある一定値以上のNOx浄化率が得られる温度領域を意味する。
【0013】
また、本発明では、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxの捕捉量を推定するNOx捕捉量推定手段(例えば、後述の第1排気温度センサ91A、クランク角センサ94、アクセル開度センサ95、ECU7)と、前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段(例えば、後述の第1排気温度センサ91A、ECU7)と、当該NOx捕捉触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx捕捉触媒の温度に基づいて、前記NOx捕捉触媒の限界堆積量を決定する限界堆積量決定手段(例えば、後述の第1排気温度センサ91A、ECU7)と、をさらに備え、前記放出判定手段は、前記NOx捕捉量推定手段により推定されたNOx捕捉量が、前記限界堆積量決定手段により決定された限界堆積量を超えたときに、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定することが好ましい。
【0014】
この発明では、NOx捕捉触媒のNOx捕捉量が、予め設定されたNOx捕捉触媒の限界堆積量を超えたときに、NOx捕捉触媒に水素を供給してNOxを放出させる。これにより、NOx捕捉触媒にNOxがほとんど捕捉されていない状態での水素の無駄な供給を回避でき、燃費を節約できる。また、NOxが限界堆積量まで堆積したときに、水素を供給してNOxを放出させるため、水素の供給回数も低減でき、さらに燃費を節約できる。
また、Agを担持してなるNOx捕捉触媒は、触媒温度の変化によりNOx捕捉可能量が変化する。そこで、この発明では、NOx捕捉触媒の温度に応じて、NOx捕捉触媒の限界堆積量を決定する。これにより、より正確なNOx捕捉触媒の限界堆積量を決定でき、より適切なタイミングでNOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出させることができる。
【0015】
また、本発明では、前記NOx捕捉触媒の温度を上昇させる昇温手段(例えば、後述のスロットルバルブ32、過給機6、インジェクタ、ECU7)と、前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段(例えば、後述の第1排気温度センサ91A、ECU7)と、をさらに備え、前記放出実行手段は、前記NOx捕捉触媒温度検出手段により検出された前記NOx捕捉触媒の温度が、前記NOx捕捉触媒が捕捉したNOxの放出を開始する温度であるNOx放出開始温度よりも低いときには、前記昇温手段により前記NOx捕捉触媒の温度を上昇させてから前記水素供給手段により前記NOx捕捉触媒に水素を供給することにより、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを還元して放出させることが好ましい。
【0016】
この発明では、NOx捕捉触媒の温度がNOx放出開始温度よりも低いときには、NOx捕捉触媒の温度を上昇させてから水素を供給する。これにより、NOx放出開始温度よりも低いときの水素の無駄な供給を回避でき、さらに燃費を節約できる。
また、Agを担持してなるNOx捕捉触媒は、他のNOx捕捉触媒に比してライトオフ性能が高い一方で、高温領域ではNOxを放出し易いという特性がある。このため、本発明では、NOx捕捉触媒の温度を上昇させることにより、捕捉されたNOxをより容易に放出させることができる。
【0017】
また、本発明では、前記水素供給手段は、前記排気通路とは別に設けられ、前記内燃機関の燃料を改質して水素を生成する燃料改質器(例えば、後述の燃料改質器8)と、前記排気通路と接続され、前記燃料改質器で生成された水素を前記排気通路内に供給するための水素供給通路(例えば、後述の改質ガス供給通路52)と、を備えることが好ましい。
【0018】
この発明では、排気通路とは別に燃料改質器を設け、この燃料改質器により生成された水素を、水素供給通路を介してNOx捕捉触媒の上流側の排気通路内に供給する。これにより、水素がNOx捕捉触媒に供給されるため、内燃機関の始動直後の冷機時に、排気A/Fをリッチにするために吸入空気量を絞る必要がなくなる。このため、内燃機関の失火の発生を回避できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、NOx捕捉触媒で捕捉したNOxを適切なタイミングで放出することにより、NOx捕捉触媒のNOx捕捉性能を高め、NOx浄化率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るNOx放出処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】NOx浄化触媒におけるNOx浄化率の排気流量依存性を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るΣNOxおよびΣNOx_lim決定処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】Ag触媒温度とηNOxとの関係を示す図である。
【図6】Ag触媒温度とΣNOx_limとの関係を示す図である。
【図7】Ag触媒温度と捕捉NOx保持率との関係を示す図である。
