説明

内燃機関システム

【課題】有害排気ガス低減のため、三元触媒コンバータを備えた圧縮着火エンジンを提供する。
【解決手段】低エンジン負荷の第1モードでは、エンジンは、NOxの排出を減らすために、通常のディーゼル燃焼状態で高EGR率で運転され、中間から高エンジン負荷の第2モードでは、エンジンは、三元触媒コンバータを用いてNOxの排出を低減することができる化学量論的な状態で運転され、非常に高いエンジン負荷及び/又はエンジン速度の第3モードでは、エンジンは、最大トルクを得るために通常のディーゼル燃焼状態及び低EGR比率で運転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。より厳密には、本発明は、有害排気ガスの排出を低減するように構成されている圧縮着火(ディーゼル)内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の用途は、非常に多い。内燃機関は、エンジンのシリンダー内で化石燃料を燃焼させるので、ヒトの健康及び環境の両方に有害な可能性のあるガスが排出される。過去数十年にわたって、内燃機関の使用は、環境汚染の増加を伴いながら劇的に増大している。
【0003】
車両の排気システムから排出される主要な懸念されるガスは、i)未燃燃料又は部分的に燃焼した燃料を含んでおり、有毒であることに加え、都市部のスモッグの重大な要因となっている炭化水素(HC)と、エンジン気流内の窒素が、燃焼シリンダー内側の高温高圧状態の酸素と反応する時に生成され、スモッグと酸性雨の両方の要因となる窒素酸化物(NOx)と、不完全燃焼の生成物であり、これもヒトに有害な一酸化炭素(CO)と、燃焼工程の副生成物であり、最も重要な温室効果ガスの1つと考えられている二酸化炭素(CO2)と、煤煙とも呼ばれる粒子物質(PM)と、である。
【0004】
路上及び路上以外の用途で最も広範に使用されている内燃機関の型式は、火花点火エンジン(ガソリン燃料)と、圧縮着火(ディーゼル)エンジンである。
火花点火エンジンでは、スロットル弁は、車両運転者が要求する出力に応じて、エンジンに供給される空気の割合を制御して、燃料供給システムが、所望の空気/燃料比を得るために、空気供給率に基づいて或る量の燃料を供給するようにしている。この様なエンジンから出る排出物質を減らすために、NO2を窒素に還元する還元触媒と、COを二酸化炭素に、HCを水とCO2に酸化する酸化触媒の機能性を有している触媒コンバータを使用することが知られている。触媒コンバータを最適に作動させるために、火花点火エンジンは、エンジンのシリンダーに供給される酸素の量が供給される燃料の量を完全に燃焼させるのに必要とされる正確な量になっている化学量論的作動状態の下で運転される。ガソリンの事例では、化学量論的空気/燃料比は、約14.7:1であるが、正確な値は燃料組成によって左右される。
【0005】
火花点火エンジンとは対照的に、ディーゼルエンジンは、空気/燃料比が、火花点火エンジンより遙かにリーンな、通常、20:1と40:1の間にあるディーゼル燃焼状態の下で運転される。
【0006】
ディーゼルエンジンでは、空気は、吸気弁を経由してシリンダーヘッドの中へ導入され、導入された空気を圧縮して加熱するピストンの圧縮ストロークの間、圧縮される。燃料は、上死点ピストン位置の近くで直接シリンダーの中へ噴射されて、加熱された空気によって点火され、これにより、燃焼と、これに対応する圧縮された空気/燃料混合物の急速な膨張とが生じ、出力ストロークのピストンを駆動する。シリンダーの中へ導入された空気は、ガソリンエンジンの場合のように絞られてはいないので、結果として、ディーゼルエンジンは、当然、遙かに高い空気/燃料比で作動する。
【0007】
ディーゼルエンジンは多くの利点を有している。例えば、よりリーンな燃焼レジームとより高い圧縮比の結果として、ディーゼルエンジンは、比較的低いエンジン速度でより大きいトルクに変換する、ガソリンエンジンに勝る高い熱効率と、より優れた燃料経済性を有している。
【0008】
