説明

円偏波パッチアンテナおよび通信モジュール

【課題】 薄くて小型で低コストの円偏波パッチアンテナを提供する。
【解決手段】 パッチアンテナ金属部1と基板2により構成し、基板2上に設けられた第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極の長さを変えて、パッチ部1a上で直交する電流の位相をずらして円偏波を生成するようにしたものであり、そのために、同じ対角に位置する第1の固定用電極5aと第4の固定用電極5dおよび第2の固定用電極5bと第3の固定用電極5cを、同じ長さに構成した円偏波パッチアンテナが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型アンテナを用いて通信を行う、電子機器用の円偏波パッチアンテナおよび通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の進展により、無線LAN、Bluetooth(登録商標)など小型のアンテナを有する電子機器が普及してきている。これらの小型アンテナは電子機器に内蔵される場合が多く、現在多くのパソコン等に内蔵されている。
【0003】
一方、外付けの通信用モジュールも普及してきており、USB端子を用いてパソコンなどに接続される。これらの外付けの通信用モジュールには、小型のアンテナが内蔵されている。
【0004】
これらのアンテナには、モノポールアンテナが多く使用されているが、アンテナの軸方向のアンテナ性能が悪く、通信ができにくい利得を持たない方向であるNULL方向(感度最小点)を有している。
【0005】
また、モノポールアンテナやダイポールアンテナのような直線偏波アンテナは、主偏波の電界の方向が一方向を向いており、主偏波の電界と直交する直交偏波については、送信電界が非常に弱く、受信感度も非常に小さくなるため、アンテナの向きによっては、受信しにくくなる場合がある。
【0006】
さらに、多重反射環境では、アンテナを設ける位置によっては反射電界との重畳により、電界が相殺される場所が多数存在し、そのような場所にアンテナを設けた場合、アンテナの性能が著しく劣化する。
【0007】
そのため、複数のアンテナを用いたダイバーシティアンテナが一般には使用されている。例えば偏波ダイバーシティアンテナは、2本のアンテナを直交させて、一方のNULL方向を他方の指向性でカバーすると同時に、一方のアンテナの交差偏波は他方のアンテナの主偏波になるので、偏波の向きの違いによるアンテナの感度劣化を解消する。さらに、電界が相殺される場所で一方のアンテナの性能が劣化しても、他方のアンテナに切り替えてアンテナ性能を維持するものである。しかし、複数のアンテナを持つのは回路的に複雑になり、コストも高くなる。
【0008】
一方、通信する方向が限定される場合には、指向性アンテナが利用される。指向性アンテナは、指向性の方向では高利得になり、指向性のない方向では低利得になる。そのため、信号の来る方向だけ高利得にし、干渉波の来る方向は低利得にでき、アンテナ性能が改善できる。
【0009】
さらに、多重反射の改善に、円偏波パッチアンテナが用いられることがある。円偏波パッチアンテナは偏波の回転方向が逆の電波は受信しないが、電波は金属面で反射するたびに、回転方向を変える。そのため、円偏波パッチアンテナは反射波を受信しにくく、多重反射環境でよく用いられる。一般に円偏波パッチアンテナは指向性アンテナであり、指向性方向では高利得になり、指向性のない方向では低利得であり、干渉波に強い。
【0010】
従来の円偏波パッチアンテナとして、例えば、特許文献1には、一枚の金属板をプレス加工することによって放射導体板と給電ピンと各脚片がすべて形成され、放射導体板を支持する4本の脚片が等間隔でなく、互いに直交する二つの共振モードの共振長に所定の差が生じるようにオフセット配置した円偏波パッチアンテナの例が記載されている。
【0011】
特許文献1に記載されている円偏波パッチアンテナの例を図8に示す。図8は、従来の円偏波パッチアンテナの図で、図8(a)は、斜視図、図8(b)は、平面図、図8(c)は、C−C線断面図である。図8に示す円偏波パッチアンテナ21は、一枚の金属板をプレス加工することによって形成された放射導体板22と給電ピン23と4本の第1の脚片24、第2の脚片25、第3の脚片26、第4の脚片27(以下第1の脚片24〜第4の脚片27と表示)とを備えており、上面に接地導体28を設けた基板29上に載置固定されている。放射導体板22は外形が略正方形であって、その外周縁の4箇所から下向きに第1の脚片24〜第4の脚片27が延出している。これらの第1の脚片24〜第4の脚片27は、放射導体板22の周縁の4箇所に突設された舌片を基板29側へ直角に折り曲げて形成したものであり、第1の脚片24〜第4の脚片27の下端部は、基板29の対応する位置に設けられた取付孔30に挿入されて半田付けされている。ただし、図8(c)から明らかなように、第1の脚片24〜第4の脚片27は接地導体28とは絶縁されており、電気的には開放端となっている。そして、基板29に機械的に固定されたこれら4本の第1の脚片24〜第4の脚片27によって、放射導体板22は接地導体28に対して略平行な姿勢に保持されている。また、放射導体板22の給電点から切り起こされた給電ピン23が下向きに延出して基板29のスルーホール31内で半田付けされている。これにより給電ピン23は、基板29の下面に設けられた給電回路(図示せず)と接続されるため、給電ピン23を介して放射導体板22に所定の高周波信号を供給することができる。
