説明

内燃機関制御装置及び内燃機関

【課題】カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる構成にあって、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきを的確に低減することができる。
【解決手段】内燃機関は、吸気カムシャフトのカムの3つのカムノーズによりプランジャをリフトさせることで燃料タンクから供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプと、4つの気筒毎に設けられた燃料噴射弁であって高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁とを備えている。また、電子制御装置は、燃料噴射の直前における高圧通路内の燃料圧力Prに基づき当該燃料噴射弁による燃料の噴射態様を制御する。そして、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合にスピル弁を開弁することにより当該リフト期間での高圧ポンプによる燃料圧送を停止する圧送制限制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム駆動式の高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を燃料噴射弁を通じて気筒内に噴射供給する内燃機関、及び燃料噴射の直前における高圧通路内の燃料圧力に基づき当該燃料噴射弁による燃料の噴射態様を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関制御装置としては例えば特許文献1に記載の装置がある。特許文献1に記載の内燃機関も含め、従来一般の内燃機関では、燃料タンクに貯留されている燃料がフィードポンプにより吸引されるとともに高圧ポンプに対して供給される。また、高圧ポンプに供給された燃料は同高圧ポンプより更に加圧されるとともに高圧通路を通じて気筒毎に設けられた燃料噴射弁に対して圧送される。こうして圧送された燃料は各燃料噴射弁から各気筒内に噴射供給される。
【0003】
高圧ポンプはカム駆動式のポンプであり、例えば吸気カムシャフトに設けられたカムのカムノーズによってシリンダ内に設けられたプランジャをリフトさせることにより、燃料タンクから供給された燃料を加圧する。
【0004】
また、燃料噴射に際してはその直前における高圧通路内の燃料圧力に基づき当該燃料噴射弁の開弁期間等の燃料の噴射態様が制御される。
ここで、従来、例えば4気筒の内燃機関の場合には2つのカムノーズを有するカムが採用され、6気筒の内燃機関の場合には3つのカムノーズを有するカムが採用されている。これは、1つのカムノーズによりプランジャがリフトされる期間(以下、リフト期間)と次のリフト期間との間に燃料噴射を行なうことで燃料噴射直前における燃料圧力の変動を小さくするためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009―215909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高圧ポンプを駆動するカムとして例えば4気筒の内燃機関に対しても3つのカムノーズを有するカムを採用するようにすれば、4気筒の内燃機関と6気筒の内燃機関とでカムを共通化することができるようになる。ただしこの場合、4気筒の内燃機関においては、燃料噴射のために燃料圧力を検出する期間や燃料噴射弁の開弁期間に、カムノーズによるプランジャのリフト期間が重なる状況が生じることとなる。そのため、当該燃料噴射弁から過剰な燃料が噴射されることとなり、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきが無視できなくなる。その結果、機関トルク変動が大きくなり、機関振動が無視できなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる構成にあって、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきを的確に低減することのできる内燃機関制御装置及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、機関出力軸の回転に伴い回転するカムの複数のカムノーズによってプランジャをリフトさせることで燃料タンクから供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプと、気筒毎に設けられた燃料噴射弁であって前記高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁とを備える内燃機関に適用されて、燃料噴射の直前における前記高圧通路内の燃料圧力に基づき当該燃料噴射弁による燃料の噴射態様を制御する内燃機関制御装置において、前記カムノーズによる前記プランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合に当該リフト期間での前記高圧ポンプによる燃料圧送を制限する圧送制限制御を実行することをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合、すなわち燃料噴射のために燃料圧力を検出する期間や燃料噴射弁の開弁期間においてプランジャがリフトされることで燃料圧力が所望の態様にて変化しない場合には当該リフト期間での高圧ポンプによる燃料圧送が制限されるようになる。このため、上記リフト期間に噴射制御期間が重なった場合に過剰な量の燃料が噴射されることを抑制することができるようになる。したがって、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる構成にあって、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきを的確に低減することができるようになる。
