説明

再生樹脂を含む架橋樹脂材料及びその製造方法、電線・ケーブル

【課題】架橋度が高く、且つ押出外観の良好な再生樹脂を含む架橋樹脂材料及びその製造方法、電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】シロキサン結合を有する樹脂をアルコールまたは炭酸エステルにより分解することで得られる熱可塑性樹脂の再生樹脂、または該再生樹脂とバージン樹脂との混合物に架橋剤およびシラノール縮合触媒を加えてシロキサン結合により架橋するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールまたは炭酸エステルにより架橋結合(シロキサン結合)が分解されたシラン架橋樹脂を原料として再びシラン架橋することにより得られる、再生樹脂を含む架橋樹脂材料及びその製造方法、電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用樹脂材料であるポリエチレンは、電気絶縁性に優れた材料であり、電線・ケーブルの被覆材料として広く使用されている。ポリエチレン分子同士を三次元的に架橋することで耐熱性を付与した架橋ポリエチレンについても配電用途などの電線・ケーブル被覆材料として大量に使用されている。
【0003】
架橋ポリエチレンを製造する際の架橋方法は、大きく有機過酸化物架橋、電子線架橋、シラン架橋の3種類に分けることができる。
【0004】
このうち、有機過酸化物や電子線を用いた架橋方法では、有機過酸化物の熱分解や電子線の照射のために比較的大規模な設備が必要となる。
【0005】
また、電子線による架橋ポリエチレンは、架橋の均一性保持のために薄肉の電線にその適用が限られているのが現状であり、有機過酸化物を用いた製造では押出被覆と架橋が同一工程で進行するために設備の大きさに応じて押出速度が制限されてしまう。
【0006】
一方、シラン架橋は、工場内または高温高湿の倉庫内などに保管するだけで架橋が進行するため設備にかかるコストは比較的低く、押出速度の制限もないため製造コストが低減できる。このため、特に600V程度の低圧架橋ポリエチレン電力ケーブルなどでは、1970年代以降、有機過酸化物架橋からシラン架橋への切り替えが拡大している。
【0007】
また、電線・ケーブルの市場拡大の観点から、国内規格よりも要求の高いヨーロッパ規格(IEC規格)に合格することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−241235号公報
【特許文献2】特許第4041290号号公報
【特許文献3】特許第4102260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、IEC規格におけるホットセット試験に合格するためには架橋度をゲル分率60%以上に上げなければならず、このため架橋剤を増量すると、押出成形物の表面が肌荒れしやすくなる。すなわち、高い架橋度が要求される用途にシラン架橋ポリエチレンを用いる場合には、押出外観(表面の肌荒れ)が良好な成形物を得ることは難しい。
【0010】
ところで、特許文献1〜3に提案されるように、超臨界又は亜臨界技術を用いて、シラン架橋ポリマを分解してリサイクルすることが提案されている。またこのリサイクルした再生樹脂を用いて再度シラン架橋ポリマとし電線・ケーブルの押出被覆材として再利用することも提案されている。
【0011】
本発明者等は、再生樹脂において、架橋を切断した部分がシラングラフトした構造を持つため容易に架橋度を上げることができることを見出して本発明に至ったものである。
【0012】
そこで、本発明では、再生樹脂を用いて、架橋度が高く、且つ押出外観の良好な再生樹脂を含む架橋樹脂材料及びその製造方法、電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、シロキサン結合を有する樹脂をアルコールまたは炭酸エステルにより分解することで得られる熱可塑性樹脂の再生樹脂、または該再生樹脂とバージン樹脂との混合物に架橋剤およびシラノール縮合触媒を加えてシロキサン結合により架橋することを特徴とする再生樹脂を含む架橋樹脂材料である。
【0014】
請求項2の発明は、上記シロキサン結合を有する樹脂が、シラン架橋樹脂である請求項1に記載の架橋樹脂材料である。
【0015】
請求項3の発明は、再生樹脂を含む架橋樹脂材料のゲル分率が60%以上である請求項1または2に記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料である。
【0016】
