説明

再生ポリエステルおよび再生ポリエステルの製造方法、再生ポリエステル繊維

【課題】 回収ポリエステルを高い割合で原料として用いても、熱安定性に優れ、色調に優れた再生ポリエステル、および再生ポリエステルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 上記の課題は、回収ポリエステルを含有するポリエステルにおいて、下記式1または式2のリン化合物のうち少なくとも1種を含有する再生ポリエステルにより達成できる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色調や熱安定性に優れた再生ポリエステルに関するものである。詳しくは、回収ポリエステルを高い割合で含有した再生ポリエステルにおいて、熱安定性に優れ、かつ再重合時や再溶融時の色調悪化が抑制した再生ポリエステルに関するものである。
(用語の説明)
本発明において、「回収ポリエステル」とは、資源リサイクルを目的として回収された容器や衣料ポリエステル、産業廃棄物ポリエステル、あるいは繊維、フィルムおよびその他の成形品を製造するための種々の工程で発生する不良品あるいは屑ポリエステルを意味する。また本発明において、「再生ポリエステル」とは、上記回収ポリエステルを再利用して合成されたポリエステル、もしくは回収ポリエステルを再利用して合成されたポリエステルを一部に含有するポリエステルを意味する。また、「ヴァージンポリエステル」とは、回収ポリエステルを含まないポリエステルを意味する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、資材用、医療用に用いられている。その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
これらのポリエステル製品は使用後に廃棄処分されているが、焼却処分を行うと燃焼時に高熱が発生してしまい焼却炉の損傷の原因となる問題が発生する。また焼却せずに廃棄する場合は、腐敗分解しにくいため、環境保全の面からは改善が求められている。
【0004】
そこで、資源の再利用、環境保全の面から、廃棄されたポリマー製品を回収し再利用することが求められてきている。特に使用量が多く、今後も使用量の増加が予想されるポリエチレンテレフタレートを主に使用した食用液体用ボトル(ペットボトル)をはじめとして、成型品を再溶融、チップ化し、再び繊維、フィルム、成型品にするというリサイクルの試みが始まっている(特許文献1)。しかし、回収されたポリエステルは、容器や衣料ポリエステル、産業廃棄物ポリエステル、あるいは繊維、フィルムおよびその他の成形品を製造するための種々の工程で発生する不良品あるいは屑ポリエステルなど、種々の形態、種々の重合度のポリマーが混在して溶融混合されるため、得られるポリエステルはくすみや着色を帯びやすく、また熱安定性に劣るという課題があった。
【0005】
そこで回収ポリエステルのみではなく、通常の重合法により得られた未使用のヴァージンポリエステルと回収ポリエステルを併用することが提案されている。ただし、この方法ではくすみや着色を抑えるためには回収ポリエステルの含有割合を低くする必要があるため、地球環境保全にあまり貢献できていない。かかる問題に対し、白度の高い回収ポリエステルを用いることにより高い割合で回収ポリエステル原料に用いる方法(特許文献2)が提案されているが、この方法を用いるとリサイクルに使用できる回収ポリエステルが大幅に制限されてしまう。また、再生ポリエステルの製造工程で一般的な酸化防止剤であるリン化合物やヒンダードフェノール系化合物を添加する方法(特許文献3,4,5)が提案されているが、この方法によればある一定の熱安定性の効果は得られるものの、その効果は不十分であり、また色調のくすみや着色を抑えることは困難であった。そこで、本発明では上記課題を改善することについて鋭意検討した結果、回収ポリエステルを含有する再生ポリエステルにおいて、特定のリン化合物を含有することにより本発明の目的を達成できるという知見を得た。
【特許文献1】特開平06−166747号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2000−063557号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2002−167469号公報(5頁)
【特許文献4】特開2003−160650号公報(4頁)
【特許文献5】特開2005−206966号公報(6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記従来の問題点を解決し、回収ポリエステルを高い割合で原料として用いても、熱安定性に優れ、色調に優れた再生ポリエステル、および再生ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、回収ポリエステルを含有するポリエステルにおいて、下記式1または式2のリン化合物のうち少なくとも1種を含有する再生ポリエステルにより達成できる。
【0008】
【化1】

【0009】
(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の再生ポリエステルは、従来品に比べて熱安定性・色調が良好であるので、繊維用、フィルム用、ボトル用等の成形体に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の再生ポリエステルは、回収ポリエステルを含有するものであり、回収ポリエステルとしては、資源リサイクルを目的として回収された容器や衣料ポリエステル、産業廃棄物ポリエステル、あるいは繊維、フィルムおよびその他の成形品を製造するための種々の工程で発生する不良品あるいは屑ポリエステルが用いられる。中でもポリエステル容器であるPETボトルを回収ポリエステルとして用いると、品質が安定しやすく好ましい。