ディーゼルエンジンの特徴のある排出物の1つは、炭化水素、二酸化炭素などの排出に加えて、微粒子物質又は煤煙の生成である。ディーゼルエンジンの排出物と闘うために、排気ガスを清浄化する目的で様々な装置を装着することが知られている。例えば、排気システムにディーゼル微粒子除去装置(DPF)を設置して、排気ガスフローに同伴する微粒子物質の約80%から100%を低減することが知られている。
【0009】
同様に、排気ガスフロー内の過剰な酸素を利用してCOをCO2に、HCを水とCO2に酸化するディーゼル酸化触媒(DOC)の使用も知られている。しかしながら、この様な装置は、ガスフロー内に存在するNOxを十分に減らすことはできない。
【0010】
ディーゼルエンジンの未来が直面している主要な課題は、費用効率の高い方法でNOxの産出を低減することである。
一般に、NOx排出を低減するための取り組みでは、2つの主要な手法が用いられている。第1に、ディーゼルエンジンは、シリンダーの燃焼温度を下げてNOxの発生を低減することを目指して、極端に高い排気ガス再循環(EGR)率で作動される。高いEGR率は、エンジンのアイドリング時、及び比較的低いエンジン負荷状態では効果的であるが、中間から高い負荷状態、例えば車両の加速局面では、相対的に多量の新鮮な空気が燃焼に必要とされるので、高いEGR率を得ることは難しい。第2に、NOx吸収装置(「NOxトラップ」又は「NOx吸収器」)と一般的に呼ばれる装置、及び選択的触媒還元(「SCR」)装置を使用することが知られており、両方の技術は、ディーゼルエンジン技術の当業者にはよく知られている。
【0011】
しかしながら、SCR装置は、費用が嵩む傾向にあり、且つ効率的に作動させるには最低温度を必要とし、その結果、装置を温めるためのレジームが必要となり、これは、通常、温度を上げるために、SCR装置内の燃料の酸化につながる燃料の遅延噴射によって行われる。SCR装置は、一般に、器械そのものの複雑さ、付帯する制御システム、及びエンジン燃料消費量に悪影響を与えるという事実により望ましいものではない。NOx吸収装置に関して、同装置は、有効性を維持するために周期的な再生を必要とし、これも、エンジン燃料消費量に悪影響を与える。更に、ディーゼル燃料内の硫黄の存在は、NOx吸収装置の性能を劣化させる恐れがあり、このため、その使用は、燃料供給が許容品質を満たす地理的区域に制限される。
【0012】
理解頂けるように、ディーゼルエンジンからの様々な排出物と闘うことを目指してこれらの装置の幾つかを設けると、過度に費用のかかるシステムとなり、一般に、商用車及び私用の運転者向け小型自動車用にとって幅広い実現可能性を欠いている。
【0013】
上で説明した問題の幾つかを回避する、又は少なくとも軽減するディーゼルエンジンシステムを提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記背景技術に対抗して、本発明は、圧縮着火エンジンと、排気通路と、三元触媒コンバータを備えている排気ガス処理装置と、を有している圧縮着火エンジンシステムを提供している。
【0015】
好適なことに、同ディーゼルエンジンは、実質的に化学量論的燃焼モードで運転される。
圧縮着火エンジン用の代替的排出管理システムを対象とする本発明の第1の利点は、その簡素性である。例えば、三元触媒コンバータは、尿素の保管、供給、及び冷却用サブシ
ステムが必要なSCRシステムに比べて、技術的に複雑ではない。この様な複雑性の低減は、全体的なエンジンシステムの重量及びコストの削減をもたらす。これは、エンジン燃料経済性に関して更なる恩恵をもたらしている。
【0016】
三元触媒コンバータを最適な効率又はそれに近い効率で作動させるためには、化学量論的空気/燃料比率の付近の小さいウィンドウ内で圧縮着火内燃機関を作動させることが望ましい。これは、燃料消費及び粒子状排出物に関する重大な欠点を招くことの無い、ディーゼルエンジンを作動させる普通の方法ではないので、特別な制御レジームが、好適である。
【0017】