請求項4の発明は、再生樹脂を含む架橋樹脂材料がシラン架橋ポリエチレンであり、該シラン架橋ポリエチレンが、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm 、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下であり、かつ冷却後の永久伸びが15%以下を満足する請求項1〜3のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料である。
【0017】
請求項5の発明は、上記再生樹脂が、10〜100質量%含む請求項1〜4のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料である。
【0018】
請求項6の発明は、熱可塑性樹脂の再生樹脂は、シロキサン結合を有する樹脂を、上記アルコールまたは炭酸エステルを用いて亜臨界もしくは超臨界状態で分解して得られる請求項1〜5いずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料である。
【0019】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料を、被覆材料として使用することを特徴とする電線・ケーブルである。
【0020】
請求項8の発明は、シロキサン結合を有する樹脂をアルコールまたは炭酸エステルにより分解することで得られる熱可塑性樹脂の再生樹脂を製造した後、該再生樹脂または該再生樹脂とバージン樹脂との混合物に架橋剤およびシラノール縮合触媒を加えて、シロキサン結合により架橋することを特徴とする再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法である。
【0021】
請求項9の発明は、上記シロキサン結合を有する樹脂が、シラン架橋樹脂である請求項8に記載の架橋樹脂材料の製造方法である。
【0022】
請求項10の発明は、再生樹脂を含む架橋樹脂材料のゲル分率が60%以上である請求項8または9に記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法である。
【0023】
請求項11の発明は、再生樹脂を含む架橋樹脂材料がシラン架橋ポリエチレンであり、該シラン架橋ポリエチレンが、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm 、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下であり、かつ冷却後の永久伸びが15%以下を満足する請求項8〜10いずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法である。
【0024】
請求項12の発明は、上記再生樹脂を10〜100質量%含む請求項8〜11のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法である。
【0025】
請求項13の発明は、熱可塑性樹脂の再生樹脂は、シロキサン結合を有する樹脂を、上記アルコールまたは炭酸エステルを用いて亜臨界もしくは超臨界状態で分解して得られる請求項8〜12いずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、再生樹脂を用いることで、比較的架橋度の高いシラン架橋ポリエチレンを製造する際にも、押出成形物表面を肌荒れしにくくさせることができる。また、バージンポリエチレンと比べてより少ない架橋剤の量でホットセット試験と押出外観を両立できることから、経済的にも効果があると言える。このシラン架橋ポリエチレン材料は、現在ほとんどマテリアルリサイクルが進んでいないシラン架橋ポリエチレンを原料とした再生樹脂(再生ポリエチレン)を使用することから優れた環境配慮材料であり、再生樹脂の特性を活かした有効な再生材の用途を提供するものである。
【0027】
IEC規格に適合することにより、架橋樹脂材料の用途が拡大するばかりでなく、リサイクル材料(再生材料)を用いることによる環境的なメリットも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例と比較例において、シラン架橋ポリエチレン被覆ケーブルの押出に使用した装置の模式図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0030】
先ず、本発明は、特許文献1や特願2008−161592号で提案に示されるような超臨界または亜臨界状態の溶媒と反応させることによりシロキサン結合を有する樹脂、特にシラン架橋樹脂から熱可塑性を有する再生樹脂を製造する技術において、特に溶媒としてアルコールまたは炭酸エステルを使用することにより再生樹脂を製造する。好ましくは、溶媒として炭酸エステルを使用した再生樹脂を用いるのが良い。炭酸エステルはアルコールに比べて再生樹脂を製造する際の処理能力が高く、炭酸エステルを用いた再生樹脂は、より優れた架橋分解効果を得られており、これにより流れ性に優れ、成形押出ししやすいためである。