【0012】
このように円偏波パッチアンテナ21は、放射導体板22の外周縁から突出する第1の脚片24〜第4の脚片27を、放射導体板22の各辺の中点から所定量オフセットさせた位置に配設することによって、これら4本の第1の脚片24〜第4の脚片27を縮退分離素子として機能させている。図8(b)に示すように、対角線Aの一端側へ寄せた位置に第1の脚片24および第2の脚片25を配置させ、かつ、対角線Aの他端側へ第3の脚片26および第4の脚片27を配置させて、放射導体板22の互いに直交する二つの共振モードの共振長に所定の差を生じさせている。すなわち、対角線Aに沿う共振モードの共振長が、対角線Bに沿う共振モードの共振長に比べて長くなっており、かつ、第1の脚片24〜第4の脚片27の大きさやオフセット量を予め適宜調整して両共振モードの位相差が約90度となるように設定してあるため、この円偏波パッチアンテナ21は円偏波アンテナとして動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−167960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術においては、複数のアンテナを使用したダイバーシティアンテナは、回路が複雑になり、小型化が困難で、コストもかかる。
【0015】
また、通常の円偏波アンテナは、パッチアンテナであり、半波長×半波長のサイズが必要であり、サイズが大きくなる。さらにグランド面とパッチ面の隙間から電波が放出するため、性能改善のためには、厚みも必要である。
【0016】
特許文献1に記載の円偏波パッチアンテナは、放射導体板と各脚片の大きさや所定量オフセットさせた位置を適宜調整して、使用周波数に対応する円偏波パッチアンテナを構成していたため、それぞれの使用周波数に対応した円偏波パッチアンテナの仕様を設計することとなり、基板構造や取り付け構造が複雑な上に、軸比特性の調整機構もないので製造コストが高くなっている。
【0017】
そこで本発明は、薄くて小型で低コストの円偏波パッチアンテナおよび通信モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の円偏波パッチアンテナは、パッチアンテナ金属部と基板により構成し、この金属部の一部を基板上の固定用電極に接続し、さらにこの固定用電極の長さを変えて、パッチ部上で直交する電流の位相をずらして円偏波を生成するようにしたものであり、そのために、同じ対角に位置する前記固定用電極同士は同じ長さに、異なる対角線上に位置する前記固定用電極同士は、異なる長さに構成したものである。
【0019】
すなわち、本発明によれば、金属板からなるパッチ部と前記パッチ部の外周縁から一方向に垂直に延ばしたパッチ支柱および前記パッチ支柱と同じ方向に給電用電極に接続する給電支柱を備えるパッチアンテナ金属部と、前記パッチ部と平行に対向して前記パッチ支柱と接続する固定用電極とグランド部を有する基板から構成した円偏波パッチアンテナであって、前記固定用電極の長さを変えて、前記パッチ部上で直交する電流の位相をずらして円偏波を発生させることを特徴とする円偏波パッチアンテナが得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記固定用電極が配設された前記基板で対角に位置する前記固定用電極同士が、それぞれ同じ形状であることを特徴とする上記の円偏波パッチアンテナが得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記パッチ部と前記パッチ支柱と前記給電支柱が同じ材料で一体に構成されていることを特徴とする上記の円偏波パッチアンテナが得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記グランド部が、前記パッチ部と対向する前記基板の表面上に設けられていることを特徴とする上記の円偏波パッチアンテナが得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記グランド部が、前記基板をはさんで前記固定用電極と対向するように設けられていることを特徴とする上記の円偏波パッチアンテナが得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記グランド部を剥離した剥離部が、前記基板をはさんで前記固定用電極と対向する部分に設けられていることを特徴とする上記の円偏波パッチアンテナが得られる。
【0025】
また、本発明によれば、上記の円偏波パッチアンテナを、実装していることを特徴とする通信モジュールが得られる。
【0026】