この様な次第で、本発明の或る実施形態では、エンジンは、エンジンの1つ又はそれ以上の燃焼室へ流れ込むガスの流量を制御し、及び/又は、所定の範囲のエンジン負荷に亘って化学量論的燃焼を提供するために前記1つ又はそれ以上の燃焼室に向けた燃料の噴射を制御するように、運転されている。例えば、低エンジン負荷の第1モードでは、エンジンは、NOxの排出を減らすために、通常のディーゼル燃焼状態で高EGR率で運転され、中間から高エンジン負荷の第2モードでは、エンジンは、三元触媒コンバータを用いてNOxの排出を低減することができる化学量論的な状態で運転され、非常に高いエンジン負荷及び/又はエンジン速度の第3モードでは、エンジンは、最大トルクを得るために通常のディーゼル燃焼状態及び低EGR比率で運転される。
【0018】
更に、エンジンを、或るエンジン状態で狭い空気/燃料比率の範囲で作動するように制御するために、エンジンは、空気リードモードで運転され、それによって、吸入空気流量は、要求トルクを達成するように制御され、噴射される燃料の量は、吸入空気流量に基づいた目標空気/燃料比率を得るように制御される。
【0019】
更に別の実施形態では、排気サブシステムは、排気ガスフロー方向で三元触媒コンバータの下流に設置されるディーゼル微粒子フィルターを備えている。微粒子フィルターを配置することで、排気フローから炭化水素、窒素酸化物、及び一酸化炭素を除去することに加えて、同システムは、高い効率で排気ガスフローから微粒子物質を除去することができるようになる。更に、三元触媒コンバータの下流に配置することで、微粒子フィルターを、排気温度に関して有利な環境に設置することができるようになる。更なる利点は、リーン作動状態の間は、三元触媒コンバータは、ディーゼル酸化触媒と同等の様式で機能し、而して、発熱反応によって熱を作り出すことができ、微粒子フィルターの再生のために排出ガス温度を上昇させることに役立つ。
【0020】
最初の酸素センサー(ラムダセンサー又はラムダプローブとしても知られている)は、排気ガス成分を監視し、エンジンのシリンダーに供給される空気/燃料比率を正確に制御できるようにして三元触媒コンバータの最適効率を維持することができるようにするために、エンジンの排気通路の下流で、且つ三元触媒コンバータの上流に配置されている。
【0021】
別の実施形態では、システムは、更に、三元触媒コンバータの下流で、且つディーゼル微粒子フィルターの上流に配置された酸素センサーを含んでいる。このように排気システムに更に別の酸素センサーを配置すると、触媒コンバータの下流では、全ての燃料が自由酸素と反応しており、実際の空気/燃料比をより正確に測定することができるので、エンジンの空気/燃料比を正確に調整できるようになる。更に、この第2酸素センサーを設けると、三元触媒コンバータの酸素貯蔵能力に基づいた診断機能を使用できるようになる。触媒コンバータの酸素貯蔵能力は、コンバータがどの程度効率的に作動しているかを示している。酸素貯蔵能力が経時的に減少するにつれ、触媒コンバータの変換効率も低下する。触媒コンバータの酸素貯蔵能力は、第1酸素センサーによって検出されるコンバータの吸気口側において化学量論付近で変動する空気/燃料比を導入することよって測定される
。コンバータは、正確に作動している時には、リーン状態の間に受け取る過剰な酸素を吸収し、リッチ状態の間に酸素を放出する。而して、第2酸素センサーは、実質的に一定の空気/燃料比を検出する。しかしながら、第2酸素センサーは、コンバータの酸素貯蔵機能が劣化すると、空気燃料比の変動を検出し始める。エンジン制御ユニットは、第1及び第2酸素センサーを監視し、第1及び第2酸素センサーからの信号比に基づいて触媒コンバータの健康指標を導き出してもよい。
【0022】
酸素センサーは、調整要件次第で、二値酸素センサーでも、広範囲酸素センサーでもよい。広範囲センサーは、排気ガス中の酸素含有量を広範囲に亘って確定することができるが、空気/燃料比が、i)実質的に化学量論と同等、ii)リッチ、又はiii)リーンであることを示す信号を出力する二値酸素センサーより費用が掛かる。
【0023】
