説明

冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置

【課題】 転舵用のメインモータの失陥および制御装置の故障に対する冗長性確保のための多重化と、平常時は多重化部分を利用した高機能化を両立したステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置を提供する。
【解決手段】 メインモータを切り離しサブモータの回転を伝えて転舵可能なフェールセーフモードとする切替機構17を有する。第1の制御装置101は、反力アクチュエータ4とサブモータ7を制御する。第2の制御装置201は、メインモータ6を駆動する。第1の制御装置101は、異常時切替指令部106を有し、メインモータ6が失陥であるとの診断結果を受けたとき、および相互故障診断部103で第2の制御装置201が故障であると診断したときに、切替機構17をフェールセーフモードとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転舵用の転舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、機構系および制御系共に冗長性を持たせた冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転舵装置のような故障が重大事故の原因となり得る装置では、高冗長性が求められる。その対策として、ステアバイワイヤ式操舵装置において、操舵輪を転舵するメインモータが失陥しても、サブモータによって操舵輪を転舵するように構成したものが提案されている(特許文献1)。この提案例は、メインモータの失陥時にサブモータを作動させるフェールセーフ機能を持たせたものであるが、メインモータが正常である場合、サブモータは一切機能しておらず不経済である。
【0003】
このような不経済を解消するものとして、トー角調整用のモータをサブモータとし、メインモータの失陥時には、メインモータを切り離し、トー角調整用のサブモータを転舵に利用するステアバイワイヤ式操舵装置が提案されている(例えば、特許文献2)。
転舵用モータの故障時に、車両を近くの安全な場所に退避させたり、修理工場に走行させるときに、転舵機能は車両走行の最低限の制御として必要であるが、トー角調整機能は最低限の制御としては必要ではない。そのため、トー角調整用のモータをメインモータ故障時に転舵に利用することで、常時は使用されない予備のモータを備える必要がなく、低コストでフェールセーフ機能が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−349845号公報
【特許文献2】特開2011−84178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の提案例は、転舵用モータの異常時のフェールセーフ機能が得られ、しかもモータに無駄がない点で優れる。しかし、ECU(電気制御ユニット)等の制御装置のフェールセーフ機能までは提案されておらず、制御装置の故障時には冗長性を保つことができない。制御装置を多重化することで制御の冗長性が得られるが、単純に多重化した場合、正常動作時の制御装置の無駄が大きく、採用は難しい。
【0006】
この発明の目的は、転舵用のメインモータの失陥および制御装置の故障に対する冗長性確保のための多重化と、平常時は多重化部分を利用した高機能化を両立した冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置は、ステアバイワイヤ式操舵装置100を制御する制御装置5であって、
前記ステアバイワイヤ式操舵装置100が、
左右両端にタイロッド11が設けられた転舵軸10と、ステアリングホイール1と、このステアリングホイール1に操舵反力を与える反力アクチュエータ4と、前記ステアリングホイール1の操舵角をそれぞれ検出する第1および第2の操舵角センサ2A,2Bと、メインモータ6およびサブモータ7と、前記メインモータ6の回転を前記転舵軸10に伝える転舵動力伝達機構18と、前記サブモータ7の回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構30と、
前記転舵動力伝達機構18に対して前記メインモータ6を切り離しサブモータ7の回転を伝えて転舵可能とする異常時切替形態に切替可能な切替機構17とを備える。
前記制御装置5は、相互に通信し合う第1の制御装置101と第2の制御装置201とでなる。
前記第1の制御装置101は、前記第1の操舵角センサ2Aの検出信号を受け取って前記反力アクチュエータ4とサブモータ7を制御する基本制御機能部102を有し、
前記第2の制御装置201は、前記第2の操舵角センサ2Bの検出信号を受け取って前記メインモータ6を制御する基本制御機能部202を有する。
第1および第2の各制御装置101,201は、互いの故障を診断する相互故障診断部103,203をそれぞれ有する。第2の制御装置201は、メインモータ6の失陥を診断して第1の制御装置101へ診断結果を伝えるメインモータ失陥診断部205を有する。
第1の制御装置101は第2の制御装置201からメインモータ6が失陥であるとの診断結果を受けたとき、および前記相互故障診断部103で第2の制御装置201が故障であると診断したときに、前記切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えさせる異常時切替指令部106を有する。
【0008】
この構成によると、第1および第2の制御装置101,201は互いに通信しており、それぞれの相互故障診断部103,203で互いの故障診断を行う。第2の制御装置201は、メインモータ失陥診断部205によりメインモータ6の失陥を診断する。
第1の制御装置101に設けられた異常時切替指令部106は、第2の制御装置201からメインモータ6が失陥であるとの診断結果を受けたとき、および前記相互故障診断部103で第2の制御装置201が故障であると診断したときに、前記切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えさせ、サブモータ7による転舵を行わせる。メインモータ6が失陥した場合は勿論であるが、メインモータ6を制御する第2の制御装置が故障した場合も、メインモータ6による正常な転舵は行えない。そのため、故障の発生していない第1の制御装置101で制御されるサブモータ7を転舵に用いることで、安全な転舵を行うことができる。
制御装置5として、第1の制御装置101と第2の制御装置201との2台を設けているが、第1の制御装置101は基本機能として、反力アクチュエータ4とサブモータ7を制御する機能を持ち、第2の制御装置201は基本機能としてメインモータ6を制御する機能を持つ。また、メインモータ6の失陥の診断は第2の制御装置で行い、サブモータ7の失陥の診断は第1の制御装置101で行う。さらに、第1の制御装置101と第2の制御装置201は相互の診断機能を持つ。
このように、制御系を2系統に分け、各系統の役割を最適に分担させたため、転舵用のメインモータ6の失陥と、その制御を行う第2の制御装置201の故障に対する冗長性確保のための多重化が得られる。しかも、平常時は多重化部分を利用した、トー角制御や、第1および第2の制御装置101,201の診断等の高機能化が得られる。すなわち、冗長性確保のための多重化と、平常時の多重化部分を利用した高機能化の両立が可能となる。
【0009】
なお、上記第1および第2の操舵角センサ2A,2Bは、互いに完全に独立したセンサである必要はなく、それぞれが独立して検出し出力する機能を持つものであれば良い。例えば、同じセンサ筐体内に設置されてエンコーダ等のセンサターゲットが互いに共通であっても良い。具体例で説明すると、ステアリングホイール1と共に回転する共通のエンコーダに対して、回転方向の検出が可能なように電気角で90°離れて配置されて、90°位相の異なる出力を行う2つのセンサであっても良い。
【0010】
また、第1および第2の操舵角センサ2A,2Bのセンサターゲットは、必ずしもステアリングホイール1と機械的に結合されていなくても良く、ステアリングホイール1と同期して回転するものであれば良い。例えば、前記第1の操舵角センサ2Aは、前記操舵反力アクチュエー4の動作量を検出してその検出結果を前記ステアリングホイール1の操舵角の検出結果の出力とするものであっても良い。
操舵反力アクチュエータ4の高精度な制御のためには、センサ類を用いた閉ループ制御が必要であるが、その制御用のセンサを第1の操舵角センサ2Aとして利用することで、無駄なく2つの操舵角センサ2A,2Bを備えることができる。
【0011】
この発明において、前記異常時切替指令部106は、前記第1および第2の制御装置101,201に対する外部の機器301から指令を受けたときに、前記切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えさせる機能を有するものとしても良い。これにより、より多くの形態の異常に対応して、サブモータ7による転舵に切り替えることができる。
【0012】
