内燃機関
【課題】この発明は、車両に搭載される内燃機関に関し、冷間時におけるオイル希釈抑制と、温間時における均質性向上とを実現できる内燃機関を提供することを目的とする。
【解決手段】燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁を有する。上下動するピストン頂面12aに、噴霧を通過させる隙間を空け並べて配置された第1突起部36a及び第2突起部36bを有する。内燃機関が冷間状態である場合に、吸気行程において、突起部36間に噴霧を通過させるピストン位置で、燃料噴射弁に燃料を噴射させる。突起部36間を形成する第1突起部36a及び第2突起部36bそれぞれの対向面40は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面とする。
【解決手段】燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁を有する。上下動するピストン頂面12aに、噴霧を通過させる隙間を空け並べて配置された第1突起部36a及び第2突起部36bを有する。内燃機関が冷間状態である場合に、吸気行程において、突起部36間に噴霧を通過させるピストン位置で、燃料噴射弁に燃料を噴射させる。突起部36間を形成する第1突起部36a及び第2突起部36bそれぞれの対向面40は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ内に燃料を直接噴射するインジェクタを備えた内燃機関が知られている。また、新気と噴射燃料との混合気の均質性向上を目的として、吸気行程において、噴霧長の長い噴霧を生じさせることが知られている。このような構成によれば、吸気流に負けずに噴霧を筒内に広く分散させることができる。その結果、分散した噴霧を好適に吸気流の流れに乗せることができ、混合気の均質性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−294246号公報
【特許文献2】特開2004−197591号公報
【特許文献3】特開2008−261231号公報
【特許文献4】特開平10−317936号公報
【特許文献5】特開平11−324679号公報
【特許文献6】特開2008−280981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混合気の均質性の要求は、内燃機関の温間時においても冷間時においても同様である。しかしながら、上記従来の内燃機関において、冷間時に噴霧長の長い燃料噴射をすれば、シリンダ内壁に到達した燃料が、シリンダ内壁に付着してオイル希釈の主要因となる。そのため、冷間時にはシリンダ内壁への燃料付着を抑制して、オイル希釈の低減を図ることが求められる。
【0005】
この課題に対して、特許文献6には、吸気バルブの傘部上側と、ピストン頂面方向とに分けて燃料を噴射するインジェクタが開示されている。確かに、シリンダ内壁に向けた噴射が低減されるため、シリンダ内壁への燃料付着は低減される。しかしながら、シリンダ下方領域に噴射される燃料は吸気流の流れに乗り難いため、温間時における混合気の均質性向上は十分とはいえない。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、冷間時におけるオイル希釈抑制と、温間時における均質性向上とを実現できる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関であって、
燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁と、
上下動するピストンの頂面に、前記噴霧を通過させる隙間を空け並べて配置された第1及び第2突起部と、
内燃機関が冷間状態であるか否かを判定する冷間状態判定手段と、
前記冷間状態であると判定された場合に、吸気行程において、前記隙間に前記噴霧を通過させるピストン位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、を備え、
前記隙間を形成する前記第1及び第2突起部それぞれの対向面は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面であることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、冷間状態であるほどピストン頂面に近い位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させ、
前記凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、前記ピストン頂面に近い第1位置における該交線の曲率が、該第1位置よりも前記ピストン頂面から遠い第2位置における該交線の曲率よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、第1及び第2突起部それぞれの対向面を凸状湾曲面とすることで、第1突起部と第2突起部との隙間(以下、突起部間と記す。)に通過させた噴霧を、コアンダー効果により、前記第1及び第2突起部側に偏向させることができる。偏向させることで、噴霧を拡散させることができる。噴霧を拡散させることで、噴霧長を短くすることができる。
【0010】
また、第1の発明によれば、冷間時において突起部間に噴霧を通過させるように、燃料噴射時期を制御することができる。上述したように、突起部間を通過させた噴霧は拡散して噴霧長が短くなる。そのため、冷間時においてシリンダ内壁に到達する燃料を低減させることができる。シリンダ内壁への燃料付着を低減させることで、エンジンオイルのオイル希釈を低減することができる。なお、噴霧が筒内の広い範囲に拡散されるため均質性の低下も少ない。また、噴射圧力を弱めないため噴霧の粒度も悪化しない。
【0011】
さらに、第1の発明によれば、温間時においては、突起部間に噴霧を通過させないことで噴霧長を長く保つことができる。長い噴霧長によれば、燃料を筒内に広く分散させた上で吸気流の流れに乗せることができる。そのため、混合気の均質性を高めることができる。このように、本発明によれば、冷間時においてはオイル希釈の低減を重視し、温間時においては均質性の向上を重視した好適な運転を実現することができる。
【0012】
第2の発明によれば、冷間状態であるほど、第1及び第2突起部それぞれの対向面の曲率が高い位置を横切るように噴霧を通過させることができる。つまり、燃焼室内に向けて大きく広がった隙間に噴霧を通過させることができる。大きく広がった隙間を通過する噴霧は、コアンダー効果の影響を強く受けて大きく拡散する。そのため、冷間状態であるほど、噴霧を大きく拡散させて噴霧長を短くし、オイル希釈を低減することができる。
【0013】
また、第2の発明によれば、暖機過程中であっても冷間状態が解消されるに従って、突起部間に噴霧を通過させる位置を、上記対向面の曲率が低い位置に向けて、連続的に変更することができる。上記対向面の曲率が低くなるにつれ、コアンダー効果の影響は弱くなるため、噴霧の拡散も小さくなる。噴霧の拡散が小さくなるにつれて、噴霧長は徐々に長くなる。そのため、冷間状態が解消されるに従って、混合気の均質性を高めることが出来る。そのため、本発明によれば、冷間始動初期において噴霧長を短くして、確実なオイル希釈を図りつつ、暖機過程中であっても冷間状態が解消されるに従って、徐々に噴霧長を長く変化させて、均質性の向上をも図る好適な運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1におけるシステム構成を説明するための構成図である。
【図2】実施の形態1におけるピストン18を燃焼室22方向から見た図である。
【図3】実施の形態1における突起部36の形状を示す図である。
【図4】実施の形態1における第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間に噴霧を通過させた場合の噴霧形状を示す図である。
【図5】実施の形態1における燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図6】実施の形態1における冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図7】実施の形態1においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図8】実施の形態2におけるオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図9】実施の形態2においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図10】実施の形態3におけるアルコール濃度が低い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図11】実施の形態3におけるアルコール濃度が高い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図12】実施の形態3においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1におけるシステム構成を説明するための構成図である。図1に示すシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10は図示しない複数のシリンダを有している。図1にはそのうちの一つのシリンダ12の断面が示されている。シリンダ12はシリンダブロック14内に形成されている。シリンダ12の近傍には、冷却水温を検出する水温センサ(図示略)が配置されている。シリンダ12の内面にはシリンダライナ16が設けられている。シリンダ12内には、ピストン18がシリンダライナ16に対し摺動可能に配置されている。シリンダブロック14の上部には、シリンダヘッド20が組み付けられている。また、シリンダブロック14内のシリンダ12、ピストン18、およびシリンダヘッド20で囲まれた空間により燃焼室22が形成されている。シリンダヘッド20には、燃焼室22内に向けて、筒内噴射用のインジェクタ24と点火プラグ26とが配置されている。