別の実施形態では、排気サブシステムは、更に、三元触媒コンバータの上流、而して触媒コンバータとエンジンの中間に設置される燃料噴射器を含んでいる。燃料噴射器は、排気ガス内の燃料の含有量をリッチにして三元触媒コンバータの働きを改善するための方法を提供しながら、エンジンを、化学量論よりリーンな空気/燃料比で作動させることができるようにするので、好都合である。実際に、コンバータは、現在のエンジンの燃料モードよりリッチな混合気を「検出」している。更に、更に別の燃料噴射器を設けると、一般にリッチな燃料モードの下でディーゼルエンジンを作動させることに伴う、粒子状排出物の増加が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の或る実施形態による圧縮着火内燃機関システムの概略的な線図である。
【図2】図1のエンジンシステムを作動させる方法による、エンジン速度に対するエンジン負荷のグラフである。
【図3】本発明の第2の実施形態による圧縮着火内燃機関システムである。
【図4】本発明の第3の実施形態による圧縮着火内燃機関システムである。
【図5】本発明の第4の実施形態による圧縮着火内燃機関システムである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
より分かりやすく理解して頂くために、本発明を、ほんの一例として、添付図面と関連付けながら説明してゆく。
図1は、本発明による圧縮着火内燃機関2を示しており、同機関は、エンジンの個々のシリンダー(図示せず)から排気ガスフローを集め、排気通路又は管8の中へガスを導く排気マニホールド6が取り付けられているエンジンユニット4を含んでいる。排気通路8は、エンジン4から排気ガス処理装置10まで通じている。
【0026】
排気ガス処理装置は、三元触媒コンバータ12とディーゼル微粒子フィルター(DPF)14を備えている。三元触媒コンバータ12は、エンジンから排出される排気ガスに対して以下の処理を実施する働きをし、即ち、先ず、窒素酸化物(NOx)を窒素と酸素に還元するように働き、次に、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化するように働き、第3に、炭化水素を二酸化炭素と水に酸化するように働いている。
【0027】
ディーゼル微粒子フィルター14は、排気ガスフローに同伴し、三元触媒コンバータ14によって低減されない微粒子物質及び煤煙の水準を低減するように働いている。この様な微粒子フィルターは、当技術では既知であり、例えば、菫青石壁のフローフィルター又は炭化ケイ素壁フローフィルターの形態をとっていてもよい。微粒子フィルター14の下流は、排気出口ノズル15であり、そこから、処理された排気ガスフローが、エンジンシステム2から外部環境へと出ていく。
【0028】
エンジンと三元触媒コンバータ12の間の排気通路8には、酸素センサー16が取り付けられている。当技術ではラムダプローブ/センサーとしても知られている酸素センサー16は、線形センサーであり、排気通路8の中へ挿入され、排気ガスフロー内に残存している酸素濃度を測定するようになっている。酸素センサー16は、狭帯域(二値センサーとしても知られている)でもよいし、排気ガスの酸素含有量の正確な測定を行うため広帯域センサーであれば望ましい。酸素センサー16は、エンジン制御システム(図示せず)に信号を提供し、同エンジン制御システムは、効率的な燃焼工程、而して三元触媒コンバータ12の効率的な作動が確実に行われるようにエンジン4を制御することができる。
【0029】
三元触媒コンバータ12は、エンジン4が、化学量論的な作動点付近で作動している状態の間にエンジン4から排気ガスフローを受け入れる時に最も効果的に作動し、これは、ディーゼルエンジンでは1の割合の燃料に対して約20から40の間の割合の空気という空気/燃料比に相当している。正確な値は、使用される燃料の種類で決まる。
【0030】
空気/燃料比で必要とされるよりも多い酸素がある時は、エンジンシステムはリーンで作動していると言われ、システムは酸化状態になっている。この様な環境では、三元触媒コンバータの2つの酸化反応(一酸化炭素を二酸化炭素に変換し、炭化水素を二酸化炭素と水に変換する)は、還元反応(窒素酸化物を窒素と酸素に変換する)に比べてより効率的である。
