説明

冷却器及びその製造方法

【課題】ケースの開口の全周を連続的に溶接することなく、しかも冷媒が漏れることがないようにカバープレートがケースに接合された冷却器を提供する。
【解決手段】冷却器10には、ケース開口を一巡するようにケース開口周囲上面4aにシールリング7が埋設されている。その上にカバープレート2が載せられ、開口周囲上面4aの複数個所(符号PcとPsが示す箇所)を点状に溶接する。溶接箇所は、カバープレート2に垂直な方向から平面視したときに、シールリング7の外側である。ケース4には、カバープレート2に垂直な方向から平面視したときに、シールリング7を挟んで溶接点と向かいあう位置に、ケース開口周囲上面4aの内側の縁4bからシールリング7に向かって冷媒を導く溝5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に冷媒を通す冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却器では、ケースにカバープレートを接合する際、冷媒が漏れないように、わずかな隙間もなく接合する必要がある。冷媒が漏れないようにカバープレートを接合する手法の一つとして、特許文献1には、ケース開口の周囲全体を摩擦撹拌溶接により連続的に接合する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−140951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケース開口の全周を連続的に溶接すれば液漏れ(ガス漏れ)することはない。しかしながら、それではコストが嵩む。本明細書は、ケースの開口の全周を連続的に溶接することなく、しかし冷媒が漏れることがないようにカバープレートがケースに接合された冷却器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術では、容器状に形成されたケースの開口を一巡するようにケース開口周囲上面にシールリングを埋設する。その上にカバープレートを載せ、カバープレートの上から、開口周囲上面の複数個所を点状に溶接する。溶接には摩擦撹拌接合が適している。即ち、ケースとカバープレートの間の密封は、シールリングが確保する。ところが、シールリングは熱に弱い。その一方で、摩擦撹拌溶接は発熱を伴う。摩擦撹拌溶接は、摩擦熱によって部材を軟化・塑性流動させて2つの部材を局所的に練り混ぜて接合する。そのため、温度は局所的に数百度にまで達することがある。従って、シールリングの近くを溶接しようとすると、溶接の熱でシールリングが傷んでしまう虞がある。ケース開口周囲の壁厚を厚くし、溶接箇所とシールリングの間に距離を確保すれば熱の問題は解決するがそれではコストとサイズが嵩んでしまう。そこで本明細書が開示する技術では、カバープレートに垂直な方向から平面視したときに、溶接箇所をシールリングの外側とする。そして、ケースには、カバープレートに垂直な方向から平面視したときに、シールリングを挟んで溶接点と向かいあう位置に、ケース周囲上面の内側の縁からシールリングに向かって冷媒を導く溝を形成する。そのような構造を採用することによって、ケースに冷媒を流せば溶接点付近にてシールリング近くまで冷媒が到達する。従って、ケースに冷媒を流しながら溶接することによって、溶接中もシールリングが冷却され、シールリングが熱で痛んでしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施例の冷却器の分解斜視図である。
【図2】図1の符号Aで示す部分の部分拡大図である。
【図3】溶接工程(製造工程)を説明する部分断面図である。
【図4】溶接装置(製造装置)の模式的斜視図である。
【図5】変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図面を参照して実施例の冷却器10を説明する。図1は、冷却器10の分解斜視図である。図2は、図1にて符号Aで示した箇所の部分拡大図である。図1に示すように、この冷却器10は、箱形である。冷却器10は、容器状に形成されておりその内部空間Sに冷媒を流すケース4に、カバープレート2が溶接されて、ケース4の内部空間Sが封止される。ケース4の一つの側面には、冷媒の供給口12と排出口13が設けられている。ケース4の内部空間Sには、冷媒の通路を形成するための複数の仕切板8が設けられている。供給口12から入った冷媒は、仕切板8に沿ってケース内を往復し、排出口13から排出される。冷却器10は、例えば、発熱量の多いIGBTなどの半導体素子を搭載した基板をカバープレート2の上に固定し、半導体素子の冷却などに用いられる。
【0008】
冷媒が漏れないように、ケース4とカバープレート2の間は密封されねばならない。そのため、ケース4の開口周囲上面4aには、開口を一巡する溝6が設けられており、その中に、開口を一巡するようにシールリング7が埋設されている。シールリング7は、例えば、シリコン樹脂などで作られたリングである。なお、シールリング7は、リング形状を保つことのできる固体でなくともよい。例えば、溝6内に充填されるシリコングリース、あるいは、溝6に充填される硬化性樹脂などであってもよい。
【0009】
ケース4とカバープレート2は、摩擦撹拌溶接によって接合される。図1における符号Pcが示す領域は、カバープレート2における溶接箇所(溶接予定箇所)を示している。Pcに対応するようにケース4に示された領域Psは、ケース4の開口周囲上面4aにおける溶接箇所(溶接予定箇所)を示している。後述するように、カバープレート上の領域Pcとケース上の領域Psは、本来は溶接によって一体化する場所であるが、図1、図2では理解を助けるために、溶接予定箇所として、カバープレートとケースで別々の符号を付した。なお、図3、図5では、カバープレート2の溶接箇所Pcとケース4の溶接箇所Psが一体化した接合部に符号Pを付した。また、図1では、開口周囲上面4aに6箇所の溶接箇所が設けられるが、符号Pc、Psは、一箇所にのみ付しており、図面の複雑化を招かないように、他の溶接箇所には符号を付していない点に留意されたい。図1では、カバープレート2は、ケース4の開口周囲上面4aの6箇所で点状に溶接され、接合される。