また、通信モジュールが、USB接続端子を有するものでも良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、基板の固定用電極の長さを変えて電気長を調整することにより、求める円偏波パッチアンテナを構成することができるので、円偏波パッチアンテナの低背化および小型化が容易に行うことができる。さらに、使用周波数に対応する調整を、円偏波パッチアンテナを搭載する基板に配設された固定用電極の長さにより行うことができるため、円偏波パッチアンテナを共通部品化することができ、量産効果と保有部材の効率化によるコスト低減を図ることができる。
【0028】
また、円偏波パッチアンテナのグランドを基板の裏側のグランドとすることで、基板厚みを円偏波パッチアンテナ厚みに加えることができ、これによって円偏波パッチアンテナ全体の厚みを薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の円偏波パッチアンテナを使用した外付け通信モジュールの図で、図1(a)は、平面図、図1(b)は、側面図である。
【図2】本発明の円偏波パッチアンテナを使用した外付け通信モジュールの基板を説明する図で、図2(a)は、平面図、図2(b)は、底面図である。
【図3】本発明の実施例に係る外付け通信モジュールを実装したアクリルケースを説明する図で、図3(a)は、平面図、図3(b)は、D−D線断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナのリターンロスを示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナの軸比特性を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナの計算放射特性を示す図で、図6(a)は、ZX面、図6(b)は、ZY面、図6(c)は、XY面である。
【図7】本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナの計算効率を示す図である。
【図8】従来の円偏波パッチアンテナの図で、図8(a)は、斜視図、図8(b)は、平面図、図8(c)は、C−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の円偏波パッチアンテナを使用した外付け通信モジュールの図で、図1(a)は、平面図、図1(b)は、側面図である。図2は、本発明の円偏波パッチアンテナを使用した外付け通信モジュールの基板を説明する図で、図2(a)は、平面図、図2(b)は、底面図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の円偏波パッチアンテナのパッチアンテナ金属部1は、一枚の金属板をプレス加工し、折り曲げて形成することにより、略正方形のパッチ部1a、その外周縁の4箇所から基板2側にパッチ支柱1bと給電支柱1cが延して形成される。材質はりん青銅であり、高周波損失低減と腐食防止のために金めっきを行っている。このため、簡単な構造となり、簡単な製造方法で製造できる。その結果、低コストで製造できる。
【0033】
パッチアンテナ金属部1を、固定する基板2は、図2に示すように、パッチ部1aを配設するアンテナ部3aと部品を搭載できる実装部分となる基板2の表面側の第1のグランド部3bのサイズに合わせた低損失基板を用いている。パッチ支柱1bを基板2に固定する4箇所の第1の固定用電極5a、第2の固定用電極5b、第3の固定用電極5c、第4の固定用電極5dは、銅箔で構成されている。前記固定用電極が配設された前記基板で対角に位置する固定用電極同士であるところの、第1の固定用電極5aと第4の固定用電極5d、第2の固定用電極5bと第3の固定用電極5cは、それぞれ同じ形状で設けられている。パッチアンテナ金属部1のパッチ支柱1bは、基板2上の4箇所の固定用電極の上に半田付けされる。基板2の裏面側は、基板表面の第1の固定用電極5a、第2の固定用電極5b、第3の固定用電極5c、第4の固定用電極5d(以下第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dと表示)の位置に基板を挟んで対応するように全面グランドとなる第2のグランド部3cを剥離した第1の剥離部4a、第2の剥離部4b、第3の剥離部4c、第4の剥離部4d(以下第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dと表示)が設けられている。
【0034】
現状では、解析的に設計するのは困難なので、計算機シミュレーションにより、円偏波パッチアンテナの整合特性を計算し、円偏波パッチアンテナの各部のサイズを決める。また第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dのサイズは、軸比特性を計算して決定する。なお、ケース実装時には、ケースの誘電率の影響で実効波長が短縮し、ケースのない場合に比べてアンテナのサイズは小さくなる。
【0035】
基板2の給電用電極6には、パッチアンテナ金属部1の給電支柱1cが半田付けされている。給電部9と給電用電極6の間には、給電線路7とチップインダクタ10とチップキャパシタ11から構成される整合回路8が挿入されている。
【0036】