【0031】
これに対して、空気/燃料比で過剰な燃料がある時には、エンジンシステムは、リッチで作動していると言われ、低効率の酸化反応を犠牲にしながら、窒素酸化物の還元が優位になっている。
【0032】
而して、三元触媒コンバータを、酸化及び還元反応の両方に対して最も効率的に作動させるためには、圧縮着火エンジン4を、エンジン作動領域の少なくともいくらかに関して化学量論的作動点で作動させることが必要である。
【0033】
図2は、図1に示されたエンジンシステムの作動において特に有益であるディーゼルエンジンを作動させる方法を例証している。第1又は低負荷モード(モード「A」と表示)では、エンジンは、エンジンが比較的低負荷状態、例えば軽い加速又は実質的に定常走行の時に、NOx排出を低減するために、通常のディーゼル燃焼状態(リーンバーン;ラムダ>1)で非常に高いEGR比率(通用50%より大きい)で運転されている。
【0034】
第1エンジンモードでは、エンジン4の作動特性は、特にPCCIモード(予混合充填圧縮着火)時には、エンジンのNOx排出が非常に低い(約百万分の15より低い領域)ので、排気ガスの後処理は全く必要ないか、又は最小限の後処理しか必要ない。従って、この様な低負荷領域ではエンジン4を化学量論的に作動させる必要は無い。
【0035】
第2燃焼モード(モード「B」と表示)は、エンジン4が、中から高エンジン負荷を受けている時、例えば緩やかな加速又は高速定常走行速度の間に効果的である。第2燃焼モードでは、エンジンは、化学量論的に運転されている。この第2モードでは、エンジン4がモードAより激しく働いている時には、(より多くの新鮮な空気の量が燃料に必要とされるので)高EGR率は達成できないので、通常のディーゼル燃焼状態の下で、エンジン4のNOxの排出は、かなり増加する。この領域では、従って、燃料状態は、空気/燃料比が化学量論的になるように修正される。従って、この第2領域では、三元触媒コンバータ12は、炭化水素及び一酸化炭素に加え、排気ガスのNOx含有量を低減するために最大効率で作動している。更に、高いエンジン負荷に伴う高い排気温度によって、三元触媒コンバータ12は効率的に作動し易い状態にある。
【0036】
煤煙排出が制限された第2モードでディーゼルエンジン4を化学量論的に作動させるために、エンジン4は、PCCI燃料レジーム又は高EGR及び1つ又はそれ以上の後噴射を伴う通常のディーゼル燃焼で作動させる必要がある。しかしながら、後噴射を伴う運転は、燃料経済性を(4%から5%の範囲で)僅かに悪化させることになる。
【0037】
第3燃焼モード(モード「C」と表示)では、エンジン4は、非常に高い負荷及び/又はエンジン速度、例えば最高加速及び/又は非常に高速の走行速度の下で作動している。この燃焼モードでは、エンジン4は、最高トルクを得るため、通常のディーゼル燃焼状態で、低EGRで作動している。
【0038】
上で説明したモードBを今一度参照すると、エンジン4は、三元触媒コンバータ12の効率を最大限に高めるために、化学量論的な状態の下で運転されている。準/半定常状態の間に所望のラムダ値を維持するのに役立つように作動させることができる1つの方法は、エンジン4を所謂「空気リード」状態の下で作動させることである。この状態では、EGRの比率は、エンジン制御システムによって、エンジンが所望の空気/燃料比で運転者が要求するトルクを作り出せるだけの外気がちょうど残るように、計算されている。しかしながら、エンジンのEGR制御比率弁の応答速度は有限なので、例えば、運転者のペダル位置の僅かな変化又は路面状態の変化に起因するような、急激に変動するトルク要求の場合には、EGR弁は対応することができない。
【0039】