【図8】Ag触媒に捕捉されたNOxの脱離機構を説明するための図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るΣNOxおよびΣNOx_lim決定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたっては、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略化する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置1の構成を示す図である。内燃機関(以下、「エンジン」という)2は、各気筒21の燃焼室内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンである。
【0023】
エンジン2に燃料を供給する燃料供給系は、燃料タンク23に貯留された燃料を加圧する燃料ポンプ(図示せず)と、この燃料ポンプにより加圧された燃料をエンジン2の気筒21ごとに設けられたインジェクタに供給するコモンレール(図示せず)と、を含んで構成される。
【0024】
インジェクタからの燃料噴射量は、後述する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)7によって設定される。また、このインジェクタの開弁時間は、設定された燃料噴射量が得られるように、ECU7からの駆動信号により制御される。
【0025】
エンジン2には、吸気が流通する吸気管3と、排気が流通する排気管4と、吸気管3に吸気を圧送する過給機6と、が設けられている。吸気管3は、吸気マニホールド31の複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒21の吸気ポートに接続されている。排気管4は、排気マニホールド41の複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒21の排気ポートに接続されている。
【0026】
過給機6は、排気管4に設けられたタービン61と、吸気管3に設けられたコンプレッサ62と、を備える。タービン61は、排気管4を流通する排気の運動エネルギにより駆動される。コンプレッサ62は、タービン61により回転駆動され、吸気を加圧し吸気管3内へ圧送する。また、タービン61は、図示しない複数の可変ベーンを備えており、可変ベーンの開度を変化させることにより、タービン回転数(回転速度)を変更できるように構成されている。タービン61のベーン開度は、ECU7により電磁的に制御される。
【0027】
吸気管3の上流側には、エンジン2の吸入空気量QAIRを制御するスロットルバルブ32が設けられている。このスロットルバルブ32は、アクチュエータを介してECU7に接続されており、その開度はECU7により電磁的に制御される。
【0028】
排気管4には、上流側から順に、NOx捕捉触媒としてのAg触媒42、NOx浄化触媒としてのLNC43が設けられている。排気管4のうち、Ag触媒42の上流側には、後述する燃料改質器8で生成された水素を含む改質ガスを、排気管4内に供給する改質ガス供給通路52が接続されている。
【0029】
Ag触媒42は、水素共存下で、排気中に含まれるNOxを酸化して捕捉する。ここで、本発明における「捕捉」とは、吸着、吸収、吸蔵のいずれも含むことを意味する。
また、Ag触媒42は、後述するLNC43に比して触媒活性化温度が低い。このため、エンジン始動時等において、LNC43の温度が触媒活性化温度まで達していない場合には、Ag触媒でNOxを捕捉することとなる。ここで、本発明における「触媒活性化温度」とは、触媒がNOx捕捉性能を発揮し得るときの温度を意味する。
【0030】
Ag触媒42は、Agを活性種とする触媒である。より詳しくは、Ag触媒42は、Agに加えて、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、およびゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を含んでなる触媒である。
このような組成からなるAg触媒42は、例えば、100℃の低温から250℃までの温度範囲において、NOxを酸化して捕捉する。
【0031】
Ag触媒42に含まれるAgは、酸素を含む排気中では、主に酸化された状態の酸化銀として存在し、NOx吸着能を持たない。これに対して、Ag触媒42に水素を供給して水素共存下とすると、酸化銀が水素と接触することによって容易に還元され、還元銀の状態となる(下記式(1)参照)。
還元銀は、金属銀や酸化銀の状態に比して、NOxを酸化して吸着する能力が飛躍的に高い。具体的には、還元銀は、酸素に電子を供与し、電子供与された酸素は、排気中のNOxを酸化し、酸化されたNOxは、NOとしてアルミナ等に捕捉される。このため、100℃程度の低温であっても、排気中のNOx(NO及びNO)を酸化して吸着することができる(下記式(2)、(3)参照)。なお、下記式中において、Ag(*)は還元銀を表し、(ad.)はAg触媒42への吸着を表す。
式(1):AgO+H→Ag(*)+H+O
式(2):NO+O+Ag(*)→NO(ad.)+Ag(*)
式(3):2NO+O+Ag(*)→2NO(ad.)+Ag(*)
【0032】
Ag触媒42の調製方法については特に限定されず、従来公知の方法により調製される。例えば、所定量の硝酸銀に蒸留水を加えて攪拌し、完全に溶解させた後、所定量のベーマイトを加え、所定の条件で乾燥させる。乾燥後、所定の条件で焼成を行って得られた触媒を粉砕することにより、目的のAg触媒粉末が得られる。
【0033】
LNC43は、エンジン2で燃焼する混合気を理論空燃比よりもリーンに設定し、流入する排気の酸素濃度が比較的高い酸化雰囲気にしたときに、排気中のNOxを捕捉する。また、LNC43は、流入する排気の還元剤(水素、一酸化炭素、及び炭化水素等)濃度が比較的高い還元雰囲気にしたときに、リーン雰囲気で捕捉したNOxを還元する。
LNC43は、例えば200℃から350℃までの温度範囲において、NOxを捕捉して還元する。