この発明において、前記第1の制御装置101または第2の制御装置201は、第1および第2の操舵角センサ2A,2Bの出力を比較して第2の操舵角センサ2Bの故障を診断するセンサ故障診断部107,207を有し、前記異常時切替指令部106は前記センサ故障診断部107,207により第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を受けたときに、前記切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えさせるようにしても良い。
第2の制御装置201は、その基本制御機能部202が、第2の操舵角センサ2Bの検出信号によって転舵用のメインモータ6の制御を行うため、第2の操舵角センサ2Bに故障が発生すると、適正な転舵が行えなくなる。その場合に、切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えることで、サブモータ7による転舵とはなるが、異常のない第1の操舵角センサ2Aの検出信号を用いて制御でき、正しい転舵が可能となる。
【0013】
第2の操舵角センサ2Bの故障に対しては、次のように対処するようにしても良い。すなわち、この発明において、前記第1の制御装置101または第2の制御装置201は、第1および第2の操舵角センサ2A,2Bの出力を比較して第2の操舵角センサ2Bの故障を診断するセンサ故障診断部107,207を有し、かつ前記センサ故障診断部107,207により第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を受けたときに第1の操舵角センサ2Aの出力を第2の制御装置201に通信するセンサ出力転送部108を有し、前記第2の制御装置201は、前記基本制御部202による前記メインモータ6の制御を、第2の操舵角センサ2Bの出力を用いる代わりに、前記センサ出力転送部108から転送された第1の操舵角センサ2Aの出力を用いて行う使用センサ切替部208を有するものとしても良い。
このようにセンサ故障の診断を行い、通常時に転舵に使用される第2の操舵角センサ2Bが故障した場合に、第2の制御装置201が使用する操舵角センサを第1の操舵角センサ2Aに切り替えることで、センサ故障が生じてもメインモータ6による転舵が行える。
【0014】
この発明において、前記第2の制御装置201は、第1および第2の操舵角センサ2A,2Bの出力を比較して第1の操舵角センサ2Aの故障を診断するセンサ故障診断部107,207を有し、このセンサ故障診断部107,207による第1の操舵角センサ2Aが故障であるとの診断結果を、車両の室内の報知手段に報知させるセンサ異常報知部211を有するものとしても良い。
第1の操舵角センサ2Aはトー角の制御に用いられるため、故障が生じても、運転上で最低限必要な転舵は可能である。そのため、特に制御形態の変更を行わなくても、センサ異常報知部209により運転者に異常を伝えることが、センサ異常への適切な対処となる。
【0015】
この発明において、前記第1の制御装置101は、前記サブモータ7の失陥を診断するサブモータ失陥診断部105を有し、前記第2の制御装置201は、前記サブモータ失陥診断部105による失陥との診断結果を第1の制御装置101から受けて、この診断結果を、車両の室内の報知手段303に報知させるサブモータ異常報知部210を有するものとしても良い。
サブモータ7はトー角の制御に用いられるため、故障が生じても、運転上で最低限必要な転舵は可能である。そのため、特に制御形態の変更を行わなくても、サブモータ異常報知部210により運転者に異常を伝えることが、サブモータ異常への適切な対処となる。
【0016】
この発明において、前記第2の制御装置201は、前記相互故障診断部203により第1の制御装置101が故障であると診断した結果を、車両の室内の報知手段302に報知させる制御装置異常報知部211を有するものとしても良い。
第1の制御装置101は、反力アクチュエータ4とトー角制御用のモータであるサブモータ6とを制御する装置であるため、第2の制御装置201が正常であれば、最低限の安全な運転は可能である。そのため、第1の制御装置101が故障である場合は、特に制御形態の変更を行わなくても、制御装置異常報知部211により運転者に異常を伝えることが、第1の制御装置101の異常に対する適切な対処となる。
【0017】
この発明において、前記第1の制御装置101が、前記反力アクチュエータ4の失陥を診断する反力アクチュエータ失陥診断部109を有し、この診断部109が失陥であると診断した結果を、車両の室内の報知手段302に報知させる反力異常報知部212を有するものとしても良い。
反力アクチュエータ4は、ステアリングホイール1に操舵反力を与えて運転者による操舵感覚を向上させるものであり、失陥が生じても、ステアリングホイール1による正確な操舵は可能である。そのため、反力アクチュエータ4が故障である場合は、特に制御形態の変更を行わなくても、反力異常報知部212により運転者に異常を伝えることが、反力アクチュエータの異常に対する適切な対処となる。
【0018】
この発明において、前記切替機構17は、トー角調整動力伝達機構30を動力伝達不能状態として前記メインモータ6による転舵のみ行わせるトー角固定時切替形態に切替可能であり、前記第1の制御部101は前記サブモータ7の失陥を診断するサブモータ失陥検出部105、およびこのサブモータ失陥検出部105による失陥であるとの検出結果によって前記切替機構17をトー角固定時切替形態に切替えるトー角固定指令部110を有するものとしても良い。
トー角制御は、走行の快適性を向上させる制御ではあるが、トー角固定であっても転舵は適正に行える。したがってトー角制御用のモータであるサブモータ7に失陥が生じた場合は、トー角調整動力伝達機構30を動力伝達不能状態としてメインモータ6による転舵のみ行わせるようにすることが、適切な対処となる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置は、ステアバイワイヤ式操舵装置を制御する制御装置であって、前記ステアバイワイヤ式操舵装置が、左右両端にタイロッドが設けられた転舵軸と、ステアリングホイールと、このステアリングホイールに操舵反力を与える反力アクチュエータと、前記ステアリングホイールの操舵角をそれぞれ検出する第1および第2の操舵角センサと、メインモータおよびサブモータと、前記メインモータの回転を前記転舵軸に伝える転舵動力伝達機構と、前記サブモータの回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構と、前記転舵動力伝達機構に対して前記メインモータを切り離しサブモータの回転を伝えて転舵可能とする異常時切替形態に切替可能な切替機構とを備え、前記制御装置が相互に通信し合う第1の制御装置と第2の制御装置とでなり、前記第1の制御装置は、前記第1の操舵角センサの検出信号を受け取って前記反力アクチュエータとサブモータを制御する基本制御機能部を有し、前記第2の制御装置は、前記第2の操舵角センサの検出信号を受け取って前記メインモータを制御する基本制御機能部を有し、第1および第2の各制御装置は互いの故障を診断する相互故障診断部をそれぞれ有し、第2の制御装置はメインモータの失陥を診断して第1の制御装置へ診断結果を伝えるメインモータ失陥診断部を有し、第1の制御装置は第2の制御装置からメインモータが失陥であるとの診断結果を受けたとき、および前記相互故障診断部で第2の制御装置が故障であると診断したときに、前記切替機構を前記異常時切替形態に切り替えさせる異常時切替指令部を有するため、転舵用のメインモータの失陥および制御装置の故障に対する冗長性確保のための多重化と、平常時は多重化部分を利用した高機能化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】(A)は同ステアバイワイヤ式操舵装置における転舵軸駆動部の正常動作時の水平断面図、(B)はそのIII B部拡大図である。
【図4】(A)は同転舵軸駆動部におけるトー角調整用モータ失陥時の水平断面図、(B)はそのIVB部拡大図である。
【図5】(A)は同転舵軸駆動部における転舵用モータ失陥時の水平断面図、(B)はそのVB部拡大図である。
【図6】(A),(B)は同転舵軸の結合ねじ部のそれぞれ異なる状態を示す断面図である。
【図7】図3のVII −VII 断面図である。
【図8】同転舵軸駆動部の回転規制機構の側面図であり、(A),(B)はそれぞれ異なる状態を示す。
【図9】通常のスプライン軸のスプライン歯の歯先形状を示す説明図である。
