説明

円錐ころ軸受

【課題】固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受において、粉状の異物混じりグリースが軸受に侵入しても軌道面が傷つき難くする。
【解決手段】前記固形潤滑剤5のうち、他方の軌道輪2と対面し、かつ前記複数の円錐ころ3、3間に位置する部分5aの少なくとも一箇所に、その他方の軌道輪2の軌道面2aと交差する油溝6を形成することにより、他方の軌道輪2と固形潤滑剤5の間に粉状の異物混じりグリースが油溝6に捕捉され、この油溝6内に滞留させられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、円錐ころ軸受の一方の軌道輪は、円錐ころの両端面を案内する鍔を有するものとされ、他方の軌道輪は、軸受の組立てを可能にするため、鍔及び肩のないものとされている。両軌道輪の軌道輪間に、複数の円錐ころ、これらを周方向に等配する保持器が組み込まれている。
【0003】
従来から、両軌道輪、複数の円錐ころ、及び保持器の各間に形成された隙間に固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記固形潤滑剤は、超高分子量ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂10〜80重量%と、潤滑油又はグリース20〜90重量%を含有する材料が広く利用されている。
【0005】
固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受で軸を支持すれば、油浴潤滑、油穴、潤滑剤供給装置等の潤滑構造を省略でき、また、ケーシングと軸の間をオイルシールで密封する必要もなくなる。したがって、固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受は、軸系を支持する装置の部品数削減、これに伴うコンパクト化を図ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、固形潤滑剤は、非常に軟らかい樹脂剤である。このため、固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受内に硬度の高い粉状異物が侵入すると、その異物は、固形潤滑剤の表面に噛み込まれ、円錐ころの転動時に固形潤滑剤が一体回転する時に軌道面を傷つける恐れがある。特に、鍔、肩のない他方の軌道輪と固形潤滑剤の間は、異物が外部から侵入し易い。
したがって、ピニオン、ピニオン軸受等の摩耗粉がグリースに混ざり、軸やケーシングを伝ってその円錐ころ軸受まで流れる構造の軸支持装置において、従来の固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受を採用することは困難であった。
【0008】
そこで、この発明の課題は、固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受において、粉状の異物混じりグリースが軸受に侵入しても軌道面が傷つき難くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、両軌道輪、複数の円錐ころ、及び保持器の各間に形成された隙間に固形潤滑剤を充填し、前記両軌道輪の一方にのみ鍔部を設けた円錐ころ軸受において、前記固形潤滑剤のうち、他方の軌道輪と対面し、かつ前記複数の円錐ころ間に位置する部分の少なくとも一箇所に、その他方の軌道輪の軌道面と交差する油溝を形成した構成を特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、他方の軌道輪と固形潤滑剤の間に粉状の異物混じりグリースが侵入したとしても、複数の円錐ころの転動に伴い固形潤滑剤が軸回りに回転することにより、その他方の軌道輪の軌道面と交差する油溝に捕捉され、この油溝内に滞留させられる。したがって、粉状の異物により軌道面が摩耗し難くなる。
【0011】
ここで、この発明では、鍔がなく、また、固形潤滑剤から分離させることが可能な他方の軌道輪に着目し、前記固形潤滑剤のうち、他方の軌道輪と対面し、かつ前記複数の円錐ころ間に位置する部分に前記油溝を形成するようにした。固形潤滑剤の成形後に他方の軌道輪をその固形潤滑剤から分離させることで前記油溝を掘ることができ、また、固形潤滑剤の封入・成形に際し、成形型に凸部を設ける、若しくは入れ子によって前記油溝を形成することができるからである。
