説明

内燃機関用のベアリングシェルセグメント

本発明は、内燃機関用のベアリングシェルセグメント(100)であって、ボディー(C)から成っており、ボディー(C)は、コーティングを受容しかつ潤滑油膜の層と接触する内面(1)と、軸受に結合される反対側の外面(2)とを画定しており、内面(1)は、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重から実質的に解放されている少なくとも1つの第1の領域(10)、及び、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重を受ける第2の領域(20)を有しており、第1の領域(10)は、潤滑油膜の層内にある異物の捕捉のための少なくとも1つの面域(3)を有しており、面域(3)は複数の空洞(4)を備えていて、少なくとも1つの異物を、空洞(4)の少なくとも1つによって、異物が潤滑油膜の流れ方向前方へ移動中に第2の領域(20)に達する前に、捕捉しかつ保持できるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、典型的には車両等の内燃機関に用いられるベアリングシェルセグメントに関し、特に、爆発燃焼時のピストンの運動による圧縮荷重を受けない領域に、潤滑油により運ばれる粒子又は残留物を捕捉可能な空洞若しくは穴が設けられるものに関する。更に本発明は、2つのセグメントから成る軸受に関し、少なくとも1つのセグメントが、開示の新規な構成を有するものである。
【0002】
内燃式のピストンエンジン(ピストン機関)は、エンジンブロックによって構成されており(エンジンブロックは、1つ若しくは複数のシリンダー及びクランク軸ユニット又はクランクシャフトユニットを含んでおり)、エンジンブロックに1つ若しくは複数のシリンダーヘッドが結合されている。クランクシャフトユニットは、ピストン、連接棒(コネクティングロッド)及びクランクシャフトから成っている。
【0003】
連接棒は、ピストンとクランクシャフトとを連結する構成部分であり、シリンダー内のピストンの往復の直線運動を、クランクシャフトの連続的な回転運動に変換するようになっている。連接棒は、基本的には軸部(本体部分)、大端部及び小端部から成っている。大端部は、ボルトを用いてクランクシャフトに取り付けられるようになっており、小端部は、ピストンピンを介してピストンに取り付けられるようになっている。ある種の連接棒の大端部は、エンジンの組立及び分解を容易にするために斜め分割式に形成されている。
【0004】
エンジンが作動している間、ピストンは往復直線運動を行っている。連接棒は、ピストンの往復直線運動を受けて、往復しながら、クランクシャフトの回転運動に対応して振り子運動を行うようになっている。
【0005】
エンジンの正確な作動を伝達するために、クランクシャフトとエンジンの他の構成部分との間の連結は、当業者にベアリングシェル(bearing shell)若しくはコンロッドベアリング(con-rod bearing)として知られるベアリング(軸受)を用いて行われている。この種のベアリングは、一般的にスライドベアリング(滑り軸受)として知られている。
【0006】
内燃機関において、ベアリングシェル若しくはコンロッドベアリングは、エンジンブロックに対するクランクシャフトのベアリングとして用いられ、或いはクランクシャフトに対する連接棒のベアリングとして用いられ、或いはカムシャフトベアリング或いは一般的な構成部分間のベアリングとして用いられるものである。
【0007】
特に、クランクシャフトに用いるために開発されたベアリングは、ベアリングシェル又は軸受胴と称されている。
【0008】
一般的に、ベアリングシェルは、組立を容易にするために半円形の2つのスチールカーカス(steel carcass)によって形成され、内面を軽質金属で被覆されていて、異物又は粒子の包埋及び摩耗を低減する特性を有している。
【0009】
ベアリングシェルの外面は、硬さ(硬質特性)を有し、対応する構成部分に対して変形することなく適応して固体接触して、正確な支持を保証し、摩擦(摩耗)により発生する熱の正確な放散を行い、その結果、過熱を防止するようになっている。
【0010】
更に、ベアリングシェルの内面はコーティングを有しており、コーティングは、摩耗及び消耗に対する所望の耐性、並びにエンジンの最も過酷な作動条件下でも高い耐用寿命並びに良好な変形性を得るための種々の合金、例えば銅合金やアルミニウム合金等から成っている。
【0011】
内燃機関における摩耗の低減は、低排気量でエネルギー効率のより高いエンジンが求められ、発生する出力及びエンジンの内部の構成部分の、高い応力を伴う過負荷が増大するので、重要なファクターである。
【0012】
更に、ベアリングシェルの内面の構造及び形状も、システムの性能の向上のために、益々より重要なファクターになっている。この点に関して、ベアリングシェルの種々の仕上げ加工技術が、コーティングによって摩耗低減効果、潤滑能力及び耐久性を最大限に得るために用いられている。
