説明

再生治療システム

本発明は、細胞を用いて効率よく、有効に再生医療に活かせる技術を提供することを課題とする。従って、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法であって:A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;およびB)該一部または該幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、を包含する、方法を提供する。本発明はまた、そのような方法において使用するフィーダー細胞、システムなども提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、再生医療の分野にある。より詳細には、本発明は、臓器、組織および細胞を再生および維持するための技術に関する。本発明はまた、本発明の技術を利用した再生治療方法およびシステムを提供する。
【背景技術】
再生医療は、近年頓に研究が進展し、その可能性が注目されている。その材料として利用される胚性幹(ES)細胞は、マウス由来のSTO細胞株またはマウス胎児から調製したマウス初代培養繊維芽細胞などのフィーダー細胞層上で培養することが必須とされている。このようなマウス初代培養細胞は、マウスの他、他の種の幹細胞を支持することも知られている。
再生医療には種々の分野があるが、そのような再生医療分野において、現在もっとも脚光を浴びているプロジェクトの一つが角膜再生医療である。従来、ヒトの再生治療では、体外で異種細胞であるマウス繊維芽細胞を用いる必要があり、臨床導入の大きな壁となっている。なぜなら、現在の角膜再生医療では異種動物細胞をフィーダー細胞として用いざるを得ないからである。この場合の移植組織の臨床観察期間はFDAの指針として20年と決められているが、このような基準は実際の医療への応用を考えた場合、実務的ではない。
一方、脂肪にも幹細胞があることが分かってきた(WO03/022988およびWO00/53795)。脂肪にある幹細胞は、他の組織(例えば、骨髄)に比べて、その供給源が豊富であり、存在率も多いようであることから、その利用が注目されている。しかし、幹細胞自身を再生治療における支持体またはフィーダーとして使用するという発想は報告されていない。
ヒトでの治療には、ヒトに由来する細胞または細胞成分を利用することが好ましいが、ヒトに由来する細胞をフィーダー細胞として用いた例で首尾よくいくという報告はほとんどない。従来、ヒトに由来する細胞から樹立された細胞株を用いる場合は、フィーダーとしての効率が悪いともいわれており、ヒト由来の細胞は、有効なフィーダー細胞として使用できないと予測されている。
例えば、特開2002−0072117号公報では、ヒトES細胞を培養するためのフィーダー細胞として、ヒト由来間葉系幹細胞または繊維芽細胞の細胞株を記載する。この細胞は、多能性幹細胞(ES細胞)から分化し不死化させた細胞株であり、悪性ではないようである。しかし、そのフィーダー効率は低い。WO95/02040では、ヒト造血性前駆細胞を培養するためのフィーダー細胞が記載される。しかし、この細胞は、細胞株化されたヒト由来すとローマ細胞であり、これは骨髄ストローマHS−5であると記載されている。この細胞は、LIF、KL、MIP1α、IL−6を分泌すると言われている。特許文献5は、主に血液細胞を培養するためのフィーダー細胞L87/4あるいはL88/5を記載する。この細胞は、ヒト骨髄ストローマ細胞に放射線照射し不死化し細胞株化したものであり、この放射線照射骨髄ストローマ細胞はG−CSF、IL−6の発現が増大している。特開2003−143736号公報は、ヒトES細胞を培養するためのフィーダー細胞を記載する。このフィーダー細胞はヒト・成体/胎児/胚性細胞あるいはこれらの組み合わせであり、さらに繊維芽細胞/皮膚細胞/筋肉組織中の繊維芽細胞/上皮細胞あるいはこれらの組み合わせであると記載されている。しかし、これらはみな細胞株化されており、フィーダー細胞はさらにファロピーオ管繊維芽細胞のような物を含むようである。特開2003−143736号公報では、フィーダー細胞はまず初期培養時にHFE培地で培養し、確立し、その後、さらに続いてHM培地で培養し、増殖させ、細胞株化させたものである(Detroit551、MRC−5、WI−38)。
とはいうものの、ヒト由来の細胞をフィーダー細胞などの再生治療に必須な成分として使用することが好ましいことは万人が感ずるところで、特にエキソビボでもフィーダー細胞として使用することができるヒト由来の細胞の登場が待たれている。
医療技術の著しい発展により、近年、治療困難となった臓器を他人の臓器と置き換えようとする臓器移植が一般化してきた。しかしながら、未だにドナー数が少なく、角膜移植を例にとると、国内だけでも角膜移植の必要な患者が年間約2万人出てくるのに対し、実際に移植治療が行える患者は約1/10の2000人程度でしかないといわれている。角膜移植というほぼ確立された技術があるにもかかわらず、ドナー不足という問題のため、次なる医療技術が求められているのが現状である。
このような背景のもと、以前より、人工代替物や細胞を培養して組織化させたものをそのまま移植しようという技術が注目されている。その代表的な例として、人工皮膚および培養皮膚があげられよう。ここで、合成高分子を用いた人工皮膚は拒絶反応等が生じる可能性があり、移植用皮膚としては好ましくない。一方、培養皮膚は本人の正常な皮膚の一部を所望の大きさまで培養したものであるため、これを使用しても拒絶反応等の心配がなく、最も自然なマスキング剤と言える。
特公平2−23191号公報には、ヒト新生児由来表皮角化細胞を、ケラチン組織の膜が容器表面上に形成される条件下で培養し、生成したケラチン組織膜を酵素を用いて剥離させることを特徴とする移植可能な培養細胞膜を製造する方法が記載されている。具体的には、3T3細胞をフィーダーレイヤーとして用いることで、播種した表皮細胞は増殖し、しかもそのまま重層化してしまうというものである。この方法は、今や表皮角化細胞を培養する方法の主流にまでなっている。しかしながら、この方法には欠点があり、すなわち上記3T3細胞がマウス由来の細胞である点がよく指摘される。一般的には、表皮角化細胞を培養している間にこの3T3細胞は消失すると言われているが、未だに100%消失したことを証明することができていないのが現状である。
この点を解決すべく、これまでに種々の検討がなされてきた。例えば、別の培養基材上で3T3細胞を培養し、表皮角化細胞に有効な物質を培地中に出させ、その上清だけを表皮角化細胞を培養している系に移す方法があげられる(特開平9−313172号公報、特開2001−149070号公報)。しかしながら、この方法でも、異種動物の細胞自身の混入は防げても、異種動物細胞が産生するさまざまな蛋白質を分割している訳でなく、基本的に同様な問題が残されている。その他に、ヒト由来の細胞をフィーダーレイヤーとして利用しようとする試みもなされているが、未だに上記3T3細胞並みの活性を持った細胞が得られておらず、3T3細胞に代わる有効な技術が強く望まれていた。従来の方法の総集編である幹細胞・クローン 研究プロトコール 中辻編、羊土社(2001)にも、画期的な方法は記載されていない。
特開2004−248655号公報では、培地に注目したが、依然として、フィーダー細胞が必要なことには変わりはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、細胞を用いて、効率よく、有効に再生医療に活かせる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
本発明のシステムは、脂肪組織由来の細胞がフィーダー細胞として利用することができる点を見出したことによって達成される。別の局面では、ヒト由来の線維芽細胞にて上記課題を解決した。好ましい実施形態では、本発明のシステムでは、自己細胞を用いることができ、きわめて有効かつ汎用性の高い治療法であるといえる。従って、本発明は、以下を提供する。
(1)フィーダー細胞として用いるための、脂肪組織に由来する細胞。
(2)上記フィーダー細胞は、胚性幹細胞、組織幹細胞または分化細胞を分化または維持するためのものである、項目1に記載の細胞。
(3)上記フィーダー細胞は、表皮への分化または維持をさせるためのものである、項目1に記載の細胞。
(4)上記フィーダー細胞は、角膜への分化または維持をさせるためのものである、項目1に記載の細胞。
(5)上記細胞は、組織幹細胞を含む、項目1に記載の細胞。
(6)上記細胞は、線維芽細胞を含む、項目1に記載の細胞。
(7)上記細胞は、初代培養細胞を含む、項目1に記載の細胞。
(8)上記細胞は、ヒト細胞を含む、項目1に記載の細胞。
(9)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;および
B)上記一部または上記幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、
を包含する、方法。
(10)上記所望の臓器、組織または細胞は、表皮系のものを含む、項目9に記載の方法。
(11)上記所望の臓器、組織または細胞は、角膜、骨、筋肉、軟骨、心臓、心膜、血管、皮膚、腎臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、四肢末梢、脂肪および網膜ならびにその一部からなる群より選択される、項目9に記載の方法。
(12)上記フィーダー細胞は、組織幹細胞を含む、項目9に記載の方法。
(13)上記フィーダー細胞は、線維芽細胞を含む、項目9に記載の方法。
(14)上記フィーダー細胞は、初代培養細胞を含む、項目9に記載の方法。
(15)上記被検体と上記フィーダー細胞とは、同じ種である、項目9に記載の方法。
(16)上記被検体はヒトであり、上記フィーダー細胞はヒト細胞である、項目9に記載の方法。
(17)上記培養は、エキソビボで行われる、項目9に記載の方法。
(18)上記一部または上記幹細胞と、上記フィーダー細胞とは、異種、同種異系または同系である、項目9に記載の方法。
(19)上記一部または上記幹細胞と、上記フィーダー細胞とは、同系である、項目9に記載の方法。
(20)上記一部または上記幹細胞は、被検体から摘出されてすぐのものであるか、または凍結保存されたものである、項目9に記載の方法。
(21)上記培養は、ウシ胎仔血清、インスリンおよびコレラトキシンからなる群より選択される少なくとも1つの因子の存在下で行われる、項目9に記載の方法。
(22)上記培養は、上記一部または上記幹細胞と、上記フィーダー細胞との比率を、10:1〜1:10の比率で行うことを特徴とする、項目9に記載の方法。
(23)上記培養は、上記一部または上記幹細胞より、上記フィーダー細胞を少なくして行うことを特徴とする、項目9に記載の方法。
(24)上記培養は、細胞生理活性物質を含む培養液において行われる、項目9に記載の方法。
(25)上記培養は、上皮増殖因子(EGF)を含む培養液において行われ、上記所望の臓器、組織または細胞は、角膜またはその組織もしくは細胞を含む、項目9に記載の方法。
(26)上記フィーダー細胞の増殖を抑制する工程、をさらに包含する、項目9に記載の方法。
(27)上記フィーダー細胞の増殖抑制は、抗生物質の投与または放射線照射によって達成される、項目26に記載の方法。
(28)上記抗生物質は、マイトマイシンCを含む、項目27に記載の方法。
(29)被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムであって:
A)容器;
B)脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、
を備える、システム。
(30)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供するための提供手段をさらに備える、項目29に記載のシステム。
(31)上記提供手段は、上記一部または上記幹細胞を、上記被検体から取り出すための手段を包含する、項目30に記載のシステム。
(32)上記手段は、カテーテル、かきとり棒、ピンセット、注射器、医療用はさみおよび内視鏡からなる群より選択される手段を包含する、項目31に記載のシステム。
(33)細胞生理活性物質をさらに備える、項目29に記載のシステム。
(34)EGFをさらに備える、項目29に記載のシステム。
(35)上記フィーダー細胞の増殖を抑制する手段、をさらに包含する、項目29に記載のシステム。
(36)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;
B)上記一部または上記幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;および
C)上記培養された上記一部または上記幹細胞を上記被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
(37)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞を、上記被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
(38)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、
を含む、医薬。
(39)フィーダー細胞としての、脂肪組織に由来する細胞の使用。
(40)フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用。
(41)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用。
(42)フィーダー細胞として用いるための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞。
(43)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;および
B)上記一部または上記幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、
を包含する、方法。
(44)被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムであって:
A)容器;
B)ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、
を備える、システム。
(45)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;
B)上記一部または上記幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;および
C)上記培養された上記一部または上記幹細胞を上記被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
(46)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞を、上記被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
(47)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、
を含む、医薬。
(48)フィーダー細胞としての、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
(49)フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
(50)被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
(51)上皮組織を再生するための移植片であって、幹細胞または上記幹細胞に由来する細胞を含む、移植片。
(52)上記上皮組織は角膜である、項目51に記載の移植片。
(53)上記幹細胞は、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞からなる群より選択される、項目51に記載の移植片。
(54)上記幹細胞は、上皮幹細胞である、項目51に記載の移植片。
(55)上記幹細胞は、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞からなる群より選択される、項目51に記載の移植片。
(56)上記幹細胞または幹細胞に由来する細胞は、フィーダー細胞と共培養されたものである、項目51に記載の移植片。
(57)上記フィーダー細胞として、ヒト由来の細胞が用いられる、項目516に記載の移植片。
(58)上記ヒト由来の細胞は、脂肪由来細胞、胚性幹細胞、または骨髄幹細胞を含む、項目57に記載の移植片。
(59)上記胚性幹細胞または骨髄幹細胞としては、フィーダー細胞を抜いてDMEM+10%FBSで培養された細胞が使用される、項目58に記載の移植片。
(60)上記フィーダー細胞は、脂肪組織に由来する細胞を含む、項目56に記載の移植片。
(61)上記フィーダー細胞との共培養は、細胞接着が促進する条件で行われる、項目56に記載の移植片。
(62)上記移植片は、重層化した細胞を含む、項目51に記載の移植片。
(63)上記移植片は、無縫合移植に使用される、項目51に記載の移植片。
(64)上記移植片は、異種由来成分を含まないことを特徴とする、項目51に記載の移植片。
(65)上皮組織を再生するための移植片としての医薬を調製するための使用であって、上記移植片は、幹細胞または上記幹細胞に由来する細胞を含む、使用。
(66)上記上皮組織は、角膜である、項目65に記載の使用。
(67)上記幹細胞は、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞からなる群より選択される、項目65に記載の使用。
(68)上記幹細胞は、上皮幹細胞である、項目65に記載の使用。