【0010】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関制御装置において、前記圧送制限制御では前記高圧ポンプによる燃料圧送が停止されることをその要旨としている。 同構成によれば、圧送制限制御において高圧ポンプによる燃料圧送が停止されるようになる。このため、カムノーズによるプランジャのリフト期間に噴射制御期間が重なった場合に過剰な量の燃料が噴射されることを回避することができるようになる。
【0011】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置において、内燃機関の気筒数は前記カムノーズの数の自然数倍ではない関係とされてなることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なるようになる。具体的には、例えば4気筒内燃機関において3つのカムノーズを有するカムを備えるものや、6気筒内燃機関において4つのカムノーズを有するカムを備えるものなどがある。このため、例えば3つのカムノーズを有するカムを採用する場合、4気筒内燃機関においては本発明を適用することによって燃料噴射量が気筒間でばらつくことを的確に抑制することができるようになる。また、6気筒内燃機関においては従来の高圧ポンプ制御を適用すればよい。したがって、気筒数の異なる内燃機関に対して共通のカムを採用しつつ、燃料噴射量が気筒間でばらつくことを的確に抑制することができるようになる。
【0013】
(4)請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明は、請求項4に記載の発明によるように、前記圧送制限制御では前記複数のカムノーズによる前記プランジャの各リフト期間のうち当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重ならない1つのリフト期間でのみ前記高圧ポンプによる燃料圧送を実行するといった態様をもって具体化することができる。この場合、当該1つのリフト期間における燃料圧送量を、カムが1回転する間の全てのリフト期間において燃料圧送を行う制御構成における大きさに比べて増加させるようにすれば、各燃料噴射に際して燃料が不足することを好適に抑制することができる。
【0014】
(5)また、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明は、請求項5に記載の発明によるように、前記圧送制限制御では前記複数のカムノーズによる前記プランジャの各リフト期間のうち当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なるリフト期間でのみ前記高圧ポンプによる燃料圧送を制限するといった態様をもって具体化することができる。
【0015】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、前記圧送制限制御は低負荷運転時に実行されることをその要旨としている。
【0016】
燃料噴射量の気筒間におけるばらつきが大きいと機関トルク変動が大きくなることで機関振動が大きくなる。そして、特に機関振動レベルの低い内燃機関の低負荷運転時において機関振動が無視できないものとなる。したがって、低負荷運転時において本発明を適用すれば、こうした不都合の発生を好適に抑制することができるようになる。
【0017】
また、内燃機関の低負荷運転時には燃料噴射弁による一噴射当りの燃料量が少ないため、一噴射当りの燃料圧力の低下幅が小さなものとなる。このため、本発明を適用することに伴い燃料圧送が制限されることで燃料圧力を一時的に増大させることができなくなっても、これによって噴射される燃料が不足するといった不都合の発生を極力抑制することができるようになる。
【0018】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の内燃機関制御装置において、前記圧送制限制御はアイドル運転時に実行されることをその要旨としている。
内燃機関のアイドル運転時においては特に機関振動によって運転者が不快感を覚えやすい。この点、請求項7に記載の発明によれば、アイドル運転時に圧送制限制御が実行されることから、アイドル運転時における機関振動の発生を好適に抑制することができるようになる。
【0019】