また、本実施形態のLNC43には、NOxを吸着して還元するNOx吸着還元触媒や、NOxを吸収して還元するNOx吸収還元触媒や、NOxを吸蔵して還元するNOx吸蔵還元触媒が含まれる。
【0034】
本実施形態では、LNC43として、触媒担体に2つの層からなるNOx浄化触媒を担持させることによって形成されたものを用いる。
NOx浄化触媒の下層は、白金、セリア、アルミナ、Ce−Pr−La−Ox、及びZr−Oxをそれぞれ所定量含む触媒材料を、水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーを触媒担体にコーティングすることにより形成される。
また、NOx浄化触媒の上層は、鉄及びセリウムでイオン交換されたβ−ゼオライト、アルミナ、及びバインダーをそれぞれ所定量含む触媒材料を、水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーを上述の下層にコーティングすることにより形成される。
【0035】
以上のようなNOx浄化触媒を担持して構成されたLNC43は、具体的には以下のように動作し、排気中のNOxを浄化する。
【0036】
[リーン状態1]
先ず、エンジン2の混合気を理論空燃比よりもリーン側に設定する所謂リーンバーン運転を行い、LNC43に流入する排気を酸化雰囲気にする。すると、排気中のNOxは、上層を通過して下層に到達し、白金によって酸化(例えば、NO→NO)される。そして、酸化されたNOx(例えば、NO)は、下層に一旦捕捉されて貯蔵される。このとき、白金はNO酸化触媒として機能し、セリアやCe−Pr−La−Oxは、NOx捕捉材として機能する。
【0037】
[リッチ状態]
次に、例えば、エンジン2の混合気を理論空燃比近傍若しくは理論空燃比よりもリッチ側に設定する所謂リッチ運転を行うことにより、LNC43に流入する排気を還元雰囲気にする。すると、排気中の一酸化炭素と水のシフト反応により、二酸化炭素と水素が生成される(下記式(4)参照)。また、上記リーン状態1で貯蔵されていたNOx及び排気中のNOxは水素と反応し、アンモニアが生成される(下記式(5)参照)。ここで生成されたアンモニアは、上層に移動し、ゼオライトに捕捉されて貯蔵される。
式(4):CO+HO→H+CO
式(5):NOx+H→NH
【0038】
[リーン状態2]
次に、再びリーンバーン運転を行い、LNC43に流入する排気を酸化雰囲気にする。すると、上層に貯蔵されたアンモニアと、排気中のNOxとがアンモニア選択接触還元法(NH−SCRという)による反応で窒素に変換され(下記式(6)参照)、当該窒素は上層から放出される。このとき、Fe及びCeでイオン交換されたβ−ゼオライトは、NH−SCR触媒として機能する。
式(6):NOx+NH+O→N+H
【0039】
このように、LNC43によれば、還元剤供給中に生成されるアンモニアがゼオライトに捕捉され、捕捉したアンモニアがリーンバーン運転中にNOxと反応するので、NOxの浄化を効率良く行うことができる。
【0040】
改質ガス供給通路52は、後述する燃料改質器8で生成された水素を含む改質ガスを、Ag触媒42の上流側の排気管4内に供給する。これにより、水素を含む改質ガスが、Ag触媒42に供給される。
【0041】
改質ガス供給通路52には、改質ガス供給通路52を介して排気管4内に導入される改質ガスの流量を制御する改質ガス供給バルブ51が設けられている。
改質ガス供給バルブ51は、図示しないアクチュエータを介してECU7に接続されており、改質ガス供給通路52を介した改質ガスの供給量は、ECU7により制御される。
【0042】
燃料改質器8は、改質ガス供給通路52に連通する改質ガス通路81と、この改質ガス通路81内に設けられた改質触媒82と、燃料ガスを改質ガス通路81の他端側から改質触媒82に供給する燃料ガス供給装置83と、を含んで構成される。
上記構成からなる燃料改質器8では、エンジン2の燃料を、改質触媒82の作用により改質し、水素(H)、一酸化炭素(CO)、及び炭化水素(HC)を含む還元性気体の改質ガスを生成する。燃料改質器8で生成される改質ガスの温度は、およそ500℃〜800℃の高温である。
【0043】
燃料ガス供給装置83は、燃料タンク23に貯蔵された燃料と、コンプレッサ84により供給された空気とを所定の割合で混合して燃料ガスを製造し、この燃料ガスを改質ガス通路81内の改質触媒82に供給する。この燃料ガス供給装置83は、改質触媒82に供給される空気の量を制御する空気バルブ85と、改質触媒82に供給される燃料ガスの量を制御する燃料バルブ86と、これら空気バルブ85及び燃料バルブ86を介して供給された空気と燃料ガスとを混合し、改質触媒82に噴射する図示しない噴射器と、を備える。これら空気バルブ85及び燃料バルブ86は、それぞれ図示しないアクチュエータを介してECU7に接続されており、改質触媒82に供給する空気の量及び燃料ガスの量、並びに、燃料ガスの量に対する空気の量の割合は、ECU7により制御される。
【0044】
改質触媒82は、ロジウム、白金、パラジウム、ニッケル、及びコバルトよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒成分と、セリア、ジルコニア、アルミナ、及びチタニアよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物またはこれらを基本組成とした複合酸化物と、を含む。この改質触媒82は、燃料ガス供給装置83から供給された燃料ガスを改質し、水素、一酸化炭素、及び炭化水素を含む改質ガスを生成する。より具体的には、この改質触媒82は、燃料ガスを構成する炭化水素と空気との部分酸化反応により、水素及び一酸化炭素を含む改質ガスを生成する。
【0045】
