説明

冷間加工前に金属をコーティングする方法

基体が冷間加工される前に金属基体上に組成物を形成する方法。この方法は、基体を、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物と接触させる工程を含む。コーティング組成物における酸安定性粒子の量は、乾燥重量に基づいて0.005〜8重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を冷間加工する方法に関するものであり、この方法は、冷間加工前に金属に施すことができるコーティング組成物、特に酸安定性シリカ粒子を含むコーティング組成物を利用するものである。
【背景技術】
【0002】
保護コーティングまたは装飾コーティングを施す前に、金属基体、特に鉄を含む金属基体、例えば鋼に、コーティングがしばしば施されている。このコーティングは、金属基体が水分および酸素にさらされるならば、或はそのときに、金属基体に対する腐食の量を最小にするものである。現在のコーティング組成物の多くは、金属リン酸塩を基本にするものであり、クロムを含有する洗浄処理を必要とするものである。金属リン酸塩およびクロムの洗浄溶液は、環境に有害な廃棄物の流出を生ずる。その結果、その処分に伴うコストは増大の一途をたどっている。
【0003】
コーティング組成物は、クロム洗浄溶液なしで塗布することができる。例えば、U.S. Patent 3,966,502は、ジルコニウム含有洗浄溶液を用いて、リン酸塩処理された金属を後処理することを開示している。しかしながら、この塗布方法は、限られた数の金属基体上に使用する場合にのみ適当であり、金属リン酸塩廃棄物の流出の発生は軽減されない。
【0004】
ドールマン(Dollman)らによるU.S. Patent No. 5,534,082ならびにドラン(Dolan)らによるU.S. Patent Nos. 5,281,282および5,356,490は、フルオロ酸、例えばフルオロチタン酸と、シリカとおよび水溶性ポリマー、例えばアクリル酸ポリマーおよび/またはヒドロキシル官能性を有するポリマーとを含む非クロムコーティング組成物を記述している。シリカおよびフルオロ酸を加熱することにより、溶液が透明になるまで、シリカが溶解されるか、またはその少なくとも一部が溶解される。つまり、これらのコーティング組成物中に使用されるシリカ粒子は、酸安定性粒子ではない。
【0005】
これらの組成物のpHは著しく酸性であり、0〜4の範囲、好ましくは0〜1の範囲にある。前記コーティング組成物は、鋼および亜鉛めっきされた鋼基体の耐腐食性を向上させる。
【0006】
イノウエ(Inoue)らによるU.S. Patent No.5,938,861は、アルミニウムを除く金属基体上にコーティング(被覆層)を形成することを記述している。前記コーティング組成物は、酸化性化合物、例えば硝酸もしくは過酸化水素、シリケートもしくは二酸化ケイ素の粒子、並びに、Ti、Zr、Ce、Sr、V、WおよびMoの金属カチオン、オキシメタルアニオンもしくはフルオロメタレートアニオンを含むものである。
【0007】
トシアキ(Toshiaki)らによるEP 1130131 A2には、金属の表面処理剤、水分散性シリカおよび1種以上のジルコニウムもしくはチタン化合物、チオカルボニル化合物および水溶性アクリル樹脂を含む非クロムコーティング組成物が記載されている。金属の表面処理剤は、シランカップリング剤の提供リストから選択される。これらのシランカップリング剤は、下塗コーティングと装飾コーティングとの間の密着性を改善するために、コーティング業界において通常に使用されているものである。
【0008】
ジョーンズ(Jones)らによるU.S. Patent No.5,859,106には、アクリルおよびヒドロキシル官能性を有するコポリマーを含む、或はアクリルポリマーとヒドロキシル官能性を有するポリマーとの反応生成物を含む架橋ポリマー系を含有する非クロムコーティング組成物が記載されている。これらの組成物には、フルオロ酸、例えばフルロロジルコン酸もしくはフルオロチタン酸を添加することができる。ジョーンズ(Jones)らによるU.S. Patent No.5,905,105には、非クロムコーティング組成物が記載されており、この組成物はU.S. Patent No.5,859,106に記載されたコーティング組成物を含み、それに第IVB族金属を含む、分散性シリカおよび炭酸アンモニウムが添加されたものである。
【0009】
上記組成物の幾つかはまた、冷間加工のための金属表面を処理するのに使用することができる。たとえば従来法の一つにおいては、厚膜のリン酸亜鉛を表面に塗布した後、アルカリ金属石鹸、通常ステアリン酸ナトリウムを含む組成物が塗布され、このアルカリ金属石鹸は、リン酸亜鉛コーティングの亜鉛分と反応して、非常に有効な潤滑層を形成し、この潤滑層には亜鉛石鹸が含まれると思われる。この実施法は優れた結果を生ずるが、現在の環境上の懸念は、この技術を使用するときに最良の潤滑特性を得るために、しばしば必要とされる金属、すなわち亜鉛および他の重金属、例えばニッケル、マンガンおよびカルシウムなどの使用に対して、不利になることである。このようにして金属表面上に形成される金属石鹸を含むコーティングは、また、多くの場合に、実質的なゴミ有害物の発生源となる。
【0010】
10年前には、リン酸鉄処理は、金属を冷間加工するための潤滑層の基礎として普通に使用されていたが、リン酸亜鉛処理により提供されるより厚い層が、一般的により有効な潤滑性を生じ、かつこのことは非常に好ましいことが見出された。従来の水性リン酸鉄処理組成物は、主としてアルカリ金属もしくはアンモニウムのリン酸塩を含み、時には、更にリン酸および、通常数種類の促進剤を活性成分として含む。基体を冷間加工する前に金属基体上に潤滑コーティングを提供するために改良されたコーティング組成物を開発することについて依然として関心が持たれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基体が冷間加工される前に金属基体上に組成物を形成する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の方法は、基体と、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物とを接触させる工程を包含する。コーティング組成物中の酸安定性粒子の含有量は、乾燥重量に基づき0.005〜8質量%である。
【0013】
本発明は、本発明の詳細な説明を添付図面とともに参照することによってより良く理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、基体が冷間加工される前に、金属基体上に組成物を形成する方法に関する。この方法は、基体と、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物とを接触させる工程を含み、ここで、コーティング組成物中の酸安定性粒子の含有量は、乾燥質量に基づき0.005〜8質量%である。この本発明方法は、基体が冷間加工されるとき、金属基体、例えば鉄を含む基体に対する保護を提供するものである。特にこの方法は、ワイヤ、配管または薄肉チューブ系を形成するための金属基体の引抜加工において特に有利である。
【0015】
本発明の方法はまた、アルカリ性クリーナーおよび酸洗い溶液による基体の前処理を包含することができる。「前処理」という用語は、基体を、酸安定性粒子を含むコーティング組成物と接触させる前の基体の処理をいう。処理された基体とは、酸安定性粒子を含むコーティング組成物と接触した後の基体のことである。
