説明

冷媒圧縮機

【課題】テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを冷媒として用いてもリップシールに摺接する駆動軸の摺接部の腐食を抑制することができる冷媒圧縮機を提供する。
【解決手段】テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンが冷媒として使用される冷媒圧縮機において、リップシール30に摺接する駆動軸18の摺接部18aより機内側に位置する摺接部18a近くには犠牲電極形成部材35が装着されている。そして、摺接部18aは犠牲電極形成部材35に比して貴な電位の材質となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動軸を封止するリップシールを備え、冷媒としてテトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを用いる冷媒圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から冷凍サイクルの冷媒として、地球温暖化係数の低いテトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンが用いられるようになっている(特許文献1参照)。また、冷媒圧縮機においては、リップシールによって、リップシールより機内側の冷媒が駆動軸に沿って機外へ漏れることが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−532767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リップシールに摺接する駆動軸の摺接部は、リップシールとの摺接により発熱して高温になるとともに、機外の大気と機内の冷媒とを分け隔てる位置にあり、高温酸化環境になりやすい。このような高温酸化環境下では、冷媒が急激に分解されて、フッ酸等の酸が生じ、この酸の存在により摺接部では電池作用によって腐食(電食)が進行してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを冷媒として用いてもリップシールに摺接する駆動軸の摺接部の腐食を抑制することができる冷媒圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、駆動軸に沿って機内の冷媒が機外へ漏れるのを抑制するリップシールを備え、前記冷媒としてテトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを用いる冷媒圧縮機において、前記リップシールに摺接する前記駆動軸の摺接部を、該摺接部より機内側に位置する摺接部近くに比して貴な電位の材質とした。
【0007】
これによれば、リップシールとの摺接により摺接部が高温になり、しかも冷媒分解により酸が生成された状況(高温酸化環境)において、摺接部近くが摺接部より卑な電位となっているため、摺接部近くが犠牲電極となって電池作用により腐食が進むことになる。よって、リップシールより機内側において、摺接部そのものが電池作用によって腐食することを抑制することができる。
【0008】
また、前記摺接部近くに該摺接部より卑な電位の材料を配置してもよい。これによれば、摺接部より卑な電位の材料を、摺接部近くに設けるだけの簡単な構成で摺接部の腐食を抑制することができる。
【0009】
また、前記摺接部に前記駆動軸の材質より貴な電位の材料を配置してもよい。これによれば、摺接部に貴な電位の材料を設けるだけの簡単な構成で摺接部の腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを冷媒として用いてもリップシールに摺接する駆動軸の摺接部の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の冷媒圧縮機を示す縦断面図。
【図2】第1の実施形態における摺接部、及び摺接部近くを示す拡大断面図。
【図3】第2の実施形態における摺接部、及び摺接部近くを示す拡大断面図。
【図4】第3の実施形態における摺接部、及び摺接部近くを示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図2にしたがって説明する。
図1に示すように、冷媒圧縮機10において、シリンダブロック11の一端にはフロントハウジング12が接合されている。また、シリンダブロック11の他端にはリヤハウジング13が弁・ポート形成体14を介して接合されている。そして、シリンダブロック11、フロントハウジング12、リヤハウジング13、及び弁・ポート形成体14によってハウジングHが構成されている。