(69)上記幹細胞は、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞からなる群より選択される、項目65に記載の使用。
(70)上記幹細胞または幹細胞に由来する細胞は、フィーダー細胞と共培養されたものである、項目65に記載の使用。
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
【発明の効果】
豊富に入手可能なソースを用いて再生治療システムが提供される。このような効果は、従来達成できなかった効果である。好ましい実施形態では、本発明は、自己由来の角膜を体外培養し移植するものである。したがって、この好ましい実施形態では、本システムを用いれば、自己の細胞を有効かつ簡易に使用できるので、従来言われていた懸案事項(例えば、感染症の危険など)はなくなる。しかも免疫拒絶反応が皆無である点など、従来ある再生医療の技術自体の汎用性を飛躍的に増大させる。角膜再生医療の細胞ソースとして、倫理的社会的なニーズは極めて多い。さらに、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を使用する場合、本システムを用いれば、懸念されたFDAの作った細胞治療指針も満たすことができ、その効果は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
図1は、培養細胞シート移植による角膜再生医療法の開発の模式図を示す。脂肪組織由来フィーダー細胞を用いた角膜再生医療を示す。
図1Bは、脂肪前駆細胞のmRNA発現を示す。NIH/3T3において上皮系の細胞の増殖、維持に影響を及ぼしているであろうと考えられるタンパク質等について、脂肪前駆細胞におけるmRNAの発現を解析した。特に、シスタチンC、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、インスリン様増殖因子(IGF)−1aを発現しており、脂肪前駆細胞は上皮系の細胞に対して、フィーダー細胞と成りえるのではないかと考えられる。
図2は、実施例6におけるコントロールとして用いた3T3フィーダー細胞(2×10細胞/cm)での角膜上皮幹細胞の様子である。
図3は、実施例6における本発明のフィーダー細胞(深部組織由来;(1×10細胞/cm))での角膜上皮幹細胞の様子である。上段・下段は、マイトマイシン濃度の相違(上段:40μg/ml;下段:80μg/ml)を示す。
図4は、実施例6における本発明のフィーダー細胞(皮下組織由来;(1×10細胞/cm))での角膜上皮幹細胞の様子である。上段・下段は、マイトマイシン濃度の相違(上段:16μg/ml;下段:16μg/ml)を示す。
図4Bは、ヒト角膜上皮細胞コロニーアッセイを示す。ヒト角膜上皮幹細胞に対するヒト脂肪組織由来の細胞のフィーダー効果が示されている。NIH/3T3および脂肪前駆細胞にX線(20Gy)を照射した後、1日培養後トリプシン処理を行いフィーダー細胞とした。ここに、ヒト角膜上皮細胞を1000細胞/皿の密度で播種した。培養14日目にホルマリン固定を行いローダミンB染色を行った。NIH/3T3フィーダーと比較し、脂肪前駆脂肪フィーダーでは大きいコロニーが観察された。
図4Cは、コロニー形成率を示す。ヒト角膜上皮幹細胞に対するヒト脂肪組織由来の細胞のフィーダー効果が示されている。コロニー形成率の比較は、n=6で行われた。NIH/3T3フィーダーおよび脂肪前駆細胞フィーダーにて培養を行ったコロニーのうち、直径5mm以上のものをコロニーとし、目視にてコロニー数をカウントした。播種数(1000cells)を分母としコロニー数を分子としてコロニー形成率を算出した。コロニー形成率では、NIH/3T3フィーダーの方が脂肪前駆細胞フィーダーのおよそ2倍の形成率であった。
図4Dは、平均コロニー面積を示す。ヒト角膜上皮幹細胞に対するヒト脂肪組織由来の細胞のフィーダー効果が示されている。平均コロニー面積の比較は、n=6で行われた。NIH/3T3フィーダーおよび脂肪前駆細胞フィーダーにて培養を行ったコロニーのサイズをNIH imageを用いて測定した。平均コロニーサイズは、脂肪フィーダーの方がNIH/3T3と比較しおよそ2.4倍であった。
図4Eは、皿全体に対するコロニー占有面積率を示す。ヒト角膜上皮幹細胞に対するヒト脂肪組織由来の細胞のフィーダー効果が示されている。図4Cと図4Dとから算出した。皿全体に対するコロニー占有面積率がn=6で示されている。皿面積に対するコロニーの占有面積の割合(全コロニー面積/皿面積)を算出した。個々のコロニーの大きさは、脂肪前駆細胞フィーダーの方が大きいため、皿に対するコロニー占有面積率はNIH/3T3フィーダーと比較し、脂肪前駆細胞フィーダーの方がおよそ1.5倍、高い値を示した。
図5は、実施例9において示した本発明のフィーダー細胞が有する幹細胞のシート化における効果を実証する写真である。ヒト角膜上皮細胞は、1×10細胞/35mm N−イソプロピルアクリルアミド(NIPPAM)を使用する。左は3T3細胞(2×10cells/cm)、真ん中はヒト線維芽細胞初代培養細胞(2×10cells/cm)、および左はコントロール(フィーダー細胞なし)を示す。上段は培養開始7日目を示し、下段は培養開始10日目を示す。
図6は、角膜上皮細胞シートの作製例を示す。NIH/3T3細胞および脂肪前駆細胞をフィーダー細胞として用いて作製したヒト培養角膜上皮細胞シートの比較である。上がNIH/3T3細胞をフィーダー細胞として、下が脂肪前駆細胞をフィーダー細胞として用いて作製した例である。X線処理を行ったNIH/3T3および脂肪前駆細胞をフィーダーとし、ヒト角膜上皮細胞の培養を行った。35mm dish(NIPAAm)に1×10cells/dishの密度で角膜上皮細胞を播種し、培養14日目に剥離し角膜上皮細胞シートを得た。
脂肪前駆細胞フィーダーを用いて培養を行った角膜上皮細胞は、敷居石状に配列しており、NIH/3T3フィーダーで培養を行った角膜上皮細胞と比較しても遜色ないものであった。
図7は、角膜上皮細胞シートのHE染色例を示す。NIH/3T3細胞および脂肪前駆細胞をフィーダー細胞として用いて作製したヒト培養角膜上皮細胞シートの比較である。上がNIH/3T3細胞をフィーダー細胞として、下が脂肪前駆細胞をフィーダー細胞として用いて作製した例である。NIH/3T3フィーダーおよび脂肪前駆細胞フィーダーで作成した角膜上皮シートは、いずれも3〜4層の上皮細胞から成っており、基底部には比較的小さな基底細胞が認められ、上層は扁平上皮細胞が認められた。脂肪前駆細胞フィーダーで作成した角膜上皮細胞シートはNIH/3T3フィーダーと比較もほとんど遜色の無いものであった。
図7Bは、採取した細胞シートが3〜5層の細胞層が形成されることをH&E染色にて確認したものを示す。
図7Cは、もとの口腔粘膜のH&E染色図であり、細胞シートとは全く異なることが分かる。
図7Dは、正常な角膜上皮細胞を示す。細胞シートは、この角膜上皮細胞に類似している。
図7Eは、本発明において使用される細胞シートの先端表面における微絨毛の発達を顕微鏡写真に下物を示す。
図7Fは、本発明において使用される細胞シートを抗ケラチン3抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
図7Gは、本発明において使用される細胞シートを抗β1インテグリン抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
図7Hは、本発明において使用される細胞シートを抗p63抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
図7Iは、本発明の移植片を角膜に移植するプロセスを示す。図7I−Aは、角膜表面全体を示す。血管新生が結膜に見られる。図7I−Bは、角膜上の結膜組織を示す。再暴露して角膜間質が表面に見えている。図7I−Cは、細胞シートを、ドーナツ型サポーターを用いて採取する様子を示す。図7I−Dは、この細胞シートを角膜間質に配置したところである。図7I−Eは、細胞シートが数分間で接着し、その後サポーターをはずしたところを示す。図7I−Fは、細胞シートが角膜間質に定着した様子を示す。
図7Jは、術後の各患者の目の様子を示す。図7J−1〜図7J−4は、それぞれの患者を示す。各数字は、上記表における患者番号に一致する。左は術前を示し。右は術後を示す。
図8は、ヒトケラチノサイトコロニーアッセイを示す。脂肪前駆細胞のフィーダー効果を見たものである。脂肪前駆細胞のヒトケラチノサイトに対するフィーダー効果がコロニーアッセイにより確認された。NIH/3T3および脂肪前駆細胞にX線(20Gy)を照射した後、1日培養後トリプシン処理を行いフィーダー細胞とした。ここに、ヒトケラチノサイトを1×10cells/dishの密度で播種した。培養14日目にホルマリン固定を行い、ローダミンB染色を行った。ケラチノサイトにおいても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示し、角膜上皮細胞以外にも上皮系細胞のフィーダー細胞として働く可能性が示唆される。
図9は、脂肪前駆細胞のヒト血管内皮細胞に対するフィーダー効果を示す。脂肪前駆細胞のフィーダー効果を見たものである。脂肪前駆細胞のヒト血管内皮細胞に対するフィーダー効果が管形成として確認された。ヒト脂肪前駆細胞が血管形成を促進するようなフィーダー細胞となるかを確認するために、脂肪前駆細胞の培養上清を3次元でのヒト血管内皮細胞と繊維芽細胞の共培養系(Kurabo)に添加したところ、内皮細胞の培養上清に比較して管腔形成能は有意に亢進した。また、同様に内皮細胞の遊走能に関しても検討したところ、脂肪前駆細胞の培養上清は内皮細胞の培養上清に比較して有意に亢進させた。つまりヒト血管内皮細胞に置いても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示すことが明らかになった。使用したキットは、Angiogenesis kit(Kurabo,Tokyo,Japan)である。
図10は、脂肪前駆細胞のヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MNC)に対するフィーダー効果を示す。脂肪前駆細胞のフィーダー効果を見たものである。脂肪前駆細胞のヒト骨髄由来間葉系幹細胞に対するフィーダー効果が確認された。培養液(10%FCS+DMEM)のみと培養液に加えてマウス脂肪前駆細胞をフィーダー細胞とした条件で比較した。マウス骨髄よりHistopaque(密度勾配遠心分離法)にて骨髄単核球を分離し両者に播種した。培養7日目に浮遊細胞を分離し、メイギムザ染色を行なった。骨髄単核球に置いても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示すことが明らかになった。
配列表の説明
配列番号1は、プレイオトロフィン(pleiotrophin)検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号2は、プレイオトロフィン(pleiotrophin)検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号3は、エピレグリン(epiregulin)検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号4は、エピレグリン(epiregulin)検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号5は、肝細胞増殖因子検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号6は、肝細胞増殖因子検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号7は、ケラチノサイト増殖因子検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号8は、ケラチノサイト増殖因子検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号9は、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog)検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号10は、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog)検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号11は、インスリン様増殖因子1a検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号12は、インスリン様増殖因子1a検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号13は、グリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)検出のためのセンスプライマーを示す。
配列番号14は、GAPDH検出のためのアンチセンスプライマーを示す。
配列番号15は、シスタチンCのセンスプライマーを示す。
配列番号16は、シスタチンCのアンチセンスプライマーを示す。

【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「臓器」と「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、筋肉、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(例えば、β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3カ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。
本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず,ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜、関節、軟骨および骨の組織が挙げられるがそれらに限定されない。最も好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織は、角膜である。
本明細書において「脂肪組織」とは、脂肪の貯蔵組織の総称である。疎性結合組織のうち、特に脂肪細胞の多いもの、皮下脂肪組織などがある。各脂肪細胞は格子繊維によって囲まれ,細胞間に毛細血管が密に分布し、脂肪体を形成することがおおい。本明細書では、どのような脂肪組織も供給源とすることができる。脂肪体は、他の組織から独立してほぼ一定した塊状もしくは房状の脂肪組織であり、脊椎動物では腎臓または生殖腺に接して腹腔内に存在する。白色、黄色または橙色をしていることが多い。
本明細書において「膜状組織」とは、「平面状組織」ともいい、膜状の組織をいう。膜状組織には、心膜、硬膜、角膜などの器官の組織または袋状組織の一定面積部分の組織などが挙げられる。
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群あるいは人工物であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。従って、本発明の細胞培養物は、移植片として用いることができる。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、角膜、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部または損傷部に差し込んでもしくは置き換えて欠損または損傷を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(donor)の種類によって、自己(自家)移植片(autograft)、同種移植片(同種異系移植片)(allograft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織もしくはその一部(例えば、口腔粘膜、角膜の一部など)、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。また、このような供給源をそのまま細胞として用いることもできる。
本発明において使用される細胞は、脂肪細胞またはその対応物がある限り、どの生物由来の細胞(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)でも用いることができる。好ましくは、そのような細胞は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、最も好ましい実施形態では、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは間葉系幹細胞、上皮幹細胞のような組織幹細胞であり得るが、状況に応じて胚性幹細胞も使用され得る。このような組織幹細胞は、組織から分離する際には、ディスパーゼ処理を行うことができる。
本明細書において幹細胞というときは、幹細胞を少なくとも一定量含む組織集合物をさすことが理解される。したがって、本明細書では、幹細胞は、例えば、コラゲナーゼ処理して脂肪組織から採取した幹細胞(実施例において使用される幹細胞など)を用いることができるがそれらに限定されない。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「上皮幹細胞」とは、上皮組織に由来する幹細胞をいう。上皮組織としては、例えば、角膜、口腔粘膜、皮膚、結膜、膀胱、尿細管、腎臓、消化器官(食道、胃、小腸、十二指腸、大腸)、肝臓、膵臓、乳腺、唾液腺、涙腺、前立腺、毛根、気管、肺などをあげることができるがそれらに限定されない。
