説明

再生可能材料からの無水マレイン酸の製造、得られる無水マレイン酸、およびこの使用

本出願は、無水マレイン酸の製造方法に関し、この方法は以下の段階、即ちa)再生可能原料を発酵させ、場合により精製することで、少なくともブタノールを含む混合物を生成する段階と、b)一般に300から600℃の範囲の温度で、バナジウム酸化物および/またはモリブデン酸化物を主体とする触媒を用いて、ブタノールを酸化して無水マレイン酸にする段階と、c)段階b)が終了して得られる無水マレイン酸を単離する段階と、を含む。本出願は、再生可能原料から得られる無水マレイン酸、前記無水マレイン酸を含む共重合体および組成物、ならびにこの無水マレイン酸の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能原料から無水マレイン酸を製造する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、再生可能原料の発酵に由来するアルコールから無水マレイン酸を製造する方法に関し、好ましくは、再生可能原料は植物性物質である。
【背景技術】
【0003】
無水マレイン酸は、一般に、芳香族化合物、特にベンゼンの酸化により、またはアルカン、特にn−ブタンの酸化により得られる。
【0004】
近年、ベンゼンの毒性に対する認知度の高まりおよびこの製造コストの上昇を主な理由に、他の原料から開始する無水マレイン酸の合成経路が研究されてきている。ベンゼンは、実際、化石起源の非再生可能原料(石油)から得られる。しかしながら、石油源には制約がある。石油の採掘は、技術的にどんどん困難になっていく条件下、下へ下へと深く掘削する必要があり、最新鋭の装置とエネルギー消費のより増加した方法の利用を余儀なくさせる。こうした制約は、無水マレイン酸の製造コストに直接影響を及ぼす。
【0005】
別の合成経路として、いわゆるブタン酸化の方が、現在広く用いられている。しかしながら、ブタンも石油および/または天然ガス画分から得られるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有利なことに、また驚くべきことに、本発明の発明者らは、再生可能原料から無水マレイン酸を工業的に製造する方法を開発した。
【0007】
本発明の方法は、化石起源の原料の少なくとも一部の使用をなくして再生可能原料に置き換えることができるということを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法により得られる無水マレイン酸は、無水マレイン酸を用いることが既知である全ての用途に利用可能であるような品質のものである。特に、発明者らは、化石起源の原料ではなく再生可能原料を用いる本発明の方法を用いることにより、純度の向上した無水マレイン酸を製造することが可能になることを示した。
【0009】
本発明は、以下の段階、即ち
a)再生可能原料を発酵させ、場合によっては精製することで、少なくともブタノールを含む混合物を生成する段階と、
b)一般に300から600℃の範囲の温度で、バナジウム酸化物および/またはモリブデン酸化物を主体とする触媒を用いて、ブタノールを酸化して無水マレイン酸にする段階と、
c)段階b)が終了して得られる無水マレイン酸を単離する段階と、
を含む、無水マレイン酸の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、本発明の方法により製造することができる無水マレイン酸、より一般的には再生可能原料から得られる無水マレイン酸にも関する。
【0011】
本発明は、無水マレイン酸の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のその他の目的、態様、および特徴は、以下の説明から明らかになる。
【0013】
本発明による無水マレイン酸の製造方法の段階a)は、再生可能原料を発酵させて、少なくともブタノールを含む混合物を生成することを含む。
【0014】
再生可能原料とは、天然資源、例えば、動物性または植物性源であり、この資源はヒトの縮尺において短期間で再構築され得るものである。特に、この資源は、これが消費されるのと同じだけの速さでこれ自体再生可能でなければならない。例として、植物性物質は、天然の材料源に目立った減少をもたらすほど植物性物質を消費することなく栽培することができるという利点を有する。
【0015】
