説明

内視鏡

【課題】心臓等の組織の拍動等を停止させることなく安定した視野を確保する。
【解決手段】患者の体内に挿入される細長い挿入部2と、該挿入部2の少なくとも先端部に設けられ、該挿入部2を体内の組織Aに固定する固定手段3と、挿入部2に設けられ、前記組織Aの画像を取得する観察光学系4と、該観察光学系4と組織A表面との距離を調節する観察距離調節手段5とを備える内視鏡1を提供する。これにより、心臓等の組織の拍動等を停止させることなく安定した視野を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、拍動による影響を抑えて心臓の安定した手術を行うために、心臓表面にバーを押し付けて吸引することにより心臓を一時的に固定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。心臓を一時的に固定するので安定した視野の確保と操作が可能となる。
また、心臓と心嚢膜との間の心膜腔内に軟性内視鏡を挿入して処置を行う技術も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第97/10753号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0064138号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、心臓表面を手術用テーブルや肋骨等の周囲の動かないものに固定して心臓を一時的に固定するので、患者にかかる負担が大きいという不都合がある。
また、特許文献2の技術では、拍動する心臓の影響で内視鏡の先端部が心膜腔内で暴れてしまい安定した視野を確保することができないという不都合がある。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、心臓等の組織の拍動等を停止させることなく安定した視野を確保することができる内視鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
患者の体内に挿入される細長い挿入部と、該挿入部の少なくとも先端部に設けられ、該挿入部を体内の組織に固定する固定手段と、前記挿入部に設けられ、前記組織の画像を取得する観察光学系と、該観察光学系と前記組織表面との距離を調節する観察距離調節手段とを備える内視鏡を提供する。
【0006】
本発明によれば、挿入部を患者の体内に挿入し、固定手段によって挿入部の少なくとも先端部を体内の組織に固定することにより、組織の脈動等に関わらず、挿入部に設けられた観察光学系を組織の脈動に追従させて安定した視野を確保することができる。そして、この場合に観察距離調節手段を作動させて観察光学系と組織表面との距離を調節することにより、観察光学系にとって適正な距離をあけて組織表面を観察することができる。すなわち、本発明によれば、心臓等の組織を周囲の動かないものに固定しないので、その拍動等を停止させることなく、患者にかかる負担を軽減しつつ、安定した視野を確保することができる。
【0007】
上記発明においては、前記固定手段が、負圧により前記組織を吸着する吸着部を備えていてもよい。
このようにすることで、吸着部に負圧を供給して組織に吸着させることによって、挿入部の少なくとも先端部を簡易に組織に固定することができる。また、負圧の供給を停止することで簡易に固定を解除することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記吸着部の組織への吸着面が前記挿入部に対して角度変更可能に設けられていてもよい。
吸着部を組織に吸着させて観察距離調節手段を作動させると、吸着部によって挿入部が部分的に拘束された状態で移動させられるので、挿入部に対する吸着面の角度を変更することで、吸着面や挿入部に無理な力を加えることなく、安定した吸着状態を維持しつつ観察光学系と組織表面との距離を調節することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記吸着部が、前記吸着面を有する吸着パッドと、該吸着パッドを、前記挿入部に、その長手軸に直交する軸線回りに揺動可能に取り付ける継手とを備えていてもよい。
このようにすることで、吸着パッドの吸着面を組織に吸着させた状態で、継手によって吸着パッドを挿入部に対して揺動させることにより、挿入部に対する吸着面の角度を変更し、吸着面や挿入部に無理な力を加えることなく、安定した吸着状態を維持しつつ観察光学系と組織表面との距離を調節することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記継手が、前記吸着パッドに負圧を伝達する柔軟な管状部材であってもよい。
このようにすることで、管状部材によって伝達された負圧によって吸着パッドの吸着面を組織に吸着させた状態で、管状部材を湾曲させることで、挿入部に対する吸着面の角度を変更することができる。
また、上記発明においては、前記管状部材が蛇腹であってもよい。
【0011】
また、上記発明においては、前記吸着部が、前記挿入部の側面に設けられた吸引孔を備えていてもよい。
このようにすることで、吸引孔に負圧を供給して組織に吸着させることにより、挿入部の側面を組織に固定することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記吸着部が、長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記観察光学系が、いずれかの吸着部の間に設けられていてもよい。
このようにすることで、観察光学系を挟んで両側において挿入部を組織に固定することができ、組織が脈動してもその動きに観察光学系を追従させて、安定した視野を確保することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記固定手段が、前記組織に引っ掛けられる1以上のフック部材を備えていてもよい。
このようにすることで、フック部材を組織に引っかけることによって、挿入部を機械的に組織に固定することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記固定手段が、膨張により前記組織の凹部に係合されるバルーン部材を備えていてもよい。
このようにすることで、バルーン部材を収縮させた状態で体内に挿入し、膨張させることにより組織の凹部に係合させて、挿入部を組織に固定することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記固定手段が、前記組織を把持する把持鉗子を備えていてもよい。