(8)請求項8に記載の発明は、機関出力軸の回転に伴い回転するカムの複数のカムノーズによってプランジャがリフトさせることで燃料タンクから供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプと、気筒毎に設けられた燃料噴射弁であって前記高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁とを備える内燃機関において、内燃機関の気筒数は前記カムノーズの数の自然数倍ではない関係とされてなり、前記カムノーズによる前記プランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合に当該リフト期間において前記プランジャにより圧縮される燃料を前記燃料タンクに向けて排出する排出機構を備えることをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合には、排出機構を通じてプランジャにより圧縮される燃料が燃料タンクに向けて排出されるようになる。これにより、当該リフト期間での高圧ポンプによる燃料圧送が制限されるようになる。このため、上記リフト期間に噴射制御期間が重なった場合に過剰な量の燃料が噴射されることを抑制することができるようになる。したがって、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる構成にあって、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきを的確に低減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関制御装置及び内燃機関について、内燃機関における燃料供給システムの概略構成を示す概略図。
【図2】同実施形態における高圧ポンプの駆動制御の処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における作用を説明するためのタイミングチャートであって、(a)各燃料噴射弁の噴射状態の推移、(b)アイドル運転時における高圧ポンプの圧送状態の推移、(c)アイドル運転時における燃料圧力の推移、(d)比較例における高圧ポンプの圧送状態の推移、及び(e)比較例における燃料圧力の推移を併せ示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係る内燃機関及び内燃機関制御装置及びを筒内噴射式の直列4気筒内燃機関及びその制御装置として具体化した一実施形態について説明する。
【0023】
図1に、本実施形態の内燃機関における燃料供給システムの概略構成を示す。
図1に示すように、内燃機関1の燃料供給システムでは、燃料タンク2内に電動式のフィードポンプ3が配置されており、このフィードポンプ3には低圧供給管4が接続されている。フィードポンプ3により燃料タンク2内に貯留されている燃料が吸引されるとともに所定のフィード圧(例えば、数百kPa)まで加圧されて低圧供給管4へ圧送される。ちなみに、このフィードポンプ3は燃料の吐出量を変更可能なポンプとされている。 低圧供給管4の途中にはリターン管5が分岐接続されている。このリターン管5の途中には調圧弁6が設けられており、低圧供給管4内の燃料圧力が上記フィード圧以上になると調圧弁6が開弁する。これにより、フィードポンプ3から吐出された燃料の一部がリターン管5を介して燃料タンク2に戻され、低圧供給管4内の燃料の圧力がフィード圧に維持される。
【0024】
低圧供給管4の下流側には高圧ポンプ10が接続されている。
高圧ポンプ10のポンプハウジング11の内部には、上記低圧供給管4の下流側に接続される吸入通路12、この吸入通路12の下流側に接続されるシリンダ13、及びシリンダ13の下流側に接続される吐出通路14が形成されている。
【0025】
シリンダ13の上流側の端部(図1において上側端部)には、フィードポンプ3からの低圧の燃料を吸入する吸入口21が形成されている。また、シリンダ13の側面には(図1において右側面)には吐出通路14に向けて燃料を吐出する吐出口22が形成されている。このシリンダ13内にはプランジャ15が往復動可能に設けられている。また、シリンダ13の内壁とプランジャ15の頂面とにより圧力室16が区画されている。尚、上記吐出口22は圧力室16に連通している。
【0026】
シリンダ13内には、吸入口21を開閉するスピル弁20の弁体23が収容されている。この弁体23はニードル23aを介してシリンダ13の軸線方向に沿って移動可能に設けられている。スピル弁20は、所謂、ノーマルオープン型の弁であり、ばね25の付勢力により吸入口21を開放する方向に常時付勢されている。そして、ソレノイド24への通電によりスピル弁20は吸入口21を閉塞する方向に吸引される。
【0027】
プランジャ15は機関出力軸であるクランクシャフト(図示略)の回転により駆動される。具体的には、クランクシャフトの回転に伴って吸気カムシャフト31が回転し、この吸気カムシャフト31に設けられたカム32によってリフトされることでプランジャ15がシリンダ13内を往復動する。このカム32はベース円32bから径方向に突出した3つのカムノーズ32aを有している。これらカムノーズ32aは互いに同一の形状を有しており、周方向において等角度間隔にて設けられている。尚、プランジャ15の下方にはリフタ17が設けられており、このリフタ17はばね18の付勢力によってカム32のカム面に当接した状態に維持されている。
【0028】
高圧ポンプ10では、プランジャ15が下降して圧力室16の容積が増大するときにソレノイド24への通電を停止すると、吸入口21が開放されて吸入通路12から圧力室16内に燃料が吸入される。
【0029】
また、プランジャ15が上昇して圧力室16の容積が減少するときにソレノイド24へ通電すると、吸入口21が閉塞されて圧力室16内の燃料が加圧されて吐出口22から吐出通路14に吐出される。
【0030】