【0012】
回収ポリエステルを含有するとは、再生ポリエステル中に回収ポリエステルを含有することを意味するものであり、回収ポリエステル100重量%の再生ポリエステルであっても良く、また、回収ポリエステルを再利用して合成されたポリエステルを一部に含有する再生ポリエステルでも良い。回収ポリエステルを再利用して合成されたポリエステルを一部に含有させる方法としては、回収ポリエステルをそのままヴァージンポリエステルに混練などの方法で含有させてもよく、また回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後再重合してなるポリエステルをヴァージンポリエステルに混練などの方法で含有させてもよく、また回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後ヴァージンポリエステルの低重合体と混合させた後、重合を行ってもよい。回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後ヴァージンポリエステルの低重合体と混合させた後、重合を行うことにより得られる再生ポリエステルでは、物性が安定化されるため好ましい。
【0013】
本発明における解重合した低分子量体としては、分子量(数平均分子量)が1000〜5000程度のものとすることが好ましい。解重合した低分子量体が上記範囲内であると、物性の均一化するため好ましい。なお、上記のような分子量の低分子量体とするには、回収ポリエステルに対するグリコール成分の添加量、重合反応時の温度及び圧力等を調整することにより可能となる。
【0014】
本発明の再生ポリエステルは、回収ポリエステルを再生ポリエステルの30重量%以上の含有することが好ましい。地球環境保全に貢献する観点から、回収ポリエステルをできるだけ多く含むことが好ましい。より好ましくは、回収ポリエステルの含有量を60重量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。ただし、回収ポリエステルが95重量%を超えると、得られる再生ポリエステルの物性値の均一性や色調が低下しやすくなる。
【0015】
本発明の再生ポリエステルは、式1または式2で表されるリン化合物のうち少なくとも1種を含有する。上記リン化合物を含有することにより、熱安定性・色調に優れた再生ポリエステルを得ることが出来る。ポリエステルの着色や熱安定性の悪化は、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P.178〜198)に明示されているように、ポリエステル重合の副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は、金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このような副反応を契機としてポリマーが黄色に着色し、また、アルデヒド成分が発生するために、主鎖エステル結合が切断されるため、熱安定性が劣ったポリマーとなる。特に回収ポリエステルを原料として用いると、回収ポリエステルは成形加工などで熱履歴を受けている為にビニル末端基やアルデヒド成分を多く含有しているため、副反応が促進されやすく、黄色に着色した熱安定性が劣ったポリマーとなる。そのため回収ポリエステルを原料として用いる場合に従来知られている酸化防止剤、例えばリン化合物やヒンダードフェノール系化合物を添加しても着色の抑制や熱安定性の改善を得ることは困難であった。ところが、本発明の式1または式2に示されるリン化合物では、色調および熱安定性を向上させることができる。この効果のメカニズムは現在のところ完全には明らかになっていないが、これは従来のリン化合物の効果とは、本質的に異なったもの、あるいは少なくとも従来のリン化合物では十分に達成し得なかったものである。
【0016】
中でも、式3で表されるリン化合物を含有すると、リン化合物の耐熱性や耐加水分解性が高いため、ポリエステルの重合において好ましく使用される。
【0017】
【化2】

【0018】
(上記式3中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造、水酸基および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。また、a+b+c=0〜5の整数である。)
上記式3にて表されるリン化合物としては、例えばa=2、b=0、c=0、R=tert−ブチル基、R=2,4位の化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトがあり、この化合物はIRGAFOS P−EPQ(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)またはSandostab P−EPQ(クラリアント・ジャパン社製)として入手可能である。
【0019】
中でも、式4で表されるリン化合物であることが、得られる再生ポリエステルの色調や熱安定性が特に良好となるため好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
(上記式4中、R〜R10は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造、水酸基および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
上記式4にて表されるリン化合物としては、R=tert−ブチル基、R=tert−ブチル基、R10=メチル基の化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトがあり、この化合物はGSY−P101(大崎工業社製)として入手可能である。これらのリン化合物は単独で用いてもまたは併用して用いてもよい。