【0013】
炭素鋼(本実施形態ではS55C)で形成された駆動軸18は、フロントハウジング12及びシリンダブロック11に設けられたラジアルベアリング19,20を介して回転可能に支持されている。なお、以下の実施形態において、駆動軸18は、S55C以外の炭素鋼(例えば、S45C)で形成されていてもよい。フロントハウジング12に形成された貫通孔12aには、駆動軸18が貫通している。駆動軸18の先端部には図示しない外部駆動源が連結されるとともに、外部駆動源からの駆動力により駆動軸18が回転するようになっている。フロントハウジング12とシリンダブロック11に区画された空間内では、回転支持体21が駆動軸18に止着されるとともに、斜板22が回転支持体21に対向するように駆動軸18に支持されている。この斜板22は、駆動軸18の軸方向へスライド可能かつ傾動可能に支持されている。
【0014】
回転支持体21に形成されたガイド孔21aには斜板22に設けられたガイドピン23がスライド可能に嵌入されている。斜板22は、ガイド孔21aとガイドピン23との連係により駆動軸18の軸方向へ傾動可能かつ駆動軸18と一体的に回転可能になっている。シリンダブロック11に形成された複数のシリンダボア11a内にはピストン24が収容されている。斜板22の回転運動は、シュー25を介してピストン24の往復運動に変換され、ピストン24がシリンダボア11a内を往復動するようになっている。
【0015】
また、弁・ポート形成体14とリヤハウジング13とによって区画される空間には、吸入室13a及び吐出室13bが区画されている。弁・ポート形成体14には吸入ポート14a及び吐出ポート14bが形成されている。また、弁・ポート形成体14には吸入弁14c及び吐出弁14dが形成されている。吐出弁14dは、リテーナ14eに当接して開度規制される。
【0016】
そして、駆動軸18の回転に伴うピストン24の復動動作により、外部冷媒回路(図示せず)からの冷媒は、吸入室13aから吸入ポート14aを介して吸入弁14cを押し退けてシリンダボア11aへ流入する。シリンダボア11aへ流入した冷媒は、駆動軸18の回転に伴うピストン24の往動動作により圧縮されるとともに、吐出ポート14bから吐出弁14dを押し退けて吐出室13bへ吐出される。吐出室13bの冷媒は外部冷媒回路へと排出されるようになっている。よって、本実施形態では、シリンダボア11a、弁・ポート形成体14、斜板22、及びピストン24が、駆動軸18の回転に基づいて駆動される圧縮部が構成されている。
【0017】
この冷媒圧縮機10では、冷媒としてテトラフルオロプロペン(HFO−1234)、又はペンタフルオロプロペン(HFO−1225)が用いられる。テトラフルオロプロペンとしては、具体的に2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)及びその立体異性体が用いられ、ペンタフルオロプロペンとしては、具体的に1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)及びその立体異性体が用いられる。これらテトラフルオロプロペン及びペンタフルオロプロペンは、一位に二重結合を有する1−アルケンであり、プロペンのフッ化物である不飽和フッ化炭化水素化合物である。また、ハウジングH内には潤滑油が貯留されるとともに、この潤滑油は、冷媒とともに外部冷媒回路(図示せず)と冷媒圧縮機10の間を循環し、冷媒圧縮機10の摺動部における潤滑、密封、冷却等の役割を担う。
【0018】
冷媒圧縮機10において、フロントハウジング12の貫通孔12aには、この貫通孔12aと駆動軸18との隙間を介した機内から機外への冷媒の漏れを抑制するためのリップシール30が配設されている。図2に示すように、リップシール30は、金属製のケース31、ゴム製のリップ部材32、樹脂製のシール部材33及び金属製のバックアップリング34から構成されている。ケース31の外周面と貫通孔12aとの間にはOリング29が介装されている。
【0019】
リップ部材32は、アクリロニトリルブタジエンゴム等の合成ゴムからなり、環状に形成されている。また、シール部材33は、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)等のフッ素樹脂からなり、環状に形成されている。また、バックアップリング34は環状の円板状に形成されている。そして、リップシール30のリップ部材32により機内から機外への冷媒漏れが主に抑えられている。よって、本実施形態では、駆動軸18において、リップ部材32に摺接する部位を、駆動軸18における摺接部18aとする。この摺接部18aは、駆動軸18の周面において、リップ部材32の内周面が摺接する可能性がある領域の全てとしている。
【0020】
