説明

内燃機関

【課題】ポーラス構造の断熱膜を有する内燃機関において、その断熱性を維持することである。
【解決手段】内燃機関10は、燃焼室26を構成する各要素を燃焼室母材として、燃焼室母材の熱伝導率よりも低い熱伝導率と、燃焼室母材の単位体積当り熱容量よりも低い単位体積当り熱容量とを有する断熱膜40,42が燃焼室26に面する壁面に形成される。断熱膜40,42は、多数の空孔を含むポーラス構造を有する陽極酸化膜から構成され、その空孔の内部には、隣接する粒子の間の隙間が予め設定される大きさの空隙となるように複数の封入粒子が封入される。設定される空隙の大きさは、例えば、燃焼室26の高温高圧の気体分子の平均自由行程よりも小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に係り、特に燃焼室内壁に断熱膜を有する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の熱損失を低減するために、燃焼室内壁に断熱膜を設けることが行われる。例えば、特許文献1には、内燃機関の燃焼室内に臨む壁面に形成する断熱膜として、粒状に形成された多数の断熱材と、膜状に形成された断熱材とを含み、膜状の断熱材は、燃焼室の母材の熱伝導率以下の熱伝導率を有し、粒状の断熱材は、燃焼室の母材の熱伝導率より低い熱伝導率と、母材の単位体積あたりの熱容量より低い単位体積あたりの熱容量を有し、さらに膜状の断熱材の熱伝導率より低い熱伝導率と、膜状の断熱材の単位体積あたりの熱容量より低い単位体積あたりの熱容量を有する構成が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、内燃機関におけるクランク角度位相、燃焼室壁温度振幅等の、熱伝達特性の熱力学的効率への影響を調べた結果が報告されている。ここでは、エンジンサイクルの燃焼行程に熱伝達を抑制することが効率向上に最も効くこと、プラズマスプレー法によるジルコニア薄膜コーティングまたはセラミックスラリー薄膜コーティングの最適膜厚は、0.25mmから0.5mmであること等が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−243352号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Victor W. Wong et.al.,Assessment of Thin Thermal Barrier Coating for I.C. Engines,1995 Society of Automotive Engineers, Inc.,950980,p1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、内燃機関において、燃焼室壁面に断熱膜を形成すると、燃焼中に高温となった燃焼ガスの温度に追従して断熱膜の表面温度が変化し、ガスとの温度差が小さくなって、内燃機関の熱損失の低減を図ることが可能となる。
【0007】
固体材料に比べ、気体である空気は、熱伝導率、単位体積当り熱容量がともに非常に小さいため、例えば、ポーラス構造を有する膜を用いると、熱伝導性が小さく、また単位体積当り熱容量の小さい断熱膜となる。このようなポーラス構造の膜として、エンジンの母材がアルミニウムであることから、その陽極酸化膜を用いることが考えられる。
【0008】
ところで、陽極酸化膜のポーラス構造は、表面に向かって繋がった空孔となっているので、エンジンの燃焼室内のような高圧雰囲気の内壁面に形成すると、その高温高圧の気体がその空孔内に入り込み、断熱効果が低下する恐れがある。
【0009】
本発明の目的は、ポーラス構造の断熱膜の断熱性を維持することができる内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る内燃機関は、内燃機関の燃焼室を構成する各要素を燃焼室母材として、燃焼室母材の燃焼室に面する壁面に形成され、燃焼室母材の熱伝導率よりも低い熱伝導率と、燃焼室母材の単位体積当り熱容量よりも低い単位体積当り熱容量とを有し、多数の空孔を含むポーラス構造を有する陽極酸化膜から構成される断熱膜と、断熱膜の空孔の内部に封入される複数の粒子であって、隣接する粒子の間の隙間が予め設定される大きさの空隙となるように封入される複数の封入粒子と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る内燃機関において、封入粒子は、中空構造を有する中空粒子であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る内燃機関において、封入粒子は、陽極酸化膜の空孔の大きさよりも小さい外形で、10nm以上150nm以下の粒子径を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る内燃機関において、封入粒子は、ナノ中空体ビーズまたはナノ多孔体またはナノチューブで構成されることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る内燃機関において、粒子を空孔内に封入することで形成される空隙は、内燃機関の燃焼室における気体分子の平均自由行程よりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成により、内燃機関は、燃焼室母材の熱伝導率よりも低い熱伝導率と、燃焼室母材の単位体積当り熱容量よりも低い単位体積当り熱容量とを有し、多数の空孔を含むポーラス構造を有する陽極酸化膜から構成される断熱膜が設けられる。そして、断熱膜の空孔の内部には、隣接する粒子の間の隙間が予め設定される大きさの空隙となるように複数の封入粒子が封入される。これにより、ポーラス構造として表面に向かって繋がっている空孔であっても、表面から気体が入り込むことを防止でき、断熱膜の断熱性を維持することができる。