【0017】
また、シリンダヘッド20には、燃焼室22に連通する吸気ポート28と排気ポート30とが形成されている。吸気ポート28の下流端には、吸気ポート28を燃焼室22に対して開閉する吸気バルブ32が設けられている。一方、排気ポート30の上流端には、排気ポート30を燃焼室22に対して開閉する排気バルブ34が設けられている。
【0018】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力側には、前述の水温センサが接続されている。ECU50の出力側には、前述のインジェクタ24、点火プラグ26が接続されている。
【0019】
本実施形態のシステムでは、吸気行程において、吸気バルブ32を開弁状態とし排気バルブ34を閉弁状態とする。吸気バルブ32を開弁状態とすることで、シリンダ内に吸気流が形成される。この吸気流は、新気が吸気ポート28からシリンダ12内に流れ込み、排気バルブ34の傘裏部からピストン頂面18aに向かうタンブル流である。また、ECU50は、吸気行程において、インジェクタ24に燃料(例えば、ガソリンを主燃料とする。)を噴射させて図1に示す噴霧Cを生じさせる。噴霧Cの噴射方向は、ピストン頂面18aに略平行で且つシリンダ軸線方向である。
【0020】
[実施の形態1における特徴的構成と制御]
ところで、新気と噴霧Cとの混合気について、その均質性を高めるには、噴霧Cの噴霧長は、吸気流に負けずに燃焼室22の広い範囲に分散するように、シリンダライナ16に到達する程度に長いことが望ましい。長い噴霧長とすることで、噴霧Cを好適に吸気流の流れに乗せることができ、混合気の均質性を向上させることができる。しかしながら、冷間時においては、シリンダライナ16に到達した噴霧Cがシリンダライナ16に付着し易い。この付着燃料は、ピストン18とシリンダライナ16との摺動面からシリンダブロック14下部のオイルパン(図示略)内に流れ込み、オイル希釈の原因となる。そのため、冷間時においては、シリンダライナ16への燃料付着を抑制して、オイル希釈の低減を図ることが求められる。
【0021】
そこで、このような課題に対して、本実施形態のシステムでは、ピストン頂面18aに突起部36(図1)を設け、後述する図7に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実施することにより、冷間時におけるオイル希釈低減と、温間時における均質性向上とを両立することとした。
【0022】
(実施の形態1における特徴的構成)
まず、本実施形態のシステムの第1の特徴である突起部36の具体的構成について、図2〜図4を用いて説明する。図2は、実施の形態1におけるピストン18を燃焼室22方向から見た図である。突起部36は、上下動するピストン18の頂面に設けられている。突起部36は、インジェクタ24からの噴霧C(図1)を通過させる隙間を空けて並置された第1突起部36aと第2突起部36bとからなる。以下、第1突起部36aと第2突起部36bとを区別しない場合には、単に突起部36と記す。
【0023】
突起部36は、ピストン頂面18aの縁部に設けられている。また、突起部36は、上下動するピストン18の上死点付近においてインジェクタ24の近傍に位置する。インジェクタ24の噴口は、ピストン18が上死点付近にある場合に、噴霧Cが第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間(以下、単に突起部36間とも記す。)を通過するように設定されている。突起部36は、ピストン18の上死点位置において切り込み部38に収まる。この上死点位置において、インジェクタ24から噴射された噴霧Cは、突起部36間のピストン頂面18aに最も近い位置を通過する。そして、噴霧Cは、ピストン18が上死点位置から下降して突起部36の高さを越えるまでの間、連続的に突起部36間を通過する。
【0024】
図3は、実施の形態1における突起部36の形状を説明するための図である。図3(A)は、図1のB−B面による突起部36の断面図である。図3(A)に示すように、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を形成するそれぞれの対向面40は、前記噴霧Cの流れを前記第1突起部36a側と第2突起部36b側とに偏向させるために、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面40間の距離が広がる凸状湾曲面である。すなわち、対向面40は、図3(A)に示す断面図にて、燃焼室22に向けて扇状に広がって開口した形状をしている。
【0025】
図3(B)は、突起部36を図2のA視方向から見た正面図である。図3(B)に示すように、対向面40である凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、ピストン頂面18aから遠い位置(突起部36の頭頂部近傍)よりも、ピストン頂面18aに近い位置の方が高い。換言すれば、突起部36の隙間は、ピストン頂面18aに近いほど燃焼室に向けて広く開口し、突起部36の頭頂部ほど狭く開口している。なお、突起部36間は、頭頂部においても、少なくともインジェクタ24から噴射された噴霧Cが、直接突起部36に衝突しない程度には開口している。
【0026】
次に、上述した構成において、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間(突起部36間)に噴霧Cを通過させることにより生じる作用について説明する。図4は、ピストン頂面18aと平行な面によって突起部36を断面視した断面図である。また、図4は、実施の形態1において、突起部36間に噴霧Cを通過させた場合の噴霧形状を示している。なお、上述した図3(B)で説明したように、突起部36間は、ピストン頂面18aから近いほど広がっており、遠いほど狭くなっている。
【0027】
図4(A)は、突起部36の頭頂部近傍における断面図である。図4(A)に示す噴霧形状c1は、突起部36が無い場合の噴霧Cの形状である。また、図4(A)に示す噴霧形状c2は、コアンダー効果(流体が物体の表面を流れるとき、物体の表面外形へ貼りつくように沿って流れる現象をいう。)により、インジェクタ24から噴射された噴霧Cが、対向面40(凸状湾曲面)に沿って流れることで拡散した噴霧Cの形状を表している。図4(A)に示すとおり、噴霧形状c2はコアンダー効果により、噴霧形状c1に比して噴霧幅が広がると共に噴霧長が短くなる。
【0028】
図4(B)は、突起部36のピストン頂面18a近傍における断面図である。図4(B)に示す噴霧形状c3は、コアンダー効果により拡散した噴霧Cの形状である。ピストン頂面18a近傍では、対向面40(凸状湾曲面)の曲率が高いため、図4(A)に示す噴霧形状c2に比して、さらに噴霧幅が広がり噴霧長が短くなる。つまり、ピストン頂面18aに近いほど、噴霧Cの噴霧幅は広がり噴霧長は短くなる。
【0029】
図5は、実施の形態1における燃料噴射時期と噴霧Cの噴霧長との関係を示す関係図である。図5に示す燃料噴射時期CA0において噴射された噴霧Cの形状は、図4(A)及び図4(B)の噴霧形状c1に対応している。燃料噴射時期CA0は、噴霧Cが第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を通過しなくなる境界を示している。また、図5に示す燃料噴射時期CA1において噴射された噴霧Cの形状は、図4(A)の噴霧形状c2に対応している。図5に示す噴射燃料時期CA2において噴射された噴霧Cの形状は、図4(B)の噴霧形状c3に対応している。
【0030】
図4で説明したコアンダー効果により、図5に示す上死点(TDC:Top Dead Center)位置において、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を通過する噴霧Cの噴霧長が最も短くなる。上記図3(B)で説明した突起部36の形状によれば、突起部36間は、ピストン頂面18aから頭頂部に向かって狭くなっているため、図5に示すようにピストン18が上死点位置から下がるにつれて、噴霧長は徐々に長くなる。そして、噴霧が突起部36間を通過しなくなる燃料噴射時期CA0以降は、インジェクタ24から噴射された噴霧Cは元の形状を保つため、一定の噴射長となる。
【0031】
(実施の形態1における特徴的制御)
次に、本実施形態のシステムの第2の特徴である燃料噴射時期制御について、図6〜図7を用いて説明する。冷間始動した内燃機関10は、暖機過程の経過に従って徐々に冷却水温や油温(以下、冷却水温等という。)が上昇する。冷却水温等が上昇するにつれて、オイル希釈量は減少し、混合気の均質性向上を図ることができる。そこで、本実施形態の燃料噴射時期制御では、暖機過程中であっても、冷却水温等の上昇によるオイル希釈量の減少を考慮して、噴霧Cの噴霧長を、冷却水温等の上昇に従って徐々に長くするように燃料噴射時期を制御することとした。
【0032】
具体的な制御の概要について図6を用いて説明する。図6は、実施の形態1における冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。実線62は、噴霧長と燃料噴射時期との関係を示しており図5で説明した通りである。実線64は、冷却水温と燃料噴射時期との関係を示している。
【0033】
本実施形態のシステムにおける燃料噴射時期制御では、冷間始動当初は、冷却水温等が低いため、燃料噴射時期をCA0から上死点位置まで進角させて燃料を噴射する。実線62に示す通り、上死点位置において噴霧Cの噴霧長は最も短くなる。その後、冷却水温等の上昇に従い、燃料噴射時期CA0からの進角値を徐々に小さくする(実線64)。進角値を小さくするに従って、噴霧Cの噴霧長は徐々に長くなる(実線62)。即ち、冷却水温の上昇に従って、噴霧長を徐々に長くする。
【0034】