パッチアンテナで円偏波を作るには、パッチ部1aの対角線の長さを非対称にして、電気長の異なる直交する電流分布を作るのが一般的であるが、本発明では、金属板のパッチ部1aとパッチ支柱1bでは電気長の異なる直交する電流分布は作っていない。基板2上のパッチアンテナ固定用の第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dの長さを変えて、電極の長さの差(図1のL)で電気長を調整し、パッチ部1a上で直交する電流の位相をずらして円偏波を作っている。
【0037】
また、円偏波アンテナでは軸比特性が重要になるが、軸比特性の改善にはアンテナのQ(尖鋭度)を下げる必要がある。すなわち、電波の放出特性を向上させて、エネルギーが溜まらない構造にする必要がある、それには、アンテナの高さHを大きくするのが効果的であるが、アンテナが厚くなる。そのため、本発明では、円偏波パッチアンテナのパッチ支柱1bを半田付けする第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dに対応するように、基板2の第2のグランド部3cの銅箔を剥離して、第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dを作っている。これにより、第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dと第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dの間に溜まるエネルギーを低減させて、Qを下げ、軸比特性を改善している。なお、通常の円偏波パッチアンテナでは、グランドを基板2のパッチ部1a側に設けているが、本発明の円偏波パッチアンテナでは、アンテナの高さを実効的に高くして放射を促進させてQを下げるために、パッチ部1a直下のグランドは基板2の裏側に置いて第2のグランド部3cとしている。
【実施例】
【0038】
本発明の実施例について図1、2を用いて説明する。パッチアンテナ金属部1は、外付け通信モジュールの基板2上に、構成されており、本実施例での使用周波数は2.4GHzである。基板2のサイズはカードサイズ54×86×厚さ1mmである。部品実装部分となる第1のグランド部3bのサイズは54×30mm、アンテナを搭載するアンテナ部3aのサイズは54×56mmであり、厚み1mmの低損失基板を使用している。アンテナのパッチ部1aは、基板からの高さHを5mmで設定している。
【0039】
パッチアンテナ金属部1は、図1に示すように、一枚の金属板をプレス加工し、折り曲げて形成することにより、略正方形のパッチ部1a、その外周縁の4箇所から基板2側にパッチ支柱1b、パッチアンテナの給電用である給電支柱1cが一体で形成される。パッチ部1a、パッチ支柱1b、給電支柱1cの材質は、厚み0.2mmのりん青銅であり、高周波損失低減と腐食防止のために金めっきを行っている。パッチ部1aの大きさは35×35mmである。このパッチアンテナは、板金で4つのパッチ支柱1bを作成し、パッチアンテナはアンテナ自身で支柱を形成しており、簡単な構造となり、簡単な製造方法で製造できる。市販されているほとんどのパッチアンテナはパッチ部1aを樹脂などで支持しているが、本発明ではパッチ部1a支持用の樹脂は不要である。その結果、低コストで製造できる。
【0040】
本発明の円偏波パッチアンテナを実装した基板2は、材質が低損失基板である高周波用BTレジンガラス布基材銅張り積層板CCL−HL950(SK)(三菱ガス化学社製)であり、サイズはすでに述べたようにカードサイズ54×86×厚さ1mmである。第1のグランド部3bはアンテナのグランド部であり、回路の実装領域である。残りの部分がアンテナの実装領域であるアンテナ部3aとなっている。試作した円偏波パッチアンテナは評価用のため、第1のグランド部3bもグランドとしているが、第1のグランド部3bは、実際の通信モジュールでは回路の実装領域である。基板2の裏面の第2のグランド部3cは、第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dの一部を除いて、全面グランドであるが、ここに部品を実装しても良い。
【0041】
パッチアンテナ金属部1の4箇所のパッチ支柱1bは、基板2上のパッチアンテナ固定用の第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dの上に半田付けされる。第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dの付近の基板裏面には、銅箔を剥離して基板を挟んで対向する第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dを作っている。実施例では、第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dの周囲3mm以内に相当する基板裏面のグランドを削除して、第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dとしている。これにより、第1の固定用電極5a〜第4の固定用電極5dと第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dの間に溜まるエネルギーを低減させて、Qを下げ、軸比特性を改善している。給電用電極6には、パッチアンテナ金属部1の給電支柱1cが半田付けされる。整合回路8は、2.5nHのチップインダクタ10と0.8pFのチップキャパシタ11が実装されている。給電部9は、円偏波パッチアンテナへの給電位置を模式的に示したもので、実際の通信モジュールでは基板2の回路実装部である第1のグランド部3bなどに実装されているRFIC等の部品から給電される。