このようにすることで、把持鉗子によって組織を把持することで挿入部を組織に固定することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記観察距離調節手段が、前記組織と前記挿入部との間に配置され、膨張または収縮させられることで観察光学系と前記組織表面との距離を調節するバルーンにより構成されていてもよい。
このようにすることで、バルーンを収縮させた状態で挿入部を体内に挿入し、組織と挿入部との間に配置されたバルーンを膨張させることで、挿入部を組織から遠ざける方向に移動させ、観察光学系の位置を調節することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記固定手段が、前記挿入部の長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記観察距離調節手段が、前記固定手段の間に配置され、前記挿入部を湾曲させる湾曲部により構成されていてもよい。
このようにすることで、複数の固定手段によって長手方向に間隔をあけた位置において挿入部を組織に固定し、湾曲部を作動させて固定手段間の挿入部を湾曲させることにより、挿入部に設けた観察光学系と組織表面との距離を調節することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記観察距離調節手段が、前記挿入部を湾曲した形状に癖づけることにより構成されていてもよい。
このようにすることで、挿入部を体内において解放するだけで、予め癖づけられた形状に復元し、組織と観察光学系との距離を所定の寸法にすることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記観察距離調節手段が、挿入部を延伸した状態で、先端から出没可能に収容するガイドシースを備えていてもよい。
このようにすることで、ガイドシース内に挿入部を収容した状態で、体内に挿入し、体内においてガイドシースを後退させて挿入部を先端から突出させることにより、挿入部が解放されて予め癖づけられた形状に復元し、観察光学系と組織表面との距離を所定の寸法にすることができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記観察距離調節手段が、前記挿入部の側面に長手方向に沿って配置され、挿入部の先端側に固定され、基端側から長手方向に押されることで半径方向に突出させられる弾性部材により構成されていてもよい。
このようにすることで、弾性部材を挿入部の側面に長手方向に沿って配置した状態で、挿入部を体内に挿入した後に、弾性部材を基端側から先端側に向けて長手方向に押すことで弾性部材を撓ませて半径方向外方に突出させ、突出した弾性部材によって組織を押すことで、観察光学系と組織表面との距離を調節することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記弾性部材が、前記挿入部の周方向に延びる横断面形状を有していてもよい。
このようにすることで、弾性部材が長手方向に押されて湾曲する際の倒れを低減し、所望の半径方向外方に突出させることができる。
【0022】
また、上記発明においては、前記弾性部材が、前記挿入部の周方向に並んで複数配列された状態に束ねられたワイヤからなっていてもよい。
このようにすることで、各ワイヤが束ねられた他のワイヤの変形方向を規制するので、ワイヤが長手方向に押されて湾曲する際の倒れを低減し、所望の半径方向外方に突出させることができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記観察距離調節手段が、相互に揺動可能に連結された複数のリンク部材を備え、一端を挿入部の長手方向に移動させられることにより、関節部分を半径方向に移動させるリンク機構であってもよい。
このようにすることで、関節部分を延ばしてリンク機構を挿入部に沿わせるように配置した状態で挿入部を体内に挿入し、体内においてリンク機構の一端を挿入部の長手方向に移動させて関節部分を半径方向外方に突出させることにより、観察部分によって組織を押して、観察光学系と組織表面との距離を調節することができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記挿入部に、組織に対して施される処置に応じた各種の処置具を挿通させるチャネルが設けられていてもよい。
このようにすることで、チャネルを介して体内に導入されてきた処置具によって組織に対し各種の処置を行うことができる。この場合に、挿入部が組織に対して固定されているので、組織が動揺しても、挿入部をこれに追従させることができ、処置具によって安定した処置を行うことができる。
【0025】
また、上記発明においては、前記観察光学系が前記挿入部の側面に設けられ、前記チャネルの出口が、前記観察光学系と略同一の周方向に設けられていてもよい。
また、上記発明においては、前記チャネルの出口は、該出口から突出させられる処置具が前記観察光学系の視野範囲内を通過するように配置されていることが好ましい。
このようにすることで、チャネルの出口から体内に突出させられた処置具を観察光学系によって確認することができ、処置具の動作を確認しながらより確実な処置を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、心臓等の組織の拍動等を停止させることなく安定した視野を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の挿入部の先端部の正面図である。
【図2】図1の内視鏡の挿入部の先端をさらに拡大して示す模式的な縦断面図である。
【図3】図1の内視鏡の挿入動作を説明する説明図である。
【図4】図1の内視鏡に設けられたチャネルの出口から突出させられる処置具の一例を示す正面図である。
【図5】図4の内視鏡のバルーン、観察窓およびチャネルの配置の変形例を示す正面図である。
【図6】図1の内視鏡の吸着パッドの変形例を示す(a)縦断面図および(b)吸着面側からみた図である。
【図7】図1の内視鏡の変形例であって、(a)吸着パッドを2つ有する場合、(b)直視または斜視の場合について説明する正面図である。
【図8】図7の内視鏡における一方の吸着パッドの移動機構を説明する部分的な縦断面図である。
【図9】図1の内視鏡の変形例であって、固定手段としてフック部材を有する場合の動作を説明する縦断面図である。