例証として、トルク要求が段階的に減らされる場合、噴射する必要のある燃料も、同様に段階的な変化様式で減らされる。空気/燃料比(ラムダ値)を同じ所望の値(望ましくは化学量論値)に留めるためには、エンジンに吸入される外気を減らさなければならない。これは、EGR弁が、より多量の排気ガスをエンジン4の排気側からエンジン4の空気取り入れ口に戻して循環させるように作動することによって達成される。しかしながら、これは瞬時に起こるわけではないので、暫くの間、空気/燃料比は、所望の値からかなり逸脱することになる。
【0040】
目標の空気/燃料比(この事例ではラムダ=1)から生じ得る逸脱を回避するために、エンジンは、定常エンジン状態の間、空気/燃料比を狭い境界の範囲内で制御することができる「空気リード」レジームに基づいて運転される。
【0041】
エンジンが空気リードレジームに従って運転される時には、エンジン4に流れ込む所望の空気質量流量は、通常のディーゼル燃焼状態の下で計算されるように、エンジン制御システムによって計算され、エンジンに流れ込む所望の空気質量流量は、EGR比率を制御することにより制御される。エンジンの中へ実際に噴射される燃料は、利用できる外気と所望の空気/燃料比から計算される。
【0042】
空気リードレジームのトルク応答はEGR値の変化の応答速度に制限されるので、空気リードレジームは、制限されたエンジン状態の領域の間で作動している。例えば、エンジン4が、化学量論的空気/燃料比が要求されるモードBで運転されている時には、噴射される燃料の量は、エンジンに入る実測の外気量に基づいて正確な目標の空気/燃料比を得られるように調節され、換言すれば、空気は燃料を「リード」している。計算されたEGR比率は、空気/燃料比を、所望の空気/燃料比近くに、理論上は正確に目標の空気/燃料比に誘導することになる。
【0043】
エンジン制御システムは、(運転者から要求されるトルクに基づく)所望の燃料が、利用できる外気の中へ噴射される場合に得られると考えられる空気/燃料比を計算する。この計算された空気/燃料比が、目標の空気/燃料比を所定の且つ較正可能な量だけ超える場合には、外気/リードレジームは、実現不能であり、エンジンは、実際の空気/燃料比が、所望の空気/燃料比から離れた所定の閾値に再び戻るまで、「燃料リード」レジームで運転される。
【0044】
上の制御レジームは、実際の空気/燃料比が、目標の空気/燃料比に正確に追随できるようにしており、その際、運転者によって要求されるトルク変化の力学は、所定の値より大きい空気/燃料比に帰着しない。
【0045】
NOX吸収装置及び/又はSCR技術の様な排気ガス処理戦略を含んでいる既知の圧縮着火内燃機関システムに勝る本発明のシステムの特定の利点は、簡素である点であり、それは、更に、エンジンシステムの全体的なユニットコストを低減することになる。更に、三元触媒コンバータの下流にDPF14を設置することによって、排気ガスフローがDPF14に達した時の排気ガスフローの温度に関して、及び粒子状の排出物を減らすための排気ガス補償に関して、DPF14にとって有益な環境状態が保証される。
【0046】
図3の実施形態では、類似の部品は類似の参照番号で表されており、圧縮着火エンジンシステム2は、更に、三元触媒コンバータ12の下流で且つDPF14の上流、即ち、両者の間に設置されている酸素センサー18を含んでいる。この実施形態では、もう1つの酸素センサー18は、所定の閾値より多いか又は少ない量の酸素が存在することを示すために2つの状態を取る二値センサーである。
【0047】
もう1つの酸素センサー18の目的は、三元触媒コンバータ12を確実に最も効率的に作動させるために、空気/燃料比をより精細に制御できるようにすることである。更に、もう1つの酸素センサー18によって、エンジン制御システムは、第1酸素センサー16と第2酸素センサー18の応答を比較することによって、三元触媒コンバータ12に貯蔵されている酸素の量を監視できるようになる。この様に排気システムにもう1つの酸素センサーを配置すると、触媒コンバータの下流では、全ての燃料が自由酸素と反応しており、実際の空気/燃料比をより正確に測定することができるので、エンジンの空気/燃料比の正確な調整を行えるようになる。更に、この第2酸素センサーを設けると、三元触媒コンバータの酸素貯蔵能力に基づいた診断機能を使用できるようになる。