説明

内燃機関

【課題】燃焼室における残留ガスを低減することにより、ノッキングの発生を防止可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関(1)は、燃焼室(2)の内壁から内側に向かって突出することにより、燃焼室の容積を変更可能な突出部材(14)と、突出部材の突出量及び突出タイミングを制御するECU(18)とを備えており、特に、排気上死点における燃焼室の容積が圧縮上死点に比べて小さくなるように突出部材の突出量及び突出タイミングが制御されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において燃焼室に残留した排気ガスを効率的に掃気可能な内燃機関の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両用エンジンを含む内燃機関では、吸気通路から吸気バルブを介して燃焼室に新気を取り込み、燃焼後、発生した排気ガスを、排気バルブを介して排気通路に排出する。特に4サイクルエンジンでは、排気上死点と圧縮上死点においてピストン位置が極大値をとることにより、燃焼室の容積は極小値となる。ここで、ピストンに連結されているコンロッドの長さ(クランク半径)は一定であるため、排気上死点と圧縮上死点におけるピストン位置は等しく、そのときの燃焼室の容積もまた等しいのが通常である。
【0003】
燃焼室で発生した排気ガスは、排気行程おいてピストンが上昇することによって燃焼室の容積が減少し、排気通路側に押し出されるように排出される。排気上死点では、ピストンの頂部と燃焼室(主にシリンダヘッドなど)との間には少なからず隙間が残っており、燃焼室の容量は完全にゼロとはならない。そのため、排気通路に排出されずに該隙間に排気ガスが少なからず残留することとなる。
【0004】
このように燃焼室に残留した排気ガス(いわゆる残留ガス)は非常に高温であるため、次サイクルで燃焼室に取り込まれた新気によって生成される混合ガスの温度を上昇させる要因となる。このように温度が上昇した混合気は圧縮行程にて圧縮加熱されることにより、更に高温となるため、ノッキングを誘発させる要因となり、問題である。
【0005】
このように残留ガスはノッキングの要因となるため、残留ガスをいかに低減させるかは重要な課題である。残留ガスを低減させる技術として、例えば特許文献1がある。特許文献1では、ピストンの頂部に設けられた凹部に排気行程で突出することにより燃焼室の容積を減少させる突出部材を設けることで、燃焼室からの残留ガスの排出を促進する排気促進システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−224787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において突出部材は、ピストンの凹部に弾性を有する付勢手段を介して固定されており、ピストンの頂部近傍の構造が複雑になっている。ピストンは高速で駆動される部材であるため、このような複雑な構造をピストン頂部に形成することは信頼性の観点から好ましくない。また、突出部材は付勢手段を介して固定されているので、専ら付勢手段の弾性によって突出部材の突出量や突出タイミングが制御され、安定性に欠けるという問題がある。すなわち、特許文献1では突出部材の突出タイミングや突出量の制御性が悪く、内燃機関の運転状態に応じて任意に制御することが困難である。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、燃焼室における残留ガスを低減することにより、ノッキングの発生を防止可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内燃機関は上記課題を解決するために、吸気バルブを介して吸気通路から吸気を導入し、燃焼室で発生した排気ガスを、排気バルブを介して排気通路に排出する内燃機関において、前記燃焼室の内壁から内側に向かって突出することにより、前記燃焼室の容積を変更可能な突出部材と、前記突出部材の突出量及び突出タイミングを制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、排気上死点における前記燃焼室の容積が圧縮上死点に比べて小さくなるように前記突出部材の突出量及び突出タイミングを制御することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、燃焼室の内側に向かって突出部材を突出させることにより、排気上死点における燃焼室の容積を減少させ、燃焼室における残留ガスの排気通路への排出を促進することができる。特に突出部材の突出量及び突出タイミングは制御手段によって任意に制御可能であるため、内燃機関の運転状態に適した突出量及び突出タイミングに設定することができる。このように本発明では、突出部材を駆動することによって燃焼室の残留ガスを低減できるので、効果的にノッキングを防止可能な内燃機関を実現することができる。
【0011】
