説明

冗長化システム

【課題】N+m冗長化構成において、複数台の現用系ルータに障害が発生したときにでも、通信性能の低下を抑制すること。
【解決手段】N+m冗長化する冗長化システムであって、ルータ1のイベント検出部13が、所定のVRRPグループに属する現用系のルータ1に障害が発生したときに、新たな現用系として切り替える旨の切り替えイベントを、設定記憶部12のステートを監視することで検出し、イベント対処部14が、イベント検出部13により検出された切り替えイベントの対象となる所定のVRRPグループを特定し、その特定した所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、自身の現用系の選出頻度を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冗長化システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冗長化技術として、IP(Internet Protocol)ネットワーク上のルータに、非特許文献1に記載のVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)を用いる形態が用いられている。冗長化に用いられるルータの台数を示す表記として、「1+3」のように、「+」記号が用いられる。「+」記号の前が現用系のルータ台数を示し、「+」記号の後が予備系のルータ台数を示す。予備系のルータは、現用系のルータ障害時に、新たに現用系として切り替わるルータである。
【0003】
例えば、「1+3」冗長化とは、1台の現用系に対して、3台の予備系をあらかじめ用意する形態である。これにより、三重障害(現用系1台の障害と、予備系2台の障害)が発生しても、残り1台の予備系が現用系の代行として動作するので、障害耐性が強くなる。一方、3台の予備系をあらかじめ用意することにより、その設備コストは高くなってしまう。
なお、非特許文献1に記載のVRRPは、1台の現用系を対象としたものである。つまり、1+1冗長化または1+m冗長化を実現する。
【0004】
一方、現用系のルータ台数を複数台とするN+m冗長化構成も考えられる。N+m冗長化を実現する手法として、以下が挙げられる。
特許文献1には、負荷分散のためVRRPの優先度を調整し、プリエンプトに因る切り替え手法が記載されている。
特許文献2には、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)リレールータの負荷分散を、advertiseメッセージに負荷情報を交える事により実現している手法が記載されている。
特許文献3には、HSRP(Hot Standby Routing Protocol)とVRRPとの協働手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−046539号公報
【特許文献2】特開2003−348136号公報
【特許文献3】特開2002−064528号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Internet Engineering Task Force (IETF)、“Virtual Router Redundancy Protocol (VRRP) Version 3 for IPv4 and IPv6”、[online]、[2011年7月24日検索]、インターネット〈URL:http://tools.ietf.org/html/rfc5798〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
N+m冗長化構成において、複数台の現用系ルータに障害が発生したときにでも、予備系ルータへの切替に伴って、N+m冗長化システム全体としての通信性能の低下は、なるべく発生しないようにする必要がある。
【0008】
例えば、複数台の現用系ルータの役割を、同じ1台の予備系ルータが重複して代行すると、その予備系ルータにおいて複数台の現用系ルータ分の通信フローが集中してしまい、過負荷となって性能低下を発生させてしまう。予備系ルータの性能低下に伴って、パケットロス(呼損など)やパケットの送信遅延などの通信サービスへの影響も生じてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、N+m冗長化構成において、複数台の現用系ルータに障害が発生したときにでも、通信性能の低下を抑制することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)により、N台の現用系ルータとm台の予備系ルータとをN+m冗長化する冗長化システムであって(N,mはそれぞれ2以上の整数)、N台の前記現用系ルータそれぞれに対して、別々のVRRPグループを構成し、N個の各VRRPグループが、他のどのVRRPグループにも属さない1台の前記現用系ルータと、その