【図10】図1の内視鏡の変形例であって、固定手段としてバルーン部材を有する場合を説明する図である。
【図11】図1の内視鏡の変形例であって、固定手段として把持鉗子を有する場合を説明する図である。
【図12】図1の内視鏡の変形例であって、吸着パッドを挿入部に取り付ける継手として蛇腹を有する場合を説明する正面図である。
【図13】図1の内視鏡の変形例であって、観察距離調節手段として帯状の弾性部材を有する場合を説明する部分的な斜視図である。
【図14】図13の弾性部材の動作を説明する斜視図である。
【図15】図14の弾性部材としてのワイヤの束を示す斜視図である。
【図16】図1の内視鏡の変形例であって、観察距離調節手段としてリンク機構を有する場合を示す正面図である。
【図17】図1の内視鏡の変形例であって、観察距離調節手段として予め癖付けされた形態を有する挿入部有する場合を示す部分的に破断した正面図である。
【図18】本発明の第2の実施形態に係る内視鏡の挿入部の先端部の正面図である。
【図19】図18の挿入部に設けられた吸引口からなる固定手段を示す挿入部の部分的な斜視図である。
【図20】図19の固定手段の変形例を示す挿入部の部分的な斜視図である。
【図21】図19の固定手段の他の変形例を示す挿入部の部分的な斜視図である。
【図22】図18の内視鏡とは異なる固定手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図23】図18の内視鏡とは異なる他の固定手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図24】図18の内視鏡とは異なる他の固定手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図25】図18の内視鏡とは異なる観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図26】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の平面図である。
【図27】図26の内視鏡における観察距離調節手段を構成するバルーンを全て膨張させた状態を示す挿入部の先端部の平面図である。
【図28】図27の内視鏡におけるバルーンおよび挿入部の横断面を示す図である。
【図29】図26の内視鏡における観察距離調節手段を構成するバルーンの一部を膨張させた状態を示す挿入部の先端部の平面図である。
【図30】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図31】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図32】図31の観察距離調節手段の変形例を示す挿入部の部分的な斜視図である。
【図33】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図34】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図35】図18の内視鏡とは異なる他の観察距離調節手段を有する変形例を示す挿入部の先端部の正面図である。
【図36】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図37】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図38】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図39】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図であり,(a)閉じて小径化した状態、(b)平たく展開した状態をそれぞれ示している。
【図40】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図41】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図42】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す部分的な斜視図である。
【図43】心臓の拍動に対して内視鏡の挿入部を安定させるための他の手段を有する挿入部を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1の実施形態に係る内視鏡1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る内視鏡1は、図1に示されるように、体内に挿入される細長く柔軟な挿入部2と、該挿入部2の先端を体内の組織(例えば、心臓A)に固定する固定手段3と、挿入部2の側面に設けられ半径方向外方の画像を取得する観察光学系4と、該観察光学系4と心臓A表面との距離を調節する観察距離調節手段5とを備えている。
図1は、ガイドシース6によって心臓Aと心嚢膜Bとの間の心膜腔C内に挿入された内視鏡1の挿入部2先端の状態を示す図である。
【0029】
挿入部2は、図1に示されるように、先端部分に、先端面の方向を任意の方向に向けるために湾曲させられる湾曲部2aを備えている。
挿入部2は、ガイドシース6の内径よりも小さい外形寸法を有し、ガイドシース6内に、該ガイドシース6の先端開口6aから出没可能に収容された状態で、心膜腔C内に挿入されるようになっている。
【0030】
固定手段3は、図2に示されるように、挿入部2の先端に設けられた吸着パッド7と、該吸着パッド7を挿入部2の先端に揺動可能に取り付ける継手8と、吸着パッド7の吸着面7aに負圧を供給する配管9とを備えている。吸着パッド7は、例えば、ポリウレタンゴムまたはシリコーンゴムのような弾性材料により構成されている。吸着パッド7は、一方向に開口する吸引孔7bを備えた平坦な吸着面7aを有している。
【0031】
継手8は、挿入部2の半径方向に配置される軸体8aを備え、挿入部2に対して吸着パッド7を軸体8a回りに揺動可能に連結している。これにより、挿入部2の長手軸に対して吸着パッド7の吸着面7aの角度を一方向に変更することができるようになっている。そして、配管9を介して吸着パッド7の吸着面7aに負圧を供給することにより、吸引孔7bを閉塞するように配置される心臓Aに吸着パッド7を吸着させることができるようになっている。
【0032】
観察光学系4は、挿入部2の先端から若干基端側の側面に配置される観察窓4aを備えている。挿入部2内には、観察窓4aを介して挿入部2の半径方向外方から入射した光を集光する対物レンズ(図示略)や、該対物レンズにより集光された光を画像化するためのCCDのような撮像素子(図示略)が配置されている。