【0016】
また、内燃機関において、断熱膜に封入される粒子は、中空構造を有する中空粒子であるので、断熱性を十分に維持することができる。
【0017】
また、内燃機関において、封入粒子は、陽極酸化膜の空孔の大きさよりも小さい外形で、10nm以上150nm以下の粒子径を有する。陽極酸化膜の空孔の径は、およそ10nmから150nmであるので、この程度の粒子径が好ましい。
【0018】
また、内燃機関において、封入粒子は、ナノ中空体ビーズまたはナノ多孔体またはナノチューブで構成されるので、陽極酸化膜の空孔内に十分に配置することができる。
【0019】
また、内燃機関において、粒子を空孔内に封入することで形成される空隙は、内燃機関の燃焼室における気体分子の平均自由行程よりも小さい。これによって、空孔の表面から内部に向かって気体が入り込むことを十分に抑制でき、さらに、空隙に存在する気体の熱伝導率は、同じ圧力で平均自由行程以上の領域に存在する気体よりも低下するので、断熱膜の断熱性をさらに向上させることができる。また、封入粒子により空隙が小さくなることで、空孔内に存在する気体の対流も抑制することができ、断熱膜の断熱性をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関について、燃焼室周辺の構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、断熱膜である陽極酸化膜の構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、断熱膜の空孔に封入される粒子の様子を説明する図である。
【図4】気体分子の平均自由行程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、内燃機関として火花点火式ガソリンエンジンを説明するが、様々な仕様の火花点火式機関、圧縮着火式機関等に適用可能である。
【0022】
また、以下では、燃焼室の構成として、シリンダ、ピストン、吸気弁、排気弁、点火プラグを説明するが、これは燃焼室壁面に関連する主要な要素であって、内燃機関としては、勿論これ以外の要素を含む。例えば、燃料噴射弁、スロットルバルブ、フローメータ、EGR等を含むが、これらの説明は単に省略しただけである。
【0023】
また、以下の燃焼室の形状、燃焼室の構成要素の配置等は、説明のための例示であり、内燃機関の仕様に応じ、適宜変更が可能である。
【0024】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0025】
図1は、内燃機関10における燃焼室26の周辺を説明するための図である。この内燃機関10は、火花点火式のガソリンエンジンであり、図1では、その1つの気筒の断面図が示されている。
【0026】
ここでは、ピストン12と、ピストン12が摺動するシリンダ14とが示されている。ピストン12は、円柱状の外形形状を有し、その上面30は、中央部にキャビティとも呼ばれるくぼみを有する。シリンダ14は、ピストン12の摺動を案内する円筒状の内壁と、円筒状の天井部を構成する上部部材とを含む。円筒状の部分はライナ部と呼ばれ、天井部を構成する上部部材はヘッド部と呼ばれる。ピストン12の上面30とシリンダ14のヘッド部の下面32とで囲まれる空間が燃焼室26である。
【0027】
シリンダ14のヘッド部には、吸気弁16、吸気路18、排気弁20、排気路22、点火プラグ24等が設けられる。したがって、燃焼室26の内壁を構成する要素としては、ピストン12の上面30、シリンダ14のヘッド部の下面32、この下面に配置される吸気弁16の先端部、排気弁20の先端部、点火プラグ24の先端部等が含まれる。これらの要素を、燃焼室を構成する要素としてまとめて、燃焼室母材と呼ぶことにする。ピストン12、シリンダ14は、その材質としてアルミニウム合金が用いられるので、燃焼室母材の材質としては一部を除いてアルミニウム合金であると考えてよい。
【0028】
断熱膜40,42は、燃焼室母材が燃焼室26に面する壁面に形成され、燃焼室26の燃焼ガスの温度が燃焼室母材に逃げないように断熱して高温を維持するための断熱膜である。断熱膜40,42は、燃焼室母材の熱伝導率よりも低い熱伝導率と、燃焼室母材の単位体積当り熱容量よりも低い単位体積当り熱容量とを有する。なお、断熱膜40は、シリンダ14のヘッド部の下面32とともに、そこに配置される吸気弁16、排気弁20の下面にも設けられる。また、シリンダ14の円筒状の部分であるライナ部にも断熱膜を設けるものとしてもよい。
【0029】
このような断熱膜40,42としては、陽極酸化皮膜を用いることができる。図2は、陽極酸化断熱膜としての断熱膜42の構成を説明する断面図である。断熱膜42は、燃焼室母材であるピストン12の材質であるアルミニウムを公知の陽極酸化法によって、陽極酸化処理し、多数の空孔46を有するアルミナ膜44としたものである。断熱膜40,42の厚さは、陽極酸化処理の条件で調整できる。断熱効果を考えると、断熱膜40,42の厚さを、例えば、50μmから150μm程度とすることができる。