改質触媒82の調製方法については特に限定されず、従来公知の含侵法により調製される。例えば、所定の質量比になるように配合したセリア及びロジウムの粉末を、バインダー及び水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを調製する。次いで、調製したスラリーを、コージエライト製のハニカム担体にウォッシュコートし、所定の条件で乾燥、焼成することにより、改質触媒82が得られる。
【0046】
燃料改質器8は、グロープラグやスパークプラグ等を含んで構成された図示しない加熱ヒータを備えており、燃料改質器8の始動とともに、改質触媒82を加熱することが可能となっている。
また、この燃料改質器8は、排気管4とは別に設けられており、燃料改質器8の燃料ガス供給装置83及び改質触媒82は、排気管4内には設けられていない。即ち、燃料改質器8は、排気管4内に設けられて排気管4内の排気中に含まれる燃料成分を改質するのではなく、燃料タンク23から直接供給される燃料ガスを改質するため、多量の改質ガスを生成できるとともに、その生成量を制御できる。
【0047】
以上のように構成された燃料改質器8は、後述のECU7から送信された制御信号に基づいて駆動される。
【0048】
ECU7には、第1排気温度センサ91A、第2排気温度センサ91B、およびエアフローセンサ93が接続されている。
第1排気温度センサ91Aは、排気管4のうちAg触媒42の下流側に設けられており、Ag触媒42を通過した排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。Ag触媒42の温度は、第1排気温度センサ91Aの検出値に基づいて、ECU7により算出される。
第2排気温度センサ91Bは、排気管4のうちLNC43の下流側に設けられており、LNC43を通過した排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。LNC43の温度は、第2排気温度センサ91Bの検出値に基づいて、ECU7により算出される。
エアフローセンサ93は、エンジン2に吸入される吸入空気量QAIRを検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。排気流量は、エアフローセンサ93の検出値に基づいて、ECU7により算出される。
【0049】
この他、ECU7には、クランク角センサ94、アクセル開度センサ95、およびイグニッションスイッチ96が接続されている。
【0050】
クランク角センサ94は、エンジン2のクランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号をECU7に送信する。このCRK信号は、所定のクランク角(例えば30°)ごとに送信される。アクセル開度センサ95は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)APを検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。イグニッションスイッチ96は、図示しない車両の運転席に設けられ、車両の起動または停止を指令する信号をECU7に送信する。
【0051】
ここで、エンジン2の回転数(以下、「エンジン回転数」という)NEは、クランク角センサ94から送信されたCRK信号に基づいて、ECU7により算出される。要求トルクTRQは、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに応じ、予め格納されている所定のマップ(図示せず)を検索することによって、ECU7により算出される。
【0052】
ECU7は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、「CPU」という)とを備える。この他、ECU7は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路と、インジェクタ、燃料改質器8、及び改質ガス供給バルブ51等に制御信号を出力する出力回路と、を備える。以上のようなハードウェア構成により、ECU7には、以下に示すNOx放出処理を実行するモジュールが構成される。
【0053】
次に、本実施形態に係るNOx放出処理について説明する。
図2は、本実施形態に係るNOx放出処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、Ag触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定されたときに、燃料改質器で生成した水素をAg触媒に供給することにより、Ag触媒に捕捉されたNOxを還元して放出させる処理である。この処理は、イグニッションスイッチがONにされた後、ECUにより所定の周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップS11では、排気流量に応じて、LNCが最低限要求されるNOx浄化率を確保できる温度範囲の下限値TcatLおよび上限値TcatHを決定する。決定後は、ステップS12に進む。
ここで、下限値TcatLおよび上限値TcatHの決定方法について説明する。
図3は、LNCにおけるNOx浄化率の排気流量依存性を示す図である。図3において、横軸はLNC温度TLNC、縦軸はNOx浄化率を示している。図3に示すように、LNCのNOx浄化率は、排気流量に応じて変化し、排気流量が少ないほどNOx浄化率は高い。これは、排気流量が少ないほど排気の速度が遅く、NOx浄化反応がより進行し易いためである。従って、図3に示すように、最低限要求されるNOx浄化率を基準浄化率としたときに、基準浄化率を確保できる温度範囲、即ちLNCが活性化する活性温度領域は、排気流量に応じて変化する。具体的には、排気流量大のときの活性温度領域TcatL2〜TcatH2は、排気流量小のときの活性温度領域TcatL1〜TcatH1よりも狭い。