【0016】
この方法はまた、処理された基体の後処理を含むことができる。「後処理」という語は、処理された基体を別の組成物と接触させることをいう。特に、処理された基体は、少なくとも120℃の温度において、ナフテン系オイル(naphthenic oil)エマルジョンと接触させることができる。このオイル処理の後に、通常、少なくとも200℃の温度で基体を加熱する。
【0017】
前記コーティング組成物は、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性混合物を含有する。水性混合物はまた、酸安定性粒子と1種以上のフルオロ酸との生成物を包含することができる。「酸安定性粒子についての試験方法」の副題の下に本明細書に記載された試験方法において、試験試料で測定される粘度変化が、10秒以下好ましくは5秒以下ならば、当該粒子は酸安定性である。ほとんどの場合には、本発明の酸安定性粒子に相当する試験試料は、3秒以下の粘度変化を有する。最も好ましい実施態様においては、酸安定性粒子は、1秒以下の粘度変化を有する。通常、粘度変化が小さければ小さいほど、酸中において、すなわち3〜7のpHを有する水性溶液中において、粒子はより安定になる。
【0018】
本明細書において使用される「粘度変化」という語は、後に記載される試験方法に従って行われた粘度測定を反映するものである。本発明の組成物のいくつかに関して、それらの対応する試験試料は、96時間にわたって実質的に粘度の低下が可能であり、それによって、粘度変化の測定値が、ゼロ未満になる。
【0019】
あるいは、当業者は、前述の粒子を含む、酸性化された試験試料を調製し、室温で約96時間にわたって、増粘、沈殿またはゲル化などの何らかの目に見える兆候があるかどうかを単に観察することによって、粒子が酸安定性であるかどうかを決定することができる。
【0020】
通常、本発明の酸安定性粒子は、約2〜約7のpHで負電荷を保持する。いくつかの場合には、酸安定性粒子は、約3〜約6のpHで負電荷を保持する。なお他の場合には、酸安定性粒子は、約3.5〜約5のpHで負電荷を保持する。
【0021】
酸安定性粒子が負電荷を保持するかどうかを決定する1つの方法は、粒子のゼータ電位を測定することによるものである。この測定は、市販の入手可能な器具、例えばマルベルン インスツルメンツ社(Malvern Instruments Ltd.)からのZetasizer 3000HSAを使用して行うことができる。測定された負の電位は、粒子が負に荷電されていることを示す。コーティング組成物において使用されるシリカ系酸安定性粒子についての通常のゼータ電位は、-5〜-35mVである。コーティング組成物において使用される有機ポリマーの酸安定性粒子についての通常のゼータ電位は、-55〜-85mVである。
【0022】
また、本発明のコーティング組成物は水を含む。水は、本発明のコーティング組成物を希釈するために使用され、比較的長期間の安定性を組成物に提供する。例えば、約40重量%未満の水を含む組成物は、同じ貯蔵条件下で、約60質量%以上の水を有するコーティング組成物と比べて、より重合しやすくまたは「ゲル化」しやすいようである。通常、基体に塗布される本発明のコーティング組成物は、約92質量%以上の水を含むが、本発明のコーティング組成物は、また60〜92質量%の水を有する濃縮された調合組成物を包含することを理解すべきである。最終使用者は単に濃縮調合物を追加の水で希釈して、特定のコーティング用に最適なコーティング組成物濃度を得る。
【0023】
本発明のコーティング組成物は、すぐに使用できるコーティング組成物として、又は使用前に水で希釈される濃縮コーティング組成物として、補給剤組成物として、または、2液成分型コーティング系製剤として提供されることができる。2液成分型コーティング系製剤においては、フルオロ酸は、粒子とは別に貯蔵される。フルオロ酸および粒子はその後、最終使用者によって使用される前に混合される。
【0024】
前記コーティング組成物のそれぞれの成分の各濃度はもちろん、使用されるコーティング組成物が補充コーティング組成物であるか、濃縮コーティング組成物であるか、または直ぐに使用できるコーティング組成物であるかどうかに依存する。補充コーティング組成物は、基体をコーティングする間に成分が消費されてしまうことから、コーティングバスに、コーティング組成物の成分濃度を最適な状態に戻すために、最終使用者によって供給し、かつ使用することができる。その結果、補充コーティング組成物は必然的に、基体をコーティングするために使用されるコーティング組成物より高い濃度の酸安定性粒子またはフルオロ酸を有するものである。
【0025】
本発明の組成物中の酸安定性粒子の濃度は、使用される粒子のタイプおよび粒子の相対的な大きさ、例えば平均粒径に依存する。コーティング組成物は、乾燥質量に基づき、0.005〜8質量%、0.006〜2質量%、0.007〜0.5質量%または、0.01〜0.2質量%の酸安定性粒子を含む。
【0026】
前記酸安定性シリカ粒子は、アルミニウム-変性されたシリカ粒子であってもよい。アルミニウム-変性されたシリカ粒子は、約80:1〜約240:1、および約120:1〜約220:1のSiO2:Al2O3質量比を有する。本発明の組成物におけるアルミニウム-変性されたシリカ粒子の濃度は、酸安定性粒子の乾燥質量に基づき、0.005〜5質量%、0.006〜1質量%、0.007〜0.5質量%、または0.01〜0.2質量%である。
【0027】
1つの実施態様においては、コーティング組成物において使用される酸安定性粒子は、グレース ダビソン(Grace Davison)社から、“Ludox(商標)TMA”、“Ludox(商標)AM”、“Ludox(商標)SK”および“Ludox(商標)SK-G”の下にコロイド懸濁物として提供されているシリカ粒子である。これらの特定のタイプのシリカ粒子は、アルミン酸ナトリウムであると思われるアルミニウム化合物によって処理されている。例えばLudox(商標)AMは、約140:1〜180:1のSiO2:Al2O3の重量比を有する。アルミニウム変性されたシリカ、例えば(株)旭電化(Asahi Denka)社から調達可能なAdelite(商標)AT-20Aもまた、使用できる。
【0028】
酸安定性粒子の形は、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定すると、約2〜80nmまたは約2〜約40nmの平均径を有する比較的球状となることがある。前記粒子はまた、約40〜約300nmの平均長さおよび約5〜約20nmの平均径を有する棒状になることもある。前記粒子は、コロイド分散物として、例えば粒子が比較的狭い粒径分布を有する単一分散物(mono-dispersion)として提供され得る。あるいは、コロイド分散物は多分散(poly-disperse)され得るものであり、この場合、前記粒子は比較的広い粒径分布を有する。
【0029】
前記シリカ粒子は、通常、水性媒体中に懸濁された互に独立した球形の形状にある。また、その媒体は、コロイド懸濁物の安定性を改善するためにポリマーを含むことができる。前記ポリマーは、以下に提示されるポリマーのうちの1つであることができる。例えば、特定の市販された調合物には、貯蔵の際に分散の安定性を維持するために、ポリマーを含んでいる。例えば、Ludox(商標)SKおよびLudox(商標)SK-Gは、ポリビニルアルコールポリマーを含むコロイド状シリカの2種の市販品である。