図7は、上述の動作を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。ECU50は、燃料噴射時期制御ルーチンを記憶している。燃料噴射時期制御ルーチンは、例えば暖機過程においてサイクル毎に実行される。まず、ステップ100において、ECU50は冷間時であるか否かを判定する。例えば、始動後所定時間が経過していない場合や、所定サイクル数に満たない場合、水温センサにより検出された冷却水温(又は油温)相当値が暖機判定閾値よりも低い場合に冷間時であると判定される。
【0035】
ステップ100で冷間時であると判定されなかった場合、即ち、温間時である場合には、ECU50は、燃料噴射時期を図6に示すCA0以降に設定し、本ルーチンを終了する。一方、冷間時であると判定された場合には、ECU50は、水温センサから検出された冷却水温(又は油温)相当値を読み込み(ステップ110)、冷却水温tに代入する(ステップ120)。
【0036】
続いて、ステップ130において、ECU50は、冷却水温に応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図6に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図6)。また、関数fによれば、冷間始動直後等の冷間水温tが低い場合ほど、吸気行程の上死点に向けて大きく進角した燃料噴射時期Ainjが算出される。なお、暖機過程の経過に伴って冷間水温tは上昇するため、燃料噴射時期Ainjの進角値はCA0に向かって徐々に小さくなる。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出した後、本ルーチンを終了する。
【0037】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図7に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0038】
以上説明したように、図7に示すルーチンによれば、温間時においては、燃料噴射時期をCA0以降とする。そのため、突起部36間に噴霧Cを通過させないで、噴霧長を長く保ったまま筒内に噴霧Cを供給することができる。長い噴霧長によれば、燃料を筒内に広く分散させた上で吸気流の流れに乗せることができる。そのため、混合気の均質性を高めることができる。
【0039】
また、図7に示すルーチンによれば、冷間時においては、冷却水温が低いほど、燃料噴射時期をCA0から吸気行程の上死点に向けて進角させることができる。そのため、冷却水温の低い冷間始動当初は、噴霧Cの噴霧長を最も短くして、シリンダ内壁に到達する燃料を低減することができる。シリンダ内壁への燃料付着を低減することで、エンジンオイルのオイル希釈を低減することができる。さらに、図7に示すルーチンによれば、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に従って、燃料噴射時期をCA0からの進角値を小さくすることができる。そのため、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に従って、噴霧Cの噴霧長を徐々に長くして、混合気の均質性を高めることが出来る。
【0040】
このように、本実施例のシステムによれば、温間時における均質性向上と、冷間時におけるオイル希釈低減とを両立することができる。特に、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に伴って、徐々に噴霧長を長くできるため、オイル希釈によるMIL点灯を確実に回避しつつ、混合気の均質性向上、全開(WOT:Wide Open Throttle)性能向上を図ることができる。
【0041】
尚、上述した実施の形態1においては、インジェクタ24が前記第1の発明における「燃料噴射弁」に、第1突起部36aが前記第1の発明における「第1突起部」に、第2突起部36bが前記第1の発明における「第2突起部」に、それぞれ相当している。
また、ここでは、ECU50が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「冷間状態判定手段」が、上記ステップ130の処理を実行することにより前記第1及び第2の発明における「燃料噴射時期制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0042】
実施の形態2.
[実施の形態2のシステム構成]
次に、図8〜図9を参照して本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態のシステムは図1に示す構成において、オイル希釈率を計測又は推定する構成を備え、ECU50に後述する図9のルーチンを実施させることで実現することができる。尚、オイル希釈率を計測又は推定する構成については、例えば、特開平10−317936や特開2004−197591号公報に開示されている公知の内容であるためその説明を省略する。
【0043】
[実施の形態2における特徴的制御]
上述した実施の形態1では、冷却水温等に応じて燃料噴射時期を制御することで、冷却水温等に応じたオイル希釈低減と、混合気の均質性向上とを図ることができる。ところで、冷却水温等が上がってくるとオイル希釈量は減少する傾向がある。この傾向を鑑みて、より詳細に燃料噴射時期を制御できることが望ましい。そこで、本実施形態においては、実施の形態1の制御にオイル希釈率を加味して、より好適な燃料噴射時期の制御を実現することとした。
【0044】
具体的な制御の概要について図8を用いて説明する。図8は、実施の形態2におけるオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図8に示す実線a〜cは、オイル希釈率の違いによる燃料噴射時期の違いを示している。オイル希釈率は実線a〜cのうち実線aが最も高く、実線cが最も低い。
【0045】
本実施形態のシステムにおける燃料噴射時期制御では、オイル希釈率a〜cに応じて燃料噴射時期をCA0から進角させる。オイル希釈率が高い場合には、さらなるオイル希釈を抑える必要があるため、燃料噴射時期を大きく進角させて、噴霧長を短くし、シリンダライナへの燃料付着を抑制する。例えば、冷間時のある冷却水温t1において、オイル希釈率aの場合には、燃料噴射時期をCA0からCA3まで大きく進角させる。
【0046】
一方、冷間時であっても、オイル希釈率が低い場合には、MIL点灯に至らないと判断できるため、燃料噴射時期の進角値は小さく止め、噴霧長をあまり短くせず、混合気の均質性向上を図る。例えば、冷間時のある冷却水温t1において、オイル希釈率cの場合には、燃料噴射時期をCA3よりも進角値の小さいCA1とする。
【0047】
図9は、上述の動作を実現するためにECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ステップ110〜ステップ130の処理がステップ210〜ステップ230に置き換えられている点を除き、図7に示すルーチンと同様である。以下、図9において、図7に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0048】
図9に示すルーチンでは、上述したステップ100で冷間時と判断された場合に、ECU50は、冷却水温(又は油温)とオイル希釈率の相関値を読み込み(ステップ210)、冷却水温tとオイル希釈率dにそれぞれ代入する(ステップ220)。
【0049】
続いて、ステップ230において、ECU50は、冷却水温とオイル希釈率とに応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図8に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tとオイル希釈率dとを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図8)。冷却水温と燃料噴射時期との関係は、上述した図6と同様であり、冷間水温tが低いほど燃料噴射時期は吸気行程の上死点に向けて進角した値となる。加えて、本実施形態では、冷却水温tが同じであっても、オイル希釈率dが低いほど、燃料噴射時期のCA0からの進角値を小さくする(図8の実線a〜c)。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出したした後、本ルーチンを終了する。
【0050】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図9に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0051】
以上説明した通り、図9に示すルーチンによれば、冷間時において、オイル希釈率が低いほど燃料噴射時期の進角値を小さくすることができる。つまり、オイル希釈率が高い場合には、燃料噴射時期の進角値を大きくして噴霧長を短くすることができる。噴霧長を短くすることで、シリンダライナ16への燃料付着を抑制し、オイル希釈率の更なる上昇を抑制することができる。一方、暖機過程中であっても、オイル希釈率が低い場合には、燃料噴射時期の進角値を小さくして噴霧長を長くすることができる。即ち、オイル希釈によるMIL点灯が生じない範囲と判断して、混合気の均質性向上を図ることができる。また、冷却水温と燃料噴射時期との関係においては、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
このように、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、オイル希釈によるMIL点灯を回避しつつ、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に伴うオイル希釈量の減少に応じて、噴霧長を徐々に長くすることができる。そのため、好適に均質性向上を図ることができる。
【0053】
実施の形態3.