【0013】
従来のベアリングシェルの欠点の1つは、その内面のコーティングが、潤滑油により運ばれた異物(粒子)で作動時の高い圧縮荷重に起因してダメージ(引掻きによる損傷)を受けることである。このことは、凹部等によるものではなく、粒子を直ちに排出すべき手段がないからであり、構成部分の耐久性は、例えば潤滑油の交換が遅れることにより著しく低下している。
【0014】
欠点を排除するために、提案されている一連のベアリングシェルは、ピストンの、爆発燃焼による運動に基づく圧縮荷重を受ける領域に沿って分配された溝や孔又は穴を有している。溝は、ベアリングシェルの内面における、極端な作動条件下では早期の損傷につながるような局所的なダメージ又は欠陥を避けるために、潤滑油内の異物をベアリングから外部へ導こうとするものである。
【0015】
特開平5−202936号公報により、内燃機関(自動車用エンジン)に用いられる油潤滑式のベアリングシェル(軸受本体)が公知であり、この場合に、ベアリングシェルは、作動時に荷重を受ける荷重領域(荷重部位)と作動時に荷重を受けない隣接の相対する非荷重領域(非荷重部位)とを有している。ベアリングシェルは、流出領域に隣接して、荷重を受けない非荷重領域に、潤滑油内にある異物の排出のための複数の溝を有している。上記公報は、溝の深さが荷重領域へ向けて減少されていることを開示するものである。
【0016】
しかしながら、上記公報に開示の手段は、異物を保持して、潤滑油から除去する代わりに、異物を単にベアリングシェルから排出するに過ぎないので、効果を保証し得るものではない。上記公報に提案の手段においては、潤滑油フィルターにより捕捉されない異物は、ベアリングシェル内に流れ戻り若しくはエンジンの他の構成部分に到達して、ベアリングシェル若しくは他の構成部分にダメージを与えてしまうことになる。
【0017】
上記公報に提案の手段の別の欠点は、溝が、ベアリングの動圧的な支持作用を可能にするために、ポンプにより供給される潤滑油の流れの増大を必要とする部分にあることに基づき発生している。大きな流れは、潤滑油用ポンプに要求される大きな駆動力につながり、駆動力は、エンジンの出力から取り出されるものであり、従って、実際に利用できる動力が減少されることになる。
【0018】
米国特許出願公開第2008/0187259号明細書には、内燃機関に用いられるベアリングシェルが開示されており、この場合に、内面は、軸線方向の両方の端部に凹部を有しており、凹部は流出エリアに隣接して位置決めされていて、ポンプからのオイルを受ける1つの半径方向の凹部に接続されている。このようなベアリングシェルの特殊な構成により、オイル内にある異物は、ベアリングシェルに対するベアリングの回転に伴って、半径方向の凹部内に入り、軸線方向の端部の凹部の1つへ導かれて、そこからベアリングシェルの内面を去るようになっている。上記明細書に開示の手段も、異物を保持して、潤滑油から除去する代わりに、異物を単にベアリングシェルの外側へ導くだけであり、異物を潤滑油に戻してしまうことになるので、効果的なものではない。更に、上記明細書に開示のベアリングシェルは、ベアリングの動圧的な支持作用を可能にするために、ポンプにより供給される潤滑油の流れの増大を必要とするものである。従って、潤滑油用ポンプの作動のために必要な動力が増大されることになる。
【0019】
上述の全ての公知技術においては、潤滑油用ポンプの作動のために取り出される動力を増大させてしまうというような付随的な欠点の発生なしに、潤滑油内の異物を捕捉しかつ保持して、ベアリングシェルの内面におけるダメージ又は欠陥を避けることができ、かつ経済的な製造を可能にするような手段を開発するまでにはまだ至っていない。
【0020】
本発明の課題は、内燃機関に用いられるベアリングシェルセグメントを提供し、ベアリングシェルセグメント(bearing shell segment)の内面が、空気と燃料とからなる混合気の爆発燃焼による圧縮荷重を実質的に受けない領域に、潤滑油により運ばれる異物又は残留物を捕捉可能な複数の空洞又はキャビティ(cavity)を備えて形成されるようにすることである。更に、本発明は、新規な少なくとも1つのセグメントを含むベアリングシェルにも関する。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明に基づく構成によれば、内燃機関等に用いられるベアリングシェルセグメントは、ボディー(本体)から成っており、ボディーは、コーティングを受容しかつ潤滑油膜の層と接触する内面と、軸受に結合される反対側の外面とを画定しており、ボディーの内面は、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重から実質的に解放されている少なくとも1つの第1の領域、及び、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重を受ける第2の領域を有しており、内面の第1の領域は、潤滑油膜の層内にある異物の捕捉のための少なくとも1つの面域を有しており、第1の領域の異物の捕捉のための面域は、複数の空洞を備えていて、空洞の少なくとも1つによって少なくとも1つの異物を、異物が潤滑油膜の流れ方向前方へ移動中に異物が第2の領域に達する前に、捕捉しかつ保持できるように配置されている。