【図10】(A)は前記転舵軸駆動部の中間軸の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図11】(A)は同転舵軸駆動部の中間軸の他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図12】(A)は同転舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図13】(A)は同転舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図14】比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図15】他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図16】さらに他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図17】さらに他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図18】さらに他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図19】さらに他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【図20】さらに他の比較例となるステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一実施形態を図1〜図13と共に説明する。図1は、ステアバイワイヤ式操舵装置100およびその制御装置5の概略構成を示す。ステアバイワイヤ式操舵装置100は、運転者が操舵するステアリングホイール1と、第1および第2の操舵角センサ2A,2Bと、操舵反力アクチュエータ4と、左右の操舵輪13にナックルアーム12およびタイロッド11を介して連結された転舵用の軸方向移動自在な転舵軸10と、この転舵軸10を駆動する転舵軸駆動部14と、転舵角センサ8とを備える。転舵軸10は、伸縮可能な分割構造とされていて、全体の軸方向移動による転舵に加え、伸縮によってトー角調整が可能とされている。
【0022】
ステアリングホイール1は、転舵用の転舵軸10と機械的に連結されていない。操舵反力アクチュエータ4は、ステアリングホイール1に反力トルクを付与する駆動源であり、モータ等からなる。第1,2の操舵角センサ2A,2Bは、ステアリングホイール1の操舵角を検出するセンサである。第1の操舵角センサ2Aは、操舵反力アクチュエータ4の回転角度または発生トルク等の動作量を検出するセンサであり、このセンサを、この実施形態での冗長性を得る制御の都合上、ステアリングホイール1の操舵角を間接的に検出するセンサとして兼用させている。第2の操舵角センサ2Bは、アクチュエータ類を介することなく、ステアリングホイール1の操舵角を直接に検出する。なお、第1の操舵角センサ2Aは、操舵反力アクチュエータ4の動作量を検出するセンサとは別に、ステアリングホイール1の操舵角を直接に検出するセンサとして専用に設けても良い。第2の操舵角センサ2Bなど、直接に検出するセンサとしては、レゾルバ、光学式エンコーダ、磁気式エンコーダ等の、回転角を電気的に検出するものを使用する。
【0023】
転舵軸駆動部14には、転舵軸10と、操舵輪13(図1)の転舵を行う転舵機構15と、転舵輪13のトー角調整を行うトー角調整機構16と、転舵機構15およびトー角調整機構16の各動力伝達機構18,30を切り換える切替機構17とが設けられている。転舵機構15は、転舵用モータであるメインモータ6と、このメインモータ6の回転を転舵軸10に伝える転舵動力伝達機構18とで構成される。トー角調整機構16は、トー角調整のモータであるサブモータ7と、このサブモータ7の回転を転舵軸10に伝えるトー角調整動力伝達機構30とで構成される。
【0024】
切替機構17は、転舵動力伝達機構18およびトー角調整機構16を介してメインモータ6およびサブモータ7で転舵およびトー角調整をそれぞれ行わせる通常時の切替形態から、転舵動力伝達機構18に対してメインモータ6を切り離し、サブモータ7の回転を伝えて転舵可能とする異常時切替形態に切替可能である。また、切替機構17は、トー角調整動力伝達機構30を動力伝達不能状態としてメインモータ6による転舵のみ行わせるトー角固定時切替形態に切替可能である。切替機構17は、クラッチ機構やその組み合わせ等によって構成される。
【0025】
制御装置5は、車両の全体を制御するメインのECU(電気制御ユニット)3の一部として、またはメインECU3とは別に設けられて、転舵およびトー角調整に関する制御を行う装置である。制御装置5は、この実施形態の特徴として、互いに通信し合う第1の制御装置101と第2の制御装置201とで構成される。これら第1および第2の制御装置101,201は、マイクロコンピュータおよびその制御プログラムを含む電子回路等により構成される。第1の制御装置101と第2の制御装置201とは、互いに独立して、すなわちそれぞれの処理機能が別の電子部品によって得られるように、互いに独立したハードウェア資源で構成されるが、共通の筐体(図示せず)内に配置されていても、また共通の回路基板上に設けられていても良い。
【0026】
制御装置5の構成を図2と共に説明すると共に、図14〜図20の提案例との比較を行う。なお、転舵動力伝達機構18、トー角調整動力伝達機構30、および切替機構17の具体的構成例については、後に図3〜図13と共に説明する。
【0027】
図2において、第1の制御装置101および第2の制御装置201は、図の中央にブロックとして図示すると共に、そのブロック内の構成要素を図の左右両側にそれぞれ示す。 第1の制御装置101は、第1の操舵角センサ2Aの検出信号を受け取って反力アクチュエータ4とトー角調整用のサブモータ7を駆動制御することを基本機能とし、この基本機能を達成する手段である基本制御機能部102を有する。基本制御機能部102は、サブモータ7の回転センサ115による回転角の検出信号を用い、通常走行時のトー角制御を行う。第2の制御装置201は、第2の操舵角センサ2Bの検出信号を受け取って転舵用のメインモータ6を駆動制御するすることを基本機能とし、この基本機能を達成する手段である基本制御機能部202を有する。基本制御機能部202は、メインモータ6の回転センサ215による回転角の検出信号を用い、通常走行時の転舵制御を行う。
【0028】
第1および第2の各制御装置101,201は、互いの故障を診断する相互故障診断部103,203をそれぞれ有する。第1の制御装置101は、サブモータ7の失陥を診断するサブモータ失陥診断部105を有し、第2の制御装置201は、メインモータ6の失陥を診断して第1の制御装置101へ診断結果を伝えるメインモータ失陥診断部205を有する。各モータ6,7の失陥は、例えばロータの固着等である。また、第1および第2の各制御装置101,201は、それぞれ、第1の転舵角センサ2Aおよび第2の転舵角センサ2Bの失陥を検出するセンサ故障診断部107,207をそれぞれ有する。これらセンサ故障診断部107,207は、第1の転舵角センサ2Aの検出値と第2の転舵角センサ2Bの検出値とを比較し、定められた条件に従って失陥状態であることを検出する。第1の制御装置101は、さらに、反力アクチュエータ4の失陥を診断する反力アクチュエータ失陥診断部109を有している。
【0029】
第1の制御装置101は、異常時切替指令部106を有し、異常時切替指令部106は、次の条件1〜4の充足判定を行っていずれかの条件が充足されると、切替機構17を前記異常時切替形態に切り替えさせる。
条件1は、第2の制御装置201のメインモータ失陥診断部205から、メインモータ6が失陥であるとの診断結果を受けたときである。
条件2は、第1の制御装置101の相互故障診断部103によって、第2の制御装置201が故障であると診断されたときである。
条件3は、外部の機器301から異常時切替形態への切り替えの指令を受けたときである。外部の機器301は、第1および第2の制御装置101,201に対する外部の機器である。例えば、ECU3(図1)における前記制御装置5以外の制御部や、運転席の入力手段(図示せず)等の機器である。
条件4は、第2の制御装置201のセンサ故障診断部203から第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を受けたときである。なお、条件4の場合は、異常時切替形態への切り替えを行わず、次のセンサ出力転送部108および使用センサ切替部208による制御としても良い。
【0030】
センサ出力転送部108は、第1の制御装置101に設けられており、第2の制御装置201のセンサ故障診断部207によりにより第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を受けたときに、第1の操舵角センサ2Aの出力を第2の制御装置201に通信する。使用センサ切替部208は、第2の制御装置201に設けられており、基本制御部202によるメインモータ6の制御を、第2の操舵角センサ2Bの出力を用いる代わりに、センサ出力転送部108から転送された第1の操舵角センサ2Aの出力を用いて行わせる。
これらセンサ出力転送部108および使用センサ切替部208を設けるか、前記異常時切替指令部106により第4の条件で前記異常時切替形態に切り替えさせるようにするかは、選択的に定められる。
【0031】
第1の制御装置101は、上記各部の他に、トー角固定指令部101を有し、サブモータ失陥検出部105によるサブモータ7が失陥であるとの検出結果によって切替機構17を前記トー角固定時切替形態に切替える。
【0032】
第2の制御装置201は、各種の報知部、すなわちセンサ異常報知部209、サブモータ異常報知部210、制御装置異常報知部211、および反力異常報知部212を有しており、これらの報知部209〜212は、定められた軽微な異常の場合に、特に車両の走行に関する制御は行わず、車両の室内の運転席等にある報知手段302に、定められた報知を行わせる。上記の軽微な異常は、車両の安全な走行が維持できる範囲の異常である。報知手段302は、例えば液晶表示装置等の表示装置303またはスピーカ304等の音を発生する手段等である。なお、上記各報知部209〜212は、第1の制御装置101に設けても良い。
【0033】
