説明

内視鏡

【課題】簡単な制御で照明光学系の配光を切り換えることを可能とし、且つ光源から供給される光を効率良く照明光として用いる。
【解決手段】内視鏡の挿入部先端に連設された先端部16aには、対物光学系26、照明光学系27a,27bが設けられている。照明光学系27a,27bは、光ファイバ31a,31bと、液体レンズ40とからなる。液体レンズ40には、光源から光ファイバ31a,31bに導かれた光が供給される。照明光学系27a,27bは、液体レンズにより、照明光を被検体の表面Hに照射する。液体レンズ40の電極部材44,45に電圧を印加することにより、照射角が変化して照明光学系27a,27bの照射角が広角となり、照明光学系27a,27bの照明範囲Sが、対物光学系26の観察範囲Sと重なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内の被観察部位に照明光を照射する内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、被検体内に挿入される挿入部の先端部に、被検体の像光を取り込むための観察光学系と、被検体に照明光を照射するための照明光学系とを備えている。照明光学系による照明光の照射角及び光軸方向は、観察光学系による観察範囲に合わせるように設定されている。
【0003】
従来の内視鏡では、照明光学系による照明光の照射角、光軸方向は固定されていたが、特許文献1記載の内視鏡では、光源装置から供給される光を導くライトガイドの出射端と、照明光学系の最先端側に位置する照明窓との間に、対向面が軸線方向に対して傾いた一対の透明部材を軸方向に沿って間隔可変に配置しており、これら一対の透明部材の間隔を変化させることにより、照明光の光軸の向きが変わるようにしている。
【0004】
特許文献2,3では、照明光学系を構成する照明レンズの1つを光軸方向に沿って移動させるアクチュエータを備えており、アクチュエータを駆動させて照明レンズを光軸方向に沿って移動させることにより照明光の配光特性、すなわち高い照度を照射する照射角を変化させる構成が記載されている。また、特許文献3では、照明レンズを内視鏡先端部に対して揺動可能に取り付け、圧電素子などのアクチュエータを駆動させて照明レンズを傾けることにより光軸方向を観察範囲へ傾けている。
【0005】
また、特許文献3には、照明光学系による照明光の配光特性を切り換える配光補正手段として、液晶フィルタなどからなる配光変換フィルタを備える内視鏡の構成が記載されている。このような内視鏡では、照明光をそのまま透過させるフィルタ、及び周辺光を遮光するフィルタなどを備えており、観察部位の表面状態や観察者の意図に応じてフィルタを切り換えて配光特性を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−334043号公報
【特許文献2】特開平10−239740号公報
【特許文献3】特開平5−323211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内視鏡では、被検体の表面に対して挿入部先端が数ミリメートル程度まで接近して観察を行う場合でも、鮮明な観察像が得られることが求められている。しかしながら、内視鏡では観察光学系と照明光学系とが同軸に設けられていないため、内視鏡の挿入部先端面を被検体の表面に近づけるにつれて、観察光学系による観察範囲、及び照明光学系による照明範囲がともに狭くなり、互いに重ならなくなる。よって、観察範囲には照明光が届かなくなり鮮明な観察像を得ることが困難になる場合がある。
【0008】
そこで、接近観察における照明光量の不足を解消するために、照明光学系として照射角が広角な照明レンズを使用することが考えられるが、広角な照明レンズを使用する場合、照明レンズ内に入射した光が出射面に届かずにロスする割合が多くなるため、被検体に照射される照明光量としては小さくなる。よって、通常時の観察では十分な明るさを得ることができない。また、広角な照明レンズ内でロスした光は、外周面で熱に変換されるため、照明レンズの周辺における発熱が問題となる。あるいは、広角な照明レンズの光量不足を補うため、光源の光量自体を増加させると、照明レンズ内でロスする光の量も増加するため、発熱の問題がさらに出てくる。
【0009】
そこで、上記特許文献1〜3記載の内視鏡のように、照明光の照射角や、光軸方向などの配光特性を可変させることで、接近観察における照明光量不足に対応することが考えられるが、一対の透明部材の間隔を可変させる機構、あるいは、照明レンズを移動させる機構などは、透明部材や照明レンズを移動させるアクチュエータの駆動を高い精度で制御しなければ、照明光の照射角や光軸方向が所定の角度や向きにならない。また、高い精度で制御するためには、各部品の精度が必要となるため、内視鏡のコスト増加の原因となる。
【0010】