【0030】
コーティング組成物は、2乃至7のpHにおいて組成物の酸安定性を維持するためにポリマーの存在を必要とするものではないことを理解すべきである。しかしながら、幾つかの用途では、より良い酸安定性を提供するために、コーティング組成物に更にポリマーを追加することができる。
【0031】
比較例のコーティング組成物によって示されるように、Ludox(商標)AS、Ludox(商標)HSおよびLudox(商標)TMシリカ粒子の使用は、酸安定性コーティング組成物を提供するものではなく、従って、これらは酸安定性粒子ではない。それだからといって、これらの非酸安定性粒子は比較的少量でも、本発明のコーティング組成物に存在することができない、ということにはならない。コーティング組成物中に存在することができる非酸安定性粒子の量または濃度は、非酸安定性粒子のタイプ、組成物のpH、使用されるフルオロ酸のタイプならびに、組成物中に含まれる酸安定性粒子のタイプおよび濃度に依存することを理解すべきである。もちろん、また、本発明のコーティング組成物において、1種以上の異なるタイプの酸安定性シリカ粒子を、組合わせて用いることができることは、当業者が認識していることである。
【0032】
別の実施態様においては、酸安定性粒子は、非アルミニウム-変性シリカ粒子であることができる。これらのシリカ粒子は、幾つかの方法、時には当業者がアルミニウム変性プロセスであるとは考えていない特定の方法によって変性される。非アルミニウム変性シリカ粒子は負に荷電され、例えばナトリウムもしくはアンモニアによって中和された大量のシリコン酸サイト(silicon acid site)を有している。コーティング組成物において使用することができる非アルミニウム-変性シリカ粒子の例としては、スノーテックス(商標)Oおよびスノーテックス(商標)Nの商標の下に日産化学工業(株)(Nissan Chemical)社から販売されているコロイド粒子が包含される。本発明の組成物における非アルミニウム-変性シリカ粒子の濃度は、酸安定性粒子の乾燥質量に基づき、好ましさが増す順に、0.005〜5質量%、0.006〜1質量%、0.007〜0.5質量%、及び0.01〜0.2質量%である。
【0033】
別の実施態様においては、有機ポリマー酸安定性粒子を選択して、コーティング組成物において使用することができる。例えば、アニオン性に安定化されたポリマー分散体、例えばエポキシ架橋された粒子、エポキシ-アクリルハイブリッド粒子、アクリルポリマー粒子、ポリ塩化ビニリデン粒子(polyvinylidene chloride particles')およびビニルアクリル/塩化ビニリデン/アクリル粒子(vinyl acrylic/vinylidene chloride/acrylic particles)から成る群より選択されたポリマー粒子は、酸安定性コーティング組成物を提供する。本発明に使用することができ、かつ市販の入手可能な3種のポリマー粒子には、ヘンケル社(Henkel Corp.)からのACC 800およびACC 901、ならびにアベシア社(Avecia Inc.)からのHaloflex(商標)202などが包含される。ACC 901は、エポキシ架橋粒子を含む。ACC 800は、ポリ塩化ビニリデン粒子(polyvinylidene chloride particles)を含む。Haloflex(商標)202は、ビニルアクリル/塩化ビニリデン/アクリル粒子(vinyl acrylic/vinylidene chloride/acrylic particles)を含む。本発明の組成物における有機ポリマー粒子の濃度は、乾燥質量に基づき、好ましさが増す順に、0.01〜8質量%、0.01〜5質量%、0.1〜3質量%である。
【0034】
フルオロ酸は、Ti, Zr, Hf, Si, Sn, Al, GeおよびBから成る群より選択された元素を有する酸フッ化物または酸オキシフッ化物である。フルオロ酸は、水溶性であるかまたは水分散性でなければならず、好ましくは少なくとも1個のフッ素原子および、Ti, Zr, Hf, Si, Sn, Al, GeまたはBから成る群より選択される元素の少なくとも1個の原子を含む。フルオロ酸はときには、当業者により「フルオロメタレート」と称される。
【0035】
フルオロ酸は、以下の一般経験式(I):
HpTqFrOs (I)
により定義することができるものであり、式(I)中の、
qおよびrのそれぞれは、1〜10の整数を示し;pおよびsのそれぞれは、0〜10の整数を示し;TはTi, Zr, Hf, Si, Sn, Al, GeおよびBから成る群より選択された元素を示す。経験式(I)の好ましいフルオロ酸としては:TがTi, ZrまたはSiから選択され;pが1または2であり;qが1であり;rが2,3,4,5または6であり;かつsが0,1または2であるものを包含する。
【0036】
式(I)のフルオロ酸の1個以上のH原子は、適当なカチオン、例えばアンモニウム、金属、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のカチオンによって置き換えることができる(すなわちフルオロ酸は塩の形態であってもよいがその場合、この塩は水溶性または水分散性でなければならない)。適当なフルオロ酸塩の例には、(NH4)2SiF6、MgSiF6、Na2SiF6およびLi2SiF6などが包含される。
【0037】
本発明のコーティング組成物において使用される好ましいフルオロ酸は、フルオロチタン酸(H2TiF6)、フルオロジルコン酸(H2ZrF6)、フルオロケイ酸(H2SiF6)、フルオロホウ酸(HBF4)、フルオロスズ酸(H2SnF6)、フルオロゲルマン酸(H2GeF6)、フルオロハフニウム酸(fluorohafnic acid) (H2HfF6)、フルオロアルミン酸(H3AlF6)、およびそれらの塩から成る群から選択される。より好ましいフルオロ酸は、フルオロチタン酸、フルオロジルコン酸、フルオロケイ酸およびそれらの各塩である。使用できる幾つかの塩には、アルカリ金属およびアンモニウムの塩、例えばNa2MF6および(NH4)2 MF6(ここでMは、Ti、ZrおよびSiである)が包含される。
【0038】
本発明のコーティング組成物における1種以上のフルオロ酸の濃度を、比較的かなり低くすることができる。例えば、約5ppmのフルオロ酸濃度を使用することができ、更に、耐食性のあるコーティングを提供することができる(ppm=100万分の1)。前記コーティング組成物における1種以上のフルオロ酸の濃度は、好ましさが増す順に、約5ppm(約0.0005質量%)〜約10,000ppm(約1.0質量%)である。約5ppm〜約1000ppmであり、5ppm〜約400ppmである。前記コーティング組成物における1種以上のフルオロ酸の好ましい濃度は、好ましさが増す順に、約3ppm〜約3000ppm、約10ppm〜約400ppmである。最終濃度はもちろん、本発明のコーティング組成物を製造するのに使用された水の量に依存する。
【0039】
前記コーティング組成物中にカテコール化合物を添加することにより、金属基体が実際にコーティングされていることを示す可視色指標を提供することができる。カテコール化合物なしでは、得られるコーティングの色は、時には、薄くなりすぎて目に見えないことがある。「カテコール化合物」という用語は、芳香族環系の隣接炭素原子上に位置する少なくとも2個のヒドロキシル基を含む芳香族環系を有する有機化合物として定義される。