【0031】
次に、この再生樹脂、または再生樹脂とバージン樹脂の混合物を、バージン樹脂の代替材料として架橋剤、シラノール縮合触媒を加えてシラン架橋処理することで、ゲル分率が60%以上であり、押出外観の良好な再生シラン架橋樹脂を得るものである。
【0032】
シラン架橋により架橋された樹脂とは、シラン架橋ポリエチレンであること、また、このシラン架橋ポリエチレンはJIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm 、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下且つ冷却後の標線間距離の変化率が加熱前の±15%以内であることを満足する材料であることが好ましい。
【0033】
特に、再生架橋樹脂材料のベース樹脂材料として、再生樹脂を10質量部以上含むことが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂の再生樹脂は、シロキサン結合を有する樹脂を、上記アルコールまたは炭酸エステルを用いて亜臨界もしくは超臨界状態で分解して得られるものである。
【0035】
得られた再生架橋樹脂材料を特に電線・ケーブルの絶縁体やシース材などの被覆材料として利用する。
【0036】
本発明において、再生樹脂を用いてシラン架橋処理すると、バージンのポリエチレンと比べて前述の方法で製造した再生樹脂は、架橋度が上がりやすく且つ高度に架橋させた場合でも押出成形物表面が平滑であることが特長である。
【0037】
前述の方法では、シラン架橋樹脂の架橋部分であるシロキサン結合を切断することにより再生樹脂を製造するので、再生樹脂は、シラン化合物がグラフトされた構造を持つ。したがって、再生樹脂はシラン化合物がグラフトされている分だけ、シラン化合物がグラフトされていないバージン樹脂よりも架橋度が上がりやすい材料であると言える。
【0038】
また再生樹脂は、バージン樹脂に比べて分子量分布が広いことから低分子量成分がワックスのような役割を担うことで特許文献3に示されるような押出機を利用した装置により再生樹脂を製造する場合には、スクリュの混練効果により分子鎖の絡み合いが少なくなることで高い架橋度でも押出成形物表面が滑らかになるものと考える。
【0039】
バージン樹脂の分子量分布Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)が5.8であるのに対して、再生樹脂の分子量分布Mw/Mnは13.1である。ちなみに、Mw/Mnが1のときは単分散(分布なし)を表し、数値が大きいほど分布が大きいことを表す。
【0040】
再生樹脂を製造するためのアルコールと炭酸エステルは、混合して使用することもできる。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、i−ペンチルアルコールより選択される1種あるいは2種以上のアルコール、炭酸エステルとしては炭酸ジメチルや炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなどを使用することができる。
【0041】
また、ゲル分率とは樹脂の架橋度を表す指標であり、樹脂を金網などの中に入れて特定の溶剤で溶かしたとき、溶かされずに金網内に残存している部分(ゲル)の重量と溶剤で溶かす前の初期の重量の百分率で表される。
【0042】
ゲル分率(%)=(乾燥後のゲルの重量(g)/初期の重量(g))×100
再生樹脂を製造する前のシラン架橋樹脂及び再生シラン架橋樹脂においては、原料である架橋前の元の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、あるいはエチレン−オクテンゴム等より選択されるオレフィン系樹脂やこれらを用いた共重合体などの単独または2種以上をブレンドしたものとすることができる。
【0043】
架橋剤としては、シラン化合物やシラン化合物を樹脂にグラフトするための開始剤が用いられ、シラン化合物は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのようなビニル基を有する有機シランが用いられ、シラン化合物をポリオレフインにグラフトするための開始剤は、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンのようなジアルキルパーオキサイド、m−(t−ブチルペルオキシイソプロピル)−イソプロピルベンゼン、p−(t−ブチルペルオキシイソプロピル)−イソプロピルベンゼン、ジクミル等のラジカル発生剤を単独あるいは、2種以上組み合わせたものが用いられる。
【0044】
