説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】触媒の早期活性化と、排気温度を利用した冷機始動時の内燃機関の暖機促進とを両立させた排気浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1に接続された排気通路2と、排気通路2の下流側に設けられたメインNOx浄化触媒3と、排気通路2の上流側部分2aと並列に設けられたバイパス通路4と、バイパス通路4に設けられたサブNOx浄化触媒5と、バイパス通路4に設けられ、サブNOx浄化触媒5を通過した排気と冷却水との間で熱交換を行う熱交換器6と、バイパス通路4へ流れる排気流量を調整する切替弁9と、を有し、内燃機関1の冷機時に、メインNOx浄化触媒3が活性化していない場合には、バイパス通路4に全ての排気を流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、触媒コンバータの下流側に排気熱交換器を設け、冷却水と排気との間で熱交換を行うことで、冷却水の温度を上昇させ、暖房用熱交換器を介して冷却水と熱交換を行う空調風を効率良く暖めると共に、冷機時における内燃機関の暖機促進を図る排気熱回収装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、排気マニホールド出口に位置する始動時用の触媒の下流側の排気通路に排気冷却促進部を設け、排気冷却促進部の下流側に位置するNOx触媒の温度が過度に高くならないようにした排気浄化装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−169594号公報
【特許文献1】特開2001−214734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、排気通路に設けられた排気浄化用の触媒装置が1つの触媒コンバータのみであり、冷機始動時等の場面では、この触媒コンバータが活性化するまで排気性能が悪化してしまうという問題がある。また、特許文献2において、排気冷却促進部は放熱により排気温度を低下させている部分に過ぎず、排気冷却促進部を通過する排気の熱エネルギーを利用するという着眼点をもつものではない。
【0006】
そこで、本発明は、排気通路における触媒の早期活性化と、排気温度を利用した冷機始動時の内燃機関の暖機促進と、を両立させた排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内燃機関の排気浄化装置は、排気通路の下流側に設けられたメイン触媒と、排気通路の上流側部分と並列のバイパス通路に設けられたサブ触媒と、前記バイパス通路に設けられ、前記サブ触媒を通過した排気と内燃機関の冷却水との間で熱交換を行う熱交換器と、前記バイパス通路へ流れる排気流量を調整する流量調整手段と、を有し、前記内燃機関の冷機時に、前記メイン触媒が活性化していない場合には、前記バイパス通路に全ての排気を流入させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷機時にサブ触媒の触媒温度が早期に上昇するため、熱交換器を通過する排気温度も早期に上昇することになる。そのため、冷機時におけるエミッション低減と内燃機関の暖機促進とを両立することができる。また、熱交換器において冷却水温を早期に上昇させることができるので、冷却水温を利用した暖房を短時間で開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の概略構成を模式的に示した説明図。
【図2】切替弁の状態を模式的に示した説明図。
【図3】切替弁の制御の流れを示すフローチャート。
【図4】本発明の他の実施例を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の概略構成を模式的に示した説明図である。
【0011】
内燃機関1に接続された排気通路2の下流側には、メインNOx浄化触媒としてのメインNOxトラップ触媒3が配置されている。
【0012】
この排気通路2には、メインNOxトラップ触媒3の上流側で分岐し、再び合流するバイパス通路4が接続されている。つまり、バイパス通路4は、排気通路2の上流側部分2aと並列に設けられている。
【0013】