【0040】
本発明のコーティング組成物を製造するために使用される好ましいカテコール化合物は、負に荷電しているか、または中性の、すなわち電荷を有さないものである。負に荷電したカテコール化合物は一般に、金属塩として、特にアルカリもしくはアルカリ土類金属塩として入手可能である。
【0041】
本発明のコーティング組成物における前記カテコール化合物の濃度は、目に見えるコーティングを提供するために、当業者によって最適に調製することができる。前記カテコール化合物の濃度は、使用されるカテコール化合物のタイプに依存する。またそれぞれのカテコール化合物は、前記コーティング組成物において使用される各タイプの酸安定性粒子に対して、それぞれ異なる相互作用を有することが予想され得る。その結果、カテコール化合物の最適濃度は、どのタイプの酸安定性粒子がコーティング組成物において使用されているかに依存する。最後に、コーティング組成物を金属基体に塗布した後の洗浄工程で、過剰のカテコール化合物を除去することができるので、カテコール化合物の濃度は、可視着色されたコーティングを提供するのに必要とされるものより高くてもよい。
【0042】
1つの実施態様において、前記カテコール化合物は、アリザリン系の化合物から選択される。例えば、アリザリン、アリザリンレッド、アリザリンオレンジおよびそれらの各塩を使用して、本発明のコーティング組成物を製造することができる。1つの好ましいアリザリン化合物は、アリザリンレッド、すなわち3,4-ジヒドロキシ-9,10-ジオキソ-2-アントラセンスルホン酸もしくはその塩である。
【0043】
別の実施態様において、前記カテコール化合物は、ピロカテコールおよび共役ピロカテコールから選択される。「共役ピロカテコール」という用語は、共役環を有するピロカテコールと定義される。ピロカテコールスルホンフタレイン、すなわちピロカテコールバイオレットまたはその塩は、1つの好ましい共役ピロカテコールである。
【0044】
また、本発明のコーティング組成物は、1種以上のポリマーを含むことができる。前記1種以上のポリマーは、好ましくは、ヒドロキシル、カルボキシル、エステル、アミドまたはそれらの組合せから選択される官能基を含むものである。これらのポリマー上の前記官能基は、種々の機能を果たすと思われる。第1に、コーティングを形成する前に、前記官能基は、水への比較的高い溶解性または混和性を有するポリマーを提供する。第2に、前記官能基は、コーティング組成物が硬化して金属基体上にコーティングを形成するにつれて、ポリマー間に架橋結合を生じさせ得るポイント(points)をポリマー主鎖に沿って提供する。第3に、ポリマー上の前記官能基は、硬化されたコーティングにおいて金属基体と粒子との間の結合を高めると思われる。
【0045】
使用される1種以上の前記ポリマーの代表的リストは、ポリビニルアルコール、ポリエステル、水溶性ポリエステル誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン-ビニルカプロラクタムコポリマー、ポリビニルピロリドン-ビニルイミダゾールコポリマー、およびスルホン化ポリスチレン-無水マレイン酸コポリマーからなるもので、前記ポリマーはこれらから選択される。使用される最も好ましいポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン-ビニルカプロラクタムコポリマーを包含する。Luvitec(商標)およびElvanol(商標)は、本発明のコーティング組成物を製造するのに使用することができる2種の市販の入手可能なタイプのポリマーである。Luvitec(商標)は、BASFから入手可能なビニルピロリドン-ビニルカプロラクタムポリマーである。Elvanol(商標)は、デュポン(Dupont)から入手可能なポリビニルアルコールポリマーである。
【0046】
1種以上の前記ポリマーの存在下で、フルオロ酸は、硬化剤ならびに結合剤として機能することができる。フルオロ酸は、ポリマーの官能基と反応し、それによってポリマーに架橋手段を付与することができると考えられる。フルオロ酸との組合せにおける前記ポリマーの架橋は、セメントのようなポリマー-金属酸化物マトリックスを提供して、それが粒子を結合して、金属基体上にコーティングを形成する。
【0047】
本発明のコーティング組成物は、下記工程:酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を準備する工程;ならびに、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を水中で混合する工程を含む方法によって製造される。前記コーティング組成物中の酸安定性粒子の量は、乾燥質量に基づき0.005〜8質量%である。また、コーティング組成物の製造方法には、上記リストに例示された1種以上のポリマーを含むことができ、このポリマーを他の成分と混合する工程を含むことができる。
【0048】
本発明のコーティング組成物のpHは、約2〜約7の範囲内にあり、好ましくは約3〜約6の範囲内、より好ましくは約3.5〜約5の範囲内にある。コーティング組成物のpHは、鉱酸、例えばフッ化水素酸、リン酸等(それらの混合物を含む)を使用して調整することができる。あるいは、フルオロ酸を更に追加して使用することができる。有機酸、例えば乳酸、酢酸、クエン酸、スルファミン酸またはそれらの混合物もまた使用することができる。
【0049】
前記組成物が、冷間加工されるべき基体に塗布される場合には、前記組成物は通常、4.5〜5.5のpHを有している。鉄を含む金属基体としては、組成物は通常、4.7〜5.3のpHを有している。
【0050】
また、前記コーティング組成物のpHは、少量のアルカリ物質を、通常は、金属もしくはアンモニウムの水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩の形態で添加することによって調整することができる。代表的な無機および有機の塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、アンモニアまたはアミン例えばトリエタノールアミンもしくは他のアルキルアミンを包含する。
【0051】
また、前記コーティング組成物は、レベリング剤、湿潤剤、消泡剤および接着剤から選択される1種以上の二次的薬剤を含むことができる。しかしながら、当業者は、そのような薬剤の使用およびそれらが使用される濃度は、コーティング組成物のpH範囲内において適合させなければならないことを理解している。この二次的薬剤の過量の添加は、組成物の酸安定性を顕著に低下させることがある。
【0052】
本発明のコーティング組成物を金属基体に塗布して、耐腐食性コーティングを形成することができる。本発明のコーティング組成物によって不動態化する(耐食性が向上する)ことができる金属基体は、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングされた鋼、亜鉛合金、例えば電気亜鉛メッキされた鋼、ガルバリウム鋼(galvalume)、ガルバニール鋼(galvanneal)および溶融亜鉛メッキ鋼、アルミニウム合金およびアルミニウムめっきした鋼基体を包含する。また、本発明は、本発明のコーティング組成物により不動態化することができる金属基体の範囲が広いので、2種以上の金属基体を含む構成材を単一プロセスで不動態化することができるという利点を備えている。
【0053】