そこで、排気流量ごとのLNC温度TLNCとNOx浄化率との関係を予めECUに格納しておき、検出した排気流量に応じて、LNCが活性化する活性温度領域の下限値TcatLおよび上限値TcatHを決定する。
【0055】
ステップS12では、LNC温度TLNCが、ステップS11で決定した下限値TcatLよりも高く、かつ上限値TcatHよりも低いか否かを判別する。即ち、LNC温度TLNCが、LNCが活性化する活性温度領域にあるか否かを判別する。この判別がYESの場合には、Ag触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定し、ステップS13に進む。NOの場合には、Ag触媒に捕捉されたNOxを放出しないと判定し、NOx放出処理を終了する。
【0056】
ステップS13では、Ag触媒が捕捉したNOx捕捉量の積算値ΣNOxと、Ag触媒の限界堆積量ΣNOx_limを取得する。取得後は、ステップS14に進む。
【0057】
ここで、NOx捕捉量積算値ΣNOxおよび限界堆積量ΣNOx_limの取得について説明する。
図4は、NOx捕捉量積算値ΣNOxおよび限界堆積量ΣNOx_limの決定処理の手順を示すフローチャートである。NOx捕捉量積算値ΣNOxおよび限界堆積量ΣNOx_limは、この手順に従って決定されて取得される。
【0058】
ステップS131では、エンジン回転数NEと要求トルクTRQに基づいて、エンジンから排出されたNOx排出量FEED_NOxを算出する。算出後は、ステップS132に進む。
具体的には、エンジン回転数NEと要求トルクTRQに応じて予め設定されたFEED_NOxマップを検索することによって、ECUにより算出される。
【0059】
ステップS132では、Ag触媒温度TAgに応じて、Ag触媒のNOx浄化率ηNOxを決定する。決定後は、ステップS133に進む。
具体的には、NOx浄化率ηNOxは、予め設定された、図5に示すAg触媒温度TAgとNOx浄化率ηNOxとの関係に基づいて、ECUにより算出される。
【0060】
ステップS133では、Ag触媒に捕捉されたNOx捕捉量NOx_adsを算出する。算出後は、ステップS134に進む。
具体的には、ステップS131で算出したNOx排出量FEED_NOxに、ステップS132で算出したNOx浄化率ηNOxを乗じることにより、NOx捕捉量NOx_adsが算出される。
【0061】
ステップS134では、NOx捕捉量積算値ΣNOxを算出する。算出後は、ステップS135に進む。
具体的には、ステップS133で算出したNOx捕捉量NOx_adsを、前回算出値に加算することにより、NOx捕捉量積算値ΣNOxが算出される。
【0062】
ステップS135では、Ag触媒温度TAgに応じて、限界堆積量ΣNOx_limを決定する。決定後は、本決定処理を終了する。
具体的には、限界堆積量ΣNOx_limは、予め設定された、図6に示すような水素共存下におけるAg触媒温度TAgと限界堆積量ΣNOx_limとの関係に基づいて、ECUにより算出される。
以上により、NOx捕捉量積算値ΣNOxおよび限界堆積量ΣNOx_limが決定されて取得される。
【0063】
図2に戻って、ステップS14では、ステップS13で取得したAg触媒のNOx捕捉量積算値ΣNOxが、同じくステップS13で取得したAg触媒の限界堆積量ΣNOx_limを超えているか否かを判別する。この判別がYESの場合には、Ag触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定し、ステップS15に進む。NOの場合には、Ag触媒に捕捉されたNOxを放出しないと判定し、NOx放出処理を終了する。
【0064】
ステップS15では、Ag触媒の温度TAgが、Ag触媒が捕捉したNOxを放出するのを開始する放出開始温度TadsLよりも高いか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS18に進む。NOの場合には、ステップS16に進む。
【0065】
ステップS16では、スロットルTHを絞り、過給圧PBを低下させる。その後、ステップS17に進む。
具体的には、スロットルバルブの開度、及び過給機のタービンに設けられた複数の可変ベーンの開度を増大させることにより、吸入空気量QAIRを低減させるとともに、過給機の下流側における吸気管内圧力である過給圧PBを低下させる。これにより、エンジンの排気温度の上昇を通じてAg触媒の温度が上昇するとともに、Ag触媒に捕捉されていたNOxの放出が促進される。
【0066】
ステップS17では、燃料噴射量QINJを増量させる。その後、ステップS18に進む。
具体的には、コモンレールに燃料を供給するインジェクタの開弁時間を制御することにより、インジェクタからの燃料噴射量QINJを増量させる。これにより、エンジンの排気温度の上昇を通じてAg触媒の温度が上昇するとともに、Ag触媒に捕捉されていたNOxの放出が促進される。また、より多くの還元性気体を含む排気がAg触媒の上流側の排気管内に供給され、Ag触媒に捕捉されていたNOxの放出が促進される。
【0067】
ここで、Ag触媒の温度を上昇させることにより、Ag触媒に捕捉されていたNOxの放出が促進される理由について、図6および図7を参照して説明する。
図6は、上述したように、水素共存下におけるAg触媒の温度TAgと、Ag触媒の限界堆積量ΣNOx_limとの関係を示す図である。図7に示すように、限界堆積量ΣNOx_limは、Ag触媒温度TAgに依存しており、Ag触媒温度TAgがある温度以上になると、急激に増大してピークに達し、その後は温度の上昇とともに次第に減少していく特性がある。このため、例えば、限界堆積量ΣNOx_limが最大となる温度Tmax以上の温度でAg触媒に所定量のNOxを捕捉させた後、Ag触媒の温度TAgを上昇させた場合には、限界堆積量ΣNOx_limがその所定量を下回ったときに、NOxが放出されることとなる。
