説明

内燃機関のNOx浄化装置

【課題】SCR触媒温度を精度よく算出して、還元剤の投入量とタイミングを適切に制御して、脱硝率の確保とNH3のスリップ低減及び、尿素水の節約に伴うディーゼルエンジンの運転コストを低減させる装置を提供する。
【解決手段】エンジン1の排気管2に設けられ、SCR触媒11の入口と出口の排ガス温度からSCR触媒11の内部温度を算出し、SCR触媒11の内部温度に基づいてSCR触媒への還元剤吸着量を推定することにより、排ガス中に噴霧する還元剤量を精度高く算出して、尿素水噴霧装置6によって排ガス中に噴霧することにより、NH3及びNOxのスリップ量を削減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、特にディーゼルエンジンの排気浄化装置及び排気浄化方法に係り、尿素水又はアンモニア(NH3)を還元剤として添加して、窒素酸化物(NOx)を還元除去する選択還元型SCR触媒のNOx浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特にディーゼルエンジン(以後エンジンと表記する)の排ガス中に含まれる大気汚染物質の一つである窒素酸化物(以後NOxと表記する)を浄化するための排ガス浄化装置として、エンジンの排気通路に選択還元型SCR触媒(以後SCR触媒と表記する)を配設して、還元剤としてのアンモニア(以後NH3と表記する)をSCR触媒に添加することにより、排ガス中のNOxを選択的に浄化するようにした排ガス浄化装置が開発されている。
【0003】
このような、排ガス浄化装置では、SCR触媒の上流側に噴霧ノズルにより尿素水を排ガス中に噴霧し、この尿素水が排ガスの熱により加水分解して生じたNH3がSCR触媒に供給される。SCR触媒に供給されたNH3は一旦SCR触媒に吸着され、該NH3と排ガス中のNOxとの脱硝反応がSCR触媒によって促進されることによりNOxの浄化(脱硝)が行われる。
【0004】
ところで、一般的にNOx浄化装置におけるNOx浄化率はSCR触媒の性能に依存するところが大きく、NH3を還元剤として高効率でNOxを浄化するためにはある程度の高温が必要とされる。
NH3を還元剤とするSCR触媒は、SCR触媒へのNH3吸着量が多いほどNOx浄化率が高いため、低温域でのSCR触媒の高浄化率を得るにはNH3吸着量を高く制御する必要がある。
一方、SCR触媒へのNH3吸着量には限界があり、吸着限界値はSCR触媒温度が低いとNH3吸着量は多く、SCR触媒温度が高いとNH3吸着量は少なくなる。
その先行技術文献として、特許第3951774号公報(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3951774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によると、NOx排出量導出手段で検出された又は、推定されたNOx排出量と、SCR触媒による実NOx浄化率とに基づき、SCR触媒に吸着されたNH3の消費量を導出して、吸着量導出手段により求めたNH3の添加量とNH3の消費量に応じてSCR触媒に吸着されたNH3の実吸着量を導出し、この実吸着量に応じて還元剤供給手段を制御するものである。
これらの制御を行う場合、触媒温度をより精度よく検出して、脱硝率の向上とNH3のスリップ(NH3の供給量が多くて、触媒への吸着限界を超えると、SCR触媒に吸着されずに、NH3が大気中に放出される現象)防止を行う必要がある。
ところが、温度センサにてSCR触媒の一部の温度しか測定していないため、SCR触媒全体の温度とはなっていない場合がある。
また、排ガス温度を使用する場合もあるが、汎用エンジン等では、使用される運転特性として、自動車やプラントよりも過渡運転状況が多い。つまり、負荷変動が大きく、断続運転を行うため、エンジン停止時間の長・短によっては必ずしもSCR触媒温度の代表値となっていないことが多い。
さらに、SCR触媒の熱容量の関係により、即ち、前回の停止時から今回の再始動時までの時間が比較的短い場合等では、排ガス温度よりもSCR触媒温度の方が高くなっている場合もあり、正確な吸着量を推定することが困難な場合がある。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、SCR触媒温度を精度よく算出して、還元剤の投入量とタイミングを適切に制御して、脱硝率の確保とNH3のスリップ低減及び、還元剤の節約に伴うディーゼルエンジンの運転コストを低減させる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、エンジンの排気系に設けられ、還元剤であるNH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元するSCR触媒と、該SCR触媒に前記還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の入口と出口の前記排ガスの温度を測定する温度測定手段と、該温度測定手段にて検出した前記入口と出口との排ガス温度差に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定するSCR触媒温度推定部及び前記SCR触媒内部温度に基づいて前記SCR触媒への前記NH3の吸着量を算出して、該吸着量に基づいて前記還元剤の供給量を算出する還元剤供給量制御部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、前記エンジン始動時又は冷時に、前記還元剤供給量制御部にて前記還元剤供給量を算出する前記SCR触媒温度(初期値)として、前記温度測定手段の測定結果に基づいた前記SCR触媒の前記入口と前記出口との排ガス温度平均値と、前記SCR触媒温度推定部にて推定した前記SCR触媒内部温度とを比較して、排ガス温度平均値が前記SCR触媒内部温度に対して高いか又は、同等の場合は前記排ガス温度平均値を、前記SCR触媒内部温度の方が高い場合は前記SCR触媒の温度を初期値として前記還元剤供給量を算出して前記還元剤を前記還元剤供給手段から前記SCR触媒に供給するように制御することを特徴とする。
【0009】