好ましくは、前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が低下するに従い、前記突出部材の突出量が増加するように制御するとよい。一般的に、内燃機関の回転数が低くなるほど、残留ガスによるノッキングが発生し易くなる傾向がある。そのため、本態様では内燃機関の回転数が低くなるに従い突出量を増加させることにより、残留ガスの排出量を促進させ、ノッキングをより効果的に防止することができる。
【0012】
また、前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が所定閾値より大きい場合に、前記突出部材の駆動を中止してもよい。この態様では、ノッキングが生じにくい高回転時には突出部材の動作を中止することにより、当該動作に要する動力を節約し、エネルギー効率を向上させることができる。また、高回転時には燃焼室の温度が上昇するため、このような場合に突出部材を突出させると突出部材が高温となり、冷却対策が必要になってしまうことが想定される。そのため、突出部材の動作をノッキングが生じやすい低回転時に限定することで、突出部材の温度上昇を抑えることができる。
【0013】
前記制御手段は、前記排気バルブが閉じるタイミングで前記突出部材の突出量が最大値に達するように前記突出部材を制御するとよい。この態様によれば、排気完了時に燃焼室容積を最小にすることにより、残留ガス量を効率よく排出することができる。
【0014】
また、前記制御手段は、排気上死点において前記突出部材の突出量が最大値に到達するように前記突出部材を制御してもよい。この態様によれば、ピストンが最高位置にくるタイミングで突出量を最大にすることで、燃焼室の容積を最小にすることができるので、残留ガスを効果的に排出することができる。
【0015】
好ましくは、前記突出部材は、前記内燃機関の出力軸の回転トルクによって駆動されるカム機構により駆動されるとよい。この態様によれば、突出部材の動力源として、内燃機関の出力を利用することにより、新たな動力源を追加することなく突出部材の駆動が可能となるため、シンプルな構成で本発明を実現することができる。
【0016】
前記突出部材は、内部に空洞部を有しており、該空洞部は外装を形成する材料に比べて熱伝導率の高い熱伝導材が封入されていてもよい。この場合、突出部材が燃焼室から受け取った熱量を、空洞部に封入された熱伝導率に優れた熱伝導材を介して低温側に伝達できるので、突出部材の冷却効果を高めることができる。
【0017】
また、前記突出部材は、少なくとも前記燃焼室に露出する面に放熱用の凹凸が設けられているとよい。この場合、放熱用の凹凸を設けることによって燃焼室に露出する面の表面積を拡大させ、熱伝導率を更に向上させ、冷却効果をより一層高めることができる。
【0018】
また、前記突出部材に冷却用オイルを噴射するオイル噴射機構を備えていてもよい。この場合、突出部材が高温の排気ガスが滞留する燃焼室に曝されることにより受け取った熱量を、冷却用オイルによって直接的に冷却することができるので、高い冷却効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃焼室の内側に向かって突出部材を突出させることにより、排気上死点における燃焼室の容積を減少させ、燃焼室における残留ガスの排気通路への排出を促進することができる。特に突出部材の突出量及び突出タイミングは制御手段によって任意に制御可能であるため、内燃機関の運転状態に適した突出量及び突出タイミングに設定することができる。このように本発明では、突出部材を駆動することによって燃焼室の残留ガスを低減できるので、効果的にノッキングを防止可能な内燃機関を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る内燃機関の構造を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明に係る内燃機関におけるバルブレイアウトをシリンダヘッド側から示す平面図である。
【図3】突出部材の突出量が変化する様子を段階的に示す断面図である。
【図4】エンジンにおける吸気バルブ、排気バルブ及び突出部材の駆動タイミング及び駆動量を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明に係るエンジンにおける吸気バルブ、排気バルブ及び突出部材の駆動タイミングの他の例を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明に係るエンジンにおいて突出部材の突出量とエンジンの回転数との関係を規定するマップの一例である。
【図7】第1変形例に係る内燃機関の制御についてのフローチャート図である。
【図8】第2変形例における突出部材の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図9】第2変形例における突出部材の周辺構造を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本発明に係る内燃機関の構造を模式的に示す概略図であり、図2は、本発明に係る内燃機関におけるバルブレイアウトをシリンダヘッド側から示す平面図である。尚、図1では内燃機関の内部構造を断面図的に示しているが、これは図2の破線Aで示すラインにおける断面を代表的に示したものである。
【0023】