【0068】
図7を参照して、より詳しく説明する。図7は、限界堆積量ΣNOx_limが最大となる温度Tmaxで、限界堆積量ΣNOx_limまでNOxを捕捉させた後に、Ag触媒の温度TAgを上昇させたときの捕捉NOx保持率を示す図である。図7に示すように、Ag触媒に水素が共存している場合と共存していない場合いずれにおいても、温度の上昇とともに捕捉NOx保持率は減少するが、両者の捕捉NOx保持率には大きな差が見られる。具体的には、Ag触媒に水素が共存している場合は、水素が共存していない場合に比して、捕捉NOx保持率が大幅に低い。
ここで、例えば、限界堆積量ΣNOx_limが最大となる温度Tmax以上の温度Taで、NOx保持率がD1となるようにNOxを水素共存下で捕捉させた後、温度をTbまで上昇させたときについて考える。温度Tbにおける水素が共存する場合の捕捉NOx保持率をD2とし、温度Tbにおける水素が共存しない場合の捕捉NOx保持率をD3とする。このとき、水素が共存しない場合には、Tbにおける捕捉NOx保持率D3が、当初のNOx保持率D1よりも高いため、NOxは放出されない。これに対して、水素が共存する場合には、Tbにおける捕捉NOx保持率D2が、当初のNOx保持率D1よりも大幅に低いため、それらの差分D1−D2に相当する量のNOxが放出される。
以上により、Ag触媒の温度TAgを上昇させた場合には、水素を供給することによってAg触媒に捕捉されていたNOxの放出がより促進される。
【0069】
図2に戻って、ステップS18では、水素を含む改質ガスを、Ag触媒の上流側の排気管内に供給する。供給後は、ステップS19に進む。
具体的には、燃料改質器に設けられた改質ガス供給バルブを開き、改質ガス供給通路を介した改質ガスの供給を開始する。これにより、排気中に含まれる水素等の還元性気体に加えて、改質ガス中に多量に含まれる水素がAg触媒に供給され、Ag触媒に捕捉されていたNOxが放出される。
【0070】
ここで、NOxを捕捉したAg触媒に水素を供給することにより、捕捉されていたNOxが放出される点について、実験結果を用いて詳しく説明する。
図8は、下記の試験条件に従って、各種雰囲気ガス(N、O+N、NO+N、H+N、およびO+H+N)下におけるAg触媒のNOx昇温脱離試験を実施した結果、得られた図である。
[昇温脱離試験条件]
Ag触媒:4質量%Ag/支持体、300g/L
大きさ:2.54cm(1inch)φ×60mm(30cc)
支持体:コージェライト、600セル、4.0ミル
エージング:フレッシュガス
モデルガス:NO=100ppm、O=10%、H=5000ppm、
HC=500ppmC、CO=0.6%、CO=6%、N=バランス、
ガス速度:SV=50000/h
NOx捕捉条件:触媒温度120℃でNOx最大捕捉量まで捕捉
NOx脱離条件:各種雰囲気ガス下で120℃〜600℃まで昇温
【0071】
昇温脱離試験結果を示す図8は、各種雰囲気ガス下でのAg触媒温度とNOx脱離量(放出量)との関係を示している。図8に示すように、N、O+N、及びNO+Nの雰囲気ガス下では、NOxの脱離開始温度が150℃〜200℃、脱離ピーク温度が450℃であり、脱離ガスの組成はいずれもNOであった。これに対して、H+N、およびO+H+N雰囲気ガス下では、NOxの脱離開始温度が120℃〜150℃、脱離ピーク温度が160℃〜190℃であり、低温下での脱離ガス組成はNO、高温下での脱離ガス組成はNOであった。
【0072】
これらの結果によれば、Ag触媒上に捕捉されたNOxは、水素が存在する場合には、160℃程度で還元されてNOとして脱離している。このとき、捕捉されていたNOxは、Nにまでは還元されず、NOとして放出されるため、低温領域での放出が可能となっている。
一方、水素が存在しない場合には、捕捉されていたNOxは、熱だけで物理的に脱離されるため、およそ450℃の高温が必要であり、捕捉されていたNOxはNOとして脱離する。
以上の結果から、Ag触媒に捕捉されたNOxは、水素の存在下において、低温条件下で容易に放出されることが見出される。
【0073】
図2に戻って、ステップS19では、NOx捕捉量積算値ΣNOxの値を「0」にリセットし、NOx放出処理を終了する。
【0074】
以上詳述したように、本実施形態によれば以下の効果が奏される。
本実施形態で用いるAg触媒42は、ある一定濃度以上の水素共存下であれば、捕捉したNOxの放出を開始する温度が低温化する特性がある。そこで、本実施形態では、この特性を利用し、Ag触媒42からNOxを放出させる際に、水素を供給する。これにより、NOx放出開始温度を低温化でき、低温領域においてNOxが還元されて放出される。このとき、NOxはNにまでは還元されず、NOxとして放出されるため、低温領域での放出が可能となっている。放出されたNOxは、下流側に配置されたLNC43により捕捉されて還元浄化される。
従って、本実施形態によれば、Ag触媒42からNOxを効率良く放出して今回運転サイクル内でNOxの放出を完了させることができ、Ag触媒42のNOx捕捉量がほぼゼロの状態にすることができる。このため、次回運転時(始動時)において、Ag触媒42は高いNOx捕捉性能を発揮でき、NOx浄化率、ひいては始動時のエミッションを向上できる。
【0075】
また、本実施形態では、LNC43の温度が、LNC43が活性化する活性温度領域にあるときに、Ag触媒42のNOxを放出する。これにより、Ag触媒42から放出されたNOxは、下流側に配置されたLNC43により、確実に捕捉されて還元浄化される。
