説明

冗長系通信装置

【課題】ネットワーク回線の切替え中等であってもTrapを破棄することなく障害等の検出を迅速に行うことができ、また、Trap再発行要求等の新たな機能を追加しなくてもTrap抜けの検出を行う。
【解決手段】ネットワーク回線の切替え時にTrap発行部16がTrapを発行した場合、切替制御部18はTrap保持部17にネットワーク回線の切替えが完了するまで当該Trapを保持するよう制御する。当該Trapはネットワーク回線の切替え完了後にスイッチ15を経由して主信号導通部12、13のうち、その時接続している方を経由して基幹ネットワーク3に送付され、監視装置2に到着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気通信事業者等による大規模IP系ネットワークに位置し、監視系ネットワークと冗長接続を行っているようなネットワーク機器において、ネットワーク回線の切替えの契機となった現象を報告するためのTrap及びネットワーク回線の切替え中に発生したTrapを監視系ネットワーク内にて破棄されることなく監視装置に通知する冗長系通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大規模IP系ネットワークにおいては全体の接続性を維持するために、個々の機器が動作しているかどうかや、何か問題が発生しているかどうか、導通の経路が変更されたかどうかをSNMP(Simple Network Management Protocol)を利用して監視している。
【0003】
SNMPはmanagerとagentで構成され、監視装置にはmanagerが、被監視装置にはagentが実装される。SNMPはUDPプロトコル上にて実現され、ネットワーク経路上のパケットロスが原理的に防止出来ないために、一般的に監視装置は被監視装置をポーリングで監視している。そのため、被監視装置は監視装置から情報の取得要求があった場合だけ動作すればよいことになる。
【0004】
ただし、SNMPには装置故障等の突発的な状態変化や警報発生状況等を監視装置に通知する仕組みも用意されていて、それをSNMP-Trap(以下Trap)という。Trapは被監視装置が監視装置に対して自律的に発行するものであり、状況的に重要な内容であることが多いことから、Trapがパケットロスするとネットワーク監視において障害の検出遅れが発生する可能性がある。
【0005】
大規模IP系ネットワークにおいては接続性を維持するために被監視装置において基幹側回線に対する冗長化がよく用いられる。この冗長化において、被監視装置側で何の対処も行わない場合、切替えの契機となった要因を示すTrap及び切替え直後のTrapが、ネットワーク回線が切替え中であるために被監視装置自身により破棄されることになる。
【0006】
上記具体例には、直近に接続した装置とのリンクのUpのみにより回線の切替え完了を判断する方式がある。この場合、直近に接続した装置の構造によっては当該装置が監視装置に接続するための中継装置のARP(Address Resolution Protocol)解決の最中に、切替えが発生した被監視装置からのTrapが連続して到着するために、そのTrapを直近に接続した装置が破棄してしまう可能性がある。
【0007】
通信回線の切替えに関する技術として特許文献1では、通信回線の切替えによるサービス低下等を最小限にする事を目的として、回線の切替え時に所定時間毎に自動的に現用回線の回復を検出して予備通信回線から現用通信回線に切替える技術を開示している。また、Trapの管理方法に関する技術として特許文献2には、Trapの抜け・漏れが発生したとしても少ないパケットのやり取りで効率的に再送処理を行い、監視装置の処理負荷を軽減する事を目的として、Trap発行時にTrapに番号を付与し、Trap受信先において当該番号の抜け・漏れを検出した際にTrapの受信先は発行元に対して再発行要求を行い、発行元が抜け・漏れしたTrapを1つに纏めて再送するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−256326号公報
【特許文献2】特開2008−198041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に係る発明では、システムの運用者等が復旧指令を出さなくても自動的に通信回線の切替えを行うことができる。しかし、障害の検出を確認するまでの期間に発生したTrapは破棄されることになる。この場合、切替え中に発生した警報を監視装置が認識するタイミングは被監視装置に対する次回のポーリングタイミングとなる。大規模ネットワークの場合ではポーリングを行うだけでもネットワーク内の負荷が増大するので、通常ポーリングタイミングは長く設定されることとなり、その結果警報の検出タイミングは遅れることになる。
【0010】