本明細書において「脂肪幹細胞」または「脂肪前駆細胞」とは、脂肪組織に由来する幹細胞をいう。このような幹細胞の分離方法の一部は公知であり、例えば、幹細胞・クローン 研究プロトコール 中辻編、羊土社(2001)などに記載される方法を利用して分離することができる。これらの文献に記載された事項は、本明細書において特に関連する場所が参考として援用される。あるいは、脂肪幹細胞は、WO00/53795;WO03/022988;WO01/62901;Zuk,P.A.,et al.、Tissue Engineering,Vol.7,211−228、2001;Zuk,P.A.,et al.、Molecular Biology of the Cell Vol.,13,4279−4295、2002などに記載される方法またはその改変を利用して調製することができる。具体的には、例えば、(1)脂肪吸引物を分液漏斗を用いて生理食塩水で十分に洗浄し;(2)上層に脂肪吸引物、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨てる。肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返し;(3)脂肪吸引物と同量の0.075%コラゲナーゼ/PBSを加え、37℃でよく攪拌しながら30分間インキュベートし;(4)上記の試料に等量の10%血清加DMEMを加え;(5)上記の試料を1200gで10分間遠心分離し;(6)ペレットに0.16M NHCl/PBSを加えて懸濁し、室温で適宜(例えば、10〜15分間)インキュベートし;(7)上記の試料を口径100μmのメッシュを用いて吸引ろ過し;および(8)ろ過物を1200gで5分間遠心分離することによって調製することができる。ここで、調製量に応じて、上記プロトコールをスケールアップまたはスケールダウンすることは、当業者の技術範囲内である。このような脂肪幹細胞は、フィーダー細胞として使用することができることが本発明において明らかになった。フィーダー細胞として使用するための脂肪幹細胞は、生体組織から穿刺針を用いて採取した組織片から特定の組織幹細胞を得る際、閉鎖系で目的の細胞を得る工程を用いてもよい。
本明細書において、このような脂肪幹細胞を同定する方法としては、例えば、細胞マーカー、細胞が分泌するサイトカインの特性などが挙げられるがそれらに限定されない。
そのような細胞マーカーとしては、例えば、CD4、CD13、CD34、CD36、CD49d、CD71、CD90、CD105、CD117、CD151;あるいは、CD105、CD73、CD29、CD44およびSca−1からなる群より選択される細胞表面マーカーが挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、間葉系幹細胞の表面抗原は、CD105(+)、CD73(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)、CD45(−)であるとされており、少なくともこのいずれか一つ、好ましくはその2以上、より好ましくはそのすべての性質を示す細胞が本発明において使用される細胞として好ましいことが理解される。本発明において、さらに骨髄単核球よりlin(−)Sca1(+)の細胞を、マグネティックビーズ法を用いて分離した。上記と同様の培養をおこなったところ、脂肪前駆細胞を用いた群では線維芽細胞様の細胞に増殖した。この細胞に対する十分な検討は行なっていないがBL6マウスでは間葉系幹細胞がlin(−)Sca1(+)ckit(−)であることが報告(Peister et al, Blood.2004 Mar 1;103(5):1662−8)されており興味深い。(造血幹細胞はlin(−)Sca1(+)ckit(+))。
ヒト皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理して調整した細胞を0.5mM IBMX,1μM デキサメサゾン、10μM インスリン、200μMインドメタシンの条件下で培養することによりOil red染色陽性となったことから、脂肪細胞に分化誘導(adiopogenesis)されうる細胞であることが示された。この特性は継代後も保持されていた。また、同細胞群は5mM β−メルカプトエタノール(登録商標−mercaptoethanol)で刺激することにより神経細胞にも分化可能(neurogenesis)であり、コラーゲンでコートした培養皿でEGFおよびVEGFを加えたEGM培地で培養したところ内皮細胞(CD31陽性)への分化(vasculogenesis)も確認された。これまでの報告で、この細胞群の3割がCD34陽性細胞、すなわち造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cell)の特徴を持つことが示されており、血管構成細胞への分化能が非常に高い細胞群と考えられたので、本発明においては血管新生療法(vasculogenesis)を中心にさらに検討が行われた。
本発明において用いられる脂肪幹細胞の分泌サイトカインとしては、VEGF、LIF、Litリガンド、MIP1α(ケモカイン)、IL−6、G−CSF、FGF、IGFなどが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では特に、フィーダー細胞として使用することができる特定の細胞群がVEGFを大量に発現し、分泌していることが見出されている。従って、理論に束縛されることは望まないものの、本発明の再生治療システムにおいてフィーダー細胞として使用するための細胞としては、このようにVEGFを大量に分泌することができる細胞を用いることが好ましくあり得る。このようなVEGFのようなサイトカインを分泌する細胞は、初代培養細胞として組織から分離してもよく、あるいは、遺伝子操作によってそのサイトカインをコードする核酸配列を含む核酸分子を細胞に移入(例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなど)することによって得ることができ、本発明では、そのような遺伝子改変細胞もまた使用することができることが理解されるべきである。
本明細書において「線維芽細胞」とは、支持組織の繊維成分を供給し,繊維性結合組織の重要な成分をなす細胞をいう。組織切片図では、扁平で長目の外形をもち、不規則な突起を示すことが多い。細胞質は、ミトコンドリア、ゴルジ体、中心体、小脂肪球などを含むが、そのほかに特殊な分化は示さない。核は楕円形をしており、しばしば膠原繊維に密接して存在する。脂肪組織から分離された線維芽細胞は、幹細胞をよく含むといわれている。本発明では、供給源が豊富な脂肪組織から分離した線維芽細胞がフィーダー細胞として適切であることを見出し、再生治療に応用した。本発明では、幹細胞、前駆細胞、胎児細胞のような未分化な細胞もまた、使用され得るフィーダー細胞となり得る。
本発明において用いられる細胞は、異種であっても同種であってもよく、同種であることが好ましく、同種異系または同系であってもよく、より好ましくは同系であることが有利であるが、異種である状態で用いられ得ることが理解されるべきである。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において用いられる場合、分化細胞は、集団または組織の形態であってもよい。
従って、本明細書において「分化」とは、一般的には、1つの系が2つ以上の質的に異なる系に分離することをいい、細胞、組織または臓器について用いられるとき、機能および/または形態が特殊化することをいう。分化に伴い、通常、多能性は減少または消失する。
本明細書において「分化因子」とは、「分化促進因子」ともいい、分化細胞への分化を促進することが知られている因子(例えば、化学物質、温度など)であれば、どのような因子であってもよい。そのような因子としては、例えば、種々の環境要因を挙げることができ、そのような因子としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)などまたはそれらの任意の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。代表的な分化因子としては、細胞生理活性物質が挙げられるがそれらに限定されない。そのような因子のうち代表的なものとしては、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において用いられ得る動物細胞培養用培地としては、システインプロテアーゼ阻害剤が含まれる。システインプロテアーゼ阻害剤とは、システインプロテアーゼを特異的に阻害するタンパク質であり、恒常性維持機構、免疫防御機構に深く係わるものだが、作用機構は不明だが、このものを含む培地を用いると動物細胞培養時のコロニー形成能が良好となることが見出されている。このシステインプロテアーゼ阻害剤としては、具体的には、シスタチン、およびそのスーパーファミリー、ブロメラインインヒビターなどがあげられるが、システインプロテアーゼ阻害剤としての機能を有していれば特に限定されるものではない。本発明では、その中の単独を用いても、もしくは複数個を併用して用いても良い。
本発明において用いられ得る動物細胞培養用培地には、また、シスタチン、およびそのスーパーファミリーが含まれることが好ましくあり得る。ここでのシスタチン、およびそのスーパーファミリーとは、上記のシステインプロテアーゼ阻害剤としての機能を持つものでも良く、機能を持たないものでも良い。具体的には、オリザシスタチンなどのフィトシスタチン、シスタチン、シスタチンA、シスタチンB、シスタチンC、モネリンなどがあげられるが、シスタチンスーパーファミリーに属するものならば特に制約されるものではない。また、本発明では、その中の単独、もしくは複数個を併用して用いても良い。
本発明では、システインプロテアーゼ阻害剤、シスタチンC、およびそのスーパーファミリーに属する物質等の中から選択される1種以上の物質が動物細胞培養用培地に添加されるが、それらの物質の総量は培地量に対し、0.5ng/ml〜10ng/mlであることが望ましく、好ましくは0.6ng/ml〜9ng/ml、さらに好ましくは0.8ng/ml〜8ng/mlの濃度であることが望ましい。0.5ng/mlより小さい濃度の場合、動物細胞幹細胞の活性を維持するには不十分である。また、10ng/mlより高い濃度のとき、活性は阻害され逆効果である。
本発明では、さらに各種成長因子を加えても良い。具体的には、EGF、FGF、HGFなどがあげられるが特に限定されるものではない。添加する濃度は2ng/ml以上であることが望ましく、好ましくは4ng/ml以上、さらに好ましくは10ng/ml以上の濃度であることが望ましい。2ng/mlより小さい濃度の場合、添加効果は認められないため、不十分である。
本発明は、こうした培地を利用することで動物細胞培養時のコロニー形成能が向上する。この培地を利用する時期は特に限定されるものではないが、培養開始から終了まで全ての期間でも良く、また一部の期間だけ、常法で用いられる培地と置き換えても良い。しかしながら、培養される細胞の活性を維持させるには前者の全ての期間で用いる方が好都合である。
培養基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。例えば、培養する細胞の基材への付着性を高める等の目的でコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ−L−リジン、マトリゲルなどが被覆されている培養基材を用いても良い。
本発明に使用される好ましい細胞としては、皮膚などの表皮系細胞、角膜、肝臓、消化器官、乳腺、前立腺、毛根、気管、口腔粘膜などの上皮系細胞、ならびにそれぞれの幹細胞などがあげられるが、その種類は何ら制約されるものではない。その他の培養条件は、常法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。好ましくは、狂牛病(BSE)の危険を考慮して、ウシ由来の血清を避けることが有利であり得る。
本発明において用いられ得る動物培養用培地を利用すれば、細胞および幹細胞の活性を維持できる。また、この培地を利用すれば重層化する細胞であれば重層化し、上述したような異種動物の細胞を使わなくても良くなる。これらの技術は組織再生、細胞分化に係わる再生医療の技術として極めて有効なものと考えられる。
本明細書において「細胞生理活性物質」または「生理活性物質」(physiologically active substance)とは、細胞または組織に作用する物質をいう。そのような作用としては、例えば、その細胞または組織の制御、変化などが挙げられるがそれに限定されない。生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものであるが改変された作用を持つものであってもよい。本明細書では、生理活性物質はタンパク質形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
サイトカインおよび増殖因子などの生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能(例えば、細胞接着活性または細胞−基質間の接着活性など)で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性(例えば、所望の分化を誘導し得る活性)を有してさえいれば、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。
具体的な分化因子としては、以下が挙げられる。これらの分化因子は、単独でまたは組み合わせて用いられ得る。
A)角膜:上皮増殖因子(EGF);
B)皮膚(ケラチノサイト):TGF−β、FGF−7(KGF:keratinocyte growth factor)、EGF
C)血管内皮:VEGF、FGF、アンギオポエチン(angiopoietin)
D)腎臓:LIF、BMP、FGF、GDNF
E)心臓:HGF、LIF、VEGF
F)肝臓:HGF、TGF−β、IL−6、EGF、VEGF
G)臍帯内皮:VEGF
H)腸管上皮:EGF、IGF−I、HGF、KGF、TGF−β、IL−11
I)神経:神経成長因子(NGF)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)、ニューロトロフィン(neurotrophin)、IL−6、TGF−β、TNF
J)グリア細胞:TGF−β、TNF−α、EGF、LIF、IL−6
K)末梢神経細胞:bFGF、LIF、TGF−β、IL−6、VEGF、
L)肺(肺胞上皮):TGF−β、IL−13、IL−1β、KGF、HGF
M)胎盤:成長ホルモン(GH)、IGF、プロラクチン、LIF、IL−1、アクチビンA、EGF
N)膵臓上皮:成長ホルモン、プロラクチン
O)膵臓ランゲルハンス氏島細胞:TGF−β、IGF、PDGF、EGF、TGF−β、TRH(thyroropin)
P)関節滑膜上皮:FGF、TGF−β
Q)骨芽細胞:BMP、FGF
R)軟骨芽細胞:FGF、TGF−β、BMP、TNF−α
S)網膜細胞:FGF、CNTF(絨毛神経栄養因子=cilliary neurotrophic factor)
T)脂肪細胞:インスリン、IGF、LIF
U)筋肉細胞:LIF、TNF−α、FGF。
本明細書において「維持」とは、細胞、組織または臓器について用いられるとき、その機能および/または形態を実質的に保持させることをいう。例えば、角膜の維持とは、被検体が通常有するべき角膜の機能および/または形態を実質的に損傷しないで有することをいい、機能としては、視力の維持、形態としては、外観の保持が挙げられるがそれに限定されない。
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織または臓器の一部が失われた際に、欠如した組織が補填されて復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨および末梢神経の再生医療がある。神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞およびその分化細胞、造血幹細胞およびその分化細胞ならびに間葉系幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞およびその分化細胞、膵幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
本明細書において「フィーダー層」または「フィーダー細胞」(feeder layerまたはfeeder cell)とは、互換可能に用いられ、培養基質に設けられる、単独では培養維持することのできない細胞種の増殖および/または分化形質発現を可能にするような、他の細胞種による支持細胞層をいう。組織細胞には、通常の細胞培養条件下では,分化形質発現はもとより増殖すらできない細胞種も多いといわれており、そのような細胞としては、例えば、ある種の幹細胞(特に、上皮幹細胞、胚性幹細胞、造血幹細胞など)、角膜、表皮などが挙げられるがそれらに限定されない。これらの細胞種は一般に、栄養要求性が高く特異的な増殖因子、分化誘導因子を必要とするとされる。このような細胞種でも生体内でのその細胞種の支持細胞あるいはそれと類似の細胞が形成する特定の細胞の層を培養基質に活用することで、培養される細胞種が要求する因子および/または栄養源が供給されることによって、増殖および分化をするようになるといわれている。フィーダー細胞として用いる細胞種は、対象となる細胞種によって選択されるが、抗生物質投与(例えば、マイトマイシンCなど)、UV照射などの方法で細胞増殖を抑制して用いることが多い。生殖細胞、初期胚細胞、造血幹細胞などの培養が可能になったのは,フィーダー層の活用に負うところが大きいとされている。フィーダー細胞としては、脂肪由来の幹細胞のほか、胚性幹細胞、骨髄幹細胞などを用いることができ、そのような場合、フィーダーを抜いてDMEM+10%FBSという最も基本的な培養条件により培養して、線維芽細胞に分化させて用いることが好ましい。