このような構成により、SCR触媒は触媒へのアンモンニア(還元剤)吸着量が多いほどNOx浄化率が高い性質を有しているが、一方、SCR触媒の温度によってNH3吸着量が変化するので、NOx触媒の内部温度を精度よく測定して、還元剤の排ガス中への供給量をコントロールすることにより、還元剤のスリップ(還元剤が反応しないで、アンモニアのままで大気に放出される)量を極力減少させて排ガスの浄化向上が可能とすることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記SCR触媒温度推定部は前記エンジン停止後も前記SCR触媒温度の推定を継続し、前記SCR触媒温度推定部による前記SCR触媒推定温度と、前記温度測定手段にて検出された前記SCR触媒入口が前記排ガス温度以下となった場合には前記SCR触媒温度の推定を終了し、前記SCR触媒推定温度が前記SCR触媒入口排ガス温度より高い状態で、前記エンジンが再始動した場合には前記触媒温度推定を前記再始動時の前記触媒温度推定値を前記初期値として前記還元剤供給量を算出して前記還元剤を前記還元剤供給手段から前記SCR触媒に供給するように制御するとよい。
【0011】
汎用エンジン等では機関本体の稼動状態が多種多様であるため、エンジンの温度が下がらないうちに再起動する場合や、エンジンの停止が長くエンジンが冷えた状態(冷時)で再起動する場合等の使用例が多く、再起動したときにより正確なSCR触媒へのNH3吸着量を推定することにより、再始動時の排ガス浄化効率向上が可能とすることができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、前記SCR触媒温度推定部は前記SCR触媒入口と、前記SCR触媒出口の排ガス温度を計測して、夫々の排ガス温度、前記触媒の熱容量及び伝熱特性に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定するとよい。
【0013】
このような構成により、SCR触媒入口及び出口の排ガス温度を計測して、SCR触媒内部推定温度を推定しているので、SCR触媒全体の平均温度とすることができるので、脱硝反応やSCR触媒へのNH3吸脱着反応の平均値を求めることが可能となるため、SCR触媒へのより精度の高いNH3吸着量を推定することができ、排ガスの浄化向上が可能とすることができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、前記エンジンが冷時状態始動時の前記SCR触媒温度を温度センサにて直接測定し、その測定値を前記初期値とするとよい。
【0015】
エンジン始動時の触媒温度の初期値を温度センサにて直接測定しているので、エンジンが始動して触媒温度が効率的に還元反応できる温度状態になるまでの間について、精度よく触媒温度が計測できる。この為、SCR触媒の還元剤吸着量とその還元浄化処理を更に、適切に実行することが可能となる。
従って、適切なNOx還元剤の噴霧量とすることで、NH3のスリップを防止すると共に、還元剤の無駄を省き、エンジンの運転コストを低減できる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、エンジンの排気系に設けられ、NH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元し、周方向に複数に分割された領域を有する円柱形状のSCR触媒と、該SCR触媒の上流側で、還元剤である前記NH3又は尿素水を噴出する複数の噴霧ノズルを前記SCR触媒の周方向へ等間隔に配設して前記還元剤を前記SCR触媒に供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の排ガス入口と出口に配設された温度センサとが前記SCR触媒を挟んで且つ、対向した状態で夫々配置された温度測定手段と、該温度測定手段にて測定された温度に基づいて前記SCR触媒内部温度を対向した前記温度センサ毎に温度分布を推定する触媒温度推定部と、前記SCR触媒内部温度に基づいて前記SCR触媒への前記NH3の吸着量を算出して、該吸着量に基づいて還元剤の供給量を前記複数の噴霧ノズル毎に算出する還元剤供給量制御部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、前記還元剤供給量制御部は前記触媒温度推定部によって検出された前記温度分布の温度の高さにより前記各噴霧ノズルからの前記還元剤噴出量を制御したことを特徴とする。
【0017】
このような構成により、複数に分割した触媒の円周方向毎に還元剤を触媒の温度分布毎
に噴霧量を調整できるため、効率的な脱硝が可能となり、尿素水の使用量を少なくすることができると共に、NH3のスリップ量も低減できる。
また、配管の曲がり等による排ガスの偏流により、SCR触媒を流れる排ガス量が部分
的に偏り、NOxの還元率が分布により異なってくるが、このような場合にも効果的に対応できる。
更に、複数のノズルを使用するため、ノズルの故障が発生しても、極端な脱硝性能の低
下を防止することが可能となる。
【0018】
また、本発明において、前記複数の各噴霧ノズルは前記複数に分割された領域のSCR触媒夫々に対向して配置され、前記夫々の噴霧ノズルから噴出される前記還元剤の前記SCR触媒への噴霧領域は前記全噴霧ノズルで前記SCR触媒の排ガス入口側の全域に噴霧されると共に、前記各噴霧ノズルは少なくとも前記SCR触媒の中心部を前記各噴霧ノズル夫々が重複して前記還元剤が噴霧されるように形成されているとよい。
【0019】
このような構成により、一般にNOx触媒中心部は最も温度が高いため、どのノズルからも還元剤が中心部に噴霧されるようにして、触媒の排気系上流側前面の中央部に多くの還元剤が噴霧されるようにしてNOxの還元浄化を効率的に促進できる。
更に、ノズルが複数となるので大型エンジン用に小型エンジン用ノズルを複数使用することで、大口径のノズルが不要となるため、部品の共通化が可能となりコスト低減効果が得られる。
【0020】
また、本発明において、前記複数の各噴霧ノズルは前記複数に分割された領域のSCR触媒の夫々の前記温度センサ毎に分布された前記温度分布の分布域に対し、複数個の前記噴霧ノズルを配置するとよい。
【0021】
このような構成により、分割されたSCR触媒夫々に対応した数だけ還元剤噴霧ノズルを設ける必要がなく、触媒の排気系上流側前面を覆う噴射領域にすることで、NOxの還元浄化を効率的に促進できると共に、噴霧ノズルの数を減少してコスト低減も可能となる。
【0022】