また、特許文献2に係る発明では、Trapが大量に発生しても切替え完了のTrapを定義して被監視装置から発行し、切替え直後に監視装置から被監視装置に対してポーリングを行うことで切替え中の状態変化を取得する方式での警報の検出タイミングの遅延は防止できる。しかし、ポーリング対象としてTrapで定義された項目全てを内包するように定義する必要がある。そうでない場合、Trap発行対象ではあるが、ポーリング取得対象ではない事象は検出出来ない。また、ポーリングでは最終的な状態しか収集できないので、一時的に警報が発生するという状況は検出することは出来ない。
【0011】
これに対して特許文献2は、監視装置から被監視装置に対してTrapの再発行要求を発行し、被監視装置が再発行要求を受ける構成としているが、この場合では監視装置側にTrapの抜けを検出する機能及び被監視装置側には監視装置側からの再発行要求を受けTrapを再発行する機能を追加する必要があった。
【0012】
従来の冗長系通信装置は上記のように構成されており、ネットワーク回線の切替え中におけるTrapの破棄による障害検出時間の遅延を改善するという課題があった。また、切替え完了Trapを定義して監視装置から再ポーリングを行うか、若しくはTrapの再発行要求を行う場合では上記機能を別途追加しなければならないという課題があった。
この発明は上記のような課題を解決する為になされたもので、ネットワーク回線の切替え中等であってもTrapを破棄することなく障害等の検出を迅速に行うことができ、また、Trap再発行要求等の新たな機能を追加しなくてもTrap抜けの検出を行うことができる冗長系通信装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る冗長系通信装置は、基幹ネットワークに接続する為のネットワーク回線を持つ複数の主信号導通部と、加入者端末群からのパケットを前記複数の主信号導通部の1つに振り分けるスイッチと、所定の事象が発生した場合にTrapを発行するTrap発行部と、前記ネットワーク回線に切替えが生じた時に切替えが終了したと判断するまで、前記Trap発行部が発行したTrapを保持するTrap保持部と、前記Trap発行部が発行したTrapを前記ネットワーク回線の切替えが終了するまで保持するようTrap保持部を制御する切替制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明ではネットワーク回線に切替えが生じた時に、切替えが終了したと判断するまで、Trap発行部が発行したTrapを保持するように構成している。このため、ネットワーク回線の切替え時に発生したTrapは一時的な状態に維持されたまま監視装置に到着する為、Trapは破棄されず再発行する事もない。よって、切替え中に発生した警報に対して監視装置側で遅延のない検出を行うことが出来るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る冗長系通信装置が適用されるネットワークの模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る冗長系通信装置が適用される被監視装置を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る冗長系通信装置のTrap保持完了判定についてのフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態2に係る冗長系通信装置が適用される被監視装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態1について説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る冗長系通信装置が適用されるネットワークの模式図である。図1において冗長系通信装置が適用されるネットワークは監視端末1、監視装置2、基幹ネットワーク3、被監視装置4(冗長構成を持つ冗長系通信装置)、加入者端末群5及び被監視装置(冗長構成を持たない非冗長系通信装置)6から構成される。
【0017】
監視端末1は監視装置2のユーザーインタフェースとして動作する。監視装置2は基幹ネットワーク3に接続されたネットワーク機器の状態を監視するためのものであり、SNMP managerとして動作する。
【0018】
基幹ネットワーク3は主に電気通信事業者が所有するIPネットワーク網である。被監視装置は冗長通信機能を持つ被監視装置(冗長系通信装置)4や冗長機能を持たない被監視装置(非冗長系通信装置)6がそれぞれ場合により数百台以上の規模で接続されている。
【0019】
加入者端末群5は被監視装置4や被監視装置6にそれぞれ収容され、被監視装置4や被監視装置6は加入者端末群5から受信したIPパケットを基幹ネットワーク3に転送する。
【0020】
次に図2で本発明が実現される冗長系通信装置の構造について説明する。図2はこの発明の実施の形態1に係る冗長系通信装置が適用される被監視装置4を示す図である。
【0021】