化石物質由来の材料と対照的に、再生可能原料は14Cを含有する。事実、生物(動物または植物)から抽出した炭素試料は全て、3種の同位体の混合物である:12C(約98.892%を占める。)、13C(約1.108%)、および14C(痕跡量:1.2×10−10%)。生きている組織の14C/12C比は、大気のこれと同一である。環境中には、14Cは主に2種の形で、即ち、二酸化炭素(CO)として、および有機物として、即ち有機分子に組込まれた炭素として、存在する。
【0016】
炭素は連続的に外部環境と交換されているため、生物では、14C/12C比は、代謝により一定に保たれている。14Cの割合は、大気中で一定であり、同じことが生きている限り生物にも当てはまる。というのは、生物はこの14Cを周囲の12Cと同程度に吸収するためである。平均14C/12C比は、1.2×10−12である。
【0017】
12Cは安定である。即ち、所定の試料中の12Cの原子数は、経時的に一定である。14Cは放射活性であり、試料中の14Cの原子数は、時間(t)とともに減少する。14Cの半減期は5730年である。
【0018】
14sCの量は、再生可能原料の抽出から、本発明の無水マレイン酸の製造まで、さらには本発明の前記無水マレイン酸が完成して使用されるまで、実質的に一定である。
【0019】
結果として、材料中の14Cの存在は、この量に関係なく、この材料を構成する分子の起源の表示となる、即ちこの材料が再生可能原料に由来し化石材料によるものではないことを示す。
【0020】
材料中の14Cの量は、ASTM標準法D6866−06(放射性炭素および同位体比の質量分析を用いた無加工の範囲の材料の生物起源炭素含有量決定の標準検査法)に記載される方法の1つで求めることができる。
【0021】
この標準法は、再生可能原料に由来する有機炭素(生物起源炭素とも称される。)を測定する3つの方法を含む。本発明の無水マレイン酸について示される割合は、好ましくは、この標準法に記載される質量分析法または液体シンチレーション法、より好ましくは質量分析法で測定されるものである。
【0022】
これらの測定法は、試料中の有機炭素の割合を測定するために、試料中の14C/12C同位体比を見積もり、100%の基準となる生物起源材料中の14C/12C同位体比と比較する。
【0023】
好ましくは、本発明の再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸は、無水マレイン酸の炭素の全質量に対して、再生可能原料由来の炭素を20重量%より多い量で、好ましくは50重量%より多い量で含む。
【0024】
言い換えると、無水マレイン酸は、14Cを少なくとも0.24×10−10重量%、好ましくは14Cを少なくとも0.6×10−10重量%含むことができる。
【0025】
有利には、再生可能原料由来の炭素の量は、60%超、好ましくは70%超、より好ましくは80%である。
【0026】
このような含有量は、例えば、石油起源のブタノールと再生可能原料由来のブタノールを混合することで達成することができる。
【0027】
石油起源のブタノールは、例えば、プロピレンをヒドロホルミル化してn−ブチルアルデヒドにし、続いて水素化によりn−ブタノールとすることで得ることができる。
【0028】
植物性物質、動物起源の物質、または植物もしくは動物起源の回収材料に由来する物質(再利用材料)を、再生可能原料として用いることができる。
【0029】
植物性物質として、詳細には、糖類、デンプン、ならびに糖類、セルロース、ヘミセルロース、および/またはデンプンを含有する任意の植物性物質が挙げられる。
【0030】
糖類を含有する植物性物質は、基本的にサトウキビおよびサトウダイコンであるが、以下も挙げることができる;カエデ、ナツメヤシ、ヤシ糖、ソルガム、アオノリュウゼツラン、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含有する物質の例として、木、ワラ、トウモロコシの軸、穀物粒、および果物食(fruit meal)が挙げられる。デンプンを含有する植物性物質は、基本的に、穀類および豆類(コーン、デュラムコムギ、オオムギ、ソルガム、ライムギ、コムギ、コメ、ジャガイモ、キャッサバ、サツマイモ、および藻類など)である。
【0031】
回収材料に由来する物質の例として特に挙げることができるものは、糖類および/またはデンプンを含む植物性または有機廃棄物、ならびに任意の発酵性廃棄物である。
【0032】
有利なことに、凍結してしまったジャガイモ、マイコトキシンが混入した穀類、余剰サトウダイコンなどの低品質の原料、またはチーズ製造で出るホエイを用いることができる。
【0033】
好ましくは、再生可能原料は植物性物質である。
【0034】