必須ではないが、金属基体は通常、従来の洗浄方法および材料、例えば中程度の、または強いアルカリクリーナーを使用することによって清浄化され、油脂、汚れ、またはその他の外来物質が除去される。アルカリクリーナーの実例には、Parco(商標)Cleaner ZX-1およびParco(商標)Cleaner 315が包含され、これらは、いずれも、ヘンケル サーフィス テクノロジーズ(Henkel Surface Technologies)から入手可能である。金属基体はその後、水または水性酸溶液で洗浄される。また、金属基体を、本発明のコーティング組成物と接触する前に、市販の金属リン酸塩溶液、例えばリン酸鉄又はリン酸亜鉛の溶液を用いて処理することができる。
【0054】
本発明のコーティング組成物は、当業界において従来知られた多数の方法で金属基体に塗布される。2つの最も好ましい方法は、スプレー塗装及び浸漬塗装である。金属基体上の硬化されたコーティングの厚さおよび組成は、粒径、粒子濃度および暴露時間またはコーティング組成物との接触時間を含む多数の要因に依存する。
【0055】
図1は、実施例1のコーティング組成物から製造されたCRSパネル上の乾燥コーティングの組成が、スプレー時間によりいかに変化し得るかを示すために提示されている。図示されているように、コーティング中のシリカの濃度(ケイ素および酸素の重量)は、スプレー時間とは比較的無関係でありすなわち、シリカの量は、約25〜100秒間のスプレー時間にわたって約14〜17mg/平方フィートで比較的一定である。このことから、所望の単層構造のコーティング層が得られることが期待される。
【0056】
図2および3は、本発明の選ばれたコーティング組成物について、約25〜125秒間のスプレー時間により得られるコーティングの厚さの相違を示している。
【0057】
対照的に、コーティング中のチタンおよびジルコニウムの量は、時間とともに直線的に増加することが示されている。コーティング中の金属の量は、0.5〜6 mg/平方フィートである。多くの場合、コーティング中の金属の量は、0.5〜3 mg/平方フィートである。
【0058】
本発明の組成物から得られるコーティング(皮膜)は、現在のコーティング技術と比較すると、相対的に低質量のコーティングである。本発明のコーティングは、5〜50mg/平方フィートの皮膜質量を有する。しかしながら多くの場合、コーティングは、8〜30 mg/平方フィートの皮膜質量を有する。実際には、通常8〜20 mg/平方フィートの皮膜質量を有するコーティングが、前記コーティング組成物から形成される。基体上の皮膜の質量は、0.5%CrO3の水溶液中において、前記形成されたコーティングの剥離による従来方法によって測定される。
【0059】
前記コーティング組成物が、冷間加工されるべき金属基体に塗布される場合、基体が、例えば浸漬浴中で、水性組成物基液と、接触する時間の長さは、金属基体および施されるべき冷間加工の程度に依存する。通常、基体は、基体上に少なくとも約0.1g/m2の水不溶性の化成処理皮膜を形成するのに十分な時間にわたり、浸漬浴中に滞留する。幾つかの用途では、より厚いコーティングが必要になり、したがってより長い接触時間または選択された浴条件が必要となる。或る用途では、基体は、基体上に少なくとも約0.3g/m2の水不溶性の化成処理皮膜を形成するのに十分な時間にわたって、浸漬浴中に滞留する。
【0060】
他の用途例においては、より厚いコーティングが求められ、かつ基体と水性組成物との接触は、基体上に少なくとも約0.6g/m2の水不溶性の化成処理皮膜を形成するのに十分な時間、にわたって行われ、また、場合によっては、基体上に少なくとも約1.0g/m2の水不溶性の化成処理皮膜を形成するのに十分な時間にわたって行われる。
【0061】
コーティング組成物による金属基体の処理に続いて、コーティング組成物を、金属基体の表面上で、その場で乾燥し成膜することができる。あるいは、塗布されたコーティング組成物を、好ましくは水で洗浄して、過剰のコーティング組成物を除去した後、乾燥することができる。乾燥は、任意の温度で行うことができる。通常の好ましい温度は、100〜300°Fである。選定される乾燥条件は、消費者の好み、利用可能な場所および使用される上塗りコーティングのタイプに依存する。例えば、粉体塗料は、通常、水性塗料と比べて、塗布前に表面を乾燥する必要がある。
【0062】
金属基体が冷間加工される場合、本発明の方法によって形成されるコーティングが、乾燥される前に洗浄されたかどうかにかかわらず、乾燥されたコーティングは、冷間加工される前に、更に公知技術である潤滑剤で被覆してもよく、通常、好ましくは被覆される。この目的のために他の物質と同様に、多種多様の油脂およびグリースが知られている。特に好ましい補助的なこのタイプの潤滑剤としては、主成分としてエトキシル化直鎖脂肪族アルコール分子(ここで、もとのアルコール分子は、単一の--OH基および少なくとも18個の炭素原子を有する)を包含する。この補助的潤滑剤の分子は、好ましくは、エチレンオキサイドと、分子当たり少なくとも25、30、35、40、43、46または48個(記載の順序に好ましさが増す)で、かつ独立して、分子当たり65、60、57、55、52または51個以下(与えられた順序で好ましさが増す)の炭素原子を有する1級、最も好ましくは直鎖の脂肪族モノアルコールとを縮合することによって製造することができる化学構造を有する。また独立して、これらの実際的または仮説的な前駆体脂肪族アルコールは、好ましくは、単一の--OH基以外の官能基を有しておらず、必要によりしかし、あまり好ましくはないが、フルオロおよび/またはクロロ基を有する。また独立して、これらのエトキシル化アルコールの分子は、その全質量に対して、20以上、30以上、35以上、40以上、43以上、47以上または49%以上(記載の順序に好ましさが増す)の、かつそれとは独立に80以下、70以下、62以下、57以下、54以下または51%以下(記載の順序で好ましさが増す)のオキシエチレン単位を含むことが好ましい。この好ましいタイプの補助的潤滑剤は、本発明の主要な方法によって形成される乾燥コーティング上に利便よく塗布するために水に分散した形態で容易に得ることができる。それらを使用するための好ましい組成および方法は、1994年11月29日のキング(King)によるU.S. Pat. No. 5,368,757、1996年7月2日のチャーチ(Church)らによるU.S. Pat. No. 5,531,912、および1996年8月20日のハシアス(Hacias) によるU.S. Pat. No.5,547,595ならびに、1995年4月26日に出願されたPCT出願US95/05010であって、WO95/31297として公開されたものに記載されている。
【0063】
前記コーティングは、金属-酸化物マトリックスによって金属基体に付着した酸安定性粒子を含むものである。金属基体上の硬化コーティングとの関連で、コーティング中の粒子を説明するための「酸安定性」粒子という用語は、本明細書において定義される酸安定性コーティング組成物を提供する粒子をいう。金属-酸化物マトリックスは、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ハウニウム、ホウ素、アルミニウム、ゲルマニウムおよびスズから成る群より選択される1種以上の金属を含む。金属-酸化物マトリックスは、好ましくは、チタン、ジルコニウムおよびケイ素から選択される1種以上の金属を含む。水溶性ポリマーがコーティング組成物中に存在する場合には、金属-酸化物マトリックスは、1種以上のポリマーと1種以上のフルオロ酸もしくはそれらの各塩との反応生成物をさらに含むことができる。本発明のコーティングは、レンガおよびモルタルコーティングとして説明することができ、これは、レンガにより示される粒子とモルタルによって示される金属酸化物マトリックスを有するものである。