前記現用系ルータの障害時に現用系に切り替わる候補であるm台の前記予備系ルータとを含めて構成され、m台の各前記予備系ルータが、設定記憶部と、イベント検出部と、イベント対処部とを有しており、前記設定記憶部には、VRRPグループごとに、自身の現用系として選択される頻度を示すプライオリティと、自身の動作状態が現用系か予備系かを示すステートとが格納されており、前記イベント検出部が、所定のVRRPグループに属する前記現用系ルータに障害が発生したときに、前記所定のVRRPグループ内の前記プライオリティが最高値の前記予備系ルータを、新たな現用系として切り替える旨の切り替えイベントを、前記設定記憶部の前記ステートを監視することで検出し、前記イベント対処部が、前記イベント検出部により検出された前記切り替えイベントの対象となる前記所定のVRRPグループを特定し、その特定した前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定を前記設定記憶部に出力することを特徴とする。
【0011】
これにより、N+m冗長化構成において、複数台の現用系ルータに障害が発生したときにでも、所定のVRRPグループについて現用系として切り替わったルータは、他のVRRPグループについて現用系の選出頻度が下がるので、現用系の重複代行に伴う通信性能の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明は、前記イベント検出部が、自身のSNMP(Simple Network Management Protocol)−MIB(Management Information Base)内のvrrpOperStateの値を前記ステートとして参照して、前記切り替えイベントを検出することを特徴とする。
【0013】
これにより、イベント検出部として既存のsnmp-mibの実装を活用することで、VRRPの制御に関する開発量(実装量)を削減できる。
【0014】
本発明は、前記イベント検出部が、自身のsyslogに出力される特定文字列として、自身が予備系から現用系へと切り替わる旨を示す文字列を監視して、前記切り替えイベントを検出することを特徴とする。
【0015】
これにより、イベント検出部として既存のsyslogの実装を活用することで、VRRPの制御に関する開発量(実装量)を削減できる。
【0016】
本発明は、前記イベント対処部が、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定として、前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、前記設定記憶部に格納されている前記プライオリティの値を下げることを特徴とする。
【0017】
これにより、自身の現用系の選出頻度が下がるものの、冗長化システムの冗長性が無くなる緊急的な状況下において、N台の現用系を確実に確保することができる。
【0018】
本発明は、前記イベント対処部が、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定として、前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、自身の前記予備系ルータとしての登録を離脱することを特徴とする。
【0019】
これにより、自身の現用系の選出頻度を0とすることで、現用系の重複代行に伴う通信性能の低下を確実に抑制することができる。
【0020】
本発明は、前記イベント対処部が、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定をした後に、自身のリセット処理、および、自身に割り当てられているアドレスの変更処理のうちの少なくとも1つの処理を実行することを特徴とする。
【0021】
これにより、自身の現用系への代行に伴って必要な各追加処理を実行させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、N+m冗長化構成において、複数台の現用系ルータに障害が発生したときにでも、通信性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に関する冗長化システムの例として、4+3冗長化システムを示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に関する図1の冗長化システムにおける障害発生時の切り替え動作の概要を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に関する図1のルータの詳細を示す構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に関するRFC2787に規定されているvrrp-mibからの抜粋を記す。
【図5】本発明の一実施形態に関するRFC2787に規定されているvrrp-mibからの抜粋を記す。