センサ異常報知部209は、第1の制御装置101のセンサ故障診断部107により、第1の操舵角センサ2Aが故障であるとの診断がなされ、その診断結果が第2の制御装置201に送られたときに、前記報知手段302に、第1の操舵角センサ2Aが故障である旨の報知を行わせる。
【0034】
サブモータ異常報知部210は、第1の制御装置101のサブモータ失陥診断部105によりサブモータ7が失陥との診断がなされ、第1の制御装置101から第2の制御装置201にその診断結果が送られたときに、この診断結果を前記報知手段302に報知させる。
【0035】
制御装置異常報知部211は、第2の制御装置101の相互故障診断部103により第1の制御装置201が故障であると診断された場合、その診断結果を前記報知手段302に報知させる。制御装置異常報知部211は、第2の制御装置201に設ける代わりに、第2の制御装置201に設けることが好ましい。
【0036】
次に上記構成の動作を説明する。第1および第2の制御装置101,201は互いに通信しており、転舵角度等の各種情報を共有すると共に、相互故障診断部103,203によって互いの故障診断を行う。各制御装置101、201は、サブモータ失陥診断部105、メインモータ失陥診断部205、センサ故障診断部107、207、反力アクチュエータ失陥診断部109等により、各種のセンサを用い、各モータ6,7等の失陥の検出を行う。また、第1および第2の制御装置101,201間の通信により、第1および第23の操舵角センサ2A,2Bの出力を常に比較し、センサ故障を検出する。
【0037】
異常時切替指令部106は、以下の条件1〜3のいずれかが充足される場合、切替機構17を異常時切替形態に、つまり転舵動力伝達機構18に対してメインモータ6を切り離し、サブモータ7の回転を伝えて転舵可能とする形態であるフェールセーフモードに切り替えさせる。
条件1:第2の制御装置201のメインモータ失陥診断部205から、メインモータが6失陥であるとの診断結果を受けたとき。
条件2:第1の制御装置101の相互故障診断部103によって、第2の制御装置201が故障であると診断したとき。
条件3:外部の機器301から異常時切替形態への切り替えの指令を受けたとき。
【0038】
メインモータ6が失陥した場合は勿論であるが、メインモータ6を制御する第2の制御装置が故障した場合も、メインモータ6による正常な転舵は行えない。そのため、故障の発生していない第1の制御装置101で制御されるサブモータ7を転舵に用いることで、安全な転舵を行うことができる。
【0039】
次の条件4の場合は、異常時切替指令部106によって切替機構17を前記異常時切替形態とするようにしても、また他の制御を採るようにしても良い。
条件4:第2の制御装置201のセンサ故障診断部203から第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を受けたとき。
【0040】
条件4の場合の他の制御は、第2の制御装置201のセンサ故障診断部203から第2の操舵角センサ2Bが故障であると診断された結果を第1の制御内101が受けたとき、使用センサ切替部208により、第1の操舵角センサ2Aの出力を第2の制御装置201に通信し、第2の制御装置201の使用センサ切替部208が、基本制御部202によるメインモータ6の制御を、センサ出力転送部108から転送された第1の操舵角センサ2Aの出力を用いて行わせる制御である。
【0041】
以下の条件異常の場合は、各報知部209〜212により報知手段302を介して運転者に異常を伝えるが、異常時切替形態(フェールセーフモード)へは移行しない。
・操舵角センサ2A,2Bの出力の比較により、第2の制御装置201が第1の操舵角センサ2Aの異常を検出した場合。
・サブモータ7の失陥を第1の制御装置101が検出し、通信により第2の制御装置201に伝えた場合。
・相互故障診断により、第2の制御装置201が第1の制御装置101を故障であると診断した場合。
・第1の制御装置101が反力アクチュエータ4の失陥(トルク抜けなど)を検出した場合。
【0042】
この実施形態によると、次の利点が得られる。上記のように、制御装置5として、第1の制御装置101と第2の制御装置201との2台を設けているが、第1の制御装置101は基本機能として、反力アクチュエータ4とサブモータ7を制御する機能を持ち、第2の制御装置201は基本機能としてメインモータ6を制御する機能を持つ。また、メインモータ6の失陥の診断は第2の制御装置201で行い、サブモータ7の失陥の診断は第1の制御装置101で行う。さらに、第1の制御装置101と第2の制御装置201は相互の診断機能を持つ。
このように、制御系を2系統に分け、各系統の役割を最適に分担させたため、転舵用のメインモータ6の失陥と、その制御を行う第2の制御装置201の故障に対する冗長性確保のための多重化が得られる。この冗長性により、故障発生時に、車両を近くの安全な場所に退避させたり、修理工場に走行させる場合に、安全な転舵が可能なとなる。しかも、平常時は多重化部分を利用した、トー角制御や、第1および第2の制御装置の診断等の高機能化が得られる。すなわち、冗長性確保のための多重化と、平常時の多重化部分を利用した高機能化の両立が可能となる。
【0043】
この実施形態の優位性は、次の点にある。
・どれか一つの要素が故障しても、重大事故の原因となる転舵機能失陥を回避できる。
・制御系を2系統に分け、各系統の役割を最適に分担させ、高機能化した構成となる。
・構成要素数・通信経路を最小にした構成となる。
【0044】
図14〜図20に示す各比較例と比較して、この実施形態の優位性を説明する。
図14に示す比較例1は、1台の制御装置5Aで、転舵およびトー角制御に関する全ての制御を行うようにしたものである。この比較例では、制御装置5Aの破損や異常時には冗長性を保てない。これに対して、上記実施形態では、制御装置5を第1および第2の制御装置101,201に分けて制御機能を適宜分担させたため、第1および第2の制御装置101,201のいずれかに破損や異常が生じても、最低限の転舵は安全に行える。
【0045】
図15に示す比較例2は、第1および第2の制御装置101,201を設けるが、メインモータ6の制御用の第2の制御装置201に切替機構17を切り替える機能を持たせたものである。この比較例では、メインモータ6の制御用の制御装置201に異常が生じた場合に切り替え不能であり、冗長性が保てない。これに対して、上記実施形態では、サブモータ駆動用の第1の制御装置101に切替機構17の切り替えを行う異常時切替指令部106を設けたため、メインモータ6の制御用の第2の制御装置201に異常が発生しても切り替えが行える。なお、サブモータ駆動用の第1の制御装置101は、異常が発生してもメインモータ6による転舵が可能である。ただし、第1の制御装置101の異常が相互診断部203等により検出された場合は、第1の制御装置101は停止させるか、またはその出力を遮断させるようにするのが良い。
【0046】
図16に示す比較例3は、メインモータ6の制御を行う第2の制御装置101に、反力アクチュエータ4の制御機能を持たせたものである。この比較例では、機能的には実施形態と同等の機能が得られる。しかし、使用頻度の低いサブモータ7のみを制御する第1の制御装置101と、常に駆動するメインモータ6の制御および反力アクチュエータ4の制御を行う第2の制御装置201とで、分担する機能の偏りがあり、第2の制御装置201に計算量の集中が発生している。
これに対して、上記実施形態では、使用頻度の低いサブモータ7を制御する第1の制御装置101に反力アクチュエータ4の制御機能を持たせたため、第1の制御装置101と第2の制御装置201とで、計算量の均衡が得られる。
【0047】
図17に示す第4の比較例は、第1および第2の制御装置101,201の両方に、切替機構17を切り替える機能を持たせたものである。切替機構17により切り替えることが必要な場合は、メインモータ6や第2の制御装置201に異常が発生した場合であり、また両制御装置101,201は相互の通信経路を持つ。このため、第2の制御装置201から切替機構17への通信・制御経路401は不要であり、無駄となっている。上記実施形態では、このような無駄な通信・制御経路401は設けられていない。
【0048】
図18に示す第5の比較例は、転舵およびトー角調整に関する全ての機能を有する制御装置5Bを、メイン用とサブ用とに2台設け、メインの制御装置5Bの異常時にサブの制御装置5Bに制御を切り替えるようにしたものである。この例の場合、冗長性を確保できる。しかし、配線が複雑で、制御装置5が大形化する。また、正常時の無駄が多い。これに対して上記実施形態では、制御系を2系統に分け、役割を適切に分担させるようにしたため、構成要素数、通信経路数を最小にできる。
【0049】
図19に示す第6の比較例は、サブモータ7の制御用の第1の制御装置101と、メインモータ6の制御用の第2の制御装置201に加え、反力アクチュエータ4の制御用の第3の制御装置301を設けたものである。この場合、制御装置101,201,301間の通信量が多くなり、制御装置増加による利点が少ない。
【0050】
図20に示す第7の比較例は、第1の操舵角センサ2Aの出力を第1,第2の制御装置101,201の両方に接続し、第2の操舵角センサ2Bの出力についても、第1,第2の制御装置101,201の両方に接続したものである。