図1に示すように、エンジン1の燃焼室2はシリンダヘッド3、ピストン4及びシリンダ5によって構成されており、ピストン4の往復運動がコンロッド6を介して図不示のクランクシャフトに伝達される。シリンダヘッド3の中心部には燃焼室2内の混合気に着火するための点火プラグ7が設けられている。尚、本実施例ではエンジン1は直噴型エンジンであり、燃焼室2内には、直接燃料を噴射供給するための筒内インジェクタ8が設けられている。
【0024】
燃焼室2には吸気通路9から吸気バルブ10を介して新気が導入され、燃焼室2内にて筒内インジェクタ8から供給された燃料と混合気を形成し、燃焼後、排気ガスが排気バルブ11を介して排気通路12に排出される。吸気通路9には吸気を浄化するためのエアフィルタ(図不示)や吸気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられており、排気通路12には排気中に含まれる有害成分(CO、NOxなど)を除去するための三元触媒(図不示)が設けられている。
【0025】
図2に示すように、シリンダヘッド3には吸気バルブ10及び排気バルブ11に加えて、突出部材14が設けられている。突出部材14の詳細については図3を参照して後述するが、突出部材14は略円筒形状を有しており、燃焼室2の内壁から内側に向かって突出することで燃焼室2の容積を減少可能なように構成されている。尚、突出部材14は突出した際に燃焼室12の容積を減少可能な限りにおいて、その形状を設計変更することができるのは言うまでもない。
【0026】
また本実施例では、吸気バルブ10を2つ、排気バルブ11を1つ有する3バルブレイアウトを採用することで、残ったスペースに突出部材14を設けるようにしている。このようなバルブレイアウトもまた、適宜設計変更することができるのは言うまでもない。
【0027】
吸気バルブ10、排気バルブ11及び突出部材14は、それぞれに対応して設けられた可変バルブタイミング機構(吸気VVT15、排気VVT16、突出部材用VVT17)によって制御駆動される。突出部材用VVT17の構成等に関しても図3を参照して後述するが、吸気バルブ10及び排気バルブ11の開閉タイミングや開度、並びに、突出部材14の突出タイミングや突出量は、それぞれ次に説明するECU18によって制御されることとなる。また、ピストン4のレシプロサイクルに応じて回転駆動されるコンロッド6の近傍には、コンロッド6の回転角を検出することによりエンジン回転数を計測可能な回転数センサ19(本発明の「回転数検出手段」の一例)が設けられており、その検出値もまたECU18に送信されて制御に用いられるようになっている。
【0028】
ECU18はエンジン1の制御全体を統括するコントロールユニットであり、エンジン1に設けられた各種センサから取得した検出値に基づいて、筒内インジェクタ8における燃料噴射時期や燃料噴射量、点火プラグ7における着火時期、各種VVT(吸気VVT15、排気VVT16、突出部材用VVT17)の動作タイミングや動作量を制御する。
【0029】
続いて図3を参照して、突出部材14の動作について具体的に説明する。図3は突出部材14の動作を模式的に示す断面図である。尚、図3においても内燃機関の内部構造を断面図的に示しているが、これは図2の一点鎖線Bで示すラインにおける断面に相当するものである。
【0030】
図3では、突出部材用VVT17は主としてロッカーアーム17aとカム17bとからなっており、ロッカーアーム17aがエンジン1の出力軸から伝達された回転トルクで回転駆動されるカム17bによって、図中矢印方向に移動し、突出部材14が駆動されるようになっている。尚、突出部材用VVT17の詳細な構成については、一般的なカム駆動機構と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。尚、突出部材用VVT17の一例としては、例えば特開平4−175409号公報に記載の構造を採用してもよい。
【0031】
図3(a)は突出部材14が燃焼室2に押し出されていない通常時の状態を示したものであり、図3(b)は突出部材14が突出部材用VVT17によって燃焼室2の内側に押し出された状態を示したものである。突出部材14はエンジン1の出力軸から伝達された回転トルクによって突出部材用VVT17を介して、図中に示す矢印方向に移動可能である。突出部材14が図3(b)のように押し出されると、突出部材14が燃焼室2の一部を占めることにより、燃焼室2の容積が減少する。その結果、排気上死点における燃焼室2の容積が圧縮上死点に比べて小さくなり、燃焼室2内の残留ガスは、排気通路12側に押し出されるように排出されることとなる。
【0032】
続いて図4は、吸気バルブ10、排気バルブ11及び突出部材14の駆動タイミング及び駆動量を示すタイミングチャートである。吸気バルブ10、排気バルブ11及び突出部材14の駆動タイミング及び駆動量は、それぞれECU18によって電子制御的に制御されている。本実施例に係るエンジン1は4サイクルガソリンエンジンであり、図4の横軸は各行程(膨張行程、排気行程、吸気行程、圧縮行程)を示している。図4では1サイクル分を代表的に示しており、実際には同様のサイクルが繰り返されている。
【0033】