また、本発明において、エンジンの排気系に設けられ、還元剤であるNH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元するSCR触媒と、該SCR触媒の前記排気系下流側に前記SCR触媒と間隔を置いて配置され、排ガス中のNOx及びNH3を浄化するNH3スリップ触媒と、前記SCR触媒に前記還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の入口と出口の前記排ガスの温度を測定する温度測定手段と、前記温度測定手段にて検出した前記入口と前記出口との排ガス温度差に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定するSCR触媒温度推定部、尿素水噴霧量に対して前記SCR触媒内部温度と前記エンジン負荷によるNOx浄化率に基づいて前記SCR触媒から前記NH3のスリップ量を算出するNH3スリップ量算出部、前記NOx浄化率に基づいて前記SCR触媒でのNOxスリップ量を算出するNOxスリップ量算出部、前記NOxスリップ量の還元に必要な還元剤量を算出する還元剤量算出部、前記温度測定手段による前記出口の排ガス温度の検出温度に基づいて前記NH3スリップ触媒が活性状態になっているかを判断するNH3スリップ触媒活性判断部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、NH3スリップ触媒活性判断部によってNH3スリップ触媒が活性状態になっていると判断した場合、前記SCR触媒内部温度に基づいて該SCR触媒からのNH3スリップ量とNOxスリップ量を算出して、前記NOxスリップ量を前記NH3スリップ触媒にて浄化するのに必要な前記還元剤量を求める前記SCR触媒の内部温度値として、前記温度測定手段の測定結果に基づいた前記SCR触媒の前記入口と前記出口との排ガス温度平均値と、前記SCR触媒温度推定部にて推定した前記SCR触媒内部温度とを比較して、温度の高い方を前記SCR触媒内部温度として前記還元剤量算出部で算出して前記還元剤供給手段に出力するようにしたことを特徴とする。
【0023】
このような構成により、排ガス規制をクリアするため酸化触媒(以後NH3スリップ触媒と表記する。)を装着する必要のある場合には、SCR触媒にて意図的にNH3をスリップさせることにより、NH3スリップ触媒でのNOx浄化に必要なNH3量を供給することにより、NH3スリップ触媒でのNOx浄化を最大限に活用して、浄化率の向上が可能となる。
またNH3スリップ触媒のNOx浄化機能を活用することによりSCR触媒のサイズを縮小でき、コストの軽減につながる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、このような構成により、SCR触媒は触媒へのNH3(還元剤)吸着量が多いほどNOx浄化率が高い性質を有しているが、温度によってNH3の吸着量が変化するので、SCR触媒の内部温度を精度よく測定して、還元剤の排ガス中への噴出量をコントロールすることにより、還元剤のスリップ量を極力減少させて排ガス中の脱硝効果を向上させることが可能となる。
更に、排ガス規制をクリアするためNH3スリップ触媒を装着する必要のある場合には、SCR触媒にて意図的にNH3をスリップさせることにより、NH3スリップ触媒でのNOx浄化に必要なNH3量を適切に供給することにより、NH3スリップ触媒でのNOx浄化を最大限に活用して、浄化率の向上が可能となる。
またNH3スリップ触媒のNOx浄化機能(脱硝)を活用することによりSCR触媒のサイズを縮小でき、部品の共通化が図れると共に仕様変更にも容易に対応可能となり、実質コストの低減になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンのNOx浄化装置の概略構造図を示す。
【図2】本発明の第1実施形態の排ガス浄化に係る制御フロー図を示す。
【図3】本発明の第1実施形態に係る排ガス温度と、SCR触媒温度の時間経過による温度上昇の関係図を示す。
【図4】本発明の第1実施形態に係るSCR触媒内部温度と、アンモニア吸着の許容量との関係図を示す。
【図5】本発明の第3実施形態に係る(A)はSCR触媒浄化装置の概略構造図、(B)はSCR触媒に噴霧される還元剤の噴霧パターン図、(C)はSCR触媒の分割領域形状図を示す。
【図6】本発明の第4実施形態に係るSCR触媒浄化装置の概略構造図を示す。
【図7】本発明の第4実施形態の排ガス浄化に係る制御フロー図を示す。
【図8】本発明のSCR触媒内部温度とエンジン運転状態からSCR触媒の浄化率を推定するマップの一例を示す。
【図9】本発明の第4実施形態に係るNH3スリップ触媒へのNOx流入量とNH3スリップ触媒の温度からNH3要求量を推定するマップの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。
但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0027】
(第1実施形態)
図1乃至図4に基づいて、本発明の第一実施形態に係るエンジンのNOx浄化装置について説明する。
図1において、NOx浄化装置10はエンジン1から排出された排ガスのNOx浄化のため還元剤供給量制御部を有した制御手段であるコントローラ5と、コントローラ5の制御によって還元剤を噴霧する還元剤供給手段である尿素水噴霧装置6と、SCR触媒11及び排気ガス等の温度を検出する温度測定手段である入口側温度センサ12及び出口側温度センサ13等から構成されている。
【0028】
エアクリーナ(図示省略)からエンジン1の燃焼室に吸気を導くインレットマニホールド3には吸気の空気量と、吸気温度(吸気密度を算出する)を測定する吸気流量センサ31が装着されている。
前記燃焼室で燃焼した排ガスはエキゾーストマニホールド4を介して排気管2に導かれて大気に放出される。
排気管2内には、排気通路24の上流側から排ガス中のNOx濃度を検出するNOxセンサ、HC,CO,NOなどを酸化するDOC触媒7(酸化触媒)、詳細を後述するコントローラ5の制御によって還元剤を噴霧する噴霧ノズル62、SCR触媒11に入る排ガスの温度を検知する温度測定手段である入口側温度センサ12、排ガス中のNOxを浄化する触媒を付着させたハニカム状のSCR触媒11、SCR触媒11を通過した排ガスの温度を検知する出口側温度センサ13及び、SCR触媒11で処理できなかったNOx及びNH3を処理するNH3スリップ触媒8が配置されている。