[実施の形態3のシステム構成]
次に、図10〜図12を参照して本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態のシステムは、実施の形態2のシステム構成において、インジェクタ24にガソリンとアルコールとの混合燃料を噴射させ、アルコール濃度を計測又は推定する構成を備え、ECU50に後述する図12のルーチンを実施させることで実現することができる。尚、アルコール濃度を計測又は推定する構成については、例えば、特開2004−197591や特開2008−261231号公報に開示されている公知の内容であるためその説明を省略する。
【0054】
[実施の形態3における特徴的制御]
上述した実施の形態2では、冷却水温等とオイル希釈率とに応じて燃料噴射時期を制御することで、好適に冷間時のオイル希釈低減と混合気の均質性向上とを図ることができる。ところで、冷間時に噴霧Cの広がり角(噴霧幅)が大きくなると吸気バルブ32と干渉しやすくなる。吸気バルブ32に付着したガソリンは、PM粒子数増加の主要因となる。そこで、本実施形態では、実施の形態2の制御にアルコール濃度を加味して、PM粒子数の増加を抑制した好適な燃料噴射時期の制御を実現することとした。
【0055】
具体的な制御の概要について図10〜図11を用いて説明する。図10は、実施の形態3におけるアルコール濃度が低い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図11は、実施の形態3におけるアルコール濃度が高い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図10及び図11に示す実線a〜cは、オイル希釈率の違いによる燃料噴射時期の違いを示している。オイル希釈率は実線a〜cのうち実線aが最も高く、実線cが最も低い。オイル希釈率については図8で説明した内容と同様であるため、詳細な説明は省略する。簡単には、オイル希釈率が高いほど燃料噴射時期を大きく進角させる。
【0056】
図10と図11を比較すると、アルコール濃度が低い図10の方が、実線a〜cの傾きが急峻である。また、冷間時のある冷却水温t1における燃料噴射時期の進角値は、アルコール濃度が低い図10の方が小さい。本実施形態においては、アルコール濃度が高い場合、即ち、ガソリン濃度が低いほど、進角値を小さくして噴霧長を長くする。一方、アルコール濃度が高い場合、即ち、ガソリン濃度が低いほど、進角値を大きくして噴霧長を短くする。
【0057】
図12は、上述の機能を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ステップ210〜ステップ230の処理がステップ310〜ステップ330に置き換えられている点を除き、図9に示すルーチンと同様である。以下、図12において、図9に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0058】
図12に示すルーチンでは、上述したステップ100で冷間時と判断された場合に、ECU50は、冷却水温(又は油温)とオイル希釈率とアルコール濃度との相関値を読み込み(ステップ310)、冷却水温tとオイル希釈率dとアルコール濃度eとにそれぞれ代入する(ステップ320)。
【0059】
続いて、ステップ330において、ECU50は、冷却水温とオイル希釈率とアルコール濃度に応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図11及び図12に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tとオイル希釈率dとアルコール濃度eとを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図10、図11)。冷却水温及びオイル希釈率と燃料噴射時期との関係は、上述した図8と同様であり、燃料噴射時期は、冷間水温tが低いほど吸気行程の上死点に向けて進角した値となり、オイル希釈率が低くなるに従い進角値は小さくなる。加えて、本実施形態では、アルコール濃度eが低いほど燃料噴射時期のCA0からの進角値を小さくする。一方、アルコール濃度eが高いほど燃料噴射時期のCA0からの進角値を大きくする。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出した後、本ルーチンを終了する。
【0060】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図12に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0061】
以上説明した通り、図12に示すルーチンによれば、冷間時において、アルコール濃度が低いほど、即ち、ガソリン濃度が高いほど、燃料噴射時期の進角値を小さくすることができる。進角値を小さくすることで、冷間時であってもコアンダー効果による噴霧の広がりを小さくすることができる。噴霧の広がりを小さくすることで、ガソリン濃度の高い燃料が吸気バルブ32に付着して、PM粒子数が増加することを抑制することができる。
【0062】
また、図12に示すルーチンによれば、冷間時において、アルコール濃度が高いほど、燃料噴射時期の進角値を大きくすることができる。アルコール濃度が高い場合には、吸気バルブ32への燃料付着によるPM粒子数の増大は少ない。反面、シリンダライナ16への燃料付着によるオイル希釈の問題が相対的に大きくなる。そのため、進角値を大きくすることで、噴霧長を短くして、シリンダライナ16への燃料付着を抑制することができる。また、冷却水温及びオイル希釈率と燃料噴射時期との関係においては、実施の形態1及び2と同様の効果を得ることができる。
【0063】
このように、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1及び2と同様の効果に加えて、オイル希釈によるMIL点灯の危険を回避しつつ、アルコール濃度に応じて、吸気バルブ32へのガソリン付着によるPM粒子数の増加を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 内燃機関
12 シリンダ
16 シリンダライナ
18、18a ピストン、ピストン頂面
22 燃焼室
24 インジェクタ
28 吸気ポート
32 吸気バルブ
36、36a、36b 突起部、第1突起部、第2突起部
40 対向面
C 噴霧
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ内に燃料を直接噴射するインジェクタを備えた内燃機関が知られている。また、新気と噴射燃料との混合気の均質性向上を目的として、吸気行程において、噴霧長の長い噴霧を生じさせることが知られている。このような構成によれば、吸気流に負けずに噴霧を筒内に広く分散させることができる。その結果、分散した噴霧を好適に吸気流の流れに乗せることができ、混合気の均質性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−294246号公報
【特許文献2】特開2004−197591号公報
【特許文献3】特開2008−261231号公報
【特許文献4】特開平10−317936号公報
【特許文献5】特開平11−324679号公報
【特許文献6】特開2008−280981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混合気の均質性の要求は、内燃機関の温間時においても冷間時においても同様である。しかしながら、上記従来の内燃機関において、冷間時に噴霧長の長い燃料噴射をすれば、シリンダ内壁に到達した燃料が、シリンダ内壁に付着してオイル希釈の主要因となる。そのため、冷間時にはシリンダ内壁への燃料付着を抑制して、オイル希釈の低減を図ることが求められる。
【0005】
この課題に対して、特許文献6には、吸気バルブの傘部上側と、ピストン頂面方向とに分けて燃料を噴射するインジェクタが開示されている。確かに、シリンダ内壁に向けた噴射が低減されるため、シリンダ内壁への燃料付着は低減される。しかしながら、シリンダ下方領域に噴射される燃料は吸気流の流れに乗り難いため、温間時における混合気の均質性向上は十分とはいえない。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、冷間時におけるオイル希釈抑制と、温間時における均質性向上とを実現できる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関であって、
燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁と、