本明細書において「初代培養細胞」とは、体から分離した細胞、組織、器官などを植え込み,第1回目の継代を行うまでの培養の状態にある細胞をいう。
本発明の細胞は、細胞の維持または所望の分化細胞へ分化する限り、任意の培養液を用いることができる。そのような培養液としては、例えば、DMEM、P199、MEM、HBSS、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)およびそれらの混合物などが挙げられるがそれらに限定されない。このような培養液には、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、aFGF、bFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFなどの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF・IL−2・IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウム、コレラトキシンなどを1つまたはその組み合わせとして含ませておいてもよい。
本発明では、培養には、好ましくは、温度培養皿を用いることが有利であり得るがそれに限定されない。細胞の分離が容易であるからである。温度培養皿は、代表的には、温度応答性高分子がコーティングされたものをいう。温度培養皿は、セルシード(東京、日本)などから市販されているものを利用することができる。
本明細書において「温度応答性高分子」とは、温度に応答して、その形状および/または性質を変化させる性質を有する高分子をいう。温度応答性高分子としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される温度応答性高分子としては、例えば、水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃であるものが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、臨界溶解温度とは、形状および/または性質を変化させる閾値の温度をいう。本明細書では、好ましくは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が使用され得る。
例えば、γ線照射したポリビニルメチルエーテル水溶液は,室温では水和し膨潤しているが、温度が上がると脱水和して収縮する感熱性の高分子ゲルとなることが知られている。ゼリーのように均質透明なPVMEゲルを温めると白濁し透明性が変化する。多孔質構造のゲルを調製したり、繊維または粒子などの小さな形に成形すると高速で伸縮するようになる。このような多孔質構造をもつ繊維状PVMEゲルの場合、伸縮速度は1秒末満という速さであるといわれる(http://www.aist.go.jp/NIMC/overview/v27−j.html、特開2001−213992号および特開2001−131249号参照)。N−イソプロピルアクリルアミドゲル(すなわち、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド))もまた、温度応答性ゲルとして知られる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)に対して、疎水性のモノマーを共重合させると、形状および/または性質が変化する温度を低下させることができ、親水性のモノマーを共重合させると形状および/または性質が変化する温度を上げることができる。これを利用して、所望の刺激に応答した充填剤を調製することができる。このような手法は、他の温度応答性高分子に対しても適用することができる。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。樹立された分化細胞は、特定の確定した機能を有する。樹立された分化細胞は癌化していることが多いが、それに限定されない。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本明細書において自己または自家とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。本明細書において自己というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片をも含み得る。
本明細書において同種(同種異系)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系のものは、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような細胞などの例としては、親由来の細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において異種とは、異種個体から移植されるものをいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植物は異種移植物という。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植される細胞などを受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植される細胞などを提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。レシピエントとドナーとは同じであっても異なっていてもよい。
本発明で使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。
本明細書において「移植」とは、本発明の細胞、組成物、医薬などを、単独で、または他の治療剤と組み合わせて体内に移入することを意味する。本発明は、以下のような治療部位(例えば、骨などなど)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る:本発明の医薬などの障害部位への直接注入し、貼付後に縫合し、挿入する等の方法があげられる。本発明の脂肪幹細胞と、分化細胞との組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、分化促進因子)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与または移植は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる細胞、医薬、化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
本発明の方法が対象とし得る疾患、障害、状態は、臓器または組織の再生が所望される任意の疾患、障害、状態を含む。本発明は特に、フィーダー細胞がなければ再生し得ない臓器、組織または細胞に関連する疾患、障害、状態が対象として特に有利である。
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、眼科疾患または障害であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、熱腐蝕、アルカリ腐蝕、酸腐蝕、薬剤毒性、Stevens−Johnson症候群、眼類天疱瘡、(再発)翼状片、遷延性角膜上皮欠損、角膜穿孔、角膜周辺部潰瘍、角膜潰瘍、エキシマレーザー術後の上皮剥離、放射線角膜症、無虹彩症、トラコーマ後角膜混濁、Salzmann角膜変性、角膜びらん、瞼球癒着、原因不明の角膜上皮の幹細胞の消失した疾患、輪部腫瘍、宿主対移植片疾患(GVHD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、上皮関連の疾患または障害であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、皮膚疾患、腸疾患、気道疾患、口腔疾患、膀胱疾患、卵管疾患、角膜疾患などが挙げられるがそれらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、循環器系(血液細胞など)であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期);心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫)が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、T細胞欠損症、白血病が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、運動器・骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、筋ジストロフィー、骨軟骨異形成症が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、食道疾患(たとえば、食道癌)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃癌、十二指腸癌)、小腸疾患・大腸疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱癌など)が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明が対象とする動物は、上皮細胞または脂肪細胞を有する動物であれば、どのような動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であってもよい。好ましくは、そのような動物は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒトが用いられる。本発明は、特に、ヒトにおいて厚生当局の基準をクリアするのが比較的容易である、ヒト由来の細胞を用いることができる容易になったという効果が留意されるべきである。
本発明が医薬として使用される場合、そのような組成物は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、本発明の細胞を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
以下に本発明の医薬組成物の一般的な調製法を示す。なお、動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物、食品組成物および化粧品組成物等についても公知の調製法により製造することができる。
本発明の細胞、細胞から分化させた組織移植片などは、薬学的に受容可能なキャリアと配合し、注射剤、懸濁剤、溶液剤等の液状製剤として経口または非経口的に投与することができるが、目的とする処置を考慮すると、非経口的に投与されることが好ましい。薬学的に受容可能なキャリアとしては、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じ、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることができる。また、本発明の組成物には本発明の細胞など以外の物質を配合することも可能である。非経口の投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など等が挙げられるがそれらに限定されない。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。
液状製剤における溶剤の好ましい例としては、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油およびトウモロコシ油等が挙げられる。
液状製剤における溶解補助剤の好ましい例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における懸濁化剤の好ましい例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における等張化剤の好ましい例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における緩衝剤の好ましい例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩およびクエン酸塩等の緩衝液等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における無痛化剤の好ましい例としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウムおよび塩酸プロカイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における防腐剤の好ましい例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における抗酸化剤の好ましい例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールおよびシステイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
注射剤として調製する際には、液剤および懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であることが好ましい。通常、これらは、バクテリア保留フィルター等を用いるろ過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化する。さらにこれらの処理後、凍結乾燥等の方法により固形物とし、使用直前に無菌水または無菌の注射用希釈剤(塩酸リドカイン水溶液、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノールまたはこれらの混合溶液等)を添加してもよい。
必要に応じて本発明の医薬は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤を含んでいてもよい。
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。投与する量は、処置されるべき部位が必要とする量を見積もることによって確定することができる。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用できるアッセイもしくは機器使用による標準的な臨床検査の結果または分化細胞の欠損に関連する疾患(例えば、眼科疾患、骨疾患、心臓疾患、神経疾患)に特徴的な臨床症状の消滅によって支持され得る。治療は、分化細胞の欠損などに関連する疾患(例えば、眼科疾患、骨疾患、心臓疾患、神経疾患)の再発により再開することができる。
本発明はまた、本発明の医薬の1つ以上の成分を満たした1つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
(フィーダー細胞)
1つの局面において、本発明は、フィーダー細胞として用いるための、脂肪組織に由来する細胞を提供する。脂肪組織からは種々の細胞が分離され得るが、本発明では、特に、組織幹細胞または線維芽細胞を含んでいることが好ましい。幹細胞は、CD105(+)、CD73(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)およびCD45(−)からなる群より選択される少なくとも1つの指標を確認することによって同定することができる。あるいは、このような細胞は、「脂肪幹細胞」または「脂肪前駆細胞」であるといわれる。このような細胞は、例えば、(1)脂肪吸引物を分液漏斗を用いて生理食塩水で十分に洗浄し;(2)上層に脂肪吸引物、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨てる。肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返し;(3)脂肪吸引物と同量の0.075%コラゲナーゼ/PBSを加え、37℃でよく攪拌しながら30分間インキュベートし;(4)上記の試料に等量の10%血清加DMEMを加え;(5)上記の試料を1200gで10分間遠心分離し;(6)ペレットに0.16M NHCl/PBSを加えて懸濁し、室温で適宜(例えば、10〜15分間)インキュベートし;(7)上記の試料を口径100μmのメッシュを用いて吸引ろ過し;および(8)ろ過物を1200gで5分間遠心分離することによって調製することができる。
理論に束縛されないが、本発明のフィーダー細胞は、VEGFなどのサイトカインが効率よく分泌されることが観察されている。従って、好ましい実施形態では、本発明のフィーダー細胞は、VEGFなどのサイトカインを分泌する性質を有し、より好ましくは、本発明のフィーダー細胞としては、VEGFなどのサイトカインを平滑筋細胞の少なくとも2倍分泌する細胞を含む細胞集団が使用されるがそれらに限定されない。
別の好ましい実施形態では、本発明のフィーダー細胞は、少なくとも800nmol/ml(より好ましくは、約1500nmol/ml)のVEGFを分泌する細胞を含む細胞集団が使用される。このようにVEGFを顕著に多く分泌する細胞を含む細胞集団は、これまでに報告があったということは本発明者らの知るところではなく、しかも、このようにVEGFを顕著に多く分泌する細胞を含む細胞集団がフィーダー細胞として使用することができるという知見も本発明者らの知るところではないことから、本発明の一つの顕著な効果の一つであるということができる。