また、SCR触媒11の温度を直接測る温度センサ22がSCR触媒11に取付けられている。
【0029】
SCR触媒11はハニカム構造の触媒担体に触媒成分を付着させたもので、排気管2内に収納されている。NOxの選択還元触媒としてはバナジウム系、ゼオライト系などが知られている。SCR触媒11は排ガス中のNOxを選択還元するもので、SCR触媒11にNH3が吸着している状態において、SCR触媒11の温度が約200℃を上回る領域では高効率でNOxを還元処理する特性を有している。
そのため、SCR触媒11の温度を精度よく検知することにより、還元剤(NH3)のスリップ防止及びNOxの浄化処理向上に良い効果を得ることができる。
【0030】
コントローラ5について説明する。
SCR触媒内部温度と排ガス温度の関係は図3に示すように、エンジン1始動時はSCR触媒温度が排ガス温度に対して低い。排ガス温度はエンジン1の運転と同時に温度が上昇するが、SCR触媒の内部温度は伝熱の遅れがあるため、温度上昇の割合が低く(温度上昇が遅い)運転開始から約800秒経過しないと略同じ温度にならない。
そのため、精度の高いSCR触媒の内部温度を求めるSCR触媒温度推定部55はSCR触媒11入口の排ガス温度を検知する入口側温度センサ12と、SCR触媒11の出口側の排ガス温度を検知する出口側温度センサ13の検知温度の差に基づいて以下の伝熱式にて求められる。
<伝熱式>
ハニカム構造の固体と排ガスの伝熱関係は以下の通りとなる。
即ち、[排ガス側の温度変化]=−[対流項]+[SCR触媒と排ガス間の熱移動]となり、計算式では

となる。ガス熱量の単位体積あたりの変化に対し、SCR触媒から流出した排ガスに残った温度(熱)と、排ガスからSCR触媒に移動した熱として表される。
一方、排ガス側から移動した伝熱によるSCR触媒の温度変化
即ち、[SCR触媒側の温度変化]=[SCR触媒と排ガス間の熱移動]
となり計算式では

となり、SCR触媒の温度上昇分が算出される。
但し、(1)及び(2)の記号は

である。
【0031】
排ガス平均温度算出部54はSCR触媒11入口の排ガス温度を検知する温度測定手段である入口側温度センサ12と、SCR触媒11の出口側の排ガス温度を検知する出口側温度センサ13に基づいて算出される。
排ガス平均温度=(入口の排ガス温度+出口側の排ガス温度)/2・・・・・(3)
エンジン1が始動したばかりで、SCR触媒11が十分に温まっていない等の場合に触媒温度推定部55にて推定した温度と比較して、温度の高い方の値を触媒吸着量推定用の初期値として使用する。
【0032】
目標吸着量算出部56はエンジン1の特性に基づいて決定されるもので、排気ガス規制値をクリアするためにエンジンの負荷状況(稼働状況)に応じて必要還元剤量を実験値にて作成したマップから読取る。
【0033】
実吸着量演算部57はSCR触媒温度推定部55にて推定した温度に基づいて、SCR触媒11へ実際に吸着する還元剤(NH3)量を算出する。
これは、SCR触媒11の特性によるもので、SCR触媒11の温度により還元剤(NH3)の吸着量を測定してデータ化したマップから算出する。
尚、図4に示すように、SCR触媒11の温度と、SCR触媒11のNH3吸着許容量はSCR触媒11の温度の高さに反比例する。
【0034】
変換係数58は目標吸着量算出部56にて求めた必要還元剤量と、SCR触媒11に実際に吸着する還元剤(NH3)量とを比較して、その差を求め、排気ガス規制値をクリアするように補正するための補正値を算出して出力する。
【0035】
排気ガス算出部51はインレットマニホールド3を流れる吸気流量とその吸気温度(空気密度を算出する)をセンサ31から取入れると共に、燃料流量計(図示省略)からエンジン1の燃焼室に圧送される燃料の流量に基づいて、NOx排出量を算出する。
NOx排出量算出部52は、該排ガス算出手段51で算出した排ガス量と、NOxセンサ19からのNOx濃度(%)とからNOx排出量を算出する。
尿素水噴霧量目標算出部53はNOx排出量算出部52にて算出したNOx排出量に基づいて、必要な還元剤である尿素水量を算出する。
【0036】
変換係数58では目標吸着量算出部56にて算出した目標吸着量と、実吸着量演算部57にて算出した実吸着量との差を求め、目標吸着量に対し、実吸着量が多い場合には尿素水の噴霧量を上述の差に基づいて減少させる値に補正する。
また、目標吸着量に対し、実吸着量が少ない場合には尿素水の噴霧量を上述の差に基づいて増大させる値に補正する。
補正された吸着量の補正値と、尿素水噴霧量目標算出部53にて算出した目標値とを出力部59にて差を求め、尿素水噴霧量目標値が吸着量補正値より多い場合にはその差分尿素水の噴霧量を減少させる値を還元剤供給手段である尿素水噴霧装置6に制御信号を出力する。
また、尿素水噴霧量目標値が吸着量補正値より少ない場合には変換係数58にて補正した補正値を尿素水噴霧装置6に制御信号を出力する。(還元剤供給量制御部)
これは、NH3がSCR触媒11からスリップするのを防止すると共に、尿素水使用量の減少を図り、エンジン1の運転コストの低減となる。
【0037】
尿素水噴霧装置6にはコントローラ5からの出力信号に基づいて尿素水の噴霧量およびタイミング等を制御する尿素水噴霧制御装置61と、排気管2のSCR触媒11の上流側に配設された噴霧ノズル62と、尿素水タンク63からの尿素水と、該尿素水を噴霧化するためのエアタンク64からのエアとを尿素水噴霧制御装置61からの出力信号に基づいて開閉バルブの開閉を制御して、エアと尿素水とを混合させた状態で噴霧ノズル62に圧送すると共に、尿素水の噴出量調整を行うドージングモジュール65とで構成されている。
【0038】
以下、このように構成された本発明に係るエンジンのNOx浄化装置に関する第一実施形態の制御内容について説明する。
コントローラ5が実行する制御を図2に沿って説明する。
【0039】
エンジン1が大気温度に等しくなっている状態(冷時)において、エンジン1が始動される。ステップS1において、SCR触媒11の温度を直接測定して、これをSCR触媒11の初期値とする。これはエンジン1が始動したばかりで、図3に示すとおりSCR触媒11の温度はすぐには上昇しない。
【0040】
ステップS2において、SCR触媒11の内部温度を推定計算する。計算方法は上述の計算式(1)及び(2)に基づいて行われる。