上下動するピストンの頂面に、前記噴霧を通過させる隙間を空け並べて配置された第1及び第2突起部と、
内燃機関が冷間状態であるか否かを判定する冷間状態判定手段と、
前記冷間状態であると判定された場合に、吸気行程において、前記隙間に前記噴霧を通過させるピストン位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、を備え、
前記隙間を形成する前記第1及び第2突起部それぞれの対向面は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面であることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、冷間状態であるほどピストン頂面に近い位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させ、
前記凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、前記ピストン頂面に近い第1位置における該交線の曲率が、該第1位置よりも前記ピストン頂面から遠い第2位置における該交線の曲率よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、第1及び第2突起部それぞれの対向面を凸状湾曲面とすることで、第1突起部と第2突起部との隙間(以下、突起部間と記す。)に通過させた噴霧を、コアンダー効果により、前記第1及び第2突起部側に偏向させることができる。偏向させることで、噴霧を拡散させることができる。噴霧を拡散させることで、噴霧長を短くすることができる。
【0010】
また、第1の発明によれば、冷間時において突起部間に噴霧を通過させるように、燃料噴射時期を制御することができる。上述したように、突起部間を通過させた噴霧は拡散して噴霧長が短くなる。そのため、冷間時においてシリンダ内壁に到達する燃料を低減させることができる。シリンダ内壁への燃料付着を低減させることで、エンジンオイルのオイル希釈を低減することができる。なお、噴霧が筒内の広い範囲に拡散されるため均質性の低下も少ない。また、噴射圧力を弱めないため噴霧の粒度も悪化しない。
【0011】
さらに、第1の発明によれば、温間時においては、突起部間に噴霧を通過させないことで噴霧長を長く保つことができる。長い噴霧長によれば、燃料を筒内に広く分散させた上で吸気流の流れに乗せることができる。そのため、混合気の均質性を高めることができる。このように、本発明によれば、冷間時においてはオイル希釈の低減を重視し、温間時においては均質性の向上を重視した好適な運転を実現することができる。
【0012】
第2の発明によれば、冷間状態であるほど、第1及び第2突起部それぞれの対向面の曲率が高い位置を横切るように噴霧を通過させることができる。つまり、燃焼室内に向けて大きく広がった隙間に噴霧を通過させることができる。大きく広がった隙間を通過する噴霧は、コアンダー効果の影響を強く受けて大きく拡散する。そのため、冷間状態であるほど、噴霧を大きく拡散させて噴霧長を短くし、オイル希釈を低減することができる。
【0013】
また、第2の発明によれば、暖機過程中であっても冷間状態が解消されるに従って、突起部間に噴霧を通過させる位置を、上記対向面の曲率が低い位置に向けて、連続的に変更することができる。上記対向面の曲率が低くなるにつれ、コアンダー効果の影響は弱くなるため、噴霧の拡散も小さくなる。噴霧の拡散が小さくなるにつれて、噴霧長は徐々に長くなる。そのため、冷間状態が解消されるに従って、混合気の均質性を高めることが出来る。そのため、本発明によれば、冷間始動初期において噴霧長を短くして、確実なオイル希釈を図りつつ、暖機過程中であっても冷間状態が解消されるに従って、徐々に噴霧長を長く変化させて、均質性の向上をも図る好適な運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1におけるシステム構成を説明するための構成図である。
【図2】実施の形態1におけるピストン18を燃焼室22方向から見た図である。
【図3】実施の形態1における突起部36の形状を示す図である。
【図4】実施の形態1における第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間に噴霧を通過させた場合の噴霧形状を示す図である。
【図5】実施の形態1における燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図6】実施の形態1における冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図7】実施の形態1においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図8】実施の形態2におけるオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図9】実施の形態2においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図10】実施の形態3におけるアルコール濃度が低い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図11】実施の形態3におけるアルコール濃度が高い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。
【図12】実施の形態3においてECU50が実施する制御ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1におけるシステム構成を説明するための構成図である。図1に示すシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10は図示しない複数のシリンダを有している。図1にはそのうちの一つのシリンダ12の断面が示されている。シリンダ12はシリンダブロック14内に形成されている。シリンダ12の近傍には、冷却水温を検出する水温センサ(図示略)が配置されている。シリンダ12の内面にはシリンダライナ16が設けられている。シリンダ12内には、ピストン18がシリンダライナ16に対し摺動可能に配置されている。シリンダブロック14の上部には、シリンダヘッド20が組み付けられている。また、シリンダブロック14内のシリンダ12、ピストン18、およびシリンダヘッド20で囲まれた空間により燃焼室22が形成されている。シリンダヘッド20には、燃焼室22内に向けて、筒内噴射用のインジェクタ24と点火プラグ26とが配置されている。
【0017】
また、シリンダヘッド20には、燃焼室22に連通する吸気ポート28と排気ポート30とが形成されている。吸気ポート28の下流端には、吸気ポート28を燃焼室22に対して開閉する吸気バルブ32が設けられている。一方、排気ポート30の上流端には、排気ポート30を燃焼室22に対して開閉する排気バルブ34が設けられている。
【0018】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力側には、前述の水温センサが接続されている。ECU50の出力側には、前述のインジェクタ24、点火プラグ26が接続されている。
【0019】
本実施形態のシステムでは、吸気行程において、吸気バルブ32を開弁状態とし排気バルブ34を閉弁状態とする。吸気バルブ32を開弁状態とすることで、シリンダ内に吸気流が形成される。この吸気流は、新気が吸気ポート28からシリンダ12内に流れ込み、排気バルブ34の傘裏部からピストン頂面18aに向かうタンブル流である。また、ECU50は、吸気行程において、インジェクタ24に燃料(例えば、ガソリンを主燃料とする。)を噴射させて図1に示す噴霧Cを生じさせる。噴霧Cの噴射方向は、ピストン頂面18aに略平行で且つシリンダ軸線方向である。
【0020】
[実施の形態1における特徴的構成と制御]
ところで、新気と噴霧Cとの混合気について、その均質性を高めるには、噴霧Cの噴霧長は、吸気流に負けずに燃焼室22の広い範囲に分散するように、シリンダライナ16に到達する程度に長いことが望ましい。長い噴霧長とすることで、噴霧Cを好適に吸気流の流れに乗せることができ、混合気の均質性を向上させることができる。しかしながら、冷間時においては、シリンダライナ16に到達した噴霧Cがシリンダライナ16に付着し易い。この付着燃料は、ピストン18とシリンダライナ16との摺動面からシリンダブロック14下部のオイルパン(図示略)内に流れ込み、オイル希釈の原因となる。そのため、冷間時においては、シリンダライナ16への燃料付着を抑制して、オイル希釈の低減を図ることが求められる。
【0021】