更に、ソレノイド24への通電期間、すなわち吸入口21が閉塞されている期間を調節することにより圧力室16内への燃料の吸入量を調節することができる。
吐出通路14の途中には吐出弁19が設けられている。圧力室16側から吐出弁19に対して作用する燃料の圧力が所定の吐出圧以上となると吐出弁19が開弁する。これにより、燃料噴射弁9側への燃料の圧送が許容される。
【0031】
また、吐出通路14には、吐出弁19を迂回するようにリリーフ通路26が形成されており、このリリーフ通路26の途中にはオリフィス部27が設けられている。
ポンプハウジング11には吐出通路14の下流側に高圧供給管7が接続されており、この高圧供給管7の下流側にはデリバリパイプ8が接続されている。デリバリパイプ8には、各気筒内に燃料を噴射供給するための燃料噴射弁9が接続されている。燃料噴射弁9の駆動制御は電子制御装置40により行なわれる。
【0032】
こうした内燃機関1の各種制御は電子制御装置40により行なわれる。電子制御装置40は、各種制御に係る演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、各種制御用のプログラムやデータが記憶された読み出し専用メモリ(ROM)、演算処理の結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えて構成されている。そして、電子制御装置40は、各種センサの検出信号を読み込み、各種演算処理を実行し、その結果に基づいて内燃機関1を統括的に制御する。
【0033】
各種センサとしては、クランクシャフトの回転位相を検出するクランク角センサ、吸気カムシャフトの回転位相を検出するカム角センサ、吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットル開度を検出するスロットルセンサ、機関冷却水の温度を検出する水温センサ等が設けられている。また、デリバリパイプ8内の燃料圧力Prを検出する燃料圧力センサ41が設けられている。また、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ、車両の走行速度である車速を検出する車速センサ等が設けられている。そして、これらの各種センサは電子制御装置40に電気的に接続されている。
【0034】
電子制御装置40は、燃料噴射の直前におけるデリバリパイプ8内の燃料圧力Prに基づき当該燃料噴射弁9の開弁期間等の噴射態様を制御するようにしている。すなわち、燃料噴射弁9の開弁期間が一定であれば、デリバリパイプ8内の燃料圧力Prが高いほど燃料噴射弁9から実際に噴射される燃料量は多くなる。このため、設定された燃料噴射量が噴射されるように、デリバリパイプ8内の燃料圧力Prが高いときほど燃料噴射弁9の開弁期間が短く設定される。
【0035】
さて、本実施形態では、4気筒の内燃機関1に対して3つのカムノーズ32aを有するカム32を設けるようにすることで、6気筒の内燃機関で用いられるカム32を利用することができるようにしている。すなわち、4気筒の内燃機関1と6気筒の内燃機関とでカム32の共通化を図っている。
【0036】
ただしこの場合、前述したように、4気筒の内燃機関1においては、燃料噴射のために燃料圧力Prを検出する期間や燃料噴射弁9の開弁期間(以下、当該燃料噴射弁9における噴射制御期間)に、カム32のカムノーズ32aによるプランジャ15のリフト期間(以下、単にリフト期間と称する)が重なる状況が生じることとなる。ここで、リフト期間とはプランジャ15がリフトされることで圧力室16の容積が減少している期間であって、同リフト期間にソレノイド24への通電がなされた場合に圧力室16内の燃料が吐出通路14に吐出される期間である。そのため、当該燃料噴射弁9から過剰な燃料が噴射されることとなり、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきが無視できなくなる。その結果、機関トルク変動が大きくなり、特に機関振動レベルの低いアイドル運転時における機関振動が無視できなくなるおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態では、電子制御装置40を通じて、リフト期間が当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重なる場合にスピル弁20を開弁することにより当該リフト期間での高圧ポンプ10による燃料圧送を停止する圧送制限制御を実行するようにしている。具体的には、この圧送制限制御ではカム32が1回転する間の3つのリフト期間のうち当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重ならない1つのリフト期間でのみ高圧ポンプ10による燃料圧送を実行するようにしている。これにより、上述した不都合の発生を抑制するようにしている。
【0038】
次に、図2を参照して、本実施形態における高圧ポンプ10の駆動制御について説明する。尚、図2に、高圧ポンプ10の駆動制御の処理手順を示す。尚、この一連の処理は、機関運転中において所定のクランク角(°CA)となる毎に繰り返し実行される。
【0039】
図2に示すように、この一連の処理では、まず、ステップS1において内燃機関1がアイドル運転状態であるか否かを判断する。ここで、アイドル運転状態ではないと判断した場合(ステップS1:「NO」)には、次に、ステップS2に進み、カム32が1回転する間の全てのリフト期間(この場合、3つのリフト期間)において燃料圧送を行なうようにスピル弁20の駆動デューティを算出する。そして、次に、ステップS6に進み、算出された駆動デューティに基づきソレノイド24への通電制御を行なう。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0040】