同じく利用できる再生可能原料の例として、セルロースおよび/またはヘミセルロースが挙げられる。これらは、適した微生物の存在下、糖、特に炭素原子を5個または6個含有する糖を含む物質に変換させることができる。このような再生可能物質として、ワラ、木、および紙が挙げられるが、これらは有利なことに再利用材料に由来するものが可能である。
【0035】
再生可能物質は、適した微生物1種以上の存在下で発酵される。前記微生物は、場合により、自然変異したものであっても、化学的または物理的に強制的に変異したものであっても、または遺伝的に変異したものであってもよい。なお変異したものを変異体と呼ぶ。従来的に、用いられる微生物は、クロストリジウム属のもの、有利にはクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)またはこの変異体の1種である。
【0036】
上記に列挙するものは制限するものではない。
【0037】
発酵段階の前に、セルラーゼ型酵素または複数のセルラーゼ型酵素の複合体を用いて原料を加水分解する段階を行なうこともできる。
【0038】
発酵は、一般に、混合産物の生成をもたらす。典型的には、ブタノールの生成は、アセトンの生成を伴う。
【0039】
従って、有利には、発酵段階a)に続いて、ブタノール単離段階が行なわれる。
【0040】
このブタノール単離は、一般に、様々な反応生成物を、例えば、異種共沸(heteroazeotropic)蒸留により、分離することからなる。この分離に続いて、ブタノールをより濃縮した形で得ることを目的とする蒸留を行なうこともできる。
【0041】
本発明の方法の別の利点は、これがエネルギーを削減するということである。本発明の方法の発酵段階および場合による加水分解段階は、低温で行なわれる。これらのエネルギーコストもブタンまたはベンゼンの抽出コストと比較して低い。
【0042】
このエネルギー削減は、大気中に排出されるCO量の削減も伴う。
【0043】
有利なことに、段階b)はn−ブタノールを出発物質として行なわれる。
【0044】
n−ブタノールを他の異性体から分離する段階を提供することもできる。それでもなお、本方法の利点の1つは、発酵によるブタノールの異性体数はプロピレンヒドロホルミル化の化学経路によるよりも限られていることである。再生可能原料の発酵により得られるブタノールは、本発明の方法を行なうのに特に適している。特に、本発明者らは、実施例1で、段階a)に従って再生可能原料の発酵により得られるn−ブタノールは、場合によるn−ブタノール単離段階前でさえも、イソブタノール/n−ブタノール比が、化石原料に由来するブタノールを精製したものでの比よりも低いことを示している。イソブタノールとn−ブタノールは非常によく似た物理化学的性質を有するため、これらの物質の分離には費用がかかる。従って、段階a)由来のイソブタノールが減少したn−ブタノールを利用可能であることは、本発明の目的を形成する方法の主要な経済的利点を構成する。というのは、このことが、高品質の無水マレイン酸をより低いコストで製造することができるということを意味するからである(実施例2および3)。
【0045】
さらに、段階a)が終了して得られる混合物に含有される不純物(ブタナール、ブタン−2−オール、酢酸n−ブチル、ブト−2−エン−1−オール、および1,1−ジブトキシブタンなど)は、これらが酸化段階b)にかけられた場合に、少なくとも部分的に無水マレイン酸の生成をもたらす。従って、このことは、本発明の目的を形成する方法の別の主要な経済的利点を構成する。というのは、このことが、そうした不純物を精製するための段階を回避しながら、高品質の無水マレイン酸を製造することができるということを意味するからである。
【0046】
段階b)では、ブタノールは酸化されて、無水マレイン酸を含むガス混合物を生成する。
【0047】
ブタノールの酸化は、適した反応器中、ある温度(通常、300℃から600℃の範囲である。)で、前記ブタノールを含むガスを酸化触媒に通すことにより行なわれる。好ましくは、前記反応は、空気または酸素分子を含む他のガスの存在下、より好ましくは空気の存在下、または酸素分子が大過剰で存在する他のガスの存在下、行なわれる。
【0048】
用いる触媒は、一般に、バナジウムおよび/またはモリブデンの酸化物を主体とする触媒である。こうした触媒は、クロム、セリウム、および/またはリンの酸化物を加えることにより、またはさらに他の従来のアクチベータにより、活性化させることができる。
【0049】
触媒は、バルクであっても、噴射によって成形した適した支持体に沈着またはコーティングしたものであっても、または反応器の壁の少なくとも1面に直接沈着させたものであってもよい。