【0022】
本発明の再生ポリエステルは、任意の時点で式1または式2で表されるリン化合物のうち少なくとも1種を添加する製造方法により得ることが出来る。再生ポリエステルの製造方法としては、例えば、回収ポリエステルとヴァージンポリエステルを混練して再生ポリエステルを得る方法、また回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後再重合してなるポリエステルとヴァージンポリエステルとを混練して再生ポリエステルを得る方法、また回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後ヴァージンポリエステルの低重合体と混合させた後、重合を行って再生ポリエステルを得る方法などが挙げられるが、本発明の再生ポリエステルはその任意の時点で式1または式2で表されるリン化合物のうち少なくとも1種を添加する製造方法によって得ることが出来る。
【0023】
中でも、回収ポリエステルを低分子量体まで解重合した後ヴァージンポリエステルの低重合体と混合させた後、重合を行うことにより再生ポリエステルを得る方法において、再重合反応が終了するまでの任意の時点で式1または式2のリン化合物を添加する製造方法において、物性を安定化でき、着色を抑制できるため好ましい。上記製造方法におけるリン化合物の添加のタイミングは、例えば回収ポリエステルの解重合反応の前に添加してもよく、また回収ポリエステルの解重合反応後、得られた低分子量体の再重合反応を開始する前に添加しても良く、また回収ポリエステルの解重合反応終了後得られた低分子量体の再重合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に添加を行っても良い。
【0024】
特に、回収ポリエステルの解重合反応終了後得られた低分子量体の再重合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に添加を行うと、熱安定性が向上し、着色が特に抑えられるため好ましい。このとき、リン化合物は単独で添加してもよく、エチレングリコール等のアルキレングリコール成分に溶解させた状態または分散させて添加してもよく、また、高濃度にリンを含有したマスターペレットによって添加してもよい。ただし、上記の再重合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間にリン化合物を添加する場合では、エチレングリコール等のアルキレングリコール成分を多量に持ち込んで添加を行うと、ポリエステル主鎖の切断反応が進行し、目標とする重合度に到達するまでの時間が長くなり、結果として着色が進行してしまうため、リン化合物を単独で添加するか、高濃度にリンを含有したマスターペレットを添加する方法が好ましい。
【0025】
この時、リン化合物は、数回に分割して添加してもよく、フィーダーなどで継続的に添加を行っても良い。また、上記のリン化合物の添加方法は、重合系に溶解又は溶融可能でありかつ、本発明で得られる重合体と実質的に同一成分の重合体から成る容器に充填して添加することが好ましい。上記のような容器にリン化合物を入れて添加を行うと、減圧条件下での重合反応器に添加を行うことで、リン化合物が飛散して、減圧ラインにリン化合物が流出を防止することができるとともに、リン化合物をポリマー中に所望量添加することができる。本発明でいう容器とは、リン化合物がまとめられるものであればよく、例えば、ふたや栓を有する射出成形容器、あるいはシートやフィルムをシールあるいは縫製などで袋状にしたものなどが含まれる。上記の容器は、空気抜きを作ることがさらに好ましい。空気抜きを作った容器にリン化合物を入れて添加すると、真空条件下で重合反応器に添加しても、空気膨張により容器が破裂してリン化合物が減圧ラインに流出したり、重合反応器の上部や壁面に付着することがなく、ポリマー中にリン化合物を所望量添加することができる。この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄いほうがよいが、リン化合物の封入・添加作業の際に破裂しない程度の厚さを確保する。そのためには10〜500μm厚さで均一で偏肉のないものが好ましい。
【0026】
本発明の再生ポリエステルは、リン化合物を再生ポリエステルに対してリン原子換算で1〜500ppmとなるように添加することが好ましい。なお、重合反応性や製糸や製膜時におけるポリエステルの熱安定性や色調の観点からリン添加量は、5〜100ppmが好ましく、さらに好ましくは10〜50ppmである。
【0027】
本発明の再生ポリエステルは、色調調整剤として青系調整剤および/または赤系調整剤を含有してもよい。本発明の色調調整剤とは樹脂等に用いられる染料のことであり、COLOR INDEX GENERIC NAMEで具体的にあげると、SOLVENT BLUE 104,SOLVENT BLUE 122,SOLVENT BLUE 45等の青系の色調調整剤、SOLVENT RED 111,SOLVENT RED 179,SOLVENT RED 195,SOLVENT RED 135,PIGMENT RED 263,VAT RED 41等の赤系の色調調整剤,DESPERSE VIOLET 26,SOLVENT VIOLET 13,SOLVENT VIOLET 37,SOLVENT VIOLET 49等の紫系色調調整剤があげられる。なかでも装置腐食の要因となりやすいハロゲンを含有せず、高温での耐熱性が比較的良好で発色性に優れた、SOLVENT BLUE 104,SOLVENT BLUE 45,SOLVENT RED 179,SOLVENT RED 195,SOLVENT RED 135,SOLVENT VIOLET 49が好ましく用いられる。