この比較例では、実施形態よりも高い冗長性が得られる。しかし、操舵角センサ2A,2Bと制御装置101,201間の信号線の電気的分離を考慮する必要がある。例えば、第1の制御装置101が高電圧を受け破壊された場合、その高電圧が第1の制御装置101−第1の操舵角センサ2A−第2の制御装置201の経路を通じて第2の制御装置201に伝わり、第2の制御装置2が破壊される恐れがある。そのため、この経路上で電気的分離を行う必要があるが、大形化、コスト増の原因となる。
上記実施形態では、このような電気的分離が不要である。
【0051】
これら比較例1〜7との比較でわかるように、上記実施形態は、制御系を2系統に分けて各系統の役割を最適に分担させ、高機能化した構成であり、冗長性確保のための多重化、平常時の多重化を利用した高機能化が両立できて、どれか一つの要素が故障しても重大事故の原因となる転舵機能失陥を回避でき、かつ構成要素数・通信経路を最小にした構成となる等の優位性を併せ持つことができる。
【0052】
図3〜図13と共に、ステアバイワイヤ式操舵装置100の機械的構成部分の一例を説明する。転舵軸10は、非回転分割軸10Aと回転分割軸10Bとに軸方向に2分割され、これら両分割軸10A,10Bを軸中心と同心のねじ結合部10Cで互いに結合した軸である。転舵軸駆動部14のハウジング19から突出した非回転分割軸10Aおよび回転分割軸10Bの先端部に、左右のタイロッド11(図1)がそれぞれ連結されている。
【0053】
図6に示すように、ねじ結合部10Cは、非回転分割軸10Aに設けられた雄ねじ81と、非回転分割軸10Bに設けられた雌ねじ82とを有する。ねじの種類は、角ねじまたは台形ねじが好ましい。ねじの種類が角ねじまたは台形ねじであるねじ結合部10Cは、非回転分割軸10Aと回転分割軸10Bとの結合が堅固である。
【0054】
雄ねじ81は、非回転分割軸10Aのボールねじ軸部10aから回転分割軸10B側に突出する嵌合軸部83の先端に設けられている。雌ねじ部82は、回転分割軸10Bの筒状部84の内周に形成されている。回転分割軸10Bには、前記筒状部84から非回転分割軸10Aに延びる延長筒状部85が設けられており、この延長筒状部85の内径孔86に前記嵌合軸部83が嵌合している。内径孔86は、転舵軸10の軸中心と同心である。
【0055】
このねじ結合部10Cには、前記内径孔86から前記嵌合軸部83が抜けるのを防止する抜け止め手段88が設けられている。この抜け止め手段88は、嵌合軸部83の外周に形成された環状の外周溝89に嵌合するサークリップ90と、内径孔86の内径面に形成された環状の内周溝91とでなる。図6(A)の部分拡大図に示すように、内周溝91の非回転分割軸10Aと反対側の段面91aは、外側に向かい次第に溝深さが浅くなるテーパ状になっている。
【0056】
通常は、図6(A)のように、サークリップ90と内周溝91との軸方向位置がずれており、サークリップ90は内径孔86の内径面に押されて縮径した状態になっている。この状態で、非回転分割軸10Aに対し回転分割軸10Bを回転させると、ねじ結合部10Cの螺合長さが調整される。図6(B)のように、サークリップ90と内周溝91とが軸方向同位置になると、サークリップ90が自身の弾性反発力で拡径して内周溝91に係合する。それにより、ねじ結合部10Cの螺合長さを短くする方向の動作が規制され、内径孔86から嵌合軸部83が抜けなくなる。内周溝91の段面91aは前記形状のテーパ状になっているので、ねじ結合部10Cの螺合長さを短くする方向の動作は規制されない。
【0057】
非回転分割軸10Aは、回り止め手段93により、転舵軸駆動部14のハウジング19に対して軸方向に進退自在かつ軸回りに回転不能とされている。回り止め手段93は、図7に示すように、非回転分割軸10Aにおける前記ボールねじ軸部10aの外側に続く部分である非同心円部10bと、ハウジング19に固定して設けられ、前記非同心円部10bが軸方向に摺動自在に嵌合する滑り軸受94とで構成される。非同心円部10bの軸方向と垂直な断面の形状は、外形が軸中心の同心円とは異なる形状である。この図例では、非同心円部10bは、円周の一部を直線で切り落とした断面形状とされているが、他の断面形状であってもよい。この構成の回り止め手段93は、構成が簡単で、転舵軸10の非回転分割軸10Aを確実に回り止めできる。
【0058】
転舵軸10全体は、以下のようにハウジング19に支持されている。すなわち、非回転分割軸10Aは、ボールねじ軸部10aに螺合する後記ボールナット26を介して複列アンギュラ玉軸受29aおよび深溝玉軸受29bにより支持されると共に、前記滑り軸受94によって支持される。また、回転分割軸10Bは、その外周にスプライン嵌合する後記スプラインナット40を介して転がり軸受44により支持されている。さらに、ボールねじ軸部10aの外径面が、滑り軸受95によって支持されている。滑り軸受95の軸方向位置は、ねじ結合部10Cとボールナット26との間とされている。
【0059】
転舵機構15は、転舵軸10の非回転分割軸10Aおよび回転分割軸10Bを一体に軸方向に移動させて操舵輪13の転舵を行う。この転舵機構15は、メインモータ6と、このメインモータ6の回転により転舵軸10を軸方向に移動させる転舵動力伝達機構18とを備える。
【0060】
メインモータ6は、転舵軸駆動部14のハウジング19に、前記転舵軸10と平行に取付けられている。メインモータ6は中空モータであって、筒状の中空モータ軸20を有する。この中空モータ軸20は、一対の軸受23によりハウジング19に回転自在に支持されている。中空モータ軸20の中空部内には、転舵軸10と平行に設けた転舵用中間軸21が、針状ころ軸受22を介して回転自在かつ軸方向に移動自在に支持されている。転舵用中間軸21は、後記トー角調整用中間軸35と共に、切替機構17の直動アクチュエータ47により、図3に示す基準位置と、図4に示すサブモータ失陥時位置と、図5に示すメインモータ失陥時位置の各位置に軸方向に位置切替される。
【0061】
転舵動力伝達機構18は、メインモータ6の前記中空モータ軸20と、前記転舵用中間軸21と、この転舵用中間軸21の外周にキー(図示せず)を介して回転伝達可能に嵌合した出力ギヤ24と、この出力ギヤ24とカウンタギヤ24aを介して噛み合う入力ギヤ25と、この入力ギヤ25に固定され前記転舵軸10の非回転分割軸10Aのボールねじ軸部10aに螺合するボールナット26とでなる。
【0062】
入力ギヤ24は、転がり軸受28を介して前記ハウジング19に支持されている。また、ボールナット26は、軸方向両側に配した複列アンギュラ玉軸受29aおよび深溝玉軸受29bにより、ハウジング19に回転自在に支持されている。複列アンギュラ玉軸受29aおよび深溝玉軸受29bを組み合わせてボールナット26を支持すると、ボールナット26に作用する軸方向荷重およびモーメント荷重の両方を受けることができる。転舵用中間軸21は、前記のように、メインモータ6の中空モータ軸20に針状ころ軸受22を介して嵌合し、かつ出力ギヤ24にキーを介して嵌合しているため、軸方向への移動が許容されている。
【0063】
中空モータ軸20の内周に内歯からなるスプライン歯20a、転舵用中間軸21の外周に外歯からなるスプライン歯21aがそれぞれ形成されており、転舵軸駆動部14の正常時状態(図3)では、これらスプライン歯20a,21aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部27を構成することで、中空モータ軸20と転舵用中間軸21とが回転伝達可能に連結されている。中空モータ軸20のスプライン歯20aは軸方向に長く、どの軸方向箇所にも転舵用中間軸21のスプライン歯21aが噛み合うことができる。
【0064】
転舵軸駆動部14の正常時状態(図3)において、メインモータ6の回転出力は、転舵用中間軸21、出力ギヤ24、カウンタギヤ24a、入力ギヤ25を経てボールナット26に伝達され、ボールナット26の回転が転舵軸10の軸方向への移動に変換されて転舵が行なわれる。
【0065】
トー角調整機構16は、非回転分割軸10Aに対して回転分割軸10Bを回転させて、ねじ結合部10Cの螺合長さを調整することにより、前記左右のタイロッド間距離を変更して操舵輪13のトー角を変える。このトー角調整機構16は、サブモータ7と、このサブモータ7の回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構30とを備える。
【0066】
サブモータ7は、転舵軸駆動部14のハウジング19に、転舵軸10と同心に取付けられている。サブモータ7も中空モータであって、その筒状の中空モータ軸31が転舵軸10におけるねじ結合部10Cの外周に設けられている。
【0067】
トー角調整動力伝達機構30は、前記中空モータ軸31に固定された出力ギヤ32と、この出力ギヤ32とカウンタギヤ32aを介して噛み合う第1中間ギヤ33と、この第1中間ギヤ33とスプライン嵌合部34で噛み合うトー角調整用中間軸35と、このトー角調整用中間軸35とスプライン嵌合部36で噛み合う第2中間ギヤ37と、この第2中間ギヤ37とカウンタギヤ37aを介して噛み合う入力ギヤ38と、この入力ギヤ38に固定されたスプラインナット40とでなる。転舵軸10の回転分割軸10Bは外周に歯溝が形成されたスプライン軸であって、この回転分割軸10Bに前記スプラインナット40がスプライン嵌合している。回転分割軸10Bとスプラインナット40とは、両者が滑り接触していても、あるいはボール(図示せず)を介して互いに転がり接触していてもよい。いずれであっても、スプラインナット40から回転分割軸10Bへ、回転を良好に伝達することができる。