駆動軸18において、その軸方向における摺接部18aよりも機内側(圧縮部側)には、装着凹部18bが駆動軸18の周方向全体に亘って延びるように形成されている。この装着凹部18bには犠牲電極形成部材35が嵌め込まれるとともに、犠牲電極形成部材35と駆動軸18が一体化されている。犠牲電極形成部材35は、円環状に形成されるとともに、装着凹部18bに犠牲電極形成部材35が嵌め込まれた状態では、犠牲電極形成部材35の外周面が駆動軸18の周面と同一周面上に位置している。
【0021】
犠牲電極形成部材35は、駆動軸18における摺接部18a(炭素鋼)に比して卑な電位の材質となる金属により形成されている。本実施形態では、犠牲電極形成部材35は、亜鉛合金やマグネシウム合金によって形成されている。すなわち、犠牲電極形成部材35は、標準電極電位が摺接部18aより低い金属によって形成されている。言い換えると、犠牲電極形成部材35は、駆動軸18の材料である炭素鋼よりもイオン化傾向の高い(イオン化しやすい)金属によって形成されている。
【0022】
このような冷媒圧縮機10において、リップ部材32に摺接する摺接部18aは、リップ部材32との摺接により発熱して高温になるとともに、大気の存在により高温酸化環境となりやすい。また、この高温酸化環境下では、冷媒が急激に分解されてフッ酸(フッ化水素酸)等の酸が生じる。
【0023】
ここで、摺接部18aより機内側において、摺接部18a近くには犠牲電極形成部材35が設けられている。この犠牲電極形成部材35は摺接部18aよりも卑な電位の金属によって形成されている。言い換えると、摺接部18aは、摺接部18aより機内側に位置する犠牲電極形成部材35に比して貴な電位の材質となっている。このため、酸が存在する環境下において、摺接部18a近く(犠牲電極形成部材35)が犠牲電極、すなわちアノード(陽極)となる。そして、機内側では犠牲電極形成部材35から電子が放出される結果、電池作用によって犠牲電極形成部材35では腐食が進むことになる。しかし、摺接部18aでは犠牲電極形成部材35の存在によりアノードになることが抑制され、電子の放出が抑制されるため、腐食が抑制される。
【0024】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)冷媒として、テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを用いた冷媒圧縮機10の駆動軸18において、リップシール30に対して摺接する摺接部18aの近くを、駆動軸18の材料(炭素鋼)より卑な電位の金属(亜鉛合金やマグネシウム合金)で形成し、摺接部18aを犠牲電極形成部材35より貴な電位の材質とした。このため、摺接部18aで冷媒分解により酸が生成されても、犠牲電極形成部材35が犠牲電極となって電池作用により犠牲電極形成部材35で腐食が進むことになり、摺接部18aでの腐食が抑制される。このため、テトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを冷媒として用いても、駆動軸18の摺接部18aが腐食することを抑制することができる。その結果として、リップシール30に対し駆動軸18の摺接部18aを摺接させた状態を維持することができ、リップシール30により機内の冷媒が機外へ漏れることを抑制した状態を維持することができる。
【0025】
(2)駆動軸18において、機内側の摺接部18a近くに装着凹部18bを形成するとともに、その装着凹部18bに犠牲電極形成部材35を嵌め込んだ。そして、この犠牲電極形成部材35により、摺接部18a近くを腐食させることで、摺接部18aの腐食を抑制することができる。よって、犠牲電極形成部材35を駆動軸18に設けるだけの簡単な構成で摺接部18aの腐食を防止することができる。
【0026】
(3)本実施形態では、駆動軸18において、リップシール30が摺接する摺接部18aが高温酸化環境になりやすい。そして、この摺接部18aの近くに犠牲電極形成部材35を設けて、摺接部18aの近くで積極的に電池作用を起こさせるようにし、摺接部18aの腐食を抑制するようにした。したがって、摺接部18aだけを焦点として腐食対策を行っており、駆動軸18全体の腐食対策を行う場合と比べてコストを抑えることができる。
【0027】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を図3にしたがって説明する。なお、以下の説明では、既に説明した実施形態と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0028】