ステップS3においてSCR触媒11の入口側の入口側温度センサ12及び出口側の出口側温度センサ13の平均値を算出する。計算式(3)による。この平均値は排ガスの熱がどれくらいSCR触媒11に伝熱されたかにより、SCR触媒11の温度を推定するのに用いる。
ステップS4においてステップS2の触媒内部推定温度と、ステップS3の平均値とを比較する。
【0041】
平均値の方が高いか、又は同じ場合はYesとしてステップS5に進む。触媒内部推定温度の方が高い(No)場合はステップS6に進む。
即ち、SCR触媒11の内部温度が高い方が、NOxの還元浄化作用の効率が高いので、推定値若しくは平均値の高い方の値に基づいて尿素水量を決めるようになっている。
【0042】
ステップS7において、エンジン1が運転中の場合(No)は、ステップS2に戻り、SCR触媒11の内部温度の推定計算を繰返し、SCR触媒11の内部温度に基づいて適切な尿素水量とその効率的なNOx浄化作用を得るための制御を行う。
エンジン1が停止の場合(Yes)は、ステップS8に進む。ステップS8において、SCR触媒11の内部温度の推定計算を継続する。
これは特に発電機又は産業用機械が取付けられたエンジン1の場合、作業機側の運転状況が多様で、エンジン1の運転間隔が長かったり、短かったりまた、負荷変動が大きかったりする場合が多い事情による。
そのどのような場合でも、常に(エンジンが温かい状態の場合)SCR触媒11の内部温度を検知して、適正なNOx浄化と、NH3のスリップ削減を行うことができるようにしている。
【0043】
ステップS9において、触媒推定温度が触媒入口排ガス温度以下になった場合には、Yesとして触媒温度の推定計算を終了する。
これは、エンジン1が冷時状態になったことを示し、再始動の際は、排ガス温度を初期値として使用するので、触媒温度の推定計算を終了するものである。
一方、触媒推定温度が触媒入口排ガス温度より高い場合にはNoとして、ステップS11に進む。この状態は、触媒温度が未だ冷えずに温かい状態を示すもので、ステップS11ではエンジン1を始動するかを判断している。始動しない場合はNoとして、ステップS8に戻り、触媒推定温度が触媒入口排ガス温度以下になるまで繰返す。
エンジン1を始動する場合にはYesとしてステップS12に進み、触媒の内部温度推定値を初期値としてステップS2に戻り、制御を繰返す。
【0044】
第一実施形態では、触媒全体の温度を推測して、触媒への還元剤吸着量を精度よく推定して、エンジン1の始動初期における、NOx還元剤の噴霧量、NH3のスリップ量削減を可能としている。
また、汎用エンジン特有の運転状況において、特に運転ON―OFFの繰返し時においても、適切なNOx還元剤の噴霧量とすることで、還元剤(尿素水)の無駄を省き、エンジン1の運転コストを低減できる。
【0045】
第二実施形態の制御内容について説明する。
第一実施形態の制御フロー図(図2)においては、ステップS1で「排ガス温度測定を行い、その値を触媒温度推定ロジックの初期値とする」としているが、第二実施形態では、前記ステップS1において、「触媒温度を直接測定して、その値を触媒温度推定ロジックの初期値とする」。前記ステップS1以外はすべて同じなので、制御フロー及びその説明は省略する。
【0046】
第二実施形態においては、第一実施形態で記述したとおり、排ガス温度はエンジン1の運転と同時に温度が上昇するが、触媒の内部温度は伝熱の遅れがあるため、温度上昇の割合が低く(温度上昇が遅い)運転開始から約800秒経過しないと略同じ温度にならない。
従って、エンジン1始動時の触媒温度の初期値を温度センサ22にて直接測定しているので、エンジン1が始動して触媒温度が効率的に還元反応できる温度になるまでの間、精度よく触媒温度が計測できるので、SCR触媒の還元剤吸着量とその還元浄化処理を更に、適切に実行することが可能となる。
このようにすることによって、NOx還元剤の噴霧量を適切な量とすることで、還元剤(尿素水)の無駄を省きNH3のスリップ量を抑制できると共に、エンジン1の運転コストを低減できる。
【0047】
第三実施形態について図5の(A)、(B)及び(C)に基づいて説明する。
図(A)はSCR触媒浄化装置のSCR触媒部分の概略構造図を示し、排気管2の排気通路に図(C)に示すように、円周方向に略均等に四分割されたSCR触媒70(70a、70b、70c及び70d)が配置されている。排気通路のSCR触媒70の入口側には4個の入口側温度センサ71(71a、71b、71c及び71d)が前記四分割の分割部分に沿って4個配設されている。また排気通路のSCR触媒70の出口側には入口側の温度センサ71とSCR触媒70を挟んで対向した位置に4個の出口側温度センサ71(71e、71f、71g及び71h)が配設されている。
【0048】
また、排気通路の入口側温度センサ71の上流側には尿素水の噴出量調整を行うドージングモジュール73から圧送されるエアと尿素水との混合剤を排気通路の排ガス中に噴霧する四個の噴霧ノズル72(72a,72b、72c及び、72d)が配設されている。
四個の噴霧ノズル72は円周方向に略均等に四分割されたSCR触媒70(70a、70b、70c及び70d)夫々の排ガス入口側面の中心位置近傍で、円周方向へ略均等に配置されている。
更に、噴霧ノズル72(72a,72b、72c及び、72d)夫々の配置及び噴霧パターンは図(B)に示すように、SCR触媒70の中心部に全ての噴霧ノズル72がオーバラップして尿素水を吹付け可能に配設されている。
【0049】
SCR触媒70は上述の通り、円周方向に四分割されているのは、排気管2の曲がり等により排ガスに偏流が生じ、排ガスがSCR触媒70の全体を均等に通過しない。
従って、円周方向に四分割されたSCR触媒70の70a、70b、70c及び70d毎に内部温度を温度センサ71の71a、71b、71c及び71dにて測定し、測定した夫々の温度に基づいて夫々の触媒毎に還元剤(NH3)の噴霧量をコントローラ80(図1参照)にて個別に決定する。決定された夫々の噴霧量は噴霧ノズル72の72a,72b、72c及び、72dから触媒70の70a、70b、70c及び70dに個別に噴霧される。
制御の方法は例えば、
・脱硝率:低&NH3のスリップ率:低の場合⇒該当噴霧ノズルの噴霧量増加
・脱硝率:低&NH3のスリップ率:高の場合⇒該当噴霧ノズルの噴霧量減少
・脱硝率:高&NH3のスリップ率:低の場合⇒該当噴霧ノズルの噴霧量保持又は増加
(増加量は脱硝率が理論増加量に達するまで)