【0068】
第1中間ギヤ33および第2中間ギヤ37とトー角調整用中間軸35とは、両中間ギヤ33,37に形成された内歯からなるスプライン歯33a,37aとトー角調整用中間軸35に形成された外歯からなるスプライン歯35a,35bとが互いに噛み合うことで、スプライン嵌合部34,36を構成する。トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bは軸方向に長く、どの軸方向箇所にも第2中間ギヤ37のスプライン歯37aが噛み合うことができる。
【0069】
中空モータ軸31は転がり軸受41を介して、第1中間ギヤ33は転がり軸受42を介して、第2中間ギヤ37は転がり軸受43を介して、スプラインナット40は転がり軸受44を介して、それぞれハウジング19に支持されている。また、第1中間ギヤ33と第2中間ギヤ37間には転がり軸受45が介在し、両ギヤ33,37は互いに回転自在である。トー角調整用中間軸35は、前記のように、第2中間ギヤ37にスプライン嵌合部36で噛み合っているため、軸方向への移動が許容されている。操舵用中間軸21とトー角調整用中間軸35は、同軸上に互いに隣接して配置されており、両中間軸21,35の互いに対向する軸端間にスラスト軸受46を介在させてある。これにより、両中間軸21,35が相対回転可能となるようにされている。
【0070】
転舵軸駆動部14の正常時状態(図3)において、サブモータ7の回転出力は、中空モータ軸31、出力ギヤ32、カウンタギヤ32a、第1中間ギヤ33、トー角調整用中間軸35、第2中間ギヤ37、カウンタギヤ37a、入力ギヤ38を経てスプラインナット40に伝達され、スプラインナット40の回転で転舵軸10の回転分割軸10Bが回転させられる。非回転分割軸10Aに対し回転分割軸10Bを回転させることで、ねじ結合部10Cの螺合長さを調整して、転舵軸10を伸縮させる。それにより、左右のタイロッド間距離を変更して、操舵輪13(図1)のトー角を変える。このトー角調整の際、後述するように、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30は、ステアリング制御手段5aの制御により、左右の転舵輪13の転舵角が目標値に一致するように互いに協調して動作させられる。
【0071】
切替機構17は、メインモータ6が失陥したとき、並びにサブモータ7が失陥したとき等に、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の動力伝達系統を切り替えるためのものである。この切替機構17は、転舵用中間軸21およびトー角調整用中間軸35と、これら中間軸21,35を一緒に軸方向に移動させる直動アクチュエータ47と、両中間軸21,35が常に互いに接する状態に維持されるように押圧力を付与する押圧機構48と、両中間軸21,35の移動により転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の各伝動連結部の伝動を係脱する伝動係脱機構49とを備える。
【0072】
直動アクチュエータ47は、ばね部材51と、ばね係脱機構52とでなる。さらに、ばね係脱機構52は、ばね部材51の直線運動を回転運動に変換する直線・回転運動変換機構53と、この直線・回転運動変換機構53で得られる回転運動を規制する回転規制機構54とでなる。
【0073】
この例では、ばね部材51は圧縮コイルばねであり、サポート部材55を図3〜図5の左方向に付勢している。つまり、ばね部材51は、サポート部材55に接する側の端部が左右方向に直線運動をする。サポート部材55は操舵用中間軸21と同軸上に互いに隣接して設けられている。サポート部材55と転舵用中間軸21間にスラスト軸受56を、サポート部材55とばね部材51間にスラストころ軸受57をそれぞれ介在させてあり、サポート部材55は中心軸回りに回転自在である。
【0074】
また、この例では、直線・回転運動変換機構53はボールねじ機構であり、サポート部材55と一体のボールねじ軸58と、このボールねじ軸58に螺合するボールナット59とで構成される。直線・回転運動変換機構53はボールねじ機構以外の構成であってもよく、例えばラックとピニオンを組み合わせたものとしてもよい。
【0075】
図8に示すように、回転規制機構54は、回転軸であるボールねじ軸58に設けた突起物60、この突起物60に引っ掛かることでボールねじ軸58の回転を止める役割を果たすレバー61、およびこのレバー61を作動させる回転規制駆動源62で構成される。突起物60は、外周の一部が他よりも外径側に張り出す突起部60aとなった板状の部材で、その突起部60aの周方向一方端に、レバー61が当たる段面60bが形成されている。厳密には、突起物60の突起部60aが、レバー61が引っ掛かる突起物である。レバー61は、ボールねじ軸58と平行な回動中心軸61aに回動自在に設けられ、前記突起物60の突起部60aに引っ掛かる一対の引っ掛かり部61b,61cを有する。回転規制駆動源62は、直動式のアクチュエータからなり、例えばリニアソレノイドとされる。回転規制駆動源62は、一方向(上下方向)に進退作動する進退ロッド62aを有し、この進退ロッド62aが前記レバー61に連結リンク63を介して連結されている。
【0076】
図8(A)は、転舵軸駆動部14が正常時状態にあるときの回転規制機構54の状態を示す。この状態では、レバー61の一方の引っ掛かり部61bが突起物60の突起部60aに引っ掛かっており、それによって突起物60およびそれと一体のボールねじ軸58の回転が拘束されている。そのため、ボールねじ機構からなる直線・回転運動変換機構53の作用により、ボールねじ軸58が軸方向に移動できず、ばね部材51(図3)がサポート部材55(図3)を押すことが規制されている。つまり、ばね部材51は圧縮状態に保持され、両中間軸21,35(図3)を軸方向に付勢することが不能な無付勢状態になっている。
【0077】
図8(A)の状態から回転規制駆動源62の進退ロッド62aを後退させると、レバー61の引っ掛かり部61bと突起物60の突起部60aとの引っ掛かりが解除され、ボールねじ軸58が回転可能になる。それにより、ばね部材51の弾性反発力によって、ボールねじ軸58がボールナット59に対して回転しながら図3の左方向へ移動する。つまり、ばね部材51は前記圧縮状態から開放され、両中間軸21,35を軸方向に付勢する状態となる。突起物60が所定の位相だけ回転すると、図8(B)のように、突起物60の突起部60aがレバー61のもう一方の引っ掛かり部61cに引っ掛かり、突起物60およびボールねじ軸58の回転が拘束される。この間、両中間軸21,35は左側へ軸方向移動して、図4のサブモータ失陥時位置になる。
【0078】
図8(B)の状態から回転規制駆動源62の進退ロッド62aを進出させると、レバー61の引っ掛かり部61cと突起物60の突起部60aとの引っ掛かりが解除され、ボールねじ軸58が回転可能になる。それにより、前記同様、ばね部材51が両中間軸21,35を軸方向に付勢する状態となり、両中間軸21,35が左側へ軸方向移動する。それに伴い、突起物60とレバー61の軸方向位置が外れる。そのため、突起物60が回転しても突起部60aがレバー61のいずれの引っ掛かり部61b,61cにも引っ掛からなくなり、ばね部材51は直線運動範囲端まで移動する。このばね部材51が直線運動範囲端まで移動したときの両中間軸21,35の位置が、図5のメインモータ失陥時位置である。
【0079】
前記ばね係脱機構52は、作用的な面から見た場合、次のように言うこともできる。すなわち、ばね係脱機構52は、ばね部材51の直線運動範囲内、またはばね部材51と共に直線運動する部材であるボールねじ軸58の運動範囲内に配されて直線運動を妨げる障害物と、この障害物を取り除くことでばね部材51を圧縮状態から開放する障害物取り除き機構Bとでなる。この場合、障害物は、ボールねじ軸58に取付けた突起物60に引っ掛かってボールねじ軸58の直線運動を妨げるレバー61であり、障害物取り除き機構Bは、ボールねじ軸58の運動範囲内に突出させた障害物としてのレバー61を取り去るように作用する回転規制駆動源62と連結リンク63とを組み合わせた機構である。
【0080】
押圧機構48は、図3〜図5に示すように、トー角調整用中間軸35に隣接して転舵用およびトー角調整用両中間軸21,35と同軸上に配置された押圧軸64と、この押圧軸64をトー角調整用中間軸35に押付ける側に弾性付勢するコイルばね65とでなる。押圧軸64およびコイルばね65は、ハウジング19の一部である押圧機構収容部19aに収容されている。押圧軸64とトー角調整用中間軸35の互いに対向する軸端間にはスラスト軸受66が配置され、これにより押圧軸64に対してトー角調整用中間軸35が回転自在となるようにされている。
【0081】
伝動係脱機構49は、第1〜第3伝動係脱機構71〜73を有する。
