説明

内面塗装用スプレーガン。

【課題】 内面塗装用スプレーガンの塗装効率を上げ、かつ噴霧化性能を向上させた小形化できる霧化装置を可能にする。
【解決手段】 先端部に塗料弁をもつパイプ状の塗料通路とその周囲に空気通路を形成する空気パイプを有し、後部の操作本体部から塗料及び圧縮空気を供給して先端の霧化装置より噴霧する内面塗装用スプレーガンにおいて、先端部の霧化装置は、噴霧軸の中心より周囲に開口する多数の塗料噴出口を形成するノズル、噴出口から噴出する塗料に対して前方に拡開する環状空気口を形成する空気ノズル、空気口の前方に噴出流を遮断し周囲に拡散させる偏向板を設け、空気ノズルの軸方向位置を可変として環状空気口の隙間を調整可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気により、塗料等を霧化し、物品の内側等の狭あいな面を塗装する場合に使用されるスプレーガンに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮空気を用いて塗料を霧化し、塗装面を形成するためのエアスプレーガンは仕上げ面の均一性、広範囲な被塗装物、塗料に対応できるため各分野において広く使用されている。このような噴霧塗装では比較的多量の圧縮空気を使用するため一般的には物品の外側を塗装することが多い。しかし内面も物品の保護や必要な皮膜形成のために塗装されることも多く、また美感からも優れた塗膜品質が要求されることも少なくない。
【0003】
これまで内面塗装は環状、円筒状の内面を塗装する場合に用いられるスプレーガンとして、スプレーガンの霧化装置を内部に差し入れ、横方向に噴霧流を形成することによって回転する被塗装物の内面を塗装する片角ガンと呼ばれるスプレーガンが多く用いられてきている。このようなスプレーガンは、通常のスプレーガンでは塗装困難な細い溝の内部を塗装する場合等にも用いられ、特開平2006−263591号公報に見られるようにパイプ状の先端に横方向に噴霧される霧化装置を備えるものである。
【0004】
被塗装物の多様化、要求される塗装品質の向上に伴い、内面塗装も多くの要求に対応できる機能が必要とされ、前記公報に記載された技術では横方向に噴霧されるパターンの調整ができるように改善されている。しかしそれに伴い構造は単に噴霧をするだけの場合に比較し、複雑になり、大きくせざるを得ない構成となっている。
【0005】
また少量の塗料に対し多量の圧縮空気を使用するため、微粒化が促進され塗膜の品質が良い反面、パターンが小さく、噴出量が限定されることで、塗装効率の面からは生産性が低く押さえられている。
【0006】
一方比較的簡単な構造として、霧化装置内部で塗料と圧縮空気とを混合し噴霧化状態を形成し、その噴霧流を霧化口から噴霧する構成の内部混合式の内面塗装用スプレーガンがある。これは実公平5−45402号公報に例示されるように、噴霧口を自由に設定することが容易であるため横方向や後方にまで噴霧流を選択でき、被塗装物の塗装位置に応じた適合性に優れることが利点となっている。
【0007】
この方式の場合単純化された構造で小形化も容易であるが、内部で混合させるために塗料の噴出量と圧縮空気の噴出量ないしは圧力等の吹付けに対する条件に多くの制約が生じ、塗膜形成の多様化に応えられない。これはスプレーガン内部での塗料と霧化空気とのバランスで霧化しているため、例えば塗料圧送圧力を高くして塗料噴出量を増加させると、それに対する空気圧力ないしは空気量を調整しなければ適正な霧化が得られない等、その調整には熟練を要するなど、取り扱いの難しさがある。
【0008】
また噴霧化の方式から、内部や噴霧口部に塗料の付着堆積が生じ、これが剥離したときに被塗装物に付着して塗装不良が発生したり、詰まりが発生するなどの危険性から、適宜洗浄を必要とし、取り扱いやメンテナンスの上で作業者の負担を増すなどの問題がある。
【0009】
この他、円筒状内面の塗装に都合が良い方法として、霧化装置の周囲に円形のパターンで前方に広がる噴霧形状が得られる方式として、円環状の塗料噴出口とこれに同心の環状空気口を設けた霧化装置が知られている。例えば実公昭58-30596号公報や特公平2-20302号公報に見られるような構成を設けており、全体に均一で微細な噴霧粒子が得られ、品質の高い塗装を行うことができる装置の一つとして使用されている。