【0028】
また、これらの色調調整剤を目的に応じて、1種類または複数種類用いることができる。特に青系調整剤と赤系調整剤をそれぞれ1種類以上用いると色調を細かく制御できるため好ましい。
【0029】
最終的にポリエステルに対する色調調整剤の含有量は総量で30ppm以下であることが好ましい。30ppmを越えるとポリエステルの透明性が低下したり、くすんだ発色となることがある。
【0030】
本発明の再生ポリエステルは、オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定したときの固有粘度([η])が、0.4〜1.0dlg−1であるのが好ましい。0.5〜0.8dlg−1であるのがさらに好ましく、0.6〜0.7dlg−1であるのが特に好ましい。
【0031】
また、本発明の再生ポリエステルは、ポリエステルの末端カルボキシル基濃度が1〜30当量/トンの範囲であることが好ましい。末端カルボキシル基濃度が低いほど熱安定性が高く、成形時において金型等に付着する汚れや製糸時において口金に付着する汚れが低減する。末端カルボキシル基濃度は好ましくは25当量/トン以下、特に好ましくは20当量/トン以下である。
【0032】
本発明の再生ポリエステルは、チップ形状での色調がハンター値でそれぞれL値が60〜95、b値が−1〜10の範囲にあることが、繊維やフィルムなどの成型品の色調の点から好ましい。さらに好ましいのは、L値が70〜90、b値が−1〜5の範囲である。
【0033】
なお、本発明の再生ポリエステルは、150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下290℃で60分間溶融させた前後でのカルボキシル末端基の変化量である熱安定性指標Δカルボキシル末端基290が0〜25当量/トンの範囲であることが好ましい。この値が小さいほど、熱安定性が高く、成形時において金型等に付着する汚れや製糸時において口金に付着する汚れが低減する。好ましくは18当量/トン以下、特に好ましくは10当量/トン以下である。
【0034】
本発明の再生ポリエステルは、150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下290℃で60分間溶融させた前後での色調b値の変化値である熱安定性指標Δb値290が−3〜5の範囲であることが好ましい。この範囲にある再生ポリエステルは、熱劣化による分解・着色が少なく熱安定性に優れている。好ましくは−3〜4の範囲であり、特に好ましくは−2〜3の範囲である。
【0035】
本発明の再生ポリエステルは、例えば溶融押出成形等によってフィラメント状に成形した後、延伸、或いは紡糸等を施すことにより繊維として有用なものとなる。
【0036】
本発明の再生ポリエステルの製造方法を説明する。回収ポリエステルの具体例としてポリエチレンテレフタレートの例を記載する。
【0037】
回収ポリエチレンテレフタレートに対してエチレングリコールを5〜30重量%添加し、微加圧下で240〜260℃で解重合反応を行い、低分子量化させる。そして、解重合後に得られた低重合体をフィルターで異物を除去する。続いて、ヴァージンポリエステルとして、テレフタル酸とエチレングリコールを常法によってエステル化し、ヴァージンポリエステルの低重合体を得る。このヴァージンポリエステルの低重合体に、先に得られた回収ポリエステルの低重合体を添加・混合した後、必要によりアンチモン化合物、チタン化合物等の重縮合触媒を添加し、常法により重縮合反応を行なう。この一連の製造工程の中の任意の時点で、式1または式2で表されるリン化合物を添加することにより、本発明の再生ポリエステルを得ることが出来る。
【0038】
なお、ポリエステルへの色調調整剤の添加は、解重合が完了した後、再重合が完了するまでの任意の時期に添加することが好ましい。特に、解重合が完了した後、再重合を開始するまでの間に添加すると、ポリエステル中での分散が良好となり好ましい。
【0039】
また、色調調整剤を実質的に再重合が完了した後にポリエステルに添加することも可能である。この場合には、1軸あるいは2軸押出機を用いてチップに色調調整剤を直接溶融混練する方法や、あらかじめ別に高濃度に色調調整剤を含有するポリエステルを調製しておき、色調調製剤を含まないチップとブレンドしても良い。
【実施例】
【0040】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
(1)ポリマーの固有粘度[η]
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)ポリマーのカルボキシル末端基量
オルソクレゾールを溶媒として、25℃で0.02規定のNaOH水溶液を用いて、自動滴定装置(平沼産業社製、COM−550)にて滴定して測定した。
(3)ポリマーの色調
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L、a、b値)として測定した。
(4)熱安定性指標(Δカルボキシル末端基290、Δb値290)
ポリエステルを、150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下290℃で60分間加熱溶融させた後、(2)および(3)の方法にてカルボキシル末端基量および色調を測定し、加熱溶融前後の差をそれぞれΔカルボキシル末端基290、Δb値290として測定した。
(5)口金の堆積物の観察
繊維の紡出から72時間後の口金孔周辺の堆積物量を、長焦点顕微鏡を用いて観察した。堆積物がほとんど認められない状態を○、堆積物は認められるものの操業可能な状態を△、堆積物が認められ頻繁に糸切れが発生する状態を×として判定した。