第1伝動係脱機構71は、メインモータ6の中空モータ軸20と、転舵用中間軸21と、トー角調整用駆動側部材である第1中間ギヤ33とでなる。両中間軸21,35が図3の基準位置にあるとき、ならびに図4のサブモータ失陥時位置にあるときは、中空モータ軸20のスプライン歯20aと転舵用中間軸21のスプライン歯21aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部27を構成することにより、中空モータ軸20と転舵用中間軸21とが結合する。両中間軸21,35が図5のメインモータ失陥時位置では、転舵用中間軸21のスプライン歯21aが中空モータ軸20のスプライン歯20aから外れ、転舵用中間軸21のスプライン歯21aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aと噛み合ってスプライン嵌合部74を構成することにより、転舵用中間軸21が第1中間ギヤ33と結合する。
【0082】
第2伝動係脱機構72は、転舵用中間軸21と、トー角調整用駆動側部材である第1中間ギヤ33と、トー角調整用中間軸35とでなる。両中間軸21,35が図3の基準位置にあるときは、第1中間ギヤ33のスプライン歯33aとトー角調整用中間軸35のスプライン歯35aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部34を構成することにより、第1中間ギヤ33とトー角調整用中間軸35とが結合する。両中間軸21,35が図4のサブモータ失陥時位置にあるとき、ならびに図5のメインモータ失陥時位置にあるときは、上記スプライン嵌合部34の噛み合いが外れて、第1中間ギヤ33とトー角調整用中間軸35とが非結合になる。
【0083】
第3伝動係脱機構73は、トー角調整用中間軸35と、トー角調整用従動側部材である第2中間ギヤ37と、ハウジング19とでなる。ハウジング19の前記押圧機構収容部19aの基端には、内歯からなるスプライン歯75aが形成されている。両中間軸21,35が図3の基準位置にあるときは、トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bと第2中間ギヤ37のスプライン歯37aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部36を構成することにより、トー角調整用中間軸35と第2中間ギヤ37とが結合する。両中間軸21,35が図4のサブモータ失陥時位置にあるとき、ならびに図5のメインモータ失陥時位置にあるときは、上記スプライン嵌合部36に加えて、トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bとハウジング19スプライン歯75aが互いに噛み合って、スプライン嵌合部75が構成される。このスプライン嵌合部75により、トー角調整用中間軸35は、ハウジング19に結合されて回転が拘束される。
【0084】
上記伝動係脱機構49の切替動作において、両中間軸21,35が基準位置からメインモータ失陥時位置へ軸方向移動する過程で、トー角調整用中間軸35が第1中間ギヤ33から外れるのよりも先に、トー角調整用中間軸35がハウジング19に結合されるように各部材の位置関係が設定されている。
【0085】
上記伝動切替機構49の切替動作を円滑に行うために、転舵用中間軸21のスプライン歯21a、およびトー角調整用中間軸35のスプライン歯35a,35bは、図9に示す通常のスプライン軸80におけるスプライン歯80aのように歯先の形状を平坦な形状とせず、例えば図10または図11に示すように、その歯先の形状を鋭角状とするのが望ましい。あるいは、他の例として、図12または図13に示すように、スプライン歯21a,35ab,35bの歯先の形状を歯先凸部の無いテーパ状とするのが望ましい。
【0086】
また、図11または図13に示すように、転舵用中間軸21のトー角調整用中間軸35に対向する側の先端に、スプライン歯21aよりも軸端側に突出させて突出部76を設けてもよい。この突出部76の外径は、スプライン歯21aの歯底半径以下とする。このような突出部76が転舵用中間軸21の先端に設けられていれば、転舵用中間軸21およびトー角調整用中間軸35が基準位置からメインモータ失陥時位置に位置切替するときに、突出部76の軸方向長さ分だけ、先にトー角調整中間軸35のスプライン歯35aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aから外れ、その後で転舵用中間軸21のスプライン歯21aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aに噛み合う。つまり、サブモータ7とトー角調整用中間軸35との動力的な結合が解除されてから、サブモータ7と転舵用中間軸21とが動力的に結合される。なお、図3〜図5に示す転舵軸駆動部14には、図11または図13に示す軸端形状の転舵用中間軸21が採用されている。
【0087】
次に、このステアバイワイヤ式操舵装置の転舵軸駆動部14での動作を説明する。メインモータ6およびサブモータ7が正常である場合には、図3のように、メインモータ6の中空モータ軸20の回転が転舵動力伝達機構18を介してボールナット26に伝達されると共に、サブモータ7の中空モータ軸31の回転がトー角調整動力伝達機構30を介してスプラインナット40に伝達される。転舵軸10の非回転分割軸10Aのボールねじ軸部10aに螺合するボールナット26の回転は、非回転分割軸10Aおよび回転分割軸10Bを一体に軸方向に移動させ、これにより操舵輪13の操舵が行なわれる。転舵軸10の回転分割軸10Bにスプライン嵌合するスプラインナット40の回転は回転分割軸10Bを回転させ、この回転により転舵軸10の両端のトー角調整用雄ねじ部10cに連結されたタイロッド11が進退して、トー角調整が行なわれる。
【0088】
このトー角調整は、具体的には次のように転舵用動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構の30を互いに協調する動作により行われる。すなわち、サブモータ7によりスプラインナット40を回転させると、スプラインナット40と共に、回転分割軸10Bが回転する。回転分割軸10Bは非回転分割輪10Aに対して、互いに同心のねじ結合部10Cで螺合していて、スプラインナット40に対して軸方向に移動自在であるため、回転分割軸10Bが回転すると、ねじ結合部10Cにおける回転量に応じた軸方向距離だけ、非回転分割輪10Aに対して回転分割軸10Bが軸方向に移動する。これにより、非回転分割輪10Aおよび回転分割軸10Bからなる転舵軸10の長さが変わるため、トー角が変わる。しかし、非回転分割軸10Bだけ移動したのでは、転舵角が変わることになる。そこで、メインモータ6によってボールナット26を回転させ、回転分割軸10Aを非回転分割軸10Bの移動方向に対して逆方向に軸方向させる。すなわち、サブモータ7による、非回転分割軸10Bの回転分割軸10Aに対する軸方向の相対移動長さの半分だけ、メインモータ6によって回転分割軸10Aを移動させ、転舵軸10の全体長さの中心位置を維持させる。これにより、左右の転舵輪13の転舵角度が共に目標値に一致するように、つまり転舵角を変えることなく、トー角調整が行われる。ECU3の制御装置5は、このようにサブモータ7と共にメインモータ6を移動させ、非回転分割軸10Bの偏った移動を相殺させて、転舵角を変えることなくトー角調整を行わせる。
【0089】
サブモータ7が失陥した場合など、前記トー角固定時切替形態とするときは、切替機構17の回転規制駆動源62を作動させて、回転規制機構54を図8(A)の状態から同図(B)の状態に切り替える。それにより、直動アクチュエータ47を構成するばね部材51の弾性反発力によって、両中間軸21,35が図4のサブモータ失陥時位置まで軸方向移動して停止する。
【0090】
サブモータ失陥時位置では、第1伝動係脱機構71により転舵用中間軸21は中空モータ軸20に結合したままに保持され、第2伝動係脱機構72によりトー角調整用中間軸35は第1中間ギヤ33に対し非結合になり、第3伝動係脱機構73によりトー角調整用中間軸35がハウジング19に結合された状態となる。すなわち、トー角調整動力伝達機構30が動力伝達不能状態となると共に、トー角調整用中間軸35の回転が拘束される。その結果、メインモータ6による転舵のみが行われる。前述したように、この転舵軸駆動部14には、図13または図14に示す軸端形状の転舵用中間軸21が採用されており、サブモータ7とトー角調整用中間軸35との動力的な結合が解除されてから、サブモータ7と転舵用中間軸21とが動力的に結合されるため、伝動系統の変換動作が円滑に行える。
【0091】
メインモータ6が失陥した場合など、前記異常時切替形態とするときは、切替機構17の回転規制駆動源62を作動させて、回転規制機構54を図8(A)の状態から同図(B)の状態を経てから同図(A)の状態に戻す。それにより、ばね部材51の弾性反発力によって、両中間軸21,35が、前記サブモータ失陥時位置を経由して、図5のメインモータ失陥時位置まで軸方向移動する。
【0092】
メインモータ失陥時位置では、第1伝動係脱機構71および第2伝動係脱機構72により、転舵用中間軸21と中空モータ軸20の結合、ならびにトー角調整用中間軸35と第1中間ギヤ33の結合が外れて、新たに転舵用中間軸21が第1中間ギヤ33と結合し、第3伝動係脱機構73によりトー角調整用中間軸35がハウジング19に結合された状態となる。すなわち、メインモータ6が転舵動力伝達機構18から切り離され、かつトー角調整用中間軸35の回転を拘束したうえで、転舵用中間軸21がトー角調整動力伝達機構30に連結される。それにより、メインモータ6に代えて、サブモータ7の回転を転舵用動力伝達機構18に伝えて転舵することが可能になる。