図3に示すように、駆動軸18において、リップ部材32の内周面と対向する部位には装着凹部18cが凹設されている。この装着凹部18cは、駆動軸18においてリップ部材32の内周面が摺接する可能性がある領域の全てとしている。装着凹部18cは駆動軸18の周方向全体に亘って延びるように形成されている。この装着凹部18cには円環状をなす貴部形成部材36が嵌め込まれている。装着凹部18cに貴部形成部材36が嵌め込まれた状態では、貴部形成部材36の外周面が駆動軸18の周面と同一周面上に位置している。そして、貴部形成部材36の外周面が、リップ部材32の内周面に摺接する駆動軸18の摺接部となっている。
【0029】
貴部形成部材36は、駆動軸18の材料(炭素鋼)に比して貴な電位の材料(ステンレス鋼、例えばSUS304)により形成されている。本実施形態では、貴部形成部材36は、標準電極電位が炭素鋼より高い金属によって形成されている。言い換えると、貴部形成部材36は、炭素鋼よりもイオン化傾向の低い(イオン化しにくい)金属によって形成されている。そして、駆動軸18の摺接部(貴部形成部材36)は、その摺接部より機内側に位置する駆動軸18よりも貴な電位の材質になっている。また、第2の実施形態において、貴部形成部材36の材料(ステンレス鋼)は、熱膨張係数が17.3であり、炭素鋼の熱膨張係数11.7より高くなっている。
【0030】
このような冷媒圧縮機10において、リップ部材32に摺接する摺接部(貴部形成部材36)は、リップ部材32との摺接により発熱して高温になるとともに、大気の存在により高温酸化環境となりやすい。また、この高温酸化環境下では、冷媒が急激に分解されてフッ酸(フッ化水素酸)等の酸が生じる。
【0031】
ここで、摺接部(貴部形成部材36)の近くは駆動軸18そのものであり、摺接部(貴部形成部材36)は、その摺接部より機内側に位置する駆動軸18よりも貴な電位の材質になっている。このため、酸が存在する環境下において、摺接部近くの駆動軸18そのものが犠牲電極、すなわちアノード(陽極)となる。そして、摺接部より機内側では駆動軸18から電子が放出される結果、電池作用によって摺接部(貴部形成部材36)近くの駆動軸18では腐食が進むことになる。しかし、摺接部(貴部形成部材36)ではアノードになることが抑制され、電子の放出が抑制されるため、腐食が抑制される。
【0032】
また、高温酸化環境下にある摺接部では、リップ部材32が高温になることでヘたってしまう。しかし、貴部形成部材36が径方向へ熱膨張することにより、貴部形成部材36の外周面がリップ部材32の内周面に圧接し、リップ部材32の内周面と貴部形成部材36の外周面との摺接状態が維持される。
【0033】
したがって、上記第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)と同様の記載に加え、以下のような効果を得ることができる。
(4)駆動軸18においてリップシール30に摺接する部位に貴部形成部材36を設け、貴部形成部材36以外を貴部形成部材36より卑な電位の材質とした。このため、摺接部で酸が生成されても、駆動軸18の摺接部以外の部位で電池作用が起こって腐食が進み、摺接部での腐食が抑制される。したがって、駆動軸18にリップシール30を摺接させた状態を維持することができ、リップシール30により機内の冷媒が機外へ漏れることを抑制した状態を維持することができる。
【0034】
(5)貴部形成部材36は熱膨張係数が駆動軸18の熱膨張係数より高くなっている。よって、貴部形成部材36が熱膨張することにより、貴部形成部材36の外周面をリップシール30(リップ部材32)の内周面に圧接させて駆動軸18を封止した状態を維持することができる。したがって、貴部形成部材36を駆動軸18に設けることで、駆動軸18におけるリップシール30の摺接部の腐食を抑制しつつ、高温によりリップシール30がへたっても冷媒の漏れを抑制することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施形態を図4にしたがって説明する。なお、以下の説明では、既に説明した実施形態と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0036】
図4に示すように、駆動軸18において、その軸方向におけるリップ部材32の内周面よりも機内側(圧縮部側)には、装着凹部18bが駆動軸18の周方向全体に亘って延びるように形成されている。この装着凹部18bには、第1の実施形態と同様の犠牲電極形成部材35が嵌め込まれるとともに、犠牲電極形成部材35と駆動軸18が一体化されている。
【0037】
また、駆動軸18において、その軸方向におけるリップ部材32の内周面よりも機内側(圧縮部側)が、機外側より大径に形成され、駆動軸18の大径部と小径部との境界に、係止段部18dが形成されている。駆動軸18において、係止段部18dより機外側であって、リップ部材32、シール部材33、及びバックアップリング34の内周面と対向する位置にはフランジ形成スリーブ37が装着されるとともに、このフランジ形成スリーブ37は駆動軸18に一体回転可能に一体化されている。