【0022】
本発明の有利な形態によれば、追加的に、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重から実質的に解放されている第3の領域が設けられており、第3の領域は好ましくは第1の領域に対して相対して配置されている。異物の捕捉のための面域は、好ましくは軸受の軸線方向の全長にわたって延びている。異物の捕捉のための面域の始端部は、圧縮荷重を受ける領域の周方向の中心から10〜60度の角度に配置されており、また、異物の捕捉のための面域の終端部は、始端部の角度の位置から1〜30度の角度に配置されている。
【0023】
更に、本発明の課題は、本発明に基づき構成の少なくとも1つのセグメントを含むベアリングシェルにより解決される。
【0024】
本発明の各形態は種々に組み合わせて用いられるものである。次に、本発明を図示の実施の形態に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】公知技術のベアリングシェルセグメントの斜視図である。
【図2】本発明に係るベアリングシェルセグメントの斜視図である。
【図3】図2のベアリングシェルセグメントの平面図である。
【図4】図2及び図3のベアリングシェルセグメントの側面図である。
【図5】本発明に係るベアリングシェルセグメントの面域の概略図であり、面域には、潤滑油内の粒子の捕捉及び保持のための空洞が配置されている。
【図6】図5の空洞を詳細に示す斜視図である。
【図7】複数の空洞のある面の100倍の顕微鏡写真である。
【図8】ベアリングシェルセグメントの複数の空洞のある面の部位の断面の顕微鏡写真である。
【0026】
図1は、内燃機関に用いられる従来技術のハイドロダイナミック式のベアリングシェル50の半部若しくはセグメントを示しており、ベアリングシェル50は、内面を有しており、該内面は、荷重下で作動する部分51(該部分は、空気と燃料との混合物の爆発燃焼及びピストンの相応の運動による押圧力を受ける)と、該部分に隣接していて荷重下では作動しない互いに相対する部分52,53とに分けられ、互いに相対する部分52,53は、流出領域(ベアリングシェルの自由端部)に隣接して配置されている。
【0027】
ベアリングシェル50は、部分52,53に、オイル内の異物を除去するために、ほぼ横方向若しくは軸線方向に延びる複数の溝54〜57を有している。該溝の深さは、荷重下で作動する部分51の側に配置されるものほど減少されている。
【0028】
しかしながら、上記手段は、溝54〜57が異物をベアリングシェルの外側へ案内するだけで、捕捉しないので、高い効果を有するものではない。つまり、異物は、潤滑油内へ逆戻りして、ベアリングシェル或いは他のエンジン構成要素の潤滑のための油膜内への異物の戻り阻止が保証されなくなっている。
【0029】
更に、図1に示す従来技術のベアリングシェルにおける他の欠点として、溝54〜57の過度な容積があり、このような大きな容積は、ハイドロダイナミック式のベアリングシェルの適切な潤滑効果を可能にして、回転軸とベアリングシェルとの間の金属・金属接触(金属間同士の接触)を避けるために、多量の潤滑油を必要とすることになる。
【0030】
ハイドロダイナミック式のベアリングシェルに対する適切な潤滑効果を保証するために必要な多量の潤滑油を供給するためには、吐出流容量の大きなオイルポンプが必要であり、このことは、欠点として、オイルポンプを駆動するためのエンジンの出力の消費を増大させ、或いは、エンジンの別の部分、例えば高所の部分(エンジンヘッド及び弁列)へ送られるオイルの圧力を増大させることにつながるものである。
【0031】
一般的に、オイルの圧力の増大には、高い精度が要求され、精度が低ければ、エンジンの構成要素、例えばハイドロダイナミック式のバルブのタペットの正確な作動が、過度なオイル圧力の状況では損なわれてしまうことになる。
【0032】
図2は、本発明に係るハイドロダイナミック式のベアリングシェルのセグメント100を示しており、セグメント100は、ほぼ半円形のボディーCから成って、第1の内面1と第2の外面2とを画定している。内面1は、摩耗及び消耗に対する耐性を有しかつエンジンの最も過酷な作動条件下でも高い耐用寿命並びに良好な変形性を有する任意のコーティングを備えている。
【0033】