また、特許文献3のように配光補正フィルタを備える内視鏡では、接近観察時は、照明光の全てを透過させるフィルタとし、通常観察時は、接近観察時よりも照明範囲を小さくするために、周辺の照明光を遮光するフィルタとするように切り換えを行うことが考えられるが、接近観察で照明光量が不足する場合、照明光学系の性能以上には照明光量を増加させることができないため、従来の内視鏡と同様の問題が発生する。また、特許文献3の配光補正フィルタと広角な照明レンズとを組み合わせたとしても、上述した照明レンズ内での光のロス、光量不足及び照明レンズの発熱などが発生する。さらにまた、通常観察時に配光補正フィルタで周辺を遮光すると、照明光量が低下するため、やはり上述した広角な照明レンズを用いた場合と同様に光量不足の問題が発生する。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、簡単な制御で照明光学系の配光を切り換えることを可能とし、且つ光源から供給される光を効率良く照明光として用いることが可能な内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の内視鏡は、被検体内に挿入される挿入部と、前記挿入部の先端部に配され、被検体の像光を取り込むための観察光学系と、液体の境界面を変形させて照明光の配光特性を可変させる液体レンズからなり、被検体内に前記照明光を照射する照明光学系とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記液体レンズは、前記観察光学系の接近観察時に、通常観察時よりも前記照明光学系による照射角を広角に切り換えることが好ましい。
【0014】
前記液体レンズは、エレクトロウェッティング現象を利用した液体レンズであり、先端及び基端が透明カバーで覆われた略円筒形のケースと、前記ケースに封入された互いに混ざり合わない通電性液体及び絶縁性液体と、前記通電性液体及び前記絶縁性液体の基端及び先端側、且つ全周に亘って配置され、電圧が印加される一対の電極とからなり、前記電極に電圧を印加することにより、一方の電極に前記通電性液体を引き寄せて前記通電性液体と前記絶縁性液体との境界面の湾曲率を変化させて前記照射角を可変させることが好ましい。
【0015】
前記液体レンズは、前記観察光学系の接近観察時に、前記照明光学系の光軸方向を前記観察光学系による観察範囲側に傾けることが好ましい。
【0016】
前記液体レンズは、エレクトロウェッティング現象を利用した液体レンズであり、先端及び基端が透明カバーで覆われた略円筒形のケースと、前記ケースに封入された互いに混ざり合わない通電性液体及び絶縁性液体と、前記通電性液体及び前記絶縁性液体の基端及び先端側、且つ周方向の一部分に配され、電圧が印加される一対の電極とからなり、前記電極に電圧を印加することにより、一方の電極に前記通電性の液体を引き寄せて前記通電性液体と前記絶縁性液体との境界面を傾けて前記光軸方向を可変させることが好ましい。
【0017】
前記一対の電極は、前記ケースと一体に設けられることが好ましい。
【0018】
前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったか否かを判定する判定手段を備え、前記判定手段により前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったと判定されたとき、前記液体レンズに電圧を印加して前記照明光学系の前記照射角を広角に切り換えること、または前記光軸方向を前記観察光学系による観察範囲側に傾けることが好ましい。
【0019】
前記観察光学系により像光を取り込む観察範囲の照明光量を検出する光量検出手段を備え、前記判定手段は、前記光量検出手段により検知される光量が増加から減少に切り換わったとき、前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったと判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体の境界面を変形させて照明光の配光特性を可変させる液体レンズからなる照明光学系で被検体内に照明光を照射しているので、簡単な制御で照明光学系の配光を切り換えることを可能とし、且つ光源から供給される光を効率良く照明光として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】内視鏡システムの外観斜視図である。
【図2】電子内視鏡の先端部の構成を示す平面図である。
【図3】照明光学系及び観察光学系に沿って切断した先端部の断面図である。
【図4】液体レンズの構成を示す断面図である。
【図5】液体レンズのケースの構成を示す斜視図である。
【図6】液体レンズからなる照明光学系の照射角を可変させた状態を示す断面図である。
【図7】電子内視鏡システムの電気的構成の概略を示すブロック図である。
【図8】挿入部先端から被検体の表面までの距離と照明光量の関係を示すグラフである。