一方、ステップS1においてアイドル運転状態であると判断した場合(ステップS1:「YES」)には、次に、ステップS3に進む。ステップS3では、燃料圧力Prが目標燃圧となっているか否かを判断する。ここで、目標燃圧とは、カム32が1回転する間において上記1つのリフト期間でのみ高圧ポンプ10による燃料圧送を実行した場合に、当該燃料圧送が行なわれてから最も後のタイミングで行なわれる燃料噴射において当該燃料噴射のために必要な燃料圧力が確保され得る大きさとされており、実験等を通じて予め設定されている。ここで、燃料圧力Prが目標燃圧となっていないと判断した場合(ステップS3:「NO」)には、次に、ステップS2、ステップS6の順に進み、ソレノイド24への通電制御を行なって、この一連の処理を一旦終了する。
【0041】
一方、ステップS3において燃料圧力Prが目標燃圧となっていると判断した場合(ステップS3:「YES」)には、次に、ステップS4に進む。ステップS4では、燃料圧送を停止するリフト期間(以下、圧送停止リフト期間)を導出する。そして、次に、ステップS5に進み、導出された圧送停止リフト期間において燃料圧送を停止するとともにそれ以外のリフト期間においては燃料圧送を行なうようにスピル弁20の駆動デューティを算出する。そして、次に、ステップS6に進み、ソレノイド24への通電制御を行なって、この一連の処理を一旦終了する。
【0042】
次に、図3を参照して、本実施形態における作用について説明する。尚、図3に、(a)各燃料噴射弁の噴射状態の推移、(b)アイドル運転時における高圧ポンプ10の圧送状態の推移、及び(c)アイドル運転時における燃料圧力Prの推移を併せ示す。また、図3に、(d)比較例における高圧ポンプ10の圧送状態の推移、(e)比較例における燃料圧力Prの推移を併せ示す。尚、図3において横軸はクランク角(°CA)である。
【0043】
図3(a)に示すように、本実施形態の内燃機関1は4つの気筒を有しているため、各燃料噴射弁による燃料噴射は180°CA間隔で行なわれる。すなわち、この場合、30°CAにおいて第4気筒(#4)の燃料噴射が行なわれ、210°CAにおいて第2気筒(#2)の燃料噴射が行なわれる。また、390°CAにおいて第1気筒(#1)の燃料噴射が行なわれ、570°CAにおいて第3気筒(#3)の燃料噴射が行なわれる。
【0044】
ここで、比較例では、カム32が1回転する間の全てのリフト期間において燃料圧送が行なわれる。このため、図3(d)、(e)に併せ示すように、約−30°CA(690°CA)から0°CAまでの期間、約210°CAから240°CAまでの期間、約450°CAから480°CAまでの期間のそれぞれにおいてスピル弁20が閉弁されることを通じて燃料圧送が行なわれる。
【0045】
ここで、図3(e)に示すように、約−30°CA(690°CA)から0°CAまでの期間には、燃料圧送が行なわれることにより燃料圧力Prが上昇し、その後の30°CAにおいて燃料噴射弁9が開弁されることにより燃料圧力Prが低下するようになる。
【0046】
一方、約210°CAから240°CAまでの期間には、リフト期間(この場合、圧送期間でもある)と燃料噴射弁9における噴射制御期間(燃料圧力Prの検出期間、燃料噴射弁9の開弁期間)とが重なるため、図3(e)に示すように、燃料圧力Prは燃料噴射弁9の開弁にもかかわらず上昇するようになる。したがって、当該燃料噴射弁9から過剰な燃料が噴射されることとなる。
【0047】
また、その後の390°CAにおいて燃料噴射弁9が開弁されることにより燃料圧力Prが低下するようになる。そして、約450°CAから480°CAまでの期間において燃料圧送が行なわれることにより燃料圧力Prが上昇し、その後の570°CAにおいて燃料噴射弁9が開弁されることにより燃料圧力Prが低下するようになる。
【0048】
これに対して、本実施形態では、図3(b)、(c)に併せ示すように、約−90°CAから0°CAまでの期間にのみ、スピル弁20が閉弁されることを通じて燃料圧送が行なわれる。これにより、燃料圧力Prが上昇し、その後の30°CAにおいて燃料噴射弁9が開弁されることにより燃料圧力Prが低下するようになる。
【0049】
一方、約210°CAから240°CAまでの期間においては、先の比較例とは異なりスピル弁20が開弁されることでプランジャ15により圧縮される燃料が吸入口21を通じて燃料タンク2に向けて排出されるようになる。このように、リフト期間が当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重なる場合、すなわち燃料噴射のために燃料圧力Prを検出する期間や燃料噴射弁9の開弁期間においてプランジャ15がリフトされることで燃料圧力Prが所望の態様にて変化しない場合には、当該リフト期間での高圧ポンプ10による燃料圧送が停止されるようになる。このため、上記リフト期間に噴射制御期間が重なった場合に過剰な量の燃料が噴射されることを回避することができるようになる。
【0050】