【0030】
図2に示すように、多数の空孔46は、燃焼室26の側に向かって繋がった細長い孔としてアルミナ膜44の中に形成される。空孔46の径の大きさはおよそ10nmから150nmである。この空孔46の中は空気であるので、アルミニウムであるピストン12に比べ、熱伝導率が低く、また単位体積当り熱容量が小さい。
【0031】
断熱膜42の空孔46の中に配置される中空粒子48は、中空構造を有し、その外径が空孔46の大きさよりも小さい10nm以上150nm以下の径を有し、隣接する粒子の間の隙間が予め設定される大きさの空隙となるように封入される複数の封入粒子である。このような封入粒子としては、ナノ中空体ビーズまたはナノ多孔体またはナノチューブを用いることができる。
【0032】
図3は、断熱膜42の空孔46に封入される中空粒子48の様子を説明する図である。中空粒子48の大きさは、それぞれが揃っていてもよいが、実際には図3に示されるように異なることが多い。また、図3では、球形の粒子として示されているが、外形は必ずしも対称形でなくてもよい。また、中空粒子48に代えて、熱伝導率の小さく、単位体積当り熱容量の小さい材質の中実粒子を用いてもよい。
【0033】
図3では、隣接する粒子の間の隙間として予め設定される大きさの空隙Sが示されている。この空隙Sは、空孔46に燃焼室26側から高温高圧の気体が入り込まない程度の狭い隙間であることが好ましい。例えば、空隙Sを数nmとすることができる。この空隙Sは、好ましくは、燃焼室26の高温高圧の気体について、その気体分子の平均自由行程よりも小さい隙間とすることがよい。
【0034】
図4は、気体分子50の平均自由行程S0の様子を説明する図である。気体分子の平均自由行程S0とは、いまの場合、空孔46の中にある空気分子に衝突しながら高温高圧の気体分子が進んでゆくときの直線移動の距離の平均値である。例えば、エンジンの燃焼室26の状態を15MPa、2000°Kとして、その場合の気体分子の平均自由行程は、3.2nmと計算される。したがって、空隙Sは、これより小さい値に設定することが好ましい。
【0035】
このように、空孔内の空隙を気体分子の平均自由行程よりも小さくなるように複数の粒子を封入することで、空孔の表面から内部に向かって気体が入り込むことを十分に抑制できる。また、空隙に存在する気体の熱伝導率は、同じ圧力で平均自由行程以上の領域に存在する気体よりも低下するので、断熱膜の断熱性をさらに向上させることができる。また、封入粒子により空隙が小さくなることで、空孔内に存在する気体の対流も抑制することができ、断熱膜の断熱性をさらに向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る内燃機関は、火花点火式機関、圧縮着火式機関に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 内燃機関、12 ピストン、14 シリンダ、16 吸気弁、18 吸気路、20 排気弁、22 排気路、24 点火プラグ、26 燃焼室、30 上面、32 下面、40,42 断熱膜、44 アルミナ膜、46 空孔、48 中空粒子、50 気体分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室を構成する各要素を燃焼室母材として、燃焼室母材の燃焼室に面する壁面に形成され、燃焼室母材の熱伝導率よりも低い熱伝導率と、燃焼室母材の単位体積当り熱容量よりも低い単位体積当り熱容量とを有し、多数の空孔を含むポーラス構造を有する陽極酸化膜から構成される断熱膜と、
断熱膜の空孔の内部に封入される複数の粒子であって、隣接する粒子の間の隙間が予め設定される大きさの空隙となるように封入される複数の封入粒子と、
を備えることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
封入粒子は、中空構造を有する中空粒子であることを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関において、
封入粒子は、陽極酸化膜の空孔の大きさよりも小さい外形で、10nm以上150nm以下の粒子径を有することを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項4に記載の内燃機関において、
封入粒子は、ナノ中空体ビーズまたはナノ多孔体またはナノチューブで構成されることを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項1に記載の内燃機関において、
粒子を空孔内に封入することで形成される空隙は、内燃機関の燃焼室における気体分子の平均自由行程よりも小さいことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47110(P2012−47110A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190408(P2010−190408)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】