触媒コンバータの酸素貯蔵能力は、コンバータがどの程度効率的に作動しているかを示している。酸素貯蔵能力が経時的に減少するにつれ、触媒コンバータの変換効率も低下する。触媒コンバータの酸素貯蔵能力は、第1酸素センサーによって検出されるコンバータの吸気口側において化学量論付近で変動する空気/燃料比を導入することよって測定される。コンバータは、正確に作動している時には、リーン状態の間に受け取る過剰な酸素を吸収し、リッチ状態の間に酸素を放出する。而して、第2酸素センサーは、実質的に一定の空気/燃料比を検出する。しかしながら、第2酸素センサーは、コンバータの酸素貯蔵機能が劣化すると、空気燃料比の変動を検出し始める。エンジン制御ユニットは、第1及び第2酸素センサーを監視し、第1及び第2酸素センサーからの信号比に基づいて触媒コンバータの健康指標を判定してもよい。
【0048】
第2酸素センサー18は、三元触媒コンバータ12の診断を行えるだけの排気ガスの分析を提供する二値センサーである。しかしながら、より多くの費用がかかるとはいえ、広帯域センサーをここで使用することもできるものと理解頂きたい。或いは、NOXセンサーをこの位置に配置して、排気ガスフロー内のNOXの割合を測定し、而して、三元触媒コンバータのNOX低減機能の直接的な表示を提供するようにすることもできる。
【0049】
本発明のもう1つの代替的な実施形態を表4に示しており、類似の部品は類似の参照番号で表わしている。図4の実施形態では、エンジンシステム2には、エンジン4と三元触媒コンバータ12の間の排気通路8に、燃料噴射器30が設置されている。この実施形態
では、圧縮着火内燃機関4は、(化学量論値より低い)リーンな状態の作動点で作動させることができ、一方で、燃料噴射器30を使用して排気ガスの組成を変え、より均衡が取れた状態にして、三元触媒コンバータ12の作動が最適化するようにしている。これは、(リーンな空気/燃料比では、少ない粒子状物質しか発生しないので)粒子状排出物の生成を減らすのに効果があり、一方で、三元触媒コンバータは、窒素酸化物、一酸化炭素、及び炭化水素の排出を低減するため高い効率で作動している。
【0050】
図5は、もう1つの代替的な実施形態を示しており、三元触媒コンバータ12とDPF14の機能が、単一のユニット化されたディーゼルエンジン排気処理パッケージ40に複合化されている。この様な複合触媒コンバータ/DPFパッケージ40は、レイアウト、温度管理及び費用の点で便益を提供する。複合排気処理パッケージ40は、ディーゼル微粒子フィルター14が再生目的に必要なエンジンに近接しているため、ディーゼル微粒子フィルター14の温度を高い水準に維持することができるので、温度管理の問題は特に重要である。
【0051】
当業者であれば、上で説明した実施形態に様々な代替案及び変更を施せることは明らかであるものと理解頂きたい。
【符号の説明】
【0052】
2 圧縮着火内燃機関
4 エンジン
6 排気マニホールド
8 排気通路、管
10 排気ガス処理装置
12 三元触媒コンバータ
14 ディーゼル微粒子フィルター(DPF)
15 排気出口ノズル
16 酸素センサー
18 第2酸素センサー
30 燃料噴射器
40 ディーゼルエンジン排気処理パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮着火エンジン(4)と、排気通路(8)と、排気ガス処理装置(10)と、を有している圧縮着火内燃機関システム(2)において、前記排気ガス処理装置(10)は、三元触媒コンバータ(12)を備えている、圧縮着火内燃機関システム。
【請求項2】
前記エンジン(4)は、実質的に化学量論的燃焼モードで運転されている、請求項1に記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項3】
前記排気ガス処理装置(10)は、排気ガスフローの方向で前記三元触媒コンバータ(12)の下流に設置されているディーゼル微粒子フィルター(14)を更に備えている、請求項1又は2に記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項4】