図2において冗長系通信装置4は大きく4つの機能部を持つ。基幹ネットワーク3に接続するためのネットワーク回線を持つ主信号導通部12と主信号導通部13、加入者端末群5からのパケットを主信号導通部12か主信号導通部13のどちらかに振り分けを実施する実体であるスイッチ15、スイッチ15に対して切替えの指示を行う制御部14である。
【0022】
制御部14は冗長系通信装置4の内部状態を監視していて、Trap発行部16とTrap保持部17及び切替制御部18を有する。Trap発行部16は装置内にて監視装置2に通知すべき事象が発生した場合に、制御部14の機能の一つとして当該事象をTrapにマッピングする。制御部14から出力されたTrapはスイッチ15を経由して、主信号導通部12と主信号導通部13のうち、その時接続されている方を経由して基幹ネットワーク3に送付され監視装置2に到着する。
【0023】
Trap保持部17は制御部14においてTrap発行部16からスイッチ15へTrapを出力するまでの段階に設けられる。
Trap保持部17は、制御部11による冗長系通信装置4の内部状態の他、主信号導通部12と基幹ネットワーク3との接続状態、および主信号導通部13と基幹ネットワーク3との接続状態の総合的判断、もしくは監視装置2から制御部14に対する要求により切替え実施判断を行ったときに有効となり、以降制御部14の切替制御部18によりTrap保持完了と判断されるまでTrap発行部16が作成したパケットをスイッチ15に転送せずに一時保存する。
切替制御部18はTrap保持部17が保持したTrapをネットワーク回線の切替えが完了するまで保持するよう制御する。詳細については図3にて述べる。
【0024】
次にTrap保持が完了したと判定する動作について説明する。図3は冗長系通信装置4によるTrap保持完了判定について説明する為のフローチャートである。ここでは主信号導通部12を経由して基幹ネットワーク3に接続していた状況から主信号導通部13にネットワーク回線の切替えが発生したという状況を例に説明する。
【0025】
冗長系通信装置4の制御部14における切替制御部18によってTrap保持完了判定が開始されたら、切替制御部18は新たに現用系となった主信号導通部13と監視装置2との間の疎通確認を実施する(ステップST101)。
【0026】
ステップST101における疎通確認の方法は、冗長系通信装置4またはその構成部分である主信号導通部12、主信号導通部13、制御部14に割り当てられたIPアドレス(この例では主信号導通部13のIPアドレス)から監視装置2のIPアドレスまたは基幹ネットワーク3上の監視装置2に到達するまでの経路上に存在するホストのIPアドレス(この例では監視装置2のIPアドレス)に対してIPパケットが到達可能かどうかを判断できる必要があり、ここではICMP(Internet Control Message Protocol)を適用する。
【0027】
ステップST101における疎通確認の結果、あて先IPアドレスからのICMPパケットの応答が得られなかった場合、切替制御部18は疎通失敗であると判断し(ステップST101“NO”)、再び疎通確認を再実行する。
【0028】
ステップST101における疎通確認の結果、あて先IPアドレスからのICMPパケットの応答が得られた場合、切替制御部18は疎通成功であると判断し(ステップST101“YES”)、ステップST102へ制御を進める。
【0029】
ステップST102において、切替制御部18はTrap保持部17に対してTrap保持の完了指示を行い、保持完了指示を受けたTrap保持部17は速やかに一時保存していたTrapをスイッチ15へ転送する。
【0030】
スイッチ15に転送されたTrapは現在の現用系である主信号導通部13を経由して監視端末2へ送信される。このとき、ステップST101において主信号導通部13から監視端末2へのIPパケットの到達性はICMPにより確認済みであるので、経路中のアドレスは解決済みの状態である。その結果、Trapは破棄されることなく監視端末2へ到達する。
【0031】
以上で明らかなように、この発明の実施の形態1によれば、ネットワーク回線の切替えが必要であることを冗長系通信装置4の制御部14における切替制御部18が認識してから発生した事象は、Trapの形式のまま、冗長系通信装置4内の記憶領域に保存しておき、切替制御部18により切替えが完了したと判断するまで維持するよう構成している。このため、ネットワーク回線の切替え時に発生したTrapは一時的な状態に維持されたまま監視装置に到着し、Trapは破棄されず再発行する事もない。よって、切替え中に発生した警報に対して監視装置2側で遅延のない検出を行うことが出来る。さらに、切替え後にTrap発行部16から発行されたTrap群は、切替えの完了判定時に監視装置2に対する疎通確認が完了しているため、経路上の機器のARP解決は完了しており、これにより、パケットロスの可能性が低減される。
【0032】