【図6】本発明の一実施形態に関するRFC2787に規定されているvrrp-mibからの抜粋を記す。
【図7】本発明の一実施形態に関するルータの障害対処処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、冗長化システムの例として、4+3冗長化システムを示す構成図である。
冗長化システムは、レイヤ2スイッチであるスイッチ2間を、複数台のルータ1で接続することで、構成される。各装置内の黒塗りの矩形は、物理インタフェースを表す。
なお、図1の冗長化システムを構成する各装置(ルータ1、スイッチ2)は、CPU(Central Processing Unit)とメモリとハードディスク(記憶手段)と物理インタフェースを有するコンピュータとして構成され、このコンピュータは、CPUが、メモリ上に読み込んだプログラムを実行することにより、各処理部を動作させる。
また、図1の冗長化システムを構成する各装置の台数は、図1に例示した台数に限定されず、任意の台数としてもよい。
【0026】
ルータ1には、自装置のID情報として、初期状態で「現用系」として動作する「MS1〜MS4」と初期状態で「予備系」として動作する「BK1〜BK3」とがそれぞれ割り当てられている。
なお、以下の説明では、「master」とは現用系を示し、「backup」とは予備系を示す。
スイッチ2aは、「192.168.2.0/24」のセグメントの物理インタフェース(図1では下側の7つ)と、一方の外部ネットワークと接続するための物理インタフェース(図1では上側の1つ)とを有する。
スイッチ2bは、「192.168.1.0/24」のセグメントの物理インタフェース(図1では上側の7つ)と、他方の外部ネットワークと接続するための物理インタフェース(図1では下側の1つ)とを有する。なお、「192.168.1.0/24」のセグメントには、VRRPが設定される。
【0027】
なお、VRRPが設定される物理インタフェースの数を、ルータ1台あたり1つとしたが、複数の物理インタフェースに対して、VRRPを設定してもよい。そして、現用系装置の複数の物理インタフェースに対して、VRRPを設定するときには、予備系装置においても現用系装置と同数の物理インタフェースに対して、VRRPを設定することが望ましい。なぜなら、現用系装置の物理インタフェース数よりも予備系装置の物理インタフェース数が少ないとすると、現用系装置から予備系装置への切替に伴って、冗長化システム全体として性能劣化が発生するからである。
【0028】
図2は、図1の冗長化システムにおける障害発生時の切り替え動作の概要を示す説明図である。
【0029】
まず、図2(a)の初期状態では、7台のルータ1のうちのルータIDに「MS」が割り当てられている4台のルータ1が現用系として動作している(図中では、現用系のルータ1には太枠を示している)。例えば、ルータ1(MS1)は、VRRPのVRID=1が割り当てられている。
次に、図2(b)の単一障害では、ルータ1(MS1)に障害が発生してしまう。そのため、ルータ1(BK1)は、VRID=1における現用系に切り替わり、ルータ1(MS1)の役割を代行する。
そして、図2(c)の二重障害では、ルータ1(MS2)にも障害が発生してしまう。そのため、ルータ1(BK2)は、VRID=2における現用系に切り替わり、ルータ1(MS2)の役割を代行する。
【0030】
ここで、ルータ1(BK1)が、VRID=1での現用系と、VRID=2での現用系とを重複して代行しないように、図7で後記するように、所定のVRIDにおいて、予備系から現用系へと切り替わったルータ1は、他のVRIDについて現用系への選出頻度を下げる(現用系へと選ばれなくする、または、現用系へと選ばれにくくする)旨の排他制御を行う。
【0031】
図3は、図1のルータ1の詳細を示す構成図である。以下、冗長化システムに用いられるルータ1として、Cisco Systems社のルータを例示するが、他のベンダのルータを用いてもよいし、マルチベンダによる冗長化システム構成としてもよい。各ルータ1は、VRRP実行部11と、設定記憶部12と、イベント検出部13と、イベント対処部14と、ポリシ記憶部15とを有する。
【0032】
VRRP実行部11は、非特許文献1などで規定されたVRRPを実行する手段を有する。例えば、Cisco Systems社のルータ1では、以下の文献に記載されているように、ルータ1に実装されているVRRPを実行するための各コマンドをネットワーク管理者が打ち込むことで、VRRPをルータ1で実行させる。
Cisco Systems, Inc.、“Configuring VRRP”、[online]、[2011年7月24日検索]、インターネット〈URL:http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/ipapp/configuration/guide/ipapp_vrrp.pdf〉
【0033】