・脱硝率:高&NH3のスリップ率:高の場合⇒該当噴霧ノズルの噴霧量減少
等を行う。
【0050】
また、SCR触媒70の各分割された触媒70a、70b、70c及び70dの内部温度推定手段81は次の式にて算出される。
触媒温度推定部81(図1参照)はSCR触媒70入口の排ガス温度を検知する温度センサ71a、71b、71c及び71dと、SCR触媒70の出口側の排ガス温度を検知する温度センサ71e、71f、71g及び71hに基づいて以下の伝熱式にて求められる。
<伝熱式>
夫々の触媒70a、70b、70c及び70d毎にハニカム構造の固体と排ガスの伝熱関係は以下の通りとなる。
即ち、[排ガス側の温度変化]=−[対流項]+[SCR触媒と排ガス間の熱移動]となり、計算式では

となる。ガス熱量各夫々の単位体積あたりの変化に対し、SCR触媒から流出した排ガスに残った温度(熱)と、排ガスからSCR触媒に移動した熱として表される。
一方、排ガス側から移動した伝熱によるSCR触媒の温度変化
即ち、[SCR触媒側の温度変化]=[SCR触媒と排ガス間の熱移動]
+[隣り合う触媒からの熱移動]
となり、計算式では

となり、SCR触媒の温度上昇分が算出される。
尚、上述の但し以外の記号は第一実施形態の伝熱式(段落〔0025〕)で使用した記号と同じなので、本欄では省略する。
また、制御方法についても、夫々分割された触媒毎に、第一実施形態で説明した内容と同じなので、説明を省略する。
【0051】
第三実施形態においては、SCR触媒70の円周方向に触媒を四分割(70a、70b、70c及び70d)にして、各分割された触媒毎に噴霧量を調整できるため、効率的な脱硝が可能となり、特に、排気管2の曲がり等による排ガスの偏流に対応できるため、効率的な脱硝が可能となると共に、尿素水の使用量を少なくでき、NH3のスリップ量も低減できる。
更に、一般に触媒中心部は排ガスの通過量が多く、従って触媒の温度も高くなるので、各噴霧ノズルからの還元剤を中心部にオーバラップして吸着させて、中心部への還元剤を多くすることにより、脱硝作用の効率化を図ったものである。
また、各噴霧ノズル72a,72b、72c及び、72d複数で噴霧するため、ノズル径を小さくすることが可能となり、大きなエンジン用にも共通(噴霧ノズル個数を増大)して使用でき、コスト低減が可能となる。
また、分割された触媒に対応して複数の噴霧ノズルを備えているため、噴霧ノズルのどれかが故障しても、極端な脱硝性能の低下を防止できる。
【0052】
尚、本第三実施形態では、SCR触媒を円周方向に均等に四分割した例を示したが、排ガスの偏流により周方向に均等割りに分割する必要もなく、排ガスの通過する部分には多くの還元剤が付着するようにすれば、本実施形態と同様の効果を容易に得られる。
更に、本第三実施形態では、分割された触媒毎に対応した噴霧ノズル72を配置したが、
温度センサ71による触媒70の測定温度に基づいて、触媒70の周方向に分割した温度分布を算出する。算出された温度分布に対応した数の噴霧ノズル72を配設して、温度分布毎の温度により触媒へ還元剤噴霧量をコントローラ80にて算出して、噴霧ノズル72から各温度分布毎に還元剤を個別に噴霧しても、第三実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
第四実施形態について図6乃至図9に基づいて説明する。図6は排気管81に装着されているSCR触媒82の下流側にNH3スリップ触媒83(以後NH3スリップ触媒と記述する)を配置した場合について説明する。
尚、第1実施形態と同じ部品は同じ符号を使用する。
排出ガス規制の内容により、特に、ディーゼルエンジン搭載のトラック・バス等においては、SCR触媒82の下流側にNH3スリップ触媒83を配置して、排ガス中のNOxおよびNH3を効率よく浄化している。
図6において、80はNOx浄化装置を示し、エンジン1から排出された排ガスは排気管81に導かれる。排気管81には排気系上流側からHC,CO,NOなどを酸化するDOC触媒7(酸化触媒)、噴霧ノズル84、SCR触媒82、SCR触媒82に間隔を置いてNH3スリップ触媒83が配置されている。SCR触媒82の排気系上流側には噴霧ノズル84の下流側でSCR触媒82の排ガス入口に入口側温度センサ84が配置され、SCR触媒82の排ガス出口側に出口側温度センサ86が配置されている。
SCR触媒82はハニカム構造の分割された触媒担体に触媒成分を付着させたもので、排気管2内に収納されている。NOxの選択還元触媒としてはバナジウム系、ゼオライト系などが知られている。SCR触媒11は排ガス中のNOxを選択還元するもので、SCR触媒11にNH3が吸着している状態において、SCR触媒11の温度が約200℃を上回る領域では高効率でNOxを還元処理する特性を有している。
又、酸化触媒(DOC)としてPt(白金)系、Pt−Pd(白金・パラジウム)系を用いている。
【0054】
SCR触媒82の内部温度推定値は、上述の第一実施形態と同じ要領にて行うので、説明は省略する。
NH3スリップ触媒83はSCRでNOx浄化に使用されなかったNH3を酸化するとともに、NH3の還元作用によりNOxを浄化(脱硝)させることができる。
更に、未燃焼の排ガス中の浮遊粒子状物質(PM;Particulate Matter)等の捕捉も行う。
【0055】
図7に基づいて制御フローを説明する。
ステップS30にて、エンジン回転数Ne及びトルクTqからエンジンの出力(負荷)状態を算出する。ステップS31にてステップS30の出力状態からNOxの排出量を算出する。
ステップS32にてステップS31で算出したNOx量に基づいて尿素水の噴霧量を算出する。ステップS33にて算出された尿素水噴霧量を還元剤供給手段である噴霧ノズル84から排ガス中に噴霧する。ステップS34にて温度測定手段である入口側温度センサ85及び出口側温度センサ86にて排ガスの温度を測定する。ステップS35にてSCR触媒82の内部温度を算出する(SCR触媒温度推定部)。触媒内部温度の算式は第一実施形態の<伝熱式>と同じなので本実施形態では説明を省略する。
【0056】
ステップS36において、ステップS35にて算出したSCR触媒82の内部温度に基づいて、SCR触媒82の内部温度とエンジン負荷(エンジン回転数Ne及びトルクTq)状態によるNOx浄化率%をマップ(図8参照)から算出する。NOx浄化率%はエンジン負荷により異なり、実験値データから作成する。