【0012】
前記油溝は、前記固形潤滑剤のうち、他方の軌道輪と対面し、かつ前記複数の円錐ころ間に位置する部分の少なくとも一箇所にあればよい。複数の円錐ころの転動に伴い固形潤滑剤が軸回りに回転するためである。油溝の数を多くするほど、捕捉、滞留される異物混じりグリースのグリース量を増やすことができる。したがって、上記構成においては、複数の前記油溝を形成することが好ましい。
ここで、前記油溝は、前記他方の軌道輪と対面し、かつ前記複数の円錐ころ間に位置する部分の全箇所、または周方向に等配することが好ましい。前記油溝の形成に伴う固形潤滑剤の偏心をなくし、その振れ回りを避けることができる。
【0013】
また、前記油溝の横断面形状は、特に限定されず、丸溝、角溝等にすることができる。
【0014】
上記構成において、前記油溝の少なくとも一端部を軸受外部に開放させ、前記固形潤滑剤により前記一方の軌道輪の少なくとも一端部側の鍔部を覆った構成を採用すれば、汚れたグリースが油溝の外に円滑に排される。したがって、油溝を閉鎖的に形成した場合より油溝の滞留容積が少なくて済み、少ない本数、浅い油溝で軌道面の摩耗を防止することができる。その結果、固形潤滑剤の体積減少を抑制することができる。
また、前記一方の軌道輪の少なくとも一端部側の鍔部が前記固形潤滑剤に覆われるため、油溝の外にグリースが排されても、そのグリースが軸受内に再侵入することは防止される。
前記油溝の両端部を軸受外部に開放させれば、軸受の設置方向によらず、グリースが円滑に排されるようになる。
【0015】
この発明に係る円錐ころ軸受は、ピニオン、ピニオン軸受等の摩耗粉がグリースに混ざり、軸やケーシングを伝ってその円錐ころ軸受まで流れる構造の軸支持装置に好適である。
【0016】
例えば、建設機械に備える旋回減速機のピニオン軸を支持する構成、風車のナセル部の旋回ピニオン軸を支持する構成が挙げられる。これらの軸を支持する円錐ころ軸受は、従来、油浴潤滑になっていたが、この発明に係る円錐ころ軸受で支持することにより、上記オイルシールが不要になり、油供給路、油浴空間も不要になるため、装置の部品数を削減し、コンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、この発明は、固形潤滑剤を充填した円錐ころ軸受において、上記の構成の採用により、粉状の異物混じりグリースが軸受に侵入しても軌道面が傷つき難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、実施形態に係る円錐ころ軸受10は、両軌道輪1、2、複数の円錐ころ3、3、及び保持器4の各間に形成された隙間に固形潤滑剤5を充填し、前記両軌道輪1、2の一方の軌道輪1にのみ鍔部1a、1bを設けたものである。
【0019】
固形潤滑剤5は、一方の軌道輪1の両鍔部1a、1bを覆うように形成されている。
【0020】
前記固形潤滑剤5のうち、他方の軌道輪2と対面し、かつ前記複数の円錐ころ3、3間に位置する部分5aの少なくも1箇所に、その他方の軌道輪2の軌道面2aと交差する油溝6が形成されている。
【0021】
より具体的には、油溝6は、ころ大端側の鍔部1bの径方向外側に位置する固形潤滑剤5の外周露出部分から軌道面2aと保持器4の間を通り、円錐ころ軸受10のころ小端側の側面に開放させられている。すなわち、油溝6の両端部は軸受外部に開放されている。なお、油溝6は、複数存在する上記円錐ころ3、3間の部分5a、5a・・・の配置において周方向に等配されるように複数本形成されている。
【0022】
上記の円錐ころ軸受10においては、ころ大端側の鍔部1bの径方向外側に位置する外周露出部分に、粉状の異物混じりグリースが達し、さらに他方の軌道輪2と固形潤滑剤5の間に侵入したとしても、その侵入したグリースは、固形潤滑剤5が軸回りに回転することにより、その他方の軌道輪2の軌道面2aと交差する油溝6に捕捉され、この油溝6内に滞留させられる。したがって、粉状の異物により軌道面2aが摩耗し難い。
【0023】
さらに、油溝6に滞留するグリースは、やがて油溝6のいずれかの端部から軸受外に排される。いずれの端部から排されるかは、軸受の設置方向に影響される。排されたグリースが軸受内に再侵入することは防止される。これは、固形潤滑剤5が前記一方の軌道輪1の鍔部1a、1bを覆うためである。