前記排気ガス処理装置(10)は、前記排気ガスの成分を監視して、前記三元触媒コンバータ(12)の最適な性能を維持することができるように、前記エンジン(4)に供給される空気/燃料比を正確に制御できるようにするために、前記排気通路(8)の、前記エンジン(4)の下流で、且つ前記三元触媒コンバータ(12)の上流に設置されている第1酸素センサー(16)を含んでいる、請求項1から3の何れかに記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項5】
前記排気ガス処理装置(10)は、前記三元触媒コンバータ(12)の下流で、且つ前記ディーゼル微粒子フィルター(14)の上流に設置されている第2酸素センサー(18)を含んでいる、請求項1から4の何れかに記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項6】
燃料を前記排気通路(8)の中へ噴射するために、前記三元触媒コンバータ(12)の上流に設置されている燃料噴射器(30)を更に含んでいる、請求項1から5の何れかに記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項7】
前記三元触媒コンバータ(12)と、前記ディーゼル微粒子フィルター(14)は、単一ユニット(40)に複合化されている、請求項1から6の何れかに記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項8】
前記エンジンは、所定のエンジン負荷の範囲に亘って化学量論的燃焼を提供するために、前記エンジンの1つ又はそれ以上の燃焼室の中へ向かうガスの流量を制御し、及び/又は前記1つ又はそれ以上の燃焼室の中に向かう燃料の噴射を制御するように運転されている、請求項1から7の何れかに記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項9】
第1モードでは、低エンジン負荷時に、前記エンジンは、NOx排出物を低減するために、通常のディーゼル燃焼の下で高EGR比率で運転されており、第2モードでは、中間から高エンジン負荷時に、前記エンジンは、NOx排出物を前記三元触媒コンバータを用いて低減することができる化学量論的状態の下で運転されており、第3モードでは、非常に高エンジン負荷及び/又はエンジン速度の下で、前記エンジンは、最大トルクを得るために、通常のディーゼル燃焼状態及び低EGR比率の下で運転されている、請求項8に記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項10】
前記エンジンは、空気リードモードで運転されているので、吸気流量は、要求トルクを達成するように制御されており、噴射される燃料の量は、前記吸気流量に基づいた目標の空気/燃料比が得られるように制御されている、請求項8又は9に記載の圧縮着火内燃機関システム。
【請求項11】
前記エンジンは、準定常エンジン状態の間は、空気リードモードで運転され、トルク要求が急変している状態の間は、燃料リードモードの下で運転される、請求項9に記載の圧縮着火内燃機関システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−197794(P2012−197794A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−127705(P2012−127705)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【分割の表示】特願2010−510907(P2010−510907)の分割
【原出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(510119821)デルファイ・テクノロジーズ・ホールディング・エス.アー.エール.エル. (45)
【Fターム(参考)】