【0033】
観察距離調節手段5は、挿入部2の側面に配置されたバルーン5aと、該バルーン5aに加圧空気を供給する送気管(図示略)とを備えている。バルーン5aは、挿入部2の観察窓4aと略同等の周方向に固定されていて挿入部2内に配置される送気管に接続されている。ガイドシース6内に挿入部2が収容されている体内への挿入時には、バルーン5aは収縮させられて、挿入部2の外周面に沿うように配置されている。そして、図1に示されるようにガイドシース6の先端開口6aから挿入部2が突出させられた状態において、送気管を介して供給されてきた加圧空気によって膨張させられるようになっている。
【0034】
バルーン5aを膨張させることにより、バルーン5aによって心臓A表面を押して心臓A表面から離れる方向に挿入部2を移動させ、これによって、挿入部2の側面に設けられている観察窓4aと心臓A表面との間の距離を調節することができるようになっている。観察光学系4は、観察窓4aから所定の距離の範囲に合焦可能な被写界深度を有しているので、バルーン5aは、その被写界深度を含む距離の範囲内で観察窓4aと心臓A表面との距離を調節することができるようになっている。バルーン5aは、ポリウレタンゴムまたはシリコーンゴムのような弾性材料により構成されている。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る内視鏡1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る内視鏡1を用いて体内の組織、例えば、心臓Aの外表面に存在する壊死部位D等を観察するには、図3(a)に示されるように、内部に挿入部2および吸着パッド7を収容した状態のガイドシース6を剣状突起Eの下部から心膜Bを貫通して心膜腔C内に挿入する。この状態で、図3(b)に示されるように、ガイドシース6内の内視鏡1の挿入部2をガイドシース6の先端開口6aから押し出す。
【0036】
この状態で、図3(c)に示されるように、挿入部2と心臓Aの表面との間に配置したバルーン5aを膨張させることにより、心臓Aの表面に対して挿入部2を離間させる。これにより、挿入部2の側面に設けられている観察窓4aと心臓Aの表面との距離が確保され、適正な観察距離が形成される。そこで、観察光学系4を作動させて心臓Aの表面の画像を取得し、心臓Aの表面に存在する壊死部位D等の患部を確認する。
【0037】
この後に、図3(d)に示されるように、挿入部2に設けられた湾曲部2aを作動させて、挿入部2の先端に設けられている吸着パッド7の吸着面7aを心臓Aの表面に近接させる。そして、吸着パッド7に負圧を供給して吸着面7aを心臓Aの表面に吸着させる。これにより、挿入部2が心臓Aに固定されるので、心臓Aの拍動に追従して挿入部2を移動させることができ、心臓Aの拍動にかかわらず、ほぼ静止した壊死部位D等の患部の画像を取得することが可能となる。すなわち、心臓Aの拍動を止めることなく安定した観察を行うことができるという利点がある。
【0038】
この場合において、本実施形態に係る内視鏡1によれば、吸着パッド7が継手8によって揺動可能に挿入部2に取り付けられているので、心臓Aの表面に吸着した状態の吸着パッド7に対して挿入部2の角度を容易に変更することができる。したがって、吸着パッド7や挿入部2に無理な力が作用することが防止され、吸着パッド7の吸着面7aを心臓Aの表面に適正に吸着した状態に維持することができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る内視鏡1においては、図4に示されるように、処置具を導くチャネルを備えることにしてもよい。チャネルは、挿入部2の基端側から、長手方向に沿って設けられ、バルーン5aと観察窓4aとの間に設けられた出口10まで連続している。これにより、挿入部2の基端側から挿入された処置具(例えば、注射針)11が挿入部2のバルーン5aよりも先端側の出口10から突出させられる。出口10は、観察窓4aと略同一の周方向位置に開口していることが好ましい。また、出口10は、処置具11の先端が、観察光学系4の視野範囲内に突出させられるように配置されていることが好ましい。このようにすることで、出口10から突出した処置具11を観察光学系4によって確認しながら操作することができる。
【0040】
この場合において、本実施形態によれば、吸着パッド7を心臓Aの表面に吸着させることにより、挿入部2が心臓Aに固定されるので、チャネルの出口10を壊死部位D等の患部に対して固定することができ、心臓Aの拍動にかかわらず、安定した処置を行うことができるという利点がある。
【0041】
なお、本実施形態においては、チャネルの出口10をバルーン5aと観察窓4aとの間に配置したが、これに代えて、図5に示されるように、バルーン5aの位置を観察窓4aよりも先端側に配置した場合には、チャネルの出口10を観察窓4aよりも挿入部2の基端側に配置することにしてもよい。
【0042】
また、吸着パッド7として、単一の吸引孔7bを有し、一方向のみに揺動可能に取り付けられたものを例示したが、これに代えて、図6に示されるように、複数の吸引孔7bを有し、相互に直交する2軸回りに揺動可能に取り付けられたものを採用してもよい。
さらに具体的には、吸着パッド7は挿入部2の先端に長手軸に直交する軸体8a回りに揺動可能に取り付けられた揺動部材12に、挿入部2の長手軸および軸体8aに直交する軸線13回りに回転可能に取り付けられている。これにより、挿入部2に対して揺動部材12を揺動させ、かつ、揺動部材12に対して吸着パッド7を回転させることで、相互に直交する2軸回りに揺動させることができるようになっている。
【0043】
吸着パッド7は、軸体8aに設けた駆動ギヤ14と、吸着パッド7に設けられ駆動ギヤ14に噛み合う従動ギヤ15と、軸体8aに巻き付けたワイヤ16とにより構成される回転駆動機構によって、回転させられるようになっている。すなわち、揺動部材12の揺動角度にかかわらず、ワイヤ16を挿入部2の基端側において押し引きすることにより、軸体8aを回転させて駆動ギヤ14を回転させ、これに噛み合う従動ギヤ15を回転させ、該従動ギヤ15が固定されている吸着パッド7を軸線13回りに回転させることができるようになっている。
【0044】