そこで、このような課題に対して、本実施形態のシステムでは、ピストン頂面18aに突起部36(図1)を設け、後述する図7に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実施することにより、冷間時におけるオイル希釈低減と、温間時における均質性向上とを両立することとした。
【0022】
(実施の形態1における特徴的構成)
まず、本実施形態のシステムの第1の特徴である突起部36の具体的構成について、図2〜図4を用いて説明する。図2は、実施の形態1におけるピストン18を燃焼室22方向から見た図である。突起部36は、上下動するピストン18の頂面に設けられている。突起部36は、インジェクタ24からの噴霧C(図1)を通過させる隙間を空けて並置された第1突起部36aと第2突起部36bとからなる。以下、第1突起部36aと第2突起部36bとを区別しない場合には、単に突起部36と記す。
【0023】
突起部36は、ピストン頂面18aの縁部に設けられている。また、突起部36は、上下動するピストン18の上死点付近においてインジェクタ24の近傍に位置する。インジェクタ24の噴口は、ピストン18が上死点付近にある場合に、噴霧Cが第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間(以下、単に突起部36間とも記す。)を通過するように設定されている。突起部36は、ピストン18の上死点位置において切り込み部38に収まる。この上死点位置において、インジェクタ24から噴射された噴霧Cは、突起部36間のピストン頂面18aに最も近い位置を通過する。そして、噴霧Cは、ピストン18が上死点位置から下降して突起部36の高さを越えるまでの間、連続的に突起部36間を通過する。
【0024】
図3は、実施の形態1における突起部36の形状を説明するための図である。図3(A)は、図1のB−B面による突起部36の断面図である。図3(A)に示すように、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を形成するそれぞれの対向面40は、前記噴霧Cの流れを前記第1突起部36a側と第2突起部36b側とに偏向させるために、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面40間の距離が広がる凸状湾曲面である。すなわち、対向面40は、図3(A)に示す断面図にて、燃焼室22に向けて扇状に広がって開口した形状をしている。
【0025】
図3(B)は、突起部36を図2のA視方向から見た正面図である。図3(B)に示すように、対向面40である凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、ピストン頂面18aから遠い位置(突起部36の頭頂部近傍)よりも、ピストン頂面18aに近い位置の方が高い。換言すれば、突起部36の隙間は、ピストン頂面18aに近いほど燃焼室に向けて広く開口し、突起部36の頭頂部ほど狭く開口している。なお、突起部36間は、頭頂部においても、少なくともインジェクタ24から噴射された噴霧Cが、直接突起部36に衝突しない程度には開口している。
【0026】
次に、上述した構成において、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間(突起部36間)に噴霧Cを通過させることにより生じる作用について説明する。図4は、ピストン頂面18aと平行な面によって突起部36を断面視した断面図である。また、図4は、実施の形態1において、突起部36間に噴霧Cを通過させた場合の噴霧形状を示している。なお、上述した図3(B)で説明したように、突起部36間は、ピストン頂面18aから近いほど広がっており、遠いほど狭くなっている。
【0027】
図4(A)は、突起部36の頭頂部近傍における断面図である。図4(A)に示す噴霧形状c1は、突起部36が無い場合の噴霧Cの形状である。また、図4(A)に示す噴霧形状c2は、コアンダー効果(流体が物体の表面を流れるとき、物体の表面外形へ貼りつくように沿って流れる現象をいう。)により、インジェクタ24から噴射された噴霧Cが、対向面40(凸状湾曲面)に沿って流れることで拡散した噴霧Cの形状を表している。図4(A)に示すとおり、噴霧形状c2はコアンダー効果により、噴霧形状c1に比して噴霧幅が広がると共に噴霧長が短くなる。
【0028】
図4(B)は、突起部36のピストン頂面18a近傍における断面図である。図4(B)に示す噴霧形状c3は、コアンダー効果により拡散した噴霧Cの形状である。ピストン頂面18a近傍では、対向面40(凸状湾曲面)の曲率が高いため、図4(A)に示す噴霧形状c2に比して、さらに噴霧幅が広がり噴霧長が短くなる。つまり、ピストン頂面18aに近いほど、噴霧Cの噴霧幅は広がり噴霧長は短くなる。
【0029】
図5は、実施の形態1における燃料噴射時期と噴霧Cの噴霧長との関係を示す関係図である。図5に示す燃料噴射時期CA0において噴射された噴霧Cの形状は、図4(A)及び図4(B)の噴霧形状c1に対応している。燃料噴射時期CA0は、噴霧Cが第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を通過しなくなる境界を示している。また、図5に示す燃料噴射時期CA1において噴射された噴霧Cの形状は、図4(A)の噴霧形状c2に対応している。図5に示す噴射燃料時期CA2において噴射された噴霧Cの形状は、図4(B)の噴霧形状c3に対応している。
【0030】
図4で説明したコアンダー効果により、図5に示す上死点(TDC:Top Dead Center)位置において、第1突起部36aと第2突起部36bとの隙間を通過する噴霧Cの噴霧長が最も短くなる。上記図3(B)で説明した突起部36の形状によれば、突起部36間は、ピストン頂面18aから頭頂部に向かって狭くなっているため、図5に示すようにピストン18が上死点位置から下がるにつれて、噴霧長は徐々に長くなる。そして、噴霧が突起部36間を通過しなくなる燃料噴射時期CA0以降は、インジェクタ24から噴射された噴霧Cは元の形状を保つため、一定の噴射長となる。
【0031】
(実施の形態1における特徴的制御)
次に、本実施形態のシステムの第2の特徴である燃料噴射時期制御について、図6〜図7を用いて説明する。冷間始動した内燃機関10は、暖機過程の経過に従って徐々に冷却水温や油温(以下、冷却水温等という。)が上昇する。冷却水温等が上昇するにつれて、オイル希釈量は減少し、混合気の均質性向上を図ることができる。そこで、本実施形態の燃料噴射時期制御では、暖機過程中であっても、冷却水温等の上昇によるオイル希釈量の減少を考慮して、噴霧Cの噴霧長を、冷却水温等の上昇に従って徐々に長くするように燃料噴射時期を制御することとした。
【0032】
具体的な制御の概要について図6を用いて説明する。図6は、実施の形態1における冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。実線62は、噴霧長と燃料噴射時期との関係を示しており図5で説明した通りである。実線64は、冷却水温と燃料噴射時期との関係を示している。
【0033】
本実施形態のシステムにおける燃料噴射時期制御では、冷間始動当初は、冷却水温等が低いため、燃料噴射時期をCA0から上死点位置まで進角させて燃料を噴射する。実線62に示す通り、上死点位置において噴霧Cの噴霧長は最も短くなる。その後、冷却水温等の上昇に従い、燃料噴射時期CA0からの進角値を徐々に小さくする(実線64)。進角値を小さくするに従って、噴霧Cの噴霧長は徐々に長くなる(実線62)。即ち、冷却水温の上昇に従って、噴霧長を徐々に長くする。
【0034】
図7は、上述の動作を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。ECU50は、燃料噴射時期制御ルーチンを記憶している。燃料噴射時期制御ルーチンは、例えば暖機過程においてサイクル毎に実行される。まず、ステップ100において、ECU50は冷間時であるか否かを判定する。例えば、始動後所定時間が経過していない場合や、所定サイクル数に満たない場合、水温センサにより検出された冷却水温(又は油温)相当値が暖機判定閾値よりも低い場合に冷間時であると判定される。
【0035】
ステップ100で冷間時であると判定されなかった場合、即ち、温間時である場合には、ECU50は、燃料噴射時期を図6に示すCA0以降に設定し、本ルーチンを終了する。一方、冷間時であると判定された場合には、ECU50は、水温センサから検出された冷却水温(又は油温)相当値を読み込み(ステップ110)、冷却水温tに代入する(ステップ120)。
【0036】