このバイパス通路4には、メインNOxトラップ触媒3よりも熱容量の小さいサブNOx浄化触媒としてのサブNOxトラップ触媒5と、このサブNOxトラップ触媒5の下流側に位置する熱交換器6とが設けられている。
【0014】
メインNOxトラップ触媒3及びサブNOxトラップ触媒5は、リーン燃焼時に排気中のNOx(窒素酸化物)をトラップし、ストイキ燃焼時やリッチ燃焼時にトラップしていたNOxを排気中のHC、COを還元剤として用いて還元浄化するものである。
【0015】
熱交換器6には、冷却水通路7が接続されており、この冷却水通路7を介して、図1中に矢示する方向に内燃機関1の冷却水が通流する。熱交換器6は、サブNOxトラップ触媒5を通過した排気と冷却水との間で熱交換を行うものである。この冷却水の水温は、出口側の水温センサ8によって検知される。なお、熱交換器6を通過した冷却水は、車室内暖房用のヒータ回路のヒータコア(図示せず)に導入される。
【0016】
バイパス通路4の下流端が排気通路2に合流する下流側合流部分には、バイパス通路4側を流れる排気流量を調整する流量調整手段としての切替弁9が設けられている。
【0017】
この切替弁9は、エンジンコントロールユニット(ECU)10により、その弁開度位置が制御される。切替弁9は、排気通路2の上流側部分2aを全閉とする第1弁開度位置とバイパス通路4を全閉とする第2弁開度位置との間でその弁開度位置が連続的ないし段階的に調整可能となっている。
【0018】
切替弁9の弁開度位置が前記第1弁開度位置に制御されると、内燃機関1から排出された排気は全てバイパス通路4を通過する。切替弁9の弁開度位置が前記第2弁開度位置に制御されると、内燃機関1から排出された排気は、バイパス通路4に流入せず、全量が排気通路2の上流側部分2aを流れる。切替弁9の弁開度位置が前記第1弁開度位置と前記第2弁開度位置の間の開度位置に制御されると、内燃機関1から排出された排気の一部がバイパス通路4に流入する。
【0019】
ECU10には、上述した水温センサ8や、内燃機関1の回転数を検知する回転数センサ11、内燃機関1が搭載された車両の車速を検知する車速センサ12、運転者により操作されるアクセルペダルの開度を検知するアクセル開度センサ13、メインNOxトラップ触媒3の上流側の排気温度を検知する第1温度センサ14、メインNOxトラップ触媒3の下流側の排気温度を検知する第2温度センサ15等からの出力信号が入力されている。
【0020】
そして、切替弁9の弁開度は、車両の運転状態に応じたECU10からの指令により制御されている。
【0021】
図2は、切替弁9の状態を模式的に示した説明図である。
【0022】
内燃機関1が冷機状態であり、メインNOxトラップ触媒3の触媒温度が低く、活性化していない所定の状態(以下、これを状態1と呼ぶ)においては、図2(a)に示すように、切替弁9を前記第1弁開度位置に制御する。前記状態1は、換言すると、内燃機関1が冷機状態でアクセル開度が所定開度(例えば70%)より小さい状態、及び内燃機関1が冷機状態でアクセル開度が所定開度(例えば70%)以上でメインNOxトラップ触媒3が活性化していない状態である。
【0023】
本実施例では、水温センサ8で検知された冷却水温が予め設定された第1所定温度(例えば60℃)以上であれば内燃機関1が暖機された状態であると判定し、冷却水温が前記第1所定温度より低い場合には内燃機関1が冷機状態であると判定する。
【0024】
サブNOxトラップ触媒5は、比較的上流側に位置するとともに、メインNOxトラップ触媒3に比べて熱容量が小さく触媒温度が早期に上昇するため、切替弁9を前記第1弁開度位置に制御することで、熱交換器6を通過する排気の温度も早期に上昇することになる。そのため、サブNOxトラップ触媒5におけるNOx浄化性能を早期に確保でき、かつ熱交換器6を通流する冷却水の温度上昇を促進させることが可能となる。
【0025】
つまり、前記状態1において切替弁9を前記第1弁開度位置とすることで、冷機時におけるエミッション低減と内燃機関1の暖機促進とを両立することができる。また、熱交換器6において冷却水温を早期に上昇させることができるので、冷却水温を利用した暖房を短時間で開始することも可能となる。
【0026】
内燃機関1の暖機完了後に、車両の速度が所定の低車速で、かつ内燃機関1が所定の高負荷運転状態である所定の低車速高負荷運転状態である場合(以下、これを状態2と呼ぶ)、図2(b)に示すように、切替弁9を前記第2弁開度位置に制御する。このような所定の低車速高負荷運転状態は、例えば、車両が低車速で他の車両を牽引(トーイング)するような状態である。