この場合には、図6(a),(b)に実線で示されるように、挿入部2の長手軸に沿う方向に吸着パッド7を配置した状態で、挿入部2を体内に挿入し、体内において、吸着パッド7を軸線13回りに回転させて、図6(b)に鎖線で示す姿勢に配置することにより、挿入部2にかかる長手軸回りの捻りモーメントに抗して、挿入部2を心臓Aの表面に吸着状態に維持することができる。したがって、心臓Aの拍動にかかわらず、挿入部2を心臓Aに対して動かないようにさらに安定して支持することができる。
【0045】
また、この場合には吸着パッド7に設けられた複数の吸引孔7bに独立に負圧を供給することが好ましい。すなわち、心臓Aの組織の表面は平坦ではないため、全ての吸引孔7bを同時に吸着状態とすることができない場合があり、そのような場合においても、負圧が独立に供給されていることにより、複数の吸引孔7bがそれぞれ別個に吸着状態を達成することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、吸着パッド7を挿入部2の先端のみに設けることとしたが、これに代えて、図7に示されるように、湾曲部2aを長手方向に挟んで、挿入部2の先端と途中位置の2カ所以上に吸着パッド7を揺動可能に配置することにしてもよい。このようにすることで、2カ所以上の吸着パッド7を心臓Aの表面に吸着状態とすることにより、挿入部2をより確実に心臓Aに固定することができる。また、図7のように湾曲部2aを挟んだ2カ所において吸着した状態で、湾曲部2aを作動させて湾曲させることにより、観察窓4aと壊死部位D等の患部との距離を調節する観察距離調節手段5を構成することができる。
【0047】
また、図7(b)に示されるように、観察光学系4が内視鏡先端(視野方向が斜視または直視)に付いていてもよい。この場合、吸着パッド7は観察距離調節手段5を構成するバルーン5aよりも手元側に配置されていればよい。このようにすることで、湾曲部2aによって挿入部2の先端を湾曲させることができ、視野方向を容易に変更することができる。
【0048】
さらに、挿入部2の途中位置に配置する吸着パッド7については、図8に示されるように、患者の体外まで延びるガイドシース6の先端に固定することにしてもよい。図8においては、ガイドシース6は、先端側および基端側においてシール部材17によって挿入部2との間の円筒状の空間が密封され、かつ、挿入部2を長手方向に移動可能に支持している。そして、ガイドシース6の基端側には、患者の体外に配置される位置に図示しない吸引手段に連結する吸引口18が設けられており、ガイドシース6と挿入部2との間の円筒状の空間を介して吸着パッド7の吸着面7aに負圧が供給されるようになっている。
【0049】
このようにすることで、ガイドシース6に対して挿入部2を長手方向に移動させることにより、挿入部2の先端に設けた吸着パッド7とガイドシース6の先端に設けた吸着パッド7との間隔を任意に調節することができ、吸着する心臓A等の組織の大きさに合わせて間隔を調節して、適正な吸着状態を達成することができる。
また、挿入部2の途中位置に設ける吸着パッド7に代えて、挿入部の側面に開口する吸引孔7bを採用してもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、軸体8aを有する継手8によって揺動可能に連結された吸着パッド7を有するものを例示したが、これに代えて、図9に示されるように、心臓Aに引っ掛けられる鉤状のフック部材19を固定手段3として採用してもよい。図9に示される例では、例えば、挿入部2の長手方向に沿って設けられている鉗子チャネル(図示略)を介して、外筒部材20に収容した状態のフック部材19を体内に挿入する。
【0051】
すなわち、図9(a)に示されるように、外筒部材20に収容した折り畳んだ状態のフック部材19を体内において外筒部材20の先端開口20aから突出させることにより、図9(b)に示されるように先端の鉤部19aを開いて引っ掛かり易くし、図9(c)に示されるように、若干後退させることによって心臓A等の組織に引っ掛けることができる。これにより、負圧のような動力を供給することなく、挿入部2の先端を心臓A等の組織に固定することができる。なお、フック部材19は1つに限られるものではなく、複数のフック部材19を突出させて引っ掛けることにしてもよい。
【0052】
また、組織に凹凸がある場合、例えば、心臓Aの表面の凹凸を利用できる場合には、固定手段3としては、図10に示されるように、バルーン部材21を採用してもよい。すなわち、上記と同様に鉗子チャネルを介して挿入部2の先端から突出させられたバルーン部材21を、心膜腔C内の心臓A表面の凹部近傍で膨張させることにより、心膜Bと心臓A表面との間に挟んだ状態に固定することができる。
【0053】
また、バルーン部材21に代えて、図11に示されるように、把持鉗子22を固定手段3として用いてもよい。すなわち、同様に鉗子チャネルを介して挿入部2の先端から突出させられた把持鉗子22を操作して心臓A表面を把持することにより、挿入部2を心臓A表面に固定することができる。把持鉗子22としては、把持部に組織に食い込ませる複数の突起22aを有するものが望ましい。
【0054】
また、本実施形態においては、挿入部2の先端に吸着パッド7を揺動可能に連結する継手8として、挿入部2の径方向に配置される軸体8aを備えることとしたが、これに代えて、図12に示されるように、蛇腹23のような柔軟な筒状部材によって挿入部2先端と吸着パッド7とを連結することにしてもよい。このようにすることで、蛇腹23を変形させることによって挿入部2に対する吸着パッド7の角度を任意に変化させることができるとともに、蛇腹23によって吸着パッド7に接続する空間を密閉し、吸着パッド7に供給する負圧を維持することができる。
【0055】
また、本実施形態においては、観察距離調節手段5としてバルーン5aを採用したが、これに代えて、図13および図14に示されるように、帯状の弾性部材24を採用してもよい。この弾性部材24は、例えば、挿入部2が体内に挿入される際には、図13(a)に示されるように、挿入部2の長手方向に沿って外表面に沿う形態となっている。弾性部材24の先端側は挿入部2に固定され、基端側は、挿入部2の基端側から突出して操作者によって押し引きすることができるようになっている。
【0056】
挿入部2が体内に挿入された状態では、操作者が弾性部材24の基端側を先端側に向けて押すことにより、図13(b)に示されるように、弾性部材24が湾曲して挿入部2から半径方向外方に突出する。これにより、突出した弾性部材24によって心臓A表面を押すことができ、その突出量を調節することによって、上記実施形態のバルーン5aと同様にして、観察窓4aと心臓A表面との距離を調節することができる。
【0057】