【0050】
反応は、固定床、流動床、または循環流動床で行なうことができる。
【0051】
第一の変形形態では、触媒には、三酸化モリブデン、基本的に非晶質の二酸化チタン、および場合により三酸化タングステンを含む混合物を用い、前記酸化物は、三酸化モリブデン3モルに対して二酸化チタン1から8モル、および三酸化タングステン0から1モルの割合で存在する。好ましくは、二酸化チタンの比表面積は、150m/g超、好ましくは150から250m/gの範囲である。この第一の変形形態は、一般に、450℃から600℃の範囲の温度で行なわれる。さらなる利点は、この反応が断熱気相で行なわれることである。
【0052】
第二の変形形態では、VPO触媒を用いるが、この触媒は、少なくとも酸化バナジウムおよびリン、および場合によりシリカを含む混合物であり、反応は、300℃から600℃の範囲、好ましくは350℃から500℃の範囲の温度で行なわれる。
【0053】
第二の変形形態による方法は、280℃から300℃の範囲の温度でも行なうことができる。この場合、無水フタル酸も有利に合成することができる。
【0054】
第三の変形形態では、モリブデン酸ビスマス型触媒を用いる。この触媒はモリブデン酸化物とビスマス酸化物を含む混合物であり、反応は、300℃から600℃の範囲の温度、好ましくは350℃から500℃の範囲の温度で行なわれる。
【0055】
第四の変形形態に従って、少なくともモリブデンまたはバナジウムを含有する触媒を用いる。この触媒はモリブデン酸化物とバナジウム酸化物を含む混合物であり、反応は、250℃から600℃の範囲の温度、好ましくは350℃から500℃の範囲の温度で行なわれる。
【0056】
本方法の段階c)は、段階b)が終了して得られる無水マレイン酸の単離に関する。特に、上記の第二の変形形態に従って280℃から300℃の範囲の温度で段階b)を行なった場合に、段階c)は無水マレイン酸と無水フタル酸を分離する段階を含む。
【0057】
本発明は、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸を含む組成物、および再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸の使用に関する。
【0058】
特に、本発明は、重合体製造のための、および前記重合体の層を少なくとも1層含む構造体の製造のための、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸の使用に関する。
【0059】
特に、本発明は、以下の重合体の製造に関する:
無水マレイン酸と、オレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンとのランダム共重合体、
無水マレイン酸と、オレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンと、ならびにアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、およびビニルエステルから選択される共単量体とのランダム三元共重合体、
スチレンと無水マレイン酸の共重合体(溶液、樹脂状、またはフレーク状で)、
無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリオレフィン、好ましくはポリエチレンおよび/またはポリプロピレン、
無水マレイン酸単量体をグラフトしたフッ素化重合体、
無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリエステル、
前記重合体は、少なくとも部分的に再生可能物起源の物質から得られた無水マレイン酸を含む。
【0060】
特に、無水マレイン酸単量体をグラフトしたフッ素化重合体は、EP1484346に記載される方法を用いて得られる。この特許出願は、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸の使用を記載していない。無水マレイン酸単量体をグラフトしたフッ素化重合体は、以下の方法、即ち
a)溶融状態のフッ素化重合体を無水マレイン酸と混合する方法と、
b)a)で得られる混合物を、膜、板、顆粒、または粉末に成形する方法と、
c)段階b)で得られる生成物を、空気の不在下、1から15Mradの範囲の線量で光子(γ)または電子(β)照射処理する方法と、
d)場合により、c)で得られる生成物を処理して、フッ素化重合体にグラフトしていない無水マレイン酸を全て、または一部、除去する方法と、
を用いて得られる。