設定記憶部12は、VRRP実行部11がVRRPの実行の際に参照するVRRPに関する設定データを格納する(詳細は、後記する表1を参照)。主な設定データには、自身が現用系として動作しているか、または、予備系として動作しているかを示す「state」や、VRIDごとの現用系の選出頻度(選ばれやすさ)を示すための優先度である「priority」などが挙げられる。
【0034】
イベント検出部13とイベント対処部14とは、ポリシ記憶部15に格納されているポリシデータに従って、連動して動作する。ポリシデータは、イベント検出部13が検出(監視)対象とするイベントと、イベント対処部14がイベント検出時に実行するアクションとを対応づけるデータである。
ポリシデータは、現用系から予備系への切替イベントに関するものと、予備系から現用系への切替イベントに関するものとがある。以下の説明では、主に後者の予備系から現用系への切替イベントの詳細を説明する。
【0035】
イベント検出部13が検出する予備系から現用系への切替イベントとして、2つ例示する。
イベント「snmp-mib内のvrrpOperStateの値が「backup(2)」から「master(3)」へ変更されると、検出したvrrpOperStateに対応する(同じVrrpOperEntryに属する)VrIdを、変更対象VRIDとして特定する」
なお、SNMP(Simple Network Management Protocol)−MIB(Management Information Base)とは、ルータ1の設定情報を格納するデータベースであり、例えば、以下の文献に記載されている。
Cisco Systems, Inc.、“MIB file”、[online]、[2011年7月24日検索]、インターネット〈URL:ftp://ftp.cisco.com/pub/mibs/v1/VRRP-MIB-V1SMI.my〉
【0036】
イベント「syslog内の現用系から予備系への切替を示す特定文字列として、「STATECHANGE」および「Backup\t -> Master」を含む行が追加されると、その行に含まれるvridの数値を変更対象VRIDとして特定する」
なお、syslogとは、ルータ1の動作状況やメッセージなどのログが随時テキストデータとして書き出すプログラムおよびその出力ファイルであり、例えば、以下の文献に記載されている。
Cisco Systems, Inc.、“Support Information for Cisco Syslogs”、[online]、[2011年7月24日検索]、インターネット〈URL:http://www.cisco.com/en/US/docs/net_mgmt/active_network_abstraction/3.6.7/vne/reference/guide/syslogs.pdf〉
【0037】
予備系から現用系への切替イベントを受け、イベント対処部14が実行するアクションとして、2つ例示する。
アクション「変更対象VRID以外の各VRIDをotherとすると、「vrrp (other) priority 1」をTcl(Tool Command Language)スクリプトで実行する」。このアクションは、otherで指定されたVRIDについて、自装置のpriorityを「1」に設定する旨のコマンドであり、このコマンドの実行により、自身が現用系へと選ばれにくくする。
【0038】
アクション「変更対象VRID以外の各VRIDをotherとすると、「no vrrp (other)」をTclスクリプトで実行する」。このアクションは、otherで指定されたVRIDについて、自身がVRRPのグループから離脱する旨のコマンドであり、このコマンドの実行により、自身が現用系へと選ばれなくなる。
【0039】
なお、Tclスクリプトとは、管理者がコマンドラインを介してルータへの制御コマンドを入力し、その制御コマンドをルータ1に実行させるためのインタフェースであり、例えば、以下の文献に記載されている。
Cisco Systems, Inc.、“Cisco IOS フル活用への道 : 第1回 EEM(Embedded Event Manager)”、[online]、[2011年7月24日検索]、インターネット〈URL:http://www.cisco.com/web/JP/news/cisco_news_letter/tech/EEM/index.html〉
【0040】
さらに、イベント対処部14は、前記した2つのアクションのいずれかを実行することに加え、リセット処理などのVRRP切り替え直後に現用系になったルータ1にて必要となる処理(IPアドレスの変更など)を追加処理として実行してもよい。
【0041】
このように、ポリシ記憶部15に格納するポリシデータとして、snmp-mib、syslog、Tclスクリプトなどの既存の機能を使用することで、VRRPの制御に関する開発量(実装量)を削減でき、外付けでVRRPの制御手段を簡単に追加できる。