架橋剤の量は、架橋樹脂材料(再生樹脂又は再生樹脂とバージン樹脂)100質量%に対して、0.5〜3.0質量%が好ましい。0.5質量%未満では架橋効果が得られず、3.0質量%を超えると押出時にスクリュのくい込みが悪くなる。より好ましくは0.5〜2.0質量%である。
【0045】
シラノール縮合触媒としては、マグネシウムやカルシウムなどのII族、コバルト、鉄などのVIII族、もしくは錫、亜鉛、チタン等の元素や金属化合物、オクチル酸またはアジピン酸の金属塩、アミン系化合物、酸などが挙げられる。より具体的には、ジブチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第一錫、カブリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸などの無機酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などの有機酸が使用される。
【0046】
シラノール縮合触媒の添加量は、架橋樹脂材料100質量%に対して、0.01〜0.30質量%が好ましい。0.01質量%未満では触媒としての効果が得られず、0.30質量%を超えると、押出時に材料が滑ってしまい、押出性が悪くなる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0048】
先ず、電線・ケーブルを図1に示した装置により製造する。
【0049】
図1において、ホッパ2より原料を押出機1に投入し、溶融混練しつつクロスヘッド3に押し出す。クロスヘッド3には、送り出し機4より導線8が供給され、その導線8に本発明の再生樹脂を含むシラン架橋樹脂材料が被覆されて電線・ケーブル9とされ、冷却水槽5を通して被覆層が冷却され、引き取り機6を介して巻き取り機7に巻き取られて製造される。
【0050】
ここで、再生樹脂は、シラン架橋樹脂を特許文献3に示されるような超臨界処理装置を用いて、超臨界状態のアルコールや炭酸エステルで分解処理して得た再生樹脂を原料とする。
【0051】
再生樹脂には押出前にシラングラフト樹脂作製のための添加剤を予め含浸しておく。また、必要に応じてシラノール縮合触媒を練り込んだマスターバッチを用意しておく。添加剤を含浸した再生樹脂をマスターバッチとともにホッパ2から投入し、押出機1内のスクリュにより混練しながらグラフト反応を起こさせ、導体8上に押出被覆して電線・ケーブル9を作製する。
【0052】
押出機1内での滞留時間は2〜3分程度であり、押出機シリンダの温度は200℃に設定した。ケーブルは冷却水槽5にて水冷した後、最終的には巻き取り機7にて回収した。
【0053】
回収したケーブルは、飽和水蒸気雰囲気にて80℃、24時間の条件で架橋処理した。架橋処理後の被覆材(シラン架橋樹脂)を1cm×3cm程度の短冊状に切断してゲル分率を測定した。
【0054】
また、JIS C 3660−2−lの9に準拠してダンベル状に打ち抜きホットセット試験を行った。試験条件は加熱温度200℃、加熱時間l5分、荷重20N/cm とした。
【0055】
実施例、比較例においては、押出機1として直径40mmの単軸押出機を用い、アルコールや炭酸エステルで分解処理する前のシラン架橋樹脂として、600V架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブルの絶縁体として製造されたシラン架橋ポリエチレンを用いて実験を行った。
【0056】
シラン架橋ポリエチレンを特許文献3に示された超臨界処理装置を用いて、超臨界状態のメタノールまたは1−プロパノールまたは炭酸ジメチルにより分解することで、熱可塑性を有する再生ポリエチレンを得た。
【0057】
再生ポリエチレンまたは再生ポリエチレンとバージンポリエチレンの混合物を原料としたシラン架橋ポリエチレンを製造するために、表1のとおり添加剤を配合した。また、ロール機を用いてシラノール縮合触媒(ジブチル錫ジラウレート)をバージンポリエチレンに練り込みマスターバッチを作製した。
【0058】
添加剤を含浸させた再生ポリエチレンまたは再生ポリエチレンとバージンポリエチレンの混合物に、マスターバッチ(バージンポリエチレン+シラノール縮合触媒)を加えたものを用意し、図1で説明した押出機でシラングラフト処理を行い、ケーブル被覆材として押出した。
【0059】
押出温度は200℃、導体公称断面積は2mm 、被覆厚は0.8mmとした。
【0060】
押出外観については、被覆材表面の粗さを、目視及び手触りで評価し、十分に平滑であると判断したものを良好(合格)とした。
【0061】
押出したケーブルは80℃の飽和水蒸気中で24時間架橋処理した。架橋処理後のケーブル被覆材を用いてゲル分率の測定、ホットセット試験を行った。ホットセット試験はJIS C 3660−2−1の9に準拠して実施し、加熱後の標線間距離(加熱前20mm)が加熱前の175%以下であり且つ冷却後の標線間距離の変化率が加熱前の±15%以内であれば合格とした。また、加熱中に試験片が伸びて破断したものは、破断した時点で試験を中止して不合格とした。