帯状の弾性部材24は、図14に示されるように、挿入部2の周方向の所定範囲にわたって延びる幅広の形状を有することによって、半径方向に突出したときの突出方向を安定させることができる。
【0058】
なお、帯状の弾性部材24に代えて、図15に示されるように、複数本のワイヤ25を挿入部の周方向に配列した状態に束ねておくことにしてもよい。
このようにすることで、体内への挿入時には図15(a)に示されるように、張力を加えておき、体内に挿入された後には、図15(b)に示されるように、先端側に向けて押すことにより撓ませて、心臓Aの表面を押圧し、観察窓4aと心臓A表面との距離を調節することができる。
【0059】
また、上記のような帯状の弾性部材24,25に代えて、図16に示されるように、複数(図16では2つ)のリンク26a,26bを備えるリンク機構26によって観察距離調節手段5を構成してもよい。図16に示す例では、相互に揺動可能に連結された2つのリンク26a,26bの内、先端側のリンク26aの先端部を挿入部2に揺動可能に取り付けておき、基端側のリンク26bの基端側を挿入部2に設けたガイド溝26cに沿って移動させることにより、リンク26a,26b間の関節部分26dを半径方向に出没させることができるようになっている。
基端側のリンク26bの移動は、例えば、ワイヤ26eを介して、挿入部2の基端側において操作することにすればよい。
【0060】
また、図17(b)に示されるように、挿入部2の先端部を予め所定の湾曲した形状に癖づけておき、体内への挿入時には、図17(a)に示されるように、挿入部2を引き延ばした形態に矯正することができるガイドシース27内に収容しておくことにしてもよい。このようにすることで、図17(a)に示されるように、ガイドシース27内に収容した状態で心膜腔C内に挿入した挿入部2に対して、図17(b)に示されるように、ガイドシース27を基端側に引き抜くことにより、挿入部2を解放し、予め癖づけられた形態に復元させることができる。これにより、観察窓4aと心臓A表面との距離を予め設定された距離に簡易に調節することができる。
【0061】
また、挿入部2にはその長手方向に間隔をあけて複数の磁石が取り付けられていてもよい。このようにすることで、挿入部2が患者の体内に挿入された状態でも、体外に配置された磁気センサによって磁石の位置を特定して、挿入部2の形態を画像上に可視化することができる。
【0062】
また、観察距離調節手段5としてバルーン5aを使用する場合に、バルーン5aを挿入部2に対して周方向の一方向に突出するように配置することとしたが、これに代えて、全方向に膨張させることとしてもよい。また、全方向に膨張可能なバルーン5aを糸巻き等によって一方向のみに膨張可能に制限することにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態においては、内視鏡1を適用する体内の部位として、心臓Aと心膜Bとの間の心膜腔Cを例示したが、これに限定されるものではなく、他の任意の組織に適用することにしてもよい。
【0064】
次に、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡30について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る内視鏡30の説明において、上述した第1の実施形態に係る内視鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
本実施形態に係る内視鏡30は、図18および図19に示されるように、心臓Aの表面に吸着する吸着パッド7を備える固定手段3に代えて、心嚢膜Bに吸着する吸引口31を有する固定手段32を備えている。固定手段32を構成する各吸引口31は、図19に示されるように、挿入部2の側面に設けられていて、図示しない管路を介して負圧が供給されることにより、心嚢膜Bに挿入部2の側面を吸着させるようになっている。
【0066】
吸引口31は、挿入部2の長手方向に間隔をあけて複数備えられ、それぞれが独立して負圧に吸引可能であることが好ましい。このようにすることで、負圧に吸引する吸引口31を切り替えて、挿入部2の心嚢膜Bへの吸着位置を調節することができる。
【0067】
また、本実施形態においては、観察距離調節手段5として、挿入部2自体が、ガイドシース6から突出させられた状態で図18に示されるように湾曲するように癖づけられたものを採用している。
本実施形態に係る内視鏡30においては、挿入部2の先端面2bに前方の画像を取得する観察光学系4が設けられている。また、心臓A表面の患部を処置する処置具を出没させるように鉗子チャネル(図示略)も挿入部2の先端面2bに開口している。
【0068】
このように構成された本実施形態に係る内視鏡30によれば、心膜腔C内にガイドシース6の先端を挿入した状態で、ガイドシース6内から内視鏡30の挿入部2を心膜腔C内に突出させることにより、挿入部2を湾曲させる。そして、挿入部2をその長手軸回りに回転させることにより、湾曲するように癖づけられた挿入部2によって心嚢膜Bと心臓A表面との間隔が広げられる。すなわち、心嚢膜Bと心臓A表面との間の心膜腔C内に観察のためのスペースが設けられるので、固定手段32によって心嚢膜Bに側面が吸着させられた挿入部2の先端面2bを心臓A表面から離れた位置で、心臓A表面に向けることができる。
【0069】
拍動する心臓Aと対比して、心嚢膜Bは十分に静止していると考えることができ、該心嚢膜Bに吸着している挿入部2は、心臓Aの拍動に拘わらず、心嚢膜Bによって大きな変位を生じないように保持される。その結果、内視鏡30の観察光学系4の作動により、拍動している心臓Aの表面の比較的広い範囲にわたる鮮明な画像を取得することができる。すなわち、医師は、開胸手術によって患者の胸を切り開き、心嚢膜Bを切断して露出させた状態と同様の状態で心臓Aの表面を経内視鏡的に観察することができ、心臓Aの壊死部の観察や、病変部位に対する処置を容易にすることができる。
【0070】
なお、本実施形態においては、挿入部2の心嚢膜Bへの固定手段32として、挿入部2の側面に開口する1以上の吸引口31を有するものを採用したが、これに代えて、単一の吸引口31を有するものを採用してもよい。また、複数の吸引口31に同時に負圧を供給するものを採用してもよい。さらに、周方向に複数の吸引口31を有するものを採用してもよい。
【0071】
また、吸引口31を備える固定手段32に代えて、図20に示されるように、挿入部2の側面に出没可能に設けられ、挿入部2の側面から突出させられて、挿入部2の側面に近接して配置された心嚢膜Bを把持する把持部からなる固定手段33を採用してもよい。また、把持部からなる固定手段33に代えて、図21に示されるように、心嚢膜Bを穿刺する鉤からなる固定手段34を採用してもよい。