ステップS37にてSCR触媒82からのNH3のスリップ量をNH3スリップ量算出部にて算出する。
即ち、NH3スリップ量=尿素水噴出量―浄化NOx量から求める。
但し、浄化NOx量=エンジンからのNOx排出量×NOx浄化率。
【0057】
ステップS38において、NH3スリップ触媒活性判断部がSCR触媒82を通過した排ガスを出口側温度センサ86で測定して、測定された値にてNH3スリップ触媒83の温度を推定する。
ステップS39にて、ステップS38で推定したNH3スリップ触媒83の温度が活性状態にあるかを判断する。活性状態にない(No)場合には、ステップS30に戻りNH3スリップ触媒83が活性状態になるまで繰返す。
NH3スリップ触媒83の温度が活性する温度に到達した場合を活性状態にあると判断する。
この場合は尿素水の噴霧を停止する。その理由として、噴霧した尿素水でNOx浄化に用いられなかった分はNH3としてNH3スリップ触媒に吸着される。NH3スリップ触媒の温度の上昇や排気ガスの流量の変動により、NH3スリップ触媒に吸着されたNH3は離脱することがある。
一方、活性状態である(Yes)場合、ステップS40に進む。ステップS40では
(入口側温度センサ85検出値+出口側温度センサ86検出値)/2と、SCR触媒82の内部温度とを比較する。これはエンジン1の運転状態において、排気ガスの方が高い場合と、SCR触媒82の内部温度の方が高い場合があるためであり、脱硝率は温度の高い方が高くなるので、高い方を選択する。汎用エンジンの稼働状況は多種多様であり、負荷変動、エンジンの運転又は休止の繰返し等様々である。そのような場合でもより効率的な脱硝作用及び、NH3のスリップ量減少をするためである。
【0058】
ステップS40でSCR触媒82の内部温度の方が高い(No)場合はとして、ステップS41に進む。ステップS41にてSCR触媒82の内部温度に基づいて、SCR触媒82のNH3スリップ量を求める。ステップS42にてNOxスリップ量算出部によりSCR触媒82からのNOxスリップ量を求める。算出方法としては、エンジン1からのNOx排出量から図8のSCR触媒温度とエンジン負荷(Ne・tq)によるNOx浄化率によって求める。ステップS43にてステップS42で求めたNOxスリップ量をNH3スリップ触媒で脱硝するのに必要なNH3量を算出する。図9はNH3スリップ触媒で脱硝するのに必要なNH3量をマップ化したものである。
即ち、SCR触媒82をスリップしたNOx量に対しNH3スリップ触媒の温度別によるNH3のNOx浄化に必要な量を実験値のより作成したものである。
従って、SCR触媒82を通過した排ガスの温度を出口側温度センサ86にて検出した温度をNH3スリップ触媒の温度として、図9からSCR触媒82をスリップしたNOx量と、NH3スリップ触媒の温度とから、NH3スリップ触媒でNOxを還元浄化するのに必要なNH3を算出する。
ステップS44にて、ステップS41で求めたNH3のスリップ量と、ステップS43で求めたNH3スリップ触媒での必要なNH3とを比較して、尿素水が不足する場合は尿素水噴霧量を増大し、スリップしたNOxを浄化するのに必要なNH3スリップ量となるように補正する。補正した値をステップS33に出力して、尿素水噴霧装置87によって排ガス中に尿素水が噴霧される。
【0059】
ステップS40にてSCR触媒82の内部温度より、(入口側温度センサ85検出値Tg_i+出口側温度センサ86検出値Tg_o)/2の温度の方が高い場合はYesとしてステップS45へ進む。ステップS45では(検出値Tg_i及び検出値Tg_o)/2の温度に基づいて、
SCR触媒82のNH3スリップ量を求める。ステップS46にてSCR触媒82のNOxスリップ量を求める。ステップS47にて脱硝するのに必要なNH3量を算出する。ステップS48にて尿素水噴霧量を補正する。補正した値をステップS33に出力して、尿素水噴霧装置87によって排ガス中に尿素水が噴霧される。
尚、ステップS46〜ステップS48はステップS42〜ステップS44と制御内容が同じなので、説明を簡略化した。
【0060】
NH3スリップ触媒83をSCR触媒82の排気系下流側に必要とする本第四実施形態によれば、SCR触媒を意図的に小さくして、NH3及びNOxのSCR触媒でのスリップ量を多くして、NH3スリップ触媒でのNOx脱硝を最大限に活用させて、SCR触媒を小さくさせることによるコスト低減、及び、汎用エンジンの全体形状を小さくでき、作業機械との組み合わせに自由度が増し、構造の簡素化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
ディーゼルエンジンの排ガス浄化のため、SCR触媒に尿素水を吸着させて排ガス中のNOxを効率的に浄化すると共に、尿素水から加水分解したNH3のスリップを削減して、より精度の高い脱硝と、尿素水の使用量の減少に伴うディーゼルエンジン運転コストの低減を図るディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン
5、80 コントローラ
6 尿素水噴霧装置
11、70,82 SCR触媒
12 入口側温度センサ
13 出口側温度センサ
51 排ガス算出手段
52 NOx排出量算出手段
53 尿素水噴霧量目標算出手段
54 排ガス平均温度算出手段
55、81 触媒温度推定部
56 目標吸着量算出手段
57 実吸着量演算手段
61 尿素水噴霧制御装置
62 噴霧ノズル
83 NH3スリップ触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気系に設けられ、還元剤であるNH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元するSCR触媒と、該SCR触媒に前記還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の入口と出口の前記排ガスの温度を測定する温度測定手段と、該温度測定手段にて検出した前記入口と出口との排ガス温度差に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定するSCR触媒温度推定部及び前記SCR触媒内部温度に基づいて前記SCR触媒への前記NH3の吸着量を算出して、該吸着量に基づいて前記還元剤の供給量を算出する還元剤供給量制御部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、前記エンジン始動時又は冷時に、前記還元剤供給量制御部にて前記還元剤供給量を算出する前記SCR触媒温度(初期値)として、前記温度測定手段の測定結果に基づいた前記SCR触媒の前記入口と前記出口との排ガス温度平均値と、前記SCR触媒温度推定部にて推定した前記SCR触媒内部温度とを比較して、排ガス温度平均値が前記SCR触媒内部温度に対して高いか又は、同等の場合は前記排ガス温度平均値を、前記SCR触媒内部温度の方が高い場合は前記SCR触媒の温度を初期値として前記還元剤供給量を算出して前記還元剤を前記還元剤供給手段から前記SCR触媒に供給するように制御することを特徴とするエンジンのNOx浄化装置。