【図9】液体レンズからなる照明光学系の光軸の向きを可変させる第2実施形態の構成を示す断面図である。
【図10】光軸の向きを可変させる液体レンズの構成を示す断面図である。
【図11】光軸の向きを可変させる液体レンズのケースの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、電子内視鏡システム10は、電子内視鏡11、プロセッサ装置12、光源装置13、送気・送水装置14などから構成されている。送気・送水装置14は、光源装置13に内蔵され、エアーの送気を行う周知の送気装置(ポンプなど)14aと、光源装置13の外部に設けられ、洗浄水を貯留する洗浄水タンク14bから構成されている。電子内視鏡11は、被検体内に挿入される挿入部16と、挿入部16の基端部分に連設された操作部17と、プロセッサ装置12及び光源装置13に接続されるコネクタ18と、操作部17とコネクタ18との間を繋ぐユニバーサルコード19とを有する。
【0023】
挿入部16は、その先端に設けられ、被検体内撮影用の撮像素子としてのCCD型イメージセンサ(図3参照。以下、CCDという)36等が内蔵された先端部16aと、先端部16aの基端に連設された湾曲自在な湾曲部16bと、湾曲部16bの基端に連設された可撓性を有する可撓管部16cとからなる。
【0024】
コネクタ18は複合タイプのコネクタであり、プロセッサ装置12、及び光源装置13、送気・送水装置14がそれぞれ接続されている。操作部17には、湾曲部16bを上下左右に湾曲させるためのアングルノブ20や、送気・送水用ノズル29(図2参照)からエアー、水を噴出させるための送気・送水ボタン21といった操作部材が設けられている。また、操作部17には、鉗子チャンネル(図示せず)に電気メス等の処置具を挿入するための鉗子口22が設けられている。
【0025】
プロセッサ装置12は、光源装置13と電気的に接続され、電子内視鏡システム10の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置12は、ユニバーサルコード19や挿入部16内に挿通された伝送ケーブルを介して電子内視鏡11に給電を行い、CCD36の駆動を制御する。また、プロセッサ装置12は、伝送ケーブルを介してCCD36から出力された撮像信号を取得し、各種画像処理を施して画像データを生成する。プロセッサ装置12で生成された画像データは、プロセッサ装置12にケーブル接続されたモニタ23に観察画像として表示される。
【0026】
図2及び図3に示すように、先端部16aは、先端硬性部24と、この先端硬性部24の先端側に装着される先端保護キャップ25と、対物光学系26(観察光学系)と、照明光学系27a,27bと、鉗子出口28と、送気・送水用ノズル29とを備える。先端硬性部24は、ステンレス鋼等の金属からなり、長手方向に沿って複数の貫通孔が形成されている。この先端硬性部24の各貫通孔に撮像部30、ライトガイドとしての光ファイバ31a,31b、鉗子チャンネル(図示せず)などの各種部品が嵌合して固定されている。先端硬性部24の後端は、湾曲部16bを構成する先端の湾曲駒32に連結されている。また、先端硬性部24の外周には、外皮チューブ33が被覆される。
【0027】
先端保護キャップ25は、ゴムまたは樹脂等からなり、挿入部16の軸方向と略直交する面であり、挿入部16の先端面を構成する平坦面25aが形成されている。先端保護キャップ25には、対物光学系26、照明光学系27a,27b、及び送気・送水用ノズル29を露呈させる貫通孔25b〜25e、及び鉗子出口28が形成されている。一対の照明光学系27a,27bは、対物光学系26を挟んで対称な位置に配されている。
【0028】
図3に示すように、撮像部30は、対物光学系26(観察光学系)と、対物光学系26を保持する鏡筒35、CCD36などからなる。鏡筒35は、先端部16aの中心軸に対物光学系26の光軸が平行となるように先端硬性部24に取り付けられる。対物光学系26は、レンズ群及びプリズムから構成され、レンズ群のうち、最も先端側に位置するレンズ26Aが先端保護キャップ25の貫通孔25bから露呈する。対物光学系26の出射端側には、CCD36が配設されており、対物光学系26で取り込まれる観察範囲の像光は、CCD36の受光面(図示せず)に結像されて撮像信号に変換される。CCD36から出力された撮像信号は、信号ケーブルを介してプロセッサ装置12へ伝送される。
【0029】
照明光学系27a,27bは、被検体内の被観察部位に光源装置13からの照明光を照射する。鉗子出口28は、挿入部16内に配設された鉗子チャンネル(図示せず)に接続され、操作部17の鉗子口22に連通している。
【0030】
照明光学系27aは、光源装置13から光を導く光ファイバ31aと、エレクトロウェッティング現象を利用して照明光の配光特性を可変させる液体レンズ40からなる。なお、照明光学系27bは、光ファイバ31bと、液体レンズ40とからなり、照明光学系27aと同様の構成である。