【0072】
また、吸引口31を備える固定手段32に代えて、図22に示されるように、挿入部2の側面に流体、例えば、空気を噴出する噴出口35を設け、該噴出口35から噴射される流体Fの勢いによって挿入部2を心嚢膜Bに押し付けて固定する固定手段36を採用してもよい。この場合に、単に噴出口35から流体Fを噴射するだけでは、心嚢膜B内に流体Fが充満してしまうので、供給した流体Fがガイドシース6を介して外部に排出されるように排出管37を心膜腔C内に開口させておけばよい。
【0073】
また、この場合に、心臓Aの表面に吹き付ける流体Fの勢いによって挿入部2を心嚢膜Bに押し付けるので、心臓Aが拍動した場合に挿入部2が拍動の影響を受けないように、心臓の拍動に同期させて噴出口35から噴出する空気の流量を調節することが好ましい。すなわち、心臓Aが膨張する時には空気流量を少なく、心臓Aが収縮する時には空気流量を多くするように調節することで、拍動の影響を最小限に抑制することができる。
【0074】
また、吸引口31を備える固定手段32に代えて、図23または図24に示されるように、挿入部2の側面に配置された磁石(磁力発生手段)38からなる固定手段を採用してもよい。図23に示される場合には、心嚢膜Bに磁石(磁力発生手段)39を固定しておき、該心嚢膜B側の磁石39と挿入部2側の磁石38との間の磁気吸引力によって挿入部2を心嚢膜Bに吸着させることができる。
【0075】
また、図24に示される場合には、心臓A内に磁石(磁力発生手段)40を固定しておき、該心臓A側の磁石40と挿入部2側の磁石38との間の磁気反発力によって、挿入部2を心嚢膜B側に押し付けて固定することができる。
この場合において、心臓A内に固定する磁石40または挿入部2側に設けた磁石38の少なくとも一方を電磁石によって構成し、電磁石により発生する磁力を調節することによって、磁気反発力を調節することができる。これにより、観察距離調節手段を構成することにしてもよい。
【0076】
また、本実施形態においては、観察距離調節手段5として、湾曲した状態に癖づけた挿入部2自体を採用することとしたが、これに代えて、図25に示されるように、挿入部2と心臓A表面との間に配置されて膨張または収縮させられるバルーン41を採用してもよい。挿入部2を心嚢膜Bに吸着させた状態でバルーン41を膨張させることにより、心嚢膜Bと心臓A表面との間の心膜腔C内に観察用のスペースを形成することができる。また、バルーン41の膨張の程度を変更することにより、観察距離を調節することができる。また、バルーン41を心臓Aの表面に押し付けることにより、心臓Aの拍動を緩和して、観察光学系4により取得される画像のブレをさらに抑制することができる。
【0077】
また、上記各実施形態に係る内視鏡1,30においては、以下の変形を付与することにしてもよい。
第1に、バルーン5a,41は、挿入部2の長手方向に複数配列することとし、独立に膨張あるいは収縮可能に設けられていてもよい。
【0078】
例えば、図26に示されるように、剣状突起E下部から腹部を貫通して心尖H近傍の心膜腔C内に挿入されたガイドシース6から挿入部2を心膜腔C内に挿入していき、心膜翻転部Jにおいて略U字状に湾曲させて、先端面2bを心尖H側に向ける。この状態で、図27に示されるように、バルーン41を膨張させることにより、心臓Aの表面と心嚢膜Bとの間の心膜腔C内において、挿入部2の先端面2b周りに、斜線部Kの観察空間が確保されるとともに、図28に示されるように、挿入部2がバルーン41によって心嚢膜B側に押し付けられた状態に固定される。
【0079】
さらに、この状態で挿入部2の先端の湾曲部2aを湾曲させることにより、バルーン41によって囲まれて、心嚢膜Bと心臓A表面との間に形成されたスペース内において、観察光学系4による広い視野範囲が確保され、詳細な観察を行うことができる。また、心拍のタイミングに合わせてバルーン41の拡張量を調節することにより、視野をより安定させることもできる。すなわち、心臓Aが拡張するときにはバルーン41の拡張量を小さく、心臓Aが収縮するときにはバルーン41の拡張量を大きく調節することにより、心嚢膜Bと心臓A表面との距離を一定に保持することができ、視野がより安定する。
なお、この場合に、図29に示されるように、膨張させるバルーン41を必要に応じて選択することにより必要最小限の観察用のスペースを確保することにしてもよい。
【0080】
第2に、バルーン41に代えて、図30または図31に示されるように、ガイドシース6から挿入部2を突出させた時点で解放されて拡張するバネ42あるいは突っ張り棒43によって観察距離調節手段を構成してもよい。突っ張り棒43としては、図32に示されるように、突っ張り棒43が2カ所以上で心臓Aの表面に接触するように突出する構造のものが好ましい。このようにすることで、心臓Aの拍動に対して挿入部2が捻られないように安定化させることができる。
【0081】
また、突っ張り棒43は、図33に示されるように、ガイドシース6から突出させることにしてもよい。
また、突っ張り棒を図16に示されるものと同様のリンク機構26によって構成し、突出量を調節することにしてもよい。
【0082】
また、図34に示されるように、ガイドシース6から挿入部2を突出させたときに拡張するように構成されたワイヤ44からなるバスケット44、あるいは図35に示されるような曲がり癖のある管状部材45あるいはワイヤ部材によって、心嚢膜Bと心臓A表面との間の心膜腔C内にスペースを設けることにしてもよい。
【0083】
また、ガイドシース6から突出した挿入部2を心臓Aの拍動に対して安定させるために、図36に示されるように、挿入部2の両側面から半径方向に突出して心臓Aの表面に接触するワイヤ46からなるスタビライザを備えることにしてもよい。
また、ガイドシース6の開口部6a近傍において心臓A表面に挿入部2を吸着させる吸引口47を設けることにしてもよい。吸引口47は、図37に示されるように挿入部2の長手方向に間隔をあけて複数設けることにしてもよいし、図38に示されるように周方向に複数設けることにしてもよい。
【0084】
また、挿入部2自体を図39に示されるように、平坦に広がる構造のものを採用してもよい。図39(a)にはガイドシース6内を通過できるように細く纏まった状態、図39(b)には、ガイドシース6の開口部6aから突出した後に平坦に広がった状態の挿入部2がそれぞれ示されている。