【請求項2】
前記SCR触媒温度推定部は前記エンジン停止後も前記SCR触媒温度の推定を継続し、前記SCR触媒温度推定部による前記SCR触媒推定温度と、前記温度測定手段にて検出された前記SCR触媒入口が前記排ガス温度以下となった場合には前記SCR触媒温度の推定を終了し、前記SCR触媒推定温度が前記SCR触媒入口排ガス温度より高い状態で、前記エンジンが再始動した場合には前記触媒温度推定を前記再始動時の前記触媒温度推定値を前記初期値として前記還元剤供給量を算出して前記還元剤を前記還元剤供給手段から前記SCR触媒に供給するように制御することを特徴とする請求項1記載エンジンのNOx浄化装置。
【請求項3】
前記SCR触媒温度推定部は前記SCR触媒入口と、前記SCR触媒出口の排ガス温度を計測して、夫々の排ガス温度、前記触媒の熱容量及び伝熱特性に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンのNOx浄化装置。
【請求項4】
前記エンジンが冷時状態始動時の前記SCR触媒温度を温度センサにて直接測定し、その測定値を前記初期値としたことを特徴とする請求項1記載のエンジンのNOx浄化装置。
【請求項5】
エンジンの排気系に設けられ、NH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元し、周方向に複数に分割された領域を有する円柱形状のSCR触媒と、該SCR触媒の上流側で、還元剤である前記NH3又は尿素水を噴出する複数の噴霧ノズルを前記SCR触媒の周方向へ等間隔に配設して前記還元剤を前記SCR触媒に供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の排ガス入口と出口に配設された温度センサとが前記SCR触媒を挟んで且つ、対向した状態で夫々配置された温度測定手段と、該温度測定手段にて測定された温度に基づいて前記SCR触媒内部温度を対向した前記温度センサ毎に温度分布を推定する触媒温度推定部と、前記SCR触媒内部温度に基づいて前記SCR触媒への前記NH3の吸着量を算出して、該吸着量に基づいて還元剤の供給量を前記複数の噴霧ノズル毎に算出する還元剤供給量制御部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、
前記還元剤供給量制御部は前記触媒温度推定部によって検出された前記温度分布の温度の高さにより前記各噴霧ノズルからの前記還元剤噴出量を制御したことを特徴とするエンジンのNOx浄化装置。
【請求項6】
前記複数の各噴霧ノズルは前記複数に分割された領域のSCR触媒夫々に対向して配置され、前記夫々の噴霧ノズルから噴出される前記還元剤の前記SCR触媒への噴霧領域は前記全噴霧ノズルで前記SCR触媒の排ガス入口側の全域に噴霧されると共に、前記各噴霧ノズルは少なくとも前記SCR触媒の中心部を前記各噴霧ノズル夫々が重複して前記還元剤が噴霧されるように形成されていることを特徴とする請求項5記載のエンジンのNOx浄化装置。
【請求項7】
前記複数の各噴霧ノズルは前記複数に分割された領域のSCR触媒の夫々の前記温度センサ毎に分布された前記温度分布の分布域に対し、複数個の前記噴霧ノズルを配置したことを特徴とする請求項5記載の特徴とするエンジンのNOx浄化装置。
【請求項8】
エンジンの排気系に設けられ、還元剤であるNH3を吸着して排ガス中のNOxを選択還元するSCR触媒と、該SCR触媒の前記排気系下流側に前記SCR触媒と間隔を置いて配置され、排ガス中のNOx及びNH3を浄化するNH3スリップ触媒と、前記SCR触媒に前記還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記SCR触媒の入口と出口の前記排ガスの温度を測定する温度測定手段と、前記温度測定手段にて検出した前記入口と前記出口との排ガス温度差に基づいて前記SCR触媒内部温度を推定するSCR触媒温度推定部、尿素水噴霧量に対して前記SCR触媒内部温度と前記エンジン負荷によるNOx浄化率に基づいて前記SCR触媒から前記NH3のスリップ量を算出するNH3スリップ量算出部、前記NOx浄化率に基づいて前記SCR触媒でのNOxスリップ量を算出するNOxスリップ量算出部、前記NOxスリップ量の還元に必要な還元剤量を算出する還元剤量算出部、前記温度測定手段による前記出口の排ガス温度の検出温度に基づいて前記NH3スリップ触媒が活性状態になっているかを判断するNH3スリップ触媒活性判断部を有した制御手段とを備えたエンジンのNOx浄化装置において、NH3スリップ触媒活性判断部によってNH3スリップ触媒が活性状態になっていると判断した場合、前記SCR触媒内部温度に基づいて該SCR触媒からのNH3スリップ量とNOxスリップ量を算出して、前記NOxスリップ量を前記NH3スリップ触媒にて浄化するのに必要な前記還元剤量を求める前記SCR触媒の内部温度値として、前記温度測定手段の測定結果に基づいた前記SCR触媒の前記入口と前記出口との排ガス温度平均値と、前記SCR触媒温度推定部にて推定した前記SCR触媒内部温度とを比較して、温度の高い方を前記SCR触媒内部温度として前記還元剤量算出部で算出して前記還元剤供給手段に出力するようにしたことを特徴とするエンジンのNOx浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−94572(P2011−94572A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251132(P2009−251132)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】