また、先の比較例において燃料圧送が行なわれた約450°CAから480°CAまでの期間においても、スピル弁20の駆動制御を通じて燃料圧送が停止されるようになる。 本実施形態では、燃料圧送を行なうべくスピル弁20が閉弁される期間(約−90°CAから0°CAまでの期間)が先の比較例における期間(約−30°CA(690°CA)から0°CA)に比べて約3倍とされている。これは、1回の燃料圧送によって圧送される燃料量を増大することでその後の各燃料噴射に際して燃料が不足することを好適に抑制するためである。
【0051】
尚、本実施形態におけるスピル弁20が、本発明に係る排出機構に相当する。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関制御装置及び内燃機関によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
【0052】
(1)内燃機関1は、吸気カムシャフト31のカム32の3つのカムノーズ32aによってプランジャ15をリフトさせることで燃料タンク2から供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプ10を備えている。また、内燃機関1は、4つの気筒毎に設けられた燃料噴射弁9であって高圧ポンプ10から高圧通路(吐出通路14、高圧供給管7、及びデリバリパイプ8)を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁9を備えている。すなわち、内燃機関1の気筒数「4」はカムノーズ32aの数「3」の自然数倍ではない関係とされている。また、電子制御装置40は、燃料噴射の直前におけるデリバリパイプ8内の燃料圧力Prに基づき当該燃料噴射弁9による燃料の噴射態様を制御するようにしている。そして、電子制御装置40を通じて、カム32によるプランジャ15のリフト期間が当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重なる場合にスピル弁20を開弁することにより当該リフト期間での高圧ポンプ10による燃料圧送を停止する圧送制限制御を実行するようにしている。具体的には、圧送制限制御では3つのカムノーズ32aによるプランジャ15の各リフト期間のうち当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重ならない1つのリフト期間でのみ高圧ポンプ10による燃料圧送を実行するようにしている。
【0053】
こうした構成によれば、カム32によるプランジャ15のリフト期間が当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重なる構成にあって、燃料噴射量の気筒間におけるばらつきを的確に低減することができるようになる。
【0054】
また、上記構成によれば、4気筒内燃機関1において3つのカムノーズ32aを有するカム32を採用する場合であれ、燃料噴射量が気筒間でばらつくことを的確に抑制することができるようになる。また、6気筒内燃機関において3つのカムノーズ32aを有するカム32を採用する場合には従来の高圧ポンプ制御を適用すればよい。これらのことから、気筒数の異なる内燃機関に対して共通のカム32を採用しつつ、燃料噴射量が気筒間でばらつくことを的確に抑制することができるようになる。
【0055】
(2)電子制御装置40は、圧送制限制御をアイドル運転時に実行するようにしている。
燃料噴射量の気筒間におけるばらつきが大きいと機関トルク変動が大きくなることで機関振動が大きくなる。そして、特に機関振動レベルの低い内燃機関1のアイドル運転時において機関振動が無視できないものとなる。したがって、アイドル運転時において上記圧送制限制御を実行することにより、こうした不都合の発生を好適に抑制することができるようになる。
【0056】
また、内燃機関1のアイドル運転時には燃料噴射弁9による一噴射当りの燃料量が少ないため、一噴射当りの燃料圧力の低下幅が小さなものとなる。このため、圧送制限制御の実行に伴い燃料圧送が制限されることで燃料圧力を一時的に増大させることができなくなっても、これによって噴射される燃料が不足するといった不都合の発生を極力抑制することができるようになる。
【0057】
尚、本発明に係る内燃機関制御装置及び内燃機関は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0058】
・上記実施形態では、アイドル運転時に上記圧送制限制御を実行するようにしたが、これをアイドル運転時以外の低負荷運転時において実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、3つのカムノーズ32aによるプランジャ15の各リフト期間のうち当該燃料噴射弁9における噴射制御期間に重ならない1つのリフト期間でのみ高圧ポンプ10による燃料圧送を実行するようにした。しかしながら、本発明に係る圧送制限制御の実行態様はこれに限られるものではなく、3つのカムノーズ32aによるプランジャ15の各リフト期間のうち燃料噴射弁9における噴射制御期間に重なるリフト期間(先の実施形態において、約210°CAから240°CAまでの期間)でのみ高圧ポンプ10による燃料圧送を制限するようにしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、4気筒内燃機関1において3つのカムノーズ32aを有するカム32を備えるものについて例示したが、本発明に係る内燃機関はこれに限られるものではない。他に例えば、6気筒内燃機関において4つのカムノーズを有するカムを備えるものとしてもよい。この場合、内燃機関の気筒数「6」はカムノーズの数「4」の自然数倍ではない関係となり、カムノーズによるプランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なるようになる。したがって、こうした内燃機関に対して本発明を適用することにより、燃料噴射量が気筒間でばらつくことを的確に抑制することができるようになる。