【0042】
図4〜図6は、RFC2787(Definitions of Managed Objects for Virtual Router Redundancy Protocol)に規定されているvrrp-mibからの抜粋を記す。
例えば、図5のvrrpOperEntryは、vrrpOperVrId、vrrpOperStateなどの値からなる1つ要素の配列(SEQUENCE)である。
また、図6のvrrpOperStateは、初期化中を示す「initialize(1)」と、自身が予備系として動作している旨を示す「backup(2)」と、自身が現用系として動作している旨を示す「master(3)」とがそれぞれ定義されている。なお、「master(3)」とは、masterを示す数値「3」という意味である。以下、この数値は省略する。
【0043】
【表1】

【0044】
表1は、図2(a)の初期状態における、各ルータ1の設定記憶部12に記憶されるvrrp-mibのパラメータを表形式にしたものである。この表の行要素は、各ルータ1(MS1〜MS4、BK1〜BK3)を示し、この表の列要素は、各ルータ1のVRID(1〜4)ごとのパラメータ内容を示す。
表のパラメータ「priority」は、VRIDごとの現用系の選出頻度(選ばれやすさ)を示すための優先度であるvrrpOperPriority(図5参照)を示す。
表のパラメータ「state」は、自身が現用系として動作しているか、または、予備系として動作しているかを規定するvrrpOperState(図5参照)を示す。
表のパラメータ「ip」は、自身のVRRPを動作させる物理インタフェースに割り当てるIPアドレスであるvrrpOperMasterIpAddr(図5参照)を示す。
【0045】
まず、表1の上から4行は、初期状態として現用系として動作する各ルータ1の設定を示す。自身が属するVRID(例えば、MS1ならVRID=1)については、stateを「master」とし、そのpriorityを「250」とし、そのipを「192.168.1.0/24」のセグメントのいずれかの値とする。自身が属さないVRID(例えば、MS1ならVRID=2〜4)については、VRRPのグループには不参加であり、各パラメータの値を設定しない。
【0046】
次に、表1の下から3行は、初期状態として予備系として動作する各ルータ1の設定を示す。各ルータ1は、全てのVRIDグループに属するとともに、それらの各グループでの予備系として動作する。そのため、全VRIDについて、stateを「backup」とし、そのpriorityを現用系の「250」よりも低い値とし、そのipを現用系の値と同じように「192.168.1.0/24」のセグメントのいずれかの値とする。
【0047】
表1では、priorityの値として、表内のレコードの位置が下になるほど小さい値(245→240→235)になるように、全VRIDで同じ値を割り当てているが、あくまでこの割り当て方法は一例であり、現用系の「250」よりも低い値であれば、「2」以上の任意の値を割り当ててもよいし、全VRIDで別々の値を割り当ててもよい。
なお、priorityとstateとの関係について、stateは、初期時にはinitializeであるが、ルータ1間でマルチキャストの制御メッセージを交換することで、同じVRIDグループ内でpriorityが最大となるルータ1を特定し、その特定したルータ1をmasterとし、それ以外のルータ1をbackupとする。
【0048】
以上説明したように、1+3冗長化システムを4つ分(VRIDを4つ分)各ルータ1(BK1〜BK3)に構築することにより、4+3冗長化システムを形成する。これにより、VRRP実行部11は、1+1冗長化や1+m冗長化を実行できる既存のVRRPを利用して、設定記憶部12内の設定データによって、N+mシステムを構築することができる。
【0049】
図7は、ルータ1の障害対処処理を示すフローチャートである。
【0050】
S101では、ルータ1は、電源の投入により、自装置の起動に関する処理を行う。例えば、各ルータ1は、装置間でマルチキャストを投げ合う事によりVRIDグループ内でpriorityが最大となるものが、masterとなり、他はbackupとなる。
また、後記のS111で参照されるプリエンプトモード(vrrpOperPreemptMode)は、不用意な切り替えを防ぐために、起動直後では、全装置について全VRIDにて無効とする(故障以外をトリガとする切り替えは行われない)。
【0051】
S102として、ルータ1は、自身が予備系として動作しているか否かを、表1の各VRIDのstate値を参照して判定する。S102でYesならS103に進み、NoならS105に進む。
S103として、イベント検出部13は、前記したように、予備系から現用系への切替イベントを検出するまで待機し(S103,No)、検出したときに(S103,Yes)S104に進む。