【0024】
この円錐ころ軸受10では、固形潤滑剤5のころ小端側の側面が鍔部1aより軸方向外側に位置しているため、特にころ小端側においてより確実にグリースの再侵入が防止される。固形潤滑剤5の反対側の側面を鍔部1bより外側に位置させれば、ころ大端側において同じ効果的が得られるのは勿論である。
【0025】
なお、一方の軌道輪1の鍔部1a、1bを無くし、他方の軌道輪2に鍔部を設けた場合は、前記固形潤滑剤5のうち、一方の軌道輪1と対面し、かつ前記複数の円錐ころ3、3間に位置する部分の少なくとも一箇所に前記と同様の油溝6を形成することができる。
【0026】
上記円錐ころ軸受10の使用例を図2に示す。
図2に示す旋回減速機20は、油圧ショベルに代表される建設機械用のものであり、ピニオン軸21と、一対の円錐ころ軸受10、10をピニオン軸21との間に組み込まれたケーシング22と、ケーシング22の内部に組み込まれた変速機23と、ケーシング22に結合されたモータユニット24とを備えている。
【0027】
モータユニット24の出力は、変速機23で減速されてピニオン軸21に伝達される。ピニオン軸21は、一対の円錐ころ軸受10、10でケーシング22に支持されている。ピニオン軸21のギヤ部21aは、建設機械の旋回体側に設けられた旋回輪の内歯に噛み合わされる。このピニオン軸21のギヤ部21aは、グリース潤滑となっている。
【0028】
上記旋回減速機20では、ギヤ部21aのグリースがピニオン軸21を伝って一対の円錐ころ軸受10、10に達するが、油溝6に滞留し、軸受外に排されるので、特に汚れたグリースが侵入し易い他方の軌道輪2においてその軌道面の摩耗を防止することができる。このため、従来、ケーシング22の開口部内周とピニオン軸21との間に設けられていたオイルシール、一対の円錐ころ軸受10、10を潤滑するための油浴構造が省略されている。
【0029】
上記円錐ころ軸受10の他の使用例としては、風車のナセル部の旋回ピニオン軸を支持する構成が挙げられる。風車のナセル部の旋回機構は、旋回輪の内歯と、この内歯に噛みあう旋回ピニオン軸とからなり、その基本構成が上記旋回減速機20におけるピニオン軸21の支持と同じに考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)実施形態に係る円錐ころ軸受を軸方向に平行な切断面で示す部分拡大断面図、(b)実施形態に係る円錐ころ軸受を軸方向に直交する切断面で示す部分拡大断面図
【図2】図1の円錐ころ軸受を組み込んだ旋回減速機の全体構成図
【符号の説明】
【0031】
1 一方の軌道輪
1a、1b 鍔部
2 他方の軌道輪
2a 軌道面
3 円錐ころ
4 保持器
5 固形潤滑剤
6 油溝
10 円錐ころ軸受
20 旋回減速機
21 ピニオン軸
21a ギヤ部
22 ケーシング
23 変速機
24 モータユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両軌道輪、複数の円錐ころ、及び保持器の各間に形成された隙間に固形潤滑剤を充填し、前記両軌道輪の一方にのみ鍔部を設けた円錐ころ軸受において、前記固形潤滑剤のうち、他方の軌道輪と対面し、かつ前記複数の円錐ころ間に位置する部分の少なくとも一箇所に、その他方の軌道輪の軌道面と交差する油溝を形成したことを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項2】
前記油溝の少なくとも一端部を軸受外部に開放させ、前記固形潤滑剤により前記一方の軌道輪の少なくとも一端部側の鍔部を覆った請求項1に記載の円錐ころ軸受。
【請求項3】
建設機械に備える旋回減速機のピニオン軸を支持する請求項1又は2に記載の円錐ころ軸受。
【請求項4】
風車のナセル部の旋回ピニオン軸を支持する請求項1又は2に記載の円錐ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−8397(P2008−8397A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179181(P2006−179181)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】