【0064】
本発明のコーティングの1つの利点は、それらが、現在のリン酸鉄コーティング技術に対して、それと同等の、ほとんどの場合にはより改善された耐腐食性を提供することである。また、この耐腐食性の改善は、現在のリン酸鉄コーティングより、著しく低いコーティング被覆率(coverage)によって達成される。例えば、CRSパネルに許容される程度の耐腐食性を提供するために、リン酸鉄コーティングは、約50〜150mg/平方フィートの被覆水準で塗布される。それに対して、本発明のコーティングは、8〜30 mg/平方フィートの被覆水準で同程度の耐腐食性を提供することができる。ほとんどの場合、本発明のコーティングは、8〜20 mg/平方フィートの被覆水準で許容される程度の耐腐食性を示す。
【0065】
リン酸鉄コーティングに対する本発明のコーティングの他の利点は、その比較的高い耐屈曲性および耐摩耗性によって示される。衝撃試験および曲げ試験においては、本発明のコーティングは、通常その耐腐食性を維持するが、リン酸鉄コーティングはそれを維持しない。さらに、これらの試験は、本発明のコーティングでは20 mg/平方フィート未満の被覆水準で行われたが、一方、リン酸鉄コーティングは約65 mg/平方フィートの被覆水準を有するものであった。
【0066】
更なるコーティングをその後塗布することができる。ほとんどの場合、これらのコーティングは、下塗り組成物であるか、または上塗りコーティング、例えば仕上げ塗りであることができる。本発明のコーティングの多くの利点のうちの1つは、コーティングが、かなり多数の保護ペイント、例えばDuracron(商標)200(PPGインダストリーズ(PPG Industries)からのハイソリッドのアクリルペイント)および粉体塗料、例えばSunburst(商標)Yellow(モートン インターナショナル(Morton International)からのポリエステル粉体塗料)と相溶性を示すことである。本発明のコーティングはまた、電着塗料との適合性を有している。
【0067】
本発明およびその利点は、以下の実施例により、一層良く理解されるであろう。これらの実施例は、本発明の特許請求されている全範囲内で、具体的な実施態様を明らかにすることを目的とするものであって、決して、本発明を限定するものと理解すべきではない。
【0068】
1. 酸安定性粒子についての試験手順
塩酸で酸性にすることによって、約5.0のpHを有する酢酸ナトリウム/酢酸緩衝液を調製する。20mLの前記緩衝溶液に20mLの選択された粒子分散液を添加する。試験試料として、粒子分散液は、約30質量%のシリカ濃度を有していなければならない。前記選択された粒子分散物が前記濃度より高い質量%を有する場合には、この分散液を30質量%の濃度に希釈する。得られた溶液を10分間撹拌する。室温で約96時間にわたって溶液が流動性を維持しているかどうか、すなわち溶液に増粘、沈殿もしくはゲル化などの目に見える兆候が生ずるかどうかを観察する。
【0069】
酸安定性粒子を定性的に規定するために使用される実験方法は、室温において84時間後の上記試験試料の粘度変化を測定することである。出願人らは、パシフィック サイエンティフィック社(Pacific Scientific Co.)、ガードナー ラボラトリー デビジョン(Gardner Laboratory Division)製のザーン カップ(Zahn Cup)装置を使用して、粘度変化を測定している。
【0070】
ザーン(Zahn)粘度カップは、ワイヤから吊り下げられた小さいU字型のカップである。カップの底部に開口(orifice)を有し、この開口は、種々のサイズにして用いることが可能である。例えば酸安定性試験において使用される#2 Zahnカップは、ASTM D4212において、2.69mmの開口径を有するものと認定されている。試料の粘度は、試験試料中にカップを完全に沈めることによって測定される。その後カップは、試料から完全に引き上げられる。このとき、カップの上部が試料から現われる瞬間から、開口部から流れ落ちる流れの一部が切れるまでの、秒数で表した時間が、試料の粘度の尺度となる。
【0071】
上記した酸安定化工程の測定に引続き、約5.0のpHを有する酢酸ナトリウム/酢酸緩衝液を調製した。20mLの選択された粒子分散液を、20mLの緩衝溶液に添加した。粒子分散液は、約30質量%のシリカ濃度を有していなければならない。選択された粒子分散液が上記濃度よりも高い質量%を有するなら、分散液を30質量%の濃度に希釈する。この溶液を10分間撹拌する。ほゞこのときに、初期の粘度測定を行った。
【0072】
各試料は、次の粘度測定が行われるまで、ほぼ室温に維持される。表1に示すように、実施例1〜10の粒子から製造された試験試料については、96時間経過後に、粘度変化はほとんどなく、あるとしても微少であった。それに比べて、比較例1〜4においては、96時間にわたって増粘するかまたはゲル化することが観察されている。表2に示されているように、これらの比較試料は96時間でゲル化したので、その最終粘度測定は、84時間後に行われた。
【0073】
2. 金属基体の調製
硬化コーティングの耐腐食性を試験するのに使用される冷間圧延鋼および電気亜鉛メッキした鋼のパネルが、下記のように前処理される。パネルは、パーコ クリーナー(Parco Cleaner)1523で処理される。このクリーナーは、ヘンケル サーフィス テクノロジーズ(Henkel Surface Technologies)から入手可能なアルカリクリーナーである。パネルには、クリーナー(水中約2%)が120°Fで2分間噴霧される。この清浄化されたパネルは、水道水による温水スプレーにより30秒間洗浄される。本発明のコーティング組成物は、室温で30秒間、洗浄されたパネル上にスプレーされる。あるいは、パネルは、コーティング組成物中に浸漬される。次に、このコーティングされたパネルは、必要により冷水スプレー洗浄により30秒間洗浄される。通常、比較的高い粒子含有量の本発明のコーティング組成物が使用される場合には、その塗布後に水洗を施して、パネルから残留(非結合)粒子を除去する。比較的低い粒子含有量のコーティング組成物については、水洗がいつも必要というわけではない。次に、パネルは、300°Fで5分間乾燥される。本発明のコーティングの質量は、コーティングされたパネルのX-線蛍光を用いて、金属成分、例えばケイ素、チタンおよびジルコニウムの含有量を測定することによって得られる。シリカコーティングの質量はまた、計量-コート-計量-剥離 -計量の手順(the weigh-coat-weigh-strip-weigh procedure)によって測定することも可能であり、この場合には、前記シリカコーティングは170°Fの45%水酸化カリウムによって剥離される。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
3. コーティングされた基体上への上塗り塗装の施用
コーティングされ乾燥された前記パネルは、PPGインダストリーズ社(PPG Industries Inc.)から市販されているポリアクリルエナメルコーティング剤であるDuracron(商標)200、またはモートン インターナショナル(Morton International)から市販されているエポキシ-ポリエステルハイブリッド粉体塗料であるSunburst(商標)Yellowを用いて塗装される。塗装された前記パネルには、製造業者の推奨に従って硬化処理(cure)が施されてもよい。