【0052】
なお、切替イベントの発生処理を説明する。例えば、ルータ1(BK1)のVRRP実行部11は、ルータ1(MS1)のVRRP実行部11から正常動作中に受信し続けるマルチキャストの生存信号を、所定時間受信しなくなったときに、VRID=1における現用系であるルータ1(MS1)の障害発生を検知する。
そして、ルータ1(BK1)のVRRP実行部11は、他の予備系のルータ1(BK2、BK3)との間でVRID=1におけるpriority値「245,240,235」を比較し、最高値のpriority値「245」をもつ自身のルータ1(BK1)を、新たな現用系として切替イベントを発生させる。
【0053】
【表2】

【0054】
S104として、ルータ1(BK1)のイベント対処部14は、図2(b)で示すような障害によりS103で切替イベントを検出したときには、表2に示すように、設定記憶部12のパラメータを変更することで、他のVRID「2〜4」について、現用系への選出頻度を下げる旨の排他制御を行う。なお、表2における太字下線入りの文字は、表1から変更された部分を示す。なお、設定記憶部12のパラメータを変更する際には、変更前の状態(表1の状態)を別途記憶しておく。これにより、設定記憶部12のパラメータの変更前へと戻すことができる。
ルータ1(BK1)のレコードについて、VRID=1では、stateを「master」にし、他のVRID=2〜4では、priorityを表1の値よりも下げる。なお、表2では、stateを「master」にし、priorityをVRRP上設定できる最低の優先度である「1」へと下げている。
この変更により、他のVRID=2〜4において今後に障害が発生したときに、既にVRID=1において現用系として動作しているルータ1(BK1)に対して、新たに他のVRIDにおける現用系として重複して代行することを抑制できる。
【0055】
【表3】

【0056】
一方、S104におけるルータ1(BK1)のイベント対処部14の別のアクションとして、表2に示したようなpriorityを下げる代わりに、他のVRID「2〜4」からルータ1(BK1)を離脱(不参加に)させることとしてもよい。
【0057】
【表4】

【0058】
なお、S103のイベント検出部13による切替検出と、S104のイベント対処部14によるイベント対処とは、1回だけでなく、複数回実行してもよい。例えば、図2(b)の単一障害から、さらに、図2(c)の二重障害が発生したときには、2回目のイベント対処として、表4に示すように、VRID=2について、priorityが最高値「240」であるルータ1(BK2)の各パラメータを、表2と同じルールに従って更新してもよい(表4では、表2からの差分を太字下線で示す)。
【0059】
【表5】

【0060】
さらに、表5では、三重障害として、MS1、MS2に加えてBK1でも障害が発生したときには、BK1が現用系として動作していたVRID=1について、priorityが最大値「235」であるBK3が、新たな現用系になるとともに、他のVRID2〜4についてのBK3のpriorityを「1」にする。
【0061】
この表5に示す状態により、4+3冗長化システムにおいて、3台のルータ1の障害により、冗長性が無くなったことになる。よって、4台目のルータ1の障害が発生してしまったときには、どの予備ルータBK1〜BK3のpriorityも、最低値「1」である。このときには、priority同点時の別のルールとして、例えば、ルータ1に割り当てられているIPアドレスが最大の予備ルータが現用系に昇格することとする。
【0062】
図7に戻って、S105では、自装置を現用系として動作する。つまり、スイッチ2間で送受信されるパケットを、自装置であるルータ1が転送するルータの役割を担う。
S111では、自装置のプリエンプトモードが有効か(Yes)無効か(No)を判定する。例えば、切戻しなどの保守切り替え時には、管理者が手動で切替先のプリエンプトを一時的に有効にし、切り替え後、無効に戻す。
【0063】
プリエンプトモードが有効であるとき(S111,Yes)、S112に進む。S112にて、VRRP実行部11が自装置のstateについて現用系から予備系への切替を検出したとき(換言すると、図2(b)で障害が発生していたMS1が障害から復帰したとき)には(S112,Yes)、S113に進む。
S113では、S104の排他制御を元に戻すように、他のVRIDについて、現用系への選出頻度を上げる(例えば、表2の状態から表1の状態へと戻す)。そして、S113の処理が終了したならば、S102の処理に戻る。
【0064】
以上説明した本実施形態では、1+m冗長化システムに対して、VRIDを現用系の台数分だけ用意し、そのVRIDごとに重複させて予備系のシステムに割り当てることで、N+m冗長化システムを構成する。これにより、障害発生前においては、1台の予備系のルータ1は、複数の現用系のルータ1の障害の切替対象を兼任するため、予備系のルータ1の台数を節約することで、ネットワークの設備コストや運用コストを節約することができる。