【0027】
本実施例では、冷却水温が予め設定された第2所定温度(例えば105℃)以上となった場合に、車両の運転状態が所定の低車速高負荷運転であると判定している。なお、車速が予め設定された所定車速以下で、アクセル開度が予め設定された所定開度以上(例えば70%)である場合に、車両の運転状態が所定の低車速高負荷運転であると判定するようにしてもよい。
【0028】
内燃機関1の暖機完了後に車両の運転状態がこのような低車速高負荷運転となると、冷却水温が過度に高くなってオーバーヒートになる可能性がある。そこで、切替弁9を前記第2弁開度位置とすることで、熱交換器6における排気との熱交換で冷却水温が上昇してしまうことを抑制する。
【0029】
つまり、前記状態2においては、切替弁9を前記第2弁開度位置とすることで、冷却水温の過度の温度上昇を抑制することができ、冷却水が循環する内燃機関1の冷却系の負荷を小さくすることができる。特に、前記冷却系のウォータポンプ(図示せず)がデューティ制御されているような場合、冷却水循環量の減少により消費電力を小さくできる。
【0030】
そして、上述した状態1及び状態2以外の所定の状態(以下、これを状態3と呼ぶ)においては、図2(c)に示すように、切替弁9の弁開度を前記第1弁開度位置と前記第2弁開度位置との間の中間開度に制御する。前記状態3は、具体的には、内燃機関1が冷機状態でアクセル開度が予め設定された所定開度(例えば70%)以上でメインNOxトラップ触媒3が活性化している状態、及び内燃機関1の暖機完了後に車両の運転状態が所定の低車速高負荷運転以外である状態である。
【0031】
本実施例においては、第1温度センサ14及び第2温度センサ15で検知されるメインNOxトラップ触媒3の前後の排気温度からメインNOxトラップ触媒3が活性化しているか否かを推定している。なお、水温センサ8で検知される冷却水温に基づいてメインNOxトラップ触媒3が活性化しているか否かを推定することも可能である。
【0032】
前記状態3において、切替弁9の弁開度を前記第1弁開度位置と前記第2弁開度位置との間の中間開度とするのは、切替弁9の弁開度を前記第2弁開度位置にする場合に比べて排気系の圧力損失が低下するとの知見に基づくものであり、このことは発明者らの行った実験により確認されている。
【0033】
この状態3における切替弁9の弁開度は、メインNOxトラップ触媒3でのNOxの浄化率と排気系の圧力損失の双方が良好となるような開度に設定される。排気系の圧力損失は、排気量と排気温度に応じて変化するため、機関回転数とアクセル開度(機関負荷)に対し、NOxの浄化率と排気系の圧力損失の双方が良好となる切替弁9の弁開度を予め実験で求めマップ化しておく。本実施例では、この予め実験で求めておいたマップを用い、そのときの機関回転数とアクセル開度から、切替弁9の弁開度を算出する。
【0034】
これによって、バイパス通路4に排気を流入させない場合に比べ、排気系の圧力損失を低減することができ、出力性能を向上させることができる。
【0035】
また、バイパス通路4に排気の一部が流入し、熱交換器6にて排気温度を低下させることが可能となるので、バイパス通路4に排気を流入させない場合に比べ、暖機後の運転中においてメインNOxトラップ触媒3に流入する排気温度が過度に高くなることを抑制することができ、メインNOxトラップ触媒3におけるNOxの浄化率を向上させることができる。
【0036】
図3は、内燃機関1の運転中にECU10内で実施される切替弁9の制御の流れを示すフローチャートである。
【0037】
S1では、内燃機関1の暖機が完了したか否かを判定し、暖機が完了している場合には、S2へ進み、暖機が完了していない場合にはS5へ進む。S2では、車両の運転状態が所定の低車速高負荷運転であるか否かを判定し、所定の低車速高負荷運転である場合にはS3へ進み、そうでない場合にはS4へ進む。S3では、現在の状態が前記状態2であると判定し、切替弁9を前記第2弁開度位置に制御する。S4では、現在の状態が前記状態3であると判定し、切替弁9の弁開度をそのときの機関回転数とアクセル開度に基づいて前記マップから算出される弁開度に制御する。この弁開度は、前記第1弁開度位置と前記第2弁開度位置との間の中間開度である。