本発明のフィーダー細胞は、どのような細胞であっても支持することができ、従って、指示を必要とする細胞であればどのような細胞であっても支持することができる。好ましい実施形態では、そのような支持されるべき細胞としては、胚性幹細胞、組織幹細胞(例えば、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞などの上皮幹細胞)または分化細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
1つの好ましい実施形態において、本発明のフィーダー細胞は、角膜を維持するために用いられる。このように、角膜を、例えば、エキソビボで培養再生することができるという知見はこれまでにはなく、特に脂肪組織から採取可能な細胞をフィーダー細胞とすることができるという点は、格別な効果といえる。
1つの好ましい実施形態において、本発明において使用されるフィーダー細胞は、初代培養細胞を含むことが好ましい。理論に束縛されることを望まないが、細胞株では、免疫拒絶の可能性が否定しきれないこと、初代培養であれば、自己の細胞を適用可能であることなどが本発明の利点として挙げられるがそれに限定されない。このような細胞は、厳密な意味での初代培養細胞であることが好ましいが、継代培養した細胞であっても、継代数が少ないものであれば、初代培養細胞とほぼ類似する性質を有し得ることから、本発明において有利に使用することができる。そのような継代数としては、例えば、約5継代以下、4継代以下、3継代以下、2継代以下、1継代などが挙げられるがそれらに限定されない。
ヒトの場合、ES細胞から分化誘導した線維芽細胞をフィーダー細胞に用いた報告があり、フィーダー効果も認められている。他方、成体の細胞を用いた先行技術ではいずれも効果は全くないか、あってもごく弱いという報告あるのみである(Rheinwald JG,Green H.,Cell 1975;6:331−344)。したがって、1つの実施形態において、本発明では、成体細胞を用いて高い効果を示せたことが従来技術にはない効果のひとつであるといえる。本発明はまた、成体の脂肪由来の線維芽細胞は、成体の脂肪組織以外の組織由来の線維芽細胞よりも効果があるようであるという点も留意されるべきである。
1つの好ましい実施形態において、本発明において使用されるフィーダー細胞は、ヒト細胞を含み、特にヒト細胞からなることが好ましい。従来の技術では、マウスの樹立細胞株(例えば、STO細胞)、または初代培養線維芽細胞などがフィーダーとして用いられており、ヒトにおいても状況は同じであったことから、本発明がもたらす効果は、ヒトの再生治療において、他の動物に由来する汚染および感染の危険が格段に減少する(特に、自己細胞を用いる場合)という効果をもたらすことに留意すべきことが理解されるべきである。
好ましい実施形態において、本発明のフィーダー細胞は、マイトマイシンCなどの抗生物質または放射線照射などによる処理が行われたものであることが有利である。フィーダー細胞の増殖を止める目的で処理または照射することによって、フィーダー効果が期待される細胞に対する悪影響を防止することができるからである。
本発明のフィーダー細胞の能力は、従来使用されているNIH/3T3細胞よりも高いこと(特に、平均コロニー面積、ディッシュに対するコロニー占有面積率など)が判明している。従って、本発明は、従来のフィーダー細胞には達成できなかったフィーダー能を提供するという効果も奏する。
(再生治療方法)
別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法を提供する。この方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供する工程;およびB)該一部または該幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程を包含する。ここで、所望の臓器、組織または細胞の一部は、細胞であってもよく、組織片または組織そのもの、あるいは臓器そのものであってもよい。再生を意図することから、このような「一部」は、正常な臓器、組織または細胞から一部が欠損したものが対象とされることが好ましい。ここで、幹細胞は、所望の臓器、組織または細胞に分化することができる限り、どのような幹細胞を用いてもよい。従って、胚性幹細胞は、全能性を有することから、本発明において好ましい実施形態のひとつであり得る。幹細胞が用いられる場合、培養は、所望の臓器、組織または細胞への分化を促進するような因子および/または栄養を含む培養液を用いることが好ましい。そのような分化促進因子は、所望の組織、臓器などによって変動する。そのような因子としては、細胞生理活性物質(例えば、増殖因子、サイトカイン、細胞外マトリクスなど)が挙げられるがそれらに限定されない。
そのような因子の具体例としては、例えば、A)角膜のための上皮増殖因子(EGF);B)皮膚(ケラチノサイト)のためのTGF−β、FGF−7(KGFのためのkeratinocyte growth factor)、EGF;C)血管内皮のためのVEGF、FGF、アンギオポエチン(angiopoietin);D)腎臓のためのLIF、BMP、FGF、GDNF;E)心臓のためのHGF、LIF、VEGF;F)肝臓のためのHGF、TGF−β、IL−6、EGF、VEGF;G)臍帯内皮のためのVEGF;H)腸管上皮のためのEGF、IGF−I、HGF、KGF、TGF−β、IL−11;I)神経のための神経成長因子(NGF)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)、ニューロトロフィン(neurotrophin)、IL−6、TGF−β、TNF;J)グリア細胞のためのTGF−β、TNF−α、EGF、LIF、IL−6;K)末梢神経細胞のためのbFGF、LIF、TGF−β、IL−6、VEGF、;L)肺(肺胞上皮)のためのTGF−β、IL−13、IL−1β、KGF、HGF;M)胎盤のための成長ホルモン(GH)、IGF、プロラクチン、LIF、IL−1、アクチビンA、EGF;N)膵臓上皮のための成長ホルモン、プロラクチン;O)膵臓ランゲルハンス氏島細胞のためのTGF−β、IGF、PDGF、EGF、TGF−β、TRH(thyroropin);P)関節滑膜上皮のためのFGF、TGF−β;Q)骨芽細胞のためのBMP、FGF;R)軟骨芽細胞のためのFGF、TGF−β、BMP、TNF−α;S)網膜細胞のためのFGF、CNTF(絨毛神経栄養因子=cilliary neurotrophic factor);T)脂肪細胞のためのインスリン、IGF、LIF;U)筋肉細胞のためのLIF、TNF−α、FGFが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明の方法において、所望の臓器、組織または細胞は、表皮系の臓器、組織または細胞が代表例として挙げられるがそれに限定されない。そのような所望の臓器、組織または細胞の具体例としては、例えば、角膜、骨、軟骨、心臓、心膜、血管、皮膚、腎臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、筋肉、四肢末梢、脂肪および網膜ならびにその一部などが挙げられるがそれらに限定されない。最も好ましい例としては、角膜を挙げることができる。
本発明の再生治療法で使用されるフィーダー細胞は、上述の「フィーダー細胞」に説明されるようなフィーダー細胞を用いることができ、例えば、組織幹細胞、線維芽細胞を含み得る。あるいは、本発明において用いられるフィーダー細胞は、初代培養細胞であり得る。このような初代培養細胞は、どのような由来のものであってもよいが、好ましくは、同じ種の細胞であることが好ましく、より好ましくは、同系のものが有利であり、さらに好ましくは自家細胞であることがもっとも好ましい。免疫拒絶反応が同系または自己細胞の使用によってなくなるからである。
また、本発明の再生治療法では、ヒト細胞が用いられることが好ましい。ヒト細胞がフィーダー細胞として用いられるという報告は、細胞株においてのみ知られるだけであり、初代培養細胞では知られていなかったからである。本発明の再生治療法は、被検体をヒトとして、異種細胞を用いることなく治療することができるという点で従来達成できなかった利点を有する。なぜなら、異種細胞を用いた場合は、移植組織の臨床観察期間はFDAの指針として20年と決められているからであり、そのような治療は、多大な労力がかかる割には、免疫拒絶という不安がいつまでも付きまとうという欠点が存在するからである。本発明の方法は、ヒトが被検体であった場合に上記のような欠点を克服することから、従来技術では達成できなかった効果がある。
本発明は、脂肪組織からの供給源を提供することができるという点が有利な点のひとつであるといえる。脂肪組織からの摘出は、ノーストレスで採取可能であるという利点のほか、外来レベルで摘出が可能であり、繰り返して行うことができ、大量に得ることができるなどの利点があることが留意されるべきである。
本発明の再生治療法は、エキソビボで行われる。エキソビボでの治療は、自己細胞を戻すことを前提としていることから、生体適合性という観点からは最良の結果をもたらすことになる。
本発明の再生治療法において、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞と、フィーダー細胞とは、フィーダー細胞が支持する機能を発揮する限り、異種、同種異系または同系のいずれの関係にあってもよいが、好ましくは、同系であり、より好ましくは、自家であり得る。理論に束縛されないが、同系であれば、免疫拒絶反応が抑制できるからである。しかし、拒絶反応が予測される場合は、拒絶反応を回避する工程をさらに包含してもよい。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)、中山書店などに記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の併用療法と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の併用療法の前または後にも投与され得る。
1つの好ましい実施形態において、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞は、被検体から摘出されてすぐのものであるか、または凍結保存されたものである。摘出されてすぐのものを用いることが好ましい。本発明においてすぐとは、摘出されて通常細胞を調製するのにかかる時間をいう。従って、そのような時間とは、例えば、1時間、2時間、3時間などが挙げられるが、それより短くても長くてもよいことが理解される。所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞は凍結保存されてもよい。そのような凍結保存は、当該分野において公知の方法を用いることができる。そのような保存方法としては、例えば、DMSOを含む溶液中などへの保存が挙げられるがそれらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明の再生治療法における培養の条件、および本発明において使用される所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞の培養の提供の条件は、その細胞、組織または臓器を培養するために通常用いられるものであれば、用いることができる。そのような培養条件の例としては、例えば、培養条件は通常、37℃、5%COを利用することができる。使用する培地もまた、任意のものを利用することができ、例えば、DMEM/Ham12(1:1)、10%FCS、インスリン・コレラトキシンなどを含む培地を利用することができる。また、必要に応じて、分化因子(例えば、EGF(10ng/ml))を予め含めた培養液を使用してもよいがそれらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明の再生治療法における培養では、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞と、フィーダー細胞との比率が、10:1〜1:10、好ましくは7:1〜1:7、最も好ましくは5:1〜1:5であることが有利である。理論に束縛されないが、フィーダー細胞が幹細胞よりも少し少ない方が有利であるようである。
一つの好ましい実施形態において、本発明の方法における培養のために、分化因子を加えることができる。そのような分化因子としては、例えば、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。角膜への分化には、EGFという分化因子を加えることができる。他の分化細胞についてもまた、本明細書において記載される任意の分化因子を使用することができる。
他の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法を提供する。この方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供する工程;B)該一部または該幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;およびC)該培養された該一部または該幹細胞を該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、を包含する。ここで、工程A)および工程B)は、本節において上述した任意の形態が用いられ得る。
投与の方法もまた、当該分野において公知の任意の方法を用いることができる。そのような方法として、シリンジ、カテーテル、チューブなどを用いての注入が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、局所注入(皮下注入、筋肉や脂肪など臓器内注入)、静脈内注入、動脈内注入、組織上投与などを用いる。
処置されるべき部位への移植は、直接であっても間接であってもよい。従って、B)までの工程で調製した移植片を処置される部位に直接移植してもよいし、あるいは、被検体中の任意の場所に移植して、体内の送達システムを利用して処置されるべき部位に移植されるようにしてもよい。そのような形態は、当業者であれば、適宜選択することができる。好ましくは、直接移植することが好ましい。特に、角膜など、正確な場所に投与されるべき場合は、直接移植することが所望される。
好ましい実施形態において、本発明の方法は上記に加え、さらに、マイトマイシンCまたは放射線照射などの処理をすることが有利である。フィーダー細胞の増殖を止める目的で添加または照射することにより、癌化を抑制したり、所望されない細胞の異常増殖を防止することができるからである。
(再生治療システム)
別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムを提供する。このシステムは、A)容器:B)脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、を備える。ここで、容器としては、フィーダー細胞を付着させ、その上に再生させるべき細胞が収容されることができる限り、どのような容器であってもよい。従って、任意の容器が使用され得る。好ましくは、そのような容器の材質は、生体適合性のものが使用されることが望ましいが、生体に毒性を与えるものが使用されていない限り、どのようなものであっても使用することができることが理解される。そのような容器の材質としては、例えば、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料、あるいは、シラン、ポリLリジンコートなどでコーティングされたものが使用され得る。
本発明の再生治療システムにおいて使用されるフィーダー細胞は、上述の本発明のフィーダー細胞であれば任意のフィーダー細胞を使用することができる。
このようなシステムは、好ましくは、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供するための提供手段(すなわち、幹細胞採取デバイ)をさらに備えることが有利である。そのような提供手段は、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供することができる限り、どのようなものであってもよいが、例えば、被検体から細胞を取り出す手段(例えば、カテーテル、かきとり棒、ピンセット、注射器、医療用はさみ、内視鏡などを挙げることができるが、それらに限定されないことが理解されるべきである。
好ましい実施形態において、本発明のシステムは上記に加え、さらに、分化因子を備えていてもよい。そのような分化因子としては、例えば、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。この分化因子は、粉末で提供されていてもよく、液剤として提供されていてもよい、あるいは、他の培地成分と混合されていてもよく、単独で提供されてもよい。
好ましい実施形態において、本発明のシステムは上記に加え、さらに、マイトマイシンCまたは放射線源を備えることが有利である。フィーダー細胞の増殖を止める目的で添加または照射することができるからである。
(共移植)
別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための別の方法を提供する。この別の方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞を、該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、を包含する。このような共移植の方法もまた、本発明のフィーダー細胞がもたらす効果によって達成されるものである。ここで、フィーダー細胞および幹細胞は、上記再生方法において用いられる任意のものを使用することができる。ここで、幹細胞とフィーダー細胞とは、任意の比率で混合できるが、好ましくは、フィーダー細胞より幹細胞が多いことが有利であり得る。幹細胞とフィーダー細胞とは、同時に移植されてもよく、どちらかが先に移植されてもよい。