続いて、ステップ130において、ECU50は、冷却水温に応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図6に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図6)。また、関数fによれば、冷間始動直後等の冷間水温tが低い場合ほど、吸気行程の上死点に向けて大きく進角した燃料噴射時期Ainjが算出される。なお、暖機過程の経過に伴って冷間水温tは上昇するため、燃料噴射時期Ainjの進角値はCA0に向かって徐々に小さくなる。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出した後、本ルーチンを終了する。
【0037】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図7に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0038】
以上説明したように、図7に示すルーチンによれば、温間時においては、燃料噴射時期をCA0以降とする。そのため、突起部36間に噴霧Cを通過させないで、噴霧長を長く保ったまま筒内に噴霧Cを供給することができる。長い噴霧長によれば、燃料を筒内に広く分散させた上で吸気流の流れに乗せることができる。そのため、混合気の均質性を高めることができる。
【0039】
また、図7に示すルーチンによれば、冷間時においては、冷却水温が低いほど、燃料噴射時期をCA0から吸気行程の上死点に向けて進角させることができる。そのため、冷却水温の低い冷間始動当初は、噴霧Cの噴霧長を最も短くして、シリンダ内壁に到達する燃料を低減することができる。シリンダ内壁への燃料付着を低減することで、エンジンオイルのオイル希釈を低減することができる。さらに、図7に示すルーチンによれば、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に従って、燃料噴射時期をCA0からの進角値を小さくすることができる。そのため、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に従って、噴霧Cの噴霧長を徐々に長くして、混合気の均質性を高めることが出来る。
【0040】
このように、本実施例のシステムによれば、温間時における均質性向上と、冷間時におけるオイル希釈低減とを両立することができる。特に、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に伴って、徐々に噴霧長を長くできるため、オイル希釈によるMIL点灯を確実に回避しつつ、混合気の均質性向上、全開(WOT:Wide Open Throttle)性能向上を図ることができる。
【0041】
尚、上述した実施の形態1においては、インジェクタ24が前記第1の発明における「燃料噴射弁」に、第1突起部36aが前記第1の発明における「第1突起部」に、第2突起部36bが前記第1の発明における「第2突起部」に、それぞれ相当している。
また、ここでは、ECU50が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「冷間状態判定手段」が、上記ステップ130の処理を実行することにより前記第1及び第2の発明における「燃料噴射時期制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0042】
実施の形態2.
[実施の形態2のシステム構成]
次に、図8〜図9を参照して本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態のシステムは図1に示す構成において、オイル希釈率を計測又は推定する構成を備え、ECU50に後述する図9のルーチンを実施させることで実現することができる。尚、オイル希釈率を計測又は推定する構成については、例えば、特開平10−317936や特開2004−197591号公報に開示されている公知の内容であるためその説明を省略する。
【0043】
[実施の形態2における特徴的制御]
上述した実施の形態1では、冷却水温等に応じて燃料噴射時期を制御することで、冷却水温等に応じたオイル希釈低減と、混合気の均質性向上とを図ることができる。ところで、冷却水温等が上がってくるとオイル希釈量は減少する傾向がある。この傾向を鑑みて、より詳細に燃料噴射時期を制御できることが望ましい。そこで、本実施形態においては、実施の形態1の制御にオイル希釈率を加味して、より好適な燃料噴射時期の制御を実現することとした。
【0044】
具体的な制御の概要について図8を用いて説明する。図8は、実施の形態2におけるオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図8に示す実線a〜cは、オイル希釈率の違いによる燃料噴射時期の違いを示している。オイル希釈率は実線a〜cのうち実線aが最も高く、実線cが最も低い。
【0045】
本実施形態のシステムにおける燃料噴射時期制御では、オイル希釈率a〜cに応じて燃料噴射時期をCA0から進角させる。オイル希釈率が高い場合には、さらなるオイル希釈を抑える必要があるため、燃料噴射時期を大きく進角させて、噴霧長を短くし、シリンダライナへの燃料付着を抑制する。例えば、冷間時のある冷却水温t1において、オイル希釈率aの場合には、燃料噴射時期をCA0からCA3まで大きく進角させる。
【0046】
一方、冷間時であっても、オイル希釈率が低い場合には、MIL点灯に至らないと判断できるため、燃料噴射時期の進角値は小さく止め、噴霧長をあまり短くせず、混合気の均質性向上を図る。例えば、冷間時のある冷却水温t1において、オイル希釈率cの場合には、燃料噴射時期をCA3よりも進角値の小さいCA1とする。
【0047】
図9は、上述の動作を実現するためにECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ステップ110〜ステップ130の処理がステップ210〜ステップ230に置き換えられている点を除き、図7に示すルーチンと同様である。以下、図9において、図7に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0048】
図9に示すルーチンでは、上述したステップ100で冷間時と判断された場合に、ECU50は、冷却水温(又は油温)とオイル希釈率の相関値を読み込み(ステップ210)、冷却水温tとオイル希釈率dにそれぞれ代入する(ステップ220)。
【0049】
続いて、ステップ230において、ECU50は、冷却水温とオイル希釈率とに応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図8に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tとオイル希釈率dとを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図8)。冷却水温と燃料噴射時期との関係は、上述した図6と同様であり、冷間水温tが低いほど燃料噴射時期は吸気行程の上死点に向けて進角した値となる。加えて、本実施形態では、冷却水温tが同じであっても、オイル希釈率dが低いほど、燃料噴射時期のCA0からの進角値を小さくする(図8の実線a〜c)。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出したした後、本ルーチンを終了する。
【0050】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図9に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0051】
以上説明した通り、図9に示すルーチンによれば、冷間時において、オイル希釈率が低いほど燃料噴射時期の進角値を小さくすることができる。つまり、オイル希釈率が高い場合には、燃料噴射時期の進角値を大きくして噴霧長を短くすることができる。噴霧長を短くすることで、シリンダライナ16への燃料付着を抑制し、オイル希釈率の更なる上昇を抑制することができる。一方、暖機過程中であっても、オイル希釈率が低い場合には、燃料噴射時期の進角値を小さくして噴霧長を長くすることができる。即ち、オイル希釈によるMIL点灯が生じない範囲と判断して、混合気の均質性向上を図ることができる。また、冷却水温と燃料噴射時期との関係においては、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
このように、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、オイル希釈によるMIL点灯を回避しつつ、暖機過程中であっても、冷却水温の上昇に伴うオイル希釈量の減少に応じて、噴霧長を徐々に長くすることができる。そのため、好適に均質性向上を図ることができる。
【0053】
実施の形態3.