【0061】
特に、無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリエステルは、出願WO97/47670に記載される方法を用いて得られる。この特許出願は、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸の使用を記載していない。無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリエステルは、無水マレイン酸−ポリエステル付加または置換反応により得られる。
【0062】
再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸は、有利なことに、1,4−ブタンジオールおよび/またはγ−ブチロラクトンおよび/またはテトラヒドロフランの調製にも用いられる。
【0063】
これらの化合物を調製する方法は、炭素原子を1から5個含むアルコール、有利にはメタノールまたはエタノールで、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸をエステル化してジエステルを得ることを含む。例として、マレイン酸ジメチルはメタノールを用いて得られる。
【0064】
一般に蒸留してジエステルを単離する。
【0065】
パラジウム/アルミナ触媒によって、140℃および14barで過剰の水素でマレイン酸ジメチルを水素化すると、コハク酸ジメチルが形成される。
【0066】
銅/酸化亜鉛触媒によって、約225℃でコハク酸ジメチルの選択的水素化を行なうと、γ−ブチロラクトンが形成される。
【0067】
γ−ブチロラクトンは、水素の存在下、約200℃で、高比表面積のシリカ/アルミナ触媒を用いた触媒的脱水素化により、テトラヒドロフランに変換される。
【0068】
過剰な水素の存在下、銅/酸化亜鉛型触媒を用いて、200℃を超える高温でγ−ブチロラクトンを水素化すると、1,4−ブタンジオールが形成される。
【0069】
(実施例1)
発酵由来のブタノールおよび化石原料由来のブタノールの分析
再生可能原料の発酵由来のブタノールおよび化石原料由来のブタノールの分析を、以下の表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(実施例2)
触媒Aの調製。VPO型の触媒Aを、特許出願US4769477(DuPont)に記載されるとおりに調製した。ベンジルアルコールとイソブタノールの混合物中、還流下で16時間、酸化バナジウムを、100%オルトリン酸とP/V比1.16で反応させた。得られる青色固体をろ過して単離し、イソブタノールおよびアセトンで洗い、空気中110℃で一晩乾燥させた。
【0072】
粒度分布が200から360ミクロンの前駆体1グラムを、マイクロ反応器に入れ、n−ブタン1.2%含有空気流中、435℃で、in situで活性化した。気体の流速は40mL/分であり、周期的に流出物を回収して、触媒が安定であるかを確認した。2週間後、触媒は平衡状態に達した。次いで、温度を360℃に下げ、高精密ポンプからブタノールを空気流に注入した。
【0073】
(実施例2a(比較例))
イソブタノール0.0960%含有石油化学ブタノールの使用。流出物を収集して分析した。無水マレイン酸の収率は45%であり、無水マレイン酸に対するメタクロレイン+メタクリル酸の量は180ppmであった。
【0074】
(実施例2b(本発明))
イソブタノール0.0660%含有発酵由来ブタノールの使用。流出物を収集して分析した。無水マレイン酸の収率は45%であり、無水マレイン酸に対するメタクロレイン+メタクリル酸の量は100ppmであった。
【0075】
(実施例3)
触媒Bの調製。上記実施例のとおりに触媒Bを調製したが、P/V比は1.15であり、酸化バナジウムと同時に硝酸ビスマスをBi/V比0.1で加えた。この場合、前駆体は、VOHPO−0.5HO相の他に、BiPO相も含有した。1.7%ブタン含有空気流中で触媒を活性化した。活性化すると、触媒は(VO)相およびBiPO相を含有した。ブタノールを空気流に供給して、ブタノール分圧1%とした。約360℃では、無水マレイン酸の収率は、50%から60%の範囲であった。徐々に温度を上げていくと、途中の250から350℃の間では、無水フタル酸の収率は10%から20%の範囲であることが観測された。
【0076】
(実施例3a(比較例))
この実施例では、部分精製した、イソブタノール約1.5%含有石油化学n−ブタノールを用いた。無水マレイン酸の収率は55%、メタクロレイン+メタクリル酸と無水マレイン酸の量の比は2630ppmであった。