まず膨張行程では、燃焼室2において混合気が燃焼した後(即ち膨張行程の後半において)、燃焼で発生した排気ガスを排気通路12側に排出するために、排気バルブ11を開き始める(t=t1)。そして排気バルブ11の開度を次第に増加させ、排気行程にて最大値に達する。その後、排気バルブ11の開度は排気行程の終了時に向かって(正確には、後述するように吸気バルブ10との間にバルブオーバーラップが設けられているので吸気行程のt=t3に至るまで)次第に減少していく。吸気行程では(正確には排気バルブ11との間にバルブオーバーラップが設けられているので吸気行程に移行する直前にて)、燃焼室2に新気を取り入れるために吸気バルブ10を開き始める(t=t2)。吸気バルブ10の開度は吸気行程において最大値に達し、その後、圧縮行程のt=t4に向って次第に減少する。
尚、排気バルブ11を完全に閉じるタイミングは、燃焼室2における排気ガスの慣性、排気ガスの脈動効果、突出部材14による燃焼室2の容積低減量を考慮して、燃焼室2における残留ガスが最も少なくなるタイミングに設定するとよい。
【0034】
図4の例では特に、吸排気の有する慣性の影響を考慮して吸気バルブ10と排気バルブ11とが共に開いているバルブオーバーラップ期間(図4の期間t2〜t3)を設けることによって、吸排気効率を向上させている。このオーバーラップ期間は排気行程と吸気行程との境界をまたぐように設けられており、その境界はピストン4の排気上死点に対応するように設定されている。
【0035】
図4において突出部材14の突出量の推移を一点鎖線で示している。突出部材14は排気行程の後半(排気バルブの開度が減少に転じた後)に突出し始め、排気上死点で最大値に達した後、減少するように制御される。これにより、ピストン4が最高位置にくるタイミングで突出量を最大にすることで、燃焼室の容積が最小になる。このように、排気上死点における燃焼室2の容積が圧縮上死点に比べて小さくなることで、燃焼室2内に残った残留ガスを排気通路12側に効果的に排出することができる。
【0036】
図5は、本発明に係るエンジン1における吸気バルブ10、排気バルブ11及び突出部材14の駆動タイミングの他の例を示すタイミングチャートである。図5は突出部材14の振る舞いを除いて、図4と同様であるため、その詳細な説明は省略することとする。この例では、突出部材14は、排気バルブが閉じるタイミング(t=t3)で突出量が最大値に達するように制御されている。これにより、排気完了時に燃焼室容積を最小にすることにより、残留ガス量を効率よく排出することができる。
尚、排気ガスの脈動効果によって燃焼室2における残留ガス量が最小となるタイミングと、突出部材14の駆動によって燃焼室2の容積が最小となるタイミングが一致しない場合には、残留ガス量が最小となるように突出部材14の突出量が最大値に達するタイミングを適宜調整するとよい。
【0037】
図6は、本発明に係るエンジン1において突出部材14の突出量とエンジン1の回転数との関係を規定するマップの一例である。図6の横軸は回転数センサ19によって検出されるエンジン回転数を示しており、縦軸は突出部材14の突出量を示している。
【0038】
図6に示すように、突出部材14の突出量は、ECU18によってエンジン1の回転数が低下するに従って増加するように制御されている。一般的に、エンジン1の回転数が低くなるほど、残留ガスによるノッキングが発生し易くなる傾向がある。そのため、本態様ではエンジン1の回転数が低くなるに従い突出量を増加させることにより、残留ガスの排出量を促進させ、ノッキングのより効果的な防止を図ることができる。
(第1変形例)
【0039】
図7は、第1変形例に係るエンジン1の制御内容を示すフローチャートである。ECU18は回転数センサ19を定期的又は不定期的にチェックすることにより、エンジン1の回転数Rを検出し、監視を行う(ステップS101)。そして、検出したエンジン回転数Rが予め設定された所定閾値R1以下であるか否かを判定する(ステップS102)。その結果、エンジン回転数Rが所定閾値R1以下である場合(ステップS102:YES)、すなわちエンジン1が低回転領域にある場合、ECU18は上記説明した突出部材14の駆動が実行される(ステップS103)。一方、エンジン回転数Rが所定閾値R1より大きい場合(ステップS102:NO)、すなわちエンジン1が高回転領域にある場合、ECU18は上記説明した突出部材14の駆動を中止する(ステップS104)。
【0040】
これによれば、ノッキングが生じにくい高回転時には突出部材14の動作を中止することにより、当該動作に要する動力を節約し、エンジン1のエネルギー効率を向上させることができる。また、高回転時には燃焼室2の温度が上昇するため、このような場合に突出部材14を動作させると突出部材14が高温に曝されてしまうので、冷却手段を増築する必要が生じることが想定される。そのため、突出部材14の動作をノッキングが生じやすい低回転時に限定することで、冷却効率を向上させ、構造の簡素化を図ることができる。
(第2変形例)
【0041】
上記実施例では円筒形の突出部材14を用いて燃焼室2の容積を可変制御することで、残留した排気ガスの排出を促進させたが、突出部材14は燃焼室2に滞留している高温の排気ガスに曝されるため、温度が上昇し易いという問題がある。そこで、本変形例では、突出部材14について冷却系を設けることによってこの問題の解消を図っている。
【0042】