【0041】
参考例1(回収ポリエステルの低重合体:原料A)
回収ポリエステルとして回収された固有粘度0.6〜0.7のPETボトル10kgを2〜30mmのフレークに粉砕し、エチレングリコール(日本触媒社製)を1.5kg(回収ポリエステルに対して15重量%)添加して、温度200℃で1時間、250℃で1時間、圧力1.2×10Paにおいて解重合反応を行った。そして、解重合後には目開き20μmのフィルターで異物の除去を行い、9.5kgの分子量(数平均分子量)約2000の低分子量体(原料A)を得た。
【0042】
参考例2(回収ポリエステルの低重合体:原料B)
回収ポリエステルとして回収された固有粘度0.6〜0.7のPETボトル10kgを2〜30mmのフレークに粉砕し、エチレングリコール(日本触媒社製)を1.5kg(回収ポリエステルに対して15重量%)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトを7.4g添加して、温度200℃で1時間、250℃で1時間、圧力1.2×10Paにおいて解重合反応を行った。そして、解重合後には目開き20μmのフィルターで異物の除去を行い、9.5kgの分子量(数平均分子量)約2000の低分子量体(原料B)を得た。
【0043】
参考例3(ヴァージンポリエステルの低重合体:原料C)
予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約10kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持された反応槽に高純度テレフタル酸(三井化学社製)8.3kgとエチレングリコール(日本触媒社製)3.5kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、10.1kgの分子量(数平均分子量)約2000の低分子量体(原料C)を得た。
【0044】
参考例4(回収ポリエステルの粉砕物(重合体):原料D)
回収ポリエステルとして回収された固有粘度0.6〜0.7のPETボトル10kgを2〜30mmのフレークに粉砕した(原料D)。
【0045】
参考例5(ヴァージンポリエステルの重合体:原料E)
予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約10kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持された反応槽に高純度テレフタル酸(三井化学社製)8.3kgとエチレングリコール(日本触媒社製)3.5kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、分子量(数平均分子量)約2000の低分子量体を得た。その後、得られた低分子量体10.5kgを重合反応槽に移送した後、三酸化アンチモン3g(得られるポリエステルに対してアンチモン原子換算で250ppm)を添加し、その5分後に酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、得られるポリエステルに対して酸化チタン粒子換算で0.3重量%添加した。さらに5分後に、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングして固有粘度0.66のポリマーのペレット(原料E)を得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間23分であった。
【0046】
実施例1
原料A8.4kgと原料C2.1kg(重量比80:20)を重縮合反応釜に移送した後、三酸化アンチモン3g(得られるポリエステルに対してアンチモン原子換算で250ppm)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト5.8g(得られるポリエステルに対してリン原子換算で30ppm)を添加した。5分後に、酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、得られるポリエステルに対して酸化チタン粒子換算で0.3重量%添加した。さらに5分後に、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間30分であった。
【0047】
得られた再生ポリエステルは、色調、熱安定性に優れたものであった。
【0048】
また、この再生ポリエステルを150℃12時間真空乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から吐出し、1000m/分の速度で引取った。溶融紡糸工程においては、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0049】
実施例2
リン化合物の添加の時期を、重縮合触媒を添加した後反応器内を減圧にして重縮合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に添加した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。なお、リン化合物の反応系への添加は、所定の攪拌トルクの85%となった時点(減圧を開始してから2時間10分の時点)で、ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cmの容器に詰めて、反応缶上部より添加した。得られた再生ポリエステルは、色調・熱安定性に優れており、また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0050】
実施例3