【0042】
本実施例では、対角線上に位置する固定用電極同士が、それぞれ同じ形状であるように、基板2上の第1の固定用電極5a、第4の固定用電極5dの電極サイズを2×4mm、第2の固定用電極5b、第3の固定用電極5cの電極サイズを2×2mmと変えて、電極の長さの差を2mmとして(図1のL)電気長を調整し、パッチ部1a上で直交する電流の位相をずらして円偏波を作っている。
【0043】
なお、パッチ部1aの大きさは、アンテナと基板を図3のアクリルケースに入れて実測した場合に2.4GHzのアンテナとなるように設計されている。図3は、本発明の実施例に係る外付け通信モジュールを実装したアクリルケースを説明する図で、図3(a)は、平面図、図3(b)は、D−D線断面図である。アクリルケース12に実装しない場合には、パッチ部1aのサイズは更に大きくなる。アクリルケース12は、アクリルの厚さA1が1mm、ケース内側寸法B1が54mm、パッチ部1aとの間隔C1が0.5mm、基板2からの上側間隔D1が5.5mm、基板2の厚さE1が1mm、基板からの下側間隔F1が2mm、ケースの高さG1が10.5mm、ケース内側寸法I1が86mmとなっている。このアンテナを図3に示すアクリルケース12に入れて、計算したリターンロスを図4に示す。図4は、本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナ装置のリターンロスを示す図である。図4は、使用周波数2.4〜2.48GHzでリターンロスが、−15dB〜−21dBと良好な反射特性が得られている。
【0044】
このアンテナの軸比特性を図5に示す。図5は、本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナの軸比特性を示す図である。2.426〜2.521GHzの95MHz幅で5dB以下の軸比特性が得られており、パッチ部のサイズもしくは固定用電極の長さを若干長くして、軸比の周波数を26MHz低い方シフトさせれば、使用周波数2.4〜2.48GHzの全域が5dB以下になる。軸比については、アンテナの形状に制限を求めなければ、3dB以下が、通常良好とされているが、本発明のように、小型化と薄型化も目指している場合においては、5dB以下が望ましい範囲とされている。本発明においては、円偏波パッチアンテナを、標準カードサイズの基板に収めるという小型化を行っており、さらにパッチ支柱高さを5mm以内に収めているが、使用周波数の全域において5dB以下を実現している。
【0045】
2.44GHzの放射パターンの計算値を、図6に示す。図6は、本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナ装置の計算放射特性を示す図で、図6(a)は、ZX面、図6(b)は、ZY面、図6(c)は、XY面である。ここで座標系は図1(a)に示すように、Z軸はパッチ部および基板面に垂直方向(手前向き)、X軸は図1(a)の下方向(パッチアンテナ部から第1のグランド部を見た向き)、Y軸は図1(a)の右方向である。ここで座標系は本発明の円偏波パッチアンテナは、右旋円偏波パッチアンテナなので、右旋円偏波利得は大きい方が、左旋円偏波利得は小さい方が、望ましい。各面における利得は、放射がパッチ部に対して垂直方向に最大に出るので、ZX面とZY面に最大利得が出ている。最大利得の評価は、ZX面とZY面で、最大になる利得で評価し、本実施例においては、右旋円偏波利得7dBi(等方向性アンテナを基準とした利得表示)程度、左千円偏波利得−7dBi程度の良好な右旋円偏波アンテナ特性が得られる。ダイポールアンテナの最大利得は、通常2.15dBiなので、本実施例での円偏波パッチアンテナの最大利得7dBiは、ダイポールアンテナより5dB大きな利得になっているので、良好な放射特性が得られたと確認できた。
【0046】
図7は、本発明の実施例に係る円偏波パッチアンテナの計算効率を示す図である。ここで、総合効率、放射効率、反射損失は、総合効率=放射電力/供給電力、放射効率=放射電力/整合回路を通ってアンテナが受け取った電力、反射損失=整合回路を通ってアンテナが受け取った電力/供給電力、として定義しており、総合効率(dB)=放射効率(dB)+反射損失(dB)となっている。総合効率は、実測値で−1dB以上あれば良好と考えられるので、計算値ではそれよりも良い値が要求されているが、本発明の円偏波パッチアンテナは、計算値ではあるが、使用周波数2.4〜2.48GHzで総合効率−0.11dB以上と良好な効率が得られている。
【0047】