また、図40に示されるように、平坦な断面形状を有する挿入部2を採用してもよい。
図中、符号48は照明光源である。
【0085】
あるいは、図41に示されるように、断面円形の複数本の管状部材49を一列に並べて束ねた平坦な形態の挿入部2を採用してもよい。この場合、各管状部材49は、観察光学系4を有するものとチャネルの出口10を備えるものとにより構成することが好ましい。
【0086】
また、図42に示されるように、挿入部2の周方向に偏った位置の2カ所からバルーン50を膨張させることにしてもよい。このようにすることで、2カ所のバルーン50によって同時に心臓Aの表面を抑えるので、心臓の拍動を抑制しつつ、挿入部2を安定して支持することができる。
また、図43に示されるように、長円形断面形状に広がるバルーン51を採用することで、挿入部2を安定化させることにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
A 心臓(組織)
1 内視鏡
2 挿入部
2a 湾曲部
3 固定手段
4 観察光学系
5 観察距離調節手段
5a バルーン
7 吸着パッド(吸着部)
7a 吸着面
7b 吸引孔
8 継手
8a 軸体(軸線)
10 出口
11 処置具
19 フック部材
21 バルーン部材
22 把持鉗子
23 蛇腹(管状部材)
24 弾性部材
25 ワイヤ
26 リンク機構
26a,26b リンク(リンク部材)
26d 関節部分
27 ガイドシース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内に挿入される細長い挿入部と、
該挿入部の少なくとも先端部に設けられ、該挿入部を体内の組織に固定する固定手段と、
前記挿入部に設けられ、前記組織または該組織に隣接する隣接組織の画像を取得する観察光学系と、
該観察光学系と前記組織表面または前記隣接組織表面との距離を調節する観察距離調節手段とを備える内視鏡。
【請求項2】
前記固定手段が、負圧により前記組織を吸着する吸着部を備える請求項1に記載の内視鏡。
【請求項3】
前記吸着部の前記組織への吸着面が前記挿入部に対して角度変更可能に設けられている請求項2に記載の内視鏡。
【請求項4】
前記吸着部が、前記吸着面を有する吸着パッドと、該吸着パッドを、前記挿入部に、その長手軸に直交する軸線回りに揺動可能に取り付ける継手とを備える請求項3に記載の内視鏡。
【請求項5】
前記継手が、前記吸着パッドに負圧を伝達する柔軟な管状部材である請求項4に記載の内視鏡。
【請求項6】
前記管状部材が蛇腹である請求項5に記載の内視鏡。
【請求項7】
前記吸着部が、前記挿入部の側面に設けられた吸引孔を備える請求項2に記載の内視鏡。
【請求項8】
前記吸着部が、長手方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記観察光学系が、いずれかの吸着部の間に設けられている請求項2に記載の内視鏡。
【請求項9】
前記固定手段が、前記組織に引っ掛けられる1以上のフック部材を備える請求項1に記載の内視鏡。
【請求項10】
前記固定手段が、膨張により前記組織の凹部に係合されるバルーン部材を備える請求項1に記載の内視鏡。
【請求項11】
前記固定手段が、前記組織を把持する把持鉗子を備える請求項1に記載の内視鏡。
【請求項12】
前記観察距離調節手段が、前記組織または前記隣接組織と前記挿入部との間に配置され、膨張または収縮させられることで観察光学系と前記組織表面または前記隣接組織表面との距離を調節するバルーンにより構成されている請求項1に記載の内視鏡。
【請求項13】
前記固定手段が、前記挿入部の長手方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記観察距離調節手段が、前記固定手段の間に配置され、前記挿入部を湾曲させる湾曲部により構成されている請求項1に記載の内視鏡。
【請求項14】
前記観察距離調節手段が、前記挿入部を湾曲した形状に癖づけることにより構成されている請求項1に記載の内視鏡。
【請求項15】
前記観察距離調節手段が、挿入部を延伸した状態で、先端から出没可能に収容するガイドシースを備える請求項14に記載の内視鏡。
【請求項16】
前記観察距離調節手段が、前記挿入部の側面に長手方向に沿って配置され、挿入部の先端側に固定され、基端側から長手方向に押されることで半径方向に突出させられる弾性部材により構成されている請求項1に記載の内視鏡。
【請求項17】
前記弾性部材が、前記挿入部の周方向に延びる横断面形状を有する請求項16に記載の内視鏡。
【請求項18】
前記弾性部材が、前記挿入部の周方向に並んで複数配列された状態に束ねられたワイヤからなる請求項16に記載の内視鏡。
【請求項19】
前記観察距離調節手段が、相互に揺動可能に連結された複数のリンク部材を備え、一端を挿入部の長手方向に移動させられることにより、関節部分を半径方向に移動させるリンク機構である請求項1に記載の内視鏡。
【請求項20】
前記挿入部に、前記組織または前記隣接組織に対して施される処置に応じた各種の処置具を挿通させるチャネルが設けられている請求項1に記載の内視鏡。
【請求項21】
前記観察光学系が、前記挿入部の側面に設けられ、
前記チャネルの出口が、前記観察光学系と略同一の周方向に設けられている請求項20に記載の内視鏡。
【請求項22】
前記チャネルの出口は、該出口から突出させられる処置具が前記観察光学系の視野範囲内を通過するように配置されている請求項20に記載の内視鏡。
【請求項23】
前記固定手段が、磁力によって前記挿入部を前記組織に固定する磁力発生手段である請求項1に記載の内視鏡。
【請求項24】
前記観察距離調節手段が、前記磁力発生手段により発生する磁力を調節して、前記隣接組織内に配置した他の磁力発生手段との間の磁気反発力を調節する磁力調節手段とを備える請求項23に記載の内視鏡。
【請求項25】
前記固定手段が、流体の噴流によって前記挿入部を前記組織に固定する流体噴射手段である請求項1に記載の内視鏡。
【請求項26】
前記観察距離調節手段が、前記流体噴射手段により噴射する流体の流速を調節する流速調節手段である請求項25に記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2010−284503(P2010−284503A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285073(P2009−285073)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】