【0038】
一方、内燃機関1の暖機が完了していない場合には、S5にてアクセル開度が予め設定された所定開度(例えば70%)以上であるか否かを判定し、所定開度以上であればS6へ進み、そうでない場合にはS7へ進む。S6では、メインNOxトラップ触媒3が活性化しているか否かを判定し、活性化している場合にはS8へ進み、活性化していない場合にはS9へ進む。S7では、現在の状態が前記状態1であると判定し、切替弁9を前記第1弁開度位置に制御する。S8では、現在の状態が前記状態3であると判定し、切替弁9の弁開度をそのときの機関回転数とアクセル開度に基づいて前記マップから算出される弁開度に制御する。S9では、現在の状態が前記状態1であると判定し、切替弁9を前記第1弁開度位置に制御する。
【0039】
なお、上述した実施例においては、バイパス通路4の下流端が排気通路2に合流する下流側合流部分に切替弁9が配置されているが、図4に示すように、バイパス通路4の上流端が排気通路2から分岐する上流側分岐部分に切替弁9を配置するようにしてもよい。
【0040】
但し、前記下流側合流部分の方が前記上流側分岐部分よりも排気通路2の下流であるため、排気温度が相対的に低くなる。そのため、前記下流側合流部分に切替弁9を配置するほうが、前記上流側分岐部分に切替弁9を配置する場合に比べ、切替弁9にとっては耐熱的に有利である。
【0041】
また、上述した実施例において、NOx浄化触媒はNOxトラップ触媒に限定されるものではなく、例えば尿素等の還元剤を用いてNOxを選択的に還元する選択還元触媒(SCR)であってよい。
【符号の説明】
【0042】
1…内燃機関
2…排気通路
3…メインNOxトラップ触媒
4…バイパス通路
5…サブNOxトラップ触媒
6…熱交換器
7…冷却水通路
8…水温センサ
9…切替弁
10…ECU
11…回転数センサ
12…車速センサ
13…アクセル開度センサ
14…第1温度センサ
15…第2温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続された排気通路と、
前記排気通路の下流側に設けられたメイン触媒と、
前記排気通路の上流側部分と並列に設けられたバイパス通路と、
前記バイパス通路に設けられたサブ触媒と、
前記バイパス通路に設けられ、前記サブ触媒を通過した排気と前記内燃機関の冷却水との間で熱交換を行う熱交換器と、
前記バイパス通路へ流れる排気流量を調整する流量調整手段と、を有し、
前記内燃機関の冷機時に、前記メイン触媒が活性化していない場合には、前記バイパス通路に全ての排気を流入させることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記内燃機関の暖機完了後、冷却水温が予め設定された所定値以上の場合には、前記バイパス通路に排気を流入させないことを特徴とする請求項1に内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関の暖機完了後、冷却水温が予め設定された所定値よりも低い場合には、前記バイパス通路に排気の一部を流入させることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記内燃機関の冷機時に、アクセル開度が予め設定された所定開度以上で、前記メイン触媒が活性化している場合には、前記バイパス通路に排気の一部を流入させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記流量調整手段は、前記バイパス通路の下流端が前記排気通路に合流する下流側合流部分に設けられ、前記排気通路側を全閉とする第1弁開度位置と、前記バイパス通路側を全閉とする第2弁開度位置との間で弁開度位置が調整可能な切替弁であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記メイン触媒及び前記サブ触媒は、排気中のNOxを浄化するNOx浄化触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92106(P2013−92106A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234688(P2011−234688)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】