【0031】
液体レンズ40は、光ファイバ31a,31bの出射端に面している。光ファイバ31a,31bは、挿入部16、操作部17、ユニバーサルコード19、及びコネクタ18の内部を通っており、被検体内の被観察部位に光源装置13からの照明光を液体レンズ40に導く。光源装置13から光ファイバ31a,31bで導かれた光は、液体レンズ40により照明光として被検体に照射される。
【0032】
図4に示すように、液体レンズ40は、ケース41と、このケース41に封入され、互いに混ざり合わない通電性液体42及び絶縁性液体43とから構成される。通電性液体42としては、例えば水を、絶縁性液体43としては例えば油を用いる。
【0033】
図5に示すように、ケース41は、第1の電極部材44、第2の電極部材45、シール部材46、透明カバー47,48が一体に設けられてなる。第1の電極部材44は、金属等の導電性材料からなり、略円筒形状に形成され、内周面44a(図4参照)が先端側から基端側に向かって徐々に内径が小さくなるテーパー状に形成されている。この第1の電極部材44の内周面44a及び先端面44b(図4参照)には、表面に薄膜状の絶縁膜49が形成されている。また、第1の電極部材44には、基端側に透明カバー47を保持するカバー保持部44cが形成されている。カバー保持部44cは、円板状の透明カバー47の外形に合わせて凹となっており、光ファイバ31aと対面する基端側が開放された凹部状に形成されている。
【0034】
第2の電極部材45は、金属等の導電性材料からなり、第1の電極部材44の外周を覆う円筒部51と、先端側を覆う先端板部52とからなり、円筒部51は、第1の電極部材44の外径よりも内径が大きく形成されている。先端板部52には、先端側に透明カバー48を保持するカバー保持部52aが形成されている。カバー保持部52aは、円板状の透明カバー48の外形に合わせて凹となっており、光ファイバ31aとは反対側に位置する先端側が開放された凹部状に形成されている。
【0035】
第2の電極部材45は、シール部材46を介して第1の電極部材44の先端側に、第1の電極部材44と互いの中心軸を合わせて取り付けられる。シール部材46は、ゴムなどの絶縁性材料からなり、略円筒状に形成され、第1及び第2の電極部材44,45の間に挟まれることにより、両者を絶縁する。
【0036】
第1及び第2の電極部材44,45がシール部材46を間に挟んで固着され、カバー保持部44c,52aに透明カバー47,48が固着されて先端及び基端が封止されることによりケース41が形成される。第1及び第2の電極部材44,45とシール部材46との固着、カバー保持部44c,52aと透明カバー47,48との固着においては、隙間に接着剤を流す等の方法で確実に接着することが好ましい。液体レンズ40は、ケース41が先端部16aの先端硬性部24及び先端保護キャップ25の間に挟持されて取り付けられ、貫通孔25c,25dから透明カバー48が露呈する。なお、透明カバー47,48としては、例えば、石英ガラスやサファイヤガラスなど透明な材料から形成される。
【0037】
通電性液体42及び絶縁性液体43は、ケース41内の先端側及び基端側にそれぞれ封入されており、絶縁性液体43は、第1の電極部材44の内部、具体的には、絶縁膜49に接し、先端面44bから突出しない程度の量あり、通電性液体42は、第2の電極部材45の内周面45a、絶縁膜49の一部に接触する程度の量に設定されている。これにより、第1及び第2の電極部材44,45は、通電性液体42及び絶縁性液体43の先端側及び基端側、且つ全周に亘って配される。
【0038】
第1及び第2の電極部材44,45は、配線53を介してプロセッサ装置12に接続され、プロセッサ装置12のコントローラ66(図7参照)により電圧の印加が制御される。電子内視鏡システム10による通常観察時、液体レンズ40の第1及び第2の電極部材44,45に電圧が印加されていないとき、図4に示すように、第1及び第2の電極部材44,45の境界面54は、略平面状となっている(図4の実線で示す状態)。
【0039】
そして、挿入部16の先端(平坦面25a)が被検体の表面に近接する接近観察時、第1及び第2の電極部材44,45に所定の電圧Vが印加されると、通電性液体42は、一方の第1の電極部材44の方に近づくようにして引き寄せられる。このとき、第1及び第2の電極部材44,45は、通電性液体42及び絶縁性液体43の全周に亘って配置されているため、第1の電極部材44の付近にあった絶縁性液体43が押し出されてケース41の中心に集まろうとする。これにより、境界面54が湾曲して照明光の屈折率が可変するため(図4の2点鎖線で示す状態)、照明光学系27aの照射角が、通常観察時の狭角な照射角(図4の点線矢印で示す範囲)よりも広角な照射角に切り換わる(図4の2点鎖線矢印で示す範囲)。なお、照明光学系27bにおいても液体レンズ40に電圧が印加されたとき、同様に広角な照射角に切り換わる。