【0077】
4. 腐食試験
パネルの耐腐食性を試験するために、パネルに切込みを入れ、塩水(5%NaCl)を切込みを入れたパネルに500時間または750時間スプレーする(ASTM B-117法)。コーティングされたパネルの耐腐食性は、切込みからの皮膜の膨れ幅により評価する。表3に報告されたデータは、CRSパネル上へのスプレー溶液による腐食後の切込みの膨れ幅をmmで表した距離である。この測定結果において、数が小さければ小さいほど、コーティングの耐腐食効果がより有効であることを示す。
【0078】
実施例1
フルオロチタン酸(0.4g、60%)およびフルオロジルコン酸(0.4g、20%)を、蒸留水(3989.2g)中に、撹拌しながら添加した。この混合物が撹拌されているところへ、10gのLudox(商標)TMA(33%シリカ)を添加した。この混合液のpHを、炭酸アンモニウムおよび/または少量のフルオロチタン酸を更に添加することによって約4に調整した。混合液を、約2時間撹拌した。
【0079】
実施例2〜10
実施例2〜10において、使用される酸安定性粒子のタイプおよび、濃度を除いては実施例1と同様の手順で、コーティング組成物を製造した。実施例1〜10に用いられる粒子のタイプおよび質量百分率は、表4に提供されている。実施例2〜10におけるフルオロチタン酸およびフルオロジルコン酸の質量百分率は、約0.01%であった。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
〔註〕a:所望の膜厚値を得るために、上記測定された皮膜質量と共に、シリカ粒子については密度2.2のもの、を用い、かつ有機ポリマー粒子については密度が1.2のものを使用した。シリカ粒子は、170°Fで45%KOHを用いて剥離された。ポリマー粒子は、120°Fで乾燥された後、アセトン剥離された。実施例1については、コーティングの厚さは、シリカコーティング質量を15mg/平方フィートとし、その密度を2.2g/立方センチメートルとして下記計算式から算出された。
【数1】

【0083】
実施例11〜16
実施例11〜16において、使用される酸安定性粒子、チタンおよびジルコニウムの濃度を除いては実施例1と同様の手順でコーティング組成物を製造した。実施例11〜16に用いられた粒子、チタンおよびジルコニウムの質量百分率を、表5に記載する。チタンおよびジルコニウムは、フルオロチタン酸およびフルオロジルコン酸の形態で供給された。チタン、ジルコニウムおよびシリカの含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)スペクトル法によって測定された。
【0084】
実施例17〜20
実施例17〜20において、使用される酸安定性粒子の濃度およびジルコニウムの濃度を除いては実施例1と同様の手順でコーティング組成物を製造した。実施例17〜20に用いられた粒子およびジルコニウムの質量百分率は、表6に示されている。
【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
比較例1〜6
比較例1〜3においては、Ludox(商標)タイプのシリカ粒子を含むコーティング組成物を調製した。比較例4および5においては、スノーテックス(商標)タイプのシリカ粒子を含むコーティング組成物を調製した。比較例6においては、Cabosperse(商標)A-205シリカ粒子を含むコーティング組成物を調製した。
比較例1〜6においては、使用されるシリカ粒子のタイプを除いては、実施例1と同様の手順でコーティング組成物が調製された。フルオロチタン酸およびフルオロジルコン酸の質量百分率は、約0.01%であった。比較例1〜6のコーティング組成物は、酸安定性粒子を含まず、このような組成物を使用する試みは、パネルにコーティングを形成することにいずれも失敗した。表7において、比較例1〜6に対応するコーティングデータがまとめられている。
【0088】
【表7】

【0089】
金属基体の冷間加工:引抜加工
1リフト当たり80〜100個の管の束をコーティングラインによりコーティングした。この工程において2種の大きさの母管は、引抜加工され両方とも焼鈍された、メタル マティック(Metal Matic)社からの1010C鋼であり、母管の小さい方の外径は1.5インチであり、大きい方の外径は2インチであった。管は油圧ベンチ上で一度に3回延伸された。全面積減少は、36〜38%であった。マンドレルは、タングステンカーバイドでできており、窒化バナジウムコーティングされたものであった。
【0090】
実施されたコーティング工程:
前処理
前記管は、下記の組成物および冷水を用いて、下記の順序で前処理した。
1) EC 375 D(アルカリクリーナー):170°Fで5分間;
2) 冷水による洗浄(CWR);
3) 815(インヒビターとしてRodine 95を使用したリン酸による酸洗い):180°Fで6分間;および
4) CWR。
【0091】
処理
次に、前記前処理した基体を、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物と接触させた。この処理において使用されるコーティング組成物は、ミシガン州、マジソン ハイツ(Madison Heights)のヘンケル サーフィス テクノロジーズ(Henkel Surface Technologies)から入手可能なBonderite(商標)NT-1であった。Bonderite(商標)NT-1の濃度は約1%(体積/体積)であった。基体を、three(3) fill-n drain工程により、室温において組成物と接触させた後、これに1分間の浸漬を施した。組成物のpHは、4.8〜5.2に維持された。
【0092】
後処理
次に、処理された管を、下記の順序で、下記の組成物および冷水洗浄を用いて後処理した。
1) CWR
2) Fuch's Ecoform SYN 691(ナフテニックオイル(naphthenic oil)エマルジョン):180°Fで5分間。
3) コンベヤーオーブン(Conveyor Oven):320°Fで40分間。
【0093】
従来のリン酸亜鉛およびリン酸鉄B 1030組成物に対応する、Bonderite(商標)NT-1を使用することの1つの商業的利点は、経時により組成物タンク中に発生するスラッジ廃棄物が比較的少量であることである。かつては、リン酸亜鉛スラッジは、人手によってシャベルですくい出さなければならなかった。リン酸鉄スラッジは、3〜4ヶ月毎にガーデンホースで霧散することができた。前記NT-1浴は約5ヶ月後にいくらかの沈殿物を発生するが、浴の耐用期間が顕著に向上したことは明らかである。
【0094】
別の商業的利点は、前記処理浴が加熱を必要としないことである。本発明のコーティング組成物は、室温で塗布することができる。塗布温度は、28℃未満の温度であるが、コーティング組成物は、より低い温度、例えば25℃未満の温度で塗布することができる。コーティング組成物の安定性は、pHの測定およびハッチ(Hach)比色試験キットによって観測(モニター)することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明方法は、冷間成形前に金属材料の表面上に、酸安定性シリカ粒子を含む組成物からなり耐食性の優れたコーティングを、効率よく形成することができるので実用性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のコーティング組成物により提供されるコーティングについて、噴霧時間に対する、CRSパネル上のコーティング重量および組成の関係を示すグラフ。