【0038】
フランジ形成スリーブ37は、駆動軸18と同じ材質の炭素鋼により形成されるとともに、円筒状をなす装着部37aを備えている。また、フランジ形成スリーブ37は、装着部37aの一端外周面から装着部37aの外径方向へ円板状に延びるフランジ部37bを備えている。そして、フランジ形成スリーブ37は、装着部37aの他端が係止段部18dに係止するように駆動軸18に嵌め込むことで駆動軸18に一体化されている。この装着状態では、装着部37aの外周面が駆動軸18における大径側の周面と同一周面上に位置している。そして、装着部37aの外周面が、リップ部材32の内周面に摺接する駆動軸18の摺接部となっているとともに、シール部材33の内周面に摺接する駆動軸18の摺接部となっている。また、フランジ部37bは、バックアップリング34よりも機外側に配設されている。
【0039】
犠牲電極形成部材35は、駆動軸18における摺接部たる装着部37a(炭素鋼)に比して卑な電位の材質となる金属(亜鉛合金やマグネシウム合金)により形成されている。すなわち、犠牲電極形成部材35は、標準電極電位が装着部37aより低い金属によって形成されている。言い換えると、犠牲電極形成部材35は、装着部37aの材料である炭素鋼よりもイオン化傾向の高い(イオン化しやすい)金属によって形成されている。
【0040】
このような冷媒圧縮機10において、リップ部材32に摺接する摺接部(装着部37a)は、リップ部材32との摺接により発熱して高温になるとともに、大気の存在により高温酸化環境となりやすい。また、この高温酸化環境下では、冷媒が急激に分解されてフッ酸(フッ化水素酸)等の酸が生じる。
【0041】
ここで、摺接部(装着部37a)より機内側において、摺接部(装着部37a)近くには犠牲電極形成部材35が設けられている。この犠牲電極形成部材35は摺接部(装着部37a)よりも卑な電位の金属によって形成されている。このため、酸が存在する環境下において、摺接部(装着部37a)近く(犠牲電極形成部材35)が犠牲電極、すなわちアノード(陽極)となる。そして、機内側では犠牲電極形成部材35から電子が放出される結果、電池作用によって犠牲電極形成部材35では腐食が進むことになる。しかし、摺接部(装着部37a)では犠牲電極形成部材35の存在によりアノードになることが抑制され、電子の放出が抑制されるため、腐食が抑制される。また、駆動軸18の回転と共にフランジ部37bが回転する。そして、リップ部材32及びシール部材33に摺接する摺接部(装着部37a)で発生した熱は、装着部37aからフランジ部37bを介して機外側へ放熱される。
【0042】
したがって、上記第3の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(3)と同様の記載に加え、以下のような効果を得ることができる。
(6)駆動軸18にフランジ形成スリーブ37を装着し、フランジ形成スリーブ37の装着部37aにより摺接部を形成するとともに、フランジ部37bを装着部37aに一体形成し、装着部37aとフランジ部37bとを熱的に結合した。このため、フランジ部37bにより、リップ部材32及びシール部材33との摺接により装着部37aに発生した熱を機外側へ放熱することができる。よって、フランジ部37bを設けることにより、装着部37aが高温になることを抑制して、熱による冷媒分解を抑制することができる。
【0043】
(7)フランジ形成スリーブ37を駆動軸18に装着することにより、装着部37aがリップ部材32及びシール部材33の内周面に摺接する。そして、装着部37aよりも機内側に犠牲電極形成部材35が設けられている。このため、摺接部(装着部37a)で冷媒分解により酸が生成されても、犠牲電極形成部材35が犠牲電極となって電池作用により犠牲電極形成部材35で腐食が進むことになり、リップ部材32及びシール部材33の摺接部での腐食が抑制される。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 第1の実施形態において、犠牲電極形成部材35よりも機外側に位置し、かつリップ部材32、シール部材33、及びバックアップリング34の内周面と対向する位置にフランジ形成スリーブ37を装着してもよく、装着部37aの外周面が駆動軸18の周面より大径になっていてもよい。
【0045】
○ 第3の実施形態において、フランジ形成スリーブ37を駆動軸18の材料(炭素鋼)に比して貴な電位の材料により形成するとともに、犠牲電極形成部材35を削除してもよい。さらに、フランジ形成スリーブ37の材料を、駆動軸18の材料より熱膨張係数が高い材料としてもよい。