内面1は、複数の空洞4を備える少なくとも1つの面域3を有している。外面2は、必要に応じて或いは有利には金属材料により形成されていてよいものである。内面のコーティングは、本発明の枠内で種々に形成されるものである。
【0034】
内面1は、セグメント100が所定の部位に取り付けられている場合に、潤滑油膜と接する面であるのに対して、外面2は、例えばクランクシャフトの場合に、エンジンブロック内にある定位置の軸受の周壁に向けられた面である。
【0035】
ベアリングシェルは、2つのセグメント100によって形成されており、両方のセグメント100は、互いに相対して位置決めされて、1つの円形開口部を画定するようになっている。本発明に係るベアリングシェルにおいて、ベアリングシェルのセグメント100の少なくとも1つは、前述の複数の空洞4を有している。セグメント100は、図3に示してあるように、軸線方向で測定した寸法である軸線方向の所定の長さ101を有している。
【0036】
図4に示してあるように、シェルセグメント100は、大まかに仮想の3つの区分10,20,30に区分けされるものであり、第1の区分10は、セグメント100の第1の自由端部に隣接しており、第2の区分20はセグメント100のほぼ中間又は中央に位置しており、第3の区分30は、セグメント100の第2の自由端部に隣接している。
【0037】
簡単に述べれば、第1の区分10が、セグメント100の第1の自由端部L1から約45度にわたって延びており、第2の区分20が約90度にわたって一貫して延びており、第3の区分30が、セグメント100の第2の自由端部L2まで最後の約45度にわたって延びている。もちろん、種々の変化例が、本発明の枠から外れることなく可能である。
【0038】
望ましくは、セグメント100の周方向のほぼ中央に位置している第2の区分20が、混合気の爆発燃焼の際に、ピストンの運動による荷重を受けるようになっている(つまり、荷重又は負荷のかかる区分、即ち荷重区分である)。従って、区分10,30は、セグメント100の、混合気の爆発燃焼による推力を受けない領域に相当している(非荷重区分)。
【0039】
図3及び図4の分析から明らかなように、複数の空洞4を備える面域3は、セグメント100の、非荷重区分に又は非荷重領域である第1の区分10に設けられており、このことは、後で述べるように本発明の適切な作用のための重要な条件である。
【0040】
もちろん、ベアリングシェルにおいて荷重を受ける領域の設定は、極めて自由に行われてよいものである。ディーゼルサイクルで作動するある種のエンジンにおいて、シェルセグメントは連接棒に用いられるようになっている。このような構成においては、シェルセグメントの、混合気の爆発燃焼による推力を受ける領域は、中央域には位置決め(配置)されず、むしろ一方の端部に隣接されるようになっている。したがって本発明の課題は、シェルセグメントをエンジン内の作動に最適に適合させることであり、複数の空洞4を備える面域3は、図4に示されているセグメントの領域とは異なる負荷されない領域に位置決めされるようになっている。
【0041】
基本的には、複数の空洞4を備える面域3の、セグメントにおける位置決め又は配置は、荷重区分の外側に位置決め又は配置するという条件で、極めて自由に行われるものであり、次に、オイルの流れに関連して詳細に述べる。
【0042】
望ましくは、面域3は、エンジンの特性に関連して、セグメントの中心を基準として10〜60度(有利には45度)の所定の角度αに位置決めされており、つまり、面域3の始端部が所定の角度αに位置決めされており、かつ面域3の終端部が、角度αから1〜30度(有利には15度)の角度βに位置決めされている。
【0043】
更に望ましくは、面域3は、図3に示してあるように、所定の幅102を有し、かつシェルセグメント100の軸線方向の全長101にわたって延びている。セグメント100の考えられる可能な別の態様によれば、面域3は、本発明の構成に基づき、本発明の枠内において、セグメントの軸線方向の長さ101よりも短い軸線方向の長さしか有していなくてよい。重要なことは、空洞4を備える面域が有利には、圧縮されるオイルの供給される部分に隣接して、それもセグメント100内における潤滑油の流れに関連して、荷重区分の前に位置決めされることである。
【0044】
軸が、実質的に2つのベアリングシェルセグメントに形成されている空洞の内側で回転する場合には、軸は潤滑油を必然に回転方向前方に移動させることになる。ベアリングシェルセグメント内にあるオイルは、ポンプによる圧力下で連続的に送られ、このことは、軸のためにハイドロダイナミック的に維持され、これにより、軸はオイルに支持されて、ベアリングシェルセグメントと接触することがなくなっている(軸とベアリングシェルセグメントとの接触は、これらの構成部分の著しい消耗又は摩耗の原因になっている)。
【0045】
システムの作用を最適にするために、セグメント100は、潤滑油が隣接の第1の自由端部L1に送られ、その内面上を長手方向(周方向)にシェルセグメントから、第2の自由端部L2内へ流れ去るまで移動させられるように、形成されている。