【図2】本発明の他のコーティング組成物により提供されるコーティングについて、噴霧時間に対する、CRSパネル上のコーティング重量の関係を示すグラフ。
【図3】本発明のさらに他のコーティング組成物により提供されるコーティングについて、噴霧時間に対する、CRSパネル上のコーティング重量の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間加工前の金属基体に、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物とを接触させて、前記金属基体上にコーティング組成物を形成する工程を含み、前記コーティング組成物中の酸安定性粒子の量が、乾燥質量に基づいて0.005〜8質量%であることを特徴とする冷間加工前の金属基体上にコーティング組成物を形成する方法。
【請求項2】
前記金属基体と水性組成物との接触が、基体上に少なくとも約0.1g/m2の水不溶性化成皮膜を形成するのに十分な時間にわたって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基体と水性組成物との接触が、基体上に少なくとも約0.3 g/m2の水不溶性化成被覆膜を形成するのに十分な時間にわたって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基体と水性組成物との接触が、基体上に少なくとも約0.6 g/m2の水不溶性化成被覆膜を形成するのに十分な時間にわたって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基体と水性組成物との接触が、基体上に少なくとも約1.0g/m2の水不溶性化成被覆膜を形成するのに十分な時間にわたって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記基体が鉄を含む金属基体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基体をアルカリクリーナーおよび酸洗い溶液で前処理することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基体が鉄を含む金属基体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸安定性粒子がアルミニウム変性されたシリカ粒子であり、前記コーティング組成物中の酸安定性粒子含有量が乾燥質量に基づいて0.005〜5質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸安定性粒子が非アルミニウム変性シリカ粒子であり、前記コーティング組成物における酸安定性粒子の含有量が、乾燥質量に基づいて0.005〜5質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酸安定性粒子が高分子の有機粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記水性組成物が、前記酸安定性粒子と前記1種以上のフルオロ酸との生成物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記アルミニウム変性シリカ粒子の含有量が、前記コーティング組成物の乾燥質量の約0.006〜約1質量%であり、かつ前記アルミニウム変性シリカ粒子の、SiO2:Al2O3質量比が80:1〜240:1である請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記アルミニウム変性シリカ粒子の、SiO2:Al2O3質量比が120:1〜220:1である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非アルミニウム変性粒子の含有量が、前記コーティング組成物の乾燥質量の約0.006〜約1質量%である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記水性組成物が4.5〜5.5のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記コーティング組成物が形成されている基体を、少なくとも120℃の温度において、ナフテン系(naphthenic)オイルエマルジョンで後処理した後、さらに少なくとも200℃の温度で加熱することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
金属基体を冷間加工する前に、それを一連の組成物に接触させて、前記金属基体上にコーティング組成物を形成する方法であって、
(1)前記基体を、アルカリクリーナーと接触させた後、酸洗い溶液と接触させて、前処理された基体を形成すること;
(2)前記前処理された基体を、酸安定性粒子および1種以上のフルオロ酸を含む水性組成物と接触させて、処理された基体を形成すること、但し、ここで形成されたコーティング組成物中の酸安定性粒子の含有量が、乾燥質量に基づいて0.005〜8質量%であること;および
(3)前記処理された基体を、少なくとも120℃の温度においてナフテン系(naphthenic)オイルエマルジョンと接触させること、
を含む方法。
【請求項19】
前記前処理された基体および前記処理された基体を水洗することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸安定性粒子がアルミニウム変性シリカ粒子であり、前記コーティング組成物中の酸安定性粒子の含有量が、乾燥質量に基づいて0.005〜5質量%である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記酸安定性粒子が非アルミニウム変性シリカ粒子であり、前記コーティング組成物中の酸安定性粒子の含有量が、乾燥質量に基づいて0.005〜5質量%である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記非アルミニウム変性粒子の含有量が、前記コーティング組成物の乾燥質量の約0.006〜約1質量%である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記水性組成物が4.5〜5.5のpHを有する、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記基体と前記水性組成物との接触が、28℃未満の温度で行われる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−518545(P2009−518545A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544661(P2008−544661)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/061781
【国際公開番号】WO2007/067972
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】