【0040】
図6に示すように、近接観察時の照明光学系27a,27bが、通常観察時よりも広角な照射角に切り換わったとき、照明光学系27a,27bによる照明範囲Sが広がり、対物光学系26による観察範囲Sと重なる。
【0041】
図7は、電子内視鏡システム10の電気的構成の概略を示す。電子内視鏡11には、照明光学系27a,27b、及び撮像部30の他に、AFE60、撮像制御部61を備えている。CCD36は、対物光学系26によって撮像面に結像された被検体内の像を光電変換して信号電荷を蓄積し、蓄積した信号電荷を撮像信号として出力する。出力された撮像信号はAFE60に送られる。AFE60は、AFE60は、相関二重サンプリング(CDS)回路、自動ゲイン調節(AGC)回路、A/D変換器など(いずれも図示は省略)から構成されている。CDSは、CCD36が出力する撮像信号に対して相関二重サンプリング処理を施し、CCD36を駆動することによって生じるノイズを除去する。AGCは、CDSによってノイズが除去された撮像信号を増幅する。
【0042】
撮像制御部61は、電子内視鏡11とプロセッサ装置12とが接続されたとき、プロセッサ装置12内のコントローラ66に接続され、コントローラ66から指示がなされたときにCCD36に対して駆動信号を送る。CCD36は、撮像制御部61からの駆動信号に基づいて、所定のフレームレートで撮像信号をAFE60に出力する。
【0043】
プロセッサ装置12は、デジタル信号処理回路(DSP)62、デジタル画像処理回路(DIP)63、表示制御回路64、VRAM65、コントローラ66、操作部67等を備える。
【0044】
コントローラ66は、プロセッサ装置12全体の動作を統括的に制御する。DSP62は、電子内視鏡11のAFE60から出力された撮像信号に対し、色分離、色補間、ゲイン補正、ホワイトバランス調整、ガンマ補正等の各種信号処理を施し、画像データを生成する。DSP62で生成された画像データは、DIP63の作業メモリに入力される。また、DSP62は、例えば生成した画像データの各画素の輝度を平均した平均輝度値等、照明光量の自動制御(ALC制御)に必要なALC制御用データを生成し、コントローラ66に入力する。
【0045】
DIP63は、DSP62で生成された画像データに対して、電子変倍、色強調処理、エッジ強調処理等の各種画像処理を施す。DIP63で各種画像処理が施された画像データは、観察画像としてVRAM65に一時的に記憶された後、表示制御回路64に入力される。表示制御回路64は、VRAM65から観察画像を選択して取得し、モニタ23上に表示する。
【0046】
操作部67は、プロセッサ装置12の筐体に設けられる操作パネル、マウスやキーボード等の周知の入力デバイスからなる。コントローラ66は、操作部67や電子内視鏡11の操作部17からの操作信号に応じて、電子内視鏡システム10の各部を動作させる。
【0047】
光源装置13は、光源68と、集光レンズ69と、光源制御部70とを備えている。光源68としては、キセノン管などの白色光源からなり、光源68から供給される白色光は集光レンズ69等を介して光ファイバ71に導光される。光ファイバ71は、コネクタ18を介して電子内視鏡11の光ファイバ31a,31bに接続される。このため、光源68が発光した白色光は、光ファイバ31a,31bに導かれ、液体レンズ40に入射する。そして、液体レンズ40により照明光として被検体内に照射される。光源制御部70は、プロセッサ装置12のコントローラ66から入力される調節信号や同期信号にしたがって光源68の点灯/消灯のタイミングを調節する。
【0048】
コントローラ66は、電子内視鏡11が接近観察を行っているか否かを判定する判定手段を兼ねている。このコントローラ66は、電子内視鏡11の観察範囲における照明光量の検出として、例えば電子内視鏡11から取得した撮像信号に基づき生成した画像データの各画素の輝度を平均した平均輝度値を算出する。そして、この撮像信号から検出した照明光量から、コントローラ66は、電子内視鏡11が接近観察を行っているか否かを判定する。
【0049】
コントローラ66が行う判定は以下のように行われる。電子内視鏡11で被検体内の観察を行うとき、挿入部16の先端(平坦面25a)から被検体の表面Hまでの距離と、照明光量の関係は、図8に示すようになる。挿入部16を被検体内に挿入して電子内視鏡11が通常観察をしている状態から、さらに挿入部16を押し込んで接近観察に移行したとき、すなわち、平坦面25aが被検体の表面Hに徐々に接近していくときは、先ず、被検体からの反射光が増加するため、対物光学系26によって取り込まれる照明光量が増加し、その後、照明範囲が狭まってくるため、照明光量が減少する。すなわち、照明光量が増加する状態から照明光量が減少する状態に切り換わったときが、通常観察から接近観察に移行したときになる。このことから、コントローラ66は、照明光量が増加から減少に切り換わるピーク値Pを通り過ぎた後に、接近観察を行っていると判定し、それ以外の場合、通常観察を行っていると判定する。