【0046】
潤滑状態を最適にするためには、軸の回転は、L1からL2への回転の方向44であり、セグメント100の内面と協働して、ポンプに続いて潤滑油の流れを可能にしている(図3及び図5、参照)。
【0047】
潤滑油の流れを考慮して、空洞4を備える面域は、オイルがベアリングシェルの荷重区分に達する前に、どの金属部分をも通過可能にするために、非荷重区分に位置決めされ、つまり実質的にオイルがセグメント100内に送り込まれる部位に隣接して位置決めされるようになっている。
【0048】
当業者に知られるように、粒子又は異物が潤滑油により胴セグメント内に達して、荷重区分内で高い圧縮力を受けると、粒子又は異物は、(実際に多くの場合に)、内面内に押し込まれて、内面に永続的に固着されてしまうことになる。セグメントの内面内に押し込まれた異物は、ベアリングを早期に損傷させ、つまり、疲労させ若しくはすり減らし、また引っ掻き傷を発生させてしまうことになる。このような事態、つまり異物による損傷は、オイルの交換時間が長くなるに伴って、或いはエンジンの過酷な使用に伴って著しく、より深刻なものとなっている。
【0049】
上述の観点から、シェルセグメント100は、空洞4を備える前述の区域を含んでおり、該区域は、オイルが供給される面に隣接して、常に流れの上流で荷重区分の前に位置決めされるようになっている。
【0050】
つまり、シェルセグメント100には、油膜がポンプ及び軸の回転運動による両方の圧力作用に基づき、内面に達して流れるようにするという本発明の課題がある。オイルは、荷重区分に達する前に、空洞4を備える面域を流過するようになっており、全ての異物が空洞4により捕捉され、その結果、荷重区分内への異物の到達が防止され、ひいてはセグメントの内面の荷重区分における付着が避けられるようになっている。空洞の位置決めは、空洞の部位における油膜内の圧力が、空洞による異物の捕捉を支援するために十分であるように、行われる。
【0051】
上述の構成により、本発明は、粒子が潤滑油内へ戻って循環しないことを保証しており、その結果、後に粒子がベアリングシェルのセグメントに或いはエンジンの他の部位に達して、その耐用寿命を短くしてしまうようなことを避けるものである。
【0052】
粒子の確実な捕捉及び付着のために、空洞は、考えられる種々の形状を有していてよい。空洞4は、望ましくは、レーザ表面加工に基づく表面構造化又はパターン形成によって形成されるものの、他の加工手段又は処理手段によって形成されてもよい。
【0053】
図5は、所定の相互の間隔(符号43、参照)で配置された空洞4を備える面域3、及びセグメント100に支持される軸の回転(結果として、オイル流)の方向を示している。空洞4は、異物が潤滑油の流れに沿って移動するのに対応して配置されており、このような配置構成により、各異物は、そのいかなる経路(直進若しくは斜行)においても、異物の捕捉及び保持の可能な少なくとも1つの空洞4上を流れるようになっている。
【0054】
望ましくは、図6に示してあるように、空洞4の直径41は、10〜300μm(典型的には100μm)であり、深さ42は、10〜200μm(典型的には50μm)であり、中心43間の間隔は、20〜500μm、典型的には200μmである。このような構成により、油膜からの異物の高い捕捉作用が保証されるようになっている。作用効果は他の構成によって得られてもよい。
【0055】
補足的に述べれば、空洞を等間隔に配置することは必須ではない。
【0056】
空洞4を備える領域の配置は、直径41及び空洞の分配に関連して行われ、ベアリングシェルと回転する軸との間にある異物が、軸の回転の方向44でオイルの流れに沿って移動する、つまり流れる際に、その経路中で少なくとも1つの空洞4上を流れるようになっており、その結果、異物が捕捉されて、そこから荷重区分への異物の移動が阻止されるようになっている。
【0057】
異物を捕捉することにより、セグメント100は、表面のダメージを避けることができ、或いは極端な状況でも、早期の損傷を避けることができる。
【0058】
空洞は、図示の実施の形態に限定されるものではなく、作用効果を得るために、他の形状を有していてもよく、且つ/又は他の配置パターンで配置されてもよく、或いは等間隔で配置され、又は互いに異なる間隔で配置されてもよい。
【0059】
更に補足的に述べれば、1つのベアリングシェルは、2つのセグメントによって構成されるものであり、少なくとも1つのセグメント100は、請求項に記載の新規で独創的な構成を有しているものである。
【0060】