原料Aの代わりに原料Bを用い、再重合前のリン化合物の添加を行わなかった以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。原料B8.4kgと原料C2.1kg(重量比80:20)の時、原料Bにより持ち込まれるリンは得られる再生ポリエステルに対してリン原子として30ppmである。得られた再生ポリエステルは、色調・熱安定性に優れており、また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0051】
実施例4〜7
リン化合物の添加量をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。実施例4,5で得られた再生ポリエステルは、やや色調が悪く、また実施例5ではやや熱安定性が悪かったが、製品上問題ないレベルであった。それ以外の実施例では色調、熱安定性ともに良好であった。また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇は、実施例5においてやや汚れ及び糸切れが見られたが、操業上全く差し支えないレベルであった。それ以外の実施例では、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0052】
実施例8〜9
実施例8では、リン化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、実施例9では、リン化合物としてビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4−イルホスホナイトを用いた点以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。実施例9で得られた再生ポリエステルは、やや色調、熱安定性が悪かったが、製品上問題ないレベルであった。紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇は、どちらもほとんど認められなかった。
【0053】
実施例10〜12
回収ポリエステルとヴァージンポリエステルの低重合体の割合を変更した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは色調に優れており、熱安定性も優れていた。また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0054】
実施例13
原料を回収ポリエステルのみの低重合体を用いた以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルはやや色調が悪く、またやや熱安定性が悪かったが、製品上問題ないレベルであった。また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0055】
実施例14
実施例14では、色調調整剤としてSOLVENT BLUE 104を0.03g(得られるポリエステルに対して3ppm)を重合触媒の三酸化アンチモンと混合して添加した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは色調に優れており、熱安定性も優れていた。また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0056】
比較例1
リン化合物を添加しない以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは、色調は黄色味が強く、また、熱安定性に劣っていた。また、紡糸時の口金周辺に堆積物が見られ、ろ圧上昇が発生した。
【0057】
比較例2〜5
比較例2ではリン化合物としてリン酸系化合物である正リン酸を、比較例3ではリン化合物としてホスホン酸系化合物であるジエチルホスホノ酢酸エチルを、比較例4ではリン化合物としてホスフィン酸系化合物である次亜リン酸を、比較例5ではホスフィンオキサイド系化合物としてトリフェニルホスフィンオキサイドを添加した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。
【0058】
比較例2,4では、所定の撹拌トルクにまで到達しなかった。また、比較例3、5では、到達するまでの時間が長くなった。得られた再生ポリエステルは、色調b値が高くて黄味化が強く、また、Δカルボキシル末端基290、Δb値290の値が大きく、熱安定性に劣ったポリマーであった。
【0059】
比較例6〜9
比較例6ではリン化合物として亜リン酸系化合物である亜リン酸トリフェニルを、比較例7ではリン化合物として亜ホスホン酸系化合物であるフェニル亜ホスホン酸を、比較例8ではリン化合物として亜ホスフィン酸系化合物であるフェニル亜ホスフィン酸を、比較例9ではホスフィン系化合物としてトリフェニルホスフィンを添加した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。
【0060】
比較例6〜9で、得られた再生ポリエステルは、色調b値が高くて黄味化が強く、また、Δカルボキシル末端基290、Δb値290の値が大きく、熱安定性に劣っていた。
【0061】
比較例10
リン化合物の代わりに、ヒンダードフェノール系化合物としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを添加した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは、色調b値が高くて黄味化が強く、また、Δカルボキシル末端基290、Δb値290の値が大きく、熱安定性に劣っていた。また、紡糸時の口金周辺に堆積物が見られ、ろ圧上昇が発生した。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例15