図8は本変形例における突出部材14の断面構造を拡大して示す断面図である。突出部材14の外観は、上述の実施例と同様に円筒形を有しているが、その内部には空洞部20が設けられている。空洞部20には熱伝導率に優れたナトリウムが封入されており、突出部材14が燃焼室2から取得した熱量を低温側に移動させることができるように構成されている。また、突出部材14の外表面には微細な凹凸21が設けられており、突出部材14の表面積を増加することによって熱伝導量を多くし、冷却効果を促進させている。
【0043】
図9は本変形例における突出部材14の周辺構造を概略的に示す模式図である。突出部材14自体の構成については前述の実施例と同様であるが、本変形例では図不示のオイルタンクからポンプ22で配管23を介して導入したオイルを突出部材14の外装側に噴射することにより、発熱した突出部材14をオイル冷却できるように構成されている。このように、本変形例では、燃焼室2の残留ガスから突出部材14が受けた熱量を外装側に伝達し、オイル冷却することにより、高温になりやすい突出部材14を冷却することができる。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、燃焼室2の内側に向かって突出部材14を突出させることにより、排気上死点における燃焼室2の容積を減少させ、燃焼室2における残留ガスの排気通路12への排出を促進することができる。特に突出部材14の突出量及び突出タイミングはECU18によって任意に制御可能であるため、エンジン1の運転状態に適した突出量及び突出タイミングに設定することができる。このように本発明では、突出部材14を駆動することによって燃焼室2の残留ガスを低減できるので、効果的にノッキングを防止可能なエンジン1を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、内燃機関において燃焼室に残留した排気ガスを効率的に掃気可能な内燃機関に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 エンジン
2 燃焼室
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 シリンダ
6 コンロッド
7 点火プラグ
8 インジェクタ
9 吸気通路
10 吸気バルブ
11 排気バルブ
12 排気通路
13 スロットルバルブ
14 突出部材
15 吸気用VVT
16 排気用VVT
17 突出部材用VVT
18 ECU
19 回転数センサ
20 空洞部
21 凹凸
22 ポンプ
23 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブを介して吸気通路から吸気を導入し、燃焼室で発生した排気ガスを、排気バルブを介して排気通路に排出する内燃機関において、
前記燃焼室の内壁から内側に向かって突出することにより、前記燃焼室の容積を変更可能な突出部材と、
前記突出部材の突出量及び突出タイミングを制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、排気上死点における前記燃焼室の容積が圧縮上死点に比べて小さくなるように前記突出部材の突出量及び突出タイミングを制御することを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が低下するに従い、前記突出部材の突出量を大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が所定閾値より大きい場合に、前記突出部材の駆動を中止することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御手段は、前記排気バルブが閉じるタイミングで前記突出部材の突出量が最大値に達するように前記突出部材を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記制御手段は、排気上死点において前記突出部材の突出量が最大値に到達するように前記突出部材を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記突出部材は、前記内燃機関の出力トルクによって駆動されるカム機構により駆動されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記突出部材は、内部に空洞部を有しており、
該空洞部は外装を形成する材料に比べて熱伝導率の高い熱伝導材が封入されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記突出部材は、少なくとも前記燃焼室に露出する面に放熱用の凹凸が設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記突出部材に冷却用オイルを噴射するオイル噴射機構を備えたことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−11234(P2013−11234A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144556(P2011−144556)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】