【0065】
さらに、N+m冗長化構成において、複数台の現用系のルータ1に障害が発生したときには、予備系のルータ1は、そのうちの1台の現用系のルータ1だけの役割を代行するように、排他制御する。これにより、通信性能の低下を抑制することができる。
【0066】
本実施形態は、特許文献1と比較すると、VRRPを用いた故障による予備系装置への排他的切り替え手法について提案している。
本実施形態は、特許文献2と比較すると、VRRPの仕様をそのまま使用し、故障をトリガとする予備系装置への排他的切り替えについて提案している。
本実施形態は、特許文献3と比較すると、VRRPのみを用いて、N+m冗長化を実現する手法について提案している。
【符号の説明】
【0067】
1 ルータ
2 スイッチ
11 VRRP実行部
12 設定記憶部
13 イベント検出部
14 イベント対処部
15 ポリシ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)により、N台の現用系ルータとm台の予備系ルータとをN+m冗長化する冗長化システムであって(N,mはそれぞれ2以上の整数)、
N台の前記現用系ルータそれぞれに対して、別々のVRRPグループを構成し、N個の各VRRPグループは、他のどのVRRPグループにも属さない1台の前記現用系ルータと、その前記現用系ルータの障害時に現用系に切り替わる候補であるm台の前記予備系ルータとを含めて構成され、
m台の各前記予備系ルータは、設定記憶部と、イベント検出部と、イベント対処部とを有しており、
前記設定記憶部には、VRRPグループごとに、自身の現用系として選択される頻度を示すプライオリティと、自身の動作状態が現用系か予備系かを示すステートとが格納されており、
前記イベント検出部は、所定のVRRPグループに属する前記現用系ルータに障害が発生したときに、前記所定のVRRPグループ内の前記プライオリティが最高値の前記予備系ルータを、新たな現用系として切り替える旨の切り替えイベントを、前記設定記憶部の前記ステートを監視することで検出し、
前記イベント対処部は、前記イベント検出部により検出された前記切り替えイベントの対象となる前記所定のVRRPグループを特定し、その特定した前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定を前記設定記憶部に出力することを特徴とする
冗長化システム。
【請求項2】
前記イベント検出部は、自身のSNMP(Simple Network Management Protocol)−MIB(Management Information Base)内のvrrpOperStateの値を前記ステートとして参照して、前記切り替えイベントを検出することを特徴とする
請求項1に記載の冗長化システム。
【請求項3】
前記イベント検出部は、自身のsyslogに出力される特定文字列として、自身が予備系から現用系へと切り替わる旨を示す文字列を監視して、前記切り替えイベントを検出することを特徴とする
請求項1に記載の冗長化システム。
【請求項4】
前記イベント対処部は、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定として、前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、前記設定記憶部に格納されている前記プライオリティの値を下げることを特徴とする
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の冗長化システム。
【請求項5】
前記イベント対処部は、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定として、前記所定のVRRPグループ以外のVRRPグループについて、自身の前記予備系ルータとしての登録を離脱することを特徴とする
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の冗長化システム。
【請求項6】
前記イベント対処部は、前記自身の現用系の選出頻度を下げる旨の設定をした後に、自身のリセット処理、および、自身に割り当てられているアドレスの変更処理のうちの少なくとも1つの処理を実行することを特徴とする
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の冗長化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−34121(P2013−34121A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169481(P2011−169481)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】