好ましい実施形態において、本発明の方法は上記に加え、さらに、マイトマイシンCなどの抗生物質または放射線照射で処理がされたものを用いることが有利である。所望されない細胞の異常増殖を防止し、または癌化を防止することができるからである。
他の局面において、本発明は、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、を含む、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を提供する。ここで、フィーダー細胞および幹細胞は、上記別の再生方法において用いられる任意のものを使用することができる。
(脂肪組織由来細胞の使用)
別の局面において、本発明は、フィーダー細胞としての、脂肪組織に由来する細胞の使用を提供する。さらに別の局面において、本発明は、フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用を提供する。なおさらに別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用を提供する。ここで使用されるフィーダー細胞は、本発明のフィーダー細胞であればどのようなものであってもよく、その説明は、上記「フィーダー細胞」にあり、その記載が参酌される。
(ヒト線維芽細胞の使用)
1つの局面において、本発明は、フィーダー細胞として用いるための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を提供する。ヒトの線維芽細胞初代培養細胞がフィーダー細胞として用いられるという例がこれまで存在せず、したがって、本発明は、人体において自己治療も可能な初代培養細胞がフィーダー細胞として使用することができるという顕著な効果を奏することになる。ここで、初代培養細胞としては、通常、5代までの継代のものを利用することができるがそれに限定されない。
別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法を提供する。この方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供する工程;およびB)該一部または該幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、を包含する。フィーダー細胞は、ヒト線維芽細胞初代培養細胞であれば、どのような細胞であってもよい。
他の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムを提供する。このシステムは、A)容器;B)ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、を備え、必要に応じて、幹細胞採取手段、分化因子などを含むことができる。そのような容器、幹細胞採取手段、分化因子などは、本明細書において上述したものなどを使用することができる。
別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法を提供する。このような方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞を提供する工程;B)該一部または該幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;およびC)該培養された該一部または該幹細胞を該被検体の処置されるべき部位に移植する工程を包含する。ここで、幹細胞の提供は、本明細書において別の場所に説明されている。線維芽細胞初代培養細胞としては、上述のように任意のものを使用することができるが、好ましくは、継代を経ていないものを利用することができる。
他の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための別の方法を提供する。この別の方法は、A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞を、該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、を包含する。ここで、幹細胞の詳細な形態としては、本明細書において別の場所に説明されている任意のものを利用することができる。線維芽細胞初代培養細胞としては、上述のように任意のものを使用することができるが、好ましくは、継代を経ていないものを利用することができる。
他の局面において、本発明は、所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、を含む被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を提供する。ここで、幹細胞の詳細な形態としては、本明細書において別の場所に説明されている任意のものを利用することができる。線維芽細胞初代培養細胞としては、上述のように任意のものを使用することができるが、好ましくは、継代を経ていないものを利用することができる。
別の局面において、本発明は。フィーダー細胞としての、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用を提供する。他の局面において、本発明は、フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用を提供する。なおさらに別の局面において、本発明は、被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用を提供する。このような使用方法は、本明細書において上述し、以下の実施例において例示されるとおりである。
(再生治療用移植片)
1つの局面において、本発明は、上皮組織を再生するための移植片であって、幹細胞または幹細胞に由来する細胞を含む、移植片を提供する。この移植片は、上皮組織を再生することができるという意味で画期的な治療手段として有用である。
1つの実施形態において、本発明が対象とする上皮組織は、角膜であり得る。角膜を治療することができ、その上、視力が例えば、0.5以上または0.7以上とすることができるような再生法は従来なかったこと、および自己由来細胞を用いることができることから拒絶反応がほとんどない治療法として注目に値すべきであるといえる。
本発明の移植片が含む幹細胞は、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞などを挙げることができ、上皮幹細胞が好ましい。上皮幹細胞としては、例えば、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞などの細胞を挙げることができるがそれらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明において使用される幹細胞または幹細胞に由来する細胞は、フィーダー細胞と共培養されたものであってもよい。そのようなフィーダー細胞としては、NIH/3T3のような従来使用されているフィーダー細胞を用いることができるが、本発明において別の箇所において提供されるような脂肪組織に由来するフィーダー細胞を用いてもよい。脂肪組織に由来するフィーダー細胞を用いることが好ましい。自己由来の細胞をフィーダー細胞として用いることができるからであり、特に脂肪細胞は、生命維持に必須ではなく、むしろ、現代人にとっては不要な細胞であり得ることから、不要な細胞を必要な細胞の再生に使用することができるという点で現代人に適した治療法を提供するといえる。
従って、1つの好ましい実施形態において、本発明の移植片の調製において使用されるフィーダー細胞は、脂肪組織に由来する細胞を含むことが好ましい。
好ましい実施形態では、上記フィーダー細胞との共培養は、細胞接着が促進する条件で行われる。このような細胞接着が促進する条件としては、例えば、37℃で血清入りの培養液を使用すること、ラミニンやフィブロネクチンなど各種の細胞接着促進物質を培養皿の床にコートしておくことのような培養条件を挙げることができる。
1つの実施形態において、本発明の移植片は、重層化した細胞を含む。このような重層化は、例えば、温度感受性培養皿の使用によって達成することができるがそれらに限定されず、例えば、他の方法としては、羊膜やフィブリンゲルなどの基質(キャリア)の上で、上皮幹細胞を培養する系、エアーリフト(空気と液の境界で細胞を培養する方法)を用いる系、カルチャーインサートを用いる系、などを使用することができる。
好ましい実施形態では、本発明の移植片は、無縫合移植に使用される。従来の移植片は、特に、角膜移植においては、縫合移植が必須であった。従って、角膜移植などの上皮系の組織の治療において、無縫合移植が可能になったことは注目に値する。
1つの実施形態において、本発明の移植片は、脂肪を患者本人から採取すれば、すべて患者本人由来のものからシートを作製できるという効果を奏する。構造およびマーカーなどは従来の移植片と変化はないが、脂肪由来幹細胞をフィーダーとした場合、上皮幹細胞が再生組織の中に保持されていることを本発明者らは証明した。本発明者らは、3T3でも保持されていることを証明した。従って、好ましくは、本発明の移植片は、異種由来物質を含まないという構造上の特徴を有し得るがそれらに限定されない。
別の局面において、本発明は、上皮組織を再生するための移植片としての医薬を調製するための使用であって、上記移植片は、幹細胞または幹細胞に由来する細胞を含む、使用を提供する。ここで記載される、移植片、上皮組織、上皮幹細胞としては、本明細書において上述され、以下に例示されるような任意の形態を採用することができる。
1つの実施形態において、本発明の移植片としての医薬の使用において使用される上皮組織は、角膜であり得る。
別の実施形態において、本発明の移植片としての医薬の使用において使用される幹細胞としては、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞などを挙げることができ、上皮幹細胞が好ましく、上皮幹細胞としては、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞等を挙げることができるがそれらに限定されない。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigmaから得た。動物の飼育は、National Society for Medical Researchg作成した「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成、National Institute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication, No.86−23,1985,改訂)に遵って、大阪大学医学部において規定される基準に遵い、動物愛護精神に則って行った。ヒトを対象とする場合は、厚生労働省の基準に従い、事前に同意を得た上で実験を行う。
[実施例1:脂肪組織由来細胞の調製]
本実施例では、まず、本実験に対して同意を示したヒトから細胞を脂肪組織から調製した。脂肪吸引物を生理食塩水で十分に洗浄した。上層に脂肪吸引物、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨て、肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返した。この実施例では、7回行った。脂肪組織を40mlと同量40mlの0.075%コラゲナーゼ/PBS(Gibco)を加え、37℃でよく攪拌しながら1時間インキュベートした。この試料に、同量の10%血清加DMEMを加え、1200×gで10分間遠心分離した。
遠心分離により得られたペレットに0.16M NHCl/PBS(Gibco)を加えて懸濁し、25℃で20分間インキュベートした。この試料を口径100μmのメッシュ(Whatman)を用いて吸引ろ過した。このろ過物を1200×gで5分間遠心分離した。この細胞は線維芽細胞様の細胞であった。
[実施例2:脂肪組織由来細胞中の幹細胞の確認]
実施例1において調製した細胞中に幹細胞が含まれていることは、細胞マーカー(CD105、CD73、CD29、CD44およびSca−1)により確認する。細胞マーカーの存在は、ELISAまたはウエスタンブロットなどの免疫化学的手法を用いることによって同定することができる。
ここでは、プレイオトロフィン(pleiotrophin)、エピレグリン(epiregulin)、肝細胞増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog)、インスリン様増殖因子1a、GAPDHを用いてmRNA発現を確認した。その実験の概略を以下に示す。
脂肪由来幹細胞をフィーダーとして作製した再生組織の細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成した。このcDNAを鋳型として各遺伝子特異的なプライマーを用いてPCRを行い、再生組織における各遺伝子の発現を調べた。
プライマー(それぞれ、センスプライマーおよびアンチセンスプライマーを示す)としては、プレイオトロフィン(pleiotrophin):配列情報:配列番号1−2、エピレグリン(epiregulin):配列情報:配列番号3−4、肝細胞増殖因子:配列情報:配列番号5−6、ケラチノサイト増殖因子:配列情報:配列番号7−8、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog):配列情報:配列番号9−10、インスリン様増殖因子1a:配列情報:配列番号11−12、GAPDH:配列情報:配列番号13−14を使用した。
結果を、図1Bに示す。NIH/3T3において上皮系の細胞の増殖、維持に影響を及ぼしているであろうと考えられるタンパク質等について、脂肪前駆細胞におけるmRNAの発現を解析した。特に、シスタチンC、HGF、KGF、IGF−1aを発現しており、脂肪前駆細胞は上皮系の細胞に対して、フィーダー細胞と成りえるのではないかと考えられる。
[実施例3:脂肪組織由来細胞の特徴づけ]
次に、実施例1において調製した細胞中の細胞が、サイトカイン分泌能を亢進していることを確認した。まず、VEGFについて、抗VEGF抗体を用いて細胞分泌物をサンプルとして、ELISAを行った。ELISAは、R&D社から入手可能なELISAキットを用いて行った。コントロールとして、ヒト血管内皮細胞およびヒト由来平滑筋細胞を測定した。
その結果、ヒト血管内皮細胞は、100nmol/ml、ヒト由来平滑筋細胞は約800nmol/ml、および実施例1において調製した細胞は、約1500nmol/mlVEGFを分泌していることが分かった。従って、本発明の細胞は、VEGFが、通常の細胞に比べて、約2〜15倍に亢進していたことが確認された。理論に束縛されることを望まないが、本発明の細胞は、細胞生理活性物質(例えば、増殖因子、サイトカインなど)の分泌が亢進されている細胞を含むことによって、フィーダー効果を増進させているようであることが明らかになった。
[実施例4:角膜上皮幹細胞の摘出]
次に、ウサギ(ニュージーランドホワイト種;日本チャールズリバー)をモデルとして、角膜細胞の再生を試みる。まず、角膜上皮幹細胞をウサギから調製した。そのプロトコールを以下に示す。
ドナー角膜あるいはホスト健常眼(片眼性疾患の場合)の角膜上皮の幹細胞を角膜輪部より採取した。この場合、角膜中心部から離れた角膜輪部の1mm径の1断片のみを採取するので、たとえliving−relatedドナー眼またはホスト健常眼から採取しても、その傷害は瘢痕をのこすことなく治癒し、視力には影響を与えない。術後には治療用コンタクトレンズを装用させるので、創傷治癒も早く、痛みも軽度である。術後の痛みに対して、鎮痛剤と抗生物質、消炎剤で対処する。このウサギは、早期に創傷治癒したことが確認された。
この細胞を所望の幹細胞として用いた。
[実施例5:口腔粘膜幹細胞の調製]
次に、ウサギ(ニュージーランドホワイト種;日本チャールズリバー)をモデルとして、角膜細胞の再生を試みる。角膜が喪失されている場合への応用を試みるため、口腔粘膜上皮幹細胞をウサギから調製する。そのプロトコールを以下に示す。
ドナー口腔粘膜あるいはホスト健常口腔粘膜の口腔粘膜上皮の幹細胞を口腔粘膜より採取する。頬粘膜から、3〜5mm径の1断片のみを採取する。口腔粘膜は再生能力が高いのでその傷害は瘢痕をのこすことなく治癒し、口腔の機能には影響を与えない。口腔は治癒が速い組織であることから、創傷治癒も早く、痛みも軽度である。ホストからの口腔粘膜の採取であるが、術後の痛みに対して、鎮痛剤と抗生物質、消炎剤で対処する。通常早期に創傷治癒する。
この細胞を所望の幹細胞の例として用いる。
[実施例6:コロニー形成アッセイによる確認]
実施例4において調製した幹細胞を、実施例1において調製したフィーダー細胞上で培養して、コロニー形成アッセイによりフィーダー効果があるかどうかを確認した。本実験ではコロニーが形成されるとフィーダー効果があるということを実証することになる。
幹細胞を、フィーダー細胞上で、DMEM/Ham’s 12(1:1;ともにGibcoから入手)に10%ウシ胎仔血清(FCS=ハナネスコバイオ、東京から入手)ならびにインスリン(5μg/ml=Sigmaから入手)、コレラトキシン(1nM=和光純薬、大阪から入手)およびEGF(10ng/ml=Genzyme、Cambridge,MAから入手)を添加した培地中で培養した。培養後、コロニーはローダミンで染色した。ウサギ角膜上皮細胞(初代/8週齢)を1000個播種した。コントロールとして、3T3をフィーダーとして用いたものを使用した。フィーダー細胞は、それぞれ、3T3は、2×10細胞使用し、深部組織由来細胞は、1×10細胞使用し、皮下組織由来細胞は、1×10細胞使用した。(図中のμg/mlは、マイトマイシンCの濃度を示す)。