【0050】
コントローラ66は、接近観察を行っていると判定した場合、図示しない電源回路を制御することにより電子内視鏡11に電力を供給して液体レンズ40に電圧を印加させる。これにより、液体レンズ40は、境界面が湾曲するように変化して照明光が広角に変化する。
【0051】
上記構成の作用について説明する。被検体内に挿入部16を挿入し、電子内視鏡11での被検体の観察を行っている際、平坦面25aが被検体の表面Hに近接して照明光学系27a,27bによる照明範囲及び対物光学系26による観察範囲が狭くなり、観察像が暗くなる場合がある。このとき、プロセッサ装置12のコントローラ66は、電子内視鏡11から取得した撮像信号から照明光量を検出し、電子内視鏡11が接近観察を行っているか否かの判定を行う。そして、コントローラ66は、照明光量が増加から減少に切り換わるピーク値Pを過ぎた後、電子内視鏡11が接近観察を行っていると判定する。
【0052】
接近観察を行っていると判定したコントローラ66は、液体レンズ40の第1及び第2の電極部材44,45に電圧を印加させる。これにより、液体レンズ40から構成される照明光学系27a,27bは、通常観察時の狭角な照射角よりも広角な照射角に切り換わり、広い照明範囲に照明光を照射することができる。これにより、照明光学系27a,27bの照明範囲Sが、対物光学系26の観察範囲Sと重なるため(図6に示す状態)、対物光学系26から取り込まれる観察像を明るくし、鮮明な観察像を取得することができる。
【0053】
以上のように、電子内視鏡11は、液体レンズ40の第1及び第2の電極部材44,45に電圧を印加するという簡単な制御で、照射角を切り換え可能とし、照明光学系27a,27bの配光特性を可変させることができる。さらに、照射角を切り換えることにより、照明範囲を切り換えているため、光源68から供給され、液体レンズ40内に入射した光をロスすることがなく、照明光を効率良く照射させることができる。
【0054】
なお、上記実施形態においては、液体レンズ40の境界面54を湾曲させることにより照射角を可変させて、観察範囲に照明範囲を重ねるようにしているが、本発明はこれに限るものではなく、以下で説明する本発明の第2実施形態では、液体レンズの境界面を傾かせて光軸の向きを変えることにより、観察範囲に照明範囲を重ねる。
【0055】
この第2実施形態の電子内視鏡では、図9に示すように、挿入部の先端部80に照明光学系81a,81bを備える。なお、この先端部80以外の構成は上記第1実施形態の電子内視鏡システム10と同様である。照明光学系81aは液体レンズ82及び光ファイバ31aからなり、照明光学系81aは液体レンズ82及び光ファイバ31bからなる。なお、図9では、上記第1実施形態と同じ部品を用いるものについては同符号を付して説明を省略する。図10に示すように、液体レンズ82は、ケース83と、このケース83に封入された、互いに混ざり合わない通電性液体84、絶縁性液体85とから構成される。
【0056】
図11に示すように、ケース83は、ベース86、キャップ87、シール部材88、透明カバー89,90が一体に設けられてなる。ベース86は、上記第1実施形態の第1の電極部材44と同様の形状、すなわち、略円筒形状で、内周面86a(図10参照)が先端側から基端側に向かって徐々に内径が小さくなるテーパー状に形成され、基端側にカバー保持部86cが形成されている。また、ベース86の内周面86a及び先端面86b(図10参照)には、表面に薄膜状の絶縁膜91が形成されている。このベース86は、周方向に対して半分ずつ、第1の電極部材92と、絶縁部材93とが一体になって形成されている。第1の電極部材92は、導電性の材料からなり、絶縁部材93は、絶縁性材料からなる。
【0057】
キャップ87は、上記第1実施形態の第2の電極部材45と同様の形状をしており、ベース86の外周を覆う円筒部94と、先端側を覆う先端板部95とからなり、先端板部95には、先端側にカバー保持部95aが形成されている。このキャップ87は、周方向に対して半分ずつ、第2の電極部材96と、絶縁部材97とが一体になって形成されている。第2の電極部材96は、導電性の材料からなり、絶縁部材97は、絶縁性材料からなる。
【0058】
キャップ87は、シール部材88を介してベース86の先端側に、第1の電極部材92と第2の電極部材96の周方向に対する位置を合わせて取り付けられる。ベース86及びキャップ87がシール部材88を間に挟んで固着され、カバー保持部86c,95aに透明カバー89,90が固着されて先端及び基端が封止されることによりケース83が形成される。ベース86、キャップ87、及びシール部材46との固着、カバー保持部86c,95aと透明カバー89,90との固着においては、隙間に接着剤を流す等の方法で確実に接着することが好ましい。