【0062】
【表1】

表lより、実施例1、3のようにベースポリエチレンとしてメタノール分解処理した再生ポリエチレンのみを使用し、マスターバッチを加えた場合、架橋剤の量を調整することにより押出外観が良好であり、且つホットセット試験に合格することが分かった。このときのゲル分率は、実施例1が77%、実施例3は60%であった。
【0063】
これに対し、比較例7は、実施例1の再生ポリエチレンを用いずに、バージンポリエチレンとマスターバッチのみにした配合であるが、実施例1の配合の方が高いゲル分率を持つ再生シラン架橋ポリエチレン材料を製造できることが分かる。これは、再生ポリエチレンにはシラン化合物がグラフトされているためであり、同量の架橋剤を用いた場合、バージンポリエチレンに比べて再生ポリエチレンは、高いゲル分率を得ることができ、押出外観は損なわずに高いゲル分率が必要なシラン架橋ポリエチレンを製造するための原料として適していると言える。
【0064】
また、比較例8は、バージンポリエチレンとマスターバッチのみを用い、架橋剤を1.5質量部加えて架橋させたもので、実施例1よりも低いゲル分率であるにもかかわらず押出外観が悪く、実施例1では、ゲル分率が比較例8より高くても押出外観が良好であった。これは、架橋剤を低減できたこと、およびバージンポリエチレンに比べて再生ポリエチレンは分子量分布が広く、低分子量成分が多いために、押出成形物の表面が平滑になりやすいためと考える。加えて、特許文献3に示されるような押出機を利用した装置により再生樹脂を製造することにより、スクリュの混練作用で分子鎖の絡み合いが少なくなっていることも要因と考える。
【0065】
実施例3は、実施例1に対して架橋剤を減量したものであるが、押出外観が良好であり、且つホットセット試験に合格できるシラン架橋ポリエチレンが製造可能な配合であり、使用原料を低減できるので、経済的なメリットが大きい。
【0066】
実施例2は、メタノール分解処理した再生ポリエチレン(10質量部)とバージンボリエチレン(85質量部)の混合物をベースポリエチレンとした場合であり、押出外観が良好であり、且つホットセット試験に合格できることが分かる。
【0067】
これにより、再生樹脂は10質量部以上用いるのがよい。
【0068】
実施例4〜6は、炭酸ジメチルで分解処理した再生ポリエチレンを使用した場合であり、実施例1〜3のメタノールの場合と同様に押出外観が良好であり、且つホットセット試験に合格できる再生シラン架橋ポリエチレンを得られることが分かる。
【0069】
実施例7は、1−プロパノールで分解処理した再生ポリエチレンを使用した場合であり、実施例1〜6のメタノール及び炭酸ジメチルの場合と同様に押出外観が良好であり、且つホットセット試験に合格できる再生シラン架橋ポリエチレンを得られることが分かる。
【0070】
これらの実験結果より、メタノール、炭酸ジメチル、1−プロパノールで分解処理した再生ポリエチレンまたは再生ポリエチレンとバージンポリエチレンの混合物をベースポリエチレンとして用いれば、ホットセット試験に合格でき且つ押出成形物の表面が平滑な再生シラン架橋ポリエチレンを製造できることが分かった。
【0071】
比較例1〜3は、メタノールまたは炭酸ジメチルまたは1−プロパノールにより分解処理した再生ポリエチレンとマスターバッチのみを使用した場合であるが、架橋剤を添加しなければ、ゲル分率は45%、43%、40%までしか上がらず、ホットセット試験に合格しないことが分かった。よって、架橋剤は少なくとも0.5以上必要であることが分かる。
【0072】
また、比較例4〜6は、シラノール縮合触媒を含むマスターバッチを添加しない例であり、ゲル分率は10%、9%、6%までしか上がらず、ホットセット試験に合格しないことが分かった。これは、樹脂がシラングラフトされていてもシラノール縮合触媒がなければ架橋反応が起こらないためである。
【0073】
また、バージンポリエチレンのみをベースポリエチレンとして実施例と同様の検討を行った比較例7は、実施例1、4、7に示すメタノールまたは炭酸ジメチルまたは1−プロパノールで分解処理した再生ポリエチレンを使用した場合よりもゲル分率が低くホットセット試験に合格できなくなることが分かった。
【0074】
比較例8に示すように架橋剤を増量すれば、実施例1、4に示す程度までゲル分率は増大し、ホットセット試験には合格するが、実施例1、4とは異なりケーブル被覆材の表面がざらついてしまうことが分かった。つまり、バージンポリエチレンを使用した場合、再生ポリエチレンと比べて押出外観が悪くなることが分かった。
【0075】