【0046】
○ 第3の実施形態において、装着部37aとフランジ部37bが熱的に結合されていれば、装着部37aとフランジ部37bは別体に形成されていてもよい。
○ 第2の実施形態において、貴部形成部材36は駆動軸18の材料より熱膨張係数が同じ又は低い材料によって形成されていてもよい。
【0047】
○ 第2の実施形態において、貴部形成部材36は円環状でなくてもよく、複数に分解された貴部形成部材36を装着凹部18cに嵌め込んで円環状にしてもよい。
○ 第2の実施形態において、装着凹部18cを駆動軸18の周方向の全周に亘って凹設せず、摺接部近くで周方向の一部だけを凹ませて設けたり、周方向へ間隔を空けて複数設け、その装着凹部18cに貴部形成部材36を嵌め込んでもよい。すなわち、摺接部がその他の部位より貴な電位になれば貴部形成部材36及び装着凹部18cの形状は実施形態に限定されない。
【0048】
○ 第2の実施形態では、貴部形成部材36を装着凹部18cに嵌め込んで一体化したが、貴部形成部材36を装着凹部18cに溶接や螺子止め等により一体化してもよい。
○ 第2の実施形態において、駆動軸18における摺接部となる位置に、駆動軸18の材料より貴な電位の材料を蒸着や溶射してもよい。
【0049】
○ 第1及び第3の実施形態において、装着凹部18bを駆動軸18の周方向の全周に亘って凹設せず、摺接部18a近くで周方向の一部だけを凹ませて設けたり、周方向へ間隔を空けて複数設け、その装着凹部18bに犠牲電極形成部材35を嵌め込んでもよい。すなわち、摺接部18a近くが摺接部18aより卑な電位になれば犠牲電極形成部材35の形状は実施形態に限定されない。
【0050】
○ 第1の実施形態において、駆動軸18における摺接部18aの近くに、摺接部18aより卑な電位の材料を蒸着や溶射してもよい。
○ 第1及び第3の実施形態では、犠牲電極形成部材35を装着凹部18bに嵌め込んで一体化したが、犠牲電極形成部材35を装着凹部18bに溶接や螺子止め等により一体化してもよい。
【0051】
○ 第1及び第3の実施形態において、犠牲電極形成部材35は駆動軸18の周面より突出していてもよい。
○ 各実施形態において、駆動軸18をSCM435(クロムモリブデン鋼)で形成してもよい。
【0052】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記駆動軸における前記摺接部近くに、駆動軸の周方向全体に亘って延びる装着凹部を形成するとともに、前記装着凹部に前記卑な電位の材料よりなる環状の犠牲電極形成部材を装着した請求項2に記載の冷媒圧縮機。
【0053】
(ロ)前記駆動軸における前記摺接部となる位置に、駆動軸の周方向全体に亘って延びる装着凹部を形成するとともに、前記装着凹部に前記貴な電位の材料よりなる環状の貴部形成部材を装着し、該貴部形成部材の外周面により前記摺接部を形成した請求項3に記載の冷媒圧縮機。
【0054】
(ハ)前記貴部形成部材が前記駆動軸の材料より熱膨張係数が高い材料により形成されている請求項3又は技術的思想(ロ)に記載の冷媒圧縮機。
(ニ)前記摺接部には、前記駆動軸の外径方向へ延びるフランジ部が熱的に結合されている請求項1〜請求項3、技術的思想(イ)、(ロ)、及び(ハ)のうちいずれか一項に記載の冷媒圧縮機。
【符号の説明】
【0055】
10…冷媒圧縮機、18…駆動軸、18a…摺接部、30…リップシール、37a…摺接部としての装着部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に沿って機内の冷媒が機外へ漏れるのを抑制するリップシールを備え、前記冷媒としてテトラフルオロプロペン又はペンタフルオロプロペンを用いる冷媒圧縮機において、
前記リップシールに摺接する前記駆動軸の摺接部を、該摺接部より機内側に位置する摺接部近くに比して貴な電位の材質とした冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記摺接部近くに該摺接部より卑な電位の材料を配置した請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記摺接部に前記駆動軸の材質より貴な電位の材料を配置した請求項1に記載の冷媒圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169259(P2011−169259A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34629(P2010−34629)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】