【0059】
通電性液体84及び絶縁性液体85は、ケース83内の基端側及び先端側にそれぞれ封入されており、絶縁性液体85は、ベース86の内部、絶縁膜91に接し、先端面86bから突出しない程度の量であり、通電性液体84は、キャップ87の内周面87a、ベース86の絶縁膜91の一部に接触する程度の量に設定されている。
【0060】
第1及び第2の電極部材89,96は、内視鏡挿入部の先端部80に照明光学系81a,81b、すなわち液体レンズ82が組み込まれるとき、液体レンズ82の周方向に対して、対物光学系26に近接する位置に配される。よって、照明光学系81a,81bについては、互いに対向する位置に第1及び第2の電極部材92,96が配されている(図9参照)。
【0061】
第1及び第2の電極部材92,96は、上記第1実施形態の第1及び第2の電極部材44,45と同様に、配線98を介してプロセッサ装置12に接続され、プロセッサ装置12のコントローラ66により電圧の印加が制御される。第1及び第2の電極部材92,96に電圧が印加されていないとき、通電性液体84及び絶縁性液体85の境界面99は、略平面状となっている(図10の実線で示す状態)。このとき、照明光学系81a,81bの光軸方向は、対物光学系26の光軸方向と略平行になっている。
【0062】
そして、第1及び第2の電極部材92,96に電圧を印加すると、通電性液体84は、一方の第1の電極部材92の方に近づくようにして引き寄せられる。このとき、液体レンズ82の周方向に対して、第1及び第2の電極部材92,96が位置する側の絶縁性液体85が押し出されてケース41の反対側に集まろうとする。これにより、境界面99が湾曲するとともに第1及び第2の電極部材92,96が位置する側に傾く、これにより照明光学系の光軸の向きが可変する(図10の2点鎖線で示す状態)。
【0063】
第1及び第2の電極部材92,96は、液体レンズ82の周方向に対して、対物光学系26に近接する部分に配されているため、液体レンズ82への電圧の印加により切り換わった照明光学系81a,81bの光軸Lは、対物光学系26の観察範囲S側に傾く。これにより、照明光学系81a,81bの照明範囲Sと対物光学系の観察範囲Sとが重なり、観察像を明るくすることができる。以上のように、第1及び第2の電極部材92,96に電圧を印加するという簡単な制御で照明光学系81a,81bの配光特性を可変させることができる(図9に示す状態)。さらに、照明光学系81a,81bの光軸方向を可変させることにより、照明範囲を切り換えているため、液体レンズ82内に入射した光をロスすることがなく、照明光を効率良く照射させることができる。
【0064】
なお、上記各実施形態では、電子内視鏡で取得した撮像信号から照明光量を検出し、この照明光量から電子内視鏡が接近観察を行っているか否かの判定を行い、この判定結果に応じて液体レンズ40,82に電圧を印加するか否かを切り換える構成となっているが、本発明はこれに限らず、ユーザーがプロセッサ装置の操作部、または電子内視鏡の操作部を操作して電圧を印加するか否かを切り換えるようにしてもよい。また、照明光量を検出する手段としては、撮像信号を取得する撮像素子とは別の光電センサを電子内視鏡の先端部に設けて観察範囲における照明光量を検出するようにしてもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、光源68としては、キセノン管を用いているが、他の白色光源でもよく、レーザ光源やLED光源を用いてもよい。レーザ光源やLED光源を用いた場合、所定の波長のレーザ光またはLED光で励起して蛍光を発する蛍光体であり、レーザ光またはLED光と、蛍光とからなる白色光を形成する蛍光体を備え、この蛍光体をライトガイドの出射端と、液体レンズ40,82との間に配置して白色光を照射するようにしてもよい。
【0066】
さらにまた、上記各実施形態では、照明光学系は、光源から光が導かれ、照明光を照射するため、光源からの熱が伝わり、液体レンズ40,82の液体温度が上昇する場合がある。そこで、液体レンズ40の近傍に冷却手段を配置してもよい。この冷却手段としては、例えば、送気・送水ノズル29に流体を伝送する送気・送水チャンネルを液体レンズ40,82の近傍に配置してもよい。この場合、水やエアーなどの流体を伝送するため、挿入部16の内部では比較的温度の低い送気・送水チャンネルが液体レンズ40,82の発熱を吸収する。よって、液体レンズ40,82を十分に冷却することができる。
【0067】
また、上記各実施形態では、エレクトロウェッティング現象を利用し、絶縁性液体及び通電性液体を封入するケースに設けられた一対の電極部材に電圧を印加することにより境界面の形状を変化させる構成としているが、液体レンズの構成はこれに限らず、例えば互いに混ざり合わない2種類の液体を封止するケース内の圧力を可変させることで境界面の形状を変化させる液体レンズなどを用いてもよい。