【特許文献1】特開平5−345152号公報実公平5−45402号公報実公昭58−30569号公報特公平2−20302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記従来の片角スプレーガンは、パイプの先端中心部に設けた塗料ノズルを配置し、このノズル先端を囲む環状の空気口から噴射して噴霧化した塗料を、一側に設けた角空気(側面空気とも呼ぶ)によってパターンを偏向させ、斜め前方に噴霧させている。したがってパターンの曲がり角度は小さく、また広がりも少ないため塗装効率が低く、噴出量を増加させる対応が図れたとしても、噴霧粒子が粗くなり、仕上がり品質が低下する欠点がある。
【0011】
また内部混合式の場合には、吹付け圧力と供給する塗料圧力のバランスによって噴出量が変化し、噴霧の安定化には吹付け条件に制約を受けたり、品質の向上に限度があり、外部で塗料と圧縮空気を混合する前記外部混合方式の霧化性能には及ばない問題がある。また塗料は圧送する必要があるため塗料の供給装置が不可欠であり、手軽に使用することができない。更に前述のように内部での塗料混合による塗料の固着等に起因するメンテナンス性に問題があり、作業者の負担や生産性の低下が解決されなければならない。
【0012】
特に小径の内面を塗装する場合、前述したようにスプレーガンは噴霧装置の先端を小さくすることが優先され、その中で塗装効率を上げ、噴霧による塗装品質の向上を図ることが要求されている。具体的には内面塗装用ガンとして先端の霧化装置を単純構造として小形化でき、塗料をポンプ等の供給装置を使用しての圧送に限定されず、圧縮空気による負圧吸引による塗装を可能にするなど、塗装条件に制約を受けない構成として、塗料噴出量の調整やこれに伴う噴霧パターン、噴霧状態の調整が容易にでき、微粒化の優れた霧化装置によって多用途で使用に適する内面塗装用スプレーガンを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
先端部に塗料弁をもつパイプ状の塗料通路とその周囲に空気通路を形成する空気パイプを有し、後部の操作本体部から塗料及び圧縮空気を供給して先端の霧化装置より噴霧する内面塗装用スプレーガンにおいて、先端部の霧化装置は、噴霧軸の中心より円周方向に向けて多数開口する塗料噴出口を形成するノズルと、その噴出口の開口に近接する斜め後方に、前方に拡開する環状空気口を形成する空気ノズルと、前記空気口の前方で噴出流を遮断し周囲に拡散させる偏向板とを設ける。
【0014】
前記空気ノズルは、前記塗料噴出口が開口する直前を終端とするテーパ面と、このテーパ面に沿って前方に拡開する内テーパ面を前端に形成した空気キャップの前記内テーパ面との隙間によって構成される。この隙間は空気キャップの進退位置を調節することによって調節される。
【0015】
空気ノズルに連通する空気パイプの上流側に空気量調節装置を設け、空気ノズルから噴出する空気量を調節可能とする。
【0016】
偏向板は前記塗料噴出口の開口端より、わずかに前方に、円周方向に広がり前記空気ノズルからの噴射気流が衝突するに十分な外径を有し、軸方向に垂直もしくは斜め前方に傾斜する面をもたせる。

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スプレーガン本体から塗料と空気の二重のパイプによって先端部の霧化装置を繋ぐことが出来、細長い先端部を被塗装物の内面に設置し塗装することが出来るスプレーガンとして、先端の霧化装置を広範囲な吹き付け条件での仕様を可能にし、単純小形化することができる。霧化装置は拡開する環状空気口から圧縮空気を噴射することによって、円周方向に向けた多数の噴出口より塗料を吸引し、噴出口からの噴出塗料に圧縮空気を混合することによって霧化すると共に、変更板に衝突させて外周方向に指向させ、噴霧方向の内面を塗装することが出来る。
【0018】
したがって従来の内部混合方式の場合とは異なり、塗料は加圧供給することなく、したがって塗料供給装置等が無くても手軽に使用することができ、噴霧の制御も圧縮空気の調節等で行うことができる。更には強制的に塗料を供給して、必要とされる量の塗料を噴出させた状態で噴霧することも容易に行うことができ、その用途を広げることもできる。
【0019】