また、LNC43が活性化しているときに、Ag触媒42に捕捉されたNOxを随時放出するため、多量のNOxがAg触媒42に捕捉されたままの状況を回避でき、高いNOx捕捉性能を維持できる。
【0076】
また、排気管4内を流通する排気の流量が少ないほど、排気の速度が遅いため、NOx浄化反応はより進行する。このため、排気流量が少ないほど、LNC43におけるNOx捕捉能が高く、NOx浄化率も高い。そこで、本実施形態では、排気流量が少ないときほど、LNC43の活性温度領域を拡大する補正をする。これにより、排気流量に応じて、LNC43が活性温度領域にあるか否かをより正確に判定できるため、Ag触媒42で捕捉したNOxをより適切なタイミングで放出でき、より確実にLNC43で浄化できる。
【0077】
また、本実施形態では、Ag触媒42のNOx捕捉量が、予め設定されたAg触媒42の限界堆積量を超えたときに、Ag触媒42に水素を供給してNOxを放出させる。これにより、Ag触媒42にNOxがほとんど捕捉されていない状態での水素の無駄な供給を回避でき、燃費を節約できる。また、NOxが限界堆積量まで堆積したときに、水素を供給してNOxを放出させるため、水素の供給回数も低減でき、さらに燃費を節約できる。
また、Ag触媒42は、触媒温度の変化によりNOx捕捉可能量が変化する。そこで、本実施形態では、Ag触媒42の温度に応じて、Ag触媒42の限界堆積量を決定する。これにより、より正確なAg触媒42の限界堆積量を決定でき、より適切なタイミングでAg触媒42に捕捉されたNOxを放出させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、Ag触媒42の温度がNOx放出開始温度よりも低いときには、Ag触媒42の温度を上昇させてから水素を供給する。これにより、NOx放出開始温度よりも低いときの水素の無駄な供給を回避でき、さらに燃費を節約できる。
また、Ag触媒42は、他のNOx捕捉触媒に比してライトオフ性能が高い一方で、高温領域ではNOxを放出し易いという特性がある。このため、本実施形態では、Ag触媒42の温度を上昇させることにより、捕捉されたNOxをより容易に放出させることができる。
【0079】
また、本実施形態では、排気管4とは別に燃料改質器8を設け、この燃料改質器8により生成された水素を含む改質ガスを、改質ガス供給通路52を介してAg触媒42の上流側の排気管4内に供給する。これにより、水素がAg触媒42に供給されるため、エンジン2の始動直後の冷機時に、排気A/Fをリッチにするために吸入空気量を絞る必要がなくなる。このため、エンジン2の失火の発生を回避できる。
【0080】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る排気浄化装置は、第1実施形態に係る排気浄化装置が備える構成に加えて、NOxセンサをさらに備える。NOxセンサは、Ag触媒とLNCとの間の排気通路に設けられ、Ag触媒を通過した排気中のNOx濃度を検出し、検出値に略比例した信号をECUに送信する。
本実施形態は、NOx捕捉量積算値ΣNOxの算出処理の手順が第1実施形態と異なり、本実施形態では上記NOxセンサを利用する。
【0081】
図9は、第2実施形態に係るΣNOxおよびΣNOx_lim決定処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS231では、エンジン回転数NEと要求トルクTRQに基づいて、エンジンから排出されたNOx排出量FEED_NOxを算出する。算出後は、ステップS232に進む。
具体的には、エンジン回転数NEと要求トルクTRQに応じて予め設定されたFEED_NOxマップを検索することによって、ECUにより算出される。
【0082】
ステップS232では、NOxセンサの検出値に基づいて、Ag触媒を通過した排気中のNOx量REAR_NOxを、ECUにより算出する。算出後は、ステップS233に進む。
具体的には、REAR_NOxは、NOxセンサにより検出されたNOx濃度と、エアフローセンサにより検出された吸入空気量QAIRから算出した排気容量に基づいて、ECUにより算出される。
【0083】
ステップS233では、Ag触媒に捕捉されたNOx捕捉量NOx_adsを算出する。算出後は、ステップS234に進む。
具体的には、ステップS231で算出したNOx排出量FEED_NOxから、ステップS232で算出したREAR_NOxを減算することにより、NOx_adsを算出する。
【0084】
ステップS234では、NOx捕捉量積算値ΣNOxを算出する。算出後は、ステップS235に進む。
具体的には、ステップS233で算出したNOx_adsを、前回算出値に加算することにより、NOx捕捉量積算値ΣNOxを算出する。
【0085】
ステップS235では、Ag触媒温度に応じて、限界堆積量ΣNOx_limを決定する。決定後は、本決定処理を終了する。
具体的には、ΣNOx_limは、予め設定された、Ag触媒温度とΣNOx_limとの関係に基づいて、ECUにより算出する。
以上により、NOx捕捉量積算値ΣNOxおよび限界堆積量ΣNOx_limが決定される。
【0086】
本実施形態によれば、NOxセンサを用いて精度良くNOx捕捉量積算値ΣNOxを算出できるため、より適切なタイミングでNOxを放出させることができる他、第1実施形態と同様の効果が奏される。
【0087】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0088】