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2について図4を参照して説明する。図4はこの発明の実施の形態2に係る冗長系通信装置が適用される被監視装置(冗長系通信装置)を示す図である。図4では実施の形態1における図2に対し、加入者端末群5が位置していた導通経路の方向に被監視装置29が存在し、冗長系通信装置21の構成要素である制御部24にはTrap発行部16の代わりにTrapキャプチャ部26が実装されている。他の構成については図2に示す実施の形態1の構成と同じである為、重複説明は省略する。
【0033】
被監視装置29は自身の内部状態の変化をTrapとして通知する機能を持つ。
実施の形態1ではTrapを発行する主体は冗長系通信装置4の構成要素である制御部14であったが、スイッチ15への切替え指示と図3で示すフローの制御を実行する主体が冗長系通信装置4内にあるならば、Trapを発行する主体が冗長系通信装置4内である必要はない。
【0034】
また、制御部24のTrapキャプチャ部26は被監視装置29からスイッチ25に入力されるパケットを監視し、制御部24が切替え実施判断を行ったときから、発見したTrapを取得してTrap保持部27に転送する。
【0035】
Trap保持部27に転送されたTrapは制御部24が図3で示すステップST102に制御が移ったときスイッチ25に転送される。
【0036】
Trapキャプチャ部26は制御部24が図3で示すTrap保持完了判定フローの制御が完了したら発見したTrapをTrap保持部27に転送する機能を停止する。
【0037】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、被監視装置29に新たな機能を追加することなく、また冗長系通信装置21に基幹ネットワーク3へのネットワーク回線切替え中に到着した被監視装置29からの全フレームを保持するバッファを設けることなく、冗長系通信装置21の基幹ネットワーク3への回線切替え中に被監視装置29から発行されたTrapの破棄を防止することが出来る。
【0038】
なお、この実施の形態2においても実施の形態1と同様に、ネットワーク回線切替え時に発生したTrapは破棄されないことから遅延のない検出を行うことが出来る。また、切替え後に発行されたTrap郡は切替え完了判定時に監視装置に対する疎通確認が完了しており、ARP解決は完了済みである。よって、パケットロスの可能性が低減される。
【符号の説明】
【0039】
1 監視端末、2 監視装置、3 基幹ネットワーク、4 被監視装置(冗長系通信装置)、5 加入者端末群、6 被監視装置(非冗長系通信装置)、12 主信号導通部、13 主信号導通部、14 制御部、15 スイッチ、16 Trap発行部、17 Trap保持部、18 切替制御部、21 冗長系通信装置、22 主信号導通部、23 主信号導通部、24 制御部、25 スイッチ、26 Trapキャプチャ部、27 Trap保持部、28 切替制御部、29 被監視装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基幹ネットワークに接続する為のネットワーク回線を持つ複数の主信号導通部と、
加入者端末群からのパケットを前記複数の主信号導通部の1つに振り分けるスイッチと、
所定の事象が発生した場合にTrapを発行するTrap発行部と、
前記ネットワーク回線に切替えが生じた時に切替えが完了したと判断するまで前記Trap発行部が発行した前記Trapを保持し、切替え完了判定後に前記スイッチに転送するTrap保持部と、
前記ネットワーク回線の切替えが完了するまで前記Trap発行部が発行した前記Trapを保持し、切替え完了判定後に前記スイッチに転送するよう前記Trap保持部を制御する切替制御部と
を備えた冗長系通信装置。
【請求項2】
基幹ネットワークに接続する為のネットワーク回線を持つ複数の主信号導通部と、
加入者端末群からのパケットを前記複数の主信号導通部の1つに振り分けるスイッチと、
所定の事象が発生した場合に冗長系通信装置の外部の被監視装置から送信されたTrapを取得するTrapキャプチャ部と、
前記ネットワーク回線に切替えが生じた時に切替えが完了したと判断するまで前記Trapキャプチャ部が取得した前記Trapを保持し、切替え完了判定後に前記スイッチに転送するTrap保持部と、
前記ネットワーク回線の切替えが完了するまで前記Trapキャプチャ部が取得した前記Trapを保持し、切替え完了判定後に前記スイッチに転送するよう前記Trap保持部を制御する切替制御部と
を備えた冗長系通信装置。
【請求項3】
切替制御部におけるネットワーク回線切替え完了の判定は主信号導通部と監視装置との間の疎通確認により行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の冗長系通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−109505(P2011−109505A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263795(P2009−263795)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】