本発明は、図示の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の形態が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 内面、 2 外面、 3 面域、 4 空洞又はキャビティー、 10,20,30 区分、 41 直径、 42 深さ、 43 間隔、 50 ベアリングシェル、 51,52,53 部分、 54〜57 溝、 100 セグメント又はシェルセグメント、 101 長さ、 102 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のベアリングシェルセグメント(100)であって、ボディー(C)から成っており、ボディー(C)は、コーティングを受容しかつ潤滑油膜の層と接触する内面(1)と、軸受に結合される反対側の外面(2)とを画定しており、内面(1)は、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重から実質的に解放されている少なくとも1つの第1の領域(10)、及び、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重を受ける第2の領域(20)を有しており、第1の領域(10)は、潤滑油膜の層内にある異物の捕捉のための少なくとも1つの面域(3)を有しており、セグメント(100)は、複数の空洞(4)を備える面域(3)によって構成されており、面域(3)は、少なくとも1つの異物を、空洞(4)の少なくとも1つによって、異物が潤滑油膜の流れ方向前方へ移動中に第2の領域(20)に達する前に、捕捉しかつ保持できるように配置されていることを特徴とする、内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項2】
空洞(4)の中心(C)間の間隔(43)は、20〜500μmである請求項1に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項3】
空洞(4)は、その中心間の200μmの間隔(43)を有している請求項1に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項4】
追加的に、混合気の爆発燃焼によるピストンの運動に基づく圧縮荷重から実質的に解放されている第3の領域(30)が設けられている請求項1に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項5】
面域(3)は、軸線方向の全長(101)にわたって延びている請求項1に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項6】
面域(3)の始端部が、中心から10〜60度の角度αに配置されている請求項1又は2に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項7】
面域(3)の終端部が、始端部の角度αから1〜30度の角度βに配置されている請求項6に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項8】
空洞(4)は、10〜300μmの直径(41)を有している請求項1に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項9】
空洞(4)は、10〜200μmの深さ(42)を有している請求項1又は8に記載の内燃機関用のベアリングシェルセグメント。
【請求項10】
ベアリングシェルにおいて、請求項1から9のいずれか1項に記載の少なくとも1つのセグメント(100)を有していることを特徴とするベアリングシェル。

【図1】
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【図2】
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【図3−4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−533035(P2012−533035A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519851(P2012−519851)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/BR2010/000225
【国際公開番号】WO2011/006221
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(512012425)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE Metal Leve S/A
【住所又は居所原語表記】Rodovia Anhanguera, sentido interior − capital, km 49,7, 13214−970 Jundiai − Sao Paulo, Brazil
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】