例えば、上記実施形態では、Ag触媒の昇温手段として、スロットルTH絞りおよび過給圧PBの低下に加えて、燃料噴射量QINJの増量を実行するが、これに限定されない。上記のいずれか1つまたは2つの実行により、Ag触媒の温度を上昇させてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、水素供給手段として、排気管4とは別に設けた燃料改質器8を用いたが、これに限定されない。例えば、排気管4内に設けた触媒により、直接、水素を生成させてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1…排気浄化装置
2…エンジン(内燃機関)
32…スロットルバルブ(昇温手段)
4…排気管(排気通路)
42…Ag触媒(NOx捕捉触媒)
43…LNC(NOx浄化触媒)
51…改質ガス供給バルブ(水素供給手段)
52…改質ガス供給通路(水素供給手段)
6…過給機(昇温手段)
7…ECU(水素供給手段、放出判定手段、放出実行手段、活性判定手段、補正手段、昇温手段、排気流量検出手段、NOx捕捉量推定手段、限界堆積量決定手段)
8…燃料改質器(水素供給手段、放出実行手段)
91A…第1排気温度センサ(NOx捕捉触媒温度検出手段、NOx捕捉量推定手段、限界堆積量決定手段)
91B…第2排気温度センサ(NOx浄化触媒温度検出手段)
93…エアフローセンサ(排気流量検出手段)
94…クランク角センサ(NOx捕捉量推定手段)
95…アクセル開度センサ(NOx捕捉量推定手段)
96…イグニッションスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられて、少なくともAgを担持することで排気中のNOxを捕捉するNOx捕捉触媒と、
当該NOx捕捉触媒の下流側の排気通路に設けられて、排気中のNOxを浄化するNOx浄化触媒と、
前記NOx捕捉触媒の上流側の排気通路において、水素を供給または生成することで前記NOx捕捉触媒に水素を供給する水素供給手段と、
前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出するか否かを判定する放出判定手段と、
前記放出判定手段により前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定されたときに、前記水素供給手段により前記NOx捕捉触媒に水素を供給することにより、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを還元して放出させる放出実行手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記NOx浄化触媒の温度を検出または推定するNOx浄化触媒温度検出手段と、
当該NOx浄化触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx浄化触媒の温度が、前記NOx浄化触媒が活性化する活性温度領域にあるか否かを判定する活性判定手段と、をさらに備え、
前記放出判定手段は、前記活性判定手段により前記NOx浄化触媒の温度が前記活性温度領域にあると判定されたときに、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記排気通路内を流通する排気の流量を検出または推定する排気流量検出手段と、
前記排気流量検出手段により検出または推定された排気流量が少ないほど、前記活性温度領域を拡大する補正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxの捕捉量を推定するNOx捕捉量推定手段と、
前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段と、
当該NOx捕捉触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx捕捉触媒の温度に基づいて、前記NOx捕捉触媒の限界堆積量を決定する限界堆積量決定手段と、をさらに備え、
前記放出判定手段は、前記NOx捕捉量推定手段により推定されたNOx捕捉量が、前記限界堆積量決定手段により決定された限界堆積量を超えたときに、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを放出すると判定することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記NOx捕捉触媒の温度を上昇させる昇温手段と、
前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段と、をさらに備え、
前記放出実行手段は、前記NOx捕捉触媒温度検出手段により検出された前記NOx捕捉触媒の温度が、前記NOx捕捉触媒が捕捉したNOxの放出を開始する温度であるNOx放出開始温度よりも低いときには、前記昇温手段により前記NOx捕捉触媒の温度を上昇させてから前記水素供給手段により前記NOx捕捉触媒に水素を供給することにより、前記NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxを還元して放出させることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記水素供給手段は、前記排気通路とは別に設けられ、前記内燃機関の燃料を改質して水素を生成する燃料改質器と、
前記排気通路と接続され、前記燃料改質器で生成された水素を前記排気通路内に供給するための水素供給通路と、を備えることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−99364(P2011−99364A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253760(P2009−253760)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】