[実施の形態3のシステム構成]
次に、図10〜図12を参照して本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態のシステムは、実施の形態2のシステム構成において、インジェクタ24にガソリンとアルコールとの混合燃料を噴射させ、アルコール濃度を計測又は推定する構成を備え、ECU50に後述する図12のルーチンを実施させることで実現することができる。尚、アルコール濃度を計測又は推定する構成については、例えば、特開2004−197591や特開2008−261231号公報に開示されている公知の内容であるためその説明を省略する。
【0054】
[実施の形態3における特徴的制御]
上述した実施の形態2では、冷却水温等とオイル希釈率とに応じて燃料噴射時期を制御することで、好適に冷間時のオイル希釈低減と混合気の均質性向上とを図ることができる。ところで、冷間時に噴霧Cの広がり角(噴霧幅)が大きくなると吸気バルブ32と干渉しやすくなる。吸気バルブ32に付着したガソリンは、PM粒子数増加の主要因となる。そこで、本実施形態では、実施の形態2の制御にアルコール濃度を加味して、PM粒子数の増加を抑制した好適な燃料噴射時期の制御を実現することとした。
【0055】
具体的な制御の概要について図10〜図11を用いて説明する。図10は、実施の形態3におけるアルコール濃度が低い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図11は、実施の形態3におけるアルコール濃度が高い場合のオイル希釈率と冷却水温と燃料噴射時期と噴霧長との関係を示す関係図である。図10及び図11に示す実線a〜cは、オイル希釈率の違いによる燃料噴射時期の違いを示している。オイル希釈率は実線a〜cのうち実線aが最も高く、実線cが最も低い。オイル希釈率については図8で説明した内容と同様であるため、詳細な説明は省略する。簡単には、オイル希釈率が高いほど燃料噴射時期を大きく進角させる。
【0056】
図10と図11を比較すると、アルコール濃度が低い図10の方が、実線a〜cの傾きが急峻である。また、冷間時のある冷却水温t1における燃料噴射時期の進角値は、アルコール濃度が低い図10の方が小さい。本実施形態においては、アルコール濃度が高い場合、即ち、ガソリン濃度が低いほど、進角値を小さくして噴霧長を長くする。一方、アルコール濃度が高い場合、即ち、ガソリン濃度が低いほど、進角値を大きくして噴霧長を短くする。
【0057】
図12は、上述の機能を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ステップ210〜ステップ230の処理がステップ310〜ステップ330に置き換えられている点を除き、図9に示すルーチンと同様である。以下、図12において、図9に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0058】
図12に示すルーチンでは、上述したステップ100で冷間時と判断された場合に、ECU50は、冷却水温(又は油温)とオイル希釈率とアルコール濃度との相関値を読み込み(ステップ310)、冷却水温tとオイル希釈率dとアルコール濃度eとにそれぞれ代入する(ステップ320)。
【0059】
続いて、ステップ330において、ECU50は、冷却水温とオイル希釈率とアルコール濃度に応じた燃料噴射時期を算出する。具体的には、ECU50は、図11及び図12に示す関数fを記憶しており、関数fに冷却水温tとオイル希釈率dとアルコール濃度eとを代入して燃料噴射時期Ainjを算出する。燃料噴射時期Ainjは、冷間時においてCA0よりも進角した値となる(図10、図11)。冷却水温及びオイル希釈率と燃料噴射時期との関係は、上述した図8と同様であり、燃料噴射時期は、冷間水温tが低いほど吸気行程の上死点に向けて進角した値となり、オイル希釈率が低くなるに従い進角値は小さくなる。加えて、本実施形態では、アルコール濃度eが低いほど燃料噴射時期のCA0からの進角値を小さくする。一方、アルコール濃度eが高いほど燃料噴射時期のCA0からの進角値を大きくする。ECU50は、現サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出した後、本ルーチンを終了する。
【0060】
他のルーチンにおいて、ECU50は、算出した燃料噴射時期Ainjに基づいてインジェクタ24に燃料を噴射させる。さらに、次サイクルにおける燃料噴射時期Ainjを算出するために、再び図12に示す燃料噴射時期制御ルーチンを実行する。
【0061】
以上説明した通り、図12に示すルーチンによれば、冷間時において、アルコール濃度が低いほど、即ち、ガソリン濃度が高いほど、燃料噴射時期の進角値を小さくすることができる。進角値を小さくすることで、冷間時であってもコアンダー効果による噴霧の広がりを小さくすることができる。噴霧の広がりを小さくすることで、ガソリン濃度の高い燃料が吸気バルブ32に付着して、PM粒子数が増加することを抑制することができる。
【0062】
また、図12に示すルーチンによれば、冷間時において、アルコール濃度が高いほど、燃料噴射時期の進角値を大きくすることができる。アルコール濃度が高い場合には、吸気バルブ32への燃料付着によるPM粒子数の増大は少ない。反面、シリンダライナ16への燃料付着によるオイル希釈の問題が相対的に大きくなる。そのため、進角値を大きくすることで、噴霧長を短くして、シリンダライナ16への燃料付着を抑制することができる。また、冷却水温及びオイル希釈率と燃料噴射時期との関係においては、実施の形態1及び2と同様の効果を得ることができる。
【0063】
このように、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1及び2と同様の効果に加えて、オイル希釈によるMIL点灯の危険を回避しつつ、アルコール濃度に応じて、吸気バルブ32へのガソリン付着によるPM粒子数の増加を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 内燃機関
12 シリンダ
16 シリンダライナ
18、18a ピストン、ピストン頂面
22 燃焼室
24 インジェクタ
28 吸気ポート
32 吸気バルブ
36、36a、36b 突起部、第1突起部、第2突起部
40 対向面
C 噴霧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁と、
上下動するピストンの頂面に、前記噴霧を通過させる隙間を空けて並べて配置された第1及び第2突起部と、
内燃機関が冷間状態であるか否かを判定する冷間状態判定手段と、
前記冷間状態であると判定された場合に、吸気行程において、前記隙間に前記噴霧を通過させるピストン位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、を備え、
前記隙間を形成する前記第1及び第2突起部それぞれの対向面は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面であること、
を特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記燃料噴射時期制御手段は、冷間状態であるほどピストン頂面に近い位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させ、
前記凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、前記ピストン頂面に近い第1位置における該交線の曲率が、該第1位置よりも前記ピストン頂面から遠い第2位置における該交線の曲率よりも高いこと、
を特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項1】
燃焼室内に燃料を直接噴射して噴霧を生じさせる燃料噴射弁と、
上下動するピストンの頂面に、前記噴霧を通過させる隙間を空けて並べて配置された第1及び第2突起部と、
内燃機関が冷間状態であるか否かを判定する冷間状態判定手段と、
前記冷間状態であると判定された場合に、吸気行程において、前記隙間に前記噴霧を通過させるピストン位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、を備え、
前記隙間を形成する前記第1及び第2突起部それぞれの対向面は、凸状に湾曲し、噴射方向に向かって対向面間の距離が広がる凸状湾曲面であること、
を特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記燃料噴射時期制御手段は、冷間状態であるほどピストン頂面に近い位置で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させ、
前記凸状湾曲面とシリンダ軸線に直交する平面との交線の曲率は、前記ピストン頂面に近い第1位置における該交線の曲率が、該第1位置よりも前記ピストン頂面から遠い第2位置における該交線の曲率よりも高いこと、
を特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−190201(P2010−190201A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38480(P2009−38480)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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