【0093】
このように、このステアバイワイヤ式操舵装置100では、切替機構17により、メインモータ6が失陥したときに、メインモータ6を転舵動力伝達機構18から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、メインモータ6に代えてサブモータ7の回転を転舵動力伝達機構18に伝えて転舵可能とすることにより、メインモータ失陥時でも転舵可能なフェールセーフ機能を持たせられる。また、切替機構17により、サブモータ7が失陥したときに、トー角調整動力伝達機構30を動力伝達不能状態としてメインモータ6による転舵のみ行わせることにより、サブモータ失陥時にトー角調整機構16を固定して安全に走行できる。これらメインモータ失陥時およびサブモータ失陥時における転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の動力伝達系統を切り替える一連の動作は、直動アクチュエータ47で転舵用およびトー角調整用の各中間軸21,35を軸方向に移動させることで、伝動係脱機構49により確実に行われる。
【0094】
転舵軸10を、非回転分割軸10Aと回転分割軸10Bとに軸方向に2分割し、これら両分割軸10A,10Bを軸中心と同心のねじ結合部10Cで互いに結合した軸としたことにより、非回転分割軸10Aに対し回転分割軸10Bを回転させることで、左右のタイロッド間距離を変更させられる。左右のタイロッド11は、非回転分割軸および回転分割軸転舵軸にそれぞれ直接連結することができる。このため、このステアバイワイヤ式操舵装置は、構成がコンパクトで、かつ転舵軸10が設けられている箇所の全体の軸方向長さを短くでき、車両に搭載しやすい。
なお、転舵軸が軸方向に分割されていない場合は、転舵軸の両端に、転舵軸の回転に応じて軸方向に進退する進退部材を設け、これら進退部材に左右のタイロッドを取付ける構成とする必要がある。そのため、転舵軸が設けられている箇所の全体の軸方向長さが長くなる。
【0095】
なお、サブモータ7によるトー角調整およびメインモータ6の失陥のときの転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時にメインモータ6に必要なトルクよりもはるかに小さなものである。したがって、サブモータ7は、メインモータ6よりも小型のもので良い。
【符号の説明】
【0096】
1…ステアリングホイール
2A…第1の操舵角センサ
2B…第2の操舵角センサ
3…ECU
4…反力アクチュエータ
5…制御装置
6…メインモータ
7…サブモータ
10…転舵軸
11…タイロッド
14…転舵軸駆動部
15…転舵機構
16…トー角調整機構
17…切替機構
18…転舵動力伝達機構
30…トー角調整動力伝達機構
100…ステアバイワイヤ式操舵装置
101…第1の制御装置
102…基本制御機能部
103…相互故障診断部
105…サブモータ失陥診断部
106…異常時切替指令部
107…センサ故障診断部
108…センサ出力転送部
109…反力アクチュエータ失陥診断部
110…トー角固定指令部
201…第2の制御装置
202…基本制御機能部
203…相互故障診断部
205…メインモータ失陥診断部
207…センサ故障診断部
209…センサ異常報知部
210…サブモータ異常報知部
211…制御装置異常報知部
212…反力異常報知部
302…報知手段
305…外部の機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアバイワイヤ式操舵装置を制御する制御装置であって、
前記ステアバイワイヤ式操舵装置が、
左右両端にタイロッドが設けられた転舵軸と、ステアリングホイールと、このステアリングホイールに操舵反力を与える反力アクチュエータと、前記ステアリングホイールの操舵角をそれぞれ検出する第1および第2の操舵角センサと、メインモータおよびサブモータと、前記メインモータの回転を前記転舵軸に伝える転舵動力伝達機構と、前記サブモータの回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構と、
前記転舵動力伝達機構に対して前記メインモータを切り離しサブモータの回転を伝えて転舵可能とする異常時切替形態に切替可能な切替機構とを備え、
前記制御装置が相互に通信し合う第1の制御装置と第2の制御装置とでなり、
前記第1の制御装置は、前記第1の操舵角センサの検出信号を受け取って前記反力アクチュエータとサブモータを制御する基本制御機能部を有し、
前記第2の制御装置は、前記第2の操舵角センサの検出信号を受け取って前記メインモータを制御する基本制御機能部を有し、
第1および第2の各制御装置は互いの故障を診断する相互故障診断部をそれぞれ有し、 第2の制御装置はメインモータの失陥を診断して第1の制御装置へ診断結果を伝えるメインモータ失陥診断部を有し、
第1の制御装置は第2の制御装置からメインモータが失陥であるとの診断結果を受けたとき、および前記相互故障診断部で第2の制御装置が故障であると診断したときに、前記切替機構を前記異常時切替形態に切り替えさせる異常時切替指令部を有する、
ことを特徴とする冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の操舵角センサは、前記操舵反力アクチュエータの動作量を検出してその検出結果を前記ステアリングホイールの操舵角の検出結果の出力とする冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記異常時切替指令部は、前記第1および第2の制御装置に対する外部の機器から指令を受けたときに、前記切替機構を前記異常時切替形態に切り替えさせる機能を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記第1の制御装置または第2の制御装置は、第1および第2の操舵角センサの出力を比較して第2の操舵角センサの故障を診断するセンサ故障診断部を有し、前記異常時切替指令部は前記センサ故障診断部により第2の操舵角センサが故障であると診断された結果を受けたときに、前記切替機構を前記異常時切替形態に切り替えさせる冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記第1の制御装置または第2の制御装置は、第1および第2の操舵角センサの出力を比較して第2の操舵角センサの故障を診断するセンサ故障診断部を有し、かつ前記センサ故障診断部により第2の操舵角センサが故障であると診断された結果を受けたときに第1の操舵角センサの出力を第2の制御装置に通信するセンサ出力転送部を有し、前記第2の制御装置は、前記基本制御部による前記メインモータの制御を、第2の操舵角センサの出力を用いる代わりに、前記センサ出力転送部から転送された第1の操舵角センサの出力を用いて行う使用センサ切替部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記第1または第2の制御装置は、第1および第2の操舵角センサの出力を比較して第1の操舵角センサの故障を診断するセンサ故障診断部を有し、このセンサ故障診断部による第1の操舵角センサが故障であるとの診断結果を、車両の室内の報知手段に報知させるセンサ異常報知部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記第1の制御装置は、前記サブモータの失陥を診断するサブモータ失陥診断部を有し、前記第2の制御装置は、前記サブモータ失陥診断部による失陥との診断結果を第1の制御装置から受けて、この診断結果を、車両の室内の報知手段に報知させるサブモータ異常報知部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記第2の制御装置は、前記相互故障診断部により第1の制御装置が故障であると診断した結果を、車両の室内の報知手段に報知させる制御装置異常報知部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記第1の制御装置が、前記反力アクチュエータの失陥を診断する反力アクチュエータ失陥診断部を有し、この診断部が失陥であると診断した結果を、車両の室内の報知手段に報知させる反力異常報知部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記切替機構は、トー角調整動力伝達機構を動力伝達不能状態として前記メインモータによる転舵のみ行わせるトー角固定時切替形態に切替可能であり、前記第1の制御部は前記サブモータの失陥を診断するサブモータ失陥検出部、およびこのサブモータ失陥検出部による失陥であるとの検出結果によって前記切替機構をトー角固定時切替形態に切替えるトー角固定指令部を有する冗長機能付きステアバイワイヤ式操舵装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−28312(P2013−28312A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167090(P2011−167090)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】