原料D6.0kgと原料E4.0kg(重量比60:40)とテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト7.8g(得られるポリエステルに対してリン原子換算で50ppm)とを150℃12時間真空乾燥した後、ホッパーに投入し、ホッパーからベント式押出機のシリンダー内に供給した。押出温度285℃、押出機内圧力12hPa、吐出量15kg/hで押出を行い、再生ポリエステルを得た。得られた再生ポリエステルは、色調、熱安定性に優れたものであった。
【0064】
また、この再生ポリエステルを150℃12時間真空乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から吐出し、1000m/分の速度で引取った。溶融紡糸工程においては、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0065】
実施例16〜17
回収ポリエステルとヴァージンポリエステルの重合体の割合を変更した以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。実施例17で得られた再生ポリエステルは、やや色調が悪く、またやや熱安定性が悪かったが、製品上問題ないレベルであった。また、実施例17において紡糸時の口金孔周辺の汚れ及びろ圧上昇が見られたが、操業上全く差し支えないレベルであった。
【0066】
実施例18〜19
リン化合物の添加量をそれぞれ変更した以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは、色調、熱安定性に優れたものであった。また、紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇はほとんど認められなかった。
【0067】
実施例20〜21
実施例20では、リン化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、実施例21では、リン化合物としてビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4−イルホスホナイトを用いた点以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。実施例21で得られた再生ポリエステルは、やや色調、熱安定性が悪かったが、製品上問題ないレベルであった。紡糸時の口金孔周辺の堆積物及び濾圧上昇は、どちらもほとんど認められなかった。
【0068】
比較例11
リン化合物を添加しない以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは、色調は黄色味が強く、また、熱安定性に劣っていた。また、紡糸時の口金周辺に堆積物が見られ、ろ圧上昇が発生した。
【0069】
比較例12〜19
リン化合物を変更した以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。比較例12〜19において得られた再生ポリエステルは、熱安定性に劣っていた。また、比較例12〜19において紡糸時の口金周辺に堆積物が見られ、ろ圧上昇が発生した。
【0070】
比較例20
リン化合物の代わりに、ヒンダードフェノール系化合物としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを添加した以外は実施例15と同様にポリエステルを押出、溶融紡糸した。得られた再生ポリエステルは、熱安定性に劣っていた。また、紡糸時の口金周辺に堆積物が見られ、ろ圧上昇が発生した。
【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収ポリエステルを含有しており、下記式1または式2で表されるリン化合物のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする再生ポリエステル。
【化1】

(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【請求項2】
式2で表されるリン化合物が式3で表されるリン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の再生ポリエステル。
【化2】

(上記式3中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。またa+b+c=0〜5の整数である。)
【請求項3】
式2で表されるリン化合物が式4で表されるリン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の再生ポリエステル。
【化3】

(上記式4中、R〜R10は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。)
【請求項4】
回収ポリエステルを解重合した低分子量体を再重合してなるポリエステルを含有する再生ポリエステルの製造方法において、式1または式2のリン化合物を再重合反応が終了するまでのいずれかの時点で添加することを特徴とする再生ポリエステルの製造方法。
【化4】

(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の再生ポリエステルを用いて得られた再生ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2008−189840(P2008−189840A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26937(P2007−26937)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】