比較例7と8の間の範囲で架橋剤の量を調整すれば、ホットセット試験および押出外観を両立できる可能性はある。ここで、同等のゲル分率を有するシラン架橋ポリエチレンを製造するときには、バージンポリエチレンに比べて再生ポリエチレンは、より少量の架橋剤で済むこと、また高いゲル分率のシラン架橋ポリエチレンを製造する際にはより材料表面のざらつきが小さいことから、バージンポリエチレンよりも再生ポリエチレンの方が高いゲル分率を求められるシラン架橋ポリエチレンの原料として適しているということがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1 押出機
2 ホッパ
3 クロスヘッド
4 送り出し機
5 水槽
6 引き取り機
7 巻き取り機
8 導線
9 ケーブル(被覆後の導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン結合を有する樹脂をアルコールまたは炭酸エステルにより分解することで得られる熱可塑性樹脂の再生樹脂、または該再生樹脂とバージン樹脂との混合物に架橋剤およびシラノール縮合触媒を加えてシロキサン結合により架橋することを特徴とする再生樹脂を含む架橋樹脂材料。
【請求項2】
上記シロキサン結合を有する樹脂が、シラン架橋樹脂である請求項1に記載の架橋樹脂材料。
【請求項3】
再生樹脂を含む架橋樹脂材料のゲル分率が60%以上である請求項1または2に記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料。
【請求項4】
再生樹脂を含む架橋樹脂材料がシラン架橋ポリエチレンであり、該シラン架橋ポリエチレンが、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm 、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下であり、かつ冷却後の永久伸びが15%以下を満足する請求項1〜3のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料。
【請求項5】
上記再生樹脂が、10〜100質量%含む請求項1〜4のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料。
【請求項6】
熱可塑性樹脂の再生樹脂は、シロキサン結合を有する樹脂を、上記アルコールまたは炭酸エステルを用いて亜臨界もしくは超臨界状態で分解して得られる請求項1〜5のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料を、被覆材料として使用することを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項8】
シロキサン結合を有する樹脂をアルコールまたは炭酸エステルにより分解することで得られる熱可塑性樹脂の再生樹脂を製造した後、該再生樹脂または該再生樹脂とバージン樹脂との混合物に架橋剤およびシラノール縮合触媒を加えて、シロキサン結合により架橋することを特徴とする再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法。
【請求項9】
上記シロキサン結合を有する樹脂が、シラン架橋樹脂である請求項8に記載の架橋樹脂材料の製造方法。
【請求項10】
再生樹脂を含む架橋樹脂材料のゲル分率が60%以上である請求項8または9に記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法。
【請求項11】
再生樹脂を含む架橋樹脂材料がシラン架橋ポリエチレンであり、該シラン架橋ポリエチレンが、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm 、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下であり、かつ冷却後の永久伸びが15%以下を満足する請求項8〜10のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法。
【請求項12】
上記再生樹脂を10〜100質量%含む請求項8〜11のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂の再生樹脂は、シロキサン結合を有する樹脂を、上記アルコールまたは炭酸エステルを用いて亜臨界もしくは超臨界状態で分解して得られる請求項8〜12のいずれかに記載の再生樹脂を含む架橋樹脂材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−80019(P2011−80019A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235639(P2009−235639)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】