本発明について可能な変形について説明する。本発明の実施例では、第1の固定用電極5a、第4の固定用電極5dが、第2の固定用電極5b、第3の固定用電極5cよりも長い場合について説明したが、第2の固定用電極5b、第3の固定用電極5cが、逆に第1の固定用電極5a、第4の固定用電極5dより長い場合にも、円偏波アンテナになるが、偏波の回転方向が逆になる。本発明の実施例では、右旋円偏波アンテナの構成例であるが、固定用電極の電極サイズの長短を逆にすれば、左旋円偏波アンテナの構成例になる。
【0048】
また、基板裏側のグランド剥離した第1の剥離部4a〜第4の剥離部4dを削除して、全面グランドにすれば、やや軸比特性が悪くなるが、裏面全体で部品実装が可能となる。
【0049】
また、パッチ部1aは正方形ではなくて、長方形でも良い。さらに、四角形でなくても良いし、円形でも良い。2つの電流パスがあり、その位相差を電気長の長さで調整可能な構造であれば、円偏波パッチアンテナができる。
【0050】
また、基板グランドをアンテナ側としても良い。その場合には、パッチ支柱の固定用電極とグランドの間にグランドを剥離した領域を作り、パッチ支柱をグランドから絶縁させる必要がある。
【0051】
なお、2つの電流パスの電気長が等しい場合には、直線偏波のパッチアンテナが得られる。そのため、実施例において、4箇所の固定用電極のサイズを同じにすれば、直線偏波のパッチアンテナとなる。
【0052】
なお、上述した実施例では、パッチ部の外形が略正方形の場合について説明したが、パッチ部の外形が他の正多角形または円形であっても、あるいは、パッチ部の該周縁から延して形成される4本の支持が非等間隔なオフセットで配置してあったとしても、本発明のように基板上の固定用電極の長さを調整することにより、円偏波パッチアンテナとして動作する安価で高信頼性のアンテナ装置となすことは可能である。
【0053】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)、センサーノードなどの端末の内蔵アンテナ、パソコンなどの電子機器の内蔵アンテナ、外付け無線モジュールの内蔵アンテナなどに利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 パッチアンテナ金属部
1a パッチ部
1b パッチ支柱
1c 給電支柱
2 基板
3a アンテナ部
3b 第1のグランド部
3c 第2のグランド部
4a 第1の剥離部
4b 第2の剥離部
4c 第3の剥離部
4d 第4の剥離部
5a 第1の固定用電極
5b 第2の固定用電極
5c 第3の固定用電極
5d 第4の固定用電極
6 給電用電極
7 給電線路
8 整合回路
9 給電部
10 チップインダクタ
11 チップキャパシタ
12 アクリルケース
21 円偏波パッチアンテナ
22 放射導体板
23 給電ピン
24 第1の脚片
25 第2の脚片
26 第3の脚片
27 第4の脚片
28 接地導体
29 基板
30 取付孔
31 スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなるパッチ部と前記パッチ部の外周縁から一方向に垂直に延ばしたパッチ支柱および前記パッチ支柱と同じ方向に給電用電極に接続する給電支柱を備えるパッチアンテナ金属部と、前記パッチ部と平行に対向して前記パッチ支柱と接続する固定用電極とグランド部を有する基板から構成した円偏波パッチアンテナであって、前記固定用電極の長さを変えて、前記パッチ部上で直交する電流の位相をずらして円偏波を発生させることを特徴とする円偏波パッチアンテナ。
【請求項2】
前記固定用電極が配設された前記基板で対角に位置する前記固定用電極同士が、それぞれ同じ形状であることを特徴とする請求項1記載の円偏波パッチアンテナ。
【請求項3】
前記パッチ部と前記パッチ支柱と前記給電支柱が同じ材料で一体に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の円偏波パッチアンテナ。
【請求項4】
前記グランド部が、前記パッチ部と対向する前記基板の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の円偏波パッチアンテナ。
【請求項5】
前記グランド部が、前記基板をはさんで前記固定用電極と対向するように設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の円偏波パッチアンテナ。
【請求項6】
前記グランド部を剥離した剥離部が、前記基板をはさんで前記固定用電極と対向する部分に設けられていることを特徴とする請求項5記載の円偏波パッチアンテナ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載の円偏波パッチアンテナを、実装していることを特徴とする通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−120069(P2012−120069A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269966(P2010−269966)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】