噴霧方向もしくは噴霧パターンや噴霧粒子の状態は、塗料噴出量に対して空気口からの圧力もしくは空気量を、空気ノズルを形成する環状の隙間を調整することによって、もしくは空気量調節装置によって調節することによって変更でき、被塗装物の条件に合わせることが出来る。ほぼ円筒状の内面を塗装する場合は、中心部に霧化装置を位置し、スリットを狭くして噴霧すれば、内面全周が同時に塗装できることになり、高い生産効率が得られる。
【0020】
また霧化方式が外部での混合によるため、吹き付け条件の制約をうけて塗装の範囲が限定されること無く、調節によって各種のパターンと塗装条件が設定でき、内部混合に比較し外部混合による霧化と偏向板による衝突作用が加わって細かく柔らかな噴霧が可能になり、仕上がり塗装面の品質が外面塗装と同様に維持することが出来る。
【0021】
また偏向板の傾斜角を前方に向け、空気流を多くすることによって噴霧流は前方への指向が強くなり大きく広がった状態で環状の噴霧パターンを形成することができ、被塗装物内側側面だけでなく前面の塗装も可能になるなど用途の拡大が図れる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の一実施例を示すスプレーガンの全体構造を示している。スプレーガンは自動ガンの例を示し、本体1の先端側にパイプ状に延出した首部2の先に霧化装置部3が取り付けられている。霧化用の圧縮空気はピストン4の作動により空気弁5が開き、空気通路6より通路13を介して首部2の空気パイプ22から先端の霧化装置部3に送り込まれる。前記空気弁5の後退によって首部2の中心を通るニードル弁23が後退し、その先端に設けられた塗料ノズル31を開口して塗料の噴出が行われる。この種の自動スプレーガンを作動させる細部の構造は周知であり、本発明を限定するものではないので詳細な説明は省略する。
【0023】
図2はスプレーガン本体先端部と首部の接続部を部分的に拡大表示している。霧化装置部3への塗料、エアの供給はスプレーガン本体側より行われ、図2に詳細を示すように本体1には塗料パイプ21を取り付けるノズル基12が螺着され、内部が塗料供給口11と連通されている。霧化用の圧縮空気はスプレーガン後部より通路13を経て空気パイプ基14の内側を通り、該空気パイプ基14にねじ込まれた空気パイプ22に送り込まれる。ジャミナット16は取付け位置を調節し固定するために設けられ、後述する空気パイプの位置を調整することができる。本体1の後部に延出しツマミを設けた調節弁8は通路13から空気パイプ22に流入する空気量を調節する役割をもっている。
【0024】
前記空気パイプ基14はカバー15により本体1に着脱自在に取り付けられ、カバー15は前記空気パイプ22に送り込まれる圧縮空気の漏れを防止する機能も有している。
【0025】
霧化装置部3は図3にその構成の詳細を示す通り、中心に前記塗料パイプ21の先端にとりつけられた塗料ノズル31、その外側に前記空気パイプ22の先端に設けられた空気キャップ32が同心状に配置されている。塗料ノズルの内側中心には、前記の通り先端が当接離開するニードル弁23が設けられ、出口側が偏向板35のボス部34に開けられた塗料出口通路33にねじ込まれている。該塗料出口通路33よりボス部34外側周面に向けて開口する噴出口36が放射状に多数設けられ、塗料ノズル31から出た塗料はこの噴出口36から放射状に噴出する。パッキン37は塗料出口通路33からの漏洩防止を図って取り付けられている。パッキン37は平形状でもOリング形状でも良い。
【0026】
噴出口36が開口するボス部外周は、該噴出口36の開口端直前で終端するテーパ面38を形成し、前記空気キャップ32の内周前端にテーパ面38に沿って形成した内テーパ面39との間で環状の隙間を形成して空気ノズル41としている。両テーパ面の隙間によって構成される空気ノズルからは、円環状で前方に向かって広がる空気流が噴出され、前記隙間は空気キャップ32と一体の前記空気パイプ22を固定する位置によって調節される。
【0027】
前記塗料ノズル31と空気キャップ32は空気ノズル41を構成する上で同心とする必要があり、図4のA−A断面及び図5のB-B断面で示すとおり、ガイドされる接触部には部分的な空気路42を設けて空気パイプと前記空気ノズルとを連通させており、かつ空気キャップ32の内周面には円環状の溝43を設け、気流溜りとして空気ノズル41から噴射する気流の均一化を図っている。
【0028】