【0068】
また、上記第2実施形態では、通電性液体及び絶縁性液体に対して周方向の半分に電極を配置する部分としているが、本発明はこれに限らず、通電性液体及び絶縁性液体の周方向に対して一部分でも電極が配置されていればよく、例えば、周方向の1/3を電極部材とし、残りの2/3を絶縁部材として配置するように形成してもよい。
【0069】
上記各実施形態においては、撮像装置を用いて被検体の状態を撮像した画像を観察する電子内視鏡を例に上げて説明しているが、本発明はこれに限るものではなく、光学的イメージガイドを採用して被検体の状態を観察する内視鏡にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 電子内視鏡システム
11 電子内視鏡
16 挿入部
16a,80 先端部
26 対物光学系(観察光学系)
27a,27b,81a,81b 照明光学系
30 撮像部
31a,31b 光ファイバ
40,82 液体レンズ
42,84 通電性液体
43,85 絶縁性液体
44,92 第1の電極部材
45,96 第2の電極部材
54,99 境界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に挿入される挿入部と、
前記挿入部の先端部に配され、被検体の像光を取り込むための観察光学系と、
液体の境界面を変形させて照明光の配光特性を可変させる液体レンズからなり、被検体内に前記照明光を照射する照明光学系とを備えることを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
前記液体レンズは、前記観察光学系の接近観察時に、通常観察時よりも前記照明光学系による照射角を広角に切り換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項3】
前記液体レンズは、エレクトロウェッティング現象を利用した液体レンズであり、先端及び基端が透明カバーで覆われた略円筒形のケースと、前記ケースに封入された互いに混ざり合わない通電性液体及び絶縁性液体と、前記通電性液体及び前記絶縁性液体の基端及び先端側、且つ全周に亘って配置され、電圧が印加される一対の電極とからなり、前記電極に電圧を印加することにより、一方の電極に前記通電性液体を引き寄せて前記通電性液体と前記絶縁性液体との境界面の湾曲率を変化させて前記照射角を可変させることを特徴とする請求項2記載の内視鏡。
【請求項4】
前記液体レンズは、前記観察光学系の接近観察時に、前記照明光学系の光軸方向を前記観察光学系による観察範囲側に傾けることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項5】
前記液体レンズは、エレクトロウェッティング現象を利用した液体レンズであり、先端及び基端が透明カバーで覆われた略円筒形のケースと、前記ケースに封入された互いに混ざり合わない通電性液体及び絶縁性液体と、前記通電性液体及び前記絶縁性液体の基端及び先端側、且つ周方向の一部分に配され、電圧が印加される一対の電極とからなり、前記電極に電圧を印加することにより、一方の電極に前記通電性の液体を引き寄せて前記通電性液体と前記絶縁性液体との境界面を傾けて前記光軸方向を可変させることを特徴とする請求項4記載の内視鏡。
【請求項6】
前記一対の電極は、前記ケースと一体に設けられることを特徴とする請求項3または5記載の内視鏡。
【請求項7】
前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったか否かを判定する判定手段を備え、前記判定手段により前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったと判定されたとき、前記液体レンズに電圧を印加して前記照明光学系の前記照射角を広角に切り換えること、または前記光軸方向を前記観察光学系による観察範囲側に傾けることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の内視鏡。
【請求項8】
前記観察光学系により像光を取り込む観察範囲の照明光量を検出する光量検出手段を備え、前記判定手段は、前記光量検出手段により検知される光量が増加から減少に切り換わったとき、前記観察光学系が通常観察から接近観察に切り換わったと判定することを特徴とする請求項7記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−135432(P2012−135432A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289661(P2010−289661)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】