【0010】
この冷却器10では、溶接点(図中の符号PsとPcが示す箇所)は、カバープレート2に垂直な方向(図中のZ軸方向)から見たときに、シールリング7の外側に位置する。また、開口周囲上面4aには、シールリング7を挟んで溶接点Psと向かいあう位置に、ケース周囲上面4aの内側の縁4bからシールリング7に向かって冷媒を導く溝5が形成されている。この溝5は、カバープレート2を溶接する際、ケース4の内部空間Sに満たされた冷媒をシールリング7の近傍へ導くために設けるものである。図1では1箇所の溝にのみ符号5を付してあるが、全ての溶接箇所Psに対して溝5が設けられている。
【0011】
図3に溶接時の様子(断面)を示す。摩擦撹拌溶接では、先端が細い棒状の溶接ツール31を高速回転させながらカバープレート2の表面に押し当てる。そうすると、溶接ツール31が押し当てられた箇所は、摩擦熱によりカバープレート2の当接箇所が軟化する。溶接ツール31をさらに押し当て続けると、軟化が深さ方向に進行し、ケース4まで軟化する。こうして、図3の符号Pで示す領域では、カバープレート2の材料とケース4の材料が練り混ぜ合わされて一体化する。即ち、カバープレート2とケース4が接合される。溶接ツール31を押し当てている間、ケース内部空間Sに冷媒Wを流し続ける。冷媒Wは溝5に案内されてシールリング7の近傍まで到達し、シールリング7を冷却する。冷媒Wによる冷却効果が、摩擦撹拌溶接にて発生する熱からシールリング7を保護する。
【0012】
図4に、溶接装置30の模式的斜視図を示す。なお、図4には溶接装置30の一部のみが示されていることに留意されたい。作業台44の上にケース4とカバープレート2を重ねて載置し、上から固定治具41でカバープレート2とケース4を上から押さえ、両者がずれないように位置を固定する。その状態で溶接予定位置に溶接ツール31を高速回転させながら押し当てる。このとき、ケース4の供給口12には冷媒供給管42を接続し、排出口13には冷媒排出管43を接続する。そうして、冷媒供給管42を通じてケース4の内部に冷媒を供給する。冷媒は、前述した仕切板8に沿って流れたのち、冷媒排出管43を通じてケース外へと排出される。このように、溶接中にケース内部に冷媒を通すことで、シールリング7を溶接の熱から保護する。全ての溶接予定位置Pcの溶接が終了すると、カバープレート2は完全にケース4に接合される。このとき、ケースの開口周囲上面4aとカバープレート2との境界は、シールリング7によって密閉される。
【0013】
図5を参照して、ケース開口の周囲上面4aに設ける溝5の変形例を説明する。図5(A)は、ケース4の部分平面図であり、(B)は、図(A)におけるB−B線に沿った断面図であり、(C)は、図(A)におけるC−C線に沿った断面図である。なお、図4(A)では、カバープレート2の図示を省略してある。この変形例では、ケース内空間Sから、シールリング7を収めた溝6まで通じる2本の溝5a、5bが設けられている。別言すれば、平面視したときに、シールリング7を挟んで溶接点Pと向かいあう位置に、ケース周囲上面の内側の縁4bからシールリング7に向かって冷媒を導く複数の溝5a、5bが形成されている。上述したように、溝5は、シールリング7を収めた溝6に繋がっているので、ケース内空間Sに満たされた冷媒Wは、シールリング7の周囲にまで達する。これにより、溶接時にシールリング7を効果的に冷却することができる。また、複数の溝を設けることで、幅広の一つの溝の場合と同等の冷媒量を流すのに、一つ一つの溝を細くすることができる。溝を細くすることによって、シールリング7が溝内にはみ出してしまうことを防止できる。
【0014】
実施例に示した技術についての留意点を述べる。冷却器は、冷媒として液体(典型的には水)を用いるものであってよいし、ガスを用いるものであってもよい。
【0015】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0016】
2:カバープレート
4:ケース
4a:開口周囲上面
4b:縁
5、5a、5b:溝
6:溝(シールリング埋設用)
7:シールリング
8:仕切板
10:冷却器
30:溶接装置
31:溶接ツール
P:溶接箇所
Ps、Pc:溶接予定箇所
S:ケース内部空間
W:冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を流すためのケースと、
ケース開口を一巡するようにケース開口周囲上面に埋設されているシールリングと、
シールリングを覆うとともに、ケース開口周囲上面に摩擦撹拌溶接によって複数個所を点状に溶接されているカバープレートと、
を備えており、カバープレートに垂直な方向から平面視したときに、
溶接点はシールリングの外側に位置しており、シールリングを挟んで溶接点と向かいあう位置に、ケース開口周囲上面の内側の縁からシールリングに向かって冷媒を導く溝が形成されていることを特徴とする冷却器。
【請求項2】
請求項1の冷却器の製造方法であり、ケースに冷媒を流しながら摩擦撹拌溶接することを特徴とする冷却器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45781(P2013−45781A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180110(P2011−180110)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】