結果を図2〜4に示す。図2は、3T3細胞を用いた場合、図3は、深部の組織由来細胞を用いた場合、図4は、皮下の脂肪組織由来細胞を用いた場合を示す。本発明の脂肪由来の細胞で、従来使用されている3T3と同様のコロニーが形成されたことがわかった。このように、本発明の脂肪組織由来の細胞がフィーダー細胞として使用できることがわかった。
実施例5において調製する幹細胞もまた、上記同様にフィーダー効果を確認することができる。
別の条件でNIH/3T3および脂肪前駆細胞にX線(20Gy)を照射した後、1日培養後トリプシン処理を行いフィーダー細胞とした。ここに、ヒト角膜上皮細胞を1000cells/dishの密度で播種した。培養14日目にホルマリン固定を行いローダミンB染色を行った。NIH/3T3フィーダーと比較し、脂肪前駆脂肪フィーダーでは大きいコロニーが観察された(図4B)。
次に、これらの細胞のコロニー形成率、平均コロニー面積および皿全体に対するコロニー占有面積率を調べた。
NIH/3T3フィーダーおよび脂肪前駆細胞フィーダーにて培養を行ったコロニーのうち、直径5mm以上のものをコロニーとし、目視にてコロニー数をカウントした。播種数(1000cells)を分母としコロニー数を分子としてコロニー形成率を算出した。コロニー形成率では、NIH/3T3フィーダーの方が脂肪前駆細胞フィーダーのおよそ2倍の形成率であった(図4C)。
平均コロニー面積は以下のようにして調べた。NIH/3T3フィーダーおよび脂肪前駆細胞フィーダーにて培養を行ったコロニーのサイズをNIH imageを用いて測定した。平均コロニーサイズは、脂肪フィーダーの方がNIH/3T3と比較しおよそ2.4倍であった(図4D)。
皿全体に対するコロニー占有面積率は以下のようにして調べた。皿面積に対するコロニーの占有面積の割合(全コロニー面積/皿面積)を算出した。個々のコロニーの大きさは、脂肪前駆細胞フィーダーの方が大きいため、dishに対するコロニー占有面積率はNIH/3T3フィーダーと比較し、脂肪前駆細胞フィーダーの方がおよそ1.5倍、高い値を示した(図4E)。
[実施例7:フィーダー細胞システムの調製]
次に、実施例1で調製された細胞をフィーダー細胞とするシステムを構築する。この細胞を、温度応答性皿を用いて、その上にフィーダー細胞を播種した。このフィーダーシステムを用いて再生を行った。温度応答性培養皿の準備は以下のようにして行う。温度応答性インテリジェントポリマー(N−イソピルアルクリアミド)を、電子線照射を用いて培養皿に共有結合で固定化する。本実施例では、株式会社セルシード(http://www.cellseed.com/;東京、日本)から入手した。このようにして、本発明のフィーダー細胞システムを構築することができることがわかる。
[実施例8:角膜上皮幹細胞の分化]
実施例7で調製したシステムを用いて、角膜上皮幹細胞を37℃で2週間培養した。培養液は、実施例6に使用したものと同じ組成のものを使用した。その模式図を図1に示す。ここでは、温度感受性培養皿を例示として用いているが、本発明の実施においては、そのような皿を使用しなくても実施することができることが理解される。
まず3T3細胞および実施例1で調製した細胞にマイトマイシン処理して増殖活性を消失させて、温度応答性インテリジェントポリマーをコートした培養皿に播種し培養した。
つぎに採取した角膜輪部片、口腔粘膜片にディスパーゼを作用させて、上皮層を基底膜から剥離する。ついで、トリプシン・EDTA液(Clontech)で細胞層をバラバラにして1つの細胞にした。
これを、マイトマイシン処理3T3細胞(2×10細胞/ml)またはマイトマイシン処理した実施例1で調製した細胞(2×10細胞/ml)を播種した温度応答性インテリジェントポリマーをコートした培養皿に播種した(1×10細胞/ml)。採取後から培養過程はすべてクリーンベンチ内で清潔操作にて行う。培養は一貫した清潔環境で行った。
培養開始後7日および10日後のシート形成を確認した。その結果、本実施例1で調製した細胞は、3T3細胞と同様に、ウサギ幹細胞をシート状に再生させるフィーダー効果を有することが明らかになった。
[実施例9:ヒト角膜上皮幹細胞の分化]
次に、実施例8と同様の実験系を用いて、ヒト幹細胞が実際に再生されるかどうかを確認した。まず、ヒトからの細胞採取の方法を以下に示す。
ドナー角膜あるいはホスト健常眼(片眼性疾患の場合)の角膜上皮の幹細胞を角膜輪部より採取した。この場合、角膜中心部から離れた角膜輪部の1mm径の1断片のみを採取するので、たとえliving−related ドナー眼またはホスト健常眼から採取しても、その傷害は瘢痕をのこすことなく治癒し、視力には影響を与えない。術後には治療用コンタクトレンズを装用させるので、創傷治癒も早く、痛みも軽度である。術後の痛みに対して、鎮痛剤と抗生物質、消炎剤で対処する。この患者は、早期に創傷治癒したことが確認された。なお、患者に対しては、予め、組織採取の部位や大きさ、術後の痛みについて十分に説明し、同意を得ておいた。
実施例8と同様に、3T3細胞および実施例1で調製した細胞にマイトマイシン処理して増殖活性を消失させて、温度応答性インテリジェントポリマーをコートした培養皿に播種し培養した。
つぎに採取した角膜輪部片、口腔粘膜片にディスパーゼを作用させて、上皮層を基底膜から剥離する。ついで、トリプシン・EDTA液(Clontech)で細胞層をバラバラにして1つの細胞にした。
これを、マイトマイシン処理3T3細胞(2×10細胞/ml)またはマイトマイシン処理した実施例1で調製した細胞(2×10細胞/ml)を播種した温度応答性インテリジェントポリマーをコートした培養皿に播種した(1×10細胞/ml)。採取後から培養過程はすべてクリーンベンチ内で清潔操作にて行った。培養は一貫した清潔環境で行った。本実施例において培養液は、実施例6に使用したものと同じ組成のものを使用し、培養液ならびに培養液に添加するウシ血清はプリオンフリーのオーストラリア産のトレイサビリティのあるもの(ハナネスコバイオ、東京から入手)を使用した。
培養開始後7日および10日後のシート形成を確認した。その結果を、図5に示す。図5から明らかなように、ヒト角膜上皮細胞が角膜細胞様に分化していることが明らかになった。その分化の様子は、3T3もヒト線維芽細胞もそれほど差異がなく、ヒト線維芽細胞初代培養細胞のフィーダー効果は、十分にあることが明らかになった。従って、本発明の細胞は、3T3細胞と同様に、ヒト角膜の幹細胞をシート状に再生させる場合もフィーダー効果を有することが明らかになった。
その結果を、図6に示す。X線処理を行ったNIH/3T3および脂肪前駆細胞をフィーダーとし、ヒト角膜上皮細胞の培養を行った。35mm皿(NIPAAm)に1×10細胞/皿の密度で角膜上皮細胞を播種し、培養14日目に剥離し角膜上皮細胞シートを得た。
脂肪前駆細胞フィーダーを用いて培養を行った角膜上皮細胞は、敷居石状に配列しており、NIH/3T3フィーダーで培養を行った角膜上皮細胞と比較しても遜色ないものであった。
このシートの組織染色を行った。細胞における支持体の定着・消長を観察するために、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色は以下の通り行った。その手順は以下のとおりである。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗を行い、オムニのヘマトキシリンでサンプルを10分浸した。その後流水水洗し、アンモニア水で色出しを30秒間行った。その後、流水水洗を5分行い、塩酸エオジン10倍希釈液で2分間染色し、脱水し、透徹し、封入する。
[実施例10:ヒト口腔上皮幹細胞の分化]
次に、口腔粘膜細胞を用いた場合も同様にシート状に再生されることを確認する。
ドナー口腔粘膜あるいはホスト健常口腔粘膜の口腔粘膜上皮の幹細胞を口腔粘膜より採取する。頬粘膜から、3〜5mm径の1断片のみを採取する。口腔粘膜は再生能力が高いのでその傷害は瘢痕をのこすことなく治癒し、口腔の機能には影響を与えない。口腔は治癒が速い組織であることから、創傷治癒も早く、痛みも軽度である。ホストからの口腔粘膜の採取であるが、術後の痛みに対して、鎮痛剤と抗生物質、消炎剤で対処する。通常早期に創傷治癒する。なお、患者に対しては、予め、組織採取の部位や大きさ、術後の痛みについて十分に説明し、同意を得ておく。
これ以外の手順は実施例9に従って、行う。その結果、従って、本発明の細胞は、3T3細胞と同様に、ヒト口腔粘膜細胞の幹細胞をシート状に再生させる場合もフィーダー効果を有することが明らかになる。
[実施例11:ウサギ角膜上皮幹細胞の分化組織の移植]
次に、実施例8で調製したシートをウサギに移植する。ここでは、分化細胞の集合物を実際の角膜に移植して生着するかどうかを確認する。
実施例8のとおりに組織シートを2週間かけて調製した後に、培養角膜上皮を使用する前に、血清を含まない液で洗浄した後に移植を行う。移植直前に細菌、真菌培養検査を行って、細菌、真菌の汚染がないことを確認した後で使用する。また、ドナー角膜1つで複数の患者に使用してもよい。
2週間後、シート状になった細胞集合物を分離した分離は、温度を下げることによって行う。生着は1週間ごとに観察する。炎症、石灰化、免疫反応などがないかを確認する。その結果、細胞集合物は、一定期間経た後も顕著な有害作用なしに生着しているが確認される。
[実施例12:ヒトでの再生治療−ヒト角膜上皮幹細胞の分化組織の移植]
実施例9で調製したシートをヒト患者に移植する。ここでは、分化細胞の集合物を実際の角膜に移植して生着するかどうかを確認する。なお、患者に対しては、予め、処置の方法、術後の痛み、可能性のある副作用について十分に説明し、同意を得ておく。
人体の実験の際は、少なくとも以下の点に留意する。
(1)局所麻酔あるいは全身麻酔下で行う。
(2)角膜・結膜の瘢痕性組織を可能な限り除去した後、培養上皮シートを移植する。
(3)術前・術後管理は角膜移植に準じる(角膜移植ガイダンス、坪田ら著、南江堂−適応から術後管理まで、2002を参照)。
実施例9のとおりに組織シートを2週間かけて調製した後に、培養角膜上皮を使用する前に、血清を含まない液で洗浄した後に移植を行う。移植直前に細菌、真菌培養検査を行って、細菌、真菌の汚染がないことを確認した後で使用する。また、ドナー角膜1つで複数の患者に使用してもよいが本実施例ではまず片眼で行う。
2週間後、シート状になった細胞集合物を分離した分離は、温度を下げることによって行う。生着は1週間ごとに観察する。炎症、石灰化、免疫反応などがないかを確認する。その結果、細胞集合物は、一定期間経た後も顕著な有害作用なしに生着しているが確認される。
[実施例13:ヒトでの再生治療−ヒト口腔膜上皮幹細胞の分化組織の移植]
次に、同意を得た患者から、口腔粘膜上皮幹細胞を採取し、実施例10と同様の処置を行った。すると、シート状の移植物が調製された。そのシート状の移植物をヒト被検体移植すると、口腔粘膜幹細胞由来のシートであっても充分機能する移植物ができることが確認された。
次に、実施例12と同様に、ヒト角膜へ移植した。
対象とした患者は以下の通りである。以下の実験では、フィーダー細胞として3T3細胞を用いたものが示される。

シルマー試験(局麻なし)は、5mm×35mmのWhatman濾紙に、5分間辺縁を浸すことにより得られる水分を測定することによって得られた。5mm以下は、分泌が損傷されていることを示す。
シルマー試験(鼻腔刺激)は、鼻腔を綿のスワブで刺激することによって同様の水分量を測定した。10mm以下は、涙腺量の現象を示す。
図7B〜Hには、シートの染色図を示す。
図7Bは、採取した細胞シートが3〜5層の細胞層が形成されることをH&E染色にて確認したものを示す。
図7Cは、もとの口腔粘膜のH&E染色図であり、細胞シートとは全く異なることが分かる。
図7Dは、正常な角膜上皮細胞を示す。細胞シートは、この角膜上皮細胞に類似している。
図7Eは、本発明において使用される細胞シートの先端表面における微絨毛の発達を顕微鏡写真に下物を示す。
図7Fは、本発明において使用される細胞シートを抗ケラチン3抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
図7Gは、本発明において使用される細胞シートを抗β1インテグリン抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
図7Hは、本発明において使用される細胞シートを抗p63抗体で免疫染色した(緑)図を示す。
免疫染色は、抗ケラチン3抗体(AE5、Progen Biotechnik)、抗β1インテグリン抗体(P5D2、Santa Cruz Biotechnology)、および抗p63抗体(4A4、Santa Cruz Biotechnology)を用いた。これらとともに、フルオレセイニソチオシアネート標識されているか、またはローダミン標識された二次抗体をも用いた(Jackson ImmunoResearch Laboratoreis)。核は、Hoechst 33342(Molecular Probes)またはプロピジウムヨージド(Sigma))を用いて染色した。
染色した細胞は、共焦点顕微鏡(LSM−510,Zeiss)を用いて観察した。ネガティブコントロールとしては、非特異的なIgG(同一濃度)の物を用い、ネイティブのヒト角膜および辺縁組織ポジティブコントロールとして用いた。
手術は、結膜および結膜下の瘢痕組織を辺縁の外側3mmまで角膜から取り除き、角膜間質を暴露させることによって開始した。ついで、調製した細胞シートを、暴露した角膜部分においた。縫合は必要なかった。その様子を、図7Iに示す。図7I−Aは、角膜表面全体を示す。血管新生が結膜に見られる。図7I−Bは、角膜上の結膜組織を示す。再暴露して角膜間質が表面に見えている。図7I−Cは、細胞シートを、ドーナツ型サポーターを用いて採取する様子を示す。図7I−Dは、この細胞シートを角膜間質に配置したところである。図7I−Eは、細胞シートが数分間で接着し、その後サポーターをはずしたところを示す。図7I−Fは、細胞シートが角膜間質に定着した様子を示す。
術後、局所抗生物質処理(0.3%オフロキサシン)およびステロイド(0.1%ベタメタゾン)を用いて処置した(最初は1日4回、ついで1日3回)。最初の一週間は、ベタメタゾンを経口投与した。術後1ヵ月後で、局所コルチコステロイドの投与は、ベタメタゾン(0.l%)からフルオロメタロン(0.1%)に交換した。ドライアイの症状が出ていたからである。人工涙液も必要に応じて使用した。
術後の各患者の目の様子は、図7J−1〜図7J−4に示す。各数字は、上記表における患者番号に一致する。左は術前を示し。右は術後を示す。
術前と術後の視力回復について、以下の表にまとめた。

角膜混濁は、0を明澄として、1を中程度の混濁、2を中程度の混濁に加えて虹彩が部分的に遮蔽されている、3を重篤に混濁、眼内構造が遮蔽されている様子を示す。
視力は、視力表を読めない場合、指の数を数えさせることによって測定した。指の数を数えられなければ、手の動きを読ませることによって測定した。視力は、最高に矯正できた視力を示す。
上記の表のように、本実施例において、本発明の移植片を用いて角膜治療を行い、視力回復を行うことができたことが確認された。
このように、口腔膜上皮幹細胞を分化させた細胞集合物もまた、一定期間経た後も顕著な有害作用なしに生着しているが確認された。
[実施例14:脂肪由来細胞をフィーダー細胞として用いた場合の角膜移植]
同様のプロトコールにおいて、脂肪細胞由来の細胞をフィーダー細胞に用いた場合にも同様の移植片の定着および視力回復が行われることを確認する。
実施例1〜3のように調製した脂肪組織由来の細胞を、フィーダー細胞として用いる。実施例5に記載されるように、口腔粘膜幹細胞を調製し、この細胞を上記フィーダー細胞と共培養する。
共培養する場合、実施例7に記載される細胞システムを用いる。分化は、実施例10に記載されるように刺激する。
このようにして調製される細胞シートを、実施例13に記載されるプロトコールに基づいて角膜への移植実験を行う。
その結果、本発明の脂肪組織由来細胞をフィーダー細胞として用いた場合、角膜への移植が首尾よく行われ、3T3細胞を用いた場合よりも、拒絶反応の可能性が低くなるなどの効果が確認される。
[実施例15:角膜以外の処置法−表皮]
本発明のフィーダー細胞が角膜と同様に表皮の培養に用いることができることを確認する。通常のプロトコールで培養される他家移植片である既に市販されている表皮シートであっても、自家の脂肪組織由来の線維芽細胞と共培養あるいは付着することができることを確認する。
表皮を、当該分野において公知の方法を利用して採取する。具体的には予め同意を得ておいたヒト患者から皮膚を採取する。この皮膚から、実施例9または10に記載の手順に順じて幹細胞を調製する。この幹細胞を、実施例9または10と同様の手法を用いて、本発明の細胞のフィーダー効果を確認する。幹細胞を角膜と同様の手法を用いて温度応答皿を用いてシート化する。すると、シート化が角膜同様に行われることが確認される。
[実施例16:胚性幹細胞での効果]
次に、本発明のフィーダー細胞が胚性幹細胞でもフィーダー効果を発揮することができることを確認する。胚性幹細胞は、幹細胞・クローン 研究プロトコール 中辻編、羊土社(2001)に記載されるような手法を用いて調製する。この胚性幹細胞を、実施例9または10に記載の手順を用いて、本発明の細胞のフィーダー効果を確認する。分化因子を用いない場合は、増幅(未分化状態を保ったまま維持および増殖させる)効果を奏することが企図される。所望の分化因子とともに胚性幹細胞を用いる場合、種々の臓器への分化が促進されることも確認することができる。
胚性幹細胞を用いる場合、あらかじめレシピエントの脂肪組織幹細胞から採取した本細胞とES細胞を共培養しておけば、ES細胞から作られた臓器或いは組織に対して、レシピエントは免疫拒絶反応を起こさない可能性が高まる。再生医療のみならず今後予想される、細胞あるいは細胞から分化させた臓器の移植医療に、免疫寛容性を与える可能性がある。
(実施例17:共移植での効果)
次に、本発明のフィーダー細胞と、幹細胞とをともに体内に移植した場合の、フィーダー効果を確認する。