空気ノズル41から噴射した圧縮空気は、その前方で衝突拡散させるために設けられた前記偏向板35の偏向面44に衝突して外側に流れ、これに沿って噴出口の開口部が負圧になり、塗料が吸引され噴出されると同時に圧縮気流と混合し霧化される。霧化塗料は偏向面44によって気流と共に外側に向かって放射されるように噴射気流が衝突するに十分な外径を有することが望ましい。この偏向面44は前記噴射口とほぼ平行する角度で設けられ、図3の場合やや前方に傾斜角を持って形成されている。この場合噴霧流は前方に指向され、噴射口に対面する位置に塗装面が無ければ霧化装置の前方で環状の噴霧パターンが形成される。
【0029】
実施例では、偏向板の外径7mm、口径0.3mmの噴出口を12箇所設けた霧化装置で外径約200mm程度のパターンが形成されている。塗料の噴出量は加圧なしで吸引させた状態から徐々に加圧圧力を上げることで増加させることができ毎分50mlから300ml程度で選択することができ、噴霧のパターンは圧力を高くするほど前方への指向が強まる傾向となった。空気キャップの位置を調節して空気ノズルの隙間を変更することによって、同じ圧力での霧化空気量を増加させて霧化を促進することができると共に、噴霧パターンを広げることもでき、塗装の幅を広く選択できる。
【0030】
図6は別の実施例を示す霧化装置部の断面を示している。この場合噴射口は、空気パイプの軸方向に対してほぼ直角方向に開けられており、それに応じて偏向面も円板状に形成されている。前方に向かって拡開する円環状スリットの空気ノズルは約45度の角度で広がり、その前方で偏向面に衝突し、気流速度が緩和されることで微細でソフトな噴霧流となって被塗装物への塗装が行われる。

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例を示すスプレーガンの全体構造を示す断面図。
【図2】図1のスプレーガン本体先端部と首部の接続部を部分的に拡大表示した断面図。
【図3】図1の霧化装置部を拡大した断面図。
【図4】図3のA-A断面図である。
【図5】図3のB-B断面図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す先端霧化装置部の断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 ガン本体
2 首部
3 霧化装置部
12 ノズル基
13 空気パイプ基
23 ニードル弁
31 塗料ノズル
32 空気キャップ
33 塗料出口通路
34 ボス部
35 偏向板
36 噴出口
38 テーパ面
39 内テーパ面
41 空気ノズル
44 偏向面




【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に塗料弁をもつパイプ状の塗料通路とその周囲に空気通路を形成する空気パイプを有し、後部の操作本体部から塗料及び圧縮空気を供給して先端の霧化装置より噴霧する内面塗装用スプレーガンにおいて、先端部の霧化装置は、噴霧軸の中心より周囲に開口する多数の塗料噴出口を形成するノズルと、該噴出口の斜め後方から前方に拡開する環状空気口を形成する空気ノズルと、前記環状空気口の前方に噴出流を遮断し外周方向に拡散させる偏向板を設けてなる内面塗装用スプレーガン。

【請求項2】
前記空気ノズルは、前記塗料噴出口が開口する直前を終端とするテーパ面と、このテーパ面に沿って前方に拡開する内テーパ面を前端に形成し、軸方向位置を調整可能とした空気キャップの前記内テーパ面との隙間によって構成された請求項1の内面塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記空気ノズルに連通する空気パイプの上流側に空気量調節装置を設け、空気ノズルから噴出する空気量を調節可能とする請求項1の内面塗装用スプレーガン。
【請求項4】
偏向板は前記塗料噴出口の開口端より、わずかに前方に、円周方向に広がり前記空気ノズルからの噴射気流が衝突するに十分な外径を有し、軸方向に垂直もしくは斜め前方に傾斜する面をもった請求項1の内面塗装用スプレーガン。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−273976(P2009−273976A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125584(P2008−125584)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】