【0077】
(実施例3b(本発明))
この実施例では、実施例2bのとおりの発酵由来ブタノールを用いた。無水マレイン酸の収率は57%、メタクロレイン+メタクリル酸と無水マレイン酸の量の比は90ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階、即ち
a)再生可能原料を発酵させ、場合によって精製することで、少なくともブタノールを含有する混合物を生成する段階と、
b)一般に300℃から600℃の範囲の温度で、バナジウム酸化物および/またはモリブデン酸化物を主体とする触媒を用いて、ブタノールを酸化して無水マレイン酸にする段階と、
c)段階b)が終了して得られる無水マレイン酸を単離する段階と、
を含む、無水マレイン酸の製造方法。
【請求項2】
再生可能原料は、サトウキビおよびサトウダイコン、カエデ、ナツメヤシ、ヤシ糖、ソルガム、アオノリュウゼツラン、コーン、デュラムコムギ、オオムギ、ソルガム、ライムギ、コムギ、コメ、ジャガイモ、キャッサバ、サツマイモ、ワラ、木、紙、ならびに藻類から選択される植物性物質であることを特徴とする、請求項1に記載の無水マレイン酸の製造方法。
【請求項3】
発酵段階a)に続いてブタノールを単離する段階があることを特徴とする、請求項1または2に記載の無水マレイン酸の製造方法。
【請求項4】
無水マレイン酸の炭素の全質量に対して、再生可能原料に由来する炭素を、20重量%超、好ましくは50重量%超の量で含むことを特徴とする、再生可能物起源の物質から得られる無水マレイン酸。
【請求項5】
請求項4に記載の無水マレイン酸、または請求項1から3の一項に記載の方法に従って調製された無水マレイン酸を含む組成物。
【請求項6】
重合体を製造するための、請求項4に記載の無水マレイン酸、または請求項1から3の一項に記載の方法に従って調製された無水マレイン酸の使用。
【請求項7】
重合体は、無水マレイン酸と、オレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンとのランダム重合体であることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項8】
重合体は、無水マレイン酸と、オレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンと、ならびにアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、またはビニルエステルから選択される共単量体とのランダム三元共重合体であることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項9】
重合体は、スチレンと無水マレイン酸の共重合体であることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項10】
重合体は、無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリオレフィン、好ましくはポリエチレンおよび/またはポリプロピレンであることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項11】
重合体は、無水マレイン酸単量体をグラフトしたフッ素化重合体であることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項12】
重合体は、無水マレイン酸単量体をグラフトしたポリエステルであることを特徴とする、請求項6に記載の無水マレイン酸の使用。
【請求項13】
前記重合体のうち1種の層を少なくとも1層含む構造体の製造のための、請求項6から12のいずれか一項に記載の重合体の使用。
【請求項14】
1,4−ブタンジオールおよび/またはγ−ブチロラクトンおよび/またはテトラヒドロフランを調製するための、請求項4に記載の無水マレイン酸、または請求項1から3の一項に記載の方法に従って調製された無水マレイン酸の使用。

【公表番号】特表2011−528340(P2011−528340A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517985(P2011−517985)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051426
【国際公開番号】WO2010/007327
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】