上述の実施例において、表皮系などの幹細胞シートなどを生体に移植するに際し、本フィーダー細胞を抗生物質または放射線照射で失活させることなく同時に移植することができる。このような処置方法により、生体内において増殖因子分泌作用や補強機能が期待される。本発明の方法では、自己組織を用いることができることから、拒絶反応などの副反応が大幅に減少されると同時に、再生効果は従来以上に向上することが分かる。
(実施例18:ヒト組織での効果:ヒトケラチノサイトに対する本発明のフィーダー細胞のフィーダー効果)
ヒトケラチノサイトに対して、本発明の脂肪組織由来細胞がフィーダー効果を有するかどうかを確認した。ヒトケラチノサイトコロニーアッセイは以下のようにして行った。フィーダー細胞は、実施例7に示されるようにシステムを構築して使用した。
NIH/3T3および脂肪前駆細胞にX線(20Gy)を照射した後、1日培養後トリプシン処理を行いフィーダー細胞とした。ここに、ヒトケラチノサイトを1×10細胞/皿の密度で播種した。培養14日目にホルマリン固定を行いローダミンB染色を行った(図8)。ケラチノサイトにおいても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示し、角膜上皮細胞以外にも上皮系細胞のフィーダー細胞として働くことが可能であることが明らかになった。
(実施例19:血管内皮細胞に対する本発明のフィーダー効果)
次に、血管内皮細胞に対する本発明のフィーダー効果を確認した。フィーダー細胞は、実施例7に示されるようにシステムを構築して使用した。使用したキットは、Angiogenesis kit(Kurabo,Tokyo,Japan)である。
ヒト脂肪前駆細胞が血管形成を促進するようなフィーダー細胞となるかを確認するために、脂肪前駆細胞の培養上清を3次元でのヒト血管内皮細胞と繊維芽細胞の共培養系(Kurabo)に添加したところ、内皮細胞の培養上清に比較して管腔形成能は有意に亢進した(図9)。また、同様に内皮細胞の遊走能に関しても検討したところ、脂肪前駆細胞の培養上清は内皮細胞の培養上清に比較して有意に亢進させた(図9)。つまりヒト血管内皮細胞に置いても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示すことが明らかになった。
(実施例20:骨髄由来間葉系幹細胞に対する本発明のフィーダー細胞のフィーダー効果)
次に、脂肪前駆細胞のヒト血管内皮細胞に対するフィーダー効果を確認した。培養液(10%FCS+DMEM)のみと培養液に加えてマウス脂肪前駆細胞をフィーダー細胞とした条件で比較した。マウス骨髄よりHistopaque(密度勾配遠心分離法)にて骨髄単核球を分離し両者に播種した。培養7日目に浮遊細胞を分離し、メイギムザ染色を行なった。結果は、図10に示す。骨髄単核球に置いても脂肪前駆細胞はフィーダー効果を示すことが明らかになった。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
本発明は、再生医療において、多大な有用性を有する。好ましい実施形態では特に、ヒト細胞をフィーダーとして使用することが本発明において初めて達成されたことから、その有用性は高い。また、脂肪組織という豊富な資源を用いることから、供給源に関する懸念は払拭された。その意味でその有用性は高いといえる。したがって、本発明は、再生医療およびその治療用医薬などを製造する業において利用可能性がある。
【配列表】





【図1】


【図2】

【図3】

【図4】





【図5】

【図6】

【図7】










【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダー細胞として用いるための、脂肪組織に由来する細胞。
【請求項2】
前記フィーダー細胞は、胚性幹細胞、組織幹細胞または分化細胞を分化または維持するためのものである、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記フィーダー細胞は、表皮への分化または維持をさせるためのものである、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
前記フィーダー細胞は、角膜への分化または維持をさせるためのものである、請求項1に記載の細胞。
【請求項5】
前記細胞は、組織幹細胞を含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞は、線維芽細胞を含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項7】
前記細胞は、初代培養細胞を含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項8】
前記細胞は、ヒト細胞を含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項9】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;および
B)該一部または該幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項10】
前記所望の臓器、組織または細胞は、表皮系のものを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記所望の臓器、組織または細胞は、角膜、骨、筋肉、軟骨、心臓、心膜、血管、皮膚、腎臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、四肢末梢、脂肪および網膜ならびにその一部からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記フィーダー細胞は、組織幹細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記フィーダー細胞は、線維芽細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記フィーダー細胞は、初代培養細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記被検体と前記フィーダー細胞とは、同じ種である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記被検体はヒトであり、前記フィーダー細胞はヒト細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記培養は、エキソビボで行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記一部または前記幹細胞と、前記フィーダー細胞とは、異種、同種異系または同系である、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記一部または前記幹細胞と、前記フィーダー細胞とは、同系である、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記一部または前記幹細胞は、被検体から摘出されてすぐのものであるか、または凍結保存されたものである、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記培養は、ウシ胎仔血清、インスリンおよびコレラトキシンからなる群より選択される少なくとも1つの因子の存在下で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
前記培養は、前記一部または前記幹細胞と、前記フィーダー細胞との比率を、10:1〜1:10の比率で行うことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
前記培養は、前記一部または前記幹細胞より、前記フィーダー細胞を少なくして行うことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項24】
前記培養は、細胞生理活性物質を含む培養液において行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項25】
前記培養は、上皮増殖因子(EGF)を含む培養液において行われ、前記所望の臓器、組織または細胞は、角膜またはその組織もしくは細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
前記フィーダー細胞の増殖を抑制する工程、をさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項27】
前記フィーダー細胞の増殖抑制は、抗生物質の投与または放射線照射によって達成される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗生物質は、マイトマイシンCを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムであって:
A)容器;
B)脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、
を備える、システム。
【請求項30】
所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供するための提供手段をさらに備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記提供手段は、前記一部または前記幹細胞を、前記被検体から取り出すための手段を包含する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記手段は、カテーテル、かきとり棒、ピンセット、注射器、医療用はさみおよび内視鏡からなる群より選択される手段を包含する、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
細胞生理活性物質をさらに備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項34】
EGFをさらに備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項35】
前記フィーダー細胞の増殖を抑制する手段、をさらに包含する、請求項29に記載のシステム。
【請求項36】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;
B)該一部または該幹細胞を、脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;および
C)該培養された該一部または該幹細胞を該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞を、該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項38】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、および脂肪組織に由来する細胞を含むフィーダー細胞、
を含む、医薬。
【請求項39】
フィーダー細胞としての、脂肪組織に由来する細胞の使用。
【請求項40】
フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用。
【請求項41】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、脂肪組織に由来する細胞の使用。
【請求項42】
フィーダー細胞として用いるための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞。
【請求項43】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための移植物を調製するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;および
B)該一部または核幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項44】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するためのシステムであって:
A)容器;
B)ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、
を備える、システム。
【請求項45】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞を提供する工程;
B)該一部または該幹細胞を、ヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞上で培養する工程;および
C)該培養された該一部または該幹細胞を該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項46】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための方法であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞を、該被検体の処置されるべき部位に移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項47】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬であって:
A)所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化する能力を有する幹細胞、およびヒト線維芽細胞初代培養細胞を含むフィーダー細胞、
を含む、医薬。
【請求項48】
フィーダー細胞としての、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
【請求項49】
フィーダー細胞を含む医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
【請求項50】
被検体の臓器、組織または細胞を再生するための医薬を製造するための、ヒト線維芽細胞初代培養細胞の使用。
【請求項51】
上皮組織を再生するための移植片であって、幹細胞または該幹細胞に由来する細胞を含む、移植片。
【請求項52】
前記上皮組織は角膜である、請求項51に記載の移植片。
【請求項53】
前記幹細胞は、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞からなる群より選択される、請求項51に記載の移植片。
【請求項54】
前記幹細胞は、上皮幹細胞である、請求項51に記載の移植片。
【請求項55】
前記幹細胞は、角膜上皮幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞からなる群より選択される、請求項51に記載の移植片。
【請求項56】
前記幹細胞または幹細胞に由来する細胞は、フィーダー細胞と共培養されたものである、請求項51に記載の移植片。
【請求項57】
前記フィーダー細胞として、ヒト由来の細胞が用いられる、請求項516に記載の移植片。
【請求項58】
前記ヒト由来の細胞は、脂肪由来細胞、胚性幹細胞、または骨髄幹細胞を含む、請求項57に記載の移植片。
【請求項59】
前記胚性幹細胞または骨髄幹細胞としては、フィーダー細胞を抜いてDMEM+10%FBSで培養された細胞が使用される、請求項58に記載の移植片。
【請求項60】
前記フィーダー細胞は、脂肪組織に由来する細胞を含む、請求項56に記載の移植片。
【請求項61】
前記フィーダー細胞との共培養は、細胞接着が促進する条件で行われる、請求項56に記載の移植片。
【請求項62】
前記移植片は、重層化した細胞を含む、請求項51に記載の移植片。
【請求項63】
前記移植片は、無縫合移植に使用される、請求項51に記載の移植片。
【請求項64】
前記移植片は、異種由来成分を含まないことを特徴とする、請求項51に記載の移植片。
【請求項65】
上皮組織を再生するための移植片としての医薬を調製するための使用であって、該移植片は、幹細胞または該幹細胞に由来する細胞を含む、使用。
【請求項66】
前記上皮組織は、角膜である、請求項65に記載の使用。
【請求項67】
前記幹細胞は、上皮幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、脂肪幹細胞、腎臓幹細胞および肝臓幹細胞からなる群より選択される、請求項65に記載の使用。
【請求項68】
前記幹細胞は、上皮幹細胞である、請求項65に記載の使用。
【請求項69】
前記幹細胞は、角膜上皮幹細胞、囗腔粘膜上皮幹細胞、表皮幹細胞、膀胱上皮幹細胞、結膜上皮幹細胞、胃粘膜上皮幹細胞、小腸上皮幹細胞、大腸上皮幹細胞、腎臓上皮幹細胞、尿細管上皮幹細胞、歯肉粘膜上皮幹細胞、毛幹細胞、食道上皮幹細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、乳腺幹細胞、唾液腺幹細胞、涙腺幹細胞、肺上皮幹細胞および胆嚢上皮幹細胞からなる群より選択される、請求項65に記載の使用。
【請求項70】
前記幹細胞または幹細胞に由来する細胞は、フィーダー細胞と共培養されたものである、請求項65に記載の使用。

【国際公開番号】WO2005/035739
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514693(P2005−514693)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015576
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(503105952)
【出願人】(503376909)
【Fターム(参考)】