【0060】
・上記実施形態では、圧送制限制御において高圧ポンプ10による燃料圧送を停止するものについて例示したが、本発明に係る圧送制限制御は必ずしも燃料圧送を停止するものに限られない。すなわち、リフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合に、リフト期間が噴射制御期間に重ならない場合に比べて高圧ポンプによる燃料圧送量を低減するなど燃料圧送を制限するものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
1…内燃機関、2…燃料タンク、3…フィードポンプ、4…低圧供給管(低圧通路)、5…リターン管、6…調圧弁、7…高圧供給管(高圧通路)、8…デリバリパイプ(高圧通路)、9…燃料噴射弁、10…高圧ポンプ、11…ポンプハウジング、12…吸入通路(低圧通路)、13…シリンダ、14…吐出通路(高圧通路)、15…プランジャ、16…圧力室、17…リフタ、18…ばね、19…吐出弁、20…スピル弁、21…吸入口、22…吐出口、23…弁体、23a…ニードル、24…ソレノイド、25…ばね、26…リリーフ通路、27…オリフィス部、31…吸気カムシャフト、32…カム、32a…カムノーズ、40…電子制御装置、41…燃料圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関出力軸の回転に伴い回転するカムの複数のカムノーズによってプランジャをリフトさせることで燃料タンクから供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプと、気筒毎に設けられた燃料噴射弁であって前記高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁とを備える内燃機関に適用されて、燃料噴射の直前における前記高圧通路内の燃料圧力に基づき当該燃料噴射弁による燃料の噴射態様を制御する内燃機関制御装置において、
前記カムノーズによる前記プランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合に当該リフト期間での前記高圧ポンプによる燃料圧送を制限する圧送制限制御を実行する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧送制限制御では前記高圧ポンプによる燃料圧送が停止される
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置において、
内燃機関の気筒数は前記カムノーズの数の自然数倍ではない関係とされてなる
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧送制限制御では前記複数のカムノーズによる前記プランジャの各リフト期間のうち当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重ならない1つのリフト期間でのみ前記高圧ポンプによる燃料圧送を実行する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧送制限制御では前記複数のカムノーズによる前記プランジャの各リフト期間のうち当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なるリフト期間でのみ前記高圧ポンプによる燃料圧送を制限する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧送制限制御は低負荷運転時に実行される
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧送制限制御はアイドル運転時に実行される
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項8】
機関出力軸の回転に伴い回転するカムの複数のカムノーズによってプランジャがリフトさせることで燃料タンクから供給された燃料を加圧して吐出する高圧ポンプと、
気筒毎に設けられた燃料噴射弁であって前記高圧ポンプから高圧通路を通じて圧送される燃料を当該気筒内に噴射供給する燃料噴射弁とを備える内燃機関において、
内燃機関の気筒数は前記カムノーズの数の自然数倍ではない関係とされてなり、
前記カムノーズによる前記プランジャのリフト期間が当該燃料噴射弁における噴射制御期間に重なる場合に当該リフト期間において前記プランジャにより圧縮される燃料を前記燃料タンクに向けて排出する排出機構を備える
ことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−92071(P2013−92071A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233287(P2011−233287)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】